(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】穴拡げ性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241209BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20241209BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
(21)【出願番号】P 2023514003
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 KR2021012134
(87)【国際公開番号】W WO2022050818
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0113858
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-キュ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 キュン-レ
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 チャン-ヒョ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 キ-ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-ホ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110129668(CN,A)
【文献】特開2007-009317(JP,A)
【文献】国際公開第2011/148490(WO,A1)
【文献】特開2009-108343(JP,A)
【文献】特表2016-510361(JP,A)
【文献】国際公開第2020/169410(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/073538(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、炭素(C):0.05~0.15%、シリコン(Si):0.5%以下、マンガン(Mn):2.0~3.0%、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、
及び硫黄(S):0.01%以下
を含み、残部
はFe及び不可避不純物
からなり、
微細組織が面積分率35~60%のフェライト、40~50%のベイナイト、3%以下の残留オーステナイト及び残部マルテンサイトで構成され、
前記ベイナイト相の平均アスペクト比(長径:短径)が1.5~2.3:1である、穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項2】
前記マルテンサイト相を、面積分率15%以下(0%を除く)で含む、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、引張強度980MPa以上、降伏強度680MPa以下、伸び率13%以上である、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、降伏比が0.7以下であり、30%以上のHERを有する、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板。
【請求項5】
質量%で、炭素(C):0.05~0.15%、シリコン(Si):0.5%以下、マンガン(Mn):2.0~3.0%、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、
及び硫黄(S):0.01%以下
を含み、残部
はFe及び不可避不純物
からなる鋼スラブを加熱する段階と、
前記加熱されたスラブを出口側の温度Ar3以上~1000℃以下に仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、
前記巻取り後に常温まで冷却する段階と、
前記冷却後に圧下率40~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を連続焼鈍する段階と、
前記連続焼鈍後に650~700℃の温度範囲に1次冷却する段階と、
前記1次冷却後に300~580℃の温度範囲に2次冷却する段階と、を含み、
前記連続焼鈍段階は、加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が備えられた設備で行い、前記加熱帯の終了温度が前記均熱帯の終了温度に対して10℃以上高い、請求項1に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記加熱帯及び均熱帯の終了温度は、下記関係式を満たす、請求項5に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
[関係式]
10≦加熱帯の終了温度-均熱帯の終了温度(℃)≦40
【請求項7】
