(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】ニトリル化合物の製造
(51)【国際特許分類】
C07D 233/36 20060101AFI20241209BHJP
C07C 227/20 20060101ALI20241209BHJP
C07C 229/16 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C07D233/36
C07C227/20
C07C229/16
(21)【出願番号】P 2023532538
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 EP2021085649
(87)【国際公開番号】W WO2022129020
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-05-29
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】ヌーリオン ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フェノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】Nouryon Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【氏名又は名称】井口 司
(72)【発明者】
【氏名】カンツァー,エイク,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ザイツェフ,アレクセイ,ボリソヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ブーンストラ,チェーク,ウードセ
(72)【発明者】
【氏名】エーラース,イナ
(72)【発明者】
【氏名】エドヴィンソン,ロルフ,クリスター
(72)【発明者】
【氏名】ヘウス,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】テン ケイト,アントゥーン,ジェイコブ,ベレンド
(72)【発明者】
【氏名】ラーイメイカーズ,ミヒル,ヨゼフ,トーマス
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/161146(WO,A1)
【文献】特表2010-520170(JP,A)
【文献】特表2015-512465(JP,A)
【文献】特開昭58-079982(JP,A)
【文献】特表平08-508246(JP,A)
【文献】米国特許第02785176(US,A)
【文献】英国特許出願公告第00972003(GB,A)
【文献】特表2013-538227(JP,A)
【文献】米国特許第05428156(US,A)
【文献】Dhainaut, Alain et al.,New triazine derivatives as potent modulators of multidrug resistance,Journal of Medicinal Chemistry,1992年,35(13),p.2481-96
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 233/36
C07C 227/20
C07C 209/62
C07C 211/14
C07C 229/16
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのアミン単位が環状尿素単位によって保護され、少なくとも1つのアミン単位が保護されていない、
一級又は二級のアミン基である3つ以上のアミン単位を含有するアルキレンアミン化合物の鎖伸長を介してニトリル化合物を製造するためのプロセスであって、
前記環状尿素単位が式Iの構造を有し、
【化1】
式Iにおいて、Aは、1つ以上のC1~C3アルキル基によって置換されていてもよいC2~C4アルキレン単位の群から選択され、
前記鎖伸長が、前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位を、グリコロニトリルと
反応させるか、又はホルムアルデヒドとHCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと反応させて、少なくとも1つのアセトニトリル基を前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位に付加することによる、プロセス。
【請求項2】
前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位を、グリコロニトリルと反応させる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位を、ホルムアルデヒドとHCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと反応させる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記シアン化合物がHCNである、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記シアン化合物が、
無機シアン化物塩である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項6】
前記反応が、酸の存在下で実施される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記反応が、
前記ニトリル基を反応させてカルボキシレートを形成するような条件下で実施される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する生成物が、水素及び触媒の存在下での水素化工程であり、前記ニトリル基がアミン基に少なくとも部分的に変換される更なる反応工程に供される、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する生成物が、水性塩基の存在下でのカルボキシレート基へのけん化工程である更なる反応工程に供される、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する生成物が、グリニャール試薬との反応でイミン塩を形成し、次にこれを加水分解してケトンを得る、更なる反応工程に供される、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する前記生成物が、続いて、酸性触媒の存在下での加水分解工程である更なる反応工程に供されて、対応するアミドを形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
少なくとも2つのアミン単位が環状尿素単位によって保護され、少なくとも1つのアミン単位が保護されていない、3つ以上のアミン単位を含有する前記アルキレンアミン化合物が、U-DETA、U1-TETA、UP-TETA、U2-TETA、DU1,3-TEPA、DU1,4-TEPA、U1P3-TEPA、及びU1P4-TEPAの群から選択される、
請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。
