(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3828 20190101AFI20241209BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20241209BHJP
G01R 31/374 20190101ALI20241209BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20241209BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241209BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G01R31/3828
G01R31/367
G01R31/374
G01R31/387
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 X
(21)【出願番号】P 2021135190
(22)【出願日】2021-08-20
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 直広
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225229(JP,A)
【文献】特開2017-122622(JP,A)
【文献】特開2019-184484(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079164(WO,A1)
【文献】特開2010-054428(JP,A)
【文献】特開2023-019349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する蓄電素子に流れる電流を測定する電流測定部と、
前記蓄電素子の温度を測定する温度測定部と、
前記蓄電素子の充電率を推定する充電率推定部と、
前記充電率推定部によって推定された前記蓄電素子の充電率を補正する充電率補正部と、
前記温度測定部によって測定される前記蓄電素子の温度の上昇値を算出する温度上昇値算出部と、
前記電流測定部によって測定される電流が前記蓄電素子の放電電流であり、かつ、前記温度上昇値算出部によって算出される前記蓄電素子の温度上昇値が前記平坦領域を画定する所定値以下の温度上昇値である場合、前記充電率推定部によって推定される充電率を前記蓄電素子の充電率とする充電率是正部と
を備える蓄電素子の充電率推定装置。
【請求項2】
前記所定値は、前記充電率変化に対する前記蓄電素子の平均の温度上昇値変化の変化率が負に転じる充電率と、前記充電率変化に対する前記蓄電素子の平均の温度上昇値変化の変化率が正に転じる充電率との間の範囲における前記蓄電素子の温度上昇値を前記平坦領域に画定することを特徴とする請求項1に記載の蓄電素子の充電率推定装置。
【請求項3】
前記蓄電素子は複数が直列に接続されて近接して配置されて組電池を構成し、
前記温度測定部は直列に接続された前記蓄電素子の少なくとも1つの温度を測定し、
前記温度上昇値算出部は、前記温度測定部で測定された1つの前記蓄電素子の温度の上昇値、または、前記温度測定部で測定された所定の複数の前記蓄電素子についての各温度の平均の上昇値を算出し、
前記充電率是正部は、前記温度上昇値算出部によって算出された1つの前記蓄電素子の温度上昇値、または、所定の複数の前記蓄電素子についての平均の温度上昇値が前記平坦領域を画定する前記所定値以下の温度上昇値である場合、前記充電率推定部によって推定される充電率を各前記蓄電素子の充電率とする
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蓄電素子の充電率推定装置。
【請求項4】
前記充電率推定部は、電流積算法で前記蓄電素子の充電率を推定し、
前記充電率補正部は、前記充電率推定部によって推定される充電率をカルマンフィルタを用いて補正することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蓄電素子の充電率推定装置。
【請求項5】
開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する蓄電素子に流れる電流を測定する電流測定ステップと、
前記蓄電素子の温度を測定する温度測定ステップと、
前記蓄電素子の充電率を推定する充電率推定ステップと、
前記充電率推定ステップにおいて推定された前記蓄電素子の充電率を補正する充電率補正ステップと、
前記電流測定ステップによって測定された電流が前記蓄電素子の放電電流であるか否か判断する放電電流判定ステップと、
