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特許7600261無機コーティング層が形成された負極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】無機コーティング層が形成された負極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1393 20100101AFI20241209BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241209BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/1395
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022560126
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 KR2021013711
(87)【国際公開番号】W WO2022085995
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0134992
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・ヒョ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・フン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ミン・チョル・チャン
(72)【発明者】
【氏名】ヨ・ハン・クォン
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・スク・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ソク・イル・ユン
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511916(JP,A)
【文献】特開2010-073402(JP,A)
【文献】特開2012-028729(JP,A)
【文献】特開2018-142528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の少なくとも一面に負極活物質を含む負極スラリーをコーティングして負極活物質層が形成された負極を製造するステップと、
前記負極を前リチウム化するステップと、
前リチウム化された負極をCO雰囲気下でエージングして、負極活物質層の表面に無機コーティング層を形成するステップとを含み、
エージング時のCOの圧力は0.1~10mTorrである、負極の製造方法。
【請求項2】
前記無機コーティング層は、LiO、LiOHおよびLiCOからなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含む、請求項1に記載の負極の製造方法。
【請求項3】
前記無機コーティング層は、LiO、LiOHおよびLiCOをすべて含む、請求項1または2に記載の負極の製造方法。
【請求項4】
前記負極活物質は、黒鉛系活物質およびシリコン系活物質からなる群から選択された1種以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の負極の製造方法。
【請求項5】
前記負極を前リチウム化するステップは、負極活物質層上にリチウム金属を直接接触させて行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の負極の製造方法。
【請求項6】
前記負極を前リチウム化するステップは、
リチウム金属フィルムを負極活物質層上に接合して実施することを含む、請求項5に記載の負極の製造方法。
【請求項7】
前記負極を前リチウム化するステップは、
前記負極とリチウム金属を連結した後に電気化学充電して行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の負極の製造方法。
【請求項8】
エージング温度は20~60℃である、請求項1から7のいずれか一項に記載の負極の製造方法。
【請求項9】
エージング時間は10~60時間である、請求項1から8のいずれか一項に記載の負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年10月19日付の韓国特許出願第10-2020-0134992号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、負極の製造方法および上記負極の製造方法によって製造された負極に関するものであって、詳細には、無機コーティング層が形成された負極の製造方法およびそれによって製造された負極に関するものである。
【背景技術】
【0003】
最近、充放電が可能な二次電池は、ワイヤレスモバイル機器のエネルギー源として広く使用されている。また、二次電池は、化石燃料を使用する既存のガソリン車、ディーゼル車などによる大気汚染などを解決するための方案として提示されている電気自動車、ハイブリッド電気自動車などのエネルギー源としても注目されている。このように、二次電池を使用する応用分野は、二次電池の長所により非常に多様化しており、今後は今よりも多くの分野と製品に二次電池が適用されると予想される。
【0004】
