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特許7600069モータ制御装置および電動アシスト自転車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置および電動アシスト自転車
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20241209BHJP
【FI】
B62M6/45
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021166969
(22)【出願日】2021-10-11
(65)【公開番号】P2023057437
(43)【公開日】2023-04-21
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000112978
【氏名又は名称】ブリヂストンサイクル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 康介
(72)【発明者】
【氏名】石井 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 成二郎
(72)【発明者】
【氏名】田上 勝
(72)【発明者】
【氏名】保坂 康夫
(72)【発明者】
【氏名】白川 弘和
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼岡 太一
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1997/014608(WO,A1)
【文献】特開平08-230752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/45
B62J 45/411
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と、
前記車輪を駆動する踏力が加えられるペダルと、
前記ペダルに連結されたクランクが正回転しているか、あるいは、逆回転しているかを判定する機能を有するクランク回転センサと、
前記ペダルに加えられた前記踏力に基づくトルクを検出するトルクセンサと、
前記トルクセンサによって検出された前記トルクに応じて前記車輪を駆動するアシストトルクを発生するモータと、
前記モータを制御するモータ制御部とを備える電動アシスト自転車に備えられているモータ制御装置であって、
前記トルクセンサが、
前記ペダルに前記踏力が加えられていない時に基準電圧を出力し、前記ペダルに前記踏力が加えられている時に前記基準電圧とは値が異なる検出電圧を出力する電圧出力部と、
前記電圧出力部から出力される前記基準電圧と前記検出電圧との差分に基づいて前記トルクを算出するトルク算出部とを備え、
前記電圧出力部から出力される電圧の外的要因による変動に応じて、前記トルク算出部による前記トルクの算出に用いられる前記基準電圧の値を変動させる基準電圧変動部を備え、
前記ペダルに前記踏力が加えられていないにもかかわらず、前記トルク算出部が前記トルクの値としてゼロより大きい値を算出した場合に、前記基準電圧変動部は、前記トルク算出部による前記トルクの算出に用いられる前記基準電圧の値を増加させ、前記クランクが逆回転していると前記クランク回転センサによって判定される場合に、前記基準電圧変動部は、前記基準電圧の値を変動させない、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記ペダルに前記踏力が加えられていないにもかかわらず、前記トルク算出部が前記トルクの値としてゼロより大きい値を算出した場合に、
前記基準電圧変動部は、前記トルク算出部による前記トルクの算出に用いられる前記基準電圧の値を、前記電圧出力部によって現在出力されている前記検出電圧の値まで増加させる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記ペダルに前記踏力が加えられていない時に前記基準電圧変動部が増加させる前記基準電圧の値の傾きは、前記ペダルに前記踏力が加えられていない時に前記基準電圧変動部が減少させる前記基準電圧の値の傾き以上である、
請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の前記モータ制御装置を備える電動アシスト自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置および電動アシスト自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ペダル踏力を検出してペダル踏力に応じた電圧を出力するトルクセンサと、トルクセンサによって検出されたトルクに基づいて駆動されて補助動力を発生するモータとを備える電動補助自転車が知られている(特許文献1参照)。
特許文献1には、モータの駆動制御開始時にトルクセンサのゼロ点を計測し、その後トルクセンサの検出データからゼロ点値を差し引いて踏力を算出する旨が記載されている。また、特許文献1には、トルクセンサの検出データの最下点がトルクセンサの異常判定用の閾値より大きい状態が所定時間以上続いた場合に異常と判定してモータの駆動を停止する旨が記載されている。
ところで、特許文献1に記載された技術では、トルクセンサの出力電圧が増加していく異常について考慮されているものの、トルクセンサの出力電圧が減少していく異常について考慮されていない。そのため、特許文献1に記載された技術では、トルクセンサの出力電圧が減少していく異常が発生した場合に、モータが適切に制御されないおそれがある。詳細には、特許文献1に記載された技術では、トルクセンサの出力電圧が減少していく異常が発生した場合に、トルクセンサの出力電圧のゼロ点値に相当する基準電圧の値が下がり過ぎることにより、モータが補助動力(アシストトルク)を必要以上に発生してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-041352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した問題点に鑑み、本発明は、モータがアシストトルクを必要以上に発生してしまうおそれを抑制することができるモータ制御装置および電動アシスト自転車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、車輪と、前記車輪を駆動する踏力が加えられるペダルと、前記ペダルに加えられた前記踏力に基づくトルクを検出するトルクセンサと、前記トルクセンサによって検出された前記トルクに応じて前記車輪を駆動するアシストトルクを発生するモータと、前記モータを制御するモータ制御部とを備える電動アシスト自転車に備えられているモータ制御装置であって、前記トルクセンサが、前記ペダルに前記踏力が加えられていない時に基準電圧を出力し、前記ペダルに前記踏力が加えられている時に前記基準電圧とは値が異なる検出電圧を出力する電圧出力部と、前記電圧出力部から出力される前記基準電圧と前記検出電圧との差分に基づいて前記トルクを算出するトルク算出部とを備え、前記電圧出力部から出力される電圧の外的要因による変動に応じて、前記トルク算出部による前記トルクの算出に用いられる前記基準電圧の値を変動させる基準電圧変動部を備え、前記ペダルに前記踏力が加えられていないにもかかわらず、前記トルク算出部が前記トルクの値としてゼロより大きい値を算出した場合に、前記基準電圧変動部は、前記トルク算出部による前記トルクの算出に用いられる前記基準電圧の値を増加させる、モータ制御装置である。
