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特許7600046形状計測方法、形状計測装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】形状計測方法、形状計測装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/04 20060101AFI20241209BHJP
【FI】
G01B15/04 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021115748
(22)【出願日】2021-07-13
(65)【公開番号】P2023012227
(43)【公開日】2023-01-25
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一希
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-020452(JP,A)
【文献】特開2009-198339(JP,A)
【文献】特開2009-258248(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051456(WO,A1)
【文献】特開平10-146697(JP,A)
【文献】特開平09-152321(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0089574(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 1/00-21/32
G01N 1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1装置から所定のパターンを有する基板に照射された電磁波の散乱強度に関する散乱強度プロファイルを取得する工程と、
注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第1パラメータ群に基づいて構成される第1仮想構造に対する第1シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第1予想散乱強度プロファイルを取得する工程と、
前記散乱強度プロファイルと前記第1予想散乱強度プロファイルとを用いた第1フィッティング処理により前記第1パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する工程と、
前記注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第2パラメータ群に基づいて構成され前記注目パラメータに前記収束値が定数として設定された第2仮想構造に対する第2シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第2予想散乱強度プロファイルを取得する工程と、
前記散乱強度プロファイルと前記第2予想散乱強度プロファイルとを用いた第2フィッティング処理により前記第2パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する工程と、
を含む形状計測方法。
【請求項2】
前記第1装置とは異なる第2装置を用いて計測された前記注目パラメータの値である基準値に基づいて、前記第1フィッティング処理により演算された前記注目パラメータの収束値を補正する工程、
を更に含む請求項1に記載の形状計測方法。
【請求項3】
前記第2装置は、前記第1装置から照射される前記電磁波とは異なる波長を有する電磁波を用いて前記基準値を計測する、
請求項2に記載の形状計測方法。
【請求項4】
前記第2装置は、CD-SEMである、
請求項2に記載の形状計測方法。
【請求項5】
前記第2装置は、前記パターンを有し前記基板とは異なるサンプル基板に対する破壊検査により前記基準値を計測する、
請求項2に記載の形状計測方法。
【請求項6】
前記第2装置は、X-SEM又はX-TEMである、
請求項5に記載の形状計測方法。
【請求項7】
第1装置から所定のパターンを有する基板に照射された電磁波の散乱強度に関する散乱強度プロファイルを取得する散乱強度プロファイル取得部と、
注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第1パラメータ群に基づいて構成される第1仮想構造に対する第1シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第1予想散乱強度プロファイルを取得する第1シミュレーション部と、
前記散乱強度プロファイルと前記第1予想散乱強度プロファイルとを用いた第1フィッティング処理により前記第1パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する第1フィッティング部と、
前記注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第2パラメータ群に基づいて構成され前記注目パラメータに前記収束値が定数として設定された第2仮想構造に対する第2シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第2予想散乱強度プロファイルを取得する第2シミュレーション部と、
