(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】ケタミンを含む新規製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/13 20060101AFI20241209BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241209BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20241209BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241209BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241209BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241209BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241209BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241209BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241209BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20241209BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20241209BHJP
【FI】
A61K31/13
A61P17/00
A61P25/24
A61K9/48
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/44
A61K47/36
A61K47/08
A61K47/42
(21)【出願番号】P 2021520474
(86)(22)【出願日】2019-06-17
(86)【国際出願番号】 GB2019051684
(87)【国際公開番号】W WO2019243791
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-15
(32)【優先日】2018-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520500130
【氏名又は名称】ニューロセントルクス ファーマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ライリー カーメル
【審査官】清野 千秋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/051259(WO,A1)
【文献】米国特許第09931303(US,B1)
【文献】特表2016-510792(JP,A)
【文献】特開2003-201254(JP,A)
【文献】国際公開第2017/180589(WO,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02967066(FR,A1)
【文献】特表2015-526505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/13
A61P 25/00
A61P 17/00
A61P 25/24
A61K 9/48
A61K 47/14
A61K 47/10
A61K 47/26
A61K 47/44
A61K 47/36
A61K 47/08
A61K 47/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)
(a)ケタミン又はその薬学的に許容される塩若しくはエナンチオマー;
(
b)2R,6R-ヒドロキシノルケタミン塩酸塩;
(
c)2S,6S-ヒドロキシノルケタミン塩酸塩;
(
d)cis-6-ヒドロキシノルケタミン塩酸塩
;
(
e)ノルケタミン塩酸塩;
(
f)(R)-ノルケタミン塩酸塩;及び
(
g)(S)-ノルケタミン塩酸塩;
からなる群から選択され
る有効薬剤;
(ii)
(a)ゲルシア44/14;
(b)ゲルシア48/16及びPEG1500;並びに
(c)ポリソルバート80及びPEG1500;
からなる群から選択される1つ又は複数の担体化合物/組成物;
(iii)2つのD-グルコース残基、並びにL-ラムノース及びD-グルクロン酸それぞれ1残基からなる四糖ポリマーの繰り返し単位を含むガムである、粘度調整剤;並びに
(iv)任意に酸化防止剤;
を含む、経口投与用のカプセル化された組成物。
【請求項2】
前記有効薬剤が、ケタミン塩酸塩、ラセミ(R,S)ケタミン塩酸塩、R-ケタミン、S-ケタミン、及び(S)-(+)-ケタミン塩酸塩からなる群から選択される、請求項1に記載のカプセル化された組成物。
【請求項3】
(i)1%~50%(v/v%)の前記有効薬剤;又は
(ii)2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%(v/v%)のケタミン塩酸塩;
を含む、請求項1
又は2に記載のカプセル化された組成物。
【請求項4】
前記1つ又は複数の担体化合物が、
(i)コポリマー;
(ii)トリグリセリド;
(iii)ポロキサマー;
(iv)ポリソルバート;
(v)ポリエトキシラート;
(vi)ポリエチレングリコール;
(vii)ポリグリセリド;
(viii)ポロキサマー124;
(ix)ポリソルバート80;
(x)ポリソルバート20;
(xi)コリフォールEL;
(xii)コリフォールRH40;
(xiii)ポリエチレングリコール(PEG)1000;
(xiv)PEG1500;
(xv)PEG2000;
(xvi)PEG6000;
(xvii)PEG8000;
(xviii)コリフォールHS15;
(xix)ゲルシア44/14;
(xx)ゲルシア48/16;及び
(xxi)ゲルシア50/13;
からなる群から選択される、及び/又は
前記酸化防止剤がブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)である、
請求項1
~3のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項5】
前記1つ又は複数の担体化合物が、
(i)1%から50%(v/v%)のPEG1500;
(ii)7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、26%、27%、30%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%又は49%(v/v%)のPEG1500;
(iii)9.19%(v/v%)のPEG1500;
(iv)27.57%(v/v%)のPEG1500;
(v)45.95%(v/v%)のPEG1500;
(vi)1%から20%(v/v%)のPEG6000;
(vii)2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、15%、17%又は19%(v/v%)のPEG6000;
(viii)4.6%(v/v%)のPEG6000;及び
(ix)9.19%(v/v%)のPEG6000;
からなる群から選択される、請求項1~
4のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項6】
前記担体化合物がゲルシア44/14を5%から70%(v/v%)で含み、前記担体化合物が20.68%(v/v%)のゲルシア44/14、50.55%(v/v%)のゲルシア44/14、55.14%(v/v%)のゲルシア44/14又は59.74%(v/v%)のゲルシア44/14を含んでもよい、請求項1~5のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項7】
前記担体化合物がポリソルバート80を1%から30%(v/v%)で含み、前記担体化合物が4.6%(v/v%)のポリソルバート80;11.49%(v/v%)のポリソルバート80又は13.79%(v/v%)のポリソルバート80を含んでもよい、請求項1~5のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項8】
前記担体化合物がゲルシア48/16を10%から70%(v/v%)で含み、前記担体化合物が50.55%(v/v%)のゲルシア48/16を含んでもよい、請求項1~5のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項9】
前記粘度調整剤が、
(i)2つのアシル置換アセタート及びグリセラートを有するゲランガム;
(ii)スフィンゴモナス・エロディア(Sphingomonas elodea)由来のガム;
(iii)2つのアシル置換基を有する高アシルゲランガム;及び
(iv)ケルコゲル(登録商標)CGHA又はケルコゲル(登録商標)LT100;
からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項10】
前記粘度調整剤がケルコゲル(登録商標)CGHAを20%から50%(v/v%)で含み、前記粘度調整剤が27.57%(v/v%)又は32.17%(v/v%)のケルコゲル(登録商標)CGHAを含んでもよい、請求項1~9のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項11】
ケタミン塩酸塩、並びに