【化2】
【請求項13】
前記環状尿素単位が、請求項1~6のいずれか一項に記載の前記プロセスによって得られた前記ニトリル化合物から除去されるか、又は任意選択的に、前記ニトリル化合物が、更なる反応工程に供される場合、前記更なる反応工程の間又は後に、除去され、前記更なる反応工程が、請求項7~11のいずれか一項に記載の反応工程であってもよい、
請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記環状尿素単位を除去する工程が、液相中の水との反応、カルボニル部分を取り出すことができるアルキレンアミンとの反応、及び強塩基との反応のうちの1つ以上を含む、請求項12に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3つ以上のアミン単位を有するアルキレンアミン化合物の選択的な鎖伸長を介したニトリル化合物を製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレンアミン化合物の鎖伸長を介したニトリル化合物の製造は、当技術分野で公知である。これは、例えば、アルキレンアミンをグリコロニトリルと、又はシアン化水素及びホルムアルデヒドの組み合わせと反応させて、鎖伸長ニトリル化合物を形成することによって実施することができる。ニトリル化合物を水素化すると、アミン化合物が形成される。そのようなプロセスは、例えば、EDAとグリコロニトリルとの反応について、US2010/0121064に開示されている(この最新技術文書ではFACHと呼ばれる)。しかしながら、この参照文献で示されるように、プロセスは望ましくない二次成分を生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
二次成分の量は、アミン分子中に存在するアミン部分の量とともに増加する。したがって、二次成分の量は、US2010/0121064に開示されるものよりも多くのアミン単位を含有するより大きな分子から開始すると更に多くなる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
3つ以上のアミン単位を含有するアルキレンアミン化合物中の一級アミン基及び二級アミン基を環状尿素単位で保護し、そのような環状尿素単位の一部ではないアミン基上のアルキレンアミンを、グリコロニトリルと、又はホルムアルデヒドとHCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと、選択的に反応させることが可能であることが、今回見出された。これにより、より少ない副生成物の形成が可能となる。
【0005】
したがって、本発明は少なくとも2つのアミン単位が環状尿素単位によって保護され、少なくとも1つのアミン単位が保護されていない、3つ以上のアミン単位を含有するアルキレンアミン化合物の鎖伸長を介してニトリル化合物を製造するためのプロセスであって、鎖伸長が、少なくとも1つの保護されていないアミン単位を、グリコロニトリルと、又はホルムアルデヒドとHCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと反応させて、少なくとも1つのアセトニトリル基を少なくとも1つの保護されていないアミン単位に付加することによる、プロセスに関する。
【0006】
アミンの一部が環状尿素基で保護される鎖伸長アルキレンアミンは知られていないことに留意するべきである。そのようなプロセスは、例えば、US2015/0065679、EP078169、US5,399,706、US2,785,176、GB972,003に開示されている。これらの文献中のプロセスは、アミン化合物と、アクリロニトリル若しくはブテンニトリルなどの活性化二重結合を有する物質とのマイケル付加反応、又はエポキシド若しくは塩化物、例えば2-クロロエチルアミン、とのその反応、のいずれかに基づく。
【0007】
塩の形成をもたらす2-クロロエチルアミンとの反応を除いて、マイケル付加反応は、エチレンアミン鎖伸長が見られない分子をもたらす。より具体的には、反応は、プロピレン鎖若しくはより大きなアルキレン鎖の組み込み、又はアルキル単位で終結する化合物のいずれかをもたらす。エポキシドとの反応により、追加のヒドロキシ基も導入される。
【0008】
驚くべきことに、本発明のプロセスにおいて、アセトニトリル鎖が、塩の形成を伴わず、かつ追加の官能基を導入することなく、環状尿素単位の一部ではないアルキレンアミン化合物中のアミン基又は複数のアミン基に、選択的に付加されることが見出された。
【0009】
本発明のプロセスの追加の利点は、アミン単位を互いに反応させることができなくする環状尿素単位の存在のため、多くの実施形態では、例えば、エチレンジアミノアセトニトリルを水素化する際などのようにアセトニトリル末端化合物を水素化する際に起こり得る環化反応又は重合反応を防止できることである。また、尿素基の存在のため、存在するアミノ基がより少ない。結果として、ニトリル基が別のアミノ基と反応する副反応が少なくなり、その結果、より少ない副生成物が形成され、それによって選択性が増加する。
【0010】
本発明のプロセスにより、より選択的な様式でニトリル化合物の製造を可能にするため、より高い変換をもたらすより厳格な反応条件を適用することができ、所望のニトリル化合物を高収率で生産することが可能になる。
【0011】
更に、グリコロニトリルを反応物として使用する場合、1つ以上のアセトニトリル単位を保護されていないアミン基に選択的に付加することが可能であることが見出された。また、シアン化合物及びホルムアルデヒドを使用する場合、環状尿素単位の一部ではないアミン基又は複数のアミン基に、2つのアセトニトリル単位を選択的に付加することが可能であることも見出された。
【0012】
したがって、本発明のプロセスは、選択的に鎖伸長されたアルキレンアミンを調製するための多くの選択肢を提供する。選択的反応の結果として、反応混合物を分離するためにより少ない労力が必要とされるため、結果として、処理及び装置の両方のコストが削減される。
【0013】
本発明のプロセスは、少なくとも1つのアセトニトリル基と環状尿素ユニットによって保護される少なくとも2つのアミン単位とを含む化合物の形成をもたらす。この化合物は、後述されるように、所望に応じて更に処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によるプロセスは、以下でより詳細に論じられる。
【0015】
本発明によるプロセスにおける出発化合物は、少なくとも2つのアミン単位が環状尿素単位によって保護され、少なくとも1つのアミン単位が保護されていない、3つ以上のアミン単位を含有するアルキレンアミン化合物である。
【0016】
環状尿素単位によって保護された2つのアミン単位の文言は、式Iの単位を指す。
【化1】
式中、Aは、任意選択的に1つ以上のC1~C3アルキル基によって置換された、C2~C4アルキレン単位の群から選択される。この環状アルキレン尿素基では、Aが、任意選択的に1つ又は2つのC1アルキル基で置換された、C2~C3アルキレン単位であることが好ましい。好ましくは、エチレン、プロピレン、及びイソプロピレンの群から選択され、具体的にはエチレンである。分子中に複数のAが存在する場合、各Aは独立して選択することができる。
【0017】