【0006】
本発明の一態様のモータ制御装置では、前記ペダルに前記踏力が加えられていないにもかかわらず、前記トルク算出部が前記トルクの値としてゼロより大きい値を算出した場合に、前記基準電圧変動部は、前記トルク算出部による前記トルクの算出に用いられる前記基準電圧の値を、前記電圧出力部によって現在出力されている前記検出電圧の値まで増加させてもよい。
【0007】
本発明の一態様のモータ制御装置では、前記ペダルに前記踏力が加えられていない時に前記基準電圧変動部が増加させる前記基準電圧の値の傾きは、前記ペダルに前記踏力が加えられていない時に前記基準電圧変動部が減少させる前記基準電圧の値の傾き以上であってもよい。
【0008】
本発明の一態様の電動アシスト自転車は、前記モータ制御装置を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モータがアシストトルクを必要以上に発生してしまうおそれを抑制することができるモータ制御装置および電動アシスト自転車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の電動アシスト自転車の構成の一例を示す図である。
図2】第1実施形態の電動アシスト自転車が備えているモータ制御装置の機能ブロックの一例を示す図である。
図3】ペダルに踏力が加えられていない時およびペダルに踏力が加えられている時における基準電圧、検出電圧および差分を説明するための図である。
図4】トルクセンサの電圧出力部から出力される電圧の外的要因に応じた変動(増加および減少)およびその変動が生じた場合に基準電圧変動部によって行われる処理の一例を説明するための図である。
図5】トルクセンサの電圧出力部から出力される電圧の外的要因に応じた変動(2回の減少)およびその変動が生じた場合に基準電圧変動部、基準電圧下限値設定部、基準電圧下限値変動部および検出電圧監視部によって行われる処理の一例を説明するための図である。
図6】第1実施形態の電動アシスト自転車において実行される処理の第1例を説明するためのフローチャートである。
図7】基準電圧の値が下がり過ぎることに伴ってモータがアシストトルクを必要以上に発生してしまう比較例を説明するための図である。
図8】ラチェットが劣化した状態でクランクが電動アシスト自転車の搭乗者によって逆回転させられた時における基準電圧、検出電圧および差分を説明するための図である。
図9】第1実施形態の電動アシスト自転車において実行される処理の第2例を説明するためのフローチャートである。
図10】第1実施形態の電動アシスト自転車の基準電圧変動部によって行われる処理の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のモータ制御装置および電動アシスト自転車の実施形態について説明する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の電動アシスト自転車1の構成の一例を示す図である。図2は第1実施形態の電動アシスト自転車1が備えているモータ制御装置の機能ブロックの一例を示す図である。
図1および図2に示す例では、第1実施形態の電動アシスト自転車1が、車輪11と、ペダル12と、クランク13と、ラチェット14と、モータ1Mと、トルクセンサ1Aと、クランク回転センサ1Bと、モータ制御部1Lと、トルク補正部1Nとを備えている。
車輪11には、前輪11Aと、後輪11Bとが含まれる。ペダル12には、車輪11(図1に示す例では、後輪11B)を駆動する電動アシスト自転車1の搭乗者の踏力が加えられる。クランク13はペダル12に連結されている。クランク13は、ペダル12に加えられた電動アシスト自転車1の搭乗者の踏力を、後輪11Bを駆動する力に変換する。ラチェット14は、クランク13が正回転している時にペダル12に加えられた踏力を後輪11Bに伝達し、クランク13が逆回転している時にはペダル12に加えられた踏力を後輪11Bに伝達しないようにするための機構である。モータ1Mは、車輪11(図1に示す例では、前輪11A)を駆動するアシストトルクを発生する。
図1に示す例では、モータ1Mが前輪11Aを駆動するが、他の例では、モータ1Mが後輪11Bを駆動してもよい。
【0013】
図1および図2に示す例では、トルクセンサ1Aが、ペダル12に加えられた電動アシスト自転車1の搭乗者の踏力に基づくトルク(≒踏力×クランク13の長さ)を検出する。トルクセンサ1Aは、電圧出力部1A1と、トルク算出部1A2とを備えている。
電圧出力部1A1は電圧を出力する。後で詳細に説明するように、電圧出力部1A1から出力される電圧は、外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)の影響を受けて変動(増加または減少)する場合がある。
電圧出力部1A1から出力される電圧が、外的要因の影響を受けて変動していない場合、電圧出力部1A1は、ペダル12に踏力が加えられていない時に基準電圧RVを出力し、ペダル12に踏力が加えられている時に基準電圧RVとは値が異なる検出電圧DVを出力する。一方、電圧出力部1A1から出力される電圧が、外的要因の影響を受けて変動している場合には、ペダル12に踏力が加えられていない時に電圧出力部1A1から出力される電圧が基準電圧RVではなくなる。
トルク算出部1A2は、電圧出力部1A1から出力される基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△Vに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクを算出する。トルク算出部1A2は、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△Vが大きいほど、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとして大きい値を算出する。
モータ1Mは、トルクセンサ1Aによって検出されたトルク(トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2によって算出されたトルク)に応じて車輪11を駆動するアシストトルクを発生する。モータ1Mは、トルクセンサ1Aによって検出されたトルクが大きいほど、大きいアシストトルクを発生する。
電動アシスト自転車1に備えられているモータ制御装置は、例えば、図2に示すトルクセンサ1Aとクランク回転センサ1BとモータMとモータ制御部1Lとトルク補正部1Nとを備えている。
【0014】
図3はペダル12に踏力が加えられていない時およびペダル12に踏力が加えられている時における基準電圧RV、検出電圧DVおよび差分△Vを説明するための図である。詳細には、図3はクランク13が正回転するようにペダル12に踏力が加えられる場合にトルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの時間波形の一例を示している。
図3に示す例では、電圧出力部1A1から出力される電圧が、外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)の影響を受けていない。
