(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】PD-1とTGF-betaを標的とした四価二重特異性抗体、その製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20241209BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20241209BHJP
C07K 16/22 20060101ALI20241209BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241209BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241209BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241209BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241209BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241209BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241209BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241209BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241209BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241209BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241209BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28
C07K16/22
C12N15/13 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12N15/63 Z
A61K39/395 N
A61K39/395 U
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/06
(21)【出願番号】P 2023137170
(22)【出願日】2023-08-25
(62)【分割の表示】P 2021574257の分割
【原出願日】2021-04-19
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】202010357134.4
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510277073
【氏名又は名称】三生国健薬業(上海)股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SUNSHINE GUOJIAN PHARMACEUT ICAL(SHANGHAI)CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】趙▲ジエ▼
(72)【発明者】
【氏名】黄浩旻
(72)【発明者】
【氏名】朱禎平
(72)【発明者】
【氏名】朱雲霞
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/131239(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-1とTGF-betaを標的とした四価二重特異性抗体であって、
前記四価二重特異性抗体は、2つのポリペプチド鎖及び4つの共通軽鎖を含み、
前記ポリペプチド鎖のアミノ酸配列は、配列番号49で表され、前記共通軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号43で表されることを特徴とする、四価二重特異性抗体。
【請求項2】
単離されたヌクレオチドであって、
PD-1とTGF-betaを標的とし、かつ2つのポリペプチド鎖及び4つの共通軽鎖を含む請求項1に記載の四価二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、ヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号50で表され、
前記共通軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号44で表される、請求項2に記載のヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のヌクレオチドを含んでなることを特徴とする、発現ベクター。
【請求項5】
請求項2又は請求項3に記載のヌクレオチド、又は請求項4に記載の発現ベクターを含んでなることを特徴とする、ホスト細胞。
【請求項6】
請求項1に記載のPD-1とTGF-betaを標的とした四価二重特異性抗体を含んでなることを特徴とする、薬物組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のPD-1とTGF-betaを標的とした四価二重特異性抗体又は請求項6に記載の薬物組成物の、がん、炎症性疾患および自己免疫性疾患を治療するための薬物の製造における使用。
【請求項8】
PD-1とTGF-betaを標的とする前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物は、がんの治療に用いられる、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
請求項1に記載のPD-1とTGF-betaを標的とした四価二重特異性抗体を製造する方法であって、
請求項4に記載の発現ベクターを構築し、ホスト細胞に導入するステップaと、
ステップaで得られた前記ホスト細胞を発現条件下で培養することにより、PD-1とTGF-betaを標的とする前記四価二重特異性抗体を発現するステップbと、
ステップbで発現したPD-1とTGF-betaを標的とする前記四価二重特異性抗体を分離、精製するステップcと
を含むことを特徴とする、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体工学の分野に属し、より具体的には、1類の四価二重特異性抗体、その製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
二重特異性抗体とは、2つの抗原または2つの結合エピトープに同時に特異的に結合しうる抗体分子を指し、構造上の対称性から対称性および非対称性分子に分けられ、また、結合サイトの数から二価、三価、四価および多価分子に分けられる。
【0003】
一本鎖抗体(以下、「ScFv」とも称する)は、重鎖可変領域(以下、「VH領域」とも称する)および軽鎖可変領域(以下、「VL領域」とも称する)で構成され、そのうちVH領域とVL領域が柔軟なペプチドリンカーを介して一体に連結される。ScFvにおいて、構造ドメインはVH領域-リンカー-VL領域又はVL領域-リンカー-VH領域の順に配置され、VH領域とVL領域をつなぐリンカーとして様々な分子が既に報告され、例えば短いアラニンリンカー、グリシンとセリンに富むリンカー、螺旋構造を呈するリンカー、並びに免疫グロブリンや免疫グロブリン以外に由来のリンカー分子などを利用することができる(Ahmad Z A,Yeap S K,Ali A M,et al.,scFv antibody:principles and clinical application[J].Clinical and developmental immunology,2012:980250)。ScFvとは、抗体の最小結合部位を指し、1つのリンカーを用いて2つのScFvをつなぐことで二重特異性抗体を作製することができる。二重抗体分子は二価であり、抗原ごとに1つの結合サイトを保有し、分子量が一般に言うと50~60kDaの程度である。2つのScFvフラグメントをタンデムに繋いだ場合、各ScFvフラグメントが独立して折り畳んで各自それぞれの抗原結合サイトを形成する。タンデムに繋いだscFvは二重特異性を呈し、現在、既にがんの免疫療法に広く使われ、T細胞が腫瘍細胞や腫瘍微小環境における腫瘍関連細胞をリターゲッティングするように用いられる。かような抗体形態は二重特異性T細胞誘導剤(bispecific T-cell engager、以下では「BiTE」とも略称する)の分子基盤となり、BiTE分子として最初に販売認可を得られたのはブリナツモマブである(Huehls A M,Coupet T A,Sentman C L.Bispecific T-cell engagers for cancer immunotherapy[J].Immunology and cell biology,2015,93(3):290-296)。
【0004】
ダイアボディ(Diabody,Db)は、2つの鎖によって形成される二価分子であり、各鎖に同じ又は異なる抗体に由来する1つのVHおよびVL構造ドメインを含む。ダイアボディにおいて、2つの可変構造ドメインは短いリンカー分子を介して連結され、このようなリンカー分子としては、通常、5つのアミノ酸残基で構成され、例えばGGGGSが挙げられる。リンカー分子が鎖内組織化に必要とされる長さより明らかに短くなるため、2つのScFv鎖が頭尾方向に沿って二量体化することにより、分子量がタンデムに繋いだScFvに相当し且つ緊密に組織化されたダイアボディ分子を形成する(Wu C.Diabodies:molecular engineering and therapeutic applications[J].Drug News Perspect,2009,22(8):453)。細胞内でダイアボディ分子の2つの異なる鎖を発現する際に可変構造ドメインのミスマッチングを惹起するおそれがあり、かつ2つの鎖が非共有結合によって連結されていないため、ダイアボディ分子に安定性の問題が残される(Kipriyanov S M,Moldenhauer G,Braunagel M,et al.,Effect of domain order on the activity of bacterially produced bispecific single-chain Fv antibodies[J].Journal of molecular biology,2003,330(1):99-111)。
【0005】
ダイアボディとヒトFcを融合することで免疫グロブリンに更に類似する分子を形成することができ、得られた抗体分子を「Di-Diabody」と称する(Lu D,Zhang H,Koo H,et al.,A fully human recombinant IgG-like bispecific antibody to both the epidermal growth factor receptor and the insulin-like growth factor receptor for enhanced antitumor activity[J].Journal of Biological Chemistry,2005,280(20):19665-19672)。また、2つのタンデムにつないだScFvとヒトFcを融合することで免疫グロブリンに更に類似する分子を形成することができ、得られた抗体分子を「TaFv-Fc」と称する(Chen Z,Xie W,Acheampong D O,et al.,A human IgG-like bispecific antibody co-targeting epidermal growth factor receptor and the vascular endothelial growth factor receptor 2 for enhanced antitumor activity[J].Cancer biology & therapy,2016,17(2):139-150)。
【0006】
上述のDi-DiabodyおよびTaFv-Fc以外でも、構造対称性を呈する四価二重特異性抗体としては、下記幾つかの種類が挙げられるが、これらに限らない。
【0007】
天然IgGの重鎖又は軽鎖のN末端又はC末端に、ペプチドリンカーを介してScFvを付けることにより、IgG-ScFv型の二重特異性抗体を形成することができる(Coloma M J,Morrison S L.,Design and production of novel tetravalent bispecific antibodies[J].Nature biotechnology,1997,15(2):159)。
【0008】
天然抗体の軽鎖および重鎖のN末端に、ペプチドリンカーを介して更に別の抗体のVL およびVH領域を付けることにより、DVD-Ig型の二重特異性抗体を形成することができる(Wu C,Ying H,Grinnell C,et al.,Simultaneous targeting of multiple disease mediators by a dual-variable-domain immunoglobulin[J].Nature biotechnology,2007,25(11):1290)。
【0009】
CrossMAbは、抗体のFabアーム内にある機能ドメインの交差に基づく技術であり、ロシュ社によって確立された技術プラットフォームである。該技術は、同種由来の軽鎖と重鎖が正確に会合する問題を解決し、抗体を構築するときの成功率を更に高めた。現在、CrossMAbに基づいて作製した数種の二重特異性抗体が既に報告されている(Klein C,Schaefer W,Regula J T.,The use of CrossMAb technology for the generation of bi-and multispecific antibodies[C]//MAbs.Taylor & Francis,2016,8(6):1010-1020)。
【0010】
天然抗体の重鎖のN末端にペプチドリンカーを介して別の抗体の軽鎖を付け、そしてVH+CH1を独立した短鎖としてN末端に連結された軽鎖と会合させることにより、FIT-IgG型の二重特異性抗体を形成することができる(US10266608B2)。
【0011】
IgG-TCRは、T細胞受容体(T cell receptors,TCR)のα鎖及びβ鎖の定常領域を用いて重鎖のCH1領域及び軽鎖のCL領域をそれぞれ置き換えることで関連重鎖と軽鎖の会合効率を高めたものである(Wu X,Sereno A J,Huang F,et al.,Protein design of IgG/TCR chimeras for the co-expression of Fab-like moieties within bispecific antibodies[C]//MAbs.Taylor & Francis,2015,7(2):364-376)。WuXiBodyは、IgG-TCRに基づき更に改良を行い、α鎖定常領域とβ鎖定常領域の間に人工ジスルフィド結合を設けることにより関連重鎖と軽鎖の会合効率、および二重特異性抗体分子の安定性を更に高めることに至った(WO2019/057122A1)。
【0012】
最近、四価二重特異性抗体の新たな作製方法も報告され、該方法によると、結晶構造に対する知見に基づきFabの重鎖と軽鎖の界面に対して人工改造を行い、さらに直交性(orthogonal)のFab界面を実験により選出し、該直交性Fabの重鎖と軽鎖同士は特異的に会合することができ、間違って野生型の重鎖および軽鎖と会合することはない(Lewis S M,Wu X,Pustilnik A,et al.,Generation of bispecific IgG antibodies by structure-based design of an orthogonal Fab interface[J].Nature biotechnology,2014,32(2):191; Wu X,Sereno A J,Huang F,et al.,Fab-based bispecific antibody formats with robust biophysical properties and biological activity[C]//MAbs.Taylor & Francis,2015,7(3):470-482)。
【0013】
なお、構造上対称性を示さない二重特異性抗体としては、さらに、以下に示す幾つかの構造が挙げられるが、これらに限らない。
【0014】
杵臼構造(knob-in-hole、以下では「KIH」とも略称する)は、主に二重特異性抗体の2つの異なる重鎖のヘテロ二量体化を促進する役割を果たす。杵臼構造の特徴として、二重特異性抗体を構成する1つの重鎖のCH3領域に突然変異が起こることで突起状の「杵構造」を形成し、別の重鎖のCH3領域に突然変異が起こることで溝槽状の「臼構造」を形成する。杵臼構造を利用することにより、2種類の異種抗体の重鎖同士が正確に会合させることができる(Merchant A M,Zhu Z,Yuan J Q,et al.,An efficient route to human bispecific IgG[J].Nature biotechnology,1998,16(7):677)。DuetMabは、KIH技術を利用して2つの異種重鎖のヘテロ二量体化を実現し、さらに、人工ジスルフィド結合を導入してCH1とCLの間の天然ジスルフィド結合を置き換えることで関連重鎖と軽鎖の会合効率を高めることに至った(Mazor Y,Oganesyan V,Yang C,et al.,Improving target cell specificity using a novel monovalent bispecific IgG design[C]//MAbs.Taylor & Francis,2015,7(2):377-389)。
【0015】
異種重鎖のヘテロ二量体化を促す別の方法としては、静電的ステアリング変異(Electrostatic Steering Mutations)を利用する方法が挙げられる。該方法は、静電相互作用を示す帯電残基に基づいて確立され、いわばCH3界面の電荷極性を選択的に変えることにより、帯電状態が一致するFc構造ドメインが静電相互作用によってヘテロ二量体を形成し、静電反発作用によってホモ二量体化を抑制する方法である(US10011858B2; Gunasekaran K,Pentony M,Shen M,et al.,Enhancing antibody Fc heterodimer formation through electrostatic steering effects applications to bispecific molecules and monovalent IgG[J].Journal of Biological Chemistry,2010,285(25):19637-19646)。
【0016】
共通軽鎖(Common Light Chain)も二重特異性抗体の構築によく用いられる手法である。共通軽鎖は、重鎖と軽鎖のミスマッチングによる副産物の生成を低減し、二重特異性抗体の収量を高めることができる(Brinkmann U,Kontermann R E.,The making of bispecific antibodies[C]//MAbs.Taylor & Francis,2017,9(2):182-212)。共通軽鎖は実験探索により選出され、このときハイブリドーマ又はファージディスプレイ技術を利用するのが一般である。通常、A抗体およびB抗体の抗体ライブラリに対してハイスループットでスクリーニングすることが求められ、このとき2つの抗体ライブラリの容量に対しても一定の要求がある(Sampei Z,Igawa T,Soeda T,et al.,Identification and multidimensional optimization of an asymmetric bispecific IgG antibody mimicking the function of factor VIII cofactor activity[J].PloS one,2013,8(2):e57479; US9657102B2)。
【0017】
二重特異性抗体は、1類の斬新な治療性抗体になりつつあり、様々な炎症性疾患、がんおよび他の疾患の治療に適用可能である。最近、二重特異性抗体の新規構成形態が数多く報告されているが、正確に会合する分子を得ることは二重特異性抗体を製造する際の主な技術難点でもある。上述の二重特異性抗体はいずれもミスマッチングの問題を抱え、間違って会合することにより1種または数種の副産物や凝集体が生成し、結果として目的とする二重特異性抗体の収量、純度および物理化学的安定性に影響を与え、さらに体内における二重特異性抗体の安全性及び有効性にも影響を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記した従来の課題に鑑みてなされ、共通軽鎖の構造対称性に基づく四価二重特異性抗体およびその作製方法を提供する。通常、二重特異性抗体の重鎖と軽鎖の間にミスマッチングが発生することが多く見られるが、重鎖同士の間でも間違って会合することがあり、正確に会合する効率が高くなるにつれてミスマッチングが発生する可能性が低くなる。そこで、本発明では、共通軽鎖を利用して重鎖と軽鎖の間にミスマッチングが発生する問題を解決し、かつ抗体の重鎖可変領域VH-BとCH1をつなぎ、ペプチドリンカーを介して別の抗体の重鎖可変領域VH-Aを付け、さらに重鎖定常領域CH1-CH2-CH3を付けることで1つの長い重鎖を構成した。この長い重鎖および共通軽鎖の遺伝子を同一の細胞内で発現するとき、長い重鎖がそれぞれ2つの共通軽鎖と会合し、このとき長い重鎖と会合する2つの軽鎖が同じであるため、長い重鎖と共通軽鎖の間にミスマッチングが発生する恐れがなく、また、長い重鎖同士がヘテロ二量体でなくホモ二量体を形成するため、長い重鎖同士に間違って会合することもない。本発明に係る四価二重特異性抗体は、Fc修飾を不要とし、簡易に製造でき、モノクローナル抗体に匹敵し、若しくはモノクローナル抗体を上回る生体活性および物理化学的特性を有する。
【0019】
さらに、本発明者が上述の四価二重特異性抗体について鋭意検討を重ねた結果、驚くことにヒトPD-1抗体であるmAb1-25-Hu(以下、「609」とも略称する)が主に重鎖を介してPD-1分子に結合し、軽鎖にはさほど依存しないことを見出した。この知見に基づくと、609の重鎖可変領域及び/又は重鎖と、他の標的を認識する抗体の重鎖可変領域及び/又は重鎖および軽鎖可変領域及び/又は軽鎖(すなわち、共通軽鎖)とを組み合わせることでPD-1及び他の標的に結合しうる二重特異性抗体を作製することができ、こうした策略は本発明で言う四価二重特異性抗体に限らず、当分野で既知の他の共通軽鎖を含む二重特異性抗体の作製にも適用可能である。
【0020】
したがって、本発明の第1の側面では、四価二重特異性抗体を提供する。
【0021】
本発明の第2の側面では、前記四価二重特異性抗体をコードする単離されたヌクレオチドを提供する。
【0022】
本発明の第3の側面では、前記ヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供する。
【0023】
本発明の第4の側面では、前記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0024】
本発明の第5の側面では、前記四価二重特異性抗体の製造方法を提供する。
【0025】
本発明の第6の側面では、前記四価二重特異性抗体を含む薬物組成物を提供する。
【0026】
本発明の第7の側面では、前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物の、がん、炎症性疾患、自己免疫性疾患および他の病症を治療するための薬物の製造における用途を提供する。
【0027】
本発明の第8の側面では、四価二重特異性抗体の作製方法を提供する。
【0028】
本発明の第9の側面では、重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号83で表される二重特異性抗体を提供する。
【0029】
本発明の第10の側面では、アミノ酸配列が配列番号83で表される重鎖可変領域の、二重特異性抗体の作製における用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的を達成すべく、本発明は、以下の技術案で構成される。
【0031】
本発明の第1の側面では、四価二重特異性抗体を提供し、該四価二重特異性抗体は、
N末端からC末端にまでVH-B-CH1-ペプチドリンカー-VH-A-CH1-CH2-CH3を含む2つのポリペプチド鎖と、N末端からC末端にまでVL-CLを含む4つの共通軽鎖とを含み、
そのうち、前記VH-Aは第1抗体の重鎖可変領域あり、VH-Bは第2抗体の重鎖可変領域であり、前記CH1は重鎖定常領域の第1構造ドメインであり、前記CH2は重鎖定常領域の第2構造ドメインであり、前記CH3は重鎖定常領域の第3構造ドメインであり、前記第1抗体は第1抗原に特異的に結合し、前記第2抗体は第2抗原に特異的に結合し、
前記VLは軽鎖可変領域であり、前記CLは軽鎖定常領域であり、前記ポリペプチド鎖のVH-A-CH1および前記ポリペプチド鎖のVH-B-CH1はそれぞれ前記共通軽鎖のVL-CLと会合し、前記VH-Aと前記VLは第1抗原結合サイトを形成し、前記VH-Bと前記VLは第2抗原結合サイトを形成する。
【0032】
本発明に係る二重特異性抗体の構造は、
図1に示された通りである。
【0033】
本発明によれば、前記共通軽鎖は、以下の方法を用いてスクリーニングすることで得られ、
第1抗体および第2抗体の重鎖および軽鎖をそれぞれ入れ替えることで第1抗体の重鎖と第2抗体の軽鎖の組み合わせ、及び第2抗体の重鎖と第1抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体を取得し、このとき、
a)第1抗体の重鎖と第2抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第1抗原に特異的に結合できると、第2抗体の軽鎖を共通軽鎖とし、
b)第2抗体の重鎖と第1抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第2抗原に特異的に結合できると、第1抗体の軽鎖を共通軽鎖とし、
c)第1抗体の重鎖と第2抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第1抗原に特異的に結合できず、かつ第2抗体の重鎖と第1抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第2抗原に特異的に結合できないと、第1抗体の軽鎖に復帰変異を導入することで第2抗体の重鎖と第1抗体の変異軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第2抗原に特異的に結合できるようにし、そして第1抗体の変異軽鎖を共通軽鎖とし、又は
d)第1抗体の重鎖と第2抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第1抗原に特異的に結合できず、かつ第2抗体の重鎖と第1抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第2抗原に特異的に結合できないと、第2抗体の軽鎖に復帰変異を導入することで第1抗体の重鎖と第2抗体の変異軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第1抗原に特異的に結合できるようにし、そして第2抗体の変異軽鎖を共通軽鎖とする。
【0034】
本発明の一好適な実施形態によれば、上記a)およびb)においてハイブリッド抗体が抗原に特異的に結合しうると、上記と同様にして軽鎖に復帰変異を導入することでハイブリッド抗体と抗原とが結合する際の親和性を更に高めることができる。したがって、前記共通軽鎖としては、さらに以下の方法を用いてスクリーニングすることで得られる。
【0035】
第1抗体および第2抗体の重鎖および軽鎖をそれぞれ入れ替えることで第1抗体の重鎖と第2抗体の軽鎖の組み合わせ、及び第2抗体の重鎖と第1抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体を取得し、このとき、