一実施形態では、出発化合物は、式Iの少なくとも1つの一級又は二級アミン基及び少なくとも1つの式Iの環状アルキレン尿素基を含むアルキレン尿素化合物である。(保護されていない)アミン基は、一級アミン基又は環状二級アミン基であることが好ましい。アミン基が、一級アミン基であることが特に好ましい。
【0018】
本発明における出発物質として使用されるアルキレンアミン化合物は、少なくとも1つの式Iの環状尿素単位を含有する。一般に、アルキレンアミン化合物は、最大で10個の式Iの環状尿素単位を含有する。実際には、アルキレンアミン化合物は、多くの場合、最大で5つの式Iの環状尿素単位を含有する。アルキレンアミン化合物は、少なくとも1つの保護されていないアミン単位を含有する。一般に、アルキレンアミン化合物は、最大で5個の保護されていないアミン単位を含有する。実際には、アルキレンアミン化合物は多くの場合、保護されていないアミン単位を最大で3つ、特に1つ又は2つ、具体的には1つを含有する。
【0019】
アルキレンアミン化合物中のアルキレン単位は、一般に1~10個の、特に1~8の炭素原子を有する。一実施形態では、アルキレン単位は、上述のAの要件を満たす。
【0020】
一実施形態では、アルキレンアミン化合物は、アミン単位及びアルキレン単位以外の部分を含まない。
【0021】
別の実施形態では、アルキレンアミン化合物は、アミン単位及びアルキレン単位以外の部分を含む。そのような部分は、例えば、-OH、-COOH、及び/又はCOO-アルキルで任意選択的に置換されたC1~C6アルキル基、及びエーテル部分(-O-)から選択されてもよい。
【0022】
アルキレンアミン化合物は一般に、115~10.000g/モル、特に115~1000g/モルの範囲の分子量、いくつかの実施形態では115~500g/モルの範囲の分子量を有する。
【0023】
一実施形態では、アルキレン尿素化合物は、式IIの化合物であり、
式II:R2-[-X-A-]
q-N(A)(CO)N-[A-X-]
p-A-NH2
式中、
R2は、H、並びに-OH、-NH2、及び-COOR4から選択される1つ以上の基で、特に-OH、-NH2、及びCOOR4から選択されるゼロ、1つ若しくは2つの基で、特に-OH及び-NH2から選択されるゼロ、1つ、若しくは2つの基で任意選択的に置換されているC1~C6のアルキル基から選択され、R4は、H又はC1~C6アルキルである。
Xは、各出現において独立して、-O-、-NR2-、式Iの基、及び式IIIの基から選択される。
【化2】
【化3】
Aは、上で論じられた意味を有し、分子中に複数のAが存在する場合、各Aは独立して選択することができ、
pは、0~8の範囲の整数であり、
qは、0~8の範囲の整数である。
【0024】
誤解を避けるために付言すると、式II中の構造-N(A)(CO)N-は、式Iに相当する。
【0025】
上記のAの選択物がまた、ここでも適用される。Aが、エチレンであることが特に好ましい。
【0026】
Xは、-NH-、式IIIの基、及び式Iの基から選択されることが好ましい。直鎖アルキレンアミンを製造することが所望される場合、Xは、NH及び式Iの基から選択されることが好ましい。
【0027】
R2は、H、エチル、プロピル、及びイソプロピルから選択され、特にエチルであり、-OH及び-NH2から選択される1つ又は2つの基によって任意選択的に置換されることが好ましい。R2は、エチル、又はプロピルであり、特にエチルであり、Xへの接続から数えて、2番目の炭素原子で(アミノエチル又はアミノイソプロピル)、又はプロピルの場合には、3番目の炭素原子で、-NH2で置換されることが特に好ましい。
【0028】
更により大きな分子を形成する大きな分子の反応は、必ずしも目的とはならないため、p及びqの合計は、最大で8、いくつかの実施形態では最大で4、又は最大で2であることが好ましい場合がある。
【0029】
式IIの好ましい化合物の例は、ジエチレントリアミンの尿素付加物(U-DETA)、尿素基が末端エチレン部分又は中央エチレン部分にあり得るトリエチレンテトラミンのモノ尿素付加物(U1-TETA及びU2-TETA)、並びに一級アミン基を有するテトラエチレンペンタミンのモノ及びジ尿素付加物(U1-TEPA、DU1,3-TEPA)である。これらの化合物は、直鎖状ポリエチレンアミンのニトリル化合物及びこれらのそれぞれの尿素生成物を作製することが所望される場合、特に魅力的である。
【0030】
本発明によるプロセスの一実施形態で使用され得る他の化合物の例は、末端エチレン部分の各側の窒素原子上に尿素基を備え、及び別のエチレン部分の各側の窒素原子上にエチレン鎖を備えたエチレンアミン鎖からなる化合物、例えば、U1P3-TEPA及びU1P4-TEPAである。
【0031】
一般に、本明細書において、化合物は以下のように命名される。
【0032】
文字コードは、最長の直鎖状エチレンアミン鎖を指す。
【0033】
Uは、エチレン部分を介して接続している2つの隣接する窒素原子上の尿素基の存在から生じる、環状尿素基の存在、すなわち、Aがエチレン基である式Iの基の存在を指す。
【0034】
Pは、エチレン部分を介して接続している2つの隣接する窒素原子上のエチレン部分の存在から生じるピペラジン部分の存在、すなわち、両方のAがエチレン基である式IIIの基の存在を指す。
【0035】
U又はP接頭辞の後の数字は、可能性のある異なる構造を区別するために、鎖中のそれぞれの窒素原子を指す。
【0036】
U又はPの接頭辞の前にある文字は、基の数を指し、Dがジ、又は2つの基を表し、Tがトリ及びテトラ、又は3及び4つの基をそれぞれ表す。Tが使用される場合、トリ又はテトラのどちらが意味されているかは、文脈から明らかである。
【0037】
別の実施形態では、アルキレン尿素化合物は、式IVの化合物であり、
式IV:R2-[-X-A-]q-N(A)(CO)N-[A-X-]p-A-N(A)(A)N-[-A-X-]r-R3
式中、R2、X、A、q及びpは、上記で示される意味を有する。上記に示された選択物がここでも適用される。
【0038】
R3は、H並びに、-OH及び-NH2から選択される1つ以上の基、特に-OH及び-NH2から選択されるゼロ、1つ、又は2つの基によって任意選択的に置換されているC1~C6のアルキル基から選択される。R3は、H、エチル、プロピル、及びイソプロピルから選択され、特にエチルであり、-OH及び-NH2から選択される1つ又は2つの基によって任意選択的に置換されることが好ましい。R3は、エチル、又はプロピルであり、特にエチルであり、Xへの接続から数えて、2番目の炭素原子で(アミノエチル又はアミノイソプロピル)、又はプロピルの場合には、3番目の炭素原子で、-NH2で置換されることが特に好ましい。
【0039】
式IVにおいて、rは、0と8の間の整数、特に0と4の間の整数であり、より具体的には、0、1、又は2である。更により大きな分子を形成する大きな分子の反応は、必ずしも目的とはならないため、p、q及びrの合計は、最大で8、いくつかの実施形態では最大で4、又は最大で2であることが好ましい場合がある。
【0040】
誤解を避けるために付言すると、式IV中の構造-N(A)(CO)N-は、式Iに相当する。式IV中の構造-N(A)(A)N-は、式IIIに相当する。
【0041】
式IVの好ましい化合物の例としては、ピペラジノエチルエチレンジアミンの尿素付加物(UP-TETA)が挙げられる。U1P3-TEPA及びU1P4-TEPAも好ましい。
【0042】
