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特許7600275次亜塩素酸水製造用組成物、次亜塩素酸水、及び次亜塩素酸水の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】次亜塩素酸水製造用組成物、次亜塩素酸水、及び次亜塩素酸水の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 11/04 20060101AFI20241209BHJP
   C01B 11/06 20060101ALI20241209BHJP
   C01B 25/30 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C01B11/04
C01B11/06 A
C01B11/06 B
C01B25/30 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022579627
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004519
(87)【国際公開番号】W WO2022168957
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2021017781
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509121488
【氏名又は名称】亀田 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100174540
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 廣美
(72)【発明者】
【氏名】亀田 剛
(72)【発明者】
【氏名】田部井 裕介
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043940(JP,A)
【文献】特開2009-199074(JP,A)
【文献】特開2015-071581(JP,A)
【文献】特開2001-261506(JP,A)
【文献】特開平05-064600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 11/04
A01N 59/08
A01P 3/00
C01B 11/06
C01B 25/30
C02F 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体である次亜塩素酸水製造用組成物であって、
固体である次亜塩素酸塩又はその水和物と、固体であるpH調整剤と、からなり、
前記次亜塩素酸塩又はその水和物は、次亜塩素酸カルシウム又は次亜塩素酸ナトリウム5水和物であり、
前記pH調整剤はリン酸二水素カリウムである、次亜塩素酸水製造用組成物。
【請求項2】
前記次亜塩素酸塩又はその水和物は、次亜塩素酸カルシウムである、請求項に記載の次亜塩素酸水製造用組成物。
【請求項3】
前記次亜塩素酸カルシウムの有効塩素濃度は50%以上又は乾性のもので有効塩素濃度が10%を超え、
前記リン酸二水素カリウムの純度は95%以上である、請求項に記載の次亜塩素酸水製造用組成物。
【請求項4】
前記次亜塩素酸水製造用組成物において、(リン酸二水素カリウムの重量)/(次亜塩素酸カルシウムの重量)の値は1.5以上100以下である、請求項又はに記載の次亜塩素酸水製造用組成物。
【請求項5】
前記次亜塩素酸カルシウムは粉末であり、該粉末を構成する各粒子の粒径は3.0mm以下であり、
前記リン酸二水素カリウムは粉末であり、該粉末を構成する各粒子の粒径は3.0mm以下である、請求項のいずれか一つに記載の次亜塩素酸水製造用組成物。
【請求項6】
前記次亜塩素酸水製造用組成物は水と接触した時に防錆機能を発揮する、請求項1~のいずれか一つに記載の次亜塩素酸水製造用組成物。
【請求項7】
前記次亜塩素酸水製造用組成物と水との混合液(液温22±2℃)に炭素鋼を15分間浸漬し、前記炭素鋼を蒸留水(22±2℃)にて水洗し、前記炭素鋼を22±2℃にて45分間乾燥するという一連の工程を6回繰り返しても、前記炭素鋼における前記混合液の浸漬部分の面積に対する錆の面積の割合は10面積%以下となる防錆機能を発揮する、請求項に記載の次亜塩素酸水製造用組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一つに記載の次亜塩素酸水製造用組成物と水とからなる、次亜塩素酸水。
【請求項9】
前記次亜塩素酸塩又はその水和物は次亜塩素酸カルシウムであり、
前記pH調整剤はリン酸二水素カリウムであり、
前記次亜塩素酸カルシウムの有効塩素濃度は50%以上又は乾性のもので有効塩素濃度が10%を超え、
前記リン酸二水素カリウムの純度は95%以上であり、
前記水に対する前記次亜塩素酸カルシウムの添加量は10mg/L以上飽和濃度以下であり、
前記水に対する前記リン酸二水素カリウムの添加量は50mg/L以上飽和濃度以下であり、
(リン酸二水素カリウムの添加量)/(次亜塩素酸カルシウムの添加量)の値は1.5以上100以下である、請求項に記載の次亜塩素酸水。
【請求項10】
前記次亜塩素酸水は防錆機能を備える、請求項又はに記載の次亜塩素酸水。
【請求項11】
前記次亜塩素酸水(液温22±2℃)に炭素鋼を15分間浸漬し、前記炭素鋼を蒸留水(22±2℃)にて水洗し、前記炭素鋼を22±2℃にて45分間乾燥するという一連の工程を6回繰り返しても、前記炭素鋼における前記次亜塩素酸水の浸漬部分の面積に対する錆の面積の割合は10面積%以下となる防錆機能を備える、請求項10に記載の次亜塩素酸水。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一つに記載の次亜塩素酸水製造用組成物と水とを接触させる、次亜塩素酸水の製造方法。
【請求項13】
前記次亜塩素酸塩又はその水和物と前記pH調整剤とは、いずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解させるか、又は両方を同時に水に溶解させる、請求項12に記載の次亜塩素酸水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は次亜塩素酸水製造用組成物及び次亜塩素酸水製造方法に関し、特に粉体等の固体として形成された次亜塩素酸水製造用組成物と、当該固形の次亜塩素酸水製造用組成物を用いた次亜塩素酸水の製造方法に関する。更には、製造した次亜塩素酸水を室内環境下においても長期的に除菌効果を持続する事のできる次亜塩素酸水と、これを製造可能な次亜塩素酸水製造用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の次亜塩素酸水は、それ専用の生成器を使用して食塩を添加した水を電気分解するか、6%もしくは12%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に、pH調整剤として、塩酸、クエン酸、酢酸や二酸化炭素などを混合し、酸性から中性に調整することによって次亜塩素酸水を生成していた。この内、二酸化炭素の混合はpHが過剰に下がらないために塩素ガスの発生による事故が起きる可能性はほとんどないが、その他のpH調整剤ではpHを低下させすぎると塩素ガスが発生し死亡事故などが起こる可能性があった。特に酸化還元反応が起きるpH調整剤は、これを大量に使用すると、塩素ガスを発生するpH4以下(特にpH3以下になると危険)に低下する可能性があるため危険性が高いものとなっていた。
【0003】
また次亜塩素酸の除菌効果(又は解離)は次亜塩素酸の水素イオン指数(pH)に依存しており、pH5では殆どがHOClとして存在するが、pHが増加するにつれてHOClは減少してClOが増加し、pH7.5付近ではHOClとClOが各々50%ずつになる。一方、pHが酸側に傾き4より小さくなるとHOClは塩素分子(塩素ガス、Cl)を生成し、水中の塩素(次亜塩素酸 HOCl)はpHによってCl、HOCl、そしてClOと形を変え、その反応性も変化することになる。除菌効果(反応性)が一番高いのはClで、次はHOCl、ClOの順となるが、有害なCl(ガス)の生成は避ける必要があった。
【0004】
そこで特許文献1(特開平9-108681号公報)では、塩化物塩にpH調整剤として塩酸を使用して電解する場合に、被電解液のpH調整は非常に微妙な加減が必要であり、また塩酸は危険な物質であるため被電解液のpH調整は誰でもできなかったことに鑑みて、次亜塩素酸殺菌水を生成するための塩化物塩と、pH調整剤としてのリン酸塩及び/又は縮合リン酸塩を含む電解次亜塩素酸殺菌水生成用被電解液を提案している。
【0005】
また、特許文献2(特開2002-363017号公報)では、消毒液の消毒効果が不十分なこと、及び消毒効果のばらつきが大きいこと、及び消毒効果が持続しないことを解決し、取り扱いが容易で製造も容易で、機械を腐蝕する欠点を有しない消毒液を得ることを課題として、次亜塩素酸水を含有した消毒液で、次亜塩素酸の濃度が1~1000ppmで、かつpHが4.0~8.0の範囲である次亜塩素酸水を含有した消毒液において、pH緩衝溶液を含有する消毒液を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-108681号公報
【文献】特開2002-363017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、特許文献1では塩酸の発生を回避するためにpH調整剤としてリン酸塩を使用する事が提案されている。しかしながら、この文献で提案しているのは、無隔膜電解により次亜塩素酸含有殺菌水を生成するのに使用される被電解液であり、リン酸塩を配合した後に、無隔膜電解槽において電気分解を行う必要がある。
【0008】
また、上記特許文献2では消毒効果の持続性を向上させ、機械の腐食の問題を解決する目的でpH緩衝溶液を使用している。しかしながら、この文献では、pH緩衝溶液からなる混合水溶液調製に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を混合するものであり、液体同士を混合するものとなっていた。従って、次亜塩素酸ナトリウム水溶液における次亜塩素酸の解離の問題が生じ、その取り扱いが困難になっていた。またこの文献では、消毒効果の持続性や機械の腐食等の課題を解決するために、pH緩衝溶液は、クエン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムや、酢酸と酢酸ナトリウムなどのように2種以上の化合物からなる混合水溶液を使用していた。
【0009】
そこで本発明の一形態は、無隔膜電解槽のような特殊な装置を使用しなくとも、また電気分解などの処理を行わなくとも、次亜塩素酸水を製造でき、且つ、粉体を含む固体を使用する事により、その保存安定性や取扱い容易性を改善することができる次亜塩素酸水製造用組成物及びその関連技術を提供することを課題とする。
【0010】
更に、別の一形態の課題は以下の通りである。従来提供されている次亜塩素酸水は、除菌効果の持続性において未だ十分とは言い得ない。そのため、除菌効果の持続性を一層改善した次亜塩素酸水と、これを製造可能な次亜塩素酸水製造用組成物を提供する事、又は遮光環境に保存しなくとも室内環境下において長期的に除菌効果を持続することができる次亜塩素酸水と、これを製造可能な次亜塩素酸水製造用組成物を提供する事を、上記本発明の一形態の課題とは異なる別の課題とする。
【0011】
更に、別の一形態の課題は以下の通りである。金属の腐食性の問題を改善するか、塗布後における白色沈殿を生じさせないか、次亜塩素酸水中の析出物の問題を改善した次亜塩素酸水とこれを製造可能な次亜塩素酸水製造用組成物を提供する事を、上記本発明の一形態の課題とは異なる別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一形態は、特に粉体等の固体を用いて次亜塩素酸水を製造できるようにした次亜塩素酸水製造用組成物、次亜塩素酸水、及び次亜塩素酸水の製造方法を提供するものである。
【0013】
即ち本発明の一形態では、次亜塩素酸水を製造するための次亜塩素酸水製造用組成物であって、粉体その他の固体からなる次亜塩素酸塩又はその水和物と、粉体その他の固体からなるpH調整剤とからなる次亜塩素酸水製造用組成物を提供する。
【0014】
