(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】多孔質中空糸膜及び完全性試験方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/10 20060101AFI20241209BHJP
B01D 65/10 20060101ALI20241209BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20241209BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241209BHJP
D01F 2/04 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
B01D71/10
B01D65/10
B01D69/02
B01D69/00
D01F2/04 A
(21)【出願番号】P 2022566994
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021044385
(87)【国際公開番号】W WO2022118943
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2020202097
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 正太
(72)【発明者】
【氏名】姫野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】梶山 晃介
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-029727(JP,A)
【文献】特開平01-254205(JP,A)
【文献】特開平01-254204(JP,A)
【文献】特開昭63-102676(JP,A)
【文献】国際公開第2008/156124(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156403(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/100763(WO,A1)
【文献】特開平01-307409(JP,A)
【文献】特開平03-228671(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170874(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156401(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
G01M3/26
D01F2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、
弾性限界圧力が200kPa以上であり、
当該多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が4.8以上7.7以下であり、
前記膜厚(t)が40.5μm以上49.6μm以下の範囲であ
り、
バブルポイントが1.2MPa以上であり、
ウイルス除去に使用され、
パルボウイルス除去率(LRV)が4.0以上である、
多孔質中空糸膜。
【請求項2】
前記内径(R)が239.9
μm以上313.0
μm以下である、請求項1に記載の多孔質中空糸膜。
【請求項3】
前記再生セルロースが銅アンモニア法による再生セルロースである、請求項1又は2に記載の多孔質中空糸膜。
【請求項4】
当該多孔質中空糸膜の内表面における孔径が外表面における孔径より大きい、請求項1から3のいずれか1項に記載の多孔質中空糸膜。
【請求項5】
当該多孔質中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の多孔質中空糸膜。
【請求項6】
濾過圧力27kPa、37℃における透水量が10L/(m
2・hr)以上50L/(m
2・hr)以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の多孔質中空糸膜。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の多孔質中空糸膜を用いた生物学的製剤含有液の濾過方法であって、濾過時の前記多孔質中空糸膜の膜間差圧が150kPa以上である
、濾過方法。
【請求項8】
再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜が充填された膜モジュールの完全試験方法であって、
前記膜モジュールが前記多孔質中空糸膜の外表面に接する外表面側空間と、前記多孔質中空糸膜の内表面に接する内表面側空間と、を有しており、
前記外表面側空間に液体を充填することと、
前記多孔質中空糸膜の膜間差圧が98kPaより大であり、かつ前記多孔質中空糸膜の弾性限界圧力以下の範囲の圧力となるよう、前記内表面側空間を空気で加圧することと、
を含
み、
前記多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が4.8以上7.7以下であり、
前記膜厚(t)が40.5μm以上49.6μm以下の範囲であり、
前記多孔質中空糸膜のバブルポイントが1.2MPa以上であり、
前記多孔質中空糸膜がウイルス除去に使用され、
前記多孔質中空糸膜のパルボウイルス除去率(LRV)が4.0以上である、
完全性試験方法。
【請求項9】
前記多孔質中空糸膜から生じる気泡を目視観察する工程を含む、請求項
8に記載の完全性試験方法。
【請求項10】
前記外表面側空間及び前記内表面側空間のうち、いずれか一方の空間の圧力変動値を測定する工程、又はいずれか一方の空間の圧力を一定に保持するために必要な空気流入量を測定する工程を含む、請求項
8に記載の完全性試験方法。
【請求項11】
前記内径(R)が239.9
μm以上313.0
μm以下である、請求項8に記載の完全性試験方法。
【請求項12】
濾過圧力27kPa、37℃における前記多孔質中空糸膜における透水量が10L/(m
2
・hr)以上50L/(m
2
・hr)以下である、請求項8から11のいずれか1項に記載の完全性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜、及び当該多孔質膜が充填された膜モジュールの完全性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人血液由来の血漿分画製剤やバイオ医薬品等の生物学的製剤において、ウイルスに対する安全性を向上させる対策として、その製造工程にはウイルス除去/不活化工程が導入されている。中でも、多孔質膜を用いた濾過によるウイルス除去法は、有用なタンパク質を変性させることなくウイルスを低減することができる有効な方法である。再生セルロースを含有する多孔質膜は、その優れた親水性からタンパク質の膜への吸着が少ない特徴があり、各種生物学的製剤のウイルス除去用途に広く利用されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
多孔質膜を用いた濾過によるウイルス除去法では、製造した医薬品の安全性を担保するために、ウイルス除去工程においてウイルス除去膜が有効に機能したことを確認する膜モジュールの完全性試験が必要となる。
【0004】
多孔質膜が有する本来の孔径分布以外の大きな孔、例えば直径約100μmのピンホールが多孔質膜に生じた場合には、ウイルス代替微粒子を用いた評価ではウイルス除去性の低下を確認できない。これに対し、平均孔径35nmを有する銅アンモニア法再生セルロースから成る多孔質中空糸膜の膜モジュールの完全性試験の方法として、試験圧力1kgf/cm2(98kPa)のリークテストでは、ウイルス除去性能の低下を評価可能であることが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
一方で、膜モジュールの完全性試験の方法としては、所望ウイルス除去性能のために許容されるピンホール径を求め、そのピンホール径以上の欠陥が生じていないことを確認するためのリークテスト、あるいはディフュージョン試験が挙げられる。直径が20nm程度のパルボウイルス除去を目的としたウイルス除去膜では、ウイルス除去性低下に影響するピンホールは微小であるため、リークテスト等における試験圧力を高く設定する必要がある。しかし、このような方法で完全性試験を行うことが出来るのは、ポリフッ化ビニリデンやポリスルホン系合成高分子から成る多孔質膜等に限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/156401号公報
【文献】国際公開第2017/170874号公報
【文献】特開平7-132215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、リークテスト等により高い微粒子除去性能の評価を可能とする再生セルロースを含む多孔質中空糸膜を提供することを課題の一つとする。また、本発明は、当該多孔質中空糸膜を含む膜モジュールに対してリークテスト法による完全性試験方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述したように、リークテスト等において、直径が20nm程度のパルボウイルス除去を目的としたウイルス除去膜では、ウイルス除去性低下に影響するピンホールは微小であるために、そのような微小なピンホールの検出精度を高めるためにリークテスト等の試験圧力は高く設定する必要がある。しかし、このような方法で完全性試験を行うことが出来るのは、ポリフッ化ビニリデンやポリスルホン系合成高分子から成る多孔質膜等に限定される。再生セルロース膜に対して、微小ピンホールの検出精度を高めるために試験圧力を高く設定すると、再生セルロース膜は試験圧力に耐えられないという課題がある。