アルキレン尿素化合物の混合物も使用され得る。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明のプロセスにおける出発化合物である、少なくとも2つのアミン単位が環状尿素単位によって保護され、少なくとも1つのアミン単位が保護されていない、3つ以上のアミン単位を含有するアルキレンアミンは、U-DETA、U1-TETA、UP-TETA、U2-TETA、DU1,3-TEPA、DU1,4-TEPA、U1P3-TEPA、及びU1P4-TEPAの群から選択される。
【0044】
上述の出発化合物を、グリコロニトリルと、又はホルムアルデヒドとHCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと、反応させる。これらの反応については、以下で説明する。
【0045】
一実施形態では、上述の出発化合物を、グリコロニトリルと反応させる。グリコロニトリルは、ヒドロキシアセトニトリル又はホルムアルデヒドシアノヒドリンとしても知られている。以下は、出発物質としてU-DETAを使用したこの反応の例である。水(図示せず)もまた反応で形成される。
【化4】
【0046】
出発化合物とグリコロニトリルとの間の反応は、一般に、0~100℃、特に0~50℃、特に0~35℃の温度で実施される。反応は一般的に、0.5~10barの圧力で実施される。高圧は必要とされないため、0.5~5bar、特に0.5~3barの圧力で反応を実施することは魅力的であり得る。大気圧が好ましいと考えられる。本明細書において、圧力がbarで言及されている場合、bar(a)が意味される。
【0047】
反応は、溶媒中で行われ得る。水は適切な溶媒であるが、反応物が反応条件下で溶解できるが、反応条件下では実質的に反応しない他の溶媒も考慮され得る。他の適切な溶媒としては、有機溶媒、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)及びジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド、芳香族及び脂肪族炭化水素、例えばベンゼン及びキシレン、アルコール類、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、二級ブタノール及び三級ブタノール、アミン、例えばエチレンアミン、アルキルアミン、アンモニア、エステル例えば酢酸メチル又は酢酸エチル、及びエーテル、例えばジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、グリコールジメチルエーテル、ジグリコールジメチルエーテル、ジオキサン及びテトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。エーテル、特に環状エーテル、特にテトラヒドロフランの使用がより好ましいと考えられる。あるいは、有機溶媒としてのアルコール、特にメタノールが好ましい場合がある。アミン及びアンモニアの使用は、可能であるが、反応に関与する可能性があるため、あまり魅力的ではない。
【0048】
当業者にとって明らかであるように、反応は、バッチプロセス又は連続プロセスで実施することができる。適切な反応器及びプロセス構成は当該技術分野で公知であり、ここでの説明を必要としない。
【0049】
出発化合物とグリコロニトリルとのモル比は、所望の鎖伸長及び出発化合物中の反応性アミン基の数に依存する。一般に、出発物質中のグリコロニトリル対反応性アミン基のモル比は、0.25:1~4:1の範囲内である。グリコロニトリルの過剰は原則的に必要とされないため、出発物質中のグリコロニトリル対反応性アミン基のモル比は、最大で3:1、特に最大で2:1、より特に最大で1.5:1であることが好ましい。
【0050】
出発化合物が1つの反応性アミン基を含有する場合、一般に、反応性アミン基の、モノシアノメチル化生成物への完全な変換が望ましい。したがって、この場合、グリコロニトリル対反応性アミン基のモル比(この場合、出発化合物と同一である)は、少なくとも0.5:1、特に少なくとも0.75:1、より特には少なくとも0.9:1、特に少なくとも1:1であることが好ましい。
【0051】
出発化合物が2つ以上の反応性アミン基を含有する場合、反応混合物中のグリコロニトリルと一級アミン基とのモル比は、所望の鎖伸長の程度、及びしたがって所望の変換の程度に依存する。全てのアミン基を反応させて完全な変換を得ることが所望される場合、上述したグリコロニトリル対反応性アミン基のモル比の値が適用される。アミン基の一部のみの変換が望ましい場合、より低い比が適用される。この場合、グリコロニトリル対反応性アミン基のモル比は、0.25:1~1:1の範囲、特に0.25:1~0.9:1、又は0.25:1~0.7:1、又は0.25:1~0.5:1の範囲であることが好ましい場合がある。
【0052】
例えば、U2-TETAは、1~2個のグリコロニトリル分子と反応して、モノ-又はジシアノメチル化U2-TETA又はその混合物を形成することができる。より低いグリコロニトリル対アミン基比は、より多くのモノ-シアノメチル化U2-TETAの形成につながるが、より高いグリコロニトリル対一級アミン基比は、より多くのジシアノメチル化U2-TETAの形成につながる。
【0053】
当業者が認識するように、出発物質の変換と所望の生成物への選択性との間にはトレードオフがしばしば存在し、出発物質の変換の増加は、副生成物の形成の増加を伴い、所望の生成物に対する選択性の低下をもたらす可能性がある。これを考慮すると、反応条件(反応時間、反応温度、...)及び反応物間の比を、変換と所望の生成物への選択性との間の所望のバランスが得られるように選択することは、当業者の範囲内である。
【0054】
別の実施形態では、上述の出発化合物は、ホルムアルデヒドと、HCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと反応させる。以下は、出発物質としてU-DETAを使用したこの反応の例である。
【化5】
【0055】
一実施形態では、シアン化合物は、HCNである。この場合、反応は、好ましくは、-5℃~90℃、特に0℃~60℃の範囲の温度、及び0.5~10barの圧力で実施される。高圧は必要とされないため、0.5~5bar、特に0.5~3barの圧力で反応を実施することは魅力的であり得る。大気圧が好ましい場合がある。
【0056】
反応は、溶媒中で行われ得る。水は適切な溶媒であるが、反応条件下で反応物が溶解できる他の溶媒も考慮され得る。グリコロニトリルとの反応について上述した溶媒も、ここで適用することができる。
【0057】
当業者にとって明らかであるように、反応は、バッチプロセス又は連続プロセスで実施することができる。適切な反応器及びプロセス構成は当該技術分野で公知であり、ここでの説明を必要としない。
【0058】
反応は、好ましくは、1~9の範囲のpHで、より具体的には2~7のpHで実施される。必要に応じて、pH調整剤を加えることができる。
【0059】
このプロセスでは、他の特徴の中でも特に、ホルムアルデヒド及びシアン化水素酸の添加を、選択性と変換との間のバランスを制御するツールとして使用することができる。
【0060】
