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特許7600078水運用計画支援装置、水運用計画支援方法、および水運用計画支援プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】水運用計画支援装置、水運用計画支援方法、および水運用計画支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20241209BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20241209BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021182859
(22)【出願日】2021-11-09
(65)【公開番号】P2023070580
(43)【公開日】2023-05-19
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信補
(72)【発明者】
【氏名】小泉 賢司
(72)【発明者】
【氏名】小熊 基朗
【審査官】山崎 誠也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-222440(JP,A)
【文献】渕上和宏,市内配水過程における高度浄水処理水の残留塩素の挙動とその管理,水道協会雑誌,2003年06月,第72巻 第6号 第825号,p.12-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを有し、浄水場および複数の配水池を有した水道施設の水運用計画を作成する水運用計画支援装置であって、
水需要予測に基づき水道施設の水運用計画の作成を行う水運用計画作成部と、
各配水池における貯水量予測シミュレーションによって求められる貯水量の予測値と所定の貯水量上下限値とに基づいて、貯水量上下限に関する制約違反が発生する配水池における水の過不足量を算出するとともに、水運用計画の再計画が必要であると判断する再計画判定部と、
前記配水池以外の各配水池について、受水量の調整により前記配水池への水融通余力を算出し、前記配水池の水の過不足量以上の水融通余力がある前記各配水池の中から前記配水池への水融通を行ったときの前記各配水池または前記配水池の残塩濃度に基づいて、前記水融通を行う配水池の選定を行う配水池選定部と、
前記配水池における過不足量の水を、前記選定された配水池から融通するように前記水道施設の水運用計画の計画値の修正を行う水運用計画修正部と、
を備えることを特徴とする水運用計画支援装置。
【請求項2】
前記配水池選定部は、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの送水の流れの変化に伴って変化する配水池の受水の残塩濃度の高さに基づいて、配水池の選定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の水運用計画支援装置。
【請求項3】
前記配水池選定部は、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの前記選定された配水池の貯水の残塩濃度の高さに基づいて、配水池の選定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の水運用計画支援装置。
【請求項4】
前記配水池選定部は、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの前記選定された配水池の貯水量の多さに基づいて、配水池の選定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の水運用計画支援装置。
【請求項5】
前記水運用計画支援装置は、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの送水の流れの変化が所定の条件を満たさない場合、前記受水の残塩濃度の高さに基づく配水池の選定を行わない、
ことを特徴とする請求項2に記載の水運用計画支援装置。
【請求項6】
プロセッサを有したコンピュータが、浄水場および複数の配水池を有した水道施設の水運用計画を作成する水運用計画支援方法であって、
前記プロセッサは、
水需要予測に基づき水道施設の水運用計画の作成を行い、
各配水池における貯水量予測シミュレーションによって求められる貯水量の予測値と所定の貯水量上下限値とに基づいて、貯水量上下限に関する制約違反が発生する配水池における水の過不足量を算出するとともに、水運用計画の再計画が必要であると判断し、
前記配水池以外の各配水池について、受水量の調整により前記配水池への水融通余力を算出し、前記配水池の水の過不足量以上の水融通余力がある前記各配水池の中から前記配水池への水融通を行ったときの前記各配水池または前記配水池の残塩濃度に基づいて、前記水融通を行う配水池の選定を行い、
前記配水池における過不足量の水を、前記選定された配水池から融通するように前記水道施設の水運用計画の計画値の修正を行う、
ことを特徴とする水運用計画支援方法。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの送水の流れの変化に伴って変化する配水池の受水の残塩濃度の高さに基づいて、配水池の選定を行う、
ことを特徴とする請求項6に記載の水運用計画支援方法。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの前記選定された配水池の貯水の残塩濃度の高さに基づいて、配水池の選定を行う、
ことを特徴とする請求項6に記載の水運用計画支援方法。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの前記選定された配水池の貯水量の多さに基づいて、配水池の選定を行う、
ことを特徴とする請求項6に記載の水運用計画支援方法。
【請求項10】
前記プロセッサは、前記選定された配水池から前記配水池への水融通を行ったときの送水の流れの変化が所定の条件を満たさない場合、前記受水の残塩濃度の高さに基づく配水池の選定を行わない、
ことを特徴とする請求項7に記載の水運用計画支援方法。
【請求項11】
プロセッサを有したコンピュータに、
水需要予測に基づき、浄水場および複数の配水池を有した水道施設の水運用計画の作成を行う処理、
各配水池における貯水量予測シミュレーションによって求められる貯水量の予測値と所定の貯水量上下限値とに基づいて、貯水量上下限に関する制約違反が発生する配水池における水の過不足量を算出するとともに、水運用計画の再計画が必要であると判断する処理、