上記次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とは、いずれも、常温常圧環境下において、粉体、粒体、又はペレット状等の固体である。これら固体は、次亜塩素酸水を製造するために水に迅速に溶解させることを考慮すれば、粒径が小さい方が望ましく、例えば粒径1.0mm以下、特に粒径0.1mm以下とするのが望ましい。上記次亜塩素酸塩又はその水和物(一例としては次亜塩素酸カルシウム)は粒径3.0mm以下としてもよく、2.0mm以下としてもよい。pH調整剤(一例としてはリン酸二水素カリウム)は粒径3.0mm以下としてもよく、2.0mm以下としてもよい。両者を粒径1.0mm以下とするのが、水に溶解しやすくなり、好ましい。また次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とは、それぞれ個別に保存することもできるが、両者を混合させて保存することもできる。本明細書における粒径は篩にて判別してもよい。例えば粒径1.0mm以下と設定する場合、篩の目の最大幅が1.0mmの篩を通過するような粉末状の上記次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とを用意、即ち次亜塩素酸水製造用組成物を用意すればよい。なお、次亜塩素酸水製造用組成物が凝集している場合は、解し作業(解砕作業)を行った後に粒径3.0mm以下であれば、次亜塩素酸水製造用組成物が粒径3.0mm以下という条件を満たすものと本明細書ではみなす。解し作業は公知の手法を用いて構わず、上記次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤の変質をもたらさないのならば公知の分級装置を使用しても構わない。
【0015】
上記本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物において、上記次亜塩素酸塩又はその水和物は、次亜塩素酸カルシウム又は次亜塩素酸ナトリウム5水和物であり、上記pH調整剤は、リン酸二水素カリウムであることが望ましい。
【0016】
また本発明の一形態では、上記本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物を水に溶解させて製造した次亜塩素酸水を提供する。本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物は、粉体などの固体であることから、長期保存可能であって、必要な時に短時間で簡単に次亜塩素酸水を製造することができる。
【0017】
そして当該次亜塩素酸水は、遮光室温環境下における30日保管後の残留塩素濃度の減少割合が、40%以下、特に10%以下とすることが望ましい。当該次亜塩素酸水は、上記粉体その他の固体からなる次亜塩素酸塩又はその水和物と、粉体その他の固体からなるpH調整剤とを、いずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解させるか、又は同時に水に溶解させることで製造することができる。
【0018】
そして本発明の一形態では、上記課題を解決するために、次亜塩素酸水の製造方法を提供する。即ち、上記本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物を用いた次亜塩素酸水の製造方法であって、上記次亜塩素酸塩又はその水和物と上記pH調整剤とは、いずれか一方の全てを水に溶解させた後に、これに他方を溶解させる次亜塩素酸水の製造方法を提供する。また本発明の一形態では、上記本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物を用いた次亜塩素酸水の製造方法であって、上記次亜塩素酸塩又はその水和物と上記pH調整剤とは、いずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解させるか、又は両方を同時に水に溶解させる次亜塩素酸水の製造方法を提供する。
【0019】
上記次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とは、いずれも粉体、粒体、又はペレット状等の固体であることから、両者を混合して水に溶解させることにより、両者を同時に水に溶解させることができる。また、次亜塩素酸塩又はその水和物を水に投入してから、その全てが溶解する前にpH調整剤を投入して溶解させることができ、更にpH調整剤を水に投入してから、その全てが溶解する前に次亜塩素酸塩又はその水和物を投入して溶解させることができる。また容器内にいずれか又は両成分を充填し、これに水を入れて溶解させることもできる。次亜塩素酸水のpHは4~7(或いはpH4.5~6.5)としてもよい。
【0020】
本発明の第1の形態は、
固体である次亜塩素酸水製造用組成物であって、
固体である次亜塩素酸塩又はその水和物と、固体であるpH調整剤と、からなる、次亜塩素酸水製造用組成物である。
【0021】
本発明の第2の形態は、
前記次亜塩素酸塩又はその水和物は、次亜塩素酸カルシウム又は次亜塩素酸ナトリウム5水和物であり、
前記pH調整剤はリン酸二水素カリウムである、第1の形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物である。
【0022】
本発明の第3の形態は、
前記次亜塩素酸塩又はその水和物は、次亜塩素酸カルシウムである、第2の形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物である。
【0023】
本発明の第4の形態は、
前記次亜塩素酸カルシウムの有効塩素濃度は50%以上又は乾性のもので有効塩素濃度が10%を超え、
前記リン酸二水素カリウムの純度は95%以上である、第3の形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物である。
【0024】
本発明の第5の形態は、
前記次亜塩素酸水製造用組成物において、(リン酸二水素カリウムの重量)/(次亜塩素酸カルシウムの重量)の値は1.5以上100以下である、第3又は第4の形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物である。
(リン酸二水素カリウムの重量)/(次亜塩素酸カルシウムの重量)の下限値は、好適な順に、4、5、10である。上限値は、好適な順に、70、30、25、20、15、12である。
【0025】
本発明の第6の形態は、
前記次亜塩素酸カルシウムは粉末であり、該粉末を構成する各粒子の粒径は3.0mm以下であり、
前記リン酸二水素カリウムは粉末であり、該粉末を構成する各粒子の粒径は3.0mm以下である、第3~第5のいずれか一つの形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物である。
【0026】
本発明の第7の形態は、
前記次亜塩素酸水製造用組成物は水と接触した時に防錆機能を発揮する、第1~第6のいずれか一つの形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物である。
【0027】
本発明の第8の形態は、
前記次亜塩素酸水製造用組成物と水との混合液(液温22±2℃)に炭素鋼を15分間浸漬し、前記炭素鋼を蒸留水(22±2℃)にて水洗し、前記炭素鋼を22±2℃にて45分間乾燥するという一連の工程を6回繰り返しても、前記炭素鋼における前記混合液の浸漬部分の面積に対する錆の面積の割合は10面積%以下である、第7の形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物である。
【0028】
本発明の第9の形態は、
第1~第8のいずれか一つの形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物と水とからなる、次亜塩素酸水である。
【0029】
本発明の第10の形態は、
前記次亜塩素酸塩又はその水和物は次亜塩素酸カルシウムであり、
前記pH調整剤はリン酸二水素カリウムであり、
前記次亜塩素酸カルシウムの有効塩素濃度は50%以上又は乾性のもので有効塩素濃度が10%を超え、
前記リン酸二水素カリウムの純度は95%以上であり、
前記水に対する前記次亜塩素酸カルシウムの添加量は10mg/L以上飽和濃度以下であり、
前記水に対する前記リン酸二水素カリウムの添加量は50mg/L以上飽和濃度以下であり、
(リン酸二水素カリウムの添加量)/(次亜塩素酸カルシウムの添加量)の値は1.5以上100以下である、第9の形態に記載の次亜塩素酸水である。
【0030】
本発明の第11の形態は、
前記次亜塩素酸水は防錆機能を備える、第9又は第10に記載の次亜塩素酸水である。
【0031】
本発明の第12の形態は、
前記次亜塩素酸水(液温22±2℃)に炭素鋼を15分間浸漬し、前記炭素鋼を蒸留水(22±2℃)にて水洗し、前記炭素鋼を22±2℃にて45分間乾燥するという一連の工程を6回繰り返しても、前記炭素鋼における前記混合液の浸漬部分の面積に対する錆の面積の割合は10面積%以下である、第11の形態に記載の次亜塩素酸水である。
【0032】
本発明の第13の形態は、
第1~第8のいずれか一つの形態に記載の次亜塩素酸水製造用組成物と水とを接触させる、次亜塩素酸水の製造方法である。
【0033】
本発明の第14の形態は、
前記次亜塩素酸塩又はその水和物と前記pH調整剤とは、いずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解させるか、又は両方を同時に水に溶解させる、第13の形態に記載の次亜塩素酸水の製造方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の一形態によれば、単に水に溶解させるだけで次亜塩素酸水を製造できる事から、無隔膜電解槽のような特殊な装置を使用しなくとも、また電気分解などの処理を行わなくとも、次亜塩素酸水を製造できるようにした次亜塩素酸水製造用組成物を提供することができる。
【0035】
また、本発明の一形態によれば、次亜塩素酸水製造用組成物を構成する次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とは、いずれも粉体などの固体であることから、固体の状態において長期的に保存を行うことができ、またその取扱いも容易な次亜塩素酸水製造用組成物を提供することができる。そして当該次亜塩素酸水製造用組成物は、必要に応じて水に溶かすだけで、簡易かつ迅速に次亜塩素酸水を製造することができる。
【0036】
更に、本発明の別の一形態によれば、次亜塩素酸塩又はその水和物として、次亜塩素酸カルシウム又は次亜塩素酸ナトリウム5水和物を使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用すると共に、いずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解させるか、又は両方を同時に水に溶解させることにより、除菌効果の持続性を一層改善した次亜塩素酸水と、これを製造可能な次亜塩素酸水製造用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1A】本発明の一形態に係る次亜塩素酸水の製造工程を示す工程図であり、次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とをそれぞれ水に溶解させる実施形態を示す図である。
図1B】本発明の一形態に係る次亜塩素酸水の製造工程を示す工程図であり、次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とを混合等により合わせた後に水に溶解させる実施形態を示す図である。
図2A】実験例1の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。
図2B】実験例1の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。
図2C】実験例1の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。
図2D】実験例1の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。
図2E】実験例1の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。
図2F】実験例1の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。
図3A】実験例1の結果を示すグラフであってサンプル4の結果を示すグラフである。
図3B】実験例1の結果を示すグラフであってサンプル5の結果を示すグラフである。
図3C】実験例1の結果を示すグラフであってサンプル6の結果を示すグラフである。
図4A】実験例1の結果を示すグラフであってサンプル4の結果を示すグラフである。
図4B】実験例1の結果を示すグラフであってサンプル5及びサンプル6の結果を示すグラフである。
図5A】実験例2の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。
図5B】実験例2の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。
図5C】実験例2の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。
図5D】実験例2の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。
図5E】実験例2の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。
図5F】実験例2の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。
