IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 北越工業株式会社の特許一覧

特許7600035エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機
<>
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図1
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図2
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図3
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図4
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図5
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図6
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図7
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図8
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図9
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図10
  • 特許-エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】エンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及びエンジン駆動型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/02 20060101AFI20241209BHJP
   F04B 49/03 20060101ALI20241209BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20241209BHJP
   F02D 29/04 20060101ALI20241209BHJP
   F04B 49/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
F04B49/02 331D
F04B49/03 331
F04B49/06 341Z
F02D29/04 E
F04B49/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021093532
(22)【出願日】2021-06-03
(65)【公開番号】P2022185735
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2024-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000241795
【氏名又は名称】北越工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐生 貢
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3039941(JP,U)
【文献】特開2014-196718(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107035671(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/00-53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン,前記エンジンによって駆動される油冷式の圧縮機本体,前記圧縮機本体が吐出した圧縮気体と潤滑油の気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離すると共に,分離した潤滑油を内部の圧力を利用して前記圧縮機本体に給油するレシーバタンク,前記圧縮機本体に対する吸気を制御する吸気調整弁,前記吸気調整弁の閉弁受圧室と前記レシーバタンク間を連通する制御流路,及び,前記レシーバタンク内の圧力が所定の定格圧力以上のときに前記制御流路を開き,前記定格圧力未満のとき前記制御流路を閉じることで前記吸気調整弁の開閉動作を制御する圧力調整弁を備えたエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法において,
前記圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を無効化して,前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁を閉じて暖機運転を開始すると共に,
該エンジンの始動後,所定の暖機運転終了条件が満たされる前に,前記吸気調整弁を全開未満の所定の開度で開くことにより,前記レシーバタンク内の圧力を前記定格圧力に対し所定の低い圧力である給油開始圧力に上昇させる吐出圧力上昇処理を行い,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記暖機運転を終了して前記圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を行う通常運転に移行することを特徴とするエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法。
【請求項2】
前記圧力調整弁をバイパスして前記レシーバタンクと前記吸気調整弁の前記閉弁受圧室間を連通するバイパス流路を設け,該バイパス流路を介して前記レシーバタンクと前記吸気調整弁の前記閉弁受圧室間を連通した状態で前記エンジンを始動することにより,前記圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を無効化して,前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁を閉じ,
前記バイパス流路を介して前記吸気調整弁の前記閉弁受圧室に導入される圧縮気体の流量を絞ることにより,前記吐出圧力上昇処理を行い,
前記バイパス流路を閉塞することにより前記暖機運転を終了して前記圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を行う通常運転に移行することを特徴とする請求項1記載のエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法。
【請求項3】
前記圧力調整弁をバイパスして前記吸気調整弁の閉弁受圧室と前記レシーバタンク間を連通する始動制御流路と,
前記レシーバタンク内の圧力が,前記給油開始圧力に対し所定の高い圧力であり,かつ,前記定格圧力に対し所定の低い圧力である始動アンロード圧力以上のときに前記始動制御流路を開き,前記始動アンロード圧力未満のとき前記始動制御流路を閉じることで前記吸気調整弁の開閉動作を制御する始動圧力調整弁を設け,
前記吐出圧力上昇処理後,前記暖機運転終了条件が満たされる前に,前記始動圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を行い,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記始動圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を終了すると共に前記暖機運転を終了して,前記圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を行う前記通常運転に移行することを特徴とする請求項1記載のエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法。
【請求項4】
前記圧力調整弁をバイパスして前記レシーバタンクと前記吸気調整弁の前記閉弁受圧室間を連通するバイパス流路を設け,該バイパス流路を介して前記レシーバタンクと前記吸気調整弁の前記閉弁受圧室間を連通した状態で前記エンジンを始動することにより,前記圧力調整弁及び前記始動圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を無効化して,前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁を閉じ,
前記バイパス流路を介して前記吸気調整弁の前記閉弁受圧室に導入される圧縮気体の流量を絞ることにより,前記吐出圧力上昇処理を行い,
前記吐出圧力上昇処理から所定時間の経過後,前記バイパス流路を閉塞して前記始動圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を開始することを特徴とする請求項3記載のエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法。
