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  • 特許-金属イオン電池用電気活性材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】金属イオン電池用電気活性材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241209BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20241209BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241209BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241209BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241209BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20241209BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B33/02 Z
H01M4/134
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/46
H01M4/62 Z
【請求項の数】 39
(21)【出願番号】P 2021524988
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 GB2019053176
(87)【国際公開番号】W WO2020095067
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】1818232.9
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1820736.5
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】16/274,182
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】1912993.1
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517050282
【氏名又は名称】ネクシオン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メイソン チャールズ エー.
(72)【発明者】
【氏名】テイラー リチャード グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ファレル ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】マックリン ウィリアム ジェームズ
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/040299(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0272592(US,A1)
【文献】特開2016-132608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
C01B 33/02
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/62
H01M 4/46
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複合粒子を含む粒子状材料であって、該複合粒子が、
(a)ミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含む多孔質炭素骨格であって、
該ミクロ細孔及び/又はメソ細孔は、全細孔容積がPcm/gであり、ここで、Pは、0.7~1.2の範囲であり、かつ、
PD50細孔径が1nm~2.5nmであり、かつ、PD90細孔径が3nm~10nmであって、
ここで、前記ミクロ細孔及びメソ細孔の全細孔容積及び前記PD 50 細孔径が、ISO 15901-2及びISO 15901-3に従って、急冷固体密度汎関数法(QSDFT)を使用して、77Kで10 -6 の相対圧力p/p までの窒素ガス吸着により測定される、多孔質炭素骨格と、
(b)前記多孔質炭素骨格の前記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置する複数の元素ナノスケールシリコンドメインと、
を含み、
前記複合粒子における、前記多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~1.3×P]:1の範囲であり、前記複合粒子は1μm~25μmの範囲のD50粒子径を有する、粒子状材料。
【請求項2】
が、少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85、又は少なくとも0.9、又は少なくとも0.95、又は少なくとも1、又は少なくとも1.05、又は少なくとも1.1の値を有する、請求項1に記載の粒子状材料。
【請求項3】
が、1.1以下、又は1.0以下、又は0.9以下の値を有する、請求項1又は2に記載の粒子状材料。
【請求項4】
前記多孔質炭素骨格のPD50細孔径が、2nm以下、又は1.5nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項5】
前記多孔質炭素骨格のPD60細孔径が、5nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項6】
前記多孔質炭素骨格のPD70細孔径が、5nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項7】
前記多孔質炭素骨格のPD80細孔径が、5nm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項8】
前記多孔質炭素骨格のPD90細孔径が、8nm以下、又は6nm以下、又は5nm以下、又は4nm以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項9】
前記多孔質炭素骨格のPD95細孔径が、20nm以下、又は15nm以下、又は12nm以下、又は10nm以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項10】
前記多孔質炭素骨格が、単峰性の細孔径分布を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項11】
前記多孔質炭素骨格が、二峰性又は多峰性の細孔径分布を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項12】
前記多孔質炭素骨格が、2nm未満に少なくとも1つのピークを有し、かつ、5nm~50nmの範囲に少なくとも1つのピークを有する二峰性又は多峰性の細孔径分布を有する、請求項11に記載の粒子状材料。
【請求項13】
前記多孔質炭素骨格が、2nm未満に少なくとも1つのピークを有し、かつ、10nm~40nmの範囲に少なくとも1つのピークを有する二峰性又は多峰性の細孔径分布を有する、請求項12に記載の粒子状材料。
【請求項14】
前記多孔質炭素骨格が、50nm超~100nmの範囲の直径を有し、水銀圧入法により測定した全容積がPcm/gであるマクロ細孔を含み、ここで、Pは、0.2×P以下、又は0.1×P以下、又は0.05×P以下、又は0.02×P以下、又は0.01×P以下、又は0.005×P以下である、請求項1~13のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項15】
前記多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.55×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.95×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.85×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.8×P]:1の範囲、又は[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である、請求項1~14のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項16】
前記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔の少なくとも一部が、シリコンによって完全に包囲された空隙を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項17】
前記複合粒子におけるシリコン質量の少なくとも90重量%が、前記多孔質炭素骨格の内部細孔容積中に位置する、請求項1~16のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項18】
粒子状材料を、空気中において10℃/分の温度上昇速度でTGAにより分析する場合に、以下の式、
Z=1.875×[(M -M 800 )/M ]×100%
(式中、Zは、800℃での未酸化シリコンの割合であり、M は、酸化完了時の試料の質量であり、M 800 は、800℃での試料の質量である)
に従って決定される、該粒子状材料のシリコン含有量の10%以下が800℃で未酸化である、請求項1~17のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項19】
前記複合粒子が、少なくとも2μm、又は少なくとも3μm、又は少なくとも4μm、又は少なくとも5μmのD50粒子径を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項20】
前記複合粒子が、20μm以下、又は15μm以下のD50粒子径を有する、請求項1~19のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項21】
前記複合粒子が、少なくとも0.2μm、又は少なくとも0.5μm、又は少なくとも0.8μm、又は少なくとも1μm、又は少なくとも1.5μm、又は少なくとも2μmのD10粒子径を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項22】
前記複合粒子が、80μm以下、又は60μm以下、又は40μm以下、又は30μm以下、又は25μm以下、又は20μm以下のD90粒子径を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項23】
前記複合粒子が、5以下、又は4以下、又は3以下、又は2以下、又は1.5以下の粒度分布スパンを有する、請求項1~22のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項24】
前記複合粒子が、300m/g以下、又は250m/g以下、又は200m/g以下、又は150m/g以下、又は100m/g以下、又は80m/g以下、又は60m/g以下、又は40m/g以下、又は30m/g以下、又は25m/g以下、又は20m/g以下、又は15m/g以下のBET表面積を有する、請求項1~23のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項25】
前記複合粒子が、少なくとも0.1m/g、又は少なくとも1m/g、又は少なくとも2m/g、又は少なくとも5m/gのBET表面積を有する、請求項1~24のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項26】
前記複合粒子のミクロ細孔及びメソ細孔の窒素ガス吸着により測定した容積が、0.15×P以下、又は0.10×P以下、又は0.05×P以下、又は0.02×P以下である、請求項1~25のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項27】
