(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】バイオプリンティングされた腎臓組織
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241209BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C12N5/071
A61L27/38 100
(21)【出願番号】P 2022512822
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 AU2020050882
(87)【国際公開番号】W WO2021035291
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-04-03
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】505183417
【氏名又は名称】マードック チルドレンズ リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】メリッサ・エイチ・リトル
(72)【発明者】
【氏名】キナン・ロウラー
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ・ヴァンスラムブローク
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・ウィルソン
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/064323(WO,A1)
【文献】特表2018-532418(JP,A)
【文献】特表2017-529877(JP,A)
【文献】Higgins JW et al.,Bioprinted pluripotent stem cell-derived kidney organoids provide opportunities for high content screening,bioRxiv,2018年,pp.1-34,doi: https://doi.org/10.1101/505396
【文献】Nature,2015年,Vol.526,pp.564-568, METHODS, Ext. Data Fig.1-9
【文献】Korean J. Intern. Med.,2018年,Vol.33,pp.649-659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインの形状である腎臓組織の層、および
10,000個の細胞当たり0.2mm
2超の表面積を有するネフロン組織
を含む、バイオプリンティングされた腎臓組織であって、前記ネフロン組織が、腎臓組織の層全体に分布しているネフロンを含む、バイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項2】
前記腎臓組織の層が、1mm
2当たり約30,000個以下の細胞を含む、請求項1に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項3】
前記腎臓組織の層が、SULT1E1、SLC30A1、SLC51B、FABP3、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上を
、手作業で凝集された腎臓オルガノイド、あるいは細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較して高いレベルで発現する、請求項1に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項4】
前記腎臓組織が、ネフロンを含み、その近位尿細管および遠位尿細管セグメントが、HNF4AおよびSLC12A1を含む成熟マーカーを発現する、請求項3に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項5】
前記腎臓組織が、マーカーHNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFB
のうちの1つ以上を発現する、請求項4に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項6】
前記腎臓組織の層が、約50μm以下の高さである、請求項1に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項7】
前記腎臓組織の層が、約1mm~約30mmの長さおよび約0.5mm~約20mmの幅を有する、請求項1に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項8】
前記腎臓組織の層が、約5~約100ネフロン/1mm
2を含む、請求項7に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項9】
前記腎臓組織の層が、前記層全体に均一
に分布したMAFBを発現する糸球体構造を含む、請求項1に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
【請求項10】
バイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法であって、所定量のバイオインクを表面にバイオプリンティングすることであって、前記バイオインクが、
ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)およびヒト胚性幹細胞(hESC)から選択されるヒト幹細胞(HSC)から分化した複数の細胞を含み、前記バイオインクが、約50μm以下の高さの層に、ラインの形状でバイオプリンティングされることと、前記所定量の前記バイオインクを誘導して、バイオプリンティングされた腎臓組織を形成することと、を含む、方法。
【請求項11】
前記所定量のバイオインクが、約10,000個の細胞/μl~約400,000個の細胞/μlを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオプリンティングされた腎臓組織が、約5~約100ネフロン/10,000個の細胞を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記表面が、生体適合性の足場である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記所定量のバイオインクを誘導することが、バイオプリンティングされた腎臓組織をFGF-9と接触させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の細胞が、バイオプリンティングされる前に、CHIR
99021と接触する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオプリンティングされた腎臓組織およびその製造方法に関する。バイオプリンティングされた組織および方法は、疾患モデリング、薬物スクリーニング、薬物試験、腎置換、組織工学、再生医療などの様々な用途に使用できる。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年8月23日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2019/903094号の優先権の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
腎臓は、老廃物の除去および体液量の維持に大きな役割を果たす。腎臓の機能単位は、ネフロンとして知られている。ヒトの腎臓には、血液の濾過に関与する最大200万個の上皮ネフロンが備わり、これらはすべて、出生前のネフロン前駆細胞から生じる。出生後のヒトの腎臓には、ネフロン前駆細胞は存在しない。このネフロン前駆細胞集団の欠如であっても、新しいネフロン形成(新腎形成)の能力は担保されないため、その後の傷害、老化、および疾患は、ネフロン数の減少および結果として生じる慢性腎臓病(CKD)につながる可能性がある。これは最終的に、透析(腹膜透析または血液透析)または臓器移植などの、何らかの形での腎代替療法で処置されない限り、生命を危機にさらす末期腎疾患(ESKD)をもたらす。これらは、ESKDにおいて利用可能な唯一の治療オプションである。透析および腎臓移植はいずれも費用がかかり、重大な欠点があり、患者の生活の質に影響を及ぼす。現在、CKDは世界中で毎年6%で増加しており、ドナー臓器にアクセスできる患者は4人に1人しかいないため、置換する腎臓組織の給源が主要な治療的標的となっている。
【0004】
ヒト胚性幹細胞(hES)およびヒト人工多能性幹細胞(hiPS)の両方を含むヒト多能性幹細胞(hPSC)を異なる細胞エンドポイントに誘導分化させることで、腎臓などの様々なヒト組織のオルガノイドモデルを生成させることが可能となった。Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568で論じられるような従来のオルガノイドモデルは、ヒト腎臓の多細胞モデルである、複雑な三次元構造を有する腎臓オルガノイドを製造できる。これらの複雑な多細胞構造には、腎間質および内皮細胞に囲まれた集合管ネットワークに連結された、完全にセグメント化されたネフロンが含まれる。それらは、発生のトリメスター1のヒト胎児腎臓と同等の遺伝子発現を示す。
【0005】
この重要な研究成果もかかわらず、前述の方法に従って製造した腎臓オルガノイドは、持続的なネフロン前駆細胞集団を有さないため、自己制限的である。正常なヒトの腎臓の発達の、ネフロン形成の進行は、ネフロン前駆細胞集団から持続的に行われる。この集団は、腎臓オルガノイドに存在することが示されているが、この前駆細胞の集団はネフロンを生成した後は失われるため、このアプローチを使用して生成できるネフロンの数の上限が制限されることも示されている(Howden et al,EMBO Reports,2019)。幹細胞から機能的な腎臓組織を最大限生成させるための重要な要素は、ネフロンで構成される組織の相対的な割合である。第ニに重要な要素は、不要な非腎臓集団の低減である。したがって、かかる組織を生成させるために使用される細胞数当たりのネフロン数が多く、かつネフロンの分布がより均一な、操作された腎臓組織が必要である。第三に重要な要因は、構成要素であるネフロンのパターンが良好であり、またネフロンセグメントが成熟している証拠を示す、腎臓組織の存在である。移植可能な腎代替組織を生成させるための第四に重要な要素は、自動化に適する信頼性および再現性を有する態様で、かかる組織を作製する能力である。
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、幹細胞由来の腎前駆細胞を含む組成物に由来する、インビトロで操作された、またはバイオプリンティングされた腎臓組織が、組織のバイオプリンティングに適用される空間パラメーターに応じて、組織を生成させるために使用される細胞数当たりに生じるネフロンの数を増減させつつ生成され得ることを見出した。驚くべきことに、ネフロンの分布がより均一なバイオプリンティング組織を生成させることが可能であることを見出した。本発明者らは、驚くべきことに、バイオプリンティングされた組織の空間パラメーターを変化させることにより、同じ量の出発物質(細胞)からより多くのネフロンを生成できること、および得られた組織が改善された特性を有することを見出した。したがって、本明細書で記載するのは、成熟ネフロンが富化されたバイオプリンティングされた腎臓組織、およびその製造方法である。
【0007】
第1の態様によれば、本発明は、バイオプリンティングされた腎臓組織であって、組織全体に分布しているネフロンが富化されている、バイオプリンティングされた腎臓組織を提供する。好ましい実施形態では、ネフロンは、プリンティングされた組織全体に均等または均一に分布している。
【0008】
第2の態様によれば、本発明は、所定量のバイオインクを含むバイオプリンティングされた腎臓組織を提供し、ここで、バイオインクは、複数の細胞を含み、バイオインクは、約50μm未満の高さであり、バイオプリンティングされたバイオインクは、誘導されて腎臓組織を形成する。別の実施形態では、バイオプリンティングされたバイオインクが誘導されて腎臓組織を形成した後の、バイオプリンティングされた腎臓組織の高さは、約150μm以下である。言い換えれば、最終的なバイオプリンティングされた腎臓組織の高さは、約150μm以下である。
【0009】
第3の態様によれば、本発明は、所定量のバイオインクを含むバイオプリンティングされた腎臓組織を提供し、ここで、バイオインクは、複数の細胞を含み、バイオインクは、1mm2当たり30,000個以下の細胞を含む層にバイオプリンティングされる。
【0010】
第4の態様によれば、本発明は、所定量のバイオインクを表面にバイオプリンティングするステップであって、バイオインクが、複数の細胞を含み、バイオインクが、約50μm以下の高さの層にバイオプリンティングされる、ステップと、バイオプリンティングされた、所定量のバイオインクを誘導して、バイオプリンティングされた腎臓組織を形成するステップと、を含む、バイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法を提供する。
【0011】
第5の態様によれば、本発明は、所定量のバイオインクを表面にバイオプリンティングするステップであって、バイオインクが、1mm2当たり約30,000個以下の細胞を含む層にバイオプリンティングされる複数の細胞を含む、ステップと、バイオプリンティングされた、所定量のバイオインクを誘導して、バイオプリンティングされた腎臓組織を形成するステップと、を含む、バイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法を提供する。
【0012】
第6の態様によれば、本発明は、第4または第5の態様の方法に従って製造されたバイオプリンティングされた腎臓組織を提供する。
【0013】
第7の態様によれば、本発明は、腎疾患または腎不全の治療を必要とする対象においてその治療に使用するための、第1、第2、第3または第6の態様のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織を提供する。
【0014】
第8の態様によれば、本発明は、腎疾患の治療を必要とする対象においてその治療のための薬剤の製造における、第1、第2、第3または第6の態様のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織の使用を提供する。
【0015】
第9の態様によれば、本発明は、腎疾患または腎不全の治療を必要とする対象においてその治療のための方法であって、第1、第2、第3または第6の態様のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織を対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0016】
本発明の付番されたステートメントは、以下のとおりである:
1.バイオプリンティングされた腎臓組織であって、組織全体に分布しているネフロンが富化されている、バイオプリンティングされた腎臓組織。
2.バイオプリンティングされた腎臓組織が、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2超のネフロン組織の表面積を含むバイオプリンティングされた組織の層である、ステートメント1のバイオプリンティングされた腎臓組織。
3.バイオプリンティングされた腎臓組織が、プリンティング時に1mm2当たり約30,000個以下の細胞を含むバイオプリンティングされた腎臓組織の層である、ステートメント1または2に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
4.バイオプリンティングされた腎臓組織が、SULT1E1、SLC30A1、SLC51B、FABP3、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのいずれか1つ以上を高レベルで発現する、先行ステートメントのいずれか1つに記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
5.バイオプリンティングされた腎臓組織が、ネフロンを含み、その近位尿細管および遠位尿細管セグメントが、HNF4AおよびSLC12A1を含む成熟マーカーを発現する、ステートメント4のバイオプリンティングされた腎臓組織。
6.バイオプリンティングされた腎臓組織が、マーカーHNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBをそれぞれ発現する、ステートメント4または5のバイオプリンティングされた腎臓組織。
7.バイオプリンティングされた腎臓組織の高さが、プリンティング時に約50μm以下である、先行ステートメントのいずれか1つに記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
8.バイオプリンティングされた腎臓組織が、約1mm~約30mmの長さおよび約0.5mm~約20mmの幅を有する、先行ステートメントのいずれか1つに記載のバイオプリンティングされた腎臓組織。
9.バイオプリンティングされた腎臓組織が、約5~約100ネフロン/バイオプリンティングされた腎臓組織1mm2を含む、ステートメント7または8のバイオプリンティングされた腎臓組織。
10.所定量のバイオインクを含むバイオプリンティングされた腎臓組織であって、バイオインクが複数の細胞を含み、バイオインクが約50μm以下の高さの層にバイオプリンティングされ、バイオプリンティングされたバイオインクが、腎臓組織を形成するように誘導されている、バイオプリンティングされた腎臓組織。
11.バイオインクが、約20μmの高さ~約40μmの高さから選択される層にバイオプリンティングされている、ステートメント10のバイオプリンティングされた腎臓組織。
12.バイオインクが約30μmの高さの層にバイオプリンティングされている、ステートメント10のバイオプリンティングされた腎臓組織。
13.バイオインクが約25μmの高さの層にバイオプリンティングされている、ステートメント10のバイオプリンティングされた腎臓組織。
14.所定量のバイオインクが、約10,000個の細胞/μl~約400,000個の細胞/μlを含む、ステートメント10~14のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
15.上記複数の細胞が、部分的に分化した細胞を含む、ステートメント10~14のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
16.上記複数の細胞が、腎前駆細胞を含む、ステートメント10~15のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
17.腎前駆細胞が、ネフロン前駆細胞を含む、ステートメント16のバイオプリンティングされた腎臓組織。
18.腎前駆細胞が、尿管上皮前駆細胞を含む、ステートメント16または17のバイオプリンティングされた腎臓組織。
19.上記複数の細胞が、中間中胚葉細胞を含む、ステートメント10~15のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
20.上記複数の細胞が、後腎間葉細胞を含む、ステートメント10~15のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
21.上記複数の細胞が、腎管細胞を含む、ステートメント10~15のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
22.上記複数の細胞が、完全に分化した細胞を含む、ステートメント10~15のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
23.上記複数の細胞が、患者由来の細胞を含む、ステートメント10~22のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
24.上記複数の細胞が、レポーター細胞株からの細胞を含む、ステートメント10~23のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
25.上記複数の細胞が、遺伝子編集された細胞を含む、ステートメント10~24のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
26.上記複数の細胞が、罹患細胞、健常細胞、または罹患細胞と健常細胞の組み合わせを含む、ステートメント10~25のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
27.バイオプリンティングされた腎臓組織が、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2超のネフロン組織の表面積を含む、ステートメント10~26のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
28.バイオプリンティングされた腎臓組織が、プリンティング時に1mm2当たり約30,000個以下の細胞を含む、ステートメント10~27のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
29.バイオプリンティングされた腎臓組織が、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAM、およびMAFBのいずれか1つ以上を高レベルで発現する、ステートメント10~28のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
30.バイオプリンティングされた腎臓組織が、ネフロンを含み、その近位尿細管および遠位尿細管セグメントが、HNF4Aを含む成熟マーカーを発現する、ステートメント29のバイオプリンティングされた腎臓組織。
31.バイオプリンティングされた腎臓組織が、マーカーHNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBをそれぞれ発現する、ステートメント29または30のバイオプリンティングされた腎臓組織。
32.組織が、約5~約100ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む、ステートメント1~31のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
33.組織が、バイオプリンティングされた層全体にネフロンの均一な分布を有する、ステートメント10~32のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
34.組織が、バイオプリンティングされた層全体にMAFBを発現する糸球体構造の均一な分布を有する、ステートメント10~33のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
35.生体適合性の足場をさらに含む、ステートメント1~34のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
36.バイオインクが、生体適合性の足場にバイオプリンティングされている、ステートメント35のバイオプリンティングされた腎臓組織。
37.生体適合性の足場が、ヒドロゲルである、ステートメント35または36のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
38.生体適合性の足場が、生分解性または生体吸収性である、ステートメント35~37のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
39.バイオインクが、1つ以上の生物学的活性剤をさらに含む、ステートメント10~38のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
40.上記1つ以上の生物学的活性剤が、上記複数の細胞からの腎臓組織の誘導を促進する、ステートメント39のバイオプリンティングされた腎臓組織。
41.バイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法であって、所定量のバイオインクを表面にバイオプリンティングするステップであって、バイオインクが、複数の細胞を含み、バイオインクが、約50μm以下の高さの層にバイオプリンティングされる、ステップと、バイオプリンティングされた、所定量のバイオインクを誘導して、バイオプリンティングされた腎臓組織を形成するステップと、を含む、方法。
42.バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクが、約20μmの高さ~約40μmの高さから選択される層にバイオプリンティングされる、ステートメント41の方法。
43.バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクが、約30μmの高さの層にバイオプリンティングされる、ステートメント41の方法。
44.バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクが、約25μmの高さの層にバイオプリンティングされる、ステートメント41の方法。
45.所定量のバイオインクが、約10,000個の細胞/μl~約400,000個の細胞/μlを含む、ステートメント41~44のいずれか1つの方法。
46.バイオインクが、約200,000個の細胞/μlを含む、ステートメント45の方法。
47.上記複数の細胞が、部分的に分化した細胞を含む、ステートメント41~46のいずれか1つの方法。
48.上記複数の細胞が、腎前駆細胞を含む、ステートメント41~46のいずれか1つの方法。
49.腎前駆細胞が、ネフロン前駆細胞を含む、ステートメント48のバイオプリンティングされた腎臓組織。
50.腎前駆細胞が、尿管上皮前駆細胞を含む、ステートメント48または49の方法。
51.上記複数の細胞が、中間中胚葉細胞、好ましくは、幹細胞由来の中間中胚葉細胞の培養増殖集団を含む、ステートメント41~47のいずれか1つの方法。
52.上記複数の細胞が、後腎間葉細胞を含む、ステートメント41~47のいずれか1つの方法。
53.上記複数の細胞が、腎管細胞を含む、ステートメント41~47のいずれか1つの方法。
54.上記複数の細胞が、完全に分化した細胞を含む、ステートメント41~47のいずれか1つの方法。
55.上記複数の細胞が、患者由来の細胞を含む、ステートメント41~54のいずれか1つの方法。
56.上記複数の細胞が、レポーター細胞株からの細胞を含む、ステートメント41~55のいずれか1つの方法。
57.上記複数の細胞が、遺伝子編集された細胞を含む、ステートメント41~56のいずれか1つの方法。
58.上記複数の細胞が、罹患細胞、健常細胞、または罹患細胞と健常細胞との組み合わせを含む、ステートメント41~57のいずれか1つの方法。
59.バイオプリンティングされた腎臓組織が、約5~約100ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む、ステートメント41~58のいずれか1つの方法。
