(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】エアタイト構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/32 20060101AFI20241209BHJP
F03D 80/80 20160101ALI20241209BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20241209BHJP
E02D 27/52 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
E02D27/32 Z
F03D80/80
F03D13/25
E02D27/52 A
(21)【出願番号】P 2021191350
(22)【出願日】2021-11-25
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】中島 与博
(72)【発明者】
【氏名】浅香 康弘
(72)【発明者】
【氏名】島田 龍市
(72)【発明者】
【氏名】蒲田 幸穂
(72)【発明者】
【氏名】長崎 耕欣
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-531436(JP,A)
【文献】国際公開第2020/261593(WO,A1)
【文献】特開2011-089469(JP,A)
【文献】特開2003-336271(JP,A)
【文献】国際公開第2020/106146(WO,A1)
【文献】特開2013-164031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00-27/52
F03D 1/00-80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋上構造物の筒状をなす脚部の内部空間に設けられ、前記内部空間に侵入している海水の海水面に接する海水環境空間を上方の通常環境空間から気密に封止するエアタイト構造であって、
前記海水面の上方で水平に設けられ前記内部空間を上下に仕切る水平板材と、
前記水平板材の下面に設けられ前記海水環境空間内のガスを通過させて上方に送るためのガス抜き穴と、
前記水平板材の下面に接合された複数の梁材を有し前記水平板材を補強する補強部と、を備え、
前記補強部は、
前記梁材を横切るように設けられ、前記水平板材の前記下面に浮いて溜まるガスを前記下面に沿って水平方向に通過させるガス通過路を有する、エアタイト構造。
【請求項2】
前記梁材が中空構造をなしており、前記補強部は前記梁材の中空部を前記海水環境空間から気密に封止する蓋材を更に有する、請求項1に記載のエアタイト構造。
【請求項3】
前記内部空間内の海水に浸漬された防食電極を有する電気防食設備の上方に設けられている、請求項1又は2に記載のエアタイト構造。
【請求項4】
前記ガス抜き穴と、前記水平板材よりも上方で前記脚部の外面に設けられ前記ガスを前記脚部の外部に排出するためのガス排出口と、を繋いで前記通常環境空間内を通過するベンチレーションパイプを更に有する、請求項1~3の何れか1項に記載のエアタイト構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上構造物のエアタイト構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の洋上構造物として、下記特許文献1に記載の洋上風力発電機が知られている。この種の風力発電機は、海底から上空に延びる脚部の上端に、ナセル及びブレードを含む風力発電機本体が設置された構造をなしている。筒状の構造をなす脚部の中空部には、風力発電機の運転管理を行うための管理設備が設けられる。一方、管理設備よりも下方においては、脚部の中空部に外部の海水面と同じ高さまで海水が侵入している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような風力発電機の脚部内においては、管理設備の塩害を抑制するために、海水が浸入している領域を管理設備の領域から気密に封止するエアタイト構造を設置することが考えられる。エアタイト構造は、例えば脚部内を上下に分ける水平板材を有する。水平板材よりも下方でガスが発生する場合、このガスの上昇が水平板材で遮られ当該水平板材近傍に浮いて溜まることが考えられる。この場合には、水平板材にガス抜き穴を設け、当該ガス抜き穴を通じて上記ガスを水平板材の上方に抜き出し、最終的には脚部の外部に排出するなどして処分する。一方、例えば水平板材の下面に梁材を設置するなどの補強構造によって水平板材の強度を確保することも必要である。そうすると、この補強構造によってガス抜き穴へのガスの円滑な移動が妨げられる虞もある。