【請求項5】
前記吐出圧力上昇処理を,前記吸気調整弁の開度を段階的に増加させながら行うことを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載のエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法。
【請求項6】
前記始動制御流路を複数設け,前記始動制御流路のそれぞれに前記始動圧力調整弁を設けると共に,前記各始動圧力調整弁の動作圧力を異なる圧力に設定し,
前記吐出圧力上昇処理後,前記暖機運転終了条件が満たされるまでの間に行う前記始動圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を,複数の前記始動圧力調整弁のうち最も作動圧力の低いものから,作動圧力の高いものに所定時間置きに順次切り替えて行うことを特徴とする請求項3記載のエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法。
【請求項7】
エンジン,前記エンジンによって駆動される油冷式の圧縮機本体,前記圧縮機本体が吐出した圧縮気体と潤滑油の気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離すると共に,分離した潤滑油を内部の圧力を利用して前記圧縮機本体に給油するレシーバタンク,前記圧縮機本体に対する吸気を制御する吸気調整弁,前記吸気調整弁の閉弁受圧室と前記レシーバタンク間を連通する制御流路,及び,前記レシーバタンク内の圧力が所定の定格圧力以上のときに前記制御流路を開き,前記定格圧力未満のとき前記制御流路を閉じることで前記吸気調整弁の開閉動作を制御する圧力調整弁を備えたエンジン駆動型圧縮機において,
前記圧力調整弁をバイパスして前記レシーバタンクと前記吸気調整弁の前記閉弁受圧室間を連通するバイパス流路と,
前記バイパス流路の流路面積を可変と成す,流路面積変更装置と,
前記流路面積変更装置を制御する制御装置を設け,
前記制御装置が,前記流路面積変更装置を制御することにより,
前記エンジンの始動時,前記バイパス流路の流路面積を最大とすることで前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁を閉じて暖機運転を開始し,
該エンジンの始動後,所定の暖機運転終了条件が満たされる前に,前記バイパス流路の流路面積を減少させて前記吸気調整弁を全開未満の所定の開度に開くことにより,前記レシーバタンク内の圧力を前記定格圧力に対し所定の低い圧力である給油開始圧力に上昇させる吐出圧力上昇処理を行うと共に,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記バイパス流路を閉塞して前記暖機運転を終了し,前記圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を行う通常運転に移行することを特徴とするエンジン駆動型圧縮機。
【請求項8】
エンジン,前記エンジンによって駆動される油冷式の圧縮機本体,前記圧縮機本体が吐出した圧縮気体と潤滑油の気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離すると共に,分離した潤滑油を内部の圧力を利用して前記圧縮機本体に給油するレシーバタンク,前記圧縮機本体に対する吸気を制御する吸気調整弁,前記吸気調整弁の閉弁受圧室と前記レシーバタンク間を連通する制御流路,及び,前記レシーバタンク内の圧力が所定の定格圧力以上のときに前記制御流路を開き,前記定格圧力未満のとき前記制御流路を閉じることで前記吸気調整弁の開閉動作を制御する圧力調整弁を備えたエンジン駆動型圧縮機において,
前記圧力調整弁をバイパスして前記レシーバタンクと前記吸気調整弁の閉弁受圧室間を連通するバイパス流路及び始動制御流路と,
前記バイパス流路の流路面積を可変と成す,流路面積変更装置と,
前記圧縮機本体の吐出側圧力が前記定格圧力に対し所定の低い圧力である始動アンロード圧力以上のときに開弁し,前記始動アンロード圧力未満のときに閉弁する,前記始動制御流路に設けた始動圧力調整弁と,
前記始動制御流路に設けられ,前記始動圧力調整弁と直列に連通された始動制御流路用電磁弁と,
前記流路面積変更装置と前記始動制御流路用電磁弁を制御する制御装置を設け,
前記制御装置は,
前記エンジンの始動時,前記始動制御流路用電磁弁を開くと共に,前記流路面積変更装置を操作して前記バイパス流路の流路面積を最大とすることで前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁を閉じて暖機運転を開始し,
該エンジンの始動後,所定の暖機運転終了条件が満たされる前に,前記流路面積変更装置を制御して前記バイパス流路の流路面積を減少させて前記吸気調整弁を全開未満の所定の開度に開くことにより,前記レシーバタンク内の圧力を前記始動アンロード圧力に対し所定の低い圧力である給油開始圧力に上昇させる吐出圧力上昇処理を行い,
前記吐出圧力上昇処理後,前記暖機運転終了条件が満たされる前に前記バイパス流路を閉塞して,前記始動圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御に移行し,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記始動制御流路用電磁弁を閉じて前記始動圧力調整弁による吸気調整弁の制御を終了すると共に前記暖機運転を終了し,前記圧力調整弁による前記吸気調整弁の制御を行う通常運転に移行することを特徴とするエンジン駆動型圧縮機。
【請求項9】
前記バイパス流路を,並列に設けられた複数本の並列流路の集合体として形成すると共に,前記各並列流路のそれぞれに並列流路用電磁弁を設けることにより,該並列流路用電磁弁を前記流路面積変更装置とし,
前記制御装置が,
前記エンジンの始動時,前記並列流路用電磁弁を全て開いた状態とし,
前記吐出圧力上昇処理を,前記並列流路用電磁弁の少なくとも1つを残し,所定の時間置きに順次閉じることにより実行することを特徴とする請求項7又は8記載のエンジン駆動型圧縮機。
【請求項10】
前記始動制御流路を複数設け,前記始動制御流路のそれぞれに,該始動制御流路を開閉する始動制御流路用電磁弁と,それぞれ作動圧力が異なる前記始動圧力調整弁を設け,
前記制御装置が,
前記エンジンの始動時,前記始動制御流路用電磁弁の全てを開くと共に,
前記バイパス流路の閉塞後,最も作動圧力の低い前記始動圧力調整弁が設けられた始動制御流路に設けられた始動制御流路用電磁弁から所定時間置きに順次閉じてゆき,前記暖機運転終了条件が満たされたとき,最も作動圧力の高い前記始動圧力調整弁が設けられた始動制御流路に設けられた始動制御流路用電磁弁を閉じることを特徴とする請求項8記載のエンジン駆動型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法,及び前記運転制御方法を実行するエンジン駆動型圧縮機に関し,より詳細には,始動負荷を軽減した状態での暖機運転を可能としたエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法及び該運転制御方法を実行するエンジン駆動型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機本体を駆動する駆動源としてディーゼルエンジン等のエンジンを備えたエンジン駆動型圧縮機は,電源の確保が困難である土木作業現場や建築現場等の屋外における作業等に広く使用されている。
【0003】
このようなエンジン駆動型圧縮機として,被圧縮気体を潤滑油と共に圧縮して気液混合流体として吐出する油冷式の圧縮機本体340を備えたエンジン駆動型圧縮機300の構成例を図9に示す。
【0004】
このエンジン駆動型圧縮機300には,前述した圧縮機本体340とエンジン350の他,圧縮機本体340より圧縮気体と共に吐出された潤滑油を分離するためのレシーバタンク360が設けられており,このレシーバタンク360内で潤滑油が分離された後の圧縮気体を,オイルセパレータ366を介してさらに油分を除去した後,図示せざる空気作業機等が接続された消費側に供給することができるように構成されている。
【0005】
そして,レシーバタンク360内に回収された潤滑油は,レシーバタンク360内の圧力を利用してオイルクーラ363,オイルフィルタ367を備えた給油流路364を介して圧縮機本体340に供給することができるように構成されている。
【0006】
このようなエンジン駆動型圧縮機300には,消費側に対し,安定した圧力の圧縮気体を供給することができるようにするために,レシーバタンク360内の圧力に応じて,圧縮機本体340の吸気量を調整する吸気調整装置310が設けられている。
【0007】
この吸気調整装置310として,図9に示すエンジン駆動型圧縮機300には,圧縮機本体340の吸気口341を開閉する吸気調整弁311と,この吸気調整弁311を開閉制御するアンローダレギュレータ316が設けられている。
【0008】
このアンローダレギュレータ316は,制御流路312を介してレシーバタンク360に連通されており,制御流路312にはレシーバタンク360内の圧力が所定の定格圧力以上のとき制御流路312を開く圧力調整弁313が設けられている。