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜の弾性限界圧力を特定値以上とすることを見出し、そのような再生セルロースを含む多孔質中空糸膜を提供することにより、当該多孔質中空糸膜を含む膜モジュールを使用したリークテスト法による完全性試験方法において、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜における微小ピンホール等の検出精度を高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の詳細は下記のとおりである。
[1]再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であって、弾性限界圧力が200kPa以上である多孔質中空糸膜。
【0011】
[2]当該多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4以下である、[1]に記載の多孔質中空糸膜。
【0012】
[3]当該多孔質中空糸膜の膜厚(t)が20μm以上70μm以下の範囲である、[1]又は[2]に記載の多孔質中空糸膜。
【0013】
[4]再生セルロースが銅アンモニア法による再生セルロースである、[1]から[3のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
【0014】
[5]当該多孔質中空糸膜の内表面における孔径が外表面における孔径より大きい、[1]から[4]のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
【0015】
[6]当該多孔質中空糸膜の内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有する、[1]から[5]のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
【0016】
[7]濾過圧力27kPa、37℃における透水量が10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下である、[1]から[6]のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
【0017】
[8]バブルポイントが1.2MPa以上である、[1]から[7]のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
【0018】
[9]ウイルス除去に使用される、[1]から[8]のいずれかに記載の多孔質中空糸膜。
【0019】
[10]パルボウイルス除去率(LRV)が4.0以上である、[9]に記載の多孔質中空糸膜。
【0020】
[11][1]から[10]のいずれか1項に記載の多孔質中空糸膜を用いた生物学的製剤含有液の濾過方法であって、濾過時の多孔質中空糸膜の膜間差圧が150kPa以上である濾過方法。
【0021】
[12] 生物学的製剤含有液が、免疫グロブリン(ポリクローナル抗体)、アルブミン、血液凝固因子、プロトロンビン複合体、培地、モノクローナル抗体、抗体薬物複合体、ワクチン、組み換えタンパク質、ウイルスベクター、DNA、及びRNAの少なくとも1種を含む、[11]に記載の濾過方法。
【0022】
[13]ウイルス除去のための濾過方法である、[11]又は[12]に記載の濾過方法。
【0023】
[14][1]から[10]のいずれかに記載の多孔質中空糸膜が充填された膜モジュールの完全試験方法であって、
膜モジュールが、多孔質中空糸膜の外表面に接する外表面側空間と、多孔質中空糸膜の内表面に接する内表面側空間と、を有しており、
外表面側空間に液体を充填することと、
多孔質中空糸膜の膜間差圧が98kPaより大であり、かつ多孔質中空糸膜の弾性限界圧力以下の範囲の圧力となるよう、内表面側空間を空気で加圧することと、
を含む完全性試験方法。
【0024】
[15]再生セルロース多孔質中空糸膜が充填された膜モジュールの完全試験方法であって、
膜モジュールが、多孔質中空糸膜の外表面に接する外表面側空間と、多孔質中空糸膜の内表面に接する内表面側空間と、を有しており、
多孔質中空糸膜の膜間差圧が98kPa以上であり、かつ多孔質中空糸膜の弾性限界圧力以下の範囲の圧力となるよう、内表面側空間を加圧すること、
を含む完全性試験方法。
【0025】
[16]再生セルロース多孔質中空糸膜が、弾性限界圧力が200kPa以上の再生セルロース多孔質中空糸膜である、[14]又は[15]に記載の完全性試験方法。
【0026】
[17]多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4以下である、[14]から[16]のいずれかに記載の完全性試験方法。
【0027】
[18]多孔質中空糸膜がウイルス除去膜である、[14]から[17]のいずれかに記載の完全性試験方法。
【0028】
[19]多孔質中空糸膜から生じる気泡を目視観察する工程を含む、[14]から[18]のいずれかに記載の完全性試験方法。
【0029】
[20]外表面側空間及び内表面側空間のうち、いずれか一方の空間の圧力変動値を測定する工程、又はいずれか一方の空間の圧力を一定に保持するために必要な空気流入量を測定する工程を含む、[14]から[18]のいずれかに記載の完全性試験方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、リークテスト等により高いウイルス除去性能の評価を可能とする再生セルロースを含有する多孔質中空糸膜が提供される。また、本発明によれば、当該多孔質中空糸膜に対してリークテスト法を行う完全性試験の方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】多孔質中空糸膜の膜断面の模式図である。多孔質中空糸膜の内径(R)と膜厚(t)との関係を示している。
【
図2】実施例1に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の決定に用いたグラフである。
【
図3】実施例1に係る多孔質中空糸膜の走査型顕微鏡による観察画像である。
【
図4】実施例2に係る多孔質中空糸膜の走査型顕微鏡による観察画像である。
【
図5】実施例3に係る多孔質中空糸膜の走査型顕微鏡による観察画像である。
【
図6】実施例4に係る多孔質中空糸膜の走査型顕微鏡による観察画像である。
【
図7】多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)と、弾性限界圧力と、の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体的な実施の形態(以下、「本実施形態」という。)に即して詳細に説明する。ただし、本発明は以下の本実施形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0033】
本実施形態に係る再生セルロースを含有する多孔質中空糸膜について説明する。
【0034】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、物質を透過あるいは捕捉するための多数の細孔を含有する多孔質構造を有する中空状の膜である。多孔質中空糸膜は、その形状は特に限定されないが、円筒状に連続した形状を有することができる。本明細書では、当該多孔質中空糸膜の円筒内側に位置する面を内表面、円筒外側に位置する表面を外表面と記載する。
【0035】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜であれば特に限定されない。再生セルロースとしては、天然セルロースを化学処理により溶解した原液により賦形化した後に別の化学処理により再生したセルロースであれば特に限定されることはなく、銅アンモニアセルロース溶液から作成する方法(銅アンモニア法)又は酢酸セルロースをアルカリでケン化させて作成する方法(ケン化法)から得られた再生セルロースが例示できる。
【0036】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、再生セルロース以外の成分を含んでもよく、再生セルロースの一部が修飾されていてもよい。例えば、セルロース水酸基がエステル化修飾された再生セルロース又は部分架橋された再生セルロース等が例示される。また多孔質中空糸膜表面が高分子皮膜でコーティングされていてもよい。コーティングするための高分子としては、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートとアクリルアミドの共重合体、ポリメトキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタアクリレートとジエチルアミノエチルメタアクリレートの共重合体、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn-ブチルメタクリレートの共重合体、2-(N-3-スルホプロピル-N,N-ジメチルアンモニウム)エチルメタクリレートとn-ブチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体などが例示される。
