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特許7600387検体搬送装置、および検体分析システム、並びに検体の搬送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】検体搬送装置、および検体分析システム、並びに検体の搬送方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/04 20060101AFI20241209BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
G01N35/04 G
B65G54/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023520809
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008252
(87)【国際公開番号】W WO2022239377
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2021081527
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】東 信二
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 洋
(72)【発明者】
【氏名】矢野 茂
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077971(JP,A)
【文献】特開平6-156730(JP,A)
【文献】特表2019-505796(JP,A)
【文献】国際公開第2021/065362(WO,A1)
【文献】特開平4-350023(JP,A)
【文献】特開2020-142913(JP,A)
【文献】特開2020-142912(JP,A)
【文献】特開2020-125930(JP,A)
【文献】特開2020-106354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
B65G 54/02
H02N 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体が収容された検体容器を搬送する検体搬送装置であって、
磁性体を有しており、前記検体容器を把持するホルダと、
コイルシャフトおよび前記コイルシャフトの外周側に巻かれているコイルを有する磁極を複数有する搬送タイルと、を備え、
前記搬送タイル内において前記ホルダが停止しない位置の直下の前記磁極と前記ホルダが停止する位置の直下の前記磁極とで、前記コイル、前記コイルシャフトのうちいずれか一方の仕様が異なる
ことを特徴とする検体搬送装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検体搬送装置において、
前記仕様として、前記コイルシャフトの透磁率を変えている
ことを特徴とする検体搬送装置。
【請求項3】
請求項1に記載の検体搬送装置において、
前記仕様として、前記コイルの巻き数を変えている
ことを特徴とする検体搬送装置。
【請求項4】
請求項1に記載の検体搬送装置において、
前記仕様として、前記コイルおよび前記コイルシャフトの断面積を変えている
ことを特徴とする検体搬送装置。
【請求項5】
請求項1に記載の検体搬送装置において、
前記仕様として、前記コイルの長さを変えている
ことを特徴とする検体搬送装置。
【請求項6】
請求項1に記載の検体搬送装置において、
前記搬送タイルを複数備える場合に、他の前記搬送タイルと接する前記搬送タイルの端部を前記ホルダが停止しない位置とし、他の箇所のうち1箇所以上を停止する位置とする
ことを特徴とする検体搬送装置。
【請求項7】
請求項1に記載の検体搬送装置を備えた
ことを特徴とする検体分析システム。
【請求項8】
磁性体を備えるホルダに保持された検体容器に収容された検体の搬送方法であって、
コイルシャフトおよび前記コイルシャフトの外周側に巻かれているコイルを有する磁極を複数有する搬送タイルを1枚以上並べ、
前記磁性体と前記磁極との相互作用によって前記ホルダを前記搬送タイル上を滑走させることで前記検体を搬送するにあたり、
前記ホルダが停止しない位置の直下の前記磁極と前記ホルダが停止する位置の直下の前記磁極とで、前記コイル、前記コイルシャフトのうちいずれか一方の仕様が異なるようにした