【0009】
なお,図9中の符号314は逃がし流路であり,圧力調整弁313が制御流路312を閉じてアンローダレギュレータ316に対する圧縮気体の導入が停止した際,アンローダレギュレータ316の受圧室内の圧縮気体を絞り315を介して放気して,アンローダレギュレータ316をリターンスプリング(図示せず)の付勢力によって全開位置に復帰させることができるように構成されている。
【0010】
このように構成された吸気調整装置310を設けることで,レシーバタンク360内の圧力が定格圧力以上になると,圧力調整弁313が開弁動作を開始してアンローダレギュレータ316にレシーバタンク360内の圧縮気体の導入が開始されて,吸気調整弁311が圧縮機本体340の吸気口341を絞り,又は閉じると共に,レシーバタンク360内の圧力が定格圧力未満に低下すると,圧力調整弁313が閉じて吸気調整弁311が圧縮機本体340の吸気口341を開くことで,レシーバタンク360内の圧力が前述の定格圧力に近付くように圧縮機本体340の吸気調整が行われる。
【0011】
以上のように構成されたエンジン駆動型圧縮機300において,圧縮機本体340の駆動源であるエンジン350は,低回転域でのトルクが小さく,始動時に負荷がかかると停止(ストール)し易い。
【0012】
特に,排気ガス規制に対応するためのエンジンのダウンサイジング化の要求により,コモンレール方式の採用や過給機の追加によって最大出力を増大させた小型のエンジンを搭載しているエンジン駆動型圧縮機では,エンジンの始動トルクが同程度の最大出力を発生する従来型のエンジンに比較して小さくなっており,始動時の停止(ストール)がより生じ易い。
【0013】
その一方で,エンジン駆動型圧縮機300では,エンジン350に対する負荷である圧縮機本体340がエンジン350に直結されており,エンジン350は,始動開始時より圧縮機本体340の回転に伴う負荷を受けることから,エンジン350の始動時,圧縮機本体340から受ける負荷を可及的に低減することができれば,エンジン350を円滑に始動させることができる。
【0014】
このようなエンジン駆動型圧縮機300の構成に着目し,始動時にエンジン350にかかる負荷を軽減するために,後掲の特許文献1には,図9中に符号320で示した始動負荷軽減装置を設けた構成が開示されている。
【0015】
この始動負荷軽減装置320は,圧力調整弁313をバイパスしてアンローダレギュレータ316とレシーバタンク360間を連通するバイパス流路321と,このバイパス流路321を開閉するバイパスバルブ325によって構成されており,始動時,バイパスバルブ325を操作してバイパス流路321を開くことで,アンローダレギュレータ316を,圧力調整弁313を介さずに直接,レシーバタンク360に連通することができるように構成されている。
【0016】
その結果,このようにバイパス流路321を開いた状態でエンジン350を始動させて圧縮機本体340が回転を開始してレシーバタンク360内の圧力が上昇すると,アンローダレギュレータ316が作動して吸気調整弁311を閉じて圧縮機本体340を無負荷運転とすることで,始動開始時のエンジン350にかかる負荷を軽減することができるように構成されている。
【0017】
そして,エンジン350の運転状態が安定した後に,始動負荷軽減装置320に設けたバイパスバルブ325を操作してバイパス流路321を閉じ,圧力調整弁313がレシーバタンク360内の圧力に応じて制御流路312を開閉する通常運転に移行することで,既知の吸気調整を行うことができるように構成されている。
【0018】
なお,前掲の特許文献1では,前述のバイパスバルブ325として手動式の開閉弁を設ける構成を開示するものであったが,これを電磁弁に変更することで,検出されたエンジンの運転状態に基づいてバイパスバルブ325の開閉動作を電気的に制御できるようにしたエンジン駆動型圧縮機も提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2002-168177号公報
【文献】特開2017-115598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
前述のように,バイパスバルブ325を電磁弁によって構成し,その開閉を電気的に制御できるようにした構成では,図10(A)に示すように,バイパスバルブ325を開いた状態でエンジンを始動することで,エンジンと共に圧縮機本体が回転を開始すると直ちに吸気調整弁311が閉じられて始動負荷を軽減した状態で暖機運転を行うと共に,暖機が完了してエンジンが安定運転になると,図10(B)に示すようにバイパスバルブ325を閉じて圧力調整弁313がレシーバタンク360内の圧力に応じて制御流路312を開閉する通常運転に移行することができるように構成されている。
【0021】
このように,負荷を可及的に低減した状態でエンジンの始動から暖機運転までを行うことで,エンジンを停止(ストール)させ難い状態で始動させることができる。
【0022】
しかし,このように構成されたエンジン駆動型圧縮機では,図10(A)に示すように,暖機運転中,圧縮機本体340の吸気口341は閉じた状態にあるため,レシーバタンク360内の圧力は一例としてゲージ圧で0.1MPaという低い圧力状態にある〔図11(B)参照〕。
【0023】
そのため,圧力調整弁313は閉じた状態にあることから,バイパスバルブ325を閉じて暖機運転を終了し,通常運転へ移行すると,吸気調整弁311に対する圧縮気体の導入が行われなくなって吸気調整弁311が開き〔図10(B)〕,圧縮機本体340が圧縮を開始してレシーバタンク360内の圧力は定格圧力以上の圧力まで上昇する〔図11(B)参照〕。
【0024】
このレシーバタンク360内の圧力上昇により,圧縮機本体340に対する給油量が増加することとなるが,圧縮機本体340に対する給油量の増加は,レシーバタンク360内の圧力が上昇した後に生じるものであることから,通常運転に移行してから,レシーバタンク360内の圧力がある程度上昇するまでの間は,十分な潤滑油が供給されていない状態で被圧縮気体の圧縮が行われることとなる。
【0025】
このような給油不足の発生により,圧縮機本体340で生じた圧縮熱の冷却が十分に行われないことで,圧縮機本体340の吐出温度が過度に上昇し,特に高圧の圧縮気体を生成する圧縮機本体340では吐出温度の異常上昇によって,エンジン駆動型圧縮機が非常停止する等の作動不良が生じる原因となっていた。
【0026】
そこで,本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,始動負荷を軽減した暖機運転の状態から,暖機運転が終了して通常運転に移行した直後の圧縮機本体に対する給油不足を解消することができ,その結果,給油不足に伴う吐出温度の異常上昇の発生等についても防止することができるエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法,及び前記運転制御方法を実行するエンジン駆動型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と,発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0028】
上記目的を達成するために,本発明のエンジン駆動型圧縮機の運転制御方法は,
エンジン(図示せず),前記エンジンによって駆動される油冷式の圧縮機本体40,前記圧縮機本体40が吐出した圧縮気体と潤滑油の気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離すると共に,分離した潤滑油を内部の圧力を利用して前記圧縮機本体40に給油するレシーバタンク60,前記圧縮機本体40に対する吸気を制御する吸気調整弁11,前記吸気調整弁11の閉弁受圧室113と前記レシーバタンク60間を連通する制御流路12,及び,前記レシーバタンク60内の圧力が所定の定格圧力以上のときに前記制御流路12を開き,前記定格圧力未満のとき前記制御流路12を閉じることで前記吸気調整弁11の開閉動作を制御する圧力調整弁13を備えたエンジン駆動型圧縮機1の運転制御方法において,
前記圧力調整弁13による前記吸気調整弁11の制御を無効化して,前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁11を閉じて暖機運転を開始すると共に,
該エンジンの始動後,所定の暖機運転終了条件が満たされる前に,前記吸気調整弁11を全開未満の所定の開度で開くことにより,前記レシーバタンク60内の圧力を前記定格圧力に対し所定の低い圧力である給油開始圧力に上昇させる吐出圧力上昇処理を行い,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記暖機運転を終了して前記圧力調整弁13による前記吸気調整弁11の制御を行う通常運転に移行することを特徴とする(請求項1)。
【0029】
