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特許7600329シール機構及びシール機構を有する電動アクチュエータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】シール機構及びシール機構を有する電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20241209BHJP
   H02K 7/06 20060101ALI20241209BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
F16J15/3204 101
H02K7/06 A
F16H25/24 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023137263
(22)【出願日】2023-08-25
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】392009227
【氏名又は名称】日本ムーグ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107401
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 誠一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120064
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 孝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100182257
【弁理士】
【氏名又は名称】川内 英主
(74)【代理人】
【識別番号】100202119
【弁理士】
【氏名又は名称】岩附 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】細川 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄也
(72)【発明者】
【氏名】下道 秀和
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-059802(JP,U)
【文献】実開平01-135267(JP,U)
【文献】特開2002-286070(JP,A)
【文献】特開2002-022026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204
H02K 7/06
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にグリスが充填されたアクチュエータのロッドのシール機構において、
前記ロッドの一方の側に配置される第1のシールと、
前記第1のシールから前記ロッドの長軸方向に一定の距離を隔てて配置される第2のシールと、を備え、
前記第1のシールは、外部からのダストの侵入と前記内部の前記グリスの流出とを低減し、
前記第2のシールは、前記ロッドが挿通するハウジングに一つのみ備えられ、前記グリスが充填された前記内部に向かって延出するように構成されたリップ部を有し、
前記リップ部は、前記内部の前記グリスの流失を低減することを特徴とする、シール機構。
【請求項2】
前記長軸方向における断面において、前記第2のシールは、略矩形の形状をした本体部を有し、
前記第2のシールの前記リップ部は、前記長軸方向に沿って前記本体部から延出していることを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項3】
前記ロッドの半径方向において、前記本体部は、前記ハウジングに配置されると共に前記ロッドに当接せず、前記リップ部は前記ロッドに当接することを特徴とする、請求項2に記載のシール機構。
【請求項4】
前記リップ部のうち前記ロッドに当接する先端部は、前記長軸方向に対して第1の角度と第2の角度とを有し、前記第1の角度は、前記第2の角度に対して大きいことを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項5】
前記ロッドが第1の方向へ駆動される際の前記第2のシールの前記リップ部の前記長軸方向における接触面圧の傾きは、前記ロッドが第2の方向へ駆動される際の前記リップ部の前記長軸方向における接触面圧の傾きより大きいことを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項6】