ことを特徴とする検体の搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液,血漿,血清,尿、その他の体液等の生体試料(以下検体と記載)の分析を行う検体分析システムや分析に必要な前処理を行う検体前処理システムに用いられる検体搬送装置、および検体分析システム、並びに検体の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に柔軟であり高い搬送性能を与える、研究室試料配送システムおよび対応する動作方法の一例として、特許文献1には、いくつかの容器キャリアであって、各々が少なくとも1つの磁気的活性デバイス、好ましくは少なくとも1つの永久磁石を備え、試料容器を運ぶように適合された容器キャリアと、容器キャリアを運ぶように適合された搬送平面と、搬送平面の下方に静止して配置された幾つかの電磁アクチュエータであって、容器キャリアに磁力を印加することによって搬送平面の上で容器キャリアを移動させるように適合された電磁アクチュエータと、を備える、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-77971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
臨床検査のための検体分析システムでは、例えば血液、血漿、血清、尿、その他の体液などの生体試料(サンプル)(以下「検体」と呼称する)に対して、指示される分析項目の検査を実行する。この検体分析システムでは、複数の機能を有する装置を接続して、自動的に各工程の処理を実行する。つまり、検査室の業務合理化のため、生化学や免疫などの複数の分析を実行する分析部(分析工程)やこの分析に必要な複数の前処理を実行する前処理部(前処理工程)などを搬送ラインで接続して、1つの検体分析システムとして使用する。
【0005】
近年、医療の高度化および患者の高齢化によって、検体分析の重要性が高まっている。そこで、検体分析システムの分析処理能力を向上させるため、検体の高速搬送、大量搬送、同時搬送、および複数方向への搬送が要望されている。
【0006】
このような本技術分野の背景技術として、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に記載の技術では、コイルへの電流印加により発生する電磁力によりホルダを駆動させる。この方式は、モータ、プーリ、ベルト方式と比較して消費電力が高くなることが予想される。そこで、消費電力を抑えつつホルダを駆動させる搬送システムが提案されている。
【0007】
しかしながら、電磁力は、ホルダ駆動と同時にホルダ位置検出も兼ねており、位置検出の精度を高めようとすると駆動力が落ち、駆動力を高めようとすると位置検出の精度が落ちるというトレードオフの関係にある。このため、両方を満足することは困難であり、改善が待たれている。
【0008】
本発明は、消費電力を抑えつつ、安定搬送が可能な検体搬送装置、および検体分析システム、並びに検体の搬送方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、検体が収容された検体容器を搬送する検体搬送装置であって、磁性体を有しており、前記検体容器を把持するホルダと、コイルシャフトおよび前記コイルシャフトの外周側に巻かれているコイルを有する磁極を複数有する搬送タイルと、を備え、前記搬送タイル内において前記ホルダが停止しない位置の直下の前記磁極と前記ホルダが停止する位置の直下の前記磁極とで、前記コイル、前記コイルシャフトのうちいずれか一方の仕様が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消費電力を抑えつつ、安定搬送を実現することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係る検体搬送装置を備えた検体分析システム全体の構成を示す平面図である。
図2】実施例に係る検体搬送装置の構成の一例を示す上面図である。
図3図2のA-A’断面図である。
図4】電磁搬送におけるコイルシャフト径と推力との関係を説明する図である。
図5】電磁搬送におけるコイルシャフト径と検出に関係するインダクタンス変化率との関係を説明する図である。
図6】実施例に係る検体搬送装置の他の構成の例を示す、図2のA-A’断面に相当する図である。
図7】実施例に係る検体搬送装置の更に他の構成の例を示す、図2のA-A’断面に相当する図である。
図8】実施例に係る検体搬送装置の更に他の構成の例を示す、図2のA-A’断面に相当する図である。
図9】実施例に係る検体搬送装置の更に他の構成の例を示す上面図である。