(i)PEG1500;
(ii)PEG6000;
(iii)ゲルシア44/14;
(iv)ポリソルバート80;
(v)ゲルシア48/16;
(vi)ケルコゲル(登録商標)CGHA;及び
(vii)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
からなる群から選択される1つ又は複数の賦形剤、担体又は希釈剤を含む、請求項1に記載のカプセル化された組成物。
【請求項12】
(i)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;ゲルシア44/14;及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);
(ii)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;PEG6000;ゲルシア44/14;ポリソルバート80;及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);
(iii)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;PEG6000;ゲルシア44/14;及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);
(iv)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;PEG1500;ポリソルバート80;及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);
(v)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;PEG1500;ゲルシア48/16;及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);
(vi)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;PEG1500;ゲルシア44/14;ポリソルバート80;及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);
(vii)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;ゲルシア44/14;ポリソルバート80及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);又は
(viii)ケタミン塩酸塩;ケルコゲル(登録商標)CGHA;PEG1500;ゲルシア44/14及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT);
を含む、請求項11に記載のカプセル化された組成物。
【請求項13】
(i)疼痛の管理、治療及び/又は予防;
(ii)疼痛と関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防;
(iii)精神障害の治療及び/又は予防;
(iv)精神的健康障害の治療及び/又は予防;
(v)特定の神経障害の治療及び/又は予防;
(vi)皮膚障害の治療及び/又は予防;
(vii)肢端紅痛症の治療及び/又は予防;
(viii)表皮水疱症(EB)の治療及び/又は予防;
(ix)腕橈骨掻痒症の治療及び/又は予防;又は
(x)治療抵抗性うつ病の治療;
において使用するための、請求項1~12のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項14】
(i)硬カプセルにカプセル化された;及び/又は
(ii)前記カプセルがゼラチンを含む;
請求項1~13のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項15】
乱用防止性の組成物である、請求項1~12及び14のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項16】
前記有効薬剤の即放性を示す、請求項1~12及び14のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【請求項17】
前記組成物から前記有効薬剤の溶出が、30~45分後の前記有効薬剤の80%回収と等しい、請求項1~12及び14のいずれか1項に記載のカプセル化された組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はケタミンを含む新規製剤を提供する。特に、本開示はケタミン塩酸塩を含む乱用防止製剤に関する。本製剤は、疼痛、精神/精神的健康/気分障害、並びに自殺念慮及び行動を含む様々な臨床兆候の治療、予防、管理及び/又は制御における経口使用用でよい。
【背景技術】
【0002】
ケタミンは、世界保健機関によるヒトの健康に関する必須医薬品のリストに掲載されている。ヒト及び動物の健康のための麻酔剤として医学的に最も知られており、この目的のために規制当局により「承認」又は「認可」されている。鎮痛用にも世界中で用いられるが、この用途では認可されていない。1960年代に発見されたにも関わらず、様々なヒトの疾患及び障害を治療するケタミンの最大限の可能性は、最近になってようやく理解されてきている。
特定の患者に対するケタミンの有用性についての認識は、各分野の一部の専門家に限定されており、多くの患者は、大いに苦しく、働くことができず、生活や社会に十分に参加することができないままである。認可された1つの形式が注射剤型であり、これは費用のかかる入院又は設備及び患者の不便を意味する。
経口ケタミン送達に関する医療及び商業的ニーズは満たされていない。現在、ケタミンは注射可能な麻酔剤、鼻腔用スプレーに承認、分類され、筋肉内(IM)又は静脈(IV)使用される。認可されたヒトへの医学的使用形態は、ラセミ(R,S)-ケタミン塩酸塩及びS-ケタミン塩酸塩の2つである。様々な疼痛状態、気分障害、精神問題及び精神的健康問題、並びに自殺念慮及び行動を治療するため、ケタミンは注射剤型で「適応外」に使用される。ケタミンはこれらの状態のいずれに対しても承認されていない。
特に米国では、IV剤型を用いた多くの研究及び患者経験価値により、「ケタミン治療センター(ketamine-treatment-centres)」が急激に増加している。多くの治療センターでは、ラセミ型ケタミン塩酸塩が使用されている。
【0003】
経口投与されるケタミンは、患者に利点を有する場合がある。しかし、上記臨床領域のいずれかにおいて、このように投与されるケタミンの有効性が商業的に証明されているかどうかはまだ不明である。市販の経口剤型が無いため、ほぼすべての臨床研究は市販のIV剤型を用いて学問的に行われている。
ケタミンは、その水溶性及び脂溶性のため、静脈内、筋肉内、経口、及び局所経路により吸収される。経口投与されると、ケタミンは初回通過代謝を受け、肝臓でCYP3A4(主)、CYP2B6(副)、及びCYP2C9(副)アイソエンザイムにより(N-脱メチル化によって)ノルケタミンに、最終的にデヒドロノルケタミンに生体内変化する。ノルケタミンからデヒドロノルケタミンへの生体内変化における中間代謝は、CYP2B6及びCYP2A6によるノルケタミンからヒドロキシノルケタミンへのヒドロキシル化である。デヒドロノルケタミン、続いてノルケタミンは、尿で検出される最も一般的な代謝物である。ケタミンの主要な代謝物として、ノルケタミンは麻酔剤の3分の1から5分の1の効力であり、この代謝物の血漿中濃度は経口投与後のケタミンより3倍高い。経口経路によるバイオアベイラビリティは17~20%に達し;他の経路によるバイオアベイラビリティは筋肉内で93%、鼻腔内で8~50%、舌下で30%、直腸で30%である。静脈内で1分、筋肉内で5~15分、経口で30分以内にピーク血漿濃度に達する。臨床環境におけるケタミンの作用持続時間は、筋肉内で30分~2時間、経口で4~6時間である。
【0004】
S-ケタミンはヒトにおいてラセミ混合物より強力であり、多くの精神活性副作用を示すことが知られている。R-ケタミンについて、小動物による一部のデータは利用できるが、ヒトに有効性があり、副作用が低下するかは不明である。S又はエスケタミンが、R-ケタミン又はラセミケタミンよりも医学的に有用な薬理作用を有することは、多くの研究が示唆している。しかしながら、マウスでは、R又はアルケタミンの迅速な抗うつ効果が、エスケタミンより大きく、長く続くことが見出された。このように、抗うつ剤として、反対のことが述べられている(「RケタミンはSケタミンと比べて、強力で安全な抗うつ剤であると思われる」。「R-ケタミンはラパスチネルと比較して長続きする抗うつ剤である」ことも述べられている)。
ケタミンの代謝物は重要なようである。経口摂取すると、胃に到達したケタミンは、その後初回通過代謝を受け、大部分はノルケタミンに変換される。ノルケタミンは鎮痛作用を与え、副作用が低下したケタミンに類似の臨床的有益性を有すると仮定される。現時点で、ノルケタミンが有効な臨床治療であるかは不明である。他の代謝物、特にR-ケタミン由来の代謝物、つまり6-ヒドロキシノルケタミン又はR-ヒドロキシノルケタミン(HNK)は重要であることが仮定され、具体的に(2S,6S;2R,6R)-HNKは、マウスにおけるケタミンの抗うつ剤様効果に関与する。具体的に、(2R,6R)-HNKの投与はケタミン型抗うつ剤様効果を示し、ケタミンからHNKへの代謝変換の防止は、親化合物の抗うつ剤様効果を遮断したが、現時点で(2R,6R)-HNKのヒトにおける有益性を支持する証拠はない。
【0005】