リチウム化した際の比容量が、1200mAh/g~2340mAh/gである、請求項1~26のいずれか一項に記載の粒子状材料。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか一項に記載の粒子状材料と、少なくとも1つの他の成分とを含む組成物。
【請求項29】
請求項1~27のいずれか一項に記載の粒子状材料と、(i)バインダー、(ii)導電性添加剤、及び(iii)追加の粒子状電気活性材料から選択される少なくとも1つの他の成分とを含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
組成物の総乾燥重量に対して、請求項1~26のいずれか一項に記載の粒子状材料を、1重量%~95重量%、又は2重量%~90重量%、又は5重量%~85重量%、又は10重量%~80重量%含む、請求項28又は29に記載の組成物。
【請求項31】
少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料を含む、請求項29又は30に記載の組成物。
【請求項32】
前記少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料が、黒鉛、硬質炭素、シリコン、スズ、ゲルマニウム、ガリウム、アルミニウム、及び鉛から選択される、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
組成物の総乾燥重量に対して、バインダーを、0.5重量%~20重量%、又は1重量%~15重量%、又は2重量%~10重量%の量で含む、請求項29~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
組成物の総乾燥重量に対して、1つ以上の導電性添加剤を、0.5重量%~20重量%、又は1重量%~15重量%、又は2重量%~10重量%の総量で含む、請求項29~33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
集電体と電気的に接触した請求項1~27のいずれか一項に記載の粒子状材料を含む電極。
【請求項36】
前記粒子状材料が、請求項28~34のいずれか一項に記載の組成物の形態を有する、請求項35に記載の電極。
【請求項37】
(i)請求項35又は36に記載の電極を含むアノードと、
(ii)金属イオンを放出及び再吸収することができるカソード活物質を含むカソードと、
(iii)前記アノードと前記カソードとの間の電解質と、
を含む充電式金属イオン電池。
【請求項38】
アノード活物質としての、請求項1~27のいずれか一項に記載の粒子状材料の使用。
【請求項39】
前記粒子状材料が、請求項28~34のいずれか一項に記載の組成物の形態を有する、請求項38に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、充電式金属イオン電池用電極における使用に好適な電気活性材料に関し、より詳細には、充電式金属イオン電池におけるアノード活物質としての使用に好適な高電気化学容量を有する粒子状材料に関する。
【背景技術】
【0002】
充電式金属イオン電池は、携帯電話及びノート型パソコン等の携帯型電子機器において広く使用されており、電気自動車又はハイブリッド車における適用が増加している。充電式金属イオン電池は、一般的に、アノード層、カソード層、アノード層とカソード層との間で金属イオンを輸送する電解質、及びアノードとカソードとの間に配置された電気絶縁性多孔質セパレータを含む。カソードは、典型的には、金属酸化物系複合材料を含有する金属イオンの層を備えた金属集電体を含み、アノードは、典型的には、本明細書で、電池の充電中及び放電中に金属イオンの挿入及び放出が可能な材料として定義される電気活性材料の層を備えた金属集電体を含む。誤解を避けるために、本明細書では、「カソード」及び「アノード」という用語は、カソードが正極となり、アノードが負極となるように、電池に負荷がかけられるという意味で使用される。金属イオン電池を充電すると、金属イオンは金属イオン含有カソード層から電解質を介してアノードに輸送され、アノード材料に挿入される。本明細書では、「電池」という用語は、単一のアノード及び単一のカソードを含有するデバイス、並びに複数のアノード及び/又は複数のカソードを含有するデバイスの両方を指して使用される。
【0003】
充電式金属イオン電池の重量容量及び/又は体積容量を改善することに対して関心がある。リチウムイオン電池の使用により、他の電池技術と比較して、既にかなりの改善がもたらされたが、更なる開発の余地がある。これまで、市販のリチウムイオン電池は、主に、アノード活物質としての黒鉛の使用に限定されてきた。黒鉛アノードを充電すると、リチウムが黒鉛層間に挿入され、実験式Li(ここで、xは、0超、かつ、1以下)の材料を形成する。その結果、黒鉛は、リチウムイオン電池において、372mAh/gの最大理論容量を有し、実用上の容量はそれよりもやや低くなる(約340mAh/g~360mAh/g)。シリコン、スズ、及びゲルマニウム等の他の材料は、黒鉛よりも大幅に高い容量でリチウムを挿入することができるが、多数回の充放電サイクルにわたって十分な容量を維持することが難しいため、まだ広く商業的には使用されていない。
【0004】
特に、シリコンは、リチウムに対する容量が非常に高いため、高い重量容量及び体積容量を有する充電式金属イオン電池の製造において、黒鉛の有望な代替物として認識されてきた(例えば、非特許文献1を参照)。シリコンは、室温で、リチウムイオン電池における理論上の最大比容量が約3600mAh/g(Li15Siに基づく)である。しかしながら、充電及び放電の際の体積変化が大きいため、アノード材料としてのシリコンの使用は、複雑である。
【0005】
リチウムがバルクシリコンに挿入されると、シリコン材料の体積が大幅に増加し、シリコンがその最大容量までリチウム化されると、元の体積の400%にまで増加する。そして、充放電サイクルが繰り返されると、シリコン材料に大きな機械的応力が発生し、シリコンアノード材料の破壊と層間剥離をもたらす。脱リチウム化の際のシリコン粒子の体積の収縮は、アノード材料と集電体との間の電気的接触の損失をもたらす可能性がある。更に困難なのは、シリコン表面に形成される固体電解質界面(SEI)層が、シリコンの膨張及び収縮に適応するのに十分な機械的耐久性を有さないことである。その結果、新たに露出したシリコン表面によって、電解質が更に分解し、SEI層の厚さが増加し、かつ、リチウムが不可逆的に消費されることになる。これらの欠陥メカニズムは集合的に、連続した充放電サイクルにわたる許容できない電気化学容量の損失をもたらす。
【0006】
シリコン含有アノードを充電する際に観察される体積変化と関連する問題を克服するために、数多くの取り組みが提案されてきた。シリコン含有アノードの不可逆容量損失に対処するための最も普及している取り組みは、何らかの形態で微細構造化されたシリコンを電気活性材料として使用することである。シリコン膜及びシリコンナノ粒子等の、断面が約150nm未満の微細シリコン構造体は、ミクロンサイズの範囲のシリコン粒子と比較して、充電及び放電の際の体積変化に対してより耐久性があることが報告されてきた。しかしながら、これらはいずれも、形態を変更せずに商業規模で適用するには特に適していない。ナノスケールの粒子は製造及び取り扱いが難しく、シリコン膜は十分なバルク容量を提供しない。例えば、ナノスケールの粒子は、凝集体を形成する傾向があり、それにより、アノード材料マトリックス内で粒子を有効に分散させることが困難となる。また、ナノスケールの粒子の凝集体の形成は、繰り返しの充放電サイクルにおいて許容できない容量損失をもたらす。
【0007】
Oharaら(非特許文献2)は、ニッケル箔集電体上にシリコンを薄膜として蒸着させること、及びこの構造体をリチウムイオン電池のアノードとして使用することを記載した。この取り組みによると、良好な容量保持率が得られるが、薄膜構造体は単位面積当たりの容量が有用な量ではなく、膜厚が増加すると、いかなる改善も排除されてしまう。
【0008】
特許文献1には、アスペクト比、すなわち、粒子の最小寸法に対する最大寸法の比が高いシリコン粒子を使用することによって、容量保持率が改善され得ることが開示されている。
【0009】
シリコン等の電気活性材料が、活性炭材料等の多孔質担体材料の細孔内に堆積され得ることも一般的に知られている。これらの複合材料は、ナノ粒子の取り扱いの難しさを回避しながら、ナノスケールのシリコン粒子の有益な充放電特性の幾つかを提供する。例えば、Guoら(非特許文献3)は、多孔質炭素基材が、基材の細孔構造内に均一に分布して堆積したシリコンナノ粒子を備えた導電性骨格を提供するシリコン-炭素複合材料を開示している。初回の充電サイクルでのSEIの形成は、残りのシリコンが後続の充電サイクルで電解質に露出しないように、残りの細孔容積に限局している。この複合材料によって、複数回の充電サイクルにわたる容量保持率が改善したが、複合材料のmAh/gでの初期容量は、シリコンナノ粒子に対する容量よりも大幅に低いことが示されている。
【0010】
特許文献2には、少数のより大きな細孔から分岐した小さな細孔を有する炭素系スキャホールド(scaffold)を含む活物質が開示されている。電気活性材料(例えば、シリコン)は、大きな細孔及び小さな細孔の両方の壁、並びに炭素系スキャホールドの外表面に無作為に位置している。
【0011】
これまでの努力にもかかわらず、リチウムイオン電池の電気化学的貯蔵容量の改善に対する継続的な必要性がある。特に、シリコンの高いリチウム化容量の利点を提供しつつも、商業的に実現可能な充電式電池において使用するのに十分な容量保持率及び構造安定性も有する代替的なシリコン系材料を特定する必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2007/083155号
【文献】特開第2003-100284号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Insertion Electrode Materials for Rechargeable Lithium Batteries, Winter, M. et al. in Adv. Mater. 1998, 10, No. 10
【文献】Journal of Power Sources 136 (2004) 303-306
【文献】Journal of Materials Chemistry A, 2013, pp. 14075-14079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、多孔質炭素骨格と、多孔質炭素骨格内に位置する電気活性材料としてのシリコンとを含む複合材料の性能は、特定の細孔構造を有し、有効細孔容積に対するシリコンの比が制御された多孔質炭素骨格を用いることによって最適化することができるという知見に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様において、本発明は、複数の複合粒子を含む粒子状材料であって、該複合粒子が、
(a)ミクロ細孔及び/又はメソ細孔を含む多孔質炭素骨格であって、
該ミクロ細孔及びメソ細孔は、ガス吸着により測定した全細孔容積がPcm/gであり、ここで、Pは、少なくとも0.7の値を有し、
ガス吸着により測定したPD50細孔径が5nm以下である、多孔質炭素骨格と、
(b)上記多孔質炭素骨格の上記ミクロ細孔及び/又はメソ細孔内に位置する複数の元素ナノスケールシリコンドメインと、
を含み、
上記複合粒子における、上記多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~1.3×P]:1の範囲である、粒子状材料を提供する。
【0016】
したがって、本発明は、多孔質炭素骨格が、ミクロ細孔及びメソ細孔の比較的高い全容積を有し、5nm以下の直径を有する細孔が、全細孔容積の少なくとも50%を構成する、粒子状材料に関する。誤解を避けるために、本明細書で使用されるPは、単独で測定した場合、すなわち、多孔質炭素骨格の細孔を占めるシリコン又は他の材料がない場合の多孔質炭素骨格の細孔容積に関する。
【0017】