前記アクチュエータは、電動で往復駆動されることを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項7】
前記内部に前記グリスが充填された領域の圧力は、最大約0.1MPaであることを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項8】
前記第1のシールと前記第2のシールとの間には、ブッシュ又はオイルレスベアリングが備えられていることを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項9】
前記ロッドに係合するナットと前記ロッドとの間に前記グリスが充填されていることを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項10】
前記第1のシールはダブルリップワイパであり、前記第2のシールはダストシール、ワイパシール又はスクレーパシールから構成されるシングルリップワイパであることを特徴とする、請求項1に記載のシール機構。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項に記載のシール機構と、
ロッドと、
ナットと、
電動機とを備え、
前記電動機の回転運動により前記ナットが回転し、前記ナットに螺合する前記ロッドが往復運動することを特徴とする、アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール機構及びシール機構を有する電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
内部にグリスが充填された往復動の電動アクチュエータにおいて、稼働部であるロッドと固定部であるハウジングの間には複数のシールが配置されているものがある。このシールから運転中にグリスが滲み出る(以下グリス滲み)現象を低減させる対策としては、シールを内部に追加する構成とすることが一般的であった。
【0003】
例えば、特許文献1の段落0058等には、内部に充填する潤滑剤やグリス等を第2のスクレーパが外部側へ掻き出すことを抑制し、潤滑機能を長期間にわたって維持することにより、耐久性を向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-226455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたシール構造において、グリス滲み対策としてシールを追加すると構造が複雑となり、その結果、摺動抵抗が増加してアクチュエータとしての機械効率が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、簡易な構成により摺動抵抗の増加を抑えつつ、グリス滲み量を低減させるシール機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、内部に潤滑剤が充填されたアクチュエータのロッドのシール機構において、前記ロッドの一方の側に配置される第1のシールと、前記第1のシールから前記ロッドの長軸方向に一定の距離を隔てて配置される第2のシールと、を備え、前記第1のシールは、外部からのダストの侵入と前記内部の前記潤滑剤の流出とを低減し、前記第2のシールは、前記ロッドが挿通するハウジングに一つのみ備えられ、前記潤滑剤が充填された前記内部に向かって延出するリップ部を有し、前記リップ部は、前記内部の前記潤滑剤の流失を低減することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易な構成により摺動抵抗の増加を抑えつつ、グリス滲み量を低減させるシール機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の電動アクチュエータ100を示す断面図である。
図2】(A)実施例のシール機構の配置構成を示す部分断面図である。(B)従来例のロッドシール60の配置構成を示す部分断面図である。
図3】(A)実施例のシングルリップワイパ7によるロッドを突出す方向Aの動作における油膜形成を示す模式図である。(B)従来例のロッドシール60による油膜形成を示す模式図である。
図4】(A)実施例のシングルリップワイパ7によるロッドを引込む方向Bの動作における油膜形成を示す模式図である。(B)従来例のロッドシール60による油膜形成を示す模式図である。
図5】(A)ダブルリップワイパ6の形状を示す長軸方向における断面図である。(B)シングルリップワイパ7の形状を示す断面図である。