前記配水池以外の各配水池について、受水量の調整により前記配水池への水融通余力を算出し、前記配水池の水の過不足量以上の水融通余力がある前記各配水池の中から前記配水池への水融通を行ったときの前記各配水池または前記配水池の残塩濃度に基づいて、前記水融通を行う配水池の選定を行う処理、
前記配水池における過不足量の水を、前記選定された配水池から融通するように前記水道施設の水運用計画の計画値の修正を行う処理、
を実行させることを特徴とする水運用計画支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場や配水池などの水道施設における送水、配水などの水運用計画を立案し水道施設の水運用を支援する水運用計画支援装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場や配水池などの水道施設の運用においては、配水エリアの水需要予測に基づき適切な送水、配水等の計画(水運用計画)を立案し、水運用計画に基づいてポンプ、バルブ等の設備の運転を行うことが一般的に行われている。水需要予測は、曜日や天候など水需要に影響を与える要因データ等を用いて、重回帰分析などの統計解析手法などを用いて行われる。水運用計画の立案は、上記水需要予測結果に基づき、水道施設の上下限制約(各種水量の上下限制約)等を満たすように数理計画技術などを用いて行われる。
【0003】
水運用計画は、水需要予測の誤差により計画と実績にずれが発生する場合がある。例えば、配水池貯水量の計画値と実績値にずれが生じ貯水量実績値がその上下限制約を逸脱する場合がある。その場合、最新の水需要予測結果や最新の計測値を用いた水運用計画の再立案(再計画)が行われる。
【0004】
水運用計画の再計画を行うための技術として、以下の技術が公開されている。例えば、特許文献1には、水需要予測とそれに基づく水運用計画の立案を行い、計画値と実績値との間に一定値以上の偏差を検知した場合再計画を行う技術が開示されている。さらに特許文献1に記載の技術では、複数の水道施設の中で運用計画作成の対象としない施設と対象とする施設とを指定した条件定義データを作成しておき、上記条件定義データに基づき再計画範囲を限定して再計画を行うことにより計画変更の範囲を限定し、オペレータの運転変更の負担の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-222440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に記載の技術によれば、上記条件定義データに基づいて、制約条件を満たす計画案が得られるまで徐々に計画変更の範囲を拡大するよう再計画が行われるため、計画変更の範囲を限定した再計画が得られる可能性がある。しかしながら上記従来の再計画方法では、事前に設定された固定的な条件定義データに基づいて再計画を行うため、そのときの配水池の受水量や貯水量などの水運用の状況次第では、再計画を行っても実行可能解が得られず、再計画が繰り返され、すなわち計画変更の範囲が拡大され、最終的に得られた再計画案では計画変更の範囲が大きく拡大し、オペレータの運転変更の負担が大きくなる可能性がある。さらに、水運用計画が変更され、水融通が行われた場合には、残塩濃度の低下により、塩素追加コストが増加するリスクが生じるが、この点について考慮されていない。
【0007】
本発明は、水運用計画と実績にずれが生じた場合であっても、残塩濃度の低下を考慮しつつ、計画変更の範囲が抑えられた水運用計画の再計画が可能な水運用計画支援装置、水運用計画支援方法、および水運用計画支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる水運用計画支援装置は、プロセッサを有し、浄水場および複数の配水池を有した水道施設の水運用計画を作成する水運用計画支援装置であって、水需要予測に基づき水道施設の水運用計画の作成を行う水運用計画作成部と、各配水池における貯水量予測シミュレーションによって求められる貯水量の予測値と所定の貯水量上下限値とに基づいて、貯水量上下限に関する制約違反が発生する配水池における水の過不足量を算出するとともに、水運用計画の再計画が必要であると判断する再計画判定部と、前記配水池以外の各配水池について、受水量の調整により前記配水池への水融通余力を算出し、前記配水池の水の過不足量以上の水融通余力がある前記各配水池の中から前記配水池への水融通を行ったときの前記各配水池または前記配水池の残塩濃度に基づいて、前記水融通を行う配水池の選定を行う配水池選定部と、前記配水池における過不足量の水を、前記選定された配水池から融通するように前記水道施設の水運用計画の計画値の修正を行う水運用計画修正部と、を備えることを特徴とする水運用計画支援装置として構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水運用計画と実績にずれが生じた場合であっても、残塩濃度の低下を考慮しつつ、計画変更の範囲が抑えられた水運用計画の再計画が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】水運用計画支援装置を含む上水道システムの全体構成の概略図
図2】水道施設の接続関係の一例
図3】浄水場情報管理テーブルの一例
図4】配水池情報管理テーブルの一例
図5】配水エリア情報管理テーブルの一例
図6】管路情報管理テーブルの一例
図7】計測データ管理テーブルの一例
図8】水需要量予測結果管理テーブルの一例
図9】水運用計画管理テーブルの一例
図10】需要予測および水運用計画表示画面の一例
図11】水運用計画の再計画の必要性の判定を行う処理のフローチャート
図12】配水池の貯水量シミュレーション結果の一例(貯水量が上限を上回る場合)
図13】配水池の貯水量シミュレーション結果の一例(貯水量が下限を下回る場合)
図14】制約違反の発生していない配水池の貯水量シミュレーション結果の一例
図15】水融通を行う配水池の選定を行う処理のフローチャート
図16】水融通候補の各配水池の受水残塩濃度低下リスクを算出する処理のフローチャート
図17】水融通による管路流量の変化の一例
図18】経過時間(流達時間、滞留時間)と残塩濃度の関係
図19】残塩濃度と残塩濃度低下リスクとの関係の一例
図20】水融通候補の各配水池の貯水残塩濃度低下リスクを算出する処理のフローチャート
図21】水融通候補の各配水池の備蓄水量不足リスクを算出する処理のフローチャート
図22】配水可能時間と備蓄水量不足リスクとの関係の一例
図23】水運用計画の修正を行う処理のフローチャート
図24A】対象水系において水融通を行ったときの水運用計画の修正方法の一例
図24B】対象水系において水融通を行ったときの水運用計画の修正方法の一例