図6A】実験例3の結果を示すグラフであって粉体の次亜塩素酸カルシウムを採用した場合の結果を示すグラフである。
図6B】実験例3の結果を示すグラフであって次亜塩素酸ナトリウム水溶液を採用した場合の結果を示すグラフである。
図7A】実験例4の結果を示すグラフであり、縦軸は有効塩素濃度を示し、横軸は保管日数を示す。
図7B】実験例4の結果を示すグラフであり、縦軸はpHを示し、横軸は保管日数を示す。
図8】実験例5の結果を示す写真である。
図9】実験例5におけるX線解析結果である。
図10A】実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸は有効塩素濃度を示し、横軸は保管日数を示す。
図10B】実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸はpHを示し、横軸は保管日数を示す。
図11A】実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸は有効塩素濃度を示し、横軸は保管日数を示す。
図11B】実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸はpHを示し、横軸は保管日数を示す。
図12】実験例6の結果を示す写真である。
図13】実験例9の結果を示す写真である。
図14】実験例10の結果を示す写真である。
図15A】実験例11の結果を示す写真であり血清無しの例である。
図15B】実験例11の結果を示す写真であり血清有りの例である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照しながら、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物を具体的に説明する。本明細書において「~」は所定の値以上且つ所定の値以下を指す。本明細書において「mg/L」のことを「ppm」と表すこともある。但し、特記無い限り、本明細書に記載のppmは有効塩素濃度を表す。
【0039】
図1は本発明の一形態に係る次亜塩素酸水の製造工程を示す工程図である。この第1の実施の形態は、次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とを粉体その他の固体で構成しており、図1Aは次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とをそれぞれ水に溶解させる実施形態、図1Bは次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とを混合等により合わせた後に水に溶解させる実施形態を示している。また図示していないが容器内にいずれか又は両方の成分を充填して水を投入して溶解させることもできる。
【0040】
「次亜塩素酸水製造用組成物について」
次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸カルシウムの粉末を使用することができ、次亜塩素酸塩の水和物としては、次亜塩素酸ナトリウム5水和物の粉末を使用することができる。またpH調整剤としては、リン酸二水素カリウムの粉末を使用することができる。これら次亜塩素酸塩又はその水和物と、上記pH調整剤とは、いずれも粉体、粒体、又はペレット状(錠剤形状を含む)等の固体のもの、特に粉体、粒体のものを使用するのが望ましい。即ち、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物は、粉体等の固体を用いて形成されることから、次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とをそれぞれ別に、又は混合させた状態で長期間保存することができる。そして使用時に図1に示す様に水に溶解させるだけで、簡易かつ迅速に次亜塩素酸水を製造することができる。
【0041】
上記次亜塩素酸塩又はその水和物は、粉体その他の固体であれば良く、その形態は、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、亜鉛塩等であっても良い。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
以降、次亜塩素酸塩として、本明細書に特記無い限り、次亜塩素酸カルシウムを例示する。
【0043】
本発明の一形態に係る次亜塩素酸カルシウムの有効塩素濃度は70%以上(本明細書に記載の各実験例ではこれを使用)(好適には75%以上)であってもよい。本明細書では、有効塩素濃度を純度と呼称しても構わない。次亜塩素酸カルシウムのうち有効塩素濃度に寄与しない組成物(残部)はカルシウムを含有する組成物(例えばカルシウム塩)であってもよい。本発明の一形態に係る次亜塩素酸カルシウムの一具体例としては高度さらし粉が挙げられる。高度さらし粉は食品添加物としても使用され得、安全性が高い化合物である。但し、本発明は上記有効塩素濃度に限定されない。例えば、本発明の一形態に係る次亜塩素酸カルシウムの有効塩素濃度は50%以上であってもよい。また、本発明の一形態では、乾性のもので有効塩素濃度(別の言い方をすると水分を除いたときの有効塩素の含有率)が10%を超える次亜塩素酸カルシウムを使用してもよい。
【0044】
本明細書においては、有効塩素濃度は残留塩素濃度と同義とする。
【0045】
上記pH調整剤は粉体その他の固体であれば良く、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等を使用することができる。その他にも、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、無機酸又はその塩、有機酸又はその塩等を使用しても良い。アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。無機酸又はその塩としては、塩酸、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ポリリン酸ナトリウム等を使用しても良い。有機酸又はその塩としては、フタル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の飽和二塩基酸又はその塩や、フマル酸、マレイン酸等の不飽和二塩基酸又はその塩などが挙げられる。特に当該pH調整剤は、リン酸塩、特にリン酸二水素カリウムであることが望ましく、また粉体であることが望ましい。
【0046】
本発明者は、上記列挙した各化合物を含め、本発明の一形態に係るpH調整剤としてどれがどれほど適しているかについて調査した。
【0047】
その結果、ナトリウム塩だと、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、酸性ピロリン酸ナトリウム(Na)、酸性メタリン酸ナトリウム((NaPO)が適していた。
カリウム塩だと、リン酸二水素カリウム(KHPO)が適していた。
適していた理由は、いずれも、次亜塩素酸水製造用組成物と水とを混合して次亜塩素酸水を得る際、次亜塩素酸水としてのpHが適切(酸性)であり且つ緩衝能が発揮されてpHの変動が少ない(まとめるとpH調整能が高い)ためである。なお、リン酸二水素カリウムのpH調整能は特に高かった。
そして、ナトリウム塩だと、次亜塩素酸と反応後に塩素とナトリウムにより塩(NaCl)が生じて錆又は腐食の元となり得る一方、リン酸二水素カリウムだとそのようなおそれもない。そのため、pH調整剤としてはリン酸二水素カリウムが特に好ましい。
なお、pH調整剤としてアンモニウム塩も検討した結果、リン酸一アンモニウム(NHPO)だとpH調整能が高かったが、そもそもアンモニウム塩は次亜塩素酸と反応後に遊離塩素ではなく結合塩素であるクロラミンを形成するため、殺菌能が著しく低下する。
また、pH調整剤としてカルシウム塩も検討した結果、リン酸一カルシウム(Ca(HPO・HO)だとpH調整能が高かったが、そもそもカルシウム塩は他の塩に比べて水に溶解しにくい。
そのため、pH調整剤としてはリン酸二水素カリウムが特に好ましいことに変わりはない。
【0048】
以降、pH調整剤として、本明細書に特記無い限り、リン酸二水素カリウムを例示する。
【0049】
本発明の一形態に係るリン酸二水素カリウムの純度は95%以上(好適には98%以上或いは99%以上(本明細書に記載の各実験例ではこれを使用))であってもよい。リン酸二水素カリウムのうちリン酸二水素カリウムの純度に寄与しない組成物(残部)はカリウム及びリンの少なくともいずれかを含有する組成物(例えばリン酸二水素カリウム以外のカリウム塩、リン塩及びカリウムリン塩の少なくともいずれか)であってもよい。リン酸二水素カリウムは食品添加物としても使用され得、安全性が高い化合物である。
【0050】
上記pH調整剤の使用量は、次亜塩素酸カルシウム又は次亜塩素酸ナトリウム5水和物100質量部に対して、例えば100質量部以上、望ましくは300質量部以上とすることができる。また、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用する場合には、当該pH調整剤を必要量以上、更に飽和濃度を越える量の粉末を投入しても、次亜塩素酸水はpH4.5程度までしか下がることはなく、どんなに大量に投入しても塩素ガスを発生するpH4.0以下(特に3.0以下)にはならない。従って、次亜塩素酸水の製造時における塩素ガスの発生の問題の観点では、当該pH調整剤の配合上限を規定する必要はない。
【0051】
本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物において、(リン酸二水素カリウムの重量)/(次亜塩素酸カルシウムの重量)の値は1.5以上100以下であってもよい。下限値は、好適な順に、4、5、10である。上限値は、好適な順に、70、30、25、20、15、12、10である。
【0052】
本明細書において「からなる」は、あくまで、本発明の一形態に係る固体の次亜塩素酸水製造用組成物の主成分が次亜塩素酸塩又はその水和物(例えば上記次亜塩素酸カルシウム)とpH調整剤(例えば上記リン酸二水素カリウム)とで構成されることを指す。
この例で説明すると、上記次亜塩素酸カルシウム又は上記リン酸二水素カリウム以外の組成物(説明の便宜上「不純物」とも呼称する。)とは、次亜塩素酸カルシウム及びリン酸二水素カリウムに含まれていない元素(つまりCa、Cl、O、H、P、K以外の元素)を含む組成物であってもよい。
そして、本明細書において「からなる」は、次亜塩素酸水製造用組成物全体を100重量部としたとき、上記次亜塩素酸カルシウム(有効塩素濃度70%以上)と上記リン酸二水素カリウム(純度95%以上)の合計量は95重量部以上(好適には98重量部以上、より好適には99重量部以上、更に好適には99.9重量部以上、特に好適には100重量部)であることを指す。
つまり、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物においては、上記不純物は、5重量部未満(好適には2重量部未満、より好適には1重量部未満、更に好適には0.1重量部未満、特に好適には0重量部)である。後掲の各実験例では、少なくとも99重量部以上(不純物は1重量部未満)という数値に対応している。
ここでいう上記次亜塩素酸カルシウムとは、有効塩素濃度は70%以上(好適には75%以上)である。残部はカルシウムを含有する組成物(例えばカルシウム塩)であってもよい。残部であって上記次亜塩素酸カルシウム全体の重量の5%未満(好適には2%未満、1%未満)は上記不純物であっても構わない。
また、上記リン酸二水素カリウムとは、純度が95%以上(好適には98%以上或いは99%以上)である。5%未満(好適には2%未満、1%未満)の残部は上記不純物であっても構わない一方、一例としては、上記残部がカリウム及びリンの少なくともいずれかを含有する組成物(例えばリン酸二水素カリウム以外のカリウム塩、リン塩及びカリウムリン塩の少なくともいずれか)である。
本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物は、上記有効塩素濃度の固体の次亜塩素酸カルシウムと、上記純度の固体のリン酸二水素カリウムと、からなる(或いは、のみからなる)。
【0053】
上記次亜塩素酸水製造用組成物で製造する次亜塩素酸水は、有効塩素濃度20ppm~5000ppmまでとし、pHは4~7(或いはpH4.5~6.5)の範囲とすることができる。そのため、次亜塩素酸カルシウムは水1リットル当たり、約30mg~10g使用することができ、リン酸二水素カリウムは、次亜塩素酸カルシウムの濃度にもよるが、0.1g~220g使用することができる。更に塩素濃度が高いものが必要な場合は、水1リットル当たり次亜塩素酸カルシウム210g(27万ppm)までの対応は可能である。但し、2000ppm以上は沈殿が顕著となる。
【0054】
水に対する前記次亜塩素酸カルシウムの添加量(言い方を変えると水に対する配合量)は10mg/L以上飽和濃度以下(一例としては1000mg/L以下)であってもよい。下限値は160mg/Lが好ましい。上限値は480mg/Lが好ましい。