前記加熱帯の終了温度は790~830℃であり、均熱帯の終了温度は760~790℃である、請求項5に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記巻取り後の冷却は、平均冷却速度0.1℃/s以下(0℃/sは除く)で行う、請求項5に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記1次冷却は1~10℃/sの平均冷却速度で行い、
前記2次冷却は5~50℃/sの平均冷却速度で行う、請求項5に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記2次冷却後に、過時効処理する段階をさらに含み、
前記過時効処理は200~800秒間行う、請求項5に記載の穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用素材として好適な鋼に関し、具体的には、穴拡げ性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車産業分野では、各種の環境規制及びエネルギー使用規制により、燃費の向上又は耐久性の向上のために高強度鋼の使用が求められている。
【0003】
特に、自動車の衝撃安定性に対する規制が拡大され、車体の耐衝撃性を向上するためのメンバー(member)、シートレール(seat rail)、ピラー(pillar)などのような構造部材の素材として強度に優れた高強度鋼が採用されている。
【0004】
このような自動車部品は、安定性、デザインに応じて複雑な形状を有し、主にプレス金型で成形して製造するため、高強度と共に高レベルの成形性が要求される。
【0005】
鋼の強度が高いほど、衝撃エネルギーの吸収に有利な特徴を有するのに対し、一般的に強度が高くなると、伸び率が減少して成形加工性が低下するという問題点がある。さらに、降伏強度が過度に高い場合には、成形時に金型における素材の流入が減少するため、成形性に劣るという問題がある。
【0006】
また、自動車部品は穴を加工した後に拡張する成形部位が多数であるため、円滑な成形のために穴拡げ性(Hole Expandability)が要求されるが、高強度鋼は穴拡げ性が低く、成形中にクラック(crack)のような欠陥が発生するという問題がある。このように、穴拡げ性に劣ると、自動車の衝突時に穴成形部でクラックが発生して部品が容易に破壊され、搭乗者の安全が脅かされるおそれがある。
【0007】
一方、自動車用素材として使用される高強度鋼としては、代表的に二相組織鋼(Dual Phase Steel、DP鋼)、変態誘起塑性鋼(Transformation Induced Plasticity Steel、TRIP鋼)、複合組織鋼(Complex Phase Steel、CP鋼)、フェライト-ベイナイト鋼(Ferrite Bainite steel、FB鋼)などがある。
【0008】
超高張力鋼であるDP鋼は、約0.5~0.6レベルの低い降伏比を有するため加工が容易であり、TRIP鋼に次いで高い伸び率を有するという利点がある。そのため、主に、ドアアウター、シートレール、シートベルト、サスペンション、アーム、ホイールディスクなどに適用されている実情である。
【0009】
TRIP鋼は、0.57~0.67の範囲の降伏比を有するため、優れた成形性(高延性)を有するという特徴がある。そのため、メンバー、ループ、シートベルト、バンパーレールなどのような高成形性が要求される部品に好適である。
【0010】
CP鋼は、低降伏比と共に、高い伸び率及び曲げ加工性により、サイドパネル、アンダーボディ補強材などに適用される。FB鋼は、穴拡げ性に優れ、主にサスペンションロアアームやホイールディスクなどに適用される。
【0011】
このうち、DP鋼は、主に延性に優れたフェライト及び強度の高い硬質相(マルテンサイト相、ベイナイト相)で構成され、微量の残留オーステナイトが存在してもよい。このようなDP鋼は降伏強度が低く、引張強度が高いため、降伏比(Yield Ratio、YR)が低く、高い加工硬化率、高延性、連続降伏挙動、常温耐時効性、焼付硬化性などに優れるという特性を有する。また、組織中のベイナイト相の分率及び形状を制御する場合、穴拡げ性の高い高強度鋼として製造することができる。
【0012】
ところが、引張強度980MPa以上の超高強度を確保するためには、強度の向上に有利なマルテンサイト相のような硬質相(hard phase)の分率を高くしなければならず、この場合、降伏強度が上昇してプレス成形中にクラック(crack)などの欠陥が発生するという問題がある。
【0013】
一般的に、自動車用DP鋼は、製鋼及び連鋳工程によってスラブを作製した後、このスラブに対して[加熱-粗圧延-仕上げ熱間圧延]して熱延コイルを得てから焼鈍工程を経て最終製品として製造する。
【0014】
ここで、焼鈍工程は主に冷延鋼板の製造時に行われる工程であって、冷延鋼板は、熱延コイルを酸洗して表面スケール(scale)を除去し、常温で一定の圧下率で冷間圧延した後、焼鈍工程、及び必要に応じて追加の調質圧延工程を経て製造される。
【0015】
冷間圧延して得られた冷延鋼板(冷延材)は、それ自体が非常に硬化した状態であり、加工性を要求する部品を作製するには適していないため、後続工程として連続焼鈍炉内の熱処理によって軟質化させて加工性を向上させることができる。