【0037】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、リークテスト等の完全性試験において高いウイルス除去性能の評価を可能とするか、又は微小なピンホールの検出を可能とする多孔質中空糸膜であれば特に限定されないが、特定値以上の弾性限界圧力を示す多孔質中空糸膜が例示される。当該弾性限界圧力としては、200kPa以上、210kPa以上、220kPa以上、230kPa以上、240kPa以上、あるいは250kPa以上が例示される。また、弾性限界圧力の別の態様としては、215kPa以上、225kPa以上、235kPa以上、245kPa以上、255kPa以上、270kPa以上、あるいは280kPa以上が例示される。弾性限界圧力の上限値は、現実的に加えることができる圧力であれば特に限定されないが、1000kPa以下、900kPa以下、800kPa以下、700kPa以下、600kPa以下、500kPa以下、450kPa以下、400kPa以下、350kPa以下、あるいは300kPa以下が例示される。
【0038】
弾性限界圧力とは、中空糸膜の内表面側から空気で加圧した際の圧力増大に伴う中空糸膜外径変化により観測される膨張が線形的変化から逸脱する時の圧力として定義される。中空糸膜膨張の線形的変化からの逸脱は、中空糸膜の塑性変形により生じる。多孔質中空糸膜の製造工程内での各種検査、濾過、及びリークテスト等の完全性試験では、試験前後で多孔質膜のウイルス除去性及び透水性に実質的な変化が無いことが好ましく、試験に用いる圧力は弾性限界以下の圧力を選択することが好ましい。なお、本実施形態に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力は、多孔質中空糸膜が水により湿潤された状態で測定される。
【0039】
リークテストは多孔質膜が有する本来の孔径分布以外の大きな孔(ピンホール)の有無を検出する方法である。温度20℃におけるピンホール直径と、試験圧力と、ピンホールから流れ出る気体流量と、の関係は、チョーク流れの式(1)で与えられる。したがって、試験圧力の値と、ピンホールから流れ出る気体流量の値と、式(1)より、ピンホール直径を算出することが可能である。
Q=30πR2(P1+0.1) (1)
(式中、Q:流量(mL/分)、R:温度20℃におけるピンホール直径(μm)、P1:試験圧力(MPa))
【0040】
多孔質膜をより高い圧力で加圧して、小さな流量変化を観測するシステムを構築することが、より小さなピンホールを検知可能とするためには好ましい。一方で、多孔質膜が有する本来の孔径分布における空気拡散量とその検出精度を考慮すれば、リークテストにおいてピンホールの存在を判定可能な空気流量は、例えば、0.2mL/分以上0.5mL/分以下の範囲であり、設定圧力200kPaの場合、検出可能な最小ピンホールの直径は2.7μm以上4.2μm以下の範囲、250kPaでは2.5μm以上3.9μm以下の範囲、300kPaでは2.3μm以上3.6μm以下の範囲である。
【0041】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の下限値は、リークテストにおいて多孔質中空糸膜を加圧する設定圧力を98kPaより大きい領域に設定して直径3μm程度より小さいピンホールを検出可能とする観点から、200kPa以上であり、220kPa以上であることが好ましく、250kPa以上であることがより好ましく、300kPa以上であることがさらに好ましい。本実施形態に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の上限値は、多孔質中空糸膜をフィルターモジュールとする際に求められる柔軟性の観点から一定以下であることが好ましく、800kPa以下が例示され、700kPa以下が好ましく、600kPa以下がより好ましく、500kPa以下がさらに好ましく、400kPa以下が特に好ましい。
【0042】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の下限値を200kPa以上とすることは、従来技術の再生セルロースから成る多孔質中空糸膜の濾過時の膜間差圧が98kPa程度であったものを150kPaを超えて設定できる観点からも好ましい。
【0043】
濾過時の膜間差圧を高く設定することは、単位時間あたりの処理量が増大するという経済的メリットの他に、ウイルス除去膜では濾過時の膜間差圧を高く設定する程ウイルスの膜への物理的拘束力が増すことでウイルス捕捉の信頼性が高まるというメリットがある。膜間差圧は本実施形態に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の75%程度以下で設定することが好ましく、したがって、より好ましい濾過時の膜間差圧は165kPa以上、188kPa以上、225kPa以上である。また、濾過時の膜間差圧の別の態様として、150kPa以上、200kPa以上、250kPa以上が例示される。濾過時の膜間差圧の上限値は、現実的に加えることができる圧力であれば特に限定されないが、1000kPa以下、900kPa以下、800kPa以下、700kPa以下、600kPa以下、500kPa以下、450kPa以下、400kPa以下、350kPa以下、あるいは300kPa以下が例示される。膜間差圧は特段高い濾過排圧がかからない条件においては低圧濾過の濾過圧力と同義と扱われる。また、膜間差圧のコントロール手段としては、多孔質中空糸膜にかかる圧力が一定圧となるように濾過対象物を圧送してもよいし、多孔質中空糸膜の弾性限界圧力を超えない範囲で濾過対象物を定速で濾過してもよい。
【0044】
ここで、本実施形態に係る多孔質中空糸膜の膜間差圧とは、多孔質中空糸膜の内表面側の圧力と、多孔質中空糸膜の外表面側の圧力と、の差圧を指す。多孔質中空糸膜の内表面側の圧力から多孔質中空糸膜の外表面側の圧力を差し引いた値が例示される。
【0045】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、膜厚(t(μm))に対する内径(R(μm))の比(R/t)が8.4以下であることが好ましい。
図1に示すように、内径(R)と膜厚(t)は乾燥状態の中空糸を輪切りにした断面画像から測定され、内径は中空糸の内表面直径、膜厚は中空糸の内表面と外表面の間の垂直距離である。以下、特に断らない限り、内径(R)と膜厚(t)は乾燥状態で測定された値を示す。
【0046】
本発明者らは、多孔質中空糸膜のプロファイルに基づき、粒子径が20nm弱から100nm程度の濾過対象物に適した再生セルロースを含む多孔質中空糸膜について、多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比であるR/tと、弾性限界圧力と、に特定の相関があることを見出した(後述する実施例1~4及び比較例1~2、並びに
図7参照。)。多孔質中空糸膜の弾性限界圧力200kPa以上を実現する観点で、R/tの上限値は8.4以下が好ましい。上述の弾性限界圧力のより好ましい下限値に対応してR/tのより好ましい範囲は8.0以下、更に好ましい範囲は7.7以下である。R/tの下限値は、中空糸形状を安定的に生産し、また中空糸濾過膜として供給流量と透過流量のバランスを満足する観点から、2.0、すなわち膜厚に対して内径が2倍以上であることが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る多孔質膜の膜厚は、20μm以上70μm以下の範囲であることが好ましい。多孔質膜としての篩効果で微小物質を捕捉する領域を設計することの簡便さの観点から、膜厚は20μm以上であることが好ましい。また、多孔質膜の透過性能を高く設定することの簡便さの観点から、膜厚を70μm以下とすることが好ましい。多孔質膜の膜厚は、より好ましくは30μm以上60μm以下の範囲であり、更に好ましくは40μm以上50μm以下の範囲である。
【0048】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、ウイルス除去膜に求められる多孔質構造と優れた親水性の特徴を両立できる観点から銅アンモニア法から得られる再生セルロースが好ましい。銅アンモニア法を用いた本実施形態に係る多孔質中空糸膜の製造方法の例を以下説明する。
【0049】
まず、セルロースを銅アンモニア溶液に溶解させた、セルロース濃度6質量%から8質量%、アンモニア濃度4質量%から5質量%、銅濃度2質量%から3質量%の紡糸原液と、アセトン濃度30質量%から50質量%、アンモニア濃度0.5質量%から1.0質量%の水溶液である内部凝固液と、アセトン濃度20質量%から40質量%、アンモニア濃度0.2質量%以下の水溶液である外部凝固液と、を準備する。紡糸原液には原液のミクロ相分離の速度を調整する観点から、硫酸ナトリウム等の無機塩を0.03質量%から0.1質量%程度の範囲で含有してもよい。
【0050】
次に、紡糸原液を環状二重紡口より2mL/分から5mL/分の速度で吐出し、同時に、環状二重紡口の中央部に設けられた中央紡出口より内部凝固液を0.3mL/分から3.0mL/分の速度で吐出することが好ましい。例えば、200kPaを超える弾性限界圧力を実現する中空糸内径及び膜厚を得るために、製造される多孔質中空糸膜の膜厚を20μmから70μmの好ましい範囲にするためには、原液吐出速度を2.5mL/分以上4mL/分以下、内部凝固液速度を0.3mL/分以上1.6mL/分以下の範囲とすることがより好ましい。更に好ましい方法は、内部凝固液速度を0.3mL/分以上1.4mL/分以下の範囲とすることである。環状二重紡口から吐出した紡糸原液及び内部凝固液を、直ちに外部凝固液中に浸漬して、内部凝固液及び外部凝固液を凝固させた後に、膜を枠で巻き取る。