前記散乱強度プロファイルと前記第2予想散乱強度プロファイルとを用いた第2フィッティング処理により前記第2パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する第2フィッティング部と、
を含む形状計測装置。
【請求項8】
コンピュータに、
第1装置から所定のパターンを有する基板に照射された電磁波の散乱強度に関する散乱強度プロファイルを取得する処理と、
注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第1パラメータ群に基づいて構成される第1仮想構造に対する第1シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第1予想散乱強度プロファイルを取得する処理と、
前記散乱強度プロファイルと前記第1予想散乱強度プロファイルとを用いた第1フィッティング処理により前記第1パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する処理と、
前記注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第2パラメータ群に基づいて構成され前記注目パラメータに前記収束値が定数として設定された第2仮想構造に対する第2シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第2予想散乱強度プロファイルを取得する処理と、
前記散乱強度プロファイルと前記第2予想散乱強度プロファイルとを用いた第2フィッティング処理により前記第2パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、形状計測方法、形状計測装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、基板に形成されたパターンの形状を計測する技術として、微小角入射X線小角散乱法(Grazing Incidence Small Angle X-ray Scattering;以下、GISAXSという)が利用されている。GISAXSにおいて、パターンの形状的特徴を示す複数のパラメータに基づいて仮想構造を想定し、仮想構造に対するシミュレーションやフィッティング処理により各パラメータの収束値を演算することにより、パターンの形状を計測する技術が利用されている。仮想構造を構成する複数のパラメータには、収束値を正確に演算することが困難なパラメータが含まれる場合がある。パラメータの収束値の精度低下は、パターンの形状の計測精度を低下させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-53828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一つの実施形態は、パターンの形状を高精度に計測可能な形状計測方法、形状計測装置、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一つの実施形態によれば、形状計測方法が提供される。形状計測方法では、第1装置から所定のパターンを有する基板に照射された電磁波の散乱強度に関する散乱強度プロファイルが取得される。また、注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第1パラメータ群に基づいて構成される第1仮想構造に対する第1シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第1予想散乱強度プロファイルが取得される。また、散乱強度プロファイルと第1予想散乱強度プロファイルとを用いた第1フィッティング処理により第1パラメータ群に含まれるパラメータの収束値が演算される。また、注目パラメータを含む複数のパラメータからなる第2パラメータ群に基づいて構成され注目パラメータに収束値が定数として設定された第2仮想構造に対する第2シミュレーションにより演算される散乱強度に関する第2予想散乱強度プロファイルが取得される。また、散乱強度プロファイルと第2予想散乱強度プロファイルとを用いた第2フィッティング処理により第2パラメータ群に含まれるパラメータの収束値が演算される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態にかかる形状計測装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、第1実施形態にかかる基板のパターンの一例を示す上面図である。
図3図3は、第1実施形態にかかる制御部及び演算部のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4図4は、第1実施形態に係る演算部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、第1実施形態に係る散乱強度プロファイルの一例を示すグラフである。
図6図6は、第1実施形態に係る第1仮想構造の一例を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係る第2仮想構造の一例を示す図である。