【0016】
一例として、焼鈍工程は、加熱炉内で鋼板(冷延材)を約650~850℃に加熱した後、一定時間維持することで、再結晶と相変態現象によって硬度を低下させ、加工性を改善することができる。
【0017】
焼鈍工程を経ていない鋼板は、硬度、特に、表面硬度が高く加工性が不足する。これに対し、焼鈍工程が行われた鋼板は、再結晶組織を有することによって、硬度、降伏点、抗張力が低くなるため、加工性の向上を図ることができる。
【0018】
DP鋼の降伏強度を下げる代表的な方法としては、連続焼鈍時に、加熱工程でフェライトを完全に再結晶させて等軸晶形態に製造することにより、後続工程においてオーステナイトが生成及び成長する際に等軸晶形態にすることで、粒子サイズが小さく且つ均一なオーステナイト相を形成する方法が有利である。
【0019】
連続焼鈍工程は、
図1に示すように、焼鈍炉内の[加熱帯-均熱帯-徐冷帯-急冷帯-過時効帯]を経て行われるが、このとき、加熱帯において十分な再結晶によって微細フェライト相を形成し、その後、均熱帯において微細フェライト相から小さく且つ均一なオーステナイト相を形成した後、冷却中にオーステナイトから微細なベイナイト、マルテンサイト相を形成させながらフェライト相を再結晶させるものである。
【0020】
一方、高強度鋼の加工性を向上させるための従来技術として、特許文献1は、組織微細化による方法を提示し、具体的に、マルテンサイト相を主体とする複合組織鋼板に対して組織の内部に粒径1~100nmの微細析出銅粒子を分散させる方法を開示する。しかし、この技術は、良好な微細析出相粒子を得るために2~5%のCu添加を要求するため、多量のCuに起因する赤熱脆性が発生するおそれがあり、製造コストが過度に上昇するという問題がある。
【0021】
特許文献2は、フェライトを基地組織としてパーライト(pearlite)を2~10面積%で含む組織を有し、炭・窒化物形成元素(ex、Ti等)の添加による析出強化及び結晶粒微細化に起因する高強度鋼板を開示している。この技術の場合、低い製造コストに比べて高強度を容易に達成できるという利点があるが、微細析出によって再結晶温度が急激に上昇するため、十分な再結晶による高延性を確保するためには、連続焼鈍時にかなり高い温度への加熱が必要となることが分かる。また、フェライト基地に炭・窒化物を析出させて鋼を強化させた従来の析出強化鋼は、600MPa以上の高強度を得るには限界がある。
【0022】
特許文献3は、炭素を0.18%以上含有する鋼材を連続焼鈍して常温まで水冷した後、120~300℃の温度で1~15分間過時効処理を行うことによってマルテンサイトの体積率を80~97%確保する技術を開示する。このような技術は、降伏強度の向上には有利であるが、水冷却時に鋼板の幅方向、長さ方向の温度ばらつきによってコイルの形状品質が劣り、ロールフォーミングなどの加工時、部位による材質不良、作業性の低下などの問題がある。
【0023】
前述の従来技術から照らしてみると、高強度鋼の穴拡げ性などのような成形性を向上させるためには、降伏強度は低くしながらも、延性を向上させることができる方法の開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】日本公開特許公報第2005-264176号
【文献】韓国公開特許公報第2015-0073844号
【文献】日本公開特許公報第1992-289120号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の一態様は、自動車の構造部材用等として好適な素材であって、低い降伏比、高い強度を有しながらも、延性の向上によって穴拡げ性などの成形性に優れた高強度鋼板及びそれを製造する方法を提供することである。
【0026】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一態様は、重量%で、炭素(C):0.05~0.15%、シリコン(Si):0.5%以下、マンガン(Mn):2.0~3.0%、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下、残部Fe及び不可避不純物を含み、微細組織が面積分率35~60%のフェライト、40~50%のベイナイト、残部マルテンサイト及び残留オーステナイトで構成され、上記ベイナイト相の平均アスペクト比(長径:短径)が1.5~2.3:1である、穴拡げ性に優れた高強度鋼板を提供する。
【0028】
本発明の他の一態様は、上述の合金組成を有する鋼スラブを加熱する段階と、上記加熱されたスラブを出口側の温度Ar3以上~1000℃以下に仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、上記熱延鋼板を400~700℃の温度範囲で巻き取る段階と、上記巻取り後に常温まで冷却する段階と、上記冷却後に圧下率40~70%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、上記冷延鋼板を連続焼鈍する段階と、上記連続焼鈍後に650~700℃の温度範囲に1次冷却する段階と、上記1次冷却後に300~580℃の温度範囲に2次冷却する段階と、を含み、上記連続焼鈍段階は、加熱帯、均熱帯、及び冷却帯が備えられた設備で行い、上記加熱帯の終了温度が上記均熱帯の終了温度に対して10℃以上高い、穴拡げ性に優れた高強度鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、高強度を有するにもかかわらず、穴拡げ性に優れ、成形性が向上した鋼板を提供することができる。