前記圧力調整弁13をバイパスして前記レシーバタンク60と前記吸気調整弁11の前記閉弁受圧室113間を連通するバイパス流路20(21,22)を設け,該バイパス流路20(21,22)を介して前記レシーバタンク60と前記吸気調整弁11の前記閉弁受圧室113間を連通した状態で前記エンジンを始動することにより,前記圧力調整弁13による前記吸気調整弁11の制御を無効化して,前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁11を閉じ,
前記バイパス流路20(21,22)を介して前記吸気調整弁11の前記閉弁受圧室113に導入される圧縮気体の流量を絞ることにより,前記吐出圧力上昇処理を行い,
前記バイパス流路20(21,22)を閉塞することにより前記暖機運転を終了して前記圧力調整弁13による前記吸気調整弁11の制御を行う通常運転に移行するように構成することができる(請求項2)。
【0030】
又は,
前記圧力調整弁13をバイパスして前記吸気調整弁11の閉弁受圧室113と前記レシーバタンク60間を連通する始動制御流路51と,
前記レシーバタンク60内の圧力が,前記給油開始圧力に対し所定の高い圧力であり,かつ,前記定格圧力に対し所定の低い圧力である始動アンロード圧力以上のときに前記始動制御流路51を開き,前記始動アンロード圧力未満のとき前記始動制御流路51を閉じることで前記吸気調整弁11の開閉動作を制御する始動圧力調整弁52を設け,
前記吐出圧力上昇処理後,前記暖機運転終了条件が満たされる前に,前記始動圧力調整弁52による前記吸気調整弁11の制御を行い,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記始動圧力調整弁52による前記吸気調整弁11の制御を終了すると共に前記暖機運転を終了して,前記圧力調整弁13による前記吸気調整弁11の制御を行う前記通常運転に移行するように構成するものとしても良い(請求項3)。
【0031】
前述の始動制御流路51及び始動圧力調整弁52を設けた構成においても,前記圧力調整弁13をバイパスして前記レシーバタンク60と前記吸気調整弁11の前記閉弁受圧室113間を連通するバイパス流路20(21,22)を設け,該バイパス流路20(21,22)を介して前記レシーバタンク60と前記吸気調整弁11の前記閉弁受圧室113間を連通した状態で前記エンジンを始動することにより,前記圧力調整弁13及び前記始動圧力調整弁52による前記吸気調整弁11の制御を無効化して,前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁11を閉じ,
前記バイパス流路20(21,22)を介して前記吸気調整弁11の前記閉弁受圧室113に導入される圧縮気体の流量を絞ることにより,前記吐出圧力上昇処理を行い,
前記吐出圧力上昇処理から所定時間の経過後,前記バイパス流路20(21,22)を閉塞して前記始動圧力調整弁52による前記吸気調整弁11の制御を開始するように構成するものとしても良い(請求項4)。
【0032】
上記いずれの構成においても,前記吐出圧力上昇処理を,前記吸気調整弁11の開度を段階的に増加させながら行うものとしても良い(請求項5)。
【0033】
また,始動制御流路51及び始動圧力調整弁52を設けた構成では,前記始動制御流路51(51a,51b・・・51z)を複数設け,前記始動制御流路51(51a,51b・・・51z)のそれぞれに前記始動圧力調整弁52(52a,52b・・・52z)を設けると共に,前記各始動圧力調整弁52(52a,52b・・・52z)の動作圧力を異なる圧力に設定し,
前記吐出圧力上昇処理後,前記暖機運転終了条件が満たされるまでの間に行う前記始動圧力調整弁52(52a,52b・・・52z)による前記吸気調整弁11の制御を,複数の前記始動圧力調整弁52(52a,52b・・・52z)のうち最も作動圧力の低いものから,作動圧力の高いものに所定時間置きに順次切り替えて行うものとしても良い(請求項6)。
【0034】
また,本発明のエンジン駆動型圧縮機1は,
エンジン(図示せず),前記エンジンによって駆動される油冷式の圧縮機本体40,前記圧縮機本体40が吐出した圧縮気体と潤滑油の気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離すると共に,分離した潤滑油を内部の圧力を利用して前記圧縮機本体40に給油するレシーバタンク60,前記圧縮機本体40に対する吸気を制御する吸気調整弁11,前記吸気調整弁11の閉弁受圧室113と前記レシーバタンク60間を連通する制御流路12,及び,前記レシーバタンク60内の圧力が所定の定格圧力以上のときに前記制御流路12を開き,前記定格圧力未満のとき前記制御流路12を閉じることで前記吸気調整弁11の開閉動作を制御する圧力調整弁13を備えたエンジン駆動型圧縮機1において,
前記圧力調整弁13をバイパスして前記レシーバタンク60と前記吸気調整弁11の閉弁受圧室113間を連通するバイパス流路20と,
前記バイパス流路20の流路面積を可変と成す,流路面積変更装置(23,24)と,
前記流路面積変更装置(23,24)を制御する制御装置(コントローラ)30を設け,
前記制御装置(コントローラ)30が,前記流路面積変更装置(23,24)を制御することにより,
前記エンジンの始動時,前記バイパス流路20の流路面積を最大とすることで前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁11を閉じて暖機運転を開始し,
該エンジンの始動後,所定の暖機運転終了条件が満たされる前に,前記バイパス流路20の流路面積を減少させて前記吸気調整弁11を全開未満の所定の開度に開くことにより,前記レシーバタンク60内の圧力を前記定格圧力に対し所定の低い圧力である給油開始圧力に上昇させる吐出圧力上昇処理を行うと共に,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記バイパス流路20を閉塞して前記暖機運転を終了し,前記圧力調整弁13による前記吸気調整弁11の制御を行う通常運転に移行することを特徴とする(請求項7)。
【0035】
また,本発明の別のエンジン駆動型圧縮機1は,
エンジン(図示せず),前記エンジンによって駆動される油冷式の圧縮機本体40,前記圧縮機本体40が吐出した圧縮気体と潤滑油の気液混合流体を導入して圧縮気体と潤滑油とに分離すると共に,分離した潤滑油を内部の圧力を利用して前記圧縮機本体40に給油するレシーバタンク60,前記圧縮機本体40に対する吸気を制御する吸気調整弁11,前記吸気調整弁11の閉弁受圧室113と前記レシーバタンク60間を連通する制御流路12,及び,前記レシーバタンク60内の圧力が所定の定格圧力以上のときに前記制御流路12を開き,前記定格圧力未満のとき前記制御流路12を閉じることで前記吸気調整弁11の開閉動作を制御する圧力調整弁13を備えたエンジン駆動型圧縮機1において,
前記圧力調整弁13をバイパスして前記レシーバタンク60と前記吸気調整弁11の閉弁受圧室113間を連通するバイパス流路20及び始動制御流路51と,
前記バイパス流路20の流路面積を可変と成す,流路面積変更装置(23,24)と,
前記圧縮機本体40の吐出側圧力が前記定格圧力に対し所定の低い圧力である始動アンロード圧力以上のときに開弁し,前記始動アンロード圧力未満のときに閉弁する,前記始動制御流路51に設けた始動圧力調整弁52と,
前記始動制御流路51に設けられ,前記始動圧力調整弁52と直列に連通された始動制御流路用電磁弁53と,
前記流路面積変更装置(23,24)と前記始動制御流路用電磁弁53を制御する制御装置(コントローラ)30を設け,
前記制御装置(コントローラ)30は,
前記エンジンの始動時,前記始動制御流路用電磁弁53を開くと共に,前記流路面積変更装置(23,24)を操作して前記バイパス流路20の流路面積を最大とすることで前記エンジンの始動と共に前記吸気調整弁11を閉じて暖機運転を開始し,
該エンジンの始動後,所定の暖機運転終了条件が満たされる前に,前記流路面積変更装置(23,24)を制御して前記バイパス流路20の流路面積を減少させて前記吸気調整弁11を全開未満の所定の開度に開くことにより,前記レシーバタンク60内の圧力を前記始動アンロード圧力に対し所定の低い圧力である給油開始圧力に上昇させる吐出圧力上昇処理を行い,
前記吐出圧力上昇処理後,前記暖機運転終了条件が満たされる前に前記バイパス流路20を閉塞して,前記始動圧力調整弁52による前記吸気調整弁11の制御に移行し,
前記暖機運転終了条件が満たされたとき,前記始動制御流路用電磁弁53を閉じて前記始動圧力調整弁52による吸気調整弁11の制御を終了すると共に前記暖機運転を終了し,前記圧力調整弁13による前記吸気調整弁11の制御を行う通常運転に移行することを特徴とする(請求項8)。
【0036】
上記いずれのエンジン駆動型圧縮機1共に,前記バイパス流路20を,並列に設けられた複数本の並列流路(第1,第2バイパス流路21,22)の集合体として形成すると共に,前記各並列流路(第1,第2バイパス流路21,22)のそれぞれに並列流路用電磁弁(第1,第2電磁弁23,24)を設けることにより,該並列流路用電磁弁(第1,第2電磁弁23,24)を前記流路面積変更装置とし,
前記制御装置(コントローラ)30が,
