(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】圧着シート製造方法及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/22 20060101AFI20241209BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20241209BHJP
G03G 15/20 20060101ALI20241209BHJP
B41J 29/00 20060101ALI20241209BHJP
B42D 15/02 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G03G15/22 103Z
G03G9/08 391
G03G15/20 505
B41J29/00 H
B42D15/02 501B
(21)【出願番号】P 2022147741
(22)【出願日】2022-09-16
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021160246
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】戸田 純
(72)【発明者】
【氏名】松田 考平
(72)【発明者】
【氏名】河田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 拓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-149638(JP,A)
【文献】特開2015-176032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/22
G03G 9/08
G03G 15/20
B41J 29/00
B42D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する圧着シート製造方法であって、
印刷用トナーを用いて形成した
未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した
未定着の複合層をシート上に形成する工程、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着工程、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる工程、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着工程、
を有し、
前記印刷用トナーと前記粉末接着剤の溶解度パラメータ(SP値)の差が1.0(cal/cm
3)
1/2以上であることを特徴とする圧着シート製造方法。
【請求項2】
前記粉末接着剤は低密度ポリエチレンを含有する請求項1に記載の圧着シート製造方法。
【請求項3】
シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する画像形成装置であって、
印刷用トナーを用いて形成した
未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した
未定着の複合層をシート上に形成する手段、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着手段、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる手段、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着手段、
を有し、
前記印刷用トナーと前記粉末接着剤の溶解度パラメータ(SP値)の差が1.0(cal/cm
3)
1/2以上であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
前記粉末接着剤は低密度ポリエチレンを含有する請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する圧着シート製造方法であって、
印刷用トナーを用いて形成した
未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した
未定着の複合層をシート上に形成する工程、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着工程、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる工程、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着工程、
を有し、
前記印刷用トナーはワックスを含有し、
前記印刷用トナーの定着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(A1)、圧着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(A2)とし、前記粉末接着剤の定着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(B1)、圧着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(B2)としたとき、
G’(A1)>G’(A2)
G’(B1)>G’(B2)
G’(B1)>G’(A1)
を満たし、
定着工程における温度が、前記粉末接着剤の貯蔵弾性率カーブにおける融解に起因する変化領域の始点オンセット温度と終点オンセット温度との間の温度であることを特徴とする圧着シート製造方法。
【請求項6】
前記粉末接着剤は低密度ポリエチレンを含有する請求項5に記載の圧着シート製造方法。
【請求項7】
シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する圧着シート製造方法であって、
印刷用トナーを用いて形成した
未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した
未定着の複合層をシート上に形成する工程、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着工程、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる工程、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着工程、
を有し、
前記トナーと前記粉末接着剤は平均粒径の差が25μmよりも小さく、且つ前記トナーよりも前記粉末接着剤の方が粒度分布が広いか、または半値幅が大きいことを特徴とする圧着シート製造方法。
【請求項8】
前記粉末接着剤は低密度ポリエチレンを含有する請求項7に記載の圧着シート製造方法。
【請求項9】
シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する画像形成装置であって、
印刷用トナーを用いて形成した
未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した