【0051】
外部凝固液への紡糸原液及び内部凝固液の浸漬は、凝固浴槽内へ溜めた外部凝固液へ紡糸原液及び内部凝固液を浸漬する方法、紡糸用ろ斗内を外部凝固液と共に流下、落下させながら凝固を進行させる方法、同様に紡糸用ろ斗を使用する方法としてU字型細管を利用する方法が挙げられる。凝固過程の延伸抑制により高い微粒子除去率を有する膜構造を実現する観点からU字型細管を利用する方法が好ましい。
【0052】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜を後述する透水性能及びウイルス除去性能を安定実現する膜構造として形成する観点から、外部凝固液の温度は25℃以上45℃以下の範囲から選択される所定の温度で制御することが好ましい。より好ましい温度範囲は30℃以上45℃以下、更に好ましい範囲は35℃以上45℃以下である。
【0053】
巻き取られた中空糸膜を2質量%から10質量%の希硫酸水溶液に浸漬し、次いで純水で水洗することでセルロースを再生し、更にメタノール、エタノール等の有機溶媒で中空糸膜の水分を置換した後に、中空糸膜束の両端を固定して中空糸膜を1%から8%延伸した状態で30℃から60℃、5kPa以下の条件で減圧乾燥することにより、乾燥状態の中空糸膜を得る。
【0054】
本実施形態に係る濾過方法は、本実施形態に係る多孔質中空糸膜で、濾過対象の溶液を濾過することを含む。
【0055】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、水溶液中の微粒子を効果的に捕捉するよう用いるために中空糸の内表面側から外表面側に向かって液体が流れる方向で濾過を行う方法(内圧濾過法)を採用することが好ましく、高い流速を実現し、多孔質膜の目詰まりを抑制する観点から、内表面における孔径が外表面における孔径より大きいことが好ましい。更に、微粒子の捕捉性能を高め、目詰まりの影響を抑制する観点から、内表面側から外表面側に向かって孔径が小さくなる傾斜構造を有し、且つ、除去対象とする微粒子を捕捉するために孔径変化の少ない均質構造をさらに含むことがより好ましい。ここで孔径とは、膜の内表面、外表面、あるいは中空糸膜を輪切りにした断面を光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡で観察して得られた画像における孔の部分の大きさであり、その比較による違いの程度は、顕微鏡画像で視認できる程度に明確であることが好ましい。
【0056】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜は、微粒子除去の一つであるウイルス除去のために使用することが可能であり、ウイルスの中でも小ウイルスとして位置付けられるパルボウイルスの除去膜として特に好適に使用できる。
【0057】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜をパルボウイルス除去膜として用いる場合、濾過圧力27kPa、37℃における透水量が10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下であることが好ましい。
【0058】
透水量は内圧濾過法により水を濾過した際の単位時間当たりの流量であり、透水量を高く設計されたウイルス除去膜では生物学的製剤のウイルス除去工程を短時間で行うことが出来る。一方で透水量は多孔質中空糸膜の全体の平均孔径を示す尺度であり、除去対象となるウイルス粒子の大きさに応じて設計される。したがって、直径20nmより小さいパルボウイルスの捕捉性能をより確実にする観点から10L/(m2・hr)以上50L/(m2・hr)以下とすることがより好ましく、15L/(m2・hr)以上45L/(m2・hr)以下とすることが更に好ましい。ここで透水量を濾過圧力27kPa、37℃の条件で規定するのは、当該技術領域において多孔質膜の平均孔径(nm)を算出する際の透水量の測定条件として一般的だからである。
【0059】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜の透水量を、濾過圧力98kPa、25℃との濾過条件下で示すと、20L/(m2・hr)以上100L/(m2・hr)以下が好ましく、30L/(m2・hr)以上85L/(m2・hr)以下がより好ましい。
【0060】
また、本実施形態に係る多孔質中空糸膜をパルボウイルス除去膜として用いる場合、バブルポイントが1.2MPa以上であれば特に限定されない。ここで、バブルポイントとは、多孔質中空糸膜の最大孔の大きさを示す尺度である。直径20nmより小さいパルボウイルスの捕捉を確実にする観点から、バブルポイントの下限値としては1.3MPa以上が好ましく、1.4MPa以上がより好ましく、1.5MPa以上がさらに好ましい。また、上述の透水性を実現する観点から、バブルポイントの上限値としては2.4MPa以下が好ましく、2.3MPa以下がより好ましく、2.2MPa以下がさらに好ましい。なお、バブルポイントは、本実施形態に係る多孔質中空糸膜の一端を封止して、他端から空気、あるいは窒素により加圧することが可能な試験モジュールを作成し、当該試験モジュールを表面張力の低いフッ素系液体に浸漬した状態で昇圧した際に漏れ出す気体流量が2.4mL/分の時の圧力を指す。
【0061】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜をウイルス除去膜として使用する場合、本実施形態に係る多孔質中空糸膜のウイルス除去性は、ウイルスを含む元液と、濾液と、の50%組織培養感染値(TCID50/mL)の比の対数値であるウイルス除去率(LRV:Logarithmic Reduction Value)として評価される。
【0062】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜をパルボウイルス除去膜として使用する時、6.0TCID50/mL以上8.0TCID50/mL以下のパルボウイルスを含む元液を膜間差圧196kPa、150L/m2の量で濾過した際のパルボウイルス除去率が4.0以上であることが好ましい。更に多くの濾過量への対応、濾過圧力変動への影響を考慮すれば同条件のパルボウイルス除去率は4.5以上であることがより好ましく、5.0以上であることが更に好ましい。当該LRVは、後述する実施例の(5)に記載のLRVの測定方法において、(5-A)に記載したウイルス含有タンパク質溶液を用い測定されることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係る多孔質膜中空糸膜をウイルス除去膜として使用する時、精製対象となる溶液に含まれる生物学的製剤は特に限定されないが、免疫グロブリン(ポリクローナル抗体)、アルブミン、血液凝固因子、プロトロンビン複合体、培地、モノクローナル抗体、抗体薬物複合体、ワクチン、組み換えタンパク質、ウイルスベクター、DNA、及びRNA等を例示できる。
【0064】
本実施形態に係る多孔質膜中空糸膜の精製対象は抗体等のタンパク質であってもよい。抗体は、ヒト抗体であってもよく、ヒト以外のウシ及びマウス等の哺乳動物由来抗体タンパク質であってもよい。あるいは、抗体は、ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質、及びヒト化抗体であってもよい。ヒトIgGとのキメラ抗体とは、可変領域がマウスなどのヒト以外の生物由来であるが、その他の定常領域がヒト由来の免疫グロブリンに置換された抗体である。また、ヒト化抗体とは、可変領域のうち、相補性決定領域(complementarity-determining region:CDR)がヒト以外の生物由来であるが、その他のフレームワーク領域(framework region:FR)がヒト由来である抗体である。ヒト化は、キメラ抗体よりも免疫原性がさらに低減される。
【0065】
抗体のクラス(アイソタイプ)及びサブクラスは特に限定されない。例えば、抗体は、定常領域の構造の違いにより、IgG,IgA,IgM,IgD,及びIgEの5種類のクラスに分類される。しかし、実施形態に係る多孔質膜中空糸膜が精製対象とする抗体は、5種類のクラスの何れであってもよい。また、ヒト抗体においては、IgGにはIgG1からIgG4の4つのサブクラスがあり、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがある。実施形態に係る多孔質膜中空糸膜が精製対象とする抗体のサブクラスは、いずれであってもよい。なお、Fc領域にタンパク質を結合したFc融合タンパク質等の抗体関連タンパク質も、実施形態に係る多孔質膜中空糸膜が精製対象とする抗体に含まれ得る。
【0066】
さらに、抗体は、由来によっても分類することができる。実施形態に係る多孔質膜中空糸膜が精製対象とする抗体は、天然のヒト抗体、遺伝子組換え技術により製造された組換えヒト抗体、モノクローナル抗体、又はポリクローナル抗体の何れであってもよい。これらの抗体の中でも、実施形態に係る多孔質膜中空糸膜が精製対象とする抗体としては、抗体医薬としての需要や重要性の観点から、モノクローナル抗体が好適であるが、これに限定されない。
【0067】