時刻t1~時刻t2の期間中、ペダル12には、踏力が加えられていない。次いで、時刻t2以降の期間中には、クランク13が正回転するように(つまり、電動アシスト自転車1が前進するように)ペダル12に踏力が加えられる。
電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値が、電動アシスト自転車1の走行時におけるクランク13の回転周期の2分の1の周期で変動する場合に、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていると推定する。一方、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値が、電動アシスト自転車1の走行時におけるクランク13の回転周期の2分の1の周期で変動しない場合に、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
他の例では、トルクセンサ1Aの検出結果とクランク回転センサ1Bの検出結果とに基づいて、ペダル12に踏力が加えられているか否かが判定されてもよい。
【0015】
図3に示す例では、時刻t1~時刻t2の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値が、電動アシスト自転車1の走行時におけるクランク13の回転周期の2分の1の周期で変動しない。そのため、トルクセンサ1Aは、時刻t1~時刻t2の期間中、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
具体的には、例えば時刻t1に、トルクセンサ1Aは、時刻t1以前に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
また、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t1に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVを、基準電圧RVとして設定する。
時刻t1以降の期間中、基準電圧RVは、一定値に維持される。
【0016】
図3に示す例では、時刻t1~時刻t2の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVに一致し、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△Vがゼロになる。そのため、トルク算出部1A2は、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとして、ゼロを算出する。その結果、モータ1Mは、車輪11を駆動するアシストトルクを発生しない。
次いで、時刻t2以降の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVより高くなり、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=検出電圧DV-基準電圧RV)がゼロより大きい値になる。その結果、モータ1Mは、車輪11を駆動するアシストトルクを発生する。
【0017】
図1および図2に示す例の説明に戻り、クランク回転センサ1Bは、クランク13の回転を検出する。クランク回転センサ1Bは、例えば特開平9-286377号公報の段落0024に記載された構成と同様の構成を有することにより、ペダル12に連結されたクランク13が正回転しているか、あるいは、逆回転しているかを判定する機能を有する。
モータ制御部1Lは、トルクセンサ1Aによって検出されたトルクなどに基づいて、モータ1Mを制御する。
トルク補正部1Nは、電圧出力部1A1から出力される電圧が、外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)の影響を受ける場合に、基準電圧RVの補正などを行う。トルク補正部1Nは、基準電圧変動部1N1と、基準電圧下限値設定部1N2と、基準電圧下限値変動部1N3と、検出電圧監視部1N4とを備えている。
基準電圧変動部1N1は、トルク算出部1A2によるトルクの算出に用いられる基準電圧RVの値を変動させる。基準電圧下限値設定部1N2は、基準電圧変動部1N1によって変動させられる基準電圧RVの下限値RVminを設定する。
基準電圧下限値変動部1N3は、基準電圧下限値設定部1N2によって設定された基準電圧RVの下限値RVminを変動させる。基準電圧下限値変動部1N3は、例えば電圧出力部1A1から出力される検出電圧DV、基準電圧RV等に基づいて、基準電圧RVの下限値RVminを変動させる。
検出電圧監視部1N4は、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVを監視する。
【0018】
上述したように、特許文献1に記載された技術では、トルクセンサの出力電圧が増加していく異常について考慮されているものの、トルクセンサの出力電圧が減少していく異常について考慮されていない。
本発明者等は、鋭意研究において、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される電圧が、外的要因の影響を受けて増加する場合のみならず、減少する場合もあることを見い出した。
トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される電圧が外的要因の影響を受けて減少した場合に、仮に、基準電圧RVの値が減少させられることなく、そのまま維持されると、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=基準電圧RV-検出電圧DV)が異常に大きくなり、それに伴って、トルク算出部1A2によって算出されるトルクが異常に大きくなり、その結果、モータ1Mがアシストトルクを必要以上に発生してしまうおそれがある。
【0019】
そこで、図1および図2に示す例では、基準電圧変動部1N1が、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される電圧の外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)による変動に応じて、トルク算出部1A2によるトルクの算出に用いられる基準電圧RVの値を変動させる。
【0020】
図4はトルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される電圧の外的要因に応じた変動(増加および減少)およびその変動が生じた場合に基準電圧変動部1N1によって行われる処理の一例を説明するための図である。
図4に示す例では、時刻t11~時刻t16の期間中、ペダル12に踏力が加えられない。
詳細には、時刻t11~時刻t12の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値DV1が一定である。
具体的には、例えば時刻t11に、トルクセンサ1Aが、時刻t11以前に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
また、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t11に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV1を、基準電圧RVの値RV1として設定する。
