IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

特許7600276充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置
<>
  • 特許-充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置 図1
  • 特許-充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置 図2
  • 特許-充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置 図3
  • 特許-充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置 図4
  • 特許-充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置 図5
  • 特許-充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20241209BHJP
【FI】
G06Q50/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022580261
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 IB2021000081
(87)【国際公開番号】W WO2022172043
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】村井 謙介
(72)【発明者】
【氏名】池添 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
【審査官】梅岡 信幸
(56)【参考文献】
【文献】特許第6168528(JP,B2)
【文献】特開2012-257436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受電要素を含む負荷群へ電力供給基点を経由して電気エネルギーを供給する電力システムにおいて、前記負荷群に含まれる受電要素が受電または放電する電力を制御する受電制御装置が実行する充放電損失低減方法であって
前記電力供給基点を経由して前記負荷群の全体に送ることができる総送電電力の最大値から、前記電力供給基点を経由して前記負荷群の全体に送っている総送電電力の現在値を減じて得られる差分電力を示す情報を取得し、
の受電要素の受電よりも自己の受電要素の受電が優先される度合いを示す前記受電要素の優先度を前記自己の受電要素のユーザの要求を表す数値に基づいて算出し、
前記差分電力を示す情報が正の値であり、かつ、前記自己の受電要素が充電している場合は、前記自己の受電要素が放電している場合と比較して前記優先度を小さくし、
前記差分電力を示す情報が負の値であり、かつ、前記自己の受電要素が放電している場合は、前記自己の受電要素が充電している場合と比較して前記優先度を小さくする
とを特徴とする充放電損失低減方法。
【請求項2】
前記差分電力を示す情報の変化率に基づいて前記電力システムに接続されている前記受電要素の中から、放電している受電要素が存在するか否かを推定し、
前記差分電力を示す情報が正の値であり、前記自己の受電要素が充電していて、かつ、前記放電している受電要素が存在すると推定された場合は、前記自己の受電要素が受電する電力の増加量を通常の増加量より減少させ、
前記差分電力を示す情報が負の値であり、前記自己の受電要素が放電していて、かつ、前記放電している受電要素が存在すると推定された場合は、前記自己の受電要素が放電する電力の増加量を通常の増加量より減少させる
ことを特徴とする請求項1に記載の充放電損失低減方法。
【請求項3】
前記通常の増加量は、前記放電している受電要素が存在するか否かを推定しない場合の増加量と定義される
ことを特徴とする請求項2に記載の充放電損失低減方法。
【請求項4】
複数の受電要素を含む負荷群へ電力供給基点を経由して電気エネルギーを供給する電力システムにおいて、前記負荷群に含まれる受電要素が受電または放電する電力を制御する受電制御装置を有する充放電損失低減装置であって
前記受電制御装置は、前記電力供給基点を経由して前記負荷群の全体に送ることができる総送電電力の最大値から、前記電力供給基点を経由して前記負荷群の全体に送っている総送電電力の現在値を減じて得られる差分電力を示す情報を取得し、
記受電制御装置は、他の受電要素の受電よりも自己の受電要素の受電が優先される度合いを示す前記受電要素の優先度を前記自己の受電要素のユーザの要求を表す数値に基づいて算出し、
前記受電制御装置は、