図6】(A)ダブルリップワイパ6を一つ備える基本構成を示す。(B)従来のロッドシール60を備える従来構成を示す。(C)ダブルリップワイパ6とシングルリップワイパ7を備える構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の電動アクチュエータ100(アクチュエータ)を示す断面図である。図1を用いて、本発明の電動アクチュエータ100について説明をする。
【0011】
本発明の電動アクチュエータ100は、磁石MとコイルCで構成される電動機、電動機により回転駆動される回転ナット2(ナット)、回転ナット2に螺合するロッド1、ダブルリップワイパ6(第1のシール)及びシングルリップワイパ7(第2のシール)、ハウジング4等から構成される。電動アクチュエータ100は、電動機が回転ナット2を回転すると、ロッド1が往復駆動される形式であって、電動で往復駆動されるアクチュエータである。ロッド1の先端には、被駆動部材が固定され、ロッド1の往復運動により被駆動部材が往復運動をする。
【0012】
回転ナット2は、ハウジング4の内部に回転ベアリング3を介して保持されている。回転ナット2の外周表面には磁石Mが接着されており、コイルCに電流が印加されると回転ナット2が電動機の軸として機能することにより回転運動が発生する。電動機の回転運動により回転ナット2が回転し、回転ナット2にロッド1が螺合することで回転運動が往復運動に変換され、ロッド1は往復運動する。すなわち、ロッド1に設けられた雄ネジ部1aが回転ナット2に設けられた雌ネジ部2aに螺合し、雄ネジ部1aがその回転運動を受けることにより、回転運動が並進運動(往復運動)に変換される。なお、ロッド1は、電動アクチュエータ100の外部で回転しないように保持されている。電動アクチュエータ100の内部には、グリス10(潤滑剤)が充填され、グリス10により機構の潤滑がなされる。特に、回転ナット2に設けられた雌ネジ部2aと、ロッド1の雄ネジ部1aとの間には、潤滑状態をよくするためにグリス10が充填されている。グリス10は、主に回転ナット2の内部に封入されているが、一部シングルリップワイパ7の手前の空間にも存在する。なお、空間全てがグリス10で満たされているわけでは無く、空気も存在する。本発明の適用は、内部にグリス10が充填された領域の圧力が低圧の場合(目安として最大0.1MPa程度)に限られる。また、実施形態は回転ナット2に限定されず、ボールネジ等の螺合によって回転を直進に変換する機構を用いた電動アクチュエータであってもよい。
【0013】
ハウジング4の端部には、ロッドカバー5が装着され、ロッドカバー5はハウジング4に含まれる。ロッド1は、ロッドカバー5を挿通し、ロッドカバー5の外側に延出している。環状のダブルリップワイパ6は、第1リップ部6a及び第2リップ部6bを有し(図5(A)参照)、ロッド1の一方の側(大気側)に第1リップ部6aを向けてロッドカバー5の端部に配置されている。環状のシングルリップワイパ7は、リップ部7aを有し(図5(B)参照)、ダブルリップワイパ6からロッド1の長軸方向に一定の距離を隔てて大気側とは反対側にリップ部7aを内側に向けてロッドカバー5の内部に一つのみ配置されている。リップ部7aは、ロッド1の雄ネジ部1aに対向し、グリス10が充填された内部に向かって延出するように構成されている。ダブルリップワイパ6とシングルリップワイパ7との間には、ブッシュ8aが配置されているが、ブッシュ8aの代わりにオイルレスベアリングが備えられていてもよい。シングルリップワイパ7は、カラー8bによってロッドカバー5の内部に配置されてもよい。ロッドカバー5から露出したロッド1の部分が覆われるようにベローズカバー9を備えていてもよい。
【0014】
本発明の電動アクチュエータ100のロッド1が往復運動する際に、ダブルリップワイパ6の第1リップ部6aは外部からのゴミ、ダスト等の侵入を低減し、第2リップ部6bは内部のグリス10の流出を低減する。そして、シングルリップワイパ7のリップ部7aは、後述の実施例のシール機構により、内部に充填されたグリス10の流失(滲み量)を低減する。更に、シングルリップワイパ7が一つのみ配置されているので、ロッド1の摺動抵抗の増加は抑制されている。実施形態によれば、摺動抵抗の増加を抑え、グリス滲み量を低減させるシール機構を有するアクチュエータを提供することができる。なお、シングルリップワイパ7は一般的にダストシール、ワイパシール又はスクレーパシールと呼ばれるシールの一形態であり、通常は外部からのゴミ、ダストの侵入を防止する目的で使用される。よって、シングルリップワイパ7をロッドシールのように漏れ止めで使用することは一般的ではないが、本発明では、シングルリップワイパ7をロッドに逆向きに一つだけ使う構成とすることで、摺動抵抗を増加させずにグリス滲みを大幅に低減できるという効果が得られる。