ケタミンの光学異性体:
ケタミンは異なる光学異性体及び塩形態で存在する。これらの形態及び代謝物の一部は、肯定的な臨床的有用性を有することが示されており、副作用は増加又は減少する。多くの異性体、エナンチオマー及び塩形態について、注射可能な認可製品として利用できるS-エナンチオマー、及びラセミR,S塩酸塩以外は、ヒトへの有用性に関する証明が不足している。
ケタミンの所定のエナンチオマーの旋光度は、その塩及び遊離塩基形態間で変化することができる。(S)ケタミンの遊離塩基形態は右旋性を示すため、(S)(+)ケタミンと分類される。しかしながら、その塩酸塩は左旋性を示すため、(S)(-)ケタミン塩酸塩と分類される。その違いはシクロヘキサノン環の配座に由来する。遊離塩基及び塩酸塩の両方において、シクロヘキサノン環は椅子型配座を取るが、置換基の配向性は変動する。遊離塩基において、o-クロロフェニル基はエクアトリアル位を取り、メチルアミノ基はアキシアル位を取る。塩酸塩において、配置は反対となり、o-クロロフェニル基はアキシアル、メチルアミノ基はエクアトリアルである。ケタミンのすべての塩が遊離塩基と異なる旋光度を示すのではなく:(S)-ケタミン(R,R)-酒石酸塩は(S)ケタミンのように左旋性である。
【0006】
ケタミン機構:
ケタミンが異なる臨床領域で有効であるのに必要である完全な機構、経路及び経路作用の組合せは、現在不明である。ケタミンは主にNMDA拮抗薬として、より最近ではAMPARとして知られている。しかしながら、ケタミンはオピオイド、シグマ、ドーパミン、セロトニン、ムスカリン、ニコチン、及びエストロゲン受容体でも効果を有し、コリンエステラーゼ、セロトニン、ノルエピネフリン及びドーパミン再取り込み阻害薬、PCP部位2リガンドを阻害し、ナトリウムカルシウムチャネル、HCN1陽イオンチャネルを遮断し、一酸化窒素合成酵素を阻害する。
少しの例外(D2high受容体、ニコチン性アセチルコリン受容体(代謝物による)、ERα、及びHCN1チャネルとの相互作用を含む)を除いて、これらの作用はNMDA受容体のケタミンの拮抗作用よりはるかに弱く、これらの部位でのケタミンの活性を他の部位でのアロステリック結合が補うことが仮定されている。
デヒドロノルケタミン、ヒドロキシノルケタミン、及びノルケタミンを含むケタミンの代謝物は、KXa7R1細胞株(ラットニコチン性アセチルコリン受容体遺伝子をトランスフェクションしたHEK293細胞)において、麻酔域下及びナノモルのポテンシー(例えば、デヒドロノルケタミンについてはIC50=55nM)で、α7ニコチン性アセチルコリン受容体のネガティブアロステリックモジュレータとして働くことが見出されているが、ケタミン自体は同じ濃度(<1μM)で不活性であった。これらの発見は、NMDA受容体拮抗作用以外の手段により、代謝物がケタミンの薬力学に大いに寄与できることを示唆する。
【0007】
ケタミンがその強力で迅速に発現する抗うつ効果をどのようにもたらすのかについて、まだ完全に判明していない。いずれにせよ、脳におけるNMDA受容体の急性遮断は、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸受容体(AMPA受容体)を活性化させ、次に様々な下流シグナル伝達経路を調節して、辺縁系における神経伝達に影響を及ぼし、ケタミンのようなNMDA受容体拮抗薬の抗うつ効果をもたらすことが明らかにされている。このようなAMPA受容体の活性化の下流作用は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の上方制御、及びそのシグナル伝達受容体のトロポミオシン受容体キナーゼB(TrkB)の活性化、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)経路の活性化、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3)の不活性化、並びに真核生物伸長因子2(eEF2)キナーゼのリン酸化の阻害を含む。NMDA受容体の遮断に加えて、ヒドロキシノルケタミンとして知られるケタミンの活性代謝物もまた、又は代わりにケタミンの迅速に発現する抗うつ効果に関与する場合がある。ヒドロキシノルケタミンは、NMDA受容体と重要な相互作用をしないが、それにも関わらずAMPA受容体を同様に間接的に活性化する。「反報酬系」(中脳辺縁系報酬経路に投射、及び中脳辺縁系報酬経路を阻害し、他の辺縁領域を調節する)と呼ばれている辺縁系の脳の一部である外側手綱の急性阻害又はある意味「リセット」は、ケタミンの抗うつ効果の原因となる場合があることが、最近の研究で明らかになっている。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、カプセル化され、高い改ざん/乱用防止性を示し、許容可能な(又は好適な)溶出プロファイルを示し、保管中に安定している経口ケタミン製剤を提供する。
本明細書では、ケタミンを含む経口乱用抵抗(改ざん防止)性製剤を開示する。各製剤は、経口用として提供され、測定されたケタミン(別名「医薬品有効成分(API)」)用量を有する。これらの製剤は、追跡及びトレースするのがより容易であり、乱用防止/改ざん防止技術を含む。乱用防止性を有するのに加えて、本製剤は適当なAPI放出プロファイルを示す。例えば、本製剤は、有効成分(ケタミン)の制御放出及び/又は即放若しくは速放を示すことができる。
本開示は、ケタミン及び/又はその薬学的に許容される塩、エナンチオマー、誘導体若しくは代謝物を含む新規製剤を提供する。
【0009】
開示した製剤は、乱用防止、有効成分(ケタミン)安定性及び有利な溶出プロファイルを示す。
開示した製剤は経口投与用でよい。
開示した製剤は錠剤状に調製することはできない。
開示した製剤はカプセルとして提供することができる。例えば、開示した製剤は、硬カプセルにカプセル化してよい。
開示した製剤は、誤用及び乱用が防止(resisitant to)され得る。
開示した組成物は所定のAPI放出プロファイルを示すことができる。例えば、本製剤は制御放出特性を示してよい。例えば、APIは(本製剤から)ゆっくり又は直ちに放出されることができる。
なお、本明細書を通して、「含む(comprising)」という用語は、本発明の実施形態が顕著な特徴を「含む(comprise)」、つまり他の特徴も含んでよいことを示すのに用いられる。しかしながら、本発明に関して、「含む(comprising)」という用語は、本発明が関連する特徴「から本質的になる(consists essentially of)」又は関連する特徴「からなる(consists of)」実施形態も包含してよい。
【0010】
第1の態様において、本開示はケタミンを含んでよい新規製剤を提供する。
開示した製剤はケタミン懸濁液を含んでよい。
ケタミンは、不斉炭素原子を有する水溶性フェンサイクリジン誘導体であり;2つのエナンチオマーを有する。ケタミンは、肝臓でN-脱メチル化及び環ヒドロキシル化経路により代謝され、主な代謝物はノルケタミン及びそのヒドロキシル化誘導体である。
本製剤はケタミンの薬学的に許容される塩を含んでよい。
本製剤は、NMDA拮抗薬及び/又はAMPAR(α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸受容体)の調節因子であるケタミンの任意の形態を含んでよい。
本製剤は、ケタミンエナンチオマー、誘導体及び/又は代謝物を含んでよい。本明細書に記載の製剤(経口投与用)は、身体で1つ又は複数のケタミン代謝物に代謝されてよい。
本製剤は、ケタミン塩酸塩(非競合的NMDA受容体拮抗薬)を含んでよい。
本製剤は、ラセミ(R,S)ケタミン塩酸塩を含んでよい。
例として、本明細書に記載の製剤は、R-/S-ケタミン立体異性体の1つ又は両方を含んでよい。例えば、本製剤はR-ケタミン又はS-ケタミンのどちらかを含んでよい。
「ケタミン代謝物」という用語は、以下の化合物を含んでよい。
2R,6R-ヒドロキシノルケタミン塩酸塩(AMPA電流を増加させ;D-セリン(NMDAコアゴニスト)を減少させ、ケタミン関連副作用を有さない)
2S,6S-ヒドロキシノルケタミン塩酸塩(D-セリン(NMDAコアゴニスト)を減少させ;抗うつ剤である)
cis-6-ヒドロキシノルケタミン塩酸塩(AMPA電流を増加させ:抗うつ剤である)
(S)-(+)-ケタミン塩酸塩(NMDA受容体拮抗薬;神経保護効果を有するケタミン塩酸塩のエナンチオマー)
ノルケタミン塩酸塩(強力な非競合的NMDA拮抗薬;抗侵害受容性)
(R)-ノルケタミン塩酸塩(NMDA受容体調節因子及び鎮痛剤)
(S)-ノルケタミン塩酸塩(NMDA受容体調節因子及び鎮痛剤)。
なお、以下で用いられる「ケタミン」又は「有効成分」という用語は、上記すべてのケタミン型、塩、誘導体、エナンチオマー及び/又は代謝物を指し、包含すると解釈される。
【0011】
本製剤は、任意の好適な量のケタミンを含んでよい。例えば、本発明により提供される製剤の全容量のうち、本製剤は1%~70%(v/v%)のケタミン塩酸塩を含んでよい。例えば、本製剤は2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%又は65%(v/v%)のケタミン塩酸塩を含んでよい。
例えば、本開示の製剤は、約(例えば+/-1、2、3、4又は5%(v/v%))8%(v/v%)のケタミン塩酸塩を含んでよい。
【0012】
本製剤は、1つ又は複数の賦形剤、希釈剤及び/又は担体を更に含む。
賦形剤、希釈剤及び/又は担体は、機能に基づいて選択することができる。例えば、本明細書に記載の製剤は、以下の賦形剤を含んでよい。
(i)希釈剤;
(ii)担体.