別の実施形態では、シアン化合物は、無機シアン化物塩である。この場合、シアン化物塩は、アルカリ金属シアン化物塩及びアルカリ土類金属シアン化物塩から選択されることが好ましい。適切なアルカリ金属塩には、ナトリウム、カリウム、及びリチウムの塩が含まれ、ナトリウム及びカリウムが好ましく、ナトリウムが特に好ましい。適切なアルカリ土類金属塩の例としては、シアン化カルシウムが挙げられる。一般に、シアン化合物は、反応条件下で反応媒体中で可溶性であることが好ましい。
【0061】
シアン化物塩が使用される場合、得られる最終生成物は、反応媒体のpHに依存する。反応が酸性条件下で実施される場合、最終生成物はニトリルになる。この場合、pHは、1~7の範囲内に保たれることが好ましい。所望される場合、pHを所望の範囲に維持するために、酸、例えば、強無機酸を加えることができる。反応が強塩基性条件下で行われる場合、反応で形成されるニトリルは、更に反応してカルボン酸塩を形成する。塩基、特にNaOH又はKOHなどの強無機塩基を添加して、カルボキシレート基の形成を促進することができる。この場合、反応は、10~14のpHで実施されることが好ましい場合がある。
【0062】
出発化合物とホルムアルデヒド及び無機シアン化物塩の組み合わせとの反応は、好ましくは30~150℃、特に50~130℃の温度で実施される。
【0063】
一実施形態では、ニトリル基の加水分解によって生成されるアンモニアは、試薬投与と同時に反応混合物から留去されることが好ましい。これにより、より高い生成物の純度が可能になる。
【0064】
反応は一般的に、0.5~10bar(a)の圧力で実施される。高圧は必要とされないため、0.5~5bar、特に0.5~3barの圧力で反応を実施することは魅力的であり得る。大気圧が好ましい場合がある。
【0065】
反応は、溶媒中で行われ得る。水は適切な溶媒であるが、反応条件下で反応物が溶解できる他の溶媒も考慮され得る。グリコロニトリルとの反応について上述した溶媒も、ここで適用することができる。
【0066】
当業者にとって明らかであるように、反応は、バッチプロセス又は連続プロセスで実施することができる。適切な反応器及びプロセス構成は当該技術分野で公知であり、ここでの説明を必要としない。
【0067】
ホルムアルデヒド及びシアン化合物は、反応混合物に、同時に、又は順次に、単回投与で、又は一連の用量で提供されて得る。それらは、出発物質に別々に提供されてもよく、又は出発物質と反応させる前にそれらを組み合わせられてもよい。様々な実施形態の組み合わせも想定される。試薬の同時添加が好ましい場合がある。
【0068】
ホルムアルデヒドとシアン化合物との間のモル比は、0.5:1~2:1、特に0.7:1~1.4:1、更に特に0.9:1~1.1:1の範囲、例えば等モルである。
【0069】
出発化合物とシアン化合物との間の所望の比は、所望の鎖伸長、出発化合物中の反応性アミン基の数、及び反応性アミン基が、一級アミンであるか又は二級アミンであるかに依存する。一般に、完全変換のためには、反応されるNH結合当たり1つのシアン化物分子が必要である。したがって、一般に、出発物質中のシアン化合物対反応性アミンの反応性NH結合のモル比は、0.25:1~4:1の範囲である。過剰のシアン化合物は原則的に必要とされないため、この比は最大で3:1若しくは最大で2.5:1、又は最大で2:1、又は最大で1.5:1、具体的には最大で1.2:1であることが好ましい。部分的変換は一般に魅力的ではないので、出発物質中のシアン化合物対反応性アミンの反応性NH結合のモル比は、好ましくは少なくとも0.5:1、より好ましくは少なくとも0.8:、より具体的には少なくとも1:1である。
【0070】
本発明によるプロセスは、アセトニトリル置換アルキレンアミン化合物の形成をもたらす。出発物質及びそれから得ることができるニトリル生成物の例は、以下の表のとおりである。
【0071】
【0072】
【0073】
出発物質の他の組み合わせと、得ることができるニトリル生成物は、以下の表のとおりである。
【表2A】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
一実施形態では、次の工程で、本発明のプロセスから得られるアセトニトリル基を、更に反応させる。例えば、一実施形態では、ニトリル単位を水素化してアミン基を提供する。例えば、別の実施形態では、ニトリル単位を加水分解して、末端アミド(中性又は弱酸性条件下)又はカルボン酸基(アルカリ条件下)を得る。例えば、更なる実施形態では、ニトリル基をグリニャール試薬と反応させてイミン塩を形成し、これを加水分解してケトンを生成することができる。
【0087】
所望される場合、環状尿素保護基は、本発明によるプロセスによって得られた生成物から除去することができる。一実施形態では、これは、アルカリ条件下での反応によって行うことができる。その場合、アセトニトリル基が、形成された生成物中で別の基にまだ転換されていない場合、それらはまた、アルカリ条件下でカルボン酸基にけん化される。したがって、環状尿素単位の除去と、アセトニトリル基のカルボキシメチル基へのけん化とを同時に行うことができる。しかしながら、ニトリル基を別の化学物質と反応させてアミン単位に変換することが望ましい場合、いくつかの実施形態では、環状尿素単位が除去される前に、このような反応を最初に行うことが好ましい場合がある。これについては、以下でより詳細に説明する。
【0088】
以下の反応スキームは、U-DETAから誘導された生成物を出発化合物として、可能な更なる反応を示す。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
一実施形態では、本発明によるプロセスのニトリル生成物は、ニトリル化合物を水素と反応させてニトリルを対応するアミンに変換する接触水素化工程に供される。
【0093】
本発明のアセトニトリル生成物の接触水素化は、好ましくは、水素化触媒、例えば、ラネーコバルト又はラネーニッケル、周期表の8族の元素、例えば、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、好ましくはFe、Co、Ni、Ru又はRh、特にCo又はNiを含有する担持触媒を使用して実施される。触媒は、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、又はそれらの組み合わせに基づく無機酸化物担体、又は多孔質炭素担体上に担持されてもよい。
【0094】
反応は、40~150℃、好ましくは70~140℃、特に80~140℃の温度、及び5~300bar、好ましくは30~250bar、特に40~160barの圧力で実施され得る。アセトニトリル生成物の接触水素化は、当該技術分野で公知であり、ここでは更なる説明を必要としない。
【0095】
水素化プロセスは、本発明によるプロセスの出発化合物と比較して、追加のエチレンアミン基を獲得したアルキレンアミン化合物の形成をもたらす。これにより、本発明によるプロセスは、鎖伸長アルキレンアミン化合物を得ることを可能にする。
【0096】
以下の表は、出発物質、ニトリル、及び得られるアミン生成物の例を示す。
【表3】
【0097】
別の実施形態では、本発明によるプロセスのニトリル生成物は、ニトリル化合物が塩基と反応してカルボン酸塩を形成するけん化工程に供される。この反応は、ニトリル形成に続いて実施することができるが、ニトリル形成が、上で論じられたように無機シアン化物塩を使用して実施される場合、ニトリル形成と同時に実施することもできる。
【0098】