前記放電電流判定ステップによって前記電流測定
ステップにおいて測定された電流が前記蓄電素子の放電電流であると判断された場合、前記温度測定ステップによって測定された前記蓄電素子の温度の上昇値を算出する温度上昇値算出ステップと、
前記温度上昇値算出ステップによって算出された前記蓄電素子の温度上昇値が前記平坦領域を画定する所定値以下の温度上昇値である場合、前記充電率推定ステップによって推定される充電率を前記蓄電素子の充電率とする充電率是正ステップと
を備える蓄電素子の充電率推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開回路電圧変化の小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の充電率推定装置および充電率推定方法としては、例えば、特許文献1に開示された状態推定装置、状態推定方法がある。
【0003】
同文献に開示された状態推定装置、状態推定方法は、リン酸鉄リチウムイオン二次電池(LFP)の充電率を推定するものであり、同文献の
図2に示されるLFPのSOC-OCV特性を利用する。このSOC-OCV特性は、横軸をSOC(充電率)、縦軸をOCV(開回路電圧)として表され、SOC変化に対するOCV変化をLFPの開回路電圧特性として表す。LFPは、このSOC-OCV特性に示されるように、SOC変化に対するOCV変化が相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とを有する。
【0004】
同文献に開示された状態推定装置、状態推定方法では、LFPに対してバッテリモデルとカルマンフィルタを用いた補正を適用すると、SOCの推定精度を低下させる恐れがある点に着目し、同文献の
図6に示されるように、SOC変化に対するOCV変化が大きな変化領域では、電流積算法によって推定されるSOCをカルマンフィルタを用いて補正する。また、SOC変化に対するOCV変化が小さな平坦領域では、電流積算法によって推定されるSOCを補正せず、電流積算法によって推定されるSOCをその時点におけるSOCとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同文献では、電流積算法により推定されたSOCに基づいて、SOC-OCV特性を参照し、LFPの推定したSOCが平坦領域にあるか、変化領域にあるかの領域判定をしている。そして、その領域判定の結果により、SOCについてカルマンフィルタ補正を実行するか否か決定している。しかし、電流積算法で推定されるSOCは、電流積算のたびに誤差が累積されるため、LFPの放電が進むに連れてその推定誤差が大きくなり、領域判定の精度が著しく低下する。これは、SOC変化に対するOCV変化が相対的に小さな平坦領域をもつLFPでは特に顕著である。
【0007】
この点に鑑みて、電流積算法により推定されるSOCとは異なる情報に基づいて、SOCが平坦領域にあるか変化領域にあるかの領域判定を正確に行うことで、SOCの推定精度を向上することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために本発明は、
開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する蓄電素子に流れる電流を測定する電流測定部と、
蓄電素子の温度を測定する温度測定部と、
蓄電素子の充電率を推定する充電率推定部と、
充電率推定部によって推定された蓄電素子の充電率を補正する充電率補正部と、
温度測定部によって測定される蓄電素子の温度の上昇値を算出する温度上昇値算出部と、
電流測定部によって測定される電流が蓄電素子の放電電流であり、かつ、温度上昇値算出部によって算出される蓄電素子の温度上昇値が平坦領域を画定する所定値以下の温度上昇値である場合、充電率推定部によって推定される充電率を蓄電素子の充電率とする充電率是正部と
を備えて、蓄電素子の充電率推定装置を構成した。
【0009】
また、本発明は、
開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する蓄電素子に流れる電流を測定する電流測定ステップと、
蓄電素子の温度を測定する温度測定ステップと、
蓄電素子の充電率を推定する充電率推定ステップと、
充電率推定ステップにおいて推定された蓄電素子の充電率を補正する充電率補正ステップと、
電流測定ステップによって測定された電流が蓄電素子の放電電流であるか否か判断する放電電流判定ステップと、