【0015】
(実施例)
次に、本発明の電動アクチュエータ100に備えられた実施例のシール機構について説明する。図2(A)は、実施例のシール機構であるダブルリップワイパ6とシングルリップワイパ7の配置構成を示す部分断面図である。図2(B)は、従来例のロッドシール60の配置構成を示す部分断面図である。一般的な油圧シリンダなどに用いられるロッドシール60を内部に追加する構成に対して、本発明の構成が優位な点については、後述のシール理論を用いて説明する。
【0016】
シール部からのグリス滲みを低減させる従来の方法としては、図2(B)に示すように内部にロッドシール60を追加することが挙げられる。ロッドシール60は、ロッド1の半径方向であって、ロッドシール60の外側に配置されたOリング70による反発力を利用するため、ロッドシール60が1個のみ用いられていても摺動抵抗が大きい。また、ロッドシール60単品ではグリス滲みの低減効果は、十分ではないことが後述の試験結果から示されている。そこで、シール性能を高めるために追加のロッドシール61及びOリング71を配置すると、複数のシールによる摺動抵抗が大きくなり、電動アクチュエータ100の機械効率が低下する要因となってしまう。
【0017】
実施例では、図2(A)に示すように内部に内向きのシングルリップワイパ7(或いは同様な形状のシール)を一つ追加する構成とする。このようにリップ部7aを内向きにして、かつシングルリップワイパ7を機器内部に設けることは従来に無い構成である。そして、内部のグリス10が0.1MPa程度の低圧である条件下では、内向きのシングルリップワイパ7を配置する方がロッドシール60を配置する場合よりもグリス滲み低減効果は大きく、また摺動抵抗の増加も小さい。更に、内向きのシングルリップワイパ7の場合は複数配置する必要はなく、シール構成も簡易で省スペースにすることができる。
【0018】
次に、一般的な油圧シリンダなどに用いられるロッドシール60を電動アクチュエータ100のロッド1に追加することに対して、実施例のシングルリップワイパ7をロッド1に追加することによるグリス滲み低減の優位性を、シール理論を用いて説明する。
【0019】
グリス滲み量は、シール理論における油膜厚さhで表現され、油膜厚さhが厚いほどグリス滲み量が増える。
ここで、
η:流体の粘度
V:ロッド1の動作速度
dp:接触面圧
dx:シール影響長さ
Wa=dp/dx:接触面圧dpのdx方向に対する傾き
とするとき、油膜厚さhは、以下の式で示される。
【数1】
式(1)より、油膜厚さhが厚く、グリス滲み量が増える条件は以下のとおりである。
-流体の粘度ηが高い
-動作速度Vが速い
-接触面圧dpが低い
-シール影響長さdxが長い
ロッド1の動作速度Vと流体(グリス10)の粘度ηの積が一定であれば、接触面圧dpとシール影響長さdxの比(すなわち、接触面圧dpの傾きWa)だけがグリス滲み量に影響するといえる。
【0020】
図3(A)は、実施例のシングルリップワイパ7を配置した場合において、ロッド1を突出す方向A(第1の方向)の動作の際の油膜形成の模式図である。図3(B)は、従来のロッドシール60を配置した場合において、ロッド1を突出す方向Aの動作の際の油膜形成の模式図である。なお、図面における油膜は理解しやすいように拡大して描かれている。図3(A)に示すように、グリス10が充填された内部にリップ部7aを向けてシングルリップワイパ7を配置した場合は、リップ部7aにおける接触面圧dpの傾きWaが大きくなり、式(1)によれば油膜厚さhは薄くなることが分かる。対照的に、図3(B)に示すように、ロッドシール60を配置した場合は、ロッドシール60とロッド1の接触点であるシール部における接触面圧dpの傾きWaが小さくなり、油膜厚さhは図3(A)に示したシングルリップワイパ7に比べて厚くなることが分かる。
【0021】
図3(A)に示すように、ロッド1を突出す方向Aの動作においては、シングルリップワイパ7の接触面圧dpは、ロッドシール60の接触面圧dpに比べてかなり小さい。また、リップ部7aのシール先端はロッド1に対して直角より若干大きい角度であることが一般的であり、シール影響長さdxが短い傾向にあり、接触面圧dpの傾きWaが極めて大きくなり、油膜厚さhは非常に薄くなる。また、ロッドシール60は、ロッドシール60の外側に配置されたOリング70による反発力を利用するため接触面圧dpが大きい。更に、ロッドシール60とロッド1の接触点であるシール部にある程度の角度と長さがあるため、シール影響長さdxが長く、接触面圧dpの傾きWaが小さくなり、シングルリップワイパ7と比べて厚い油膜厚さhが発生する。
