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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】ジョセフソンパラメトリックカプラ
(51)【国際特許分類】
   H03F 7/00 20060101AFI20241209BHJP
   H03D 7/00 20060101ALI20241209BHJP
   H03F 19/00 20060101ALI20241209BHJP
   H10N 60/10 20230101ALI20241209BHJP
【FI】
H03F7/00
H03D7/00
H03F19/00
H10N60/10 K
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022531558
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-14
(86)【国際出願番号】 US2020062146
(87)【国際公開番号】W WO2021108487
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】62/941,323
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502208397
【氏名又は名称】グーグル エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Google LLC
【住所又は居所原語表記】1600 Amphitheatre Parkway 94043 Mountain View, CA U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オーファー・ナーマン
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0085231(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0131944(US,A1)
【文献】特表2018-538681(JP,A)
【文献】特表2019-530336(JP,A)
【文献】特開平08-293708(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0052750(US,A1)
【文献】国際公開第2019/038518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 7/00
H10N 60/10
H03F 19/00
H03D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力ポートと、
前記入力ポートと分離されている出力ポートと、
前記入力ポートから前記出力ポートへの間の信号経路であって、
前記入力ポートに結合され、第1の通過帯域を有する第1のセクション、
前記出力ポートに結合され、第2の通過帯域を有する第2のセクション、および
前記第1のセクションと前記第2のセクションとの間をパラメトリック結合するためのジョセフソン接合結合要素であり、前記第1のセクションと前記第2のセクションとに結合され、前記第1のセクションと前記第2のセクションとの間に挿入されたジョセフソン接合結合要素
を含む信号経路と
を含み、
前記ジョセフソン接合結合要素は、前記入力ポートが前記第1の通過帯域内にある第1の周波数の第1の信号を受信し、前記ジョセフソン接合結合要素がポンプトーンを受信したことに応答して、前記ジョセフソン接合結合要素が前記第1の信号を前記第2の通過帯域内にある第2の周波数の第2の信号に変換するように構成されており、
前記ジョセフソン接合結合要素が、
ジョセフソン接合と、
前記第1の通過帯域を有する第1の共振器と、
前記第2の通過帯域を有する第2の共振器と
を含み、
前記ジョセフソン接合が、前記第1の共振器と前記第2の共振器との間に挿入され、前記第1の共振器と前記第2の共振器とに接続され、
前記第1のセクションが、前記信号経路における前記入力ポートと第1の共振器との間に配置された前記第1の通過帯域を有する少なくとも1つの共振器を含み、
前記第2のセクションが、前記信号経路における第2の共振器と前記出力ポートとの間に配置された前記第2の通過帯域を有する少なくとも1つの共振器を含む、
ジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項2】
前記第2の周波数が、前記第1の周波数と前記ポンプトーンの周波数との和である、
請求項1に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項3】
前記ポンプトーンの周波数が、前記第1の周波数と前記第2の周波数との和である、
請求項1に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項4】
前記第1の共振器が、第1の直列インダクタと、第1の分路キャパシタとを含み、
前記第2の共振器が、第2の直列インダクタと、第2の分路キャパシタとを含み、
前記第1の直列インダクタおよび前記ジョセフソン接合が、互いに直列に電気的に接続され、
前記第2の直列インダクタおよび前記ジョセフソン接合が、互いに直列に電気的に接続される、
請求項1に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項5】
前記第1の共振器および前記第2の共振器が、伝送線路スタブを含む、
請求項1に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項6】
前記第1の共振器および前記第2の共振器が、伝送線路ベースの共振器を含む、
請求項1に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項7】
前記第1の通過帯域を有する前記少なくとも1つの共振器、および前記第2の通過帯域を有する前記少なくとも1つの共振器の各々が、分路共振器である、
請求項1に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項8】
前記少なくとも1つの共振器の各々が、分路キャパシタと分路インダクタとを含む、
請求項7に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項9】
前記少なくとも1つの共振器の各々が、共振器スタブを含む、
請求項7に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1つの共振器の各々が、伝送線路ベースの共振器を含む、
請求項7に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項11】
前記ジョセフソン接合結合要素がRF SQUIDである、
請求項1から10のいずれか一項に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項12】
前記RF SQUIDは、第1の外部磁束バイアスが前記RF SQUIDに印加されたことに応答して、第1の共振器と第2の共振器との間の受動誘導結合が低減されるように、前記RF SQUIDのジョセフソンインダクタンス値が発散するように構成されている、
請求項11に記載のジョセフソンパラメトリックデバイス。
【請求項13】
コンピュータにより実行される、ジョセフソンパラメトリックデバイスを設計する方法であって、前記デバイスが、
入力ポートと、
前記入力ポートと分離されている出力ポートと、
前記入力ポートから前記出力ポートへの間の信号経路であって、
前記入力ポートに結合され、第1の通過帯域を有する第1のセクション、
前記出力ポートに結合され、第2の通過帯域を有する第2のセクション、および
ジョセフソン接合結合要素であって、
ジョセフソン接合と、
前記第1の通過帯域を有する第1の共振器と、
前記第2の通過帯域を有する第2の共振器と
を含み、
前記ジョセフソン接合が、前記第1の共振器と前記第2の共振器との間に挿入され、前記第1の共振器と前記第2の共振器とに接続される、ジョセフソン接合結合要素を含む信号経路と
を含み、
前記ジョセフソン接合結合要素は、前記入力ポートが前記第1の通過帯域内にある第1の周波数の第1の信号を受信し、前記ジョセフソン接合結合要素がポンプトーンを受信したことに応答して、前記ジョセフソン接合結合要素が前記第1の信号を前記第2の通過帯域内にある第2の周波数の第2の信号に変換するように構成されており、
前記方法が、
前記第1のセクションに第1の数の共振器jを設け、前記第2のセクションに第2の数の共振器N-jを設けるステップと、
前記第1のセクションの前記共振器に第1の共振周波数ωAを提供し、前記第2のセクションの前記共振器に第2の共振周波数ωBを提供し、前記入力ポートと前記第1のセクションとの間、および前記第2のセクションと前記出力ポートとの間の減衰率γを提供するステップと、
前記第1のセクションおよび前記第2のセクションの帯域幅δωを提供するステップと、
前記共振器の各々にインピーダンスZ1~ZNを提供するステップと、
正規化された要素値g0~gN+1を提供するステップであって、
g0は、前記入力ポートにおける正規化インピーダンスを表し、gN+1は、前記出力ポートにおける正規化インピーダンスを表し、g1~gNは、N個の共振器の正規化インピーダンスを表し、
前記正規化された要素値g0~gN+1は、前記第1のセクションおよび前記第2のセクションの応答関数のテーブル化された値に従って決定される、
提供するステップと、
アドミタンス値J01~JN,N+1を計算するステップであって、
第1のアドミタンス値J01は、前記入力ポートと前記入力ポートに隣接して結合される前記第1のセクションの前記共振器との間に配置される第1の回路素子のアドミタンスを表し、第N+1のアドミタンス値JN,N+1は、前記出力ポートと前記出力ポートに隣接して接続される前記第2のセクションの前記第Nの共振器との間に配置される第N+1の回路素子のアドミタンスを表し、第iのアドミタンス値Ji-1,jは、前記第(i-1)の共振器と前記第iの共振器との間に配置される第(i)の回路素子のアドミタンスを表し、
前記第1のアドミタンス値J01は、
【数1】
によって与えられ、
前記第iのアドミタンス値Ji-1iは、
【数2】
によって与えられ、
前記第N+1のアドミタンス値JN,N+1は、
【数3】
によって与えられ、
Z0は、前記入力ポートのインピーダンスであり、ZN+1は、前記出力ポートのインピーダンスであり、Ziは、第iの共振器のインピーダンスである、
計算するステップと、
前記第1のセクションに含まれる第jの共振器と、前記第2のセクションに含まれる第j+1の共振器との間の結合度を表す結合係数βj,j+1を計算するステップであって、
jは前記第1の数であり、N-jは前記第2の数であり、
前記結合係数βj,j+1は、
【数4】
によって与えられる、
計算するステップと、
前記結合係数βj,j+1に基づいて、前記ジョセフソン接合結合要素に印加するためのAC磁束ΦACを計算するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記結合係数βj,j+1に基づいて、前記ジョセフソン接合結合要素に印加するためのAC磁束ΦACを計算する前記ステップが、
【数5】
に基づき、
このとき、前記ジョセフソン接合結合要素に印加されたDC磁束ΦDCは、
【数6】
によって与えられ、
Lは、前記ジョセフソン接合結合要素の線形インダクタンスであり、Icは、前記ジョセフソン接合の臨界電流であり、Φ0は、磁束量子であり、
【数7】