図8図8は、第1実施形態にかかる形状計測装置において形状情報を生成する際の処理の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、第2実施形態に係る演算部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図10図10は、第2実施形態において基準値と補正前の注目パラメータの収束値との関係の一例を示すグラフである。
図11図11は、第2実施形態において基準値と補正後の注目パラメータの収束値との関係の一例を示すグラフである。
図12図12は、第2実施形態において注目パラメータの収束値を補正する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる形状計測方法および形状計測装置を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる形状計測装置1の構成の一例を示す図である。以下では、形状計測装置1がGISAXSである場合を例示する。
【0009】
形状計測装置1は、ステージ11、X線管球12(第1装置の一例)、発散スリット13、二次元検出器14、制御部20、及び演算部30を備える。
【0010】
ステージ11は、計測対象の基板40が載置されるユニットである。ステージ11は、適宜な駆動機構によって基板10が載置される載置面に平行な方向に移動可能であるとともに、載置面に平行な面内で回転可能である。
【0011】
基板40には、所定のパターンが形成されている。パターンは、凹部又は凸部により構成される単位構造が周期的に繰り返される構造を含み、例えば半導体記憶装置のラインアンドスペースパターン、ホールパターン(メモリホール)、ピラーパターン等であり得る。
【0012】
図2は、第1実施形態にかかる基板40のパターンPの一例を示す上面図である。図中、XY平面はステージ11の載置面に平行な面であり、Z軸はXY平面に垂直な方向である。ここで例示するパターンPは、ラインアンドスペースパターンであり、第1スペース部41、第2スペース部42、及びライン部45を含む。第1スペース部41及び第2スペース部42は、Y軸に沿って基板40の表面から基板40の内部(Z軸の負方向)に掘り下げられた凹部である。第2スペース部42のX方向の幅は、第1スペース部41のX方向の幅より大きくなっている。ライン部45は、第1スペース部41と第2スペース部42との間に形成される凸部である。1つの第1スペース部41と1つの第2スペース部42と2つのライン部45とにより単位構造Cが構成され、単位構造Cが上面視において二次元的且つ周期的に配置されている。本実施形態では、図2において、第1スペース部41の左側に隣接するライン部45のX軸方向の中間部から第2スペース部42の右側に隣接するライン部45のX軸方向の中間部までを1つの単位構造Cとしているが、単位構造Cの区切り方はこれに限定されるものではない。なお、図2に示すパターンPは例示であり、基板40に形成されるパターンはラインアンドスペースパターンに限定されるものではない。
【0013】
X線管球12は、所定の波長のX線(電磁波の一例)を発生させる光源、凹面鏡等を含むユニットである。光源は、X線を発生させるものであれば特に限定されないが、例えばCuのKα線を発生させるもの等であり得る。X線管球12は、制御部20からの制御信号に応じて、例えば1nm以下の波長の入射X線Liを発生させる。入射X線Liは、X線管球12内の凹面鏡によって光路が調整され、所望の入射角度αで基板40に照射される。入射X線Liが基板40上のパターンPにより散乱されることにより、散乱X線Loが発生する。散乱X線Loは、パターンPの形状に応じて様々な射出角度βで基板40から散乱する。
【0014】
発散スリット13は、入射X線Liの幅を調整するためのスリットである。入射X線Liの強度を上げたい場合には、制御部20からの制御信号に応じて発散スリット13の幅が広くされる。
【0015】
二次元検出器14は、基板40(パターンP)から十分に離れた位置に配置され、散乱X線Loを受光素子で検出し、散乱X線Loの強度(散乱強度)を測定する。二次元検出器14は、受光素子が二次元的に配置された受光部を有する。各受光素子は、散乱X線Loの強度を測定する。各受光素子により測定された散乱強度と各受光素子の位置とを対応付けることにより、散乱強度の分布を示す二次元画像を生成できる。二次元検出器14は、散乱強度の検出結果を示す検出データ(例えば上記二次元画像を示すデータ等)を演算部30に出力する。
【0016】
制御部20は、ステージ11、X線管球12、発散スリット13等を制御するための処理を行う情報処理装置である。制御部20は、ステージ11を変位させることにより、入射X線Liが入射される基板40の位置等を調整する。また、制御部20は、基板40に対する入射X線Liの入射角度α、入射X線Liの出力等を制御する。また、制御部20は、発散スリット13の幅を制御して入射X線Liの照射面積を調整する。また、制御部20は、ステージ制御部21、光源制御部22、スリット幅制御部23、及び演算部30に、基板40を計測する際の測定条件を設定する。測定条件には、例えば入射角度α、スリット幅、ステージ11の回転速度等が含まれる。
【0017】
演算部30は、二次元検出器14から出力される検出データに基づいて、基板40に形成されたパターンPの形状を計測するための処理を行う情報処理装置である。演算部30の機能については後述する。
【0018】
