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特許7600407ファスナーストリンガー、ファスナーチェーン及びスライドファスナーの製造方法、並びに電気めっき装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】ファスナーストリンガー、ファスナーチェーン及びスライドファスナーの製造方法、並びに電気めっき装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/02 20060101AFI20241209BHJP
   C25D 5/00 20060101ALI20241209BHJP
   C25D 5/22 20060101ALI20241209BHJP
   C25D 21/00 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
C25D7/02
C25D5/00 101
C25D5/22
C25D21/00 A
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2023539564
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029394
(87)【国際公開番号】W WO2023013054
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】瓜田 侑己
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】阿部 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆志
(72)【発明者】
【氏名】飯森 雅之
(72)【発明者】
【氏名】竹田 諒佑
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/109998(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/189916(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/075828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/02
C25D 5/00
C25D 5/22
C25D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製エレメント(4a,4b)にめっき膜が生成されたファスナーチェーン(1)又はファスナーストリンガー(2a,2b)の製造方法であって、
めっき槽(30)の電解液中に少なくとも部分的に浸漬された1以上のカソード(10)と1以上のアノード(20)の間に電圧を印加する工程と、
前記1以上のカソード(10)と前記1以上のアノード(20)の間に電圧が印加されている時又は期間において前記電解液中に交番磁界を生成する工程と、
少なくとも前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の前記金属製エレメント(4a,4b)が前記交番磁界が生成された空間に配されるように前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向を制御する工程と、
前記交番磁界に応じて複数の磁性メディア(9)を運動させ、前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の前記金属製エレメント(4a,4b)が前記複数の磁性メディア(9)を介して前記カソード(10)に電気的に接続し、かつ前記金属製エレメント(4a,4b)上で成長するめっき膜に対して前記複数の磁性メディア(9)が衝突する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の長手方向が前記交番磁界の生成のために異なる磁極が交互に配置された所定方向に沿うように前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向が制御されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
(i)前記金属製エレメント(4a,4b)の主面が前記磁極に関する磁軸に対して直交するように、及び/又は、(ii)前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)が、前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の幅方向において前記磁極に対して平坦な姿勢で対面するように、前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向が制御されることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)が所定の走行路(80)において連続的又は断続的に走行することの結果として前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向が制御されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記所定の走行路(80)は、複数の支持部材(78)によって画定されることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記カソード(10)は、前記ファスナーチェーン(1)の走行路(80)に沿って延びることを特徴とする請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記1以上のアノード(20)は、前記ファスナーチェーン(1)の走行路(80)に沿って異なる場所に配置された複数のアノード(20)を含む、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ファスナーチェーン(1)の走行路(80)は、1以上の螺旋状走行路(80)を含む、及び/又は、前記1以上のカソード(10)は、1以上の螺旋状カソード(10)を含むことを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記電解液中に交番磁界を生成する工程は、異なる磁極が回転方向に交互に配置された1以上の磁性回転部(60)を回転させることを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記磁性回転部(60)の周囲で前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)を走行させることの結果として前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向が制御されることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記磁性回転部(60)の周囲で螺旋状に前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)を走行させることの結果として前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向が制御されることを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記磁性回転部(60)は、回転可能な態様で密閉された透磁性ハウジング(70)に収容されることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記透磁性ハウジング(70)の外面には前記ファスナーチェーン(1)を支持するための複数の支持部材(78)が設けられることを特徴とする請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記カソード(10)は、前記透磁性ハウジング(70)の外面に設けられた線状又は螺旋状カソード(10)を含む、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記電解液中に交番磁界を生成する工程は、前記1以上の磁性回転部(60)として設けられた異なる磁性回転部(60)それぞれを回転させることを含み、