【0005】
本発明は、洋上構造物の脚部内で海水面に接する領域をその上方の領域から気密に封止するエアタイト構造において、海水面に接する領域側で発生するガスを円滑に排出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエアタイト構造は、洋上構造物の筒状をなす脚部の内部空間に設けられ、内部空間に侵入している海水の海水面に接する海水環境空間を上方の通常環境空間から気密に封止するエアタイト構造であって、海水面の上方で水平に設けられ内部空間を上下に仕切る水平板材と、水平板材の下面に設けられ海水環境空間内のガスを通過させて上方に送るためのガス抜き穴と、水平板材の下面に接合された複数の梁材を有し水平板材を補強する補強部と、を備え、補強部は、梁材を横切るように設けられ、水平板材の下面に浮いて溜まるガスを下面に沿って水平方向に通過させるガス通過路を有する。
【0007】
梁材が中空構造をなしており、補強部は梁材の中空部を海水環境空間から気密に封止する蓋材を更に有する、こととしてもよい。本発明のエアタイト構造は、内部空間内の海水に浸漬された防食電極を有する電気防食設備の上方に設けられている、こととしてもよい。本発明のエアタイト構造は、ガス抜き穴と、水平板材よりも上方で脚部の外面に設けられガスを脚部の外部に排出するためのガス排出口と、を繋いで通常環境空間内を通過するベンチレーションパイプを更に有する、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、洋上構造物の脚部内で海水面に接する領域をその上方の領域から気密に封止するエアタイト構造において、海水面に接する領域側で発生するガスを円滑に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のエアタイト構造が適用される風力発電機の正面図である。
【
図2】風力発電機のプラットフォーム近傍を拡大して示す斜視図である。
【
図3】風力発電機の脚部の一部を一部破断して示す斜視図である。
【
図4】(a)は、エアタイトプラットフォームを下方から見上げた状態を示す斜視図であり、(b)は、エアタイトプラットフォームの底面図である。
【
図5】(a)は梁材の斜視図であり、(b)は、ガス通過路近傍を拡大して示す側面図であり、(c)はその斜視図である。
【
図6】(a)は、変形例に係るガス通過路近傍を拡大して示す側面図であり、(b)はそのガス通過路が形成された梁材の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係るエアタイト構造の実施形態について詳細に説明する。以下の説明において同一又は相当する要素には図面で同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0011】
図1は、本実施形態のエアタイト構造が適用される洋上構造物の一例として、風力発電機1を示す正面図である。図に示されるように、風力発電機1は、例えば、海底Bに設けられており、洋上風力発電を行う。但し、風力発電機1は、海洋に限られず、例えば、湖又は河川等に設けられていてもよい。風力発電機1は、海底Bから海水面上に突出して鉛直に延びる脚部41と、脚部41の上端部に取付けられた発電機本体42と、を備えている。
【0012】
発電機本体42は、ナセル5と、ナセル5に取り付けられたブレード6と、を備える。ナセル5の内部には発電機及び増速器等が収容されており、例えば、増速器からはローター軸がナセル5の外部に突出している。ブレード6は、ナセル5のローター軸に固定されている。風力発電機1は、例えば、3枚のブレード6を備える。ブレード6が風を受けて回転すると、この回転はナセル5の内部の増幅器により一定の回転数に上げられて、この回転運動はナセル5の内部の発電機によって電力に変換される。例えば、ナセル5は、風向風速計を備えており、風速及び風向に対応してローターの向きとブレード6の角度を制御することにより、効率的な発電を行う。
【0013】
脚部41は、海底Bに打設されたモノパイルである基礎2と、基礎2の上方に接続されたトランジションピース3と、トランジションピース3の更に上方に接続されたタワー4と、を備える。基礎2、トランジションピース3、及びタワー4の各本体部は、概ね円形断面をなし互いに同軸で鉛直方向に配置されている。なお、基礎2は、モノパイルの基礎形式に代えて、トリパイル式の洋上風力基礎、又はジャケット式の洋上風力基礎を備えていてもよく、基礎の形式は特に限定されない。
【0014】
