(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/35 20060101AFI20241209BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241209BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241209BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241209BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20241209BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241209BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241209BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
A61K31/35
A61P9/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/28
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021550238
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 KR2020002907
(87)【国際公開番号】W WO2020175962
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0024024
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518462156
【氏名又は名称】グラセウム・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サン・ク・ユ
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヨン・キム
(72)【発明者】
【氏名】イン・グン・ジョ
(72)【発明者】
【氏名】キュン・イル・キム
(72)【発明者】
【氏名】ユン・スン・パク
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023140(JP,A)
【文献】国際公開第2019/011955(WO,A1)
【文献】特表2017-501163(JP,A)
【文献】特開2005-089322(JP,A)
【文献】特表2010-538072(JP,A)
【文献】YU, Xue-Qing Yu et al.,In vitro and in vivo neuroprotective effect and mechanisms of glabridin, a major active isoflavan from Glycyrrhiza glabra (licorice),Life Sciences,82,2008年,68-78,DOI:10.1016/j.lfs.2007.10.019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式IIのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物を含む神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物:
[化学式II]
【化1】
前記化学式IIにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原
子であり、
R
4は、水素原
子であり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の
各々の置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【請求項2】
前記化学式IIの化合物は、下記の化合物のいずれか1つである、請求項
1に記載
の薬学的組成物:
[化学式II-1]
【化2】
[化学式II-2]
【化3】
。
【請求項3】
下記化学式IIIのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物を含む神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物:
[化学式III]
【化4】
前記化学式IIIにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原
子であり、
R
4は、水素原
子であり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の
各々の置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【請求項4】
前記化学式IIIの化合物は、下記の化合物のいずれか1つである、請求項
3に記載
の薬学的組成物:
[化学式III-1]
【化5】
[化学式III-2]
【化6】
[化学式III-3]
【化7】
[化学式III-4]
【化8】
。
【請求項5】
前記化学式
IIIのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、下記化学式IVの化合物である、請求項
3に記載
の薬学的組成物:
[化学式IV]
【化9】
前記化学式IVにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原
子であり、
R
4は、水素原
子であり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の
各々の置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【請求項6】
前記化学式IVの化合物は、下記の化合物のいずれか1つである、請求項
5に記載
の薬学的組成物:
[化学式IV-1]
【化10】
[化学式IV-2]
【化11】
[化学式IV-3]
【化12】
[化学式IV-4]
【化13】
。
【請求項7】
前記化学式
IIIのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、下記化学式Vの化合物である、請求項
3に記載
の薬学的組成物:
[化学式V]
【化14】
前記化学式Vにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原
子であり、
R
4は、水素原
子であり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の
各々の置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【請求項8】
前記化学式Vの化合物は、下記の化合物のいずれか1つである、請求項
7に記載
の薬学的組成物:
[化学式V-1]
【化15】
[化学式V-2]
【化16】
[化学式V-3]
【化17】
[化学式V-4]
【化18】
。
【請求項9】
前記神経系疾患は、アルツハイマー病、血管性痴呆,パーキンソン病、脳髄膜炎、てんかん、脳卒中、脳腫瘍、筋神経系疾患、神経系感染、遺伝性神経疾患、脊髄疾患および異常運動疾患のいずれか1つである、請求項1
又は3に記載
の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物に関し、具体的には、ピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物を含む神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
神経系は、身体内外部の刺激とシグナルを受け入れて他の部位に伝達し反応を起こす器官である。神経系は、身体の活動を状況に合わせて調節・統制する役割を果たし、脳と脊髄で構成された中枢神経系と、末梢神経で構成された末梢神経系とからなる。このような神経系に問題が生じると致命的な疾患にかかることがある。神経系疾患は大体完治が難しくて注意が必要である。一方、活性酸素種の増加、酸化的ストレスによるタンパク質、脂質およびDNAの損傷は、急性および慢性神経系疾患の誘発に非常に重要な役割を果たすことは広く知られている。
【0003】
人体で形成された活性酸素が与えた損傷を復旧する過程には様々な酵素が関与する。このような酵素の1つがパラオキソナーゼ(paraoxonase;PON)である。パラオキソナーゼとしてはPON1、PON2およびPON3の3種が知られており、このうち、PON1およびPON2は酸化的ストレスから細胞などを保護する抗酸化酵素として作用して、酸化防止効果および抗炎症効果を示すことがよく知られている。PON3も類似の役割をすると報告されている。
【0004】
PON1およびPON2の機能が低下した場合には、血清や大食細胞の酸化的ストレスが増加する現象が観察され、酸化的ストレスから誘導された毒性が発生する現象が観察された。また、PON1およびPON2が除去された(Knock out)または不足した動物を通してパラオキソナーゼが神経保護の役割をすることが報告されている。したがって、PON1およびPON2が酸化防止および抗炎症効果により神経保護に関与するという事実がよく知られている。
【0005】
そこで、神経系疾患を予防し治療するために、パラオキソナーゼを含む様々な酵素の機能を向上または保護させることができる薬学的組成物が必要なのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】大韓民国公開特許第10-2018-0002539号
【文献】大韓民国公開特許第10-2015-0075030号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Modulation of PON2 in mouse brain_Neuroprotection mechanism by quercetin (Neurochem Research 2013 (38) 1809~1818.)