前記異なる磁性回転部(60)に亘って前記ファスナーチェーン(1)を走行させることの結果として前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向が制御されることを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記異なる磁性回転部(60)に亘って前記ファスナーチェーン(1)を走行させることは、前記異なる磁性回転部(60)の周囲の螺旋状の走行路(80)において逆方向に前記ファスナーチェーン(1)を走行させることを含むことを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ファスナーチェーン(1)は、前記異なる磁性回転部(60)の間で表裏が反転されることを特徴とする請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記磁性回転部(60)の回転方向に沿って前記ファスナーチェーン(1)が走行することの結果として前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向が制御されることを特徴とする請求項9乃至17のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか一項に記載の製造方法で得られたファスナーチェーン(1)を切断する工程と、
前記切断により得られた短尺なファスナーチェーン(1)に対してスライダーを取り付けて、前記短尺なファスナーチェーン(1)の一対のファスナーストリンガー(2a,2b)の前記金属製エレメント(4a,4b)の係合及び係合解除を可能とする工程を含む、スライドファスナーの製造方法。
【請求項20】
ファスナーチェーン(1)又はファスナーストリンガー(2a,2b)の金属製エレメント(4a,4b)にめっき膜を生成するための電気めっき装置(100)であって、
1以上のカソード(10)と1以上のアノード(20)が少なくとも部分的に浸漬される電解液を貯留するめっき槽(30)と、
前記めっき槽(30)の電解液中で交番磁界を生成する交番磁界生成部(50)と、
少なくとも前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の前記金属製エレメント(4a,4b)が前記交番磁界が生成された空間に配されるように設けられた前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の1以上の支持具(78,42,43,120)を備え、
前記カソード(10)は、前記1以上の支持具(78,42,43,120)により支持された前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の前記金属製エレメント(4a,4b)と前記カソード(10)の間で複数の磁性メディア(9)が前記交番磁界に応じて運動することを許容し、かつ前記複数の磁性メディア(9)を介して前記金属製エレメント(4a,4b)に電気的に接続可能に設けられる、電気めっき装置。
【請求項21】
前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の長手方向が前記交番磁界の生成のために異なる磁極が交互に配置された所定方向に沿うように前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の位置及び配向を制御するように前記1以上の支持具(78,42,43,120)が設けられることを特徴とする請求項20に記載の電気めっき装置。
【請求項22】
前記交番磁界生成部(50)は、異なる磁極が回転方向に交互に配置された1以上の磁性回転部(60)を含むことを特徴とする請求項20又は21に記載の電気めっき装置。
【請求項23】
前記磁性回転部(60)が、回転可能にかつ密閉された透磁性ハウジング(70)に収容されることを特徴とする請求項22に記載の電気めっき装置。
【請求項24】
前記1以上の支持具(78,42,43,120)は、前記透磁性ハウジング(70)の外面に設けられた1以上の支持部材(78)を含むことを特徴とする請求項23に記載の電気めっき装置。
【請求項25】
前記カソード(10)は、前記1以上の支持具(78,42,43,120)により支持された前記ファスナーチェーン(1)又は前記ファスナーストリンガー(2a,2b)の走行路(80)に沿って延びることを特徴とする請求項20乃至24のいずれか一項に記載の電気めっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ファスナーストリンガー、ファスナーチェーン及びスライドファスナーの製造方法、並びに電気めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、ファスナーチェーンの金属製エレメントに対して電気めっきをすることが開示されている。特許文献1の図3,4,5等に図示のように、絶縁性容器110内に導電性媒体111を収容し、ファスナーチェーン7を通過させている。ファスナーチェーン7の金属製エレメント3と板状陰極118が導電性媒体111を介して電気的に接続されている。絶縁性容器110には開口116が設けられており、金属製エレメント3とめっき液の接触が確保されている。陽極119は、絶縁性容器110の開口116を間に挟んでファスナーチェーン7に対向して配置される。金属製エレメント3には主に陽極119に対向する側でめっき膜が形成される。特許文献2にも同様の技術が開示されている(特許文献2の図2,3等参照)。
【0003】
特許文献3,4には、ボタン等の基材をめっき槽に投入して電気めっきをすることが開示されている。特には、永久磁石を用いて磁性メディアをボタン等の基材と一緒に流動させて、磁性メディアをボタン等の基材に衝突させながらめっきを行うことで、特殊なめっき層が形成されることが開示されている(例えば、特許文献3の図20及び特許文献4の図20参照)。特許文献3,4はボタンやスライダーのような小物を対象としためっき方法であり、ファスナーテープにエレメントが取り付けられた状態の長尺のファスナーチェーンを対象とするものではない。
【0004】
特許文献5には、ファスナーチェーンを陽極23と陰極24の間を通過させ、陽極23側でファスナーエレメントを第1の金属色とし、陰極24側でファスナーエレメントを第2の金属色とする技術が開示されている。なお、この2色の金属色を得るため、ファスナーエレメントは、カソードから離れて配置される(特許文献5の図1、段落0012参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/109983号
【文献】国際公開第2018/109998号
【文献】国際公開第2018/189916号
【文献】国際公開第2018/190202号