(iii)溶媒
(iv)可塑剤
(v)界面活性剤
(vi)滑剤
(vii)分散剤
(viii)粘度調整剤
(ix)バイオアベイラビリティ調整剤
(x)乳化剤
(xi)経皮吸収促進剤
(xii)放出調整剤
(xiii)ゲル化剤
(xiv)安定剤
(xv)酸化防止剤
(xvi)pH調節剤/酸性調整剤;及び
(xvii)熱安定性/硬化調節剤。
各賦形剤、希釈剤及び/又は担体の正確な量(例えば容量(v/v%))は、製剤の所望の性質に応じて変わり得る。例えば、本発明者は、本製剤に存在する任意の担体化合物及び任意の粘度調整剤の相対量を調節することにより、有効薬剤の放出速度を調整(例えば、増加又は減少)することができることを見出している。いくつかの実施形態において、本製剤で用いられる担体剤の量は、本製剤で用いられる粘度調整剤の量より少なくてよい。他の実施形態において、本製剤で用いられる担体剤の量は、本製剤で用いられる粘度調整剤の量より多くてよい。有用な製剤は目的用量を達成するのに十分な量で医薬品有効成分(API:この場合、本明細書に記載されるケタミン)を含まなければならず、一方でそれと同時に乱用防止性を確実にするための任意の粘度調整剤のレベル、及び確実に本製剤を良好に加工することができるのに十分な濃度の担体賦形剤を維持することを当業者は理解するであろう。本明細書に記載の製剤はこれらの基準を満たしている。
【0013】
1つの実施形態において、本開示の製剤は、1つ又は複数の賦形剤と共にある量のケタミンを含んでよい。この賦形剤は、例えば様々な担体化合物/組成物、粘度調整剤、及び任意に酸化防止剤を含んでよい。
好適な担体は、例えばコポリマー(トリグリセリド、ポロキサマー、ポリソルバート、ポリエトキシラート、ポリエチレングリコール及びポリグリセリドからなる群から選択されるものを含む)を含んでよい。好適な担体は、例えばポロキサマー124、ポリソルバート80、ポリソルバート20、コリフォールEL、コリフォールRH40、ポリエチレングリコール1000、1500、2000、6000及び8000、コリフォールHS15、ゲルシア44/14、ゲルシア48/16、ゲルシア50/13を含んでもよい。本発明の製剤で使用するのに好適な担体は、例えばポリエチレングリコール(PEG)を含んでよい。例えば、有用な担体は、低分子量PEG、例えばPEG1500又はPEG6000を含んでよい。
本製剤がPEG1500を含む場合、本製剤は約1%から50%(v/v%)のPEG1500を含んでよい。例えば、有用な製剤は約7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、26%、27%、30%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%又は49%(すべての「%」値はv/v%)のPEG1500を含んでよい。例えば、使用する製剤は、9.19%(v/v%)、27.57%(v/v%)又は45.95%(v/v%)のPEG1500を含んでよい。
本製剤はPEG6000を含んでよく;例えば、本製剤は約1%から20%(v/v%)のPEG6000を含んでよい。例えば、有用な製剤は約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、12%、15%、17%又は19%(すべての「%」値はv/v%である)のPEG6000を含んでよい。例えば、使用する製剤は、4.6%(v/v%)又は9.19%(v/v%)のPEG6000を含んでよい。
製剤試験は、本製剤におけるある量のPEGが、本製剤の改ざん及び/又は乱用を妨げることを明らかした。
使用するPEG1500及び/又は6000の実際量が、(i)本製剤の所望の性質(例えば、(有効成分:ケタミンの)所望の粘度、安定性、溶出及び/又は乱用防止レベル)、並びに(ii)使用する有効成分並びに/又は任意の他の賦形剤/担体及び/若しくは希釈剤の量(v/v%)によって決まることを当業者は理解するであろう。
【0014】
使用する他の(又は追加の)担体は、ゲルシア44/14、ポリソルバート80及び/又はゲルシア48/16を含んでよい。
ゲルシア44/14は、約5%から70%(v/v%)に等しい量で使用してよい。例えば、有用な製剤は約6%、7%、8%、9%、10%、15%、19%、20%、21%、30%、35%、40%、45%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、65%又は70%(すべての「%」値はv/v%である)のゲルシア44/14を含んでよい。例えば、使用する製剤は20.68%(v/v%)、50.55%(v/v%)、55.14%(v/v%)又は59.74%(v/v%)のゲルシア44/14を含んでよい。使用するゲルシア44/14の実際量が、(i)本製剤の所望の性質(有効成分(ケタミン)の粘度、安定性、溶出、及び/乱用防止のレベル)、並びに(ii)使用する有効成分並びに/又は任意の他の賦形剤/担体及び/若しくは希釈剤の量(v/v%)によって決まることを当業者は理解するであろう。
ポリソルバート80は、約1%から30%(v/v%)と等しい量で使用してよい。例えば、有用な製剤は約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、17%、20%、22%、25%、27%又は29%(すべての「%」値はv/v%である)のポリソルバート80を含んでよい。例えば、使用する製剤は4.6%(v/v%)、11.49%(v/v%)又は13.79%(v/v%)のポリソルバート80を含んでよい。使用するポリソルバート80の実際量が、(i)本製剤の所望の性質(有効成分(ケタミン)の粘度、安定性、溶出、及び/乱用防止のレベル)、並びに(ii)使用する有効成分並びに/又は任意の他の賦形剤/担体及び/若しくは希釈剤の量(v/v%)によって決まることを当業者は理解するであろう。
ゲルシア48/16は、約10%から70%(v/v%)と等しい量で使用してよい。例えば、有用な製剤は約11%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、49%、50%、51%、52%、55%、60%、65%又は69%(すべての「%」値はv/v%である)のゲルシア48/16を含んでよい。例えば、使用する製剤は50.55%(v/v%)のゲルシア48/16を含んでよい。使用するゲルシア48/16の実際量が、(i)本製剤の所望の性質(有効成分(ケタミン)の粘度、安定性、溶出、及び/乱用防止のレベル)、並びに(ii)使用する有効成分並びに/又は任意の他の賦形剤/担体及び/若しくは希釈剤の量(v/v%)によって決まることを当業者は理解するであろう。
【0015】
上述のように、本開示の製剤は粘度調整剤を含んでよい。粘度調整剤はガム、例えば2つのアシル置換アセタート及びグリセラートを有するゲランガム(平均含有量が繰り返し1つ当たり1つの糖化、及び繰り返し2つおきに1つのアセタートである)を含んでよい。
有用なガムは、2つのアシル置換基を有し、おおよそ少なくとも5×105、7×105ダルトン、1×106ダルトン、又は好ましくは約1~2×106ダルトンの典型的な質量平均分子量を有する高アシルゲランガムでよい(当業者は、ゲランガムの分子量が、米国特許第6242035号明細書に開示される方法を含む任意の好適な方法により決定することができることを理解するであろう。その内容は参照により本明細書に組み込まれる)。好適なガムは、D-グルコースの2つの残基、並びにL-ラムノース及びD-グルクロン酸それぞれ1残基からなる四糖ポリマーの繰り返し単位を含んでよい。この四糖繰り返しは、以下の構造:[D-Glc(β1→4)D-GlcA(β1→4)D-Glc(β1→4)L-Rha(α1→3)]nを有することができる。例えば、ガム(及び従って本発明による製剤)は、ケルコゲル(登録商標)CGHATM又はケルコゲル(登録商標)LT100(CPケルコ製)を含んでよい。有用なゲランガムは30~50℃の硬化温度を有してよい。
ケルコゲルCGHAは、約20%から50%(v/v%)又は約25%から40%(v/v%)と等しい量で使用してよい。例えば、有用な製剤は約21%、25%、30%、35%、40%、45%、40%、45%、49%、50%、51%、52%、55%、60%、65%又は69%(すべての「%」値はv/v%である)のケルコゲルCGHAを含んでよい。例えば、使用する製剤は、27.57%(v/v%)又は32.17%(v/v%)のケルコゲルCGHAを含んでよい。使用するケルコゲルCGHAの実際量が、(i)本製剤の所望の性質(有効成分(ケタミン)の粘度、安定性、溶出、及び/乱用防止のレベル)、並びに(ii)使用する有効成分並びに/又は任意の他の賦形剤/担体及び/若しくは希釈剤の量(v/v%)によって決まることを当業者は理解するであろう。
【0016】