図10図9のB-B’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の検体搬送装置、および検体分析システム、並びに検体の搬送方法の実施例について図1乃至図10を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0013】
最初に、検体分析システムの全体構成について図1を用いて説明する。図1は本実施例に係る検体搬送装置を備えた検体分析システム全体の構成を示す平面図である。
【0014】
図1に示した本実施例における検体分析システム1000は、血液、尿などの検体の成分を自動で分析するための分析装置を備えたシステムである。
【0015】
検体分析システム1000の主な構成要素は、検体が収容された検体容器150(図3等参照)が搭載された容器ホルダ100(図3参照)もしくは検体容器150が搭載されていない空の容器ホルダ100を所定の目的地まで搬送する複数の搬送装置700(図1では12個)、複数の分析装置800(図1では4個)、検体分析システム1000を統合管理する制御用コンピュータ900である。
【0016】
分析装置800は、搬送装置700により搬送された検体の成分の定性・定量分析を行うユニットである。このユニットにおける分析項目は特に限定されず、生化学項目や免疫項目を分析する公知の自動分析装置の構成を採用することができる。更に、複数設ける場合に、同一仕様でも異なる仕様でもよく、特に限定されない。
【0017】
各々の搬送装置700は、磁極707(図3参照)と容器ホルダ100に設けられた磁性体105(図3参照)との相互作用によって搬送路上を滑走させることで容器ホルダ100に搭載された、検体が収容された検体容器150を目的地(分析装置800や取り出し口など)まで搬送する装置である。その詳細は図2以降を用いて詳細に説明する。
【0018】
制御用コンピュータ900は、搬送装置700や分析装置800を含めたシステム全体の動作を制御するものであり、液晶ディスプレイ等の表示機器や入力機器、記憶装置、CPU、メモリなどを有するコンピュータで構成される。制御用コンピュータ900による各機器の動作の制御は、記憶装置に記録された各種プログラムに基づき実行される。
【0019】
なお、制御用コンピュータ900で実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに別れていてもよく、それらの組み合わせでもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていても良い。
【0020】
なお、上述の図1では、分析装置800が4つ設けられている場合について説明しているが、分析装置800の数は特に限定されず、1つ以上とすることができる。同様に、搬送装置700の数についても特に限定されず、1つ以上とすることができる。
【0021】
また、検体分析システム1000には、検体に対する前処理や後処理を実行する各種検体前処理・後処理部を設けることができる。検体前処理・後処理部の詳細な構成は特に限定されず、公知の前処理装置の構成を採用することができる。
【0022】
次に、本実施例の搬送装置700の構成について図2乃至図10を用いて説明する。図2は検体搬送装置の構成の一例を示す上面図、図3図2のA-A’断面図である。図4は電磁搬送におけるコイルシャフト径と推力との関係を説明する図、図5は電磁搬送におけるコイルシャフト径と検出に関係するインダクタンス変化率との関係を説明する図である。図6乃至図8は検体搬送装置の他の構成の例を示す、図2のA-A’断面に相当する図である。図9は検体搬送装置の更に他の構成の例を示す上面図、図10図9のB-B’断面図である。
【0023】
図2および図3に示すように、検体分析システム1000における検査対象である検体は、検体容器150に採取,収容された状態でハンドリングされる。検体容器150はオペレータによって手作業で、または自動挿入ユニットによって容器ホルダ100に挿入され、システム内を搬送され、前処理や分析等の各種の処理が実施される。
【0024】
検体が収容された検体容器150が搭載された容器ホルダ100は搬送装置700中に1個以上設けられており、各々が、磁性体105と、検体容器150を支える把持部101と、を有している。
【0025】
磁性体105は、複数の容器ホルダ100の各々の底面付近に設けられており、容器ホルダ100はこの磁性体105に作用する電磁力により搬送される。
【0026】
磁性体105は、例えばネオジムやフェライトなどの永久磁石で構成されるが、その他の磁石、あるいは磁性体でも構成でき、それらを適宜組み合わせたものとすることができる。