は、前記ジョセフソン接合結合要素に印加される磁束バイアスに対する第jの共振器と第(j+1)の共振器との間の相互誘導結合の傾きであり、LjおよびLj+1は、それぞれ、第jの共振器および第(j+1)の共振器の前記インダクタンス値である、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ジョセフソン接合結合要素がRF-SQUIDを含む、
請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の数が、j=N/2となるような前記第2の数に等しい、
請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の信号の前記第1の周波数および前記第2の信号の前記第2の周波数を決定するステップと、
前記ポンプトーンが前記ジョセフソン接合結合要素に提供されると、前記第1の信号が前記第2の信号に変換されるように、前記ポンプトーンの周波数を決定するステップと、
前記ジョセフソン接合結合要素に前記ポンプトーンを提供するステップと、
前記第1の周波数の前記第1の信号を前記入力ポートに提供するステップと
を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のジョセフソンパラメトリックデバイスを使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本主題は、ジョセフソンパラメトリックカプラに関する。
【背景技術】
【0002】
大規模量子コンピュータは、あるクラスの異なる問題に対する高速解を提供する可能性を有する。量子ハードウェアを制御し、プログラムし、維持するための量子アーキテクチャの設計および実装における複数の課題は、大規模量子計算の実現を妨げる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】F. Lecocq, L. Ranzani, G. A. Peterson, K. Cicak, R. W. Simmonds, J. D. Teufel, and J. Aumentado, Phys. Rev. Applied 7, 024028 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、とりわけ、キュビットの状態測定のための増幅デバイスを実装するための技術を含むジョセフソンパラメトリックカプラに関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に、本開示の主題の発明的態様は、入力ポートと、出力ポートと、入力ポートと出力ポートとの間の信号経路とを含むジョセフソンパラメトリックデバイスにおいて具現化され得る。信号経路は、入力ポートに結合され、第1の通過帯域を有する第1のセクションと、出力ポートに結合され、第2の通過帯域を有する第2のセクションと、第1のセクションと第2のセクションとの間をパラメトリック結合するためのジョセフソン接合結合要素とを含む。ジョセフソン接合結合要素は、第1のセクションと第2のセクションとに結合され、それらの間に挿入される。ジョセフソン接合結合要素は、入力ポートが第1の通過帯域内にある第1の周波数の第1の信号を受信し、ジョセフソン接合結合要素がポンプトーンを受信したことに応答して、ジョセフソン接合結合要素が第1の信号を第2の通過帯域内にある第2の周波数の第2の信号に変換するように構成されている。
【0006】
上記および他の実装形態は各々、以下の特徴のうちの1つまたは複数を、単独でまたは組み合わせて、随意に含むことができる。
【0007】
いくつかの実装形態では、第2の周波数は、第1の周波数とポンプトーンの周波数との和である。
【0008】
いくつかの実装形態では、ポンプトーンの周波数は、第1の周波数と第2の周波数との和である。
【0009】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン結合要素は、ジョセフソン接合と、第1の通過帯域を有する第1の共振器と、第2の通過帯域を有する第2の共振器とを含む。ジョセフソン接合は、第1の共振器と第2の共振器との間に挿入され、それらに接続される。
【0010】
いくつかの実装形態では、第1の共振器は、第1の直列インダクタと、第1の分路キャパシタとを含む。第2の共振器は、第2の直列インダクタと、第2の分路キャパシタとを含む。第1の直列インダクタおよびジョセフソン接合は、互いに直列に電気的に接続され、第2の直列インダクタおよびジョセフソン接合は、互いに直列に電気的に接続される。
【0011】
いくつかの実装形態では、第1の共振器および第2の共振器は、共振器伝送線路スタブを含む。
【0012】
いくつかの実装形態では、第1の共振器および第2の共振器は、伝送線路ベースの共振器を含む。
【0013】
いくつかの実装形態では、第1のセクションは、信号経路における入力ポートと第1の共振器との間に配置された第1の通過帯域を有する少なくとも1つの分路共振器を含み、第2のセクションは、信号経路における第2の共振器と出力ポートとの間に配置された第2の通過帯域を有する少なくとも1つの分路共振器を含む。
【0014】
いくつかの実装形態では、少なくとも1つの共振器の各々は、分路キャパシタと分路インダクタとを含む。
【0015】
いくつかの実装形態では、少なくとも1つの共振器の各々は、共振器スタブを含む。
【0016】
いくつかの実装形態では、少なくとも1つの共振器の各々は、伝送線路ベースの共振器を含む。
【0017】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン接合結合要素は、RF SQUIDである。
【0018】
いくつかの実装形態では、RF SQUIDは、第1の外部磁束バイアスがRF SQUIDに印加されたことに応答して、第1の共振器と第2の共振器との間の受動誘導結合が低減されるように、RF SQUIDのジョセフソンインダクタンス値が発散するように構成されている。
【0019】
一般に、本開示の主題の別の発明的態様は、入力ポートと、出力ポートと、入力ポートと出力ポートとの間の信号経路とを含むジョセフソンパラメトリックデバイスを設計する方法において具現化され得、信号経路は、入力ポートに結合され、第1の通過帯域を有する第1のセクションと、出力ポートに結合され、第2の通過帯域を有する第2のセクションフィルタと、第1のセクションと第2のセクションとの間に配置されたジョセフソン接合結合要素とを含む。この方法は、第1のセクションに第1の数の共振器jを設け、第2のセクションに第2の数の共振器N-jを設けるステップと、第1のセクションの共振器に第1の共振周波数ωAを提供し、第2のセクションの共振器に第2の共振周波数ωBを提供し、入力ポートと第1のセクションとの間、および第2のセクションと出力ポートとの間の減衰率γを提供するステップと、第1のセクションおよび第2のセクションの帯域幅δωを提供するステップと、共振器の各々にインピーダンスZ1~ZNを提供するステップと、正規化された要素値g0~gN+1を提供するステップとを含む。g0は、入力ポートにおける正規化インピーダンスを表し、gN+1は、出力ポートにおける正規化インピーダンスを表し、N個の共振器の正規化インピーダンスを表す。正規化された要素値g0~gN+1は、第1のセクションおよび第2のセクションの応答関数のテーブル化された値に従って決定される。この方法は、アドミタンス値J01~JN,N+1を計算するステップであって、第1のアドミタンス値J01は、入力ポートと入力ポートに隣接して結合される第1のセクションの共振器との間に配置される第1の回路素子のアドミタンスを表し、第N+1のアドミタンス値JN,N+1は、出力ポートと出力ポートに隣接して接続される第2のセクションの第Nの共振器との間に配置される第N+1の回路素子のアドミタンスを表し、第iのアドミタンス値Ji-1,jは、第(i-1)の共振器と第iの共振器との間に配置される第(i)の回路素子のアドミタンスを表す、計算するステップをさらに含む。第1のアドミタンス値J01は、
【0020】
【数1】
【0021】
によって与えられる。第iのアドミタンス値Ji-1iは、
【0022】
【数2】
【0023】
によって与えられ、第N+1のアドミタンス値JN,N+1は、
【0024】
【数3】
【0025】
によって与えられ、Z0は、入力ポートのインピーダンスであり、ZN+1は、出力ポートのインピーダンスであり、Ziは、第iの共振器のインピーダンスである。この方法は、第1のセクションに含まれる第jの共振器と、第2のセクションに含まれる第j+1の共振器との間の結合度を表す結合係数βj,j+1を計算するステップであって、jは第1の数であり、N-jは第2の数であり、結合係数βj,j+1は、
【0026】
【数4】
【0027】
によって与えられる、計算するステップをさらに含む。この方法は、結合係数βj,j+1に基づいて、ジョセフソン接合結合要素に印加するためのAC磁束ΦACを計算するステップをさらに含む。
【0028】
上記および他の実装形態は各々、以下の特徴のうちの1つまたは複数を、単独でまたは組み合わせて、随意に含むことができる。
【0029】
いくつかの実装形態では、結合係数βj,j+1に基づいて、ジョセフソン接合結合要素に印加するためのAC磁束ΦACを計算するステップは、
【0030】
【数5】
【0031】
に基づき、このとき、ジョセフソン接合結合要素に印加されたDC磁束ΦDCは、
【0032】
【数6】
【0033】
によって与えられる。Lは、ジョセフソン接合結合要素の線形インダクタンスであり、Icは、ジョセフソン接合の臨界電流であり、Φ0は、磁束量子であり、
【0034】
【数7】
【0035】
は、ジョセフソン結合要素に印加される磁束バイアスに対する第jの共振器と第(j+1)の共振器との間の相互誘導結合の傾きであり、LjおよびLj+1は、それぞれ、第jの共振器および第(j+1)の共振器のインダクタンス値である。
【0036】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン接合結合要素は、RF-SQUIDを含む。
【0037】
いくつかの実装形態では、第1の数は、j=N/2となるような第2の数に等しい。
【0038】
一般に、本開示の主題の別の発明的態様は、ジョセフソンパラメトリックデバイスを使用する方法において具現化され得、方法は、第1の信号の第1の周波数および第2の信号の第2の周波数を決定するステップと、ポンプトーンがジョセフソン結合要素に提供されると、第1の信号が第2の信号に変換されるように、ポンプトーンの周波数を決定するステップと、ジョセフソン接合結合要素にポンプトーンを提供するステップと、第1の周波数の第1の信号を入力ポートに提供するステップとを含む。
【0039】
1つまたは複数の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の説明に記載される。他の特徴および利点は、説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】例示的なジョセフソンパラメトリックカプラを示す概略図である。
図2】DC SQUIDを含む例示的なジョセフソン結合要素を示す概略図である。
図3】例示的なジョセフソンパラメトリックカプラを示す概略図である。
図4a図3に記載されたジョセフソンパラメトリックカプラのシミュレーション結果を示す図である。
図4b図3に記載されたジョセフソンパラメトリックカプラのシミュレーション結果を示す図である。
図5】例示的なジョセフソン結合要素を示す概略図である。
図6】ジョセフソンパラメトリックカプラの設計概念を示す図である。
図7】ジョセフソンパラメトリックカプラを設計する例示的な手順を示すフローチャートである。
図8】結合がジョセフソンパラメトリック変換器によって提供される、例示的なジョセフソンパラメトリックカプラを示す概略図である。