アセトニトリル生成物のけん化を別個の工程として実施する場合、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液などの塩基を添加することによって行われることが好ましい。更に好ましい実施形態では、塩基は、アセトニトリル基当たり0.7~1.5モル当量で使用される。水性媒体の使用と同様に、KOH又はNaOHを塩基として使用することが好ましい。けん化プロセスは当技術分野で既知であり、ここで更なる説明を必要としない。
【0099】
けん化工程からの生成物は、カルボン酸の塩である。
【0100】
以下の表は、いくつかの好ましい出発物質-ニトリル中間体-ケン化生成物の組み合わせを列挙する。
【表4】
【0101】
一実施形態では、ニトリル基をグリニャール試薬と反応させて、イミン塩を形成し、次いでこれを加水分解してケトンを得ることができる。
【0102】
グリニャール試薬は、式R-Mg-Xの化合物であり、Xはハロゲンであり、Rは有機基であり、通常はアルキル又はアリールである。Xは、一般に、Cl、Br、及びIから選択される。適切なR基体(ground)の例には、C1~C10アルキル及びC5~C10アリール、アルキルアリール、及びアリールアルキルが挙げられる。Rは、例えば、メチル、エチル、プロピル、及びフェニルから選択される。例としては、メチルマグネシウムクロリド及びフェニルマグネシウムブロミドが挙げられる。グリニャール試薬との反応は、イミン化合物の形成をもたらす。好ましくは酸性条件下で水との反応により、イミンをケトンに変換することができる。水の存在はグリニャール試薬の破壊につながるため、イミンが形成された後にのみ水を加えることが重要である。
【0103】
ニトリル基のグリニャール試薬との反応は、イミンを形成し、続いて加水分解してケトンを形成することは当技術分野で既知であり、ここで更なる説明を必要としない。
【0104】
更なる実施形態では、本発明のプロセスによって得られるアミノニトリル化合物は、対応するアミドを製造するために加水分解工程に供される。この反応は、溶媒、特にプロトン性溶媒、好ましくは水中で、酸性触媒を使用して実施することができる。適切な触媒としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、及び臭化水素酸などの無機酸、並びにギ酸、クエン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、及びそれらの組み合わせなどの有機酸のような従来的な酸性触媒が挙げられる。
【0105】
対応するアミド化合物を形成するアミノニトリル化合物の加水分解は、当技術分野で公知であり、ここで更なる説明を必要としない。
【0106】
以下の表は、いくつかの好ましい出発物質、対応するニトリル中間体、及びアミド生成物の組み合わせを列挙する。
【表5】
【0107】
一実施形態では、環状尿素保護基は、本発明によるプロセスによって得られた生成物から除去される。尿素除去工程における反応条件に応じて、これはニトリル生成物に対して、又は上で論じられた更なる反応からの生成物に対して行うことができる。末端基の反応性及び尿素除去工程における一般的な反応条件を考慮に入れて、適切な反応順序を選択することは、当業者の範囲内である。
【0108】
本明細書では、環状尿素保護基を含有する化合物は、環状尿素保護基の除去が、環状尿素基への組み込みによって以前に保護されていた2つのアミン基の遊離をもたらすことを反映するために、U-化合物又はU-アルキレンアミン化合物としても示されることもある。このプロセスは、CO2除去工程としても示され得る。それは異なる方法で実施できる。
【0109】
一実施形態では、U-アルキレンアミン化合物を液相で水と反応させ、CO2の除去下で、対応するアルキレンアミン化合物を形成する。水との反応は、一般に、少なくとも150℃の温度で起こる。反応温度が150℃未満である場合、U化合物は、あまり反応しない。反応は、少なくとも180℃、特に少なくとも200℃、より具体的には少なくとも230℃、又は更には少なくとも250℃の温度で実施されることが好ましい。好ましくは、この工程中の温度は、400℃を超えず、特に最大350℃、より具体的には最大320℃である。
【0110】
反応媒体が液相である限り、プロセス中の圧力は重要ではない。一般的な範囲として、所望の温度に応じて、0.5~100barの値を挙げることができる。媒体中に十分な量のアミン及び水を維持するために、CO2除去工程は、少なくとも5bar、特に少なくとも10barの圧力で実施することが望ましい。高圧装置に関連する高コストを考慮すると、圧力は最大で50bar、特に最大で40barであることが好ましい場合がある。
【0111】
水の量は、所望の変換度及びプロセス条件に依存する。一般に、水の量は、供給原料中の尿素部分1モル当たり少なくとも0.1モルの水である。より多い量、例えば、尿素部分1モル当たり少なくとも0.1モルの水、特に尿素部分1モル当たり少なくとも0.5モルの水が使用されることが多い。本発明によるプロセスにとって最大値は重要ではないが、多すぎる水の量は、不必要に大型の装置が必要になる。一般的な最大値として、環状エチレン尿素部分1モルの当たりの最大500モル、特に最大300モル、より具体的には最大200モル、いくつかの実施形態では最大100モル、又は最大50モル、の水の量に言及することができる。
【0112】
反応中に、例えば、反応容器を通気することによって、好ましくは窒素又は蒸気などのストリッピングガスを提供することによって、CO2除去を行うことが好ましい。
【0113】
一実施形態では、U-アルキレンアミン化合物は、CO2を除去しながら、少なくとも230℃の温度で、尿素部分1モル当たり0.1~20モルの量の水と液相で反応させる。比較的高い温度及びCO2除去と組み合わせた少量の水の使用により、良好な変換及び副生成物の低い形成をもたらす効率的なプロセスが得られることが見出された。
【0114】
一実施形態では、U-アルキレンアミン化合物を、カルボニル部分を取り出すことができるアルキレンアミンと反応させて、U-アルキレンアミン化合物からその対応するアルキレンアミン化合物への変換、及びカルボニル部分を取り出すことができるアルキレンアミンからU-アルキレンアミンへの同時変換をもたらす。このプロセスは、カルボニル転移反応として記載され得る。
【0115】