放電電流判定ステップによって電流測定ステップにおいて測定された電流が蓄電素子の放電電流であると判断された場合、温度測定ステップによって測定された蓄電素子の温度の上昇値を算出する温度上昇値算出ステップと、
温度上昇値算出ステップによって算出された蓄電素子の温度上昇値が平坦領域を画定する所定値以下の温度上昇値である場合、充電率推定ステップによって推定される充電率を蓄電素子の充電率とする充電率是正ステップと
を備えて、蓄電素子の充電率推定方法を構成した。
【0010】
これらの構成によれば、温度上昇値算出部または温度上昇値算出ステップによって算出された蓄電素子の温度上昇値が平坦領域を画定する所定値以下の温度上昇値である場合、蓄電素子は、充電率に対する開回路電圧の特性が開回路電圧変化の小さな平坦領域の状態にあると、判断される。また、蓄電素子の温度は、蓄電素子の放電が進んでも、電流積算法によって推定されるSOCのように、誤差が大きくなることなく、測定される。
【0011】
したがって、これらの構成によれば、電流積算法により推定されるSOCとは異なる蓄電素子の温度の情報に基づいて、蓄電素子のSOCが平坦領域にあるか変化領域にあるかの領域判定を正確に行うことができる。その結果、その領域判定の結果に応じてSOCの補正が適切に行えるようになり、SOCの推定精度を向上させることが可能になる。
【0012】
また、本発明は、所定値が、充電率変化に対する蓄電素子の平均の温度上昇値変化の変化率が負に転じる充電率と、充電率変化に対する蓄電素子の平均の温度上昇値変化の変化率が正に転じる充電率との間の範囲における蓄電素子の温度上昇値を平坦領域に画定することを特徴とすることを特徴とする。
【0013】
本発明は、
図3に示される測定結果に基づくものであり、この測定結果では、平坦領域を画定する所定の閾値yを境に温度上昇値が変化領域よりも平坦領域の方が低くなる現象が見られる。この理由は定かではないが、例えば蓄電素子がリン酸鉄リチウムイオン二次電池(LFP)であり、正極活物質にリン酸鉄リチウムが採用され、負極活物質にグラファイトが採用され、且つ放電時に放電電流値が一定の範囲内にあるとき、蓄電素子のSOCが変化領域にあるときには電流の2乗に比例するジュール熱による発熱が支配的となり、平坦領域にあるときには電流に比例するエントロピー吸熱が支配的となることによるのではないかと考えられる。
【0014】
SOCが変化領域にある蓄電素子は、その内部でジュール熱や反応熱を発生させて温度が上昇する。また、SOCが平坦領域にある蓄電素子は、その内部で吸熱反応が大きくなり、温度の上昇が抑制される。したがって、SOCが変化領域から平坦領域に遷移すると、蓄電素子内部のジュール熱や反応熱で温度が上昇する傾向にあった蓄電素子は、蓄電素子内部の吸熱反応によって温度が下降する傾向を呈する。また、SOCが平坦領域から変化領域に遷移すると、蓄電素子内部の吸熱反応によって温度が下降する傾向にあった蓄電素子は、蓄電素子内部のジュール熱や反応熱で温度が上昇する傾向を呈する。このため、本構成によれば、蓄電素子の充電率と温度との関係において、蓄電素子の温度上昇値変化の変化率の傾向が負に転じる充電率と正に転じる充電率との間の範囲における蓄電素子の温度上昇値を、所定値の温度上昇値によって画定し、測定される蓄電素子の温度上昇値と比較することで、SOCの平坦領域を正確に判定することができる。
【0015】
また、本発明は、
蓄電素子が複数直列に接続されて近接して配置されて組電池を構成し、
温度測定部が直列に接続された蓄電素子の少なくとも1つの温度を測定し、
温度上昇値算出部が、温度測定部で測定された1つの蓄電素子の温度の上昇値、または、温度測定部で測定された所定の複数の蓄電素子についての各温度の平均の上昇値を算出し、
充電率是正部が、温度上昇値算出部によって算出された1つの蓄電素子の温度上昇値、または、所定の複数の蓄電素子についての平均の温度上昇値が平坦領域を画定する所定値以下の温度上昇値である場合、充電率推定部によって推定される充電率を各蓄電素子の充電率とする
ことを特徴とする。
【0016】
本構成によれば、複数の蓄電素子が近接して配置されて組電池を構成する場合、組電池を構成する全ての蓄電素子の温度の上昇値を算出しなくても、組電池を構成する1つの蓄電素子の温度の上昇値、または、組電池を構成する所定の複数の蓄電素子についての各温度の平均の上昇値を算出し、これらいずれかの温度上昇値が平坦領域を画定する所定値以下の温度上昇値である場合、充電率推定部によって推定される充電率を各蓄電素子の充電率とすることができる。したがって、複数の蓄電素子が近接して配置されて組電池を構成する場合、温度測定処理および温度上昇値算出処理は組電池を構成する一部の蓄電素子について行うだけで足りるため、これら各処理が簡易化される。このため、組電池を構成する各蓄電素子のSOCの推定は精度高く迅速に行えるようになる。