【文献】国際公開第2016/075828号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存の方法とは異なる新たな方法でファスナーチェーンの金属製エレメントにめっき膜を形成することに意義がある。なお、特許文献3,4の基材(端的には、ボタンのシェル)の代替としてファスナーストリンガー又はファスナーチェーンをめっき槽に投入する場合、その撹拌がうまくできず、また、ファスナーテープにより金属製エレメントとカソードの電気的な接続が阻害されてしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る製造方法は、金属製エレメントにめっき膜が生成されたファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの製造方法であって、めっき槽の電解液中に少なくとも部分的に浸漬された1以上のカソードと1以上のアノードの間に電圧を印加する工程と、1以上のカソードと1以上のアノードの間に電圧が印加されている時又は期間において電解液中に交番磁界を生成する工程と、少なくともファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの金属製エレメントが交番磁界が生成された空間に配されるようにファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの位置及び配向を制御する工程と、交番磁界に応じて複数の磁性メディアを運動させ、ファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの金属製エレメントが複数の磁性メディアを介してカソードに電気的に接続し、かつ金属製エレメント上で成長するめっき膜に対して複数の磁性メディアが衝突する工程を含む。ファスナーチェーン又はファスナーストリンガーが所定の走行路において連続的又は断続的に走行することの結果としてファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの位置及び配向が制御され得るが、必ずしもこの限りではない。なお、ファスナーチェーンの製造方法は、ファスナーチェーンの金属製エレメントにめっき膜を生成する電気めっき方法としても理解可能である。
【0008】
本開示の別態様に係るスライドファスナーの製造方法は、上述の製造方法で得られたファスナーチェーンを切断する工程と、切断により得られた短尺なファスナーチェーンに対してスライダーを取り付けて、短尺なファスナーチェーンの一対のファスナーストリンガーの金属製エレメントの係合及び係合解除を可能とする工程を含む。
【0009】
本開示の更なる別態様に係る電気めっき装置は、ファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの金属製エレメントにめっき膜を生成するための電気めっき装置であって、1以上のカソードと1以上のアノードが少なくとも部分的に浸漬される電解液を貯留するめっき槽と、めっき槽の電解液中で交番磁界を生成する交番磁界生成部と、少なくともファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの金属製エレメントが交番磁界が生成された空間に配されるように設けられたファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの1以上の支持具を備える。カソードは、1以上の支持具により支持されたファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの金属製エレメントとカソードの間で複数の磁性メディアが交番磁界に応じて運動することを許容し、かつ複数の磁性メディアを介して金属製エレメントに電気的に接続可能に設けられる。
【0010】
幾つかの実施形態では、ファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの長手方向が交番磁界の生成のために異なる磁極が交互に配置された所定方向に沿うようにファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの位置及び配向が制御される。この目的のために1以上の支持具が設けられ得る。
【0011】
幾つかの実施形態では、(i)金属製エレメントの主面が磁極に関する磁軸に対して略直交するように、及び/又は、(ii)ファスナーチェーン又はファスナーストリンガーがその幅方向において磁極に対して平坦な姿勢で対面するように、ファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの位置及び配向が制御される。
【0012】
幾つかの実施形態では、ファスナーチェーンの走行路は、1以上の螺旋状走行路を含む、及び/又は、1以上のカソードは、1以上の螺旋状カソードを含む。
【0013】
幾つかの実施形態では、電解液中に交番磁界を生成する工程は、異なる磁極が回転方向に交互に配置された1以上の磁性回転部を回転させることを含む。
【0014】
幾つかの実施形態では、磁性回転部の周囲で(例えば、螺旋状に)ファスナーチェーン又はファスナーストリンガーを走行させることの結果としてファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの位置及び配向が制御される。
【0015】
幾つかの実施形態では、磁性回転部は、回転可能な態様で密閉された透磁性ハウジングに収容される。
【0016】
幾つかの実施形態では、電解液中に交番磁界を生成する工程は、1以上の磁性回転部として設けられた異なる磁性回転部それぞれを回転させることを含み、異なる磁性回転部に亘ってファスナーチェーンを走行させることの結果としてファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの位置及び配向が制御される。
【0017】
幾つかの実施形態では、異なる磁性回転部に亘ってファスナーチェーンを走行させることは、異なる磁性回転部の周囲の螺旋状の走行路において逆方向にファスナーチェーンを走行させることを含む。
【0018】
幾つかの実施形態では、磁性回転部の回転方向に沿ってファスナーチェーンが走行することの結果としてファスナーチェーン又はファスナーストリンガーの位置及び配向が制御される。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一態様によれば、既存の方法とは異なる新たな方法でファスナーチェーンの金属製エレメントにめっき膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の一態様に係るファスナーチェーンの金属製エレメントに対する電気めっき方法に関する概略図である。
図2】ファスナーチェーンの一例を示す模式図である。
図3】金属製エレメントの基材上にめっき膜が形成された状態を示す概略的な断面図である。
図4】電気めっき方法に関するタイムチャートである。
図5】電気めっき方法に関する別のタイムチャートである。
図6】本開示の一態様に係る電気めっき装置の概略図である。
図7】電気めっき装置の透磁性ハウジングに回転可能に収容される磁性回転部の概略的な側面図である。
図8】磁性回転部における永久磁石の配置例を示す概略的な側面図である。
図9】電気めっき装置の透磁性ハウジング外に設けられたアノード取付用のフレームの概略的な側面図である。
図10】複数の磁性メディアの挙動及び作用を説明するための模式図であり、(a)は、永久磁石のN極から径方向外向きの磁束により形成される磁場に磁性メディアが置かれた状態を示し、(b)は、永久磁石のS極に向けて径方向内向きの磁束により形成される磁場に磁性メディアが置かれた状態を示す。
図11】螺旋状走行路の間でファスナーチェーンの表裏が反転することを示す上面模式図である。
図12】4つの螺旋状走行路が設けられた電気めっき装置を示す概略図である。
図13】4つの螺旋状走行路が設けられた別例に係る電気めっき装置を示す概略図であり、図12と比較して磁性回転部の回転方向に違いがある。
図14】本開示の別態様に係る電気めっき装置の概略図である。
図15】本開示の別態様に係る電気めっき装置における複数の磁性メディアの挙動及び作用を説明するための模式図であり、(a)は、上部カソードが金属製エレメントの上面とN極の間に配置された状態を示し、下部カソードが金属製エレメントの下面とS極の間に配置された状態を示し、(b)は、上部カソードが金属製エレメントの上面とS極の間に配置された状態を示し、下部カソードが金属製エレメントの下面とN極の間に配置された状態を示す。