元素シリコンは、複数のナノスケールシリコンドメインの形態で、ミクロ細孔及び/又はメソ細孔に位置している。本明細書で使用される「ナノスケールシリコンドメイン」という用語は、多孔質炭素骨格の細孔内に位置するシリコンのナノスケール体を指す。ナノスケールシリコンドメインの少なくとも一部は、PD50細孔径よりも小さい直径を有するメソ細孔及び/又はミクロ細孔の少なくとも一部を占めるため、5nm以下の寸法を有する。多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比は、[0.5×P~1.3×P]:1の比率で全ミクロ細孔/メソ細孔容積と相関する。Pの値に基づいてシリコンの重量比を規定することによって、シリコンによる細孔容積の体積占有率を特定の限度内に制御する。言い換えると、多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が[0.5×P~1.3×P]:1の範囲である場合、複合粒子中のシリコンの体積は、多孔質炭素骨格の全ミクロ細孔/メソ細孔容積の約20%~55%に相当する。
【0018】
したがって、本発明は、概して、細孔容積が主に小さなメソ細孔及び/又はミクロ細孔の形態を有する高多孔質炭素骨格の細孔を、シリコンが部分的に占める粒子状材料に関する。この粒子構造は、リチウム化した際に高い重量容量及び体積容量を備えた電気活性材料を提供し、シリコンの膨張に適応する独自の能力を示すため、複数回の充放電サイクルにわたって高い可逆容量保持率を示すことが分かった。
【0019】
本発明の粒子状材料の並外れた可逆容量保持率は、多孔質炭素骨格が高い空隙率を有すること、多孔質炭素骨格における小さなメソ細孔及び/又はミクロ細孔の割合が高いこと、並びに全メソ細孔/ミクロ細孔容積に対する複合体中のシリコンの充填が制御されていることと関連していることが分かった。
【0020】
理論に縛られるものではないが、ナノスケールシリコンドメインが小さなメソ細孔及び/又はミクロ細孔内に位置することによって、第一に、過剰な構造的ストレスなくリチウム化及び脱リチウム化することができる微細なシリコン構造体が提供されると考えられる。これらの非常に微細なシリコンドメインは、より大きなシリコン構造体よりも、弾性変形に対する抵抗が低く、破壊抵抗が高いと考えられる。第二に、未充電状態で細孔容積の一部のみがシリコンによって占有されるように、多孔質炭素骨格内のシリコンの充填を制御することにより、多孔質炭素骨格の占有されていない細孔容積は、内部でかなりの量のシリコン膨張に適応することができる。より詳細には、高ミクロ多孔質炭素骨格は、細孔壁が薄いために、低破壊率で弾性変形することができ、この骨格の引張破壊強度は非常に高いと考えられる。
【0021】
そのため、シリコンが弾性変形に対して低抵抗であることは、炭素が相対的に高い弾性率を有することと相乗的に作用して、シリコン膨張を多孔質炭素骨格の細孔容積へと追い込む。シリコンが更にリチウム化すると、複合粒子全体がいくらか外部膨張するが、外部膨張の量は、内部で適応するシリコン膨張によって制限される。粒子が外側に膨張するまで、多孔質炭素骨格の微細孔構造は、破壊することなく変形することができる。内部膨張と外部膨張の量を慎重に制御することによって、多孔質炭素骨格及びシリコンドメインの歪みは、容量を大幅に損失することなく、複数回の充放電サイクルにわたって許容されるレベルに制限される。多孔質炭素骨格が高い全空隙率を有することは、シリコンの高体積充填を提供するだけでなく、多孔質炭素骨格が、多数回の充放電サイクルにわたる繰り返しの体積変化に耐えるのに十分な弾力性を有することを保証する。
【0022】
本発明の粒子状材料の並外れた性能における更に別の要因は、SEIの形成が最小限に抑えられることである。上述のように、ナノスケールシリコンドメインが小さなメソ細孔及び/又はミクロ細孔内に位置することにより、シリコン表面の小面積のみが電解質にアクセス可能となるため、SEIの形成が制限される。後続の充放電サイクルにおけるシリコンの追加的な露出は、SEIの形成が容量損失につながる可能性のある重大な欠陥メカニズムとはならないように、実質的に防止される。これは、例えばGuoによって開示された材料の特徴である過剰で制約のないSEIの形成とは明らかに対照的である(上記を参照)。露出するシリコン表面が最小限になることは、シリコン表面の酸化が低減されるという更なる利点を有する。
【0023】
本発明の粒子状材料の独自の粒子構造の結果として、複合粒子中のシリコンは、微細なシリコンナノ粒子の性能に匹敵する電気化学的性能を有するが、ばらばらのシリコンナノ粒子を商業的使用のための電極材料として実現できないものにする過剰なSEIの形成及び低分散性の不利点は有さない。
【0024】
多孔質炭素骨格は、好適には、ミクロ細孔及び/又はメソ細孔、及び任意で少量のマクロ細孔の組合せを含む3次元的に相互接続した開孔ネットワークを含む。従来のIUPAC用語に従うと、本明細書では、「ミクロ細孔」という用語は、直径2nm未満の細孔を指して使用され、本明細書では、「メソ細孔」という用語は、直径2nm~50nmの細孔を指して使用され、「マクロ細孔」という用語は、直径50nm超の細孔を指して使用される。
【0025】
本明細書における多孔質炭素骨格内のミクロ細孔、メソ細孔、及びマクロ細孔の容積への言及、並びに多孔質炭素骨格内の細孔容積分布へのいかなる言及も、単独(すなわち、細孔容積の一部又は全部を占めるシリコン又は他の材料がない状態)での多孔質炭素骨格の内部細孔容積を指す。
【0026】
多孔質炭素骨格は、ミクロ細孔及び/又はメソ細孔の形態での高い細孔容積を特徴とする。本明細書では、ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積(すなわち、0nm~50nmの範囲の全細孔容積)は、Pcm/gと称され、ここで、Pは、少なくとも0.7の値を有する無次元の自然数を表す。Pの値は、上述のように、多孔質炭素骨格における有効細孔容積と、多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比とを相関させるためにも使用される。
【0027】
より好ましくは、Pの値は、少なくとも0.75、又は少なくとも0.8、又は少なくとも0.85である。任意で、Pの値は、少なくとも0.9、又は少なくとも0.95、又は少なくとも1、例えば、少なくとも1.05、少なくとも1.1、少なくとも1.15、又は少なくとも1.2とすることができる。高空隙率の炭素骨格の使用は、より多くのシリコンを細孔構造内に収容することを可能にするため有利であり、その細孔容積が主にミクロ細孔及び/又はより小さなメソ細孔の形態である高空隙率の炭素骨格は、多孔質炭素骨格が破壊又はそうでなければ劣化することなく、シリコンの体積膨張に適応するのに十分な強度を有していることが分かった。
【0028】
多孔質炭素骨格の内部細孔容積は、好適には、多孔質炭素骨格の脆弱性の増加が、より多量のシリコンを収容する細孔容積の増加の利点を上回る値で制限される。通常、Pの値は、2.5以下とすることができる。しかしながら、より好ましくは、Pの値は、2.2以下、又は2以下、又は1.8以下、又は1.6以下、又は1.5以下、又は1.4以下、又は1.3以下、又は1.2以下、又は1.1以下、又は1.0以下、又は0.9以下とすることができる。より好ましくは、Pの値は、1.2以下、又は1.1以下、又は1.0以下、又は0.9以下である。
【0029】
本発明によれば、Pの値は、例えば、0.8~2.2の範囲、又は0.85~2.2の範囲、又は0.9~2.2の範囲、又は0.95~2.2の範囲、又は1~2.2の範囲、又は1.05~2.2の範囲、又は1.1~2.2の範囲、又は0.8~2の範囲、又は0.85~2の範囲、又は0.9~2の範囲、又は0.95~2の範囲、又は1~2の範囲、又は1.05~2の範囲、又は1.1~2の範囲、又は0.8~1.9の範囲、又は0.85~1.9の範囲、又は0.9~1.9の範囲、又は0.95~1.9の範囲、又は1~1.9の範囲、又は1.05~1.9の範囲、又は1.1~1.9の範囲、又は0.8~1.8の範囲、又は0.85~1.8の範囲、又は0.9~1.8の範囲、又は0.95~1.8の範囲、又は1~1.8の範囲、又は1.05~1.8の範囲、又は1.1~1.8の範囲、又は0.8~1.7の範囲、又は0.85~1.7の範囲、又は0.9~1.7の範囲、又は0.95~1.7の範囲、又は1~1.7の範囲、又は1.05~1.7の範囲、又は1.1~1.7の範囲、又は0.8~1.6の範囲、又は0.85~1.6の範囲、又は0.9~1.6の範囲、又は0.95~1.6の範囲、又は1~1.6の範囲、又は1.05~1.6の範囲、又は1.1~1.6の範囲とすることができる。
【0030】
好ましくは、Pの値は、例えば、0.7~1.5の範囲、又は0.75~1.4の範囲、又は0.7~1.3の範囲、又は0.75~1.3の範囲、又は0.7~1.2の範囲、又は0.75~1.2の範囲、又は0.7~1の範囲、又は0.75~1の範囲、又は0.7~0.9の範囲、又は0.75~0.9の範囲とすることができる。
【0031】
多孔質炭素骨格のPD50細孔径は、5nm未満である。本明細書で使用される「PD50細孔径」という用語は、ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に基づいた、体積ベースでの中央細孔径を指す(すなわち、その細孔径未満に、Pによって表される全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の50%が存在する細孔径)。したがって、本発明によれば、ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積の少なくとも50%は、直径5nm未満の細孔の形態を有する。
【0032】
本明細書で使用される「PD細孔径」という一般用語は、ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積に基づいた、体積ベースのnパーセンタイルの細孔径を指す。例えば、本明細書で使用される「D90細孔径」という用語は、その細孔径未満に、Pによって表される全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の90%が存在する細孔径を指す)。
【0033】
誤解を避けるために、いかなるマクロ細孔容積(50nm超の細孔径)も、PD値を求める目的では考慮しない。
【0034】
本発明によれば、多孔質炭素骨格のPD50細孔径は、好ましくは、4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下である。好ましくは、多孔質炭素骨格のPD50細孔径は、少なくとも0.8nm、又は少なくとも1nm、又は少なくとも1.2nmである。よって、全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の50%以上が、ミクロ細孔の形態を有することが特に好ましい。
【0035】
より好ましくは、多孔質炭素骨格の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも60%が、直径5nm以下の細孔の形態を有する。したがって、多孔質炭素骨格のPD60細孔径は、好ましくは、5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下、又は1.5nm以下である。
【0036】
より好ましくは、多孔質炭素骨格の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも70%が、直径5nm以下の細孔の形態を有する。したがって、多孔質炭素骨格のPD70細孔径は、好ましくは、5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下である。
【0037】
より好ましくは、多孔質炭素骨格の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも80%が、直径5nm以下の細孔の形態を有する。したがって、多孔質炭素骨格のPD80細孔径は、好ましくは、5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下である。
【0038】
多孔質炭素骨格におけるより大きなメソ細孔の容積は、好ましくは、PD90細孔径が20nm以下、又は15nm以下、又は12nm以下、又は10nm以下、又は8nm以下、又は6nm以下、又は5nm以下、又は4nm以下、又は3nm以下、又は2.5nm以下、又は2nm以下となるように制限される。