抗体としては、IgM、IgD、IgG、IgA、又はIgEのいずれかを含むモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体が例示される。また、抗体は例えば、血漿生成物由来であってもよく、あるいは細胞培養液由来であってもよい。細胞培養によって抗体を得る場合は細胞として動物細胞もしくは微生物を使用することができる。動物細胞としては、種類は特に限定されないが、CHO細胞、Sp2/0細胞、NS0細胞、Vero細胞、PER.C6細胞などが挙げられる。微生物としては、種類は特に限定されないが、大腸菌や酵母などが挙げられる。
【0068】
本実施形態に係る多孔質膜中空糸膜を、精製対象とするタンパク質含有溶液中に含まれるウイルスを濾過により除去するための膜として使用する場合、高い膜間差圧、かつ高いウイルス除去率でタンパク質含有溶液を濾過することが可能となる。膜間差圧は本実施形態に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の75%程度以下で設定することが好ましく、したがって、より好ましい濾過時の膜間差圧は150kPa以上、165kPa以上、188kPa以上、200kPa以上、225kPa以上、あるいは250kPa以上が例示される。膜間差圧の上限値は、現実的に加えることができる圧力であれば特に限定されないが、1000kPa以下、900kPa以下、800kPa以下、700kPa以下、600kPa以下、500kPa以下、450kPa以下、400kPa以下、350kPa以下、あるいは300kPa以下が例示される。
【0069】
多孔質中空糸膜を濾過に供する時間は、長く設定するほど、濾過量が増大するメリットがあり、したがって、30分以上が例示され、1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、6時間以上がさらに好ましい。濾過時間の上限値は、特に限定されないが、7日以下、6日以下、5日2日以下、4日以下、3日以下が例示される。
【0070】
また、本実施形態に係る多孔質膜中空糸膜をウイルス除去工程に使用する時、別の精製工程を前段、あるいは後段、あるいはその両方で実施してもよい。別の精製工程に用いられる器具としては、プロテインA担体、イオン交換クロマトグラフィー、デプスフィルター、限外濾過膜、プレフィルター、及び活性炭等が例示される。
【0071】
本実施形態のさらなる例として、多孔質中空糸膜が充填された膜モジュールの完全性試験方法について説明する。
【0072】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜が充填された膜モジュールは、筒状体、蓋体、及びポッティング剤によって構成される。筒状体の内側に収められた中空糸膜はその両端部においてポッティング剤によって筒状体と接合しており、筒状体の内表面と中空糸の外表面、ポッティング剤の表面によって囲われた中空糸の外表面と接する空間(以下、「外表面側空間」という。)を形成し、外表面側空間は筒状体が有するノズルによって外界に通じている。膜モジュールは、中空糸膜と筒状体がポッティング剤によって接合された両端部をそれぞれ一定の空間を形成するよう二つの蓋体が接合されており、蓋体の内表面と中空糸の内表面、ポッティング剤のもう一方の表面によって囲われた中空糸の内表面を接する空間(以下、「内表面側空間」という。)を形成し、内表面側空間は蓋体が有するノズルによって外界に通じている。
【0073】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜が充填された膜モジュールは、蓋体のノズルから液体を加圧通液することで内表面側空間から外表面側空間へ膜を介して液体を移動させ、筒状体のノズルから液体を回収することで濾過に使用することができる。
【0074】
本実施形態に係る膜モジュールの完全性試験方法は、上記のように膜モジュールが多孔質中空糸膜の外表面に接する外表面側空間及び多孔質中空糸膜の内表面に接する内表面側空間の2つの空間を有しており、
(1)外表面側空間に液体を充填する工程、及び
(2)多孔質中空糸膜の膜間差圧が98kPaより大であり、かつ多孔質中空糸膜の弾性限界圧力以下の範囲となるように、内表面側空間を空気で加圧する工程を含む。
【0075】
本実施形態に係る膜モジュールの完全性試験方法で膜モジュールにおける外表面側空間に液体を充填する方法は、膜モジュールの筒状体のノズルから液体を充填してもよく、蓋体のノズルから液体を入れて濾過作業と同様の方法に依って液体を充填してもよい。
【0076】
膜モジュールにおける外表面側空間に液体を充填する場合、多孔質膜中のマイクロバブルの影響を減じる観点から以下に示す手順で行うことがより好ましい。
【0077】
膜モジュールを立てた状態で配置して、膜モジュールの下方蓋体のノズルより流量2L/(m2・分)程度で内表面側空間に液体を満たす。次に筒状体が有する二つのノズルの内上部側を開放して流量1L/(m2・分)程度の濾過操作によって外表面側空間に液体を充填する。最後に膜モジュールの下方蓋体のノズルより内表面側空間の液体を排出する。
【0078】
本実施形態に係る膜モジュールの完全性試験方法で使用する液体は、本実施形態に係る多孔質中空糸膜の膜構造を変化させないものであれば特に限定されないが、膜モジュールの使用前あるいは使用後の完全性試験としては濾過対象液体との置換が容易な水を使用することが好ましい。水に異物やマイクロエアが含まれていた場合、多孔質中空糸膜の構造の一部を閉塞して完全性試験の結果に影響を及ぼす恐れがあるため、水は限外濾過膜、逆浸透膜、又は脱気膜等に依って処理されたものを使用することが好ましい。一方でより精度の高い測定を行う観点から、表面張力の低いフロン系液体を使用してもよい。
【0079】
本実施形態に係る膜モジュールの完全性試験において、内表面側空間の空気を加圧する圧力は、多孔質中空糸膜の膜間差圧が98kPaより大であり、かつ多孔質中空糸の弾性限界圧力以下の範囲となる圧力である。
【0080】
完全性試験において、内表面側空間の空気を加圧する圧力を高くすることで、多孔質中空糸膜のピンホールを精度良く検出できる。しかしながら多孔質中空糸膜の弾性限界圧力を超えた圧力で加圧することは多孔質中空糸膜に塑性的変形を生じさせるため、弾性限界圧力以下あるいは未満で試験をすることが好ましく、弾性限界圧力の85%程度以下で試験することがより好ましく、75%程度以下がさらに好ましい。
【0081】
パルボウイルス除去膜の完全性試験では、パルボウイルス除去率4.0以上の判定が重要であり、そこで許容される膜モジュール中の多孔質中空糸膜のピンホールサイズは膜面積に応じて実験的に求められており、0.001m2では約3μm、0.01m2では約6.5μm、0.1m2では約12.5μm、1m2では約33μmである。
【0082】
一方で、圧力変動値の測定や流量測定を行うリークテストによる完全性試験機では、前述の如く、ピンホール判定の精度には限界があり、設定圧力200kPaの場合、検出可能な最小ピンホールの直径は2.7μm以上4.2μm以下の範囲、250kPaでは2.5μm以上3.9μm以下の範囲、300kPaでは2.3μm以上3.6μm以下の範囲であり、小さな面積の膜モジュールの完全性試験においては設定圧力を200kPa以上とすることが好ましい。
【0083】
本実施形態に係る膜モジュールの完全性試験方法の判定方法として、多孔質中空糸膜から生じる気泡を目視観察する方法、膜モジュールが有する2つの空間のうちの何れか一方の空間の圧力変動値を測定する方法、又は何れか一方の空間の圧力を一定に保持するために必要な空気流入量を測定する方法の中から一つを選択することが好ましい。
【0084】
目視観察する方法は、外表面側空間に液体が充填された膜モジュールの一方の蓋のノズルから内表面側空間を空気で加圧した際に、多孔質中空糸にピンホール等の欠陥があった場合に生じる連続気泡を目視にて観察する方法である。
【0085】
定性的な方法ではあるが、後述する空気流量を測定する手法では設備的に精度の高い判定が出来ない0.001m2や0.01m2の小膜面積の膜モジュールについて特に有効な手段である。
【0086】
小膜面積の膜モジュールにおいて、多孔質中空糸に欠陥が無く、設計通りの孔径分布によりパルボウイルス除去率4.0以上が達成されていることを判定するためには、少なくとも150kPa以上の設定圧力で内表面側空間を加圧した際に30秒間、好ましくは60秒間、外表面側空間に連続的な気泡が発生しないことを目視観察する方法を採用することが好ましい。
【0087】
本実施形態に係る膜モジュールの完全性試験の判定方法のうち、膜モジュールが有する外表面側空間及び内表面側空間のうちの何れか一方の空間の圧力変動値を測定する判定方法、又は何れか一方の空間の圧力を一定に保持するために必要な空気流入量を測定する判定方法について説明する。
【0088】
これらの方法では、膜モジュールを立てた状態で配置して、膜モジュールの上方蓋のノズルから内表面側空間を空気で加圧し、筒状体の上側ノズルから漏れ出す空気を導出する回路を形成し、それぞれの方法に応じて、加圧側に圧力調節を行うレギュレータ、流量計、圧力センサー、導出側に流量計を配置する。また、測定中に多孔質膜中に残留する液体の影響を緩和するために膜モジュール下方の蓋のノズルに連通するように容器を配置してもよい。
【0089】