図16】本開示の別態様に係る電気めっき装置の概略図である。
図17】洗い加工及び染加工に関する評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、様々な実施形態及び特徴について説明する。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている。各特徴は、本願に開示された電気めっき装置及びファスナーチェーンの製造方法にのみ有効であるものではなく、本明細書に開示されていない他の様々な電気めっき装置及びファスナーチェーンの製造方法にも通用する普遍的な特徴として理解される。
【0022】
本開示に係るファスナーチェーンの製造方法は、図1に概略的に示す4つの工程S1~S4を含む。工程S1では、めっき槽の電解液中に少なくとも部分的に浸漬されたカソードとアノードの間に電圧が印加される。工程S2では、カソードとアノードの間に電圧が印加されている時又は期間において電解液中に交番磁界が生成される。工程S3では、少なくともファスナーチェーンの金属製エレメントが交番磁界が生成された空間に配されるようにファスナーチェーンの位置及び配向が制御される。例えば、ファスナーチェーンが交番磁界を通過するようにファスナーチェーンが所定の走行路を連続的又は断続的に走行させられ、この結果として、ファスナーチェーンの位置及び配向が制御される。工程S4では、交番磁界に応じて複数の磁性メディアが運動し、ファスナーチェーンの金属製エレメントが複数の磁性メディアを介してカソードに電気的に接続し、かつ金属製エレメント上で成長するめっき膜に対して複数の磁性メディアが衝突する。なお、工程S4は、めっき槽に対して磁性メディアを投入した状態で工程S1,S2を行うことにより達成可能である。工程S3は、ファスナーチェーンの走行の結果として行われる時、工程S1,S2,S4と時間軸において重畳するように実施され得るが、必ずしもこの限りではない。
【0023】
上述の製法によると、めっき膜の成長とめっき膜に対する磁性メディアの衝突が同時に起き、これにより十分な品質(例えば、十分な加工耐性)のめっき膜の形成が促進される。ファスナーチェーンの位置及び配向が制御され、ファスナーテープによって金属製エレメントとカソード間の電気的な接続が阻害されることが抑制される。
【0024】
交番磁界の利用効率を高めるためにファスナーチェーン1の長手方向が交番磁界の生成のために異なる磁極が交互に配置された所定方向に沿うようにファスナーチェーン1の位置及び配向を制御すると良い。更には、金属製エレメントの主面が磁極に関する磁軸に対して略直交するように、及び/又は、ファスナーチェーン1がその幅方向において磁極に対して平坦な姿勢で対面するようにファスナーチェーン1の位置及び配向を制御すると良い。これにより均一な品質及び/又は厚みでめっき膜を形成することが促進される。なお、平坦な姿勢は、ファスナーチェーン1がその幅方向で大きく屈曲してしない状態を意味し、ファスナーチェーン1の両方のファスナーテープが同一平面に配される程の平坦さを意味せず、各ファスナーテープに局所的な撓み、波打ちが生じることも包含する。勿論、ファスナーチェーン1において金属製エレメントがファスナーテープにより被覆される屈曲状態は、上述の平坦な姿勢に包含されない。金属製エレメントの配向に関して、略直交は、80°~100°の範囲内の角度を意味する。
【0025】
ファスナーチェーン1が所定の走行路80において連続的又は断続的に走行することの結果としてファスナーチェーン1の位置及び配向が制御される場合、電気めっきを効率的に行うことができる。所定の走行路80は、複数の支持部材78により画定することができるが、必ずしもこの限りではない。なお、ファスナーチェーン1の位置及び配向を制御する工程を、ファスナーチェーンが交番磁界を通過するようにファスナーチェーンを所定の走行路で連続的又は断続的に走行させる工程で読み替えることもできる。
【0026】
ファスナーチェーンの代替として(片方の)ファスナーストリンガーに対して上述の工程を実施することができる。本明細書では、専らファスナーチェーンの製法に関して説明するが、(片方の)ファスナーストリンガーの製法にも同様に適用可能であり、重複説明は省略する。
【0027】
磁性メディアは、交番磁界に応じて運動し、かつカソード10と金属製エレメント4a,4bの電気的な接続(即ち、短絡)を確保するのに十分な導電性を有する。様々な形状の磁性メディアを用いることができ、幾つかの場合、非球状メディアが用いられる。例えば、円柱又は角柱といったピンメディアが用いられる。ピンメディアは、0.2mm~1.0mm程度の直径又は最大幅、3mm~15mmの長さのステンレスピンであり得る。ステンレス以外の強磁性材料も採用可能である。
【0028】
ピンメディアは、交番磁界に応じて回転する(磁界の向きが変わる時、ピンメディアは、変化前の磁界の向きに対応した第1姿勢から変化後の磁界の向きに対応した第2姿勢に変化する)。また、ピンメディアは、磁極に連行されて変位する。このようなピンメディアの挙動に加え、ピンメディア同士が衝突し、更には、ピンメディアがファスナーチェーン(特には金属製エレメント)に衝突する。ピンメディアの個々の挙動は無秩序であるが、それらのピンメディアの集合によりカソードと金属製エレメント間の電気的な接続が偶発的ではなく連続的又は間欠的に維持される。ここで、衝突とは、磁性メディアが金属製エレメントから離れた状態(磁性メディア同士は離れていなくてもよい状態)にあるときに交番磁界から得た回転運動量と並進運動量を、金属製エレメントに与えることであり、特許文献1や特許文献2に記載の既存のめっき技術における電極と被めっき対象物とが常時接触した状態において、電極と被めっき物とが相対的に動くような場合とは異なるものである。
【0029】
磁界の変化速度を適切に設定することにより磁性メディアによるめっき膜の打撃力を適正化することができる。磁性メディアの衝突により、めっき膜が平坦化され、又は、その表面の一部が削られ、結果として、めっき膜の成長が遅れてしまうおそれがある。しかしながら、めっき膜への磁性メディアの衝突によってめっき膜の品質(例えば、加工耐性、又は、基材への密着性)が高められ得る。基材への密着性が高められる場合、衝突は、めっき層の結晶構造の変化に影響を与える程度の運動量をもった衝突を意味するともいえる。
【0030】
図2に示すように、ファスナーチェーン1は、所定幅で所定方向に長尺に延びる長尺物であり、一対のファスナーストリンガー2a,2bを有する。各ファスナーストリンガー2a,2bは、ファスナーテープ3a,3bと、ファスナーテープ3a,3bの側縁部に取り付けられた金属製エレメント4a,4bを有する。ファスナーチェーン1は、一対のファスナーストリンガー2a,2bの金属製エレメント4a,4bがお互いに係合したものである。一対のファスナーストリンガー2a,2bの金属製エレメント4a,4bは、不図示のスライダーを用いて係合可能であり、また同様に係合解除可能である。
【0031】
金属製エレメント4aは、ファスナーテープ3aの側縁部に所定間隔で取り付けられ、従って、ファスナーテープ3a上においてお互いに電気的に接続されていない。同様、金属製エレメント4bは、ファスナーテープ3bの側縁部に所定間隔で取り付けられ、従って、ファスナーテープ3b上においてお互いに電気的に接続されていない。金属製エレメント4aと金属製エレメント4bが係合する時、両者が接触可能となり、両者が共通の電位を持つことができる。なお、金属製エレメント4aと金属製エレメント4b同士の接触状態は、ファスナーチェーン1の走行時に磁性メディアの衝突等により変化するおそれがある。
【0032】