前記差分電力を示す情報が正の値であり、かつ、前記自己の受電要素が充電している場合は、前記自己の受電要素が放電している場合と比較して前記優先度を小さくし、
前記差分電力を示す情報が負の値であり、かつ、前記自己の受電要素が放電している場合は、前記自己の受電要素が充電している場合と比較して前記優先度を小さくする
とを特徴とする充放電損失低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の電力消費要素を含むグループ全体で消費される総消費電力の制約に基づいて各電力消費要素の消費電力を制御する方法が知られている(特許文献1)。特許文献1において、同報送信要素が、総消費電力の現在値と総消費電力の基準値との差の関数をグループ内に同報送信する。各電力消費要素は、この関数と自己に与えられた優先度とを用いて自己の消費電力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6168528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グループ内において充電する電気自動車と放電する電気自動車が混在する場合、充放電に関する変換損失が生じる。しかしながら特許文献1にはこのような損失に関する記載はない。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みて成されたものであり、その目的は、充放電に関する変換損失を低減することが可能な充放電損失低減方法及び充放電損失低減装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る充放電損失低減方法は、他の受電要素の受電よりも自己の受電が優先される度合いを示す受電要素の優先度を自己の受電要素の充放電状態を用いて変更する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、充放電に関する変換損失を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係る電力システムの概略構成図である。
図2図2は、受電制御装置の一動作例を説明するフローチャートである。
図3図3は、比較例を説明するグラフである。
図4図4は、優先度の変更方法の一例を説明する図である。
図5図5は、充放電損失の低減を説明するグラフである。
図6図6は、応答性改善を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
図1を参照して、本実施形態に係る電気自動車(受電要素の一例)の受電制御装置及びその周辺装置の構成を説明する。複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)を含む負荷群11へ、電力設備12(電力供給基点10の一例)を経由して電気エネルギーを供給する電力システムにおいて、受電制御装置は、負荷群11に含まれる電気自動車EV1が受電する電力である要素受電電力を、所定の処理サイクルを繰り返すことにより制御する。
【0011】
受電制御装置は、外部から電気信号を受信する受信装置21と、電気自動車EV1の状態を示す情報を取得する車両状態取得装置22と、電気自動車EV1の要素受電電力を算出する計算装置23とを備える。電気自動車EV1は、外部から電力を受ける受電装置24と、受電装置24が受けた電力(要素受電電力)を蓄えるバッテリ25と、バッテリ25が蓄える電気エネルギー又は要素受電電力に基づいて駆動するモータ26とを備える。
【0012】
「処理サイクル」には、(a)~(e)の処理ステップが含まれる。
(a)受信装置21は、電力設備12を経由して負荷群11の全体に送ることができる総送電電力の最大値(Pall_max)から、電力設備12を経由して負荷群11の全体に送っている総送電電力の現在値(Pall_now)を減じて得られる差分電力(ΔP)を示す情報を取得する。
(b)計算装置23は、他の電気自動車(EV2、EV3、・・・)の受電よりも自己(電気自動車EV1)の受電が優先される度合いを示す電気自動車EV1の優先度(β)を、電気自動車EV1のユーザの要求を表す数値に基づいて算出する。
(c)計算装置23は、取得した情報が示す差分電力(ΔP)に優先度(β)を乗じることにより要素差分電力(βΔP)を算出する。
(d)計算装置23は、前回の処理サイクルにおける要素受電電力(Pt)に、要素差分電力(βΔP)を加算することにより、要素受電電力(Pt+1)を更新する。
(e)計算装置23は、更新後の要素受電電力(Pt+1)を受電するように電気自動車EV1を制御する。
【0013】