【文献】PON2 in brain and its potential role in neuroprotection (Neurotoxicology 2014 (43) 3~9.)
【文献】DJ-1 interacts with and regulates Paraoxonase 2 for neuronal survival in response to ROS (PLOS one 2014 (9) e106601)
【文献】PON2 has the neuroprotective role in the mouse central nervous system (Toxicology and Applied Pharmacology 2011 (256) 369~378.)
【文献】PON2 has the potential neuro-protecting effect against oxidative stress in vivo and in vitro (Neurochemcal Research 2013 (38) 1809~1818; Neurotoxicology 2014 (43) 3~9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が達成しようとする技術的課題は、神経系疾患の予防または治療効能に優れたピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物を含む薬学的組成物を提供することである。
【0009】
ただし、本発明が解決しようとする課題は上述した課題に制限されず、述べていないさらに他の課題は下記の記載から当業者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施態様は、下記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物を含む神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する:
[化学式I]
【化1】
前記化学式Iにおいて、
点線は、選択的二重結合であり、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原子;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;置換もしくは非置換C
6-C
12アリールオキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
4チオアルキル基;およびハロゲン原子のいずれか1つであり、
R
4は、水素原子;メチル;エチル;メトキシまたはエトキシであり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の場合、前記置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施態様に係るピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物を含む薬学的組成物は、アルツハイマー病、血管性痴呆、パーキンソン病、脳髄膜炎、てんかん、脳卒中、脳腫瘍、筋神経系疾患、神経系感染、遺伝性神経疾患、脊髄疾患、異常運動疾患などの神経系疾患の予防および治療効能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】正常対照群、DIO対照群、化学式III-1の化合物投与群において(a)PON2 mRNAの相対的な発現程度、および(b)Actinに対するPON2の相対的な発現程度を示すグラフである。
【
図2】実験例3-2による細胞生存力百分率を示すグラフである。
【
図3】実験例3-3によるATP百分率を示すグラフである。
【
図4】実験例3-4によるDCFの濃度百分率を示すグラフである。
【
図5】実験例3-5によるMito-SOXの濃度百分率を示すグラフである。
【
図6a】RAW264.7細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフである。
【
図6b】RAW264.7細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフである。
【
図6c】RAW264.7細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフである。
【
図7a】BV2細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフである。
【
図7b】BV2細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフである。
【
図7c】BV2細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフである。
【
図8a】RAW264.7細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフである。
【
図8b】RAW264.7細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフである。
【
図8c】RAW264.7細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフである。
【
図9a】RAW264.7細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【
図9b】RAW264.7細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【
図9c】RAW264.7細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【
図10a】BV2細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフである。
【
図10b】BV2細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフである。
【
図10c】BV2細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフである。
【
図11a】BV2細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【
図11b】BV2細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【
図11c】BV2細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【