特定の賦形剤と組み合わせると、ケタミン(つまりAPI)はある程度分解する傾向がある。選択された賦形剤(例えばPEG1500、PEG6000、ゲルシア44/14、ポロキサマー124、コリフォールRH40、コリフォールEL、ポリソルバート20、ポリソルバート80、ミグリオール812N)の存在下での分解は、特定の温度/湿度(40℃/75%RH)で、ある保存期間(例えば4週間)後に観察された。本発明者は、特定の賦形剤の存在下、API(ケタミン)は酸化傾向があることを観察した。従って、本明細書で開示される製剤は、酸化防止剤を含んでよい。好適な酸化防止剤としては、例えばブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含んでよい。ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含む製剤は、例えば約0.01%~約20%(v/v%)を使用してよい。例えば、有用な製剤は、約0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、又は19%(すべての「%」値はv/v%である)のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含んでよい。例えば、使用する製剤は0.1%(v/v%)のブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含んでよい。使用するブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)の実際量が、(i)本製剤の所望の性質(有効成分(ケタミン)の粘度、安定性、溶出、及び/乱用防止のレベル)、並びに(ii)使用する有効成分並びに/又は任意の他の賦形剤/担体及び/若しくは希釈剤の量(v/v%)によって決まることを当業者は理解するであろう。すべての場合において、BHTの酸化を抑制する量は使用されるべきである。
本明細書に記載の製剤をカプセル殻内に含有してよい。例えば、本開示の製剤をゼラチン又はヒプロメロース(HPMC)を含むカプセル内に含有してよい。
【0017】
本開示による製剤は、
(i)PEG1500;
(ii)PEG6000;
(iii)ゲルシア44/14;
(iv)ポリソルバート80;
(v)ゲルシア48/16;
(vi)ケルコゲルCGHA;及び
(vii)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
からなる群から選択される、1つ若しくは複数の賦形剤、担体又は希釈剤と共にケタミン塩酸塩を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、並びに
(i)ケルコゲルCGHA;
(ii)ゲルシア44/14;及び
(iii)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、並びに
(i)ケルコゲルCGHA;
(ii)PEG6000
(iii)ゲルシア44/14
(iv)ポリソルバート80;及び
(v)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、並びに
(i)ケルコゲルCGHA;
(ii)PEG6000
(iii)ゲルシア44/14;及び
(iv)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、並びに
(i)ケルコゲルCGHA;
(ii)PEG1500;
(ii)ポリソルバート80;及び
(iv)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、並びに
(i)ケルコゲルCGHA;
(ii)PEG1500;
(iii)ゲルシア48/16;及び
(iv)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、並びに
(i)ケルコゲルCGHA;
(ii)PEG1500;
(iii)ゲルシア44/14;
(iv)ポリソルバート80;及び
(vi)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、及び
(i)ケルコゲルCGHA
(ii)ゲルシア44/14
(iii)BHT
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、及び
(i)ケルコゲルCGHA
(ii)ゲルシア44/14
(iii)ポリソルバート80
(iv)BHT
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、及び
(i)ケルコゲルCGHA
(ii)PEG1500
(iii)ゲルシア44/14
(iv)BHT
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、及び
(i)ケルコゲルCGHA
(ii)PEG1500
(iii)ゲルシア44/14
(iv)ポリソルバート80
(v)BHT
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、及び
(i)ケルコゲルCGHA
(ii)PEG1500
(iii)ゲルシア44/14
(iv)BHT
を含んでよい。
好適な製剤は、ケタミン塩酸塩、及び
(i)ケルコゲルCGHA
(ii)PEG1500
(iii)ゲルシア44/14
(iv)ポリソルバート80
(v)BHT
を含んでよい。
【0018】
一連の例示的な(しかし限定しない)製剤を以下の表に詳細に示す。各表は6つの異なるケタミン塩酸塩系製剤を詳細に示す。各場合において、製剤は各成分の量(v/v%)の観点から特定される。
【表1】
【表2】
【0019】
上述のように、本明細書で開示される製剤は、乱用を防止するように設計される。言い換えれば、開示した製剤は乱用防止性を含む(又は示す)。
「乱用」という用語は、望ましい心理的又は生理的効果を得るため、薬剤製品又は物質の任意の意図した非治療的用法を包含することができる。例として、薬剤製品、例えば処方された薬剤製品を乱用する対象が、該薬剤製品を破砕又は溶解し、破砕又は溶解した薬剤製品を鼻から吸引する、吸う、又は注射するのを試みることがある。例えば、オピオイド系薬剤の領域では、乱用は一般的であり、オピオイド中毒の対象は、例えば注射する、鼻から吸引する、又は吸うことができる形状でオピオイド系薬剤からオピオイド成分を抽出することを試みる。
本明細書に記載の製剤は、乱用を防止するために設計される1つ又は複数の技術を含む。
例えば、本製剤は化学的バリアを含み、これにより本製剤からの薬物放出を限定し、及び/又は本製剤を注射若しくは鼻から吸引することができる形態に加工することを困難(又は不可能)にする。例えば、化学的バリア(粘度調整剤など)は、加工(破砕する、篩にかける、加熱するなど)した後でさえ、有効薬剤(この場合ケタミン)の放出を限定することができる。
【0020】
任意の特定製剤の有効性又は効能は、例えば消化管液に溶出する有効薬剤によって決まる。どのくらいの有効薬剤が放出され、疾患及び/又は障害の治療及び/又は予防に使用することができるかを決定するため、溶出率は重要である。本明細書に記載の製剤は、即放性製剤でよい。今回、様々な製剤の溶出を試験し、本発明者はすべての製剤が必要な溶出レベルを達成したことを見出した。好適な溶出率は、有効薬剤(この場合、ケタミン塩酸塩)のある割合が所定時間後に回収されることを必要とする。例えば、有効薬剤の約1~100%を溶出試験で回収することができる。例えば、有効薬剤(ケタミン塩酸塩)の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又は約95%は、溶出試験下で回収することができる。なお、溶出試験の状況において、「x%」という用語は、本製剤に投入される有効薬剤の総量の割合を意味する。例えば、任意の所定の製剤は、(溶出試験前に)100%の有効薬剤に等しい量を含むと考えてよい。溶出試験条件下、放出される有効薬剤の量が測定され、この量は本製剤に当初提供される有効薬剤の総量の割合として表される。
上述のように、任意の所定製剤の溶出プロファイルは、所定期間;例えば約1分間から約60分間にわたって評価することができる。溶出プロファイルは、例えば約10分間、約15分間、約20分間、約25分間、約30分間、約35分間、約40分間、約45分間、約50分間又は約55分間にわたって評価することができる。
許容可能な溶出プロファイルは、30~45分後、例えば(有効薬剤(ケタミン塩酸塩))の80%回収とすることができる。
【0021】
従って、本明細書に記載の製剤は経口投与用製剤でよい。
本明細書に記載の製剤は、他(先行技術)のケタミン製剤とは著しく異なるPK及び薬物動態プロファイルを有する。経鼻、IV又はIM投与用に調合されるケタミンを含む製剤は、血流に吸収され、早期の初回通過代謝を回避する傾向がある。経口投与されると、ケタミンのバイオアベイラビリティははるかに低く、初回通過代謝を受けて多くの異なる代謝物となる。更に、本製剤は一部の製剤に特徴的な金属味を回避している。ケタミン代謝物は、ケタミンの疼痛緩和、並びに抗うつ及び自殺防止効果を引き起こすのに重要であると仮定される。
【0022】
本開示により提供される製剤は、様々な臨床用途を有することができる。このように、本開示のある態様は、医薬品において使用するため、又は薬剤として使用するため、本明細書に記載する1つ又は複数の製剤を提供する。
例えば、様々な製剤は、1つ又は複数の以下の兆候の治療又は予防に適用することができる(つまり、使用してよい)。
本明細書に記載の製剤は、疼痛の管理、治療及び/又は予防で使用してよい。更に、1つ又は複数の開示した製剤は、疼痛と関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
なお、「疼痛」という用語は、精神的健康、神経障害、皮膚障害、精神障害、外傷、小外科手術、周術期痛;炎症性障害、癌、ぜんそく、慢性閉塞性気道疾患、痛みを伴う処置(例えば救急診療部における)、及び外傷状況又は紛争地帯における現場条件での緊急手術と関連する任意の疼痛を包含する。本明細書に記載の製剤は、手術後の疼痛;オピオイド使用;痛覚過敏;神経障害性疼痛;虚血性肢痛;末梢神経障害;複合性局所疼痛症候群I型及びII型;幻肢痛;帯状疱疹後神経痛;重症下肢虚血による慢性虚血性神経障害;末梢虚血性神経障害;糖尿病と関連する虚血性神経障害;炎症性及び神経障害性両方の兆候にわたる複合性疼痛;痛覚過敏、異痛、中枢性感作、ワインドアップ疼痛(wind-up pain)、感覚異常、知覚異常、発作性疼痛、神経障害性疼痛及び(他の薬剤に対する)耐性を含む兆候にわたる臨床的特徴、並びに既存の薬物治療により不適切に制御される疼痛の管理、治療又は予防で使用してよい。