更なる実施形態では、U-アルキレンアミン化合物は、強塩基、すなわち、1未満のpKbを有する塩基と反応して、対応するアルキレンアミン化合物及び炭酸塩を形成する。この実施形態では、強無機塩基の使用が好ましいと考えられる。一実施形態では、強無機塩基は、金属水酸化物の群、特にアルカリ及び土類アルカリ金属の水酸化物の群から、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化バリウムの群から選択される。一実施形態では、強無機塩基は、金属酸化物の群、特にアルカリ性及び土類アルカリ金属の酸化物群から、特に酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化バリウムから選択される。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、(水)酸化マグネシウム、及び(水)酸化カルシウムの群から強無機塩基を選択することが好ましい場合がある。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの使用が特に好ましいと考えられ得る。水酸化アンモニウムなど、他の強無機塩基も使用され得る。当業者には明らかであろうように、様々な無機塩基の混合物を使用することができる。反応媒体中で無機塩基に変換される化合物であるように、他の成分に加えて塩基を含む化合物も使用することができる。塩基のモル量は、変換されるアルキレン尿素部分のモル量に対して計算することができる。少なくとも0.2:1の値を挙げることができる。アルキレン尿素部分の対応するアルキレンアミン化合物への完全変換を得ることが所望される場合、より大きな量の使用が、例えば、少なくとも1:1、特に少なくとも1.5:1のモル比で、好ましい場合がある。反応速度を高めるために、例えば、少なくとも2:1、特に少なくとも2.5:1のモル比で、より多い量を使用することが好ましい場合がある。大量の塩基は更なる変換には寄与しないが、追加のコストにつながるため、塩基対アルキレン尿素のモル量のモル比は、最大で20:1、特に最大で15:1、より特には最大で10:1であることが好ましい。より少ない量の無機塩基で十分であり得ることが見出されている。より具体的には、最大で7.5:1、特に最大で6.5:1、より特に最大で5.5:1の塩基対アルキレン尿素部分のモル比で、良好な結果が得られることが見出されている。最大で5.5:1のモル比の使用により、アルキレン尿素部分の完全な変換及び得られるアルキレンアミン化合物の高収率が得られることが見出された。アルキレン尿素部分1モル当たり更に少ない塩基を、例えば、最大で5:1、特に最大で4:1、より特に最大で3:1のモル比で使用することが好ましい場合がある。
【0116】
塩基による処理は、例えば、無機塩基の濃水溶液と処理される物質を接触させることによって実施され得る。塩基の性質及び反応混合物の更なる組成に応じて、固体形態で塩基を添加し、それを反応媒体中に溶解することも可能である。当業者には明らかであろうように、ヒドロキシ基が、反応媒体の不必要な希釈を回避しながら、CO2付加物と反応できるように、塩基を溶解状態にすることが目的である。
【0117】
反応は、室温~400℃の温度で実施することができる。温度及び圧力は、反応混合物が液相になるように選択する必要がある。より高い温度は、反応時間の短縮につながるため有利である。少なくとも100℃、特に少なくとも140℃、特に少なくとも170℃の温度で反応を行うことが好ましい場合がある。一方で、より高温では、副生成物の望ましくない形成をもたらし得る。したがって、最大350℃、特に最大290℃の温度で反応を行うことが好ましい場合がある。
【0118】
反応温度に応じて、反応時間は、広範囲、例えば、15分~24時間の間で変動し得る。反応時間は、1時間~12時間、特に1時間~6時間の間で変動することが好ましい場合がある。より少ない量の塩基を使用する場合、所望の変換度を得るためにより長い反応時間が必要とされ得る。
【0119】
反応が完了すると、エチレンアミン化合物及び無機塩基の炭酸塩を含有する反応混合物を得る。塩は、当技術分野で公知の方法によって、例えば、塩が固体形態である場合濾過によって、又はより一般的には、相分離によって除去することができる。
【0120】
様々なCO2除去工程の組み合わせも可能であり、例えば、CO2除去を伴う水による処理、その後の塩基による処理、任意選択的に中間生成物除去工程との、組み合わせも可能である。
【0121】
本明細書に記載の様々な好ましい実施形態は、それらが相互に排他的でない限り、組み合わせることができることが、当業者には明らかであろう。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
少なくとも2つのアミン単位が環状尿素単位によって保護され、少なくとも1つのアミン単位が保護されていない、3つ以上のアミン単位を含有するアルキレンアミン化合物の鎖伸長を介してニトリル化合物を製造するためのプロセスであって、前記鎖伸長が、前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位を、グリコロニトリルと、又はホルムアルデヒドとHCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと反応させて、少なくとも1つのアセトニトリル基を前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位に付加することによる、プロセス。
項2.
前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位を、グリコロニトリルと反応させる、項1に記載のプロセス。
項3.
前記少なくとも1つの保護されていないアミン単位を、ホルムアルデヒドとHCN及び無機シアン化物塩から選択されるシアン化合物との組み合わせと反応させる、項1に記載のプロセス。
項4.
前記シアン化合物がHCNである、項3に記載のプロセス。
項5.
前記シアン化合物が、無機シアン化物塩、特に、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、シアン化カルシウム、及びそれらの組み合わせの群から選択される塩である、項3に記載のプロセス。
項6.
前記反応が、酸の存在下で実施される、項5に記載のプロセス。
項7.
前記反応が、例えば、塩基の存在下で、前記ニトリル基を反応させてカルボキシレートを形成するような条件下で実施される、項5に記載のプロセス。
項8.
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する生成物が、水素及び触媒の存在下での水素化工程であり、前記ニトリル基がアミン基に少なくとも部分的に変換される更なる反応工程に供される、項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
項9.
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する生成物が、水性塩基の存在下でのカルボキシレート基へのけん化工程である更なる反応工程に供される、項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
項10.
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する生成物が、グリニャール試薬との反応でイミン塩を形成し、次にこれを加水分解してケトンを得る、更なる反応工程に供される、項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
項11.
前記少なくとも1つのアセトニトリル基を含有する前記生成物が、続いて、酸性触媒の存在下での加水分解工程である更なる反応工程に供されて、対応するアミドを形成する、項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
項12.
少なくとも2つのアミン単位が環状尿素単位によって保護され、少なくとも1つのアミン単位が保護されていない、3つ以上のアミン単位を含有する前記アルキレンアミン化合物が、U-DETA、U1-TETA、UP-TETA、U2-TETA、DU1,3-TEPA、DU1,4-TEPA、U1P3-TEPA、及びU1P4-TEPAの群から選択される、先行項のいずれか一項に記載のプロセス。
項13.