図12a】RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図12b】RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図12c】RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図13a】RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図13b】RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図13c】RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図14a】RAW264.7細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図14b】RAW264.7細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図14c】RAW264.7細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図15a】BV2細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図15b】BV2細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図15c】BV2細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図16a】BV2細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図16b】BV2細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図16c】BV2細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図17a】BV2細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図17b】BV2細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図17c】BV2細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【
図18a】RAW264.7細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフである。
【
図18b】RAW264.7細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフである。
【
図18c】RAW264.7細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフである。
【
図19a】BV2細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフである。
【
図19b】BV2細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフである。
【
図19c】BV2細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使われるすべての技術用語は、他に断らない限り、本発明の関連分野における通常の当業者が一般的に理解するのと同じ意味で使われる。また、本明細書には好ましい方法や試料が記載されるが、これと類似または同等のものも本発明の範疇に含まれる。
【0014】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0015】
本発明の一実施態様は、下記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物を含む神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する:
[化学式I]
【化2】
前記化学式Iにおいて、
点線は、選択的二重結合であり、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原子;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;置換もしくは非置換C
6-C
12アリールオキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
4チオアルキル基;およびハロゲン原子のいずれか1つであり、
R
4は、水素原子;メチル;エチル;メトキシまたはエトキシであり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の場合、前記置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【0016】
前記「選択的二重結合」とは、場合によって単一結合または二重結合であってもよいことを意味する。
【0017】
本発明の一実施態様に係る前記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物を含む薬学的組成物は、神経系疾患、特に脳疾患の予防および治療効能に優れている。具体的には、神経変性疾患、神経細胞炎症、ミトコンドリア機能障害の予防および治療効能に優れている。
【0018】
本発明の一実施態様によれば、前記R1は、水素原子、メチル基またはエチル基であり、前記R2は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、tert-ブトキシ基またはヒドロキシ基であり、前記R3およびR4は、それぞれ水素原子であり、前記R5およびR6は、それぞれメチル基であってもよい。前記R1~R6が前記物質の場合、前記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物を含む薬学的組成物は、化学的に安定し、脳疾患の予防および治療において優れた効果を有することができる。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、下記化学式IIの化合物である神経系疾患の予防または治療用薬学的組成物であってもよい:
[化学式II]
【化3】
前記化学式IIにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原子;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;置換もしくは非置換C
6-C
12アリールオキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
4チオアルキル基;およびハロゲン原子のいずれか1つであり、
R
4は、水素原子;メチル;エチル;メトキシまたはエトキシであり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の場合、前記置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式IIの化合物は、下記の化合物のいずれか1つであってもよい:
[化学式II-1]
【化4】
4-(8,8-dimethyl-2,8-dihydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)benzene-1,3-diol
[化学式II-2]
【化5】
2-(8,8-dimethyl-2,8-dihydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-propoxyphenol。
【0021】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、下記化学式IIIの化合物であってもよい:
[化学式III]
【化6】
前記化学式IIIにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原子;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;置換もしくは非置換C
6-C
12アリールオキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
4チオアルキル基;およびハロゲン原子のいずれか1つであり、
R
4は、水素原子;メチル;エチル;メトキシまたはエトキシであり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の場合、前記置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式IIIの化合物は、下記の化合物のいずれか1つであってもよい:
[化学式III-1]
【化7】
2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-ethoxyphenol
[化学式III-2]