【0055】
水に対する前記リン酸二水素カリウムの添加量(言い方を変えると水に対する配合量)は50mg/L以上飽和濃度以下(一例としては20000mg/L以下)であってもよい。下限値は1000mg/Lが好ましい。上限値は、好適な順に、10000mg/L、4000mg/Lである。
【0056】
また、次亜塩素酸ナトリウム5水和物を使用する場合は、有効塩素濃度が40%前後なので、有効塩素濃度20ppm~5000ppmまでとし、pHは4~7(或いはpH4.5~6.5)の範囲とすることができる。次亜塩素酸カルシウムは水1リットル当たり、約35mg~12g使用することができ、リン酸二水素カリウムは、次亜塩素酸のナトリウム濃度にもよるが、0.1g~220g使用することができる。次亜塩素酸ナトリウム5水和物(粉末)を使用する場合、30万ppm(製品にもよるが、約2500g/L)まで対応可能である。
【0057】
上記次亜塩素酸水製造用組成物を構成する次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とは、粉体などの固体であることから、長期にわたって安定した状態で保管することができる。
【0058】
即ち、次亜塩素酸カルシウム(カタログ上の有効塩素濃度70%程度)は、乾燥したところで直射日光や火気を避けて保存することができる。このような環境で保管すれば1年以上は有効塩素濃度を下げることなく保管できる。また次亜塩素酸ナトリウム5水和物(カタログ上の有効塩素濃度40%程度)は、7℃以下の冷暗所保管で1年間安定に保管可能である。ただし、冷蔵する必要があるため、そのための装置(冷蔵庫)が必要である。そしてリン酸二水素カリウムについても、容器を密閉しておくこと、直射日光を避け、換気の良い場所で保管すれば年単位で長期保存が可能である。
【0059】
例えば、粉体からなる次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムの2つの成分を1つに混合して、室内光(平均2300lux程度の蛍光灯下で1日当たり12時間)を照射した室温(約18℃~22℃)の環境下で、非遮光マイクロチューブに入れた状態で30日間から1年間保管した状態でも、それを溶解して生成した次亜塩素酸水のpHと塩素濃度は、作成直後の2つの成分から生成したものと同等であった。また、上記のマイクロチューブに入れた2つの成分を50℃で1週間保管したものについては、pHは同等であったが、塩素濃度は5%程度低下していた。70℃で1週間保管したものについては、pHは同等であったが、塩素濃度は30%程度低下していた。
【0060】
また次亜塩素酸塩又はその水和物、及びpH調整剤が粉末である場合には、その保管方法として、次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤の2つの成分(粉末等の固体)を分けて保管する他、2つの成分を混合して1つにして保管することができる。2つの成分を別々に保管する場合、それぞれの固体は、ある程度多くの量をボトルもしくは袋で保管することができる。この場合、使用者がその都度もしくは事前に使用量を計測する必要がある。またそれぞれの成分を、使用する量ごとに分包しておくこともできる。この場合、遮光もしくは非遮光の紙もしくは樹脂(ポリプロピレンなど)フィルムの薬包に分包しておくか、遮光もしくは非遮光のマイクロチューブなどのプラスチック容器に分包しておくことができ、分包したものについては、遮光もしくは非遮光の容器や袋に入れておくことができる。その場合、次亜塩素酸水製造用組成物を、固体である次亜塩素酸塩又はその水和物と、固体であるpH調整剤と、からなる、次亜塩素酸水製造用組成物セットと呼称してもよい。
【0061】
また2つの成分を1つにして保管する場合、それぞれの成分を予め混ぜた上で、ある程度多くの量をボトルもしくは袋で保管することができる。この場合、使用者がその都度もしくは事前に使用量を計測する必要がある。またそれぞれの成分を予め混ぜるか又は混ぜないで、使用する量ごとに分包しておくこともできる。この場合、遮光もしくは非遮光の紙もしくは樹脂フィルムの薬包に、それぞれの必要量を一緒にして1つの薬包に分包しておくか、遮光もしくは非遮光のマイクロチューブなどのプラスチック容器にそれぞれの必要量を一緒に1つの容器に分包しておくことができる。そして分包したものについては、遮光もしくは非遮光の容器や袋に入れておくことができる。
【0062】
「次亜塩素酸水の製造方法について」
上記次亜塩素酸水製造用組成物は、これを水に溶かすことで次亜塩素酸水を製造することができる。特に本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物を構成する成分(次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤)は、いずれも粉体等の固体からなり、これを水に溶解させるだけで、任意の塩素濃度と任意のpH(pH4~7程度(或いはpH4.5~6.5))の次亜塩素酸水を簡単に製造することができる。そして使用する次亜塩素酸ナトリウム5水和物の粉末又は次亜塩素酸カルシウムの粉末の量を調整することにより、高濃度の次亜塩素酸水も作成可能である。
【0063】
この点、従前における次亜塩素酸水の製造方法は、液体(次亜塩素酸ナトリウム)と液体(塩酸、酢酸)、液体(次亜塩素酸ナトリウム)と気体(炭酸ガス)、液体(次亜塩素酸ナトリウム)と固体(クエン酸)、液体(水)と固体(食塩)を電解するという方法であり、いずれも専用の機器が必要であり、オンサイトで生成不可能である。
【0064】
即ち、気体を使用する場合はタンクが必要であり、液体を使用する場合は液体として遮光容器に入れた状態で保管しなくてはならない。また、従来における液体と液体、液体と固体の製造方法では、製造過程における製造方法と配合用量を間違えるとpHが下がり過ぎて(pH3以下)塩素ガスが発生し、危険を伴う。一方、炭酸ガスを使用した製造方法では、必要以上にpHが下がらない利点があるが、炭酸ガスタンクと専用の生成器が必要である。また、生成されたものは、発泡するため運搬等にも適さない。液体(水)と固体(食塩)を電解する製造方式では、原材料が安価で生成も容易ではあるが、専用の生成器とその電極やイオン交換膜などの劣化、更に数十ppm程度までしか濃度が上がらないという問題がある。
【0065】
これに対して、本発明の一形態に係る製造方法では、2種類の粉末(固体)を水に溶かし、必要に応じて希釈するだけであることから、特別な、そして高価な生成器を用いなくとも次亜塩素酸水を生成することができる。また粉末などの固体については、液体ほど保管場所は必要なく、冷蔵保存や遮光保存が必要な固体でなければ、直射日光を避ける程度で普通に長期間(数年)保管することができる。よって保管や取扱い、及び次亜塩素酸水の製造上有利な次亜塩素酸水製造用組成物とすることができる。
【0066】
上記次亜塩素酸塩又はその水和物と上記pH調整剤とは、粉体などの固体状態でそれぞれ別に又は同時に水に溶解させる他、それぞれを別々に水に溶解させた溶液として、これを混合したり、いずれかを溶解させた溶液に他方を溶解させたりできる。両者を固体状態(粉体又は粒体)で水に溶解させる際には、いずれか一方を溶解させた後に他方を溶解させる他、いずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解させる、又は両方を同時に水に溶解させることもできる。特に両者を固体状態(粉体又は粒体)で、同時に水に溶解させる際には、溶解前に両者を混合させても良く、溶解前に両者を混合させなくとも良い。また、各成分の溶解方法は、容器に粉状の各成分を入れてから水を入れてもよいし、水を入れてから粉状の各成分を入れてもよい。各成分を水に溶解させる際には、スターラーのようなもので撹拌しながら溶解させても良いし、転倒混和、振盪混和など如何なる方法で溶解させても良い。
本明細書において、同時溶解とは、以下のいずれかの手法で上記次亜塩素酸塩又はその水和物と上記pH調整剤とを溶解することを指す。
・一方の固体(例:粉末)を水に入れ、その直後にもう一方の固体(例:粉末)を入れて、溶解作業を同時に行う。
・両固体(例:両粉末)を混ぜて、同時に水に投入し溶解する。
本明細書において、2粉溶解(いわば非同時溶解)とは、一方の固体(例:粉末)を水に入れて完全もしくはほぼ完全に近い状態(少なくとも半分以上の量)に溶解させた後に、もう一方の固体(例:粉末)を水に入れ入れて溶解させることを指す。
【0067】
次亜塩素酸塩又はその水和物と上記pH調整剤とを同時に水に溶解するためには、両者が固体状態(粉体又は粒体)であることが必要である。また両者が粉末等の固体であることから、それぞれの粉末などの固体を、それぞれに最適な状態で保管し、必要量を同時投入して溶解させ使用することができる。次亜塩素酸塩又はその水和物と上記pH調整剤とは、それぞれを別にして保管することができる他、あらかじめ両成分を混合した上で補完することができる。
【0068】
そして次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とを同時か、又はいずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解させることにより、生成時間を短縮させた上に除菌効果の持続性を向上させることができる。即ち、本発明の一形態に係る製造方法によって製造した次亜塩素酸水は、遮光室温環境下における30日保管後の残留塩素濃度の減少割合が、40%以下、特に10%以下とすることができる。
【0069】
一方で、次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤のいずれか一方を水に溶解させた後に他方を溶解させた場合には、室内光(平均2300lux程度の蛍光灯下で1日当たり12時間)を照射した室温(約18℃~22℃)の環境下おいて、無色透明非遮光ペットボトルに入れた状態で30日保管後のpHの変動が10%程度、残留塩素濃度の低下が50%近くあったのに対して、次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とを同時か、又はいずれか一方の全てが水に溶解する前に他方を溶解した場合には、室内光下で室温において無色透明非遮光ペットボトルに入れた状態で30日保管後のpHの変動が5%程度、残留塩素濃度の低下は5%以下であった。
【0070】
而して、粉末等の固体の各成分からなる次亜塩素酸水製造用組成物は、水に溶解させて使用される所、当該次亜塩素酸水製造用組成物の溶解の仕方によって、製造される次亜塩素酸水における除菌効果の持続性が変わることを見出した。そこでこの溶解の仕方に着目して、次亜塩素酸水製造用組成物を構成する各成分の溶解の時間や順序、及び各成分の粉末粒径を検討した結果、次亜塩素酸水製造用組成物を構成する各成分は、少なくとも10秒以内に水(水道水など)に、そのほとんどを溶解させるのが望ましく、そのために各成分の粒径は0.1mm以下にすることが望ましいことを確認した。よって、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物を構成する次亜塩素酸塩又はその水和物とpH調整剤とは、粒径は0.1mm以下の粉体であることが望ましい。また次亜塩素酸カルシウム溶液をリン酸二水素カリウムでpH調整したものでは、pHが低いものの方が経時的な塩素濃度の低下は少ない。但し、本発明はこの形態に限定されない。例えば、上記次亜塩素酸塩又はその水和物(一例としては次亜塩素酸カルシウム)は粒径3.0mm以下としてもよく、2.0mm以下としてもよい。pH調整剤(一例としてはリン酸二水素カリウム)は粒径3.0mm以下としてもよく、2.0mm以下としてもよい。
【0071】
「次亜塩素酸水について」
以上の次亜塩素酸水製造用組成物によって生成された次亜塩素酸水は、次亜塩素酸を含み、pHが4~7(或いはpH4.5~6.5)に調整されたもので、生成直後の遊離塩素は残留塩素濃度とほぼ同等のものである。この残留塩素濃度は任意に設定可能である。理論上、次亜塩素酸カルシウムの溶解度の限度(21g/100ml(25℃))の有効塩素濃度の割合(60~80%)である120000~160000ppmまで生成可能である。例えば1000ppmから2000ppm程度の高濃度の次亜塩素酸水(ストック溶液)を作っておき、室温遮光で保管し、それを水道水や蒸留水で随時希釈して使用してもよい。この場合、ストック溶液となる次亜塩素酸水は、その濃度にもよるが経時的に有効塩素濃度が低下する。例えば次亜塩素酸水を室温遮光環境下で2週間保存した場合には、有効塩素濃度が1000ppmでは約20%程度、2000ppmでは30%程度低下する。そのため、このような用途では、塩素濃度の低下を見据えたストック溶液を用意する必要がある。
【0072】
例えば次亜塩素酸カルシウムを水に溶解させた後に、リン酸二水素カリウムでpH調整した次亜塩素酸水(残留塩素濃度:200~300ppm)は、冷蔵で1か月保存してもその有効塩素濃度の低下は5%程度にとどまる程度であり、pHについても、経時的にほとんど変化は認められない。また、室温で遮光保存したものについては1か月の保管で有効塩素濃度が20~30%程度低下する程度であり、pHについても、経時的にほとんど変化は認められない。更に室温で光に当てたもの(2300~2400lux程度の蛍光灯(UV13~14μW/cm)で24時間照射したもの)は、1か月で有効塩素濃度が50~70%低下し、pHは、経時的に0.4程度下がる。