このような二次電池は、電極と電解液の構成によってリチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムポリマー電池などに分類されることもあり、そのうち電解液の漏液の可能性が少なく、製造が容易なリチウムイオンポリマー電池の使用量が増えている。一般的に、二次電池は、電池ケースの形状によって、電極組立体が円筒形または角形の金属缶に内蔵されている円筒形電池および角形電池と、電極組立体がアルミニウムラミネーティングシートのパウチ型ケースに内蔵されているパウチ型電池に分類される。電池ケースに内蔵される電極組立体は、正極、負極、及び上記正極と上記負極との間に介在された分離膜の構造からなり、充放電が可能な発電素子であって、活物質が塗布された長いシート状の正極と負極との間に分離膜を介在して巻取したゼリーロール型、および所定のサイズの多数の正極と負極を分離膜に介在した状態で順次に積層したスタック型に分類される。
【0005】
上記正極及び負極は、それぞれ正極集電体及び負極集電体に正極活物質を含む正極スラリー及び負極活物質を含む負極スラリーを塗布して正極活物質層及び負極活物質層を形成した後、それを乾燥及び圧延して形成される。
【0006】
このような負極の場合、初期充電時に、負極表面に固体電解質界面層(solid electrolyte interface layer、SEI layer)のような不動態皮膜が形成される。上記不動態被膜は有機溶媒が負極内に挿入されることを防止し、有機溶媒の分解反応を抑制するので、負極構造を安定化し、負極の可逆性を向上させ、負極としての使用を可能にする。しかし、不動態皮膜の形成反応は非可逆的な反応である。そのため、リチウムイオンの消耗をもたらして電池の容量を減少させるという問題がある。また、電池のサイクルが繰り返されることによって、リチウムイオンの消耗が発生して容量の減少、サイクル寿命の低下が発生するという問題がある。
【0007】
そこで、上記負極にリチウムを挿入させる方法等によって前リチウム化(pre-lithiation)することで、負極表面に予め不動態皮膜を形成させ、容量低下の防止、サイクル寿命の向上を図る方法が開発されている。このような前リチウム化の方法には、リチウム金属を負極表面に直接接触させる物理的な方法、およびリチウム金属と負極を連結した後に電気化学的に充電する方法がある。
【0008】
ただし、このように前リチウム化された負極は還元された状態であるため、大気または大気中の水分とリチウムイオンなどが反応して副産物が生成される。このような副産物の生成により、前リチウム化過程で導入したリチウムが失われ、目標としたリチウムの投与量(dosage)が減少することになるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するために案出されたものであって、前リチウム化の後に、負極が空気及び空気中の水分と酸化還元反応をしてリチウムが失われることを最大限に抑制し得る負極の製造方法及びそれを通じて製造された負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る負極の製造方法は、集電体の少なくとも一面に負極活物質を含む負極スラリーをコーティングして負極活物質層が形成された負極を製造するステップと、上記負極を前リチウム化するステップと、前リチウム化された負極をCO雰囲気下でエージングして、負極活物質層の表面に無機コーティング層を形成するステップとを含む。
【0011】
このとき、上記無機コーティング層は、LiO、LiOHおよびLiCOからなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含む。
【0012】
具体的な例において、上記無機コーティング層は、LiO、LiOHおよびLiCOをすべて含み得る。
【0013】
上記負極活物質は、黒鉛系活物質およびシリコン系活物質からなる群から選択された1種以上であり得る。
【0014】
一つの例において、上記負極を前リチウム化するステップは、負極活物質層上にリチウム金属を直接接触させて行われ得る。
【0015】
このとき、上記負極を前リチウム化するステップは、リチウム金属フィルムを負極活物質層上に接合した後にラミネーティングする過程を含む。
【0016】
他の一例において、上記負極を前リチウム化するステップは、上記負極とリチウム金属を連結した後に電気化学的に充電して行われ得る。
【0017】
一方、具体的な例において、エージング時のCOの圧力は、0.1~10mTorrであり得る。
【0018】
また、具体的な例において、エージング温度は、20~60℃であり得る。
【0019】
また、具体的な例において、エージング時間は、10~60時間であり得る。
【0020】
そして、本発明は負極を提供する。上記負極は、負極活物質を含む負極スラリーをコーティングして負極活物質層が形成された構造である。また、上記負極活物質層は前リチウム化されており、上記負極活物質層の表面にLiO、LiOH及びLiCOからなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含む無機コーティング層が形成され得る。
【0021】