【0027】
磁性体105を有する容器ホルダ100は、搬送タイル120の上を滑るように移動する。その搬送力を生成するために、搬送タイル120の下部には、円柱状のコイルシャフト705,705A、およびそのコイルシャフト705,705Aの外周に巻かれたコイル706で構成される磁極707,707Aが複数設けられている。この磁極707,707Aが、磁性体105の位置を検出する複数の検出点の各々を構成する。また、この磁極707を覆うようにその上方に搬送路が複数設けられる。コイルシャフト705,705Aおよびコイル706の詳細は後述する。
【0028】
搬送タイル120は、摩擦力の小さい平らな面で構成されており、容器ホルダ100がその上面を滑走する。
【0029】
本実施例の搬送装置700では、その内部に複数設けられている磁極707は、磁性体105の位置検出を担うとともに、磁性体105の搬送、すなわち検体の搬送を担っている。
【0030】
磁極707には、磁極707に対して所定の電圧を印加することで所定の電流をコイル706に流す駆動部708が接続されている。この駆動部708によって電圧が印加された磁極707は電磁石として働き、搬送タイル120上にある容器ホルダ100に有する磁性体105を引き付ける。磁極707によって容器ホルダ100を引き付けた後に、磁極707への駆動部708より電圧印加を止め、磁極707と隣り合う異なった磁極707に前述と同様にして駆動部708より電圧を印加することで、隣り合った磁極707に容器ホルダ100に有する磁性体105を引き付ける。
【0031】
この手順を、搬送路を構成するすべての磁極707で繰り返すことによって、磁性体105が設けられている容器ホルダ100に搭載された検体容器150内に収容された検体を目的地まで搬送する。
【0032】
演算部709は、容器ホルダ100の位置情報や速度情報、重量情報等の各種情報を用いて、各々のコイル706に流す電流を演算し、各々の駆動部708に指令信号を出力する。駆動部708はその指令信号に基づいて対応するコイル706に電圧を印加する。
【0033】
検出部710は、磁極707のコイル706を流れる電流とその流れ方を検出して磁性体105の位置を求めることで間接的に検体容器150の位置を求める構成である。この原理は以下の通りである。
【0034】
コイルシャフト705は磁性体で構成されており、コイルシャフト705を通る磁束は、磁束が大きくなると通りにくくなる、との性質がある。ここで、コイル706に電圧を印加して電流を流すと、その電流によって生じた磁束がコイルシャフト705に発生する。したがって、コイルシャフト705には、磁性体105による磁束と、コイル706に流した電流によって生じる磁束と、が発生する。
【0035】
一般的に、コイル706に電流を流すとその周りに磁場が発生し、生じる磁束は流した電流値に比例する。この比例定数はインダクタンスとよばれる。しかし、コイルシャフト705などの磁性体を有した回路では、コイルシャフト705の飽和特性によりインダクタンス(L=μ・N・S/l、L:インダクタンス、μ:透磁率、N:コイル706の巻き数、S:コイルシャフト705,コイル706の断面積、l:コイル706の長さ)が変化する。
【0036】
また、コイルシャフト705の飽和が発生すると、コイルシャフト705に生じる磁束の大きさによってインダクタンスが変わる。つまり、磁性体105の磁束の大きさによってコイル706のインダクタンスが変化する。これは、磁性体105の位置によってコイル706のインダクタンスが変化することを意味する。
【0037】
コイル706に生じる電圧Vは、以下に示すような
V=-dφ/dt (1)
との関係で表される。ここで、φは磁束、tは時間である。電圧Vは単位時間当たりの磁束の変化量で表される。
【0038】
また、電流I、インダクタンスLとすると、以下に示す
dI/dt=(1/L)×(dφ/dt) (2)
との関係が成立する。これら式(1)および式(2)から
dI/dt=-V/L (3)
との関係が成立する。
【0039】
つまり、一定の電圧をコイル706に印加した場合、式(3)に示すようにインダクタンスLの大きさによって供給される電流Iの時間微分が変化する。これは、電圧を印加した場合に供給される電流の立ち上がり方が異なること意味する。
【0040】
従って、コイル706に電圧を印加した場合、コイル706に流れる電流とその流れ方を検出することで、インダクタンスLを演算で求めることができる。つまり、磁性体105の位置によって変化するコイル706のインダクタンスLを検出すれば、そのインダクタンスLに影響を与える磁性体105の位置が求められる。