【0039】
好ましくは、PD95細孔径は、20nm以下、又は15nm以下、又は12nm以下、又は10nm以下である。
【0040】
本発明によれば、多孔質炭素骨格は、PD50が5nm以下であり、かつ、PD90が20nm以下であるもの、又はPD50が4nm以下であり、かつ、PD90が15nm以下であるもの、又はPD50が3nm以下であり、かつ、PD90が12nm以下であるもの、又はPD50が3nm以下であり、かつ、PD90が10nm以下であるもの、又はPD50が2.5nm以下であり、かつ、PD90が10nm以下であるもの、又はPD50が2nm以下であり、かつ、PD90が8nm以下であるもの、又はPD50が2nm以下であり、かつ、PD90が6nm以下であるもの、又はPD50が1.5nm以下であり、かつ、PD90が6nm以下であるものとすることができる。
【0041】
より好ましくは、多孔質炭素骨格は、PD50が1nm~5nmであり、かつ、PD90が3nm~20nmであるもの、又はPD50が1nm~4nmであり、かつ、PD90が3nm~15nmであるもの、又はPD50が1nm~3nmであり、かつ、PD90が3nm~12nmであるもの、又はPD50が1nm~3nmであり、かつ、PD90が3nm~10nmであるもの、又はPD50が1nm~2.5nmであり、かつ、PD90が3nm~10nmであるもの、又はPD50が1nm~2nmであり、かつ、PD90が3nm~8nmであるもの、又はPD50が1nm~2nmであり、かつ、PD90が3nm~6nmであるもの、又はPD50が1nm~2nmであり、かつ、PD90が3nm~6nmであるものとすることができる。
【0042】
より大きなメソ細孔の範囲の直径を有する細孔画分は、シリコンへの電解質のアクセスを容易にするため、有利となり得る。したがって、10nm~50nmの範囲の直径を有する細孔(すなわち、より大きなメソ細孔)は、任意で、多孔質炭素骨格の全ミクロ細孔及びメソ細孔容積の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも5%、又は少なくとも10%を構成することができる。
【0043】
多孔質炭素骨格におけるメソ細孔に対するミクロ細孔の体積比は、原則として、100:0~0:100の範囲とすることができる。好ましくは、メソ細孔に対するミクロ細孔の体積比は、90:10~55:45、又は90:10~60:40、又は85:15~65:35である。
【0044】
多孔質炭素骨格の細孔径分布は、単峰性、二峰性、又は多峰性とすることができる。本明細書で使用される「細孔径分布」という用語は、多孔質炭素骨格の累積全内部細孔容積に対する細孔径の分布に関する。最大5nmの直径の細孔と、より大きい直径の細孔との近接性によって、多孔質ネットワークを介してイオンがシリコンへと効率的に輸送されるという利点が提供されるため、二峰性又は多峰性の細孔径分布が好ましい場合がある。したがって、粒子状材料は高いイオン拡散性を有するため、レート性能が改善される。
【0045】
任意で、多孔質炭素骨格は、2nm未満に少なくとも1つのピークを有し、かつ、5nm~50nmの範囲に少なくとも1つのピークを有し、好ましくは細孔径分布における極小値が5nm~20nmの範囲である二峰性又は多峰性の細孔径分布を有する。より好ましくは、多孔質炭素骨格は、2nm未満に少なくとも1つのピークを有し、かつ、10nm~40nmの範囲に少なくとも1つのピークを有し、好ましくは細孔径分布における極小値が5nm~15nmの範囲である二峰性又は多峰性の細孔径分布を有する。
【0046】
好適には、二峰性又は多峰性の細孔径分布は、互いに5倍~20倍、より好ましくは約10倍異なる、ミクロ細孔の範囲のピーク細孔径と、メソ細孔径の範囲のピーク細孔径とを含む。例えば、多孔質炭素骨格は、細孔径2nmにピークを有し、かつ、細孔径20nmにピークを有する二峰性の細孔径分布を有することができる。
【0047】
ミクロ細孔及びメソ細孔の全容積、並びにミクロ細孔及びメソ細孔の細孔径分布は、ISO 15901-2及びISO 15901-3に規定された標準的な方法論に従って、急冷固体密度汎関数法(QSDFT)を使用して、77Kで10-6の相対圧力p/pまでの窒素ガス吸着を使用して決定する。窒素ガス吸着は、ガスを固体の細孔内で凝縮させることにより、材料の空隙率及び細孔径分布を特徴付ける手法である。圧力を上昇させると、ガスは、最初は最小の直径を有する細孔内で凝縮し、全ての細孔が液体で満たされる飽和点に達するまで圧力を上昇させる。次いで、窒素ガス圧力を段階的に下げて、液体を系から蒸発させる。吸着等温線及び脱着等温線、並びにそれらの間のヒステリシスの分析により、細孔容積及び細孔径分布を決定することができる。窒素ガス吸着による細孔容積及び細孔径分布の測定に好適な装置としては、米国のMicromeritics Instrument Corporationから入手可能なTriStar II空隙率分析装置及びTriStar II Plus空隙率分析装置、並びにQuantachrome Instrumentsから入手可能なAutosorb IQ空隙率分析装置が挙げられる。
【0048】
窒素ガス吸着は、最大50nmの直径を有する細孔の細孔容積及び細孔径分布の測定に効果的だが、はるかに大きな直径の細孔に対しては信頼性が低くなる。したがって、本発明の目的のために、最大50nm以下の直径を有する細孔のみの細孔容積及び細孔径分布を決定するために窒素吸着を使用する。上述のように、Pの値は、最大50nm以下の直径の細孔のみ(すなわち、ミクロ細孔及びメソ細孔のみ)を考慮して決定され、同様に、PDの値は、ミクロ細孔及びメソ細孔のみの全容積に対して決定される。
【0049】
利用可能な分析手法の限界に鑑みると、単一の手法を使用して、ミクロ細孔、メソ細孔、及びマクロ細孔の全範囲にわたる細孔容積及び細孔径分布を測定することは不可能である。多孔質炭素骨格がマクロ細孔を含む場合、50nm超、かつ、最大100nmの範囲の細孔の容積は、本明細書ではPcm/gの値で特定され、水銀圧入法により測定される。上述のように、Pの値は、単独で測定した場合、すなわち、多孔質炭素骨格の細孔を占めるシリコン又は他の材料がない場合の多孔質炭素骨格の細孔容積に関する。
【0050】
誤解を避けるために、Pの値は、50nm超、最大100nm以下の直径を有する細孔のみを考慮する。すなわち、Pの値は、最大100nmの直径のマクロ細孔の容積のみを含む。水銀圧入法によって50nm以下の細孔径で測定されたいかなる細孔容積も、Pの値を決定する目的では無視する(上述のように、メソ細孔及びミクロ細孔を特徴付けるために窒素吸着を使用する)。水銀圧入法によって100nm超で測定された細孔容積は、本発明の目的のために粒子間空隙率であると想定され、Pの値を決定する際にはこの細孔容積も考慮しない。
【0051】
水銀圧入法は、水銀に浸漬した材料の試料に対して、様々なレベルの圧力をかけることにより、材料の空隙率及び細孔径分布を特徴付ける手法である。試料の細孔に水銀を侵入させるのに必要な圧力は、細孔径に反比例する。本明細書で報告する水銀圧入法によって得られる値は、室温での水銀の表面張力γを480mN/m、接触角φを140°として、ASTM UOP578-11に従って得られたものである。室温での水銀の密度は、13.5462g/cmとする。米国のMicromeritics Instrument Corporationから入手可能な自動水銀圧入計AutoPore IVシリーズ等、多くの高精度水銀圧入装置が市販されている。水銀圧入法の完全な報告についてP.A. Webb及びC. Orrによる「Analytical Methods in Fine Particle Technology, 1997, Micromeritics Instrument Corporation」(ISBN 0-9656783-0)を参照することができる。
【0052】
マクロ細孔の容積(すなわち、Pの値)は、好ましくは、ミクロ細孔及びメソ細孔の容積(すなわち、Pの値)と比較して小さい。マクロ細孔の一部は、細孔ネットワークへの電解質のアクセスを容易にするのに有用である可能性があるが、本発明の利点は、実質的に、ミクロ細孔及びより小さなメソ細孔にシリコンを収容することによって得られる。
【0053】
よって、本発明によれば、多孔質炭素骨格におけるマクロ細孔の全容積は、水銀圧入法により測定するPcm/gであり、ここで、Pは、好ましくは、0.2×P以下、又は0.1×P以下、又は0.05×P以下、又は0.02×P以下、又は0.01×P以下、又は0.005×P以下の値を有する。
【0054】
好ましい実施の形態においては、Pは、0.3以下、又は0.25以下、又は0.20以下、又は0.15以下、又は0.1以下、又は0.05以下の値を有する。より大きなメソ細孔に関連して上で論じたように、マクロ細孔の範囲の小細孔容積率(fraction)は、シリコンへの電解質のアクセスを容易にするのに有利である可能性がある。
【0055】
開孔ネットワークは、任意で、階層的細孔構造、すなわち、より小さな細孔がより大きな細孔から分岐し、細孔径が或る程度の順序を有する細孔構造を含む。
【0056】
ガス吸着及び水銀圧入法等の侵入手法は、多孔質炭素骨格の外部から窒素又は水銀がアクセス可能な細孔の細孔容積を決定するためだけに有効であることが理解されるだろう。本明細書で規定する空隙率の値(P及びP)は、開孔、すなわち、多孔質炭素骨格の外部から流体がアクセス可能な細孔の容積を指すものとして理解されるべきである。窒素吸着又は水銀圧入法によって特定することができない完全に包囲された細孔は、本明細書では空隙率の値を規定する際に考慮しないものとする。同様に、窒素吸着による検出限界を下回るほど小さい細孔内に位置するいかなる細孔容積も、Pの値の決定において考慮しない。
【0057】
多孔質炭素骨格は、結晶質炭素若しくは非晶質炭素、又は非晶質炭素及び結晶質炭素の混合物を含むことができる。多孔質炭素骨格は、硬質炭素骨格又は軟質炭素骨格のいずれであってもよく、好適には、ポリマーの熱分解を含む既知の手順によって得ることができる。
【0058】
本明細書で使用される「硬質炭素」という用語は、炭素原子が、主に、ナノスケールの多環芳香族ドメインでsp混成状態(三方結合)をとる無秩序な炭素マトリックスを指す。この多環芳香族ドメインは、化学結合、例えば、C-O-C結合によって架橋している。多環芳香族ドメイン同士が化学的に架橋しているため、高温において、硬質炭素は黒鉛に変換することはできない。ラマンスペクトルにおける高Gバンド(約1600cm-1)によって明らかなように、硬質炭素は黒鉛のような特性を有している。しかしながら、ラマンスペクトルにおける高Dバンド(約1350cm-1)によって明らかなように、炭素は完全に黒鉛のようではない。
【0059】
本明細書で使用される「軟質炭素」という用語も、炭素原子が、主に、5nm~200nmの範囲の寸法を有する多環芳香族ドメインでsp混成状態(三方結合)をとる無秩序な炭素マトリックスを指す。硬質炭素とは対照的に、軟質炭素中の多環芳香族ドメインは、化学結合によって架橋せずに、分子間力によって結合している。すなわち、高温において、軟質炭素は黒鉛化し得る。多孔質炭素骨格は、好ましくは、XPSにより測定した場合に、少なくとも50%のsp混成炭素を含む。例えば、多孔質炭素骨格は、好適には、50%~98%のsp混成炭素、55%~95%のsp混成炭素、60%~90%のsp混成炭素、又は70%~85%のsp混成炭素を含むことができる。
【0060】
好適な多孔質炭素骨格を作製するために、様々な異なる材料を使用することができる。使用することができる有機材料の例としては、リグノセルロース系材料(ココナッツ殻、籾殻、木材等)を含む植物バイオマス、及び石炭等の化石炭素源を挙げることができる。熱分解により多孔質炭素骨格を形成する高分子材料の例としては、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ピッチ、メラミン、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、並びにアクリレート、スチレン、α-オレフィン、ビニルピロリドン、及び他のエチレン性不飽和モノマーのモノマー単位を含む様々なコポリマーが挙げられる。出発物質及び熱分解プロセスの条件に応じて、様々な異なる硬質炭素材料が当該技術分野で利用可能である。