ファスナーチェーン1は、金属製エレメント4a,4bに対する電気めっき後、切断工程により短尺なファスナーチェーンにされ、この短尺なファスナーチェーンに対してスライダーが取り付けられ、その後、必要に応じてファスナーチェーンに対して止め具が取り付けられる。短尺なファスナーチェーンにスライダー(又はこれに加えて止め具)が取り付けられたものが、一般的にスライドファスナーと呼ばれる。ファスナーチェーン1には、最終製品であるスライドファスナーの構成部品のスライダーが取り付けられておらず、効率的かつ円滑に下流側に搬送可能である。
【0033】
ファスナーテープ3a,3bは、織物、編物、又はこれらの混在物から成る可撓性帯である。ファスナーテープ3a,3bは、ファスナーチェーン1の表面側から見える表面とファスナーチェーン1の裏面側から見える裏面の一対の主面を有し、また一対の主面により画定される厚みを有する。金属製エレメント4a,4bは、その塑性変形を介してファスナーテープ3a,3bの芯紐に取り付けられる。金属製エレメント4a,4bは、ファスナーテープ3a,3bの側縁部(典型的には、芯紐)に取り付けられた一対の脚部と、一対の脚部を連結する頭部を有する。ある場合、ファスナーチェーン1の長手方向に交差する頭部の一対の側面に関して、一方の側面に係合突起が設けられ、他方の側面に係合凹部が設けられる。別の場合、上述の一対の側面それぞれに係合突起が設けられる。金属製エレメント4a,4bは、ファスナーチェーン1の表面側から見える表面とファスナーチェーン1の裏面側から見える裏面の一対の主面を有し、また一対の主面により画定される厚みを有する。
【0034】
本開示の電気めっき工程の後、図3に示すように、金属製エレメント4a,4bの基材4gがめっき膜4hにより被覆される。図3は、金属製エレメント4a,4bの基材4gがめっき膜4hにより被覆される様子を示す概念図である。
【0035】
金属製エレメントの基材4gが黄銅(CuZn)から成り、アノードとして錫(Sn)が用いられる場合を一例に挙げて説明する。本開示の電気めっきによると、めっき膜4hは、錫(Sn)に加えて基材4gの金属元素(Cu,Zn)も含む。めっき膜4hの厚み方向において基材4gから離間するに応じてめっき膜4hにおけるCu,Zn(第1のめっき膜金属元素と呼ぶ)の割合が連続的に減少する。アノードに対応のSn(第2のめっき膜金属元素と呼ぶ)の割合は、めっき膜4hの厚み方向において基材4gに接近するに応じて減少する。第2のめっき膜金属元素の割合は、めっき膜4hの上面で最大であり、第1のめっき膜金属元素の割合は、めっき膜4hの上面で最小又はゼロである。言うまでも無く、めっき膜4h上に1以上の追加のめっき膜を形成することも可能である。基材4gの金属元素とアノードの金属元素に関して様々な組み合わせが可能であり、ここで述べたものは非限定の単なる一例と理解すべきである。
【0036】
上述の工程S1~S4の順番について補足的に説明する。工程S1と工程S2は完全に同期して行う必要はなく、開始タイミング又は終了タイミングにおいて時間差があっても良い(図4参照)。また、工程S1と工程S2を間欠的に実施しても良い(図5参照)。工程S3は、ファスナーチェーンの走行の結果として行われる時、工程S1,S2と時間軸沿いに重畳して行われ(図4参照)、又は、工程S1,S2と時間軸沿いに重畳せずに(相補的に)行われる(図5参照)。工程S4は、工程S1,S2と時間軸沿いに重畳して行われる。
【0037】
図4では、時刻t2以降、金属製エレメントがカソードから電子の供給を受けてアノード由来の金属イオンが金属製エレメント上に連続的に析出する。また、金属イオンの析出に伴って成長するめっき膜に対して磁性メディアが連続的に衝突する。図5では、時刻t1と時刻t2の間の期間で停止中のファスナーチェーンの金属製エレメントにめっき膜が形成され、かつめっき膜に対して磁性メディアが連続的に衝突する。時刻t2と時刻t3の間の期間ではファスナーチェーンが所定距離だけ走行させられる。これが繰り返され、金属製エレメントに所望のめっき膜が形成される。
【0038】
以下、本開示に係るファスナーチェーンの製造(電気めっき)方法及び装置について詳述する。なお、本開示に係る方法のために様々な電気めっき装置を用いることができ、本開示に開示の電気めっき装置は単なる一例であるに過ぎない。図6に示すように、電気めっき装置100は、めっき槽30、搬送機構40、交番磁界生成部50、及びファスナーチェーン1の走行路80を有する。ファスナーチェーン1は、搬送機構40のローラ41,42を介してめっき槽30外からめっき槽30内に進入し、搬送機構40のローラ43,44を介してめっき槽30内からめっき槽30外に退出する。ファスナーチェーン1の搬送の具体的な方法は任意であり、例えば、その搬送のために巻き取りローラ、グリッパー、又はローラ対(駆動ローラと押圧ローラの組み合わせ)を用いることができる。ファスナーチェーン1は、めっき槽30内において走行路80を走行し、めっき槽30の電解液35に浸漬した浸漬部分と、それ以外の部分を含むことになる。
【0039】
めっき槽30は、1以上のカソード10と1以上のアノード20が浸漬される電解液35を貯留する。めっき槽30は、底板31と側板32を有する絶縁性容器であり、オプションとして蓋により閉鎖可能である。めっき槽30の電解液35は、例えば、シアン系めっき液であり、これが外部の副槽との間で循環される。なお、環境負荷低減の観点から、シアン、クロム、セレンのような特定有害物質を含まないめっき液を利用することが好ましい。カソード10とアノード20が直流電源E1に接続され、両者の間に電圧が印加される。スイッチSWのオン・オフにより電圧印加状態を制御可能である。アノード20は、可溶性又は不溶性アノードであり得る。アノード20の金属元素は、目的とするめっき膜の金属元素に応じて適切に決定される。カソード10は、ファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bに電子を供給するため(金属製エレメント4a,4bをカソード電位とするため)に電解液35中でアノード20から離れて設けられる。
【0040】
交番磁界生成部50は、めっき槽30の電解液35中で交番磁界を生成する。交番磁界は、時間と共に大きさと方向が変化する磁界を意味する。ファスナーチェーン1の走行路80は、ファスナーチェーン1が交番磁界生成部50により生成される交番磁界に配されるように設けられる。交番磁界の生成とファスナーチェーン1の走行が同時に又は同じ期間に行われる時、ファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bは、交番磁界生成部50により生成されている交番磁界を通過する。
【0041】
本電気めっき装置100では、カソード10は、支持部材78により支持されたファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bとカソード10の間で複数の磁性メディアが上述の交番磁界に応じて運動(例えば、回転)することを許容し、かつ複数の磁性メディアを介して金属製エレメント4a,4bに電気的に接続可能に設けられる。換言すれば、(i)支持部材78により支持されたファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bとカソード10の間には交番磁界に応じて複数の磁性メディアが運動する空間が設けられ、(ii)この空間は、その金属製エレメント4a,4bが複数の磁性メディアを介してカソード10に電気的に接続され、かつ金属製エレメント4a,4b上で成長するめっき膜に対して複数の磁性メディアが衝突可能なように設定される。
【0042】
上述の構成によると、金属製エレメント4a,4b上へのめっき膜の成長と、めっき膜に対する磁性メディアの衝突の両方が同時に起きることを確保できる。これにより十分な品質のめっき膜(例えば、加工耐性)の形成が促進される。また、支持部材78により画定される走行路80においてファスナーチェーンを連続的又は断続的に走行させる場合には、電気めっき工程を効率的に行うことができる。
