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特許7600415粒界拡散材料、ネオジム鉄ホウ素磁石およびその製造方法、並びに応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】粒界拡散材料、ネオジム鉄ホウ素磁石およびその製造方法、並びに応用
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241209BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241209BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241209BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241209BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241209BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241209BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20241209BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241209BHJP
   B22D 11/06 20060101ALN20241209BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20241209BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F1/057
H01F1/057 130
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F3/24 K
C22C33/02 K
B22F3/00 F
C22C33/02 J
B22D11/06 360Z
B22F9/04 C
B22F9/04 D
B22F9/04 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023544212
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 CN2022072257
(87)【国際公開番号】W WO2023024426
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】202111000316.7
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521397223
【氏名又は名称】福建省金龍稀土股分有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100199819
【弁理士】
【氏名又は名称】大行 尚哉
(74)【代理人】
【識別番号】100087859
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 秀治
(72)【発明者】
【氏名】龍厳清
(72)【発明者】
【氏名】蘭秋連
(72)【発明者】
【氏名】李可
(72)【発明者】
【氏名】黄佳瑩
(72)【発明者】
【氏名】リ シャ
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-158342(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111223625(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
C22C 38/00
B22F 1/00
B22F 1/05
B22F 3/24
C22C 33/02
B22F 3/00
B22D 11/06
B22F 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料であって、拡散基質と、粒界拡散処理時に添加される拡散対象原料である拡散源とを含み、
前記拡散基質は、下記の成分を含み、
LR:29~30wt.%、前記LRは、軽希土類元素であり、
Cu:0.15~0.5wt.%、
B:0.99~1.05wt.%、
残部がFeであり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、
前記拡散源は、CuとTbとを含み、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する前記ネオジム鉄ホウ素磁石中のCuの質量の百分率は、0.5wt.%より大きい、
ことを特徴とするネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料。
【請求項2】
前記拡散基質は、焼結体であり、
および/または、前記拡散基質において、前記LRの含有量は、29.4~30wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記LRは、Nd、PrおよびPrNd合金のうちの1つまたは複数を含み、
前記LRがNdである場合、前記Ndの含有量は、29.4~29.8wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
前記LRがNdおよびPrである場合、前記Ndの含有量は、21~23wt.%であり、前記Prの含有量は、6~8wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
前記LRが、PrNd合金である場合、前記PrNd合金の含有量は、29~30wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、前記PrNd合金において、NdおよびPrの質量比は、3:1であり、
および/または、前記拡散基質において、前記Cuの含有量は、0.15~0.35wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記拡散基質において、前記Bの含有量は、0.99~1.03wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記拡散基質において、前記Feの含有量は、67~69wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める割合であり、
および/または、前記拡散源において、前記Tbの含有量は、0.1~1.5wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対するTbの含有量の割合であり、
および/または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する前記ネオジム鉄ホウ素磁石中の前記Cuの質量の百分率は、0.51~0.65wt.%であり、
および/または、前記拡散基質にはさらに、Al、Co、TiおよびTbのうちの1つまたは複数が含まれ、
前記拡散基質がAlを含む場合、前記Alの含有量は、0.2~0.4wt.%または0.1wt.%以下であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
前記拡散基質がCoを含む場合、前記Coの含有量は、0.5~1.5wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
または、前記拡散基質がCoを含まなく、
前記拡散基質がTiを含む場合、前記Tiの含有量は、0.1~0.2wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
前記拡散基質がTbを含む場合、前記Tbの含有量は、1wt.%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料。
【請求項3】
前記拡散基質の製造方法は、前記拡散基質の原料組成物に対して順に溶解製錬、粉砕、成形および焼結の処理を行う工程を含み、
ここで、前記溶解製錬の温度は、1400~1550℃であり
ここで、前記溶解製錬の後に得られた合金シートの厚さは、0.25~0.5mmであり
ここで、前記粉砕は、水素破砕とジェットミル粉砕の順に行われ、前記粉砕の後に得られた粉体の粒径は、3~5μmであり、
ここで、前記成形は、磁場成形であり、前記磁場成形の磁場強度は、1.6T以上であり、
ここで、前記焼結の温度は、1000~1100℃であり、
ここで、前記焼結の時間は、4~6hである、
ことを特徴とする請求項2に記載のネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料。
【請求項4】
前記拡散基質は、29.6wt.%のNd、0.24wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.69wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.88wt.%のTbおよび0.38wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、29.68wt.%のNd、0.16wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.6wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.86wt.%のTbおよび0.49wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、29.73wt.%のNd、0.34wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび67.57wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.85wt.%のTbおよび0.29wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、29.7wt.%のNd、0.5wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.76wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.81wt.%のTbおよび0.02wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、29.6wt.%のNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.03wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.65wt.%のTbおよび0.26wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、29.5wt.%のNd、0.8wt.%のTb、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.12wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.85wt.%のTbおよび0.27wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、29.42wt.%のNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1.01wt.%のB、0.3wt.%のAlおよび66.87wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.7wt.%のTbおよび0.3wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、22.28wt.%のNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.91wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.65wt.%のTbおよび0.28wt.%のCuであり、