【化8】
4-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-3-ethoxyphenol
[化学式III-3]
【化9】
2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-ethylphenol
[化学式III-4]
【化10】
2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-propylphenol。
【0023】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、下記化学式IVの化合物であってもよい:
[化学式IV]
【化11】
前記化学式IVにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原子;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;置換もしくは非置換C
6-C
12アリールオキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
4チオアルキル基;およびハロゲン原子のいずれか1つであり、
R
4は、水素原子;メチル;エチル;メトキシまたはエトキシであり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の場合、前記置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式IVの化合物は、下記の化合物のいずれか1つであってもよい:
[化学式IV-1]
【化12】
(R)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-ethoxyphenol
[化学式IV-2]
【化13】
(R)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-propoxyphenol
[化学式IV-3]
【化14】
(R)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-propylphenol
[化学式IV-4]
【化15】
(R)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-butoxyphenol。
【0025】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、下記化学式Vの化合物であってもよい:
[化学式V]
【化16】
前記化学式Vにおいて、
R
1は、水素原子;および置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
R
2は、置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;およびヒドロキシ基のいずれか1つであり、
OR
1およびR
2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基であり、
R
3は、水素原子;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルキル基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
6アルコキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
3-C
6アリルオキシ基;置換もしくは非置換C
6-C
12アリールオキシ基;置換もしくは非置換、直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
4チオアルキル基;およびハロゲン原子のいずれか1つであり、
R
4は、水素原子;メチル;エチル;メトキシまたはエトキシであり、
R
5およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子;およびC
1-C
6アルキル基のいずれか1つであり、
前記置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アリルオキシ基、置換アリールオキシ基および置換チオアルキル基の場合、前記置換基は、ハロゲン原子;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルキル基;直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
5アルコキシ基;および直鎖もしくは分枝鎖C
1-C
3チオアルキル基のいずれか1つである。
【0026】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式Vの化合物は、下記の化合物のいずれか1つであってもよい:
[化学式V-1]
【化17】
(S)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-ethoxyphenol
[化学式V-2]
【化18】
(S)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-propoxyphenol
[化学式V-3]
【化19】
(S)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-propylphenol
[化学式V-4]
【化20】
(S)-2-(8,8-dimethyl-2,3,4,8,9,10-hexahydropyrano[2,3-f]chromen-3-yl)-5-butoxyphenol。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、前記化学式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩は、前記化学式Iの化合物が遊離酸と共に塩を形成して、酸付加塩として存在するものを意味することができる。前記化学式1の化合物は、当該技術分野にて公知の通常の方法により薬学的に許容される酸付加塩を形成することができる。前記遊離酸としては、有機酸または無機酸を使用することができ、前記無機酸としては、塩酸、臭素酸、硫酸またはリン酸などを使用することができ、前記有機酸としては、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、グルコン酸、メタンスルホン酸、グリコール酸、コハク酸、4-トルエンスルホン酸、ガラクツロン酸、エンボン酸、グルタミン酸またはアスパラギン酸などを使用することができる。
【0028】
本発明の一実施態様に係る薬学的組成物は、前記化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物、薬学的に許容可能なその塩、またはその溶媒和物のほかに、薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤を含むことができる。前記担体、賦形剤および希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートおよび鉱物油が挙げられる。
【0029】
本発明の一実施態様において、化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、大韓民国特許公開番号第10-2015-0075030号および第10-2018-0002539号に記載された方法と同一の方法で製造できる。ただし、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明において、神経系疾患は、大きく、中枢神経系疾患と、末梢神経系疾患とに分類することができ、中枢神経系疾患の例として、脳疾患、脊髄疾患が挙げられる。神経系疾患は、神経変性、神経細胞炎症、ミトコンドリア機能障害などによって発病するものであってもよい。