時刻t11~時刻t12の期間中、基準電圧RVは、一定の値RV1に維持される。トルクセンサ1Aは、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=値RV1-値DV1)ゼロに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとしてゼロを算出する。
【0021】
図4に示す例では、次いで、時刻t12~時刻t13の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因によって値DV1から値DV2に増加する。
時刻t13に、トルクセンサ1Aは、例えば時刻t12~時刻t13の期間中に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形(つまり、検出電圧DVが増加しているものの、クランク13の回転に伴う検出電圧DVの増減が生じていないことを示す検出電圧DVの時間波形)に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
基準電圧変動部1N1は、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t13に、基準電圧RVを値RV1から値RV2(=値DV2)に変動させる(詳細には、増加させる)。つまり、基準電圧変動部1N1は、時刻t13に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV2を、変動後の基準電圧RVの値RV2として設定する。
時刻t13~時刻t14の期間中、基準電圧RVは、一定の値RV2に維持される。トルクセンサ1Aは、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=値RV2-値DV2)ゼロに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとしてゼロを算出する。
【0022】
図4に示す例では、次いで、時刻t14~時刻t15の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因によって値DV2から値DV3に減少する。
時刻t15に、トルクセンサ1Aは、例えば時刻t14~時刻t15の期間中に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形(つまり、検出電圧DVが減少しているものの、クランク13の回転に伴う検出電圧DVの増減が生じていないことを示す検出電圧DVの時間波形)に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
基準電圧変動部1N1は、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t15に、基準電圧RVを値RV2から値RV3(=値DV3)に変動させる(詳細には、減少させる)。つまり、基準電圧変動部1N1は、時刻t15に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV3を、変動後の基準電圧RVの値RV3として設定する。
時刻t15~時刻t16の期間中、基準電圧RVは、一定の値RV3に維持される。トルクセンサ1Aは、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=値RV3-値DV3)ゼロに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとしてゼロを算出する。
【0023】
図5はトルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される電圧の外的要因に応じた変動(2回の減少)およびその変動が生じた場合に基準電圧変動部1N1、基準電圧下限値設定部1N2、基準電圧下限値変動部1N3および検出電圧監視部1N4によって行われる処理の一例を説明するための図である。
図5に示す例では、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t21以前の所定時刻に、電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値が、基準電圧RVの値RV21として設定されている。また、基準電圧変動部1N1によって減少させられる基準電圧RVの下限値RVminが、基準電圧下限値設定部1N2によって設定されている。更に、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの異常判定閾値電圧TVが、検出電圧監視部1N4によって設定されている。
【0024】
時刻t21~時刻t22の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVは、外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)の影響が踏力に比して微小であるため、外的要因の影響を考慮する必要がない。
また、時刻t21~時刻t22の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値が、電動アシスト自転車1の走行時におけるクランク13の回転周期の2分の1の周期で変動する。そのため、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていると推定する。
その結果、時刻t21~時刻t22の期間中、基準電圧RVは、基準電圧変動部1N1によって変動させられることなく、一定の値RV21に維持される。
また、時刻t21~時刻t22の期間中、トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2は、基準電圧RVの値RV21と検出電圧DVとの差分△Vに基づいてトルクを算出し、モータ1Mは、トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2によって算出されたトルクに応じてアシストトルクを発生する。つまり、電動アシスト自転車1の通常走行が行われる。
【0025】
図5に示す例では、次いで、時刻t22~時刻t23の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因によって減少する。
また、時刻t22~時刻t23の期間中、トルクセンサ1Aは、電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形(つまり、検出電圧DVが減少しているものの、クランク13の回転に伴う検出電圧DVの増減が生じていないことを示す検出電圧DVの時間波形)に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
時刻t22~時刻t23の期間中に、基準電圧変動部1N1は、基準電圧RVを値RV21から下限値RVminに減少させる。
【0026】
図5に示す例では、時刻t23以降の期間中に、基準電圧RVの下限値RVminが一定の値に維持されるが、他の例では、基準電圧下限値設定部1N2によって設定された基準電圧RVの下限値RVminが、基準電圧下限値変動部1N3によって変動(増加または減少)させられてもよい。