未定着の複合層をシート上に形成する手段、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着手段、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる手段、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着手段、
を有し、
前記トナーと前記粉末接着剤は平均粒径の差が25μmよりも小さく、且つ前記トナーよりも前記粉末接着剤の方が粒度分布が広いか、または半値幅が大きいことを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
前記粉末接着剤は低密度ポリエチレンを含有する請求項9に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着はがきなどの圧着シートの製造方法、及び圧着シートの製造手段を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
請求書や給与明細などの秘匿内容を密封した圧着はがきは、配送中に剥がれないように所定の接着力が必要であり、それと同時にユーザーの手元に届いた後、開封するため容易に剥がせることが重要な要素となっている。
そして、上記の圧着はがきを作成するプリンターは、簡易で省スペースの観点から、文字や画像を紙媒体(以下、紙と称する)に印刷した後、そのまま紙を搬送して折り曲げ、圧着することで圧着はがきの作成を行えるプリンターのため、非常に利便性が良い。
このようなプリンターの構成は、印刷用の現像剤(以下、トナーと称する)と圧着用の粉末接着剤(以下、糊と称する)を充填したプロセスカートリッジを同じプリンター本体に装着し、従来の電子写真の画像形成プロセスを使って印刷しつつ、折りユニットと圧着ユニットを追加して印字と圧着の両方に対応できる簡易な構成を有することが望ましい。
しかしながら、2種類の異なる粉体を一連の画像形成プロセスで行うことによって発生する問題もある。具体的には、トナーと糊の物性や条件を適正にしないと、互いに相溶、あるいは混合してしまい、
図2Aにあるように糊2とトナー8が折り返した紙4で圧着された圧着はがきを開封する際、
図2Bのように紙4に印字したトナーが、糊2と一緒に剥がれ、対向面の白地部にトナー8が写ってしまうという現象(以下、剥離オフセットと称する)が発生する場合がある。
そしてこの糊の材質については、特許文献1には炭化水素系の樹脂(ポリエチレンなど)が適していると明記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記剥離オフセットの問題に関しては、印刷処理と圧着処理を一連の流れで行う圧着はがきの製造やプリンターにあっては特許文献1のような糊の規定だけでは不十分である。トナーも含めて両者の材質、種類、形態などをその物性から選定する必要がある。
そこで、本発明は上記状況を鑑み、印刷処理と圧着処理を一連の流れで行える画像形成装置を用いつつ、圧着はがき開封時に発生する剥離オフセットを抑制する効果的な圧着シート製造方法及び画像形成装置について提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は以下の構成を用いることで達成される。
すなわち、本発明は、シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する圧着シート製造方法であって、
印刷用トナーを用いて形成した未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した未定着の複合層をシート上に形成する工程、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着工程、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる工程、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着工程、
を有し、
前記印刷用トナーと前記粉末接着剤の溶解度パラメータ(SP値)の差が1.0(cal/cm3)1/2以上であることを特徴とする圧着シート製造方法に関する。
【0006】
また、本発明は、シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する画像形成装置であって、
印刷用トナーを用いて形成した未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した未定着の複合層をシート上に形成する手段、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着手段、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる手段、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着手段、
を有し、
前記印刷用トナーと前記粉末接着剤の溶解度パラメータ(SP値)の差が1.0(cal/cm3)1/2以上であることを特徴とする画像形成装置に関する。
【0007】
また、本発明は、シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する圧着シート製造方法であって、
印刷用トナーを用いて形成した未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した未定着の複合層をシート上に形成する工程、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着工程、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる工程、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着工程、
を有し、
前記印刷用トナーはワックスを含有し、
前記印刷用トナーの定着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(A1)、圧着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(A2)とし、前記粉末接着剤の定着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(B1)、圧着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(B2)としたとき、
G’(A1)>G’(A2)
G’(B1)>G’(B2)
G’(B1)>G’(A1)
を満たし、
定着工程における温度が、前記粉末接着剤の貯蔵弾性率カーブにおける融解に起因する変化領域の始点オンセット温度と終点オンセット温度との間の温度であることを特徴とする圧着シート製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する圧着シート製造方法であって、
印刷用トナーを用いて形成した未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した未定着の複合層をシート上に形成する工程、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着工程、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる工程、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着工程、