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態に本発明が限定されることはない。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0012】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0013】
以下の説明では、「テーブル」、「リスト」等の表現にて各種情報を説明することがあるが、各種情報は、これら以外のデータ構造で表現されていてもよい。データ構造に依存しないことを示すために「XXテーブル」、「XXリスト」等を「XX情報」と呼ぶことがある。識別情報について説明する際に、「識別情報」、「識別子」、「名」、「ID」、「番号」等の表現を用いた場合、これらについてはお互いに置換が可能である。
【0014】
同一あるいは同様な機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0015】
また、以下の説明では、プログラムを実行して行う処理を説明する場合があるが、プログラムは、プロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit))によって実行されることで、定められた処理を、適宜に記憶資源(例えば、メモリ)および/またはインターフェースデバイス(例えば、通信ポート)等を用いながら行うため、処理の主体がプロセッサとされてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路(例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit))を含んでいてもよい。
【0016】
プログラムは、プログラムソースから計算機のような装置にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、以下の説明において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0017】
図1に、本発明の一実施形態に係る水運用計画支援装置101と監視制御システム、浄水場、配水池、管路、ネットワークなどからなる上水道システム102の全体構成の概略図を示す。
【0018】
浄水場103で浄水された水は、送水管を介して浄水場内のポンプ(図示なし)によって配水池105、106、107まで送水される。各配水池では受水バルブ(図示なし)によって適切な量の水を受水する。受水された水は各配水池にいったん貯留された後、各配水池内のポンプ(図示なし)によって配水管網を介して、または別の配水池108、109を介してそれぞれ配水エリア110、111、112、113まで配水される。
【0019】
浄水場103は、それぞれの送水量を所定周期(例えば、1分周期)で計測し、配水池105~109は、それぞれの受水量、貯水量、配水量を所定周期で計測し、監視制御システム(SCADA)114まで送信する。監視制御システム114は、上記送信された浄水場103の送水量計測値、配水池105~109の受水量、貯水量、配水量の計測値を取得し、その1時間分の総和または平均をとって毎時の1時間単位の各送水量、各受水量、各貯水量、各配水量を集計する。また監視制御システム114は、各配水エリア110~113に対する配水量の総和をとって各配水エリアの1時間単位の水需要量を算出し、集計、算出された各計測値データを保存する。水運用計画支援装置101は、ネットワーク115を介して監視制御システム114と接続されている。
【0020】
水運用計画支援装置101は、CPU1011、記憶装置(ハードディスク等のストレージ1012、RAMやフラッシュメモリ等のメモリ1013)、入力インタフェース(I/F)1014である入力部121(キーボード、マウス等)、出力I/F1015である表示部122(ディスプレイ、プリンタ等)から構成される一般的なコンピュータシステムである。
【0021】
記憶装置のメモリ1013には、施設情報登録部123、計測データ取得部124、水需要予測部125、水運用計画部126、水運用計画提示部127、水運用計画指示部128、再計画判定部129、水融通調整余力算出部130、残塩濃度低下リスク判定部131、備蓄水量不足リスク判定部132、水融通配水池選定部133、水運用計画修正部134、がプログラムとして記憶されており、CPU1011がこれらのプログラムを実行する。
【0022】
また、記憶装置のストレージ1012には、浄水場情報管理テーブル141、配水池情報管理テーブル142、配水エリア情報管理テーブル143、管路情報管理テーブル144、計測データ管理テーブル145、水需要量予測結果管理テーブル146、水運用計画管理テーブル147、がデータとして記憶されており、上記プログラムを実行する際に利用することができるようになっている。
【0023】
施設情報登録部123は、管理者が入力した浄水場および配水池に関する情報を所定のテーブルに登録するプログラムである。計測データ取得部124は、監視制御システム114より送信された所定期間における各浄水場の送水量、各配水池の受水量、貯水量、配水量、配水エリアの水需要量等の各計測データを取得し、所定のテーブルに登録するプログラムである。水需要量予測部125は、所定期間における各配水エリアの水需要量を予測するプログラムである。水運用計画部126は、上記水需要量予測結果に基づき、所定期間における各浄水場の送水量、各配水池の受水量、貯水量、配水量等の計画、すなわち水運用計画の立案を行うプログラムである。水運用計画提示部127は、立案・修正された水運用計画や需要予測結果などを表示装置に提示するプログラムである。水運用計画指示部128は、立案・修正された水運用計画を監視制御システム114に送信するプログラムである。再計画判定部129は、最新の水需要量予測結果や最新の計測データを用いて配水池貯水量の計画値とその予測値のずれ(過不足量)を算出し、水運用計画の再計画の必要性を判定するプログラムである。
【0024】
水融通調整余力算出部130は、水の過不足が見込まれる配水池に対して、他の配水池が受水量の増減によりどの程度の水融通(差出し/引受け)を行うことができるかの調整余力を算出するプログラムである。残塩濃度低下リスク判定部131は、水の過不足が見込まれる配水池に対して他の配水池から水融通を行ったときの送水量や配水池貯水量の残塩濃度低下リスクを判定するプログラムである。備蓄水量不足リスク判定部132は、水の過不足が見込まれる配水池に対して他の配水池から水融通を行ったときの配水池の備蓄水量不足リスクを判定するプログラムである。水融通配水池選定部133は、水の過不足が見込まれる配水池に対して水融通を行う配水池を選定するプログラムである。水運用計画修正部134は、水の過不足が見込まれる配水池に対して他の配水池から水融通を行うようにして水運用計画の修正を行うプログラムである。
【0025】