また、本発明は、上述したような負極を含む二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、前リチウム化された負極をCO雰囲気でエージングすることで、負極の表面に酸化還元反応を遮断し得る無機コーティング層を形成し得る。これにより、負極が空気および空気中の水分と酸化還元反応してリチウムが失われることを最大限に抑えることができ、電池の容量およびサイクル特性が減少することを防止し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る負極の製造方法の手順を示したフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係る前リチウム化の過程を示した概略図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る前リチウム化の過程を示した概略図である。
図4】本発明の実施例1及び比較例1に係る負極に対して、ストレージ時間によるリチウムの投与量(dosage)の変化を示したグラフである。
図5】本発明の実施例2および比較例3、4に係る二次電池の容量維持率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。その前に、本明細書および特許請求の範囲で使用された用語や単語は通常的または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自身が発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適切に定義し得るという原則に基づいて、本発明の技術的思想に合致する意味と概念として解釈されるべきである。
【0025】
本出願において、「含む」や「有する」などの用語は、明細書上に記載の特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはそれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたは複数の他の特徴や数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはそれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解されたい。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合は、それは他の部分の「真上に」ある場合のみならず、その中間に別の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下に」あるとする場合、それは他の部分の「真下に」ある場合のみならず、その中間に別の部分がある場合も含む。また、本出願において「上に」配置されるということは、上部のみならず下部に配置される場合も含むものであり得る。
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る負極の製造方法の手順を示したフローチャートである。
【0028】
図1を参照すると、本発明に係る負極の製造方法は、集電体上に負極活物質を含む負極スラリーをコーティングして負極活物質層が形成された負極を製造するステップ(S10)と、上記負極を前リチウム化するステップ(S20)と、前リチウム化された負極をCO雰囲気下でエージングして、負極活物質層の表面に無機コーティング層を形成するステップ(S30)とを含む。
【0029】
上述のように、前リチウム化された負極は還元された状態であるので、大気または大気中の水分とリチウムイオンなどが反応して副産物が生成される。このような副産物の生成により、前リチウム化過程で導入したリチウムが損失されるので、目標としたリチウムの投与量(dosage)が減少することになるという問題がある。
【0030】
本発明は、前リチウム化された負極をCO雰囲気でエージングすることで、酸化還元反応を遮断し得る無機コーティング層を負極の表面に形成し得る。これにより、負極が空気および空気中の水分と酸化還元反応してリチウムが失われることを最大限に抑えることができ、電池の容量およびサイクル特性が低下することを防止し得る。
【0031】
以下、本発明に係る負極の製造方法の各ステップについて、詳しく説明する。
【0032】
<負極の製造>
まず、前リチウム化を行うために、前リチウム化の対象となる負極を製造する。
【0033】
上記負極は、負極集電体の少なくとも一面に負極活物質を含む負極スラリーをコーティングして負極活物質層を形成することで、製造され得る。負極スラリーは導電材およびバインダーなどをさらに含み得る。
【0034】
負極集電体の場合、一般的に3~500μmの厚さで作られる。このような負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せずに導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用され得る。また、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で使用され得る。
【0035】
負極活物質は、炭素系活物質およびシリコン系活物質からなる群から選択された少なくとも1種を含み得る。
【0036】
上記シリコン系活物質は、本発明の負極または二次電池に優れた容量特性を付与することができ、SiO(0≦x<2)で表される化合物を含み得る。SiOの場合、リチウムイオンと反応しないので、リチウムを貯蔵することができない。そのため、xは上記範囲内にあることが好ましく、より好ましくはシリコン系酸化物はSiOであり得る。上記シリコン系酸化物の平均粒径(D50)は、充放電時の構造的な安定性を期しながら電解液との副反応を減少させる側面で1~30μm、好ましくは3~15μmであり得る。上記平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定し得る。