60.バイオプリンティングされた腎臓組織が、バイオプリンティングされた層全体にネフロンの均一な分布を有する、ステートメント41~59のいずれか1つの方法。
61.バイオプリンティングされた腎臓組織が、バイオプリンティングされた層全体にMAFBを発現する糸球体構造の均一な分布を有する、ステートメント41~60のいずれか1つの方法。
62.バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクが生体適合性の足場にバイオプリンティングされる、ステートメント41~61のいずれか1つの方法。
63.生体適合性の足場が、ヒドロゲルである、ステートメント62の方法。
64.生体適合性の足場が、生分解性または生体吸収性である、ステートメント62または63のいずれか1つの方法。
65.バイオインクが、1つ以上の生物学的活性剤をさらに含む、ステートメント41~64のいずれか1つの方法。
66.上記1つ以上の生物学的活性剤が、上記複数の細胞からの腎臓組織の誘導を促進する、ステートメント65の方法。
67.誘導のステップが、バイオプリンティングされた所定量のバイオインクをFGF-9と接触させることを含む、ステートメント41~66のいずれか1つの方法。
68.誘導のステップが、バイオプリンティングされた所定量のバイオインクをFGF-9と5日間接触させることを含む、ステートメント67の方法。
69.複数の細胞が、バイオプリンティングされる前に、CHIRを含む細胞培養培地と接触する、ステートメント41~68のいずれか1つの方法。
70.バイオプリンティングのステップが、押し出しベースのバイオプリンターを使用するものである、ステートメント41~69のいずれか1つの方法。
71.バイオプリンティングのステップにおいて、バイオプリンターの分配装置が、上記層を1つ以上のラインで分配するように構成されている、ステートメント41~70のいずれか1つの方法。
72.バイオプリンティングのステップにおいて、バイオプリンターの分配装置が、連続的なシートまたはパッチを形成するように、上記層を1つ以上のラインで分配するように構成されている、ステートメント41~71のいずれか1つの方法。
73.ステートメント41~72のいずれか1つに従って製造された、バイオプリンティングされた腎臓組織。
74.腎臓病または腎不全の治療を必要とする対象においてその治療に使用するための、ステートメント1~40、または73のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織。
75.腎臓病の治療を必要とする対象においてその治療のための薬剤の製造における、ステートメント1~40、または73のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織の使用。
76.腎疾患または腎不全の治療を必要とする対象においてその治療のための方法であって、ステートメント1~40、または73のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織を対象に投与することを含む、方法。
77.上記治療において、バイオプリンティングされた腎臓組織が、上記対象の腎被膜下に移植される、ステートメント74に従って使用するためのステートメント1~40もしくは73のいずれか1つのバイオプリンティングされた腎臓組織、ステートメント75の使用、またはステートメント76の方法。
【0017】
本明細書の任意の実施例または実施形態は、特に明記しない限り、必要な変更を加えて他の任意の実施例または実施形態においても適用されるものとする。
【0018】
本開示は、例示のみを目的とし、本明細書に記載の特定の実施例によってその範囲が限定されるものではない。機能的に均等の製品、組成物および方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本開示の範囲内にある。
【0019】
本明細書全体を通して、特に別段の記載がない限り、または文脈において別段の必要がある場合を除き、単一のステップ、物質の組成、一群のステップ、または一群の物質の組成への言及は、それらのステップ、物質の組成、一群のステップ、または一群の物質の組成の1つおよび複数(すなわち1つ以上)を包含すると解釈されるものとする。
【0020】
以下の非限定的な実施例および添付の図面を参照しつつ、本開示を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】7日目の中間中胚葉細胞ペーストの押し出しベースの細胞バイオプリンティングによる、再現性の高い、ヒト多能性幹細胞由来の腎臓オルガノイドの生成。A.多能性幹細胞を分化させ、腎臓オルガノイドを生成するための、バイオプリンティングのプロトコル。本図は、バイオプリンティングを使用して手作業処理を置き換えるポイントを示し、手作業処理(Takasato et al.,2016)と3D細胞ペースト押し出しバイオプリンティングとで、相対的な細胞数およびオルガノイド生成速度を比較する。B.プリンティング日(7日目+0日目)から培養20日目(7日目+20日目)までのマイクロマス細胞ペースト培養物の明視野画像であり、経時的なネフロンの自発的形成を示す。C.7日目+18日目のオルガノイドのホールマウント免疫蛍光染色であり、遠位尿細管(E-CADHERIN、緑)、近位尿細管(LTL、青)、有足細胞(NEPHRIN、白)、および潜血セグメント/集合管(GATA3、赤)を含むパターン化およびセグメント化されたネフロンの証拠を示す。チャネルの融合は、個々のネフロンセグメントの関係を示す。D.7日目+18日目のバイオプリンティングされたオルガノイドの、マーカーを使用したホールマウント免疫蛍光染であり、近位尿細管セグメント(CD13、CUBN、LTL)、管状基底膜(LAMININ)、周囲の間質(MEIS1/2)、ヘンレTAL(SLC12A1)および内皮(CD31)の遠位尿細管/ループの存在を示す。E.同じiPSC由来の中間中胚葉のバッチから同時に生成させた、明視野(7日目+7日目)の、およびホールマウントの免疫蛍光染色された、手作業およびバイオプリンティングされた腎臓オルガノイド。染色により、手作業およびバイオプリンティングされたオルガノイドの両方で、パターン化およびセグメント化されたネフロンの証拠を示す(EPCAM、緑:上皮;LTL、青:近位尿細管;NPHS1、白:糸球体;GATA3、赤:連結セグメント/集合管)。F.トランスウェル(Transwell)(登録商標)インサートに、3つの腎臓オルガノイドがバイオプリンティングされている。開始時の細胞数を表示する。上の列は、細胞数を減少させたときのオルガノイドを生成する能力を示す。下の行は、複数のウェルにわたって特定の細胞数をバイオプリンティングした場合のサイズの再現性を示す。G.9つのバイオプリンティングされたオルガノイドを含む、6ウェルのトランスウェル(登録商標)インサートであり、それぞれ約96,000個の細胞を含む。H.バイオプリンティングされたオルガノイド内の腎臓オルガノイドの分化は、開始細胞数の減少にかかわらず同等である。画像は、2×10
5または4×10
5細胞オルガノイドとしてプリンティングされた成熟オルガノイドのH&E染色切片を示す。
【
図2】A.7+18日目のバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドの完全な組織断面図であり、相互に連結する上皮(矢印)からネフロンが発生する明確な証拠を示す。B.複数のECAD+GATA3-ネフロンが結合したGATA3+ECAD+連結セグメント/集合管を示す、バイオプリンティングされた腎臓オルガノイド切片の免疫染色。C.MAFB+糸球体に結合したECAD+ネフロンを示す、バイオプリンティングされた腎臓オルガノイド切片の免疫染色。D.オルガノイドの直径を制御した乾燥細胞ペースト、対、細胞数を制御した乾燥細胞ペースト、対、湿細胞ペーストを使用して手作業で生成させた腎臓オルガノイド(オルガノイド当たり5×10
5細胞)の明視野での、組織学的および免疫蛍光の比較。
【
図3】A.手作業によるオルガノイド(5×10
5細胞)の生成に使用される単一の開始分化からのオルガノイド、対、わずか4,000細胞から生成されたバイオプリンティングオルガノイド、の免疫蛍光観察。B.MAFB
mTagBFP2レポーターiPSC株を使用して生成されたバイオプリンティングオルガノイドの、時間経過による分化を示す。C.同じトランスウェルフィルター上にMAFB
mTagBFP2を、オルガノイド当たり4K、50K、または100Kの細胞でバイオプリンティングしたオルガノイドであり、蛍光レポーターイメージング(青)および分化の染色(ECAD、緑;LTL、青;GATA3、赤;NPHS1、紫)を示す。D.同じトランスウェルフィルター上にMAFB
mTagBFP2を、オルガノイド当たり100Kの細胞を使用してバイオプリンティングしたオルガノイドであり、ライブ蛍光イメージング(青)および分化の染色(ECAD、緑;LTL、青;GATA3、赤;NPHS1、紫)を示す。
【
図4】96ウェルフォーマットでの化合物スクリーニングのための、バイオプリンティングされたオルガノイドの応用。A.96ウェルトランスウェルフォーマット内のすべてのバイオプリンティングオルガノイドの画像。バイオプリンティングされたオルガノイドは、オルガノイド当たり1×10
5細胞の堆積を用いて生成させ、さらに18日間培養した。B.堆積直前にプレートホルダー内のプリントステージに固定された96ウェルプレート。C.オルガノイド当たりのバイオプリンティングされた細胞数および96ウェルプレート全体の細胞生存率の品質管理評価。D.対照に対する、10.0uMのドキソルビシンに対する応答の、免疫蛍光解析。バイオプリンティングされたオルガノイドの切片を用い、MAFB(有足細胞マーカー)、切断型カスパーゼ3(CC3、アポトーシスマーカー)、サイトケラチン8/18(CCK8/18、尿細管マーカー)、ロータステトラノグロブリンレクチン(LTL、近位尿細管)に対する抗体で染色し、また核を標識するためDAPI染色した。ドキソルビシンの存在下で、有足細胞特異的な、MAFBの発現の喪失およびアポトーシスの誘導が見られた。E.ドキソルビシン処理に応答した、腎障害分子-1(HAVCR)およびアポトーシス遺伝子(CASP3、BAX)の遺伝子発現。F.ドキソルビシン処理に応答した、主要な有足細胞(NPHS1、PODXL)および近位尿細管(CUBN)遺伝子の遺伝子発現。G.6ウェル(緑)および96ウェル(青)のトランスウェルフォーマットで堆積されたバイオプリンティングオルガノイドからのデータを比較した、ドキソルビシン処理に応答した細胞生存率の評価。ドキソルビシンの添加後72時間で生存率を評価した。H.一連のアミノグリコシド系抗生物質に応答した生存率をスクリーニングするための、96ウェルのバイオプリンティングオルガノイドの適用。
【
図5】オルガノイドのコンフォメーションを変化させるための押し出しバイオプリンティングの使用。A.同一の開始細胞数(1.1×10
5細胞)からの、長さが増加する一連のオルガノイドの生成。本図は、バイオプリンティングにおける、オルガノイドプロファイル/高さを、比率0(押し出し時にニードルが動かない)~比率40(トランスウェル表面を横切るようニードルが動く押し出し)に変化させたときの相対的な影響を示すのに有用である。比率は、先端の動きと押し出しとの比率を指す。B.オルガノイドを製造するときのトランスウェル表面全体に広がる細胞ペーストを測定するため、蛍光ビーズを含有させた。広がりが大きいほど、表面積当たりのビーズが少なくなる。比率0および40の細胞ペーストの堆積からの代表的な領域を示す。白い点線は細胞ペーストのエッジを示す。C.トランスウェル単位表面積当たりのビーズ密度の定量。比率が高いほど、広がりが大きくなり、ビーズ密度が低くなる(n=合計21オルガノイド、n=9の比率0を除き、1条件当たりn=3)。D.バイオプリンティング直後のD7+0で測定された組織の高さ(n=27オルガノイド、2つの独立した実験から)。E.様々なコンフォメーションでプリンティングされたオルガノイドの、7+12日目に測定されたオルガノイドの高さ(n=21オルガノイド)。DおよびEの赤い点は、平均値を表す。Y軸のスケールはDとEで異なることに注意されたい。詳細については
図6を参照。F.様々なコンフォメーションでプリンティングされたオルガノイドの糸球体領域を示す、青色蛍光タンパク質を含むMAFB
mTGABFP2レポーター株を使用して生成された、生きたオルガノイドの代表的な蛍光イメージング。G.異なるコンフォメーションの、バイオプリンティングオルガノイド複製物における、測定されたmTagBFP2面積およびオルガノイド長の定量。各点は単一のオルガノイドを表す(n=計90個のオルガノイド、
図6を参照)。H.MAFB
mTagBFP2(糸球体、青色の内因性蛍光)、上皮(EPCAM、灰色)、近位尿細管(LTL、緑色)、および連結セグメント/集合管(GATA3、赤色)を示す、各コンフォメーションからの代表的なバイオプリンティングされたオルガノイドの免疫蛍光。
【
図6-1】様々なコンフォメーションにおける、オルガノイド中のビーズ密度およびMAFB
mTagBFP2レポーターシグナルの定量。A.プリントパターン全体にわたる、D7+0での蛍光ビーズシグナル(グレースケール)の代表的な画像であり、左から右に、比率0(3回の繰り返し)、比率40、比率30、比率20、比率10の5つのコンフォメーションすべてを示す。B.mTagBFP2レポーター発現(青)およびビーズシグナル(赤)を示す、D7+12での各コンフォメーションの合成画像。画像は黒い背景に配置されていることに注意されたい。スケールバーは、AおよびBでは1mmである。C.オルガノイド複製物の総オルガノイド面積(方法を参照)およびmTagBFP2面積の定量(
図7Gと比較)。D.Cおよび
図7Gの定量に使用されたプレート複製物によるオルガノイド数および比率の表。E.比率20を使用して製造された9つのオルガノイド複製物の例。オルガノイドは、各プレートの別々のウェルからの3つのオルガノイド間、およびプレート間で均一である。F.D7+0でのオルガノイドの高さを定量するための、CellTrace Far Red色素によるスパースラベリングの代表的な画像。XY方向および直交方向から見た図を示す。G.定量に使用したスコアリング方法の概略図。
【
図7】オルガノイドのコンフォメーションを変化させると、パターン化されていない組織が減少し、ネフロンの数および成熟度が増加する(
図9も参照)。A.比率0(R0)、比率20(R20)、および比率40(R40)のオルガノイドの、バルクRNAseq転写プロファイルにおける、100万回の発現値当たりのスケーリングされたログカウントを比較するヒートマップ。B.比率40対比率0における、オルガノイドで最も有意に富化されたGOタームを表す、遺伝子100万回発現値当たりのスケーリングされたログカウントのヒートマップ。C.転写の変化を検証するための蛍光抗体法であり、比率が増加するにつれて、内皮マーカーSOX17が減少し、ヘンレ係蹄(TAL)マーカーSLC12A1のループが増加することを示す。D.バイオプリンティングされたオルガノイドの3Dレンダリングであり、比率0~比率40のオルガノイドにおける明確な形態を示す。画像は、XY平面が45度で傾斜していることを示すようレンダリングされている。
【
図8-1】手作業でのオルガノイド、バイオプリンティングされたR0「ドット」、およびバイオプリンティングされたR40「ライン」の、単一細胞RNAseqの比較。A.実験デザイン。コンフォメーションごとに複数のオルガノイドセットを生成させ、各セットにバーコードを付し、組み合わせ、条件ごとに1つのscRNAseqライブラリーを形成させる。両方のバイオプリンティングタイプを、1.1×10
5細胞から生成させる一方で、手作業でのオルガノイドは2.3×10
5細胞から生成させる。B.画像の定量化により、MAFBレポーター領域に基づくR40のラインのオルガノイドのネフロンの増加が確認される。黒いバーは平均値を表す。R40-Man、p=2.1×10
-5、R40-R0、p=2×10
-16、ホルム多重比較補正を使用したペアワイズt検定に基づく。条件ごとのn値の詳細、セットレベルの比較、および代表的な画像を
図9に示す。C.scRNAの間質系統細胞における転写変動を視覚化するUMAP。クラスターのIDの詳細については、
図10を参照されたい。D.複製および条件による、各間質細胞クラスターの割合。P値はp<0.2で示し、3つの条件すべてを比較した一元配置分散分析を表す。各点は単一の複製物を表し、赤いダイヤモンド形はn=4の平均値を表す。E.scRNAseqデータにおける、ネフロン系細胞における転写変動を視覚化するUMAP。クラスターは、ネフロン前駆細胞様(3)、前有足細胞(4)、有足細胞(1)、前尿細管(2)、遠位尿細管(0)、近位尿細管(8)である。クラスター5および7は、サイクリング細胞を表し、クラスター6は、ダブレットセルを表すために削除した。詳細については、
図10を参照されたい。F.条件全体での複製ごとの各ネフロン細胞型の割合。P値はp<0.2で示し、3つの条件すべてを比較した一元配置分散分析を表す。クラスター4の場合、ANOVAの後に平均のTukey多重比較を行い、R40対Manにおけるp=0.021を得た。G.ネフロン系統のクラスターのコンフォメーション間の各クラスター内のフィルタリングされた差次的発現(DE)遺伝子数を示すヒートマップ。DE試験は、複製物および条件ごとに、特定の細胞型の疑似バルクカウントの合計に対して実施し、その際、複製物間の変動(n=4)を考慮して、統計的に有意な(調整されたp値<0.05)変化を同定する。遺伝子リストをフィルタリングして、3つ以上の細胞型に現れる遺伝子を削除し、特定の変化に焦点を当て、バッチ効果の可能性を最小限に抑えた。H.近位尿細管細胞(ネフロンクラスター8)の疑似バルク分析において、R40と手作業オルガノイドとの間で統計的に有意なDEを有すると同定された、選択された遺伝子の正規化された単一細胞発現値のバイオリンプロット。バイオリンプロットは、単一細胞の発現値の分布を色付きの形状として示し、個々の点は黒い点としてオーバーレイされる。R40オルガノイドは、手作業オルガノイドと比較し、近位尿細管の成熟に関連する遺伝子(SLC30A1、SLC51B、FABP3、SULT1E1)の発現増加、および初期の未成熟尿細管(SPP1、JAG1)に関連する遺伝子の発現の減少を示す。I.間質系統クラスターのコンフォメーション間の各クラスター内で差次的に発現するフィルタリングされた遺伝子数を示すヒートマップ。J.R40と手作業オルガノイドとの間の間質クラスター2細胞の疑似バルク分析において、発現が有意に増加していると同定された、選択された遺伝子の正規化された単一細胞発現値のバイオリンプロット。K、L.R40オルガノイドの間質クラスター3細胞の疑似バルク分析で発現が大幅に増加した、選択された遺伝子の正規化された発現値のバイオリンプロット。ネフロン前駆細胞の同一性に関連する遺伝子は、K)R40対手作業オルガノイド(HOXA11、FOXC2)、およびL)R40対R0オルガノイド(EYA1、SIX1)で有意に増加した。
【
図9】単細胞RNAseqに使用されるオルガノイドに関連する大きな画像データセットの定量。ラインオルガノイドは約12mmの長さである。A.複製および条件にわたる、3つの別々のウェルからの代表的な画像。B.セットおよび条件ごとの、MAFB-mTagBFP2レポーター領域の定量。データは
図8Bのとおりであるが、ここではセットで区切られている。C.GATA3-mCherryレポーター面積の定量。ほとんどの場合、GATA3領域はオルガノイドのかなり小さな割合を表すため、Y軸のスケールはBとCで異なることに留意されたい。D.測定されたレポーターの総面積(MAFB+GATA3)における割合としてのGATA3の面積であり、R0がより遠位の運命に向かってシフトしていることを示す。E.セットおよび条件ごとの、定量に使用された個々のオルガノイドの総数。
【
図10-1】単細胞RNAデータセットの解析。A.UMAPプロットとして表されるデータセット内の変動性であり、転写クラスター、予測される細胞周期フェーズ、主な細胞型、およびオルガノイドのコンフォメーション(左上から時計回り)で色分けしている。B.主要な細胞型、WT1およびPAX2(ネフロン)、PDGFRA(間質)およびSOX17(内皮)のマーカー遺伝子。C.複製条件における各細胞型の割合。p<0.2の場合に示されるP値(一元配置分散分析)。D.再形質転換およびクラスタリング後のネフロン細胞のUMAPを高い解像度で表す。プロットを、転写クラスター、予測される細胞周期の段階、およびオルガノイドのコンフォメーションによって色分けする。クラスターのIDを示す。E.各クラスターを識別するマーカー遺伝子:GATA3(遠位)、HNF1B(尿細管前)、CUBN(近位)、HNF4A(近位)、FOXC2(前足細胞)、MAFB(前足細胞/有足細胞)、PODXL(有足細胞)、SIX2(前駆細胞)、EYA1(前駆細胞)。F.転写クラスター、予測される細胞周期相、およびオルガノイドコンフォメーションで色分けされた間質UMAP(上から下)。G.特異的な間質クラスターのマーカー;SIX2、LYPD1、FOXC2、HOXA11(クラスター3、ネフロン前駆細胞様)、WNT5A、LHX9(クラスター7)、ZIC1およびZIC4(クラスター10)。H.バルクRNAseq分析で同定された上位100の最も顕著に発現された遺伝子の、scRNAseqセットからの疑似バルクカウント100万当たりのスケーリングされたログカウントのヒートマップ(
図7)。各列は、単一の複製物(例えば、R40、Nephron、Set1)からの単一のクラスターを表す。限られた遺伝子セットの階層的クラスタリングは、バルクRNAseqの変化が主にネフロンおよび内皮細胞の変化によって引き起こされることを示す。
【
図11】3D押し出し細胞バイオプリンティングを使用した腎臓組織パッチの生成。A.細胞ペースト押し出し用のニードルの先端の動作の図であり、約4.8mm×6mmの領域に、約4×10
5個の細胞を含むパッチオルガノイドを生成させる。線は連続的な動きを示す。B.バイオプリンティングされた腎臓組織パッチの明視野イメージングであり、パッチの端部および中央部を含む、ネフロン構造の均一な形成を示す。C.培養D7+12でのパッチオルガノイド全体のMAFB
mTAGBFP2レポーターシグナルのライブ共焦点イメージング。スケールバーは1mmを表す。D.D7+14のパッチオルガノイドの共焦点免疫蛍光であり、糸球体の有足細胞(mTagBFP2[左パネル;青])、近位尿細管(LTL[左パネル;緑]およびHNF4A[右パネル;赤])、ネフロン上皮(EPCAM[左パネル;赤])、ヘンレTALの遠位尿細管/ループ(SLC12A1[右パネル;緑])および内皮細胞(SOX17[右パネル;灰色])のマーカーを発現するネフロンの均一な分布を示す。スケールバーは100μmを表す。E.TRITC-アルブミン基質中でのインキュベーション後のHNF4A
YFPレポーターiPSC株に由来するD7+14パッチオルガノイドのライブ共焦点イメージング。画像は、YFP陽性近位尿細管(黄色)へのTRITC-アルブミン(赤)の取り込みを示す。上図の輪郭が描かれた領域(オルガノイド画像全体)は、位相差オーバーレイがある場合とない場合について、下図に高倍率で表示する。スケールバーは100μmを表す。
【
図12】オルガノイドにおけるMAFB
mTagBFP2レポーター発現は、総ネフロン数と相関している。A、B)オルガノイドのネフロン体積の代用としてMAFB
+領域を定量するために使用される、低解像度、ハイスループットイメージングの例。明視野およびMAFB
mTagBFP2シグナルを、回転ディスクシステムとともに低NA 4×対物レンズを使用して各オルガノイドに対してキャプチャし、多くのサンプルの高速キャプチャを可能にした。軸方向の被写界深度が大きいため、これらの画像は、単一平面内の各オルガノイド内のシグナルの大部分をキャプチャする。類似する厚さ(E、F、
図5)を考慮すると、この平面領域は、MAFB+糸球体の総体積にほぼ比例するため、ネフロン数と相関する。D7+12でのR0(A)およびR40(B)オルガノイドの定量に使用される画像の例の一部を示す。R40オルガノイドははるかに長く、複数の視野の画像をステッチすることによってキャプチャした。オルガノイドのごく一部のみを示す。C、D)サンプルを固定し、D7+12において、MAFB
mTagBFP2レポーター(青)、成熟した有足細胞マーカーNPHS1(赤)、および頂端細胞膜のマーカーである非定型プロテインキナーゼC(aPKC、緑)で染色した。各ネフロンは、aPKCで標識されるがNPHS1を欠く他の管状セグメントに連結された有足細胞(例えば白い矢印で強調表示するもの)を含む丸い糸球体構造で構成されている。ネフロンは視野全体に見られ、個々のネフロンが簡単に視覚的に識別できない程、詰め込まれている。MAFB
mTagBFP2レポーターは、NPHS1を発現する有足細胞で特異的に発現するが、他のネフロンセグメント(aPKC
+、NPHS1
-領域)または他の細胞型には存在しない。画像は最大投影(50μmスパン)である。E、F)両方の条件において、直交スライス(つまり、イメージングZ軸に沿った)方向から観察した場合、ネフロン含有領域に同様の軸方向形態を有している。3Dスタックからレンダリングされた単一の直交スライスを表示する。G、H)各条件の単一の糸球体を示すトリミングされた高解像度フィールドは、有足細胞におけるMAFB
mtagBFP2レポーターおよびNPHS1の共発現を確認する。単一の共焦点スライスを表示する。すべての画像は、少なくともn=3の染色サンプルを表す。
【
図13】ホールマウント蛍光抗体法による間質マーカーの空間分布。A~C)scRNAプロファイリングに基づくオルガノイド間質集団のマーカーの免疫蛍光染色。R0オルガノイドは、ネフロンを含む領域(Nephrons)、ネフロンがほとんど存在しない中央部(Core)、および明視野イメージングでは通常観察されない単層細胞の薄いエッジ(Thin edge)で構成される。R40のラインのオルガノイドは、主に高密度のネフロン含有領域と薄い単分子層のエッジで構成され、中央のコアは存在しない。間質集団マーカー(A)MEIS1/2/3、(B)SIX1、および(C)SOX9は、ネフロンの周囲の領域、および各オルガノイドのエッジにある薄い単層シート内に存在するが、R0オルガノイドの中央コアにはほとんど存在しない。条件ごとに染色されたn=3個のオルガノイドの代表的な画像を示す。画像は、オルガノイドの全体積にわたる最大の投影である。D)MEIS1、MEIS2、SIX1、およびSOX9の発現を示すために色分けされた、scRNAデータセット内の間質細胞を表すUMAPプロット。これらの組み合わされたマーカーは、データセット内のほとんどの細胞に含まれており、(E)で観察された中央コアに染色がないことは、その領域が全体的に細胞としての性質が低いことを示す可能性がある。
【
図14-1】腎臓オルガノイドとヒト胎児腎臓を直接比較すると、R40バイオプリンティングされたライン内の近位尿細管の成熟が改善されていることが確認される。A)Seuratでのバイアスのないクラスタリングに基づく転写同一性を比較するUMAPプロット(左)、およびscPredメソッドを使用した予測による、ヒト胎児腎臓(HFK)データセットとの類似性に従う細胞の分類(右)。IDは、ヒトの胎児の腎臓データで最も類似した細胞型に基づいて割り当てる。B)複製物全体で各細胞型のIDに割り当てられた細胞の割合。点は、複製物バーコード(HTO-1がセット1)によって色分けされた個々の複製物の値を示す。バーはSEMを示す。一元配置分散分析に基づくP値は、Pre-Pod細胞であると予測される細胞数に有意差があり、R40データセットで最も豊富であることを示す。バイオプリンティングの条件(R40およびR0)では、有足細胞であると予測される細胞が多く、遠位および尿細管前の細胞が少ない。ただし、これらの変動は有意ではない。これらの結果は、