本開示の製剤は、血圧上昇、気道反射/骨格筋緊張の維持を必要とする患者、又はケタミンの気管支拡張性の恩恵を受けることができる患者の疼痛緩和として使用してよい。
更なる態様は、疼痛(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えば上記疼痛兆候のいずれかに苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0023】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、特定の精神障害の治療、予防、制御及び/又は管理で使用してもよい。本明細書に記載のいずれかの製剤で治療することができる精神障害としては、例えば、双極性障害、気分循環性障害、重篤気分調節症、気分変調、大鬱病性障害、月経前不快気分障害、季節性情動障害(SAD)、躁病、軽躁病、治療抵抗性うつ病、産後うつ病、非定型うつ病(AD)、メランコリー型うつ病、精神病性大うつ病、緊張病性うつ病、二重うつ病、抑うつ性パーソナリティ障害、他に特定されないうつ病;反復性短期うつ病;小うつ病性障害;双極性障害-双極性I型、双極性II型、循環性双極性障害;物質誘発性気分障害、中毒及び禁断症状(例えば、アルコール、ベンゾジアゼピン);他の病状(例えば:認知症、代謝異常、内分泌疾患、甲状腺異常、心血管疾患(心臓発作)、肺疾患(慢性閉塞性肺疾患)、癌及び自己免疫疾患に続発する気分障害を挙げることができる。
また、本明細書に記載の様々な製剤は、それぞれ上記精神障害のいずれかと関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(制御)で使用してよい。
更なる態様は、(上記精神障害:(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)のいずれかを含む)精神障害を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えば上記精神障害のいずれかに苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0024】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、特定の精神的健康障害の治療、予防、制御及び/又は管理で使用してもよい。本明細書に記載のいずれかの製剤で治療することができる精神的健康障害としては、例えば心的外傷後ストレス障害、重度及び急性不安、摂食障害;神経発達障害、パーソナリティ障害、精神病性障害、物質使用障害を挙げることができる。
本明細書に記載する様々な製剤は、それぞれ上記精神的健康障害のいずれかと関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
更なる態様は、(上記精神障害:(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)のいずれかを含む)精神的健康障害を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えば上記精神的健康障害のいずれかに苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0025】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、特定の神経障害の治療、予防、制御及び/又は管理で使用してもよい。本明細書に記載のいずれかの製剤で治療することができる神経障害は、例えばパーキンソン病と関連する様々な形態の麻痺、麻痺/書字及び炎症、パーキンソン病薬の副作用、多発性硬化症、パーキンソンプラス疾患、片頭痛、アルツハイマー病、てんかん、Lドーパ誘発性ジスキネジア及び運動障害を挙げることができる。
本明細書に記載する様々な製剤は、それぞれ上記神経障害のいずれかと関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
更なる態様は、(上記神経障害:(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)のいずれかを含む)神経障害を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えば上記神経障害のいずれかに苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0026】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、特定の皮膚障害の治療、予防、制御及び/又は管理で使用してもよい。本明細書に記載のいずれかの製剤で治療することができる皮膚障害は、例えば、外傷;三叉神経根の損傷、糖尿病性体幹性神経根炎、神経病変による皮膚及び免疫状態、手根管症候群、帯状疱疹、神経ペプチド、三叉神経栄養症候群、帯状疱疹の感染、手根管症候群、三叉神経栄養症候群、サルコイドーシス、血管炎症候群、単発神経炎又は非対称感覚運動ニューロパチー、結節性多発動脈炎、チャーグ-ストラウス症候群、ウェゲナー肉芽腫症、及びクリオグロブリン血症を挙げることができる。
本明細書に記載する様々な製剤は、それぞれ上記皮膚の健康障害のいずれかと関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
更なる態様は、(上記皮膚障害:(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)のいずれかを含む)皮膚障害を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えば上記皮膚障害のいずれかに苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0027】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、断続的に四肢が赤くなり、熱感を有し、痛みを有する希少遺伝的臨床症候群である肢端紅痛症の治療、予防、制御及び/又は管理で使用してもよい。この症候群は通常下肢(主に足)に現れるが、上肢(主に手)にも影響する場合があり、まれに顔にも同時に影響する。
本明細書に記載する様々な製剤は、それぞれ肢端紅痛症と関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
更なる態様は、肢端紅痛症(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えば肢端紅痛症に苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0028】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、表皮水疱症(EB)(軽傷の機械的外傷の結果としての水疱形成及び瘢痕により特徴づけられる希少遺伝性疾患群)の治療、予防、制御及び/又は管理で使用してもよい。EBの主要な種類としては、単純型表皮水疱症、ヘミデスモソーム型表皮水疱症、接合部型表皮水疱症、及び劣性(ジストロフィー)表皮水疱症(RDEB)が挙げられる。
本明細書に記載する様々な製剤は、それぞれEBと関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
更なる態様は、EB(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えばEBに苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0029】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、腕橈骨掻痒症(片側又は両側の上肢のかゆみにより特徴づけられる神経性掻痒状態)の治療、予防、制御及び/又は管理で使用してもよい。
本明細書に記載する様々な製剤は、それぞれ腕橈骨掻痒症と関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
更なる態様は、腕橈骨掻痒症(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えば腕橈骨掻痒症に苦しむ又はかかりやすい対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0030】
上記状態のいずれかの成功した治療(つまり上述の状態又は障害のいずれか1つに対する成功した治療、予防、制御又は管理)は、1つ又は複数のバイオマーカのレベル、活性及び/又は発現の変化により判断することができる。治療、予防、管理及び/又は制御のレベルを決定するのに使用することができるバイオマーカとしては、
心理的/認知バイオマーカ-治療前及び治療後の無快感症、無感動、注意障害、運動障害、報酬系障害のレベル
特定の細胞型のレベル;例えば、ナチュラルキラー、白血球、好中球及び他の免疫及び炎症細胞レベル
タンパク質、ステロイド、経路を含む経路マーカ-ドーパミンレベル、ミュー及びデルタオピオイド、NMDA、AMPAR、シグマ、受容体経路調節変化、免疫学的マーカ、及び細胞内情報伝達インターロイキン、サイトカイン、腫瘍壊死因子及び炎症経路マーカレベルを挙げることができる。