前記エンジンの始動時,前記並列流路用電磁弁(第1,第2電磁弁23,24)を全て開いた状態とし,
前記吐出圧力上昇処理を,前記並列流路用電磁弁(第1,第2電磁弁23,24)の少なくとも1つを残し,所定の時間置きに順次閉じることにより実行するように構成するものとしても良い(請求項9)。
【0037】
更に,始動制御流路51及び始動圧力調整弁52を設けた構成では,前記始動制御流路51(51a,51b・・・51z)を複数設け,前記始動制御流路51(51a,51b・・・51z)のそれぞれに,該始動制御流路51(51a,51b・・・51z)を開閉する始動制御流路用電磁弁53(53a,53b・・・53z)と,それぞれ作動圧力が異なる前記始動圧力調整弁52(52a,52b・・・52z)を設け,
前記制御装置(コントローラ)30が,
前記エンジンの始動時,前記始動制御流路用電磁弁53(53a,53b・・・53z)の全てを開くと共に,
前記バイパス流路20の閉塞後,最も作動圧力の低い前記始動圧力調整弁52aが設けられた始動制御流路51aに設けられた始動制御流路用電磁弁53aから所定時間置きに順次閉じてゆき,前記暖機運転終了条件が満たされたとき,最も作動圧力の高い前記始動圧力調整弁52zが設けられた始動制御流路51zに設けられた始動制御流路用電磁弁53zを閉じるように構成するものとしても良い(請求項10)。
【発明の効果】
【0038】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の運転制御方法を実行するエンジン駆動型圧縮機1では,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0039】
暖機運転が終了する前に,吸気調整弁11を全開未満の開度で開いてレシーバタンク60内の圧力を給油開始圧力まで上昇させておく吐出圧力上昇処理を行うことにより,圧縮機本体40の潤滑及び冷却に必要な潤滑油の供給量を確保しておくことで,その後,暖機運転解除条件が満たされることにより圧力調整弁13による吸気調整弁11の制御に移行した場合であっても,潤滑油の給油不足に伴う吐出温度の異常上昇の発生等を好適に防止することができ,吐出温度の異常上昇に伴うエンジン駆動型圧縮機の非常停止の発生等を防止することができた。
【0040】
この吐出圧力上昇処理は,吸気調整弁11を全開未満の開度,従って,定格圧力に対し所定の低い圧力の範囲でレシーバタンク60内の圧力を上昇させるものであるため,レシーバタンク60内の圧力を定格圧力まで上昇させる場合に比較してエンジンにかかる負荷が小さく,暖機運転中に吐出圧力上昇処理を行ってもエンジンが停止(ストール)することを好適に防止することができた。
【0041】
また,制御流路12と圧力調整弁13の他に,始動制御流路51と,圧力調整弁13よりも低い圧力で開弁する始動圧力調整弁52を設け,吐出圧力上昇処理後,暖機運転終了条件が満たされるまでの間に,始動圧力調整弁52によって吸気調整弁11の制御を行うようにした構成では,圧力調整弁13による吸気調整弁の制御が行われる通常運転に移行する前に,レシーバタンク60内の圧力を,前述の給油開始圧力から,該給油開始圧力よりも高いが定格圧力よりも低い,所定の始動アンロード圧力まで上昇させることができ,暖機運転中の圧縮機本体40に対する給油量が増大することで,その後の通常運転に移行した際の吐出温度の異常上昇の発生をより確実に防止することができた。
【0042】
前記吐出圧力上昇処理を段階的に行う構成や,作動圧力の異なる複数の始動圧力調整弁52を作動圧力の低いものから順次適用する構成では,エンジンの暖機が進行するに従いレシーバタンク60内の圧力,従って,圧縮機本体40の背圧を上昇させてエンジンにかかる負荷を段階的に上げていくことで,通常運転に移行する前に圧縮機本体40に対する給油量を,通常運転時の給油量に近い量まで増大させることができる構成でありながら,暖機運転中のエンジンが停止(ストール)することを好適に防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明のエンジン駆動型圧縮機の全体構成の説明図。
図2】吸気調整弁の一構成例を示した断面図。
図3】吸気調整弁の変更例を示した断面図。
図4】本発明のエンジン駆動型圧縮機の機能ブロック図。
図5】本発明のエンジン駆動型圧縮機の動作説明図(通常時)であり,(A)は始動時,(B)は吐出圧力上昇処理時,(C)は通常運転時の説明図。
図6図5の動作時におけるエンジン駆動型圧縮機の,(A)は各部の動作を示すタイムチャート,(B)はレシーバタンク内圧力の変化を示すグラフ。
図7】本発明のエンジン駆動型圧縮機の動作説明図(極寒時)であり,(A)は始動時,(B)は吐出圧力上昇処理時,(C)は始動圧力調整弁による制御時,(D)は通常運転時の説明図。
図8図7の動作時におけるエンジン駆動型圧縮機の,(A)は各部の動作を示すタイムチャート,(B)はレシーバタンク内圧力の変化を示すグラフ。
図9】始動負荷軽減装置を備えた従来のエンジン駆動型圧縮機の説明図(特許文献1の図1に対応)。
図10】始動負荷軽減装置を備えたエンジン駆動型圧縮機の説明図であり,(A)は始動時,(B)は通常運転時における各部の動作を示す説明図。
図11図10の動作時におけるエンジン駆動型圧縮機の,(A)は各部の動作を示すタイムチャート,(B)はレシーバタンク内圧力の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に,添付図面を参照しながら本発明の構成につき説明する。
【0045】
〔エンジン駆動型圧縮機の全体構成〕
図1中の符号1は本発明のエンジン駆動型圧縮機であり,このエンジン駆動型圧縮機1は,圧縮機本体40,前記圧縮機本体40を駆動するエンジン(図示せず),前記圧縮機本体40より吐出された圧縮気体を貯留するレシーバタンク60を備え,圧縮機本体40より吐出された圧縮気体を,レシーバタンク60内に貯留した後,圧力調整弁61を介してサービスバルブ66に接続された図示せざる空気作業機等に供給することができるように構成されている。
【0046】
前述の圧縮機本体40は潤滑,冷却及び密封のための潤滑油と共に被圧縮気体を圧縮する油冷式のスクリュ圧縮機であり,レシーバタンク60内には,吐出流路62を介して潤滑油との気液混合流体として吐出された圧縮気体が導入され,このレシーバタンク60内で潤滑油と圧縮気体とを分離することができるように構成されていると共に,レシーバタンク60内に回収された潤滑油を,オイルクーラ63を介して圧縮機本体40に再度供給する,給油流路64を備えている。
【0047】
〔吸気調整装置〕
以上のように構成されたエンジン駆動型圧縮機1には,レシーバタンク60内の圧力が所定の定格圧力に近付くよう,レシーバタンク60内の圧力が所定の定格圧力以上になると圧縮機本体40の吸気口41を絞り又は閉じ,定格圧力未満になると全開にする吸気調整を行う吸気調整装置10を備えている点では,図9及び図10を参照して説明した従来のエンジン駆動型圧縮機の構成と同様である。
【0048】
また,この吸気調整装置10が,圧縮機本体40の吸気口41を開閉制御する吸気調整弁11と,この吸気調整弁11の閉弁受圧室113とレシーバタンク60間を連通する制御流路12,レシーバタンク60内の圧力に応じて,レシーバタンク60内の圧力が所定の定格圧力以上であるとき前記制御流路12を開くと共に,定格圧力未満であるとき前記制御流路12を閉じる圧力調整弁13によって構成されている点,及び,前記閉弁受圧室113内の圧縮気体を絞り15を介して放出する逃がし流路14を備えている点でも,図9及び図10を参照して説明したエンジン駆動型圧縮機の構成と同様である。
【0049】
〔吸気調整弁〕
吸気調整装置10を構成する前述の吸気調整弁11は,前述したように圧縮機本体40の吸気口41を開閉するもので,本実施形態では一例として図2に示す吸気調整弁11を使用している。
【0050】
この図2に示した吸気調整弁11は,ボディ(弁箱)111内に形成された空間によって被圧縮気体が通過する吸入流路115が形成されていると共に,この吸入流路115内に設けた弁座115aに,弁体116を着座させることで,吸入流路115を閉塞することができるように構成されている。
【0051】
この弁体116は,円盤状の弁体116に弁軸116aが取り付けられた,所謂「傘型弁」であり,ボディ111内に形成された円筒状のスリーブ117内に弁軸116aを挿入した状態で,このスリーブ117の軸線方向に弁体116を進退移動させることで,弁体116を弁座115aに着座させた閉弁位置と,弁座115aから弁体116が離間した開弁位置間を移動できるように構成されている。
【0052】
このような弁体116の移動を可能とするために,吸気調整弁11の弁箱111には,前述のスリーブ117を介して吸入流路115と連通するシリンダ112が前記スリーブ117と同軸に形成されている。
【0053】
このシリンダ112は,スリーブ117に弁軸116aが挿入された状態で,且つ,前記スリーブ117の形成側とは反対側の端部を端板118で塞ぐことにより気密室を成し,この気密室(シリンダ)112内を,弁軸116aの他端に連結された受圧体119,本実施形態ではピストンを介して二室に分割することにより,前記端板118側に吸気調整弁11の閉弁受圧室113が形成されていると共に,ピストン119を介して前記閉弁受圧室113とは反対側に,補助受圧室114が形成されている。