【0073】
本発明の一形態に係る製造方法では、次亜塩素酸の他に副産物としていくつかのものの生成が考えられる。即ち、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムとからなる次亜塩素酸水製造用組成物を使用した場合には、沈殿物として、少量のCaHPO・2HO(X線回折で分析済)と、溶液中のHOCl,ClO,K,H,PO 3-の他、極少量のKHPO、KClが含まれる可能性がある。また、次亜塩素酸ナトリウムとリン酸二水素カリウムとからなる次亜塩素酸水製造用組成物を使用した場合には、沈殿物は生じないが、溶液中のHOCl,ClO,Na,K,H,PO 3-の他、極少量のNaHPO、KHPO、KCl、NaClが含まれる可能性がある。但し、いずれの生成物も食品添加物として認可されている。そして次亜塩素酸カルシウムを用いた場合には、次亜塩素酸ナトリウムの製造過程で不純物として含まれ、貯蔵中に増加し、汚染の原因として問題となっている臭素酸は含まれない。また、金属の腐食の原因とされるナトリウム及びその化合物も含まれない。
【0074】
また次亜塩素酸カルシウムを、先に水に完全に溶解させてからリン酸二水素カリウムを投入してpH調整をすると、生成直後は無色透明で沈殿物はできないが、3時間後から極少量の沈殿ができ、6時間以降にその量はプラトーに達する(沈殿量は極少量で沈殿物はリン酸水素カルシウム2水和物)。一方で次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムを同時に水に溶解させると、混和直後から極少量の沈殿(浮遊)物ができるが、時間と共にあまり増えることがなく、次亜塩素酸カルシウムを先に水に完全に溶解させてからリン酸二水素カリウムを投入した場合よりも、沈殿物自体は同等より少ない。
【0075】
そして本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物において、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用した次亜塩素酸水は、金属における錆の発生を著しく軽減することができる。即ち、リン酸二水素カリウムでpH調整した次亜塩素酸カルシウムから作製した溶液中に、炭素鋼でできた構造物(歯科用切削バー)を浸漬(15分浸漬後に蒸留水で水洗して45分自然乾燥の処理を6回)した場合、錆は全く発生しないわけではない。但し、錆の量は極めて少ない。例えば、上記炭素鋼における溶液の浸漬部分の面積に対する錆の面積の割合は10面積%以下、更に言えば5面積%以下、4面積%以下、3面積%以下、2面積%以下である。
【0076】
これに対して、上記pH調整剤を添加していない次亜塩素酸カルシウム溶液、もしくは現在市中に存在している次亜塩素酸水に浸漬すると錆が発生する。この錆は80%エタノールでも少量発生し、蒸留水中に浸漬しても同様に少量の錆が発生した(詳しくは後掲の実験例11参照)。
【0077】
本明細書における炭素鋼は、炭素含有量が0.02質量%以上0.25質量%以下の低炭素鋼、0.25質量%以上0.6質量%未満の中炭素鋼、0.6質量%以上2.14質量%未満の高炭素鋼のいずれかであってもよい。不純物としては、硫黄が0.03質量%程度、リンが0.01質量%、珪素が0.05質量%程度含まれてもよい。残部は鉄である。
【0078】
つまり、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物は水と接触した時に防錆機能を発揮する。そして、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物と水とを混合したもの(以降、「本発明の一形態に係る次亜塩素酸水」とも称する。)は防錆機能を備える。次亜塩素酸水であるにもかかわらず防錆機能を備えることは当業者の技術常識に一見すると反する。その一方、後掲の実験例11等が示すように、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物は水と接触した時に防錆機能を発揮する。
【0079】
しかも、後掲の各実験例が示すように、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水だと有効塩素濃度もpHも、本発明の一形態以外の例に比べ、時間の経過による変化が少なく済む。つまり、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水は劣化しにくい。そのため、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水の製造方法は、次亜塩素酸水の防錆機能付与方法という側面もあり、次亜塩素酸水の品質(具体的にはpH及び有効塩素濃度)の維持能力の向上方法という側面もある。
【0080】
上記の効果を奏するメカニズムは、推測ではあるが、以下の通りである。
【0081】
「効果を奏するメカニズムについて」
(次亜塩素酸水製造用組成物が水と接触した時の動向)
本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物の一例は、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムからなる。次亜塩素酸カルシウムが水と接触すると、水酸化カルシウムと次亜塩素酸とが生じる。次亜塩素酸カルシウムが水と接触した時の化学反応式は以下の通りである。
Ca(ClO)+HO→Ca(OH)+HOCl ・・・(1)
【0082】
本発明の一形態に係る次亜塩素酸水は酸性であり、水酸化カルシウムは以下の反応式のようにイオン化される。
Ca(OH)→Ca2++2OH ・・・(2)
【0083】
次亜塩素酸(HOCl)は、対象物と接触することにより殺菌能を発揮する。但し、状況により、HOClは、以下の反応式のようにイオンに分解され、殺菌能が徐々に減少する。
HOCl→H+ClO ・・・(3)
そして、次亜塩素酸イオン(ClO)は以下のように塩素イオンと酸素イオンに分解される。
ClO+2e→Cl+O2- ・・・(4)
【0084】
リン酸二水素カリウムが水と接触すると、以下の反応式のようにイオン化される。
KHPO→K+2H+PO 3- ・・・(5)
【0085】
(錆又は腐食の抑制メカニズム)
錆又は腐食を抑制するメカニズムとしては、端的に言うと、リン酸二水素カリウムが沈殿皮膜型防錆剤として作用することによる。
【0086】
順に説明すると、対象物の表面に対し、まずは上記次亜塩素酸(HOCl)が殺菌能を発揮する。それにより、対象物の表面に付着した有機物が分解される。
【0087】
何も対策がなされなければ、対象物の表面に付着した有機物が分解された後も、上記次亜塩素酸は対象物の表面に作用し続け、対象物の表面を浸食する。その結果、何も対策がなされなければ、錆又は腐食が顕著に生じる。
【0088】
その一方、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物にはリン酸二水素カリウムが含まれている。そのため、対象物の表面に付着した有機物が上記次亜塩素酸により分解された後、殺菌された対象物の表面にリン酸一水素カルシウム(CaHPO)が被膜を形成する。その反応式は以下の通りである。
Ca2++H+PO 3-→CaHPO↓ ・・・(6)
リン酸一水素カルシウムは水和物であってもよい(後掲の実験例5参照)。例えば、被膜を形成するのはリン酸一水素カルシウム2水和物(CaHPO・2HO)であってもよい。また、リン酸一水素カルシウム以外にも、Ca(HPO・HOにより構成される被膜が形成されている可能性もある。
【0089】
いずれにせよ、上記(2)(5)そして次亜塩素酸水中の水素イオンにより沈殿が生じる。次亜塩素酸水中には殺菌の対象物が存在する。その結果、対象物の表面にリン酸塩(CaHPO)が堆積し、結果として対象物の表面に被膜が形成される。この被膜が、対象物に対する錆又は腐食の発生を抑制していると推測される。
【0090】
(次亜塩素酸水が劣化しにくいメカニズム)
次亜塩素酸水が劣化しにくいメカニズムとしては、端的に言うと、次亜塩素酸(HOCl)が劣化により分解されても、次亜塩素酸水中で次亜塩素酸が顕著に再生されることによる。
【0091】
順に説明すると、対象物の表面に対し、まずは上記次亜塩素酸(HOCl)が殺菌能を発揮する。
【0092】
但し、殺菌能の発揮に伴い、上記(3)に示すように、上記次亜塩素酸(HOCl)は、水素イオン(H)と次亜塩素酸イオン(ClO)とに分解される。更に、上記(4)に示すように、ClOが塩素イオンと酸素イオンに分解される。何も対策がなされなければ、上記次亜塩素酸は分解されたままであるか、上記次亜塩素酸が化学平衡により再生したとしても有効塩素濃度の低下及び/又はpHの変動、即ち次亜塩素酸水の劣化の度合いは大きい。
【0093】
その一方、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水は劣化しにくい。その理由は、上記(3)の次亜塩素酸イオン(ClO)、及び/又は、上記(4)の塩素イオン及び酸素イオンが、水素イオンと結合し、次亜塩素酸(HOCl)を再生するためと推測される。そして、その水素イオンの供給源は、上記次亜塩素酸(HOCl)が分解されたときに生じる水素イオンも考えられるし、上記(錆又は腐食の抑制メカニズム)で説明した被膜を構成するリン酸一水素カルシウム(CaHPO)の生成の際に余った水素イオンも考えられる。次亜塩素酸(HOCl)の再生の反応式は以下の通りである。
+ClO→HOCl ・・・(7)
+Cl+O2-→HOCl ・・・(8)
【0094】
上記(8)(9)を引き起こす要因の一つがラジカルである。詳しく言うと、次亜塩素酸水に対して太陽光(特にUV光)又は高温等の刺激が加わると、以下のようにラジカルが生じる。
HOCl→・OH+・Cl ・・・(9)
【0095】
一般的に考えれば上記(10)は次亜塩素酸の分解反応であり好ましくない。ところが本発明の技術的思想では、このラジカルを積極的に次亜塩素酸(HOCl)の再生に活用している。その反応式は以下の通りである。
HOCl+・OH→HO+・ClO ・・・(10)
HCl+・ClO→HOCl+・Cl ・・・(11)
【0096】
本発明の技術的思想においては、次亜塩素酸が分解されたとしてもそれを逆手に取り、ラジカルは反応性が高いことを利用し、次亜塩素酸(HOCl)の再生を促している、という側面もあり得ると推測される。
【0097】
更に、別のルート(反応式)にて次亜塩素酸(HOCl)が再生しているとも推測される。以下、説明する。
【0098】
次亜塩素酸水が劣化すると、上記(4)に示すように塩素イオンが生じ、その結果、塩酸(HCl)が生じる。また、次亜塩素酸水が劣化すると、塩素酸イオン(ClO )も生じ、その結果、塩素酸(HClO)が生じる。
【0099】
ところが、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水中では、塩酸(HCl)及び塩素酸(HClO)は、酸素イオン及び水素イオンと結合し、次亜塩素酸に戻る。そのため、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水は劣化しにくい。
【0100】
この別のルート(反応式)での次亜塩素酸(HOCl)の再生にも上記ラジカルが関わると推測される。つまり、別のルート(反応式)においても、次亜塩素酸が分解されたとしてもそれを逆手に取り、ラジカルは反応性が高いことを利用し、次亜塩素酸(HOCl)の再生を促している、という側面もあり得ると推測される。
【0101】
上記次亜塩素酸(HOCl)の再生に係る化学反応は、次亜塩素酸水中で常時、化学的に平衡されている。そのため、経時的に、pHの変化は顕著に小さく、次亜塩素酸の効力もほぼ変わらない。
【0102】
上記各メカニズムを全て実現できるのは、固体である次亜塩素酸水製造用組成物であって、固体である次亜塩素酸塩又はその水和物(具体的には次亜塩素酸カルシウム)と、固体であるpH調整剤(具体的にはリン酸二水素カリウム)と、からなる、次亜塩素酸水製造用組成物を水に溶解させたときに、上記各反応が絶妙なバランスで成り立つためである。
【0103】
しかも、上記の化学平衡は、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムとを同時に溶解させたときに最も成立しやすい(後掲の各実験例において同時溶解の場合とそうでない場合の実験結果の対比より)。
【0104】
なお、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【実施例
【0105】
以下、本実験例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実験例に限定されるものではない。なお、以降に記載の「水」は蒸留水(DW)を指す。また、「(m)g/500ml」という記載は、各実験例にて溶媒である蒸留水(又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液)が500mLであるときの試薬(具体的には次亜塩素酸カルシウム又はリン酸二水素カリウム)の添加量を示す。