【0041】
次いで、本発明の搬送装置700における磁極707の構成について説明する。
【0042】
上述のように、電磁搬送による搬送方式では、数メートルの短距離から数十メートルの長距離での容器ホルダ100の搬送を可能とするため、磁極707が縦横、数十個をひとまとまりとする搬送タイル120を少なくとも1以上、好適には複数並べている。
【0043】
搬送装置700中では、磁極707が格子状に配列されており、配列した磁極707のコイル706に電流を印加することで電磁力を発生させ、容器ホルダ100内の磁性体105が当該電磁力に吸着する力を用いて容器ホルダ100を搬送させるが、搬送装置700内の複数の磁極は、搬送装置700内の配置位置によって求められる特性が異なる。
【0044】
一般的に、物体が移動を開始する瞬間に働く静止摩擦係数は、物体が移動中に働く動作摩擦係数よりも大きい。すなわち、容器ホルダ100が停止しない位置直下の磁極、すなわち、容器ホルダ100が停止している位置から動き出すための駆動力を発生させる磁極では、容器ホルダ100が停止する位置直下の磁極よりも大きな駆動力が必要となる。
【0045】
一方、容器ホルダ100が停止する位置直下の磁極は、隣の容器ホルダ100との干渉や容器ホルダ100が次に動作する際のロバスト性を担保するため、容器ホルダ100の停止位置精度が高く要求される。
【0046】
なお、「容器ホルダ100の停止する位置」とは、容器ホルダ100の搬送方向を変えることが求められる位置であり、図2等においては、搬送タイル120内において十字状に配置された部分の中央部分の位置が相当する。
【0047】
また、「容器ホルダ100の停止しない位置」とは、容器ホルダ100の搬送方向を変えることが求められない位置であり、図2等においては、搬送タイル120内において十字状に配置された部分の中央部分に隣接する位置が相当し、停止位置で停止している容器ホルダ100を動き出させるために大きな推力が必要となる位置である。
【0048】
ここで、本実施例の搬送装置700では、搬送用の磁極は、容器ホルダ100駆動と同時に容器ホルダ100の位置検出も兼ねている。しかしながら、駆動力と位置検出精度は、トレードオフの関係にある。
【0049】
図4中、(a)はコイルシャフト705の径が大きい場合である。コイルシャフト705は磁束が入る量が多いため、容器ホルダ100側の磁性体105への電磁力、すなわち推力が大きくできる。また、図4中、(b)はコイルシャフト705の径が小さい場合であり、コイルシャフト705は磁束が入る量が少ないため、推力が小さくなってしまう。
【0050】
図5中、(a)はコイルシャフト705の径が小さい場合であり、コイルシャフト705は磁束が飽和しやすいため、インダクタンスの変化率が大きい。図5中、(b)はコイルシャフト705径が大きい場合であり、コイルシャフト705は磁束が飽和しにくいため、インダクタンス変化率が小さい。
【0051】
このように、同じ仕様の磁極では駆動力の確保と位置検出精度との両方を満足することは困難である。これに対し、本発明者らが鋭意検討した結果、容器ホルダ100が停止しない位置直下の磁極707と停止する直下の磁極707Aとで、コイル706、コイルシャフト705,705Aのうちいずれか一方の仕様を異なるものとすることを発想した。
【0052】
図2および図3では、コイルシャフト705,705Aのみを異なる2つの仕様とした。
【0053】
より具体的には、仕様として、コイルシャフト705,705Aの透磁率μを変えている。透磁率μは、物質の磁化のしやすさであり、物質の磁化されやすさを数値化したものである。
【0054】
停止する位置では高い検出感度を必要とするが、これにはインダクタンスLの変化率が小さいことを要し、高い推力を要する停止しない位置では、逆にインダクタンスLの変化率が大きいことが望ましい。
【0055】
ここで、上述のようにインダクタンスLはL=μ・N・S/lの関係にあるため、コイルシャフト705の透磁率μは高いほどインダクタンス変化率は小さいことになる。
【0056】
そこで、停止する位置の磁極707のコイルシャフト705の透磁率を、停止しない位置の磁極707Aのコイルシャフト705Aの透磁率より小さくする。
【0057】
なお、停止する位置の磁極707のコイル706と、停止しない位置の磁極707Aのコイル706とは同じ仕様としているが、同じである必要はなく、材質や巻き数N、長さlなどの各種仕様を異なるものとしてもよい。
【0058】