浄水場情報管理テーブル141は、各浄水場に関する情報を管理するテーブルである。配水池情報管理テーブル142は、各配水池に関する情報を管理するテーブルである。配水エリア情報管理テーブル143は、各配水エリアに関する情報を管理するテーブルである。管路情報管理テーブル144は、各管路に関する情報を管理するテーブルである。計測データ管理テーブル145は、監視制御システム110より取得した浄水場からの送水量、配水池の受水量、貯水量、配水量、配水エリアの水需要量等の各実績データを管理するテーブルである。水需要量予測結果管理テーブル146は、所定期間における各配水エリアの水需要量予測結果データを管理するテーブルである。水運用計画管理テーブル147は、上水道システム102における水運用計画を管理するテーブルである。
【0026】
本発明の実施の形態において、水運用計画支援システム101では、以下の処理(1)~(8)の処理を実行することにより、いずれかの配水池において水運用計画のずれ(水の過不足)が生じた場合であっても、所定の配水池から上記ずれが生じた配水池に対して各受水量の増減による水融通(差出し/引受け)を行うよう水運用計画の修正が行われるため、変更範囲を最小限に抑えた水運用計画の修正が可能となる。
(1)施設情報の登録
(2)計測データの取得
(3)各配水エリアの水需要量の予測
(4)水運用計画の立案
(5)水需要予測結果および水運用計画の提示
(6)再計画の必要性の判定
(7)各配水池の水融通調整余力の算出
(8)水融通を行う配水池の選定
(9)水運用計画の修正
(10)修正された水運用計画の提示
【0027】
以下、処理(1)~(10)の実現方法について、図2~23を用いて説明する。
【0028】
はじめに、施設情報の登録処理(1)について説明する。図2に登録すべき水道施設の接続関係の一例を示しておく。水運用計画支援装置101の管理者は、事前に、入力部121より、浄水場に関する情報として、浄水場103、浄水場104の名称、送水量の上下限値を入力し、配水池に関する情報として、配水池105~109の名称、受水量の上下限値、貯水量の上下限値、配水量の上下限値を入力し、配水エリアに関する情報として、配水エリア110~113の名称、平均需要量を入力し、管路に関する情報として、管路211~226の名称、延長、口径、接続先施設の名称を入力しておく。
【0029】
水運用計画支援装置101の施設情報登録部123は、上記入力された浄水場、配水池、配水エリア、管路のエントリごとに、上記入力情報をそれぞれ浄水場情報管理テーブル141、配水池情報管理テーブル142、配水エリア情報管理テーブル143、管路情報管理テーブル144に登録する。図3図4図5図6に、それぞれ施設情報登録部123によって登録された浄水場情報管理テーブル141、配水池情報管理テーブル142、配水エリア情報管理テーブル143、管路情報管理テーブル144の一例を示しておく。上記のようにして、施設情報登録部123によって、施設情報の登録処理が行われる。
【0030】
次に、計測データの取得処理(2)について説明する。監視制御システム114は、対象水系の毎時の1時間単位の各浄水場の送水量、各配水池の受水量、貯水量、配水量、および各配水エリアの水需要量を集計する毎に、その計測時刻と計測値データをネットワーク115を介して水運用計画支援装置101に送信する。水運用計画支援装置101の計測データ取得部124は、上記送信された各計測値データとその計測時刻を逐次取得し、計測データ管理テーブル145に登録する。図7に、計測データ取得部124によって登録された計測データ管理テーブル145の一例を示しておく。上記のようにして、計測データ取得部124によって、計測データの取得処理が行われる。
【0031】
次に、各配水エリアの水需要量の予測処理(3)について説明する。本処理(3)は、基本的に1日1回、所定時刻(例えば、朝8時など)に実行されるが、後述するように、水運用計画の再計画の必要性の有無を判定する際においても実行される。日々の水需要量の時系列パターンは、一般に天候や曜日(平日・休日の違い)、直近の水需要量時系列データなどに応じて変化する。水運用計画支援装置101の水需要量予測部125は、事前に統計解析技術や機械学習などによって構築された各配水エリア110~113別の水需要量予測モデルを備えており、予測日当日の天候や曜日、各配水エリアの直近の水需要量時系列データを入力データとして各配水エリアの水需要量の予測を行い、現時点から48時間先までの1時間単位の各配水エリア別の水需要量の予測結果を算出する。そして水需要量予測部125は、算出された各配水エリア別の水需要量の予測結果を水需要量予測結果管理テーブル146に登録する。図8に、水需要量予測部125によって登録された水需要量予測結果管理テーブル146の一例を示しておく。上記のようにして、水需要量予測部125によって、各配水エリアの水需要量の予測処理が行われる。
【0032】
次に、水運用計画の立案処理(4)について説明する。本処理(4)は、1日1回の上記処理(2)が行われた後で実行される。水運用計画支援装置101の水運用計画部126は、対象水系における水運用計画問題を解くことにより、現時点から48時間先までの1時間単位の各浄水場の送水量、各配水池の受水量、貯水量、配水量等の計画、すなわち水運用計画を立案する。
【0033】
水運用計画問題については、本発明の趣旨とは関係ないため詳しい説明は省略するが、が、図2に示す水道施設を用いて簡単に説明すると、例えば、水運用計画問題は、以下の制約条件:
・各ノード201~205における水収支式(各時刻1~48(ただし時刻刻みは1時間)において、ノードへの流入量の総和=ノードからの流出量)
・各配水池105~109における水収支式(各時刻2~48において、配水池貯水量の前時刻からの変化量=受水量(流入量)-配水量(流出量)、貯水量の初期値には計測値を設定)
・各配水エリア110~113における水収支式(各時刻1~48において、配水エリアへの流入量=水需要量予測結果)
・各浄水場103、104の送水量の上下限制約(各時刻1~48)
・各配水池105~109における受水量、貯水量、配水量の上下限制約(各時刻1~48)
および以下の目的関数:
・各浄水場103、104における送水量の平準化(各時刻2~48における送水量の前時刻からの変化量の絶対値の総和の最小化)
からなる線形計画問題として定式化される(目的関数に含まれる絶対値記号ははずして線形化可能)。
【0034】
水運用計画部126は、上記水運用計画問題をMATLAB(登録商標)やGUROBIなどの数値解析ソフトウェアを用いて求解することにより、現時点から48時間先までの1時間単位の各浄水場の送水量、各配水池の受水量、貯水量、配水量等の計画、すなわち水運用計画を立案し、立案された水運用計画案を水運用計画管理テーブル147に登録する。図9に、水運用計画部126によって登録された水運用計画管理テーブル147の一例を示しておく。上記のようにして、水運用計画部126によって、水運用計画の立案処理が行われる。