【0017】
また、本発明は、
充電率推定部が、電流積算法で蓄電素子の充電率を推定し、
充電率補正部が、充電率推定部によって推定される充電率をカルマンフィルタを用いて補正することを特徴とする。
【0018】
本構成によれば、充電率補正部による充電率の補正は、充電率推定部によって電流積算法で推定された蓄電素子の充電率が、カルマンフィルタを用いて補正されることで、行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、SOCが平坦領域にあるか変化領域にあるかの領域判定を精度高く行え、SOCの推定精度を向上させることが可能な蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置を備える電池パックの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法の充電率推定対象となる二次電池のSOC-OCV特性を示すグラフである。
【
図3】一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法で参照される、平坦領域を画定する所定値の二次電池の温度上昇値が導出される、二次電池のSOC変化に対するその温度上昇値変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態による蓄電素子の充電率推定方法における処理の概略を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の一実施の形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法について説明する。
【0022】
図1は、一実施形態による蓄電素子の充電率推定装置1を備える電池パック2の概略構成を示すブロック図である。
【0023】
電池パック2は、例えば、電気自動車や小型船舶等における、電気エネルギーで作動する動力源に電力を供給する。電池パック2は、組電池3、電流センサ4、および組電池3を管理するバッテリ・マネジメント・ユニット(BMU)5を有する。これら電流センサ4およびBMU5は充電率推定装置1を構成する。
【0024】
組電池3は、二次電池31から構成されるラミネートセルが複数積層されて直列に接続されて構成されており、各二次電池31を蓄電素子としている。本実施形態では、各二次電池31はオリビン系(リン酸鉄)リチウムイオン二次電池(LFP)であり、充電率(SOC)変化に対する開回路電圧(OCV)変化が、
図2のグラフに示すSOC-OCV特性を示す。同グラフの横軸はSOC[%]、縦軸はOCV[mV]であり、同グラフにはSOC-OCV曲線が表されている。各二次電池31は、このSOC-OCV特性に示されるように、SOC変化に対するOCV変化が相対的に小さな平坦領域Lと大きな変化領域Hとを有する開回路電圧特性を示す。平坦領域Lは、SOC変化に対するOCV変化が例えば0.5[mV/%]以下の領域に設定される。
【0025】
なお、充電率とは、二次電池31の満充電容量に対する残存容量の比率[%]であり、SOC(State Of Charge)と呼ばれる。また、開回路電圧とは、二次電池31に電流が流れていないときにおける二次電池31の端子間電圧であり、OCV(Open Circuit Voltage)と呼ばれる。
【0026】
各二次電池31および電流センサ4は配線6を介して直列に接続されており、例えば電気自動車等に搭載された充電器7、または電気自動車等の内部に設けられた動力源等の負荷7に接続される。充電器7は組電池3を充電し、また、負荷7は組電池3から電力の供給を受けて電力を消費する。
【0027】
電流センサ4は各二次電池31に流れる電流を測定する電流測定部を構成する。電流センサ4は、各二次電池31の電流値を一定周期で計測し、計測した電流計測値のデータをBMU5内の制御部51に対して送信する。BMU5は、制御部51、並びに、電圧検出回路および温度検出回路を含むモジュール・モニタリング・ユニット(MMU:Module Monitoring Unit)52を備える。
【0028】
制御部51は、中央処理装置(CPU)51a、メモリ51bおよび通信部51cを含んで構成される。通信部51cは、電気自動車や小型船舶等に搭載されるECU(Electronic Control Unit)8と通信し、二次電池31に関する情報をECU8へ送信したりする。MMU52の電圧検出回路は、検出ラインを介して各二次電池31の両端にそれぞれ接続され、制御部51からの指示に応答して各二次電池31の端子間電圧を測定する。