また、特記無い限り、以下の実験例では、次亜塩素酸カルシウムは粉末且つ粒径3.0mm以下であり、リン酸二水素カリウムは粉末且つ粒径3.0mm以下である。
また、以下の実験例においては、各サンプルに記載されたpHとppm(有効塩素濃度)になるように各試薬の分量を決定している。各サンプルにおいて記載された各試薬の分量(例えばサンプル5のリン酸二水素カリウム4g等)はあくまで目安となる数値である。
【0106】
この実験例では、粉体その他の固体からなる次亜塩素酸塩又はその水和物と、粉体その他の固体からなるpH調整剤の特性を確認するために実験を行った。なお、以下の実験例における次亜塩素酸ナトリウムの実験結果は、各実験の趣旨に反しない範囲において、実質的に粉体を含む固体の次亜塩素酸ナトリウム5水和物の実験結果と同視することができる。
【0107】
〔実験例1:次亜塩素酸水経時試験〕
この実験例では、次亜塩素酸塩とpH調整剤の組み合わせについて、保管条件を変えてpHと残留塩素濃度の経時変化を確認した。実験を行った各サンプルの成分、保管条件、及び保管時間ごとのpHの経時変化は以下の表1に示すとおりであり、また残留塩素濃度の経時変化は以下の表2に示すとおりである。
「各サンプルの成分」は、リン酸塩の有無を指す。具体的には後掲のサンプル4(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)にリン酸塩を添加しなかったもの及びサンプル4、サンプル5(次亜塩素酸カルシウム、水溶液だとpH5.5)にリン酸塩を添加しなかったもの及びサンプル5、並びに、サンプル6(次亜塩素酸カルシウム、水溶液だとpH6.0)にリン酸塩を添加しなかったもの及びサンプル6を指す。
「保管条件」は、室温又は冷蔵、蛍光灯又は遮光を指す。
「保管時間」は、0~60日を指す。
なお室温とは22±2℃(21±2℃、20±2℃でも可。特記無い限り22±2℃を指す。)であり、蛍光灯の照射は2300±100lux(UV:10±1μW/cm)の光量である。室温遮光における室温は22±1℃を指す。また本実験例では次亜塩素酸塩とpH調整剤はいずれか一方を水に溶解させた後に他方を溶解させた。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
また、この実験例では、複数の次亜塩素酸水について、保存条件の違いによる塩素濃度とpHの経時変化を確認した。本実験例で使用した次亜塩素酸水のサンプルは、以下の通りである。
【0111】
サンプル1:「電解式(55ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用した。具体的には、生成器(ファインオキサー FOW-1000S6-D/G,株式会社ファーストオーシャン,神奈川,日本)から生成した。
サンプル2:「2液(塩酸)混合」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用した。具体的には製品名レナウォーター(レナファイン株式会社,東京,日本)である。
サンプル3-1:「炭酸混合(130ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用した。具体的には、生成器(KHM-1,レナファイン株式会社,東京,日本)から生成した。
サンプル3-2:「炭酸混合(240ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用した。具体的には、生成器(KHM-1,レナファイン株式会社,東京,日本)から生成した。
サンプル4:「次亜塩素酸Na+リン酸塩(250ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、以降同様。)を使用した。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(濃度6%)(製品名ピューラックス(登録商標)、オーヤラックス株式会社製)を蒸留水(DW)で希釈して、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(250ppm)5mLを作り、そこにリン酸二水素カリウム4gを添加した。
サンプル5:「次亜塩素酸Ca+リン酸塩pH6.0(250ppm)」次亜塩素酸塩として次亜塩素酸カルシウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用した。具体的には、次亜塩素酸カルシウム200mg、リン酸二水素カリウム4gを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分はいずれか一方(次亜塩素酸Ca)を水に溶解させた後に他方(リン酸塩)を溶解させた。
サンプル6:「次亜塩素酸Ca+リン酸塩pH5.5(250ppm)」次亜塩素酸塩として次亜塩素酸カルシウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用した。具体的には、次亜塩素酸カルシウム200mg、リン酸二水素カリウム5gを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分はいずれか一方(次亜塩素酸Ca)を水に溶解させた後に他方(リン酸塩)を溶解させた。
【0112】
また保存条件は、4℃の冷蔵環境下で遮光して保存した「冷蔵(4℃)遮光」と、22±1℃の室温環境下で遮光して保存した「室温遮光(22±1℃)遮光」と、22±1℃の室温環境下で1日24時間2,300lxの光を照射して保存した「室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)」とした。
【0113】
そして残留塩素濃度の測定はハンナインスツルメンツジャパン(Hanna Instruments Japan)社製のHI 96771Cを使用し、pHの測定は(株)堀場製作所社製のpH メーター(LAQUAtwin(登録商標) B-71X)を使用した。その結果を図2に示す。
図2A図2Cの縦軸は、0日での有効塩素濃度に対する残留塩素濃度の割合を示し、横軸は保管日数を示す。図2Aは、実験例1の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。図2Bは、実験例1の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。図2Cは、実験例1の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。
図2D図2Fの縦軸は、pHを示し、横軸は保管日数を示す。図2Dは、実験例1の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。図2Eは、実験例1の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。図2Fは、実験例1の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。
【0114】
また上記サンプル4~6ごとの保管条件の違いによる塩素濃度の経時変化を図3に示す。
図3A図3Cの縦軸は、有効塩素濃度を示し、横軸は保管日数を示す。図3Aは、実験例1の結果を示すグラフであってサンプル4の結果を示すグラフである。図3Bは、実験例1の結果を示すグラフであってサンプル5の結果を示すグラフである。図3Cは、実験例1の結果を示すグラフであってサンプル6の結果を示すグラフである。●は生成時の有効塩素濃度を示し、〇は冷蔵(4℃)遮光保存としたときの有効塩素濃度を示し、△は室温(22℃)遮光保存としたときの有効塩素濃度を示し、□は室温蛍光灯下(2,300lx,24h/日)保存としたときの有効塩素濃度を示す。
上記サンプル4~6についての保管条件によるpHの経時変化と、次亜塩素酸ナトリウム(水溶液)と次亜塩素酸カルシウムを単独で使用したもの(図中「リン酸塩(-)」)のpHの経時変化を図4に示す。
図4A図4Bの縦軸はpHを示し、横軸は保管日数を示す。図4Aは、実験例1の結果を示すグラフであってサンプル4の結果を示すグラフである。図4Bは、実験例1の結果を示すグラフであってサンプル5及びサンプル6の結果を示すグラフである。丸は冷蔵(4℃)遮光保存としたときのpHを示し、三角は室温(22℃)遮光保存としたときのpHを示し、四角は室温蛍光灯下(2,300lx,24h/日)保存としたときのpHを示す。
【0115】
この実験の結果、いずれも粉体からなる次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムからなる次亜塩素酸水製造用組成物で製造した次亜塩素酸水は、他のサンプルと比較するといずれの保管条件下においても経時的な劣化(残留塩素濃度及びpH)が少ないことを確認した。また、製造した次亜塩素酸水は、pHが低い方が経時的に安定していることを確認した。
【0116】
〔実験例2:次亜塩素酸水(次亜塩素酸Ca)経時試験〕
この実験例では、粉体の次亜塩素酸塩を用いた場合における、塩素濃度及びpHの経時変化を確認するために、上記サンプル5及び6と、次亜塩素酸カルシウムを単独で水に溶解させた「次亜塩素酸Ca(160mg/DW500mL)(サンプルA)」、及びイソシアヌル酸を水に溶解させた「イソシアヌル酸Na(サンプルB)」について(いずれも200ppm)、上記「冷蔵(4℃)遮光」、「室温遮光(22±1℃)遮光」、及び「室温蛍光灯下(2300luxを24h/1日)」の条件で保存した時の残留塩素濃度及びpHの経時変化を確認した。この実験において次亜塩素酸塩とpH調整剤は、いずれか一方を水に溶解させた後に他方を溶解させた。その結果を以下の表3と図5に示す。
図5A図5Cの縦軸は、0日での有効塩素濃度に対する残留塩素濃度の割合を示し、横軸は保管日数を示す。図5Aは、実験例2の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。図5Bは、実験例2の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。図5Cは、実験例2の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。
図5D図5Fの縦軸は、pHを示し、横軸は保管日数を示す。図5Dは、実験例2の結果を示すグラフであって冷蔵(4℃)遮光の結果を示すグラフである。図5Eは、実験例2の結果を示すグラフであって室温遮光(22±1℃)遮光の結果を示すグラフである。図5Fは、実験例2の結果を示すグラフであって室温蛍光灯下(2,300lxを24h/1日)の結果を示すグラフである。〇はサンプルAの結果を示し、■はサンプル5の結果を示し、□はサンプル6の結果を示し、●はサンプルBの結果を示す。
【0117】
【表3】
【0118】
〔実験例3:pH調整剤使用量試験〕
この実験例では、次亜塩素酸塩に対する、粉体のpH調整剤(リン酸二水素カリウム)の使用量の違いによるpHの変化を確認した。次亜塩素酸塩としては、粉体の次亜塩素酸カルシウム(80~240mg(100~300ppm))と、溶液の次亜塩素酸ナトリウム(0.84~2.52ml(100~300ppm))を使用し、いずれも500mlの蒸留水に溶解したものに対して、リン酸二水素カリウムを0g、0.5g、1.0g、2.0g、3.0g、4.0g、5.0g添加した。その結果を以下の表4及び図6に示す。
図6A図6Bの縦軸はpHを示し、横軸はDW500mLに対するリン酸二水素カリウムの添加量(g)を示す。図6Aは、実験例3の結果を示すグラフであって粉体の次亜塩素酸カルシウムを採用した場合の結果を示すグラフである。図6Bは、実験例3の結果を示すグラフであって次亜塩素酸ナトリウム水溶液を採用した場合の結果を示すグラフである。
【0119】
【表4】
【0120】
この実験結果から、pH調整剤のリン酸塩(特にリン酸二水素カリウム)を多量に投入したとしてもpHは4台後半以下にはならない事を確認した。このことは利用者が、各成分の配合量などを間違ったとしても、塩素ガスが発生するpH4以下にはならないことを意味しており、よって危険性が極めて少ない次亜塩素酸水製造用組成物とすることができる。
【0121】
〔実験例4:高濃度試験〕
この実験例では、高濃度の次亜塩素酸水における、上記「室温遮光(22±1℃)遮光」環境下における保管時の有効塩素濃度とpHの経時変化を確認した。使用したサンプルは以下の通りである。
【0122】
サンプル7:「次亜塩素酸Ca+リン酸塩(1000ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸カルシウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用し、有効塩素濃度を1000ppmとした。具体的には、次亜塩素酸カルシウム800mg、リン酸二水素カリウム20gを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分は同時溶解させた。