を有し、
前記トナーと前記粉末接着剤は平均粒径の差が25μmよりも小さく、且つ前記トナーよりも前記粉末接着剤の方が粒度分布が広いか、または半値幅が大きいことを特徴とする圧着シート製造方法に関する。
【0009】
さらに、本発明は、シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する画像形成装置であって、
印刷用トナーを用いて形成した未定着のトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した未定着の複合層をシート上に形成する手段、
前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着手段、
前記シート上の前記複合層が定着された領域と、前記シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる手段、及び
前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着手段、
を有し、
前記トナーと前記粉末接着剤は平均粒径の差が25μmよりも小さく、且つ前記トナーよりも前記粉末接着剤の方が粒度分布が広いか、または半値幅が大きいことを特徴とする画像形成装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成を採用することで、印刷処理と圧着処理を一連の流れで行える画像形成装置において、印刷用トナーと粉末接着剤(糊)が互いに相溶あるいは混合しにくくすることができる。これにより圧着はがき開封時の剥離オフセットの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る画像形成装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2A及び2Bは、剥離オフセット現象を説明する図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例と比較例における粘弾性特性を示した説明図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例と比較例における粘弾性特性に加えて、定着時と圧着時の温度を併記した説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例における現像剤(トナー)と粉末接着剤(糊)の定着時と圧着時の温度と粘弾性特性を示した説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施例における粉末接着剤(糊)の定着時の温度と粘弾性特性を示した説明図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例における現像剤(トナー)と粉末接着剤(糊)の定着時の温度と粘弾性特性を示した説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例における将来の現像剤(トナー)と粉末接着剤(糊)の定着時と圧着時の温度と粘弾性特性、ならびに将来の現像剤(トナー)の粘弾性特性を示した説明図である。
【
図9】
図9A、9B及び9Cは、本発明の実施例における画像形成装置と、1stステーションの像担持体(ドラム)と中間転写ベルト(ITB)の当接状態と、2ndステーションの像担持体(ドラム)と中間転写ベルト(ITB)の当接状態を示した概略図である。
【
図10】
図10A及び10Bは、本発明の実施例における平均粒径差がある場合の2ndステーションの像担持体(ドラム)と中間転写ベルト(ITB)の当接直前と当接直後の状態を示した概略図である。
【
図11】
図11A及び11Bは、本発明の実施例における平均粒径差がある場合の圧着はがきの剥離前と剥離後の状態を示した概略図である。
【
図12】
図12A及び12Bは、本発明の実施例における平均粒径差があり、且つ粒度分布が広い場合の2ndステーションの像担持体(ドラム)と中間転写ベルト(ITB)の当接直前と当接直後の状態を示した概略図である。
【
図13】
図13A及び13Bは、本発明の実施例における平均粒径差があり、且つ粒度分布が広い場合の圧着はがきの剥離前と剥離後の状態を示した概略図である。
【
図14】
図14A及び14Bは、本発明の実施例における平均粒径と粒度分布を示した図である。
【
図15】
図15A及び15Bは、本発明の実施例における現像剤(トナー)と粉末接着剤(糊)の粒子間の隙間を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<装置の全体概要について>
シート同士が剥離可能な状態に圧着されている圧着シートを製造する、本発明の圧着シート製造方法及び画像形成装置が基本とする工程(もしくは手段)は、
(i)印刷用トナーを用いて形成したトナー像の上に、粉末接着剤を用いて形成した接着層を表面層として積層した複合層をシート上に形成する工程、
(ii)前記シート上に形成された前記複合層を加熱して前記シートに定着させる定着工程、
(iii)前記シート上の前記複合層が形成および定着された領域と、該シートと同一シート上或いは異なるシート上の別の複合層が定着された領域とを対向させて重ね合わせる工程、及び
(iv)前記複合層と前記別の複合層が重ね合わされた箇所を加熱下で加圧して圧着する圧着工程
である。
【0013】
ここで、工程(iii)において、 “異なるシート”同士が重ね合わされる場合はシートを折る操作を必ずしも伴わないが、“同一シート”同士が重ね合わされる場合は当該シートを折る操作を伴うことになるため、上記(iii)の工程を便宜的に「折り工程」と称し、そのための手段を「折り手段」もしくは「折りユニット」と称する場合がある。
【0014】
図1は本発明に係る画像形成装置の一例を示す断面概略図であり、従来のフルカラーの画像形成装置をベースに、折りユニット6と圧着ユニット7を追加した構成となっている。
【0015】
そして糊2が充填されたプロセスカートリッジは、4つある画像形成用のステーションのうち一番上流側のステーションに装着され、他のステーションにはイエロー(以下、Yと称する)、マゼンタ(以下、Mと称する)、シアン(以下、Cと称する)の各色のプロセスカートリッジが装着されている。ただし、構成は上記に限らない。具体的にはモノクロや、各ステーションに装着される糊やトナー各色のプロセスカートリッジの順序や数量の割合はニーズに合わせて任意に設定可能である。またステーションの数も4つに限定されるものではないことを先に述べておく。
【0016】
次に圧着はがきを作成する画像形成プロセス(帯電、現像、転写、定着)、ならびに折り工程、圧着工程の流れについて詳細に述べる。
【0017】
(画像形成プロセス、折り工程、圧着工程の説明)
図1の画像形成装置では、各ステーションごとにOPC感光層(有機光半導体)を持つ像担持体(以下、ドラムと称する)1があり、所定のプロセススピードで矢印方向に回転可能となっている。ドラム1の表面は、帯電バイアスを印加した帯電ローラ12により所定の極性・電位に帯電された後、レーザービームスキャナー16からの露光ビームを受けて静電潜像が形成される。そしてその静電潜像に対して、粉末接着剤(以下、糊と称する)2が現像容器から現像剤担持部材17に運ばれ、現像手段(接触帯電及び現像バイアス)によってドラム1へ糊2が転移する、すなわち静電潜像が現像される。