透磁率μが異なり、コイルシャフト705,705Aとして好適に選定される材料としては、鉄と、鉄より透磁率μの小さいアルミニウムなどが挙げられる。また、鉄でも、含有する炭素の多い、少ない(透磁率は多>少)とすることができる。
【0059】
但し、トランスの設計には、インダクタンスを高くするほうが良い事が多いが、必要以上に高くすると磁束密度が高くなり、磁気飽和や磁気ノイズの発生を招く恐れがあることから、これを避けるために最適な範囲とすることが望まれる。
【0060】
仕様として容器ホルダ100が停止しない位置直下の磁極707と停止する直下の磁極707とで異ならせるのは、図2および図3に示すようなコイルシャフト705,705Aの透磁率μのみに限られない。以下、図6乃至図8を用いて他の形態の例について説明する。
【0061】
例えば、図6に示すように、容器ホルダ100が停止しない位置直下の磁極707と停止する直下の磁極707Bとで、仕様として、コイル706,706Bの巻き数Nを変えることができる。
【0062】
インダクタンスLはコイル706の総巻き数Nの2乗に比例していることから、コイル706の巻線Nは多いほどインダクタンス変化率は小さくなる。
【0063】
そこで、図6に示す搬送装置700Aでは、停止する位置の磁極707のコイル706の巻き数を、停止しない位置の磁極707Bのコイル706Bの巻き数より少なくする。
【0064】
なお、停止する位置の磁極707のコイルシャフト705と、停止しない位置の磁極707Bのコイルシャフト705とは同じ仕様としているが、同じである必要はなく、図2等のように透磁率を変えてもよいし、また材質や断面積、長さなどの各種仕様のうち1つ以上を異なるものとしてもよい。
【0065】
また、図7に示す搬送装置700Bのように、コイル706,706Cの断面積Sを異なるものとすることができる。
【0066】
コイル706の断面積Sは、直径に対して2乗で比例(S=PI×D/4)する。ここで、コイル706,706Cはコイルシャフト705,705Cの外周に巻かれているため、コイル706,706Cの内径はコイルシャフト705,705Cの外径と同じである。
【0067】
このため、コイルシャフト705,705Cの材質が同じとすると、コイルシャフトの径が太い場合は磁気抵抗が小さくなり、磁束が入る量が多くなる。これに対して、コイルシャフトの径が細い場合は磁気抵抗が大きくなって磁束が入る量が少なくなる。すなわち、コイル706の断面積Sは大きいほど、インダクタンス変化率は小さいことになる。
【0068】
そこで、停止する位置の磁極707のコイルシャフト705およびコイル706の断面積を、停止しない位置の磁極707Cのコイルシャフト705Cおよびコイル706Cの断面積より狭くする。
【0069】
なお、コイル706,706Cの巻き数Nの替わりに、コイル706を構成する巻き線の線の太さを変えることもできる。巻き線の径を太くすると、抵抗の公式からI[A]=V/Rにおける抵抗Rが小さくなるため、I[A]が大きくなる。すなわち推力を確保することができることから、太い巻線で構成されるコイルを停止しない位置の磁極として用い、相対的に細い巻線で構成されるコイルを停止する位置の磁極として用いることができる。
【0070】
更に、図8に示すように、仕様として、コイル706D,706E、コイルシャフト705D,705Eの長さlを変えることができる。
【0071】
インダクタンスLはコイル706の長さlに反比例していることから、コイルの長さlが短いほどインダクタンス変化率は小さいことになる。
【0072】
そこで、図8に示す搬送装置700Cでは、停止しない位置の磁極707Eを構成するコイルシャフト705Eおよびコイル706Eの長さを、停止する位置の磁極707Dのコイルシャフト705Dおよびコイル706Dより短くする。
【0073】
但し、長くなればなるほど、磁気抵抗が上がり磁束が入る量が少なくなる恐れがあるため、適切な長さとすることが望ましい。
【0074】
なお、上述の図3図5図6図7では、それぞれ「コイルシャフト705の透磁率μ、コイル706の巻線N、コイル706断面積S、コイル706の長さl」のうちいずれか1つの仕様を2種類とした磁極を用いる形態を例示した。これは、仕様が少ないほど製造などが容易になる、製造コストの上昇を抑制できる、消費電力上昇を抑制できるためであり、実装に適した構成であるが、3つ以上の仕様を変えることができる。
【0075】
また、「コイルシャフト705の透磁率μ、およびコイル706の巻線N」を変える等、図3図5図6図7を適宜混ぜることができ、3つ以上の仕様を変えることもできる。
【0076】
仕様を3つ以上変える構成によれば、より位置検出に特化した磁極と駆動に適した磁極とをそれぞれ好適な箇所に配置することができるようになる、との利点が得られることになる。