【0035】
次に、水需要予測結果および水運用計画の提示(5)について説明する。本処理(5)は、水需要予測処理(3)、水運用計画立案処理(4)が行われた後で実行される。水運用計画支援装置101の水運用計画提示部127は、水需要量予測結果管理テーブル146より各配水エリア110~113の水需要量予測結果を取得し、また水運用計画管理テーブル147より各浄水場103、104の送水量、各配水池105~109の受水量、貯水量、配水量等の計画値を取得し、上記データをグラフ表示した需要予測および水運用計画表示画面を作成し、表示部122に表示する。図10に、水運用計画提示部127によって作成された需要予測および水運用計画表示画面の一例を示しておく。
【0036】
水運用計画支援装置101の管理者は、上記需要予測および水運用計画表示画面の確認を行い、需要予測結果および水運用計画に問題がないと判断した場合、入力部121より水運用計画の実行を入力する。水運用計画支援装置101の水運用計画指示部128は、最新の水運用計画を、ネットワーク115を介して監視制御システム114に送信する。監視制御システム114では、上記水運用計画を受信し、上記水運用計画に基づいて各浄水場、配水池のポンプ、バルブ等の設備の運転を行う。上記のようにして、水運用計画提示部127によって、水需要予測結果および水運用計画の提示処理が行われる。
【0037】
次に、再計画の必要性の判定処理(6)について説明する。本処理(6)は、水運用計画立案処理(4)が行われ、水運用計画に基づく各浄水場、配水池のポンプ、バルブ等の設備の運転が行われている間、定期的(例えば、6時間ごと)に実行される。図11に、水運用計画の再計画の必要性の判定を行う処理のフローチャートを示す。
【0038】
ステップS1101において、水需要予測部125は、上記水需要予測処理(3)と同様に、最新の天候や各配水エリアの直近の水需要量時系列データを入力データとして、現時点から水運用計画の残り時間分(例えば、水運用計画立案後6時間経過後の判定の場合、48-6=42時間分)の各配水エリアの水需要量予測を行う。そして水需要量予測部125は、算出された各配水エリア別の最新の水需要量の予測結果を水需要量予測結果管理テーブル146に登録する。
【0039】
ステップS1102において、水運用計画支援装置101の再計画判定部129は、上記最新の水需要予測結果を用いたときの各配水エリアに配水を行っている各配水池105~107、109における貯水量シミュレーションを行う。すなわち各配水池の初期値に最新の実績値(図7)を用い、配水池への流入量(受水量)には計画値(図9)を用い、配水池からの流出量(配水量)には、最新の需要予測結果(図8)を用いるようにして、水収支計算により上記残り時間分の貯水量予測シミュレーションを行う。
【0040】
ステップS1103において、再計画判定部129は、上記シミュレーション結果に基づき、いずれかの配水池において、貯水量の予測値が貯水量上下限値から逸脱したかどうかの判定を行う。逸脱している場合、ステップS1104に進み、逸脱していない場合、ステップS1105に進む。
【0041】
ステップS1104において、再計画判定部129は、再計画が不要と判定し、ステップS1101に進む。そして定期的に、ステップS1101からS1103の処理を繰り返す。
【0042】
ステップS1105において、再計画判定部129は、再計画が必要と判定する。図12図13に配水池の貯水量シミュレーション結果の一例を示す。貯水量の計画値と予測値が図12のようになるとき、すなわち貯水量予測値がその上限値を逸脱する(上回る)場合、水が過剰な状態となっている。貯水量の計画値と予測値が図13のようになるとき、すなわち貯水量予測値がその下限値を逸脱する(下回る)場合、水が不足している状態となっている。再計画判定部129は、貯水量予測値の上下限値からの逸脱量を算出し、制約違反の発生する配水池の水の過不足量とその違反発生時刻を算出する。
【0043】
上記のようにして、水需要予測部125および再計画判定部129によって、再計画の必要性の判定処理が行われる。
【0044】
次に、各配水池の水融通調整余力の算出処理(7)について説明する。本処理(7)は、再計画の必要性の判定処理(6)が行われた後で実行される。制約違反の発生する配水池Aの水が不足する場合、他の配水池Bの受水量を減らし配水池Aの受水量を増やして上記水不足を解消するようにするため、水融通調整余力は受水量を可能な限り減少させたときの差出し可能な水量となる。配水池Aの水が過剰の場合、他の配水池Bの受水量を増やし配水池Aの受水量を減らして上記水の過剰を解消するようにするため、水融通調整余力は受水量を可能な限り増加させたときの引受け可能な水量となる。
【0045】
水運用計画支援装置101の水融通調整余力算出部130は、上記処理(6)において貯水量シミュレーションの行われた配水池105~107、109については、各配水池の上記貯水量シミュレーション結果に基づいて水融通調整余力を算出する。図14に、制約違反の発生していない各配水池の貯水量シミュレーション結果の一例を示す。差出し可能な水量は、シミュレーション期間における貯水量予測値の最小値と貯水量下限値との差分によって算出する。また引受け可能な水量は、貯水量上限値と貯水量予測値の最大値との差分によって算出する。貯水量シミュレーションの行われない配水池108(配水エリアに直接配水を行っていない配水池)については、最新の水運用計画に基づいて水融通調整余力を算出する。
【0046】
上記シミュレーション結果に基づく水融通調整余力の算出方法と同様に、差出し可能な水量は、残りの計画期間における貯水量計画値の最小値と貯水量下限値との差分によって算出する。また引受け可能な水量は、貯水量上限値と貯水量計画値の最大値との差分によって算出する。ただし水融通は受水量上下限制約の許す範囲内(最大または最小の受水量)で早期かつ最短時間で行うものとする。早期かつ最短時間で水融通を行ったとしても上記違反発生時刻までに水融通が完了しない場合は(上記差出し/引受け可能量に達しない場合は)、上記違反発生時刻までに差出し/引受け可能な水量を実際の水融通調整余力として算出する。
【0047】
上記のようにして、水融通調整余力算出部130によって、各配水池の水融通調整余力の算出処理が行われる。
【0048】
次に、水融通を行う配水池の選定処理(8)について説明する。本処理(8)は、各配水池の水融通調整余力の算出処理(7)が行われた後で実行される。図15に、制約違反(水の過不足)の発生する配水池Aに対して水融通を行う配水池の選定を行う処理のフローチャートを示す。
【0049】