【0027】
図5に示す例では、次いで、時刻t23~時刻t24の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVは、外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)の影響が踏力に比して微小であるため、外的要因の影響を考慮する必要がない。
また、時刻t23~時刻t24の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値が、電動アシスト自転車1の走行時におけるクランク13の回転周期の2分の1の周期で変動する。そのため、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていると推定する。
その結果、時刻t23~時刻t24の期間中、基準電圧RVは、基準電圧変動部1N1によって変動させられることなく、下限値RVminに維持される。
また、時刻t23~時刻t24の期間中、トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2は、基準電圧RVの下限値RVminと検出電圧DVとの差分△Vに基づいてトルクを算出し、モータ1Mは、トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2によって算出されたトルクに応じてアシストトルクを発生する。つまり、モータ1Mによるアシストが継続される。
詳細には、時刻t23~時刻t24の期間中における基準電圧RVの下限値RVminと検出電圧DVとの差分△Vは、時刻t21~時刻t22の期間中における基準電圧RVの値RV21と検出電圧DVとの差分△Vよりも小さいため、時刻t23~時刻t24の期間中にモータ1Mが発生するアシストトルクは、時刻t21~時刻t22の期間中にモータ1Mが発生するアシストトルクより小さくなる。
【0028】
図5に示す例では、次いで、時刻t24~時刻t25の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因によって減少する。
詳細には、時刻t25に、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、異常判定閾値電圧TVに到達する。
また、時刻t24~時刻t25の期間中、トルクセンサ1Aは、例えば電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形(つまり、検出電圧DVが減少しているものの、クランク13の回転に伴う検出電圧DVの増減が生じていないことを示す検出電圧DVの時間波形)に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
時刻t24~時刻t25の期間中には、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVminより低いため、基準電圧RVは、基準電圧変動部1N1によって変動させられることなく、下限値RVminに維持され、検出電圧監視部1N4は、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVを監視し続ける。
詳細には、時刻t24~時刻t25の期間中、検出電圧監視部1N4は、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが異常判定閾値電圧TV以下であるか否かの判定を行い、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが異常判定閾値電圧TV以下ではない旨(つまり、エラーではない旨)の判定結果を出力する。
【0029】
図5に示す例では、次いで、時刻t25~時刻t26の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因によって、異常判定閾値電圧TVから更に減少する。
また、時刻t25~時刻t26の期間中、トルクセンサ1Aは、例えば電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形(つまり、検出電圧DVが減少しているものの、クランク13の回転に伴う検出電圧DVの増減が生じていないことを示す検出電圧DVの時間波形)に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
時刻t25~時刻t26の期間中には、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVminより低いため、基準電圧RVは、基準電圧変動部1N1によって変動させられることなく、下限値RVminに維持され、検出電圧監視部1N4は、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVを監視し続ける。
詳細には、時刻t25~時刻t26の期間中、検出電圧監視部1N4は、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが異常判定閾値電圧TV以下であるか否かの判定を行い、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが異常判定閾値電圧TV以下である旨(つまり、故障が発生している旨)の判定結果を出力する。
電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが異常判定閾値電圧TV以下である(つまり、故障が発生している)と検出電圧監視部1N4によって最初に判定された例えば時刻t25に、モータ1Mによるアシストは停止される。
【0030】
図6は第1実施形態の電動アシスト自転車1において実行される処理の第1例を説明するためのフローチャートである。
図6に示す例では、ステップS11において、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1が、検出電圧DVを出力する。
次いで、ステップS12において、例えばトルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、検出電圧DVが基準電圧RVより高いか否かを判定する。検出電圧DVが基準電圧RV以下である場合にはステップS13に進み、検出電圧DVが基準電圧RVより高い場合にはステップS19に進む。
【0031】
ステップS13において、トルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVmin以上であるか否かを判定する。検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVminより低い場合にはステップS14に進み、検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVmin以上である場合には、ステップS17に進む。
ステップS14において、トルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、検出電圧DVが異常判定閾値電圧TVより高いか否かを判定する。検出電圧DVが異常判定閾値電圧TV以下である場合にはステップS15に進み、検出電圧DVが異常判定閾値電圧TVより高い場合には、ステップS18に進む。
【0032】