【0029】
MMU52の温度検出回路は、直列に接続された二次電池31の少なくとも1つの二次電池31の温度を測定する温度測定部を構成し、制御部51からの指示に応答して、対応する二次電池31の温度T[℃]を接触式あるいは非接触式で測定する。すなわち、温度検出回路は、組電池3を構成する各二次電池31のそれぞれの温度を検出するか、または、1つの二次電池31、例えば、組電池3を構成する各二次電池31のうち中央に位置する二次電池31の温度だけを検出するか、または、所定の複数の二次電池31、例えば、組電池3を構成する列の奇数番目もしくは偶数番目の各二次電池31の温度を検出する。なお、本実施形態では、MMU52はBMU51の内部に含まれる構成としているが、組電池3と一体化して構成されるようにしてもよい。
【0030】
制御部51内のメモリ51bには、本実施形態による蓄電素子の充電率推定方法を実行するためのコンピュータプログラム、およびそのプログラムを実行するのに必要なデータが予め記憶されている。このコンピュータプログラムにしたがうCPU51aの回路各部に対する制御により、制御部51内には各種の機能ブロックが構成される。この機能ブロックには、充電率推定部51d、充電率補正部51e、温度上昇値算出部51f、および充電率是正部51gがある。
【0031】
充電率推定部51dは、各二次電池31の充電率を推定する機能を果たす。また、充電率補正部51eは、充電率推定部51dによって推定された各二次電池31の充電率を補正する機能を果たす。本実施形態では、充電率推定部51dは、電流積算法で二次電池31の充電率を推定する。充電率補正部51eは、充電率推定部51dによって推定された二次電池31の充電率をカルマンフィルタを用いて補正する。この場合、充電率推定部51dにおいて推定される充電率である「SOCの事前推定値」に対して、充電率補正部51eにおいて、「カルマンゲイン」と「端子電圧の予測誤差」の積がカルマンフィルタによって加えられることにより、「SOCの事前推定値」が補正される。
【0032】
温度上昇値算出部51fは、MMU52の温度検出回路で測定された任意の1つの二次電池31の温度の上昇値、または、温度検出回路で測定された所定の複数の二次電池31についての各温度の平均の上昇値を算出する機能を果たす。充電率是正部51gは、電流センサ4によって測定される電流が各二次電池31の放電電流であり、かつ、温度上昇値算出部51fによって算出される各二次電池31の温度上昇値が、後述するように平坦領域Lを画定する所定値y以下の温度上昇値である場合、充電率推定部51dによって推定される充電率を各二次電池31の充電率とする機能を果たす。
【0033】
また、メモリ51bは、充電率推定部51dによって推定される充電率を記憶する推定充電率記憶部、充電率補正部51eによって補正される充電率を記憶する補正充電率記憶部、MMU52の温度検出回路によって検出される各二次電池31の温度を記憶する温度記憶部、および、平坦領域Lを画定する所定値yを記憶する所定値記憶部を構成する。また、メモリ51bは、
図2に示される開回路電圧特性を記憶する開回路電圧特性記憶部を構成する。
【0034】
図3に示すグラフには、二次電池31の放電時におけるSOC変化に対するその温度上昇値変化が、二次電池31のセル温度変化、端子間電圧変化、および周囲温度変化と共に表されている。同グラフの横軸はSOC[%]、左側の縦軸は温度[℃]、右側の縦軸は温度上昇値[℃/min]および電圧[V]である。二次電池31の温度上昇値変化は、右側の縦軸に示される温度上昇値[℃/min]に対応して短い破線で描かれた特性線Aに表される。二次電池31のセル温度変化は、左側の縦軸に示される温度[℃]に対応して実線で描かれた特性線Bに表される。二次電池31の端子間電圧変化は、右側の縦軸に示される電圧[V]に対応して長い破線で描かれた特性線Cに表される。二次電池31の周囲温度変化は、左側の縦軸に示される温度[℃]に対応して一点鎖線で描かれた特性線Dに表される。
【0035】
右側の縦軸に記載される温度上昇値y[℃/min]は、平坦領域L(
図2参照)を画定する所定値を示す。本実施形態では、二次電池31のSOCが平坦領域Lにあるか変化領域Hにあるかは、二次電池31のSOC変化に対する温度上昇値変化を表す特性線Aを基に判断される。つまり、温度上昇値算出部51fによって算出される二次電池31の温度上昇値が、この所定値y以下の温度上昇値である場合、充電率推定部51dによって推定されるSOCが平坦領域Lにあると判断され、充電率推定部51dによって推定されるSOCが二次電池31の充電率とされる。
【0036】