ここで、本実施形態において、「電気自動車」は、電力設備12を経由して伝送される電力を受電する「蓄電要素」又は「受電要素」の一例である。蓄電要素は、受電した電力をバッテリ(二次電池、蓄電池、充電式電池を含む)に蓄える。「蓄電要素」には、車両(電気自動車、ハイブリッド車、建設機械、農業機械を含む)、鉄道車両、遊具、工具、家庭製品、日用品など、バッテリを備える、あらゆる機器及び装置が含まれる。
【0014】
「蓄電要素」は、電力設備12を経由して伝送される電力を受電する「受電要素」の一例である。「受電要素」には、「蓄電要素」の他に、受電した電力を蓄えずに消費する「電力消費要素」も含まれる。「電力消費要素」には、鉄道車両、遊具、工具、家庭製品、日用品など、が含まれる。「電力消費要素」は、電気自動車のように、バッテリを備えていても構わない。電気自動車が受電した電力をバッテリに蓄えずに、直接、モータへ電送し、モータの駆動力として消費する場合、電気自動車は「電力消費要素」の一例となる。このように、「電力消費要素」には、バッテリを備えるか否かに係わらず、受電した電力を蓄電せずに消費する、あらゆる機器及び装置が含まれる。
【0015】
「蓄電要素」及び「受電要素」は、いずれも受電制御装置による受電制御の単位構成を示す。即ち、蓄電要素又は受電要素を単位として本実施形態に係る受電制御が行われる。例えば、複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)の各々について、互いに独立して並列に本実施形態に係る受電制御が行われる。
【0016】
本実施形態では、受電要素の一例として蓄電要素を挙げ、更に、蓄電要素の一例として、電気をエネルギー源とし、モータ26を動力源として走行する電気自動車(EV)を挙げる。しかし、本発明における受電要素及び蓄電要素をそれぞれ電気自動車(EV)に限定することは意図していない。
【0017】
本実施形態において、「電力設備12」は、電力供給基点10の一例である。「電力設備12」には、例えば、以下の<1>~<6>が含まれる。
<1>電気自動車EV用の「充電スタンド」
<2>住宅、オフィスビル、商業施設、工場、又は高速道路のパーキングエリア等の敷地内に設置された「変電装置」
<3>水力、火力、原子力などの「発電所」、発電された電力を所定の電圧へ変換する「変電所」
<4>変電所を経由して伝送された電力を分配するための様々な「配電設備」
<5>これらの装置又は設備の間を接続する「配線(ケーブル、フィーダーを含む)」、及び<6>近隣にある小規模な蓄電要素のエネルギーを束ね、1つの大規模な発電所のように機能させる「バーチャルパワープラント(仮想発電所:VPP)」
【0018】
本実施形態では、受電制御装置が、電気自動車EV1に搭載されている例を説明するが、勿論、受電制御装置は、短距離無線、無線LAN、無線WANなどの近距離無線通信技術、或いは、携帯電話通信網を利用して、電気自動車EV1の外部から電気自動車EV1の要素受電電力を制御してもよい。
【0019】
また、負荷群11に含まれる複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)のうちの1台の電気自動車EV1の構成を例に取り説明するが、負荷群11に含まれる他の電気自動車(EV2、EV3、・・・)も電気自動車EV1と同じ構成を有している。
【0020】
受電制御装置は、電力設備12を経由して電気自動車EV1が受電する電力を制御する。電気自動車EV1は、オンボードチャージャー(OBC)と呼ばれる受電装置24を備える。計算装置23は、受電装置24が電力設備12を経由して受電する電力を制御する。受電装置24が受電した電力は、バッテリ25に蓄えられる。又は、電気自動車EV1は、受電装置が受電した電力を、バッテリ25に蓄えず、駆動源としてのモータ26へ直接送電しても構わない。
【0021】
電力設備12を経由して電気自動車EV1へ供給される電力は、電流計測装置13により計測される。電流計測装置13により計測された電力値は、差分情報送信装置14へ送信される。
【0022】
1つの電力設備12を経由して、負荷群11に含まれる複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)に対して電気エネルギーが供給される。更に、1つの電力設備12を経由して、複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)のみならず、負荷群11に含まれる1又は2以上の他の電力消費要素15に対しても電気エネルギーが供給されてもよい。電力設備12を経由して電気エネルギーの供給を受ける複数の電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)及び1又は2以上の他の電力消費要素15は、1つのグループ(負荷群11)を形成している。
【0023】