【0022】
図4(A)は、実施例のシングルリップワイパ7を配置した場合において、ロッド1を引込む方向B(第2の方向)の動作の際の油膜形成の模式図である。図4(B)は、従来のロッドシール60を配置した場合において、ロッド1を引込む方向Bの動作の際の油膜形成の模式図である。なお、図面における油膜は理解しやすいように拡大して描かれている。また、グリス11は、ロッド1を引込む方向Bの動作の際における残留グリスを示す。図4(A)に示すように、グリス10が充填された内部にリップ部7aを向けてシングルリップワイパ7を配置した場合は、接触面圧dpの傾きWaが小さくなり、式(1)によれば油膜厚さhは厚くなることが分かる。対照的に、図4(B)に示すように、ロッドシール60を配置した場合は、接触面圧dpの傾きWaが大きくなり、油膜厚さhは薄くなることが分かる。
【0023】
以上より、グリス10が充填された内部にリップ部7aを内側に向けてシングルリップワイパ7を配置した場合は、内部のグリス10が外部に移動しにくく、反対に残留しているグリス11を内部に引き入れやすくなることが分かる。一方、内部にロッドシール60を配置した場合は相対的に、内部のグリス10が外部に移動しやすく、反対に残留しているグリス11を内部に引き入れにくくなることが分かる。つまり、外部へのグリス滲みを低減する目的においては、リップ部7aを内側に向けてシングルリップワイパ7を配置することは、従来のロッドシール60の配置に対して優位性がある。
【0024】
ロッドシール60は通常単品では使用されず、ロッド1の長軸方向に数個配置するタンデム使用、又は、ワイパシールとの併用が一般的である。このため、図2(B)に示すような後段のロッドシール61又はワイパシールを潤滑させるためにある程度の油膜を発生させることが必要となっている。対照的に、シングルリップワイパ7のリップ部7aの形状は、一般的には外部からのゴミ、油分/水分を内部に侵入させないように機能するが、グリス10を使用した電動アクチュエータ100では、アクチュエータ内部に圧力が殆ど発生しないためシール用として使用することに特に問題は無い。
【0025】
図4(A)に示すように、ロッド1を引込む方向Bの動作においては、シールの接触面圧dpは、ロッド1を突出す方向Aの動作(図3(A)参照)と変わらない。しかしながら、シール影響長さdxは、ロッドシール60、シングルリップワイパ7共に長く、ロッド1を突出す方向Aの動作と比べ発生する油膜厚さhは共に大きな値となる。すなわち、ロッド1が突出す方向Aへ駆動される際のシングルリップワイパ7のリップ部7aの長軸方向における接触面圧の傾きWaは、ロッド1が引込む方向Bへ駆動される際のリップ部7aの長軸方向における接触面圧の傾きより大きい。
【0026】
ロッドシール60は、ロッド1を突出す方向Aの動作では後段のロッドシール61を潤滑するためにある程度厚い油膜厚さh(グリス滲みに相当)を発生させる必要があるが、ロッド1を引込む方向Bの動作ではグリス滲みを回収するため、シール影響長さdxを長くし、グリス滲みを回収し易い構成となっている。
【0027】
シングルリップワイパ7のリップ部7aは上述したように、外部からのゴミ、油分又は水分を内部に侵入させないように機能するが、内部からのグリス、油分が外部に出ることを阻まないように機能させるため、ロッドシール60の滲みを回収する構成と同様にシール影響長さdxが長くなっている。すなわち、上述のようにシングルリップワイパ7は、完全にグリスを止めないことにより、ダブルリップワイパ6に適度なグリスを与え、ダブルリップワイパ6の摩耗を低減させる効果もある。
【0028】
なお、本発明において内部に追加するのはシングルリップワイパ7に限定されず、内部側からみたリップ部7aの形状が外側からみた形状に比べて大きな角度(シール影響長さdxが短い)であれば、グリス滲みの低減効果が得られる。更に、外部側からみたリップ形状がなだらか(シール影響長さdxが大)なシールであれば、滲みが内部に戻される効果も得られるため、よりグリス滲みの低減が可能となる。また、そのシールの接触面圧dpは一般のダストシール程度であればよく、仮に複数配置したとしても摺動抵抗の増加は少ない。
【0029】