ステップS15において、トルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、電動アシスト自転車1に故障が発生していると判定する。
次いで、ステップS16では、モータ制御部1Lが、モータ1Mによるアシストを停止(終了)する。
【0033】
ステップS17では、基準電圧変動部1N1が、基準電圧RVの値を、ステップS11において電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値に変動させる。次いで、ステップS19に進む。
ステップS18では、基準電圧変動部1N1が、ステップS17のように基準電圧RVの値を検出電圧DVの値に変動させるのではなく、基準電圧RVの値を下限値RVminに維持する。次いで、ステップS19に進む。
【0034】
ステップS19では、トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2が、基準電圧RVと、ステップS11において電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVとの差分△Vに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルク(≒踏力×クランク13の長さ)を算出する。
【0035】
図7は基準電圧RVの値が下がり過ぎることに伴ってモータ1Mがアシストトルクを必要以上に発生してしまう比較例を説明するための図である。
図7に示す比較例では、時刻t31に、トルクセンサ1Aは、時刻t31以前に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
また、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t31に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV31を、基準電圧RVの値RV31として設定する。
【0036】
図7に示す比較例では、次いで、時刻t32~時刻t33の期間中、電動アシスト自転車1の搭乗者が、クランク13を逆回転させる。比較例の電動アシスト自転車1では、ラチェット14が劣化しているため、クランク13を逆回転させるためにペダル12に加えられた踏力の一部がトルクセンサ1Aによって検出されてしまう。その結果、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、値DV31から値DV32に減少する。
クランク13の逆回転が停止した時刻t33(つまり、ペダル12に踏力が加えられなくなった時刻t33)に、基準電圧変動部1N1は、基準電圧RVを値RV31から値RV32(=値DV32)に変動させる。つまり、基準電圧変動部1N1は、時刻t33に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV32を、変動後の基準電圧RVの値RV32として設定する。
時刻t33~時刻t34の期間中、基準電圧RVは、一定の値RV32に維持される。トルクセンサ1Aは、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=値RV32-値DV32)ゼロに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとしてゼロを算出する。
【0037】
図7に示す比較例では、次いで、時刻t34~時刻t35の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)によって値DV32から値DV33に増加する。
そのため、図7に示す比較例では、例えば時刻t35に、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値DV33が基準電圧RVの値RV32より高くなり、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=検出電圧DVの値DV33-基準電圧RVの値RV32)がゼロより大きい値になる。その結果、モータ1Mが、車輪11を駆動するアシストトルクを発生してしまう。
【0038】
この点に鑑み、第1実施形態の電動アシスト自転車1では、上述したように、基準電圧下限値設定部1N2が、基準電圧変動部1N1によって変動させられる基準電圧RVの下限値RVminを設定する。
具体的には、基準電圧下限値設定部1N2は、基準電圧RVの下限値RVminとして、図7に示す基準電圧RVの値RV32よりも高い値を設定する。
そのため、第1実施形態の電動アシスト自転車1によれば、図7に示す比較例のように基準電圧RVの値が下がり過ぎることに伴ってモータ1Mがアシストトルクを必要以上に発生してしまうおそれを抑制することができる。
つまり、第1実施形態の電動アシスト自転車1によれば、モータ1Mがアシストトルクを不適切に発生してしまうおそれを抑制することができる。
【0039】
基準電圧下限値設定部1N2が基準電圧RVの下限値RVminを設定している場合であっても、図7に示す比較例の時刻t35ように、ペダル12に踏力が加えられていないにもかかわらず、トルク算出部1A2がトルクの値としてゼロより大きい値を算出する場合がある。
そこで、第1実施形態の電動アシスト自転車1の一例では、ペダル12に踏力が加えられていないにもかかわらず、トルク算出部1A2がトルクの値としてゼロより大きい値を算出した場合に、基準電圧変動部1N1は、トルク算出部1A2によるトルクの算出に用いられる基準電圧RVの値を増加させる補正を行う。
【0040】
具体的には、図7に示す比較例の時刻t35ように、ペダル12に踏力が加えられていないにもかかわらず、トルク算出部1A2が前記トルクの値としてゼロより大きい値を算出した場合に、第1実施形態の電動アシスト自転車1の一例では、基準電圧変動部1N1が、トルク算出部1A2によるトルクの算出に用いられる基準電圧RVの値を、電圧出力部1A1によって現在出力されている検出電圧DVの値(図7に示す比較例では値DV33)まで増加させる。
【0041】
また、第1実施形態の電動アシスト自転車1の一例では、図7に示す比較例の時刻t32~t33の期間中のように、ペダル12に踏力が加えられている時に電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVより低い場合に、トルク算出部1A2は、トルクの値としてゼロを算出する。
【0042】
図8はラチェット14が劣化した状態でクランク13が電動アシスト自転車1の搭乗者によって逆回転させられた時における基準電圧RV、検出電圧DVおよび差分△Vを説明するための図である。詳細には、図8はラチェット14が劣化した状態でクランク13が逆回転するようにペダル12に踏力が加えられる場合にトルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの時間波形の一例を示している。
図8に示す例では、電圧出力部1A1から出力される電圧が、外的要因(例えばトルクセンサ1Aの周囲の温度、電磁気など)の影響を受けていない。
時刻t41~時刻t42の期間中、ペダル12には、踏力が加えられていない。次いで、時刻t42以降の期間中には、クランク13が逆回転するようにペダル12に踏力が加えられる。
【0043】