所定値yは、SOC変化に対する二次電池31の平均の温度上昇値変化の変化率、つまり、特性線Aの傾きの傾向を表す特性線A’の傾きが負に転じるSOCの値である約70[%]と、特性線A’の傾きが正に転じるSOCの値である約39[%]との間の範囲における二次電池31の温度上昇値を、平坦領域Lに画定する。
【0037】
SOCが変化領域Hにある二次電池31は、その内部でジュール熱や反応熱を発生させて温度が上昇する。また、SOCが平坦領域Lにある二次電池31は、その内部で吸熱反応が大きくなり、温度の上昇が抑制される。したがって、SOCが約70[%]で変化領域Hから平坦領域Lに遷移すると、二次電池31内部のジュール熱や反応熱で温度が上昇する傾向にあった二次電池31は、二次電池31内部の吸熱反応によって温度が下降する傾向を呈する。また、SOCが約39[%]で平坦領域Lから変化領域Hに遷移すると、二次電池31内部の吸熱反応によって温度が下降する傾向にあった二次電池31は、二次電池31内部のジュール熱や反応熱で温度が上昇する傾向を呈する。
【0038】
このため、二次電池31のSOCと温度との関係において、二次電池31の温度上昇値変化の変化率の傾向が負に転じるSOCと正に転じるSOCとの間の範囲における二次電池31の温度上昇値を、所定値yの温度上昇値によって画定し、測定される二次電池31の温度上昇値と比較することで、SOCの平坦領域Lを正確に判定することができる。
【0039】
なお、SOCが100[%]弱のときにも二次電池31の温度上昇値が所定値y以下の温度上昇値になるが、これは、温度上昇値変化の変化率の傾向が負に転じるSOCと正に転じるSOCとの間の範囲におけるSOCでないため、除外される。
【0040】
図4は、本実施形態による蓄電素子の充電率推定方法の処理の概略を示すフローチャートである。
【0041】
最初に、CPU51aによって各二次電池31の現在のSOC値が取得される(ステップ101参照)。次に、充電率推定部51dによって各二次電池31のSOCが電流積算法で推定される(ステップ102参照)。このステップ102の充電率推定ステップにおいて推定される充電率は推定充電率記憶部に記憶される。次に、各二次電池31に流れる電流値が電流センサ4によって測定されて、各二次電池31に流れる電流が放電電流であるか否かが判定される(ステップ103参照)。CPU51aは、電流センサ4で測定される電流が、組電池3から負荷7に流れる電流であるか否かを判定することで、放電電流であるか否かを判定する。
【0042】
各二次電池31に流れる電流が放電電流ではないと判定されて、ステップS103の判定結果がNoになると、二次電池31に流れる電流が放電電流であると判定されるまで、ステップS103の判定処理が繰り返される。また、各二次電池31に流れる電流が放電電流であると判定されて、ステップS103の判定結果がYesになると、次に、温度上昇値算出部51fにより、MMU52の温度検出回路で測定された任意の1つの二次電池31の温度の上昇値、または、温度検出回路で測定された所定の複数の二次電池31についての各温度の平均の上昇値、または、全ての二次電池31についての各温度の平均の上昇値が算出される(ステップS104参照)。
【0043】
温度上昇値は、複数の二次電池31について算出される場合には、各二次電池31の温度上昇値が先に算出されて、算出された各温度上昇値の平均が後から算出されてもよいし、また、各二次電池31の温度の平均値が先に算出されて、算出された温度平均値と前回算出の温度平均値との差から、算出されるようにしてもよい。
【0044】
次に、充電率是正部51gにより、ステップS104で算出されたいずれかの温度上昇値が、所定値記憶部に記憶された所定値y以下の温度上昇値であるか否かが判定される(ステップS105参照)。算出された温度上昇値が所定値y以下の温度上昇値であると判定されて、ステップS105の判定結果がYesになると、充電率是正部51により、二次電池31のSOCは平坦領域Lにあると判断され、充電率推定部51dによって推定された充電率、すなわち電流積算法により推定されたSOCが二次電池31の充電率とされる(ステップS106参照)。
【0045】
一方、算出された温度上昇値が所定値y以下の温度上昇値ではないと判定されて、ステップS105の判定結果がNoになると、充電率是正部51により、二次電池31のSOCは変化領域Hにあると判断され、充電率推定部51dにより推定された充電率が充電率補正部51eによってカルマンフィルタを用いて補正される。そして、充電率是正部51により、充電率補正部51eによって補正されたSOCが二次電池31の充電率とされる(ステップS107参照)。
【0046】