図5に示されている分析で観察された傾向を裏付ける。C)予測された細胞型によってプロットされた、コンフォメーション全体での各細胞の分類の最大類似度スコアの分布。ほとんどの細胞は、予測される胎児の腎臓の細胞型と高い類似性を示す。D)手作業オルガノイド(SLC51B、FABP3、SULT1E1)と比較してR40で有意に増加していると同定された遺伝子は、ヒト胎児腎臓の成熟近位尿細管細胞で発現し、これらの遺伝子が、成熟した細胞型と関連することが確認される。手作業オルガノイドに対してR40で有意に低い遺伝子(SPP1)は、成熟度の低い細胞型で選択的に発現するものであり、R40の近位細胞における成熟度の増加がさらに確認される。UMAPは、ヒト胎児腎臓データでの転写の同一性を示す。左上のプロットは、分化中のヒト胎児腎臓細胞型(腎小胞およびコンマ型体[RV_CSB]、青;近位初期ネフロン[PEN]、赤)および成熟近位尿細管(PT、緑)によって色分けする。左下のプロットは、選択された遺伝子の「ドットプロット」スタイルを示し、そのサイズは遺伝子を発現するHFK細胞のパーセンテージを示し、色は正規化された発現レベルを示す。細胞ごとの各遺伝子の正規化された発現を、発現が色分けされている個々のUMAPプロットに示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または均等な任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料を記載する。
【0023】
本明細書で使用される場合、文脈上別段の必要がある場合を除いて、「含む」という用語および「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「含む(comprised)」などの用語の活用形は、さらなる添加物、成分、整数またはステップを除外することを意図するものではない。
【0024】
不定冠詞「a」および「an」は、単数の不定冠詞として、または、不定冠詞が参照する複数または複数の主題を除外するものとして、解釈されるべきではないことが理解されよう。例えば、「1つの(a)」細胞は、1つの細胞、1つ以上の細胞、および複数の細胞を包含する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「バイオインク」は、バイオプリンティングで使用するための液体、半固体、または固体の組成物を意味する。いくつかの実施形態では、バイオインクは、細胞溶液、細胞凝集体、細胞含有ゲル、または多細胞体を包含する。いくつかの実施形態では、バイオインクは、支持材料をさらに含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、バイオプリンティングを可能にする特定の生体力学的特性を提供する非細胞材料をさらに含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、押し出し化合物を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、バイオインクの粘度を増加させ、バイオプリンティングの前に細胞の沈降を減少させるための添加剤をさらに含む。適切な添加剤の例としては、ヒドロゲルおよびヒアルロン酸が挙げられる。
【0026】
本明細書で使用される場合、「バイオプリンティング(bio-printing)」、「バイオプリンティングされた(bio-printed)」、「バイオプリンティングの(bio-printing)」、または「バイオプリンティングによる(bio-printed)」は、自動化または半自動化された、コンピューター制御による三次元プロトタイピング装置(例えばバイオプリンター)と互換性のある方法論によって、細胞(例えば、細胞溶液、細胞含有ゲル、細胞懸濁液、細胞濃縮液、多細胞凝集体、多細胞体など)の三次元の正確な堆積を利用することを意味する。この場合、これはロボットによる液体の操作ではなく、押し出しまたは付加製造によるバイオプリンティングを指す。細胞を含むバイオインクの正確な堆積のための押し出しバイオプリンティングが可能な任意の適切なバイオプリンターを、本発明のバイオプリンティングに利用することができる。バイオプリンターは、例えば、細胞のみとして、または、細胞の生存に適合性を有するヒドロゲル、生物学的マトリックスまたは他の化合物を含み得る材料内に懸濁された細胞として、細胞が押し出される押し出しバイオプリンターであり得る。適切なバイオプリンターの例としては、Organovo,Inc.社(San Diego,CA)のNovogen Bio-printer(登録商標)が挙げられる。本明細書で使用される場合、バイオプリンティングされた腎臓組織は、バイオプリンティングのプロセスを通じて調製された腎臓オルガノイドを指し、「バイオプリンティングされた腎臓組織」および「バイオプリンティングされた腎臓オルガノイド」という用語は交換可能に使用され得る。
【0027】
「分化する」、「分化している(differentiating)」および「分化した(differentiated)」という用語は、発達経路の早期または初期の段階から、発達経路の後期またはより成熟した段階への細胞の移行のことを指す。この文脈において、「分化した」とは、細胞が完全に分化し、発達経路または他の発達経路に沿ってさらに移行するための、多能性または能力を失ったことを意味または示唆しないことが理解されよう。分化は細胞分裂を伴い得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「押し出しバイオプリンティング」という用語は、自動化または半自動化された、コンピューター支援による三次元プロトタイピング装置(例えばバイオプリンター)によって、細胞(例えば、細胞溶液、細胞含有ゲル、細胞懸濁液、細胞濃度、多細胞凝集体、多細胞体など)の三次元の正確な押し出しを利用することを指す。押し出しバイオプリンティングでは、細胞が押し出されるときに細い先端(チップ)の動きを導入することにより、細胞凝集体の形状、細胞数、細胞密度、および最終的な組織の高さ(厚さ)を制御する。押し出しプロセス中の押し出しポートの動作をスクリプト化することにより、手作業では制御したり少なくとも正確に再現したりすることができない態様で、バイオインクを一定の距離で、特定の構成で、広げることができる。所定の細胞押し出し速度(比率)で先端の動作の量を増やすことにより、ユーザーは、細胞がより大きな表面領域に広がり、続いて凝集するときに、様々な細胞密度、形状、および厚さを有するバイオプリンティングされた組織を作製できる。
【0029】
本明細書で使用される場合、1つの細胞または複数の細胞、またはバイオインク(プリンティングされたバイオインクを含む)に関して、「誘導する」、「誘導すること(inducing)」、「誘導される(induced)」および「誘導(induction)」という用語は、1つの細胞または複数の細胞またはバイオインク(プリンティングされたバイオインクを含む)の、分化、発達または成熟を促進することを指す。例えば、誘導は、1つの細胞または複数の細胞またはバイオインク(プリンティングされたバイオインクを含む)を、デフォルトの遺伝子型および/または表現型から、異なるまたは非デフォルトの遺伝子型および/または表現型に変化させる時間および条件において処理することを含むことができる。細胞または複数の細胞またはバイオインク(プリンティングされたバイオインクを含む)の分化、発達または成熟を促進してバイオプリンティングされた腎臓組織を形成するという文脈において、これは、1つの細胞または複数の細胞において、腎臓組織に関連する1つ以上のマーカーを発現させること、あるいは、元の細胞の同一性とは異なる、腎臓組織に関連する1つ以上のマーカーを発現する、例えば、遺伝子型が異なる(PCRまたはマイクロアレイなどの遺伝子分析によって測定される遺伝子発現の変化を有する)および/または表現型が異なる(タンパク質の形態、機能および/または発現の変化を有する)、子孫細胞に分裂させること、を含む。一例では、「誘導」は、1つ以上のネフロン前駆細胞の、1つ以上の連結セグメント、遠位尿細管(DCT)細胞、遠位尿細管(DST)細胞、近位尿細管(PCT)および近位尿細管(PST)セグメント1、2および3、PCTおよびPST細胞、有足細胞、糸球体内皮細胞、上昇ヘンレループおよび/もしくは下降ヘンレループなどのネフロン上皮への、分化、発達または成熟を促進することを包含する。一例では、「誘導」は、SLC12A1、CDH1、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上の発現の増加を引き起こすことが包含される。誘導のステップは、腎臓組織を形成するのに十分な時間、バイオプリンティングされたバイオインクを特定の成長因子(例えば、FGF-9)と接触させることを含み得る。いくつかの例において、誘導のステップはまた、バイオインクがバイオプリンティングされ、さらに培養される前に、十分な時間、バイオインクを特定の成長因子(例えば、CHIR)と接触させることを含み得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、文脈上別段の必要がある場合を除いて、「高さ」という用語は、組織の高さまたはマイクロマスの高さを意味する。一例では、「バイオプリンティングされた腎臓組織の高さ」に関して使用される「高さ」という用語は、組織が堆積する表面からの組織の高さを意味し、最終的な組織の高さを指す。別の例では、「高さ」という用語は、「バイオプリンティングされたバイオインクの層の高さ」に関して使用され、層内の細胞塊またはマイクロマスの高さを意味する。さらに別の例では、「の高さ」という用語は、「バイオインクが約Xμmの高さの層にバイオプリンティングされる」ことを指定するために使用され、層内の細胞塊またはマイクロマスがXμmの高さであることを意味する。バイオインクが添加剤、追加の化合物または材料(支持材料、非細胞材料、押し出し化合物または添加剤など)をさらに含む場合、バイオプリンティングされたバイオインクの層の高さは、細胞塊またはマイクロマスの高さであり、バイオインク自体の高さではない。測定される高さは、組織が堆積する表面からの沈降した細胞塊またはマイクロマスの層の高さである。
【0031】
「前駆細胞」は、自己複製の有無に関係なく、1つ以上の発達経路に沿って分化することができる細胞である。典型的には、前駆細胞は単能性または複能性(oligopotent)であり、少なくとも限定された自己再生が可能である。
【0032】
当技術分野で周知のように、細胞分化の段階または状態は、複数のマーカーのうちの1つの発現および/または非発現によって特徴付けられ得る。この文脈において、「マーカー」とは、細胞、細胞集団、細胞系、区画またはサブセットのゲノムによってコードされ、その発現または発現のパターンが発生を通して変化する、核酸またはタンパク質を意味する。核酸マーカーの発現は、核酸配列の増幅(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応)および核酸ハイブリダイゼーション(例えば、マイクロアレイ、ノーザンハイブリダイゼーション、インサイチュハイブリダイゼーション)などの、当技術分野で知られている任意の技術によって検出または測定され得るが、これらに限定されない。タンパク質マーカーの発現は、限定されないがフローサイトメトリー、免疫組織化学、イムノブロッティング、タンパク質アレイ、タンパク質プロファイリング(例えば、二次元ゲル電気泳動)などの、当技術分野で公知の任意の技術によって検出または測定し得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「ネフロン前駆細胞」は、後腎間葉に由来する前駆細胞であり、初期間葉から上皮への移行を介して、限定されないが、連結セグメント、遠位尿細管(DCT)細胞、遠位尿細管(DST)細胞、近位尿細管および近位尿細管セグメント1、2、3(PCT/PST)、PCTおよびPST細胞、有足細胞、糸球体内皮細胞などのネフロン上皮、上昇ヘンレ係蹄および/または下降ヘンレ係蹄などの、すべてのネフロンセグメント(集合管を除く)に分化できる前駆細胞である。ネフロン前駆細胞は自己複製も可能である。
【0034】
後腎間葉(MM)の特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例としては、WT1、SALL1、GDNFおよび/またはHOXD11が挙げられるが、これらに限定されない。ネフロン前駆細胞の特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例としては、WT1、SIX1、SIX2、CITED1、PAX2、GDNF、SALL1、OSR1およびHOXD11が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
「尿管上皮前駆細胞」とは、中腎管またはその派生する尿管芽に由来する、それから得られる、またはそれらを始原とする、腎臓組織および/または集合管などの構造に発達することができる上皮前駆細胞を意味する。
【0036】
尿管上皮前駆細胞の特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例としては、WNT9B、RET、GATA3、CALB1、E-カドヘリンおよびPAX2が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
前述のように、ネフロン前駆細胞および尿管上皮前駆細胞は、FGF9の単独の存在下で、または、レチノイン酸(RA)のアゴニストまたはアナログであるBMP7、AGN193109および/またはFGF20、好ましくはヘパリンなどのRAアンタゴニストなどの1つ以上の薬剤との組み合わせで、中間中胚葉(IM)細胞から分化する。
【0038】
「中間中胚葉(IM)」とは、最終的な中胚葉から生じる胚性中胚葉細胞を意味し、それは後部原始線条に由来し、最終的には尿管や腎臓、性腺などの他の組織を含む泌尿生殖器系に発達する。中間中胚葉の特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例としては、PAX2、OSR1および/またはLHX1が挙げられる。
【0039】
IM細胞の製造は、該IM細胞が、他の細胞型(最終的な中胚葉など)が存在しない、純粋なまたは均質なIM細胞の集団であることを意味するものではないことも理解されよう。したがって、「IM細胞」または「IM細胞の集団」というときは、細胞または細胞集団がIM細胞を含むことを意味する。適切には、本発明によれば、IM細胞は、以下でより詳細に説明されるように、後部原始線条細胞をIM細胞への分化を促進する1つ以上の薬剤と接触させることによって製造される。
【0040】
好ましくは、IM細胞は、後部原始線条細胞を、後部原始線条細胞のIM細胞への分化を促進する1つ以上の薬剤と接触させることによって製造される。
【0041】
「原始線条(PPS)」とは、哺乳動物の胚発生の初期段階で胞胚に形成される原始線条構造の後端の細胞、または機能的および/または表現型的に対応する細胞から得られる細胞を意味する。後部原始線条は、左右対称を確立し、原腸陥入の部位を決定し、胚葉形成を開始する。通常、後部原始線条は中胚葉の前駆細胞(すなわち推定中胚葉)であり、前部原始線条は内胚葉の前駆細胞(すなわち推定内胚葉)である。後部原始線条の特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例としては、ブラキュリ(Brachyury)(T)が挙げられる。前部原始線条の特徴的または代表的なマーカーの非限定的な例は、SOX17である。MIXL1は、後部および前部原始線条の両方で発現し得る。
【0042】
後部原始線条細胞の製造は、該後部原始線条細胞が、他の細胞型が存在しない後部原始線条細胞の純粋なまたは均質な集団であることを意味するものではないことも理解されよう。したがって、「後部原始線条細胞」または「後部原始線条細胞の集団」というときは、細胞または細胞集団が後部原始線条細胞を含むことを意味する。
【0043】
「ヒト多能性幹細胞」および「hPSC」という用語は、ヒト組織に由来する、それから入手できる、またはそれを始原とする、多能性を示す細胞を指す。hPSCは、ヒト胚性幹細胞またはヒト人工多能性幹細胞であり得る。
【0044】
ヒト多能性幹細胞は、内部細胞塊に由来するものであり得、または、多くの胎児または成体体細胞型から、Yamanaka因子を使用して再プログラムしたものでもあり得る。hPSCの生成は、体細胞の核移植を使用しても実現し得る。
【0045】
「ヒト胚性幹細胞」、「hES細胞」および「hESC」という用語は、自己複製し、多能性または全能性であり、成熟動物に存在する細胞型のすべてを製造する能力を有する、ヒト胚または胚盤胞に由来するか、それから得られるか、またはそれを始原とする細胞を指す。ヒト胚性幹細胞(hESC)は、例えば、ヒトのインビボ移植前胚、インビトロ受精胚、または胚盤胞期に増殖した一細胞ヒト胚から得られたヒト胚盤胞から単離することができる。
【0046】
「人工多能性幹細胞」および「iPSC」という用語は、OCT4、SOX2、KLF4およびc-MYCの好ましい組み合わせを含む、転写因子などの外因性遺伝子の発現を通じて多能性状態に再プログラムされた任意のタイプの、ヒト成体細胞から誘導されうる、取得され得る、または由来する細胞を指す。hiPSCは、hESCと同等の多能性のレベルを示すが、分化および細胞送達の前に遺伝子修正を同時に行うか否かにかかわらず、自家療法の患者から導き出すことができる。
【0047】
より広義には、本明細書に開示される方法は、任意の患者に由来する任意の多能性幹細胞、または遺伝子編集を使用して変異モデルを生成するように後で改変されたhPSC、または遺伝子編集を使用して修正された変異hPSCに適用することができる。遺伝子編集は、CRISPR、TALEN、またはZFヌクレアーゼ技術を介して行うことができる。
【0048】
本明細書で使用される場合、「組織」は細胞の集合体を意味する。いくつかの実施形態では、組織内の細胞は、凝集または融合している。
【0049】
本明細書で使用される場合、「足場」は、ポリマー足場および多孔性ヒドロゲルなどの合成足場、予め形成された細胞外マトリックス層、死細胞層、および脱細胞化組織などの非合成足場、ならびに、人工組織の物理的構造に不可欠であり、組織の損傷/破壊なしに組織から除去することができない、任意の他のタイプの予め形成された足場を指す。さらなる実施形態では、脱細胞化組織足場としては、任意の方法で培養細胞によって生成された脱細胞化天然組織または脱細胞化細胞材料が挙げられ、例えば、細胞を死なせるかまたは脱細胞化させ、生存期間中に生成された細胞外マトリックス(ECM)を残した細胞層である。
【0050】
本明細書で使用される場合、「個体」は、ヒト、霊長類、類人猿、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウマなどを含むがこれらに限定されない任意の哺乳動物種の生物である。対象は、生死を問わない、あらゆる哺乳動物種とすることができる。
【0051】
本明細書で使用される場合、「約」または「およそ」は、記載された値の±10%を意味する。例えば、約10は9~11を包含する。
【0052】
「および/または」という用語、例えば「Xおよび/またはY」は、「XおよびY」または「XまたはY」のいずれかを意味すると理解され、両方の意味またはいずれかの意味を明示的にサポートすると解釈するものとする。
【0053】
バイオプリンティングされた腎臓組織
本明細書に開示されるのは、バイオインクを含むバイオプリンティングされた腎臓組織であり、バイオインクは複数の細胞を含み、バイオインクは約150μm以下の高さの層にバイオプリンティングされ、バイオプリンティングされたバイオインクは誘導されて腎臓組織を形成する。一実施形態では、バイオインクは、約15μm~約150μmから選択される層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約25μmの高さ~約100μmの高さから選択される層にバイオプリンティングされる。好ましい実施形態では、バイオインクは、約50μm以下の高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約15μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約20μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約25μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約30μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約35μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約40μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約50μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約60μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約70μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約80μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約90μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約100μmの高さの層にバイオプリンティングされる。
【0054】
一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織の高さは、約150μm以下である。言い換えれば、バイオプリンティングされたバイオインクが誘導されて腎臓組織が形成された後の最終的なバイオプリンティングされた腎臓組織の高さは、約150μm以下である。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織の高さは、約50μm~約150μmである。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織の高さは、約100μm~約150μmである。
【0055】
一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約5,000~約100,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000~約50,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約5,000~約20,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000~約15,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約5,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約15,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約20,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約30,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約40,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約50,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約60,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約70,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約80,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約90,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約100,000個の細胞を含む。
【0056】
好ましい実施形態によれば、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約10,000個の細胞~約20,000個の細胞/mm2を含み、プリンティング時に約50μm以下の高さを有するバイオインクのバイオプリンティング層を含む。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、1mm2当たり約20,000個の細胞を含み、プリンティングされたときに約40μm以下の高さを有する、バイオインクのバイオプリンティングされた層を含む。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約14,000個の細胞/mm2を含み、プリンティング時に約30μm以下の高さを有する、バイオインクのバイオプリンティングされた層を含む。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約11,000個の細胞/mm2を含み、プリンティング時に約25μm以下の高さを有する、バイオインクのバイオプリンティングされた層を含む。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、1mm2当たり約10,000個の細胞を含み、プリンティングされたときに約20μm以下の高さを有する、バイオインクのバイオプリンティングされた層を含む。
【0057】