基礎2の上端部は海水面下の高さに位置しテーパー形状をなしている。トランジションピース3の下端部は基礎2の上端部のテーパー形状に対応する円錐内側面を有しており、この下端部が基礎2の上端部に被せられるようにして、トランジションピース3が基礎2上に設置されている。施工時には、基礎2上でトランジションピース3の鉛直度が調整された上で、トランジションピース3の下端部と基礎2の上端部との間にグラウトが充填される。このグラウトを介して基礎2とトランジションピース3とが接合(グラウト接合)されており、トランジションピース3の鉛直度が確保され、ひいては風力発電機1の鉛直度が確保されている。タワー4は、例えばコンクリート製又は鋼製の鉛直柱であり、トランジションピース3の上端部にボルト接合されている。
【0015】
図2は、トランジションピース3とタワー4とのボルト接合部近傍を拡大して示す斜視図である。
図2に示されるように、トランジションピース3の内部には風力発電機1の運転や管理を行うための複数層の内部プラットフォーム9が設けられている。内部プラットフォーム9同士の間は、梯子等を介して作業者が移動可能である。更にトランジションピース3の上端部には、外周面3aから外側に水平に張出した外部プラットフォーム10が設けられている。また、トランジションピース3にボルト接合されたタワー4の下端部には、タワー4の内部に出入りするための出入口11が設けられている。風力発電機1の運転管理を行う作業者は、海水面近傍の着船部51(
図1)に接舷された船舶から梯子で外部プラットフォーム10に移動する。そして作業者は、出入口11のドアを開けてタワー4の内部に入り、更に内部の梯子等を通じて内部プラットフォーム9にアクセスすることができる。外部プラットフォーム10は、上記のように作業員のアクセス経路の他、資材の搬入、搬出、仮置き等の目的でも使用され、例えばダビットクレーン(図示せず)が外部プラットフォーム10上に設置される。
【0016】
図1に示されるように、基礎2の円柱壁には、海底Bのケーブルを脚部41の内部空間43内に引き込むためのケーブル穴45が海底Bに近い高さの位置に設けられており、更にケーブル穴45の上方において海水を内部空間43に出入りさせる連通穴47が設けられている。従って、脚部41の内部空間43にはケーブル穴45及び連通穴47を通じて海水が侵入しており、外部の海水面Wと同じ高さで内部空間43内にも海水面W1(
図3)が存在している。前述のような複数の内部プラットフォーム9(
図2)はすべて、上記の海水面W1よりも高い位置に配置されている。なお、ここで「海水面W」とは平均海水面を意味する。
【0017】
図3は、脚部41の一部を一部破断して示す斜視図である。複数の内部プラットフォーム9には、下部プラットフォーム53と、エアタイトプラットフォーム55と、が含まれている。下部プラットフォーム53は複数のうち最も下層に位置する内部プラットフォーム9であり、エアタイトプラットフォーム55は下から2層目の内部プラットフォーム9である。なお、エアタイトプラットフォーム55よりも上層の内部プラットフォーム9には、脚部41内の電気ケーブルの処理等が行われるケーブルターミネーションプラットフォーム等が含まれるが、これらの図示及び詳細な説明は省略する。
【0018】
下部プラットフォーム53は、トランジションピース3を鉛直度調整しながら基礎2に設置する作業を行うためのプラットフォームである。例えば、下部プラットフォーム53の外周縁部には、複数の高さ調整装置53aが周方向に複数配列され設けられている。高さ調整装置53aはトランジションピース3に固定されており、基礎2の上端面に反力を取ったジャッキによってトランジションピース3の各位置の高さ調整を行う。このような複数の高さ調整装置53aを用いてトランジションピース3の鉛直度が調整された上で、トランジションピース3の下端部と基礎2の上端部との間にグラウトが充填される。内部空間43において、下部プラットフォーム53の下方には、前述の海水面W1が存在している。
【0019】
前述のように内部空間43には海水が浸入しており、海水面W1よりも下方においては基礎2の内壁面2bが海水に接している。基礎2は円形鋼管からなるモノパイルで構成されているので、基礎2の内壁面2bの海水による腐食を防止する必要がある。このため、下部プラットフォーム53には、内壁面2bの防食のための電気防食設備57が設けられている。電気防食設備57は、下部プラットフォーム53から垂下された複数の防食電極59を備えている。防食電極59としては、例えば白金めっき系電極や金属酸化物被覆電極が採用される。
【0020】