このような本実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法によれば、温度上昇値算出部51fおよびステップS104の温度上昇値算出ステップによって算出された二次電池31の温度上昇値が、平坦領域Lを画定する所定値y以下の温度上昇値である場合、二次電池31は、SOCに対するOCV(開回路電圧)の特性がOCV変化の小さな平坦領域Lの状態にあると、判断される。また、二次電池31の温度は、二次電池31の放電が進んでも、電流積算法によって推定されるSOCのように、誤差が大きくなることなく、測定される。
【0047】
したがって、本実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法によれば、電流積算法により推定されるSOCとは異なる二次電池31の温度の情報に基づいて、二次電池31のSOCが平坦領域Lにあるか変化領域Hにあるかの領域判定を正確に行うことができる。その結果、その領域判定の結果に応じてSOCの補正が適切に行えるようになり、SOCの推定精度を向上させることが可能になる。
【0048】
電流積算法により推定されたSOCに基づいて領域判定を行う従来技術では、例えば、二次電池31が本来であれば平坦領域Lにあると判定されるべきところ、変化領域Hにあると判定されるために、カルマンフィルタによる充電率の補正が行われることで、SOCの推定精度が低下するおそれがある。しかし、本実施形態によれば、二次電池31のSOCと温度上昇値との関係に着目して、電流積算法により推定されて誤差が大きくなるSOCに代えて、大きな誤差を伴わないで測定される温度上昇値に基づいて領域判定を行うことで、平坦領域Lの判定精度を向上することができるため、SOCの推定精度が低下するおそれを低減することができる。
【0049】
また、従来技術では、放電が進むに連れて、本来であれば平坦領域Lにあると判定されるべきところを変化領域Hにあると判定されたため、カルマンフィルタによる充電率の補正が行われた結果、実際よりも高いSOCを各二次電池31が持つものと推定される可能性がある。そのため、各二次電池31は十分な電池容量を持つものと誤った認識を持って運用を進めた結果、突然のシステムダウンを招く可能性がある。しかし、本実施形態によれば、平坦領域Lを正確に判定することができ、SOCを誤って推定するおそれを低減できるため、突然のシステムダウンが発生する可能性を低減することができる。
【0050】
また、本実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法によれば、複数の二次電池31が近接して配置されて組電池3を構成するので、組電池3を構成する全ての二次電池31の温度の上昇値を算出しなくても、組電池3を構成する1つの二次電池31の温度の上昇値、または、組電池3を構成する所定の複数の二次電池31についての各温度の平均の上昇値を算出し、これらいずれかの温度上昇値が平坦領域Lを画定する所定値y以下の温度上昇値である場合、充電率推定部51dによって推定されるSOCを各二次電池31の充電率とすることができる。したがって、本実施形態のように、複数の二次電池31がラミネートセルとして複数積層されて近接配置され、組電池3が構成される場合、温度測定処理および温度上昇値算出処理は組電池3を構成する一部の二次電池31について行うだけで足りるため、これら各処理が簡易化される。このため、組電池3を構成する各二次電池31のSOCの推定は精度高く迅速に行えるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
上記の実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法は、二次電池31がLFPである場合について、説明した。しかし、本発明は二次電池31がLFPである場合に限定されるものではなく、開回路電圧変化の相対的に小さな平坦領域と大きな変化領域とが充電率変化に対して現れる開回路電圧特性を有する他の蓄電素子にも同様に適用することができる。そして、その場合においても、上記の実施形態による蓄電素子の充電率推定装置および充電率推定方法と同様な作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0052】
1:充電率推定装置
2:電池パック
3:組電池
31:二次電池(蓄電素子)
4:電流センサ(電流測定部)
5:バッテリ・マネジメント・ユニット(BMU)
51:制御部
51a:CPU
51b:メモリ
51d:充電率推定部
51e:充電率補正部
51f:温度上昇算出部
52:モジュール・モニタリング・ユニット(MMU)