【0018】
次にドラム1上の糊は、転写ローラ14による所定の転写圧と転写バイアスによりドラムと当接する中間転写ベルト(以下、ITBと称す)3に(一次)転写され、ITB3上の糊2は次のステーションに運ばれる。またドラム上の転写されなかった一部の糊2はクリーニングブレード等で掻き取られ、その後、ドラム1は再度帯電、露光、現像を行うことで、繰り返し画像形成を行うことができる。そして掻き取られた糊2はクリーニング容器13内に収容され回収される。この一連のプロセスを行える構成(ドラム1、帯電ローラ12、現像容器2、クリーニング容器13)を一体化しカートリッジ化したものをプロセスカートリッジと呼び、それぞれ粉体の異なる4つのプロセスカートリッジが並べて本体に収容されている。
【0019】
次のステーションでは上記と同じような流れで、今度はYトナー(イエロートナー)8がドラム11からITBへ転写される。そして次のステーション以降でも転写が順次繰り返されることでITB上には少なくとも2層の粉体(糊と他1色のトナー、最大で糊とYトナー8とMトナー(マゼンタトナー)9とCトナー(シアントナー)10)が順番に積層された状態となる。そして、搬送された記録材(以下、紙と称する)4に対し、2次転写ローラ15の転写バイアスによりITB3から紙4へトナー像が(二次)転写される。これにより、紙4上ではITB3と積層の順番が逆転し、トナー像の上に、表面層である糊が積層された複合層が形成されるため、紙4同士を対向して重ね合わせて糊で圧着しやすい状態をつくることができる。そのため糊は、中間転写ベルトなどの中間転写部材を用いる装置においては、画像形成における最上流のステーションに設置することが望ましい。
【0020】
その後、糊は定着ユニット5により熱を与えて加圧されることでトナー8、トナー9、トナー10と共に融けて紙4上に定着される。この際、糊2の大部分は融けつつも適度な軟化状態で定着されることが重要である。その理由は、定着時にトナー8、トナー9、トナー10と糊2が一気に融けた状態になると相溶しやすくなり剥離オフセット性が低下してしまうためであり、本発明は後述の各実施例におけるような工夫を行っている。
【0021】
次に紙は折りユニット6に送られ、そこで所定の状態に折られたのち、圧着ユニット7により熱を与えて加圧されながら圧着され、圧着はがきが作成される。この圧着時において、糊が融ける温度条件で行うことが、圧着はがきの接着力を維持しつつ、剥離オフセットを抑制させるのに重要である。
【0022】
なお、定着時に糊とトナーの両方を一気に融かさないで、圧着時に両方を溶かすのは以下の理由があるからである。理由は、定着時に糊が完全に融けずに軟化する程度で定着することで、圧着時に糊に対する熱の伝わり方がトナーよりも鈍くなる。そして、両者の融けやすさに差が生じるため両者がそれらの界面で相溶しにくい状況にすることができたり、あるいは、定着時に一度融けたトナー層は表面にワックスを存在させ、これがトナー層に対して糊と相溶しにくい壁の役割を果たし、両者を相溶しにくくすることができると考えられる。
【0023】
<剥離オフセットと要因の説明>
上記の工程を経て作成された圧着はがきは、ユーザーの元に届いた後に開封される。しかしながら前述したようにトナーと糊の物性や条件次第では、剥離オフセットが発生する場合がある。
【0024】
本発明者らは、印刷用トナーと糊の溶融状態や相溶性について検討した結果、
1.トナーと糊の溶解度パラメータ(SP値)の差
2.トナーと糊の粘弾性特性の差
のいずれかを制御することで、良好な剥離性が得られることが分かった。
【0025】
また、トナーと糊の粉体特性を検討した結果、
3.トナーと糊の平均粒径差、粒度分布差
を制御することで、良好な剥離性が得らえることが分かった。
【0026】
以下、3つの制御ポイントについて、順番に説明する。
【0027】
(トナーと糊について)
上記の剥離オフセットに寄与する3つの項目を説明する前に、まず本発明に係るトナーと糊について説明する。
【0028】
本発明で使用するトナーは、スチレンアクリル樹脂やポリエステル樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂などの熱可塑性の結着樹脂を含有し、更に、必要に応じて、ワックス、着色剤、外部添加剤、荷電制御剤、磁性体などを含有するものである。個々のトナー粒子の形状は球形や不定形であり、平均粒径は約6μm±2μmである。ただし、材質や物性に関しては上記に限定されない。特に、剥離オフセットの発生を抑制するため、糊の材質や物性に合わせて、トナーの材質や物性(構造)を変えてSP値や粘弾性特性や平均粒径や粒度分布が異なるものを用いても良い。
【0029】
一方、糊は、ポリエチレンの粉末粒子が好ましく用いられる。ポリエチレンの粉末粒子は、重合法あるいは粉砕法などによって製造することができ、表面には、外部添加剤などを添加してもよい。個々の粒子の形状は球形もしくは不定形であり、平均粒径は約6~30μmである。ただし、材質や物性に関しては上記に限定されない。特に、剥離オフセットの発生を抑制するため、トナーの材質や物性に合わせて、糊の材質や物性(構造)を変えてSP値や粘弾性特性や平均粒径や粒度分布が異なるものを用いても良い。
【0030】
〔実施例1〕(1.トナーと糊の溶解度パラメータ(SP値)の差について)
前述したように、剥離オフセットは、トナーと糊の互いの相溶性、混合具合で発生レベルが異なる。そこでトナーと糊の両者が相溶しにくい、もしくは混合しにくい状態で画像形成を行い、圧着はがきを作成することが必要となる。
【0031】
そこで我々は2種類の材料の相溶性を表すSP値という指標に着目した。このSP値は、対象となる2つの物質の溶解度を示す値で材料や分子構造によって決まる固有の値となっている。また、2つの異なる物質において、互いのSP値が離れていると相溶しにくく、SP値が近いと相溶しやすいという特徴がある。次にSP値の算出方法について述べる。
【0032】
(溶解性パラメータ(SP値)の計算方法)
本発明におけるSP値は、以下のFedorsの式を用いて求めた。ここでのΔei、および、Δviの値は「コーティングの基礎科学」54~57頁、1986年(槇書店)の表3~9による原子および原子団の蒸発エネルギーとモル体積(25℃)を参考にした。Evは蒸発エネルギー、Vはモル体積、Δeiはi成分の原子または原子団の蒸発エネルギー、Δviはi成分の原子または原子団のモル体積である。例えば、ヘキサンジオールという物質であれば、原子団(-OH)×2+(-CH2)×6から構成され、SP値は以下の例となる式で求められ、SP値(δi)は11.95となった。
SP値の算出式δi=[Ev/V]1/2=[Δei/Δvi]1/2
例)ヘキサンジオールのSP値δi=[Δei/Δvi]1/2=[{(5220)×2+(1180)×6}/{(13)×2+(16.1)×6}]1/2=11.95
【0033】
なお、本明細書において、SP値の単位は(cal/cm3)1/2としているが、(cal/cm3)1/2=0.48888×(J/cm3)1/2である。
【0034】
本明細書において、トナーのSP値としては、結着樹脂のSP値を採用する。
【0035】
本実施例において、トナーとしては、以下の処方のものを用いた。結着樹脂は後述の表1に記載のものに変えた各トナーを得た。なお、「部」は「質量部」である。