【0043】
支持部材78は、ファスナーチェーン1の長手方向が交番磁界の生成のために異なる磁極が交互に配置された所定方向(例えば、後述の磁性回転部60の周方向及び/又は回転方向)に沿うと共に、ファスナーチェーン1がその幅方向において磁極に対して平坦な姿勢で対面するようにファスナーチェーン1の位置及び配向を制御するように設けられ得る。これにより均一な品質及び/又は厚みでめっき膜を形成することが促進される。
【0044】
交番磁界生成部50は、モータ61と、モータ61により回転される磁性回転部60を含む。モータ61は、例えば、直流又は交流モータである。磁性回転部60では、異なる磁極(即ち、N極とS極)がその回転方向に交互に配置される。磁極として永久磁石、電磁石、又はこれらの組み合わせを用いることができる。図7に示す場合、磁極のために永久磁石が用いられる。磁性回転部60は、モータ61の回転軸62に回転可能に固定された回転体63と、その回転体63の外面に設けられた複数の永久磁石64を有する。回転体63は、例えば、ステンレス製の中空の円柱部材である。永久磁石64は、ネオジウム磁石といった希土類磁石であり得るが、他の種類も採用可能である。一つの磁性回転部60に対応して一つのモータ61を設けることは必須ではない。適切な動力伝達系を介してモータ61の出力を複数の磁性回転部60に供給することもできる。なお、モータ61の回転軸62は、めっき槽30の底板31の開口に防水ベアリングを介して固定され得る。
【0045】
複数の永久磁石64は、磁性回転部60の回転方向においてS極とN極が交互に並ぶように配置される(図8参照)。モータ61の作動に応じて磁性回転部60が回転する時、磁性回転部60の径方向外側の所定位置から見て磁性回転部60がS極とN極の間で交互に切り替えられる。磁性回転部60の径方向外側の所定位置にある磁性メディア(例えば、ピンメディア)は、(その磁性メディアに最も近い)磁極の変化に応じて回転しつつ、磁性回転部60の回転方向に流動する。磁性回転部60の回転速度は、例えば、100~4,000rpmである。
【0046】
図8に示すように、磁性回転部60の外面には、N極が外向きの永久磁石64が配置されたN極配置ゾーンZ1,Z3,Z5と、S極が外向きの永久磁石64が配置されたS極配置ゾーンZ2,Z4が磁性回転部60の回転方向において交互に設けられ得る。図8では、N極配置ゾーンZ1,Z3,Z5とS極配置ゾーンZ2,Z4が磁性回転部60の回転軸に平行に上下に真っ直ぐに延びているが、このような態様に限られない。幾つかの場合、磁性メディアの重力による沈降を考慮し、N極配置ゾーンZ1,Z3,Z5とS極配置ゾーンZ2,Z4は、磁性回転部60の回転軸に非平行に上下に斜めに延び、又は、磁性回転部60の回転軸に非平行に上下にジグザグに延びる。
【0047】
電気めっき装置100は、透磁性ハウジング70を更に有し、磁性回転部60が回転可能にかつ密閉性を持たせて収容される。透磁性ハウジング70は、その内部の磁性回転部60の永久磁石64のN極からS極に向かう磁束を透過し、透磁性ハウジング70外に磁界を形成可能とする。透磁性ハウジング70は、モータ61の作動に基づいて磁性回転部60と一緒に回転せずに所定場所で静止を維持し、例えば、(その底板と上板で)回転軸62に対して防水ベアリングを介して結合される。透磁性ハウジング70を設けることにより磁性回転部60を電解液35から保護することができ、及び/又は、磁性回転部60の回転抵抗を小さくすることができる。透磁性ハウジング70は、例えば、ポリプロピレン、アクリル、塩化ビニル等の樹脂から成る。
【0048】
透磁性ハウジング70の外面にはファスナーチェーン1を支持するための1以上の支持具として複数の支持部材78が設けられる。これにより、ファスナーチェーン1の位置及び姿勢が制御されると共にその走行路80が画定される。好適には、支持具(例えば、支持部材78)によりファスナーチェーン1が平坦な姿勢で支持される。ファスナーチェーン1は、磁性回転部60の周囲を、具体的には、磁性回転部60の回転軸62の径方向外側の位置で周方向に走行できる。磁性回転部60から径方向外側に離間するに応じて磁束密度が低下するが、透磁性ハウジング70に支持部材78を設けることでファスナーチェーン1を磁性回転部60の近傍で走行させることができる。透磁性ハウジング70とファスナーチェーン1の間で磁性メディアが交番磁界に応じて大きく運動することができ、めっき膜に対して磁性メディアが強く衝突できる。幾つかの場合、複数の支持部材78は、ファスナーチェーン1の螺旋状の走行路80を画定するように透磁性ハウジング70の外面に取り付けられる。走行路80を螺旋状とすることで電気めっき装置100の大型化を回避することができる。
【0049】
各支持部材78は、L字形状部材であり、詳細には、磁性回転部60の回転軸62から径方向外側に延びる第1棒部78aと、透磁性ハウジング70の外面から所定の間隔を空けて上方に延びる第2棒部78bを有する。第1棒部78aによって、重力に応じた電解液35中でのファスナーチェーン1の沈降が阻止される。第2棒部78bによって、重力、磁性メディア又は水流等によってファスナーチェーン1が透磁性ハウジング70の外面から離れる側に倒れることが阻止される。支持部材78は、ネジ止め、接着といった任意の方法で透磁性ハウジング70の外周に固定され得る。
【0050】
透磁性ハウジング70の外面にカソード10を設けることができる。カソード10は、ファスナーチェーン1の走行路に沿って延びるように設けられる。これによりカソード10に対する磁性メディアを介して金属製エレメント4a,4bの電気的な接続が良好になることが見込まれる。幾つかの場合、カソード10は、ファスナーチェーン1の螺旋状の走行路80に対応して透磁性ハウジング70の周囲に螺旋状に設けられる。この追加又は代替として、カソード10は、走行路80を走行中のファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bがカソード10に対面する位置に設けられる。なお、永久磁石64、透磁性ハウジング70、カソード10、磁性メディア、及び金属製エレメント4a,4bが磁性回転部60の回転軸に関する径方向において同軸上に配置される状態になる。
【0051】
透磁性ハウジング70の外面にカソード10を設ける場合、磁性回転部60の回転によってカソード10に誘導起電力が生じ、カソード10に誘導電流が流れる。この影響を低減するため透磁性ハウジング70の外面においてカソード10が(円筒状ではなく)線状に設けられる。カソード10に鎖交する磁束が低減し、誘導起電力及び誘導電流を抑制することができる。なお、螺旋状のカソード10は、線状のカソード10を透磁性ハウジング70の外面に螺旋状に巻くことにより構築可能である。線状のカソード10は、螺旋状以外の態様で透磁性ハウジング70の外面に設けられ得る。カソード10は、ネジ、接着剤、嵌合といった方法で透磁性ハウジング70の外面に固定され得る。
【0052】
カソード10が線状又は螺旋状に設けられる場合、カソード10の長さが長くなってしまう。カソード電位の安定化を図るため、一つの透磁性ハウジング70において、直流電源E1との複数の接点をカソード10に設けることができ、又はカソード10を分割して直流電源E1との接点を個別に設けることができる。
【0053】
ファスナーチェーン1の走行路80の近傍にアノード20を配置するためにフレーム72を用いることができる(図9参照)。フレーム72に対して複数のアノード20を直接的又はカゴ等を介して間接的に取り付けることによってファスナーチェーン1の走行路80に沿って異なる場所に複数のアノード20を配置することができる。これによりファスナーチェーン1の走行路80沿いにおける金属イオン濃度の偏りを低減することができる。例えば、フレーム72に対してメッシュ状のカゴが取り付けられ、カゴ内に(アノード20として機能する)金属板が入れられる。
【0054】