一実施形態では、バイオインクは、約10,000個の細胞/μl~約400,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約10,000個の細胞/μl~約100,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約100,000個の細胞/μl~約400,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約50,000個の細胞/μl~約200,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約10,000個の細胞/μl、約30,000個の細胞/μl、約40,000個の細胞/μl、約50,000個の細胞/μl、約60,000個の細胞/μl、約70,000個の細胞/μl、約80,000個の細胞/μl、約90,000個の細胞/μl、約100,000個の細胞/μl、約150,000個の細胞/μl、約200,000個の細胞/μl、約250,000個の細胞/μl、約300,000個の細胞/μl、または約400,000個の細胞/μlを含む。好ましい実施形態では、バイオインクは約200,000個の細胞/μlを含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、バイオインクは、部分的に分化した細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、完全に分化した細胞を含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、バイオインクは、限定されないが、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)およびヒト胚性幹細胞(hESC)などのヒト幹細胞(HSC)から分化した細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、限定されないが、後部原始線条細胞などの原始線条細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、中間中胚葉(IM)細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、後腎間葉(MM)細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、腎管細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、限定されないが、ネフロン前駆細胞、尿管上皮前駆細胞、またはそれらの組み合わせなどの腎前駆細胞を含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、患者由来の細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、遺伝子編集された細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、遺伝子編集された細胞でもある患者由来の細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、レポーター株からの細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、遺伝子編集されたレポーター株細胞を含む。
【0061】
いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、正常な健常細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、腎臓病患者の細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、患者の細胞と健常細胞との組み合わせを含む。
【0062】
一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、ネフロン前駆細胞などの腎前駆細胞の培養増殖集団に由来する。
【0063】
別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、培養物の増殖および/または製造に使用される方法によって特徴付けられる、MM細胞またはIM細胞の培養増殖集団に由来する。
【0064】
一例では、腎前駆細胞は、後部原始線条細胞を、IM細胞またはMM細胞などの腎前駆細胞への後部原始線条細胞の分化を促進する1つ以上の薬剤と接触させることによって製造される。一例では、腎前駆細胞を製造する方法は、幹細胞の集団を、Wnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地中で約2~5日間培養し、続いて細胞を、FGF9などのFGFを含む細胞培養培地中で約2~5日間培養することを含む。一例では、腎前駆細胞を製造する方法は、幹細胞の集団を、Wnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地中で約2~5日間培養し、続いて細胞を、FGF9などのFGFを含む細胞培養培地中で約3~4日間培養することを含む。この例では、細胞を7日以上培養し、その後、腎前駆細胞を解離させ得る。この例では、腎前駆細胞は、10日目~13日目頃にプリンティングされる。別の例では、腎前駆細胞を製造する方法は、幹細胞の集団を、Wnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地中で約2~5日間培養し、続いて細胞を、FGF9などのFGFを含む細胞培養培地中で約3~4日間培養することを含む。別の例では、腎前駆細胞は、腎前駆細胞がプリンティングされる約10日~14日前まで、ネフロン前駆細胞維持培地で培養され得る。
【0065】
別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、培養増殖および/または製造に使用される方法によって特徴付けられる、本明細書に記載の方法に従うバイオプリンティングされたIM細胞の培養増殖集団に由来する。
【0066】
したがって、一例では、IM細胞を製造する方法は、幹細胞の集団を、Wnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地中で約3~5日間培養し、続いて細胞を、FGF9などのFGFを含む細胞培養培地中で約2~5日間培養することを含む。一例では、IM細胞を製造する方法は、幹細胞の集団を、Wnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地中で約3~5日間培養し、続いて細胞を、FGF9などのFGFを含む培地中で約3~5日間細胞を培養することを含む。これらの例では、細胞は合計7日間培養でき、その後IM細胞を解離させる。本開示の文脈における「Wnt/β-カテニンアゴニスト」という用語は、標準的なWntシグナル伝達経路の文脈においては、GSK3(例えばGSK3-β)を阻害する分子を指すものとして使用されるが、非標準的なWntシグナル伝達経路の他の文脈においては好ましくない。Wntβ-カテニンアゴニストの例としては、組換えWNT3A、CHIR99021(CHIR)、LiCl SB-216763、CAS 853220-52-7、およびSanta Cruz BiotechnologyやR&D Systemsなどの業者から市販されている他のWnt/β-カテニンアゴニストが挙げられる
【0067】
一例では、IM細胞は、幹細胞を7日間培養することによって製造され、ここで、3~5日目は、上記の高濃度のCHIRを含む細胞培養培地で幹細胞を培養することを含み、残りの日は、上記の濃度のFGFを含む細胞培養培地で細胞を培養することを含む。例えば、IM細胞は、幹細胞を7日間培養することによって製造することができ、ここで、3~5日は、少なくとも3μMのCHIRを含む細胞培養培地で幹細胞を培養することを含み、残りの日は、少なくとも100ng/mlのFGF9を含む細胞培養培地で細胞を培養することを含む。
【0068】
別の例では、幹細胞を最大13日間培養することによってIM細胞を製造することができ、その後、IM細胞を解離させる。別の例では、幹細胞を8日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を9日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を10日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を11日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を12日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を13日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を14日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を15日間培養することによってIM細胞を製造することができる。別の例では、幹細胞を10日以上培養することによってIM細胞を製造することができる。これらの例のそれぞれにおいて、3~5日目は、少なくとも3μMのCHIRを含む細胞培養培地で幹細胞を培養することを含み、残りの日は、FGF9を含む細胞培養培地で細胞を培養することを含み得る。例えば、3日目~5日目は、3μM~8μMのCHIRを含む細胞培養培地で幹細胞を培養することを含み、残りの日は、FGF9を含む細胞培養培地で細胞を培養することを含み得る。
【0069】
一例では、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される前に、3~8μMのWnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地で培養される。別の例では、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される前に、4μMのWnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地で培養される。別の例では、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される前に、5μMのWnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地で培養される。別の例では、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される前に、6μMのWnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地で培養される。別の例では、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される前に、7μMのWnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地で培養される。別の例では、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される前に、8μMのWnt/β-カテニンアゴニストを含む細胞培養培地で培養される。これらの例では、Wnt/β-カテニンアゴニストはCHIRとすることができる。例えば、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される前に、3~8μMのCHIRを含む細胞培養培地で培養され得る。
【0070】
一例では、IM細胞培養培地は、少なくとも50ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも100ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも150ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも200ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも300ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも350ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも400ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、少なくとも500ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、50ng~400ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、50ng~300ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、50ng~250ng/mlのFGF9を含む。別の例では、細胞培養培地は、100ng~200ng/mlのFGF9を含む。
【0071】
別の例では、上記のレベルのFGF9が、FGF2で代用される。例えば、IM細胞培養培地は、50ng~400ng/mlのFGF2を含むことができる。別の例では、細胞培養培地は、50ng~300ng/mlのFGF2を含む。別の例では、細胞培養培地は、50ng~250ng/mlのFGF2を含む。別の例では、細胞培養培地は、100ng/ml~200ng/mlのFGF2を含む。
【0072】
別の例では、上記のレベルのFGF9が、FGF20で代用される。例えば、IM細胞培養培地は、50ng~400ng/mlのFGF20を含むことができる。別の例では、細胞培養培地は、50ng~300ng/mlのFGF20を含む。別の例では、細胞培養培地は、50ng~250ng/mlのFGF20を含む。別の例では、細胞培養培地は、100ng/ml~200ng/mlのFGF20を含む。
【0073】
一例では、FGFを含むIM細胞培養培地はまた、ヘパリンも含む。一例では、細胞培養培地は、0.5μg/mlのヘパリンを含む。別の例では、細胞培養培地は、1μg/mlのヘパリンを含む。別の例では、細胞培養培地は、1.5μg/mlのヘパリンを含む。別の例では、細胞培養培地は2μg/mlのヘパリンを含む。別の例では、細胞培養培地は、0.5μg/ml~2μg/mlのヘパリンを含む。別の例では、細胞培養培地は、0.5μg~1.5μg/mlのヘパリンを含む。別の例では、細胞培養培地は、0.8μg/ml~1.2μg/mlのヘパリンを含む。
【0074】
一例では、バイオインクをFGF-9と接触させることにより、バイオインクを誘導し、腎臓組織を形成させる。別の例では、バイオインクをFGF-9と5日間接触させることにより、バイオインクを誘導し、腎臓組織を形成させる。いくつかの例において、複数の細胞を、CHIRを含む細胞培養培地と短時間接触させ、その後、バイオプリンティングし、さらに培養し得る。例えば、複数の細胞を、3~8μMのCHIRを含む細胞培養培地と1~2時間接触させ、その後、バイオプリンティングし、さらに培養することができる。別の例では、複数の細胞を、5μMのCHIRを含む細胞培養培地と1時間接触させ、その後、バイオプリンティングし、さらに培養することができる。
【0075】
他の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織を生成するために使用されるIMまたはMM細胞は、異なるまたはさらなる成分を含む培地で培養することができる。細胞培養における例示的な成分およびそれらの使用のためのタイミングを以下で論じる。
【0076】
一例では、細胞培養培地は、Y-27632(StemCell Technologies)などのRhoキナーゼ阻害剤(ROCKi)を含むことができる。この例では、幹細胞は、ROCKiを含む細胞培養培地で24時間培養された後、少なくとも4μMのCHIRを含む細胞培養培地で約3~4日間培養される。この例では、細胞はその後、FGFを含む細胞培養培地でさらに3~4日間培養することができる。一例では、細胞培養培地は、8μMのROCKiを含むことができる。別の例では、細胞培養培地は、10μMのROCKiを含むことができる。別の例では、細胞培養培地は、12μMのROCKiを含むことができる。別の例では、細胞培養培地は、8μM~12μMのROCKiを含むことができる。
【0077】
上記の例では、ROCKiで24時間、および少なくとも4μMのCHIRで約3~4日間培養した後、FGF9、ならびに低濃度(例えば3μM未満)のCHIR、上記の濃度のヘパリン、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)およびメチルセルロース(MC)などの1つ以上またはすべてのWnt/β-カテニンアゴニストを含む培地で細胞を培養することができる。この例では、IM細胞培養培地は、少なくとも0.05%のPVAを含むことができる。別の例では、細胞培養培地は、0.1%のPVAを含む。別の例では、細胞培養培地は、0.15%のPVAを含む。別の例では、細胞培養培地は、0.1%~0.15%のPVAを含む。一例では、細胞培養培地は、少なくとも0.05%のMCを含むことができる。別の例では、細胞培養培地は、0.1%のMCを含む。別の例では、細胞培養培地は、0.15%のMCを含む。別の例では、細胞培養培地は、0.1%~0.15%のMCを含む。
【0078】
一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、上記の方法を使用してIM細胞を製造し、IM細胞を分離し、バイオインクを調製し、バイオインクをバイオプリンティングし、次いでバイオインクを、すなわち以下に論じるバイオプリンティングされた腎臓組織を生成する方法におけるバイオプリンティングされた細胞を、さらに培養することによって得られる。例えば、IM細胞は、上記の例示された方法を使用して製造され、解離され、次にバイオプリンティングされ、腎臓組織を形成することができる。例では、バイオプリンティングは、担持されているフィルター上の培養物において実施することができる。例えば、IM細胞は、上記の例示された方法を使用して製造され、解離され、次にバイオプリンティング後の次の期間(例えば、12日間)、トランスウェルTMフィルター上で培養されることができる。
【0079】
一例では、複数の細胞は、標的腎細胞前駆細胞を製造するのに十分な条件下および期間で培養した後、EDTAを使用して解離させることができる。一例では、IM細胞は、EDTAを使用して解離させることができる。別の例では、細胞は、トリプシンまたはTrypLEまたはアキュターゼまたはコラゲナーゼを使用して解離させることができる。一例では、細胞は、バイオプリンティング後少なくとも12日間培養される。別の例では、細胞は、バイオプリンティング後少なくとも13日間培養される。別の例では、細胞は、バイオプリンティング後少なくとも14日間培養される。別の例では、細胞は、バイオプリンティング後少なくとも15日間培養される。別の例では、細胞は、バイオプリンティング後少なくとも20日間培養される。別の例では、細胞は、バイオプリンティング後少なくとも25日間培養される。別の例では、細胞は、バイオプリンティング後少なくとも35日間培養される。
【0080】
一例では、複数の細胞は、標的腎細胞前駆細胞を製造するのに十分な培養期間の後に解離される。この例では、解離した細胞をバイオプリンティングして、バイオプリンティングされた腎臓組織を製造する。一例では、IM細胞は、培養(d7)で7日後に解離され、次いでバイオプリンティングされ、バイオプリンティングされた腎臓組織を製造する。一例では、細胞は、FGFを含む細胞培養培地で培養される。例えば、細胞は、解離および/またはバイオプリンティングの後に、上記で参照した濃度のFGF9、FGF2またはFGF20を含む細胞培養培地で培養される。一例では、細胞は、解離および/またはバイオプリンティングの後に、100ng/mlのFGF9を含む細胞培養培地で培養される。別の例では、細胞は、解離および/またはバイオプリンティングの後に、200ng/mlのFGF9を含む細胞培養培地で培養される。これらの例では、細胞培養培地はヘパリンを含むこともできる。例えば、細胞培養培地は、解離および/またはバイオプリンティングの後に、FGF9および1μg/mlのヘパリンを含むことができる。これらの例では、細胞は、解離および/またはバイオプリンティングの後に、FGFおよびヘパリンを含む細胞培養培地中で4~6日間培養することができる。一例では、細胞は、解離および/またはバイオプリンティングの後に、FGFおよびヘパリンを含む細胞培養培地中で5日間培養することができる。
【0081】
一例では、FGFは、解離および/またはバイオプリンティングの4~6日後に、細胞培養培地から除去される。別の例では、FGFは、解離および/またはバイオプリンティングの5日後に、細胞培養培地から除去される。一例では、解離および/またはバイオプリンティングの5日後、培養培地に成長因子は提供されない。
【0082】
一例では、解離および/またはバイオプリンティングの後に使用される細胞培養培地はまた、レチノイン酸を含むこともできる。一例では、全トランスレチノイン酸(atRA)が、解離および/またはバイオプリンティングの後に、細胞培養培地に添加される。一例では、少なくとも0.07μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。一例では、少なくとも0.1μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。一例では、少なくとも0.2μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。一例では、少なくとも0.5μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。
【0083】
別の例では、少なくとも1.5μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。一例では、少なくとも1.8μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。一例では、少なくとも2.0μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。別の例では、少なくとも2.5μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。別の例では、1.5μM~10μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。別の例では、1.5μM~5μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。別の例では、2.0μM~8μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。別の例では、2.0μM~3μMのレチノイン酸が、細胞培養培地に添加される。
【0084】
一例では、レチノイン酸は、解離および/またはバイオプリンティングの4日後に細胞培養培地に添加される。別の例では、レチノイン酸は、解離および/またはバイオプリンティングの5日後に細胞培養培地に添加される。別の例では、レチノイン酸は、解離および/またはバイオプリンティングの4~6日後に細胞培養培地に添加される。
【0085】
本開示に含まれ、本明細書に開示される方法に従って製造されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、培養日数に基づいて記載することができる。培養日数は、幹細胞からIM細胞への製造のための日数(X)と、(バイオプリンティングされた)IM細胞から腎臓組織への形成のための日数(Y)と、を含む2つの要素に分けることができる。一例では、幹細胞からのIM細胞の製造と、IM細胞からのバイオプリンティングされた腎臓組織の製造とを区別するステップは、IM細胞の解離である。幹細胞からIM細胞を製造するための培養日数と、IM細胞からバイオプリンティングされた腎臓組織を形成するための日数と、を表す1つの方法は、日(d)X+Yである(例えば、d7+12は、7日間の幹細胞からのIM細胞の製造、それに続くIM細胞の解離およびバイオプリンティングと、12日間のIM細胞からの腎臓組織形成の「誘導」(すなわち、Y=培養におけるバイオプリンティングされた腎臓組織としての日数)を表す)。
【0086】
一例では、培養日数は、幹細胞からのIM細胞の製造については7日とし、(バイオプリンティングされた)IM細胞からの腎臓組織の形成については4日~30日以上(d7+4~d7+30、プリンティング日はd7+0)とすることができる。一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+8~d7+20の腎臓組織である。一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+10~d7+15の腎臓組織である。一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+12の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+14の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+15の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+16の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+17の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+18の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+19の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+20の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+21の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+22の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+23の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+24の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+25の腎臓組織である。
【0087】
別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+30の腎臓組織である。別の例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、d7+12~d7+30である。上記の参照例では、幹細胞は、約8、9、10、11、12、13、または14日間~約28日間まで(すなわち、d8+Y、d9+Y、d10+Y、d11+Y、d12+Y、d13+Yまたはd14+Y~約d28+Y)培養することができる。
【0088】
別の実施形態によれば、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約2~約100個のネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約2~約50ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約2~約45ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約30ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約20ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約10ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、%ネフロン、%間質、および/または%血管系に関して特徴付けられる。「ネフロン」は、老廃物の除去および体液量の維持に主要な役割を果たす、腎臓の機能的な作業単位である。それらは、様々な方法を使用して、本明細書に開示されるバイオプリンティングされた腎臓組織において当業者によって識別およびカウントすることができる。例えば、ネフロンは、共焦点顕微鏡および免疫蛍光標識を使用して視覚化およびカウントできる(例えば、WT1+糸球体、MAFB+NPHS1+有足細胞、HNF4A+LTL+ECAD-近位尿細管、SLC12A1+ECAD+遠位尿細管、およびECAD+GATA3+集合管)。この実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、単一細胞RNA配列決定、PCRベースの遺伝子発現分析、または免疫組織化学的方法を使用して、追加的にまたは代替的に特徴付けることができる。