ステップ1501において、水運用計画支援装置101の水融通配水池選定部133は、制約違反の発生する配水池Aの水の過不足量よりも大きい水融通調整余力(水不足の場合は差出し可能量、水過剰の場合は引受け可能量)をもつ複数の配水池を、配水池Aに対して水融通を行う配水池の候補として選定する。以下に説明するステップ1502、ステップ1503、ステップ1504の各処理は、水融通配水池選定部133が行ってもよい。
【0050】
ステップ1502において、水運用計画支援装置101の残塩濃度低下リスク判定部131は、水融通候補の各配水池Cが配水池Aに対して水融通を行ったときの、浄水場からの送水の流れの変化(流達時間の増加)に伴って低下した全ての配水池の受水の残塩濃度を算出し、水融通候補の各配水池Cの受水残塩濃度低下リスクを算出する。ここでステップ1502において行われる処理についてフローチャートを用いて詳細に説明する。図16に、ステップS1502において行われる水融通候補の各配水池Cの受水残塩濃度低下リスクを算出する処理のフローチャートを示す。
【0051】
以下に示すように、残塩濃度低下リスク判定部131(あるいは配水池選定部133)は、選定された配水池から制約違反が発生する配水池への水融通を行ったときの送水の流れの変化に伴って変化する配水池の受水の残塩濃度の高さに基づいて、配水池の選定を行う。これにより、流達時間の増加に伴う受水残塩濃度を考慮して、水融通を行う配水池を選定することができる。
【0052】
ステップS1601において、残塩濃度低下リスク判定部131は、水融通候補の配水池Cの中から水融通を行う1つの配水池Dを仮定する。
【0053】
ステップS1602において、残塩濃度低下リスク判定部131は、配水池Dから制約違反の発生する配水池Aに対して最短経路で水融通(差出し/引受け)が行われるときの変更された各管路流量を算出する。このとき水融通は最短の時間(可能であれば1時刻=1時間以内)で行われるようにするが、各配水池受水量の上下限制約等により水融通の完了までに複数時刻かかる場合は、複数時刻分の変更された各管路流量を算出する。ここで図17に、水融通による管路流量の変化の一例を示しておく。図17(1)は所定時刻における浄水場103から配水池105~107への送水量の計画値を示している。ここで配水池106に200mの水の過剰が発生し、200m以上の水融通調整余力(引受け可能)をもつ配水池105から配水池106に水融通(引受け)を行った場合、各管路流量は図17(2)のように変化する。
【0054】
ステップS1603において、残塩濃度低下リスク判定部131は、水融通が行われるときの変更された各管路流量に基づき、浄水場から全ての配水池までの送水の流達時間を算出する。これは、各管路における流量(m/h)、管路の延長(m)、口径(mm)を用いて、各管路の流速(=流量/管路断面積)、各管路の流達時間(=延長/流速)を算出し、各管路の流達時間の総和をとって浄水場から各配水池までの水の流達時間を算出すればよい。
【0055】
そして残塩濃度低下リスク判定部131は、上記算出した流達時間および浄水場から送水された水の初期残塩濃度を用いて、残塩濃度の計算式:
残塩濃度Z(mg/L)=Z0・exp(-k・t)
ただしZ0:初期残塩濃度、k:係数、t経過時間(流達時間)
に基づき全ての配水池の受水の残塩濃度を算出する。ここで図18に、経過時間(流達時間、滞留時間)と残塩濃度の関係を示しておく。時間が経過するにつれて水の残塩濃度は低下していく。
【0056】
よって図17(2)の例では、管路217の流量が計画値4000m/hから3800m/hに低下しているため管路217の水の流達時間が延長され、それより下流の配水池106、107の残塩濃度が計画時より低下する可能性がある。
【0057】
ステップ1604において、残塩濃度低下リスク判定部131は、上記算出した全ての配水池の受水の残塩濃度の最小値を求め、受水の残塩濃度と受水残塩濃度低下リスクとの所定の関係に基づいて配水池Dの受水残塩濃度低下リスクを算出する。ここで図19に、残塩濃度と残塩濃度低下リスクとの関係の一例を示しておく。図19に示すように、残塩濃度の値が小さくなるほど、残塩濃度低下リスクが高くなるように、両者の関係が定められていることがわかる。
【0058】
ステップS1605において、残塩濃度低下リスク判定部131は、上記ステップS1601~S1604を繰り返し、全ての水融通候補の各配水池Cに対する受水残塩濃度低下リスクを算出する。
【0059】
水融通を行う配水池の選定を行う処理の説明に戻る。
【0060】
ステップ1503において、水運用計画支援装置101の残塩濃度低下リスク判定部131は、配水池Aにおいて水の過剰が見込まれる場合において、水融通候補の各配水池Cが配水池Aに対して水融通(配水池Aの過剰水の引受け)を行ったときの、受水量の増加(貯水量の増加、滞留時間の増加)に伴って低下した配水池Cの貯水の残塩濃度を算出し、水融通候補の各配水池Cの貯水残塩濃度低下リスクを算出する。なお本ステップ1503では、配水池Aにおいて水の不足が見込まれる場合については、配水池Cの貯水量の増加はないため、上記貯水残塩濃度低下リスクは0とすればよい。ここでステップ1503において行われる処理についてフローチャートを用いて詳細に説明する。図20に、ステップ1503において行われる水融通候補の各配水池Cの貯水残塩濃度低下リスクを算出する処理のフローチャートを示す。
【0061】
以下に示すように、残塩濃度低下リスク判定部131(あるいは配水池選定部133)は、選定された配水池から制約違反が発生する配水池への水融通を行ったときの、選定された配水池の貯水の残塩濃度の高さに基づいて、配水池の選定を行う。これにより、貯水量、滞留時間の増加に伴う貯水残塩濃度を考慮して、水融通を行う配水池を選定することができる。
【0062】
ステップS2001において、残塩濃度低下リスク判定部131は、水融通候補の配水池Cの中から水融通(引受け)を行う1つの配水池Dを仮定する。
【0063】
ステップS2002において、残塩濃度低下リスク判定部131は、水融通(引受け)によって増加する配水池Dの貯水の滞留時間を算出する。ここで配水池における水の滞留時間は、平均貯水量(m)/平均受水量(m/h)によって計算できる。このとき平均貯水量は、配水池Aの過剰水量を配水池Dが最短時間で引受け、その後貯水量が増加した状態が継続されることになるため、残りの計画期間の貯水量計画値の平均値に上記引受け量(=配水池Aの水の過剰量)を加算した値を用いればよい。また平均受水量は、配水池Aの過剰水の引受けのため一時的に増加するが、引受け完了後は元の受水量計画値に戻るため、残りの期間の受水量計画値の平均値をそのまま用いればよい。
【0064】
そして残塩濃度低下リスク判定部131は、上記算出した滞留時間および配水池に流入する水の初期残塩濃度(配水池に流入する時点で塩素が注入され所定の初期残塩濃度になるものと仮定)を用いて、上記残塩濃度の計算式に基づき配水池Dの滞留後の貯水の残塩濃度を算出する。