図8に示す例では、時刻t41~時刻t42の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値が、電動アシスト自転車1の走行時におけるクランク13の回転周期の2分の1の周期で変動しない。そのため、トルクセンサ1Aは、時刻t41~時刻t42の期間中、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
具体的には、例えば時刻t41に、トルクセンサ1Aは、時刻t41以前に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
また、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t41に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVを、基準電圧RVとして設定する。
時刻t41~時刻t42の期間中、基準電圧RVは、一定値に維持される。
【0044】
図8に示す例では、時刻t41~時刻t42の期間中、電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVに一致し、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△Vがゼロになる。そのため、トルク算出部1A2は、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとして、ゼロを算出する。その結果、モータ1Mは、車輪11を駆動するアシストトルクを発生しない。
次いで、時刻t42以降の期間中、ラチェット14が劣化している電動アシスト自転車1では、クランク13を逆回転させるためにペダル12に加えられた踏力の一部がトルクセンサ1Aによって検出され、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVより低くなり、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=基準電圧RV-検出電圧DV)がゼロより大きい値になる。
【0045】
図8に示す例では、図7を参照して説明した第1実施形態の電動アシスト自転車1の一例と同様に、ペダル12に踏力が加えられている時に電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが基準電圧RVより低くなる時刻t42以降の期間中に、トルク算出部1A2が、トルクの値としてゼロを算出する。
【0046】
図8に示す例では、クランク13が逆回転しているとクランク回転センサ1Bによって判定される時刻t42以降の期間中に、基準電圧変動部1N1は、基準電圧RVの値を変動させない。
つまり、時刻t42以降の期間中、基準電圧RVは、時刻t41~時刻t42の期間中と同様に、一定値に維持される。
そのため、図8に示す例では、図7に示す比較例のように、ラチェット14が劣化している状態でクランク13が逆回転させられる時に基準電圧変動部1N1が基準電圧RVの値を減少させることに伴って、モータ1Mがアシストトルクを必要以上に発生しやすい状況になってしまうおそれを抑制することができる。
【0047】
図9は第1実施形態の電動アシスト自転車1において実行される処理の第2例を説明するためのフローチャートである。
図9に示す例では、ステップS21において、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1が、検出電圧DVを出力する。
次いで、ステップS22において、例えばトルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、検出電圧DVが基準電圧RVより高いか否かを判定する。検出電圧DVが基準電圧RV以下である場合にはステップS23に進み、検出電圧DVが基準電圧RVより高い場合にはステップS27に進む。
【0048】
ステップS23において、トルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVmin以上であるか否かを判定する。検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVminより低い場合にはステップS24に進み、検出電圧DVが基準電圧RVの下限値RVmin以上である場合には、ステップS30に進む。
ステップS24において、トルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、検出電圧DVが異常判定閾値電圧TVより高いか否かを判定する。検出電圧DVが異常判定閾値電圧TV以下である場合にはステップS25に進み、検出電圧DVが異常判定閾値電圧TVより高い場合には、ステップS31に進む。
【0049】
ステップS25において、トルク補正部1Nの検出電圧監視部1N4は、電動アシスト自転車1に故障が発生していると判定する。
次いで、ステップS26では、モータ制御部1Lが、モータ1Mによるアシストを停止(終了)する。
【0050】
ステップS27では、トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2が、基準電圧RVと、ステップS21において電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVとの差分△Vに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルク(≒踏力×クランク13の長さ)を算出する。
次いで、ステップS28では、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられているか否かを判定する。ペダル12に踏力が加えられている場合には、ステップS21に戻る。一方、ペダル12に踏力が加えられていない場合には、ステップS29に進む。
【0051】
ステップS29では、基準電圧変動部1N1が、基準電圧RVの値を、ステップS21において電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値に変動させる(詳細には、検出電圧DVの値まで増加させる)。次いで、ステップS21に戻る。
【0052】
ステップS30では、基準電圧変動部1N1が、基準電圧RVの値を、ステップS21において電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値に変動させる。次いで、ステップS32に進む。
ステップS31では、基準電圧変動部1N1が、ステップS29、S30のように基準電圧RVの値を検出電圧DVの値に変動させるのではなく、基準電圧RVの値を下限値RVminに維持する。次いで、ステップS32に進む。
【0053】
ステップS32では、トルクセンサ1Aのトルク算出部1A2が、基準電圧RVと、ステップS21において電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVとの差分△Vに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルク(≒踏力×クランク13の長さ)を算出する。次いで、ステップS21に戻る。
【0054】
図10は第1実施形態の電動アシスト自転車1の基準電圧変動部1N1によって行われる処理の一例を説明するための図である。