電流計測装置13は、電力設備12を経由して1つの負荷群11に含まれる全ての電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)及び他の電力消費要素15へ送られている総送電電力の現在値(Pall_now)、換言すれば、負荷群11の全体の総送電電力を計測する。
【0024】
ここで、負荷群11の全体の電力容量、即ち、電力設備12を経由して負荷群11の全体に送ることができる総送電電力の最大値(Pall_max)が予め定められている。本実施形態に係る受電制御装置は、総送電電力の最大値(Pall_max)の制約に基づき、電気自動車EV1の要素受電電力を制御する。例えば、受電制御装置は、電流計測装置13が計測する総送電電力の現在値(Pall_now)が、電力の最大値(Pall_max)を超えないように、電気自動車EV1の受電電力を制御する。勿論、総送電電力の現在値(Pall_now)が電力の最大値(Pall_max)を一時的に超えることを許容するように、電気自動車EV1の受電電力を制御しても構わない。なお、総送電電力の最大値(Pall_max)は、固定値でもよく、固定値でなくてもよい。オフィスビル、商業施設、工場、高速道路のパーキングエリア等の施設内には、電気自動車EV用の充電スタンドのみならず、照明装置、空調装置、昇降装置など、電力を消費する施設内機器が存在する。これらの設備によっては、総送電電力の最大値が変動する場合がありうる。
【0025】
図1に示すように、本実施形態では、電力設備12、電流計測装置13及び電気自動車EV1の各々に対して、差分情報送信装置14が無線又は有線により通信可能に接続されている。電力設備12は、差分情報送信装置14へ総送電電力の最大値(Pall_max)を示す電気信号を送信する。電流計測装置13は、計測した総送電電力の現在値(Pall_now)を示す電気信号を差分情報送信装置14へ送信する。
【0026】
差分情報送信装置14は、計算部31と送信部32とを備える。計算部31は、(1)式に示すように、総送電電力の最大値(Pall_max)から総送電電力の現在値(Pall_now)を減ずることにより差分電力(ΔP)を算出する。送信部32は、差分電力(ΔP)を示す電気信号を、負荷群11に含まれる全ての電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)に対して、移動体通信により送信(ブロードキャスト)する。差分電力(ΔP)を示す電気信号は受信装置21により受信され、計算装置23へ転送される。これにより、受電制御装置は、電力設備12を経由して負荷群11の全体に送ることができる総送電電力の最大値(Pall_max)から、電力設備12を経由して負荷群11の全体に送っている総送電電力の現在値(Pall_now)を減じて得られる差分電力(ΔP)を示す情報を取得することができる。
【0027】
【数1】
【0028】
なお、差分情報送信装置14は、送信部32を用いて、負荷群11に含まれる全ての電気自動車(EV1、EV2、EV3、・・・)の受信装置21に対して、無線通信により差分電力(ΔP)を示す情報を送信(ブロードキャスト)する。または、差分電力(ΔP)を示す情報の送信には有線による通信でもよい。
【0029】
図1に示す例において、差分情報送信装置14は、各電気自動車から送信される、例えばバッテリ25の充電率(SOC:STATE OF CHARGE)や受電を終了する時刻(T)など、各電気自動車の状態を示す信号を受信する受信装置を備えていなくてもよい。即ち、差分情報送信装置14と各電気自動車との間は、差分情報送信装置14から各電気自動車への片方向のみに通信できればよい。なお、双方向の通信も可能である。
【0030】
差分情報送信装置14は、例えば、コンピュータネットワークを介して、電力設備12、電流計測装置13、及び負荷群11に接続されたサーバであってもよい。或いは、差分情報送信装置14は、電力設備12の一部分として構成されていてもよい。
【0031】
車両状態取得装置22は、電気自動車EV1の状態を表す情報を取得する。例えば、「電気自動車EV1の状態」とは、電気自動車EV1のユーザの要求を表す数値である。電気自動車EV1のユーザの要求を表す数値は、電気自動車EV1の受電を終了する時刻(受電の終了時刻T)までの残り時間(T)である。残り時間(T)は、電気自動車EV1が受電を終了する時刻から算出可能である。残り時間(T)は、電気自動車EV1のバッテリ25を充電することができる残り時間である。
【0032】
例えば、自宅に帰宅したユーザが、自宅の駐車場にて電気自動車EV1のバッテリ25の充電を開始し、翌日の午前7時に電気自動車EV1にて外出する予定がある場合、翌日の午前7時から所定時間(5分)前の時刻を、受電の終了時刻として設定することができる。このように、“翌日の午前7時に外出したい”という「ユーザの要求」は、受電の終了時刻(午前6時55分=T)及び受電の終了時刻までの残り時間(T)を表している。「受電の終了時刻(T)」とは、電気自動車EV1が受電を続けることが可能な期間が終了する時刻を意味し、受電制御フロー(図2)において、受電を継続しない(S03でNO)と判断する時刻から区別される。