【0037】
上記炭素系活物質は、本発明の二次電池用負極または二次電池に優れたサイクル特性または電池寿命性能を付与し得る。具体的には、上記炭素系活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、スーパーP、グラフェンおよび繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。好ましくは、人造黒鉛および天然黒鉛からなる群から選択された少なくとも1種を含み得る。上記炭素系酸化物の平均粒径(D50)は、充放電時に構造的な安定性を期しながら電解液との副反応を減らす側面で10~30μm、好ましくは15~25μmであり得る。
【0038】
具体的に、上記負極活物質は、容量特性およびサイクル特性を同時に改善させる側面で、上記シリコン系活物質と上記炭素系活物質の何れも使用し得る。具体的に、上記負極活物質は、上記炭素系活物質および上記シリコン系活物質を50:50~95:5の重量比、好ましくは60:40~80:20の重量比で含み得る。
【0039】
上記導電材は、通常、正極活物質を含む混合物全体の重量を基準にして、1~30重量%で添加される。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発せずに導電性を有するものであれば、特に限定されない。例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの導電性材料などが使用され得る。
【0040】
上記バインダーは、活物質と導電材などの結合と集電体に対する結合を補助する成分であって、通常、正極活物質を含む混合物全体の重量を基準にして1~30重量%で添加される。このようなバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、多様な共重合体などが挙げられる。
【0041】
<前リチウム化>
負極が製造されるた後、上記負極を前リチウム化する。
【0042】
本発明において、負極の前リチウム化方法には特別な制限が存在しない。例えば、物理化学的方法または電気化学的方法の何れも使用し得る。
【0043】
一つの例において、上記負極を前リチウム化するステップは、負極活物質層上にリチウム金属を直接接触させて行われる。
【0044】
図2は、本発明の一実施形態に係る前リチウム化のプロセスを示した概略図である。
【0045】
図2を参照すると、上記負極10を前リチウム化するステップは、リチウム金属フィルム20を負極活物質層12上に接合した後にラミネーティングすることを含む。
【0046】
具体的には、負極10が用意された後、リチウム金属フィルム20をラミネーティングする。このプロセスは、例えば、ロールツーロール工程によって行われ得る。この場合、負極はアンワインディングローラ(図示せず)によって巻取されているが、ラミネーティングが始まるとそこから巻出される。リチウム金属フィルム20も別途のロール(図示せず)に巻取されているが、ラミネーティングが始まるとそこから巻出される。ここで、リチウム金属フィルム20それ自体を用いることもできるが、別途の高分子フィルム(図示せず)の一面にリチウム金属フィルムを接合したものを使用することもできる。上記リチウム金属フィルム20の厚さは1~10μmであってもよく、詳細には3~8μmであってもよい。リチウム金属フィルム20の厚さが上記範囲内にあると、負極に適切な量でリチウムイオンをドーピングし得る。
【0047】
その後、上記リチウム金属フィルム20が負極集電体11上に形成された負極活物質層12に接合される。次に、リチウム金属フィルム20及び負極10を加圧部材30を用いて加圧する。上記加圧部材30の形状には特に制限はないが、図2のように一対の加圧ローラを用いてもよく、長方形の形状の加圧ジグを用いてリチウム金属フィルム20及び負極10に面圧を加えることもできる。ただし、一対の加圧ローラを用いる場合、負極10及びリチウム金属フィルム20にニップ圧が加わるので均一な圧力を加えることができ、面圧を加える場合に比べて少し低い圧力を加えることができる。
【0048】
リチウム金属フィルム20がラミネーティングされた負極10は、所定の時間保管されることで、前リチウム化によって挿入されたリチウムイオンが負極活物質層12の表面および内部に、より均一に拡散されるようにし得る。
【0049】
図3は、本発明の他の実施形態に係る前リチウム化の過程を示した概略図である。
【0050】
図3を参照すると、上記負極を前リチウム化するステップは、上記負極10とリチウム金属50を連結した後に電気化学充電して行われる。
【0051】
この場合、前リチウム化は、前リチウム化溶液41が収容された前リチウム化反応槽40内で行われる。具体的には、前リチウム化溶液41が収容された前リチウム化反応槽40に、負極10をリチウム金属50と離隔された状態で収容し、負極10とリチウム金属50をそれぞれ充放電器60に連結した後に電気化学充電し得る。上記リチウム金属50は、上記負極10と対向するように配置されたシート状であり得る。上記リチウム金属50は、負極10と離隔されることで、電気化学充電時に負極10とリチウム金属50とが直接接触して発生し得るショート現象を防止し得る。あわせて、電気化学充電前に負極10を前リチウム化溶液41に所定の時間を含浸させるステップが行われることもあり得る。
【0052】
上記前リチウム化溶液41は、リチウム塩および有機溶媒を含み得る。