【0031】
当業者は、疼痛レベルを決定するのに用いることができるアッセイ及び試験があることを理解するであろう。例えば、神経障害性疼痛は、口頭式評価スケール、視覚的アナログスケール及びグラフィック評価スケール(graphic rating scale)、数値評価スケール、ピクチャースケール(picture scale)又はフェイススケール、疼痛強度の記述式識別スケール(descriptor differential scale of pain intensity)(DDSI)、行動測定、LANSS(Leeds Assessment of Neuropathic Symptoms and Signs:神経障害性疼痛質問票(NPQ)、定量的感覚検査(QST)、体性感覚誘発電位(SEP)、疼痛の標準的評価(StEP):簡易疼痛質問票、臨床全般印象尺度、マギル痛み質問票、緩和ケアアウトカムスケールを使用して評価することができる。
うつ病レベルは、ハミルトンうつ病評価尺度 モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度、ラスキンうつ病評価尺度、ベックうつ病尺度、自己報告尺度、老年期うつ病評価尺度(GDS)、ツァン自己評価式抑うつ尺度、患者健康質問票(PHQ)、患者健康質問票-9(PHQ-9)、精神障害のプライマリケア評価(Primary Care Evaluation of Mental Disorders)(PRIME-MD)患者健康検診質問票、ベックうつ病尺度;臨床的有用鬱病転帰尺度(Clinically Useful Depression Outcome Scale)、抑うつ症状尺度、気分と感情質問票、簡易抑うつ症状尺度などのうつ病評価尺度を使用して評価することができる。
自殺の観点から、自殺念慮及び行動は、自殺念慮と行動評価ツール(SIBAT)を使用して評価することができる。
【0032】
本開示により提供される製剤は、単独で使用してよく、或いは他の薬剤と(例えば同時又は前及び/若しくは後に)使用してよい。例えば、本明細書に記載のいずれかの製剤は、オピオイドと共に(同時に)使用して、その様にしなければ手に負えない疼痛を管理し;心理療法と同時に、気分、精神的健康及び精神疾患を管理し;中毒性物質と同時に、使用中止を支持し、並びに/又は疾患/障害用の薬剤と同時に、その疼痛を管理する。
【0033】
1つ又は複数の本明細書に記載の製剤は、「治療抵抗性うつ病」の治療で使用してもよい。
治療抵抗性うつ病(TRD)は、1つ又は複数の治療介入が失敗している、特に治療介入が、十分な持続時間、適切な用量で介入が使用されるにも関わらず失敗しているといううつ病のエピソード(又はこれと関連する状態若しくは疾患)として定義してよい。例として、TRDは、(i)1つ又は複数の(薬物性又は非薬物性)抗うつ療法に反応しない;或いは(ii)うつ病の現在のエピソードにおいて、適切な用量及び持続時間で2つ以上の現在利用できる抗うつ剤に反応しないこと、として定義することができる。
本明細書に記載の製剤は、それぞれTRDと関連する自殺念慮及び行動の治療及び/又は予防(又は制御)で使用してよい。
更なる態様は、TRD(又はこれと関連する自殺念慮及び/若しくは行動)を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象(例えばTRDを患う又はTRDの病歴を有する対象)に、本明細書に記載の製剤状のケタミンを投与することを含む。
【0034】
更なる態様において、本発明は本明細書に記載の製剤のいずれか1つを作成する方法を提供し、この方法は、ケタミン塩酸塩(適当量及び/又は治療有効量)を、
(i)PEG1500;
(ii)PEG6000;
(iii)ゲルシア44/14;
(iv)ポリソルバート80;
(v)ゲルシア48/16;
(vi)ケルコゲルCGHA;及び
(vii)ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)
からなる群から選択される1つ又は複数の賦形剤、担体又は希釈剤と組み合わせることを含む。
本明細書に記載の方法により調製される製剤は、1つ又は複数のある量の上記有効薬剤、賦形剤、担体又は希釈剤を使用又は活用してよい。量に関して、本製造方法は、本発明の第1の態様について定義される量又は分量のいずれかを利用してよい。
以下の図を参照して、本開示を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、反復1製剤の溶出プロファイルを示すグラフである。
【
図2】
図2は、反復2製剤の溶出プロファイルを示すグラフである。
【
図3】
図3は、追加の試験製剤に関する初期吸入結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施例1
充填カプセルの調製
多くの例となる製剤の組成を表1及び表2に詳細に示す。
ゲルシア44/14を60~70℃の研究室用オーブンで予熱し、まだ溶解しているときに調合した。ケルコゲルCGHA及びBHTを除いて、すべての賦形剤を研究室ノートに記録した質量のラベル付ガラス瓶に直接計量した。最初に、BHTを秤量ボートに計量した後、他の賦形剤を含むガラス瓶に添加した。その後、溶解した混合物を維持するため、本製剤を60~70℃の研究室用オーブンに配置した。ケタミン塩酸塩を溶解した製剤に直接添加し、完全に湿るまでマイクロスパチュラを用いて直ちに撹拌した。次に、最終的に、撹拌しながらケルコゲルをゆっくりと混合物に添加した。
各試料を高せん断混合した。この試料を、APIが賦形剤に十分に分散したように見え、製剤が視覚的に均質になるまで、最大で3分間高度にせん断した。混合の持続時間と併せて、製剤の温度を高せん断混合前後に記録した。高せん断混合後、製剤を再び60~70℃のオーブンに保持した。
各製剤を白色のサイズ1号ゼラチンコニスナップカプセルに手で充填した。500mg±7.5%の充填物質量までカプセルを充填した。ゼラチンバンディング溶液は、ステンレス鋼ポットにゼラチン及び水を計量して調製した。十分に均質で、使える状態になるまでこの溶液を手で撹拌し、60~70℃のオーブンで保持した。充填カプセルを一晩乾燥させる前にバンディングした。その後、真空チャンバを使用して、バンディングしたカプセルに真空試験を行い、漏出又は欠陥の任意の兆候を視覚的に検査した。
【0037】
乱用防止:注射針通過
乳鉢及び乳棒を使用し、製剤の乱用防止性を注射針通過試験により評価した。1つのバンディングしたカプセルを計量し、乳鉢に投入した。乳棒を用いてカプセル殻を砕いた。粉砕の持続時間中、均一の圧力を付加し、2分間乳棒を用いて試料を粉砕した。殻の大きな断片を除き、注意を払ってできるだけ多くの製剤を確保し、カプセル殻断片から分離した。その後、溶媒5mLを乳鉢に添加し、すべての製剤を滅菌水、次に40%エタノール溶液を用いて試験した(1溶媒当たり1カプセル)。
23ゲージ針を使用し、3mL注射器を使用して、粉砕した製剤からできる限り多くの物質を抽出することを試みた。注射筒に吸い上げられた試料の容量を測定した。必要であれば、1つの試料で1つの注射筒を複数回充填させた。直接容量フラスコに注射器から物質を排出し、質量で測定した。容量フラスコに採取した物質をアッセイによる分析のために保存し、ケタミン含有量を測定した。
【0038】
溶出試験
各製剤の6つのカプセルを酸性媒体に溶解した。ポットを250mLの0.01MHClで満たし、温度計を用いて37℃±0.5℃と平衡にした。予め計量した単一のカプセルを試料ホルダに配置した。試料ホルダはガラス製往復運動シリンダ底部にプラスチック製メッシュスクリーンを有する。その後、試料ホルダ自体を装置の対応する位置にねじ込んで取り付けた。HPLCアッセイのため、5、10、15、20、30及び45分時点で1mLアリコートを採取した。
【0039】
吸入試験
設計したプロトタイプ間の乱用防止性能を更に区別するため、追加の吸入試験を実施した。吸入試験前、カプセルの予熱処理が必要かどうかについて初期評価を行った。各製剤について1つの充填カプセルを使用し、外科用メスを用いて殻を除去し;その後コーヒーグラインダでカプセル充填物を5分間直ちに粉砕した。任意の所定の製剤であれば、生成物を1mm未満の大きさの粉にした後、追加の試験中に予熱処理は必要でないと見なされた。そうでない場合には、予熱処理をその後の分析で使用した。予熱処理が必要であれば、試験前に少なくとも24時間、-20℃の冷凍庫でカプセルを凍結させた。
外科用メスを使用して、5つのカプセルから殻を除いた後、1分間コーヒーグラインダで粉砕した。5つのカプセル内容物の粒度分布を以下の篩アセンブリ:1000、500、250、及び106ミクロンに流すことにより決定した。手を用いて手動で押しつぶすことにより任意の大きな粒子を更に除去することを試みた。篩を機械的に5分間振動させて、適当な粒度の製剤を通過させた。各篩を通過した任意の物質を計量した。各篩上の物質を分析し、大体の総カプセル質量を用いて、API回収を計算した。
【0040】
結果及び考察
充填カプセルの調製
反復1及び反復2製剤の調合質量を表3に詳細に示す。500mg±7.5%である目的の充填物質量まですべてのカプセルを手で充填した。カプセルをバンディングし、一晩乾燥させ、20分間<-25”Hgで真空試験を行った。カプセルの視覚的評価を行い、漏出又は任意の欠陥を有するカプセルは無かった。
【表3】
【0041】
乱用防止:注射針通過