図9図8に記載されたジョセフソンパラメトリックカプラのシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
量子計算は、量子コンピュータの量子ビット(キュビット)に記憶された量子情報をコヒーレントに処理することを伴う。超伝導量子コンピューティングは、量子情報処理システムが部分的に超伝導材料から形成される固体量子コンピューティング技術の有望な実装である。超伝導キュビットなどの固体量子コンピューティング技術を使用する量子情報処理システムを動作させるために、システムは、たとえば数10mKなど、極めて低い温度に維持される。システムの極端な冷却は、超伝導材料をその臨界温度未満に保ち、望ましくない状態遷移を回避するのに役立つ。そのような低温を維持するために、量子情報処理システムは、希釈冷凍機などのクライオスタット内で操作され得る。
【0042】
いくつかの実装形態では、制御信号は、より高温の環境で生成され、同軸ケーブルなどのシールドされたインピーダンス制御されたGHz対応伝送線路を使用して、量子情報処理システムに送信される。クライオスタットは、1つまたは複数の中間冷却段階において室温(たとえば、約300K)からキュビットの動作温度まで降下する場合がある。たとえば、クライオスタットは、たとえば、約30~40Kまたは約3~4Kなど、室温段階よりも1桁または2桁低く、キュビットの動作温度よりも暖かい(たとえば約10mK以下)温度範囲に維持された段階を使用してもよい。
【0043】
いくつかの実装形態では、超伝導キュビットの状態測定は、分散検出方式を使用して達成される。任意のキュビットの状態を読み出し、または検出するために、プロービング信号、たとえば進行中のマイクロ波は、それぞれの読出し共振器を介してキュビットに結合された読出し伝送線路に沿って励起され得る。プロービング信号の周波数は、読出し共振器の共振周波数の近傍であってもよい。キュビットの内部量子力学的状態に応じて、キュビットに結合された読出し共振器の反射率がキュビットの状態に応じて変化するので、読出し伝送線路に沿って伝送されるプロービング信号の強度または位相が変わり得る。これにより、キュビットの状態検出が可能になる。
【0044】
近量子限界雑音性能を有する超伝導キュビットの高忠実度状態測定のために、ジョセフソン接合パラメトリック増幅器またはジョセフソン接合変換器が構成され、プロービング信号の前置増幅器として使用され得る。ジョセフソン接合パラメトリック増幅器またはジョセフソン接合変換器内で、ジョセフソン接合は、非線形インダクタとして作用し、インダクタンスは、ジョセフソン接合で受信されるポンプトーンの強度に依存する。ポンプトーンのエネルギーの一部は、プロービング信号に与えられ、これは、プロービング信号のパラメトリック増幅につながる。
【0045】
例示的な読出しシステムでは、複数の感知されたキュビット信号のための読出し共振器は、単一の読出しチャネルに結合される。単一の読出しチャネルに結合された複数の読出し共振器を感知するプロービング信号は、前置増幅器によって増幅される。単一の読出しチャネル上の前置増幅された信号は、HEMT(高電子移動度トランジスタ)増幅器によって増幅される。より多くのキュビットのための読出しシステムを設計する際に、考慮すべき条件の1つは、ジョセフソン接合パラメトリック増幅器またはジョセフソン接合パラメトリック変換器の飽和強度を含み、これは、各読出しチャネル内のキュビットの数を制限する。これまでに報告されたジョセフソンパラメトリック周波数変換器は、数10MHzの帯域幅、およびpW範囲の低い飽和強度に制限されてきた。
【0046】
本開示は、前置増幅器として使用することができるジョセフソン接合を含むパラメトリックカプラの回路設計に関する。特に、本開示は、規定の伝達特性を有する数100MHzの帯域幅を提供し得る回路設計に関する。
【0047】
本明細書ではジョセフソンパラメトリックカプラと呼ばれるそのような設計は、ジョセフソンパラメトリック増幅器またはジョセフソンパラメトリック変換器としても機能するバンドパスフィルタとして構成され得る。いくつかの実装形態では、ジョセフソンパラメトリックカプラは、RF SQUIDを含み得る。RF SQUIDは、2つのセグメントの間に埋め込まれ、各セグメントは、アドミタンスインバータによって接続された一連の分路共振器を含む。
【0048】
ジョセフソンパラメトリックカプラの全体設計は、結合された共振器の形態をとることができ、本明細書で詳細に説明するように、複数の分路共振器がアドミタンスインバータによって接続される。回路のパラメータ、たとえば、RF SQUIDに印加される磁束バイアスは、規定の伝達特性を有するRFフィルタ合成方法に従って決定することができる。
【0049】
図1は、例示的なジョセフソンパラメトリックカプラを示す概略図である。
【0050】
ジョセフソンパラメトリックカプラ100は、入力ポート110と、第1のセクション120と、ジョセフソン接合結合要素130と、ポンプ源135と、第2のセクション140と、出力ポート150とを含む。
【0051】
入力信号が入力ポート110で受信される。その後、信号は、第1のセクション120、ジョセフソン接合結合要素130、第2のセクション140の順に伝送され、次いで、出力ポート150に出力される。
【0052】
第1のセクション120は、第1のセクションの全体的な応答が、第1の帯域幅Δf1を有する第1の中心周波数f1を有する第1の通過帯域を有するように、複数の共振器を含み得る。
【0053】
第2のセクション140は、第2のセクション140の全体的な応答が、第2の帯域幅Δf2を有する第2の中心周波数f2を有する第2の通過帯域を有するように、複数の共振器を含み得る。典型的には、Δf1は、Δf2に等しいかまたは類似するように設定されてもよい。
【0054】
ジョセフソン結合要素130は、第1のセクション120と第2のセクション140との間に挿入され、これらに電気的に接続されている。第1のセクション120と第2のセクション140は、ジョセフソン結合要素130を介してパラメトリックに結合されている。ジョセフソン結合要素130のリアクタンスは、ポンプ源135によって提供されるポンプトーンによって変調される。ジョセフソン結合要素130に入力される信号の周波数は、f2-f1だけ変化する。たとえば、第1のセクション120からの周波数f1+δfの信号がジョセフソン結合要素130に入る場合、δfが第1のセクション120および第2のセクション140の帯域幅よりも小さい場合、信号の周波数は、ジョセフソン結合要素130を出るときにf2+δfに変化する。
【0055】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン結合要素130は、RF SQUIDを含む。パラメトリック結合が最大である動作点において、ジョセフソン結合要素130の飽和電力は、同様のレベルの臨界電流のためのDC SQUIDを含み、対応する動作点にバイアスされる回路よりも高くなり得る。これは、RF SQUIDの場合、飽和強度がジョセフソン接合の臨界電流によってのみ制限されるからである。たとえば、臨界電流が1μAの場合、ポンプ電力は約-90dBmであり得る。プロービング信号飽和電力は、典型的にはポンプ電力の1%以下であるので、プロービング信号の飽和電力は、約-110dBmであり得る。
【0056】
いくつかの実装形態では、ジョセフソンパラメトリックカプラ100の動作点は、第1のセクション120と第2のセクション140との間の受動結合が最小限に抑えられるように決定され得る。ジョセフソン結合要素130としてのRF SQUIDの場合、この動作点は最大パラメトリック結合点にも対応する。
【0057】
対照的に、DC SQUIDがジョセフソン結合要素130に使用される場合、それはグランドに分路されるので、第1のセクション120と第2のセクション140との間の受動結合の同様の抑制を達成するために、DC SQUIDのインダクタンスは、比較的低く設定されなければならず、これは、第1のセクション120と第2のセクション140との間の対応する低いパラメトリック結合につながる。飽和電力に関して、DC SQUIDの最大パラメトリック結合の点は、Iccos(πΦ/Φ0)がほぼゼロである動作点に対応するので、DC SQUIDの電力レベルも比較的低くなければならない場合がある。DC SQUID結合要素の場合、最大パラメトリック結合のバイアス点は、最小浮遊受動結合のバイアス点と一致しない。DC SQUIDの最大可能帯域幅は、RF SQUIDのように、最大達成可能パラメトリック結合強度に依存する。
【0058】
したがって、RF SQUIDは、グランドに分路されないので、純粋にパラメトリック結合を提供し、受動結合をほとんど提供しないように構成することができる。この態様は、本明細書に記載されるジョセフソン結合要素130の設計を可能にする。
【0059】
しかしながら、本明細書で説明されるジョセフソンパラメトリックカプラ100は、RF SQUIDに限定されない。設計概念は、本明細書で説明されるように、駆動点インピーダンスを修正することに関連し、RF SQUIDとDC SQUIDの両方に適用される。言い換えれば、ジョセフソンパラメトリックカプラ130は、アドミタンスY2がジョセフソンパラメトリックカプラ130の出力ポートに接続される場合に、ジョセフソンパラメトリックカプラ130の入力ポートに提示されるインピーダンスがY1=J2/Y2であるように、アドミタンスインバータとして機能すると見なされ得、式中、Jはパラメトリック結合の強度に関連し、Y1およびY2は、パラメトリックプロセスが周波数変換であると仮定すると、それらが接続される回路のそれぞれの周波数f1およびf2で評価される。したがって、ジョセフソンパラメトリックカプラ130は、後でより詳細に説明するように、インピーダンスまたはアドミタンス変圧器と見なされ得る。
【0060】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン結合要素130は、ジョセフソンパラメトリック周波数変換器として構成され得る。この場合、ポンプトーンの周波数は、fp=f2-f1となる。
【0061】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン結合要素130は、ジョセフソンパラメトリック増幅器として構成され得る。この場合、ポンプトーンの周波数は、fp=f1+f2となる。ジョセフソン結合要素130をジョセフソンパラメトリック周波数変換器として構成する場合に比べて、回路内の有効極数を少なくすることができる。
【0062】
いくつかの実装形態では、ジョセフソンパラメトリックカプラ100の全体設計は、結合された共振器の形態をとることができ、複数の分路共振器がアドミタンスインバータによって接続される。したがって、回路のパラメータは、本明細書で説明するように、規定の伝達特性を有するRFフィルタ合成方法に従って決定することができる。
【0063】
特に、RFフィルタ合成方法を適用するために、ジョセフソン結合要素130は、アドミタンスインバータに類似しているが、異なる共振周波数を有する2つの共振器の間で作用する「パラメトリック」アドミタンスインバータと見なされ得る。たとえば、ジョセフソン結合要素130の所望の結合値は、ジョセフソンパラメトリックカプラ100に含まれる分路共振器のネットワークにおけるジョセフソン結合要素の位置に対応するフィルタ係数の適切な値から決定することができる。決定された結合値は、ジョセフソン結合要素130におけるパラメトリック結合の強度を決定し、これは、ポンプ源135によって提供されるポンプトーンの強度、およびジョセフソン結合要素130に印加される磁束バイアスに変換され得る。
【0064】
いくつかの実装形態では、第1のセクション120は、第1のセクションの全体的な応答が、第1の帯域幅Δf1を有する第1の中心周波数f1を有する第1の通過帯域を有するように、アドミタンスインバータによって互いに電気的に接続された集中素子で実装された複数の分路共振器を含み得る。