【0053】
具体的には、上記リチウム塩は、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSO)NLi、(FSONLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、またはこれらのうちの1つ以上を含み得る。
【0054】
例えば、上記有機溶媒は、カーボネート系溶媒、エステル系溶媒、またはこれらの2以上を含み得る。上記非水系溶媒の例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ガンマブチロラクトン(g-ブチロラクトン)、エチルプロピオネート、メチルプロピオネートなどを単独で又は2以上を混合して使用し得るが、これに限定されない。
【0055】
同様に、電気化学充電された負極10は、洗浄および乾燥後に所定の時間を保管されることで、前リチウム化によって挿入されたリチウムイオンが負極活物質層の表面および内部により均一に拡散されるようにし得る。
【0056】
<エージング>
前リチウム化が完了した後、前リチウム化された負極をCO雰囲気でエージングして負極の表面に無機コーティング層を形成させる。具体的には、負極をCO雰囲気でエージングする過程で、負極活物質層内のリチウムイオンとCOが反応して無機コーティング層が形成される。
【0057】
ここで、上記無機コーティング層は、LiO、LiOHおよびLiCOからなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含み得る。詳細には、無機コーティング層は、LiO、LiOHおよびLiCOをすべて含み得る。上記化合物は、電子伝達を遮断し得る能力に優れている。そのため、このような化合物を含む無機コーティング層を形成する場合、負極活物質層に導入されたリチウムイオンと空気または空気中の水分との酸化還元反応が行われることを効果的に遮断し得る。
【0058】
すなわち、前リチウム化を通じて予め導入されたリチウムイオンが失われることを最大限に抑制することで、同じ量のリチウムイオンを導入してもリチウム貯蔵所(reservoir)として活用され得るリチウムイオンの量を増加させることができる。これにより、電池の容量およびサイクル特性が低下することを防止し得るのである。
【0059】
具体的には、上記エージングは真空ベースの環境で行われ得る。例えば、前リチウム化された負極を密閉されたチャンバ内に保管した後、CO雰囲気を作って行われ得る。すなわち、CO雰囲気でエージングを行い、かつCOの圧力を非常に真空に近いように下げた状態で行い得る。例えば、上記エージング時にCOの圧力は0.1~10mTorrであり得る。詳細には、エージング時にCOの圧力は1~5mTorrであり得る。上記圧力範囲では、好適な厚さの無機コーティング層の形成が可能である。COの圧力が上記範囲未満の場合は、負極表面のリチウムイオンとCOの反応が円滑に行われないことがある。また、COの圧力が上記範囲を超える場合は、COと反応するリチウムイオンの量が過度に多くなり得る。
【0060】
また、エージング過程において、エージング温度は20~60℃であり得る。詳細には30~50℃であり得る。上記温度範囲内では、負極内に導入されたリチウムイオンがCOと好適な速度で反応し得る。
【0061】
また、エージング過程において、エージング時間は10~60時間であり得る。詳細には20~50時間であり得る。エージング時間が上記範囲内にある場合は、好適な量のリチウムイオンがCOと反応して無機コーティング層を形成し得る。エージング時間が上記範囲未満の場合はリチウムイオンとCOの反応が円滑に行われず、エージング時間が上記範囲を超える場合はCOと反応するリチウムイオンの量が過度に多くなり得る。
【0062】
このように、本発明は前リチウム化された負極をCOの雰囲気でエージングすることで、負極の表面に酸化還元反応を遮断し得る無機コーティング層を形成し得る。これにより、負極が空気および空気中の水分と酸化還元反応してリチウムが失われることを最大限に抑制することができ、電池の容量およびサイクル特性が低下することを防止し得る。
【0063】
<負極>
さらに、本発明は負極を提供する。
【0064】
上記負極は、負極活物質を含む負極スラリーをコーティングして負極活物質層が形成された構造であり、上記負極活物質層は前リチウム化されており、上記負極活物質層の表面にLiO、LiOH及びLiCOからなる群から選択される1種または2種以上の化合物を含む。ここで、上記負極は、上述したような負極の製造方法によって製造され得る。
【0065】
本発明に係る負極は、表面に酸化還元反応を遮断し得る無機コーティング層が形成されている。これにより、負極が空気および空気中の水分と酸化還元反応してリチウムが失われることを最大限に抑制することができ、電池の容量およびサイクル特性が低下することを防止し得る。
【0066】
<二次電池>
また、本発明は、上述した負極を含む二次電池の製造方法を提供する。
【0067】
上記二次電池は、正極と負極との間に分離膜が介在された形態の電極組立体が電池ケースに収容された形態である。上記正極は、正極集電体上に正極活物質を含む正極スラリーが塗布されて正極活物質層が形成された構造であり、負極は上述したものを使用することができ、具体的には本発明に係る負極の製造方法によって製造され得る。
【0068】