【0031】
本発明の一実施態様に係る薬学的組成物は、前記化学式Iの化合物が特にPONase活性剤として作用して、多様な抗炎症指標およびミトコンドリア機能を改善させるのに寄与するので、神経系疾患の予防または治療に使用可能である。本発明の一実施態様に係る薬学的組成物は、例えば、アルツハイマー病、血管性痴呆,パーキンソン病、脳髄膜炎、てんかん、脳卒中、脳腫瘍、筋神経系疾患、神経系感染、遺伝性神経疾患、脊髄疾患および異常運動疾患のいずれか1つの神経系疾患の予防または治療に使用できる。そして、神経系疾患によって発生する頭痛、めまい、痛みなどの予防または治療にも使用できる。
【0032】
本発明の一実施態様によれば、前記薬学的組成物は、当該技術分野にて公知である通常の薬学的剤形に製剤化される。前記剤形は、経口投与製剤、注射剤、坐剤、経皮投与製剤および経鼻投与製剤を含むが、これに限定されない任意の剤形に製剤化されて投与されてもよい。好ましくは、経口投与用製剤および注射剤に製剤化される。
【0033】
前記それぞれの剤形への製剤化に際して、それぞれの剤形の製造に必要な薬学的に許容可能な担体を付加して製造することができる。本明細書において、用語「薬学的に許容可能な担体(pharmaceutically acceptable carrier)」は、薬学的活性成分を除いた任意の構成成分を称するために使われる。「薬学的に許容可能な」とは、組成物中に存在する他の構成成分と相互作用して(例えば、担体相互間または薬学的活性成分と担体との間の相互作用)、薬学的に望ましくない変化を引き起こさない性質を意味する。前記薬学的に許容可能な担体の選択は、特定の投与剤形の特性、投与方式、溶解度および安定性に対する前記担体の効果のような因子によって異なる。
【0034】
本発明の一実施態様によれば、経口投与用薬学的組成物に含まれる薬学的に許容可能な担体は、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤(または潤滑剤)、吸着剤、安定化剤、溶解補助剤、甘味剤、着色剤および着香剤の中から選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
希釈剤(diluent)は、組成物の体積を増量して剤形に応じた適切な大きさにするために添加される任意の賦形剤を称する。前記希釈剤は、デンプン(例えば、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、前ゼラチン化デンプン)、微細結晶性セルロース(例えば、低水和微結晶セルロース)、乳糖(例えば、乳糖一水和物、無水乳糖、噴霧乳糖)、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール、スクロース、アルギネート、アルカリ土金属類塩、クレイ、ポリエチレングリコールジカルシウムホスフェート、無水リン酸水素カルシウムおよび二酸化ケイ素の中から選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。本発明において、前記希釈剤は、前記薬学的組成物の総量に対して5重量%~50重量%の範囲で使用できる。例えば、錠剤化および品質維持のために、組成物の総量に対して10重量%~35重量%使用できる。
【0036】
結合剤(binder)は、粉末状の物質に粘着性を付与して圧着を容易にし流動性を改善するために使用される物質を称する。前記結合剤は、デンプン、微細結晶性セルロース、高分散性シリカ、マンニトール、ラクトース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース)、天然ガム、合成ガム、ポビドン、コポビドンおよびゼラチンの中から選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。本発明において、前記結合剤は、前記薬学的組成物の総量に対して2重量%~15重量%使用できる。例えば、錠剤化および品質維持のために、1重量%~3重量%使用できる。
【0037】
崩壊剤(disintegant)は、生体投与後に固体剤形の崩壊または崩壊を容易にするために添加される物質を称する。前記崩壊剤は、ナトリウムデンプングリコレート、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプンまたは前ゼラチン化デンプンのようなデンプンまたは変性デンプン、ベントナイト、モンモリロナイト、ビーガム(veegum)のようなクレイ(clay)、微細結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースのようなセルロース、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸のようなアルギン類、クロスカルメロース(croscarmellose)ナトリウムのような架橋セルロース、グアーガム、キサンタンガムのようなガム、架橋ポリビニルピロリドン(crospovidone)のような架橋重合体、重炭酸ナトリウム、クエン酸のような沸騰性製剤を単独または混合して使用することができるが、これに限定されるものではない。本発明において、前記崩壊剤は、前記薬学的組成物の総量に対して2重量%~15重量%の範囲で使用できる。例えば、錠剤化および品質維持のために、4重量%~10重量%使用できる。
【0038】
滑沢剤(glidant)または潤滑剤(lubricant)は、圧着設備に対する粉末の付着を防止し顆粒の流動を改善させる機能を行う物質を称する。前記滑沢剤は、硬質無水ケイ酸、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸の金属塩(マグネシウム塩またはカルシウム塩など)、ラウリルスルフェートナトリウム、水素化植物性オイル、ナトリウムベンゾエート、フマル酸ステアリルナトリウム、グリセリルベヘネート、グリセリルモノステアレートまたはポリエチレングリコールを単独または混合使用することができるが、これに限定されるものではない。本発明において、前記滑沢剤は、前記薬学的組成物の総量に対して0.1重量%~5重量%使用できる。例えば、錠剤化および品質維持のために、1重量%~3重量%使用できる。
【0039】
吸着剤(adsorbant)は、含水二酸化ケイ素、硬質無水ケイ酸、コロイダルシリコンジオキシド、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、微結晶セルロース、乳糖または架橋ポリビニルピロリドンを単独または混合使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
安定化剤(stabilizer)は、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、カロチン、レチノール、アスコルビン酸、トコフェロール、トコフェロールポリエチレングリコールコハク酸またはプロピルガレートのような抗酸化剤、シクロデキストリン、カルボキシエチルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、スルホブチルエーテルまたはシクロデキストリンのような糖類の環状化合物、リン酸、乳酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グリコール酸、プロピオン酸、グルコン酸またはグルクロン酸のような有機酸の中から選択された1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
選択的に、前記薬学的組成物には、味覚をそそることで嗜好性を増進させるための公知の添加剤が含まれる。例えば、スクラロース、スクロース、フルクトース、エリスリトール、アセスルファムカリウム、糖アルコール、ハチミツ、ソルビトールまたはアスパルテームのような甘味剤を添加して、苦味をより効果的に隠蔽させ、製剤の安定性および品質を維持することができる。また、クエン酸、クエン酸ナトリウムのような酸味剤、ウメボシ香、レモン香、パイナップル香、ハーブ香などの天然香料、天然果汁、クロロフィリン、フラボノイドなどの天然色素が使用できる。