【0036】
(印刷用トナーの製造例)
次に、印刷用トナーTy,Tm,Tcの製造方法を例示する。まず、下記の材料を用意した。
・スチレン 60.0部
・着色剤 6.5部
(C.I.PigmenT Blue 15:3、大日精化社製)
上記材料をアトライタ(三井三池化工機株式会社製)に投入し、さらに直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5時間分散させて、顔料分散液を得た。
【0037】
さらに、次の材料を用意した。
・スチレン 15.0部
・n-ブチルアクリレート 25.0部
・ポリエステル樹脂 4.0部
(重量平均分子量(Mw)20000、ガラス転移温度(Tg)75℃、酸価8.2mgKOH/g)
・ベヘン酸ベヘニル 12.0部
・ジビニルベンゼン 0.5部
上記材料を混合し、顔料分散液に加えた。得られた混合物を60℃に保温し、T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、500rpmで撹拌し、均一に溶解、分散し、重合性単量体組成物を調製した。
【0038】
一方、高速撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を備えた容器中に0.10mol/L-Na3PO4水溶液850.0部及び10%塩酸8.0部を添加し、回転数を15000rpmに調整し、70℃に加温した。ここに、1.0mol/L-CaCl2水溶液127.5部を添加し、リン酸カルシウム化合物を含む水系媒体を調製した。
【0039】
水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入後、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート7.0部を添加し、15000回転/分の回転数を維持しつつ10分間造粒した。その後、高速撹拌機からプロペラ撹拌翼に撹拌機を変え、還流しながら70℃で5時間反応させた後、液温85℃とし、さらに2時間反応させた。
【0040】
重合反応終了後、得られたスラリーを冷却し、さらに、スラリーに塩酸を加えpHを1.4にし、1時間撹拌することでリン酸カルシウム塩を溶解させた。その後、スラリーの3倍の水量で洗浄し、ろ過、乾燥の後、分級してトナー粒子を得た。
【0041】
その後、トナー粒子100.0部に対して、外添剤として、ジメチルシリコーンオイル(20質量%)を用いて疎水化処理されたシリカ微粒子(1次粒子の個数平均粒径:10nm、BET比表面積:170m2/g)2.0部を加えた。そして、シリカ微粒子を加えたトナー粒子を、三井ヘンシェルミキサ(三井三池化工機株式会社製)を用い、3000rpmで15分間混合してトナー(印刷用トナー)を得た。得られたトナーの重量平均粒子径は、約6μmであった。
【0042】
次にこれらのトナーと糊(粉末接着剤)との相溶性を調べるため、表1に示す樹脂種の異なる複数の糊を用い、前述した画像形成プロセスを行い、次のような圧着はがきの試験サンプルを作成して、剥離オフセットについて確認した。
【0043】
試験サンプルは、圧着はがきの代わりとして用意した紙(キヤノン製のGF-C081)の短冊(3cm×14cm)の内面3cm×4cmの領域に糊とY・M・C何れか1色のトナーの2種類を各々全面に印字したもの、糊だけを全面に印字したものを用意し、それらの印字面側を互いに内側に向けて重ねた後、定着と圧着を行って作成した。今回、画像形成のプロセス条件(印加バイアスや各部材の設定、温度条件等)は糊とトナーはほぼ同設定で行ったが、粉体ごとに個別に設定しても良い。後述の試験において、糊に高密度ポリエチレンを用いた試験では、定着温度や圧着温度を上げて定着や圧着を行った。
【0044】
剥離試験はORIENTEC社のTENSILON、MODEL:RTG-1255の引っ張り試験機を使い、上記短冊の両端を試験装置にクランプして、50mm/minの引っ張り速度で剥離させた。
【0045】
剥離オフセットの有無については、TENSILONで剥離させた短冊の剥離面を確認し、糊だけを印字した短冊側にトナーが写っていないかどうか判定した。結果を以下に表1を用いて説明する。
【0046】
表1のようにトナーと糊が同じポリエステル樹脂を用いた場合、同じ材料なのでSP値は両方とも9.30となる。この状態で試験サンプルを作成して剥離試験を行ったところ、剥離面は互いに相溶してしまい、うまく分離せずに剥離オフセットが発生した。またトナーと糊の両方が同じスチレンアクリル樹脂の場合にも互いに相溶し剥離オフセットが出ることが確認できた。
【0047】
続いてトナーをポリエステル樹脂、糊を同様のSP値を有するポリプロピレン樹脂に変更して剥離試験を行った。結果は、トナーと糊が相溶して、うまく分離しないことが確認できた。よって、相溶のしやすさは材質ではなく、SP値が近いことが要因であることがわかる。
【0048】
次にSP値の差が大きい場合について説明する。今度は糊に、構造の異なる2つのポリエチレン、すなわち低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンを使って同様の試験を行った。なお、低密度ポリエチレンのSP値は7.93で(トナーに含まれるポリエステルとのSP値の差は1.37)、高密度ポリエチレンのSP値は8.29であった(トナーに含まれるポリエステルとのSP値の差は1.01)。その結果、両方のポリエチレンで分離面は相溶せずに剥離面がきれいに分かれ、平滑で且つ光沢がある状態で剥がれることがわかった。よって、SP値の差が少なくとも1.0以上あれば、互いの相溶を抑制できることがわかった。尚、低密度ポリエチレンは、トナーとほぼ同じプロセス条件で画像形成が可能であって、この点において高密度ポリエチレンよりも好ましい。
【0049】
【0050】
以上がSP値に関する試験結果であるが、次にトナーと糊の材質を上記の組合せから変更しつつ、通常使用する範囲外の条件で剥離オフセットを調べるモデル実験を行った。このモデル実験を行う目的は次の2つである。
【0051】
1つ目はSP値の差が1.0未満でも相溶を抑制できるのではないか、すなわちどの程度マージンがあるのか、例えば1.0が適正値なのかを調べるためと、2つ目はSP値の差が1.0という閾値はトナーが上記のポリエステル樹脂、糊がポリエチレン樹脂の組合せだけで成立する条件ではないか、すなわち、他の組合せでも同じ結果が得られるのかを調べるためである。
【0052】
モデル実験について詳しく説明する。このモデル実験では、剥離オフセットが発生しやすいように、前述した短冊上のトナーと糊の載り量を不均一とした。不均一なコートにすることで、トナーが融けた際に周囲のトナーと結びつきが弱くなり(トナーが孤立しやすくなり)、紙から剥がれやすくなる。
【0053】
そのためこのモデル実験では上記のトナーと糊が同じSP値の時は剥離オフセットが悪化する。結果を表2に示す。
【0054】
まず表2のようにトナーがポリエステル樹脂、糊が低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンを使い上記モデル実験を行ったところ、SP値の差が1.01である高密度ポリエチレンの場合、剥離オフセットが軽微に発生した。一方、SP値の差が1.37である低密度ポリエチレンは剥離オフセットが発生しなかった。
【0055】