【0065】
いくつかの実装形態では、第1のセクション120は、第1のセクションの全体的な応答が、第1の帯域幅Δf1を有する第1の中心周波数f1を有する第1の通過帯域を有するように、アドミタンスインバータによって互いに接続された伝送線路ベースの共振器で実装された複数の分路共振器を含み得る。
【0066】
いくつかの実装形態では、第1のセクション120は、第1のセクションの全体的な応答が、第1の帯域幅Δf1を有する第1の中心周波数f1を有する第1の通過帯域を有するように、複数の伝送線路スタブを含み得る。
【0067】
いくつかの実装形態では、第2のセクション140は、第2のセクション140の全体的な応答が、第2の帯域幅Δf2を有する第2の中心周波数f2を有する第2の通過帯域を有するように、アドミタンスインバータによって互いに電気的に接続された集中素子で実装された複数の分路共振器を含み得る。
【0068】
いくつかの実装形態では、第2のセクション140は、第2のセクション140の全体的な応答が、第2の帯域幅Δf2を有する第2の中心周波数f2を有する第2の通過帯域を有するように、アドミタンスインバータによって互いに接続された伝送線路ベースの共振器で実装された複数の分路共振器を含み得る。
【0069】
いくつかの実装形態では、第2のセクション140は、第2のセクション140の全体的な応答が、第2の帯域幅Δf2を有する第2の中心周波数f2を有する第2の通過帯域を有するように、複数の伝送線路スタブを含み得る。
【0070】
いくつかの実装形態では、第1のセクション120、第2のセクション140に含まれる共振器の数は、同じであってもよい。本明細書の残りの部分では、第1のセクション120および第2のセクション140内の共振器の数は、簡略化のために同じであると仮定する。しかしながら、同じ概念が、第1のセクション120および第2のセクション140における共振器の数が異なる設計に適用される。同じ概念は、3つのセクション120、140またはそれ以上があり、2つの隣接するセクション120、140の間に少なくとも1つのジョセフソン結合要素130によってパラメトリック変換プロセスが提供される設計にも当てはまる。
【0071】
いくつかの実装形態では、第1の帯域幅Δf1および第2の帯域幅Δf2は、同じであってもよい。この場合、共通の帯域幅はΔfとなる。本開示の残りの例では、第1の帯域幅Δf1および第2の帯域幅Δf2は、簡単にするために、同じΔfであると仮定される。
【0072】
図2は、DC SQUIDを含む例示的なジョセフソン結合要素を示す概略図である。
【0073】
ジョセフソン結合要素200は、図1で説明したジョセフソン結合要素130の一例であり、第1のポート201と第2のポート202とを含み、それらの間に信号線が画定される。DC SQUIDを使用するジョセフソン結合要素200のこの構成については、すでに説明した。
【0074】
ジョセフソン結合要素200は、ジョセフソンパラメトリックカプラ100の他の部分、すなわち第1のセクション120および第2のセクション140に、それぞれ第1のポート201および第2のポート202を介して接続することができる。
【0075】
ジョセフソン結合要素200は、第1のポート201と第2のポート202との間に配置されたDC-SQUID210を含む。
【0076】
DC-SQUID210は、L1とラベル付けされた第1のインダクタ213とL2とラベル付けされた第2のインダクタ214とによって挟まれた、B1とラベル付けされた第1のジョセフソン接合211と、B2とラベル付けされた第2のジョセフソン接合212とを含む。第1のジョセフソン接合211、第1のインダクタ213、第2のジョセフソン接合212、および第2のインダクタ214は、互いに接続されてループを形成する。ループ内の構成要素の順序は、図2の例に限定されない場合がある。たとえば、B1とラベル付けされた第1のジョセフソン接合211と、L1とラベル付けされた第1のインダクタ213との位置が交換され得る。B2とラベル付けされた第2のジョセフソン接合212と、L2とラベル付けされた第2のインダクタ214との位置が交換され得る。
【0077】
ジョセフソン結合要素130、200は、ジョセフソン接合211、212の少なくとも一部を形成する材料の臨界温度よりも低いある極低温で動作するように構成することができる。たとえば、アルミニウム-酸化アルミニウム-アルミニウム構造を使用して形成されたジョセフソン接合の場合、ジョセフソン結合要素130、200がアルミニウムの超伝導温度よりも低い温度の環境内に配置されると、ジョセフソン接合は、本明細書に記載のように動作する。ジョセフソンパラメトリックカプラ100またはジョセフソン結合要素130、200は、適切な極低温で配置されると、本明細書に記載されるように動作するように構成される。
【0078】
ループ内では、第1のジョセフソン接合211と第2のインダクタ214との間のポートが信号線に接続される。第2のジョセフソン接合212と第1のインダクタ213との間のポートは、グランドに接続される。言い換えれば、DC SQUID210は、グランドに分路される。
【0079】
図2に示される例は、集中素子で実装されるジョセフソン結合要素200を示す。
【0080】
ジョセフソン結合要素200は、第1のジョセフソン接合211と第2のインダクタ214との間のポートの両側に、信号線に直列に接続された第1の直列インダクタ221および第2の直列インダクタ231をさらに含む。
【0081】
ジョセフソン結合要素200は、信号線に接続され、グランドに分路された第1の分路キャパシタ222および第2の分路キャパシタ232をさらに含む。
【0082】
第1の直列インダクタ221は、第1のポート201とDC-SQUID210との間に挿入される。
【0083】
第2の直列インダクタ231は、DC-SQUID210と第2のポート202との間に挿入される。
【0084】
第1の分路キャパシタ222は、第1のポート201と第1の直列インダクタ221との間に挿入される。
【0085】
第2の分路キャパシタ232は、第2の直列インダクタ231と第2のポート202との間に挿入される。
【0086】
いくつかの実装形態では、DC-SQUID210は、超伝導変圧器の一次巻線は図2には示されていないが、第1のインダクタ213(値L1を有する)が二次巻線である超伝導変圧器を介してDC磁束ΦDCで磁束バイアスされてもよい。あるいは、第2のインダクタ214(値L2を有する)は、二次巻線として使用されてもよい。
【0087】
いくつかの実装形態では、DC-SQUID210は、第1のインダクタ213が二次巻線である超伝導変圧器を介して、周波数fpのAC磁束ΦACでポンプ源135によってポンピングされ得る。あるいは、第2のインダクタ214は、二次巻線として使用されてもよい。あるいは、DC-SQUID210を、その追加のインダクタが二次巻線である超伝導変圧器を介して周波数fpのAC磁束ΦACでポンプ源135によってポンピングすることができるように、追加のインダクタがDC-SQUID210の超伝導ループ内に配置され得る。
【0088】
DC磁束ΦDCおよびAC磁束ΦACで磁束バイアスされると、DC-SQUID210は、接続された回路素子に対するインダクタとして現れる。残留インダクタンスと呼ばれる対応するインダクタンスLSQは、上記で説明したように、グランドに分路されるので、ジョセフソン結合要素200内に形成された第1の共振器220と第2の共振器230との間で共有される。
【0089】
図2の例では、第1の共振器220は、第1の直列インダクタ221(値LAを有する)と残留インダクタンスLSQ、すなわちLA+LSQとの和に対応するインダクタンスと並列に接続された第1の分路キャパシタ222によって形成され得る。第1の共振器220は、第1の中心周波数f1を有するように形成され得る。
【0090】
第2の共振器230は、第2の直列インダクタ231(LBの値を有する)と残留インダクタンスLSQ、すなわち、LB+LSQとの和に対応するインダクタンスと並列に接続された第2の分路キャパシタ232によって形成され得る。第2の共振器230は、第2の中心周波数f2を有するように形成され得る。
【0091】
いくつかの実装形態では、DC SQUID210を含むジョセフソン結合要素200を設計するために、第1の直列インダクタLA221、第2の直列インダクタ231、第1の分路キャパシタ222、第2の分路キャパシタ232、および残留インダクタンスLSQの値は、第1の共振器220の共振周波数がf1であり、第1の共振器の共振周波数がf2であるように選択され得る。
【0092】
DC-SQUID210がグランドに分路される設計では、DC-SQUIDは、ジョセフソンパラメトリックカプラ100またはジョセフソン結合要素130、200内の他の構成要素に負荷をかけるので、他の構成要素は、DC-SQUID210のインダクタンスを考慮して設計され得る。これは可能であり得るが、DC-SQUID210のインダクタンスは、DC-SQUID210に印加される磁束バイアス、すなわち、周波数fpのDC磁束ΦDCおよびAC磁束ΦACに依存するので、設計手順は反復を必要とする。また、ジョセフソン結合要素130、200によって提供されるパラメトリック相互作用は、DC-SQUID210に接続された構成要素に依存する。
【0093】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン結合要素200が設計された後、ジョセフソン結合要素200は、第1のセクション120と第2のセクション140との間に挿入され得る。たとえば、4極バンドパスネットワークでは、極のうちの2つが、本明細書で説明されるジョセフソン結合要素200に含まれる第1の共振器220および第2の共振器230によって表され、追加の共振器を、アドミタンスインバータを介して、ジョセフソン結合要素200の各側で、第1のポート201および第2のポート202に追加することができる。第1のポート201に接続された追加の共振器は、共振周波数f1を有するように構成することもでき、第2のポート202に接続された追加の共振器は、共振周波数f2を有するように構成することができる。
【0094】
図3は、例示的なジョセフソンパラメトリックカプラを示す概略図である。
【0095】
ジョセフソンパラメトリックカプラ300は、入力ポート310と、第1のセクション320と、ジョセフソン結合要素330と、ポンプ源335と、第2のセクション340と、出力ポート350とを含む。
【0096】
図3の例では、ジョセフソンパラメトリックカプラ300は、集中素子で実装される。
【0097】
図3において、第1のセクション320、ジョセフソン結合要素330、ポンプ源335、および第2のセクション340は、点線で区切られている。
【0098】
ジョセフソン結合要素330は、第1のセクション320と第2のセクション340との間に挿入され、これらに電気的に接続されている。ジョセフソン結合要素330は、図2で説明したジョセフソン結合要素200と同様に設計され、動作させることができる。
【0099】
第1のセクション320および第2のセクション340は、ジョセフソン結合要素330を介してパラメトリックに誘導結合される。ジョセフソン結合要素330のリアクタンスは、ポンプ源335によって提供されるポンプトーンによって変調される。
【0100】
第1のセクション320および第2のセクション340の各々は、分路LC共振器の各側にアドミタンスインバータを有する分路LC共振器を含む。
【0101】
第1のセクション320は、C7とラベル付けされたキャパシタとL3とラベル付けされたインダクタとによって形成された分路LC共振器を含む。第1のセクション320の分路LC共振器は、第1の中心周波数f1を有するように配置される。