【0061】
メソ細孔及びミクロ細孔の容積を増加させるために、多孔質炭素骨格に対して化学的活性化プロセス又はガス活性化プロセスを行うことができる。好適な活性化プロセスは、熱分解した炭素を、600℃~1000℃の範囲の温度で、酸素、スチーム、CO、CO、及びKOHの1つ以上と接触させることを含む。
【0062】
メソ細孔は、熱分解又は活性化後に熱的手段又は化学的手段によって除去することができる、MgO及び他のコロイド状テンプレート又はポリマーテンプレート等の抽出可能な細孔形成剤を使用する既知のテンプレートプロセス(templating processes)によっても得ることができる。
【0063】
多孔質炭素骨格は、好ましくは、少なくとも750m/g、又は少なくとも1000m/g、又は少なくとも1250m/g、又は少なくとも1500m/gのBET表面積を有する。本明細書で使用される「BET表面積」という用語は、ISO 9277に従ってブルナウアー・エメット・テラー理論を用いた、固体表面上へのガス分子の物理吸着の測定から計算された単位質量当たりの表面積を指すと解釈されるべきである。好ましくは、導電性多孔質粒子骨格のBET表面積は、4000m/g以下、又は3500m/g以下、又は3250m/g以下、又は3000m/g以下である。
【0064】
本発明の複合粒子中のシリコンの量は、好ましくは、シリコンが多孔質炭素骨格の内部細孔容積の約55%以下を(未充電状態で)占めるように選択する。シリコンは、好ましくは、多孔質炭素骨格の内部細孔容積の約25%~約45%、より好ましくは多孔質炭素骨格の内部細孔容積の約25%~40%を占める。これらの好ましい範囲内であれば、多孔質炭素骨格の細孔容積は、充放電の際のシリコンの膨張に適応するのに効果的となり、粒子状材料の体積容量に寄与しない過剰な細孔容積は回避される。しかしながら、シリコンの量はまた、リチウム化に対する機械的抵抗をもたらす不十分な金属イオン拡散速度又は不十分な膨張体積のために効果的なリチウム化を妨げるほど多くはない。
【0065】
多孔質炭素骨格中のシリコンの量は、多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が[0.5×P~1.3×P]:1の範囲であるという要件によって、有効細孔容積と相関し得る。この関係では、シリコンの密度及び多孔質炭素骨格の細孔容積を考慮して、細孔容積の約20%~55%が占有されるシリコンの重量比を規定する。
【0066】
好ましくは、多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比は、[0.55×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1.1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~1×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.95×P]:1の範囲、又は[0.6×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.9×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.85×P]:1の範囲、又は[0.65×P~0.8×P]:1の範囲、又は[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である。
【0067】
幾つかの場合では、複合粒子は、完全に包囲された空隙が、この空隙へ電解質がアクセスしないように、シリコンによって覆われた細孔を含むことができる。
【0068】
複合粒子の外表面上に位置するシリコンがないか又はほとんどないように、複合粒子におけるシリコン質量の好ましくは少なくとも90重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、更に好ましくは少なくとも98重量%が、多孔質炭素骨格の内部細孔容積内に位置する。
【0069】
本発明の粒子状材料は、空気中での熱重量分析(TGA)による性能によって更に特徴付けることができる。粒子状材料を、空気中において10℃/分の温度上昇速度でTGAにより分析する場合に、粒子状材料のシリコン含有量の好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下が800℃で未酸化である。
【0070】
未酸化シリコンの量は、これらの材料特有のTGAトレースからの導出により決定される。約300℃~500℃での質量増加は、シリコンのSiOへの初期酸化に対応し、それに続いて、炭素がCOガスに酸化されるため、約500℃~600℃で質量が減少する。約600℃超では、シリコンのSiOへの継続的な変換に対応する更なる質量増加があり、シリコンの酸化が完了するにつれて、1000℃超で漸近値に向かって増加する。
【0071】
この分析の目的のために、800℃超でのいかなる質量増加も、シリコンのSiOへの酸化に対応しており、酸化完了時の総質量はSiOであると想定される。これにより、800℃での未酸化シリコンの割合を、シリコンの総量に対する割合として、以下の式に従って決定することができる:
Z=1.875×[(M-M800)/M]×100%
(式中、Zは、800℃での未酸化シリコンの割合であり、Mは、酸化完了時の試料の質量であり、M800は、800℃での試料の質量である)。
【0072】
理論に縛られるものではないが、酸化物層を通る酸素原子の拡散は熱的に活性化されるため、シリコンがTGA下で酸化される温度は、シリコン上での酸化物被膜の長さスケールに概ね対応することが理解される。シリコンナノ構造体のサイズとその位置によって、酸化物被膜厚さの長さスケールが制限される。したがって、ミクロ細孔及びメソ細孔に堆積したシリコンは、これらの構造体上に存在する酸化物被膜が必然的により薄くなるため、粒子表面上のシリコン堆積物よりも低い温度で酸化することが理解される。したがって、本発明による好ましい材料は、ミクロ細孔及びより小さなメソ細孔に位置するシリコンナノ構造体が小さな長さスケールを有することと一致して、低温でシリコンの実質的に完全な酸化を示す。本発明の目的のために、800℃でのシリコンの酸化は、多孔質炭素骨格の外表面上のシリコンであると想定される。
【0073】
シリコンは、好ましくは非晶質シリコンである。非晶質シリコンは、電気活性材料としてより良好な性能を有すると考えられる。シリコンの形態は、X線回折(XRD)を使用した既知の手順によって決定することができる。
【0074】
窒素ガス吸着により測定した、複合粒子中の(すなわち、シリコンの存在下での)ミクロ細孔及びメソ細孔の容積は、好ましくは、0.15×P以下、又は0.10×P以下、又は0.05×P以下、又は0.02×P以下である。
【0075】
多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比は、元素分析によって決定することができる。元素分析は、複合粒子中のシリコン及び炭素の両方の重量割合を決定するために使用される。任意で、水素、窒素、及び酸素の量も、元素分析によって決定することができる。好ましくは、元素分析は、多孔質炭素骨格のみにおける炭素(並びに任意で、水素、窒素、及び酸素)の重量割合を決定するためにも使用される。多孔質炭素骨格のみにおける炭素の重量割合を決定することによって、この多孔質炭素骨格がその分子骨格内に少量のヘテロ原子を含む可能性を考慮する。両方の測定を一緒に行うことで、多孔質炭素骨格全体に対するシリコンの重量割合を確実に決定することができる。
【0076】
シリコンの含有量は、好ましくは、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)によって決定される。ThermoFisher Scientificから入手可能なICP-OES分析装置のiCAP(商標)7000シリーズ等、多くのICP-OES装置が市販されている。複合粒子及び多孔質炭素骨格のみにおける炭素の含有量(並びに必要に応じて、水素、窒素、及び酸素の含有量)は、好ましくは、IR吸収によって決定される。炭素、水素、窒素、及び酸素の含有量を決定するのに好適な装置は、Leco Corporationから入手可能なTruSpec(商標)Micro元素分析装置である。
【0077】
複合粒子は、好ましくは、酸素の総含有量が低い。酸素は、複合粒子において、例えば、多孔質炭素骨格の一部として、又は任意の露出したシリコン表面上の酸化物層として存在し得る。複合粒子の酸素の総含有量は、好ましくは15重量%未満、より好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満、例えば、2重量%未満、又は1重量%未満、又は0.5重量%未満である。
【0078】
シリコンは、任意で、1つ以上のドーパントを少量含むことができる。好適なドーパントには、ホウ素及びリン、他のn型若しくはp型ドーパント、窒素、又はゲルマニウムが含まれる。好ましくは、ドーパントは、シリコン及びドーパント(複数の場合もある)の総量に対して、2重量%以下の総量で存在する。
【0079】
誤解を避けるために、本明細書で使用される「粒子径」という用語は、球相当径(esd)、すなわち、或る粒子と同じ体積を有する球の直径を指し、ここで、粒子の体積は、粒子内の細孔の体積を含むと理解される。本明細書で使用される「D50」及び「D50粒子径」という用語は、体積ベースでの中央粒子径、すなわち、その粒子径未満に、粒子集団の50体積%が存在する直径を指す。本明細書で使用される「D10」及び「D10粒子径」という用語は、体積ベースの10パーセンタイルの中央粒子径、すなわち、その粒子径未満に、粒子集団の10体積%が存在する直径を指す。本明細書で使用される「D90」及び「D90粒子径」という用語は、体積ベースの90パーセンタイルの中央粒子径、すなわち、その粒子径未満に、粒子集団の90体積%が存在する直径を指す。
【0080】
粒度分布を規定するために本明細書で使用される「D」という用語は、上述のように、細孔径分布を規定するために本明細書で使用される「PD」という用語とは区別されるべきである。
【0081】
粒子径及び粒度分布は、ISO 13320:2009に従って、通常のレーザー回折手法によって決定することができる。レーザー回折は、粒子が、粒子のサイズに応じて変化する角度で光を散乱し、粒子の集まりが、粒度分布に相関し得る強度及び角度によって規定される散乱光パターンを生成するという原理に基づいている。粒度分布を迅速かつ確実に決定するために、多くのレーザー回折装置が市販されている。特に明記しない限り、本明細書で規定又は報告する粒度分布測定値は、Malvern Instruments製の従来のMalvern Mastersizer(商標)3000粒度分析装置により測定されたものである。このMalvern Mastersizer(商標)3000粒度分析装置は、水溶液に懸濁した対象粒子を含有する透明セルを通してヘリウムネオンガスレーザービームを投射することによって動作する。粒子に当たる光線は、粒子径に反比例する角度で散乱され、光検出器アレイによって、所定の幾つかの角度で光の強度を測定し、様々な角度で測定した強度を、標準的な理論原理を使用してコンピューターによって処理し、粒度分布を決定する。本明細書で報告されるレーザー回折値は、蒸留水中の粒子の湿式分散体を使用して得られる。粒子の屈折率は3.50であり、かつ、分散剤の屈折率は1.330であるとする。粒度分布は、ミー散乱モデルを使用して計算する。
【0082】
複合粒子は、0.5μm~50μmの範囲のD50粒子径を有することができる。任意で、D50粒子径は、少なくとも1μm、又は少なくとも2μm、又は少なくとも3μm、又は少なくとも4μm、又は少なくとも5μmとすることができる。任意で、D50粒子径は、40μm以下、又は30μm以下、又は25μm以下、又は20μm以下、又は15μm以下とすることができる。
【0083】
例えば、複合粒子は、1μm~25μm、又は1μm~20μm、又は2μm~20μm、又は2μm~15μm、又は3μm~15μmの範囲のD50粒子径を有することができる。これらのサイズ範囲内であり、本明細書に記載の空隙率及び細孔径分布を有する粒子は、スラリー中で分散性を有し、構造的堅牢性を有し、繰り返しの充放電サイクルにわたって容量保持し、かつ、従来の20μm~50μmの範囲の均一な厚さを有する緻密な電極層を形成するのに適しているため、金属イオン電池用アノードにおける使用に理想的に適している。