また、トナーがスチレンアクリル樹脂で、糊が低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの場合、通常の剥離オフセット試験とモデル実験の両方を行った。トナーと糊のSP値の差は、それぞれ1.47と1.11となり、この条件で通常の剥離試験とモデル実験を行ったところ、SP値の差が1.47である低密度ポリエチレンと、SP値の差が1.11である高密度ポリエチレンの両方とも剥離オフセットは発生しないことがわかった。
【0056】
よって、剥離オフセットを抑制するSP値の差は1.0以上であれば、良好な結果が得られることが明らかとなった。より好ましくは、SP値の差が1.1以上である。
【0057】
【0058】
〔実施例2〕(2.トナーと糊の粘弾性特性の差)
次に剥離オフセットのもう一つの要因である粘弾性特性について説明する。なお、この粘弾性特性に着目した理由については、後述する。
【0059】
粘弾性特性の観点からは、本発明は、トナーの定着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(A1)とし、圧着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(A2)とし、糊の定着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(B1)とし、圧着工程における温度での貯蔵弾性率をG’(B2)としたとき、
G’(A1)>G’(A2)
G’(B1)>G’(B2)
G’(B1)>G’(A1)
を満たし、定着工程における温度が、糊の貯蔵弾性率カーブにおける融解に起因する変化領域の始点オンセット温度と終点オンセット温度との間の温度であることが必要である。
【0060】
ここで、粘弾性特性とは、与えられた歪に対して粉体中に蓄えられるエネルギーを示す指標であり、温度に対する貯蔵弾性率で表される。本実施例のように熱可塑性樹脂のような粉体の場合、トナーや糊を加熱して温度を上げていくと、粘弾性特性が変化して貯蔵弾性率が小さくなる。そしてこの状態はトナーや糊が溶融して軟らかい状態(以下、軟化と称する)になったことを示している。
【0061】
糊が単一の材料に近い状態であれば軟化する温度は融点に近くなるので、その温度領域付近では粘弾性が急激に変化しやすくなる。ただし、トナーなどの複数の材料が含有されている場合には、物質毎に粘弾性が変化する領域が異なるため、急激に変化する領域は少なくなる傾向にあり、加熱温度に応じて徐々に粘弾性が変化するという特徴がある。そこで次にトナー及び糊の粘弾性特性の測定方法について述べる。
【0062】
(トナー及び糊の粘弾性特性、貯蔵弾性率の測定について)
トナー及び糊の粘弾性特性、すなわち貯蔵弾性率の測定には、DMA8000(Perkin Elmer社製)、圧縮固定具(品番:N533-0320)を用い、加熱炉は品番:N533-0267を使用して測定した。まず、測定試料として、25℃の環境下で、錠剤成型器(例えば、NT-100H、エヌピーエーシステム社製)を用いて、トナーや糊(約2.0g)を直径7.9mm、厚さ2.0±0.3mmの円板状に加圧成型(約10MPaで、約60秒間圧縮成型)した試料を作成して、加熱しながら測定し、加熱温度に対する貯蔵弾性率のグラフを作成した。
【0063】
本実施例において、粘弾性の測定ではトナーとしてはトナーの構成成分、製造工程、粒径なども実施例1と同様のものを用いた。
【0064】
すなわち、トナーは結着樹脂がスチレンアクリル樹脂で、離型剤としてワックスを含有し、糊はポリエチレンを用いたが、トナーと糊の材質はこれに限ったものではない。特にトナーと糊の粘弾性特性が互いに異なる材質のものであれば良く、少なくとも定着時の温度で、糊の貯蔵弾性率がトナーの貯蔵弾性率よりも高ければ、剥離オフセットが抑制できるのでトナーと糊の材質はこれに限ったものではない。
【0065】
図3に粘弾性の測定結果を示す。横軸は所定の条件で粉体を加熱した温度を示しており、縦軸はその時の各粉体の貯蔵弾性率を示している。そして各々3つの粉体の粘弾性特性は以下のような傾向があることがわかった。
【0066】
実線で示したトナーは低い温度では貯蔵弾性率が高いため硬い。ただし、温度が上がるにつれて徐々に貯蔵弾性率が下がり、ほぼ直線的に軟化していく傾向が見られた。
【0067】
一方、破線で示した糊は加熱前の状態でトナーよりも軟らかかったが、所定の温度までほとんど貯蔵弾性率が変化せず、融点近くの温度で急激に軟化する特徴が見られた。
【0068】
ただし、ポリエチレンには構造の異なる低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンがあり、破線で示した低密度ポリエチレンは、点線で示した高密度ポリエチレンより分岐構造を多く有するため融点が低い。そのため、より低い温度で軟化する特徴があり、逆に高密度ポリエチレンの分子構造は直鎖が主体なので融点や軟化する温度が高い特徴がある。
【0069】
(粘弾性特性による剥離オフセットの改善について)
前述したように、剥離オフセットは、トナーと糊の相溶性、混合具合で剥離オフセットの発生レベルが異なる。そのためトナーと糊が相溶しにくい、もしくは混合しにくい状態で画像形成を行い、圧着はがきを作成することが必要となる。
【0070】
そこで、我々は物質の軟化のしやすさを表す粘弾性特性という指標に着目した。実際に圧着はがきを作成する際には定着時と圧着時の2つの加熱タイミングがあり、この2つの温度とトナーと糊の粘弾性の差を使い、互いに相溶しにくい状況を作ることで、剥離オフセットを改善できることを見出した。そこで次に今回得られた具体的な粘弾性特性について説明する。
【0071】
図4は実際の定着時の紙温度と圧着時の紙温度(すなわち紙上にあるトナーや糊の温度)を
図3に追記したものである。定着時の紙温度を縦実線A、圧着時の紙温度を縦実線Bで示した。本実施例では定着時のAよりも圧着時のBの方が温度を高く設定した。
【0072】
定着時Aの時の各粉体の粘弾性特性について説明する。定着時Aでは、トナーはほぼ融け、糊である低密度ポリエチレンはわずかに融けている状態となっていた。しかしながら、高密度ポリエチレンはほとんど融けていなかった。
【0073】
次に圧着時Bの時の各粉体の粘弾性特性について説明する。圧着時Bでは、トナーと低密度ポリエチレンはほぼ融けているものの、高密度ポリエチレンは融けて定着出来ていないことがわかった。本実施例ではトナーと同じ温度設定で糊を定着したため、糊は定着しにくい高密度ポリエチレンではなく、低密度ポリエチレンを使用することが望ましい。そのため以後、糊は低密度ポリエチレンを使い、どうやって剥離オフセットを抑制するか説明する。
【0074】
図5は、定着時と圧着時の温度におけるトナーの貯蔵弾性率と糊(低密度ポリエチレン)の貯蔵弾性率とを、黒丸、白丸で示し、粘弾性特性と剥離オフセットの関係性を説明しやすくしたグラフである。
図5より糊の定着時を(1)、糊の圧着時を(2)、トナーの定着時を(3)、トナーの圧着時を(4)でそれぞれ簡易的にわかりやすく表現した。そして次に示す3つの状態であれば、剥離オフセット抑制が良化することがわかったため、順番に説明する。
【0075】
1つ目は
図5のように本実施例では定着時よりも圧着時の紙温度を高く設定しているため粘弾性は、(1)>(2)、(3)>(4)の状態になっていること。
【0076】
2つ目に
図6のように糊は定着時に完全に融ける必要はなく、圧着時に融けることで圧着が可能になるため、(1)はやや軟化し融け始めている状態で使えば良い。つまり(1)は