【0065】
ステップS2003において、残塩濃度低下リスク判定部131は、図19に示すような残塩濃度と残塩濃度低下リスクとの所定の関係に基づき、上記算出した配水池Dの貯水の残塩濃度より配水池Dの貯水残塩濃度低下リスクを算出する。
【0066】
ステップS2004において、残塩濃度低下リスク判定部131は、上記ステップS2001~S2003を繰り返し、全ての水融通候補の配水池Cに対する受水残塩濃度低下リスクを算出する。
【0067】
水融通を行う配水池の選定を行う処理の説明に戻る。
【0068】
ステップ1504において、水運用計画支援装置101の備蓄水量不足リスク判定部132は、配水池Aにおいて水の不足が見込まれる場合において、水融通候補の各配水池Cが配水池Aに対して水融通(配水池Aの不足水への差出し)を行ったときの、受水量の減少(貯水量の減少)に伴って低下した配水池Cの配水エリアに対する配水可能時間を算出し、水融通候補の各配水池Cの備蓄水量不足リスクを算出する。なお本ステップ1504では、配水池Aにおいて水の過剰が見込まれる場合については、配水池Cの貯水量の増加はないため、上記備蓄水量不足リスクは0とすればよい。ここでステップ1504において行われる処理についてフローチャートを用いて詳細に説明する。図21に、ステップ1504において行われる水融通候補の各配水池Cの備蓄水量不足リスクを算出する処理のフローチャートを示す。
【0069】
以下に示すように、備蓄水量不足リスク判定部132(あるいは配水池選定部133)は、選定された配水池から制約違反が発生する配水池への水融通を行ったときの、選定された配水池の貯水量の多さに基づいて、配水池の選定を行う。これにより、配水池の備蓄水量を考慮して、水融通を行う配水池を選定することができる。
【0070】
ステップS2101において、備蓄水量不足リスク判定部132は、水融通候補の配水池Cの中から水融通(差出し)を行う1つの配水池Dを仮定する。
【0071】
ステップS2102において、備蓄水量不足リスク判定部132は、水融通(差出し)によって減少する配水池Dの配水エリアに対する配水可能時間(配水池の貯水量が最も少ないときの配水エリアへの配水の継続時間)を算出する。ここで配水池の配水可能時間は、最小貯水量(m)/平均需要量(m/h)によって計算できる。このとき最小貯水量は、配水池Aの不足水量を配水池Dが最短時間で差出し、その後貯水量が減少した状態が継続されることになるため、残りの計画期間の貯水量計画値の最小値から上記差出し量(=配水池Aの水の不足量)を減算した値を用いればよい。また平均需要量は、残りの期間の需要量予測値の平均値を用いればよい。
【0072】
ステップS2103において、備蓄水量不足リスク判定部132は、配水可能時間と備蓄水量不足リスクとの所定の関係に基づき、上記算出した配水池Dの配水可能時間より配水池Dの備蓄水量不足リスクを算出する。ここで図22に、配水可能時間と備蓄水量不足リスクとの関係の一例を示しておく。図22に示すように、配水可能時間の値が小さくなるほど、備蓄水量不足リスクが高くなるように、両者の関係が定められていることがわかる。
【0073】
ステップS2104において、備蓄水量不足リスク判定部132は、上記ステップS2101~S2103を繰り返し、全ての水融通候補の配水池Cに対する備蓄水量不足リスクを算出する。
【0074】
水融通を行う配水池の選定を行う処理の説明に戻る。
【0075】
ステップ1505において、水融通配水池選定部133は、水融通候補の各配水池Cの受水残塩濃度低下リスク、貯水残塩濃度低下リスク、備蓄水量不足リスクを加算してトータルリスクを算出し、トータルリスクの最も小さい配水池の1つを配水池Aに対して水融通を行う配水池Bとして選定する。
【0076】
上記のようにして、水融通配水池選定部133、残塩濃度低下リスク判定部131、備蓄水量不足リスク判定部132によって、水融通を行う配水池の選定処理が行われる。
【0077】
次に、水運用計画の修正処理(9)について説明する。本処理(9)は、水運用を行う配水池の選定処理(8)が行われた後で実行される。水運用計画支援装置101の水運用計画修正部134は、上記処理(8)にて選定された配水池Bから制約違反(水の過不足)の発生した配水池Aまでの水融通(差出し/引受け)によって上記水の過不足を解消するように水運用計画の修正を行う。図23に、水運用計画の修正を行う処理のフローチャートを示す。
【0078】
ステップ2301において、水運用計画修正部134は、例えば、図4図6に示したような受水量上下限制約の許す範囲内(最大または最小の受水量)で早期かつ最短時間で配水池Bから配水池Aまでの水融通が完了するように各時刻の融通量(時系列)を算出する。
【0079】
ステップ2302において、水運用計画修正部134は、配水池Bから配水池Aまでの最短経路の管路流量について、水収支関係を維持しながら上記融通量(差出し/引受け量)が配水池Bから配水池Aまで届くよう管路流量計画値に上記融通量を加減するようにして計画値を修正する。
【0080】
ステップ2303において、水運用計画修正部134は、配水池Bの貯水量について、貯水量計画値に上記融通量を加減(配水池Bからの水融通が差出しの場合は減算、引受けの場合は加算)するようにして計画値を修正する。
【0081】
ステップ2304において、水運用計画修正部134は、配水池Aの貯水量について、貯水量計画値に上記融通量を加減(配水池Bからの水融通が差出しの場合は加算、引受けの場合は減算)するようにして計画値を修正する。
【0082】
ステップ2305において、水運用計画修正部134は、配水池Aからの配水を受ける下流側各配水エリアまでの管路流量について、各管路流量計画値(図9)に各配水エリアの需要予測誤差(時系列、最新の予測値-元々の予測値)を加算するようにして計画値を修正する。
【0083】
上記以外の管路流量や配水池の計画値については、計画の修正は不要である。図24A、24Bに、対象水系の配水池105において水不足が発生し、配水池106より水融通(差出し)を行ったときの水運用計画の修正方法の一例を示しておく。図24Aは、元の水運用計画に対する修正後の水運用計画を提示する場合の水運用計画表示画面の一例を示す図である。図24Bは、図24Aに示した水運用計画表示画面を出力する元となるデータの一例を示す図である。図24Aでは、配水池105においてにおいて水不足が発生し、配水池106より水融通(差出し)を行った場合、元の水運用計画を実線、上述したシミュレーションにより得られた修正後の水運用計画を、それぞれ点線で示している。また、図24Bでは、元の水運用計画と、上述したシミュレーションの結果と、当該シミュレーションにより得られた修正後の水運用計画とを、配水エリア、配水池ごとに、それぞれ対応付けられていることがわかる。そして水運用計画修正部134は、修正された水運用計画案を水運用計画管理テーブル147に登録する。上記のようにして、水運用計画修正部134によって、水運用計画の修正処理が行われる。