下部プラットフォーム53の平面視における中央にはケーブル類を挿通するための円形の開口53bが設けられている。各防食電極59は開口53bを通じて下部プラットフォーム53から自重で鉛直下方に垂れ下がっている。防食電極59の下端は海水面W1の下方に達し海水中に浸漬されている。複数の防食電極59は、その下端同士が異なる高さに配置されるように、長さが調整されている。更に、電気防食設備57は、下部プラットフォーム53において防食電極59と基礎2の内壁面2bとを電気的に接続し両者の間に電位差を生じさせる電源装置58を有している。これにより、いわゆる外部電源方式の電気防食回路が形成され、防食電極59と基礎2の内壁面2bとの間に海水を通じて電流が流れることで、内壁面2bの腐食が抑制される。
【0021】
この種の電気防食設備57では、防食電極59及び内壁面2bから塩素ガスと水素ガスとが発生する。このうち塩素ガスは水に溶解し易いために海水に溶け込むか、または空気よりも重いために海水面W1近傍に滞留する。その一方、水素ガスは空気よりも軽いために海水面W1から上昇し下部プラットフォーム53をすり抜けて更にエアタイトプラットフォーム55に向けて上昇していく。この水素ガスの処理については後述する。
【0022】
また、上記のように内部空間43には海水が浸入していることから、内部空間43内においては海水面W1の上方の空間であっても塩害により金属等の腐食が発生し易いといった問題がある。そこで、内部空間43内においては、海水面W1と接する空間が、エアタイトプラットフォーム55によって、当該エアタイトプラットフォーム55よりも上方の空間から気密に封止されている。以下では、内部空間43のうち、エアタイトプラットフォーム55よりも下方の空間であり海水面W1と接する空間を「海水環境空間43B」と呼び、エアタイトプラットフォーム55よりも上方の空間を「通常環境空間43A」と呼ぶ。
【0023】
図4(a)は、エアタイトプラットフォーム55を下方から見上げた状態を示す斜視図であり、
図4(b)は、エアタイトプラットフォーム55の底面図である。
図3及び
図4に示されるように、エアタイトプラットフォーム55は、内部空間43内を海水環境空間43Bと通常環境空間43Aとに上下2分して仕切る円形平板状の水平板材61を備えている。水平板材61の周縁部はトランジションピース3の内壁面3bに対して隙間が無いように接合されている。このように内部空間43の断面を横切る水平板材61により海水環境空間43Bと通常環境空間43Aとが気密に仕切られ、通常環境空間43Aにおける塩害が抑制される。
【0024】
なお、
図3に示されるように、エアタイトプラットフォーム55においては、ケーブルを通過させるためのケーブル穴62aや、作業者が通過するための開閉ハッチ62b等が、水平板材61を貫通する穴として設けられている。しかし、これらの穴には気密処理が施されており、水平板材61による気密性を損うものではない。
図4においては、図の煩雑化を回避するために、ケーブル穴62a及び開閉ハッチ62bの図示を省略する。
【0025】
水平板材61の下面61bには、当該水平板材61を補強する補強部63が設けられている。補強部63は井桁状に配置され水平板材61の下面61bに溶接された複数の梁材65を有している。梁材65は断面U字状の鋼材からなり、例えば
図5(a)に示されるように、角型鋼管が2分割されて製作されたものであってもよい。エアタイトプラットフォーム55のうち海水環境空間43Bに接している部分(水平板材の下面61b、梁材65の表面など)には、防食塗装等が施されていてもよい。
【0026】
水平板材61の下面61bには、内壁面3bの近傍に位置するガス抜き穴67が形成されている。また、水平板材61よりも上方の位置において、ガス抜き穴67の近傍には、トランジションピース3の外壁を貫通するガス排出口69が形成されている。そして、ガス抜き穴67とガス排出口69と接続するように、ベンチレーションパイプ68が設けられている。ベンチレーションパイプ68は、通常環境空間43A内を通過してL字状に延びている。海水環境空間43Bは、その上端において、ベンチレーションパイプ68内を介して脚部41の外部に連通されている。この構造によれば、前述のように電気防食設備57で発生した水素ガスの上昇が水平板材61に遮られて水素ガスは下面61bの下に浮いて溜まり、その後水素ガスは、ガス抜き穴67を通過してベンチレーションパイプ68内を通過し、ガス排出口69を介して脚部41の外部に排出される。
【0027】
ここで、水平板材61の下面61bに設けられた補強部63の凹凸が、上記水素ガスの円滑な排出の妨げになる虞もある。すなわち、例えば、仮に補強部63の梁材65が完全な井桁構造であれば、水素ガスの一部は、平面視において梁材65に四方を完全に囲まれた四角形の閉鎖領域内に溜まり、この水素ガスが円滑にガス抜き穴67に移動しないことも考えられる。そこで、本実施形態における補強部63では、上記のような閉鎖領域が形成されないように構成されている。
【0028】
具体的には、
図4に示されるように、補強部63には必要な箇所にガス通過路71が形成されている。