【0084】
複合粒子のD10粒子径は、好ましくは、少なくとも0.2μm、又は少なくとも0.5μm、又は少なくとも0.8μm、又は少なくとも1μm、又は少なくとも1.5μm、又は少なくとも2μmである。D10粒子径を0.2μm以上に維持することによって、サブミクロンサイズの粒子の望ましくない凝集の可能性が低下して、粒子状物質の分散性が改善され、容量保持率が改善される。
【0085】
複合粒子のD90粒子径は、好ましくは、80μm以下、又は60μm以下、又は40μm以下、又は30μm以下、又は25μm以下、又は20μm以下である。非常に大きな粒子の存在は、電極活性層において粒子が不均一に成形充填されることにつながるため、緻密な電極層、特に20μm~50μmの範囲の厚さを有する電極層の形成が妨害される。したがって、D90粒子径は40μm以下であることが好ましく、更に小さいことがより好ましい。
【0086】
複合粒子は、好ましくは、狭い粒度分布スパンを有する。例えば、粒度分布スパン((D90-D10)/D50として規定される)は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。狭い粒度分布スパンを維持することによって、緻密な電極層への粒子の効率的な充填をより容易に達成することができる。
【0087】
複合粒子は、回転楕円状(spheroidal)の形状を有することができる。本明細書で規定する回転楕円状粒子は、球状粒子及び楕円状粒子の両方を含むことができ、本発明の複合粒子の形状は、好適には、本発明の粒子の球形度及びアスペクト比を参照することによって規定することができる。回転楕円状粒子は、凝集体を形成することなく、スラリーへの分散に特に適していることが分かった。また、多孔質回転楕円状粒子の使用は、驚くべきことに、不規則な形状の多孔質粒子及び多孔質粒子フラグメントと比較した場合に、強度の更なる向上を提供することが分かった。
【0088】
物体の球形度は、従来、この物体の表面積に対する球の表面積の比として定義され、ここで、物体と球とは同じ体積を有する。しかしながら、実用上は、ミクロンスケールの個々の粒子の表面積及び体積を測定することは困難である。しかしながら、走査型電子顕微鏡法(SEM)、及び粒子によって投影された影を、デジタルカメラを使用して記録する動的画像分析によって、ミクロンスケールの粒子の高精度な2次元投影像を得ることができる。本明細書で使用される「球形度」という用語は、円の面積に対する粒子投影像の面積の比として理解されるものとし、ここで、粒子投影像と円とは同一の円周を有する。よって、個々の粒子に対して、球形度Sは以下のように定義される:
【数1】
(式中、Aは、粒子投影像に対して測定した面積であり、Cは、粒子投影像に対して測定した円周である)。本明細書で使用される粒子集団の平均球形度Savは以下のように定義される:
【数2】
(式中、nは集団中の粒子の数を表す)。
【0089】
本明細書で、本発明の複合粒子に適用して使用される「回転楕円状」という用語は、少なくとも0.70の平均球形度を有する材料を指すと理解されるものとする。本発明の多孔質回転楕円状粒子は、好ましくは少なくとも0.85、より好ましくは少なくとも0.90、より好ましくは少なくとも0.92、より好ましくは少なくとも0.93、より好ましくは少なくとも0.94、より好ましくは少なくとも0.95の平均球形度を有する。多孔質回転楕円状粒子は、任意で、少なくとも0.96、又は少なくとも0.97、又は少なくとも0.98、又は少なくとも0.99の平均球形度を有することができる。
【0090】
2次元粒子投影像の円周及び面積は、完全に回転楕円状ではない任意の粒子の場合、粒子の配向に依存することが理解されるだろう。しかしながら、粒子配向の影響は、球形度及びアスペクト比を、ランダム配向を有する複数の粒子から得られた平均値として報告することによって相殺することができる。多くのSEM装置及び動的画像分析装置が市販されており、粒子状物質の球形度及びアスペクト比を迅速かつ確実に決定することができる。特に明記しない限り、本明細書で規定又は報告する球形度の値は、Retsch Technology GmbH製のCamSizer XT粒子分析装置により測定されたものである。このCamSizer XTは、100mg~100gの試料体積の粒子状物質のサイズ及び形状の高精度な分布を得ることができる動的画像分析装置であり、平均球形度及びアスペクト比等の特性をこの装置で直接計算することができる。
【0091】
本発明の複合粒子は、好ましくは、300m/g以下、又は250m/g以下、又は200m/g以下、又は150m/g以下、又は100m/g以下、又は80m/g以下、又は60m/g以下、又は40m/g以下、又は30m/g以下、又は25m/g以下、又は20m/g以下、又は15m/g以下、又は10m/g以下のBET表面積を有する。通常、本発明の粒子状材料を含むアノードの初回の充放電サイクル中に、複合粒子の表面における固体電解質界面(SEI)層の形成を最小限にするために、BET表面積は小さいことが好ましい。しかしながら、BET表面積が過剰に小さいと、周囲の電解質中の金属イオンが電気活性材料の大部分にアクセスできなくなるために、許容できないほど低い充電レート及び容量につながる。例えば、BET表面積は、好ましくは、少なくとも0.1m/g、又は少なくとも1m/g、又は少なくとも2m/g、又は少なくとも5m/gである。例えば、BET表面積は、1m/g~25m/gの範囲、より好ましくは2m/g~15m/gの範囲とすることができる。
【0092】
本発明の粒子状材料は、典型的には、初回のリチウム化の際に、1200mAh/g~2340mAh/gの比充電容量を有する。好ましくは、本発明の粒子状材料は、初回のリチウム化の際に、少なくとも1400mAh/gの比充電容量を有する。
【0093】
本発明の複合粒子は、好適には、多孔質炭素骨格の細孔構造へのシリコン含有前駆体の化学気相浸透(CVI)によって作製する。本明細書で使用されるCVIは、ガス状のシリコン含有前駆体が表面上で熱分解されて、表面に元素状シリコン及びガス状の副生成物が形成されるプロセスを指す。
【0094】
好適なガス状のシリコン含有前駆体としては、シラン(SiH)、シラン誘導体(例えば、ジシラン、トリシラン、及びテトラシラン)、及びトリクロロシラン(SiHCl)が挙げられる。シリコン含有前駆体は、純粋な形態で、又はより一般的には、窒素若しくはアルゴン等の不活性キャリアガスとの希釈混合物として使用することができる。例えば、シリコン含有前駆体は、このシリコン含有前駆体と不活性キャリアガスとの総体積に対して、0.5体積%~20体積%、又は1体積%~10体積%、又は1体積%~5体積%の範囲の量で使用することができる。CVIプロセスは、好適には、全圧101.3kPa(すなわち、1atm)で、シリコン前駆体の分圧を低くして行い、残りの分圧は、水素、窒素、又はアルゴン等の不活性パディングガス(padding gas)を使用して大気圧になる。400℃~700℃、例えば、400℃~550℃、又は400℃~500℃、又は400℃~450℃、又は450℃~500℃の範囲の堆積温度を使用する。CVIプロセスは、好適には、固定床反応器、流動床反応器(噴流床反応器を含む)、又はロータリーキルンで行うことができる。
【0095】
固定床反応器法の例として、1.8gの粒子状多孔質骨格を、ステンレス鋼プレート上に、その長さに沿って1mmの一定厚さで配置した。次いで、プレートを外径60mmのステンレス鋼管の内部に配置し、ガスの入口ライン及び出口ラインをレトルト炉のホットゾーンに配置した。炉管を室温で30分間、窒素ガスでパージした後、試料温度を450℃~500℃に上昇させた。窒素ガスの流量を、炉管内で少なくとも90秒のガス滞留時間が確保されるように調節し、その速度で30分間維持する。次いで、ガス供給を窒素から、濃度1.25体積%の窒素中のモノシランの混合物に切り替える。モノシランの投入を、反応器圧力を101.3kPa(1atm)に維持して、5時間にわたって行う。投入が完了した後、窒素を使用してシランを炉からパージする間、ガス流量を一定に保つ。炉を窒素下で30分間パージした後、数時間かけて室温まで冷却する。次いで、ガス流を窒素から圧縮空気供給からの空気に切り替えることにより、雰囲気を2時間かけて徐々に空気に切り替える。
【0096】
本発明の粒子状材料は、任意で、導電性炭素被膜を含むことができる。好適には、導電性炭素被膜は、化学蒸着(CVD)法によって得ることができる。CVDは当該技術分野において既知の方法論であり、粒子状材料の表面での揮発性炭素含有ガス(例えば、エチレン)の熱分解を含む。代替的には、炭素被膜は、炭素含有化合物の溶液を粒子状材料の表面に堆積させ、続いて熱分解することによって形成することができる。導電性炭素被膜は、複合粒子のレート性能を低下させないように、過剰な抵抗なく、複合粒子の内部にリチウムがアクセスするのに十分な透過性を有する。例えば、炭素被膜の厚さは、好適には、2nm~30nmの範囲とすることができる。炭素被膜は、任意で、多孔質であってもよく、及び/又は、複合粒子の表面を部分的にのみ覆ってもよい。
【0097】
炭素被膜は、任意の表面欠陥を滑らかにし、表面の残りの微細構造(microporosity)を埋めることによって、粒子状物質のBET表面積を更に小さくし、それにより、初回のサイクル損失を更に低減するという利点を有する。また、炭素被膜は、複合粒子の表面の導電性を改善して、電極組成物における導電性添加剤の必要性を減らし、また、安定したSEI層の形成に最適な表面を形成して、サイクル時の容量保持率を改善する。
【0098】
本発明の第1の態様によれば、以下の態様1-1~態様1-24による粒子状材料が更に提供される。
【0099】
態様1-1:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~18μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0100】
態様1-2:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~12μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0101】
態様1-3:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が2μm~8μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0102】
態様1-4:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が3μm~6μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0103】
態様1-5:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~18μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0104】
態様1-6:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~12μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0105】
態様1-7:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が2μm~8μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0106】
態様1-8:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が3μm~6μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0107】
態様1-9:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~2nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~18μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0108】