【0084】
次に、修正された水運用計画の提示処理(10)について説明する。本処理(10)は、水運用計画の修正処理(9)が行われた後で実行される。水運用計画提示部127は、水需要量予測結果管理テーブル146より各配水エリア110~113の最新の水需要量予測結果を取得し、また水運用計画管理テーブル147より上記修正された水運用計画(各浄水場103、104の送水量、各配水池105~109の受水量、貯水量、配水量等の計画値)を取得し、上記データをグラフ表示した最新の需要予測および水運用計画表示画面を作成し、表示部122に表示する。
【0085】
水運用計画支援装置101の管理者は、上記需要予測および水運用計画表示画面の確認を行い、需要予測結果および水運用計画に問題がないと判断した場合、入力部121より水運用計画の実行を入力する。水運用計画支援装置101の水運用計画指示部128は、最新の水運用計画を、ネットワーク115を介して監視制御システム114に送信する。監視制御システム114では、上記水運用計画を受信し、上記水運用計画に基づいて各浄水場、配水池のポンプ、バルブ等の設備の運転を行う。上記のようにして、水運用計画提示部127によって、修正された水運用計画の提示処理が行われる。
【0086】
以上述べたように、本発明の実施の形態によれば、プロセッサを有し、浄水場および複数の配水池を有した水道施設の水運用計画を作成する水運用計画支援装置において、水需要予測に基づき水道施設の水運用計画の作成を行う水運用計画作成部(例えば、水運用計画部126)と、各配水池における貯水量予測シミュレーションによって求められる貯水量の予測値と所定の貯水量上下限値(例えば、図12図13に示した上限値、下限値)とに基づいて、貯水量上下限に関する制約違反が発生する配水池における水の過不足量を算出するとともに、水運用計画の再計画が必要であると判断する再計画判定部(例えば、再計画判定部129)と、上記配水池以外の各配水池について、受水量の調整により上記配水池への水融通余力を算出し、上記配水池の水の過不足量以上の水融通余力がある上記各配水池の中から上記配水池への水融通を行ったときの上記各配水池または上記配水池の残塩濃度に基づいて、上記水融通を行う配水池の選定を行う配水池選定部(例えば、水融通配水池選定部133)と、上記配水池における過不足量の水を、上記選定された配水池から融通するように上記水道施設の水運用計画の計画値の修正を行う水運用計画修正部(例えば、水運用計画修正部134)と、を備え、水運用計画と実績にずれ(水の過不足による配水池の貯水量制約違反)が生じた場合であっても、上記のずれを解消するように複数配水池間で水融通を行うことにより水運用計画の修正を行っている。その結果、水系全体を対象とした水運用計画の再計画が不要となり、計画変更の範囲が抑えられた水運用計画の再計画が可能となる。
【0087】
また、水運用計画においては、水の安定供給、ポンプ、バルブ等の設備の省エネ化を如何に行うかが重要であるところ、本発明の実施の形態によれば、計画変更の範囲が抑えられた水運用計画の再計画が可能となるため、余計なポンプ、バルブ等の設備を稼働させることがなくなり、消費電力を低減することができる。その結果、水の安定供給を実現しつつ、従来に比べ、より一層、上述した設備の省エネ化を実現し、環境負荷を低減するとともに、地球環境にやさしい社会の実現にも寄与することができる。また、近年は温暖化の影響等により突然の豪雨が多く、予測困難な降水量の変化が頻繁に生じる傾向にあり、浄水場や配水池などの水道施設における水運用状況の変化も多く発生しうる。本発明の実施の形態によれば、このような水運用に関する予測困難な環境変化が多く発生した場合でも、オペレータの運転変更の負担を大きくすることなく、水運用計画の再計画が可能となる。
【0088】
以上、図面を用いて詳細に説明したが、本発明は上述の種々の例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、図15に示したフローチャートでは、ステップS1502における水融通候補の各配水池Cの受水残塩濃度低下リスクを算出する処理、およびステップ1503における水融通候補の各配水池Cの貯水残塩濃度低下リスクを算出する処理を行うこととした。しかし、例えば、市町村のような規模が一定程度小さいサイトでは、浄水場から配水池までの距離や配水池間の距離が近くなり、水融通候補の各配水池Cが配水池Aに対して水融通を行っても、浄水場からの送水の流れの変化(流達時間の増加)が生じにくく、配水池の受水の残塩濃度の低下を考慮しなくてもよい場合がある。
【0089】
このような場合には、流達時間の増加が一定程度増加しない(例えば、所定の閾値以上に流達時間が増加するという条件を満たさない)ことを前提に、ステップS1502の処理を行わずに水融通を行う配水池の選定を行ってもよい。換言すれば、水運用計画支援装置は、選定された配水池から制約違反が発生する配水池への水融通を行ったときの送水の流れの変化が上記のような所定の条件を満たさない場合、受水の残塩濃度の高さに基づく配水池の選定を行わないように制御してもよい。すなわち、本システムを適用する浄水場や配水池などの水道施設を有したサイトの規模の大きさにより、受水残塩濃度低下リスクを算出する処理を実行するか否かを選択可能としてもよい。これにより、水運用を行う事業者の規模に応じて処理負荷を考慮しつつ、計画変更の範囲が抑えられた水運用計画の再計画が可能なシステムを提供することができる。
【符号の説明】
【0090】
101…水運用計画支援装置
102…上水道システム
103、104…浄水場
105、106、107、108、109…配水池
110、111,112、113…配水エリア
114…監視制御システム
115…ネットワーク
121…入力部
122…表示部
123…施設情報登録部
124…計測データ取得部
125…水需要予測部
126…水運用計画部
127…水運用計画提示部
128…水運用計画指示部
129…再計画判定部
130…水融通調整余力算出部
131…残塩濃度低下リスク判定部
132…備蓄水量不足リスク算出部
133…水融通配水池選定部
134…水運用計画修正部
141…浄水場情報管理テーブル
142…配水池情報管理テーブル
143…配水エリア情報管理テーブル
144…管路情報管理テーブル
145…計測データ管理テーブル
146…水需要予測結果管理テーブル
147…水運用計画管理テーブル
図1
図2
図3
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図24A
図24B