【0033】
受電の終了時刻(T)は、ユーザがスマートフォンなどの情報通信端末又は電気自動車EV1に搭載されたユーザインターフェースを用いて実際に設定した時刻であってもよい。又は、ユーザからの具体的な指示又は設定が無い場合、ユーザの過去の行動履歴(過去の出発時刻の履歴など)を調査して得られる統計データから推定される時刻であっても構わない。
【0034】
計算装置23は、電気自動車EV1のユーザの要求を表す数値(電気自動車EV1の状態)に基づいて、他の電気自動車(EV2、EV3、・・・)の受電よりも自己EV1の受電が優先される度合いを示す電気自動車EV1の優先度(β)を算出する。具体的に、計算装置23は、(2)式を用いて、現時刻(T)から受電の終了時刻(T)までの残り時間(T)から優先度(β)を算出する。(2)式において、Nは、負荷群11内で受電を行う電気自動車の総数を示す。
【0035】
【数2】
【0036】
(2)式に示すように、優先度(β)は残り時間(T)に反比例する。残り時間(T)が短くなるにつれて、優先度(β)は高くなる。(2)式は一例にすぎず、例えば、優先度(β)は、残り時間(T)を2以上のg回(gは正数)掛け算した「残り時間(T)のg乗」に反比例してもよい。
【0037】
電気自動車の総数(N)は、負荷群11における過去の受電履歴を調査して得られる統計データ(数量データ)であってもよいし、電力の現在値(Pall_now)から、おおよその電気自動車の総数(N)を推定することも可能である。総数(N)は差分電力(ΔP)と同様に差分情報送信装置14もしくは差分情報送信装置14に付随する装置から同報送信される。または、充電システムの位置情報や識別信号などで、総数(N)を特定してもよい。
【0038】
計算装置23は、(3)式に示すように、差分電力(ΔP)に優先度(β)を乗じることにより要素差分電力(βΔP)を算出し、前回の処理サイクルにおける要素受電電力(Pt)に、要素差分電力(βΔP)を加算することにより、要素受電電力(Pt+1)を更新する。なお、要素受電電力を示す記号「P」の添え字(右下付文字)「t」「t+1」は、「処理サイクル」の繰り返し回数を示す。tは、零を含む正の整数である。
【0039】
【数3】
【0040】
計算装置23は、受電装置24が更新後の要素受電電力(Pt+1)を受電するように受電装置24に対して指示信号を送信し、指示信号を受信した受電装置24は、更新後の要素受電電力(Pt+1)を、電力設備12を経由して受電する。
【0041】
受電制御装置は、(a)~(e)の処理ステップを含む「処理サイクル」を一定の周期で繰り返し実行することにより、電気自動車EV1の受電装置24が受電する電力(要素受電電力Pt)を制御する。
【0042】
次に、図2のフローチャートを参照して、図1の受電制御装置による受電制御方法の一例(基本例)を説明する。なお、当業者であれば、図1の受電制御装置の具体的な構成及び機能の説明から、受電制御装置による受電処理方法の具体的な手順を容易に理解できる。よって、ここでは、図1の受電制御装置による受電処理方法として、受電制御装置の主要な処理動作を説明し、詳細な処理動作の説明は、図1を参照した説明と重複するため割愛する。
【0043】
まず、ステップS01において、受信装置21は、計算部31により算出された差分電力(ΔP)を示す情報を取得する。処理はステップS02に進み、車両状態取得装置22は、電気自動車EV1の状態を示す情報の例として、受電の終了時刻(T)を示す情報を取得する。
【0044】
処理はステップS03に進み、受電制御装置は、受電を継続するか否かを判断する。例えば、電気自動車EV1のユーザから受電終了の指示信号を受信した場合(S03でNO)、又は、現時刻が受電の終了時刻(T)となった場合、受電の継続を終了する。或いは、充電ポートの未接続を検知した場合など(S03でNO)、それから数分の内に、電気自動車EV1が移動を開始する可能性が高まるため、受電の継続を終了する。更に、バッテリ25の充電率(SOC)が目標値に達した場合(S03でNO)、受電の継続を終了する。これらの状況が無ければ(S03でYES)、受電制御装置は受電を継続する。
【0045】
処理はステップS04に進み、計算装置23は、(2)式を用いて、受電の終了時刻(T)から、電気自動車EV1の優先度(β)を算出する。処理はステップS05に進み、計算装置23は、(3)式に、差分電力(ΔP)及び優先度(β)を代入することにより、要素受電電力(Pt+1)を更新する。
【0046】