【0102】
第2のセクション340は、C8とラベル付けされたキャパシタとL4とラベル付けされたインダクタとによって形成された分路LC共振器を含む。第2のセクション340の分路LC共振器は、第2の中心周波数f2を有するように配置される。
【0103】
図3の例では、ジョセフソンパラメトリックカプラ300は、f1=5GHz、f2=7GHz、Δf=400MHzとなるように設計されている。第1のセクション320は、5GHzの中心周波数を有する通過帯域を有するように設計され、第2のセクション340は、7GHzの中心周波数を有するように設計される。したがって、第1のポート310に第1の周波数f1=5GHzの信号が入力されると、この信号は第2の周波数f2=7GHzの信号に変換され、第2のポート350に出力される。
【0104】
ジョセフソン結合要素330は、適切なポンプトーンがポンプ源335から提供されると、5GHzの信号がジョセフソン結合要素330で7GHzの信号に変換されるように動作させることができる。
【0105】
図4aおよび図4bは、図1図3を参照して、図3に記載されたジョセフソンパラメトリックカプラのシミュレーション結果を示す。
【0106】
図4aは、Keysight ADSプログラム内のハーモニックバランスシミュレーションパッケージで実行されたシミュレーションの結果を含むパネル400を示し、SQUIDは、記号的に定義されたデバイスとしてシミュレートされる。
【0107】
パネル400のx軸401は、GHz単位の周波数の離調を表す。パネル400のy軸402は、dB単位の相対的な大きさを表す。
【0108】
この例では、第1のセクション320および第2のセクション340の構成要素の値は、ジョセフソンパラメトリックカプラ300が、400MHz帯域幅を有する4極チェビシェフ応答の全体的な応答を有するように選択された。DC-SQUID210がパラメトリック周波数変換器として動作するとき、ジョセフソン結合要素200、330内に含まれるDC-SQUID210に印加される対応する磁束バイアスは、DC磁束ΦDC=0.224Φ0およびAC磁束ΦAC=0.2Φ0であると評価される。
【0109】
第1の曲線410は、入力ポート310で反射された電力の相対的な大きさを表す。第1の曲線410では、x軸401はf1=5GHzに関する。
【0110】
第2の曲線420は、出力ポート350で出力された電力の相対的な大きさを表す。第2の曲線420では、x軸401はf2=7GHzに関する。
【0111】
第1の曲線410は、0GHz離調の周りのおよそ400MHzの帯域幅にわたって、入力ポート310における電力の反射が20dBを超えて減少することを示す。これは、ジョセフソンパラメトリックカプラ300の入力整合が20dBよりも良好であることを示している。
【0112】
第2の曲線420は、約350MHzの帯域幅にわたって、第1の曲線410によって示される帯域幅の同様の幅を示し、ジョセフソンパラメトリックカプラ300は、約1dBの変換利得を有する電力を出力する。この値は、10×log10(7/5)=1.46dBの変換利得を予測するManley-Rowe関係の結果と一致する。
【0113】
第1の曲線410を考慮すると、第2の曲線420は、2つの帯域間、すなわち、f1=5GHz、f2=7GHz、Δf=350MHzで、帯域幅にわたって平坦な応答を有するf1周辺のΔfからf2周辺のΔfの完全な周波数変換を示す。
【0114】
図4bは、ジョセフソン接合をシミュレートするためのモデルを含む、WRSpiceプログラムを用いて実行されたシミュレーションの結果を含むパネル430を示す。シミュレーションは、過渡モードで実行され、デバイス出力ポート350における信号の大きさを取得するために、時間領域出力が数値的に復調された。
【0115】
パネル430のx軸431は、GHz単位の周波数の離調を表す。パネル400のy軸432は、dB単位の相対的な大きさを表す。
【0116】
曲線440は、出力ポート350で出力される電力の相対的な大きさを表す。曲線440の場合、x軸401はf2=7GHzに関する。
【0117】
曲線440は、図4aに示されたシミュレーション結果によって示された帯域幅の同様の幅である約350MHzの帯域幅にわたって、ジョセフソンパラメトリックカプラ300が、約1dBの変換利得を有する平坦な応答を有する電力を出力することを示す。図4aおよび図4bに示されている、両方のシミュレーション技法は、良く一致し、回路の設計目標f1=5GHz、f2=7GHz、Δf=400MHzと一致する。
【0118】
図2および図3に示される設計では、DC-SQUID210がグランドに分路されているので、DC-SQUIDは、ジョセフソンパラメトリックカプラ100またはジョセフソン結合要素130、200内の他の構成要素に負荷をかける。したがって、DC-SQUID210のインダクタンスを考慮して、他の構成要素が設計され得る。これは可能であり得るが、DC-SQUID210のインダクタンスは、DC-SQUID210に印加される磁束バイアス、すなわち、周波数fpのDC磁束ΦDCおよびAC磁束ΦACに依存するので、設計手順は簡単ではない可能性がある。また、ジョセフソン結合要素130、200によって提供されるパラメトリック相互作用は、DC-SQUID210に接続された構成要素に依存する。
【0119】
このため、ジョセフソン結合要素130、200、330内で、第1の共振器220および第2の共振器230が、ジョセフソン接合結合要素210、330によって提供されるパラメトリック結合に加えて、第1のジョセフソン接合211および第2のジョセフソン接合212を介して受動的に結合されるので、図3に示されるようなジョセフソンパラメトリックカプラ300の設計は困難である可能性がある。言い換えれば、DC-SQUID210はグランドに分路されているので、第2の共振器230は、第1の共振器220の通過帯域において開回路インピーダンスを示さず、その逆も同様であり、第1の共振器220および第2の共振器230は、互いに効果的に負荷をかける。さらに、ここでのすべての構成要素間の相互依存性は、設計および動作マージンを小さくする可能性がある。
【0120】
したがって、ジョセフソン接合結合要素200、330がDC-SQUID210を含む、図2および図3記載された設計では、設計を容易にするために、第1のインダクタンスLSQ、すなわちDC-SQUID210の負荷インダクタンスに近似が使用された。DC-SQUID210の負荷インダクタンスの近似値を用いて目標に十分近い設計が取得されると、ジョセフソンパラメトリックカプラ300の応答を最適化するために、素子値のさらなる同調が必要とされ得る。
【0121】
以下の開示は、これらの問題に対処するジョセフソンパラメトリックカプラ100、300の設計に関する。特に、ジョセフソン結合要素130、200、330は、RF-SQUIDを含むように設計されている。
【0122】
図5は、図1を参照して例示的なジョセフソン結合要素を示す概略図である。
【0123】
ジョセフソン結合要素500は、第1のポート501および第2のポート502を含み、それらの間に信号線が画定される。
【0124】
ジョセフソン結合要素500は、第1のポート501および第2のポート502をそれぞれ介してジョセフソンパラメトリックカプラ100の他の部分に接続することができる。
【0125】
ジョセフソン結合要素500は、第1のポート501と第2のポート502との間に配置されたRF-SQUID510を含む。RF-SQUID510は、図5において点線で区切られている。
【0126】
RF-SQUID510は、L3とラベル付けされた第1のインダクタ513と、L4とラベル付けされた第2のインダクタ514とによって挟まれた、B3とラベル付けされたジョセフソン接合511を含む。
【0127】
ジョセフソン接合511と第1のインダクタ513との間のポートは、第1のポート501に向かう信号線に接続される。ジョセフソン接合511と第2のインダクタ514との間のポートは、第2のポート502に向かう信号線に接続される。第1のインダクタ513および第2のインダクタ514は、グランドに接続されている。ジョセフソン接合511、第1のインダクタ513、グランドおよび第2のインダクタ514は、この順序でループを形成する。
【0128】
図5に示される例は、集中素子で実装されるジョセフソン結合要素500を示す。
【0129】
ジョセフソン結合要素500は、信号線に直列に接続された第1の直列インダクタ521および第2の直列インダクタ531をさらに含む。
【0130】
ジョセフソン結合要素500は、信号線に接続され、グランドに分路された第1の分路キャパシタ522および第2の分路キャパシタ532をさらに含む。
【0131】
第1の直列インダクタ521は、第1のポート501とRF-SQUID510との間に挿入される。
【0132】
第2の直列インダクタ531は、RF-SQUID510と第2のポート502との間に挿入される。
【0133】
第1の分路キャパシタ522は、第1のポート501と第1の直列インダクタ521との間に挿入される。
【0134】
第2の分路キャパシタ532は、第2の直列インダクタ531と第2のポート502との間に挿入される。
【0135】
図5の例では、第1の共振器520は、第1の分路キャパシタ522、第1の直列インダクタ521、および第1のインダクタ513によって形成され得る。第1の共振器520は、第1の中心周波数f1を有するように形成され得る。
【0136】
第2の共振器530は、第2の分路キャパシタ532、第2の直列インダクタ531、および第2のインダクタ514によって形成され得る。第2の共振器530は、第2の中心周波数f2を有するように形成され得る。
【0137】
いくつかの実装形態では、RF-SQUID510は、RF-SQUID510の低減されたインダクタンスβLが1未満、βL<1であるように構成され得る。低減されたインダクタンスβLは、Lがループインダクタンスであり、Φ0が磁束量子である場合、
【0138】
【数8】
【0139】
として定義される。L、すなわちループインダクタンスは、第1のインダクタ513と第2のインダクタ514のインダクタンス値の和、すなわちL3+L4に対応する。
【0140】
この条件は、RF-SQUID510のループにおいて安定した磁束量子状態が見出されないn=0の磁束量子状態に対応する。この状態は、第1のインダクタ513および第2のインダクタ514のインダクタンス値、すなわちL3およびL4を調整することによって、または臨界電流Icを制御するためにジョセフソン接合511の形状を変化させることによって達成され得る。
【0141】
いくつかの実装形態では、RF-SQUID510は、第1のインダクタ513(L3の値を有する)が二次巻線である超伝導変圧器を介して、周波数fpのAC磁束ΦACでポンプ源135によってポンピングされ得る。
【0142】
あるいは、いくつかの実装形態では、RF-SQUID510は、第2のインダクタ514(L4の値を有する)が二次巻線である超伝導変圧器を介して、周波数fpのAC磁束ΦACでポンプ源135によってポンピングされ得る。
【0143】
あるいは、いくつかの実装形態では、RF-SQUID510を、その追加のインダクタが二次巻線である超伝導変圧器を介して周波数fpのAC磁束ΦACでポンプ源135によってポンピングすることができるように、追加のインダクタがRF-SQUID510の超伝導ループ内に配置され得る。
【0144】
いくつかの実装形態では、RF-SQUID510は、超伝導変圧器の一次巻線は図5には示されていないが、第1のインダクタ513(L3の値を有する)または第2のインダクタ514(L4の値を有する)が二次巻線である超伝導変圧器を介してDC磁束バイアスΦDCで磁束バイアスされてもよい。
【0145】