【0042】
前記経口投与用薬学的組成物は、経口投与のための固形製剤、半固形製剤または液状製剤であってもよい。経口投与のための固形製剤は、例えば、錠剤、丸剤、硬質または軟質カプセル剤、散剤、細粒、顆粒、溶液または懸濁液再構成用粉末、ロゼンジ、ウエハ、口腔フィルム(oral strip)ドラジェ(dragee)、チューインガム(chewable gum)などがあるが、これらに限定されるものではない。経口投与のための液状製剤は、液剤、懸濁剤、エマルジョン、シロップ剤、エリキシル剤、酒精剤、芳香水剤、レモネード剤、エキス剤、沈殿剤、チンキ剤および薬油剤を含む。半固形製剤は、エアロゾル、クリーム、ゲル(gel)などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0043】
前記本発明に係る薬学的組成物は、注射剤として製剤化され、注射剤として製剤化される場合、血液と等張リン無毒性緩衝溶液を希釈剤として含むことができ、例えば、pH7.4のリン酸緩衝溶液などがある。前記薬学的組成物は、緩衝溶液のほかに、その他希釈剤または添加剤を含むことができる。
【0044】
前述した製剤に使用される担体と製剤の製造方法は、当該技術分野にて広く知られたところにより選択し製造することができ、例えば、Remington’s Pharmaceutical Scienceの最新版に記載の方法により製造できる。
【0045】
前記本発明に係る薬学的組成物の投与量および投与時期は、投与対象の年齢、性別、状態、体重、投与経路、投与回数、薬の形態によって異なる。1日投与量は約0.1~1000mg/kgであり、好ましくは1~100mg/kgである。前記投与量は、疾患の種類、疾患の進行程度、投与経路、性別、年齢、体重などによって適宜増減可能である。
【0046】
前記本発明に係る薬学的組成物は、目的とする効果を得るために、有効成分として、成人を基準として1日の総投与量が化合物として0.1~1000mg/kgとなるように任意に数回分けて投与可能である。
【0047】
前記本発明に係る薬学的組成物は、本発明に係る前記化学式Iの化合物を全体組成物の総重量に対して約0.0001~10重量%、好ましくは0.001~1重量%の量で含有することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に述べる実施例に限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0049】
<実験例>
化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物が神経系疾患の予防または治療に効果があるか否かを調べるために、下記の実験を進行させた。
【0050】
大韓民国特許公開番号第10-2015-0075030号および第10-2018-0002539号に記載された方法を用いて製造された化学式III-1、IV-1、V-1、IV-2、V-2、II-1、III-4、IV-3、V-3、III-2、IV-4、V-4、II-2、III-3の化合物に対して下記の実験を行った。また、グラブリジン(Daechon化学、大韓民国)を購入して、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したものを使用した。
【0051】
実験例1:ストレス状況下におけるPON1(Paraoxonase1)の活性抑制防止の確認実験
PON1に酸化したリノレン酸を処理すればPON1の活性が阻害されることを利用して、PON1の活性抑制防止の確認実験を行った。PON1の活性はTBBL(5-thiobutyl butyrolactones)を基質として確認した。
【0052】
具体的には、エッペンドルフチューブ(Eppendorf tube)12個にそれぞれ1mM CaCl2を含む50mM Tris-HCl9.6μlを添加した後、化学式III-1、IV-1、V-1、IV-2、V-2、II-1、IV-3、V-3、III-2、IV-4、V-4、II-2、III-3の化合物およびグラブリジンをそれぞれのチューブに0.2μlずつ添加して濃度が30μMとなるようにした。前記12個のチューブにそれぞれrePON1(RP-75678、Thermo社)0.2μlを添加し混合した。その後、常温で30分間反応させ、rePON1の活性を抑制するために、DMSOに溶かした1mM酸化したリノレン酸(OX-LA)0.5μlをそれぞれ添加した後、常温で2時間反応させて溶液(I)を製造した。
【0053】
384well plateのwellに1mM CaCl2を含む50mM Tris-HClに溶かした0.5mM DTNBを25μlずつ分注した後、前記溶液(I)をそれぞれ10μlずつ分注し、1mM CaCl2を含む50mM Tris-HClに溶かした2mM TBBLをそれぞれ20μlずつ添加して試料を用意した。スペクトロメーター(SpectraMax M2)を用いて、1時間の間2分ごとに37℃、420nmで試料の吸光度を測定した。
【0054】
また、溶液の製造時、化学式III-1、IV-1、V-1、IV-2、V-2、II-1、IV-3、V-3、III-2、IV-4、V-4、II-2、III-3の化合物およびグラブリジンの代わりにDMSOを0.2μl添加したことを除き、前記方法と同様の方法で陰性対照群を用意し、溶液の製造時、前記化合物およびグラブリジンの代わりにDMSOを0.2μl添加したこと、および酸化したリノレン酸を添加しないことを除き、前記方法と同様の方法で正常対照群を用意して、それぞれの吸光度を測定した。
【0055】
SoftMax Pro softwareを用いて、前記吸光度からPON1の活性度を下記式1のように計算し、下記表1にその結果を示した。
【0056】
【0057】
【0058】
表1から、化学式III-1、IV-1、V-1、IV-2、V-2、II-1、IV-3、V-3、III-2、IV-4、V-4、II-2またはIII-3の化合物およびrePON1を含む溶液に酸化したリノレン酸を添加した場合、酸化したリノレン酸によるrePON1の活性抑制が防止されることを確認することができる。そして、グラブリジンおよびrePON1を含む溶液に酸化したリノレン酸を添加した場合より、化学式III-1、IV-1、V-1、IV-2、V-2、II-1、IV-3、V-3、III-2、IV-4、V-4、II-2またはIII-3の化合物およびrePON1を含む溶液に酸化したリノレン酸を添加した場合、rePON1の活性抑制を防止する程度が大きいことを確認することができる。
【0059】
実験例2:PON2(Paraoxonase2)の発現確認実験
14週齢C57BL/6J DIO(Diet Induced Obesity)マウス(The Jackson Laboratory、USA)を購入して、正常対照群は10%脂肪食、DIO対照群は60%脂肪食を3週間食べさせた。そして、化学式III-1の化合物投与群は60%脂肪食を3週間食べさせた後、毎日1回、6週間、化学式III-1の化合物を100mg/kg経口投与した。
【0060】
前記正常対照群、DIO対照群、化学式III-1の化合物投与群のマウスを犠牲させ、肝組織を摘出して、PIC(protease inhibitor cocktail)が含まれたPBS溶液で洗浄し、0.2~0.5gの大きさに切片を作り、実験前まで-196℃に保管した。
【0061】
前記正常対照群、DIO対照群、化学式III-1の化合物投与群の肝組織切片を用いて下記の実験を行った。
【0062】
-PON2 mRNAの相対的な発現程度の確認