図6のように粘弾性特性における軟化領域の範囲内に入っていれば良い。
【0077】
3つ目は剥離オフセットを抑制する最も重要な条件と考えており、それは
図7のように定着Aの温度で(1)>(3)という関係を満足することである。ここで、定着Aの温度での(1)の貯蔵弾性率と(3)の貯蔵弾性率との差が、|Log10(1×10
5)-Log10(3×10
4)|以上で、|Log10(3×10
6)-Log10(6×10
4)|以下であることが好ましい。
【0078】
その理由は、定着時に仮にトナーと糊の両方の粘弾性特性が似ていて両方の粉体が一気に融けてしまう状況になると相溶しやすくなり、定着が終わった段階で既に剥離オフセットに至るほど相溶することがわかったからである。そのため、定着時には、糊が完全に融けずに少し軟化する程度で定着することが剥離オフセットを良化するために必要である。つまり、定着時に糊を少しだけ軟化させた状態で定着することで、圧着時にはじめて、糊全体が融ける状態にすることができる。つまり定着時に両粉体が溶融状態にならず、相溶しにくい状況にできるので剥離オフセットを改善することができる。
【0079】
また、トナーの種類にも依るが、定着時にトナーを主体に融かすことで、糊と相溶しない状態でトナー表面にワックスの層を形成できるので、これが圧着時に糊と相溶しにくいトナーの壁となり相溶を抑制することができる。
【0080】
圧着時の温度と圧力の条件に関しては、圧着工程でかなり高温であったり、高圧力であったりすると、剥離オフセットが生じやすくなるため、圧着時の条件としては、紙温度は105℃~115℃程度、紙速度100mm/s、圧力32kg(片側荷重16kg×2)で行うことが望ましい。
【0081】
以上より、粘弾性特性による剥離オフセットを改善するためには、糊は定着時の粘弾性>圧着時の粘弾性((1)≧(2))、トナーは定着時の粘弾性>圧着時の粘弾性((3)≧(4))であること、糊の定着時の粘弾性((1))は粘弾性特性における軟化領域の範囲内に入っていること、定着時に糊の粘弾性≧トナーの粘弾性((1)≧(3))であること、という関係性を満足すれば良いことがわかった。
【0082】
更に、今後トナーの材料開発が進み、トナーの粘弾性特性における変化の傾き(軟化領域の傾き)が仮に糊よりも急になった場合についても想定した。想定される状況を
図8に示す。
【0083】
図8の実線はトナーの粘弾性を示しており、破線の糊よりもシャープメルト(軟化しやすく)になっている。仮に(3)(4)の位置関係を変えようとしても、トナー自体が定着時に融けることから(3)の位置は必然であるため、必ず
図8のような(3)(4)の位置関係になることが予想される(熱可塑性樹脂なので(3)より(4)の粘弾性が低くなる)。すなわち(3)よりも低い温度の実線部が変わるだけで(1)(2)(3)(4)の位置関係は変わらないことがわかった。
【0084】
以上より、上記の関係性を維持すれば、定着時に糊を少しだけ軟化させた状態で定着でき、圧着時にはじめて、糊全体が融ける状態にすることができる。これにより定着時にトナーと糊が一気に溶融状態にならず、相溶しにくい状況にできるので剥離オフセットを改善することが期待できる。
【0085】
本実施例における定着温度(定着時の紙温度)は95℃、圧着温度(圧着時の紙温度)は105℃であった。また、糊の定着温度での貯蔵弾性率は3×106Pa、糊の圧着温度での貯蔵弾性率は2×104Pa、トナーの定着温度での貯蔵弾性率は6×104Pa、トナーの圧着温度での貯蔵弾性率2×104Paであった。
【0086】
〔実施例3〕(3.トナーと糊の平均粒径差、粒度分布差)
前述したように、剥離オフセットは、トナーと糊の相溶性、混合具合で発生レベルが異なる。そこでトナーと糊の両者が相溶しにくい、もしくは混合しにくい状態で画像形成を行い、圧着はがきを作成することが必要となる。
【0087】
そこで我々は定着や圧着前のトナーと糊が粉体で存在している状態に着目し、互いの混合状態を改善することで剥離オフセットを抑制できると考えた。
【0088】
トナーと糊の平均粒径及び粒度分布を振って確認したところ、トナーと糊の平均粒径ならびに粒度分布が同一のものであれば、一連の画像形成プロセスを経て圧着はがきを作成し、剥離を行っても剥離オフセットは発生しなかった。しかしながら、トナーと糊の平均粒径が異なり、且つ糊の平均粒径がトナーよりも25μm程度大きい場合には、剥離オフセットが顕著に発生することがわかった。一方で、糊の平均粒径がトナーよりも25μm程度大きくても粒度分布が広い(すなわち粒度分布の半値幅が大きい)、もしくは、糊の平均粒径よりも小さい粒径が多く存在する場合には剥離オフセット抑制が良化することを発見した。そこで、以下にこの良化メカニズムについて説明し、必要な条件について提示する。なお、この平均粒径と粒度分布については次のような測定で計測した。
【0089】
(平均粒径と粒度分布測定について)
トナーと糊の平均粒径と粒度分布、すなわち重量平均粒子径は、以下のようにして算出する。測定装置としては、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標商品名、ベックマン・コールター社製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いる。なお、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行う。
【0090】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解させて濃度が1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。なお、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに電解水溶液200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに電解水溶液30mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、及び有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「UlTrasonic Dispersion SysTem TeTora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に3.3Lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを2mL添加する。
(4)前述(2)のビーカーを前述超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調製する。
(5)前述(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナーまたは糊を、10mgになるよう少量ずつ電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前述(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーまたは粉末接着剤を分散させた前述(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が5%となるように調製する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒子径を算出する。