【0030】
このように、成形性が向上した本発明の鋼板は、プレス成形時にクラック又はシワなどの加工欠陥を防止することができるため、複雑な形状への加工が要求される構造用などの部品に好適に適用できる効果がある。さらに、このような部品が適用された自動車が不可避に衝突する場合、クラックなどの欠陥が容易に形成されないように、耐衝突性の向上した素材の製造にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】通常的な連続焼鈍工程(CAL)の熱処理ダイヤグラムを模式化したものである。
【
図2】本発明の一態様による連続焼鈍工程(CAL)の熱処理ダイヤグラムを模式化したものであり、
図1のダイヤグラム(灰色線)と共に示した。
【
図3】本発明の一実施例による発明例の微細組織の写真を示したものである。
【
図4】本発明の一実施例による比較例の微細組織の写真を示したものである。
【
図5】本発明の一実施例において、ベイナイト結晶粒のアスペクト比の模式図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の発明者らは、自動車用素材のうち、複雑な形状への加工が要求される部品等に好適に使用できるレベルの成形性を有する素材を開発するために鋭意研究を行った。
【0033】
特に、本発明者らは、鋼の延性に影響を及ぼす軟質相の十分な再結晶を誘導し、強度の確保に有利な硬質相の微細化及び結晶粒形状の制御により、目標とすることを達成できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0035】
本発明の一態様による穴拡げ性に優れた高強度鋼板は、重量%で、炭素(C):0.05~0.15%、シリコン(Si):0.5%以下、マンガン(Mn):2.0~3.0%、チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く)、ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く)、クロム(Cr):1.5%以下(0%を除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下を含むことができる。
【0036】
以下では、本発明で提供する鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0037】
一方、本発明において特に断らない限り、各元素の含量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0038】
(炭素(C):0.05~0.15%)
炭素(C)は、固溶強化のために添加される重要な元素であり、このようなCは析出元素と結合して微細析出物を形成することによって、鋼の強度向上に寄与する。
【0039】
Cの含量が0.15%を超えると、硬化能が増加し、鋼の製造時、冷却中にマルテンサイトが形成されるため強度が過度に上昇する一方、伸び率の減少を招くという問題がある。また、溶接性に劣り、部品に加工する際に溶接欠陥が発生するおそれがある。一方、上記Cの含量が0.05%未満であると、目標レベルの強度を確保し難くなる。
【0040】
したがって、上記Cを0.05~0.15%含むことができる。より有利には0.06%以上含むことができ、0.13%以下で含むことができる。
【0041】
(シリコン(Si):0.5%以下)
シリコン(Si)はフェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進させて目標レベルのフェライト分率を確保するのに有利である。また、固溶強化能が良くフェライトの強度を高めるのに効果的であり、鋼の延性を低下させることなく強度を確保する上で有用な元素である。
【0042】
このようなSiの含量が0.5%を超えると、固溶強化効果が過度となってむしろ延性が低下し、表面スケール欠陥を誘発してめっきの表面品質に悪影響を及ぼすことになる。また、化成処理性を阻害するという問題がある。
【0043】
したがって、上記Siを0.5%以下含むことができ、0%は除くことができる。より有利には0.1%以上含むことができる。
【0044】
(マンガン(Mn):2.0~3.0%)
マンガン(Mn)は、鋼中の硫黄(S)をMnSとして析出させてFeSの生成による熱間脆性を防止し、鋼の固溶強化に有利な元素である。
【0045】
このようなMnの含量が2.0%未満であると、上述の効果が得られないだけでなく、目標レベルの強度の確保に困難がある。一方、その含量が3.0%を超えると、溶接性、熱間圧延性などの問題が発生する可能性が高いと共に、硬化能の増加によってマルテンサイトがより容易に形成されるため、延性が低下するおそれがある。また、組織内にMn-Band(Mn酸化物の帯)が過度に形成されて加工クラックのような欠陥発生のリスクが高まるという問題がある。そして、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出し、めっき性を大きく阻害するという問題がある。