ステップS06へ進み、計算装置23は、受電装置24が更新後の要素受電電力(Pt+1)を受電するように受電装置24を制御する。受電制御装置は、ステップS01からステップS06までを単位とする処理サイクルを、ステップS03でNOと判定されるまで、繰り返し実行することにより、要素受電電力(P)を制御する。
【0047】
なお、要素受電電力(Pt+1)を更新する際に、前回の要素受電電力(Pt)から、一定の電力補正値(αPt)を減算することにより、更新後の要素受電電力(Pt+1)を補正してもよい。これにより差分電力(ΔP)を零に成り難くすることができる。これにより新たに受電を開始したい電気自動車は、早期に受電を開始することができる。
【0048】
次に図3~6を参照して充放電低減方法の一例を説明する。
【0049】
まず最初に図3を参照して比較例を説明する。ここでいう比較例は、本実施形態に係る充放電低減方法を使用しないケースである。
【0050】
図3の縦軸において上側は充電側であり、下側は放電側である。横軸は時間を示す。符号50は利用可能電力を示す。符号51はEV2の電力を示す。符号52は利用可能残電力を示す。符号53はEV1の電力を示す。符号54~56については後述する。EV1のSOCは80%、EV2のSOCは20%である。よってEV2の優先度(β)はEV1の優先度(β)より高い。
【0051】
時刻T0~T1の間において、差分情報送信装置14から送信される信号はマイナスである。つまり、差分電力(ΔP)はマイナスである。時刻T0~T1の間において、EV1及びEV2は放電する。時刻T1において、差分情報送信装置14から送信される信号の正負が逆になる。つまり、差分電力(ΔP)はプラスである。時刻T1において、EV1及びEV2は充電を開始する。時刻T1~T2の間において、EV2は放電量を減少させながら充電する。その後、時刻T2において、EV2は充電のみ行う。時刻T3以降、EV2は一定の電力で充電する。同様に、時刻T1~T4の間において、EV1は放電量を減少させながら充電する。その後、時刻T4において、EV1は充電のみ行う。
【0052】
EV2の優先度はEV1の優先度より高いため、EV2の充電速度は早く、EV1の充電速度は遅い。すなわち、時刻T1~T3の間において、符号51(EV2)の傾きが大きく、符号53(EV1)の傾きは小さい。換言すれば、EV2はEV1と比較して充電応答性が早い。
【0053】
時刻T2~T4の間において、EV2は充電のみ行う一方で、EV1は充電及び放電の両方を行う。以下では「充電及び放電」を「充放電」と称する場合がある。時刻T2~T4の間において、EV2は、EV1が放電した電力を用いて充電する。時刻T2~T4の間において、EV1は充電及び放電を繰り返し実施することになり、充放電に関する変換損失が生じる。変換損失とは、例えば、AC-DC変換に係る損失、あるいはDC-AC変換に係る損失である。以下では「充放電に関する変換損失」を「充放電損失」と称する。充放電損失の大きさは、符号54で示される面積の大きさである。面積54の大きさは、符号55で示される高さと、符号56で示される長さによって決まる。高さ55は、EV2の充電速度及びEV1の放電速度によって決まる。例えば、高さ55は、EV2の充電速度の増加が早く(傾きが大きい)、かつ、EV1の放電速度の減少が小さい(傾きが小さい)場合、高くなる。長さ56も高さ55と同様にEV2の充電速度及びEV1の放電速度によって決まる。例えば、長さ56は、EV2の充電速度の増加が早く(傾きが大きい)、かつ、EV1の放電速度の減少が小さい(傾きが小さい)場合、長くなる。
【0054】
本実施形態では、充放電損失(面積54)を低減するため、受電制御装置は自己の優先度を自己の充放電状態を用いて変更する。具体的には受電制御装置は、自己の電気自動車が充電しているときは、放電しているときと比較して上げ優先度を小さくする。上げ優先度とは、差分情報送信装置14から送信される信号がプラスのときの優先度を意味する。受電制御装置は、自己の電気自動車が放電しているときは、充電しているときと比較して下げ優先度を小さくする。下げ優先度とは、差分情報送信装置14から送信される信号がマイナスのときの優先度を意味する。上げ優先度及び下げ優先度の具体例を図4を参照して説明する。
【0055】
図4に示すように、上げ優先度には充電中の優先度と放電中の優先度の、2つの優先度が含まれる。ここでいう充電中または放電中とは、「自己」が充電中である、または放電中であることを意味する。本実施形態において、自己の電気自動車は、他の電気自動車の状態(充放電状態)を知ることはできない。あくまで自己の電気自動車が知ることができるのは、「自己」が充電中である、または放電中であるということである。まずEV1について説明する。上述したようにEV1のSOCは80%である。またEV1の優先度はEV2の優先度より低い。EV1が充電しているときは、EV1が放電しているときと比較して、受電制御装置は上げ優先度を小さくする。つまり、上げ優先度は0.01から0.0001になる。一方、EV1が放電しているときは、EV1が充電しているときと比較して、受電制御装置は下げ優先度を小さくする。つまり、下げ優先度は0.05から0.0005になる。