図3は、第1実施形態にかかる制御部20及び演算部30のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。ここで例示する制御部20及び演算部30は、CPU(Central Processing Unit)51、ROM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53、外部記憶装置54、出力装置55、入力装置56等がバス57を介して接続されたマイクロコンピュータ(プロセッサ)を含む。CPU51は、ROM52、外部記憶装置54等に記憶されたプログラムに従って各種演算処理を実行する。RAM53は、CPU51の作業領域等として使用される。出力装置55は、例えばディスプレイ、スピーカ等であり得る。入力装置56は、例えばキーボード、タッチパネル機構、ポインティングデバイス等であり得る。なお、制御部20及び演算部30のハードウェア構成は上記に限られるものではなく、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のデバイスを利用して構成されてもよい。
【0019】
図4は、第1実施形態に係る演算部30の機能構成の一例を示すブロック図である。演算部30は、散乱強度プロファイル取得部101、第1シミュレーション部102、第1フィッティング部103、第2シミュレーション部104、第2フィッティング部105、及び形状情報生成部106を有する。これらの機能的構成要素101~106は、例えば図3に示すようなハードウェアとソフトウェア(プログラム)との協働により実現され得る。
【0020】
散乱強度プロファイル取得部101は、基板40に照射された電磁波の散乱強度に関する散乱強度プロファイルを取得する。本実施形態に係る散乱強度プロファイル取得部101は、二次元検出器14から出力された検出データに基づいて、実際の基板40に入射X線Liを照射した場合の散乱強度に関する散乱強度プロファイルを取得(生成)する。
【0021】
図5は、第1実施形態に係る散乱強度プロファイルの一例を示すグラフである。ここで例示する散乱強度プロファイルは、散乱X線Loの射出角度β(横軸)と散乱X線Loの強度(縦軸)との関係を示すものである。
【0022】
第1シミュレーション部102(図4)は、第1パラメータ群に基づいて構成される第1仮想構造に対して第1シミュレーションを実行することにより第1予想散乱プロファイルを取得する。第1パラメータ群は、計測対象となるパターンPの形状的特徴を示す複数のパラメータからなる群であり、注目パラメータを含む。注目パラメータは、複数のパラメータの中から予め選択されたパラメータであり、例えば最終的なフィッティング処理(後述する第2フィッティング処理)による収束値の演算が比較的困難なパラメータ等であり得る。第1仮想構造は、上記のような第1パラメータ群に基づいて構成される仮想構造である。
【0023】
図6は、第1実施形態に係る第1仮想構造M1の一例を示す図である。ここで例示する第1仮想構造M1は、図2に例示するパターンPの単位構造Cの形状的特徴を簡略的に表現するものであり、高さH、第1幅S1、第2幅S2、ライン幅CD、及び幅差dsをパラメータとするものである。
【0024】
高さHは、第1スペース部41及び第2スペース部42の底部から上端部までの高さ(深さ)を示している。第1幅S1は、第1スペース部41が全高さに渡って一定の幅を有すると仮定したときの第1スペース部41のX軸方向の幅を示している。第2幅S2は、第2スペース部42が全高さに渡って一定の幅を有すると仮定したときの第2スペース部42のX軸方向の幅を示している。ライン幅CDは、第1スペース部41及び第2スペース部42が全高さに渡ってそれぞれ一定の幅を有すると仮定したときの第1スペース部41と第2スペース部42との間の距離を示している。幅差dsは、第1幅S1と第2幅S2との差(S2-S1)を示している。本実施形態においては、幅差dsが注目パラメータとして設定される。
【0025】
第1シミュレーション部102(図4)は、上記のような第1仮想構造M1に対して第1シミュレーションを実行する。第1シミュレーションは、第1仮想構造M1に対して入射X線Liを所定の測定条件下で照射した場合の散乱強度を予想する処理である。このような第1シミュレーションにより、第1仮想構造M1に入射X線Liを照射した場合の散乱強度に関する第1予想散乱プロファイルが取得(生成)される。第1予想散乱プロファイルは、図5に例示する散乱強度プロファイルと同様に、散乱X線Loの射出角度βと散乱X線Loの強度との関係を示すものである。
【0026】
第1フィッティング部103は、散乱強度プロファイルと第1予想散乱強度プロファイルとを用いた第1フィッティング処理により第1パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する。第1フィッティング処理において、散乱強度プロファイルの散乱強度と、パラメータの値を変化させることにより得られる第1予想散乱強度プロファイルの散乱強度とを比較し、両散乱強度の差分が閾値以下となるときの第1パラメータ群に含まれるパラメータの値を収束値とする。
【0027】
第2シミュレーション部104は、第2パラメータ群に基づいて構成される第2仮想構造に対して第2シミュレーションを実行することにより第2予想散乱プロファイルを取得する。第2パラメータ群は、注目パラメータを含む複数のパラメータからなり、注目パラメータに第1フィッティング部103により演算された収束値(第1仮想構造M1を用いて演算された収束値)を定数として設定したものである。第2仮想構造は、このような第2パラメータ群に基づいて構成される仮想構造である。