【0089】
一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2超のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2~1.5mm2のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.25mm2、0.3mm2、0.4mm2、0.5mm2、0.6mm2、0.7mm2、0.8mm2、0.9mm2、1mm2、1.1mm2、1.2mm2、1.3mm2、1.4mm2、または1.5mm2のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.2mm2超の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.2mm2~1.5mm2の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.25mm2、0.3mm2、0.4mm2、0.5mm2、0.6mm2、0.7mm2、0.8mm2、0.9mm2、1mm2、1.1mm2、1.2mm2、1.3mm2、1.4mm2、または1.5mm2の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。
【0090】
一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、バイオプリンティングされた層全体にネフロンが均一に分布している。すなわち、先行技術で説明されているような、細胞のドットまたはブロブとして生成され、トランスウェルから150uMを超える高さのドーム型構造を形成し、ネフロンを欠くパターン化されていない中央領域またはコアを有する、最適ではないコンフォメーションの、手作業で凝集されたオルガノイドまたはバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドとは対照的である。この実施形態は、非ネフロン組織のコアを有さない、多数の均一なネフロンの分布を含む、バイオプリンティングされた腎臓組織を説明する。例えば、バイオプリンティングされた腎臓は、バイオプリンティングされた層全体に、例えばMAFBを発現する細胞によって標識されるように、糸球体が均一に分布している。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、構造全体にわたってSLC12A1、CDH1、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上を発現する。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、SLC12A1、CDH1、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上の発現レベルの増加または上昇を示す。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、SLC30A1、SLC51B、FABP3、およびSULT1E1(近位尿細管成熟に関連する遺伝子)の1つ以上の発現の増加または高レベル、および/またはSPP1、JAG1(初期未成熟尿細管に関連する遺伝子)のいずれかまたは両方の発現の減少を示す。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、THY1、DCN、SOX17、FLT1およびPECAMのうちの1つ以上の発現が低いか全くないか、またはTHY1、DCN、SOX17、FLT1およびPECAMのうちの1つ以上の発現が減少していることを示す。つまり、上記の例では、高レベルおよび低レベルでの発現は、Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568、Takasato et al.(2016)Nat Protocols,11:1681-1692、またはTakasato et al.(2014)Nat.Cell Biol.,16:118-127に記載される方法により培養された腎臓オルガノイドと比較したものである。この例では、高発現は少なくとも1.5倍高い。別の例では、高発現は少なくとも2倍高い。別の例では、高発現は少なくとも3倍高い。一例では、低発現は少なくとも1.5倍低い。別の例では、低発現は少なくとも2分の1である。別の例では、低発現は少なくとも3分の1である。
【0091】
発現レベルは、目的のマーカーに対する適切なプライマーを含むポリメラーゼ連鎖反応などの技術を使用して測定できる。例えば、細胞から全RNAを抽出し、逆転写し、PCRおよび分析を行うことができる。
【0092】
本発明者らはまた、驚くべきことに、バイオプリンティングされた腎臓組織の「非ネフロン」組織においては、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、ネフロン前駆体の同一性に関連する発現または遺伝子の増加を示すことを発見した。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、HOXA11、FOXC2、EYA1、およびSIX2のうちの1つ以上の発現レベルの増加または上昇を示す。
【0093】
別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、生体適合性の足場をさらに含む。例えば、別の実施形態では、バイオインクは、生体適合性の足場にバイオプリンティングされる。つまり、バイオインクがプリンティングされる表面は生体適合性の足場である。一実施形態では、生体適合性の足場は、生分解性または生体吸収性である。別の実施形態では、生体適合性の足場はヒドロゲルである。別の実施形態では、足場は、1つ以上の薬剤(例えば生物学的活性剤)により機能付与され得る。例えば、生物学的活性剤(サイトカイン、ケモカイン、分化因子、シグナル伝達経路阻害剤など)は、例えば、その上にプリンティングされたバイオインク中の細胞のさらなる発達または分化を促進し得る。
【0094】
別の実施形態では、バイオインクは、1つ以上の生物学的活性剤をさらに含む。一例では、1つ以上の生物学的活性剤は、複数の細胞からの腎臓組織の誘導を促進する。別の実施形態では、バイオインクは、分化培地、バイオプリンティング培地、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む。いくつかの実施形態では、バイオプリンティング培地は、修飾ヒドロゲルまたは官能化ヒドロゲルなどのヒドロゲル、またはマトリックス成分もしくは細胞外マトリックス成分の混合物を含む。別の実施形態では、バイオインクはヒアルロン酸を含む。一実施形態では、1つ以上の活性剤は、抗増殖剤、免疫抑制剤、血管新生促進化合物、抗体またはその断片もしくは部分、抗生物質または抗菌化合物、抗原またはエピトープ、アプタマー、バイオポリマー、炭水化物、細胞付着メディエーター(RGDなど)、サイトカイン、細胞毒性薬、薬物、酵素、成長因子または組換え成長因子ならびにその断片および変異体、ホルモン拮抗薬、ホルモン、免疫剤、脂質、金属、ナノ粒子、核酸類似体、核酸(例えば、DNA、RNA、siRNA、RNAi、およびマイクロRNA剤)、ヌクレオチド、栄養補助食品剤、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、ペプチド、プロドラッグ、予防剤、タンパク質、小分子、治療剤、あるいはそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0095】
他の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織はさらに、他のバイオプリンティングされたバイオインクに隣接して、またはそれに近接して配置された、本願明細書において上記したバイオインクを含み、それは、上記の1つ以上の薬剤または1つ以上の他の細胞型を任意選択的に含み得る。例えば、複数の細胞(および任意選択で1つ以上の薬剤)を含むバイオインクは、別のバイオプリンティングされたバイオインクに隣接するか、または近接するようにバイオプリンティングされ得る。例えば、複数の細胞(および任意選択で1つ以上の薬剤)を含むバイオインクは、(任意選択的に、1つ以上の薬剤および/または1つ以上の他の細胞型を含む)バイオプリンティングされたバイオインクのラインまたは層の上またはその隣(直接上または隣を含む)に、バイオプリンティングされ得る。例えば、バイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法は、所定量の第1のバイオインクをバイオプリンティングすることと、所定量の第2のバイオインクを表面にプリンティングすることと、を含み、ここで、第1のバイオインクと第2のバイオインクとは異なる。一例では、第1のバイオインクは、第2のバイオインク内の複数の細胞とは異なる複数の細胞を含む。別の例では、第1のバイオインクは複数の細胞を含み、第2のバイオインクは、細胞を含まないが、例えば生物学的活性剤などの他の成分を含み得る。
【0096】
バイオプリンティングされた腎臓組織の製造方法
別の態様では、本発明は、バイオプリンティングされた腎臓組織の製造方法に関する。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法は、所定量のバイオインクを表面にバイオプリンティングするステップであって、バイオインクが、複数の細胞を含み、バイオインクが、約150μm未満の高さの層にバイオプリンティングされる、ステップと、バイオプリンティングされた、所定量のバイオインクを誘導して、バイオプリンティングされた腎臓組織を形成するステップと、を含む。好ましくは、バイオインクは、約50μm以下の高さの層にバイオプリンティングされる。
【0097】
一実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、複数の細胞を含むバイオインクは、約150μm未満の高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約15μm~約150μmから選択される層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約25μmの高さ~約100μmの高さから選択される層にバイオプリンティングされる。好ましい実施形態では、バイオインクは、高さ約50μm以下の層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約15μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約20μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約25μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約30μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約35μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約40μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約50μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約60μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約70μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約80μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約90μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約100μmの高さの層にバイオプリンティングされる。
【0098】
一実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約5,000~約100,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000~約50,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約5,000~約50,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000~約40,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000~約30,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000~約20,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約30,000個以下の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約5,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティング層は、1mm2当たり約15,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約20,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約30,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約40,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約50,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約60,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約70,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約80,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約90,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約100,000個の細胞を含む。
【0099】
好ましい実施形態によれば、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000個の細胞~約20,000個の細胞を含み、約50μm以下の高さを有する。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約20,000個の細胞を含み、約40μm以下の高さを有するバイオインクのバイオプリンティングされた層を含む。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約14,000個の細胞を含み、約30μm以下の高さを有する。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約11,000個の細胞を含み、約25μm以下の高さを有する。さらに好ましい実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクのバイオプリンティングされた層は、1mm2当たり約10,000個の細胞を含み、約20μm以下の高さを有する。
【0100】
好ましい実施形態では、バイオインクは湿細胞ペーストである。別の実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクは、約10,000個の細胞/μl~約400,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約10,000個の細胞/μl~約100,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約100,000個の細胞/μl~約400,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約50,000個の細胞/μl~約200,000個の細胞/μlを含む。一実施形態では、バイオインクは、約10,000個の細胞/μl、約30,000個の細胞/μl、約40,000個の細胞/μl、約50,000個の細胞/μl、約60,000個の細胞/μl、約70,000個の細胞/μl、約80,000個の細胞/μl、約90,000個の細胞/μl、約100,000個の細胞/μl、約150,000個の細胞/μl、約200,000個の細胞/μl、約250,000個の細胞/μl、約300,000個の細胞/μl、または約400,000個の細胞/μlを含む。好ましい実施形態では、バイオインクは約200,000個の細胞/μlを含む。
【0101】
いくつかの実施形態では、バイオインクは、部分的に分化した細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、完全に分化した細胞を含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、バイオインクは、限定されないが、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)およびヒト胚性幹細胞(hESC)などのヒト幹細胞(HSC)から分化した細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、限定されないが、後部原始線条細胞などの原始線条細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、中間中胚葉(IM)細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、後腎間葉(MM)細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、腎管細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクは、限定されないが、ネフロン前駆細胞、尿管上皮前駆細胞、またはそれらの組み合わせなどの腎前駆細胞を含む。
【0103】
いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、患者由来の細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、遺伝子編集された細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、遺伝子編集された細胞でもある患者由来の細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、レポーター株からの細胞を含む。いくつかの実施形態では、バイオインクの細胞は、遺伝子編集されたレポーター株細胞を含む。
【0104】
本明細書に開示されるバイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法を使用することにより、ネフロンが濃縮されたバイオプリンティングされた操作された腎臓組織を製造することができる。別の実施形態によれば、本明細書に記載および例示される方法に従って調製されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、約2~約100ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。別の実施形態によれば、本明細書に記載および例示される方法に従って調製されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、約2~約50ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。別の実施形態によれば、本明細書に記載および例示される方法に従って調製されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約40ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。別の実施形態によれば、本明細書に記載および例示される方法に従って調製されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約75ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。別の実施形態によれば、本明細書に記載および例示される方法に従って調製されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約60ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。別の実施形態によれば、本明細書に記載および例示される方法に従って調製されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約50ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。別の実施形態によれば、本明細書に記載および例示される方法に従って調製されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約40ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約20ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約10ネフロン/プリンティングされた10,000個の細胞を含む。本明細書に詳述するように、ネフロンは、当業者によって、共焦点顕微鏡法および免疫蛍光標識を使用する視覚化およびカウントなどの様々な方法を使用して、本明細書に開示されるバイオプリンティングされた腎臓組織において(例えばWT1+糸球体、MAFB+NPHS1+有足細胞、HNF4A+LTL+ECAD-近位尿細管、SLC12A1+ECAD+遠位尿細管、およびECAD+GATA3+連結セグメントまたは集合管について)識別およびカウントすることができる。この実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、単一細胞RNA配列決定、PCRベースの遺伝子発現分析、免疫蛍光標識または免疫組織化学的方法を使用して、追加的または代替的に特徴付けられ得る。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2超のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2~1.5mm2のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.25mm2、0.3mm2、0.4mm2、0.5mm2、0.6mm2、0.7mm2、0.8mm2、0.9mm2、1mm2、1.1mm2、1.2mm2、1.3mm2、1.4mm2、または1.5mm2のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.2mm2超の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.2mm2~1.5mm2の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.25mm2、0.3mm2、0.4mm2、0.5mm2、0.6mm2、0.7mm2、0.8mm2、0.9mm2、1mm2、1.1mm2、1.2mm2、1.3mm2、1.4mm2、または1.5mm2の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。
【0105】
別の実施形態によれば、本明細書に開示される方法に従って製造されたバイオプリンティングされた腎臓組織は、バイオプリンティングされた層全体にネフロンが均一に分布している。すなわち、先行技術に記載されるような、細胞のドットまたはブロブとして生成することができ、ネフロンを欠く間質中心を有するドーム型構造を形成する、手作業で凝集またはバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドとは対照的に、バイオプリンティングされた腎臓組織は、ネフロンの数が多く、より均一に分布している。例えば、バイオプリンティングされた腎臓は、バイオプリンティングされた層全体に、例えばMAFBを発現する細胞によって標識されるように、糸球体が均一に分布している。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、SLC12A1、CDH1、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上を発現する。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、SLC12A1、CDH1、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上の発現レベルの増加を示す。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、THY1、DCN、SOX17、FLT1およびPECAMのうちの1つ以上の発現が低いか全くないか、またはTHY1、DCN、SOX17、FLT1およびPECAMのうちの1つ以上の発現が減少していることを示す。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、ネフロンを有し、その近位尿細管および遠位尿細管セグメントは、HNF4AおよびSLC12A1を含む成熟マーカーを示す。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、間質、線維芽細胞、および内皮細胞の存在の減少を示す。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、ネフロン細胞型に関して標的外集団の減少を示す。
【0106】
別の実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオインクは、生体適合性の足場にバイオプリンティングされる。つまり、バイオインクがプリンティングされる表面は生体適合性の足場である。一実施形態では、生体適合性の足場は、生分解性または生体吸収性である。別の実施形態では、生体適合性の足場はヒドロゲルである。別の実施形態では、足場は、1つ以上の生物学的活性剤で機能付与され得る。例えば、生物学的活性剤(例えば、小分子、サイトカインおよびケモカインを含むポリペプチド、分化因子、シグナル伝達経路阻害剤など)は、例えば、バイオインク内の細胞の生存能力およびバイオインク内の細胞のさらなる発達または分化を促進し得る。