図5(A)は、ダブルリップワイパ6の形状を示す長軸方向における断面図である。ダブルリップワイパ6は、第1リップ部6a及び第2リップ部6bを有し、第1リップ部6aと第2リップ部6bの間には凹部6cがあり、凹部6cがロッドカバー5に嵌合する。第1リップ部6aは大気側に位置し、第2リップ部6bは内側に位置する。図5(B)は、シングルリップワイパ7の形状を示す長軸方向における断面図である。シングルリップワイパ7は、略矩形の形状をした本体部7bと、本体部7bから長軸方向に延出するリップ部7aを有する。リップ部7aは、本体部7bに接続している。
【0030】
ロッド1の半径方向において、本体部7bは、ロッドカバー5の内側に配置されると共にロッド1に当接せず、リップ部7aはロッド1に当接する。そして、リップ部7aのうちロッド1に当接する先端部は、長軸方向に対して第1の角度αと第2の角度βとを有し、第1の角度αは、第2の角度βに対して大きくなっている。第1の角度αは、長軸方向に対して直角より小さい角度としてもよい。また、本体部7bとロッド1の間にはクリアランスC(C>0)が確保されている。
【0031】
次に、グリス滲みの低減効果について試験結果を参照して説明する。図6(A)~(C)に示す各シール構成における摺動抵抗のシミュレーション値(理論値)を表1に示す。図6(A)は、外側(大気側)にダストリップを持つダブルリップワイパ6を一つ備える基本構成を示し、図6(B)は、外側にダブルリップワイパ6を備え、内側にOリング70で付勢されたロッドシール60を一つ備える従来構成を示し、図6(C)は、外側にダブルリップワイパ6を備え、内側にシングルリップワイパ7を一つ追加する実施例の構成を示す。表1に示すように、基本構成における摺動抵抗を1.0として、各数値は相対値で算出されている。従来構成(ロッドシール60を追加)では摺動抵抗が3.0となるが、実施例の構成(シングルリップワイパ7を追加)では摺動抵抗が1.1となり、摺動抵抗の増加を抑制できることが分かる。
【0032】
表2は、電動アクチュエータ100を実際に用いて、ある試験条件における基本構成(図6(A))と実施例の構成(シングルリップワイパ7を追加、図6(C))のグリス滲み量と摺動抵抗をそれぞれ比較した結果を示す。なお、基本構成における値を1.00として、各数値は相対値で算出されている。試験結果の値には、ばらつきがあるものの、グリス滲み量は、基本構成に対し実施例の構成では約9割程度の低減を実現していながら、摺動抵抗の増加はほぼ見られないことが分かる。
【0033】
また、表2とは試験条件が異なるが、基本構成と、従来構成におけるグリス滲み量を比較した結果を表3に示す。なお、表2と同様に基本構成を1.00として、各数値は相対値で算出されている。少なくとも従来構成(ロッドシール60を1個追加)ではグリス滲み量の低下は見られないことが分かる。ロッドシール60を複数配置すればグリス滲み量は低減することが想定されるが、表1で示したように摺動抵抗が大幅に増大してしまうおそれがあるので実用的ではない。
【0034】
実施例によれば、簡易な構成により摺動抵抗の増加を抑えつつ、グリス滲み量を低減させるシール機構を提供することができる。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施例、適用例について説明したが、本発明はこれら実施例、適用例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【符号の説明】
【0039】
1 ロッド
2 回転ナット(ナット)
5 ロッドカバー(ハウジング)
6 ダブルリップワイパ(第1のシール)
7 シングルリップワイパ(第2のシール)
7a リップ部
7b 本体部
10 グリス(潤滑剤)
100 電動アクチュエータ(アクチュエータ)
A 突出す方向(第1の方向)
B 引込む方向(第2の方向)
dp 接触面圧
dx シール影響長さ
Wa 接触面圧の傾き
α 第1の角度
β 第2の角度
【要約】
【課題】 簡易な構成により摺動抵抗の増加を抑えつつ、グリス滲み量を低減させるシール機構を提供する。
【解決手段】 内部にグリス10が充填された電動アクチュエータ100のロッド1のシール機構において、ロッド1の一方の側に配置されるダブルリップワイパ6と、ダブルリップワイパ6からロッド1の長軸方向に一定の距離を隔てて配置されるシングルリップワイパ7と、を備え、ダブルリップワイパ6は、外部からのダストの侵入と内部の潤滑剤の流出とを低減し、シングルリップワイパ7は、ロッド1が挿通するロッドカバー5に一つのみ備えられ、潤滑剤が充填された内部に向かって延出するリップ部7aを有し、リップ部7aは、内部の潤滑剤の流失を低減することを特徴とする。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6