【0028】
図7は、第1実施形態に係る第2仮想構造M2の一例を示す図である。ここで例示する第2仮想構造M2は、図2に例示するパターンPの単位構造Cの形状的特徴を第1仮想構造M1より詳細に表現するものである。第2仮想構造M2は、高さH、第1幅S1、第2幅S2、ライン幅CD、第1底部曲率半径RB1、第2底部曲率半径RB2、第1上部曲率半径RT1、第2上部曲率半径RT2、第1スペース部傾斜角SWA1、第2スペース部傾斜角SWA2、及び幅差dsをパラメータとし、注目パラメータである幅差dsは、第1フィッティング部103により演算された収束値が定数Kとして設定されている。
【0029】
高さHは、第1スペース部41及び第2スペース部42の底部(底部の中央部)から上端部までの高さ(深さ)を示している。第1幅S1は、第1スペース部41のH/2の位置におけるX軸方向の幅を示している。第2幅S2は、第2スペース部42がH/2の位置におけるX軸方向の幅を示している。ライン幅CDは、H/2の位置における第1スペース部41と第2スペース部42との間の距離を示している。第1底部曲率半径RB1は、第1スペース部41の底部の曲率半径を示している。第2底部曲率半径RB2は、第2スペース部42の底部の曲率半径を示している。第1上部曲率半径RT1は、ライン部45の第1スペース部41側の部分の曲率半径を示している。第2上部曲率半径RT2は、ライン部45の第2スペース部42側の部分の曲率半径を示している。第1スペース部傾斜角SWA1は、第1スペース部41の側面の水平面(XY平面)に対する傾斜角度を示している。第2スペース部傾斜角SWA2は、第2スペース部42の側面の水平面に対する傾斜角度を示している。幅差dsは、第1幅S1と第2幅S2との差(S2-S1)を示しており、定数K(第1フィッティング処理により演算された収束値)に固定されている。
【0030】
第2シミュレーション部104(図4)は、上記のような第2仮想構造M2に対して第2シミュレーションを実行する。第2シミュレーションは、第2仮想構造M2に対して入射X線Liを所定の測定条件下で照射した場合の散乱強度を予想する処理である。このような第2シミュレーションにより、第2仮想構造M2に入射X線Liを照射した場合の散乱強度に関する第2予想散乱プロファイルが取得(生成)される。第2予想散乱プロファイルは、図5に例示する散乱強度プロファイルと同様に、散乱X線Loの射出角度βと散乱X線Loの強度との関係を示すものである。
【0031】
第2フィッティング部105は、散乱強度プロファイルと第2予想散乱強度プロファイルとを用いた第2フィッティング処理により第2パラメータ群に含まれる各パラメータの収束値を演算する。本実施形態における第2パラメータ群に含まれるパラメータは、高さH、第1幅S1、第2幅S2、ライン幅CD、第1底部曲率半径RB1、第2底部曲率半径RB2、第1上部曲率半径RT1、第2上部曲率半径RT2、第1スペース部傾斜角SWA1、第2スペース部傾斜角SWA2、及び幅差ds(定数K)である。第2フィッティング処理において、散乱強度プロファイルの散乱強度と、パラメータを変化させることにより得られる第2予想散乱強度プロファイルの散乱強度とを比較し、両散乱強度の差分が閾値以下となるときの各パラメータの値を収束値とする。
【0032】
形状情報生成部106は、第2パラメータ群に含まれる各パラメータの収束値に基づいて計測対象のパターンPの形状に関する形状情報を生成する。形状情報の利用方法は様々であるが、形状情報は例えば基板40の品質評価、基板40にパターンPを形成する装置の制御等に利用され得る。
【0033】
図8は、第1実施形態にかかる形状計測装置1において形状情報を生成する際の処理の一例を示すフローチャートである。散乱強度プロファイル取得部101は、二次元検出器14からの検出データに基づいて散乱強度プロファイルを取得する(S101)。第1シミュレーション部102は、注目パラメータ(例えば幅差ds)を含む第1パラメータ群に基づく第1仮想構造M1を設定し(S102)、第1仮想構造M1に対する第1シミュレーションを実行し、第1仮想散乱強度プロファイルを取得する(S103)。
【0034】
第1フィッティング部103は、散乱強度プロファイルと第1仮想散乱強度プロファイルとを用いた第1フィッティング処理により、第1パラメータ群に含まれるパラメータの収束値を演算する(S104)。第2シミュレーション部104は、注目パラメータが収束値(定数K)に固定された第2パラメータ群に基づく第2仮想構造M2を設定し(S105)、第2仮想構造M2に対する第2シミュレーションを実行し、第2仮想散乱強度プロファイルを取得する(S106)。
【0035】
第2フィッティング部105は、散乱強度プロファイルと第2仮想散乱強度プロファイルとを用いた第2フィッティング処理により、第2パラメータ群に含まれる各パラメータの収束値を演算する(S107)。形状情報生成部106は、第2パラメータ群の収束値に基づいてパターンPの形状に関する形状情報を生成する(S108)。
【0036】