【0056】
次にEV2について説明する。上述したようにEV2のSOCは20%である。またEV2の優先度はEV1の優先度より高い。EV2が充電しているときは、EV2が放電しているときと比較して、受電制御装置は上げ優先度を小さくする。つまり、上げ優先度は0.05から0.0005になる。一方、EV2が放電しているときは、EV2が充電しているときと比較して、受電制御装置は下げ優先度を小さくする。つまり、下げ優先度は0.01から0.0001になる。
【0057】
次に図5を参照して優先度の変更による効果を説明する。時刻T2~T3の間において、差分情報送信装置14から送信される信号はプラスである。よって図4の上げ優先度が用いられる。時刻T2~T3の間において、EV2は充電中であり、EV1は放電中である。よって、EV2の上げ優先度は0.0005となり、EV1の上げ優先度は0.01となる。このように自己の充放電状態を用いて優先度を変更することにより、時刻T2~T3の間において、EV1の上げ優先度はEV2の上げ優先度より高くなる。その結果、図5に示すように、EV2の充電量の増加は少なくなる一方で、EV1の放電量が大きく減少する。これにより図3の比較例と比較して高さ55及び長さ56が小さくなり、面積54が小さくなる。すなわち図3の比較例と比較してEV1が充電及び放電を繰り返す期間が短くなる。これにより充放電損失が低減する。
【0058】
差分情報送信装置14から送信される信号がプラスである場合における、他の動作例を説明する。差分情報送信装置14から送信される信号がプラスであるとき、電気自動車は充電量を増やす一方で、放電量を減らす。EV1が充電していて、EV2も充電している場合について説明する。繰り返しになるが、電気自動車は、自己の充放電状態のみ知ることができる。EV2の優先度(0.0005)はEV1の優先度(0.0001)より高いため、EV2が優先的に充電される。EV2の充電量が大きく増加する。次にEV1が放電していて、EV2も放電している場合について説明する。EV2の優先度(0.05)はEV1の優先度(0.01)より高いため、EV2の放電が優先的に解除される。EV2の放電量が大きく減少する。次にEV1が放電していて、EV2が充電している場合について説明する。EV1の優先度(0.01)がEV2の優先度(0.0005)より高いため、EV2の充電量の増加は少なくなる一方で、EV1の放電量が大きく減少する。EV1の放電解除が、EV2の充電増加よりも優先される。
【0059】
次に差分情報送信装置14から送信される信号がマイナスである場合における、他の動作例を説明する。差分情報送信装置14から送信される信号がマイナスであるとき、電気自動車は放電量を増やす一方で、充電量を減らす。EV1が充電していて、EV2も充電している場合について説明する。EV1の優先度(0.05)がEV2の優先度(0.01)より高いため、EV1の充電量が大きく減少する。EV2は充電を維持するように動作する。次にEV1が放電していて、EV2も放電している場合について説明する。EV1の優先度(0.0005)がEV2の優先度(0.0001)より高いため、EV1の放電量が大きく増加する。EV2は放電量を増やさないように動作する。次にEV1が放電していて、EV2が充電している場合について説明する。EV2の優先度(0.01)はEV1の優先度(0.0005)より高いため、EV2の充電量の増加が大きくなる一方で、EV1の放電量の減少は小さくなる。EV2の充電解除が、EV1の放電増加よりも優先される。
【0060】
(作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係る受電制御装置によれば、以下の作用効果が得られる。
【0061】
受電制御装置は、他の受電要素の受電よりも自己の受電が優先される度合いを示す受電要素の優先度(β)を自己の受電要素の充放電状態を用いて変更する。これにより充放電損失が低減する。
【0062】
また受電制御装置は電力供給基点10を経由して負荷群11の全体に送ることができる総送電電力の最大値から、電力供給基点10を経由して負荷群11の全体に送っている総送電電力の現在値を減じて得られる差分電力(ΔP)を示す情報を取得する。受電制御装置は差分電力(ΔP)を示す情報が正の値であり、かつ、自己の受電要素が充電している場合は、自己の受電要素が放電している場合と比較して優先度を小さくする。受電制御装置は差分電力(ΔP)を示す情報が負の値であり、かつ、自己の受電要素が放電している場合は、自己の受電要素が充電している場合と比較して優先度を小さくする。これにより、図5に示すように面積54が小さくなり、EV1が充電及び放電を繰り返す期間が短くなる。これにより充放電損失が低減する。