a’)第1抗体の重鎖と第2抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第1抗原に特異的に結合できると、第2抗体の軽鎖に復帰変異を導入することで、第1抗原に対する親和性からして第1抗体の重鎖と第2抗体の変異軽鎖を組み合わせたハイブリッド抗体が、第1抗体の重鎖と第2抗体の軽鎖を組み合わせたハイブリッド抗体を上回るようにし、そして第2抗体の変異軽鎖を共通軽鎖とし、
b’)第2抗体の重鎖と第1抗体の軽鎖の組み合わせによって形成されたハイブリッド抗体が第2抗原に特異的に結合できると、第1抗体の軽鎖に復帰変異を導入することで、第2抗原に対する親和性からして第2抗体の重鎖と第1抗体の変異軽鎖を組み合わせたハイブリッド抗体が、第2抗体の重鎖と第1抗体の軽鎖を組み合わせたハイブリッド抗体を上回るようにし、そして第1抗体の変異軽鎖を共通軽鎖とする。
【0036】
本発明によれば、前記ペプチドリンカーは、人工リンカーである。好ましくは、前記人工リンカーとしてはG、GS、SG、GGS、GSG、SGG、GGG、GGGS、SGGG、GGGGS、GGGGSGS、GGGGSGGS、GGGGSGGGGS、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号150)、AKTTPKLEEGEFSEAR、AKTTPKLEEGEFSEARV、AKTTPKLGG、SAKTTPKLGG、SAKTTP、RADAAP、RADAAPTVS、RADAAAAGGPGS、SAKTTPKLEEGEFSEARV、ADAAP、ADAAPTVSIFPP、TVAAP、TVAAPSVFIFPP、QPKAAP、QPKAAPSVTLFPP、AKTTPP、AKTTPPSVTPLAP、AKTTAPSVYPLAP、ASTKGP、ASTKGPSVFPLAP、GENKVEYAPALMALS、GPAKELTPLKEAKVSおよびGHEAAAVMQVQYPASなどからなる群より選ばれる任意の1種である。より好ましくは、前記人工リンカーとしては、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号150)である。
【0037】
本発明によれば、前記ポリペプチド鎖においてN末端近傍のCH1構造ドメインおよびCH1-CH2-CH3は、同じサブタイプ又は異なるサブタイプの重鎖定常領域に由来してもよく、例えばIgG1の重鎖定常領域、IgG2の重鎖定常領域、IgG3の重鎖定常領域およびIgG4の重鎖定常領域からなる群より選ばれる重鎖定常領域に由来し、好ましくは、IgG1又はIgG4の重鎖定常領域に由来し、前記IgG4には、サイト変異としてS228P(EUナンバリング)を含むのが好ましい。
【0038】
本発明によれば、前記CLは、κ軽鎖の定常領域又はλ軽鎖の定常領域である。
【0039】
本発明の一好適な実施形態において、前記第1抗原および前記第2抗原は、VEGF/PD-1、PD-1/VEGF、TGF-β/PD-1、PD-1/TGF-β、HER2/CD47、CD47/HER2、HER2/CD137、CD137/HER2、PD-1/CD137、CD137/PD-1、PD-1/CD40、CD40/PD-1、PD-1/EGFR、EGFR/PD-1、PD-1/HER2、HER2/PD-1、PD-1/CTLA-4、CTLA-4/PD-1、PD-1/LAG-3、及びLAG-3/PD-1からなる群より選ばれる何れか1種である。
【0040】
本発明の一好適な実施形態において、前記VH-A又は前記VH-Bは、配列番号83で表される配列を有する。
【0041】
本発明の一好適な実施形態において、前記VH-A、前記VH-Bおよび前記VLの配列は、配列番号1、11、15、配列番号11、1、15、配列番号20、11、15、配列番号11、20、15、配列番号29、41、42、配列番号41、29、42、配列番号31、41、42、配列番号41、31、42、配列番号53、61、54、配列番号61、53、54、配列番号53、77、54、配列番号77、53、54、配列番号83、91、92、配列番号91、83、92、配列番号83、105、106、配列番号105、83、106、配列番号83、113、114、配列番号113、83、114、配列番号83、117、118、配列番号117、83、118、配列番号83、119、120、配列番号119、83、120、配列番号83、121、122、及び配列番号121、83、122からなる群より選ばれる。
【0042】
本発明の一好適な実施形態において、前記ポリペプチド鎖および前記共通軽鎖の配列は、配列番号16、13、配列番号18、13、配列番号21、13、配列番号45、43、配列番号47、43、配列番号49、43、配列番号51、43、配列番号65、63、配列番号67、63、配列番号79、63、配列番号81、63、配列番号95、93、配列番号97、93、配列番号109、107、配列番号111、107、配列番号131、123、配列番号133、125、配列番号135、127、配列番号137、127、配列番号139、127、配列番号141、127、配列番号143、129、及び配列番号145、129からなる群より選ばれる。
【0043】
本発明の第2の側面では、前記四価二重特異性抗体をコードする単離されたヌクレオチドを提供する。
【0044】
本発明の第3の側面では、前記ヌクレオチドを含んでなる発現ベクターを提供する。
【0045】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヌクレオチドは、前記ポリペプチド鎖および前記共通軽鎖をコードし、前記ヌクレオチドは、配列番号17、14、配列番号19、14、配列番号22、14、配列番号46、44、配列番号48、44、配列番号50、44、配列番号52、44、配列番号66、64、配列番号68、64、配列番号80、64、配列番号82、64、配列番号96、94、配列番号98、94、配列番号110、108、配列番号112、108、配列番号132、124、配列番号134、126、配列番号136、128、配列番号138、128、配列番号140、128、配列番号142、128、配列番号144、130、及び配列番号146、130からなる群より選ばれる配列を有する。
【0046】
本発明の第4の側面では、前記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0047】
本発明の第5の側面では、前記四価二重特異性抗体の製造方法を提供し、該製造方法は、発現条件下で前記ホスト細胞を培養することにより、前記四価二重特異性抗体を発現するステップaと、前記ステップaで発現した四価二重特異性抗体を分離、精製するステップbとを含む。
【0048】
本発明の第6の側面では、前記四価二重特異性抗体および薬学的に許容可能な担体を含んでなる薬物組成物を提供する。
【0049】
本発明の第7の側面では、前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物の、がん及び炎症性疾患、自己免疫性疾患および他の疾患を治療するための薬物の製造における用途を提供する。さらに、本発明は、要治療の被験者に前記四価二重特異性抗体又は前記薬物組成物を投与することにより、がん及び炎症性疾患、自己免疫性疾患及び他の疾患を治療する方法を提供する。前記がんとしては、メラノーマ(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓がん(例えば、淡明細胞型腎細胞がん)、前立腺がん(例えば、ホルモン難治性前立腺がん)、膵癌、乳がん、結腸がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、食道がん、頭頚部扁平上皮がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、甲状腺がん、膠芽腫、神経膠腫、白血病、リンパ腫および他の腫瘍性悪性疾患が挙げられるが、これらに特に制限されない。前記炎症性疾患、自己免疫性疾患および他の疾患としては、眼科、繊維化、喘息、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、乾癬、アトピー性皮膚炎などが挙げられるが、これらに特に制限されない。また、前記被験者については制限がないが、人を被験者とするのが一般である。
【0050】
本発明の第8の側面では、四価二重特異性抗体の作製方法を提供し、該作製方法は、
第2抗原に特異的に結合する第2抗体の重鎖可変領域VH-Bと、重鎖定常領域の第1構造ドメインCH1をつなぐステップI、
ペプチドリンカーを介して、ステップIで得られた連結物を、第1抗原特異的に結合する第1抗体の重鎖可変領域VH-AにつなぐステップII、
ステップIIで得られた連結物と、重鎖定常領域CH1-CH2-CH3とを繋いでポリペプチド鎖を形成するステップIII、および
ステップIIIで得られたポリペプチド鎖および共通軽鎖VL-CLを、それぞれ発現ベクターに導入し、得られた発現ベクターを組み合せて発現することにより目的とする四価二重特異性抗体を取得するステップIVを含む。
【0051】
そのうち、前記CH1は重鎖定常領域の第1構造ドメインであり、前記CH2は重鎖定常領域の第2構造ドメインであり、前記CH3は重鎖定常領域の第3構造ドメインであり、前記VLは軽鎖可変領域であり、前記CLは軽鎖定常領域であり、前記VH-A-CH1および前記VH-B-CH1は、それぞれ前記VL-CLと会合し、前記VH-Aは、前記VLと第1抗原結合サイトを形成し、前記VH-Bは、前記VLと第2抗原結合サイトを形成する。
【0052】
本発明の第9の側面では、二重特異性抗体を提供し、前記二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる重鎖可変領域及び少なくとも2つの共通軽鎖を含み、前記共通軽鎖は、同じ軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域と前記軽鎖可変領域が抗原結合サイトを形成し、前記重鎖可変領域は、配列番号83で表されるアミノ酸配列を含む。
【0053】
本発明の第10の側面では、配列番号83で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域の、二重特異性抗体の作製における用途を提供し、前記二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる重鎖可変領域及び少なくとも2つの共通軽鎖を含み、前記共通軽鎖は、同じ軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域と前記軽鎖可変領域が抗原結合サイトを形成する。
【発明の効果】
【0054】
本発明は、共通軽鎖に基づき且つ構造上対称性を有する四価二重特異性抗体及びその作製方法を提供する。本発明に係る二重特異性抗体は、モノクローナル抗体に匹敵する生体活性および物理化学的特性を有し、又はモノクローナル抗体に比べてより優れた生体活性および物理化学的特性を有し、様々な炎症性疾患、がん及び他の疾患の治療に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明の二重特異性抗体の構造概略図であり、そのうちVH-Aは第1抗体の重鎖可変領域を表し、VH-Bは第2抗体の重鎖可変領域を表し、VLは共通軽鎖の軽鎖可変領域を表し、CH1、CH2およびCH3は、重鎖定常領域における3つの構造ドメインであり、CLは、共通軽鎖の軽鎖定常領域であり、重鎖同士の間のジスルフィド結合および重鎖と軽鎖の間のジスルフィド結合は、それぞれ線分で表され、ポリペプチド鎖のN末端に近接するCH1領域とVH-A領域の間の人工リンカーは線分で表され、ポリペプチド鎖のC末端に近接するCH1領域とCH2領域の間の線分は、抗体本来のリンカーおよびヒンジ領域(重鎖がヒトIgG4のサブタイプである場合、ヒンジ領域にはサイト変異としてS228Pを含む)を表する。
【
図2】
図2A~
図2Bは、601、20-Hu及びこれらのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図3】
図3A~
図3Bは、20-Fab-601-IgG4-V94L及び601-Fab-20-IgG4-V94LのELISA結果を示す図である。
【
図4】
図4A~
図4Bは、20-Fab-601-IgG4-V94LのHPLC-SECスペクトルである。
【
図5】
図5A~
図5Bは、20-Fab-601-IgG4-V94LのHPLC-IECスペクトルである。
【
図6】
図6A~
図6Dは、20-Fab-601-IgG4-V94LのCE-SDSスペクトルである。
【
図7】
図7A~
図7Bは、20-Fab-601-IgG4-V94LのDSCスペクトルである。
【
図8】VEGF生体活性に対する20-Fab-0313-IgG4-V94Lの中和能力を測定したときの結果を示す図である。
【
図9】
図9A~
図9Bは、MLR活性に対する20-Fab-0313-IgG4-V94Lの亢進効果を示す図である。
【
図10】PD-1及びVEGF165両者に同時に結合するときの20-Fab-0313-IgG4-V94Lの結合特性を示す図である。
【
図11】20-Fab-0313-IgG4-V94Lの薬物動態学特性を示す図である。
【
図12】PD-1及びVEGFを標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍活性を示す図である。
【
図13】
図13A~
図13Bは、1D11-Hu、14-Hu及びこれらのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図14】mAb127、14-Hu及びこれらのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図15】
図15A~
図15Bは、14-Fab-1D11-IgG4、1D11-Fab-14-IgG4、14-Fab-127-IgG4及び127-Fab-14-IgG4のELISA結果を示す図である。
【
図17】TGF-β1及びPD-1両者に同時に結合するときの14-Fab-127-IgG4の結合特性を示す図である。
【
図18】PD-1及びTGF-betaを標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍活性を示す図である。
【
図19】
図19A~
図19Bは、19H6-Hu、Anti-CD47B-Hu及びこれらのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図20】
図20A~
図20Bは、CD47B-Fab-19H6-IgG1及び19H6-Fab-CD47B-IgG1のELISA結果を示す図である。
【
図21】
図21A~
図21Bは、19H6-Hu、94-Hu及びこれらのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図22】
図22A~
図22Bは、94-Fab-19H6-IgG1-LALA及び19H6-Fab-94-IgG1-LALAのELISA結果を示す図である。
【
図23】
図23A~
図23Bは、609、Anti-CD137-Hu及びこれらのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図24】
図24A~
図24Bは、609-Fab-137-IgG4及び137-Fab-609-IgG4のELISA結果を示す図である。
【
図25】
図25A~
図25Bは、609、Anti-CD40-Hu及びこれらのハイブリッド抗体のELISA結果を示す図である。
【
図26】
図26A~
図26Bは、609-Fab-40-IgG4及び40-Fab-609-IgG4のELISA結果を示す図である。
【
図27】609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Trastuzumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCのELISA結果を示す図である。
【
図28】PD-1とPD-L1の相互作用に対する609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Trastuzumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCの阻害効果を示す図である。
【
図29】混合リンパ球反応に対する609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Trastuzumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCの亢進効果を示す図である。
【
図30】フローサイトメトリー法を利用し、細胞表面のPD-1に対する609、609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCの結合特性を測定するときの結果を示す図である。
【
図31】609の軽鎖可変領域をアラニンスキャニングにかけるときの結果を示す図である。
【
図33】
図33A~
図33Bは、609-Fab-Pertuzumab-IgG4のELISA結果を示す図である。
【
図34】
図34A~
図34Bは、609-Fab-Ipilimumab-IgG1、Ipilimumab-Fab-609-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG4及びIpilimumab-Fab-609-IgG4のELISA結果を示す図である。
【
図35】PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体の機能活性を測定するときの結果を示す図である。
【
図36】PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体のADCC活性を測定するときの結果を示す図である。
【
図37】PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体のラット体内における薬物動態学特性を示す図である。
【
図38】PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍活性を示す図である。
【
図39】
図39A~
図39Bは、609-Fab-5E7-IgG4及び5E7-Fab-609-IgG4のELISA結果を示す図である。
【
図40】PD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体が2種類の抗原に同時に結合するときの結合特性を示す図である。
【
図41】PD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体の機能活性を測定するときの結果を示す図である。
【
図42】PD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍活性を示す図である。
【
図44】
図44A~
図44Hは、609-Fab-Cetuximab-IgG4、609-Fab-Pertuzumab-IgG4、609-Fab-Ipilimumab-IgG1、Ipilimumab-Fab-609-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG4、Ipilimumab-Fab-609-IgG4、609-Fab-5E7-IgG4及び5E7-Fab-609-IgG4のHPLC-SECスペクトルである。
【
図45】
図45A~
図45Bは、609-Fab-Ipilimumab-IgG1及び609-Fab-5E7-IgG4のHPLC-IECスペクトルである。
【
図46】
図46A~
図46Dは、609-Fab-Ipilimumab-IgG1及び609-Fab-5E7-IgG4のNR-CE-SDSスペクトル及びR-CE-SDSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明において、「抗体(Ab)」及び「免疫グロブリンG(IgG)」とは、構造特徴が同じである約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同じ軽鎖(L鎖)と2つの同じ重鎖(H鎖)で構成される。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合を介して重鎖に結合し、異なる免疫グロブリンにおいて重鎖アイソタイプの間のジスルフィド結合数が異なる。重鎖および軽鎖は、それぞれ規則的な間隔を隔てて鎖内ジスルフィド結合を備え、各重鎖の一端に可変領域(VH領域)を有し、可変領域に続いて3つの構造ドメインCH1、CH2およびCH3からなる定常領域を有する。各軽鎖の一端に可変領域(VL領域)を有し、他端に1つのCL構造ドメインで構成される定常領域を有し、軽鎖の定常領域と重鎖の定常領域における第1構造ドメインCH1が会合し、かつ軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域が会合する。定常領域は、抗体と抗原の結合に直接に関与せず、例えば抗体依存性細胞介在性の細胞毒性(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、以下では「ADCC」とも略称する)に関与するなど、他の生体機能を示す。重鎖の定常領域は、サブタイプとしてIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含み、軽鎖の定常領域は、サブタイプとしてκ(Kappa)またはλ(Lambda)定常領域を含む。抗体の重鎖と軽鎖は、重鎖のCH1構造ドメインと軽鎖のCL構造ドメインとの間の共有ジスルフィド結合を介して一体に連結され、2つの重鎖は、ヒンジ領域同士の間に形成された鎖間ジスルフィド結合を介して一体に連結される。
【0057】
本発明において、「二重特異性抗体」とは、2つの抗原(標的)又は2つのエピトープを同時に認識して特異的に結合しうる抗体分子を指す。
【0058】
本発明において、「モノクローナル抗体」とは、1類のほぼ均一な群から得られる抗体を指し、すなわち極一部に自然変異を形成する可能性がある以外、該群に含まれる単一抗体が同じであることを意味する。モノクローナル抗体は、1つの抗原サイトを高い特異性で認識して結合する。そして、通常のポリクローナル抗体製剤(これらのポリクローナル抗体製剤は、通常、異なる決定基を認識しうる複数の抗体を含む混合物である)と異なり、モノクローナル抗体は、抗原における単一決定基を認識して結合する。モノクローナル抗体は、上述の特異性に加え、ハイブリドーマを培養することで得られ且つ他の免疫グロブリンによって汚染されないという優勢がある。なお、本発明において「モノクローナル」とは、抗体の特性を指すものであり、ほぼ均一な抗体群から得られ、何らの特別な方法で作製されるものと解釈してはいけない。
【0059】
本発明において、「Fab」及び「Fc」とは、抗体をパパインで消化して得られた2つの完全に同じであるFabフラグメント及び1つのFcフラグメントを指すものである。Fabフラグメントは、抗体重鎖のVH領域及びCH1構造ドメインと、軽鎖のVL領域及びCL構造ドメインとで構成される。Fcフラグメントは、結晶性断片(fragment crystallizable,Fc)とも称され、抗体のCH2構造ドメインとCH3構造ドメインとで構成される。Fcフラグメントは、抗原への結合活性を示さず、抗体とそのエフェクター分子又は細胞とが相互作用する部位である。
【0060】
本発明において、「可変」とは、抗体可変領域の一部に配列差異が存在し、特定抗原に対する抗体の結合性や特異性を決定する構成である。また、可変度を決める配列は、抗体の可変領域全体に渡って均一に分布するわけでなく、軽鎖および重鎖の可変領域における相補性決定領域(Complementarity-determining region,CDR)又は超可変領域における3つのフラグメントに集中して存在する。可変領域において保存性が比較的高い部分がフレームワーク領域(frame region,FR)であり、天然重鎖および軽鎖の可変領域にそれぞれ4つのFR領域を含む。これらのFR領域は、概ねβ-折り畳み構造を形成し、接続リングを構成する3つのCDRによって互いに連結されるが、場合によっては部分的なβ-折り畳み構造を形成することもできる。各鎖におけるCDR領域は、FR領域を介して緊密に隣接し、かつ他鎖のCDR領域と共に抗体の抗原結合サイトを形成する[Kabatら、NIH Publ.No.91-3242、第I巻第647~669頁(1991)]。
【0061】
本発明において、「マウス由来の抗体」とは、ラット又はモウス由来の抗体を指し、中でもマウス由来の抗体が特に好ましい。
【0062】
本本発明において、「ヒト化抗体」とは、CDR領域がヒト以外の動物(例えば、マウス)の抗体に由来し、それ以外のフレームワーク領域や定常領域部分がヒト抗体に由来するものを指す。なお、結合親和性を維持する観点から、フレームワーク領域の残基を変更することも可能である。
【0063】
本発明において、「特異的結合」及び「結合」とは、2つの分子が非ランダムで結合する反応を指し、例えば、抗体とその結合対象である抗原との間の反応を特定するものである。抗体は、通常、1×10-7M未満の平衡解離定数(以下、「KD」とも称する)、例えば約1×10-8M未満、より好ましくは1×10-9M未満、より好ましくは1×10-10M未満、1×10-11M未満又はそれ以下の平衡定数で抗原に結合する。本発明において、「KD」は、特定の抗体と抗原が相互作用する際の平衡解離定数であり、抗体と抗原の結合親和力を表わす。平衡解離定数が小さいほど抗体と抗原の結合が強く、すなわち抗体と抗原の結合親和力が高くなる。抗体と抗原の結合親和力は、例えば表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance,SPR)を利用し、Biacore装置を用いて測定することができ、またはELISA法を利用して抗体と抗原が結合する際の相対親和力を測定することもできる。
【0064】
本発明において、「(抗体)価」とは、抗体分子内に存在する抗原結合サイトの数を表わす用語である。本発明の二重特異性抗体は、4つの抗原結合サイトを有し、四価であることが好ましい。本発明において、抗原結合サイトとしては、重鎖可変領域(VH領域)および軽鎖可変領域(VL領域)を含む。
【0065】
本発明において、「結合エピトープ」とは、抗体が特異的に結合するペプチド決定基を指し、抗原内の抗体に特異的に結合しうる領域である。
【0066】
本発明において、「ペプチドリンカー」とは、アミノ酸配列からなるペプチドを指す。本発明で言うペプチドリンカーは、天然ペプチドリンカー又は人工ペプチドリンカーであるが、人工ペプチドリンカーであることが好ましい。本発明のペプチドリンカーとしては、例えばG、GS、SG、GGS、GSG、SGG、GGG、GGGS、SGGG、GGGGS、GGGGSGS、GGGGSGGS、GGGGSGGGGS、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号150)、AKTTPKLEEGEFSEAR、AKTTPKLEEGEFSEARV、AKTTPKLGG、SAKTTPKLGG、SAKTTP、RADAAP、RADAAPTVS、RADAAAAGGPGS、SAKTTPKLEEGEFSEARV、ADAAP、ADAAPTVSIFPP、TVAAP、TVAAPSVFIFPP、QPKAAP、QPKAAPSVTLFPP、AKTTPP、AKTTPPSVTPLAP、AKTTAPSVYPLAP、ASTKGP、ASTKGPSVFPLAP、GENKVEYAPALMALS、GPAKELTPLKEAKVS又はGHEAAAVMQVQYPASなどが挙げられる。本発明で言うペプチドリンカーとしては、体内分解可能なペプチドリンカー、酵素(例えば、MMP)感受性のリンカー、還元分解可能なジスルフィド結合を抱えるリンカー等であってもよく、このようなペプチドリンカーとしてはStefan R.Schmidt編集の「Fusion Protein Technologies for Biopharmaceuticals:Applications and Challenges」を参照することができ、若しくは当分野でよく使われる任意の分解可能なリンカーを利用することもできる。これらの分解可能なリンカーは、体内において抗体分子の頭部にあるFabの解離に適用可能であり、体内組織への浸透及び分布状況や、標的との結合を増強し、同時に潜在的な副作用を低減することができ、並びに2つの異なるFab領域の体内機能および半減期を改善することができる。最も好ましくは、本発明の人工リンカーは、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号150)である。