【0091】
(トナーと糊が混合する場所の特定)
次に前述した剥離オフセットが発生している状態において、どこでトナーと糊が混合しているか場所の特定を行った。
【0092】
画像形成プロセスにおいて、トナーと糊が粉体で存在している工程は、現像剤担持部材からドラムに現像する現像工程と、ドラムからITBへ転写する一次転写工程と、ITBから紙へ転写する二次転写工程の何れかである。そこで、本体駆動の強制停止などで発生場所の特定を行ったところ、
図9Cのように、一次転写工程で発生していることがわかった。この工程では糊2とトナー8の両方がITB3上に転写された状態であり、ここの段階で混合している。
【0093】
図10Aは、転写圧がかかる前の状態を模式的に表した図であり、トナーと糊は印字パターンに応じて、規則正しくドラム上に担持されている。ただし、転写圧がかかると
図10Bのようにトナーよりも25μm程度大きい糊の粒子がドラム上のトナー像を乱し、トナーが糊の大きい粒径の間に入り込む様子が確認できた。これは粒径が大きい粒子は重量が大きいため動きづらく、軽い小さい粒子が動いて隙間に入るためと考えられる。そしてITB上でこの状態になると、紙へ二次転写を行った際に紙上には乱れたトナー層の上に糊の層が重なり、余計に互いの粒子が混合されてしまう。そうすると
図11Aのように定着時にトナーが通常とは異なる位置に孤立して定着され、
図11Bのように圧着した後に紙4を剥離した際、孤立したトナーは糊と一緒に剥がれ、それが剥離オフセットの原因になっていることがわかった。
【0094】
一方、トナーの糊の平均粒径が同じ場合には、上記の混合するタイミングにおいて、互いの層の接触点が多く、面で転写圧を吸収できるため、ITB上でトナーも糊も乱れない。よって剥離オフセットは発生しなかったと考えらえる。
【0095】
そして、糊の平均粒径がトナーよりも25μm程度大きく、且つ糊の平均粒径よりも小さい粒径が多く存在する場合(トナーよりも糊の方が、粒度分布が広い、あるいは粒度分布における半値幅が大きい)には、
図12AのようにITB上で糊の大きい粒子の隙間に、あらかじめ小さい糊の粒子が入って隙間を埋められている。そのため、画像形成における下流側のステーションでトナーがドラムからITBに転写され、転写圧がかかっても
図12Bのようにトナーが大きい糊の隙間に入ることを防止できるので、ITB上でトナーと糊の混合を抑制できていた。そうすると、定着時にはトナーと糊が互いに混ざることがなく、
図13Aのように互いの層を維持して定着され、
図13Bのように圧着した後に紙4を剥離した際、トナーと糊は互いの界面で乱れずに剥がれ、剥離オフセットは発生しないことがわかった。
【0096】
また上記のトナーと糊の組合せに加えて、表3に示したような別の組み合わせも考えられる。表3より、トナーの平均粒径小と糊の平均粒径大の組合せで剥離オフセットが発生し、粒度分布小より、粒度分布大で剥離オフセット抑制が良化することがわかった。特に糊の粒度分布大の効果が大きいことがわかる。
【0097】
ただし、括弧内のデータは剥離オフセットの寄与が低いため、本実施例では粒径差が大きい組合せとして、トナーは平均粒径小(約6μm程度)、糊は平均粒径小(約6μm程度)と大(約30μm程度)に特化して説明する。
【0098】
【0099】
次に糊の粒度分布を大きくすることで剥離オフセット抑制が良化する理由を説明する。
図14A及び14Bは表3の右上隅、すなわちトナーと糊で平均粒径と粒度分布の差が大きい場合のグラフである。
図14Aは糊で平均粒径大、粒度分布大、
図14Bはトナーで平均粒径小、粒度分布小である。この場合、糊の粒度分布が広い(すなわち粒度分布の半値幅が大きい)ため、画像形成における最上流のITB上でいろんな糊の粒径の粒子が隙間を埋めて、次のステーションでトナーが印字されるまでに平滑な表面を形成できる。特にトナーの粒子と同じくらいの平均粒径の小さい糊で隙間を埋めるため、糊の粒度分布をトナーよりも粒度分布を広げる、すなわち相手側の粒径に近い粒子を予め多く存在することができれば、互いに混合しにくくなるため、剥離オフセットを抑制することができる。
【0100】
次に、トナーと糊で平均粒径差が25μmよりも小さいという閾値で剥離オフセットが良化する理由について説明する。
図15A及び15Bは、平均粒径の最大値である30μmの糊の隙間に、どの程度の粒径のトナーが入り込む可能性があるかを表した模式図である(ITB表面を断面側ではなく平面側から見た図である)。
【0101】
図15Aより、トナーが5μm、糊が30μmで、平均粒径差が25μmだと糊の隙間にトナーが接触しながら入り込み、互いの粉体が混合しやすくなるので剥離オフセットが悪化する。一方、
図15Bより、トナーが6μm、糊が30μmで、平均粒径差を24μmにすると糊の隙間に対して物理的にトナーが入り込みにくくなるので、互いの粉体が混合しにくくなる。それにより剥離オフセットを抑制することができた。
【0102】
表4に上記の粒径差と剥離オフセットの関係を示す。
【0103】
【0104】
表4の数値に対しては、電子写真の画像形成プロセスをトナーと糊の両方で使用するため、本件の平均粒径は最大で30μmを想定している。そのためトナーと糊の平均粒径が変わっても表4の数値と相似形となるため、最も入り込みやすくなる状況は平均粒径が30μmの時が最大であり、つまり表4の平均粒径差が25μmの時が最も厳しくなる。よって剥離オフセットは平均粒径の差を25μmよりも小さくすることで抑制することがわかった。
【0105】
以上より、トナーと糊の平均粒径や粒度分布について、トナーと糊の平均粒径の差が25μmよりも小さく、且つトナーの粒度分布よりも糊の粒度分布が広い、すなわち半値幅が大きいことで、剥離オフセット抑制が良化することが明らかとなった。
【0106】
<まとめ>
本発明例の優位な点を表5に示す。
【0107】
【0108】
本件はトナーと糊のSP値差を1.0(cal/cm3)1/2以上とすることでトナーと糊が溶融状態でも相溶しにくくできる。また定着時にトナーと糊の粘弾性特性で差を付けることで両粉体が一気に融けることを回避し、互いに溶融状態と粉体状態が混ざった状態でも相溶しにくくできる。またトナーと糊の平均粒径差を25μm未満で且つ糊の粒度分布をトナーよりも大きくすることで糊の大きい粒子の隙間に糊の小さい粒子が予め入ることで平滑な表面を形成できるので、互いに粉体状態でも混合しにくくできる。これらにより剥離オフセットを良好に抑制できる。且つ剥離面の画像品位や光沢性も向上する(接着力も一部で向上する)。
【0109】
更に上記の構成であるSP値差、粘弾性差、平均粒径と粒度分布差の全てを組み合わせると、剥離オフセットと同時に剥離面の画像品位や光沢性(接着力)も更に向上することができる。
【符号の説明】
【0110】
1・・・像担持体(ドラム:1stステーション)、2・・・粉末接着剤(糊)、3・・・中間転写ベルト(ITB)、4・・・記録材(紙)、5・・・定着ユニット、6・・・折りユニット、7・・・圧着ユニット、8・・・トナー(Y:イエロー)、9・・・トナー(M:マゼンタ)、10・・・トナー(C:シアン)、11・・・像担持体(ドラム:2ndステーション)、12・・・帯電ローラ、13・・・クリーニング容器、14・・・転写ローラ、15・・・2次転写ローラ、16・・・レーザービームスキャナー、17・・・現像剤担持部材