態様1-10:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~2nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~12μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0109】
態様1-11:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~2nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が2μm~8μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0110】
態様1-12:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~2nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が3μm~6μmの範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0111】
態様1-13:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~18μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~1.1×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0112】
態様1-14:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~12μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~1.1×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0113】
態様1-15:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が2μm~8μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~1.1×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0114】
態様1-16:
(i)Pが0.7~1.4の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が0.8nm~4nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が3μm~6μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.5×P~1.1×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0115】
態様1-17:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~18μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.6×P~0.9×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0116】
態様1-18:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~12μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.6×P~0.9×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0117】
態様1-19:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が2μm~8μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.6×P~0.9×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0118】
態様1-20:
(i)Pが0.7~1.1の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1nm~2.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が3μm~6μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.6×P~0.9×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0119】
態様1-21:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~1.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~18μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0120】
態様1-22:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~1.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が1μm~12μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0121】
態様1-23:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~1.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が2μm~8μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0122】
態様1-24:
(i)Pが0.7~0.9の範囲であり、
(ii)PD50細孔径が1.2nm~1.5nmの範囲であり、
(iii)多孔質炭素骨格のD50粒子径が3μm~6μmの範囲であり、
(iv)複合粒子における多孔質炭素骨格に対するシリコンの重量比が、[0.7×P~0.8×P]:1の範囲である、
本発明の第1の態様による粒子状材料。
【0123】
本発明によれば、上述の態様1-1~態様1-24の範囲内にある、本発明の第1の態様に関して本明細書で開示した好ましい/任意の特徴は、態様1-1~態様1-24の好ましい/任意の特徴でもあるとみなされるべきであるということが理解されるべきである。同様に、上述の態様1-1~態様1-24の範囲内にある従属項のいかなる特徴も、それらの請求項が態様1-1~態様1-24に従属しているように解釈されるべきである。
【0124】
本発明の第2の態様では、本発明の第1の態様による粒子状材料と、少なくとも1つの他の成分とを含む組成物が提供される。本発明の第2の態様の組成物を作製するために使用される粒子状材料は、本発明の第1の態様に関して好ましい又は任意であると記載された特徴のいずれかを有することができ、態様1-1~態様1-24のいずれかによる粒子状材料とすることができる。特に、本発明の第1の態様の粒子状材料は、電極組成物の成分として使用することができる。
【0125】
よって、本発明の第1の態様による粒子状材料と、(i)バインダー、(ii)導電性添加剤、及び(iii)追加の粒子状電気活性材料から選択される少なくとも1つの他の成分とを含む組成物が提供される。本発明の組成物は、電極組成物として有用であり、よって、電極上に活性層を形成するのに使用することができる。
【0126】
電極組成物は、本発明の第1の態様による粒子状材料と、少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料とを含むハイブリッド電極組成物とすることができる。追加の粒子状電気活性材料の例としては、黒鉛、硬質炭素、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、アルミニウム、及び鉛が挙げられる。少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料は、好ましくは、黒鉛及び硬質炭素から選択される。少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料は、最も好ましくは、黒鉛である。
【0127】
少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料は、好ましくは10μm~50μm、好ましくは10μm~40μm、より好ましくは10μm~30μm、最も好ましくは10μm~25μm、例えば15μm~25μmの範囲のD50粒子径を有する。
【0128】
少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料のD10粒子径は、好ましくは少なくとも5μm、より好ましくは少なくとも6μm、より好ましくは少なくとも7μm、より好ましくは少なくとも8μm、より好ましくは少なくとも9μm、更に好ましくは少なくとも10μmである。
【0129】
少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料のD90粒子径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、最も好ましくは40μm以下である。
【0130】
好ましい実施の形態では、少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料は、炭素含有粒子、黒鉛粒子、及び/又は硬質炭素粒子から選択され、ここで、黒鉛粒子及び硬質炭素粒子は、10μm~50μmの範囲のD50粒子径を有する。更に好ましくは、少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料は黒鉛粒子から選択され、ここで、黒鉛粒子は、10μm~50μmの範囲のD50粒子径を有する。
【0131】
本発明の粒子状材料は、好ましくは、電極組成物中の電気活性材料の総乾燥重量(すなわち、本発明の粒子状材料と、少なくとも1つの追加の粒子状電気活性材料との総乾燥重量)の0.5重量%~80重量%を構成する。本発明の粒子状材料は、電極組成物中の電気活性材料の総乾燥重量のより好ましくは2重量%~70重量%、より好ましくは4重量%~60重量%、より好ましくは5重量%~50重量%を構成する。
【0132】
電極組成物は、任意で、バインダーを含むことができる。バインダーは、電極組成物を集電体に接着させ、かつ、電極組成物の一体性を維持するように機能する。本発明に従って使用することができるバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)及びそのアルカリ金属塩、変性ポリアクリル酸(mPAA)及びそのアルカリ金属塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)、変性カルボキシメチルセルロース(mCMC)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(Na-CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸塩及びそのアルカリ金属塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、並びにポリイミドが挙げられる。電極組成物は、バインダーの混合物を含むことができる。好ましくは、バインダーは、ポリアクリル酸(PAA)及びそのアルカリ金属塩、並びに変性ポリアクリル酸(mPAA)及びそのアルカリ金属塩、SBR、並びにCMCから選択されるポリマーを含む。
【0133】
バインダーは、好適には、電極組成物の総乾燥重量に対して、0.5重量%~20重量%、好ましくは1重量%~15重量%、最も好ましくは2重量%~10重量%の量で存在することができる。
【0134】