【0067】
本発明において、「共通軽鎖」とは、同じ軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含む軽鎖を指し、第1抗原に結合する第1抗体の重鎖と会合することにより第1抗原に特異的に結合する結合サイトを形成することができ、一方で第2抗原に結合する第2抗体の重鎖と会合することにより第2抗原に特異的に結合する結合サイトを形成することができる。さらに、共通軽鎖の軽鎖可変領域と第1抗体の重鎖可変領域とが第1抗原結合サイトを形成し、共通軽鎖の軽鎖可変領域と第2抗体の重鎖可変領域とが第2抗原結合サイトを形成する。
【0068】
本発明において、発現ベクターについては特に制限がなく、例えばpTT5、pSECtag系、pCGS3系、pCDNA系発現ベクターなど、並びに他の哺乳動物発現系に用いるベクターを使用することができ、これらの発現ベクターは、適切な転写調節配列や翻訳調節配列が連結された融合DNA配列を含んでなる。
【0069】
本発明において、使用可能なホスト細胞としては、上記発現ベクターを発現しうる細胞が挙げられ、例えば哺乳類動物や昆虫ホスト細胞培養系の真核細胞を利用して本発明の融合タンパク質を発現することができ、CHO(Chinese Hamster Ovary)、HEK293、COS、BHK及びこれらに由来の変性細胞なども本発明に使用可能である。
【0070】
本発明において、「薬物組成物」とは、本発明の四価二重特異性抗体と、薬学的に許容可能な担体とからなる薬物製剤を指し、これらの薬物製剤は、安定な治療効果を発揮すると同時に本発明に係る四価二重特異性抗体のアミノ酸コア配列の構造完全性を維持することができ、さらに、タンパク質の多官能基を分解(例えば、凝集、脱アミノ化や酸化)から免れるようにすることができる。
【0071】
以下、実施例におけるタンパク質の発現および精製方法を説明するが、本発明はこれらに特に制限されない。具体的には、外来遺伝子をpcDNA3.4発現ベクター(Thermo Fisher Scientific社製)に導入し、得られた発現ベクターを組み合わせ、ポリエチレンイミン(PEI)法を利用してHEK293F細胞(Thermo Fisher Scientific社製)に導入して抗体を発現させ、そしてProtein-Aカラムで抗体を精製した。
【0072】
以下、実施例における物理化学的特性の測定方法について説明を行う。
【0073】
実施例のELISA検出は、以下のように行われた。つまり、組換えタンパク質を用いてそれぞれELISAプレートを被覆し、1%のウシ血清アルブミンを含むPBST(0.05%のTween-20を含むリン酸塩緩衝液)でELISAプレートをブロッキング処理した。測定用抗体を段階的に希釈して濃度勾配を形成した後、上述の組換えタンパク質を被覆したELISAプレートに移し、室温で30分間インキュベートしてからプレートを洗い流した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識のヤギ抗ヒト抗体(Fc又はFab特異性であり、Sigma社製)を適宜希釈してプレートに加え、室温で30分間インキュベートしてからプレートを洗い流した。各ウェルに3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(以下、「TMB」とも称する)を基質とする着色液を100μL加え、室温で1~5分間インキュベートした後、停止液として2MのH2SO4を50μL加えて反応を停止させ、SpectraMax 190プレートリーダーでOD450値を測定し、測定データをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0074】
実施例の混合リンパ球反応(Mixed Lymphocyte Reaction、以下では「MLR」とも称する)は、以下のように行われた。つまり、Histopaque(Sigma社製)を用いてヒト血液から末梢血単核球(以下、「PBMC」とも称する)を分離し、接着法を利用してPBMCの単核球を分離した。そして、IL-4(25ng/mL)に加えてGM-CSF(25ng/mL)を用いて単核球を樹状細胞に分化誘導し、7日後に上記誘導された細胞を消化して樹状細胞を回収した。上記と同様にして別のドナーの血液からもPBMCを分離し、MACS磁気カラム及びCD4マイクロビーズ(MiltenyiBiotec社製)を用いてPBMCからCD4陽性T細胞を分離した。上記誘導された樹状細胞(104個細胞/ウェル)とCD4陽性T細胞(105個細胞/ウェル)を適切な割合で均一に混ぜ合わせ、96ウェルプレートの各ウェルに150μLずつ播種した。数時間後、96ウェルプレートに段階的に希釈した抗体を50μL加え、37℃のインキュベーターにおいて3日間インキュベートした。上記実験において、細胞培養にはAIM-V培地(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、マニュアルに記載の標準手順に従ってIL-2及びIFN-γの分泌量を測定した。IL-2及びIFN-γの検出は、標準のサンドイッチELISA法を利用し、かかるサンドイッチELISA法で使われる抗体試薬はBD Biosciences社製のものであった。SpectraMax 190プレートリーダーでOD450値を読み出し、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0075】
HPLC-SEC解析は、以下の通りに行われた。抗体は、高分子量のタンパク質であり、かつ高度で複雑な二次構造および三次構造を有するため、翻訳後修飾、凝集や分解といった変化を抱え、化学特性や物理特性からして異質的なものである。そのため、分離技術を利用して二重特異性抗体を解析した場合、変性体、凝集体および切断断片がよく見られ、これらの存在は、抗体の安全性及び有効性に大きな損害をもたらし、抗体製造と保存時にも凝集体、切断断片、組織化が不完全な分子が生成しやすくなる。本発明では、高速液体クロマトグラフィー・サイズ排除クロマトグラフィー(HPLC-SEC)を用い、モノマーに比べて分子量が大きい凝集体のピークの保持時間が短く、その一方で分解した断片(切断断片)および組織化が不完全な分子の分子量が小さく、関連ピークの保持時間が長くなるという原理に基づき、試料における不純物の量を検出した。HPLC-SEC解析に用いる装置としてはDionex Ultimate 3000であり、移動相としては20mMのリン酸二水素ナトリウム母液を適宜取って、20mMのリン酸水素二ナトリウムでPH6.8±0.1に調整したものを使い、試料の注入量を20μgとした。カラムとしてはTSK G3000SWXL、カラム規格7.8×300mm 5μmのものを使い、流速0.5mL/1分間、溶出時間30分間、カラム温度25℃、試料チャンバー温度10℃、検出波長214nmの条件下で実験を行った。
【0076】
HPLC-IEC解析は、以下の通りに行われた。抗体は、例えばN-グリコシル化、C末端リシン残基の修飾、N末端グルタミン又はグルタミン酸の環化、アスパラギンの脱アミド化、アスパラギン酸の異性化およびアミノ酸残基の酸化など、翻訳後修飾によって表面電荷が直接又は間接的に変化して帯電電荷に異質性が生じ、なお、抗体の製造および保存時にも電荷変異体が生成しやすくなるため、その帯電電荷に基づき電荷変異体を分離、解析することができる。かかる電荷変異体は、イオン交換クロマトグラフィー(CEX)及び陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)を用いて解析することができ、イオン交換クロマトグラフィーで解析する際に、主ピーク(main ピーク)に対する酸性種 (acidic species)及び塩基性種(basic species)の保持時間を測定することで行われる。具体的には、酸性種は、CEXの主ピークより先又はAEXの主ピークより後に溶出され、塩基性種は、CEXの主ピークより後又はAEXの主ピークより先に溶出され、酸性種および塩基性種それぞれに対応するピークを酸性ピークおよび塩基性ピークと称する。本発明では、高速液体クロマトグラフィー・イオン交換クロマトグラフィー(HPLC-IEC)を用いて試料の帯電特性(すなわち、電荷均一性)を分析した。HPLC-IEC解析装置はDionex Ultimate 3000を用い、カラムとしてはThermo PropacTM WCX-10、移動相Aとして20mMのPB(pH6.3)、移動相Bとして20mMのPB+200mMのNaCl(pH6.3)をそれぞれ用い、2種類の移動相については予め設定したプログラムに従って各自の割合を時系列に従って調整しつつ、流速1.0mL/1分間、カラム温度30℃、試料チャンバー温度10℃、試料の注入量20μg、検出波長214nmの条件下で実験を行った。
【0077】
実施例では、キャピラリー電気泳動-SDS(以下、「CE-SDS」とも称する)法を利用して試料に含まれる切断断片の量や、組織化が不完全な分子の量を測定した。キャピラリー電気泳動は、非還元型および還元型に分けられ、非還元型のキャピラリー電気泳動に供される試料は、還元剤としてDTTを用いて分子内のジスルフィド結合を破壊する必要がなく、還元型のキャピラリー電気泳動に供される試料は、DTTを用いて分子内のジスルフィド結合を破壊することが行われる。以下では、非還元型および還元型のCE-SDSをそれぞれNR-CE-SDSおよびR-CE-SDSと略称する場合がある。キャピラリー電気泳動装置は、Beckman Coulter社製のProteomeLabTM PA800 plusを用い、キャピラリー電気泳動装置に214nmのUV検出器が搭載され、キャピラリーの型番としてはBare Fused-Silica Capillary、規格30.7cm×50μm、有効長20.5cmのものであり、関連試薬は何れもBeckman Coulter社製のものであった。キャピラリー電気泳動は、キャピラリーおよび試料チャンバー温度20±2℃、分離電圧15kVの条件下で行われた。
【0078】
示差走査熱量測定法(以下、「DSC」とも称する)は、制御可能な昇温又は降温プログラムに従って温度を変化させながらそれに伴う生体分子の熱量変化を測定することにより、生体試料の熱安定性を評価する方法である。その原理としては、昇温過程においてタンパク質が熱量を吸収することにより折り畳み構造が解けられ、このとき、試料チャンバーに温度差が生じ、かような温度差を補うエネルギーは検出装置で計測、記録することができる。そして、これらの熱量変化は検出スペクトルにおいてピーク状として表れ、タンパク質の折り畳み構造が解けるときのピーク温度値が、謂わばタンパク質の融解温度(以下、「Tm」とも称する)である。Tmは、タンパク質の熱安定性を表わす1つの重要な指標であり、Tmが高いほどタンパク質の安定性が高くなる。
【0079】
本発明に係る配列情報を、下記表1に纏めて示す。
(表1)
配列番号 配列の名称
1 Bevacizumab(601)の重鎖可変領域のアミノ酸配列
2 Bevacizumab(601)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
3 マウス由来20号抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列
4 マウス由来20号抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
5 マウス由来20号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR1のアミノ酸配列
6 マウス由来20号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR2のアミノ酸配列
7 マウス由来20号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR3のアミノ酸配列
8 マウス由来20号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR1のアミノ酸配列
9 マウス由来20号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR2のアミノ酸配列
10 マウス由来20号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR3のアミノ酸配列
11 20-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
12 20-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
13 601-LC-V94Lのアミノ酸配列
14 601-LC-V94Lのヌクレオチド配列
15 601-LC-V94Lの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
16 20-Fab-601-IgG4のアミノ酸配列
17 20-Fab-601-IgG4のヌクレオチド配列
18 601-Fab-20-IgG4のアミノ酸配列
19 601-Fab-20-IgG4のヌクレオチド配列
20 Y0313-1の重鎖可変領域のアミノ酸配列
21 20-Fab-0313-IgG4のアミノ酸配列
22 20-Fab-0313-IgG4のヌクレオチド配列
23 マウス由来1D11号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR1のアミノ酸配列
24 マウス由来1D11号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR2のアミノ酸配列
25 マウス由来1D11号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR3のアミノ酸配列
26 マウス由来1D11号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR1のアミノ酸配列
27 マウス由来1D11号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR2のアミノ酸配列
28 マウス由来1D11号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR3のアミノ酸配列
29 1D11-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
30 1D11-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
31 mAb127の重鎖可変領域のアミノ酸配列
32 mAb127の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
33 マウス由来14号抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列
34 マウス由来14号抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
35 マウス由来14号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR1のアミノ酸配列
36 マウス由来14号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR2のアミノ酸配列
37 マウス由来14号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR3のアミノ酸配列
38 マウス由来14号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR1のアミノ酸配列
39 マウス由来14号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR2のアミノ酸配列
40 マウス由来14号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR3のアミノ酸配列
41 14-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
42 14-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
43 14-Hu-LCのアミノ酸配列
44 14-Hu-LCのヌクレオチド配列
45 14-Fab-1D11-IgG4のアミノ酸配列
46 14-Fab-1D11-IgG4のヌクレオチド配列
47 1D11-Fab-14-IgG4のアミノ酸配列
48 1D11-Fab-14-IgG4のヌクレオチド配列
49 14-Fab-127-IgG4のアミノ酸配列
50 14-Fab-127-IgG4のヌクレオチド配列
51 127-Fab-14-IgG4のアミノ酸配列
52 127-Fab-14-IgG4のヌクレオチド配列
53 19H6-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
54 19H6-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
55 Anti-CD47Bの重鎖相補性決定領域H-CDR1のアミノ酸配列
56 Anti-CD47Bの重鎖相補性決定領域H-CDR2のアミノ酸配列
57 Anti-CD47Bの重鎖相補性決定領域H-CDR3のアミノ酸配列
58 Anti-CD47Bの軽鎖相補性決定領域L-CDR1のアミノ酸配列
59 Anti-CD47Bの軽鎖相補性決定領域L-CDR2のアミノ酸配列
60 Anti-CD47Bの軽鎖相補性決定領域L-CDR3のアミノ酸配列
61 Anti-CD47B-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
62 Anti-CD47B-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
63 19H6-Hu-LCのアミノ酸配列
64 19H6-Hu-LCのヌクレオチド配列
65 CD47B-Fab-19H6-IgG1のアミノ酸配列
66 CD47B-Fab-19H6-IgG1のヌクレオチド配列
67 19H6-Fab-CD47B-IgG1のアミノ酸配列
68 19H6-Fab-CD47B-IgG1のヌクレオチド配列
69 マウス由来94号抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列
70 マウス由来94号抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
71 マウス由来94号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR1のアミノ酸配列
72 マウス由来94号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR2のアミノ酸配列
73 マウス由来94号抗体の重鎖相補性決定領域H-CDR3のアミノ酸配列
74 マウス由来94号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR1のアミノ酸配列
75 マウス由来94号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR2のアミノ酸配列
76 マウス由来94号抗体の軽鎖相補性決定領域L-CDR3のアミノ酸配列
77 94-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
78 94-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
79 94-Fab-19H6-IgG1-LALA のアミノ酸配列
80 94-Fab-19H6-IgG1-LALA のヌクレオチド配列
【0080】
81 19H6-Fab-94-IgG1-LALAのアミノ酸配列
82 19H6-Fab-94-IgG1-LALAのヌクレオチド配列
83 mAb1-25-Hu(609)の重鎖可変領域のアミノ酸配列
84 mAb1-25-Hu(609)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
85 Anti-CD137の重鎖相補性決定領域H-CDR1のアミノ酸配列
86 Anti-CD137の重鎖相補性決定領域H-CDR2のアミノ酸配列
87 Anti-CD137の重鎖相補性決定領域H-CDR3のアミノ酸配列
88 Anti-CD137の軽鎖相補性決定領域L-CDR1のアミノ酸配列
89 Anti-CD137の軽鎖相補性決定領域L-CDR2のアミノ酸配列
90 Anti-CD137の軽鎖相補性決定領域L-CDR3のアミノ酸配列
91 Anti-CD137-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
92 Anti-CD137-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
93 Anti-CD137-Hu-LCのアミノ酸配列
94 Anti-CD137-Hu-LCのヌクレオチド配列
95 609-Fab-137-IgG4のアミノ酸配列
96 609-Fab-137-IgG4のヌクレオチド配列
97 137-Fab-609-IgG4のアミノ酸配列
98 137-Fab-609-IgG4のヌクレオチド配列
99 Anti-CD40の重鎖相補性決定領域H-CDR1のアミノ酸配列
100 Anti-CD40の重鎖相補性決定領域H-CDR2のアミノ酸配列
101 Anti-CD40の重鎖相補性決定領域H-CDR3のアミノ酸配列
102 Anti-CD40の軽鎖相補性決定領域L-CDR1のアミノ酸配列
103 Anti-CD40の軽鎖相補性決定領域L-CDR2のアミノ酸配列
104 Anti-CD40の軽鎖相補性決定領域L-CDR3のアミノ酸配列
105 Anti-CD40-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
106 Anti-CD40-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
107 Anti-CD40-Hu-LCのアミノ酸配列
108 Anti-CD40-Hu-LCのヌクレオチド配列
109 609-Fab-40-IgG4のアミノ酸配列
110 609-Fab-40-IgG4のヌクレオチド配列
111 40-Fab-609-IgG4のアミノ酸配列
112 40-Fab-609-IgG4のヌクレオチド配列
113 Cetuximabの重鎖可変領域のアミノ酸配列
114 Cetuximabの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
115 Trastuzumabの重鎖可変領域のアミノ酸配列
116 Trastuzumabの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
117 Pertuzumabの重鎖可変領域のアミノ酸配列
118 Pertuzumabの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
119 10D1(Ipilimumab)の重鎖可変領域のアミノ酸配列
120 10D1(Ipilimumab)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
121 5E7-Huの重鎖可変領域のアミノ酸配列
122 5E7-Huの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
123 Cetuximab-LCのアミノ酸配列
124 Cetuximab-LCのヌクレオチド配列
125 Pertuzumab-LCのアミノ酸配列
126 Pertuzumab-LCのヌクレオチド配列
127 Ipilimumab-LCのアミノ酸配列
128 Ipilimumab-LCのヌクレオチド配列
129 5E7-Hu-LCのアミノ酸配列
130 5E7-Hu-LCのヌクレオチド配列
131 609-Fab-Cetuximab-IgG4のアミノ酸配列
132 609-Fab-Cetuximab-IgG4のヌクレオチド配列
133 609-Fab-Pertuzumab-IgG4のアミノ酸配列
134 609-Fab-Pertuzumab-IgG4のヌクレオチド配列
135 609-Fab-Ipilimumab-IgG1のアミノ酸配列
136 609-Fab-Ipilimumab-IgG1のヌクレオチド配列
137 Ipilimumab-Fab-609-IgG1のアミノ酸配列
138 Ipilimumab-Fab-609-IgG1のヌクレオチド配列
139 609-Fab-Ipilimumab-IgG4のアミノ酸配列
140 609-Fab-Ipilimumab-IgG4のヌクレオチド配列
141 Ipilimumab-Fab-609-IgG4のアミノ酸配列
142 Ipilimumab-Fab-609-IgG4のヌクレオチド配列
143 609-Fab-5E7-IgG4のアミノ酸配列
144 609-Fab-5E7-IgG4のヌクレオチド配列
145 5E7-Fab-609-IgG4のアミノ酸配列
146 5E7-Fab-609-IgG4のヌクレオチド配列
147 IgG1重鎖定常領域のアミノ酸配列
148 IgG4(S228P)重鎖定常領域のアミノ酸配列
149 κ軽鎖定常領域のアミノ酸配列
150 リンカー(GGGGSGGGGSGGGGS)
151 重鎖の第4フレームワーク領域(WGQGTLVTVSS)
152 軽鎖の第4フレームワーク領域(FGQGTKVEIK)
153 軽鎖の第4フレームワーク領域(FGGGTKVELK)
【0081】
以下、実施例や実験例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例や実験例に制限されない。以下においてベクターやプラスミドの作製方法、タンパク質をコードする遺伝子をベクターやプラスミドに導入する方法、プラスミドをホスト細胞に導入する方法など、従来周知の技法については詳細な説明を省略することがある。これらの技法は当業者が熟知し、例えばSambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniais,T.(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd edition,Cold spring Harbor Laboratory Pressなどの出版物に詳細な説明がある。
【0082】
実施例1:PD-1及びVEGFを標的とする二重特異性抗体の作製
1.1)配列
ベバシズマブ(Bevacizumab、以下では「601」とも称する)抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列(配列番号1および配列番号2)は、文献資料(Magdelaine-Beuzelin C,Kaas Q,Wehbi V,et al.,Structure-function relationships of the variable domains of monoclonal antibodies approved for cancer treatment[J].Critical reviews in oncology/hematology,2007,64(3):210-225)に記載のものであった。上海生工バイオテック社に委託して上記可変領域をコードするDNAを合成し、601の重鎖可変領域(601-VH領域)および軽鎖可変領域(601-VL領域)を、それぞれヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号147)およびヒトKappaの軽鎖定常領域(配列番号149)と繋ぐことで601抗体の重鎖全長遺伝子および軽鎖全長遺伝子を構築し、それぞれ601-HCおよび601-LCと名づけた。