【0054】
図示の構成では,吸気調整弁11を常時開(NO)型とするために,前述した補助受圧室114内にピストン119を閉弁受圧室113側に押圧するスプリング114aを収容して,補助受圧室114にスプリング室としての機能を持たせているが,吸気調整弁11を常時開型とすることができるものであれば,スプリング114aは必ずしも補助受圧室114に設ける必要はない。
【0055】
なお,吸気調整弁11としては,図2に示す構成のものに代えて,図3に示すように,逆流防止機能を備えた構造の吸気調整弁11を採用しても良い。
【0056】
この構成では,弁軸を,弁体116側に設けた弁軸116a’と,受圧体(ピストン)119側に設けた弁軸119aに分割すると共に,弁体116側の弁軸116a’と受圧体(ピストン)119側の弁軸119aの間に弁体116を弁座115aに向けて付勢するスプリング116bが設けられている。
【0057】
このスプリング116bの付勢力によって,受圧体(ピストン)119が紙面左側の開弁位置にある場合であっても,弁体116が弁座115aに接触するように構成されている。
【0058】
このスプリング116bの付勢力は弱く,受圧体(ピストン)119が紙面左側の開弁位置にあるときに,弁座115aに対し二次側にある吸入流路115内の圧力が負圧になると,弁体116が弁座115aより離間して,圧縮機本体40は被圧縮気体を吸入することができるように構成されている。
【0059】
一方,受圧体(ピストン)119が紙面左側の開弁位置にあるときであっても,弁座115aに対し二次側の吸入流路115内の圧力が上昇すると,弁体116が弁座115aに押し付けられることで逆流が防止される。
【0060】
このように,本発明のエンジン駆動型圧縮機1に逆流防止機能付きの吸気調整弁11を採用する場合,弁座115aに対し弁体116が接触している状態であっても,弁座115aの一次側にある吸入流路内の圧力に対し,弁座115aの二次側にある吸入流路内の圧力が低くなった際に弁体116が弁座115aより離間して圧縮機本体40が吸気を行い得る状態は,吸気調整弁11の「開」又は「開弁」に含まれる。
【0061】
また,図2及び図3を参照して説明した吸気調整弁11の構成では,弁体116や弁座115aのみならず,弁体116を進退移動させるためのシリンダ112やピストン119等をいずれも共通のボディ(弁箱)111内に設けた構成を示したが,図9を参照して説明した従来のエンジン駆動型圧縮機のように,弁体の駆動機構を備えない吸気調整弁本体と,この吸気調整弁本体の弁体を駆動するアンローダレギュレータ等の駆動機構をそれぞれ別体とした構成を採用するものとしても良く,この場合,前述した閉弁受圧室113や補助受圧室114,受圧体119は,アンローダレギュレータ内に形成される。
【0062】
更に,図2及び図3を参照して説明した吸気調整弁11では,弁体116の駆動機構として気密室であるシリンダ112内を,閉弁受圧室113に導入された圧縮気体の圧力を受けて移動するピストン119を受圧体として設けることによって仕切る構成を採用したが,受圧体119は前述のピストンに限定されず,閉弁受圧室113内に導入された圧縮気体によって弁体116の動作を制御し得るものであれば,例えばダイヤフラム等を受圧体119としても良い。
【0063】
〔バイパス流路〕
以上のように構成された吸気調整弁11の閉弁受圧室113には,前述の制御流路12の他に,更に,バイパス流路20が連通されており,制御流路12に設けた圧力調整弁13をバイパスしてレシーバタンク60内の圧縮気体を吸気調整弁11の閉弁受圧室113に導入することができるように構成されている。
【0064】
このバイパス流路20には,バイパス流路20の流路面積を可変と成す,流路面積変更装置が設けられており,このバイパス流路20の流路面積を変化させて吸気調整弁11の閉弁受圧室113に導入する圧縮気体の流量を変化させることで吸気調整弁11の開度を変化させることができるように構成されている。
【0065】
バイパス流路20の流路面積を可変と成すために,本実施形態では前述のバイパス流路20を,2本の並列流路(第1バイパス流路21と第2バイパス流路22)の集合体として構成すると共に,第1バイパス流路21と第2バイパス流路22のそれぞれに電磁弁(第1電磁弁23,第2電磁弁24)を設け,第1,第2電磁弁23,24をいずれも開いた状態でバイパス流路20の流路面積が最大で,第1,第2電磁弁23,24のいずれか一方を閉じることで流路面積を絞り,第1,第2電磁弁23,24の双方を閉じることでバイパス流路20を閉塞することができるように構成した。
【0066】
従って,図示の実施形態ではこの第1,第2電磁弁23,24が,バイパス流路の流路面積を可変とする,前述の流路面積変更装置となる。
【0067】
図1に示す実施形態では,一端をレシーバタンク60に連通したコモン流路25の他端をアルミ合金製のブロックマニホールド26に連結して分岐し,このブロックマニホールド26に制御流路12,第1バイパス流路21及び第2バイパス流路22の一端をそれぞれ連通すると共に,他端を吸気調整弁11の閉弁受圧室113にそれぞれ連通する構成を示したが,制御流路12,第1バイパス流路21,及び第2バイパス流路22の一端は,前述したブロックマニホールド26やコモン流路25を介することなく,図5及び図7に示すように直接,レシーバタンク60に連通するものとしても良い。
【0068】
本実施形態において,前述の第1バイパス流路21に設けられた第1電磁弁23は,常時開(NO)型の電磁弁であり,前述した第2バイパス流路22に設ける第2電磁弁24として常時閉(NC)型の電磁弁を採用しているが,この構成に限定されず,各種の組み合わせが採用可能である。
【0069】
なお,図1~3中,符号27は三方電磁弁であり,この三方電磁弁27のCポートを,流路28cを介して吸気調整弁11の補助受圧室114(スプリング室:図2及び図3参照)に連通し,Aポートに取り付けた流路28aを,弁座115aの二次側において吸気調整弁11の吸入流路115に連通させると共に,Bポートに取り付けた流路28bを,吸気調整弁11の一次側に連通させている。
【0070】
これにより,三方電磁弁27の切り替えによって,吸気調整弁11の補助受圧室114を,弁座115aの二次側における吸入流路115と,吸気調整弁11の一次側に,選択的に連通させることができるように構成されている。
【0071】
〔始動制御流路〕
本発明のエンジン駆動型圧縮機1には,更に,制御流路12に設けた圧力調整弁13をバイパスして,レシーバタンク60と吸気調整弁11の閉弁受圧室113間を連通する,始動制御流路51を設けるものとしても良い。
【0072】
この始動制御流路51には,レシーバタンク60内の圧力が所定の始動アンロード圧力以上になると開弁し,前記始動アンロード圧力未満になると閉弁する,始動圧力調整弁52を設けると共に,該始動圧力調整弁52と直列に,電磁開閉弁〔本実施形態では常時閉(NC)型の電磁開閉弁〕である始動制御流路用電磁弁53が設けられている。
【0073】
前述の始動アンロード圧力は,給油開始圧力よりも所定の高い圧力で,かつ,定格圧力よりも所定の低い圧力として設定されており,従って,始動制御流路用電磁弁53によって始動制御流路51が開かれているときにバイパス流路20が閉じると,圧力調整弁13よりも作動圧力が低く設定されている始動圧力調整弁52によって吸気調整弁11の開閉制御が開始されるように構成されている。
【0074】
なお,この始動制御流路51,始動圧力調整弁52,及び始動制御流路用電磁弁53は,例えば標準仕様のエンジン駆動型圧縮機1には設けず,寒冷地仕様のエンジン駆動型圧縮機1にのみ設けるようにしても良い。
【0075】
また,前述の始動制御流路51,始動圧力調整弁52,及び始動制御流路用電磁弁53は,各1つずつ設けるものとしても良いが,図1中に「変更例」として示したように,2つ又はそれ以上の始動制御流路51a,51b・・・51zを並列に設けると共に,各始動制御流路51a,51b・・・51zのそれぞれに,始動圧力調整弁52a,52b・・・52zと始動制御流路用電磁弁53a,53b・・・53zを設けるものとしても良い。
【0076】
この場合,始動圧力調整弁52a,52b・・・52zのそれぞれの作動圧力を異なる値に設定し,始動制御流路用電磁弁53a,53b・・・53zの全てを開いた状態から,作動圧力の低い始動圧力調整弁が設けられている始動制御流路に設けた始動制御流路用電磁弁から順次閉じていくことで,始動アンロード圧力が段階的に上昇するように構成するものとしても良い。
【0077】
〔スイッチ類,センサ類等〕
以上のように構成された本発明のエンジン駆動型圧縮機1には,該エンジン駆動型圧縮機1の各部の動作を制御する制御装置である,コントローラ30が設けられていると共に,該コントローラ30に対して電気信号を出力するスイッチ類やセンサ類が設けられている(図4参照)。
【0078】
このうちのスイッチ類としては,エンジン駆動型圧縮機1の主電源のON,OFF,エンジンの始動,停止などの操作を行うための(後述するコントローラ30に行わせるための)スイッチ類を設けることができる。