これらの方法で測定される膜モジュール加圧時の圧力変化、空気流量の変化は、多孔質中空糸膜内部での空気拡散量による変化と、多孔質中空糸のピンホール等の欠陥による変化と、を合わせた変化である。完全性試験のためには、本来の多孔質膜の有する孔径分布による空気拡散で生じる変化を予め測定して、更に誤判定を防ぐためのマージンを設定して運用する必要がある。したがって、多孔質中空糸のピンホール等の欠陥が生じているか判定するための圧力変動値又は流量変動値の判定値(閾値)は実験的に求められるものであり、特に限定されない。例えば、当該閾値は、複数(例えば9つ)の膜モジュールについてリークテストを行い、圧力変動値又は流量変動値の平均値と偏差を勘案して適宜設定することができる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0091】
(1)多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の測定方法
長さ50mmの多孔質中空膜1本の一方の端部をウレタン樹脂等の硬化性液状樹脂により空気が漏れ出ないように封止し、他方の端をマイクロカプラ(日東工器社製、MC-04PH)に挿入した状態でウレタン樹脂等の硬化性液状樹脂により中空部を埋めないように接着固定した測定用モジュールを準備する。別に圧縮空気供給用の配管に圧力調整弁、圧力計、測定用モジュールのマイクロカプラを接続可能とするようマイクロカプラ(日東工器社製、MC-10SM)を備えた加圧装置を準備する。測定用モジュールを水に浸漬した状態で加圧装置に接続し、20kPa間隔で圧力を増大させて中空部に圧縮空気を供給したときの、中空糸の外径を寸法測定器(キーエンス社製、型式LS-9006M)で測定する。次式により各測定圧力による外径変化率(%)を計算し、X軸を測定圧力(kPa)、Y軸を外径変化率(%)とするグラフを作成する。
外径変化率(%)=(D/D0-1)×100
(式中、D:各圧力における外径(μm)、D0:無加圧状態での外径初期値(μm))
【0092】
次に20kPaから100kPaの20kPa間隔の5つの測定値を用いて原点を通る回帰直線式(Y=aX)を求め、その式の右辺に外径変化率1%の上乗せを意味する1を加えた式(Y=aX+1)を導出する。導出した式による直線を上記グラフに加え、直線の外径変化率を超えないプロットの圧力のうち、最も高い圧力を測定用モジュールの弾性限界圧力とする。
【0093】
試験は測定用モジュール6本以上について行い、その平均値を多孔質中空糸膜の弾性限界圧力とする。
【0094】
(2)内径及び膜厚の測定方法
多孔質中空糸膜の断面切片を作成して、マイクロスコープ(キーエンス社製、型式VHX-5000)を用いて200倍で撮影した画像を準備し、画像上の中空糸断面の膜厚を全周にわたって少なくとも20ヶ所を測定し、平均した値を膜厚の測定値とする。
【0095】
内径は、同画像の中空糸断面の中空部の面積を画像処理により求め、円形近似とした時の直径として算出する。
【0096】
(3)多孔質中空糸膜の透水量の測定方法
多孔質中空糸膜10本を束ね、一方の端部に透水測定機に接続可能なポリエチレン性チューブを接着剤で取り付け、中空糸他方の端部を16cmの有効長さになるように調整して封止した測定用モジュールを準備する。
【0097】
透水測定装置は、測定用モジュールのポリエチレン製チューブを接続可能な導管部から一定圧力で水を吐出する機構、吐出液量を高精度に定量可能な機構、吐出液量の定量時間を計測する機構、測定用モジュールを浸漬する浴槽、及び吐出水と浴水を温調する機構を備えている。
【0098】
測定用モジュールを37℃の水浴に浸漬し、測定用モジュールのポリエチレン製チューブに透水測定機の導管部を接続して37℃の水を27kPaで1mL通水する時間を計測する。測定用モジュールの多孔質中空糸膜と同一条件で作成した多孔質膜中空糸膜の内径(μm)測定の結果を基に計算される濾過膜面積と、1mL通水時間の測定値と、から膜面積1m2、1時間当たりの透水量(L/(m2・hr)を算出する。
【0099】
試験は評価用モジュール3本以上について行い、その平均値を多孔質中空糸膜の透水量とする。
【0100】
(4)多孔質中空糸膜のバブルポイント測定方法
多孔質中空糸膜の一端を封止して、他端を空気、あるいは窒素により加圧することが可能となるよう金属カプラにウレタン樹脂により固定した試験モジュール(有効長8cm)を作成する。試験モジュールにチューブを装着して、チューブ内に3M Novec 7200高機能性液体(商標、スリーエムジャパン株式会社製)を注入して多孔質中空糸膜を液体に浸漬させる。
【0101】
バブルポイント測定装置は、金属カプラを通じて多孔質中空糸膜の内表面側を加圧し、徐々に昇圧を可能とする圧力調整機構、及び圧力表示機構を備えており、試験モジュールのチューブから流れ出る気体流量を計測可能な流量計を備えている。
【0102】
試験モジュールの金属カプラ部を加圧機構の端部を装着し、試験モジュールのチューブの端部に流量測定機構のラインを装着して、徐々に昇圧した際に漏れ出す気体流量が2.4mL/分の時の圧力(MPa)を検出する。試験は試験モジュール3本以上で行い、その平均値をバブルポイント値とする。
【0103】
(5)多孔質中空糸膜のウイルスLRVの測定方法
公知の技術を用いて特開2013-17990号公報の
図1に記載の小型膜モジュールを0.001m
2の膜面積で作成する。
【0104】
濾過対象の溶液は、下記(5-A)又は(5-B)に記載の方法により調製する。
【0105】
(5-A)ウイルス含有タンパク質溶液の調製は、まず、ポリクローナル抗体(ヒトIgG)(ヴェノグロブリン-IH、ベネシス社製)を用いて、抗体濃度が1mg/mLになるように注射用水(大塚製薬)で希釈した抗体溶液を得る。また、1mol/L NaCl水溶液を用いて塩濃度を0.1mol/Lに調整する。さらに、0.1mol/L HCl又は0.1mol/L NaOHを用いて、水素イオン指数(pH)を4.0に調整し、これをタンパク質溶液とする。得られたタンパク質溶液に、ブタパルボウイルス(PPV、社団法人動物用生物学的製剤協会)を1.0vol%添加し、よく攪拌して、ウイルス含有タンパク質溶液を得る。
【0106】
(5-B)ウイルス含有溶液として、pH4.5、0.02mol/L酢酸、0.1mol/LNaClの水溶液にブタパルボウイルス(PPV、タイプVR742、米国培養細胞系統保存機関(以下、ATCC)から購入)を0.2%添加した水溶液を作成する。
【0107】
準備した0.001m2小型膜モジュールと、上記ウイルス含有タンパク質溶液又はウイルス含有溶液と、を用いて、デッドエンド内圧濾過方法によって、上記ウイルス含有タンパク質溶液(5-A)を用いる場合は濾過量150L/m2に到達するまで濾過を行い、上記ウイルス含有溶液(5-B)を用いる場合は濾過量5L/m2に到達するまで濾過を行い、濾液を得る。ここで濾過圧力は多孔質中空糸膜の弾性限界圧力に応じて選択され、弾性限界圧力が200kPaに満たない多孔質中空糸については98kPaを適性圧力として実施され、弾性限界圧力が200kPaを超える多孔質中空糸については196kPaを適性圧力として実施される。
【0108】
次に、ウイルス感染価を測定するために、56℃の水浴で30分間加熱し非働化させた後の3%BenchMark Fetal Bovine Serum(商標、Gemini Bio-Products社製)、1%PENICILLIN STREPTOMYCIN SOL(商標、Life Technologies Corporation製)のDulbecco’s Modified Eagle Medium (1X), liquid + 4.5 g/L D-Glucose +L-Glutamine - Sodium Pyruvate(商標、Life Technologies Corporation製、以下D-MEM)溶液(以下、3%FBS/D-MEM)を準備し、濾過元液、濾液のそれぞれを分取して3%FBS/D-MEMで10倍、102倍、103倍、104倍及び105倍に希釈する。
【0109】
次に、PK-13細胞(No.CRL-6489、ATCCから購入)を3%FBS/D-MEMで希釈し、細胞濃度2.0×105(細胞/mL)の希釈細胞懸濁液を調製し、96ウェル丸底細胞培養プレート10枚の全てのウェルに100μLずつ分注し、それに加えて、8ウェル毎に準備した濾過元液とその希釈液、濾液とその希釈液をそれぞれ100μLずつ分注する。その後、37℃、5%二酸化炭素雰囲気下で10日間細胞培養を実施する。
【0110】
10日間培養した細胞に対し、赤血球吸着法(ウイルス実験学 総論 国立予防衛生研究所学友会編、p.173参照)を用いて、50%組織培養感染値(TCID50)の測定を行う。
【0111】
すなわち、ニワトリ保存血液(商標、株式会社日本バイオテスト研究所製)をダルベッコPBS(-)粉末(商標、日水製薬株式会社製)のPBS(ー)調整液で5倍に希釈した後、2500rpm、4℃、5分間の遠心分離上清を吸引除去して、得られた沈殿物を再度PBS(-)調整液で200倍に希釈し、同希釈液を細胞培養プレートの全ウェルに100μLずつ分注し、2時間静置後に細胞組織表面への赤血球の吸着を観察してウイルス感染を評価する方法であり、濾過元液、濾液、それぞれの希釈液に対してウイルス感染の割合を確認し、Spearman-Karber計算式により、感染価(TCID50/mL)を算出する。
【0112】
ウイルスの対数除去率(LRV)はLRV=log10(C0/CF)で算出され、ここで、C0は濾過元液の感染価(TCID50/mL)、CFは濾液の感染価をウイルス除去膜で濾過した後の濾過液の感染価(TCID50/mL)を表す。
【0113】
0.001m2膜モジュールによるウイルス含有タンパク質溶液の濾過速度は、濾過量150L/m2に到達するまでの時間を計測して、膜面積1m2、1時間当たりの濾過量(L/(m2・hr))として算定する。