【0083】
WO2018/137576A1の明細書実施例1~5に従い、最終的にはスクリーニング結果に基づきマウス由来のヒトPD-1モノクローナル抗体20号をリード抗体とし、かつその重鎖可変領域のヌクレオチド配列および軽鎖可変領域のヌクレオチド配列を取得してアミノ酸配列(配列番号3及び配列番号4)に変換した。
【0084】
20号抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列について解析を行い、KABAT法則に則って20号抗体の重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域及びフレームワーク領域をそれぞれ確定した。20号抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列としては、H-CDR1がNYDMS(配列番号5)であり、H-CDR2がTISGGGGYTYYSDSVKG(配列番号6)であり、H-CDR3がPYGHYGFEY(配列番号7)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列としては、L-CDR1がSASQGISNFLS(配列番号8)であり、L-CDR2がYTSSLHS(配列番号9)であり、L-CDR3がQQYSNLPWT(配列番号10)であった。
【0085】
マウス由来20号抗体の重鎖可変領域について、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGHV3-21*01を選んで重鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来20号抗体の重鎖CDRをIGHV3-21*01のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTLVTVSS(配列番号151)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。同様にして、マウス由来20号抗体の軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV1-39*01を選んで軽鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来20号抗体の軽鎖CDRをIGKV1-39*01のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後にFGQGTKVEIK(配列番号152)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。さらに、CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域におけるアミノ酸サイトに復帰変異(復帰変異とは、ヒト由来フレームワーク領域の一部のアミノ酸を、マウス由来フレームワーク領域の同一位置のアミノ酸に変えることを意味し、復帰変異のサイトは、通常、抗体構造及び/又は親和力の維持に極めて重要である)を導入し、復帰変異を導入する際、アミノ酸配列に対してKABAT編集を行い、サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0086】
好ましくは、CDR移植重鎖可変領域に対してKABAT編集を行い、KABATナンバリング第28位のTをマウス由来のV、第44位のGをR、第94位のRをSにそれぞれ変更し、また、CDR移植軽鎖可変領域については、第43位のAをT、第44位のPをV、第71位のFをYにそれぞれ変更する。
【0087】
上記復帰変異サイトを抱える重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列番号11及び配列番号12)とし、上海生工バイオテック社に委託して上記ヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。得られたヒト化重鎖可変領域とヒトIgG4(ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)定常領域(配列番号148)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得て20-Hu-HCと名づけ、また、ヒト化軽鎖の可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得て20-Hu-LCと名づけた。
【0088】
上記抗体の重鎖および軽鎖遺伝子それぞれをpcDNA3.4発現ベクターに導入し、得られた重鎖および軽鎖の発現ベクターを合わせてHEK293F細胞に導入して抗体を発現した。HEK293F細胞をFree Style293発現培地において5日間培養してから上澄み液を回収し、Protein-Aカラムで抗体を精製し、20-Hu-HCと20-Hu-LCを組み合せた抗体を20-Huと名づけた。
【0089】
1.2)共通軽鎖の選定
20-Huの軽鎖可変領域及び601の軽鎖可変領域について、BLASTを利用してアミノ酸配列に対して対比解析を行った結果、両者の間で完全に一致したアミノ酸が89%(Identities)を占め、物理化学特性が類似したアミノ酸が94%(Positives)を占めることが確認できた。
【0090】
601-HC及び601-LCの遺伝子配列を、それぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入した。そして、20-Hu-HC、20-Hu-LC、601-HC及び601-LCの発現ベクターを、20-Hu-HC+20-Hu-LC、601-HC+601-LC、20-Hu-HC+601-LC及び601-HC+20-Hu-LCの通りに組み合わせ、抗体を発現してから精製し、得られた抗体をそれぞれ20-Hu、601、20-Hu-HC+601-LC及び601-HC+20-Hu-LCと名づけた。
【0091】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。つまり、6×Hisタグ付きのヒトPD-1の細胞外領域ドメイン(PD-1の細胞外領域は、WO2018/137576A1に開示されたものである)を自ら調製し、この組換えタンパク質をPD1-Hisと標記した。また、6×Hisタグ付きのヒトVEGF165(配列はNCBIに由来し、寄託番号がAAM03108である)を自ら調製し、この組換えタンパク質をVEGF165-Hisと標記した。PD1-HisおよびVEGF165-Hisをそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、それぞれ20ng/ウェル及び10ng/ウェルであった。
【0092】
図2Aに示すように、20-Hu及び20-Hu-HC+601-LCは、PD1-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.2062nM及び0.9747nMであった。一方、601及び601-HC+20-Hu-LCは、PD1-Hisに結合できず、EC
50を算出することができなかった。
図2Bに示すように、601及び601-HC+20-Hu-LCは、VEGF165-Hisに効果的に結合し、EC50がそれぞれ0.4681nM及び8.217nMであり、20-Hu及び20-Hu-HC+601-LCは、VEGF165-Hisに結合することができなかった。
【0093】
20-Huに比べ、PD1-Hisに対する20-Hu-HC+601-LCの相対親和力が顕著に低下し、601に比べ、VEGF165-Hisに対する601-HC+20-Hu-LCの相対親和力も顕著に低下した。ここで、PD1-Hisに対する相対親和力を高めるため、20-Hu-HC+601-LCに復帰変異を導入する模索試験が行われ、その結果、601軽鎖可変領域と20-Hu軽鎖可変領域の間に12個のアミノ酸残基が異なり、そのうちKABATナンバリング第28位、第32位、第34位、第46位、第50位、第71位、第93位及び第94位のアミノ酸残基が抗体への親和力維持に極めて重要であると確認できた。また、601-LCの上記位置にサイト変異を導入し、かかるアミノ酸残基を20-Hu-LCの該当位置のアミノ酸残基にそれぞれ変え、これらのサイト変異を抱える601-LCをそれぞれ601-LC-D28G、601-LC-Y32F、601-LC-N34S、601-LC-V46L、601-LC-F50Y、601-LC-F71Y、601-LC-T93N及び601-LC-V94Lと標記した。
【0094】
上記軽鎖の遺伝子配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、20-Hu-HCの発現ベクターと上記サイト変異を抱える601-LCの発現ベクターをそれぞれ組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ20-Hu-HC+601-LC-D28G、20-Hu-HC+601-LC-Y32F、20-Hu-HC+601-LC-N34S、20-Hu-HC+601-LC-V46L、20-Hu-HC+601-LC-F50Y、20-Hu-HC+601-LC-F71Y、20-Hu-HC+601-LC-T93N、20-Hu-HC+601-LC-V94Lと名づけた。上述のELISA法を利用して上記抗体のPD-1に結合する相対親和力を測定し、対照物としては20-Hu-HC+601-LCを用いた。ELISA測定結果から、上記変異体および20-Hu-HC+601-LCのEC50がそれぞれ0.4849nM、0.4561nM、0.1751nM、0.5333nM、0.5255nM、1.0345nM、0.4859nM、0.3079nM及び0.6251nMであることが確認された。20-Hu-HC+601-LCに比べ、20-Hu-HC+601-LC-N34S及び20-Hu-HC+601-LC-V94Lは、PD-1に対してより高い相対親和力を示し、他の変異抗体は、相対親和力が20-Hu-HC+601-LCとほぼ同じであるか、若しくは20-Hu-HC+601-LCに比べて相対親和力が更に低下することが確認できた。
【0095】
601-HCの発現ベクターと上記サイト変異を抱える601-LCの発現ベクターをそれぞれ組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ601-HC+601-LC-D28G、601-HC+601-LC-Y32F、601-HC+601-LC-N34S、601-HC+601-LC-V46L、601-HC+601-LC-F50Y、601-HC+601-LC-F71Y、601-HC+601-LC-T93N、601-HC+601-LC-V94Lと名づけた。上述のELISA法を利用して上記抗体のVEGF165に結合する相対親和力を測定し、対照物としては601を用いた。ELISA測定結果から、上記変異体及び601のEC50がそれぞれ0.1328nM、0.1254nM、0.2081nM、0.3256nM、0.1400nM、0.1481nM、0.1259nM、0.1243nM及び0.1291nMであると確認された。さらに、601-HC+601-LC-N34S及び601-HC+601-LC-V46Lは、601に比べてVEGF165に結合する相対親和力が顕著に低下し、他の変異抗体は、VEGF165に結合する相対親和力が601とほぼ同等のレベルであることが確認できた。
【0096】
以上を纏めると、V94L変異体は、601のVEGF165に結合する相対親和力を低下させず、同時に20-Hu-HC+601-LCのPD-1結合する相対親和力を増強することのできることが確認できた。このことから、601-LC-V94L(配列番号13及び配列番号14)を共通軽鎖として二重特異性抗体を作製することにした。
【0097】
1.3)二重特異性抗体の作製
20-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して601の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製して20-Fab-601-IgG4(配列番号16および配列番号17)と名づけた。同様に、601の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して20-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製して601-Fab-20-IgG4(配列番号18および配列番号19)と名づけた。
【0098】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、20-Fab-601-IgG4の発現ベクター及び601-Fab-20-IgG4の発現ベクターを、それぞれ601-LC-V94Lの発現ベクターと組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ20-Fab-601-IgG4-V94L及び601-Fab-20-IgG4-V94Lと名づけた。
【0099】
1.4)ELISA法による相対親和力の測定
図に3A示すように、20-Hu-HC+601-LC-V94L、20-Fab-601-IgG4-V94L及び601-Fab-20-IgG4-V94Lは、PD1-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.3314nM、0.4768nM及び1.772nMであった。
図3Bに示すように、601-HC+601-LC-V94L、20-Fab-601-IgG4-V94L及び601-Fab-20-IgG4-V94Lは、VEGF165-Hisに効果的に結合し、EC50が0.01872nM、0.05859nM及び0.03886nMであった。また、20-Fab-601-IgG4-V94L及び601-Fab-20-IgG4-V94Lは、PD-1およびVEGF両者に結合することができ、二重特異性抗体であることが実証された。
【0100】
1.5)Biacore法による親和力の測定
上記抗体とPD-1またはVEGFの親和力については、GE healthcare社製のBiacore 8K装置を用いて測定した。具体的には、Biacore 8K装置において、Protein-A/Gが固定されたチップで各抗体を捕捉し、そして組換えタンパク質PD1-His又はVEGF165-Hisを注入して結合・解離グラフを取得し、チップ再生には6Mのグアニジン塩酸塩溶液を用いた。得られたデータをBiacore 8K装置専用の解析ソフトで解析し、結果を下記表2に纏めて示す。
【0101】
【0102】
表2に示すように、20-Hu-HC+601-LC-V94Lおよび20-Fab-601-IgG4-V94Lは、PD-1に対する平衡解離定数(KD)で特に近接した数値を示し、KDがそれぞれ1.59E-09および8.85E-10であった。また、601-HC+601-LC-V94Lおよび20-Fab-601-IgG4-V94Lは、VEGF165-Hisに対する結合常数(Kon)および解離定数(Koff)がほぼ同じく、平衡解離定数(KD)もほぼ同じレベルであり、KDがそれぞれ7.46E-12および9.26E-12であった。ここで、平衡解離定数(KD)と親和力は反比例の関係であった。
【0103】
1.6)物理化学的特性の評価
1.6.1)HPLC-SEC
図4Aは、モノクローナル抗体601-HC+601-LC-V94LのHPLC-SECスペクトルであり、スペクトルにおいてピーク1およびピーク2の両ピークが特に目立ち、各ピークの占有割合がそれぞれ0.7%および99.3%であった。そのうちピーク1は、保持時間が主要ピークに当たるピーク2に比べて短く、凝集体によるものと考えられる。スペクトルからは、分解断片(切断断片)や組織化が不完全な分子を表わすピークが確認できなかった。
図4Bは、20-Fab-601-IgG4-V94LのHPLC-SECスペクトルであり、スペクトルにおいてピーク1およびピーク2の両ピークが特に目立ち、各ピークの占有割合がそれぞれ0.7%、99.3%であった。そのうちピーク1は、保持時間が主要ピークに当たるピーク2に比べて短く、凝集体によるものと考えられる。スペクトルからは、分解断片(切断断片)や組織化が不完全な分子を表わすピークが確認できなかった。
【0104】
1.6.2)HPLC-IEC
図5A~
図5Bは、601-HC+601-LC-V94L及び20-Fab-601-IgG4-V94LのHPLC-IECスペクトルであり、かかる主要ピークの占有割合がそれぞれ79.31%、80.64%であり、帯電特性からして20-Fab-601-IgG4-V94Lが601-HC+601-LC-V94Lと同等であることが確認できた。
【0105】
1.6.3)CE-SDS
図6A~
図6Bは、それぞれ601-HC+601-LC-V94LのNR-CE-SDSスペクトルおよびR-CE-SDSスペクトルであり、NR-CE-SDSスペクトルにおいて、主要ピークに当たるピーク9の占有割合が97.90%であった。R-CE-SDSスペクトルにおいて、2つの主要ピークとしてピーク6(軽鎖に対応するピーク)及びピーク12(重鎖に対応するピーク)の占有割合がそれぞれ30.92%、65.27%であり、両ピークの面積比が1:2.1であった。
図6C~
図6Dは、それぞれ20-Fab-601-IgG4-V94LのNR-CE-SDSスペクトルおよびR-CE-SDSスペクトルであり、NR-CE-SDSスペクトルにおいて、主要ピークであるピーク13の占有割合が96.74%であった。R-CE-SDSスペクトルにおいて、2つの主要ピークとしてピーク3(軽鎖に対応するピーク)およびピーク12(重鎖に対応するピーク)の占有割合がそれぞれ38.42%、59.74%であり、両ピークの面積比が2:3.1であった。601-HC+601-LC-V94L及び20-Fab-601-IgG4-V94Lは、主要ピークの占有割合がNR-CE-SDSスペクトルにおいて特に近接した数値を示し、軽鎖と重鎖のピーク面積比がR-CE-SDSスペクトルにおいてが所期通りの数値を示した。
【0106】
1.6.4)DSC
図7A~
図7Bは、それぞれ601-HC+601-LC-V94L及び20-Fab-601-IgG4-V94LのDSCスペクトルである。そのうち、601-HC+601-LC-V94LのTmOnsetおよびTmがそれぞれ66.46℃、75.37℃であり、20-Fab-601-IgG4-V94LのTmOnsetおよびTmがそれぞれ65.92℃、74.28℃であった。この結果から、20-Fab-601-IgG4-V94Lは、601-HC+601-LC-V94Lに非常に近似した熱安定性を有することが実証された。
【0107】
1.7)改良型二重特異性抗体の作製
1.7.1)二重特異性抗体の作製
米国特許出願公開公報US20020032315A1において、発明者らは、ファージディスプレイ技術を利用してベバシズマブの重鎖可変領域および軽鎖可変領域を改良することにより、親和力および中和活性がより優れた重鎖可変領域のアミノ酸配列Y0313-1(US20020032315A1に記載の配列番号114、本発明では配列番号20で表されるアミノ酸配列)を得た。
【0108】
ここで、20-Fab-601-IgG4-V94Lにおける601(ベバシズマブ)重鎖可変領域をY0313-1に置き換えた。具体的には、20-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してY0313-1の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製して20-Fab-0313-IgG4(配列番号21および配列番号22)と名づけた。
【0109】
上記配列をpcDNA3.4発現ベクターに導入し、20-Fab-0313-IgG4の発現ベクターと601-LC-V94Lの発現ベクターを組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体を20-Fab-0313-IgG4-V94Lと名づけた。
【0110】
1.7.2)VEGF生体活性に対する中和能力評価
ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells,HUVEC)は、AllCells Biotech社から購入し、臍帯静脈内皮細胞の完全培地(物品番号及び仕様規格H-004/500mL、AllCells Biotech社製)を用いてHUVEC細胞を継代培養した。HUVEC細胞が対数増殖期に増殖すると、パンクレアチンで消化し細胞を遊離させ、遠心、回収して細胞を完全培地で再懸濁した。そして、細胞を密度が8000個細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養プレートに播種し、24時間後に96ウェルプレート内の完全培地を基本培地(物品番号及び仕様規格H-004B/500mL、AllCells Biotech社製)に置き換え、このとき、基本培地量は1ウェル当たり150μLであった。400ng/mLの組換えVEGF165(物品番号VE5-H4210、Acrobiosystems社製)を含む基本培地を用いて抗体を段階的に希釈することで濃度勾配を形成し、VEGF165と抗体の混合溶液を1ウェル当たり50μLの量で96ウェルプレートに加え、37℃、5%のCO2インキュベーターにおいて3日間インキュベートした。3日後、各ウェルにCCK-8(Dojindo)溶液を20μL加え、インキュベーターにおいて引続き4時間インキュベートした。プレートリーダーでOD450値を読み出し、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、IC50を算出した。
【0111】
図8に示すように、601、20-Fab-601-IgG4-V94L、601-Fab-20-IgG4-V94L及び20-Fab-0313-IgG4-V94Lは、何れもVEGF165によって誘導されるHUVEC細胞の増殖を効果的に抑制することができ、IC
50がそれぞれ4.422nM、9.039nM、3.84nM及び1.632nMであった。以上の結果から、VEGF165生体活性に対し、20-Fab-0313-IgG4-V94Lが最も強い中和能力を示すことが確認できた。
【0112】
1.7.3)MLR亢進活性の評価
図9A~
図9Bに示すように、20-Humanized(すなわち20-Hu)、20-Hu-HC+601-LC-V94L及び20-Fab-0313-IgG4-V94Lは、何れもMLRのIL-2およびIFN-γ分泌を効果的に刺激することができ、MLRのIL-2分泌を刺激するときのEC
50がそれぞれ0.2571nM、0.3703nM及び0.7554nMであり、MLRのIFN-γ分泌を刺激するときのEC
50がそれぞれ0.1426nM、0.247nM及び1.036nMであった。
【0113】
1.7.4)PD-1とVEGFに対する二重特異性抗体の結合能力評価
VEGF165(物品番号VE5-H4210、Acrobiosystems社製)でマイクロプレートを被覆し、1%のウシ血清アルブミンを含むPBSTで測定用抗体を段階的に希釈して濃度勾配を形成し、上記マイクロプレートに入れて室温、約30分間インキュベートした後、プレートをPBSTで3回洗い流した。ビオチン化のヒトPD-1細胞外領域ドメイン(物品番号10377-H08H-B、Sino Biological社製)を200 ng/mLに希釈してからマイクロプレートに加え、室温、約30分間インキュベートした後、PBSTでプレートを3回洗い流した。HRP標識ストレプトアビジン(物品番号554066、BD Biosciences社製)を1000倍希釈してマイクロプレートに加え、室温、約30分間インキュベートした後、PBSTでプレートを3回洗い流した。TMB着色液(100μL/ウェル)を加え、室温で1~5分間インキュベートした後、停止液(50μL/ウェル)を加えて着色反応を停止した。プレートリーダーでOD450値を読み出し、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0114】
図10に示すように、20-Fab-0313-IgG4-V94Lは、VEGF165に加え、ヒトPD-1にも効果的に結合することができ、EC
50が0.3293nMであった。一方、601および20-Hu-HC+601-LC-V94Lは、PD-1とVEGF165に同時に結合することができなかった。
【0115】
1.7.5)PD-1とVEGFを標的とする二重特異性抗体のラット体内における薬物動態学評価
SDラット(Sprague-Dawleyラット、浙江維通利華実験動物会社製)を用いて二重特異性抗体の薬物動態学を検討した。各組にラット4匹ずつ配分し、ラットの平均体重が約200gであり、ラットに尾静脈注射(I.V.)にて1mgの抗体を投与し、投与後の指定時点で眼窩から採血し、血液が自然凝固するまで待ってから遠心して血清を回収した
【0116】
血清中における目的抗体の濃度は、以下の通りに測定した。つまり、二重特異性抗体に対応する2つの抗原(VEGF165は、Acrobiosystems社製であり、物品番号がVE5-H4210であった。6×Hisタグ付のヒトPD-1細胞外領域ドメインは、上記1.2に記載のものを使用した)をそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、1%のウシ血清アルブミンを含むPBSTでELISAプレートをブロッキング処理した。ラット血清を適宜希釈し、上記2つの抗原を被覆したELISAプレートに加えて室温、1時間インキュベートした後、プレートを洗い流した。そして、HRP標識のヤギ抗ヒト抗体(Fc特異的なものであり、Sigma社製)を加え、該抗体は、種間交叉反応性を無くすために吸着処理が行われ、ラット抗体を認識しないものであった。室温、30分間インキュベートしてからプレートを洗い流し、各ウェルにTMB基質とする着色液を100μL加え、室温で1~5分間インキュベートした後、停止液として2MのH2SO4を50μL加えて反応を停止し、プレートリーダーでOD450値を測定した。検量線を利用してOD450を血清抗体濃度に換算し、得られたデータをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、Phoenixソフトを利用してラット体内における抗体薬物の半減期を算出した。
【0117】
図11に示すように、20-Fab-0313-IgG4-V94Lは、PD-1を抗原とした場合に半減期が16.9日であり、VEGF165を抗原とした場合に半減期が17.3日であった。以上の結果から、20-Fab-0313-IgG4-V94Lが良好な薬物動態学特性を有することが確認できた。
【0118】
1.7.6)PD-1及びVEGFを標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍効果
ヒト末梢血単核球(PBMC)を用いてNSGマウスでヒト化免疫系を再構築し、さらに、該マウスを用いてヒト肺がん株NCI-H460の皮下移植腫瘍モデルを作製した。該マウス腫瘍モデルは、ヒトPD-1を発現するT細胞およびヒトVEGFを発現するヒト腫瘍細胞を兼ね備え、PD-1及びVEGFを標的とする二重特異性抗体の体内における抗腫瘍活性を評価することができる。具体的には、以下の通りにして実験を行った。体外で培養したヒト非小細胞肺がんNCI-H460細胞株(ATCC(登録商標)HTB-177
TM)を回収し、細胞懸濁液を濃度が1×10
8個細胞/mLとなるように調整した後、Matrigel(BD Biosciences社製、物品番号356234)と1:1の体積比で混ぜ合わせた。また、購入したPBMC細胞(Allcells Biotech社製、物品番号PB005-C)を復活させ、PBSで再懸濁し、PBMC懸濁液を濃度が1×10