【0079】
一例として,図4に示す実施形態では,このようなスイッチ類として,メインスイッチ70と,始動スイッチ72をエンジン駆動型圧縮機1の操作パネルに設けている。
【0080】
このうちのメインスイッチ70は,エンジン駆動型圧縮機1の主電源の「ON」,「OFF」の切り替えを行うもので,図示の実施形態では,このメインスイッチ70として,ON,OFFの二位置間を切り替え可能なロータリスイッチを採用している。
【0081】
このうちの「OFF」は,エンジン駆動型圧縮機1の各部に対する通電が停止した停止状態であり,「ON」は,所謂「アクセサリーポジション」であり,エンジンや,コントローラ30などの電子制御装置,各種のセンサや計器類等に対する通電が行われた状態である。
【0082】
また,始動スイッチ72は,エンジンを始動させるためのスイッチであり,本実施形態においてはこれを押しボタン式のスイッチによって構成し,これを所定時間(例えば1秒)以上,長押しすると,エンジンのスタータモータに対する通電が行われてエンジンが始動するように構成されている。
【0083】
このようなメインスイッチ70と始動スイッチ72を備えたエンジン駆動型圧縮機1の構成において,メインスイッチ70を「OFF」ポジションから「ON」ポジションに回転させた後,始動スイッチ72を長押ししてエンジンを始動させることで,エンジン駆動型圧縮機1の始動と運転の継続を行うことができると共に,メインスイッチ70を「ON」ポジションから,「OFF」ポジションに回転させると,エンジン駆動型圧縮機1を停止させることができるように構成されている。
【0084】
なお,エンジン駆動型圧縮機1の始動及び停止操作のためのスイッチは,前述したように,メインスイッチ70と始動スイッチ72を別個に設ける構成に限定されず,アクセサリー(メインスイッチ)のON,OFFを行うことができると共に,スタータモータのON,OFFを行うことができるものであれば,各種の構成を採用することができ,アクセサリーのON,OFFと,スタータモータのON,OFFを行うスイッチは,キーを差し込んで回転させることにより,OFF位置から,ON位置(アクセサリーポジション),更に,エンジンのスタータモータを回転されるスタート位置に切り替えることができる,既知のキースイッチなどによって構成するものとしても良い。
【0085】
また,本発明のエンジン駆動型圧縮機1には,圧縮機本体40の油温を検出する温度センサ65が設けられており(図1図4),コントローラ30は,この温度センサ65からの検知信号に基づいて,圧縮機本体40の油温の変化を監視する。
【0086】
〔コントローラ〕
以上のように構成された本発明のエンジン駆動型圧縮機1には,前述したスイッチ類の操作,及び温度センサ65が検出した圧縮機本体40の油温の変化,及び内蔵されたタイマ36のカウントに基づいて,前述した第1電磁弁23,第2電磁弁24,及び,三方電磁弁27の動作を制御する,電子制御装置であるコントローラ30が設けられている。
【0087】
このコントローラ30は,前述したスイッチ類70,72の操作状態,及び,温度センサ65が検出した圧縮機本体40の吐出温度,及びタイマ36のカウントに基づいて,下記の制御を実行する。
【0088】
(1)始動運転
オペレータがメインスイッチ70を「ON」位置に捻ると,エンジン駆動型圧縮機1の各部に対する通電が行われ,コントローラ30が起動する。
【0089】
これにより,コントローラ30は,圧縮機本体40の油温を検知する温度センサ65の検知温度を受信し,油温が0℃以下であるか否かを判断する。
【0090】
また,コントローラ30は,油温が0℃よりも高い場合,更に,油温が60℃以下であるか否かを判断し,予め記憶した対応関係に従い,60℃以下である場合には冷時運転時間(一例としてエンジンの始動から180秒)の経過を暖機運転解除条件とし,また,圧縮機本体の油温が60℃を越えている場合には,暖時運転時間(一例としてエンジンの始動から60秒)の経過を暖機運転解除条件として設定する。
【0091】
その後,始動スイッチ72を長押ししてエンジンを始動させると,コントローラ30は,油温が0℃を越えている場合には始動制御流路用電磁弁53(本実施形態ではNC型)に対する通電を行わず,始動制御流路51を閉塞したままの状態に維持すると共に,第1電磁弁23を非通電(OFF),すなわち開状態に維持したまま,第2電磁弁24を通電(ON)して開き,この状態でスタータモータを回転させてエンジンを始動させる〔図5(A)及び図6の「ENG始動」参照〕。
【0092】
このように,バイパス流路20(第1,第2バイパス流路21,22)を介して吸気調整弁11の閉弁受圧室113がレシーバタンク60と連通されることにより,圧力調整弁13による吸気調整弁11の制御は無効化されて,レシーバタンク60内の圧力が,圧力調整弁13の作動圧力に満たない圧力であっても,吸気調整弁11に閉弁動作を行わせることが可能となる。
【0093】
その結果,圧縮機本体40の回転によってレシーバタンク60内の圧力が上昇して吸気調整弁11の作動圧力以上になると,吸気調整弁11が閉弁する。
【0094】
これにより,吸気調整弁11が圧縮機本体40の吸気口41を閉じた無負荷の状態でエンジンの暖機運転が開始される。
【0095】
なお,図1及び図5に示す三方電磁弁27を設けた構成では,コントローラ30はこのエンジンの始動時,吸気調整弁11の補助受圧室114を弁座115aの二次側における吸入流路115に連通する位置(ポートC-A間を連通する位置)に三方電磁弁27を切り替える。
【0096】
その結果,エンジンの始動動作と共に圧縮機本体40が回転を開始して弁座115aの二次側における吸入流路115内が負圧となることで,吸気調整弁11の補助受圧室114も負圧となり,これによりエンジンの始動時における吸気調整弁11の閉弁動作をより早期に完了させることができるようになっている。
【0097】
(2)吐出圧力上昇処理
コントローラ30は,タイマ36のカウントに基づいてエンジンの始動後,所定時間X(一例として本実施形態では10秒)が経過したと判断すると,第1電磁弁23に対する通電(ON)を開始して第1電磁弁23を閉じると共に,三方電磁弁27に対する通電(ON)を開始して,吸気調整弁11の補助受圧室114を弁座115aの一次側における吸入流路115に連通する位置(ポートC-B間を連通する位置)に三方電磁弁27を切り替える〔図5(B)及び図6の「吐出圧力上昇処理」参照〕。
【0098】
これにより,補助受圧室114の負圧が解消すると共に,第1バイパス流路21を介してレシーバタンク60から吸気調整弁11の閉弁受圧室113に導入されていた圧縮気体の導入が停止することにより,閉弁受圧室113に導入される圧縮気体の流量が減少することにより閉弁受圧室内の圧力が低下する。
【0099】
そのため,吸気調整弁11が全閉の状態から,全開未満の所定の開度で僅かに開いた状態となり,圧縮機本体40が吸気を開始することで,一例としてゲージ圧で0.1MPa程度であったレシーバタンク60内の圧力が,この吐出圧力上昇処理によって給油開始圧力(一例としてゲージ圧で0.35MPa程度)にまで上昇する〔図6(B)の「STEP2」参照〕。
【0100】
なお,図示の実施形態では,バイパス流路20を第1,第2バイパス流路21,22から成る2本の流路によって形成し,このうちの一方の流路(第1バイパス流路21)を閉塞することにより吸気調整弁11の閉弁受圧室113に対し導入される圧縮気体の流量を絞ることでレシーバタンク60内の圧力を給油開始圧力に上昇させる構成を採用した。
【0101】
これに対し,例えばバイパス流路20を3本以上の並列流路によって構成し,少なくとも1本の並列流路を残し,他の並列流路を所定時間毎に1本ずつ閉塞することにより,段階的に所定の給油開始圧力にまで上昇させるものとしても良い。
【0102】
この場合,給油開始圧力をより高い圧力に設定した場合であっても,エンジンが停止(ストール)することを防止することができる。
【0103】
(3)通常運転
コントローラ30は,前述した始動時の油温に基づいて設定した暖機運転時間(冷時運転時間,又は暖時運転時間)の経過を暖機運転解除条件とし,この暖機温度解除条件が満たされると,第2電磁弁24に対する通電を停止(OFF)することで第2電磁弁24を閉じ,これにより第2バイパス流路22を閉塞する〔図5(C)及び図6の「暖機運転解除」参照〕。
【0104】
これにより,第2バイパス流路22を介して行われていた,吸気調整弁11の閉弁受圧室113に対するレシーバタンク60からの圧縮気体の導入が停止する。
【0105】
このようにしてバイパス流路20(21,22)が完全に閉塞することにより,吸気調整弁11の開閉動作の制御が,制御流路12に設けた圧力調整弁13によって行われる,通常運転に移行する。
【0106】
通常運転への移行時,レシーバタンク60内の圧力は定格圧力よりも所定の低い圧力である給油開始圧力となっていることから,圧力調整弁13は制御流路12を閉じており,吸気調整弁11の閉弁受圧室113に対し,レシーバタンク60内の圧縮気体は導入されないことから,吸気調整弁11は全開となり,圧縮機本体40は全負荷運転を開始する。
【0107】