【0046】
したがって、上記Mnを2.0~3.0%含むことができ、より有利には2.2~2.8%含むことができる。
【0047】
(チタン(Ti):0.1%以下(0%を除く))
チタン(Ti)は微細炭化物を形成する元素であって、降伏強度及び引張強度の確保に寄与する。また、Tiは鋼中のNをTiNとして析出させ、鋼中に不可避に存在するAlによるAlNの形成を抑制する効果があり、連続鋳造時にクラックが発生する可能性を低減させる効果がある。
【0048】
このようなTiの含量が0.1%を超えると、粗大な炭化物が析出し、鋼中の炭素量の低減によって強度及び伸び率が減少するおそれがある。また、連続鋳造時にノズルの目詰まりを誘発するおそれがあり、製造コストが上昇するという問題がある。
【0049】
したがって、上記Tiを0.1%以下含むことができ、0%は除くことができる。
【0050】
(ニオブ(Nb):0.1%以下(0%を除く))
ニオブ(Nb)は、オーステナイト粒界に偏析し、焼鈍熱処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、微細な炭化物を形成して強度の向上に寄与する元素である。
【0051】
このようなNbの含量が0.1%を超えると、粗大な炭化物が析出し、鋼中の炭素量の低減によって強度及び伸び率が低下する可能性があり、製造コストが上昇するという問題がある。したがって、上記Nbを0.1%以下含むことができ、0%は除くことができる。
【0052】
(クロム(Cr):1.5%以下(0%を除く))
クロム(Cr)は、ベイナイト相の形成を容易にする元素であり、焼鈍熱処理時にマルテンサイト相の形成を抑制する一方で、微細な炭化物を形成して強度の向上に寄与する元素である。
【0053】
このようなCrの含量が1.5%を超えると、ベイナイト相が過度に形成されて伸び率が減少し、粒界に炭化物が形成される場合、強度及び伸び率が低下するおそれがある。また、製造コストが上昇するという問題がある。
【0054】
したがって、上記Crを1.5%以下含むことができ、0%は除くことができる。
【0055】
(リン(P):0.1%以下)
リン(P)は、固溶強化効果が最も大きい置換型元素であって、面内異方性を改善し、成形性を大きく低下させることなく強度の確保に有利な元素である。
しかし、このようなPを過剰に添加する場合、脆性破壊が発生する可能性が大きく増加し、熱間圧延の途中でスラブの板破断が発生する可能性が増加し、めっきの表面特性を阻害するという問題がある。
【0056】
したがって、本発明では、上記Pの含量を0.1%以下に制御することができ、不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0057】
(硫黄(S):0.01%以下)
硫黄(S)は、鋼中の不純物元素であって不可避に添加される元素であり、延性を阻害するため、その含量を可能な限り低く管理することが好ましい。
特に、Sは赤熱脆性を発生させる可能性を高めるという問題があるため、その含量を0.01%以下に制御することが好ましい。但し、製造過程中に不可避に添加されるレベルを考慮して0%は除くことができる。
【0058】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを排除することはできない。このような不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、特にその全ての内容を言及しない。
【0059】
上述した合金組成を有する本発明の鋼板は、微細組織として、フェライトと硬質相(hard phase)であるベイナイト相とマルテンサイト相で構成されることができる。
【0060】
具体的に、本発明の鋼板は、フェライト相を面積分率35~60%で含み、ベイナイト相を40~50%含むことができる。その他の残部としては、マルテンサイト相と微量の残留オーステナイト相を含むことができる。
【0061】
上記ベイナイト相の分率が過度に高いと、相対的に軟質相の分率が低くなり目標レベルの成形性を確保できなくなる。これに対し、その分率が40%未満であると、穴拡げ性が低下するおそれがある。
【0062】
一方、上記残留オーステナイト相は、その分率が3%を超えないことが有利であり、0%であっても意図する物性の確保には無理がないことを明らかにする。
【0063】
本発明の鋼板は、上述した分率の範囲でベイナイト相を含むにあたり、上記ベイナイト相の形状を制御することで、目標とする成形性をより有利に確保することができる。
【0064】
具体的に、上記ベイナイト相は、平均アスペクト比(長径:短径)が1.5~2.3:1であることが好ましい。
【0065】
上記ベイナイトの平均アスペクト比が2.3を超えると、圧延方向に分布するベイナイトに局所的に変形及び応力が集中し、延性が低下するという問題がある。
ベイナイト相の平均アスペクト比の下限は特に制限する必要はないが、加工によるベイナイト相の形状を考慮すると、上記平均アスペクト比の下限を1.5以上に設定することができる。
【0066】
本発明において、アスペクト比とは、圧延方向に対する結晶粒度の縦(長径)と横(短径)との比(長径:短径)を意味し、例えば、
図5に示す通りである。