7個細胞/mLとなるように調整した。上述の腫瘍細胞懸濁液とPBMC懸濁液を1:1の体積比で混ぜ合わせ、混合液200μLを取って無菌条件下でM-NSGマウス(上海南方モデル生物研究センターにより入手)の背中右側皮下に接種した。接種後、即時に接種済みのマウスを体重に従ってランダムで幾つかの組に分け、各組にそれぞれ10匹のマウスを配分した。マウスへの投与は、それぞれ対照組に生理食塩水、Avastin組にVEGF陽性対照物抗体であるAvastin(ロシュ製薬製)10mg/kg、Opdivo組にPD-1陽性対照物抗体であるOpdivo(ブリストル・マイヤーズスクイブ社製)10mg/kg、20-Fab-0313-IgG4-V94L組に16mg/kgの20-Fab-0313-IgG4-V94Lを注射することにより行われた。二重特異性抗体とモノクローナル抗体は分子量が異なるため、本実験では抗体を物質量に換算し、各抗体を同じ物質量で投与した。そして、上述の投与計画に従って週2回の頻度で合計10回投与し、腫瘍体積については毎週2回測定した。最後に、各組の腫瘍生長状況を時系列に従って整理し、
図12に示すような生長グラフを作成した。
【0119】
腫瘍抑制率は、[腫瘍抑制率=(対照組の平均腫瘍体積-実験組の平均腫瘍体積)/対照組の平均腫瘍体積×100%]に従って算出し、31日目の実験終了時点でAvastin組、Opdivo組および20-Fab-0313-IgG4-V94L組の腫瘍抑制率がそれぞれ84.5%、35.8%、96.6%であることが確認でき、かつAvastin組およびOpdivo組に比べ、20-Fab-0313-IgG4-V94L組においてより優れた腫瘍抑制効果が確認できた。
【0120】
実施例2:PD-1およびTGF-Betaを標的とする二重特異性抗体の作製
2.1)配列
米国特許出願公開公報US5571714Aに、一連のTGF-β(Transforming growth factor beta)モノクローナル抗体が開示され、そのうちマウス由来のモノクローナル抗体1D11.16(以下、「1D11」とも略称する)は、TGF-β1およびTGF-β2両者に効果的に結合することができる。1D11に対応するハイブリドーマは、既に寄託番号ATCC(登録商標)HB-9849TMでアメリカ培養細胞系統保存機関に寄託保存し、また、マウス由来1D11の配列は、米国特許出願公開公報US20180244763A1に記載のものであった。
【0121】
1D11号抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列について解析を行い、KABAT法則に則って1D11号抗体の重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域及びフレームワーク領域を確定した。1D11号抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列としては、H-CDR1がTYWMN(配列番号23)であり、H-CDR2がQIFPASGSTNYNEMFEG(配列番号24)であり、H-CDR3がGDGNYALDAMDY(配列番号25)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列としては、L-CDR1がRASESVDSYGNSFMH(配列番号26)であり、L-CDR2がLASNLES(配列番号27)であり、L-CDR3がQQNNEDPLT(配列番号28)であった。
【0122】
マウス由来1D11号抗体の重鎖可変領域について、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGHV1-46*01を選んで重鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来1D11号抗体の重鎖CDRをIGHV1-46*01のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTLVTVSS(配列番号151)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。同様に、マウス由来1D11号抗体の軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV7-3*01を選んで軽鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来1D11号抗体の軽鎖CDRをIGKV7-3*01のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後ろにFGGGTKVELK(配列番号153)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。さらに、CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域におけるアミノ酸サイトに復帰変異を導入した。復帰変異を導入する際、アミノ酸配列に対してKABAT編集を行い、サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0123】
好ましくは、CDR移植重鎖可変領域に対してKABAT編集を行い、第28位のTをマウス由来のI、第30位のTをI、第48位のMをI、第67位のVをA、第69位のMをL、第71位のRをV、第78位のVをAにそれぞれ変更し、CDR移植軽鎖可変領域については、第81位のNをDに変更する。
【0124】
上記ヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列番号29及び配列番号30)について、上海生工バイオテック社に委託して上記可変領域をコードするDNAを合成した。得られたヒト化重鎖可変領域とヒトIgG4(ヒンジ領域に、サイト変異としてS228Pを含む)の重鎖定常領域(配列番号148)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得て1D11-Hu-HCと名づけ、また、ヒト化軽鎖可変領域とヒトKappa軽鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得て1D11-Hu-LCと名づけた。
【0125】
上記抗体の重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子を、それぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、抗体を発現して精製した。1D11-Hu-HCと1D11-Hu-LCを組み合わせた抗体を1D11-Huと標記した。
【0126】
米国特許出願公開公報US20100136021A1に一連のTGF-β抗体が開示され、そのうちモノクローナル抗体mAb12.7(以下、「mAb127」とも略称する)は、TGF-β1、TGF-β2およびTGF-β3に効果的に結合し且つ中和能力があるため、US20100136021A1に記載のmAb127の重鎖可変領域および軽鎖可変領域配列(配列番号31及び配列番号32)を用いて次の実験に行った。
【0127】
上海生工バイオテック社に委託して上記可変領域をコードするDNAを合成し、得られた重鎖可変領域とヒトIgG4(ヒンジ領域に、サイト変異としてS228Pを含む)の重鎖定常領域(配列番号148)をつなぎ、重鎖の全長遺伝子を得てとmAb127-HC名づけ、かつ軽鎖可変領域とヒトKappa軽鎖定常領域(配列番号149)をつなぎ、軽鎖の全長遺伝子を得てmAb127-LCと名づけた。
【0128】
WO2018/137576A1の明細書実施例1~5に従い、マウス由来の14号モノクローナル抗体を選んでリード抗体とし、重鎖可変領域および軽鎖可変領域のヌクレオチド配列に基づいてアミノ酸配列(配列番号33及び配列番号34)を導き出した。
【0129】
14号抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域については、アミノ酸配列を解析し、KABAT法則に則って14号抗体の重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域及びフレームワーク領域それぞれ確定した。14号抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列としては、H-CDR1がGYTMN(配列番号35)であり、H-CDR2がLINPYNGDTSYNQKFKG(配列番号36)であり、H-CDR3がWRYTMDY(配列番号37)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列としては、L-CDR1がRASESVDNYGNSFMN(配列番号38)であり、L-CDR2がFASNLES(配列番号39)であり、L-CDR3がQQNNEAPPT(配列番号40)であった。
【0130】
マウス由来の14号抗体の重鎖可変領域について、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGHV1-46*01を選んで重鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来14号抗体の重鎖CDRをIGHV1-46*01のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTLVTVSS(配列番号151)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。同様に、マウス由来14号抗体の軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV7-3*01を選んで軽鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来14号抗体の軽鎖CDRをIGKV7-3*01のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後ろにFGQGTKVEIK(配列番号152)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域におけるアミノ酸サイトに復帰変異を導入した。復帰変異を導入する際、アミノ酸配列についてKABAT編集を行い、サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0131】
好ましくは、CDR移植重鎖可変領域に対してKABAT編集を行い、KABATナンバリング第28位のTをマウス由来のS、第48位のMをI、第67位のVをA、第69位のMをV、第71位のRをV、第73位のTをK、第78位のVをAにそれぞれ変更し、CDR移植軽鎖可変領域についてもKABAT編集を行い、KABATナンバリング第46位のLをP、第68位のGをR、第81位のNをDにそれぞれ変更する。
【0132】
上記変異サイトを抱える重鎖および軽鎖可変領域を、それぞれヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列番号41及び配列番号42)と標記し、上海生工バイオテック社に委託して上記ヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。得られたヒト化重鎖可変領域とヒトIgG4(ヒンジ領域に、サイト変異としてS228Pを含む)重鎖定常領域(配列番号148)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得て14-Hu-HCと名づけ、また、ヒト化軽鎖可変領域とヒトKappa軽鎖定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得て14-Hu-LCと名づけた。
【0133】
上記抗体の重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、抗体を発現して精製し、14-Hu-HCと14-Hu-LCを組み合わせた抗体を14-Huと標記した。
【0134】
2.2)共通軽鎖の選定
14-Huの軽鎖可変領域及び1D11-Huの軽鎖可変領域について、BLASTを用いてアミノ酸配列に対して対比解析を行った結果、両者の間で完全に一致したアミノ酸が92%(Identities)を占め、かつ物理化学特性において類似したアミノ酸が94%(Positives)を占めることが確認できた。
【0135】
14-Hu-HC、14-Hu-LC、1D11-Hu-HC及び1D11-Hu-LCの発現ベクターを、14-Hu-HC+14-Hu-LC、1D11-Hu-HC+1D11-Hu-LC、14-Hu-HC+1D11-Hu-LC及び1D11-Hu-HC+14-Hu-LCの通りに組み合わせ、抗体を発現してから精製した。得られた抗体をそれぞれ14-Hu、1D11-Hu、14-Hu-HC+1D11-Hu-LC及び1D11-Hu-HC+14-Hu-LCと名づけた。
【0136】
ELISA法による検出は、以下の通りに行われた。つまり、6×Hisタグ付きのヒトPD-1の細胞外領域ドメイン(PD-1細胞外領域は、WO2018/137576A1に記載されたものである)を自ら調製し、得られた組換えタンパク質をPD1-Hisと標記し、該PD1-HisでELISAプレート(20ng/ウェル)被覆した。また、TGF-β1(Sino Biological社製)を用いてELISAプレートを被覆し、このときの被覆濃度は、5ng/ウェルであった。
【0137】
図13Aに示すように、14-Huは、PD1-Hisに効果的に結合し、EC
50が0.3924nMであり、一方で1D11-Hu、14-Hu-HC+1D11-Hu-LC及び1D11-Hu-HC+14-Hu-LCは、PD1-Hisに結合することができなかった。また、
図13Bに示すように、1D11-Huは、TGF-β1に効果的に結合し、EC
50が0.06624nMであり、1D11-Hu-HC+14-Hu-LCもTGF-β1に結合することができ、EC
50が0.5255nMであり、14-Hu及び14-Hu-HC+1D11-Hu-LCは、TGF-β1に結合することができなかった。これらの結果に鑑み、14-Hu-LC(配列番号43および配列番号44)を選んで共通軽鎖とし、二重特異性抗体を作製することにした。
【0138】
14-Hu軽鎖可変領域およびmAb127軽鎖可変領域について、BLASTを用いてアミノ酸配列に対して対比解析を行った結果、両者の間で完全に一致したアミノ酸が75%(Identities)を占め、かつ物理化学特性が類似したアミノ酸が83%(Positives)を占めることが確認できた。
【0139】
14-Hu-LC、mAb127-HC及びmAb127-LCの発現ベクターを、mAb127-HC+mAb127-LC及びmAb127-HC+14-Hu-LCの通りに組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれmAb127及びmAb127-HC+14-Hu-LCと名づけた。
【0140】
上述のELISA法を用い、TGF-β1に対する1D11-Hu、1D11-Hu-HC+14-Hu-LC、mAb127及びmAb127-HC+14-Hu-LCの相対親和力を測定し、得られた測定データをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0141】
図14に示すように、1D11-Hu、mAb127およびmAb127-HC+14-Hu-LCは、何れもTGF-β1に効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1338nM、0.04136nM及び0.07105nMであった。また、mAb127及びmAb127-HC+14-Hu-LCは、1D11-Huに比べてEC
50がより低く且つ結合シグナルがより強く、両者がTGF-β1に対してより優れた親和力を有することが確認できた。そのため、14-Hu-LC(配列番号43及び配列番号44)を選んで共通軽鎖とし、二重特異性抗体を作製することにした。
【0142】
2.3)二重特異性抗体の作製
14-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して1D11の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製し、14-Fab-1D11-IgG4(配列番号45及び配列番号46)と名づけた。同様に、1D11の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して14-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製し、1D11-Fab-14-IgG4(配列番号47及び配列番号48)と名づけた。
【0143】
上記と同様にして、14-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してmAb127の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製し、14-Fab-127-IgG4(配列番号49及び配列番号50)と名づけた。また、mAb127の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して14-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製し、127-Fab-14-IgG4(配列番号51及び配列番号52)と名づけた。
【0144】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4に導入し、14-Fab-1D11-IgG4、1D11-Fab-14-IgG4、14-Fab-127-IgG4及び127-Fab-14-IgG4の発現ベクターを、それぞれ14-Hu-LCの発現ベクターと組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ14-Fab-1D11-IgG4、1D11-Fab-14-IgG4、14-Fab-127-IgG4及び127-Fab-14-IgG4と名づけた。
【0145】
2.4)ELISA法による相対親和力の測定
図15Aに示すように、14-Hu、14-Fab-1D11-IgG4、1D11-Fab-14-IgG4、14-Fab-127-IgG4及び127-Fab-14-IgG4は、何れもPD1-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.4321nM、0.4367nM、1.996nM、0.3873nM及び3.955nMであった。そのうち1D11-Fab-14-IgG4及び127-Fab-14-IgG4は、14-Fab-1D11-IgG4及び14-Fab-127-IgG4に比べてPD1-Hisに対する相対親和力が低下し、立体障害の影響が低下の原因であると考えられる。
図15Bに示すように、1D11-Hu-HC+14-Hu-LC、mAb127-HC+14-Hu-LC、14-Fab-1D11-IgG4、1D11-Fab-14-IgG4、14-Fab-127-IgG4及び127-Fab-14-IgG4は、何れもTGF-β1に結合でき、EC
50がそれぞれ1.267nM、0.0803nM、0.6985nM、0.3628nM、0.1525nM及び0.1083nMであった。そのうち、mAb127-HC+14-Hu-LC、14-Fab-127-IgG4及び127-Fab-14-IgG4は、1D11-Hu-HC+14-Hu-LC、14-Fab-1D11-IgG4及び1D11-Fab-14-IgG4に比べ、TGF-β1に対する相対親和力が更に高くなることが確認できた。
【0146】
2.5)MLR亢進活性の評価
図16A~
図16Bに示すように、14-Hu及び14-Fab-127-IgG4は、何れもMLRのIL-2及びIFN-γ分泌を効果的に刺激し、MLRのIL-2分泌を刺激するときのEC
50がそれぞれ0.1008nM及び0.3185nMであり、MLRのIFN-γ分泌を刺激するときのEC
50がそれぞれ0.04716nM及び0.5871nMであった。なお、14-Huに比べ、14-Fab-127-IgG4は、高濃度でMLRのIL-2及びIFN-γ分泌を更に増強できることも実証された。
【0147】
2.6)PD-1とTGF-Betaに対する二重特異性抗体の結合能力評価
TGF-β1(物品番号10804-HNAC、Sino Biological社製)を用いてマイクロプレートを被覆し、1%のウシ血清アルブミンを含むPBSTで測定用抗体を段階的に希釈して濃度勾配を形成した後、上記マイクロプレートに加えて室温、約30分間インキュベートした。そして、上述の1.7.4と同様にして評価を行った。
【0148】
図17に示すように、14-Fab-127-IgG4は、TGF-β1に結合した後にもヒトPD-1に効果的に結合することができ、EC
50が0.2784nMであった。一方、14-Hu及びmAb127-HC+14-Hu-LCは、PD-1及びTGF-β1に同時に結合することができなかった。
【0149】
2.7)PD-1及びTGF-betaを標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍効果
ヒトPD-1トランスジェニックマウス(品種背景:C57BL/6)及びMC38マウス大腸がん細胞株は、上海南方モデル生物研究センターから購入し、該トランスジェニックマウスにおいて、ヒト由来PD-1遺伝子の細胞外領域ドメインを用いてマウスの相同部分を置き換えた。本発明の二重特異性抗体は、該トランスジェニックマウスのPD-1分子を認識すると同時に、マウス内在性のTGF-betaにも結合することができる。具体的には、MC38細胞株を体外培養し、このときの培地としては10%の血清を含むDMEM(血清及び培地は、何れもGibco社製)を用いた。培養したMC38細胞を、ヒトPD-1トランスジェニックマウスに1匹当たり2×10
6個細胞、皮下注射にて接種した。接種した腫瘍細胞が体積約100mm
3にまで生長すると、マウスをランダムで幾つかの組に分け、各組にマウス8匹ずつ配分した。各組のマウスについては、それぞれ対照組に生理食塩水、Keytruda組(2つの投与組)にPD-1陽性対照物抗体であるKeytruda(メルク社製)2mg/kg又は10mg/kg、14-Fab-127-IgG4組(2つの投与組)に3.2mg/kg又は16mg/kgの14-Fab-127-IgG4を注射することにより投与を行った。二重特異性抗体とモノクローナル抗体は分子量が異なるため、本実験では抗体を物質量に換算し、各抗体を同じ物質量で投与した。そして、上述の投与計画に従って週2回の頻度で合計6回投与し、腫瘍体積については毎週2回測定した。最後に、各組の腫瘍生長状況を時系列に従って整理し、
図18に示すような生長グラフを作成した
【0150】
腫瘍抑制率は、[腫瘍抑制率=(対照組の平均腫瘍体積-実験組の平均腫瘍体積)/対照組の平均腫瘍体積×100%]に従って算出し、25日目の実験終了時点でKeytruda組(2つの投与組)及び14-Fab-127-IgG4組(2つの投与組)の腫瘍抑制率がそれぞれ79.2%(2mg/kg)、77.7%(10mg/kg)、85.1%(3.2mg/kg)及び100%(16mg/kg)であることが確認でき、かつKeytruda組に比べ、14-Fab-127-IgG4組においてより優れた腫瘍抑制効果が観察され、高投与量で14-Fab-127-IgG4を投与した場合、全てのマウスにおいて腫瘍が完全に減退することが確認できた。
【0151】
実施例3:HER-2及びCD47を標的とする二重特異性抗体の作製
3.1)配列
19H6-Huは、ヒトHER2を標的とするヒト化のモノクローナル抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列は、WO2020/025013A1に記載がある。本発明では、上記19H6-Huのヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれ19H6-Hu-VH及び19H6-Hu-VL(配列番号53及び配列番号54)と標記した。
【0152】
上海生工バイオテック社に委託し、上記19H6-Huのヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。合成したヒト化重鎖可変領域とヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号147)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得て19H6-Hu-HCと名づけ、また、ヒト化軽鎖可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得て19H6-Hu-LCと名づけた。19H6-Hu-HC及び19H6-Hu-LCの遺伝子を、それぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、抗体を発現して精製し、得られた抗体を19H6-Huと名づけた。
【0153】
MABL-2(以下、「Anti-CD47B」と称する)は、ヒトCD47を標的とするマウス由来のモノクローナル抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、US20030108546Aの明細書に記載の配列番号12及び配列番号10である。
【0154】
Anti-CD47Bの重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列に対して解析を行い、KABAT法則に従ってAnti-CD47Bの重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域及びフレームワーク領域をそれぞれ確定した。Anti-CD47Bの重鎖CDRのアミノ酸配列として、H-CDR1がNHVIH(配列番号55)であり、H-CDR2がYIYPYNDGTKYNEKFKD(配列番号56)であり、H-CDR3がGGYYTYDD(配列番号57)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列として、L-CDR1がRSSQSLVHSNGKTYLH(配列番号58)であり、L-CDR2がKVSNRFS(配列番号59)であり、L-CDR3がSQSTHVPYT(配列番号60)であった。
【0155】
マウス由来Anti-CD47Bの重鎖可変領域について、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGHV1-46*01を選んで重鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来Anti-CD47Bの重鎖CDRをIGHV1-46*01のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTLVTVSS(配列番号151)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。これと同様に、マウス由来Anti-CD47Bの軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV2-30*01を選んで軽鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来Anti-CD47Bの軽鎖CDRをIGKV2-30*01のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後ろにFGQGTKVEIK(配列番号152)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域におけるアミノ酸サイトに復帰変異を導入した。復帰変異を導入する際、アミノ酸配列に対してKABAT編集を行い、サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0156】
好ましくは、CDR移植重鎖可変領域についてKABAT編集を行い、KABATナンバリング第30位のTをA、第69位のMをL、第71位のRをS、第73位のTをKにそれぞれ変更し、CDR移植軽鎖可変領域についてもKABAT編集を行い、KABATナンバリング第36位のFをY、第46位のRをLにそれぞれ変更する。
【0157】
上記サイト変異を抱える重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域とし、Anti-CD47B-Hu-VH及びAnti-CD47B-Hu-VL(配列番号61及び配列番号62)と標記した。
【0158】