このように,本発明の構成では,通常運転に移行する前に前述した吐出圧力上昇処理によってレシーバタンク60内の圧力を所定の給油開始圧力にまで上昇させておき,圧縮機本体40に対する給油量を増加させておくことで,通常運転に移行して,圧縮機本体40が全負荷運転を開始した際に,潤滑油の給油量不足に伴う吐出温度の異常上昇の発生等を好適に防止することができる。
【0108】
〔油温が0℃以下の場合の制御〕
以上では,メインスイッチをONとしたときの油温が0℃を越えている場合の暖機運転について説明したが,油温が0℃以下である場合,コントローラ30は以下のように各部を制御するように構成することができる。
【0109】
(1)始動運転
油温が0℃以下となっている状態にあるとき,始動スイッチ72を長押ししてエンジンを始動させると,コントローラ30は,始動制御流路用電磁弁53に対する通電を行って,始動制御流路51を開くと共に,第1電磁弁23を非通電(OFF),すなわち開状態に維持したまま,第2電磁弁24を通電(ON)して開き,この状態でスタータモータを回転させてエンジンを始動させる〔図7(A)及び図8の「ENG始動」参照〕。
【0110】
このように,バイパス流路20(第1,第2バイパス流路21,22)を介して吸気調整弁11の閉弁受圧室113がレシーバタンク60と連通されることにより,始動制御流路用電磁弁53の開弁によって始動制御流路51を介してレシーバタンク60と吸気調整弁11の閉弁受圧室113が連通された状態となっていたとしても,始動圧力調整弁52による吸気調整弁11の制御は無効化されており,レシーバタンク60内の圧力が,始動圧力調整弁52の作動圧力に満たない場合であっても,吸気調整弁11に閉弁動作を行わせることが可能となる。
【0111】
その結果,圧縮機本体40の回転によってレシーバタンク60内の圧力が僅かに上昇して吸気調整弁11の作動圧力以上になると,吸気調整弁11が閉弁する。
【0112】
これにより,吸気調整弁11が圧縮機本体40の吸気口41を閉じた無負荷の状態でエンジンの暖機運転が開始される。
【0113】
なお,三方電磁弁27を設けた構成では,コントローラ30はこの始動運転時,吸気調整弁11の補助受圧室114を弁座115aの二次側における吸入流路115に連通する位置(ポートC-A間を連通する位置)に三方電磁弁27を切り替える点は,前述した,油温が0℃以上の場合の動作と同様である。
【0114】
(2)吐出圧力上昇処理
コントローラは,エンジンの始動後,所定時間(一例として本実施形態では10秒)が経過すると,第1電磁弁に対する通電(ON)を開始して第1電磁弁を閉じると共に,三方電磁弁27に対する通電(ON)を開始して,吸気調整弁11の補助受圧室114を弁座115aの一次側における吸入流路115に連通する位置(ポートC-B間を連通する位置)に三方電磁弁27を切り替える〔図7(B)及び図8の「吐出圧力上昇処理」を参照〕。
【0115】
これにより,吸気調整弁11の閉弁受圧室113に導入される圧縮気体の流量が減少することにより閉弁受圧室113内の圧力が低下して,全閉の状態にあった吸気調整弁11が,全開未満の所定の開度で僅かに開き,圧縮機本体40が吸気を開始することでレシーバタンク60内の圧力が,給油開始圧力にまで上昇する〔図8(B)の「STEP2」参照〕。
【0116】
(3)始動圧力調整弁による制御
前述した吐出圧力上昇処理の実行から所定時間Y(本実施形態では一例として30秒)の経過後,コントローラ30は第2バイパス流路22に設けられている第2電磁弁24に対する通電を停止(OFF)し,第2電磁弁24を閉じる〔図7(C)参照〕。
【0117】
これにより,バイパス流路20(21,22)を介した閉弁受圧室113に対するレシーバタンク60からの圧縮気体の導入が完全に停止することで,吸気調整弁11の開閉動作が,始動制御流路51に設けられた始動圧力調整弁52による制御に移行する。
【0118】
始動圧力調整弁52は,レシーバタンク60内の圧力が,給油開始圧力に対し所定の高い圧力であると共に,定格圧力に対し所定の低い圧力である始動アンロード圧力以上で開弁するようにその作動圧力が調整されている。
【0119】
そして,バイパス流路20(21,22)の閉塞によって吸気調整弁11の開閉動作が始動圧力調整弁52による制御に移行しても,この時点ではレシーバタンク60内の圧力は始動アンロード圧力よりも低いため,バイパス流路20が閉塞されると,吸気調整弁11の閉弁受圧室113に対する圧縮気体の導入が停止して吸気調整弁11は全開となる。
【0120】
その結果,圧縮機本体40の全負荷運転が開始され,レシーバタンク60内の圧力が上昇する〔図8(B)の「STEP3」参照〕。
【0121】
レシーバタンク60内の圧力が,始動アンロード圧力以上に上昇すると,始動圧力調整弁52が開き,吸気調整弁11の閉弁受圧室113内にレシーバタンク60からの圧縮気体が導入されて吸気調整弁11が閉じ,レシーバタンク60内の圧力が,始動アンロード圧力付近に保持される。
【0122】
コントローラ30は,第2電磁弁24の閉弁後,所定の時間(一例として本実施形態では140秒)の経過後,始動制御流路用電磁弁53に対する通電を停止(OFF)し,始動制御流路51を閉じる。
【0123】
これにより,始動圧力調整弁52による吸気調整弁11の開閉制御が終了し,制御流路12に設けた圧力調整弁13による吸気調整弁の開閉制御が行われる,通常制御に移行する。
【0124】
このように,油温が所定の低い温度(一例として0℃以下)でエンジン駆動型圧縮機1を始動させる場合,バイパス流路20の閉塞後,始動制御流路51に設けた始動圧力調整弁52による制御に移行することで,レシーバタンク60内の圧力を多段階に,かつ,給油開始圧力よりも高い圧力である始動アンロード圧力まで上昇させることができた。
【0125】
その結果,外気温度が低く,粘度が増大しているため,レシーバタンク60内の圧力を給油開始圧力に上昇させただけでは圧縮機本体40に対する十分な潤滑油の供給量を確保できない場合であっても,通常運転に移行する前に,圧縮機本体40に対し十分な量の潤滑油を供給することが可能となる。
【0126】
なお,上記の説明では,単一の始動制御流路51を設けた構成例について説明したが,図1中に変更例として示したように,2つ,又はそれ以上の始動制御流路51a,51b・・・51zを設けるものとしても良い。
【0127】
この場合,各始動制御流路51a,51b・・・51zのそれぞれに始動圧力調整弁52a,52b・・・52zを設けると共に,各始動圧力調整弁52a,52b・・・52zを,それぞれ作動圧力の異なるものとする。
【0128】
また,各始動制御流路51a,51b・・・51zには,それぞれ始動圧力調整弁52a,52b・・・52zと直列に,電磁開閉弁である始動制御流路用電磁弁53a,53b・・・53zを設ける。
【0129】
そして,コントローラ30が,バイパス流路20の閉塞後,最も作動圧力の低い始動圧力調整弁52aが設けられた始動制御流路51aに設けられた始動制御流路用電磁弁53aから所定時間置きに順次閉じてゆき,暖機運転終了条件が満たされたとき,最も作動圧力の高い前記始動圧力調整弁52zが設けられた始動制御流路51zに設けられた始動制御流路用電磁弁53zを閉じるように構成することで,レシーバタンク60内の圧力をより多段階に上昇させることができるように構成するものとしても良い。
【符号の説明】
【0130】
1 エンジン駆動型圧縮機
10 吸気調整装置
11 吸気調整弁
111 ボディ(弁箱)
112 気密室(シリンダ)
113 閉弁受圧室
114 補助受圧室(スプリング室)
114a スプリング
115 吸入流路
115a 弁座
116 弁体
116a,116a’ 弁軸
116b スプリング
117 スリーブ
118 端板
119 受圧体(ピストン)
119a 弁軸
12 制御流路
13 圧力調整弁
14 逃がし流路
15 絞り
20 バイパス流路
21 第1バイパス流路(並列流路)
22 第2バイパス流路(並列流路)
23 第1電磁弁(並列流路用電磁弁)
24 第2電磁弁(並列流路用電磁弁)
25 コモン流路
26 ブロックマニホールド
27 三方電磁弁
28a~28c 流路
30 コントローラ(制御装置)
36 タイマ
40 圧縮機本体
41 吸気口
51(51a,51b・・・51z) 始動制御流路
52(52a,52b・・・52z) 始動圧力調整弁
53(53a,53b・・・53z) 始動制御流路用電磁弁
60 レシーバタンク
61 圧力調整弁
62 吐出流路
63 オイルクーラ
64 給油流路
65 温度センサ
66 サービスバルブ
70 メインスイッチ
72 始動スイッチ
300 エンジン駆動型圧縮機
310 吸気調整装置
311 吸気調整弁
312 制御流路
313 圧力調整弁
314 逃がし流路
315 絞り
316 アンローダレギュレータ
320 始動負荷軽減装置
321 バイパス流路
325 バイパスバルブ
340 圧縮機本体
341 吸気口
350 エンジン
360 レシーバタンク
363 オイルクーラ
364 給油流路
366 オイルセパレータ
367 オイルフィルタ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11