サンプル8:「次亜塩素酸Na+リン酸塩(1000ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用し、有効塩素濃度を1000ppmとした。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(濃度6%)(製品名ピューラックス(登録商標)、オーヤラックス株式会社製)の有効塩素濃度を1000ppmに調整した水溶液に対し、リン酸二水素カリウム20gを添加した。
サンプル9:「次亜塩素酸Na+リン酸塩(2000ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用し、有効塩素濃度を2000ppmとした。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(濃度6%)(製品名ピューラックス(登録商標)、オーヤラックス株式会社製)の有効塩素濃度を2000ppmに調整した水溶液に対し、リン酸二水素カリウム40gを添加した。
サンプル10:「次亜塩素酸Na+リン酸塩(4000ppm)」は、次亜塩素酸塩として次亜塩素酸ナトリウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用し、有効塩素濃度を4000ppmとした。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(濃度6%)(製品名ピューラックス(登録商標)、オーヤラックス株式会社製)の有効塩素濃度を4000ppmに調整した水溶液に対し、リン酸二水素カリウム80gを添加した。
【0123】
それぞれのサンプルについての保管日数と、有効塩素濃度とpHの変化を確認し、その結果を以下の表5と図7に示す。
図7Aは、実験例4の結果を示すグラフであり、縦軸は有効塩素濃度を示し、横軸は保管日数を示す。図7Bは、実験例4の結果を示すグラフであり、縦軸はpHを示し、横軸は保管日数を示す。
【0124】
【表5】
【0125】
この結果から、次亜塩素酸塩にpH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用した次亜塩素酸水製造用組成物を用いた次亜塩素酸水では、1000ppmであれば室温遮光で3日間だと残留塩素濃度はほとんど落ちない事を確認した。
【0126】
〔実験例5:析出物試験〕
この実験例では、粉体からなる次亜塩素酸塩と、粉体からなるpH調整剤を使用して作成した次亜塩素酸水における沈殿(副産物)の有無と、その程度を確認した。次亜塩素酸塩として、粉末の次亜塩素酸カルシウムを使用し、粉末のpH調整剤としてリン酸塩(リン酸二水素カリウム)を使用した。次亜塩素酸カルシウムは220mg/500ml(残留塩素濃度:約280ppm)とし、リン酸塩の添加量を0mg/500ml、1000mg/500ml、2000mg/500ml、2500mg/500ml、3000mg/500ml、3500mg/500ml、4000mg/500ml、4500mg/500ml及び5000mg/500mlとして、生成後から1時間後、3時間後、1日後、3日後、1週間後、2週間後、におけるpHの変化と、沈殿析出物を確認した。保管条件は上記「室温遮光(22±1℃)非遮光」の条件である。その結果を以下の表6及び図8に示す。
【0127】
【表6】
【0128】
また図8に、(A)リン酸塩添加量100mgの1時間後の状態、(B)リン酸塩添加量200mgの1時間後の状態、(C)リン酸塩添加量100mgの3日後の状態、(D)リン酸塩添加量200mgの3日後の状態、(E)リン酸塩添加量500mgの3日後の状態、(F)リン酸塩添加量100mgの1週間後の状態、(G)リン酸塩添加量200mgの1週間後の状態、(H)リン酸塩添加量500mgの1週間後の状態を示す。
【0129】
そして上記沈殿物をX線解析により成分分析した。試料となる沈殿物は、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムからなる有効塩素濃度2500ppm(pH6)の次亜塩素酸水を大量に生成して沈殿物を収集した。これを蒸留水で3回、アセトンで2回、エーテルで2回洗浄した後に乾燥させて得た6.843gを使用し、株式会社リガク社製のRint-UltimaIIIを用いてX線解析を行った。その結果を図9に示す。
【0130】
このX線解析の結果、沈殿物はリン酸一水素カルシウム2水和物(CaHPO・2HO)であることを確認した。そしてこの沈殿物であるリン酸一水素カルシウム2水和物(CaHPO・2HO)は食品添加物であることから、安全性が高いことを確認した。
【0131】
〔実験例6:製造方法試験〕
この実験例では製造方法の違いによる、製造した次亜塩素酸水の塩素濃度及びpHの経時変化と、製造した次亜塩素酸水における沈殿(副産物)の有無と、その程度を確認した。
【0132】
先ず、次亜塩素酸塩とpH調整剤の溶解のタイミングによる違いを確認するために、以下のサンプルを準備し、製造した次亜塩素酸水の塩素濃度及びpHの経時変化を確認した。
サンプル11:「1粉」は、粉末状態の次亜塩素酸塩(次亜塩素酸カルシウム)180mgと粉末状態のpH調整剤(リン酸二水素カリウム)2gとを同時に蒸留水(DW)500mLに溶解させた。
サンプル12:「2粉」は、次亜塩素酸塩(次亜塩素酸カルシウム)180mgを完全に蒸留水(DW)500mLに溶解させた溶解液にpH調整剤(リン酸二水素カリウム)2gを溶解させた。
サンプル13:「次亜塩素酸塩Na+HCl」は、次亜塩素酸塩(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)にpH調整剤(塩酸)を溶解させた。
【0133】
各サンプルを500mlの無色透明非遮光ペットボトルに充填し、通常の室内環境(18~22℃で、平均300~400luxの蛍光灯を1日当たり12時間照射)において保管した時の経時的な有効塩素濃度とpHの変化具合を確認した。その結果を図10に示す。
図10Aは、実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸は有効塩素濃度を示し、横軸は保管日数を示す。図10Bは、実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸はpHを示し、横軸は保管日数を示す。
その結果と実験条件をまとめると以下の通りである。
(次亜塩素酸水製造用組成物の性能及びその確認条件1)
粉末状態の次亜塩素酸塩(次亜塩素酸カルシウム)と粉末状態のpH調整剤(リン酸二水素カリウム)とを同時に蒸留水(DW)500mLに溶解させ、同量500mLを無色透明非遮光ペットボトルに充填し、雰囲気温度20±2℃で、平均300~400luxの蛍光灯の1日当たり12時間照射を30日間行ったとしても、有効塩素濃度の低下率(増加の場合は低下率ゼロとみなす)は2%未満(好適には1%未満)であり、且つ、pHの変化率(大体の場合は低下率)は4%未満(好適には3%未満、更に好適には2%未満)である。
【0134】
この実験結果から、粉末状態の次亜塩素酸塩(次亜塩素酸カルシウム)と粉末状態のpH調整剤(リン酸二水素カリウム)を同時に水に溶解させた方が、それぞれの成分を別々に溶解させた場合よりも、はるかに安定していることを確認した。よって、次亜塩素酸塩と粉末状態のpH調整剤とは、少なくともいずれかの成分が完全に溶解する前に他方の成分を溶解させることが望ましいことを確認した。
【0135】
またこの実験例では、次亜塩素酸塩とpH調整剤の各成分の溶解タイミングを異ならせると共に、保存条件を変えた場合における残留塩素濃度とpHの経時変化を確認した。この実験で使用したサンプルは以下の通りであり、その結果を図11に示す。各サンプルは、500mlの無色透明非遮光ペットボトルに充填した。
図11Aは、実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸は有効塩素濃度を示し、横軸は保管日数を示す。図11Bは、実験例6の結果を示すグラフであり、縦軸はpHを示し、横軸は保管日数を示す。
【0136】
サンプル14:「1粉蛍光灯下」は、次亜塩素酸カルシウム180mgとリン酸二水素カリウム2gを合わせてから、500mlの蒸留水に溶解させた。そして室温(22℃)で蛍光灯(500lxを1日当たり12時間照射)のもとで保管した。
サンプル15:「2粉蛍光灯下」は、蒸留水500mlに次亜塩素酸カルシウム180mgを溶解させた後に、リン酸二水素カリウム2gを追加して溶解させた。そして室温(22℃)で蛍光灯(500lxを1日当たり12時間照射)のもとで保管した。
サンプル16:「2粉遮光」は、蒸留水500mlに次亜塩素酸カルシウム180mgを溶解させた後に、リン酸二水素カリウム2gを追加して溶解させた。そして室温(22℃)で、遮光環境下で保管した。
【0137】
この結果から、同じ条件で保管しても、次亜塩素酸塩とpH調整剤は粉状などの固体で合わせてから水に溶解させるなど同時に溶解させた方が遥かに安定していることを確認した。なお、リン酸塩を溶解後に次亜塩素酸カルシウムを溶解させたものでも、上記の「2粉」と結果は一緒だった。
【0138】
上記結果と実験条件をまとめると以下の通りである。
(次亜塩素酸水製造用組成物の性能及びその確認条件2)
粉末状態の次亜塩素酸塩(次亜塩素酸カルシウム)と粉末状態のpH調整剤(リン酸二水素カリウム)とを同時に蒸留水(DW)500mLに溶解させ、同量500mLを無色透明非遮光ペットボトルに充填し、雰囲気温度22℃で、500luxの蛍光灯の1日当たり12時間照射を14日間行ったとしても、有効塩素濃度の低下率(増加の場合は低下率ゼロとみなす)は2%未満(好適には1%未満)であり、且つ、pHの変化率(大体の場合は低下率)は4%未満(好適には3%未満、更に好適には2%未満)である。
【0139】
また、この実験例では、上記サンプル11(上記「1粉」)及び12(上記「2粉」)について、保管条件の違いによる残留塩素濃度とpHの経時変化を確認した。各サンプルの保管条件と残留塩素濃度とpHの経時変化を、以下の表7に示す。
【0140】
【表7】
【0141】
そしてこの実験例では、次亜塩素酸水の製造方法の違い、即ち次亜塩素酸塩とpH調整剤の溶解タイミングの違いによる析出物の析出量の違いを確認した。析出物については、通常の室内環境で1週間保管した後における析出物を確認した。図12(A)は、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムとを同時に水に溶解させた時の析出物を示しており、図12(B)は、次亜塩素酸カルシウムを投入して、これが完全に溶解する前(1分間混和)に、リン酸二水素カリウムを投入して溶解させた時の析出物を示しており、図12(C)は、リン酸二水素カリウムを投入して、これが完全に溶解する前(1分間混和)に、次亜塩素酸カルシウムを投入して溶解させた時の析出物を示しており、図12(D)は、次亜塩素酸カルシウムを投入して、これが完全に溶解した後に、リン酸二水素カリウムを投入して溶解させた時の析出物を示している。
【0142】
この実験結果から、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムを同時に投入した場合に比べ、各成分を順番に投入して溶解させたものは、析出物の沈殿量が多くなった。これは、生成された溶液中のリン酸イオンがカルシウムと反応する量が多くなるために、沈殿が多くなるものと考えられる。そして生成直後から経時的に起こる平衡反応の進行を阻害することから、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムを同時に投入した方が生成後、長期に安定していることの一因になっていると考えられる。
【0143】
〔実験例7:粉体の溶解試験〕
この実験例では、いずれも粉体からなる次亜塩素酸塩とpH調整剤について、粒径の違いによる水への溶解性について確認した。次亜塩素酸塩として次亜塩素酸カルシウムを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウムを使用した。溶媒となる水は500mlとし、次亜塩素酸カルシウム200mg、又はリン酸二水素カリウム2gを溶解させた時の時間を計測した。次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムのそれぞれの粒径と溶解時間を以下の表8に示す。
【0144】
【表8】
【0145】
以上の結果から、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムは、いずれの粒径でも溶解可能であるが、少なくとも0.1mm以下にすることが望ましいことを確認した。
【0146】
〔実験例8:保管試験〕
この実験例では、いずれも粉体からなる次亜塩素酸塩とpH調整剤について、これらを1つの容器に収容して保存した後に製造した次亜塩素酸水について、その特性を確認した。次亜塩素酸塩として次亜塩素酸カルシウム180mgを使用し、pH調整剤としてリン酸二水素カリウム2gを使用した。
【0147】