あるいは、いくつかの実装形態では、RF-SQUID510は、RF-SQUID510を横断する磁界を印加することによって、DC磁束バイアスΦDCで磁束バイアスされ得る。
【0146】
ジョセフソン接合511のインダクタンスは、RF-SQUID510に印加されるDC磁束バイアスΦDCに依存する。RF-SQUID510が、接合を横切る平衡位相δ0がπ/2となるように、DC磁束バイアスΦDCでバイアスされると、ジョセフソン接合511の実効インダクタンスが発散する。この条件は、RF-SQUID510の低減されたインダクタンスに依存し、
【0147】
【数9】
【0148】
と定義され、
【0149】
【数10】
【0150】
の関係によって定義される。
【0151】
上記で説明したように、いくつかの実装形態では、RF-SQUID510は、RF-SQUID510の低減されたインダクタンスが1未満、βL<1であるように構成され得る。たとえば、βL=0.9である場合、ジョセフソン接合511の実効インダクタンスは、ΦDC=0.39Φ0で発散する。ジョセフソン接合511の実効インダクタンスが発散すると、第1の共振器520と第2の共振器530との間の受動誘導結合は消滅し、ジョセフソン結合要素500によって提供される結合は、周波数fpで提供されるAC磁束がある場合、純粋にパラメトリックになる。DC磁束の場合、結合は消滅する。
【0152】
この場合、第1および第2の共振器520、530は、他方の共振器の周波数帯域において開回路インピーダンスであるように見え、第1のセクション120と第2のセクション140との間に寄生相互作用はない。これにより、バンドパスフィルタ120、140の2つのセグメントおよびRF SQUID510を、フィルタを設計する際に別々の要素として扱うことが可能になる。したがって、すべての回路素子を試行錯誤または反復なしに計算することができるので、設計プロセスを大幅に簡略化することができる。ジョセフソン接合511の実効インダクタンスが発散するのと同じ直流磁束で、インダクタンス対磁束を表す曲線の勾配が最大になる。したがって、パラメトリックポンピングもこの動作点で最も効率的である。
【0153】
いくつかの実装形態では、ジョセフソン結合要素500が設計された後、ジョセフソン結合要素500は、第1のセクション120と第2のセクション140との間に挿入され得る。たとえば、4極バンドパスネットワークでは、極のうちの2つが、上述したジョセフソン結合要素500に含まれる第1の共振器520および第2の共振器530によって表され、以下でより詳細に説明するように、もう1つの共振器を、アドミタンスインバータを介して、ジョセフソン結合要素500の各側で、第1のポート501および第2のポート502に追加することができる。第1のアドミタンスインバータを介して第1のポート501に接続された追加の共振器は、共振周波数f1を有するように構成することができ、第2のアドミタンスインバータを介して第2のポート502に接続された追加の共振器は、共振周波数f2を有するように構成することができる。
【0154】
4極バンドパスネットワークを構成することを例として、ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300を設計する方法について以下で説明する。
【0155】
図6は、ジョセフソンパラメトリックカプラの設計概念を示す図である。
【0156】
ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300は、受動フィルタ合成方法と、パラメトリック結合モードシステムを記述する結合モード理論アプローチとの間の対応を見つけることによって設計することができる。結合モード理論は、量子光学に由来し、非相反パラメトリックデバイスの設計に成功している。受動バンドパスフィルタ設計理論は、何十年もの間、工学的実践であった。結合が受動的であろうとパラメトリックであろうと、結合された共振器の任意のシステムに対処するためにこれらの説明の両方を使用することにより、ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300などの広帯域パラメトリックデバイスを設計するために確立されたエンジニアリング技法を使用することが可能になる。
【0157】
特に、以下に説明される方法は、ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300の場合のように、ポートが異なる周波数であり、結合係数が複雑であり得る、結合共振器の任意のシステムのためのSパラメータを計算するための方法を提供し得る。この方法は、結合された共振器で形成された4極バンドパスフィルタの例を用いて説明される。
【0158】
第1の図610は、4極バンドパスフィルタネットワークの結合モード理論表現を示すグラフである。第1の図610は、第1の共振器611、第2の共振器612、第3の共振器613、および第4の共振器614がこの順に直列に接続されていることを示している。各共振器611、612、613、614は、グラフ中のノードによって表される。ポートAとラベル付けされた入力ポート610は、第1の共振器611に接続され、ポートBとラベル付けされた出力ポート602は、第4の共振器614に接続される。この例では、4つのモード、すなわち、それぞれ第1の共振器611および第2の共振器612における周波数ωAでのモードA1およびA2、ならびに、それぞれ第3の共振器613および第4の共振器614における周波数ωBでのモードB3およびB4が考慮される。これら4つのモード611、612、613、614は結合され、この構成は結合強度を決定するための設計要件として帯域幅Δωを有すると仮定される。モードA1は、レートγAで入力ポート601の外部ポートに結合され、モードB4は、レートγBで出力ポート602に結合される。ポートに接続されていない内部モード、すなわち共振器612、613のモードについては、減衰率をγ=0に設定する。同様に、共振器611、614のモードは、内部損失を有さず、それらの関連する減衰率γAおよびγBは、単にポート601、602へのそれらの結合によるものであると仮定される。これは、共振器611、612、613、614が超伝導であり、非常に低い内部損失を有するという事実を反映する近似である。また、本実施形態で使用可能なチェビシェフおよびバターワースのプロトタイプの場合、γABと設定されている。たとえば、モードの周波数は、ωA=5GHzおよびωB=7GHzとなるように選択することができる。構成の帯域幅Δωは、350MHzであるωB付近の5%の分数帯域幅になるように設定することができる。
【0159】
共振器611、612、613、614間の結合を表す結合係数は、βijによってラベル付けされ、共振器611、612、613、614は各々、隣接する共振器または入出力ポート601、602に接続される。たとえば、第1の共振器611と第2の共振器612との間の結合係数は、β12である。ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300の例では、β23によって表される第2の共振器612と第3の共振器613との間の結合は、ジョセフソン結合要素130、200、330、500によって提供されるパラメトリック相互作用に対応する。β23* 32のとき、β23は、ジョセフソンパラメトリック変換器によって提供されるパラメトリック結合に対応する。特に、実際の正のβ23は、受動結合に対応する。β23=-β* 32 のとき、β23は、ジョセフソンパラメトリック増幅器によって提供されるパラメトリック結合に対応する。これらの規則は、パラメトリック変換器ではfp=f2-f1、パラメトリック増幅器ではfp=f1+f2におけるポンプフラックスの結果である。これらの規則はF. Lecocq, L. Ranzani, G. A. Peterson, K. Cicak, R. W. Simmonds, J. D. Teufel, and J. Aumentado, Phys. Rev. Applied 7, 024028 (2017)に概説されている。
【0160】
第2の図620は、バンドパスフィルタネットワークの設計方法を示す。バンドパスフィルタ設計は、必要な伝送プロファイルを選択することから始まり、そこから、フィルタセクションNの所望の数、フィルタの中心周波数ω0、分数帯域幅
【0161】
【数11】
【0162】
およびチェビシェフまたはバターワース応答関数などの応答タイプを選択することができる。ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300の例では、フィルタセクションの数N=4である。次いで、対応する正規化されたフィルタ係数、または正規化された要素値g0~gN+1,g0~g5を、マイクロ波工学の分野における実践として利用可能なテーブルから見出すことができる。係数g0は、通常、表から省略され、通常、定義上、g0=1であり、入力ポート601におけるソースのコンダクタンスを表す。最後の係数g5は、出力ポート602における負荷のコンダクタンスを表す。正規化されたフィルタ係数g0~g5が指定されると、N=4に対応する4つの共振器が設計される。図5の例のように、共振器は、集中素子LC共振器、すなわち、特性インピーダンスZ1~Z4を有する第1の分路共振器611、621、第2の分路共振器612、622、第3の分路共振器613、623、第4の分路共振器614、624として構成され得る。第1の分路共振器611、621および第2の分路共振器612、622は、f1の共振周波数を有するように設計されてもよく、第3の分路共振器613、623および第4の分路共振器614、624は、f2の共振周波数を有するように設計されてもよい。すべての結合が受動的である場合にのみ、f1=f2であり、この周波数はフィルタの中心周波数ω0とすることができる。次いで、分路共振器611、621、612、622、613、623、614、624が接続され、第2の図620に示すように、合成アドミタンスインバータJijを介して1次元ネットワークを形成する。たとえば、第2の分路共振器622と第3の分路共振器623とは、アドミタンスインバータJ23を介して接続され、入力ポート601と第1の分路共振器621とは、アドミタンスインバータJ01を介して接続される。
【0163】
アドミタンスインバータJ01を指す図6のパネル630に示すように、アドミタンスインバータは、キャパシタまたはインダクタのネットワークとして構成され得る。しかしながら、アドミタンスインバータの実装は、これらの例に限定されない。アドミタンスインバータは、4分の1波長変圧器、伝送線路、およびリアクタンス素子として実装され得る。各アドミタンスインバータのアドミタンス値は、アドミタンスインバータによって接続された分路共振器および/または入出力ポート601、602の特性インピーダンスおよび正規化フィルタ係数によって決定され、次式で与えられる。
【0164】
【数12】
【0165】
たとえば、入力ポート601と第1の分路共振器621とを接続するアドミタンスインバータのアドミタンスは、
【0166】
【数13】
【0167】
であり、アドミタンスインバータJ12を構成するために、それに応じてキャパシタまたはインダクタを選択することができる。
【0168】
バンドパスフィルタネットワークの設計方法では、上述の手順は、結合された共振器のシステムに対して、散乱行列Sの要素である完全に規定されたSパラメータを提供する。しかしながら、第1の図610に示される結合モード理論表現とは対照的に、単一の中心周波数ω0のみを設計のために使用することができることに留意されたい。言い換えれば、アドミタンスインバータJ23の位置は、ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300内のジョセフソン結合要素130、200、330、500の位置に対応するが、設計方法は、2つの周波数間の変換に関連するパラメトリック結合を記述することができない。言い換えれば、アドミタンスインバータはすべて受動的であるため、異なる周波数を有する共振器間の結合を提供することができない。