前記環状尿素単位が、項1~6のいずれか一項に記載の前記プロセスによって得られた前記ニトリル化合物から除去されるか、又は任意選択的に、前記ニトリル化合物が、更なる反応工程に供される場合、前記更なる反応工程の間又は後に、除去され、前記更なる反応工程が、項7~11のいずれか一項に記載の反応工程であってもよい、先行項のいずれか一項に記載のプロセス。
項14.
前記環状尿素単位を除去する工程が、液相中の水との反応、カルボニル部分を取り出すことができるアルキレンアミンとの反応、及び強塩基との反応のうちの1つ以上を含む、項12に記載のプロセス。
【0122】
本発明は、以下の実施例によって示されるが、それらに又はそれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0123】
実施例1 U-DETAからU-DETAモノアセトニトリルへの鎖伸長、続いてけん化及び環状尿素基の除去
実施例1A:U-DETAとグリコロニトリルとの反応によるモノシアノメチル-U-DETA合成
水(109g)中のU-DETA(68.5g、0.5モル)の溶液及び58.8%グリコロニトリル溶液(47.6g、0.5モル)を、水(101g)を含有する1Lの反応器に20℃で同時に充填した。グリコロニトリルはわずかに速く投与された。投与温度は、18℃であった。投与時間は、35分であった。反応混合物を、室温で18時間維持した。NMR分析は、生成物への完全な変換を示した。
【化9】
【0124】
実施例1B:モノシアノメチル-U-DETAのけん化によるモノカルボキシメチル-U-DETA合成
上述の1L反応器で調製された溶液モノシアノメチル-U-DETA(304g)を、ステンレス鋼反応器中の50%NaOH(44.7g)及び水(128g)の混合物に20℃で添加した。1時間撹拌した後、反応器温度を沸点(104℃)まで段階的に上昇させ、3時間この温度に維持してアンモニア-水混合物を留去した。NMR分析によれば、生成物への完全加水分解が起こった。
【化10】
【0125】
実施例1C:モノカルボキシメチル-U-DETAからの環状尿素基の除去による1-(カルボキシメチル)-ジエチレントリアミン合成
50mlのParrボンベを使用して加水分解実験を実行した。50% NaOH溶液を、上記実施例1Bに記載されるように得られたモノカルボキシメチル-U-DETAナトリウム塩を含有する反応混合物に添加した。NMR分析によると、180℃、20時間で約2当量のNaOHで不完全な変換が起こった。更に1当量のNaOHを加えると、180℃、18時間で完全加水分解が起こった。
【化11】
【0126】
実施例2 U-DETAからU-DETAジアセトニトリルへの鎖伸長、その後のけん化
実施例2A:U-DETAとホルムアルデヒド及びHCNとの反応によるジシアノメチル-U-DETA合成
濃縮硫酸(3g)を、加熱/冷却浴及び撹拌器を備えた1リットルの二重壁反応器中の水(293g)中のU-DETA(68.5g、純度94.5%、0.5モル)の溶液に加えて、pHを11.7から9.5に下げた。44.2%ホルムアルデヒド溶液(34g、0.5モル)を得られた溶液に加え、その結果pHが5.5まで更に低下した。これに続いて、44.2%ホルムアルデヒド溶液(36g、0.5モル)及びシアン化水素(27g、1モル)を90分間にわたって同時に添加した。約75分で沈殿物が形成され、撹拌性を改善するために水(100g)を添加した。1時間撹拌した後、生成物を反応器から排出したが、相当量のすすぎ水が必要であった。生成物を濾別し、乾燥させた。
【化12】
【0127】
実施例2B:ジシアノメチル-U-DETAのけん化によるジカルボキシメチル-UDETA合成
上述のように調製された乾燥ジシアノメチル-U-DETA(70.4g)を、水(400g)及び50%NaOH(57g、0.6モル)の撹拌混合物に、35℃で加えた。混合物を、35℃で一晩撹拌して、透明な溶液を得た。反応器の温度を105℃まで徐々に上昇させ、2時間この温度に維持してアンモニア-水混合物を留去した。水を加えて、温度を105℃に維持した。31.6%(NMR分析)のジカルボキシメチル-U-DETAの二ナトリウム塩を含有する黄色溶液(260g)が得られたが、これは出発UDETAに基づいて収率57%に相当する。
【化13】
【0128】
実施例3:U-DETAとホルムアルデヒド及びアルカリ金属シアン化物との反応によるU-DETAからU-DETA二酢酸塩への鎖伸長
実施例3A:U-DETAとホルムアルデヒド及びアルカリ金属シアン化物との反応を介したジカルボキシメチル-U-DETA合成
シアン化ナトリウムの30%溶液を、水(250g)、U-DETA(90.3g、94%、0.7モル)、及び50%NaOH(17g、0.2モル)を含有する1Lのステンレス鋼反応器に98℃で投与した。NaCN投与開始から2分後に、44%ホルムアルデヒド溶液の同時投与を開始した。NaCN溶液の投与速度は、最初の33分間で3.18g/分、次の49分間で1.25g、残りの時間は1.01g/分であった。投与されたNaCN溶液の総量は、230gであった。ホルムアルデヒド溶液の投与速度は、それぞれ1.31、0.51及び0.42g/分であった。ホルムアルデヒド溶液の投与量の総量は、97gであった。遊離シアン化物の量が100ppmを下回った時に、ホルムアルデヒドの投与を停止した。反応混合物を、アンモニア-水混合物を除去し、温度が104℃を超えて上昇しないように水を加えながら、更に1時間沸騰させた。冷却後、30.3%(NMR分析)のジカルボキシメチル-U-DETA二ナトリウム塩を含有する576.5gの反応液を反応器から排出したが、これはU-DETAに基づいて収率86%に相当する。
【化14】
【0129】
実施例3B 尿素基の除去による1,1-ビス(カルボキシメチル)-ジエチレントリアミンの形成
50% NaOH溶液(3.5当量)を、ジカルボキシメチル-U-DETAナトリウム塩を含有するシンガープロセスから得られた反応混合物に加え、混合物を180℃で40時間加熱した。NMR分析によると、生成物への高い変換が得られた。
【化15】