図10に示す例では、時刻t51~時刻t55の期間中、ペダル12に踏力が加えられない。
詳細には、時刻t51~時刻t52の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVの値DV51が一定である。
具体的には、例えば時刻t51に、トルクセンサ1Aが、時刻t51以前に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
また、トルクセンサ1Aは、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t51に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV51を、基準電圧RVの値RV51として設定する。
時刻t51~時刻t52の期間中、基準電圧RVは、一定の値RV51に維持される。トルクセンサ1Aは、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=値RV51-値DV51)ゼロに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとしてゼロを算出する。
【0055】
図10に示す例では、次いで、時刻t52~時刻t53の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因によって値DV51から値DV52に減少する。
時刻t52Aに、トルクセンサ1Aは、例えば時刻t52~時刻t52Aの期間中に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形(つまり、検出電圧DVが減少しているものの、クランク13の回転に伴う検出電圧DVの増減が生じていないことを示す検出電圧DVの時間波形)に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
基準電圧変動部1N1は、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t52Aに、基準電圧RVを値RV51から変動させ始める(詳細には、減少させ始める)。更に、基準電圧変動部1N1は、検出電圧DVが値DV52になり、検出電圧DVの減少が終了する時刻t53に、基準電圧RVの変動(減少)を終了させ、検出電圧DVの値DV52を基準電圧RVの値RV52にする。つまり、基準電圧変動部1N1は、時刻t53に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV52を、変動後の基準電圧RVの値RV52として設定する。
時刻t53~時刻t54の期間中、基準電圧RVは、一定の値RV52に維持される。トルクセンサ1Aは、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=値RV52-値DV52)ゼロに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとしてゼロを算出する。
【0056】
図10に示す例では、次いで、時刻t54~時刻t55の期間中、トルクセンサ1Aの電圧出力部1A1から出力される検出電圧DVが、外的要因によって値DV52から値DV53に増加する。
時刻t55に、トルクセンサ1Aは、例えば時刻t54~時刻t55の期間中に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの時間波形(つまり、検出電圧DVが増加しているものの、クランク13の回転に伴う検出電圧DVの増減が生じていないことを示す検出電圧DVの時間波形)に基づいて、ペダル12に踏力が加えられていないと推定する。
基準電圧変動部1N1は、ペダル12に踏力が加えられていないと推定された時刻t55に、基準電圧RVを値RV52から値RV53(=値DV53)に変動させる(詳細には、増加させる)。つまり、基準電圧変動部1N1は、時刻t55に電圧出力部1A1から出力された検出電圧DVの値DV53を、変動後の基準電圧RVの値RV53として設定する。
時刻t55以降の期間中、基準電圧RVは、一定の値RV53に維持される。トルクセンサ1Aは、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=値RV53-値DV53)ゼロに基づいて、ペダル12に加えられた踏力に基づくトルクとしてゼロを算出する。
【0057】
つまり、図10に示す例では、ペダル12に踏力が加えられていない時に基準電圧変動部1N1が増加させる基準電圧RVの値の傾き(つまり、時刻t55における基準電圧RVの値の傾き(≒∞))は、ペダル12に踏力が加えられていない時に基準電圧変動部1N1が減少させる基準電圧RVの値の傾き(つまり、時刻t52A~時刻t53の期間中における基準電圧RVの値の傾き)以上である。
時刻t55以降の期間中に、ペダル12に踏力が加えられていないにもかかわらず、基準電圧RVと検出電圧DVとの差分△V(=検出電圧DV-基準電圧RV)がゼロより大きい値になることに伴って、モータ1Mがアシストトルクを発生してしまうおそれを抑制するためである。
【0058】
<第2実施形態>
以下、本発明のモータ制御装置および電動アシスト自転車の第2実施形態について説明する。
第2実施形態のモータ制御装置および電動アシスト自転車1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態のモータ制御装置および電動アシスト自転車1と同様に構成されている。従って、第2実施形態のモータ制御装置および電動アシスト自転車1によれば、後述する点を除き、上述した第1実施形態のモータ制御装置および電動アシスト自転車1と同様の効果を奏することができる。
【0059】
上述したように、第1実施形態の電動アシスト自転車1では、基準電圧変動部1N1と、基準電圧下限値設定部1N2と、基準電圧下限値変動部1N3と、検出電圧監視部1N4とが、トルク補正部1Nに備えられている。
第2実施形態の電動アシスト自転車1では、基準電圧変動部1N1と、基準電圧下限値設定部1N2と、基準電圧下限値変動部1N3と、検出電圧監視部1N4とが、例えばモータ制御部1Lに備えられていてもよい。
【0060】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。上述した各実施形態および各例に記載の構成を組み合わせてもよい。
【0061】
なお、上述した実施形態における電動アシスト自転車1が備える各部の機能全体あるいはその一部は、これらの機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶部のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【符号の説明】
【0062】
1…電動アシスト自転車、11…車輪、11A…前輪、11B…後輪、12…ペダル、13…クランク、14…ラチェット、1A…トルクセンサ、1A1…電圧出力部、1A2…トルク算出部、1B…クランク回転センサ、1L…モータ制御部、1M…モータ、1N…トルク補正部、1N1…基準電圧変動部、1N2…基準電圧下限値設定部、1N3…基準電圧下限値変動部、1N4…検出電圧監視部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10