図5において(a)は、アスペクト比が約1:1程度であるベイナイトの結晶粒度を示す模式図であり、(b)は、本発明で制限するレベルのアスペクト比を有するベイナイトの結晶粒度を示す模式図である。なお、本発明において、アスペクト比の値とは、ベイナイト結晶粒の平均アスペクト比の値を意味する。
【0067】
一方、上記硬質相を構成する相のうちマルテンサイト相は、その分率に対して具体的に限定しないが、引張強度980MPa以上の超高強度を確保するためには、全組織分率のうち最大15面積%、好ましくは15面積%以下(0%を除く)でマルテンサイト相を含むことができる。
【0068】
上述した微細組織を有する本発明の鋼板は、引張強度980MPa以上、降伏強度680MPa以下、伸び率(総伸び率)が13%以上であり、降伏比が0.7以下であって、高強度とともに高延性、低降伏比の特性を有することができる。
【0069】
さらに、上記鋼板は、30%以上の穴拡げ率(HER)を有することにより、穴拡げ性に優れた効果も有することができる。
【0070】
以下、本発明の他の一態様による穴拡げ性に優れた高強度鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0071】
簡単に言えば、本発明は、「鋼スラブ加熱-熱間圧延-巻取り-冷間圧延-連続焼鈍」の工程を経て目的とする鋼板を製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0072】
[鋼スラブ加熱]
まず、前述した合金組成を満たす鋼スラブを準備した後、これを加熱することができる。
【0073】
本工程は、後続する熱間圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。本発明では、このような加熱工程の条件については特に制限せず、通常の条件であれば構わない。一例として、1100~1300℃の温度範囲で加熱工程を行うことができる。
【0074】
[熱間圧延]
上記により加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができ、このとき出口側の温度Ar3以上~1000℃以下で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
【0075】
上記仕上げ熱間圧延時に出口側の温度がAr3未満であると、熱間変形抵抗が急激に増加し、熱延コイルの上(top)部、下(tail)部及びエッジ(edge)部が単相領域となり、面内異方性が増加して成形性が低下するおそれがある。一方、その温度が1000℃を超えると、相対的に圧延荷重が減少して生産性には有利であるものの、厚い酸化スケールが発生するおそれがある。
【0076】
より具体的に、上記仕上げ熱間圧延は760~940℃の温度範囲で行うことができる。
【0077】
[巻取り]
上記により製造された熱延鋼板をコイル状に巻き取ることができる。
【0078】
上記巻取りは400~700℃の温度範囲で行うことができる。万一、巻取り温度が400℃未満であると、マルテンサイト又はベイナイトの過剰な形成によって熱延鋼板の過度な強度上昇を招き、以後の冷間圧延時に負荷による形状不良などの問題が生じる可能性がある。一方、巻取り温度が700℃を超えると、表面スケールが増加して酸洗性が低下するという問題がある。
【0079】
[冷却]
上記巻き取られた熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以下(0℃/sを除く)の平均冷却速度で冷却することが好ましい。このとき、上記巻き取られた熱延鋼板は、移送、積置などの過程を経た後に冷却が行われてもよいが、冷却前の工程がこれに限定されるものではない。
【0080】
このように、巻き取られた熱延鋼板を一定速度で冷却することにより、オーステナイトの核生成サイト(site)となる炭化物を微細に分散させた熱延鋼板を得ることができる。
【0081】
[冷間圧延]
上記により巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板に製造することができる。
【0082】
このとき、上記冷間圧延は40~70%の冷間圧下率で行うことができる。
上記冷間圧下率が40%未満であると、再結晶の駆動力が弱化し、良好な再結晶粒を得る上で困難がある。一方、上記冷間圧下率が70%を超えると、鋼板のエッジ部(edge)部でクラックが発生する可能性が高く、圧延荷重が急激に増加するおそれがある。
【0083】
本発明は、上記冷間圧延前に熱延鋼板を酸洗処理することができ、上記酸洗処理工程は、通常の方法で行うことができることを明らかにする。
【0084】
[連続焼鈍]
上記により製造された冷延鋼板を連続焼鈍処理することが好ましい。上記連続焼鈍処理は、一例として、連続焼鈍炉(CAL)で行われることができる。
【0085】
通常、連続焼鈍炉(CAL)は、[加熱帯-均熱帯-冷却帯(徐冷帯及び急冷帯)-過時効帯]で構成されることができるが、このような連続焼鈍炉に冷延鋼板を装入した後、加熱帯で特定温度に加熱し、目標温度に到達した後、均熱帯で一定時間維持する工程を経る。
【0086】