上海生工バイオテック社に委託し、上記ヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。合成したヒト化重鎖可変領域とヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号147)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得てAnti-CD47B-Hu-HCと名づけ、また、ヒト化軽鎖可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得てAnti-CD47B-Hu-LCと名づけた。Anti-CD47B-Hu-HC及びAnti-CD47B-Hu-LCの遺伝子をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、抗体を発現して精製し、得られた抗体をAnti-CD47B-Huと名づけた。
【0159】
3.2)共通軽鎖の選定
19H6-Hu軽鎖可変領域について、BLASTを利用してAnti-CD47B-Hu軽鎖可変領域とアミノ酸配列解析を行ったところ、両者の間で完全に一致したアミノ酸が96%(Identities)を占め、物理化学特性において類似したアミノ酸が99%(Positives)を占めることが確認できた。
【0160】
19H6-Hu及びAnti-CD47B-Huの重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子を、19H6-Hu-HC+Anti-CD47B-Hu-LC、及びAnti-CD47B-Hu-HC+19H6-Hu-LCの通りに組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ19H6-Hu-HC+Anti-CD47B-Hu-LC及びAnti-CD47B-Hu-HC+19H6-Hu-LCと名づけた。
【0161】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。つまり、Hisタグ付きのヒトHer-2細胞外領域ドメインは、ACROBiosystems社製であり、物品番号がHE2-H5225であり、Hisタグ付きのヒトCD47細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が12283-H08Hであり、これらの2つの組換えタンパク質をそれぞれHER2-ECD-HisおよびCD47-ECD-Hisと標記した。HER2-ECD-His及びCD47-ECD-Hisをそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、何れも10ng/ウェルであった。
【0162】
図19Aに示すように、19H6-Hu及び19H6-Hu-HC+Anti-CD47B-Hu-LCは、何れもHER2-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.07701nM及び0.1388nMであった。一方、Anti-CD47B-Hu及びAnti-CD47B-Hu-HC+19H6-Hu-LCは、HER2-ECD-Hisに結合することができなかった。また、
図19Bに示すように、Anti-CD47B-Hu及びAnti-CD47B-Hu-HC+19H6-Hu-LCは、何れもCD47-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.04276nM及び0.0541nMであり、19H6-Hu及び19H6-Hu-HC+Anti-CD47B-Hu-LCは、CD47-ECD-Hisに結合することができなかった。これらの結果に鑑み、19H6-Hu-LC(配列番号63及び配列番号64)を選んで共通軽鎖とし、二重特異性抗体を作製することにした。
【0163】
3.3)二重特異性抗体の作製
Anti-CD47B-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して19H6-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG1の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製し、CD47B-Fab-19H6-IgG1(配列番号65及び配列番号66)と名づけた。これと同様に、19H6-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してAnti-CD47B-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG1の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製し、19H6-Fab-CD47B-IgG1(配列番号67及び配列番号68)と名づけた。
【0164】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、さらに、CD47B-Fab-19H6-IgG1及び19H6-Fab-CD47B-IgG1の発現ベクターを、それぞれ19H6-Hu-LCの発現ベクターと組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれCD47B-Fab-19H6-IgG1及び19H6-Fab-CD47B-IgG1と名づけた(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)。
【0165】
3.4)ELISA法による相対親和力の測定
図20Aに示すように、19H6-Hu、CD47B-Fab-19H6-IgG1及び19H6-Fab-CD47B-IgG1は、何れもHER2-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1262nM、0.1057nM及び0.1543nMであり、かつ
図20Bに示すように、Anti-CD47B-Hu-HC+19H6-Hu-LC、CD47B-Fab-19H6-IgG1及び19H6-Fab-CD47B-IgG1は、何れもCD47-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.06166nM、0.07817nM及び0.1945nMであった。これらの結果から、CD47B-Fab-19H6-IgG1及び19H6-Fab-CD47B-IgG1がHER-2およびCD47両者に効果的に結合することができ、二重特異性抗体であることが確認できた。
【0166】
実施例4:HER-2及びCD137を標的とする二重特異性抗体の作製
4.1)配列
19H6-Huは、上記3.1で述べたように、ヒトHER2を標的とするヒト化のモノクローナル抗体である。また、94号抗体は、本発明者が自ら作製したマウス由来のヒトCD137抗体であり、WO2018/137576A1の明細書実施例1~5に従って作製することができるが、マウスの免疫がヒトCD137の組換えタンパク質で行われ、かつELISA法を利用し、ヒトCD137の組換えタンパク質を用いてハイブリドーマ細胞をスクリーニングする点においてやや異なり、その重鎖可変領域のアミノ酸配列および軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号69及び配列番号70で表される。
【0167】
94号抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域については、アミノ酸配列解析を行い、KABAT法則に従って94号抗体の重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域及びフレームワーク領域をそれぞれ確定した。94号抗体の重鎖CDRのアミノ酸配列として、H-CDR1がSYDIS(配列番号71)であり、H-CDR2がVIWTGGGTNYNSAFMS(配列番号72)であり、H-CDR3がMDY(配列番号73)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列として、L-CDR1がRSSQSLLHSNGNTYLH(配列番号74)であり、L-CDR2がKVSNRFS(配列番号75)であり、L-CDR3がSQSTHVPWT(配列番号76)であった。
【0168】
マウス由来94号抗体の重鎖可変領域について、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGHV4-59*01を選んで重鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来94号抗体の重鎖CDRをIGHV4-59*01のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTLVTVSS(配列番号151)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。同様に、マウス由来94号抗体の軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV2-30*01を選んで軽鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来Anti-CD47Bの軽鎖CDRをIGKV2-30*01のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後ろにFGQGTKVEIK(配列番号152)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域におけるアミノ酸サイトに復帰変異を導入した。復帰変異を導入する際、アミノ酸配列に対してKABAT編集を行い、サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0169】
好ましくは、CDR移植重鎖可変領域に対してKABAT編集を行い、KABATナンバリング第27位のGをF、第29位のIをL、第48位のIをL、第71位のRをS、第71位のVをK、第73位のTをN、第76位のNをS、第78位のFをV、第93位のAをVにそれぞれ変更し、CDR移植軽鎖可変領域に対してもKABAT編集を行い、KABATナンバリング第36位のFをY、第46位のRをL、第48位のIをF、第87位のYをFにそれぞれ変更する。
【0170】
上記サイト変異を抱える重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域とし、94-Hu-VH及び94-Hu-VL(配列番号77及び配列番号78)と標記した。
【0171】
上海生工バイオテック社に委託し、上記ヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。合成したヒト化重鎖可変領域とヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号147)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得てと94-Hu-HC名づけ、また、ヒト化軽鎖可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得て94-Hu-LCと名づけた。94-Hu-HC及び94-Hu-LC遺伝子を、それぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、抗体を発現して精製し、得られた抗体を94-Huと名づけた。
【0172】
4.2)共通軽鎖の選定
19H6-Hu軽鎖可変領域及び94-Hu軽鎖可変領域について、BLASTを利用してアミノ酸配列解析を行ったところ、両者の間で完全に一致したアミノ酸が97%(Identities)を占め、物理化学特性において類似したアミノ酸が99%(Positives)を占めることが確認できた。
【0173】
19H6-Hu及び94-Huの重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子を、19H6-Hu-HC+94-Hu-LC及び94-Hu-HC+19H6-Hu-LCの通りに組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ19H6-Hu-HC+94-Hu-LC及び94-Hu-HC+19H6-Hu-LCと名づけた。
【0174】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。つまり、Hisタグ付きのヒトHer-2細胞外領域ドメインは、ACROBiosystems社製であり、物品番号がHE2-H5225であり、Fcタグ付きのヒトCD137細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10041-H02Hであり、本発明では、これらの組換えタンパク質をそれぞれHER2-ECD-His及びCD137-ECD-Fcと標記した。HER2-ECD-His及びCD137-ECD-Fcをそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、何れも10ng/ウェルであった。
【0175】
図21Aに示すように、19H6-Hu及び19H6-Hu-HC+94-Hu-LCは、何れもHER2-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1222nM及び0.1391nMであり、94-Hu及び94-Hu-HC+19H6-Hu-LCは、HER2-ECD-Hisに結合することができなかった。また、
図21Bに示すように、94-Hu及び94-Hu-HC+19H6-Hu-LCは、何れもCD137-ECD-Fcに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.3913nM及び0.634nMであり、19H6-Hu及び19H6-Hu-HC+94-Hu-LCは、CD137-ECD-Fcに結合することができなかった。これらの結果に鑑み、19H6-Hu-LC(配列番号63及び配列番号64)を選んで共通軽鎖とし、二重特異性抗体を作製することにした。また、94-Hu-LCを共通軽鎖として二重特異性抗体を作製することもでき、本発明ではこれらに特に制限されない。
【0176】
4.3)二重特異性抗体の作製
94-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して19H6-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG1の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して94-Fab-19H6-IgG1と名づけた。これと同様に、19H6-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して94-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG1の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して19H6-Fab-94-IgG1と名づけた。
【0177】
本発明では、上記二重抗体分子のFcフラグメントとFcγRs(Fc gamma receptors)の相互作用を抑制し、かつ体内における潜在的な毒性を低減する観点から、Fcフラグメントの第234位のロイシン及び第235位のロイシンを共にアラニンに変え、このような変異をLALAと標記した(Wang X,Mathieu M,Brezski R J.,IgG Fc engineering to modulate antibody effector functions[J].Protein & cell,2018,9(1):63-73;Ho S K,Xu Z,Thakur A,et al.,Epitope and Fc-mediated Crosslinking,but not High Affinity,Are Critical for Antitumor Activity of CD137 Agonist Antibody with Reduced Liver Toxicity[J].Molecular Cancer Therapeutics,2020,pp.1040-1051)。そして、上記LALA変異を導入した二重抗体分子を、それぞれ94-Fab-19H6-IgG1-LALA(配列番号79及び配列番号80)及び19H6-Fab-94-IgG1-LALA(配列番号81及び配列番号82)と名付けた。
【0178】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、さらに、94-Fab-19H6-IgG1-LALA及び19H6-Fab-94-IgG1-LALAの発現ベクターを、それぞれ19H6-Hu-LCの発現ベクターと組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ94-Fab-19H6-IgG1-LALA及び19H6-Fab-94-IgG1-LALAと名づけた(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)。
【0179】
4.4)ELISA法による相対親和力の測定
図22Aに示すように、19H6-Hu、94-Fab-19H6-IgG1-LALA及び19H6-Fab-94-IgG1-LALAは、何れもHER2-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1933nM、0.1579nM及び0.1201nMであった。また、
図22Bに示すように、94-Hu-HC+19H6-Hu-LC及び94-Fab-19H6-IgG1-LALAは、何れもCD137-ECD-Fcに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.634nM及び0.2411nMであり、そのうち19H6-Fab-94-IgG1-LALAは、CD137-ECD-Fcに対して結合が弱く、EC
50が27.56nMであった。これらの結果から、94-Fab-19H6-IgG1-LALA及び19H6-Fab-94-IgG1-LALAがHER-2及びCD137両者に共に結合することができ、つまり、二重特異性抗体であることが実証された。
【0180】
実施例5:PD-1及びCD137を標的とする二重特異性抗体の作製
5.1)配列
mAb1-25-Hu(以下、「609」とも略称する)は、ヒトPD-1を標的とするヒト化モノクローナル抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列は、WO2018/137576A1に開示され、ヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列番号83及び配列番号84)を、それぞれヒトIgG4(S228P)の重鎖定常領域(配列番号148)及びKappa軽鎖の定常領域(配列番号149)とつなぐことにより、ヒト化のmAb1-25-Huモノクローナル抗体(609)の重鎖全長遺伝子および軽鎖全長遺伝子が得られた。
【0181】
4B4-1-1(以下、「Anti-CD137」とも称する)は、ヒトCD137を標的とするマウス由来のモノクローナル抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、US5928893の明細書に記載の配列番号10及び配列番号11であった。
【0182】
Anti-CD137の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列について解析を行い、KABAT法則に則ってAnti-CD137の重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域及びフレームワーク領域をそれぞれ確定した。Anti-CD137の重鎖CDRのアミノ酸配列として、H-CDR1がSYWMH(配列番号85)であり、H-CDR2がEINPGNGHTNYNEKFKS(配列番号86)であり、H-CDR3がSFTTARGFAY(配列番号87)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列として、L-CDR1がRASQTISDYLH(配列番号88)であり、L-CDR2がYASQSIS(配列番号89)であり、L-CDR3がQDGHSFPPT(配列番号90)であった。
【0183】
マウス由来のAnti-CD137の重鎖可変領域については、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGHV1-46*01を選んで重鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来のAnti-CD137の重鎖CDRをIGHV1-46*01のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTLVTVSS(配列番号151)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。これと同様に、マウス由来のAnti-CD137の軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV6-21*02を選んで軽鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来のAnti-CD137の軽鎖CDRをIGKV6-21*02のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後ろにFGQGTKVEIK(配列番号152)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域におけるアミノ酸サイトに復帰変異を導入した。復帰変異を導入する際、アミノ酸配列に対してKABAT編集を行い、サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0184】
好ましくは、CDR移植重鎖可変領域に対してKABAT編集を行い、KABATナンバリング第30位のTをS、第69位のMをL、第71位のRをV、第73位のTをKにそれぞれ変更し、かつCDR移植軽鎖可変領域に対してもKABAT編集を行い、KABATナンバリング第4位のLをM、第58位のVをI、第69位のTをSにそれぞれ変更する。
【0185】
上記サイト変異を抱える重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域とし、Anti-CD137-Hu-VH及びAnti-CD137-Hu-VL(配列番号91及び配列番号92)と名づけた。
【0186】
上海生工バイオテック社に委託し、上記ヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。合成したヒト化の重鎖可変領域とヒトIgG4(S228P)の重鎖定常領域(配列番号148)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得てAnti-CD137-Hu-HCと名づけた。ヒト化の軽鎖可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得てAnti-CD137-Hu-LCと名づけた。Anti-CD137-Hu-HC及びAnti-CD137-Hu-LC遺伝子をpcDNA3.4発現ベクターにそれぞれ導入し、抗体を発現して精製し、得られた抗体をAnti-CD137-Huと名づけた。
【0187】
5.2)共通軽鎖の選定
609軽鎖可変領域について、BLASTを利用してAnti-CD137-Hu軽鎖可変領域とアミノ酸配列解析を行ったところ、両者の間で完全に一致したアミノ酸が73%(Identities)を占め、物理化学特性において類似したアミノ酸が88%(Positives)を占めることが確認できた。
【0188】
609及びAnti-CD137-Huの重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子は、609-HC+Anti-CD137-Hu-LC及びAnti-CD137-Hu-HC+609-LCの通りに組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ609-HC+Anti-CD137-Hu-LC及びAnti-CD137-Hu-HC+609-LCと名づけた。
【0189】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。つまり、Hisタグ付きのヒトPD-1細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10377-H08Hであり、Fcタグ付きのヒトCD137細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10041-H02Hであった。本発明では、上記2つの組換えタンパク質をそれぞれPD1-ECD-His及びCD137-ECD-Fcと標記し、PD1-ECD-His及びCD137-ECD-Fcを用いてそれぞれELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、何れも10ng/ウェルであった。
【0190】
図23Aに示すように、609及び609-HC+Anti-CD137-Hu-LCは、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1358nM及び0.2067nMであり、Anti-CD137-Hu及びAnti-CD137-Hu-HC+609-LCは、PD1-ECD-Hisに結合することができなかった。また、
図23Bに示すように、Anti-CD137-Huは、CD137-ECD-Fcに効果的に結合し、EC
50が0.461nMであり、609、609-HC+Anti-CD137-Hu-LC及びAnti-CD137-Hu-HC+609-LCは、CD137-ECD-Fcに結合することができなかった。そのため、Anti-CD137-Hu-LC(配列番号93及び配列番号94)を共通軽鎖をとし、二重特異性抗体を作製することにした。
【0191】
5.3)二重特異性抗体の作製
609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してAnti-CD137-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して609-Fab-137-IgG4(配列番号95及び配列番号96)と名づけた。同様に、Anti-CD137-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して609の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して137-Fab-609-IgG4(配列番号97及び配列番号98)と名づけた。
【0192】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、さらに、609-Fab-137-IgG4及び137-Fab-609-IgG4の発現ベクターを、それぞれAnti-CD137-Hu-LCの発現ベクターと組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ609-Fab-137-IgG4及び137-Fab-609-IgG4(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)と名づけた。
【0193】
5.4)ELISA法による相対親和力の測定
図24Aに示すように、609-HC+Anti-CD137-Hu-LC、609-Fab-137-IgG4及び137-Fab-609-IgG4は、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.2067nM、0.2293nM及び1.415nMであった。また、
図24Bに示すように、Anti-CD137-Hu、609-Fab-137-IgG4及び137-Fab-609-IgG4は、何れもCD137-ECD-Fcに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.461nM、0.3572nM及び0.2424nMであった。このことから、609-Fab-137-IgG4及び137-Fab-609-IgG4は、PD-1に加えてCD137にも結合することができ、二重特異性抗体であることが確認できた。