【0107】
別の実施形態では、バイオインクは、1つ以上の薬剤(例えば、生物学的活性剤)をさらに含む。一例では、1つ以上の生物学的活性剤は、複数の細胞からの腎臓組織の誘導を促進する。別の実施形態では、バイオインクは、分化培地、バイオプリンティング培地、またはそれらの任意の組み合わせをさらに含む。いくつかの実施形態では、バイオプリンティング培地は、ヒドロゲルおよび/または1つ以上のECM成分を含む。一実施形態では、バイオインクはヒアルロン酸を含む。一実施形態では、1つ以上の活性剤は、抗増殖剤、免疫抑制剤、血管新生促進化合物、抗体またはその断片もしくは部分、抗生物質または抗菌化合物、抗原またはエピトープ、アプタマー、バイオポリマー、炭水化物、細胞付着メディエーター(RGDなど)、サイトカイン、細胞毒性薬、薬物、酵素、成長因子または組換え成長因子ならびにその断片および変異体、ホルモン拮抗薬、ホルモン、免疫剤、脂質、金属、ナノ粒子、核酸類似体、核酸(例えば、DNA、RNA、siRNA、RNAi、およびマイクロRNA剤)、ヌクレオチド、栄養補助食品剤、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、ペプチド、プロドラッグ、予防剤、タンパク質、小分子、治療剤、あるいはそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0108】
他の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織はさらに、他のバイオプリンティングされたバイオインクに隣接して、またはそれに近接して配置された、本願明細書において上記したバイオインクを含み、それは、上記の1つ以上の薬剤または1つ以上の他の細胞型を任意選択的に含み得る。例えば、複数の細胞(および任意選択で1つ以上の薬剤)を含むバイオインクは、別のバイオプリンティングされたバイオインクに隣接するか、または近接するようにバイオプリンティングされ得る。例えば、複数の細胞(および任意選択で1つ以上の薬剤)を含むバイオインクは、(任意選択的に、1つ以上の薬剤および/または1つ以上の他の細胞型を含む)バイオプリンティングされたバイオインクのラインまたは層の上またはその隣(直接上または隣を含む)に、バイオプリンティングされ得る。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織を製造するための方法は、所定量の第1のバイオインクをバイオプリンティングすることと、所定量の第2のバイオインクを表面にプリンティングすることと、を含み、ここで、第1のバイオインクと第2のバイオインクとは異なる。一例では、第1のバイオインクは、第2のバイオインク内の複数の細胞とは異なる複数の細胞を含む。別の例では、第1のバイオインクは複数の細胞を含み、第2のバイオインクは、細胞を含まないが、例えば生物学的活性剤などの他の成分を含み得る。
【0109】
一例では、バイオプリンティングされたバイオインクを誘導して腎臓組織を形成するステップは、バイオインクをFGF-9と接触させることを含む。別の例では、バイオインクをFGF-9と5日間接触させることにより、バイオインクを誘導し、腎臓組織を形成させる。いくつかの例において、複数の細胞を、CHIRを含む細胞培養培地と短時間接触させ、その後、バイオプリンティングし、さらに培養し得る。例えば、複数の細胞を、3~8μMのCHIRを含む細胞培養培地と1~2時間接触させ、その後、バイオプリンティングし、さらに培養することができる。別の例では、複数の細胞を、5μMのCHIRを含む細胞培養培地と1時間接触させ、その後、バイオプリンティングし、さらに培養することができる。別の実施形態では、バイオプリンティングされたバイオインクを誘導して腎臓組織を形成するステップは、バイオプリンティングされ、さらに培養された後で、バイオインクをCHIRを含む細胞培養培地と短時間接触させることを含む。一実施形態では、この方法は、バイオプリンティングされたバイオインクを5~10μMのCHIRの存在下で1時間培養することを含む。
【0110】
一実施形態では、複数の細胞は、幹細胞由来の中間中胚葉(IM)細胞の培養増殖集団を含む。IM細胞は、上記のタイトル「バイオプリンティングされた腎臓組織」のセクションに記載されている方法に従って調製および培養することができる。一実施形態では、誘導するステップは、バイオプリンティングされた所定量のバイオインクをFGF-9と接触させることを含む。別の実施形態では、誘導するステップは、バイオプリンティングされた所定量のバイオインクをFGF-9と5日間接触させることを含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた所定量のバイオインクを誘導してバイオプリンティングされた腎臓組織を形成するステップは、上記のタイトル「バイオプリンティングされた腎臓組織」のセクションに記載されるように実施される。
【0111】
押し出しバイオプリンティングでは、細胞を押し出すときに先端を細かく動かすことで、細胞凝集体の形状、細胞数、細胞密度、最終的な組織の高さ(または厚さ)を制御できる。押し出しプロセス中の押し出しポートの動きをスクリプト化することにより、手作業ではバイオインクを制御したり少なくとも正確に再現したりすることができない態様で、定義された距離に広げることができる。所定の細胞押し出し速度(比率)で先端の動作の量を増やすことにより、ユーザーは、細胞がより大きな表面領域に広がり、続いて凝集するときに、様々な細胞密度、形状、および高さ(厚さ)を有するバイオプリンティングされた組織を作製できる。一実施形態によれば、バイオプリンティングするステップは、押し出しベースのバイオプリンターを使用する。別の実施形態では、バイオプリンティングするステップは、100~500μlのシリンジおよび約100~約550μmの内径を有するニードルを備える、押し出しベースのバイオプリンターを使用する。
【0112】
一実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオプリンターの分配装置は、上記の層を1つ以上のラインで分配するように構成されている。別の実施形態では、バイオプリンティングするステップにおいて、バイオプリンターの分配装置は、連続的なシートまたはパッチを形成するように上記の層を1つ以上のラインで分配するように構成されている。
【0113】
本明細書に開示される方法で使用される押し出しバイオプリンターは、分配装置の動きに伴うバイオインクの押し出し速度を調節するようにスクリプト化することができる。これは「比率」と呼ばれる。例えば、この用語は、バイオインクが押し出されるチップの所定の動きにわたって分配される材料の速度を指す。比率が高いということは、同じ押し出し量でより多くのチップが動くことを意味する。分配の比率を増減することで、一定量のバイオインクボリュームが押し出される領域が増減する。したがって、比率は細胞/mmチップの動きとして定義できる。一実施形態では、40、30、20または10の比率は、約9,000細胞/mm、約12,000細胞/mm、約18,000細胞/mm、および約36,000細胞/mmに相当し、ここで、mmは、先端の動きのmmであり、好ましくは、先端は25Gのニードルである。
【0114】
プリンティング時の所定量のバイオインクのバイオプリンティングされた層の高さは、分配比率が増加するにつれて減少する。すなわち、プリンティング時の所定量のバイオインクのバイオプリンティングされた層の高さは、線の長さの増加とともに低下する。好ましい実施形態では、バイオインクのバイオプリンティングされた層の高さは、約50μm以下である。分化後(例えば、本明細書に記載の方法における「誘導」ステップ後)の同じバイオプリンティングされた構造の高さは、培養日数に応じて変化し得る。本明細書で提供される例は、さらに12日間培養された組織構造を示し、その間にバイオインクのプリンティングされた層は、構成する細胞の自己組織化および分化した細胞型への分化を経る。好ましい実施形態では、バイオプリンティングされた組織の高さは、培養期間後、約150μm以下である。
【0115】
好ましい実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織を作製する方法の方法は、i)複数の細胞を含む所定量のバイオインクを表面にバイオプリンティングして、上記バイオインクの層を製造するステップであって、バイオインクの層の高さが約50μm以下であり、1mm2当たり約10,000個の細胞~約20,000個の細胞を含み、細胞が幹細胞由来のIM細胞である、ステップと、ii)プリンティングされたバイオインクを誘導して腎臓組織を形成するステップと、を含む。
【0116】
別の態様によれば、本発明は、本明細書に記載の方法に従って製造されたバイオプリンティングされた腎臓組織を提供する。
【0117】
移植のための腎臓組織の組織工学
腎臓病および腎不全患者への移植の目的でヒト腎臓組織を操作するためには、操作された構造当たり、および開始細胞型当たりで形成されるネフロンの数を増加させ、腎被膜下での移植に修正可能な生体適合性構造を作製する必要がある。手作業で生成されたオルガノイドまたはバイオプリンティングされたドットは、腎被膜下に移植されたときに、レシピエント動物によって血管新生されることができる。しかしながら、かかる操作された組織の移植に関連する問題は、「標的外」の組織分化および間質の異常増殖である。したがって、移植のためのより良好な組織が必要である。
【0118】
本明細書に記載されるように、本発明者らはまた、驚くべきことに、本明細書に開示されるバイオプリンティングされた腎臓組織が高いネフロン含有量を有することを確認した。特定の理論に拘束されることを望まないが、構造当たりおよび開始細胞型当たりに形成されるネフロンの数の増加は、腎被膜下での移植に修正可能な生体適合性構造の作製を可能にし得る。これらの特徴は、バイオプリンティングされた腎臓組織が移植などの治療用途により適していることを示し得る。例えば、バイオプリンティングされた腎臓組織は、標的外の組織分化および間質の異常増殖の問題を回避し得る。本明細書で定義されるバイオプリンティングされた腎臓組織は、移植のためのより良好な組織を表し得る。
【0119】
一態様によれば、本発明は、本明細書に開示されるか、または本明細書に開示される方法に従って製造されるバイオプリンティングされた腎臓組織であって、腎疾患または腎不全の治療を必要とする対象においてそれに使用するための、腎臓組織に関する。したがって、本発明はまた、本明細書に開示されるか、または本明細書に開示される方法に従って製造されるバイオプリンティングされた腎臓組織の、腎疾患または腎不全患者への移植に使用するための使用に関する。
【0120】
本発明はまた、患者における腎疾患または腎不全の治療方法であって、それを必要とする患者に対し、本明細書に開示されるか、または本明細書に開示される方法に従って製造されるバイオプリンティングされた腎臓組織を投与することを含む、方法に関する。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、組織全体にわたりネフロンが富化されている。これは、生成されるネフロンが少なく、オルガノイドの周辺にのみ分布している、バイオプリンティングされた腎臓オルガノイドとは対照的である。
【0121】
一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、バイオインクを含み、バイオインクは、複数の細胞を含み、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2超のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり0.2mm2~1.5mm2のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.25mm2、0.3mm2、0.4mm2、0.5mm2、0.6mm2、0.7mm2、0.8mm2、0.9mm2、1mm2、1.1mm2、1.2mm2、1.3mm2、1.4mm2、または1.5mm2のネフロン組織の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.2mm2超の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.2mm2~1.5mm2の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、プリンティングされた10,000個の細胞当たり、0.25mm2、0.3mm2、0.4mm2、0.5mm2、0.6mm2、0.7mm2、0.8mm2、0.9mm2、1mm2、1.1mm2、1.2mm2、1.3mm2、1.4mm2、または1.5mm2の、MAFBを発現する細胞の表面積を含む。
【0122】
一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約100ネフロン/バイオプリンティングされた腎臓組織1mm2を含む。一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約75ネフロン/バイオプリンティングされた腎臓組織1mm2を含む。一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約50ネフロン/バイオプリンティングされた腎臓組織1mm2を含む。一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約5~約20ネフロン/バイオプリンティングされた腎臓組織1mm2を含む。一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約20~約50ネフロン/バイオプリンティングされた腎臓組織1mm2を含む。
【0123】
一例では、バイオプリンティングされた腎臓組織はバイオプリンティングされた層全体に、例えばMAFBを発現する細胞によって標識されるように、糸球体が均一に分布している。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、SLC12A1、CDH1、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上を発現する。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、SLC12A1、CDH1、HNF4A、CUBN、LRP2、EPCAMおよびMAFBのうちの1つ以上の発現レベルの増加を示す。一実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、過去に公表された方法(Takasato et al.(2015)Nature,Vol.526:564-568)すなわち、手作業で凝集した、または細胞のドットまたはブロブとして生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドと比較し、THY1、DCN、SOX17、FLT1およびPECAMのうちの1つ以上の発現が低いか全くないか、またはTHY1、DCN、SOX17、FLT1およびPECAMのうちの1つ以上の発現が減少していることを示す。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、ネフロンを有し、その近位尿細管および遠位尿細管セグメントは、HNF4AおよびSLC12A1を含む成熟マーカーを示す。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、間質、線維芽細胞、および内皮細胞の存在の減少を示す。
【0124】
バイオプリンティングされた腎臓組織は、移植に適する様々なサイズで製造することができる。いくつかの実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、約15μm~約150μmの高さでプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約25μmの高さ~約100μmの高さから選択される層にバイオプリンティングされる。好ましい実施形態では、バイオインクは、約50μm以下の層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約15μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約20μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約25μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約30μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約35μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約40μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約50μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約60μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約70μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約80μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約90μmの高さの層にバイオプリンティングされる。一実施形態では、バイオインクは、約100μmの高さの層にバイオプリンティングされる。上記のように、バイオプリンティングされた組織の高さは、その後の培養中(例えば、腎臓組織を形成するためのバイオプリンティングされたバイオインクの誘導中)、および/または維持中など、バイオプリンティングの後で若干増加し得る。一実施形態では、培養期間後、バイオプリンティングされた組織は、150μmを超えない高さを得る。一実施形態では、培養期間後、バイオプリンティングされた組織は、約100μm~150μmの高さを得る。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、1mm~30mmの長さ、および0.5mm~20mmの幅を有する。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、5mm~30mmの長さ、および0.5mm~2mmの幅を有する。別の実施形態では、バイオプリンティングされた腎臓組織は、最大約100μm~250μmの高さを有する。この実施形態では、高さ(または厚さ)は、組織がプリンティングされる高さではなく、バイオプリンティングされたバイオインクが誘導された後(例えば培養期間後)の腎臓組織の高さ(または厚さ)である。
【0125】
別の実施形態では、治療/移植で使用するためのバイオプリンティングされた腎臓組織は、生体適合性の足場をさらに含む。例えば、別の実施形態では、バイオインクは、生体適合性の足場にバイオプリンティングされる。つまり、バイオインクがプリンティングされる表面は、生体適合性の足場である。一実施形態では、生体適合性の足場は、生分解性または生体吸収性である。別の実施形態では、生体適合性の足場はヒドロゲルである。別の実施形態では、足場は、1つ以上の薬剤(例えば生物学的活性剤)により機能付与され得る。例えば、生物学的活性剤(サイトカイン、ケモカイン、分化因子、シグナル伝達経路阻害剤など)は、例えば、その上にプリンティングされたバイオインク内の細胞のさらなる発達もしくは分化を促進するか、または移植されたバイオプリンティング組織の生着および/もしくは生存を促進し得る。
【0126】
別の実施形態では、バイオインクまたは足場は、複数の細胞からの腎臓組織の誘導を促進する1つ以上の生物学的活性剤をさらに含む。別の実施形態では、バイオインクまたは足場は、修飾ヒドロゲルもしくは官能化ヒドロゲルなどのヒドロゲル、またはマトリックス成分または細胞外マトリックス成分の混合物をさらに含む。一実施形態では、1つ以上の活性剤は、抗増殖剤、免疫抑制剤、血管新生促進化合物、抗体またはその断片もしくは部分、抗生物質または抗菌化合物、抗原またはエピトープ、アプタマー、バイオポリマー、炭水化物、細胞付着メディエーター(RGDなど)、サイトカイン、細胞毒性薬、薬物、酵素、成長因子または組換え成長因子ならびにその断片および変異体、ホルモン拮抗薬、ホルモン、免疫剤、脂質、金属、ナノ粒子、核酸類似体、核酸(例えば、DNA、RNA、siRNA、RNAi、およびマイクロRNA剤)、ヌクレオチド、栄養補助食品剤、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)、ペプチド、プロドラッグ、予防剤、タンパク質、小分子、治療剤、あるいはそれらの任意の組み合わせから選択される。
【0127】
上記の実施形態によれば、バイオプリンティングされた腎臓組織は、患者への移植に使用し得る。この患者には、慢性腎臓病、遺伝性腎疾患、またはがんの腎減少手術後に腎機能が低下した患者が含まれ得る。一実施形態では、バイオプリンティングされた組織は、レシピエントの腎被膜下に移植される。一実施形態では、バイオプリンティングされた組織は、シートまたはパッチであり得る。
【0128】
薬物スクリーニング
別の態様によれば、本発明は、腎毒性または治療効果について候補化合物をスクリーニングする方法を提供し、その方法は、本明細書に記載のバイオプリンティングされた腎臓組織を候補化合物と接触させ、候補化合物が、腎毒性であるかまたは治療的に有効であるか否かを決定することを含む。
【0129】
一実施形態では、その方法は、上記バイオプリンティングされた腎臓組織を候補化合物および腎毒性物質と接触させ、候補化合物が治療的に有効であるか否かを決定することを含む。一実施形態では、候補化合物が腎毒性であるかまたは治療上有効であるか否かを決定することは、細胞死に関連する1つ以上の遺伝子の発現、細胞生存率に関連する1つ以上の遺伝子の発現、1つ以上のネフロン関連遺伝子の発現、糸球体細胞外マトリックスに関連する1つ以上の遺伝子の発現、有足細胞、内皮細胞またはメサンギウム細胞型に関連する1つ以上の遺伝子の発現、少なくとも1つの目的遺伝子に関連するレポーター遺伝子の発現強度、のうちの1つ以上を測定することを含む。
【0130】
別の実施形態では、i)測定による、細胞生存率に関連する1つ以上の遺伝子の発現、1つ以上のネフロン関連遺伝子の発現、糸球体細胞外マトリックスに関連する1つ以上の遺伝子の発現、有足細胞、内皮細胞もしくはメサンギウム細胞型に関連する1つ以上の遺伝子の発現、および上記レポーター遺伝子の強度、のうちの1つ以上の減少、ならびに/またはii)測定による、細胞死に関連する1つ以上の遺伝子の発現の増加、は、候補化合物の腎毒性を示す。
【0131】
別の実施形態では、i)測定による、細胞生存率に関連する1つ以上の遺伝子の発現、1つ以上のネフロン関連遺伝子の発現、糸球体細胞外マトリックスに関連する1つ以上の遺伝子の発現、有足細胞、内皮細胞もしくはメサンギウム細胞型に関連する1つ以上の遺伝子の発現、および上記レポーター遺伝子の強度、のうちの1つ以上の増加、ならびに/またはii)測定による、細胞死に関連する1つ以上の遺伝子の発現の減少、は、候補化合物の治療効果を示す。一実施形態では、候補化合物は、小分子、ポリヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、抗体、抗体フラグメント、血清、ウイルス、細菌、幹細胞、またはそれらの組み合わせである。別の実施形態では、候補化合物は、腎臓病を有する対象から単離された血清などの血清である。
【0132】
別の実施形態では、その方法は、腎毒性ではない、および/または治療的に有効である、候補化合物を選抜することをさらに含み得る。
【実施例】
【0133】
実施例1.ヒト多能性幹細胞は、分化、および手作業によるオルガノイドの製造を誘導した。
ヒト多能性幹細胞を解凍し、1×RevitaCell(ThermoFisher Scientificカタログ番号A2644501)の存在下で一晩播種し、GelTrex(Thermo Fisher Scientificカタログ番号A1413301)またはEssential 8培地(Thermo Fisher Scientific)で、標準的なフィーダーフリーの所定条件下で培養し、その際、培地を毎日交換した。分化開始の前日に、細胞をTrypLE Select(ThermoFisher Scientificカタログ#12563011)で分離し、Nexcellom Cellometer Brightfield Cell Counter(Nexcelom Biosciences)でトリパン排出を用いてカウントし、GelTrex、Matrigel、またはLaminin-521コーティングされたT-25フラスコまたは6ウェルプレートの、1×RevitaCell(ThermoFisherカタログ#A2644501)を含むEssential8培地中に播種した。中間中胚葉誘導は、iPSCを、6~8μMのCHIR99021(R&D Systemsカタログ番号4423/10)を含むSTEMdiff APEL培地(STEMCELL Technologiesカタログ番号5210)またはTeSR-E6培地で4日間培養することによって実施した。4日目に、200 ng/mLのFGF9(R&D Systemsカタログ番号273-F9-025)および1μg/mLのヘパリン(Sigma Aldrichカタログ番号H4784-250MG)を添加したSTEMdiff APEL培地またはTeSR-E6培地で細胞を分化させた。
【0134】
Takasato et al.(Nature Protocols 11,1681-1692.(2016))に従って、分化の7日後に手作業でオルガノイド生成を実施し、オルガノイドをさらに14~18日間培養した後、回収した。
【0135】
実施例2.腎臓オルガノイドのバイオプリンティング
材料および方法
幹細胞を、実施例1に記載されているように調製した。7日目に、細胞をトリプシンEDTA(0.25%、Thermo Fisherカタログ番号25200-072)またはTryPLE Select(ThermoFisher Scientificカタログ番号12563011)で分離した。得られた懸濁液をNexcelom Cellometerでカウントし、トリパン排出によって生細胞を測定した。分化した細胞の単一細胞懸濁液を最初にNeubauer血球計数板(BLAUBRANDカタログ番号BR7-18605)を使用してカウントし、細胞数を得た後、200~300×gで3~5分間遠心分離し、50mLまたは15mLのポリプロピレン製コニカルチューブ中で細胞をペレット化した。上澄みを吸引した後、この細胞材料を、バイオプリンティング用に21~25ゲージの取り外し可能なニードル(Hamiltonカタログ番号7804-12)を備えた100uLの気密シリンジ(Hamiltonカタログ番号7656-01)に直接移すか、またはSTEMdiff APELまたはTESR-E6培地中に操作用の細胞密度となるよう再懸濁してから、バイオプリンティングに供した。細胞バイオインクを含むすべてのシリンジを、NovoGen MMXバイオプリンターにロードし、細胞材料が流れるようプライミングし、ユーザー用に調製されたバイオインクのアリコートを6ウェルトランスウェル透過性サポート(Corning Costarカタログ#3450)の0.4μmポリエステルメンブレンに堆積させた。