本発明において、正極集電体の場合は、一般的に3~500μmの厚さで作る。このような正極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せずに高い導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態が可能である。
【0069】
本発明において、正極活物質は、電気化学反応を起こし得る物質、リチウム遷移金属酸化物であって、2以上の遷移金属を含む。例えば、1またはそれ以上の遷移金属で置換されたリチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)などの層状化合物、1またはそれ以上の遷移金属で置換されたマンガン酸リチウム、化学式LiNi1-y(ここで、MはCo、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、B、Cr、ZnまたはGaであり、上記元素のうちの1つ以上の元素を含み、0.01≦y≦0.7である)で表されるリチウムニッケル系酸化物、Li1+zNi1/3Co1/3Mn1/3、Li1+zNi0.4Mn0.4Co0.2などのようにLi1+zNiMnCo1-(b+c+d)(2-e)(ここで、-0.5≦z≦0.5、0.1≦b≦0.8、0.1≦c≦0.8、0≦d≦0.2、0≦e≦0.2、b+c+d<1、MはAl、Mg、Cr、Ti、SiまたはYであり、AはF、PまたはClである)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、化学式Li1+x1-yM'PO4-z(ここで、Mは遷移金属、好ましくはFe、Mn、CoまたはNiであり、M'はAl、MgまたはTiであり、XはF、SまたはNであり、-0.5≦x≦+0.5、0≦y≦0.5、0≦z≦0.1である)で表されるオリビン系リチウム金属ホスフェートなどが挙げられるが、これらのみに限定されない。
【0070】
また、上記正極スラリーは、正極活物質の他に導電材およびバインダーをさらに含み、これについては上述した通りである。
【0071】
上記分離膜は正極と負極との間に介在され、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄膜が用いられる。分離膜の気孔の直径は一般的に0.01~10μmであり、厚さは一般的に5~300μmである。このような分離膜としては、例えば、耐化学性および疎水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス繊維またはポリエチレンなどで作られたシートや不織布などが使用される。ポリマーなどの固体電解質が電解質として用いられる場合には、固体電解質が分離膜を兼ねることもあり得る。
【0072】
一方、上記電池ケースは、電池を包装するための外装材として使用されるものであれば特に制限されず、円筒形、角形またはパウチ型が使用され得る。詳細にはパウチ型電池ケースが使用され得る。パウチ型電池ケースは、通常、アルミニウムラミネートシートからなっており、密封のための内部シーラント層、物質の浸透を防止する金属層、およびケースの最外郭をなす外部樹脂層から構成され得る。以下、電池ケースに対する具体的な内容は、通常の技術者に公知された事項であるので、詳しい説明を省略する。
【0073】
電池ケース内に電極組立体が収容されると、電解液注入後に密封され、その後の活性化工程を通じて最終的な二次電池として製造される。電解液は、上述の前リチウム化溶液に用いられるリチウム塩および有機溶媒を使用し得る。電解液に関する内容も通常の技術者に公知された事項であるので、詳しい説明を省略する。
【0074】
以下、本発明の理解を助けるために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は多様な異なる形態に変更されることができ、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0075】
実施例1
<負極の製造>
負極活物質として、黒鉛85重量%およびSiO15重量%が混合されたものを用意した。上記負極活物質94.5重量%、導電材としてデンカブラック1.3重量%、バインダーとしてSBR3.0重量%、および増粘剤としてCMC1.2重量%を水に添加して負極スラリーを製造した。
【0076】
銅集電体(厚さ:8μm)の両面に上記負極スラリーをローディング量が6.48mAh/cmとなるようにコーティングし、圧延して130℃の真空オーブンで乾燥して圧延することで、銅負極集電体の両面に負極活物質層を形成して負極を製造した。
【0077】
<前リチウム化>
上記負極の負極活物質層上に厚さ6μmのリチウム金属フィルムを接合してラミネーティングした後、所定の時間保管して前リチウム化した。
【0078】
<エージング>
前リチウム化された負極を1mTorr圧力のCO雰囲気が形成されたチャンバ内で20時間をエージングして表面に無機コーティング層を形成した。このとき、チャンバ内部の温度を50℃に維持した。
【0079】
比較例1
エージング工程を行わなかったことを除いては、実施例1と同じく前リチウム化された負極を製造した。
【0080】
比較例2
前リチウム化およびエージング工程を行わなかったことを除いては、実施例1と同じく負極を製造した。
【0081】
実験例1
<ハーフセルの製造>
上記実施例1および比較例1で製造された負極、およびそれに対する対極としての厚さ150μmのリチウム金属を用意した。
【0082】