本発明では、最終微細組織として再結晶されたフェライトと共に、微細なベイナイト、マルテンサイト相を得るために、連続焼鈍時に[加熱帯-均熱帯]からなる加熱区間において、鋼板に十分な入熱が加えられる方法を構築しようとした。
【0087】
具体的に説明すると、一般的な連続焼鈍工程は、加熱帯の最終温度と均熱帯の温度とを同様に制御するのに対し、本発明では、加熱帯及び均熱帯の温度を独立に制御することに特徴がある。
【0088】
言い換えれば、一般的な連続焼鈍工程では、均熱帯の開始温度と終了温度とを同様に制御するが、これは、加熱帯の終了温度と均熱帯の開始温度とが同じであることを意味する。
【0089】
これとは異なり、本発明は、加熱帯の温度を均熱帯の温度よりも高く制御することによって、加熱区間においてフェライトの再結晶をさらに促進させることができ、これにより、微細なフェライトの形成が誘導され、フェライト粒界に形成されるオーステナイトも小さく且つ均一に形成することができる。
【0090】
好ましくは、本発明は、上記加熱帯の終了温度を上記均熱帯の終了温度に対して10℃以上高く制御し、より好ましくは、下記関係式を満たすことができる。
【0091】
[関係式]
10≦加熱帯の終了温度-均熱帯の終了温度(℃)≦40
【0092】
すなわち、本発明は、加熱帯の終了温度を均熱帯の終了温度に対して高く制御し、且つその温度差が10℃未満であると、フェライト再結晶が遅れて微細且つ均一なオーステナイト相が得られ難い。一方、その温度差が40℃を超えると、過度な温度差によって後続の冷却工程が十分に行われず、最終組織において粗大なベイナイト又は粗大なマルテンサイト相が形成されるおそれがある。
【0093】
本発明において、上記加熱帯の終了温度は790~830℃であってもよいが、その温度が790℃未満であると、再結晶のための十分な入熱を加えることができなくなる。一方、その温度が830℃を超えると、生産性が低下し、オーステナイト相が過度に形成され、後続冷却後の硬質相の分率が大きく増加し、鋼の延性が低下するおそれがある。
【0094】
また、上記均熱帯の終了温度は760~790℃であってもよく、その温度が760℃未満であると、加熱帯の終了温度で過度な冷却が要求されるため経済的に不利であり、再結晶のための熱量が十分でない可能性がある。一方、その温度が790℃を超えると、オーステナイトの分率が過度となり、冷却中に硬質相の分率を超えるため、成形性が減少するおそれがある。
【0095】
なお、本発明において、上記加熱帯の終了温度と均熱帯の終了温度との間の温度差は、加熱帯工程が完了する時点から均熱帯工程が完了する時点まで、加熱手段を遮断することから具現することができ、一例として、該当区間において炉冷処理することができる。但し、これに限定するものではないことを明らかにする。
【0096】
[段階的冷却]
上記により連続焼鈍処理された冷延鋼板を冷却することによって、目標とする組織を形成することができ、このとき、段階的(stepwise)に冷却を行うことが好ましい。
【0097】
本発明において、上記段階的冷却は、1次冷却-2次冷却からなることができ、具体的に、上記連続焼鈍後に650~700℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却した後、300~580℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で2次冷却を行うことができる。
【0098】
このとき、2次冷却に比べて1次冷却をより遅く行うことによって、その後、相対的に急冷区間である2次冷却時の急激な温度の低下による板形状の不良を抑制することができる。
【0099】
上記1次冷却時に終了温度が650℃未満であると、低すぎる温度により炭素の拡散活動度が低いため、フェライト内の炭素濃度が高くなるのに対し、オーステナイト内の炭素濃度は低くなることによって硬質相の分率が過度となり降伏比が増加する。それにより、加工時にクラック発生の傾向が高くなる。また、均熱帯及び徐冷帯の冷却速度が過度に大きくなり、板の形状が不均一になるという問題が発生する。
【0100】
上記終了温度が700℃を超えると、後続冷却(2次冷却)時に過度に高い冷却速度が要求されるという欠点がある。また、上記1次冷却時に平均冷却速度が10℃/sを超えると、炭素の拡散が十分に起こらなくなる。一方、生産性を考慮して1次冷却工程を1℃/s以上の平均冷却速度で行うことができる。
【0101】
上述したように1次冷却を完了した後には、一定以上の冷却速度で急冷(2次冷却)を行うことができる。このとき、2次冷却の終了温度が300℃未満であると、鋼板の幅方向及び長さ方向に冷却ばらつきが発生して板形状が低下するおそれがある。一方、その温度が580℃を超えると、硬質相を十分に確保できなくなって強度が低下する可能性がある。また、上記2次冷却時に平均冷却速度が5℃/s未満であると、硬質相の分率が過度となるおそれがあり、一方、50℃/sを超えると、むしろ硬質相が不十分となるおそれがある。
【0102】
なお、必要に応じて、上記段階的冷却を完了した後に過時効処理を行うことができる。
【0103】
上記過時効処理とは、上記2次冷却の終了温度の後に一定時間維持する工程であって、コイルの幅方向、長さ方向に均一な熱処理が行われることで形状品質を向上させる効果がある。このために、上記過時効処理は200~800秒間行うことができる。
【0104】