図4(b)に示されるように、この補強部63の梁材65の配置例では、中央の2つの領域73が4つの梁材65に完全に囲まれた閉鎖領域になり得る。従って、上記4つの梁材65のうちの1つである梁材65Aの一部が切り欠かれることにより、当該梁材65Aを横切るガス通過路71が形成されている。ガス通過路71が設けられた箇所では、水平板材61の下面61bが露出している。この構成により、領域73に浮いて溜まる水素ガスは、ガス通過路71を通過しながら隣接する領域へ下面61bに沿って水平に移動する。すなわち、このガス通過路71は、水平板材61の下面61bに浮いて溜まるガスを下面61bに沿って水平方向に通過させる機能を有している。
【0029】
図5(b)は、ガス通過路71近傍を拡大して示す側面図であり、
図5(c)はその斜視図である。図に示されるように、梁材65Aの長手方向の一部が切断され除去されることで、ガス通過路71が形成されている。この場合、ガス通過路71における梁材65Aの切断端面が当該梁材65の延在方向に対して傾斜していてもよい。また、梁材65Aの上記切断端面においては、梁材65Aの中空部を海水環境空間43Bから気密に封止するための蓋材75が設けられている。蓋材75は例えば四角形の鋼板小片であり、梁材65の切断端面及び下面61bに溶接されている。このような蓋材75の存在により、梁材65Aの内部に施す防食塗装等を省略することができる。
【0030】
更に、
図4(b)に示されるように、補強部63においては、梁材65が周囲の壁面(トランジションピース3の内壁面3b)まで到達していない。従って、梁材65の外周側端部と内壁面3bとの各間隙も、ガス通過路77として機能する。このガス通過路77も、梁材65を横切るように設けられ、水平板材61の下面61bに浮いて溜まる水素ガスを下面61bに沿って水平方向に通過させる機能を有する。なお、このガス通過路77における梁材65の切断端面にも、上記のような蓋材75が設けられることで、梁材65Aの中空部が海水環境空間43Bから気密に封止されている。
【0031】
補強部63においては、以上のようなガス通過路71,77が、必要箇所に形成されることにより、例えば、平面視において梁材65又は内壁面3bによって四方を完全に囲まれた閉鎖領域が存在していない。すなわち、ガス通過路71,77によって、下面61b側の各領域が連続的に繋がり、各領域の水素ガスはガス通過路71,77を通り下面61bに沿って、ガス抜き穴67に円滑に移動することができる。その結果、水平板材61の61b近傍に集まる水素ガスが、ガス抜き穴67、ベンチレーションパイプ68内、及びガス排出口69を介して脚部41の外部に円滑に排出される。
【0032】
なお、ガス通過路71に代えて、
図6(a)に示されるようなガス通過路79が設けられてもよい。ガス通過路79は、梁材65Aのうち水平板材61の下面61bに接する上縁部が半円形状に切り欠かれて形成されたものである。
図6(b)に示されるように、梁材65Aの対向する鉛直板部の上縁部に半円形状の切欠き部81,81が設けられ、切欠き部81,81に架け渡すように半円筒状の蓋材83が溶接される。このようなガス通過路79は、ガス通過路71と同様に、梁材65Aを横切るように設けられ、水平板材61の下面61bに浮いて溜まるガスを下面61bに沿って水平方向に通過させる機能を有している。また、蓋材83の存在により、梁材65Aの中空部が海水環境空間43Bから気密に封止され、梁材65Aの内部に施す防食塗装等を省略することができる。
【0033】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。例えば、上記実施形態では、補強部63の梁材65が断面U字状で中空構造をなすものであったが、これに代えて、例えばH鋼などの中実構造の梁材が補強部63に採用されてもよい。また、梁材65の配置は
図4のものには限定されず、適宜変更されてもよい。この場合においても、平面視において梁材65又は内壁面3bによって四方を完全に囲まれた閉鎖領域が存在しなくなるように、必要な箇所にガス通過路71,77,79が形成されればよい。また、上記実施形態では、本発明のエアタイト構造部を、洋上風力発電機1の脚部41内のエアタイトプラットフォーム55に適用した例を説明したが、本発明は他の洋上構造物にも適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…洋上風力発電機(洋上構造物)、41…脚部、43…内部空間、43B…海水環境空間、43A…通常環境空間、55…エアタイトプラットフォーム、57…電気防食設備、59…防食電極、61…水平板材、61b…下面、63…補強部、65,65A…梁材、67…ガス抜き穴、69…ガス排出口、68…ベンチレーションパイプ、71,77,79…ガス通過路、75,83…蓋材、W1…海水面。