フレーム72は、磁性回転部60の回転軸62に関して透磁性ハウジング70よりも径方向外側に位置する。フレーム72は、上下方向に間隔を空けて設けられた横材73と、横材73同士を上下方向で連結する縦材74を有する円筒状の網部材である。フレーム72は、ファスナーチェーン1の走行路80と干渉しないように構築される。アノード20から溶出する金属イオンは、フレーム72の網目を通して走行路80に在るファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bに到達することができる。当業者には明らかなように、フレーム72を用いることなく、ファスナーチェーン1の走行路80の近傍にアノード20を配置することもできる。
【0055】
図10を参照して磁性メディアの役割について更に説明する。図10(a)の時、透磁性ハウジング70の外周の所定位置において、その内側に磁性回転部60のN極配置ゾーンが位置する。図10(b)の時、透磁性ハウジング70の外周の所定位置において、その内側に磁性回転部60のS極配置ゾーンが位置する。図10(a)、図10(b)のいずれの状態においても適切な量の磁性メディア9がカソード10と金属製エレメント4a,4bの間に存在する。図10(a)、10(b)において磁束が破線で示されている。
【0056】
図10(a)から図10(b)に磁束の向きが変わる過程で、各磁性メディア9が回転及び変位する。各磁性メディア9の配向及び変位の変化に関わらず、その前後又はその全過程において複数のメディアを介して金属製エレメント4a,4bがカソード10に電気的に接続され得る。幾つかの磁性メディア9は、その回転時、金属製エレメント4a,4b上で成長中のめっき膜に衝突する。ファスナーチェーン1においては、金属製エレメント4a,4bは、磁性メディア9を介してカソード10に電気的に接続されなくても、他の金属製エレメント4a,4bを介してカソード10に電気的に接続され得る。
【0057】
必ずしもこの限りではないが、ファスナーチェーン1の搬送を補助するように磁性メディア9を用いることができる。例えば、磁性回転部60の回転方向とその周囲を走行するファスナーチェーン1の走行方向が同じ方向に設定される。磁性メディア9は、交番磁界に応じて回転することの他、磁性回転部60の永久磁石64に連行して磁性回転部60と同じ方向に流動する。この磁性メディア9の流動によってファスナーチェーン1が押され、ファスナーチェーン1が同じ方向に走行し易くなる。
【0058】
ファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bは、カソード10に対面した第1面5とカソード10とは反対側に向いた第2面6を有する(図10参照)。透磁性ハウジング70からファスナーチェーン1よりも径方向外側にアノード20が配置され、金属製エレメント4a,4bの第1面5側と第2面6側において同等の磁性メディアが存在しているものとすると、金属製エレメント4a,4bの第2面6側でのめっき膜の成長速度は、金属製エレメント4a,4bの第1面5側でのめっき膜の成長速度よりも大きくなる。金属製エレメント4a,4bの表裏でめっき膜の厚みに違いが出ることを抑制するために、ファスナーチェーン1の走行路においてファスナーチェーン1の表裏を反転させると良い。
【0059】
図6に示す場合、めっき槽30には2つの交番磁界生成部50が設けられており、上流側の交番磁界生成部50の透磁性ハウジング70の外周に上流側の螺旋状走行路が設けられ、下流側の交番磁界生成部50の透磁性ハウジング70の外周に下流側の螺旋状走行路が設けられ、これらの螺旋状走行路の間にはファスナーチェーン1の表裏反転部90が設けられる。
【0060】
図11に示す場合、表裏反転部90は、2つのガイドローラ91,92を有するだけである。ファスナーチェーン1の表裏反転は、上流側の透磁性ハウジング70と下流側の透磁性ハウジング70の間でファスナーチェーン1の走行方向を逆向きにすることにより達成される。即ち、図11に示すように、めっき槽30を上方から見た時、ファスナーチェーン1は、上流側の螺旋状走行路において時計回りに走行し、下流側の螺旋状走行路において半時計回りに走行する。このようにしてファスナーチェーン1の表裏が反転され、金属製エレメント4a,4bの表裏でのめっき膜の厚みの均一化が促進される。なお、ファスナーチェーン1の表裏反転は、他の様々な方法で実行することができる。
【0061】
電気めっき装置100の動作方法に関して、ファスナーチェーン1の所定部分について着目して説明する。まず、ファスナーチェーン1の搬送に応じて、ファスナーチェーン1の所定部分は、ローラ41,42に案内されて電解液35中の走行路80に到達する。ファスナーチェーン1の所定部分が走行路80を走行する前、モータ61の作動に基づいて磁性回転部60が回転しており、この周囲に交番磁界が生成される。ファスナーチェーン1の走行路80は交番磁界に配されており、そこで磁性メディア9が運動している。また、カソード10とアノード20間には直流電源E1により電圧が印加されている。
【0062】
ファスナーチェーン1の所定部分が走行路80を走行する時、その金属製エレメント4a,4bが磁性メディア9を介して透磁性ハウジング70の外面に設けられたカソード10に電気的に接続される。また、金属製エレメント4a,4b上に形成されるめっき膜に磁性メディア9が繰り返し衝突する。ファスナーチェーン1の所定部分が螺旋状の走行路80の下端から上端に向けて走行する期間においてめっき膜の成長と磁性メディア9のめっき膜への衝突が連続的に起きる。このようにして、電気めっき装置100の大型化を回避しつつ、十分な厚みのめっき膜を形成することが促進される。
【0063】
ファスナーチェーン1の所定部分は、続いて、表裏反転され、次の螺旋状の走行路80を逆方向に、即ち、その上端から下端に向けて走行する。この走行期間において上述と同様、めっき膜の成長と磁性メディア9のめっき膜への衝突が連続的に起きる。このようにしてファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bの表裏にめっき膜が形成される。螺旋状の走行路80を走行し終えると、ファスナーチェーン1の所定部分は、ローラ43,44に案内されて電解液35から退出する。
【0064】
なお、金属製エレメント4a,4bの接触部分にも金属イオンが析出し、めっき膜が形成される。電気めっきに際して、ファスナーチェーン1の長手方向に沿って金属製エレメント4a,4bの係合列が磁性メディア9を介して連続的にカソード10に電気的に接続され、従って、ファスナーチェーン1の長手方向に沿って金属製エレメント4a,4bの係合列に電位勾配が生じることが抑制される。各モータ61のオン・オフ、スイッチSWのオン、オフの制御のため、シーケンサーを用いることができる。シーケンサーは、ファスナーチェーンの搬送開始・搬送停止も制御することができ得る。
【0065】
上述の説明では、主に図6を参照して、2つの交番磁界生成部50、2つの螺旋状走行路、及び1つの表裏反転部90が設けられる形態について説明したが、1つの交番磁界生成部50と1つの螺旋状走行路のみが設けられる形態も想定される。ファスナーチェーン1の走行路80は必ずしも螺旋状に限らず、直線上、ジグザグ状等も有り得る。また、複数の透磁性ハウジング70にファスナーチェーン1を蛇行状に掛け渡し、これを磁性回転部60の回転軸に沿って繰り返すこともできる。
【0066】
以下、図12図16を参照してバリエーションについて説明する。図12及び図13は、4つの交番磁界生成部50、4つの螺旋状走行路、2つの表裏反転部90が設けられる形態を示す。図12では、ファスナーチェーン1は、1番目の螺旋状走行路を時計回りに上向きに走行し、2番目の螺旋状走行路を反時計回りに下向きに走行し、3番目の螺旋状走行路を反時計回りに上向きに走行し、4番目の螺旋状走行路を時計回りに下向きに走行する。図13では、ファスナーチェーン1は、1番目の螺旋状走行路を反時計回りに上向きに走行し、2番目の螺旋状走行路を時計回りに下向きに走行し、3番目の螺旋状走行路を時計回りに上向きに走行し、4番目の螺旋状走行路を反時計回りに下向きに走行する。4つ以上の交番磁界生成部50と4つの螺旋状走行路を設けることによりファスナーチェーン1の走行速度を増加しても十分なめっき膜の厚みを確保することができる。