上記過時効処理は、上記2次冷却の終了直後に行うことができるため、その温度が上記2次冷却の終了温度と同一であるか、又は上記2次冷却の終了温度の範囲内で行うことができる。
【0105】
前述したように製造された本発明の高強度鋼板は、微細組織として硬質相と軟質相で構成され、特に最適化された焼鈍工程によってフェライト再結晶を極大化することで、最終的に再結晶されたフェライト基地に硬質相であるベイナイトとマルテンサイト相とが均一に分布した組織を有することができる。
【0106】
このことから、本発明の鋼板は、引張強度980MPa以上の高強度を有するにもかかわらず、低降伏比及び高延性の確保により、優れた穴拡げ性、成形性を確保することができる。
【0107】
以下、本発明について実施例を挙げてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであるだけで、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項、及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0108】
(実施例)
下記表1に示す合金組成を有する鋼スラブを作製した後、それぞれの鋼スラブを1200℃で1時間加熱した後、仕上げ圧延温度880~920℃で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造した。その後、それぞれの熱延鋼板を650℃で巻き取った後、0.1℃/sの冷却速度で常温に冷却した。その後、巻き取られた熱延鋼板を50%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。上記それぞれの冷延鋼板について、下記表2に示す温度条件で連続焼鈍を行った後、段階的冷却(1次-2次)後に360℃で520秒間過時効処理を行い、最終鋼板を製造した。
【0109】
このとき、段階的冷却時の1次冷却は3℃/sの平均冷却速度、2次冷却は20℃/sの平均冷却速度で行った。
【0110】
上記により製造されたそれぞれの鋼板について微細組織を観察し、機械的特性及びめっき特性を評価した後、その結果を下記表3に示した。
【0111】
このとき、それぞれの試験片に対する引張試験は、圧延方向の垂直方向にJIS5号サイズの引張試験片を採取した後、ストレインレート0.01/sで引張試験を行った。
【0112】
一方、穴拡げ性(HER:Hole Expanding Ratio)は、打ち抜かれた穴又は断面部を拡張及び延伸する加工において鋼板の均一伸び率を超える大きな変形を受ける場合、耐えられる極限変形能を測定する試験である。穴拡げ中にクラック(crack)が発生した時点の直径値を測定(df)した後、HER値を算出(下記の式を参照)することができ、これはISO 16630標準方法に従って行った。
【0113】
HER=(Df-Do)/Do×100(%)
(Do:initial punched hole diameter、Df:inner hole diameter after fracture)
【0114】
そして、組織相(phase)のうちベイナイトは、ナイタル(nital)エッチング後5000倍率でSEMを介して観察した。このとき、観察されたベイナイト相の結晶粒形状から延伸された方向を縱と見なしてベイナイト粒子のアスペクト比(長径:短径)を測定し、その分率を測定した。
【0115】
その他の相(phase)などについても、ナイタルエッチング後にSEMとイメージ分析器(Image analyzer)を用いて、それぞれの分率を測定した。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
上記表1~3に示すように、鋼の合金組成と製造条件、特に、連続焼鈍工程が本発明で提案する条件を全て満たす発明例1~9は、意図する微細組織が形成されることによって、高強度を有しながらも伸び率に優れ、穴拡げ性に優れており、このことから、目標レベルの成形性の確保が可能であることが確認できる。
【0120】
これに対し、鋼板の製造工程のうち、連続焼鈍工程が従来と同様に、すなわち、加熱帯の終了温度と均熱帯の終了温度とを同様に適用した比較例1~6は、ベイナイト相が過度に延伸され、アスペクト比(長径:短径)が2.3超:1と現れ、本発明で目標とする物性を満たすことができなかった。このうち、焼鈍温度が相対的に低い比較例1~2及び比較例4~5は伸び率が低く、穴拡げ性に劣り、その他の比較例3及び比較例6は降伏強度が目標レベルを超えている。
【0121】
一方、鋼板の製造工程のうち連続焼鈍時に、加熱帯の終了温度に比べて均熱帯の終了温度が過度に高い比較例7は、ベイナイト相が50面積%を超えて形成され、強度の確保には有利であるものの、穴拡げ性には劣っていた。
【0122】
図3は、発明例4の微細組織の写真、
図4は、比較例6の微細組織の写真を示したものである。
【0123】
発明例4では、相対的に十分な分率の再結晶フェライト基地に微細なベイナイト相と一定分率のマルテンサイト相が形成されたことが確認できる。
【0124】
これに対し、比較例6は、フェライトが圧延方向に延伸されており、同じ形態でベイナイトが形成されたことが確認でき、ベイナイト分率が増加して降伏強度及び降伏比が高く、成形性に劣っていた。