Real-time PCRを用いてPON2 mRNAの相対的な発現程度を確認した。具体的には、前記肝組織にトリゾール(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を添加した後、均質器を用いて粉砕した後、総RNAを抽出した。1μgの総RNAにオリゴDt17プライマー(oligo Dt17 primer)100pmolを添加し、74℃で10分間インキュベーションした後、30U RNasin(RNase inhibitor)、10U AMV-RT(avian myeloblastosis virus reverse transcriptase)、AMV-RTバッファー(プロメガ社、イスラエル)を添加した後、42℃で2時間、52℃で1時間反応させて、肝組織から抽出したRNAからcDNAを合成した。cDNAは(株)タカラバイオ社のSYBR Premix Ex Taqキットとアプライドバイオシステム社のStepOnePlus Real-time PCRシステムを用いて増幅させた。
【0063】
プライマーシーケンスはインテグレーテッドDNAテクノロジーズ社のプライマークエストソフトウェアを用いてデザインした。使用されたプライマーシーケンスは表2の通りである。
【0064】
【0065】
アニーリング(annealing)温度は60℃とした。GAPDHはいかなる条件に関係なくすべての組織で一定に発現するハウスキーピング遺伝子で、GAPDHプライマーは同量のRNAが実験に使用されたことを確認するための用途に使用された。
【0066】
-ウェスタンブロット分析によるPON2の相対的な発現程度の確認
前記肝組織にprotease inhibitor cocktailを添加したlysisバッファー(CelLyticTM MT Cell Lysis Reagent、シグマアルドリッチ社)を添加し、均質器を用いて粉砕した後、0℃で30分間インキュベーションし、4℃、14,000rpmの条件で15分間遠心分離して上澄液を得た。タンパク質の濃度をBradford法を用いて定量した後、同量のタンパク質を10%SDS-PAGEで電気泳動してタンパク質を分離し、グリシン-メタノールバッファーでPVDF膜(polyvinylidene difluoride membrane、Pall Corporation、USA)にタンパク質を転写した。PVDF膜を5%無脂肪油が含まれたブロッキング溶液でブロッキングした後、PON2抗体(Abcam、UK)で一晩インキュベーションさせた。再度二次抗体を反応させた後、ECL溶液(Thermo Fisher Scientific、USA)をPVDF膜上に加えて発光させ、暗室でX線フィルムに感光した後に現像した。
【0067】
アクチンはハウスキーピング遺伝子で、同量のRNAが実験に使用されたことを確認するための用途に使用された。
【0068】
図1は、正常対照群、DIO対照群、化学式III-1の化合物投与群において(a)PON2 mRNAの相対的な発現程度、および(b)Actinに対するPON2の相対的な発現程度を示すグラフである。
【0069】
図1から、化学式III-1の化合物投与群の場合、DIO対照群に比べてPON2の発現が高いだけでなく、正常対照群に比べてもPON2 mRNAおよびPON2の発現が高いことを確認することができる。
【0070】
実験例3:ニューロブラストーマ細胞(SH-SY5Y細胞)の損傷したミトコンドリア機能の回復確認実験
3-1.ミトコンドリア機能低下誘導および細胞培養
37℃、5%炭酸ガスおよび95%空気条件の10%FBS(fetal bovine serum)を含む1:1のDMEM/F12培地でヒト神経細胞であるSH-SY5Y細胞を培養した。前記培養した細胞を2×104細胞/ウェル密度で96ウェル細胞培養プレートに移し、24時間培養した。その後、血清制限培地(0.5%FBSを含む1:1DMEM/F12培地)に切り替え、16時間培養した後、1mM MPP+(1-methyl-4-phenylpyridinium)で前記培養した細胞を処理し、24時間培養して、細胞にミトコンドリア機能低下を誘導した。
【0071】
以後、それぞれのウェルに0.0001、0.001、0.01、0.1または1μMの濃度となるように化学式III-1の化合物を添加した後、24時間培養した。
【0072】
3-2.ミトコンドリアの損傷による細胞死滅抑制効能の確認
3-1で得られた培養物をそれぞれ0.2mg/mlの3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロミド(3-(4,5-dimehtylthiazol-2yl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide、MTT;シグマアルドリッチ社)で処理して4時間培養し、生きている細胞によって形成されたMTTホルマザン(formazan)沈殿物を0.04N塩酸/イソプロパノール(isopropanol)100μlに溶解して、ELISAマイクロプレートリーダー(Molecular Devices社)で540nmでの吸光度を測定した。
【0073】
MMP+および化学式III-1の化合物の代わりにDMSOを添加した試料(正常対照群);および化学式III-1の化合物を添加しない試料(陰性対照群);を用いたことを除き、前記方法と同様の方法で対照群の吸光度を測定した。
【0074】
吸光度から細胞生存力(cell viability)百分率を求めた。
【0075】
図2は、実験例3-2による細胞生存力百分率を示すグラフである。
【0076】
図2に示されるように、化学式III-1の化合物を添加する場合、MPP+によって損傷したミトコンドリアの機能が回復することを確認することができる。
【0077】
3-3.ミトコンドリアの損傷による細胞内ATP生成量の減少に対する回復の確認
3-1で得られた培養物の細胞破砕物100μlをATP生物発光体細胞試験キットである生物発光性体細胞分析キット(bioluminescent somatic cell assay kit、シグマアルドリッチ社)を用いて、100μlルシフェリン-ルシフェラーゼ(luciferin-luciferase)反応緩衝液と混合し、20℃で10分間反応させた。その後、上澄液を得て、LB9501ルマットルミノメーター(Lumat-Luminometer)で蛍光強度を測定して、ミトコンドリアの損傷による細胞内ATP生成量の減少に対する回復を確認した。
【0078】
MMP+および化学式III-1の化合物の代わりにDMSOを添加した試料(正常対照群);および化学式III-1の化合物を添加しない試料(陰性対照群);を用いたことを除き、前記方法と同様の方法で対照群の蛍光強度を測定した。
【0079】
蛍光強度から細胞内ATP生成量を正常対照群に対する百分率で示した。
【0080】
図3は、実験例3-3によるATP百分率を示すグラフである。
【0081】
図3のグラフに示されるように、化学式III-1の化合物を添加する場合、MPP+によるミトコンドリアの損傷によるATP生成量の減少が回復することを確認することができる。
【0082】
3-4.ミトコンドリアの損傷による活性酸素発生緩和効能の確認
2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセテート(2’,7’-dichlorofluroroscein diacetate、DCF-DA)が活性酸素と反応すると蛍光を呈するDCFに酸化する原理を利用して、活性酸素の発生程度を確認した。3-1で得られた培養物に1μM DCF-DAおよび0.05μMビスベンズイミド(bisbenzimide、Hoechst33342)を添加して、37℃で1時間細胞を染色した。そして、蛍光分析器で励起波長485nm、放出波長535nmでDCFの蛍光強度、および励起波長335nm、放出波長460nmでビスベンズイミドの蛍光強度を得て、活性酸素の発生程度を確認した。
【0083】
MMP+および化学式III-1の化合物の代わりにDMSOを添加した試料(正常対照群);および化学式III-1の化合物を添加しない試料(陰性対照群);を用いたことを除き、前記方法と同様の方法で対照群の蛍光強度を測定した。
【0084】
蛍光強度からDCFの濃度を正常対照群に対する百分率で示した。
【0085】