【0063】
(変形例)
次に変形例について説明する。上述の実施形態によれば、図5に示すように充放電損失が低減する。しかし図5に示すように、EV2が充電しているときの応答性が低下して、目標電力に到達するまでに時間を要する場合がある。そこで変形例では、受電制御装置は、電力システムに接続されている電気自動車の中で、放電している電気自動車が存在するか否かを推定する。上述の実施形態では、自己の電気自動車は、他の電気自動車の充放電状態を知ることはできない、と述べた。よって変形例では、推定する、といった方法を採用する。放電している電気自動車が存在すると推定された場合、応答性は上述の実施形態と同じである。一方、放電している電気自動車が存在しないと推定された場合、受電制御装置は応答性を上述の実施形態よりも大きくする。
【0064】
変形例では自己の充放電電力量を調整することにより、それが差分電力(ΔP)を通じて他の電気自動車に自己の状態が充電状態か放電状態かを伝える。このため、電力を変化させる方法と差分電力(ΔP)を踏まえてどのように検出されるかは対となる。なお、充電している電気自動車が存在するか否かは、「存在する」または「存在しない」といった0/1の推定ではある必要はなく、多いか少ないかといった推定でもよい。また以下の推定方法では、差分電力(ΔP)がプラスである場合を示すが、差分電力(ΔP)がマイナスの場合には充電と放電を入れ替えればよい。
【0065】
次に、推定方法の一例を説明する。差分電力(ΔP)はプラスである。放電している電気自動車は差分電力(ΔP)が送信される都度、差分電力(ΔP)を変化させ、充電している電気自動車は数回に一度差分電力(ΔP)を変化させる。受電制御装置は、差分電力(ΔP)が都度変化する場合には放電している電気自動車が存在すると推定することが可能となる。差分電力(ΔP)が都度変化しなくなった場合には、充電している電気自動車を5回中、4回動作させるなどして応答頻度を高めていく。これにより放電している電気自動車が存在する場合には充電している電気自動車は応答頻度が低下するため充電増加量が低下し、放電している電気自動車に優先的に電力が供給される。
【0066】
その他の推定方法として、電気自動車は放電しているときと比較して、充電しているときの電力変化量を10分の1程度に低下させてもよい。これにより差分電力(ΔP)の変化量が小さいときには放電している電気自動車の台数が多いことが分かる。受電制御装置は、差分電力(ΔP)の変化率を用いて全体の応答性を推定し、自己の優先度によって決まる変化率を補正する。これにより図6に示すように、充電している電気自動車のみ存在する場合には補正の効果で充電速度を通常速度まで高めることが可能となる。図6の時刻T3において、充電している電気自動車のみ存在する。時刻T3以降、EV2の応答性が向上していることが分かる。
【0067】
受電制御装置は差分電力(ΔP)を示す情報の変化率に基づいて電力システムに接続されている受電要素の中から、放電している受電要素が存在するか否かを推定する。差分電力(ΔP)を示す情報が正の値であり、自己の受電要素が充電していて、かつ、放電している受電要素が存在すると推定された場合、受電制御装置は自己の受電要素が受電する電力の増加量を通常の増加量より減少させる。差分電力(ΔP)を示す情報が負の値であり、自己の受電要素が放電していて、かつ、放電している受電要素が存在すると推定された場合、受電制御装置は自己の受電要素が放電する電力の増加量を通常の増加量より減少させる。これにより充放電損失を低減させ、かつ、ユーザが希望する時間までに充電を完了させることが可能となる。
【0068】
通常の増加量は、放電している受電要素が存在するか否かを推定しない場合の増加量と定義される。
【0069】
上述の実施形態に記載される各機能は、1または複数の処理回路により実装され得る。処理回路は、電気回路を含む処理装置等のプログラムされた処理装置を含む。処理回路は、また、記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や回路部品等の装置を含む。
【0070】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0071】
10 電力供給基点
11 負荷群
13 電流計測装置
14 差分情報送信装置
15 電力消費要素
21 受信装置
22 車両状態取得装置
23 計算装置
24 受電装置
25 バッテリ
26 モータ
31 計算部
32 送信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6