バインダーは、任意で、架橋促進剤、カップリング剤、及び/又は接着促進剤等、バインダーの特性を変更する1つ以上の添加剤と組み合わせて存在することができる。
【0135】
電極組成物は、任意で、1つ以上の導電性添加剤を含むことができる。好ましい導電性添加剤は、電極組成物の電気活性成分間、及び電極組成物の電気活性成分と集電体との間の導電性を改善するように含まれる非電気活性材料である。導電性添加剤は、好適には、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、金属繊維、金属粉末、及び導電性金属酸化物から選択することができる。好ましい導電性添加剤としては、カーボンブラック及びカーボンナノチューブが挙げられる。
【0136】
1つ以上の導電性添加剤は、好適には、電極組成物の総乾燥重量対して、0.5重量%~20重量%、好ましくは1重量%~15重量%、最も好ましくは2重量%~10重量%の総量で存在することができる。
【0137】
第3の態様では、本発明は、集電体と電気的に接触した、本発明の第1の態様を参照して規定された粒子状材料を含む電極を提供する。本発明の第3の態様の電極を作製するのに使用される粒子状材料は、本発明の第1の態様に関して好ましい又は任意であると記載された特徴のいずれかを有することができ、態様1-1~態様1-24のいずれかによる粒子状物質とすることができる。
【0138】
本明細書で使用される集電体という用語は、電極組成物中の電気活性粒子へと、又は該電気活性粒子から電流を流すことができる任意の導電性基板を指す。集電体として使用することができる材料の例としては、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及び焼結炭素が挙げられる。銅が好ましい材料である。集電体は、典型的には、3μm~500μmの厚さを有する箔又はメッシュの形態を有する。本発明の粒子状材料は、集電体の片面又は両面に、好ましくは10μm~1mm、例えば、20μm~500μm、又は50μm~200μmの範囲の厚さで適用することができる。
【0139】
好ましくは、電極は、集電体と電気的に接触した、本発明の第2の態様を参照して規定された電極組成物を含む。電極組成物は、本発明の第2の態様に関して好ましい又は任意であると記載された特徴のいずれかを有することができる。
【0140】
本発明の第3の態様の電極は、好適には、本発明の粒子状材料(任意で、本発明の電極組成物の形態を有する)を、溶媒及び任意で1つ以上の粘度調整添加剤と組み合わせてスラリーを形成することによって作製することができる。次いで、スラリーを集電体の表面にキャストし、溶媒を除去することによって、集電体の表面に電極層を形成する。任意のバインダーを硬化させる熱処理及び/又は電極層のカレンダリング処理等の更なる工程を、適宜、行うことができる。電極層は、好適には、20μm~2mm、好ましくは20μm~1mm、好ましくは20μm~500μm、好ましくは20μm~200μm、好ましくは20μm~100μm、好ましくは20μm~50μmの範囲の厚さを有する。
【0141】
代替的には、例えば、スラリーを好適なキャストテンプレートにキャストし、溶媒を除去し、次いでキャストテンプレートを除去することによって、スラリーを本発明の粒子状材料を含む自立型フィルム又はマットに成形することができる。得られたフィルム又はマットは、自立型凝集塊の形態を有しており、次いで、既知の方法によって集電体に接着することができる。
【0142】
本発明の第3の態様の電極は、金属イオン電池のアノードとして使用することができる。よって、第4の態様では、本発明は、上述のような電極を含むアノードと、金属イオンを放出及び再吸収することができるカソード活物質を含むカソードと、アノードとカソードとの間の電解質とを含む充電式金属イオン電池を提供する。本発明の第4の態様の電池を作製するのに使用される粒子状材料は、本発明の第1の態様に関して好ましい又は任意であると記載された特徴のいずれかを有することができ、態様1-1~態様1-24のいずれかによる粒子状材料とすることができる。
【0143】
金属イオンは、好ましくはリチウムイオンである。より好ましくは、本発明の充電式金属イオン電池はリチウムイオン電池であり、カソード活物質はリチウムイオンを放出することができる。
【0144】
カソード活物質は、好ましくは金属酸化物系複合材料である。好適なカソード活物質の例としては、LiCoO、LiCo0.99Al0.01、LiNiO、LiMnO、LiCo0.5Ni0.5、LiCo0.7Ni0.3、LiCo0.8Ni0.2、LiCo0.82Ni0.18、LiCo0.8Ni0.15Al0.05、LiNi0.4Co0.3Mn0.3、及びLiNi0.33Co0.33Mn0.34が挙げられる。カソード集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有する。カソード集電体として使用することができる材料の例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及び焼結炭素が挙げられる。
【0145】
電解質は、好適には、金属塩、例えばリチウム塩を含有する非水性電解質であり、非水性電解液、固体電解質、及び無機固体電解質を含むことができるが、これらに限定されるものではない。使用することができる非水性電解液の例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の非プロトン性有機溶媒が挙げられる。
【0146】
有機固体電解質の例としては、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキサイド誘導体、ポリプロピレンオキサイド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、及びイオン性解離基を含有するポリマーが挙げられる。
【0147】
無機固体電解質の例としては、LiNI、LiN、LiI、LiSiO、LiSiS、LiSiO、LiOH、及びLiPO等のリチウム塩の窒化物、ハロゲン化物、硫化物が挙げられる。
【0148】
リチウム塩は、好適には、選択した溶媒又は溶媒の混合物に可溶である。好適なリチウム塩の例としては、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiBC、LiPF、LiCFSO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、及びCFSOLiが挙げられる。
【0149】
電解質が非水性有機溶液である場合、金属イオン電池は、好ましくは、アノードとカソードとの間に挿入されたセパレータを備える。セパレータは、典型的には、高いイオン透過性及び高い機械的強度を有する絶縁材料で形成されている。セパレータは、典型的には、0.01μm~100μmの細孔径を有し、5μm~300μmの厚さを有する。好適な電極セパレータの例としては、マイクロポーラスポリエチレンフィルムが挙げられる。
【0150】
セパレータは、高分子電解質材料で置き換えることができ、そのような場合、高分子電解質材料は、複合アノード層及び複合カソード層の両方中に存在する。高分子電解質材料は、固体高分子電解質又はゲル型高分子電解質とすることができる。
【0151】
第5の態様では、本発明は、本発明の第1の態様を参照して規定された粒子状材料のアノード活物質としての使用を提供する。好ましくは、粒子状材料は、本発明の第2の態様を参照して規定される電極組成物の形態を有し、最も好ましくは、電極組成物は、上記で規定される1つ以上の追加の粒子状電気活性材料を含む。本発明の第5の態様に従って使用される粒子状材料は、本発明の第1の態様に関して好ましい又は任意であると記載された特徴のいずれかを有することができ、態様1-1~態様1-24のいずれかによる粒子状材料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0152】
図1】実施例の図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0153】
以下の特性を備えた炭素骨格粒子を使用して、表1の粒子状複合材料を作製した。
1860m/gのBET表面積
0.88cm/gのP細孔容積
54%のミクロ細孔率(ミクロ細孔容積/(ミクロ細孔容積+メソ細孔容積))
1.4nmのPD50、5.1nmのPD90、0.60nmのPD10、0.87nmPD30、及び2.79nmのPD75
1.31μmのD10~11.1μmのD90の範囲の、3.12μmのD50粒子径
【0154】
Si-C複合体:
本明細書に記載の方法により作製したSi-C複合材料は、以下の表1に示す特性を有する。シリコン-炭素複合材料は、内径83mmのステンレス鋼円筒形容器を備えた縦型気泡流動床反応器で合成した。上述の特性を有する炭素骨格粒子の粉末を250gの量で反応器に入れる。不活性ガス(窒素)を低流量で反応器に注入して、酸素を除去する。次いで、反応器を400℃~500℃の反応温度に加熱し、窒素で希釈した4v/v%のモノシランガスを、炭素骨格粒子を流動化するのに十分な流量で、目標質量のシリコンを堆積させるのに十分な長さの時間、反応器の底部に供給する。
【0155】
【表1】
【0156】
電極の作製
表1の粒子状Si-C複合材料を組み込んだアノード及びテストセルを、以下の方法を使用して作製した。
【0157】
テストコインセルを、上述のように作製したシリコン系材料を含む負極を用いて作製した。Carbon Super P(導電性炭素)とCMCバインダーの分散液をThinky(商標)ミキサーで混合した。この混合物にシリコン系材料を添加し、Thinky(商標)ミキサーで30分間混合した。次いで、SBRバインダーを添加してCMC:SBR比を1:1とし、シリコン系材料:CMC/SBR:導電性炭素の重量比が70%:16%:14%であるスラリーを得た。スラリーをThinky(商標)ミキサーで更に30分間混合し、次いで、厚さ10μmの銅基板(集電体)に被覆させ、50℃で10分間乾燥させた後、110℃で12時間更に乾燥させることにより、銅基板上に活性層を備えた電極を形成した。
【0158】
セルの製造及びサイクル
フルセルの製造
フルコインセルを、多孔質ポリエチレンセパレータ及びニッケルマンガンコバルト(NMC532)正極と共に、上述の電極から切り出した半径0.8cmの円形負極を使用して作製した。正極及び負極は、これらの電極の目標容量比が約0.9となるように、バランスの良いペアを形成するように設計した。次いで、3重量%のビニレンカーボネートを含有する7:3のEMC/FEC(エチルメチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネート)溶液中に、1MのLiPFを含む電解質を、密封前にセルに添加した。
【0159】
各複合材料に対して、3つのコインセルを作製した。
【0160】
フルコインセルを、以下のようにサイクルさせた。4.3Vのカットオフ電圧でC/25のレートで定電流を印加してアノードをリチウム化した。カットオフ電圧に達したら、C/100のカットオフ電流に達するまで、4.3Vの定電圧を印加する。次いで、セルをリチウム化状態で10分間休止させた。次いで、2.75Vのカットオフ電圧で、C/25の定電流でアノードを脱リチウム化する。次いで、セルを10分間休止させた。この初回のサイクルの後、4.3Vのカットオフ電圧でC/2の定電流を印加してアノードをリチウム化し、続いて、C/40のカットオフ電流で4.3Vの定電圧を印加し、休止時間5分とした。次いで、2.75Vのカットオフ電圧でC/2の定電流でアノードを脱リチウム化した。次いで、これを所望のサイクル回数繰り返した。
【0161】
各サイクルの充電(リチウム化)容量及び放電(脱リチウム)容量を、シリコン-炭素複合材料の単位質量当たりで計算し、容量保持値を、2回目のサイクルの放電容量に対するパーセントとして、各放電容量に対して計算する。初回のサイクル損失(FCL)は、(1-(初回の脱リチウム化容量/初回のリチウム化容量))×100%である。各材料に対して3つのコインセルで平均した主要値を以下の表に示し、6つのセル全ての容量保持率を図1にプロットする。
【0162】
以下の表2及び図1から、試料Aの材料で作製したセルが、性能にばらつきも有する試料Bの材料で作製したセルよりも高い容量保持率で、非常に一致したサイクル性能を有していることを実証することができる。
【0163】
【表2】
図1