【0114】
(6)0.001m2膜モジュールの透水量の測定方法
0.001m2膜モジュールを準備し、内圧濾過、デッドエンド方式により温度25℃、膜間差圧98kPa、10分間、限外濾過膜を通した純水を濾過し、濾液を計量して、膜面積1m2、1時間当たりの透水量(L/(m2・hr))として算定する。
【0115】
(7)0.001m2膜モジュールの金コロイドLRVの測定方法
粒子径が約20nmの金コロイドを含む溶液AGP-HA20(商標、旭化成メディカル社製)を注射用蒸留水(大塚製薬社製)、0.27質量%SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)水溶液で希釈し、紫外・可視分光光度計(島津製作所製、型式UV-2450)にて測定した波長526nmにおける吸光度が1.00になるよう調整して金コロイド溶液濾過元液を準備する。
【0116】
0.001m2膜モジュールを準備し、準備した金コロイド溶液を用いて、内圧濾過、デッドエンド方式により温度25℃、膜間差圧25kPa、濾過量2L/m2の条件で濾過を実施し、0.5L/m2から2.0L/m2の濾液をサンプリングする。
【0117】
紫外・可視分光光度計(島津製作所製、型式UV-2450)を用いて、濾過元液と濾液の波長526nmの吸光度をそれぞれ測定して、LRV=log10(A/B)の式から金コロイド粒子の対数除去率(LRV)を算出する。式中Aは濾過元液の吸光度、Bは濾液の吸光度を表す。
【0118】
[実施例1]
コットンリンター(平均分子量1.44×105)を公知の方法で調製した銅アンモニア溶液中に溶解せしめ、濾過脱泡を行ない、セルロース7.5質量%、アンモニア4.4質量%、銅2.7質量%を含む紡糸原液を作成した。内部凝固液としてアセトン38質量%、アンモニア0.65質量%を含む水溶液と、外部凝固液としてアセトン28質量%を含む水溶液を準備した。
【0119】
環状二重紡口を用いて準備した紡糸原液(中央紡出口)と内部凝固液(外側紡出口)をそれぞれ3.78mL/分、0.69mL/分で吐出し、直径7mmのU字型漏斗細管中を140mL/分で流れる外部凝固液中に導入して中空糸膜を形成し、巻き取り速度(紡速)10m/分で水中巻取りを行った。巻き取った中空糸は3質量%硫酸水溶液中で中空糸膜のセルロースを再生し、さらに水洗した。得られた中空糸膜束の水分をエタノールで置換し、その後、束両端を固定し3.5%延伸した状態で、40℃、3kPaの条件下で真空乾燥させて実施例1の多孔質中空糸膜を得た。
【0120】
得られた実施例1に係る多孔質中空糸膜について、上記の各種測定方法により弾性限界圧力、内径(R)、膜厚(t)、透水量、及びバブルポイントを測定した結果を表1に示す。また、弾性限界圧力を導くために作成したグラフを
図2に示す。
【0121】
得られた多孔質中空糸膜の輪切り切片を凍結割断法により作成し、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、型式S-4700)を用いて加速電圧1.0kV、倍率2000倍で観察した写真を
図3に示す。
【0122】
次に実施例1に係る多孔質中空糸膜を用いて、公知の技術により特開2013-17990号公報の
図1と類似の小型膜モジュールを0.001m
2の膜面積で作成し、0.001m
2膜モジュールとし、ウイルスLRV(上記(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)、透水量、及び金コロイドLRVを測定した結果を表1に示す。
【0123】
更に、完全性試験を行った際に多孔質中空糸の性能が変化していないことを確認するために、得られた0.001m2膜モジュールの多孔質中空糸膜の外表面側領域に純水を満たした状態で、多孔質中空糸膜の内表面側を250kPa、10分間空気加圧した後に、透水量及び金コロイドLRVの測定した結果と、前述の加圧を施さずに行った測定結果との差異を示すための、加圧前後の透水量及び金コロイドLRVの比を表1に示す。
【0124】
ここで発明者らがウイルス除去性能評価の代替手法として金コロイド除去性能評価を選択したのは、ウイルス評価方法にはその溶液中のウイルス濃度に応じた測定限界があり、更にウイルス溶液には感染性のない粒子等を多く含むことから、膜構造の微妙な違いを判定するためには金コロイド粒子の除去性を評価することが好ましいからである。
【0125】
[実施例2から4、並びに比較例1及び2]
実施例1に対して、多孔質中空糸膜の製造条件である、紡糸原液吐出量、内部凝固液アセトン濃度、内部凝固液アンモニア濃度、内部凝固液吐出量、外部凝固液アセトン濃度、外部凝固液アンモニア濃度、及び外部凝固液流量を表1に示す条件に変更して、実施例2から4、並びに比較例1及び2に係る多孔質中空糸膜をそれぞれ製造した。
【0126】
得られた実施例2から4、並びに比較例1及び2の多孔質中空糸膜について、弾性限界圧力、内径(R)、膜厚(t)、透水量、及びバブルポイントを測定した結果と、実施例1と同様の方法で0.001m2膜モジュールを作成してウイルスLRV(上記(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)、透水量評価、及び金コロイド粒子除去評価を行った結果と、を表1に示す。実施例2に係る多孔質中空糸膜によるウイルス含有タンパク溶液の濾過速度は145LMHであった。比較例1に係る多孔質中空糸膜によるウイルス含有タンパク溶液の濾過速度は73LMHであった。
【0127】
実施例2から4の多孔質中空糸膜の輪切り切片を実施例1と同様の手法により観察した写真をそれぞれ
図4から
図6に示す。
【0128】
また、実施例1から4、並びに比較例1及び2に係る多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)に対して弾性限界圧力をプロットしたグラフを
図7に示す。多孔質中空糸膜の膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)と、弾性限界圧力と、が高い相関性を有することが確認された。
【0129】
実施例1から4に係る多孔質中空糸膜は、200kPa以上の弾性限界圧力を示し、且つその膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4以下であり、196kPa濾過におけるパルボウイルスLRV(上記(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)は4.5以上の高い値を実現できていた。
【0130】
0.001m2膜モジュールで行った、250kPa、10分間加圧による負荷をかけた時の多孔質中空糸膜の性能変化として、透水量については10%程度の増大、金コロイドLRVについては0%から5%程度の低下であった。これは加圧負荷により平均孔径が若干広がって透水量が微増し、金コロイド除去性能が若干低下したと考えられる。しかし、この程度の変化は、完全性試験による性能変化として許容される範囲である。したがって、実施例に係る多孔質中空糸膜に250kPaの設定で完全性試験を適用可能であると判断できる。また、実施例1から4において、多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の低下に応じて加圧負荷前後の金コロイドLRV変化を示す比が1を下回って減少する傾向、すなわち加圧負荷後に金コロイドLRVが低下する傾向が確認できた。実施例3と実施例4の比較から、完全性試験の設定圧力は、多孔質中空糸膜の弾性限界圧力の80%程度以下がより好ましいことが示された。
【0131】
一方で、比較例1及び2に係る多孔質中空糸膜は、弾性限界圧力が200kPaに満たず、且つその膜厚(t)に対する内径(R)の比(R/t)が8.4を超えている。比較例1及び2に係る多孔質中空糸膜は、好ましい透水量、及びパルボウイルスLRV(上記(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)を有するものの、0.001m2膜モジュールで行った250kPa、10分間加圧による負荷前後の品質変化は、実使用上問題となる変化であった。
【0132】
すなわち、比較例1においては、透水量の変化が+11%と許容範囲であるものの、金コロイドLRVは加圧負荷後の方がむしろ高い性能を示す結果となった。その原因は、理論に拘束されるものではないが、加圧による塑性変形が局所で生じたために細孔が閉塞させられたもの推定される。完全性試験中の加圧により、多孔質中空糸膜のウイルス除去能が本来よりも高く評価されることは、完全性試験において不合格であるものを誤って合格と判定される問題を起こし得る。
【0133】
一方、比較例2においては、加圧負荷後の透水量が40%程度上昇し、金コロイドLRVが10%低下している。したがって、塑性変形による平均孔径の拡大が明らかに生じていると考えられる。完全性試験中の加圧による透水量40%の増大は、完全性試験前後の多孔質中空糸膜の品質として許容できない変化であり、完全性試験として成立しない。
【0134】
したがって、比較例1及び2に係る多孔質中空糸膜に200kPa以上の負荷をかける完全性試験は適用できない。
【0135】
[実施例5]
実施例2に係る多孔質中空糸膜の外側からエキシマレーザー加工機(住友重機械工業社製、型式INDEX-800、波長243nm、定格出力80W、繰返し周波数100Hz、パルスエネルギー400mJ)を用いて、スポット径12μm、フルエンス2.1J/cm2、ショット数150回の条件で照射し、多孔質中空糸表面に直径凡そ3μmのピンホールを加工した。