【0077】
次いで、搬送装置700が隣接する場合に好適な磁極配置の一例について図9および図10を用いて説明する。
【0078】
搬送タイル120の端部は、好適にコイルシャフト705の搬送タイル120側とは反対側の端部に設けられるヨーク形状の関係で推力が弱くなる。
【0079】
そこで、図9および図10に示すように、搬送タイル120を複数備える場合、他の搬送タイル120と接する搬送タイル120の端部を容器ホルダ100が停止しない位置として、端部に位置し、隣に他の搬送装置700の搬送タイル120が位置する、停止しない位置の磁極707Fを、停止する位置の磁極707Gに比べて駆動力を重視した仕様とすることが望ましい。
【0080】
停止しない位置の磁極707Fの仕様については、コイルシャフト705Fの透磁率を停止する位置の磁極707Gのコイルシャフト705Gに比べて大きくする、コイル706Fの巻き数を停止する位置の磁極707のコイル706Gの巻き数に比べてより多くする、コイルシャフト705Fおよびコイル706Fの断面積をコイルシャフト705Gおよびコイル706Gの断面積より広く狭くする、またはコイルシャフト705Fおよびコイル706Fをコイルシャフト705Gおよびコイル706Gより短くする、のいずれか一つ以上であってもよいし、他の仕様を異なるようにしてもよく、特に限定されない。
【0081】
また、図9および図10では、図2等で「容器ホルダ100の停止しない位置」としている搬送タイル120内において十字状に配置された部分の中央部分に隣接する位置についても「容器ホルダ100の停止する位置」としている形態を示したが、図2等と同様に、搬送タイル120内において十字状に配置された部分の中央部分に隣接する位置を「容器ホルダ100の停止しない位置」として、端部と同じ仕様、もしくはさらに異なる仕様の磁極を配置することができる。
【0082】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0083】
上述した本実施例の検体分析システム1000が備えている搬送装置700では、搬送タイル120内において容器ホルダ100が停止しない位置の直下の磁極707A,707B,707C,707E,707Gと容器ホルダ100が停止する位置の直下の磁極707,707D,707Gとで、コイル706,706B,706C,706D,706E,706F,706G、コイルシャフト705,705A,705C,705D,705E,705F,705Gのうちいずれか一方の仕様が異なる。
【0084】
これによって、搬送装置700の搬送タイル120内における磁極707A,707B,707C,707D,707E,707F,707Gの位置の役割に応じた、「容器ホルダ100の駆動」と「容器ホルダ100の位置検出」とのいずれかに適した磁極707A,707B,707C,707D,707E,707F,707Gを提供することができ、消費電力を抑えつつ、安定搬送を実現することができる。
【0085】
また、仕様として、コイルシャフト705,705Aの透磁率μ、コイル706,706Bの巻き数N、コイル706,706Cの断面積S、またはコイル706D,706Eの長さlを変えているため、仕様を多数変えることなく簡易に異なるものとすることができ、安定した搬送と消費電力の増大の抑制の両立を確実に図ることができる。
【0086】
更に、搬送タイル120を複数備える場合に、他の搬送タイル120と接する搬送タイル120の端部を容器ホルダ100が停止しない位置とすることで、推力が低くなることが想定される端部において推力の大きな磁極707Fを配置して、容器ホルダ100の搬送を安定して、かつ速やかに行うことを実現することができる。
【0087】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【符号の説明】
【0088】
100…容器ホルダ
101…把持部
105…磁性体
120…搬送タイル
150…検体容器
700,700A,700B,700C…搬送装置
705,705A,705C,705D,705E,705F,705G…コイルシャフト
706,706B,706C,706D,706E,706F,706G…コイル
707,707A,707B,707C,707D,707E,707F,707G…磁極
708…駆動部
709…演算部
710…検出部
800…分析装置
900…制御用コンピュータ
1000…検体分析システム
図1
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図10