【0194】
実施例6:PD-1及びCD40を標的とする二重特異性抗体の作製
6.1)配列
609は、ヒトPD-1を標的とするヒト化モノクローナル抗体であり、詳しくは上述の5.1を参照することができる。MAb2.220(以下、「Anti-CD40」とも称する)は、ヒトCD40を標的とするマウス由来のモノクローナル抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、US6312693の明細書に記載の配列番号2及び配列番号1であった。
【0195】
Anti-CD40抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列に対して解析を行い、KABAT法則に従ってAnti-CD40の重鎖および軽鎖の抗原相補性決定領域及びフレームワーク領域をそれぞれ確定した。Anti-CD40の重鎖CDRのアミノ酸配列として、H-CDR1がTTGMQ(配列番号99)であり、H-CDR2がWINTHSGVPKYVEDFKG(配列番号100)であり、H-CDR3がSGNGNYDLAYFAY(配列番号101)であり、軽鎖CDRのアミノ酸配列として、L-CDR1がRASQSISDYLH(配列番号102)であり、L-CDR2がYASHSIS(配列番号103)であり、L-CDR3がQHGHSFPWT(配列番号104)であった。
【0196】
マウス由来Anti-CD40の重鎖可変領域について、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/においてヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGHV7-4-1*02を選んで重鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来Anti-CD40の重鎖CDRをIGHV7-4-1*02のフレーム領域に移植し、かつH-CDR3の後ろにWGQGTLVTVSS(配列番号151)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植重鎖可変領域の配列を得た。同様に、マウス由来Anti-CD40の軽鎖可変領域についてもヒトIgG生殖系配列と相同性対比を行い、IGKV3-11*01を選んで軽鎖CDRの移植テンプレートとし、マウス由来Anti-CD40の軽鎖CDRをIGKV3-11*01のフレーム領域に移植し、かつL-CDR3の後ろにFGQGTKVEIK(配列番号152)を付けて第4フレームワーク領域とすることにより、CDR移植軽鎖可変領域の配列を得た。CDR移植可変領域に基づき、一部のフレームワーク領域におけるアミノ酸サイトに復帰変異を導入し、変異を導入する際、アミノ酸配列に対してKABAT編集を行い、サイトの位置をKABATナンバリングに変更した。
【0197】
好ましくは、CDR移植重鎖の可変領域に対してKABAT編集を行い、KABATナンバリング第2位のVをI、第28位のTをA、第39位のQをE、第48位のMをI、第76位のSをN、第93位のAをVにそれぞれ変更し、かつCDR移植軽鎖の可変領域に対してもKABAT編集を行い、KABATナンバリング第43位のAをS、第49位のYをK、第69位のTをSにそれぞれ変更する。
【0198】
上記サイト変異を抱える重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域とし、Anti-CD40-Hu-VH及びAnti-CD40-Hu-VL(配列番号105及び配列番号106)と名づけた。
【0199】
上海生工バイオテック社に委託し、上記ヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。合成したヒト化重鎖可変領域とヒトIgG4(S228P)の重鎖定常領域(配列番号148)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得たAnti-CD40-Hu-HCと名づけ、また、ヒト化軽鎖可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得たAnti-CD40-Hu-LCと名づけた。Anti-CD40-Hu-HC遺伝子及びAnti-CD40-Hu-LC遺伝子を、それぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、抗体を発現して精製し、得られた抗体をAnti-CD40-Huと名づけた。
【0200】
6.2)共通軽鎖の選定
609軽鎖可変領域について、BLASTを利用してAnti-CD40-Hu軽鎖可変領域とアミノ酸配列解析を行ったところ、両者の間で完全に一致したアミノ酸が90%(Identities)を占め、物理化学特性において類似したアミノ酸が96%(Positives)を占めることが確認できた。
【0201】
609及びAnti-CD40-Huの重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子は、609-HC+Anti-CD40-Hu-LC及びAnti-CD40-Hu-HC+609-LCの通りに組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ609-HC+Anti-CD40-Hu-LC及びAnti-CD40-Hu-HC+609-LCと名づけた。
【0202】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。つまり、Hisタグ付きのヒトPD-1細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10377-H08Hであり、Hisタグ付きのヒトCD40細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10774-H08Hであった。本発明では、これら2つの組換えタンパク質をそれぞれPD1-ECD-His及びCD40-ECD-Hisと標記し、PD1-ECD-His及びCD40-ECD-Hisを用いてそれぞれELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、何れも10ng/ウェルであった。
【0203】
図25Aに示すように、609及び609-HC+Anti-CD40-Hu-LCは、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1263nM及び0.1387nMであり、Anti-CD40-Hu及びAnti-CD40-Hu-HC+609-LCは、PD1-ECD-Hisに結合することができなかった。また、
図25Bに示すように、Anti-CD40-Huは、CD40-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50が0.1104nMであり、609、609-HC+Anti-CD40-Hu-LC及びAnti-CD40-Hu-HC+609-LCは、何れもCD40-ECD-Hisに結合することができなかった。そのため、Anti-CD40-Hu-LC(配列番号107及び配列番号108)を共通軽鎖とし、二重特異性抗体を作製することにした。
【0204】
6.3)二重特異性抗体の作製
609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してAnti-CD40-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して609-Fab-40-IgG4(配列番号109及び配列番号110)と名づけた。同様に、Anti-CD40-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して609の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して40-Fab-609-IgG4(配列番号111及び配列番号112)と名づけた。
【0205】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、さらに、609-Fab-40-IgG4及び40-Fab-609-IgG4の発現ベクターを、それぞれAnti-CD40-Hu-LCの発現ベクターと組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ609-Fab-40-IgG4及び40-Fab-609-IgG4(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)と名づけた。
【0206】
6.4)ELISA法による相対親和力の測定
図26Aに示すように、609-HC+Anti-CD40-Hu-LC、609-Fab-40-IgG4及び40-Fab-609-IgG4は、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1387nM、0.1723nM及び1.017nMであり、また、
図26Bに示すように、Anti-CD40-Hu、609-Fab-40-IgG4及び40-Fab-609-IgG4は、何れもCD40-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1104nM、0.1047nM及び0.09556nMであった。このことから、609-Fab-40-IgG4及び40-Fab-609-IgG4は、PD-1に加えてCD40にも結合することができ、二重特異性抗体であることが確認できた。
【0207】
実施例7:PD-1及び他のタンパク質分子を標的とする二重特異性抗体の作製
7.1)配列
609は、ヒトPD-1標的とするヒト化のモノクローナル抗体であり、詳しくは上述の5.1を参照することができる。一方、抗体製剤であるセツキシマブ、ベバシズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブなどの重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列(配列番号1~2、および配列番号113~118)は、文献資料(Magdelaine-Beuzelin C,Kaas Q,Wehbi V,et al.,Structure-function relationships of the variable domains of monoclonal antibodies approved for cancer treatment[J].Critical reviews in oncology/hematology,2007,64(3):210-225)に既に報告されたものであった。また、10D1(以下、「Ipilimumab」とも称する)は、ヒトCTLA-4を標的とするモノクローナル抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、US20020086014A1の明細書に記載の配列番号17および配列番号7(本発明では、配列番号119及び配列番号120)であった。
【0208】
上海生工バイオテック社に委託し、上記重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードする配列を、それぞれヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号147)及びヒトKappa軽の鎖定常領域(配列番号149)とつなぐことで抗体の重鎖の全長遺伝子および軽鎖の全長遺伝子を作製した。上記抗体の重鎖遺伝子を、それぞれCetuximab-HC、Bevacizumab-HC、Trastuzumab-HC、Pertuzumab-HC及びIpilimumab-HCと名づけ、上記抗体の軽鎖遺伝子をそれぞれCetuximab-LC、Bevacizumab-LC、Trastuzumab-LC、Pertuzumab-LC及びIpilimumab-LCと名づけた。上記重鎖遺伝子および軽鎖遺伝子をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、名付けが対応する重鎖および軽鎖遺伝子を組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれCetuximab-IgG1、Bevacizumab-IgG1、Trastuzumab-IgG1、Pertuzumab-IgG1及びIpilimumab-IgG1と名づけた。
【0209】
5E7-Huは、ヒトLAG-3を標的とするヒト化抗体であり、その重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列は、PCT/CN2020/076023の明細書に記載の配列番号26および配列番号28(本発明では、配列番号121及び配列番号122)であった。上海生工バイオテック社に委託し、上記ヒト化の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを合成した。合成したヒト化重鎖可変領域とヒトIgG4(S228P)重鎖定常領域(配列番号148)をつなぎ、ヒト化重鎖の全長遺伝子を得て5E7-Hu-HCと名づけた。また、ヒト化の軽鎖可変領域とヒトKappa鎖の定常領域(配列番号149)をつなぎ、ヒト化軽鎖の全長遺伝子を得て5E7-Hu-LCと名づけた。5E7-Hu-HC遺伝子及び5E7-Hu-LC遺伝子を、それぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、抗体を発現して精製し、得られた抗体を新たに5E7-Huと名づけた。
【0210】
7.2)共通軽鎖の選定
7.2.1)ハイブリッド抗体と抗原の結合親和力の測定
609の重鎖遺伝子と上記抗体の軽鎖遺伝子をそれぞれ組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Trastuzumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCと名づけた。
【0211】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。つまり、Hisタグ付きのヒトPD-1細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10377-H08Hであり、本発明では該組換えタンパク質をPD1-ECD-Hisと標記した。PD1-ECD-Hisを用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、何れも10ng/ウェルであった。
図27に示すように、Opdivo(ブリストル・マイヤーズスクイブ社製)、609、609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCは、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.2887nM、0.1100nM、0.2424nM、0.1530nM、0.2244nM、0.1547nM及び0.1709nMであった。一方、609-HC+Trastuzumab-LCは、PD1-ECD-Hisに対して相対親和力が弱く、EC
50が0.7219nMであった。このことから、Cetuximab-LC(配列番号123及び配列番号124)、Bevacizumab-LC、Pertuzumab-LC(配列番号125及び配列番号126)、Ipilimumab-LC(配列番号127及び配列番号128)及び5E7-Hu-LC(配列番号129及び配列番号130)を共通軽鎖として関連の二重特異性抗体を作製することができる。このとき、同種対照物抗体としてPD-1に結合しないヒトIgG4抗体を用いた。
【0212】
7.2.2)PD-1とPD-L1の相互作用に対するハイブリッド抗体の阻害効果評価
PD-1とPD-L1の相互作用に対する抗体の阻害効果は、以下の通りに評価した。ヒトFcタグ付きのヒトPD-1およびヒトPD-L1の細胞外領域ドメインは、WO2018/137576A1の明細書を参照しながら自ら調製し、これら2つの組換えタンパク質を、それぞれPD1-ECD-hFc及びPD-L1-ECD-hFcと標記した。ビオチン化試薬であるビオチンn-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Sigma社製、物品番号/仕様規格H1759-100MG)を、無水DMSOを用いて濃度100mMの母液に調製し、PD-L1-ECD-hFcは、分子量および溶液濃度に基づいて物質量濃度に換算した。PD-L1-ECD-hFc融合タンパク質の溶液を適宜取って、物質量を算出した後、それぞれビオチンn-ヒドロキシスクシンイミドエステルと1:20の割合で均一に混ぜ合わせ、室温、1時間静置して標識を行った。透析を行い、紫外線分光法を利用してタンパク質の濃度を測定した。そして、ヒトPD-1-ECD-hFcを被覆用緩衝液で希釈して濃度が2μg/mLになるようにし、ピペットで吸い取って96ウェルのELISAプレートに1ウェル当たり100μLずつ加え、室温で4時間インキュベートした。PBSTで1回洗い流した後、各ウェルに1%のBSAを含むPBSTを200μL加え、室温で2時間インキュベートすることによりブロッキング処理を行った。プレートを軽く叩いてブロッキング液を取り除き、次の処理に備えて4℃に一時保管した。96ウェルプレートにおいて、ビオチン化のPD-L1-ECD-hFcを1%のBSA(ウシ血清アルブミン)を含むPBST溶液で希釈して濃度が500ng/mLになるようにし、上記希釈済みのビオチン化融合タンパク質を用いてPD-1抗体を段階的に希釈して濃度勾配を形成した。上記希釈済みの抗体とビオチン化融合タンパク質の混合溶液を、上記ヒトPD-1-ECD-hFcを被覆したELISAプレートに加え、室温で1時間インキュベートした。PBSTでプレートを3回洗い流し、1%のBSAを含むPBSTで1:1000の倍率に希釈したHRP標識ストレプトアビジン(BD Biosciences社製)を加えて室温、45分間インキュベートし、PBSTでプレートを3回洗い流した。各ウェルにTMBを基質とする着色液を100μL加え、室温で1~5分間インキュベートした後、停止液を50μL加えて着色反応を停止した。プレートリーダーを用いてOD450値を読み出し、得られた測定データをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、IC50を算出した。
【0213】
図28に示すように、Opdivo、609、609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Trastuzumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCは、何れもPD-1とPD-L1の相互作用を効果的に阻害することができ、IC
50がそれぞれ0.05729nM、0.1309nM、0.1199nM、0.1191nM、0.1162nM、0.09876nM、0.1052nM及び0.1312nMであった。このとき、同種対照物抗体としてPD-1に結合しないヒトIgG4抗体を用いた。
【0214】
7.2.3)混合リンパ球反応に対するハイブリッド抗体の亢進効果評価
さらに、混合リンパ球反応に対する上記抗体の亢進効果を測定した。
図29に示すように、609、609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCは、何れも混合リンパ球反応亢進させてIL-2分泌を促すことができ、EC
50がそれぞれ0.08623nM、0.2510nM、0.1211nM、0.5171nM、0.2040nM及び0.09101nMであった。一方、609-HC+Trastuzumab-LCは、混合リンパ球反応およびIL-2分泌に対して刺激効果を示さなかった。この実験では、同種対照物抗体としてPD-1に結合しないヒトIgG4抗体を用いた。
【0215】
7.2.4)細胞表面PD-1に対するハイブリッド抗体の結合性能評価
フローサイトメトリー法を利用し、細胞表面PD-1に対するハイブリッド抗体の結合性能を評価した。PD-1を発現するTF-1細胞株は、以下のように樹立した。具体的には、ヒトPD-1の全長遺伝子配列として、UniProtで登録番号Q15116の配列を用い、該遺伝子配列をレンチウイルス発現ベクターであるpLVX-Puro(Clontech社製)に導入した。Lipofectamine 3000(Thermo Fisher Scientific社製、物品番号L3000001)を用い、レンチウイルス用パッケージングベクター及び目的遺伝子を含むpLVX-PuroをHEK293FT細胞(Thermo Fisher Scientific社製、物品番号R70007)に導入し、48時間インキュベートした。細胞培養液を遠心して上澄み液を回収し、0.45μmのフィルタメンブレンでろ過して細胞残骸を除去した。上記ウイルス粒子を含む上澄み液でTF-1細胞(社製ATCC、物品番号CRL-2003TM)を感染し、48時間後にピューロマイシンで細胞を処理し、スクリーニングによって目的遺伝子を安定に発現する細胞株を選出し、PD-1を安定に発現するTF-1細胞株をTF1-PD1と名づけた。
【0216】
細胞に対する抗体の結合は、フローサイトメトリー法を利用して以下のように測定した。具体的には、TF1-PD1細胞を、96ウェル丸底プレートに1ウェル当たり20万個細胞接種し、遠心して上澄み液を捨て、段階的に希釈した抗体を加えて室温、約30分間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗い流し、遠心して上澄み液を捨て、適宜希釈したAnti-Human IgG -FITC抗体(Fc特異的なものであり、Sigma社製、物品番号F9512)を各ウェルに加えて室温、約30分間インキュベートした後、細胞をPBSで2回洗い流した。上澄み液を捨て、固定用緩衝液I(BD Biosciences社製)を加えて室温、5分間インキュベートすることにより細胞を固定した後、細胞をPBSで2回洗い流し、最後に200μLのPBSで細胞を再懸濁した。フローサイトメーターにおいてFITCチャンネルの蛍光強度を測定し、フローサイトメーターに搭載のソフトを用いて測定データを処理してからExcelデータに変換し、そしてGraphPad Prism6でExcelデータを処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0217】
図30に示すように、609、609-HC+Cetuximab-LC、609-HC+Bevacizumab-LC、609-HC+Pertuzumab-LC、609-HC+Ipilimumab-LC及び609-HC+5E7-Hu-LCは、何れも細胞表面のPD-1に効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.3761nM、0.577nM、0.5193nM、0.4302nM、0.4773nM及び0.3864nMであった。そのうち609-HC+Trastuzumab-LCは、他のハイブリッド抗体に比べ、TF1-PD1に対する結合が顕著に低下した。この実験では、同種対照物抗体としてPD-1に結合しないヒトIgG4抗体を用いた。
【0218】
7.2.5)609とPD-1の結合に対する609軽鎖可変領域CDRの作用
以上の実験結果から、609の重鎖と別の抗体軽鎖を組み合わせたハイブリッド抗体もPD-1分子に効果的に結合し、かつPD-1とPD-L1の相互作用を阻害し、および混合リンパ球反応や、細胞表面PD-1への結合を亢進できることが実証された。この実験では、アラニンスキャニング技術を利用し、609とPD-1の結合に対する609軽鎖可変領域CDRの作用を評価した。具体的には、609軽鎖CDRにおけるアミノ酸残基をそれぞれアラニン残基に変換し、このときCDR本来固有のアラニン残基については変換せずにそのまま残した。609重鎖を軽鎖変異体とそれぞれ組み合わせ、以上で説明した方法に従って抗体を発現して精製し、さらに、上述のELISA法を利用してPD-1に対する抗体の相対親和力を測定した。測定結果を、下記表3に纏めて示す。表3において、609-HC+609-LC-R24AにおけるR24Aとは、第24位のアルギニン残基をアラニン残基に変換したことを意味し、この実験でもアミノ酸残基の位置は、KABATナンバリングで表示される。
【0219】
【0220】
図31及び表4に示すように、アラニンスキャニングの実験結果から、軽鎖CDRのアミノ酸残基をそれぞれアラニン残基に変換しても抗体とPD-1の結合に対して明らかな影響を示さず、609が主に重鎖を利用してPD-1分子に結合し、609とPD-1の結合が609の軽鎖にさほど依存しないことが実証された。
【0221】
7.3)PD-1及びEGFRを標的とする二重特異性抗体の作製
609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してCetuximab-IgG1の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して609-Fab-Cetuximab-IgG4(配列番号131及び配列番号132)と名づけた。
【0222】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、609-Fab-Cetuximab-IgG4の発現ベクターとCetuximab-LCの発現ベクター組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体を609-Fab-Cetuximab-IgG4(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)と名づけた。
【0223】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。Hisタグ付きのヒトPD-1細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10377-H08H)であり、Hisタグ付きのヒトEGFR細胞外領域ドメインもSino Biological社製であり、物品番号が10001-H08Hであった。本発明では、これら2つの組換えタンパク質をPD1-ECD-His及びEGFR-ECD-Hisと標記し、PD1-ECD-His及びEGFR-ECD-Hisをそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、それぞれ10ng/ウェル及び20ng/ウェルであった。
【0224】
図32Aに示すように、609-HC+Cetuximab-LC及び609-Fab-Cetuximab-IgG4は、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.7172nM及び0.2616nMであった。また、
図32Bに示すように、Cetuximab-IgG1及び609-Fab-Cetuximab-IgG4は、何れもEGFR-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.07609nM及び0.09327nMであった。この結果から、609-Fab-Cetuximab-IgG4は、PD-1に加えてEGFRにも結合することができ、二重特異性抗体であることが実証された。
【0225】
7.4)PD-1及びHER-2を標的とする二重特異性抗体の作製
609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してPertuzumab-IgG1の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して609-Fab-Pertuzumab-IgG4(配列番号133及び配列番号134)と名づけた。
【0226】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、609-Fab-Pertuzumab-IgG4の発現ベクターとPertuzumab-LCの発現ベクターを組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体を609-Fab-Pertuzumab-IgG4(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)と名づけた。