【0136】
組織学的染色
腎臓組織を2%または4%パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、Hatfield,PA)で4℃で一晩固定し、HistoGel(Thermo Fisher、Carlsbad,CA)に事前に包埋した後、TissueTek VIP組織処理システム(Sakura Finetek USA、Torrance,CA)を使用して脱水し、パラフィンを浸透させた。平面または横方向の5μmの切片を、Leica RM 2135ミクロトーム(Leica Biosystems、Buffalo Grove,IL)を使用して取得した。切片を焼き、脱パラフィンし、水和させ、その後標準的な退行性染色プロトコルに従い、SelecTech染色液(Leica Biosystems、Richmond,IL、ヘマトキシリン#3801570、Define #3803590、Blue Buffer #3802915、およびエオシンY 515 #3801615)を用い染色した。染色されたスライドを、連続的に脱水し、透明にし、Permaslip(Alban Scientific Inc、St.Louis,MO #6530B)に装着した。画像は、Zeiss Zenソフトウェア(Zeiss Microscopy、Thornwood,NY)を備えたZeiss Axio Imager A2で取得した。
【0137】
切片およびホールマウントの免疫蛍光
パラフィン包埋オルガノイドの場合、脱パラフィンした切片からクエン酸緩衝液、pH 6.0(Diagnostic BioSystems、Pleasonton、CA#KO35)で抗原を回収し、免疫蛍光抗体法の前にTBS-T(v/v)で希釈した5%ニワトリ血清でブロックした。ホールマウントのオルガノイドの場合、オルガノイドの採取、固定およびブロッキング、ならびに調製された切片および全オルガノイドの免疫蛍光法を、文献(Vanslambrouck JM,et al.J Am Soc Nephrol 30、1811-1823(2019))に記載のとおり実施した。Vanslambrouck JM,et al.に記載されているように、またはNikon 25x1.05NAシリコーン浸漬対物レンズを備えたAndor回転ディスク共焦点顕微鏡を使用して、画像を取得した。
【0138】
直径の測定
オルガノイドの断面直径は、ImageJ(バージョン1.51)を使用した画像ベースの分析によって経時的に評価した。総画像は、プレート表面から、2倍の対物レンズを使用して、一定の距離で7日目のプリンティング後に収集した。各サンプルは、楕円形の選択ツールを使用して手作業で輪郭を描き、各画像のピクセル単位の面積を計算するために使用した。円形の面積の値を、次の式を使用して直径(mm)に変換した。
【数1】
【0139】
ドライペーストを使用した押出バイオプリンティング
押出バイオプリンティングの最適化の際、手作業でオルガノイドを調製するときに使用する、添加した細胞密度を再現するために生成させた、沈降したウェットペーストとドライペーストとを比較した。押出シリンジ内でこの密度のドライペーストを実現するために、調製したシリンジを独自のアダプターにロードして、50mLのポリプロピレン製コニカルチューブ内で400×gで遠心分離できるようにした。シリンジ/アダプターアセンブリを合計9分間遠心分離し、手作業プロトコルを再現した。
【0140】
結果
細胞ペーストを含むバイオインクを、一点堆積(比率0)でバイオプリンティングした。この一点堆積(またはドット)を使用して、開始濃度およびプリンティング時のコンフォメーションが最終的な形態に影響を与えるか否かを評価した。バイオプリンティングの後、一点堆積(比率0)組織は、手作業で生成された腎臓オルガノイドと同様の特性を持つドーム型構造を形成し、したがって、一点堆積(比率0)は、バイオプリンティングされたオルガノイドとも呼ばれ得る。
【0141】
カスタムソフトウェアインターフェース内で堆積比を変化させることによって、様々なオルガノイドのコンフォメーションを生成させ、一方でオルガノイドの長さをスケーリングし、各オルガノイドが約0.55μlの体積で堆積される一定の1.1×105細胞から形成されるようにした。設定された細胞密度のウェット細胞ペーストを含むバイオインクから開始し、同数の細胞をバイオプリンティングし、約3mm(比率10)のライン~約12mm(比率40)の細胞のラインの長さまで、様々に堆積を変化させた。これにより、以下に詳述するように、開始密度が最終形態に影響を与えるか否かの評価が可能になった。各場合において、本発明者らは、各オルガノイドの開始細胞の絶対数がほぼ等しくなるようラインの長さを変えた。ラインのオルガノイドは、均一な流体の流れを確保するために、パターンの開始時に一点堆積(合計で約10%)を行った。「ドット」のオルガノイドは、細胞数の一致が維持されるよう、同じ総細胞体積を添加した。堆積中、ニードルをトランスウェル表面から300ミクロンの位置に配置した。すべての場合において、堆積率は25ゲージのニードルおよび100μlのシリンジに基づくものとした。
【0142】
バイオプリンティングの後、バイオプリンティングされたオルガノイドは、トランスウェル培養プレートの基底外側コンパートメントでSTEMdiff(商標)APELまたはTeSR-E6培地のいずれかにおいて5~10μMのCHIR99021の存在下で1時間培養し、その後、200 ng/mLのFGF9および1μg/mLのヘパリンを添加したSTEMdiff(商標)APELまたはTESR-E6培地(基底外側コンパートメントのみの培地)中で7日目+5日目まで培養する。7日目+5日目~7日目+18日目まで、オルガノイドを、補充なしで、STEMdiff(商標)APEL培地またはTeSR-E6培地で成長させる。腎臓のオルガノイドは、回収するまで、7日目+12日目~7日目+20日目まで培養できる。組織を上記と同じ条件下で維持した。
【0143】
得られたバイオプリンティングされたオルガノイドは、その後の20日間の培養で、ネフロンの自発的な形成を示した(
図1A、B、E)。免疫蛍光法を使用して、古典的にパターン化されたネフロンの存在を確認したため、有足細胞(NEPHRIN)、近位尿細管(LTL、CUBN)、ヘンレ係蹄の遠位尿細管/ループ(TAL;ECAD、SLC12A1)および連結/尿管上皮(GATA3、ECAD)の存在が明らかとなった(
図1C、D)。内皮細胞(CD31)および腎間質(MEIS1/2)を含む追加の細胞成分の存在も明らかとなった(
図1D)。バイオプリンティングされたオルガノイドの組織切片は、個々のネフロンが放射状に広がる組織の幅全体にわたる、隣接する連結上皮(ECAD、GATA3)の存在を明らかにした(
図2A、B、C)。なお、細胞ペーストは細胞のみを表し、関連するECMまたはヒドロゲルマトリックスは組み込まれていないことに留意すべきである。達成されたパターン化を、細胞ペーストを遠心分離して残りのすべての培地を除去し、パックした「乾燥」細胞ペーストを作成したときの結果と比較した。その後の乾燥ペースト由来のオルガノイドの培養では、ネフロン形成の証拠は示されなかった(
図2D)。
【0144】
バイオプリンティングによる細胞の複雑さを、手作業でペレット化したオルガノイドと直接比較するために、同じ単層の分化を両方のアプローチに供した。得られた腎臓オルガノイドを、明視野イメージングおよび免疫蛍光法を使用して解析し、その結果、バイオプリンティングされた腎臓オルガノイドが手作業の腎臓オルガノイドと形態学的同等性を示すことが示しされた(
図1E)。
【0145】
実施例3.高いスループットで、オルガノイドのサイズが小さい、バイオプリンティングされた腎臓オルガノイド。
ここで適用されたオルガノイドのバイオプリンティングの自動化プロセスは、非常に高いオルガノイドの直径の再現性で、3秒ごとに約1マイクロマスの堆積を可能にした(表1)。わずか2×10
5個の細胞からなるマイクロマスを24ウェルトランスウェルプレートに手作業で配置することは可能であるが、バイオプリンティングにより、複数のマイクロマスを同じフィルターに正確に配置できた(6ウェルプレートのフィルター当たり3~9個のオルガノイド)(
図1F、G)。オルガノイド内の組織学的複雑さを失うことなく、最初のマイクロマスを生成するために使用される細胞数を減らすことも可能であった(
図1F、H)。したがって、腎臓オルガノイド生成プロセスの収量およびスループットを大幅に向上させることができ、わずか4×10
3個の細胞からバイオプリンティングされたオルガノイドで腎臓構造のパターンが明らかになった(
図3A、C)。実際、プリンティングされた体積と結果として得られる平均直径によって評価される細胞ペースト堆積の再現性は、1%~4%の変動係数を示した(表1)。
【表1】
【0146】
腎臓オルガノイド生成のためのバイオプリンティング細胞株の使用可能性を、様々なヒト人工多能性幹細胞株を使用して広く評価した。対照、レポーター、および患者由来のiPSC株は、この方法でバイオプリンティングしたとき、腎臓組織の生成に成功した。例えば、MAFB遺伝子プロモーター(MAFB
mTagBFP2)の制御下で青色蛍光タンパク質が挿入された特定のレポーター株を使用することで、生存組織の蛍光イメージングによる、各腎臓ネフロンの一端に形成される糸球体における有足細胞の分化の視覚化などの評価が可能になった(
図3B)。
【0147】
実施例4.96ウェルフォーマットでの化合物の試験のための、バイオプリンティングされた腎臓オルガノイド。
材料および方法
バイオプリンティングされたオルガノイドを、実施例2に概説されている方法を使用して調製した。
【0148】
バイオインクの生存率および濃度のアッセイ
分配されたバイオインクを、96ウェルプレートの2つの列(24オルガノイド)へのプリンティングの前後にサンプリングした。プリンティングされたバイオインクを、APEL培地を満たした1.5mLのEppendorfチューブに直接分配して希釈し、トリパンブルー排出によるNexecelom Cellometer(Nexecelom Biosciences)を使用してカウントした。Nexcelomの結果を、視覚化および統計的分析のためにJMPに入力した。2つの条件のみを比較する分析ではt検定を実行し、2つ以上の条件を比較する分析では一元配置分散分析およびTukey比較を実行し、近似平均、線形近似線を使用して2変量近似を実行し、95%信頼区間で有意なトレンドを決定した。
【0149】
薬物誘発性の腎毒性試験
ドキソルビシン(Sigma-Aldrich、D1515)ストック溶液をDMSO中に調製した。アミカシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、およびストレプトマイシンはすべて、Sigma Aldrich(St.Louis,MO)から入手し、APEL培地で25mg/mlの溶液として調製した。6ウェルでの腎毒性試験のための投薬は、最初にAPEL培地でドキソルビシンのDMSOストックを希釈し、その後、追加の培地でさらに希釈して0.3~10μMの範囲の濃度とすることによって実施した。96ウェルでの腎毒性評価のための投薬は、段階希釈によって実施した。ドキソルビシンの場合、DMSOストックの段階希釈物をAPEL培地に添加して、24nM~25μMの範囲の濃度とした。アミノグリコシドのストック溶液をAPEL培地で段階希釈して、1.5μg/mL~25mg/mLの範囲の投薬濃度とした。薬物の投薬は、分化プロトコルの21日目または22日後に開始した。投薬は、APEL培地±試験物質の総ウェル体積を、トランスウェルの透過性担体のアピカルバスケットにアプライすることによって実施した(6ウェルプレートの場合は4mL、96ウェルプレートの場合は300μL)。試験物質を含む培地がトランスウェル透過性担体に添加されたとき、オルガノイドは完全に沈降し、頂端部および基底外側区画が平衡化されたとき、添加された化合物に曝露された。指定された回収時点まで、薬剤添加培地を隔日で交換した。
【0150】
オルガノイドの生存率の評価
薬物処理後の腎臓オルガノイドの生存率は、CellTiter-GloまたはCellTiter-Glo 3D生存率アッセイ(Promega、Madison,WI,USA)でATP含有量を測定することによって評価した。簡単に説明すると、6ウェルプレート中のバイオプリンティングされたオルガノイドを、CellTiter-Glo緩衝液を使用してPrecellysチューブ(Bertin Technologies、Bretonneux,France)に個別にロードし、Precellys 24組織ホモジナイザー(Bertin Technologies、Bretonneux,France)を使用して分離した。ホモジナイズしたオルガノイドを室温で10分間インキュベートした後、1000gで2分間遠心分離し、ホモジナイズビーズから緩衝液を分離した。上清を白色の不透明な96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダー(BMG Labtech、Germany)で発光を測定した。示された6ウェルの生存率の結果は、3つの独立した実験を組み合わせたものであり、それぞれの試験において、それぞれの対照ATPレベルに対して正規化されている。96ウェルプレートにバイオプリンティングされたオルガノイドのATP含有量を解析するため、すべての培地を吸引し、CellTiter-Glo3D試薬をトランスウェル透過性担体の頂端チャンバーに添加した。プレートを400rpmで5分間室温で振とうした後、25分間静置し、その後、マイクロプレートリーダー(BMG Labtech、Germany)中、白色の不透明な96ウェルプレートで発光を測定した。生存率の解析は、処理されたオルガノイドのATP含有量を対照オルガノイドと比較して正規化することにより、対照に対するパーセントとして示した。生存率の結果のフィッティングは、GraphPad Prism 7.03ソフトウェア(La Jolla,CA)で、4パラメーターの用量反応曲線(式1)を使用して実行した。
Y=下部+(上部-下部)/(1+((XHillSlope)/(IC50
HillSlope)))(式1)
【0151】
薬物曝露後の定量的RT-PCRによる遺伝子発現分析
薬物曝露後の腎臓オルガノイドからの全RNA抽出は、製造元の指示に従ってRneasy Miniキット(Qiagen、Germany)を使用して実施した。RNAは、NanoDrop 2000(Thermo Fisher、Carlsbad,CA)を使用した分光光度法で定量した。遺伝子発現を解析するため、TaqMan Fast One-Step qPCR Master Mix(Applied Biosystems、Foster City,CA)、目的遺伝子のTaqManプローブ(ThermoFisher、Carlsbad,CA)、およびハウスキーピング遺伝子プローブ(Applied Biosystems、Foster City,CA)を、割り当てられたウェル中でRNAと混合した。すべてのqPCR反応は、StepOnePlus qRT-PCRシステム(Applied Biosystems、Foster City,CA)において実施および分析した。対照サンプルに対して正規化する前に、すべてのデータをハウスキーピング遺伝子GAPDHに対して正規化した。
【0152】
結果
腎臓は生体異物の除去に重要な役割を果たすが、管状の特定の溶質チャネルを介した様々な化合物の取り込みにより、腎臓は腎毒性損傷のリスクにさらされる。初代腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)を使用した腎毒性の前臨床スクリーニングでは、2D培養でのそのような細胞の急速な脱分化により、臓器特異的な毒性を正確に予測できず、主要なトランスポーターと代謝酵素の発現が失われることがしばしばある。ヒトの腎臓オルガノイドは、薬物反応をモデル化するためのより正確で予測可能なツールを提供するものとあり得、これは、変動係数(cv)が低く、実行可能で再現性のあるパターン化されたオルガノイドを多数生成する能力に部分的に依存する。この目的のために、自動バイオプリンティングはさらにスケールダウンされ(オルガノイド当たり1.0×105の開始細胞)、96ウェルのトランスウェルフィルター上での個々のオルガノイドの製造に適するものであった(
図4A、B)。細胞数および細胞生存率の精度は、96ウェルすべてで再現可能であり、全体的な細胞生存率は93~99%の範囲であった(
図4C)。このアプローチを腎毒性試験に適用するための実証試験として、既知の有足細胞毒素である化学療法剤ドキソルビシンの投与の効果を、2μMまたは10μMのドキソルビシンで72時間処理した後、バイオプリンティングしたオルガノイドを使用して最初に評価した(
図4D~F)。得られたオルガノイドの免疫蛍光染色は、10μMドキソルビシンに応答したオルガノイド糸球体の有足細胞内でのカスパーゼ3の特異的な活性化およびMAFB染色の喪失の証拠を示した(
図4D)。定量的RT-PCR(qRT-PCR)は、腎臓の損傷分子KIM1(HAVCR)およびアポトーシスの指標であるBcl2関連Xタンパク質(BAX)の、10μMでの上方制御を示した(
図4E)。ドキソルビシンはまた、2μMで主要な有足細胞マーカーであるNPHS1およびPODXLを下方制御したが、近位尿細管遺伝子CUBNは10μMドキソルビシンに応答してのみ下方制御され(
図4F)、濃度による細胞型特異的感度の違いを示唆する。用量反応をさらに評価するために、オルガノイドを6ウェルまたは96ウェルの形式でバイオプリンティングし、ATP含有量を生存率の読み取り値として使用し、24nM~25μMのドキソルビシンで処理した。生存率は、ドキソルビシン曝露によって用量依存的に影響を受け、6ウェルおよび96ウェルの両方のフォーマットで、処理に応じた同等のIC50値が得られた(6ウェルのIC50:3.9±1.8μM、96ウェルのIC50:3.1±1.0μM)(
図4G)。アミノグリコシドは、グラム陰性病原菌によって引き起こされる感染症を治療するために一般的に使用される広宿主域抗生物質のクラスである。急性尿細管壊死による腎臓損傷は、アミノグリコシド療法の、近位尿細管細胞内への細胞内蓄積の高さに由来する一般的な合併症である。
【0153】
このクラスの化合物に対する腎臓オルガノイドの応答を評価するために、オルガノイドを96ウェル形式でバイオプリンティングし、アミカシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシンなどの既知の腎毒性アミノグリコシドのパネルで広い濃度範囲で処理した。細胞のATP含有量により測定した細胞生存率は、評価したすべてのアミノグリコシドで72時間処理した後、濃度依存的に低下した(
図4H)。
【0154】
したがって、本明細書に例示されるバイオプリンティングされた腎臓組織は、前臨床安全性評価をサポートするために必要な再現性を有する新規な薬剤または薬物足場の腎毒性の評価に適用可能な、薬物検査に対する実際的なアプローチを表すものである。
実施例5.バイオプリンティングされた腎臓組織のコンフォメーションは、ネフロンのパターンおよび数を変化させる。
【0155】
本明細書に開示される方法を使用してバイオプリンティングされたオルガノイドを生成することにより、より優れた品質管およびスループットの向上が提供されるだけでなく、組織形態に対するオルガノイドのコンフォメーションの変化の影響の解析も可能になった。押し出しバイオプリンティングの際、細胞が押し出されるときにニードル先を三次元で正確に配置および移動することにより、形成される細胞マイクロマスのスケールおよびコンフォメーションを制御できる。
【0156】
材料および方法
バイオプリンティングされたオルガノイドを、実施例2に概説されている方法を使用して調製した。
【0157】
プリンティング時の細胞密度および高さに関する、ビーズベースの解析
細胞ペーストに4umのTetraspecビーズ(Thermo-fisher)を、50ulのペースト当たり1ulのビーズ懸濁液でスパイクした。オルガノイドは、バイオプリンティングから2~3時間以内にイメージ化し、明視野および蛍光ビーズのシグナルをキャプチャし、オルガノイド培養中の様々な時点で再びイメージ化した。イメージングは、4×0.2NA Nikon対物レンズを備えたAndorドラゴンフライピニングディスク共焦点を使用して実行し、トランスウェル表面から開始し、ビーズシグナルが検出されなくなるまでzスタックをキャプチャした。Fiji(Schindelin,J.et al.Nature Methods,9,676-682.(2012))を使用し、タイル化されたデータセットをステッチし、ビーズ画像の最大投影を生成させた。カスタムPythonスクリプトを使用して、各データセットの個々のビーズをカウントし、最終的なカウントデータをRで分析した。ビーズの分布から得られた表面積を使用して、プリンティング時のオルガノイドの高さを、側面が垂直の形状の場合の高さとして、また堆積したオルガノイドと同じ表面積および体積を有するものとして概算した。
【0158】
D7+0でのオルガノイドの高さの測定
オルガノイドの高さは、Fiji(Schindelin,J.et al.)を使用した事前標識した細胞の画像ベースの定量によって評価した。バイオプリンティングの前に、細胞の10%を取り出し、メーカーの指示に従ってCellTrace Far Red(ThermoFisher、C34564)で標識した。標識された細胞を残りの細胞と混合して戻し、バイオプリンティングしてマイクロマス中にまばらな標識を付した。オルガノイドを含むトランスウェルを取り除き、少量の培地を入れた皿(Sarstedt)に平らに置くことにより、D7+0で2つの独立したオルガノイドのセットを特徴付けた。これにより、はるかに短い作動距離でのイメージングが可能になった一方で、オルガノイドの乾燥が防止された。画像は、Nikon 1.15 NA 40x水浸対物レンズを備えたAndor Dragonfly回転ディスクを使用してキャプチャし、その際、0.325×0.325×0.5ミクロンのボクセルサイズで画像をキャプチャした。画像スタックの最高点および最低点を、Fijiの直交ビュー下で手作業で測定した。各サンプルについて、Y軸に沿って、XY平面で3つのセクション(上、中、下)に均等に画像を分割した(
図6G)。次に、各セクションで、画像の中央領域の300ミクロンの範囲(中心から-X方向および+X方向の両方に150ミクロン)にわたる2つの最高点および2つの最低点を記録した。すなわち、各条件について、6つの最高点および6つの最低点を収集した。オルガノイドの高さは以下のように算出した。
H(mm)=[平均(最高6点スライド数)-平均(最低6点スライド数)]×ボクセル深さ(mm)
データは、分析およびプロットのためにRでコンパイルした。
【0159】
レポーター細胞株の定量的イメージング
バイオプリンティングされたD7+12オルガノイドを、明視野を介して、Apotome.2蛍光顕微鏡(Zeiss)を使用して、mTagBFP2強度についてライブイメージングした。自動イメージングの場合、トランスウェルをガラス底の6ウェルディッシュ(CellVis)に移し、4x 0.2NA Nikon対物レンズを備えたAndor Dragonfly回転ディスク共焦点を使用してイメージングした。Fijiを使用し、タイル化されたデータセットをステッチした(Schindelin,J.et al.Nature Methods,9,676-682.(2012))。scikit-imageライブラリーを使用したPythonスクリプト(Van der Walt,s.et al.PeerJ,19,2e453.(2014))を使用し、mTagBFP2シグナルの領域をセグメント化および測定した。各オルガノイドの合計サイズを、各mTagBFP2領域の周りの凸包を算出することによって概算した。オルガノイドの長さは、各オブジェクトの主軸の長さにより概算した。手作業で検証されたセグメンテーションのエラーを示す、mTagBFP2陽性ピクセル:合計ピクセル>0.8の比率に基づいて、少数のオルガノイドを最終分析から除外した。
【0160】
バルクRNAseq転写プロファイリング
Bioline Isolate II Mini/Micro Kits(Bioline、New South Wales,Australia)を、製造元の指示に従い使用して、RNAをD7+12オルガノイドから抽出した。RNAを使用して、Illumina Novoseq 6000シーケンサーを使用するシーケンス用のライブラリーを生成させた。Fastqファイルを、Trimmomatic(0.35)を使用してトリミングした。ヒトゲノム(GRCh38)へのマッピングを読み取り、STARアライナー(2.5.3a)を使用してカウントを実行した(Dobin,A.et al.Bioinformatics 29,15-21.(2013))。EdgeR(3.26.5)(Ritchie,M.E.,et al..Nucleic Acids Research.43,e47(2015))を使用し、ライブラリーの正規化、および準尤度の負の二項一般化対数線形モデルを使用した差次的遺伝子発現試験を行った。
【0161】
結果
細胞の押し出し速度を一定に保つために先端の移動速度を変更することにより、細胞がより大きな表面積に広がり、続いて凝集するときに組織の高さ(厚さ)を細かく制御できる(
図5A)。組織のコンフォメーションは、堆積した細胞懸濁液の体積に対するトランスウェル表面に沿った先端の動きの比率によって与えられる堆積率の観点から定義した。バイオプリンターは、同じ総細胞数(1.1×10
5細胞)を含むが、単一点の堆積(比率0、押し出し時の先端の動きなし)から長さ約12mmの細胞のライン(比率40、押し出し時に12mmの動きあり)まで変化するオルガノイドを作成するようにプログラムした(
図5A、F)。最終的に、マイクロマスが「ドット」として堆積した古典的なオルガノイド構造の形成から、押し出された細胞ペーストの「ライン」として形成されたオルガノイドが得られた。堆積率の増加に伴い、本発明者らは、各オルガノイドの開始細胞の同じ絶対数をほぼ等しく(1.1×10
5細胞)維持するために、ラインの長さを増加させ、より大きな表面積に広がるより薄い細胞塊を生じさせた。これを経験的に確認するために、細胞ペーストに蛍光ビーズをスパイクし、それにより、蛍光ビーズが同程度の広がりを示す一方で、簡単に画像化され、プリンティング時に自動的に定量化されるようになった(
図5B、
図6)。これにより、占有されるトランスウェル表面積の1mm
2当たりのビーズ数の算出が可能になった(
図5C)。予想通り、細胞が長い距離に広がるにつれてビーズ密度は低下し、最も密度の高い条件と最も密度の低い条件の間で約3倍の違いが生じた(
図5C)。本発明者らはまた、3D共焦点顕微鏡を使用して、バイオプリンティング後の最初の24時間における組織の高さを測定した。細胞がまばらに標識された組織を測定することで、各オルガノイドの細胞の上限および下限の位置を注意深く特定することができ、高い堆積率が高い組織量をもたらすことを確認した(
図5D、
図6F~G)。
【0162】
測定されたコンフォメーションでオルガノイドの複製セットを生成させ、バイオプリンティング後12日間における分化およびパターン化が可能になった。12日間の培養後の各オルガノイドの絶対組織高さを測定し、細胞押し出し時のおおよその開始高さと比較した(
図5D、E)。両方のコンフォメーションにおいて、成長するにつれて高さが増加したが、厚い開始オルガノイドでは培養後も厚いままであった(