【0169】
この問題に対処するために、本明細書は、結合モード記述とフィルタ理論記述との間に対応を確立することによる方法を提供する。
【0170】
図6に示すような結合モード理論記述とフィルタ理論記述との間の対応は、以下のようになり得る。
【0171】
【数14】
【0172】
【0173】
【数15】
【0174】
および
【0175】
【数16】
【0176】
式中、γ=γABである。言い換えれば、結合モード理論からの結合係数βijは、フィルタ設計理論からの正規化されたフィルタ係数giに関して評価することができ、インバータ値Jijに関連付けられる。
【0177】
これまでに説明した手順は、たとえば、0.01dBリップルを有する4極チェビシェフネットワークで構築されたジョセフソンパラメトリックカプラ100、300の設計に適用することができる。N=4から、設計テーブルから見出される正規化されたフィルタ係数は、g0=1.0、g1=0.7128、g2=1.2003、g3=1.3212、g4=0.6476、およびg5=1.1007である。結合モード理論のグラフを表す第1の図610では、モードの周波数は、ωA=5GHzおよびωB=7GHzとなるように選択される。ネットワークの帯域幅Δωは、約350MHzであるωB付近の5%の分数帯域幅になるように選択される。次いで、γ=γAB=491MHz、β1234=0.385およびβ23=0.283である。アドミタンスインバータJijのアドミタンスは、正規化されたフィルタ係数g0~g5から直接、またはγおよびβij値を使用して評価することができる。
【0178】
共振器621、622、623、624が設計され、結合係数が決定されると、ジョセフソン結合要素130、200、330、500の動作条件は、第2の分路共振器622と第3の分路共振器623との間の規定の結合係数β23=0.283に基づいて決定することができる。
【0179】
図5で説明したように、DC磁束動作点は、ジョセフソン接合511のインダクタンスを発散させるために、Lがループインダクタンスである場合、
【0180】
【数17】
【0181】
によって決定することができる。結合係数β23は、i=2、j=3として
【0182】
【数18】
【0183】
によって、第2の分路共振器622と第3の分路共振器623との間の相互誘導結合M23の変調の振幅に関連し、2つの共振器間のパラメトリック相互作用を記載しているF. Lecocq et al., Phys. Rev. Applied 7,024028 (2017)に与えられた結果を再構成する。Φacは、ポンプ源135によって供給されるポンプ電流によってRF SQUID内に誘導されるAC磁束のポンプ振幅である。LjおよびLk、共振器のインダクタンス値は、共振周波数を設計する際に選択されるか、または共振器が集中素子で実装されていない場合には、各共振器の共振周波数およびインピーダンスから計算することができる。
【0184】
【数19】
【0185】
は、ジョセフソン結合要素500に印加される磁束バイアスに対する共振器jとkとの間の相互誘導結合の傾きに対応する。
【0186】
【数20】
【0187】
の計算は、接合臨界電流IcおよびRF-SQUID510の線形インダクタンスLのみに依存する。相互結合Mは、
【0188】
【数21】
【0189】
によって与えられ、Ljは、1/cosδ0に比例する接合インダクタンスに対応し、Lgは、それらが同じになるように設定されたときの第1のインダクタ513と第2のインダクタ514のインダクタンス値、L3、L4である。他のすべての項は既知であるので、Φacは、演算中に上記の関係から所望のβ23を与える
【0190】
【数22】
【0191】
によって計算することができる。
【0192】
上述の手順は、ジョセフソンパラメトリックカプラ100、300のためのバンドパスネットワークを合成するための方法を提供する。この手順はまた、試行錯誤または反復なしに、結合された共振器の任意のシステムのSパラメータを計算するための方法を提供し、この場合、ポートは、パラメトリックプロセスの場合のように、異なる周波数であり得、結合は複雑である可能性がある。この手順は、ケースN=4の例を用いて説明したが、この概念は、任意の数の共振器または極に適用される。
【0193】
図7は、図6を参照して、ジョセフソンパラメトリックカプラを設計する例示的な手順を示すフローチャートである。
【0194】
ステップS710において、第1のセクションに第1の数の共振器j、第2のセクションに第2の数の共振器N-jが設けられる。図6の例では、N=2およびj=2である。
【0195】
ステップS720において、第1の共振周波数ωAを第1のセクションの共振器に提供し、第2の共振周波数ωBを第2のセクションの共振器に提供する。図6の例では、モードの周波数は、ωA=5GHzおよびωB=7GHzに選択される。
【0196】
ステップS730において、第1のセクションおよび第2のセクションの帯域幅Δωが提供される。図6の例では、帯域幅Δωは、約350MHzであるωB付近の5%の分数帯域幅になるように選択される。
【0197】
ステップS740において、共振器の各々にインピーダンスZ1~ZNが提供される。分路共振器621、622、623、624が集中素子を有するLC共振器として構成される場合、インピーダンスZ1~ZNは、インダクタンス値およびキャパシタンス値が選択されたときに決定される。
【0198】
実際には、ステップS720において、パラメータ的に結合された第jおよび第(j+1)の共振器の共振周波数が選択されると、キャパシタンス値およびインダクタンス値を選択することができる。これはまた、ステップS740におけるように、これら2つの共振器のインピーダンスを決定する。第1のセクションの共振器の共振周波数は、それぞれ、ステップS720に対応するものと同じになるように決定される。
【0199】
ステップS750において、正規化された要素値g0~gN+1が提供される。g0は、入力ポートにおける正規化インピーダンスを表し、gN+1は、出力ポートにおける正規化インピーダンスを表し、g1~gNは、N個の共振器の正規化インピーダンスを表す。図6の例では、N=4である場合、設計テーブルから見出される正規化されたフィルタ係数は、Chebyshev応答の場合、g0=1.0、g1=1.7128、g2=1.2003、g3=1.3212、g4=0.6476、およびg5=1.1007である。
【0200】
ステップS760では、入力ポートと第1のセクションとの間、および第2のセクションと出力ポートとの間のアドミタンス値J01~JN,N+1および減衰率γが、以下によって評価される。
【0201】
【数23】
【0202】
および
【0203】
【数24】
【0204】
【0205】
【数25】
【0206】
式中、γ=YA=YBである。
【0207】
アドミタンスインバータは、たとえば、インダクタンス値またはキャパシタンス値を選択することによって、それに応じて構成することができる。
【0208】
ステップS770において、第1のセクションに含まれる第jの共振器と、第2のセクションに含まれる第j+1の共振器との間の結合度を表す結合係数βj,j+1が計算される。
【0209】
【数26】
【0210】
ステップS780において、結合係数βj,j+1に基づいて、ジョセフソン接合結合要素に印加するためのAC磁束ΦACが、以下によって計算され、
【0211】
【数27】
【0212】
たとえば、図5で説明したジョセフソンパラメトリックカプラ500のジョセフソン接合結合要素510など、ジョセフソン接合結合要素に印加されるDC磁束ΦDCは、以下によって与えられる。
【0213】
【数28】
【0214】
Lは、ジョセフソン接合結合要素の線形インダクタンスであり、Icは、ジョセフソン接合の臨界電流であり、Φ0は、磁束量子であり、
【0215】
【数29】
【0216】
は、ジョセフソン結合要素に印加される磁束バイアスに対する第jの共振器と第(j+1)の共振器との間の相互誘導結合の傾きであり、LjおよびLj+1は、それぞれ、第jの共振器および第(j+1)の共振器のインダクタンス値である。
【0217】
図8は、例示的なジョセフソンパラメトリックカプラを示す概略図である。特に、図8は、図7の手順に従って構成されたジョセフソンパラメトリックカプラ800を示す。
【0218】
ジョセフソンパラメトリックカプラ800は、入力ポート810と、第1のセクション820と、ジョセフソン接合結合要素830と、ポンプ源835と、第2のセクション840と、出力ポート850とを含む。
【0219】
図8の例では、ジョセフソンパラメトリックカプラ800は、集中素子で実装される。
【0220】
図8において、第1のセクション820、ジョセフソン結合要素830、ポンプ源835、および第2のセクション840は、点線で区切られている。
【0221】
ジョセフソン結合要素830は、第1のセクション820と第2のセクション840との間に挿入され、これらに電気的に接続されている。ジョセフソン結合要素830は、図5で説明したジョセフソン結合要素500である。
【0222】
第1のセクション820と第2のセクション840は、ジョセフソン結合要素830を介してパラメトリックに結合されている。ジョセフソン結合要素830のリアクタンスは、ポンプ源835によって提供されるポンプトーンによって変調される。
【0223】
第1のセクション820および第2のセクション830は各々、図6および図7で説明したように、分路LC共振器の各側にアドミタンスインバータを有する分路LC共振器を含む。
【0224】
整合端子である入力ポート310は、キャパシタネットワーク、たとえば、C5とラベル付けされた直列キャパシタと1対の分路キャパシタとの組合せによって形成されるアドミタンスインバータを介して分路LC共振器に接続される。入力ポート310と、第1のセクション320内の分路LC共振器と、L3とラベル付けされたインダクタとを接続するアドミタンスインバータの分路キャパシタは、分路LC共振器のキャパシタと並列であるので、C7とラベル付けされたキャパシタのキャパシタンスを決定するために、これらのキャパシタンス値を追加することができる。
【0225】
図5で説明したようなRF-SQUIDを含むジョセフソン結合要素830は、C7とラベル付けされたキャパシタとL3とラベル付けされたインダクタとで形成された第1のセクション820の分路LC共振器に、C2とラベル付けされた直列キャパシタを含む別のアドミタンスインバータを介して接続される。図6および図7で上述したように、C2とラベル付けされた直列キャパシタのキャパシタンス値は、
【0226】
【数30】
【0227】
によって評価されたアドミタンスインバータのアドミタンス値、およびパネル630に示されたアドミタンスインバータの構成、すなわち
【0228】
【数31】
【0229】
に基づいて決定することができる。
【0230】
値-C2を有するアドミタンスインバータの分路キャパシタは、図8には示されていない。これらは、LC分路共振器のC7とラベル付けされたキャパシタおよびジョセフソン結合要素830のC1とラベル付けされたキャパシタに並列であるので、アドミタンスインバータの分路キャパシタのキャパシタンス値-C2は、C7およびC1とラベル付けされたこれらのキャパシタに追加することができる。同様に、入力ポート810と第1のセクション820の分路LC共振器とを、C5とラベル付けされた直列キャパシタとともに接続するアドミタンスインバータの一部を形成する分路キャパシタは、C7とラベル付けされたキャパシタのキャパシタンス値を修正することによって組み込むことができる。したがって、C1およびC7とラベル付けされたキャパシタのキャパシタンス値は、最初に共振器の中心周波数ωAについて決定され、次いで、共振器の各側にアドミタンスインバータの分路キャパシタを組み込むように修正される。