【0067】
図14及び図15は、支持部材78ではなく搬送機構40のローラ41,42によりファスナーチェーン1の位置及び配向が制御される形態を示す(即ち、搬送機構40のローラ41,42が、ファスナーチェーン1の支持具として機能する)。このような場合においても矛盾のない範囲で上述と同様の効果が得られる。
【0068】
図14及び図15では、ファスナーチェーン1の水平走行路の上下に交番磁界生成部50’が設けられる。上述の説明と同様、交番磁界生成部50’は、磁性回転部60’(図15では、磁性回転部が簡略的に示される)、透磁性ハウジング70’を有する。上述と同様、磁性回転部60’は透磁性ハウジング70’に回転可能に密閉されて収容され、モータの作動に応じて回転する。磁性回転部6’は透磁性ハウジング70’内に複数個設けられていてもよい。なお、ここでは、モータの回転軸が水平に配置されている。上下の透磁性ハウジング70’の間にファスナーチェーン1の走行路80が設けられる。この走行路80を走行するファスナーチェーン1の金属製エレメント4a,4bを挟むように上下に所定間隔を空けてカソード10が配置される。また、ファスナーチェーン1のファスナーテープの上下両側にアノード20が配置される。磁性回転部60の回転に応じて磁性メディア9が回転し、カソード10と金属製エレメント4a,4bの電気的な接続が確保され、金属製エレメント4a,4b上にめっき膜が成長する。めっき膜の成長中、磁性メディア9がめっき膜に繰り返し衝突する。これにより上述と同様の良好な品質のめっき膜が形成される。なお、図14では一対の交番磁界生成部50’の間をファスナーチェーン1が1回のみ通過するが、めっき槽30内に複数対の交番磁界生成部50’を設置して、ファスナーチェーン1を複数回通過させるようにしてもよい。
【0069】
図16は、めっき槽30の電解液中にファスナーチェーン1が所定の位置及び配向で供給され、電気めっきにより金属製エレメントにめっき膜が形成されることを示す。ファスナーチェーン1の長手方向において、その一端が1以上の支持具120により支持され、その他端が別の1以上の支持具120により支持される。このような方法でファスナーチェーン1の位置及び配向を制御することもできる。支持具120の具体的な構成は様々であり、その個数も様々である。図示例では、合計4つの支持具120が設けられ、そのうちの2つがファスナーチェーン1の一端に割り当てられ、他の2つがファスナーチェーン1の他端に割り当てられる。
【0070】
各支持具120は、固定部材121,124、バネ122及び押圧ボール123から構成される。固定部材121,124は、めっき槽30中の所定位置に固定されている。バネ122の一端が固定部材121に固定され、バネ122の他端に押圧ボール123が固定される。押圧ボール123と固定部材124の支持面の間でファスナーチェーン1のファスナーテープが挟まれて位置決めされる。図16から明らかなように、ファスナーチェーンを走行させることは必須ではない。念のため述べれば、図16においてファスナーストリンガーを支持具120により所定位置及び配向で支持することもできる。
【0071】
実施例
本願の図13に示すめっき装置を用いてファスナーチェーンの金属製エレメントにめっき膜を形成した。なお、磁性回転部の回転速度は、400rpmである。ファスナーチェーンの走行速度は、3.5m/分である。電源電圧は、1Vであり、各カソードに10Aの電流を流した。電気めっき時間は、7分である。このファスナーチェーンをデニム生地に対して縫い付け、洗い加工を施した。洗い加工として、デニム生地が濃色を維持する濃色加工と、デニム生地が淡色になる淡色加工を行った。
【0072】
洗い加工では、ファスナーチェーン付きのデニム生地に対して、前処理、ストーンウォッシュ、バイオウォッシュ、及びエコブリーチをこの順で行った。淡色加工では、エコブリーチ後に強ブリーチを更に行った。前処理は、糊抜きのための湯洗い工程であり、90℃の熱水で20分洗い、60℃の熱水で5分洗い、30℃の温水で5分洗った。ストーンウォッシュは、軽石と共洗いする工程であり、30分洗った。バイオウォッシュは、酵素を用いて繊維を溶かしてデニム生地を柔らかくし、鳥羽取りする工程であり、55℃の熱水にセルラーゼを投入して20分洗った。エコブリーチは、ブドウ糖を用いてデニム生地の色を落として白度を出す工程であり、90℃の熱水にグルコース(20g/L)とNaOH(15g/L)を加えて20分洗った。ブリーチは、漂白剤でデニム生地の色を落として白度を出す工程であり、次亜塩素酸ソーダを加えて50°の熱水で15分洗った。
【0073】
洗い加工とは別に染加工も施した。染加工として、硫化染料を用いた染加工と、反応性染料を用いた染加工を行った。硫化染料を用いた染加工では、50°の熱水にアルカリ材、染料、染着促進剤、還元剤(チオゲン)を投入し、ファスナーチェーン付きのデニム生地を85°で20分に亘り浸漬させた。反応性染料を用いた染加工では、反応性染料を所定温度の熱水に投入し、ファスナーチェーン付きのデニム生地を所定時間に亘り浸漬させた。洗い加工と染加工とは別に更に24時間の塩水噴霧試験を行った。
【0074】
比較例1,2
比較例1では、金属製エレメントに対してカソード電極(例えば、特許文献1,2の導電性媒体)を直接的に接触させて電気めっきを行った。比較例2では、無電解めっき方法によって金属製エレメントに対してめっき膜を形成した。ファスナーチェーンの走行速度は、30m/分である。続いて、実施例と同様に、洗い加工、染加工、及び塩水噴霧試験を施した。
【0075】
図17に示すように、実施例において比較例1,2と同等又はそれ以上の品質のめっき膜が形成されたことが確認できた。洗い加工前後で、比較例1、2、実施例ともに若干の剥離はあるものの、実施例においてはより軽度な剥離となっていることが確認できた。また、反応性染料による染加工において比較例1,2と同様、実施例において染加工の前後でめっき膜の剥離が見られない。硫化染料による染加工については比較例1,2と同様に変色が見られるものの、実施例は比較例1,2に対し、変色が発生した面積は少ない。また、24時間にわたり塩水を噴霧し続ける試験についても確認したところ、実施例について、比較例1,2と同様に表面の変色が見られなかった。
【0076】
上述の結果から、本開示の製法(電気めっき方法)により製造されたファスナーチェーンの金属製エレメントのめっき膜は、既存の製法(電気めっき方法又は無電解めっき方法)により製造されたファスナーチェーンの金属製エレメントのめっき膜と比較して劣らない加工耐性を有することが確認できた。
【0077】
詳細には、淡色の洗い加工について、実施例は、比較例1,2と比較して金属製エレメントのめっき層の表面の一様性が高い。反応性染料による染加工について、実施例は、比較例1,2と比較して金属製エレメントのめっき層の光沢度合いが高く維持されている。このように実施例は、比較例1,2と比較してめっき層の表面の一様性及び光沢度において改善が見られる。
【0078】
上述の開示を踏まえ、当業者は、各実施形態及び各特徴に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。
【符号の説明】
【0079】
1 :ファスナーチェーン
2a :ファスナーストリンガー
2b :ファスナーストリンガー
4a :金属製エレメント
4b :金属製エレメント
7 :ファスナーチェーン
10 :カソード
20 :アノード
30 :めっき槽
35 :電解液
50 :交番磁界生成部
60 :磁性回転部
70 :透磁性ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17