図4は、実験例3-4によるDCFの濃度百分率を示すグラフである。
【0086】
図4のグラフに示されるように、化学式III-1の化合物を添加する場合、MPP+を添加することにより誘発される細胞毒性によって発生する細胞内活性酸素の発生程度が減少することを確認することができる。
【0087】
3-5.ミトコンドリアの損傷によるミトコンドリア内部の活性酸素発生緩和効能の確認
MitoSOXTM Red reagentという還元されている蛍光物質を用いてミトコンドリア内部の活性酸素の発生程度を確認した。MitoSOX Redは呼吸する細胞内に入る前まで蛍光を呈しないが、細胞内に入って酸化すれば選択的にミトコンドリアを染色する。
【0088】
具体的には、3-1で得られた培養物を13μl DMSOに溶かした50μgのMitoSOX Redで処理して、37℃で1時間インキュベーションさせた。インキュベーション後、PBSで2回洗浄した後、0.05μMビスベンズイミド(bisbenzimide、Hoechst33342)を処理して、37℃で1時間染色した。そして、蛍光分析器で励起波長510nm、放出波長595nmで蛍光強度を測定して、ミトコンドリア内部で生成された活性酸素の発生程度を確認した。
【0089】
MMP+および化学式III-1の化合物の代わりにDMSOを添加した試料(正常対照群);および化学式III-1の化合物を添加しない試料(陰性対照群);を用いたことを除き、前記方法と同様の方法で対照群の蛍光強度を測定した。
【0090】
蛍光強度からMitoSOX Redの濃度を正常対照群に対する百分率で示した。
【0091】
図5は、実験例3-5によるMito-SOXの濃度百分率を示すグラフである。
【0092】
図5のグラフに示されるように、化学式III-1の化合物を添加する場合、MPP+を添加することにより誘発される細胞毒性によって発生するミトコンドリア内部で生成された活性酸素の発生程度が減少することを確認することができる。
【0093】
結果として、実験例3から、化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物を含む場合、ミトコンドリア機能の向上により神経保護指標が改善されたことを確認することができる。
【0094】
実験例4:抗炎症効果の確認実験
4-1.RAW264.7細胞、BV2細胞の培養および前処理
RAW264.7細胞とBV2細胞(5×105cells/well)を10%heat-inactivated FBS、ペニシリンG(penicillin G)10IU/mL、ストレプトマイシン(streptomycin)100μg/mL、L-グルタミン(L-glutamine)2mMを含有したDMEM培地に分注し、5%CO2培養器内で37℃の温度で培養した。
【0095】
RAW264.7細胞またはBV2細胞に化学式III-3、III-4、V-3、III-1、IV-1、V-1、IV-2、V-2またはII-2の化合物を添加して、MTT assayにより化合物の毒性を確認し、細胞毒性を示さない濃度を実験可能な濃度に定めて、下記の実験を進行させた。
【0096】
抗炎症効果の確認実験において、Buteinは抗炎症物質として参照のために使用された。
【0097】
まず、培養したRAW264.7細胞またはBV2細胞に下記表3のように化合物をそれぞれ添加し、3時間前処理した。
【0098】
【0099】
4-2.iNOSとCOX-2タンパク質の発現程度およびNOとPGE2の生成量の確認
4-1の前処理物をLPS1μg/mlで24時間処理した後、iNOSとCOX-2の発現程度をウェスタンブロットにより観察し、NOとPGE2の生成を確認した。
【0100】
図6A~
図6Cは、RAW264.7細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフであり、
図7A~
図7Cは、BV2細胞において実験例4-2によるiNOSとCOX-2の発現程度を示すグラフである。
【0101】
図8A~
図8Cは、RAW264.7細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフであり、
図9A~
図9Cは、RAW264.7細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【0102】
図10A~
図10Cは、BV2細胞において実験例4-2によるNOの生成度を示すグラフであり、
図11A~
図11Cは、BV2細胞において実験例4-2によるPGE
2の生成度を示すグラフである。
【0103】
4-3.IL-1β、IL-6およびTNF-αの発現程度の確認
4-1の前処理物をLPS1μg/mlで6時間処理した後、RT-PCRを用いて炎症反応で生成されるサイトカインであるIL-1β、IL-6またはTNF-αのmRNAの発現程度を確認した。
【0104】
図12A~
図12Cは、RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフであり、
図13A~
図13Cは、RAW264.7細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフであり、
図14A~
図14Cは、RAW264.7細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【0105】
図15A~
図15Cは、BV2細胞において実験例4-3によるIL-1βのmRNAの発現程度を示すグラフであり、
図16A~
図16Cは、BV2細胞において実験例4-3によるIL-6のmRNAの発現程度を示すグラフであり、
図17A~
図17Cは、BV2細胞において実験例4-3によるTNF-αのmRNAの発現程度を示すグラフである。
【0106】
4-4.NF-κBタンパク質の核内部への転写抑制の確認
4-1の前処理物をLPS1μg/mlで1時間処理した後、ウェスタンブロットによりNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を確認した。
【0107】
図18A~
図18Cは、RAW264.7細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフであり、
図19A~
図19Cは、BV2細胞において実験例4-4によるNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を示すグラフである。
【0108】
図6A~
図19Cから、化学式III-3、III-4、V-3、III-1、IV-1、V-1、IV-2、V-2またはII-2の化合物は、RAW264.7細胞、BV2細胞それぞれにおいてiNOSとCOX-2の発現、NOとPGE
2の生成、IL-6、IL-1β、TNF-α mRNAの発現およびNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度を濃度依存的に減少させることを確認することができる。これに対し、グラブリジンを添加した場合には、RAW264.7細胞またはBV2細胞においてiNOSとCOX-2の発現、NOとPGE
2の生成、IL-6、IL-1β、TNF-α mRNAの発現およびNF-κBタンパク質のp65とp50の核内部への転写程度が、化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物を添加した場合より減少しないことを確認することができる。また、化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物を添加した場合には、グラブリジンを添加した場合のグラブリジン濃度より低い濃度でグラブリジンと同等またはそれ以上の抗炎症効果を示すことを確認することができる。
【0109】
結果として、化学式Iのピラノ[2,3-f]クロメン誘導体化合物は、PONase活性剤として作用して、多様な抗炎症指標およびミトコンドリア機能を改善させるのに寄与することを確認することができる。
【配列表】