【0231】
第2のセクション840は、C8とラベル付けされたキャパシタとL4とラベル付けされたインダクタとによって形成された分路LC共振器を含む。第2のセクション340の分路LC共振器は、第2の中心周波数ωBを有するように配置される。C3およびC6とラベル付けされた直列キャパシタは、直列キャパシタC2およびC5と同様の方法で決定することができる。
【0232】
この例では、ジョセフソンパラメトリックカプラ800は、ωA=5GHz、ωB=7GHz、Δω=350MHzとなるように設計されている。第1のセクション820は、5GHzの中心周波数を有する通過帯域を有するように設計され、第2のセクション840は、7GHzの中心周波数を有するように設計される。この例では、第1のセクション820および第2のセクション840の構成要素の値は、ジョセフソンパラメトリックカプラ800が、350MHz帯域幅を有する4極チェビシェフ応答の全体的な応答を有するように選択された。
【0233】
ジョセフソン結合要素830は、適切なポンプトーンΦACがポンプ源835から提供され、RF-SQUIDが適切なΦDC値でバイアスされると、5GHzの信号がジョセフソン結合要素830で7GHzの信号に変換されるように設計される。したがって、第1のポート810に第1の周波数f1=5GHzの信号が入力されると、この信号は第2の周波数f2=7GHzの信号に変換され、第2のポート850に出力される。帯域幅内では、入力信号の周波数は、出力においてf2-f1だけ変化する。この例では、DC磁束ΦDC=0.39Φ0、AC磁束ΦAC=0.05Φ0である。
【0234】
図9は、図8を参照して図8に記載されたジョセフソンパラメトリックカプラのシミュレーション結果を示す。
【0235】
図9は、動作周波数および伝達特性など図8の回路と同じ仕様を使用して、WRSpiceプログラムを用いて実行されたシミュレーションの結果を含むパネル930を示す。シミュレーションは、過渡モードで実行され、デバイス出力ポート850における信号の大きさを取得するために、時間領域出力が数値的に復調された。このシミュレーションにおけるポンプ振幅はΦAC=0.05Φ0であった。
【0236】
パネル930のx軸931は、GHz単位の周波数の離調を表す。パネル400のy軸932は、dB単位の相対的な大きさを表す。
【0237】
曲線940は、出力ポート850で出力される電力の相対的な大きさを表す。曲線940の場合、x軸931はωB=7GHzに関する。
【0238】
第1の曲線940は、約350MHzの帯域幅にわたって、Manley Rowe関係からの予想される変換利得と一致する約1.4dBの変換利得を有する平坦な応答を有する、を示す。
【0239】
したがって、シミュレーション結果は、図8に示すジョセフソンパラメトリックカプラ800が設計仕様に従って機能することを示している。
【0240】
3つ以上の別個の周波数で動作するように、回路内に2つ以上のジョセフソン接合結合要素130、200、330、500、830を有する設計が存在し得る。その場合、2つ以上のポンプトーンを設ける必要がある。
【0241】
本明細書で説明される主題および動作の実装は、入力電力が十分に低く、動作温度がデバイスの超伝導温度未満であり、低損失および低挿入損失が必要とされる、適切な回路で実装することができる。そのような回路の例は、本明細書に開示された構造およびそれらの構造的等価物を含む、またはそれらの1つ以上の組合せにおける、量子情報処理システムとも呼ばれる量子計算システムを含み得る。「量子計算システム」および「量子情報処理システム」という用語は、限定はしないが、量子コンピュータ、量子暗号システム、トポロジカル量子コンピュータ、または量子シミュレータを含み得る。
【0242】
量子情報および量子データという用語は、量子システムによって搬送され、保持され、または量子システムに記憶される情報またはデータを指し、最小の非自明なシステムは、キュビット、たとえば、量子情報の単位を定義するシステムである。「キュビット」という用語は、対応する文脈において2レベルシステムとして適切に近似され得るすべての量子システムを包含することが理解される。そのような量子システムは、たとえば、2つ以上のレベルを有するマルチレベルシステムを含み得る。例として、そのようなシステムは、原子、電子、光子、イオン、または超伝導キュビットを含むことができる。いくつかの実装形態では、計算基底状態は、グランドおよび第1の励起状態で識別されるが、計算状態がより高いレベルの励起状態で識別される他の設定も可能であることが理解される。量子メモリは、高い忠実度および効率で長時間量子データを記憶することができるデバイスであり、たとえば、光が伝送のために使用され、物質が重ね合わせまたは量子コヒーレンスなどの量子データの量子特徴を記憶および保存するための光-物質界面であると理解される。
【0243】
量子回路素子(量子計算回路素子とも呼ばれる)は、量子処理動作を実行するための回路素子を含む。すなわち、量子回路素子は、重ね合わせおよび絡み合いなどの量子力学的現象を利用して、データに対する演算を非決定論的に実行するように構成される。キュビットなどいくつかの量子回路素子は、2つ以上の状態の情報を同時に表し、操作するように構成することができる。超伝導量子回路素子の例には、とりわけ、量子LC発振器、キュビット(たとえば、磁束キュビット、位相キュビット、または電荷キュビット)、および超伝導量子干渉デバイス(SQUID)(たとえば、RF-SQUIDまたはDC-SQUID)などの回路素子がある。
【0244】
対照的に、古典的な回路素子は、一般に、決定論的な方法でデータを処理する。古典的な回路素子は、データがアナログまたはデジタル形式で表される、データに対する基本的な算術演算、論理演算、および/または入出力演算を実行することによって、コンピュータプログラムの命令を集合的に実行するように構成することができる。いくつかの実装形態では、古典的な回路素子を使用して、電気接続または電磁接続を介して量子回路素子にデータを送信し、かつ/または量子回路素子からデータを受信することができる。古典的な回路素子の例には、CMOS回路に基づく回路素子、高速単一磁束量子(RSFQ)デバイス、逆量子論理(RQL)デバイス、およびERSFQデバイスがあり、これらは、バイアス抵抗器を使用しないRSFQのエネルギー効率のよいバージョンである。
【0245】
本明細書に記載される量子回路素子および古典的な回路素子の製造は、超伝導体、誘電体および/または金属などの1つまたは複数の材料の堆積を伴い得る。選択された材料に応じて、これらの材料は、他の堆積プロセスの中でも、化学蒸着、物理蒸着(たとえば、蒸着またはスパッタリング)、またはエピタキシャル技法などの堆積プロセスを使用して堆積することができる。本明細書に記載の回路素子を製造するプロセスは、製造中にデバイスから1つまたは複数の材料を除去することを伴い得る。除去される材料に応じて、除去プロセスは、たとえば、ウェットエッチング技法、ドライエッチング技法、またはリフトオフプロセスを含むことができる。本明細書に記載の回路素子を形成する材料は、既知のリソグラフィ技法(たとえば、フォトリソグラフィまたは電子ビームリソグラフィ)を使用してパターン形成することができる。
【0246】
超伝導量子回路素子および/または本明細書に記載の回路素子などの超伝導古典回路素子を使用する量子計算システムの動作中、超伝導回路素子は、超伝導材料が超伝導特性を示すことを可能にする温度までクライオスタット内で冷却される。超伝導体(あるいは超伝導)材料は、超伝導臨界温度以下で超伝導特性を示す材料として理解することができる。超伝導材料の例には、アルミニウム(約1.2ケルビンの超伝導臨界温度)、インジウム(約3.4ケルビンの超伝導臨界温度)、NbTi(約10ケルビンの超伝導臨界温度)、およびニオブ(約9.3ケルビンの超伝導臨界温度)がある。したがって、超伝導トレースおよび超伝導接地面などの超伝導構造は、超伝導臨界温度以下で超伝導特性を示す材料から形成される。
【0247】
本明細書は、多くの具体的な実装の詳細を含むが、これらは、特許請求の範囲に対する限定ではなく、むしろ特定の実装に固有であり得る特徴の説明として解釈されるものとする。別個の実装形態の文脈において本明細書で説明されるいくつかの特徴は、単一の実装形態において組み合わせて実装することもできる。逆に、単一の実装形態の文脈で記載されている様々な特徴は、複数の実装形態で別々にまたは任意の適切な部分組合せで実装することもできる。さらに、特徴は、いくつかの組合せで作用するものとして上述され、当初はそのように請求され得るが、いくつかの場合、請求された組合せからの1つまたは複数の特徴を、組合せから削除することができ、請求された組合せは、部分組合せ、または部分組合せの変形を対象とし得る。
【0248】
同様に、動作が特定の順序で図面に示されているが、これは、そのような動作が、示された特定の順序、もしくは逐次的な順序で実行されること、または望ましい結果を達成するために、図示されたすべての動作が実行されることを必要とするものとして理解されないものとする。たとえば、特許請求の範囲に列挙されたアクションは、異なる順序で実行され、依然として望ましい結果を達成することができる。いくつかの状況では、マルチタスキングおよび並列処理が有利であり得る。さらに、上述の実装形態における様々な構成要素の分離は、すべての実装形態においてそのような分離を必要とするものとして理解されるべきではない。
【0249】
本発明のいくつかの実施形態について説明した。それにもかかわらず、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく様々な修正を加えることができることを理解されよう。したがって、他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内にある。
【符号の説明】
【0250】
100 ジョセフソンパラメトリックカプラ
110 入力ポート
120 第1のセクション
130 ジョセフソン結合要素
135 ポンプ源
140 第2のセクション
150 出力ポート
200 ジョセフソン結合要素
201 第1のポート
202 第2のポート
210 DC-SQUID
211 第1のジョセフソン接合
212 第2のジョセフソン接合
213 第1のインダクタ
214 第2のインダクタ
220 第1の共振器
221 第1の直列インダクタ
222 第1の分路キャパシタ
230 第2の共振器
231 第2の直列インダクタ
232 第2の分路キャパシタ
300 ジョセフソンパラメトリックカプラ
310 入力ポート
320 第1のセクション
330 ジョセフソン結合要素
335 ポンプ源
340 第2のセクション
350 出力ポート
400 パネル
430 パネル
500 ジョセフソン結合要素
501 第1のポート
502 第2のポート
510 RF-SQUID
511 ジョセフソン接合
513 第1のインダクタ
514 第2のインダクタ
520 第1の共振器
521 第1の直列インダクタ
522 第1の分路キャパシタ
530 第2の共振器
531 第2の直列インダクタ
532 第2の分路キャパシタ
601 入力ポート
602 出力ポート
610 入力ポート
611 第1の共振器
612 第2の共振器
613 第3の共振器
614 第4の共振器
621 第1の分路共振器
622 第2の分路共振器
623 第3の分路共振器
624 第4の分路共振器
800 ジョセフソンパラメトリックカプラ
810 入力ポート
820 第1のセクション
830 ジョセフソン接合結合要素
835 ポンプ源
840 第2のセクション
850 出力ポート
図1
図4a
図4b
図6
図7
図9