溶媒5mL、23ゲージ針及び3mL注射筒を使用して、「注射針通過」試験(乱用防止の一測定手段として)を実施した。エタノール及び滅菌水の両方を使用して、試験を終了させた。表4に示す結果は、排出された物質の質量及びアッセイから回収されるケタミンの相当する量を示す。
滅菌水で実施した試験に関して、若干の製剤5.1を注射筒に吸引し、針を通して排出することができた。40%エタノールを用いて実施した試験に関して、すべての製剤について、一部の物質を吸引し、注射器から排出することができた。製剤2.1及び製剤3.1から多くのAPIが回収され、製剤1.1及び製剤4.1は排出値が最低であった。
【表4】
【0042】
溶出試験
反復1の各製剤カプセルに溶出スクリーニングを行った。溶出試料のHPLC分析結果を表5に詳細に示す。各製剤6つ1組でカプセルを分析し、6つの結果の平均を記録した。6つの製剤すべてが、45分間で80%回収の即時放出の基準に達した。最も遅い放出は製剤2.1及び製剤3.1で観察され、80%回収が30分で測定された。製剤4.1及び製剤6.1は最も速い溶出プロファイルを有し、80%放出が15分以内であった。
【表5】
【0043】
考察
得られる注射針通過の結果から、製剤1.1及び製剤4.1は乱用防止製剤の最大の可能性を示した。生成される溶出データは、製剤4.1及び製剤6.1が、APIを最も速く放出し、乱用防止性を増加させる余地を有し、同時に即時放出溶出性能を維持することを示した。これらの製剤について、比較的高レベルでPEG1500及びゲルシア44/14のどちらか又は両方を含むと、有利な注射針通過及び/又は溶出結果を得ることができる。製剤のゲルシア44/14レベルが高いほど、放出プロファイルが遅い傾向にあるが、乱用防止スクリーニングについては良好であった。PEG1500を含む製剤は、望ましい溶出放出時間を有し;乱用防止性は変動することを示した。
製剤1.1、製剤4.1及び製剤6.1について、これらの組成にわずかな調節を行って、溶出プロファイル及び乱用防止性のどちらか又は両方を向上させた。3つの新たな製剤を設計して、例えば乱用防止性及び溶出について、様々なレベルのPEG1500、ゲルシア44/14及びポリソルバート80の効果を測定した。その目的は、許容できる乱用防止性を示すが、使用できる薬物溶出プロファイルを保持する製剤を特定することであった。
【0044】
実施例2(製剤1.1、4.1及び6.1の変更)
充填カプセルの調製
第2反復製剤に関する調合質量を表6に詳細に示す。500mg±7.5%まですべてのカプセルを手で充填した。ゼラチンバンディング溶液の#1268/114/03を調製した。カプセルをバンディングし、一晩乾燥させ、真空試験を行った。カプセルの視覚的評価を行い、漏出又は任意の欠陥を有するカプセルは無かった。
【表6】
【0045】
乱用防止:注射針通過
溶媒5mL、23ゲージ針及び3mL注射筒を使用して、乱用防止の注射針通過試験を実施した。エタノール及び滅菌水の両方を使用して、試験を終了させた。表7に示す結果は、排出された物質の質量及びアッセイから回収される相当するケタミンの測定値を示す。溶媒として水を使用すると、製剤のいずれについても物質は注射器に吸引されなかったため、溶媒として40%エタノールを使用した結果のみを用いて、製剤を区別した。製剤間の差異は、実施例1で調製された製剤ほど大きくなかったが、製剤1.2及び製剤7.1の結果がこの回の試験で最も良好であった。
試験した製剤の性能間にいくらかの変動はあるが、すべてが望ましい注射防止を示し、特に水での抽出は起こらなかった(乱用者による適当な注射剤の調製用溶媒であると想定される)。
【表7】
【0046】
溶出試験
溶出試料のHPLC分析の結果を表8に詳細に示す。各製剤6つ1組でカプセルを分析し、6つの結果の平均を記録した。6つの製剤すべてが、45分間で80%回収の即時放出の基準に達した。最も速い放出は製剤4.2、製剤6.2及び製剤8.1で観察され、80%回収が15分までに測定された。製剤1.2は、放出プロファイルが最も遅かった。なお、最も速い製剤及び最も遅い製剤間の差異は、反復1よりもはるかに小さかった。6つのプロファイルすべてが、即時放出製品の基準を満たすとみなされた。
【表8】
【0047】
考察(実施例2)
注射針通過結果は、すべての製剤が乱用防止性を示し、一般的にゲルシア44/14レベルが高い製剤ほど良好であることを示唆した。すべての製剤は、水を溶媒として用いた場合、任意の物質が注射器に吸引されるのを阻止することができた。これは、本製剤の乱用防止性を支持する。新たな製剤の溶出プロファイルは、実施例1で試験したものから大きく改善し、6つすべての製剤は、20分時点までに80%超放出した。従って、すべての製剤は即時放出プロファイルを満たしている。
実施例1及び実施例2の結果は、いくつかの有用な製剤を示す。注射針通過のポジティブデータは、評価を行う多くの製剤の乱用防止分類に信頼を与えた。本製剤の大部分についての溶出プロファイルは即時放出製品の典型であり、これまでに収集したデータは、高い再現性及び低い相対標準偏差を示唆する。
7つの最も良好な製剤を重要な製剤として選択し、再度調製した。既に収集した乱用防止データを強化するため、更なる注射針通過試験のためにカプセルを調製した。より多くのカプセルを試験して、結果の任意の矛盾を除いた。更なる注射針通過試験に加えて、乱用防止スクリーニングの全工程の前に、このカプセルの初期吸入試験を行った。
【0048】
実施例3
追加の注射針通過及び吸入試験
充填カプセルの調製
追加試験のために調製したカプセルの調合質量を表9に詳細に示す。500mg±7.5%まですべてのカプセルを手で充填した。ゼラチンバンディング溶液の#1268/128/01及び#1268/129/01を調製した。Qualiseal卓上バンディング機を使用してカプセルをバンディングし、一晩乾燥させ、20分間<-25”Hgで真空試験を行った。カプセルの視覚的評価を行い、漏出又は任意の欠陥を有するカプセルは無かった。
【表9】
【0049】
乱用防止注射針通過
溶媒5mL、23ゲージ針及び3mL注射筒を使用し、乱用防止の注射針通過試験を実施した。製剤は滅菌水を用いて前に試験されており、注射器に吸引される製剤は無かったため、エタノールのみを使用して製剤1つ当たり3つのカプセルについて試験を終了させた。表10に示す結果は、排出した物質の質量及びアッセイから回収される相当するケタミンの測定値を示す。
【表10】
【0050】
初期吸入試験
各追加試験製剤のカプセル、並びに粉末充填ケタミンカプセルの吸入について評価した。試験結果を表11に示す。粉末ケタミンカプセルと比べて、6つすべての乱用防止製剤では、メッシュサイズが徐々に減少していく篩を通過する力が低かった。3つの製剤(製剤6.1、製剤7.1及び製剤9.1)は、最も大きなメッシュサイズを通過することができず、粉砕製剤の総含有量が最初の篩で採取された。これらの製剤はいずれの篩も通過しなかったため、回収されたAPIの含有量は測定されず、従って理論100.00%API回収を適用する。一部の粉砕粒子が一部の篩を通過する製剤について、非常に少量のケタミンのみが回収された。使用する最も小さな篩はメッシュサイズが0.106mmであり、これは吸入を行う鼻粘膜を通過することができる粒度におおよそ該当する。粉砕した乱用防止製剤はいずれもこの篩サイズを通過することができず、吸入の限界を示す。粉末充填カプセルの80.00%超は、すべての篩を通過し、篩の底部で採取された。この結果は、粉末充填ケタミンカプセルを吸入することができ、粒子の大部分が最も小さなメッシュサイズ未満であることを示唆する。乱用防止製剤として、粉末充填カプセルは不十分であった。
いずれのメッシュも通過しなかったものを除いて、各製剤の回収される総APIは、考えられる総最大ケタミンと比較し、採取、分析される量を表す。吸入試験のプロセスでは、移動で一部の物質が損失することは避けられない。これは、各製剤の合計が必ずしも100.00%でないことを説明する。製剤を粉砕、移動する方法は、乱用者が適用することがある方法を再現することを意図する。
【表11】
*理論回収-最も大きな篩目を通過した製剤は無く、従ってその製剤について分析を行わなかった
【0051】
要約
製剤について行った注射針通過分析は、各製剤が乱用防止性を有し、各投与量についてケタミンの回収が低下したことを示唆した。製剤1.2及び製剤4.1は、7つの試験製剤で、API回収%が最も低かった。吸入分析を使用して、製剤を更に区別した。
吸入試験において、すべての製剤が良好な乱用防止性を有し、小さな粒度に粉砕された製剤は無いか、又はほとんど無いことを示唆した。これは、これら製剤の乱用防止性を確認する。すべての製剤が試験中に好意的な結果を生じたが、粒子が篩を通過しなかった3つの製剤は、製剤がより小さな粒子に粉砕されない最大の可能性を示した。
【0052】
結論
乱用防止ケタミン製剤が設計、調製された。実施例1において、多くの製剤が有望な注射針通過及び溶出結果を示した。この結果は、PEG1500及びゲルシア44/14含有量が、有利な注射針通過及び/又は溶出結果に寄与する場合があることを示唆した。製剤のゲルシア44/14レベルが高いほど、遅い放出プロファイルを有する傾向があるが、乱用防止スクリーニングは良好であった。PEG1500を含む製剤は、望ましい溶出放出時間を生じるが、製剤組成物におけるレベルの違いは、製剤の乱用防止性に影響を及ぼした。
実施例2において、製剤1.1、製剤4.1及び製剤6.1について、これらの組成にわずかな調節を行って、3つの新たな製剤を生成した。一般に、溶出プロファイルが改善し、6つすべての製剤は20分時点までに80%超を放出した。水で抽出されないため(乱用者による適当な注射剤の調製用溶媒である)、すべての製剤は望ましい注射防止性を示した。
実施例1及び実施例2の結果は、いくつかの有用な製剤を示した。