図5E)。これらの実験では、上記のようにMAFB
mTagBFP2レポーター株を使用して細胞ペーストを生成させ、複製された生サンプル全体の糸球体組織の領域にわたる効率的なイメージングを可能にした(
図5F、
図6)。MAFB
mTagBFP2の発現は、NPHS1(ネフリン)タンパク質の染色と一致し、形成中の糸球体内の有足細胞に対する、MAFB誘導による青色蛍光の特異性を示す(
図12)。したがって、生存するオルガノイドの蛍光イメージングは、ネフロン数の代わりとしての、MAFB陽性領域の定量を可能にした。画像処理スクリプトを適用して、ネフロン数の尺度として、mTagBFP2陽性構造(糸球体のMAFB発現有足細胞)を含む各オルガノイドの面積を算出した。長く薄い開始コンフォメーションを有するオルガノイドは、同数の開始細胞に由来するにもかかわらず、小さな厚いオルガノイドよりも総mTagBFP2陽性糸球体面積が大きかった(
図5G)。この傾向は密度の勾配全体で一貫しており、すべての条件で糸球体構造が含まれていたため、ネフロン組織全体の体積が大きいことが原因であるとも考えられた。各コンフォメーションで確認された糸球体構造の個々の糸球体の高解像度イメージングの結果、オルガノイドのコンフォメーションに関係なく同等のサイズであった(
図12)。したがって、高い堆積率でバイオプリンティングされた薄いオルガノイドは、ネフロン数の増加を示す。
【0163】
糸球体の数と同様に、オルガノイドのコンフォメーションの変化は、オルガノイドの形態に影響を与えると考えられ、その際、パターン化されていない間質組織が比率0のオルガノイドの中心で最も顕著である(
図5H)。このパターン形成の変化をさらに解析するため、バルクRNAseq転写プロファイリングを実施して、比率0の「ドット」オルガノイドを2つの異なる長さ(比率20および比率40)の「ライン」オルガノイドと比較した。上皮形成に関連する遺伝子(CDH1、EPCAM)、ならびに尿細管のパターン形成および機能に関連する遺伝子(HNF4A、CUBN、LRP2、SLC12A1)は、比率40(R40)で上方制御され、血管(FLT1、SOX17、PECAM)および間質/線維芽細胞(THY1、DCN)の発生は、比率0(R0)で上方制御された(
図7A)。経路変化のGO分析の結果、バイオプリンティングされたR0ドットと比較して、R40ラインにおいて、膜輸送、細胞外の228の組織化、および細胞間接着の改善も示唆された(
図7B)。かかる変化は、細胞型の相対比またはかかる細胞型内の遺伝子発現の個々のレベルの変化を反映している可能性がある。糸球体(内因性mTagBFP2)、近位尿細管(HNF4A)、および内皮細胞(SOX17)の位置を示す、比率0および比率40の染色オルガノイドの高解像度イメージングの結果、ドットでは、血管網を含む組織の広い縁の存在が明らかになり、それはラインでは減少していることが解った(
図7D)。これらの従来のマイクロマスドットは、非特異的な二次抗体染色によって証明されるように、ネフロンが形成されていない明確な中心コアも示した(
図7D)。逆に、オルガノイドがラインとしてバイオプリンティングされた場合、ネフロンは組織の幅全体に均一に存在していた(
図7D)。
【0164】
実施例6.オルガノイドのコンフォメーション間の細胞組成および成熟に関する、単一細胞のRNAseqによる比較
オルガノイドのコンフォメーションが変化するとネフロンの均一性に明らかな変化がある一方で、同じ細胞株で実施した場合でも、個々のオルガノイド分化実験間のパターンの変化があることについての重要な証拠が、過去に確認されている。形態に関するこの変化の再現性を検証し、細胞型の相対的な組成または個々の構成細胞の成熟が、オルガノイドの製造モード(手作業対バイオプリンティング)またはコンフォメーション(点対ライン)によって変化するか否かを判断するため、本発明者らは、3つのオルガノイドコンフォメーション(手作業オルガノイド、バイオプリンティング比0の堆積「ドット」[R0]、およびバイオプリンティング比40の堆積「ライン」[R40])の広範な転写プロファイリング(単一細胞RNAシーケンス;scRNAseq)を実施した。
【0165】
材料および方法
単一細胞RNAシーケンシングライブラリーの生成および解析
4つの複製オルガノイドセットを生成させ、ここで、各複製は、3つの単層培養ウェルに由来するD7分化iPSCの独立したプールに由来するものとした。各プールについて、細胞をバイオプリンターにロードし、ウェル当たり3つのR0「ドット」および3つのR4「ライン」からなるパターンを、10~12ウェル(2プレート)にわたってプリンティングした。同時に、細胞プールの残りの部分を、手作業オルガノイドを生成するために使用した。バイオプリンティングされたオルガノイドは、それぞれ1.1×105細胞から生成させた一方で、手作業オルガノイドは、2.3×105細胞から生成させたが、これは、小さな塊を手作業で操作することが技術的に不可能だったためである。細胞が常に短時間でロードおよびプリンティングされるよう、複製セットを同じ日に順次処理した。細胞をロード後約10分でプリンティングし、ロード~約20分以内にランを完了させた。
【0166】
オルガノイドは、過去に公表された方法(Vanslambrouck JM,et al.J Am Soc Nephrol 30,1811-1823(2019))に従い、D7+12で分離させた。R0およびR40のそれぞれについて、3つのウェル(条件ごとに3つ、ウェルごとに3つ)に由来する9つのオルガノイドを分離させた。手作業では、複製物ごとに3つのオルガノイドを分離させた。Soeckiusら(Genome Biol.19,224.(2018))の方法に従って、複製物を多重化した。細胞を氷上で20分間、1μgのBioLegend TotalSeq-A抗ヒトハッシュタグオリゴ抗体(BioLegend TotalSeq-A0251、0252、0253、0254)で染色した。細胞を3回洗浄した後、シーケンシングのために等しい比率でプールした。各サスペンション/条件(手作業、R0、R40)ごとに、同じサイズの各複製物のプールで構成される単一のライブラリーを生成させた(セット1~4)。ライブラリーは、標準的な10x Chromium Next GEM Single Cell 3’Reagent Kits v3.1プロトコルに従って製造したが、10xデバイスの「スーパーローディング」は約30k細胞で実施した(Lun,A.T.,et al.F1000Research 5,2122.(2016))。ハッシュタグオリゴ(HTO)ライブラリーは、BioLegend社のプロトコルに従って作製した。シーケンシングは、Illumina Novoseqを使用して実施した。
【0167】
CellRanger(3.1.0)を使用して10x mRNAライブラリーを逆多重化し、細胞当たりのUMIカウントのマトリックスを生成させた。HTOライブラリーは、Cite-seq-count(1.4.3)を使用して逆多重化し、細胞バーコードごとのHTOカウントのマトリックスを生成させた。すべてのデータをSeurat(3.1.4)にロードし、HTOライブラリーをmRNAライブラリーと照合した。Seuratを使用してHTOカウントを正規化し、カットオフを決定して、細胞ごとにHTO IDを割り当てた(カットオフは通常、細胞当たり100~200カウントとした)。ミトコンドリア含有量が15%を超える細胞、または遺伝子数が1000未満の細胞と同様に、ダブレットおよび割り当てられていない細胞を除外し、最終サイズが手作業では9963細胞、R0では8912細胞、R40では13525細胞と、選別処理されたデータセットを取得した。20細胞未満のカウントであった遺伝子を除外した。組み合わせたデータセットには、細胞当たり2034個の遺伝子の中央値が含まれ、また細胞当たり5499個のUMIカウントの中央値が含まれていた。
【0168】
SCTransform法(Lun,A.T.,et al.F1000Research 5,2122.(2016))を使用してデータを正規化し、Seuratを使用して統合し、単一のデータセットを取得した。クラスタリングを最初に実施し、間質、ネフロン、または内皮コンパートメントに属するクラスタリングを識別した。Clustreeパッケージ(Wolock SL,et al.Cell Syst,8:281-291(2019))を使用して、クラスタリングを視覚化し、安定したクラスタリング解像度を決定した。ネフロンおよび間質の集団をSCTransformで再び正規化し、クラスター化し、細胞の不均一性のより詳細な解像度のビューを得た。このレベルの解像度で、本発明者らは、Scrublet(0.2.1)(Lindstrom,N.O.et al.J Amer Soc Nephrol 29,806-824.(2018))を使用して、高い算出ダブレットスコア、および2つの既知の細胞タイプを組み合わせたように見えるアイデンティティを有するクラスターを識別することができた。これらは、単一のHTOのIDで構成される識別できないダブレットであると推定され、以降の解析からは除外した。Seurat FindMarkers関数を使用してマーカー解析を実行し、0.25log倍の変化を超える陽性マーカー(つまり、クラスター内での発現の増加)に限定した。マーカーリストをエクスポートし、クラスターのアイデンティティを、公開されているヒト単一細胞データとの比較(Chen,J.et al.Nucleic Acids Research 37,W305-311.(2009))またはToppFunを使用した遺伝子オントロジー分析(Berg S.et al.Nature Methods,16,1226-1232.(2009))によって決定した。
【0169】
Scater(1.12.2)のsumCountsAcrossCells関数を使用して、差次的発現試験を実施し、クラスターごと、複製物ごとに「疑似バルク」カウントを生成するためにカウントを合計し、12の条件(オルガノイドのコンフォメーションごとに4つの複製物)にわたる遺伝子カウントのマトリックスを生成させた。このカウントのマトリックスを、glmQLFFit関数に設けられた準尤度の負の二項一般化対数線形モデルを使用してEdgeR(3.26.5)で差次的発現試験を行うためのインプットとして使用した。クラスター内の差次的発現試験では、3つ以上のクラスターで差次的に発現しているように見える遺伝子をさらなる解析から除外し、潜在的なバッチ効果を取り除き、より生物学的に関連する可能性のある特定の細胞型に特異的な遺伝子に焦点を当てた。頻繁に変化する遺伝子は、ミトコンドリアおよびリボソームの遺伝子である傾向が見られた。調整されたp値が0.05未満の場合、遺伝子は差次的に発現しているとみなした。
【0170】
細胞同一性の予測を使用した、オルガノイドとヒト胎児腎臓とのデータ比較
Hochane et al.2018で公表された11、13、16、18週目の単一細胞データセットの生のfastqファイルを、Gene Expression Omnibusからダウンロードし、cellrangerを使用してリファレンスゲノムGRCh38-3.0.0にマッピングした。Seuratパッケージ(3.1.5)52は、品質管理および解析を実行するために使用した。750未満の特徴を有する細胞を除外し、SCTransform法を使用してrawのカウントを正規化およびスケーリングし、ディメンジョン削減(dimensional reduction)を実施した。SeuratWrappersパッケージ(0.1.0)内に設けられるfastMNN法を使用してデータセットを統合した。最初のクラスタリングの後、ネフロンとして識別されたサブセットを単離し、再度解析し、前駆細胞、前鞘細胞、有足細胞、前尿細管、遠位尿細管、および近位尿細管の細胞集団を識別した。有足細胞および近位細胞集団をさらに解析し、これらの細胞系内に存在する成熟の段階を特定した。細胞型を識別するために使用するモデルは、参照としての統合されたヒト胎児腎臓データのネフロンサブセットに基づくscPredパッケージ(0.0.0.9)を使用して生成させた。これにより、細胞をネフロンのサブカテゴリ(前駆細胞、前鞘、有足細胞、前尿細管、遠位尿細管、近位尿細管)の1つに分類するモデルを作成した。次に、このモデルをオルガノイド単一細胞データセットに適用して、構成細胞の型(type)を定義した。
【0171】
結果
実験結果のばらつきに対処するため、各条件の反復実験を表す4つの個別にバーコード化された細胞プールからライブラリーを生成させ、それにより、条件間での集団および遺伝子発現の両方の変化を確実に評価できるようになった。各複製オルガノイドセットを、分化したiPSC(MAFB
mTAGBFP2GATA3
mCherry)細胞の別個の開始プールから生成させ、R0ドットおよびR40ラインを生成させるためにバイオプリンティングし、一方で、手作業オルガノイドを同じ細胞から並行して作製した(
図8A)。選別されたscRNAseqライブラリーは、オルガノイドコンフォメーション当たり8000超の個々の細胞トランスクリプトームを表す。生成されたすべてのオルガノイド(n=229オルガノイド、10プレートにわたる4つの複製セットから)の糸球体(MAFB
mTagBFP2)および遠位ネフロン(GATA3
mCherry)蛍光の定量により、すべてのコンフォメーションにおいて、以前に観察されたオルガノイド形態の存在が確認され、そこでは、同じ開始細胞数にもかかわらず、バイオプリンティングされた細胞ラインにおいてはネフロンの存在量が明確かつ定量可能に増加していた(
図8B、
図9)。バイオプリンティングされたラインには、上記の技術的制限により多くの開始細胞数から作製された手作業で作製されたオルガノイドと比較し、より多くのネフロンが含まれていた(手作業:2.3×10
5、R40:1.1×10
5、
図8B、
図9)。
【0172】
すべての単一細胞データセットは、Seurat(Nature Biotechnology.36,411-420.(2018))を使用して統合し、それにより、すべてのオルガノイドのコンフォメーションにおける内皮、間質、ネフロンクラスターの幅広い特定を可能にした(
図10A~C)。
【0173】
バルクプロファイリングで見られる差次的遺伝子発現に寄与する細胞型を決定するため(
図7)、各主要な細胞型を組み合わせた転写プロファイルを使用し、「疑似バルク」発現プロファイルを再作成した。これにより、R0ドットのバルクRNAseqで上方制御された遺伝子が内皮細胞のマーカーであり、R40系統で上方制御された遺伝子がネフロンマーカーであることが確認された(
図10H)。
【0174】
すべてのオルガノイドコンフォメーション内に存在する間質細胞の再クラスター化により、10個の異なるクラスターが明らかになった(
図8C)。バイオプリンティングされたオルガノイドでは、クラスター7(WNT5A、LHX9を発現)が増加し、クラスター10(ZIC1、ZIC4を発現)が減少する傾向があったが、これらの差は統計的に有意ではなかった(
図8D、
図10)。全体として、すべての間質クラスターはすべてのオルガノイドコンフォメーションに存在し、各細胞型の割合に統計的な有意差はなかった。R0および手作業のオルガノイドでは中央部がパターン化されていないことを考慮すると、これは驚くべきことであった。しかしながら、データセットの大部分(MEIS1/2/3、SIX1およびSOX9)を識別する間質マーカーの蛍光抗体法を使用したこれらのオルガノイドの再度の解析から、この中央領域の細胞性が低下した領域の存在が示唆された(
図13)。したがって、中央部のコアは、細胞クラスターに対しあまり貢献しないと考えられた。
【0175】
scRNAseqデータセット内のネフロン系統細胞の高解像度の再クラスタリングにより、すべてのオルガノイドのコンフォメーションにすべての主要なネフロン細胞型が存在することが明らかになり(
図8E~F、
図10D~E)、有足細胞ではMAFB、近位尿細管ではHNF4A、遠位尿細管クラスターではGATA3が明確に発現していた(
図10D~E)。バイオプリンティングされたオルガノイドでは、手作業のオルガノイドと比較し、初期の有足細胞(「Pre-Pod」)の分布の有意な増加(平均値は約5%対約10~15%)(
図8F)、および有足細胞(「Pod」)の増加傾向があり、また手作業およびR0オルガノイドでは遠位尿細管の分布の増加傾向があり、後者は、R0オルガノイドにおける遠位尿細管を発現するGATA3
mCherryの割合の増加によって裏付けられる(
図9D)。しかしながら、識別されたすべての細胞クラスターは、すべてのオルガノイドのコンフォメーションで存在していた(
図8F、
図10D)。本発明者らは、パターン化はすべてのオルガノイドのコンフォメーション間で非常に類似しているが、形成されたネフロンの総数はバイオプリンティングされたラインの方が多いと結論付けている。
【0176】
バイオプリンティングされたラインとして生成された腎臓オルガノイドは、近位尿細管の成熟の改善およびネフロン数の増加を示す。
成熟における潜在的な違いを評価するために、本発明者らは、コンフォメーション間で発現に有意な差が見られる各細胞クラスター内の遺伝子を同定した。これにより、特に遠位ネフロンの同一性において、手作業のオルガノイドとR40のバイオプリンティングされたラインとの最も大きい差異が明らかになった(
図8G)。R0とR40のバイオプリンティングされたオルガノイド間での個々のネフロン細胞型の差異は少なく、ネフロン前駆細胞内で最も多くの差次的に発現する遺伝子が生じた(
図8G)。重要なことに、手作業オルガノイドと比較し、バイオプリンティングされたR40ラインでは、近位尿細管上皮の成熟が改善されたことを示す証拠が存在したが、バイオプリンティングされたR0ドットではそうではなかった。重要な溶質チャネル(SLC30A1、SLC51B、SULT1E1)ならびに脂肪酸代謝関連遺伝子FABP3などの、成熟した尿細管の機能および代謝に関連することが公知であった遺伝子は、手作業オルガノイドの近位尿細管細胞と比較し、R40で有意に増加した(
図8H)。逆に、手作業オルガノイド細胞におけるJAG1およびSPP1などのマーカーの有意に高い発現は、成熟度が低いことを示唆していた(
図8H)。
【0177】
間質クラスター内の差次的発現分析により、間質クラスター0、1、2および3内のコンフォメーション間の最大の差異が特定された(
図8I)。初期の腎臓形成間葉に最も類似しているクラスター2および3は、HOXA11、FOXC2、EYA1、およびSIX1などの、バイオプリンティングR40ラインにおける腎臓の発生関連遺伝子、ならびに発生シグナル伝達関連遺伝子であるWNT5AおよびRSPO3の有意な上方制御を示した(
図8J~L)。すなわち、この間質細胞型はすべてのコンフォメーションに存在していたが、バイオプリンティングされたラインでは、これらの細胞は初期のネフロン前駆細胞により近い同一性を有していると考えられる。これは、バイオプリンティングされたラインにおけるネフロンの増加に寄与し得る。
【0178】
別個のオルガノイドのコンフォメーションの成熟をより明確に比較するために、本発明者らは、ヒト胎児腎臓との直接比較に基づいて、オルガノイド内の各細胞の細胞同一性を予測する独立した解析アプローチを使用した。scPred法を使用して、本発明者らは、公表されたヒト胎児腎臓(妊娠11~18週)のscRNAトレーニングデータセットとの転写類似性に基づいて、細胞の同一性を予測するモデルを作製した(
図14A)。このモデルは、すべてのオルガノイドデータを再度解析して、オルガノイド内の細胞型の偏りのない予測を提供するために使用した。このアプローチにより、R40オルガノイド内の前有足細胞の有意な増加が再び確認された(
図14B)。R40近位尿細管細胞クラスターで差次的に発現することが示された遺伝子は、ヒト胎児腎臓の最も成熟した近位尿細管細胞内で選択的に発現した(
図14D)。したがって、実験的変動にもかかわらず、バイオプリンティングされたラインは、他のコンフォメーションと比較し、ネフロン成熟の改善および糸球体数の増加を示したと結論付けることができる。
【0179】
実施例7.ネフロン数が増加した、バイオプリンティングされた腎臓組織パッチ
幹細胞由来の腎臓組織の臨床的使用では、移植される組織に存在するネフロン構造の数を大幅に増やす能力が必要となる。本明細書において、本発明者らは、驚くべきことに、押し出しバイオプリンティングを使用して腎臓オルガノイドのコンフォメーションを変化させることにより、所定の開始細胞数から最終的なネフロン数を最大化することが可能となることを見出した。これは、コンフォメーションの変化が腎臓組織の広がりを増大させ得ることを示唆している。
【0180】
材料および方法
近位尿細管の機能アッセイ
機能的取り込みアッセイを、6ウェルのトランスウェルプレート上で培養されたD7+14のHNF4AYFP由来のパッチオルガノイドで実施し、上記のように分化および生成させた。オルガノイドを、TeSR-E6(STEMCELL Technologies)に1:500で溶解させたテトラメチルローダミンイソチオシネート-ウシアルブミン(TRITC-アルブミン;Sigma-Aldrich)基質とともに一晩インキュベートし(標準的な37℃のCO2インキュベーター条件)、トランスウェルのインサートの下の基底外側コンパートメントに添加した。インキュベーション後、オルガノイドをハンクス平衡塩溶液(HBSS;Sigma-Aldrich)で3回洗浄し、ガラス底の6ウェルプレートに移し、ZEISS LSM 780共焦点顕微鏡(Carl Zeiss、Oberkochen,Germany)でライブでイメージングした。
【0181】
結果
実施例2および5で説明した方法、ならびに一連の平行なラインを生成するスクリプト(
図11A)を使用して、比率30のラインと同じ押し出しパラメーターを使用して、バイオプリンティングされた腎臓組織パッチを押し出した。バイオプリンティングされた腎臓組織パッチには、約4.8×6mmの全範囲にわたって合計約4×10
5個の細胞が含まれていた(
図11B、C)。得られた腎臓組織パッチを、培養の12日後および14日後に、明視野での照明および内因性MAFB
mTagBFPレポーターシグナルおよび追加の腎臓マーカーの共焦点イメージングによって解析した。これらの解析により、パッチ全体に上皮構造およびMAFB
mTagBFP2を発現する糸球体が均一に分布していること、ならびに比率0のドットオルガノイドで観察されたようなネフロンを欠く中央領域がないことが明らかになった(
図11B、C)。パッチオルガノイドはまた、SOX17を発現する間質性内皮細胞に囲まれた、近位尿細管(LTLおよびHNF4A)およびヘンレTALの遠位尿細管/ループ(SLC12A1)のマーカーを発現する、正しくパターン化されたネフロンを示した(
図11D)。
【0182】
代替腎組織は、糸球体濾過、ならびに水および選択された溶質の尿細管再吸収/分泌など、それらのインビボ対応物と同様の機能的能力を有するネフロンを含まなければならない。溶質の再吸収における近位尿細管の重要性を考慮し、HNF4Aプロモーターの制御下で黄色蛍光タンパク質(YFP)が挿入された近位尿細管特異的iPSCレポーター株(HNF4A
YFPiPS細胞)から、パッチオルガノイドを生成させた。HNF4A
YFP由来のバイオプリンティングパッチを、糸球体および近位尿細管の有足細胞で発現されるメガリンおよびキュビリン受容体に対する親和性を有する蛍光標識タンパク質基質(TRITC-アルブミン)中で一晩インキュベートした。ライブ共焦点イメージングにより、YFP陽性近位尿細管へのTRITCアルブミンの特異的な取り込みが明らかになり、これらのネフロンセグメントの機能が確認された(
図11E)。
【0183】
押し出された単位細胞当たりの相対糸球体数は、比の設定を0から40に変化させることにより約2.5~5倍に増加することが示されたため、5×105細胞の押し出しによって生成される4.8×6mmのパッチには最大250~500個のネフロンが含まれ得ると予想される。したがって、10×12mmのパッチは1000個のネフロンを生成し得る。
【0184】
まとめると、これらのデータは、幅広いバイオエンジニアリングまたはスクリーニングの用途に適する機能的な腎臓組織を生成させるための、パッチオルガノイドの潜在的な用途を印象付けるものである。
【0185】
実施例8.バイオプリンティングされたオルガノイドの移植の比較例
実施例2で生成されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイド(または一点堆積(比0)腎臓組織)をマウスに移植した。8週齢のレシピエントマウス(n=8、非肥満糖尿病/重症複合免疫不全症(NOD/SCID)、Charles River Laboratories)をイソフルランで麻酔し、手術前に痛みを和らげるためにテムゲシック(ブプレノルフィン)を注射した。体幹温度を37℃に維持した。側部を切開して腎臓を露出させ、腎被膜に小さな切開を行った。7+18日間培養されたバイオプリンティングされた腎臓オルガノイドを二分し、左右の腎臓の腎被膜下に移植した。7日後および28日後にマウスを麻酔して安楽死させ、腎臓を採取した。
【0186】
バイオプリンティングされたオルガノイド(7日目+18日目)を、2%パラホルムアルデヒド(PFA)で4℃で20分間固定した。オルガノイドを透過処理し、PBS中の0.3%TritonX中の10%ロバ血清で2時間ブロッキングした。一次抗体で一晩インキュベートし、二次抗体で室温で2時間または4℃で一晩、インキュベートし、検出した。マウス腎被膜下のオルガノイドをTissueTekで急速凍結するか、2%PFAで20分間固定し、ホールマウント分析のためにPBS中に保存した。凍結した腎臓切片(厚さ5~10μm)を2%PFAで室温で10分間固定し、PBS中の0.3%TritonXで15分間透過処理した。Mouse on Mouse Basic Kitを使用して、バイオプリンティングされた腎臓オルガノイドおよびマウス腎臓の構造を検出した。
【0187】
移植および非移植オルガノイドの免疫蛍光特性の評価は、NPHS1(AF4269、R&D Systems)、WT1(SC-192、Santa Cruz Biotechnology)、CUBILIN(SC20607、Santa Cruz Biotechnology)、CD31(555444、BD Biosciences)、ECAD(610181、BD Biosciences)、LTL-ビオチン結合(B-1325、Vector Laboratories)などの抗体を使用して実施でき、またはその他の例では、MECA-32(553849、BD Biosciences)などのオルガノイド由来の組織または抗体を強調表示して、マウス由来の細胞型、本例ではマウス内皮を標識する。ライブ蛍光イメージングは、レポーター株を使用して生成されたバイオプリンティングされたオルガノイドにも使用できる。
【0188】
移植されたオルガノイドは、パラフィン包埋組織を使用して試験し、ヘマトキシリンおよびエオシンなどの様々な免疫化学的染色、または過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を使用して染色した後、組織学的試験のために切片化することもできる。移植されたオルガノイドは、透過型または走査型電子顕微鏡を使用して試験することもできる。
【0189】
本明細書に記載の結果は、バイオプリンティングされたオルガノイドが移植され、移植後も生存し続け、血管系を誘引し、成熟の改善を示すことができることを示唆する。本発明の結果は、移植アッセイを使用して、レポーターiPSC株または患者由来のiPSC株などの様々な開始細胞株から生成されたバイオプリンティングオルガノイド間の、相対的な尿細管の成熟および結果の成功如何を比較することができることも示唆する。