上記構成によれば、注目パラメータの収束値が比較的単純な仮想構造(第1仮想構造M1)を用いて演算される。これにより、複雑な仮想構造(第2仮想構造M2)を用いた処理(第2シミュレーション及び第2フィッティング処理)を行う際の処理負荷の軽減や、注目パラメータの誤った値への収束の回避を実現できる。これにより、パターンの形状を高精度に計測することが可能となる。
【0037】
以下に他の実施形態について図面を参照して説明するが、第1実施形態と同一又は同様の箇所については同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0038】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係る演算部30の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態に係る演算部30は、注目パラメータの収束値を補正する手段として、基準値取得部201及び補正部202を備える点で第1実施形態と異なっている。
【0039】
基準値取得部201は、上述した散乱強度プロファイル(図5)を取得するための電磁波(入射X線Li)を照射する装置(X線管球12:第1装置)とは異なる装置(第2装置)を用いて計測された注目パラメータの値である基準値を取得する。第2装置は、例えば、入射X線Liとは異なる波長を有する電磁波を基板40に照射して注目パラメータの値を計測するものであってもよい。この場合の第2装置は、例えばCD-SEM等であり得る。また、第2装置は、パターンPを有し、実際に計測対象となっている(ステージ11に載置されている)基板40とは異なるサンプル基板に対する破壊検査により注目パラメータの値を計測するものであってもよい。この場合の第2装置は、例えばX-SEM、X-TEM等であり得る。
【0040】
補正部202は、基準値取得部201により取得された基準値(第2装置により計測された注目パラメータの値)に基づいて、第1フィッティング部103により演算された注目パラメータの収束値を補正する。補正部202は、第1フィッティング処理(第1フィッティング部103)により演算された注目パラメータの収束値と、基準値取得部201により取得された基準値との差に基づいて、当該収束値を補正するための補正係数を設定する。
【0041】
図10は、第2実施形態において基準値と補正前の注目パラメータの収束値との関係の一例を示すグラフである。同グラフにおいて、横軸は基準値に対応し、縦軸は補正前の注目パラメータの収束値に対応している。本例では、基準値としてX-TEMにより計測された値が用いられている。線Lは、基準値と収束値との対応関係を示しており、両者に誤差がなければ傾きが1、オフセット(基準値が0の時の収束値の値)が0となるが、図10に示す例では、傾きが0.599、オフセットが0.386となっている。補正部202は、このような傾き及びオフセットの誤差が閾値以下となるように補正係数を設定する。
【0042】
図11は、第2実施形態において基準値と補正後の注目パラメータの収束値との関係の一例を示すグラフである。同グラフにおいて、横軸が基準値に対応し、縦軸が補正後の注目パラメータの収束値に対応している。図11に示すように、補正後の線Lにおいては、傾きが1に近い値となり、オフセットが0に近い値となっている。
【0043】
図12は、第2実施形態において注目パラメータの収束値を補正する処理の一例を示すフローチャートである。基準値取得部201は、第2装置により実際に計測対象となっている基板40又はサンプル基板における注目パラメータの値を計測し、計測した値を基準値として取得する(S201)。補正部202は、第1フィッティング処理(第1フィッティング部103)により演算された注目パラメータの収束値と、基準値取得部201により取得された基準値との差に基づいて、収束値を補正するための補正係数を設定する(S202)。補正部202は、補正係数に基づいて収束値を補正し(S203)、補正後の収束値を注目パラメータの定数Kとして第2シミュレーション部104に出力する(S204)。
【0044】
本実施形態によれば、注目パラメータの収束値の演算精度を向上させることができ、パターンPの形状の計測精度を向上させることができる。
【0045】
上述した実施形態により説明した各種処理や機能をコンピュータに実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。また、プログラムをインターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供又は配布するように構成してもよい。また、プログラムをROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1…形状計測装置、11…ステージ、12…X線管球、13…発散スリット、14…二次元検出器、20…制御部、30…演算部、40…基板、41…第1スペース部、42…第2スペース部、101…散乱強度プロファイル取得部、102…第1シミュレーション部、103…第1フィッティング部、104…第2シミュレーション部、105…第2フィッティング部、106…形状情報生成部、201…基準値取得部、202…補正部、C…単位構造、ds…幅差(注目パラメータ)、Li…入射X線、Lo…散乱X線、M1…第1仮想構造、M2…第2仮想構造、P…パターン、α…入射角度、β…射出角度
図1
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図12