【0227】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。Hisタグ付きのヒトPD-1細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10377-H08Hであり、Hisタグ付きのヒトHer-2細胞外領域ドメインは、ACROBiosystems社製であり、物品番号がHE2-H5225であった。本発明では、これら2つの組換えタンパク質をPD1-ECD-His及びHER2-ECD-Hisと標記し、PD1-ECD-His及びHER2-ECD-Hisをそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、何れも10ng/ウェルであった。
【0228】
図33Aに示すように、609-HC+Pertuzumab-LC及び609-Fab-Pertuzumab-IgG4は、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1422nM及び0.1196nMであった。また、
図33Bに示すように、Pertuzumab-IgG1及び609-Fab-Pertuzumab-IgG4は、何れもHER2-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.5352nM及び2.616nMであった。この結果から、609-Fab-Pertuzumab-IgG4は、PD-1に加えてHER-2にも結合することができ、二重特異性抗体であることが実証された。
【0229】
7.5)PD-1とCTLA-4を標的とする二重特異性抗体の作製
7.5.1)二重特異性抗体の作製
609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してIpilimumab-IgG1の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG1の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製して609-Fab-Ipilimumab-IgG1(配列番号135及び配列番号136)と名づけた。同様に、Ipilimumab-IgG1の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して609の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG1の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖遺伝子を作製してIpilimumab-Fab-609-IgG1(配列番号137及び配列番号138)と名づけた。
【0230】
609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介してIpilimumab-IgG1の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して609-Fab-Ipilimumab-IgG4(配列番号139及び配列番号140)と名づけた。同様に、Ipilimumab-IgG1の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して609の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製してIpilimumab-Fab-609-IgG4(配列番号141及び配列番号142)と名づけた。
【0231】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、さらに、609-Fab-Ipilimumab-IgG1、Ipilimumab-Fab-609-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG4及びIpilimumab-Fab-609-IgG4の発現ベクターを、それぞれIpilimumab-LCの発現ベクターと組み合わせ、抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ609-Fab-Ipilimumab-IgG1、Ipilimumab-Fab-609-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG4及びIpilimumab-Fab-609-IgG4(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)と名づけた。
【0232】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。Hisタグ付きのヒトPD-1細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10377-H08H)、ヒトFcタグ付きのヒトCTLA-4細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が11159-H31H5であった。本発明では、これら2つの組換えタンパク質をPD1-ECD-His及びCTLA4-ECD-Fcと標記し、PD1-ECD-His及びCTLA4-ECD-Fcをそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は,何れも10ng/ウェルであった。
【0233】
図34Aに示すように、609-HC+Ipilimumab-LC、609-Fab-Ipilimumab-IgG1、Ipilimumab-Fab-609-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG4及びIpilimumab-Fab-609-IgG4は、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.2337nM、0.1734nM、0.7954nM、0.2078nM及び0.9643nMであった。また、
図34Bに示すように、Ipilimumab-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG1、Ipilimumab-Fab-609-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG4及びIpilimumab-Fab-609-IgG4は、何れもCTLA4-ECD-Fcに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.8354nM、2.123nM、0.3376nM、2.626nM及び0.392nMであった。これらの結果から、609-Fab-Ipilimumab-IgG1、Ipilimumab-Fab-609-IgG1、609-Fab-Ipilimumab-IgG4及びIpilimumab-Fab-609-IgG4は、PD-1に加えてCTLA-4にも結合することができ、二重特異性抗体であることが実証された。
【0234】
7.5.2)PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体の生体活性評価
RPMI1640に10%のウシ胎児血清、1%のMEM非必須アミノ酸溶液、1%のピルビン酸ナトリウム、1のHEPES、0.1%の2-メルカプトエタノール、1%のペニシリン-ストレプトマイシン及び1%のGlutaMAXサプリメントを加えRPMI1640完全培地を調製し、これらの試薬は、何れもThermo Fisher Scientific社製であった。該RPMI1640完全培地を用い、新たに分離したPBMC細胞(Allcells Biotech社製、物品番号PB005-C)を洗い流してから再懸濁し、さらに、スーパー抗原として一定量のブドウ球菌腸毒素B(staphylococcal enterotoxin B,SEB)を加えた。該スーパー抗原は、アミノ酸配列がhttps://www.uniprot.org/uniprot/P01552に登録され、本発明者が大腸菌を使って自ら調製したものであった。96ウェルの丸底細胞培養プレートに、PBMC細胞懸濁液を1ウェル当たり150μLずつ、20万個細胞の量で播種し、さらに、段階的に希釈した抗体を50μL加えて37℃のインキュベーターにおいて4日間インキュベートした。96ウェルプレートから適量の上澄み液を取って、サンドイッチELISA法を利用して標準操作マニュアルに従って上澄み液に含まれるIL-2量を測定することでIL-2の分泌量を検出した。また、この実験で使用するペアリング抗体は、BD Biosciences社製であり、SpectraMax 190プレートリーダーを用いてOD450値を測定し、得られた測定データをGraphPad Prism6で処理して解析グラフを作成し、EC50を算出した。
【0235】
【0236】
図35及び上記表4に示すように、609、609-HC+Ipilimumab-LC及びIpilimumab-IgG1は、EC
50および活性数値(Top値)が特に高く、これら3つの抗体が同等の生体活性を有することが確認できた。また、PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体の生体活性は、高い順から609-Fab-Ipilimumab-IgG1>Ipilimumab-Fab-609-IgG1>609-Fab-Ipilimumab-IgG4>Ipilimumab-Fab-609-IgG4であり、609-Fab-Ipilimumab-IgG1及びIpilimumab-Fab-609-IgG1は、生体活性において明らかにモノクローナル抗体である609及びIpilimumab-IgG1、およびハイブリッド抗体である609-HC+Ipilimumab-LCを上回り、かつ生体活性が609-HC+Ipilimumab-LCとIpilimumab-IgG1を併用する場合と同等のレベルであることが確認できた。また、上記表5において、「609-HC+Ipilimumab-LC/Ipilimumab-IgG1」とは、2つの抗体を1:1の物質量比で併用する場合を意味する。
【0237】
7.5.3)PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体のADCC活性評価
抗体依存性細胞介在性の細胞毒性(ADCC)は、ヒトIgG抗体が抱える普遍的な機能であり、ADCC活性は、抗体のサブタイプに緊密に関連する。PD-1とCTLA-4を標的とするIgG1サブタイプの二重特異性抗体は、PD-1を発現する細胞に対して潜在的な細胞毒性を示す可能性がある。そのため、新たに分離したPBMC細胞(Allcells Biotech社製、物品番号PB005-C)をエフェクター細胞とし、かつPD-1を発現するTF-1細胞を標的細胞としてADCC活性を測定した。
【0238】
図36に示すように、IgG4同種対照物抗体(すなわち、PD-1及びCTLA-4に結合しないモノクローナル抗体)は、ADCC活性を示さず、Ipilimumab-IgG1も明らかなADCC作用を示さなかった。その原因としては、TF1-PD1細胞がCTLA-4を発現しないことが考えられる。609は、重鎖定常領域がIgG4サブタイプであり、ADCC活性が弱く、標的細胞の溶解が約10%の程度に止まった。一方。609-IgG1は、609の重鎖定常領域をIgG1サブタイプに入れ替えたため、やや強いADCC活性を示し、標的細胞の溶解は最高で約50%の程度に達した。このことから、重鎖定常領域がIgG4サブタイプなのか、またはIgG1サブタイプなのかによってADCC活性に段差が生じ、IgG1の場合、IgG4に比べてより強いADCC活性を示すことが確認できた。また、609-Fab-Ipilimumab-IgG1は、609に類似したADCC活性を示し、Ipilimumab-Fab-609-IgG1は、609-IgG1に類似したADCC活性を示した。609-Fab-Ipilimumab-IgG1は、Ipilimumab-Fab-609-IgG1に比べてADCC活性が顕著に低下し、両者のADCC活性の差異は、二重特異性抗体の立体配置形態によるものと考えられる。
【0239】
7.5.4)PD-1及びCTLA-4と標的する二重特異性抗体のラット体内における薬物動態学評価
PD-1及びCTLA-4と標的する二重特異性抗体のラット体内における薬物動態学特性は、ELISAプレートを被覆する抗原として、上記7.5.1で調製したPD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体に対応する2つの抗原PD1-ECD-His及びCTLA4-ECD-Fcを用いた以外、上述の1.7.5と同様にして評価を行った。
【0240】
図37に示すように、609-Fab-Ipilimumab-IgG1は、PD-1を抗原とした場合に半減期が15.2日であり、CTLA-4を抗原とした場合に半減期が14.6であった。この結果から、609-Fab-Ipilimumab-IgG1が良好な薬物動態学特性を有することが確認できた。
【0241】
7.5.5)PD-1及びCTLA-4を標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍効果
ヒトPD-1/CTLA-4ダブルトランスジェニックマウス(品種背景:C57BL/6)は、北京Biocytogen社により購入し、MC38マウス大腸がん細胞株は、広州JennioBiotech社により購入した。PD-1/CTLA-4ダブルトランスジェニックマウスにおいて、ヒト由来のPD-1およびCTLA-4遺伝子の細胞外領域部分でマウスの相同性部分を置き換えたため、本発明の二重特異性抗体は、該トランスジェニックマウスのPD-1及びCTLA-4を認識して結合することができる。実験は、以下の通りに行われた。10%の血清を含むDMEM培地を用い、体外においてMC38を培養し、このときの血清及び培地は、何れもGibco社製であった。培養によって増殖したMC38細胞を、ヒトPD-1トランスジェニックマウスに1匹当たり2×10
6個細胞、皮下注射にて接種した。接種した腫瘍細胞が体積約100mm
3にまで生長すると、マウスをランダムで幾つかの組に分け、各組にマウス8匹ずつ配分した。各組のマウスへの投与は、対照組に生理食塩水、609組に10mg/kgのPD-1抗体である609、Yervoy組に10mg/kgのCTLA-4陽性対照物抗体であるYervoy(ブリストル・マイヤーズスクイブ社製)、609+Yervoy組に10mg/kgの609及び10mg/kgのYervoy、609-Fab-Ipilimumab-IgG1組に16mg/kgの609-Fab-Ipilimumab-IgG1をそれぞれ注射することにより行われた。二重特異性抗体とモノクローナル抗体は、分子量が異なるため、本実験では抗体を物質量に換算し、各抗体を同じ物質量で投与した。そして、上述の投与計画に従って週2回の頻度で合計4回投与し、腫瘍体積については毎週2回測定した。最後に、各組の腫瘍生長状況を時系列に従って整理し、
図38に示すような生長グラフを作成した。
【0242】
腫瘍抑制率は、[腫瘍抑制率=(対照組の平均腫瘍体積-実験組の平均腫瘍体積)/対照組の平均腫瘍体積×100%]に従って算出し、14日目の実験終了時点で609組、Yervoy組、609+Yervoy組及び609-Fab-Ipilimumab-IgG1組の腫瘍抑制率がそれぞれ48.6%、79.1%、85.9%、92.2%であった。また、609-Fab-Ipilimumab-IgG1は、609及びYervoyを単独投与する場合に比べて腫瘍生長をより効果的に抑制し、かつ609とYervoyを併用する場合と同等の抑制効果を示すことが確認できた。
【0243】
7.6)PD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体の作製
7.6.1)二重特異性抗体の作製
609の重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して5E7-Huの重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して609-Fab-5E7-IgG4(配列番号143及び配列番号144)と名づけた。同様に、5E7-Huの重鎖可変領域とヒトIgG4のCH1構造ドメインをつなぎ、そして人工リンカーとしてGGGGSGGGGSGGGGSを介して609の重鎖可変領域を付け、最後にヒトIgG4の重鎖定常領域(CH1+CH2+CH3、ヒンジ領域にサイト変異としてS228Pを含む)を付けることにより、2つの重鎖可変領域及び2つのCH1構造ドメインを含む長い重鎖を作製して5E7-Fab-609-IgG4(配列番号145及び配列番号146)と名づけた。
【0244】
上記配列をそれぞれpcDNA3.4発現ベクターに導入し、609-Fab-5E7-IgG4及び5E7-Fab-609-IgG4の発現ベクターを、それぞれ5E7-Hu-LCの発現ベクターと組み合わせ、上述の方法を利用して抗体を発現して精製し、得られた抗体をそれぞれ609-Fab-5E7-IgG4及び5E7-Fab-609-IgG4(便宜上、ここでは重鎖名で抗体を命名する)と名づけた。
【0245】
ELISA法による測定は、以下のように行われた。Hisタグ付きのヒトPD-1細胞外領域ドメインは、Sino Biological社製であり、物品番号が10377-H08Hであり、Hisタグ付きのヒトLAG-3細胞外領域ドメインもSino Biological社製であり、物品番号が16498-H08Hであった。本発明では、これら2つの組換えタンパク質をPD1-ECD-His及びLAG3-ECD-Hisと標記し、PD1-ECD-His及びLAG3-ECD-Hisをそれぞれ用いてELISAプレートを被覆し、被覆濃度は、何れも10ng/ウェルであった。
【0246】
図39Aに示すように、609-HC+5E7-Hu-LC、609-Fab-5E7-IgG4及び5E7-Fab-609-IgG4は、何れもPD1-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1523nM、0.161nM及び0.8138nMであった。また、
図39Bに示すように、5E7-Hu、609-Fab-5E7-IgG4及び5E7-Fab-609-IgG4は、何れもLAG3-ECD-Hisに効果的に結合し、EC
50がそれぞれ0.1472nM、0.2082nM及び0.1529nMであった。この結果から、609-Fab-5E7-IgG4及び5E7-Fab-609-IgG4は、PD-1に加えてLAG-3にも結合することができ、両者が何れも二重特異性抗体であることが実証された。
【0247】
7.6.2)PD-1及びLAG-3に対する二重特異性抗体の結合能力評価
マイクロプレートは、LAG3-ECD-Hisを用いて被覆し、測定用抗体は、1%のウシ血清アルブミンを含むPBSTで段階的に希釈して濃度勾配を形成し、上記被覆済みのマイクロプレートに加えて室温で約30分間インキュベートした。そして、上記1.7.4と同様にして実験を行った。
【0248】
図40に示すように、609-Fab-5E7-IgG4は、LAG-3に結合した後でもヒトPD-1に効果的に結合し、EC
50が0.5294nMであった。一方、5E7-Hu及び609-HC+5E7-Hu-LC両者は、何れもPD-1及びLAG-3に同時に結合することができなかった。
【0249】
7.6.3)PD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体の生体活性評価
本実験では、上記7.5.2に記載の方法に従ってPD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体の生体活性を評価した。
【0250】
【0251】
図41及び表5に示すように、IL-2の分泌に対し、5E7-Huの刺激効果が特に弱かった。一方、609及び609-HC+5E7-Hu-LCは、EC
50及び実測値(Top値)が同等のレベルにあり、両者が類似した生体活性を有することが確認できた。濃度が1nMを越えるとき、609-Fab-5E7-IgG4は、モノクローナル抗体である5E7-Hu及び609、およびハイブリッド抗体である609-HC+5E7-Hu-LCに比べてIL-2の分泌をより効果的に刺激し、かつ5E7-Huと609-HC+5E7-Hu-LCを併用する場合と類似した刺激効果を示した。また、表5において「5E7-Hu/609-HC+5E7-Hu-LC」とは、5E7-Huと609-HC+5E7-Hu-LCを1:1の物質量比で併用する場合を意味する。
【0252】
7.6.4)PD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体のマウス体内における抗腫瘍効果
ヒトPD-1/LAG-3ダブルトランスジェニックマウス(品種背景:C57BL/6)は、北京Biocytogen社により購入し、MC38マウス大腸がん細胞株は、広州JennioBiotech社により購入した。PD-1/LAG-3ダブルトランスジェニックマウスにおいて、ヒト由来のPD-1及びLAG-3遺伝子の細胞外領域部分でマウスの相同性部分を置き換えたため、本発明の二重特異性抗体は、該トランスジェニックマウスのPD-1及びLAG-3を認識して結合することができる。実験は、以下の通りに行われた。10%の血清を含むDMEM培地を用い、体外においてMC38を培養し、このときの血清及び培地は、何れもGibco社製であった。培養によって増殖したMC38細胞を、ヒトPD-1トランスジェニックマウスに1匹当たり2×10
6個細胞、皮下注射にて接種した。接種した腫瘍細胞が体積約100mm
3にまで生長すると、マウスをランダムで幾つかの組に分け、各組にマウス8匹ずつ配分した。各組のマウスへの投与は、対照組に生理食塩水、609組に20mg/kgのPD-1抗体である609、5E7-Hu組に20mg/kgのLAG-3抗体である5E7-Hu、609+5E7-Hu組に20mg/kgの609および20mg/kgの5E7-Hu、および609-Fab-5E7-IgG4組に32mg/kgの609-Fab-5E7-IgG4をそれぞれ注射することにより行われた。二重特異性抗体とモノクローナル抗体は、分子量が異なるため、本実験では抗体を物質量に換算し、各抗体を同じ物質量で投与した。そして、上述の投与計画に従って週2回の頻度で合計4回投与し、腫瘍体積については毎週2回測定した。最後に、各組の腫瘍生長状況を時系列に従って整理し、
図42に示すような生長グラフを作成した。
【0253】
腫瘍抑制率は、[腫瘍抑制率=(対照組の平均腫瘍体積-実験組の平均腫瘍体積)/対照組の平均腫瘍体積×100%]に従って算出し、14日目の実験終了時点で609組、5E7-Hu組、609+5E7-Hu組及び609-Fab-5E7-IgG4組の腫瘍抑制率がそれぞれ70.8%、13.1%、71.5%及び82.8%であった。また、609-Fab-5E7-IgG4は、609や5E7-Huを単独投与する場合に比べて腫瘍生長をより効果的に抑制し、609と5E7-Huの併用は、609の単独投与に比べてより優れた抑制効果が見られなかった。これらの結果から、609-Fab-5E7-IgG4は、PD-1及びLAG-3を標的とする二重特異性抗体として相乗効果を奏することが確認できた。
【0254】
7.7)ハイブリッド抗体の特異性に対する評価
ELISA法による測定は、以下のように行われた。上述の抗原EGFR-ECD-His、VEGF165-His、HER2-ECD-His、LAG3-ECD-His及びCTLA4-ECD-Fcをそれぞれ用い、かつ上述の実験条件下でELISAプレートを被覆し、609の重鎖と他の抗体の軽鎖を組み合せたハイブリッド抗体がこれらの標的を認識できるかどうかを確認した。本実験において、Cetuximab-IgG1、601、Trastuzumab-IgG1、5E7-Hu及びIpilimumab-IgG1などの抗体は、由来が以上で説明した通りであり、各抗原に結合する陽性対照物抗体として用いた。そのうち、Trastuzumab-IgG1は、可変領域が上記7.1で説明した通りであり、定常領域がIpilimumab-IgG1と同じく、他の抗体と同様にして作製したものであった。
【0255】
図43A~
図43Eに示すように、609の重鎖と他の抗体の軽鎖を組み合せたハイブリッド抗体は、他の標的を認識できず、これらのハイブリッド抗体が良好な特異性を有することが確認できた。
【0256】
7.8)HPLC-SEC
図44Aは、609-Fab-Cetuximab-IgG4のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.13%であり、
図44Bは、609-Fab-Pertuzumab-IgG4のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.2%であり、
図44Cは、609-Fab-Ipilimumab-IgG1のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.3%であり、
図44Dは、Ipilimumab-Fab-609-IgG1のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.2%であり、
図44Eは、609-Fab-Ipilimumab-IgG4のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.3%であり、
図44Fは、Ipilimumab-Fab-609-IgG4のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.1%であり、
図44Gは、609-Fab-5E7-IgG4のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.2%であり、かつ
図44Hは、5E7-Fab-609-IgG4のHPLC-SECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が99.0%であった。
【0257】
7.9)HPLC-IEC
図45Aは、609-Fab-Ipilimumab-IgG1のHPLC-IECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が83.52%であった。この結果から、609-Fab-Ipilimumab-IgG1が良好な電荷異質性を有することが確認できた。
【0258】
図45Bは、609-Fab-5E7-IgG4のHPLC-IECスペクトルであり、主要ピークの占有割合が85.43%であった。この結果から、609-Fab-5E7-IgG4が良好な電荷異質性を有することが確認できた。
【0259】
7.10)CE-SDS
図46A~
図46Bは、それぞれ609-Fab-Ipilimumab-IgG1のNR-CE-SDSおよびR-CE-SDSスペクトルであり、NR-CE-SDSスペクトルにおいて、主要ピークに当たるピーク13の占有割合が97.02%であり、R-CE-SDSスペクトルにおいて、2つの主要ピークとしてピーク2(軽鎖に対応するピーク)及びピーク12(長い重鎖に対応するピーク)の占有割合がそれぞれ39.14%、59.13%であり、両ピークの面積比が2:3.0であった。また、609-Fab-Ipilimumab-IgG1の軽鎖と長い重鎖のピーク面積比は、R-CE-SDSスペクトルにおいて所期通りの数値を示した。
【0260】
図46C~
図46Dは、それぞれ609-Fab-5E7-IgG4のNR-CE-SDS及びR-CE-SDSスペクトルであり、NR-CE-SDSスペクトルにおいて、主要ピークに当たるピーク11の占有割合が94.73%であり、R-CE-SDSスペクトルにおいて、2つの主要ピークとしてピーク7(軽鎖に対応するピーク)及びピーク16(長い重鎖に対応するピーク)の占有割合がそれぞれ38.32%、59.58%であり、両ピークの面積比が2:3.1であった。また、609-Fab-5E7-IgG4の軽鎖と長い重鎖のピーク面積比は、R-CE-SDSスペクトルにおいて所期通りの数値を示した。
【配列表】