【0136】
実施例2に係る0.001m2膜モジュール作成する際、凡そ12~13本の多孔質中空糸膜を使用した。実施例5においては、その内の一本を上記のように準備した直径3μmピンホールを有する多孔質中空糸膜を使用した以外は、実施例2と同じ方法により、実施例5に係る0.001m2膜モジュールを作成した。
【0137】
実施例5に係る0.001m2膜モジュールの多孔質中空糸膜の外表面側空間に水を充填し、多孔質中空糸膜の内表面側空間を216kPaで加圧したところ、30秒前後で連続気泡の発生が目視により確認できた。実施例1に係る0.001m2膜モジュールについても同様に多孔質中空糸膜の外表面側空間に水を充填し、多孔質中空糸膜の内表面側空間を216kPaで加圧したところ、60秒を超えても気泡の発生は確認できなかった。なお、実施例2に係る多孔質中空糸膜の弾性限界圧力は360kPaであるため、100kPa以上の余裕を持った試験圧力として216kPaを選択した。
【0138】
実施例5に係る0.001m2膜モジュールのパルボウイルスLRV(上記(5-B)に記載のウイルス含有溶液を使用)を上述の「多孔質中空糸膜のウイルスLRV測定方法」に記載の方法で測定した結果、そのLRVは4.2と算定された。
【0139】
本実施例の結果により、実施例1に係る0.001m2膜モジュールの目視リーク検査による完全性試験は、216kPa、60秒間の加圧条件で連続気泡が発生しないことを合格の条件とすることができることが確認された。
【0140】
[比較例3]
実施例5に係る0.001m2膜モジュールの多孔質中空糸膜の外表面側空間に水を充填し、多孔質中空糸膜の内表面側空間を98kPaで加圧したところ、60秒を超えても気泡の発生は確認できなかった。
【0141】
[実施例6]
実施例2の多孔質中空糸膜を用いて、公知技術により特開2010-259992号公報の
図4と類似の膜面積0.1m
2の膜モジュールを作成した。
【0142】
実施例6に係る0.1m2膜モジュールの多孔質中空糸膜の外表面側空間に水を充填した状態で多孔質中空糸膜の内表面側空間を加圧できるようPlanovaリークテスター(商標、旭化成メディカル社製、型式PLT-AM10)に接続した。圧力設定196kPa、測定時間30秒で9つの膜モジュールのサンプルのリークテストを実施して、測定結果である圧力変動値の平均値は43.6Paであり、偏差は8.7Paであるとの結果を得た。
【0143】
Planovaリークテスター(商標、旭化成メディカル社製、型式PLT-AM10)は、多孔質中空糸膜の内表面側空間を一定圧に保持した時に多孔質中空糸膜の外表面側空間の圧力増大を測定する装置である。
【0144】
また、実施例5と同様のエキシマレーザー加工方法により実施例2に係る多孔質中空糸膜に直径3、6、9、12、15、18、21μmのピンホールを形成した中空糸を準備し、各種ピンホールサイズの多孔質中空糸膜1本を含む0.1m2の膜モジュールを作成した。
【0145】
各種ピンホールサイズの多孔質中空糸膜1本を含む0.1m2の膜モジュールについて、ピンホールサイズとパルボウイルスLRV(上記(5-B)に記載のウイルス含有溶液を使用)の関係から、パルボウイルスLRV4以上を実現するピンホール直径は12.5μm以下と評価された。直径凡そ12μmのピンホールサイズの多孔質中空糸膜1本を含む0.1m2の膜モジュールについて、Planovaリークテスター(商標、旭化成メディカル社製、型式PLT-AM10)を用いて上述同様の方法でリークテストを行った結果、圧力変動値は3450Paであった。この値はピンホール中空糸を含まない正常な0.1m2膜モジュールの圧力変動値の平均値43.6Paに対して十分に高い数値であった。したがって、圧力変動値について適当な閾値を設けることで、リークテスターを完全性試験に用いて、0.1m2膜モジュールがパルボウイルスLRV4以下の性能を有するか否か判定可能であることが示された。
【0146】
[実施例7]
実施例6に係る0.1m2膜モジュールの多孔質中空糸膜の外表面側空間に水を充填した状態で多孔質中空糸膜の内表面側空間を加圧できるようPalltronic Flowstar(商標、Pall社製、Type-IV、表示測定値小数点以下二桁、測定範囲0.1~1000mL/分)に接続した。圧力設定196kPa、測定時間15分で9つの膜モジュールのサンプルのリークテストを実施して、測定結果である空気流量変動値の平均値は0.105mL/分であり、偏差は0.030mL/分であるとの結果を得た。
【0147】
Palltronic Flowstar(商標、Pall社製、Type-IV)は、多孔質中空糸膜の内表面側空間を一定圧で保持した時に膜への拡散によって減じる圧力を補うために空気を供給する機構を備えており、その供給された空気流量を流量計によって測定する装置である。
【0148】
同装置において、実施例6で作成した直径凡そ12μmのピンホールサイズの多孔質中空糸膜1本を含む0.1m2の膜モジュールについて、上述同様の方法でリークテストをした結果、測定結果である空気流量変動値は4.35mL/分であった。この値はピンホール中空糸を含まない正常な0.1m2膜モジュールの空気流量変動値の平均値0.105mL/分に対して十分に高い数値であった。したがって、空気流量変動値について、その平均値と偏差を勘案して適宜閾値を設けることで、同装置を完全性試験に用いて、0.1m2膜モジュールがパルボウイルスLRV4以下の性能を有するか否か判定可能であることが示された。
【0149】
[実施例8]
実施例6に係る0.1m2膜モジュールの多孔質中空糸膜の外表面側空間に水を充填した状態で多孔質中空糸膜の内表面側空間を加圧できるようSartocheck(商標、Sartorius社製、Type-4Plus、表示測定値小数点以下一桁、測定範囲0.1~3000mL/分)に接続した。圧力設定196kPa、測定時間15分で9つの膜モジュールのサンプルのリークテストを実施して、測定結果である空気流量変動値の平均値は0.24mL/分であり、偏差は0.05mL/分であるとの結果を得た。
【0150】
Sartocheck(商標、Sartorius社製、Type-4Plus)は、多孔質中空糸膜の内表面側空間を一定圧で保持した時に膜への拡散によって減じる圧力を測定して、内表面側空間の容積の情報から、前記減じる圧力を拡散流量に変換して求める装置である。
【0151】
同装置において、実施例6で作成した直径凡そ12μmのピンホールサイズの多孔質中空糸膜1本を含む0.1m2の膜モジュールについて、上述同様の方法でリークテストをした結果、測定結果である空気流量変動値は4.5mL/分であった。この値はピンホール中空糸を含まない正常な0.1m2膜モジュールの空気流量変動値の平均値0.24mL/分に対して十分に高い数値であった。したがって空気流量変動値について、その平均値と偏差を勘案して適宜閾値を設けることで、同装置を完全性試験に用いて、0.1m2膜モジュールがパルボウイルスLRV4以下の性能を有するか否か判定可能であることが示された。
【0152】
[比較例4]
実施例7及び実施例8で行った、実施例6に係る0.1m2膜モジュールの9つのサンプルを用いた空気流量変動値測定について、圧力設定を196kPaから98kPaと変えた以外は同様の方法で空気流量変動値の測定を行った。その結果、実施例7の装置では空気流量変動値は0.10mL/分に満たない値を示し、実施例8の装置では空気流量変動値は0.0mL/分あるいは0.1mL/分の値を示した。それぞれの装置の測定下限値である0.1mL/分に満たない測定結果からは、正常な膜モジュールの測定が正しく実施できていることを確認できず、またピンホールが形成された中空糸を含む0.1m2膜モジュールとの測定値との間で適当は閾値を設けることができないため、両装置を98kPaの条件で使用することは不適切であることが示された。
【0153】
[実施例9]
実施例2に係る0.001m2膜モジュールを用いたパルボウイルスLRV(上記(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)の測定について、150L/m2濾過終了後の濾液を得ることを、150L/m2濾過終了後に3時間の圧力解放を行いその後更に昇圧して15L/m2の濾過を行った濾液を得ることに変える以外は同様の方法によりパルボウイルスLRVを測定した。評価モジュール6本の評価結果は何れも5.3以上のパルボウイルスLRVと判定された。
【0154】
[実施例10]
実施例9のパルボウイルスLRV(上記(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)の測定について、濾過圧力を196kPaに変えて150kPaとすること以外は同様の方法で評価モジュール6本の測定を行った。その結果、何れも5.3以上のパルボウイルスLRVと判定された。
【0155】
[実施例11]
実施例9のパルボウイルスLRV(上記(5-A)に記載のウイルス含有タンパク質溶液を使用)の測定について、濾過圧力を196kPaに変えて98kPaとすること以外は同様の方法で評価モジュール6本の測定を行った。その結果、6本の内、5本での5.3以上のパルボウイルスLRVと判定されたが、1本のパルボウイルスLRVは4.1と判定された。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、再生セルロースを含む多孔質中空糸膜として好適であり、当該多孔質中空糸膜に対してリークテスト法を単独で行う完全性試験の方法が可能となる。