実施例1および比較例1に係る負極、上記リチウム金属対極の間にポリプロピレン分離膜を介在し、電解質を注入してリチウム二次電池を製造した。電解質はエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を30:70の体積比で混合した有機溶媒にリチウム塩としてLiPFを1M濃度で添加し、添加剤としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)を前リチウム化溶液全体の重量に対して2重量%で添加したものを使用した。
【0083】
<負極のリチウム投与量の測定>
上記ハーフセルのそれぞれに対して、0.1Cの定電流(CC)で満充電し、その後20分間を放置した後、0.1Cの定電流(CC)で3.0Vになるまで放電した。そこから放電プロファイルを求め、放電容量(容量1)を計算した。
【0084】
また、実施例1および比較例1に係る負極に対して、前リチウム化する前ステップの負極を上記と同じくハーフセル(参照セル)として製造した後、上記参照セルを上記と同じく充放電して放電容量(容量2)を計算した。上記容量1と容量2の差から以下のようなリチウム投与量(dosage)を計算した。
【0085】
リチウムの投与量(Lithiation dosage)(%)=(容量1-容量2)*100/容量2
【0086】
実施例1および比較例1に係る負極を常温の乾燥室で保管しながら、保管直後、保管後1日目、保管後5日目、保管後12日目の日にそれぞれ上記のような方法でリチウム投与量を測定した。その結果を図4に図示した。
【0087】
図4を参照すると、負極の保管直後には、実施例1による負極および比較例1による負極のいずれもリチウム投与量が同じであったが、保管期間が長くなるほど比較例1による負極は実施例1による負極に比べてリチウム投与量が減少するものとして現れた。これは、比較例1に係る負極の場合、無機コーティング層が形成されないので、負極内に導入されたリチウムイオンが空気および空気中の水分と反応したためである。これと比べて、実施例1による負極の場合、表面にLiO、LiOHおよびLiCOを含む無機コーティング層が形成されているので、負極内に導入されたリチウムイオンが空気および空気中の水分と反応することを最大限に抑制したことがわかる。
【0088】
実施例2
正極活物質としてLiNi0.8Co0.1Mn0.1、導電材としてsuperC、バインダーとしてPVdFを97:1.5:1.5の重量比で混合した正極スラリーをアルミニウム集電体上にコーティング、圧延して130℃で乾燥して正極を製造した。
【0089】
上記実施例1に係る負極と上記正極との間にポリプロピレン分離膜を介在し、電解質を注入してリチウム二次電池を製造した。電解質はエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を30:70の体積比で混合した有機溶媒にリチウム塩としてLiPFを1M濃度で添加し、添加剤としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)を前リチウム化溶液全体の重量に対して2重量%で添加したものを使用した。
【0090】
比較例3
上記比較例1に係る負極を用いて実施例2と同じくリチウム二次電池を製造した。
【0091】
比較例4
上記比較例2に係る負極を用いて実施例2と同じくリチウム二次電池を製造した。
【0092】
実験例2
<容量維持率の評価>
実施例および比較例に係るリチウム二次電池に対して電気化学充放電器を用いて容量維持率の評価を行った。充電時、4.2Vの電圧まで0.1C-rateの電流密度で電流を加えて充電し、放電時に同じ電流密度で2.5Vの電圧まで放電を行った。このような条件で200番目のサイクルまで充電および放電を行った。
【0093】
この過程で、下記式2によって容量維持率を評価し、その結果を図5に図示した。
【0094】
[式2]
容量維持率(%)={(N番目のサイクルでの放電容量)/(1番目のサイクルでの放電容量)}×100
(上記式2において、Nは1~200の整数)
【0095】
図5を参照すると、実施例2に係るリチウム二次電池の場合は、比較例3および比較例4に比べて容量維持率に優れていることが分かる。これは、上述したように実施例2に係る二次電池の場合は、使用される負極にLiO、LiOHおよびLiCOを含む無機コーティング層が形成されているので、負極内に導入されたリチウムイオンが空気および空気中の水分と反応することを最大限に抑えたからである。その結果、負極内に貯蔵されたリチウムイオンの量を極大化し、これにより正極の容量が最大に活用されることができたことがわかる。
【0096】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で多様な修正及び変形が可能だと言える。したがって、本発明に開示された図面は、本発明の技術思想を限定するものではなく説明するためのものであり、このような図面によって本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等の範囲内にあるすべての技術思想は本発明の権利範囲に含まれるものとして解釈されるべきである。
【0097】
一方、本明細書では上、下、左、右、前、後のような方向を示す用語が使用されているが、このような用語は説明の便宜のためのものであり、対象となる物の位置や観測者の位置などによって変わり得ることは自明である。
【符号の説明】
【0098】
10:負極
11:集電体
12:負極活物質層
20:リチウム金属フィルム
30:加圧部材
40:前リチウム化反応槽
41:前リチウム化溶液
50:リチウム金属
60:充放電器
図1
図2
図3
図4
図5