上記次亜塩素酸カルシウムの粉体と上記リン酸二水素カリウムの粉体からなる次亜塩素酸水製造用組成物(500mlに溶解した場合に、計算上は有効塩素濃度220ppm、pH6となる)を、1つのマイクロチューブ内に一緒に収容した状態で、通常の室内環境(室温約22℃で、平均300~400luxの蛍光灯を1日当たり12時間照射)で7日及び30日間保管した。保管の際には、リン酸二水素カリウムの上に次亜塩素酸カルシウムを積層させた。その結果、保管前後において変化はなかった。
【0148】
そして保管後の次亜塩素酸水製造用組成物を、無色透明の非遮光ペットボトルに入れた蒸留水500mlに溶解させ、約1分間転倒混和させてから5分間放置し、有効塩素濃度とpHを測定した。その結果、7日間で有効塩素濃度は224ppm(遊離塩素濃度:222ppm)、pH6.05であり、30日間で有効塩素濃度は218ppm(遊離塩素濃度:216ppm)、pH6.01であったことから、当初の特性を維持できることを確認した。
【0149】
上記結果と実験条件をまとめると以下の通りである。
(次亜塩素酸水製造用組成物の性能及びその確認条件3)
上記次亜塩素酸カルシウムの粉体と上記リン酸二水素カリウムの粉体からなる次亜塩素酸水製造用組成物(500mlに溶解した場合に、計算上は有効塩素濃度220ppm、pH6となる)を、1つのマイクロチューブ内に一緒に収容した状態で、通常の室内環境(室温約22℃で、平均300~400luxの蛍光灯を1日当たり12時間照射)で30日間保管した。そして、その粉末状態の次亜塩素酸塩(次亜塩素酸カルシウム)と粉末状態のpH調整剤(リン酸二水素カリウム)とを同時に蒸留水(DW)500mLに溶解させ、同量500mLを無色透明非遮光ペットボトルに充填し、雰囲気温度20±2℃で、平均300~400luxの蛍光灯の1日当たり12時間照射を30日間行ったとしても、有効塩素濃度の低下率(増加の場合は低下率ゼロとみなす)は3%未満であり、且つ、pHの変化率(大体の場合は低下率)は1%未満である。
【0150】
本実施の形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物は、上記(次亜塩素酸水製造用組成物の性能及びその確認条件1~3)の少なくとも1つを満たしていてもよいし、任意の組み合わせを満たしてもよく、全てを満たすのがより好ましい。
【0151】
〔実験例9:シミ付着試験〕
この実験例では、いずれも粉体からなる次亜塩素酸塩とpH調整剤からなる次亜塩素酸水製造用組成物で作成した次亜塩素酸水を黒板に塗布した後のシミ(白色付着物)の有無と程度を、リン酸塩の添加量を変えた上で経時的変化を確認した。この実験では、500mlの蒸留水に200mgの次亜塩素酸カルシウムを溶解した基準試料に対して、リン酸二水素カリウムの配合量を異ならせた以下のサンプルを準備した。
【0152】
サンプル17:基準試料に対して、リン酸二水素カリウムを0g/500ml添加
サンプル18:基準試料に対して、リン酸二水素カリウムを1g/500ml添加
サンプル19:基準試料に対して、リン酸二水素カリウムを2g/500ml添加
サンプル20:基準試料に対して、リン酸二水素カリウムを3g/500ml添加
サンプル21:基準試料に対して、リン酸二水素カリウムを4g/500ml添加
サンプル22:基準試料に対して、リン酸二水素カリウムを5g/500ml添加
【0153】
そして生成直後、6時間後、1週間後のシミ(白色付着物)の有無と程度を目視で確認した。その結果を図13に示す。
【0154】
この実験により、500mlの蒸留水に200mgの次亜塩素酸カルシウムを溶解した基準試料に対するリン酸二水素カリウムの添加量が2g/500ml以下である場合には、シミ(白色付着物)ができない事を確認した。また基準試料に対して、リン酸二水素カリウムを1g/500ml添加した場合には、生成した次亜塩素酸水に白色沈殿が確認され、1週間後では僅かにシミ(白色付着物)が付着した。なお、この実験では各サンプルを塗布した状態で、そのまま放置して乾燥させているが、通常の使用では拭き取ることが多いことから、このようなシミ(白色付着物)が生じる事態は少ない。
【0155】
〔実験例10:腐食性試験〕
この実験例では、次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムとからなる次亜塩素酸水製造用組成物で作成した次亜塩素水の腐食性について確認した。この実験では、炭素鋼でできた構造物(歯科用切削バーである製品名ELAスチールバーCA 6.松風)を、以下のサンプル(液温22±2℃)に15分間浸漬、蒸留水(22±2℃)にて水洗し、22±2℃にて45分乾燥するという一連の工程(浸漬、水洗、乾燥)を6回繰り返した。その結果を図14に示す。以下、各サンプルの記載の末尾に%を記載する。この数値は、未使用の上記構造物の主表面を錆が占める面積%を0面積%としたときの、各サンプルにおける、上記構造物の主表面を錆が占める面積%を指す。錆が占める面積%の求め方は任意であり、目測でもよい(本試験例)し、画像処理により錆の部分とそれ以外の部分とを区分けして錆が占める面積%を求めてもよい。
【0156】
サンプル23:蒸留水(15面積%)
サンプル24:80%エタノール(林純薬株式会社製)(20面積%)
サンプル25:次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1000ppm)(製品名ピューラックス(登録商標)、オーヤラックス株式会社製を調整)(80面積%)
サンプル26:次亜塩素酸ナトリウム水溶液(250ppm)(製品名ピューラックス(登録商標)、オーヤラックス株式会社製を調整)(70面積%)
サンプル27:次亜塩素酸カルシウムのみを蒸留水500mLに溶解させた水溶液(250ppm)(75面積%)
サンプル28:電解式で製造した次亜塩素酸水(50ppm、pH3.0)(サンプル1と同様の手法で作製)(70面積%)
サンプル29:次亜塩素酸ナトリウム水溶液への二酸化炭素混合により製造した次亜塩素酸水(120ppm、pH6.5)(サンプル3と同様の手法で作製)(55面積%)
サンプル30:次亜塩素酸ナトリウム水溶液に塩酸を混合して製造した次亜塩素酸水(240ppm、pH6.7)(サンプル2)(70面積%)
サンプル31:リン酸二水素カリウム(1000mg/500ml)と次亜塩素酸カルシウムからなる次亜塩素酸水(250ppm)である。具体的には、次亜塩素酸カルシウム180mg、上記リン酸二水素カリウムを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分は同時溶解させた。(5面積%)
サンプル32:リン酸二水素カリウム(2000mg/500ml)と次亜塩素酸カルシウムからなる次亜塩素酸水(250ppm)である。具体的には、次亜塩素酸カルシウム180mg、上記リン酸二水素カリウムを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分は同時溶解させた。(4面積%)
サンプル33:リン酸二水素カリウム(3000mg/500ml)と次亜塩素酸カルシウムからなる次亜塩素酸水(250ppm)である。具体的には、次亜塩素酸カルシウム180mg、上記リン酸二水素カリウムを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分は同時溶解させた。(3面積%)
サンプル34:リン酸二水素カリウム(4000mg/500ml)と次亜塩素酸カルシウムからなる次亜塩素酸水(250ppm)である。具体的には、次亜塩素酸カルシウム180mg、上記リン酸二水素カリウムを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分は同時溶解させた。(3面積%)
サンプル35:リン酸二水素カリウム(5000mg/500ml)と次亜塩素酸カルシウムからなる次亜塩素酸水(250ppm)である。具体的には、次亜塩素酸カルシウム180mg、上記リン酸二水素カリウムを、蒸留水(DW)500mLに溶解させた。各成分は同時溶解させた。(2面積%)
サンプル36:リン酸二水素カリウム(2000mg/500ml)と次亜塩素酸ナトリウムからなる次亜塩素酸水(250ppm)である。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(6%)(製品名ピューラックス(登録商標)、オーヤラックス株式会社製)を調整して有効塩素濃度を250ppmとし、この水溶液に上記リン酸二水素カリウムを溶解させた。(5面積%)
サンプル37:ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液(200ppm)(85面積%)
サンプル38:ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液(500ppm)(90面積%)
【0157】
この実験結果から、いずれも粉体からなる次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムとで製造した次亜塩素酸水では、錆の発生が少なく(炭素鋼における浸漬部分の面積に対する錆の面積の割合は10面積%以下、更に言えば5面積%以下、4面積%以下、3面積%以下、2面積%以下)、80%エタノールを使用したサンプル24よりも錆の発生が少なかった。特に次亜塩素酸カルシウムを使用した次亜塩素酸水では、従来における次亜塩素酸水や、粉体からなるジクロロイソシアヌル酸を用いたものと異なり、炭素鋼においてほとんど錆が発生しなかった。
【0158】
〔実験例11:除菌試験(ASTM E2315-031 Time-Kill試験)〕
この実験例では、次亜塩素酸と粉体のpH調整剤であるリン酸二水素カリウムとからなる次亜塩素酸水製造用組成物についての除菌効果をASTM E2315-031 Time-Kill試験に準じて確認した。除菌効果を確認するための比較対象の除菌液として、
サンプル39:次亜塩素酸ナトリウム水溶液(250ppm)(サンプル26を援用)
サンプル40:次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1000ppm)(サンプル25を援用)
サンプル41:80%エタノール(サンプル24を援用)
サンプル42:電解式で製造した次亜塩素酸水(57ppm、pH3.0)(サンプル1と同様の手法で作製)
サンプル43:次亜塩素酸ナトリウム水溶液への二酸化炭素混合により製造した次亜塩素酸水(120ppm、pH6.5)(サンプル3と同様の手法で作製)
サンプル44:次亜塩素酸ナトリウム水溶液に塩酸を混合して製造した次亜塩素酸水(240ppm、pH6.7)(サンプル2と同様の手法で作製)
サンプル45:次亜塩素酸カルシウム水溶液への二酸化炭素混合により製造した次亜塩素酸水(250ppm、pH6.2)(サンプル27に対してサンプル3と同様の手法を適用して作製)
サンプル46:次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムを水に溶解して製造した次亜塩素酸水(250ppm、pH5.7)(サンプル31~35と同様の手法で作製してリン酸二水素カリウムの添加量を調整してpHは5.7に調整)
サンプル47:次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対してリン酸二水素カリウムを溶解して製造した次亜塩素酸水(250ppm、pH5.8)(サンプル36と同様の手法で作製してリン酸二水素カリウムの添加量を調整してpHは5.8に調整)
を使用した。その結果を以下の表9に示す。
【0159】
【表9】
【0160】
また、上記次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムを水に溶解して製造した次亜塩素酸水(250ppm、pH5.7)、及び次亜塩素酸ナトリウム水溶液にリン酸二水素カリウムを溶解して製造した次亜塩素酸水(250ppm、pH5.8)からなる除菌液における、5%ウサギ血清添加時における10秒浸漬後、30秒浸漬後、60秒浸漬後におけるコロニー形成の有無を図15に示す(図15Aが血清無し、図15Bが血清有り)。
【0161】
次亜塩素酸カルシウムとリン酸二水素カリウムからなる次亜塩素酸水製造用組成物を水に溶かして製造した次亜塩素酸水からでき上がったものは、全て食品添加物であり、この実験結果から、更に10秒という短時間で完全に除菌できることを確認した。よって、本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物で製造した次亜塩素酸水は、従前において提供されている次亜塩素酸水と遜色ないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の一形態に係る次亜塩素酸水製造用組成物は、簡易かつ迅速に次亜塩素酸水を製造するために使用する事ができる。また、長期間保存した上で、次亜塩素酸水が必要な時に製造するために使用することができる。
【符号の説明】
【0163】
10:次亜塩素酸塩、11:pH調整剤、20:次亜塩素酸水製造用組成物、30:水
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15A
図15B