または、前記拡散基質は、29.7wt.%のPrNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.9wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.66wt.%のTbおよび0.28wt.%のCuである、
ことを特徴とする請求項3に記載のネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料、。
【請求項5】
ネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法であって、請求項1~4のいずれか1項に記載の拡散基質に対して、請求項1~4のいずれか1項に記載の拡散源で粒界拡散処理を行う工程を含み、
ここで、前記粒界拡散処理において、熱処理の温度は、850~950℃であり
ここで、前記粒界拡散処理において、熱処理の時間は、10~40hであり
ここで、前記拡散源の形成方式は、マグネトロンスパッタリングである、
ことを特徴とするネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法によって製造された、
ことを特徴とするネオジム鉄ホウ素磁石。
【請求項7】
ネオジム鉄ホウ素磁石であって、下記の成分を含み、
LR:29~30.0wt.%、前記LRは、軽希土類元素であり、
Cu>0.5wt.%、
B:0.99~1.05wt.%、
残部がFeであり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石はさらに、Tbを含み、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1~2.6μmであるCuリッチ相を含む、
ことを特徴とするネオジム鉄ホウ素磁石。
【請求項8】
前記Cuリッチ相のすべての元素の総質量に対する前記Cuリッチ相の前記Cuの質量の百分率は、15wt.%以上であり、
および/または、前記Cuリッチ相の幅は、1~2μmであり
および/または、前記LRの含有量は、29~29.5wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記LRは、Nd、PrおよびPrNd合金のうちの1つまたは複数を含み、
前記LRがNdである場合、前記Ndの含有量は、29~29.5wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
前記LRがNdおよびPrである場合、前記Ndの含有量は、21~23wt.%であり、前記Prの含有量は、6~8wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
前記LRが、PrNd合金である場合、前記PrNd合金の含有量は、29~30wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記Cuの含有量は、0.51~0.65wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率を指し、
および/または、前記Bの含有量は、0.99~1.03wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記Feの含有量は、67.0~69wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記Tbの含有量は、0.1~2wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
および/または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石はさらに、Al、CoおよびTiのうちの1つまたは複数を含み、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石がAlを含む場合、前記Alの含有量は、0.2~0.4wt.%または0.1wt.%以下であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石がCoを含む場合、前記Coの含有量は、0.5~1.5wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石がCoを含まなく、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石がTiを含む場合、前記Tiの含有量は、0.1~0.2wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である、
ことを特徴とする請求項7に記載のネオジム鉄ホウ素磁石。
【請求項9】
前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.34wt.%のNd、0.88wt.%のTb、0.62wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび67.94wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.2μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.21wt.%のNd、0.86wt.%のTb、0.65wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび68.06wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.27wt.%のNd、0.85wt.%のTb、0.63wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび68.04wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.8μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.2wt.%のNd、0.81wt.%のTb、0.52wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.26wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が2.5μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.12wt.%のNd、0.65wt.%のTb、0.51wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.52wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.5μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.3wt.%のNd、1.65wt.%のTb、0.52wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.33wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.5μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.05wt.%のNd、0.7wt.%のTb、0.55wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のCo、1.01wt.%のB、0.3wt.%のAlおよび67.24wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.7μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、22wt.%のNd、7.35wt.%のPr、0.65wt.%のTb、0.53wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.27wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.6μmであるCuリッチ相を含み、
または、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.33wt.%のPrNd、0.66wt.%のTb、0.53wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.27wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.5μmであるCuリッチ相を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載のネオジム鉄ホウ素磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒界拡散材料、ネオジム鉄ホウ素磁石およびその製造方法、並びに応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焼結N-Fe-B磁石は、優れた磁気エネルギー密度で風力発電、電子通信、新エネルギー車などの分野に広く適用されているが、保磁力が低く、熱安定性が良くないため、高温動作中に熱減磁現象が現れ、高温分野への応用が制限されている。どのようにして磁石の保磁力と熱安定性を高めるかについて、ますます多くの学者の関心を獲得した。
【0003】
「中国希土学報」は、焼結NdFeB磁石の粒界拡散Tb70Cu30合金の熱安定性およびミクロ構造研究(周頭軍ら,江西省希土類磁気性能材料およびデバイス重点実験室,2021.01.21)が報告されている。市販の焼結磁石(PrNd)29.25Dy1.62Febal0.98Co0.830.59(質量分率wt.%、M=Nb,Al,Cu,Zr,Ga)を、特定の粒界拡散源と拡散温度で、保磁力が著しく向上し、残留磁束密度がほとんど変わらない磁石材料を得た。このような拡散方式は、ネオジムリッチ相を著しく増加させ、より連続的且つ明瞭に分布させる。同時に、(Nd,Tb)Fe14Bコアシェル構造を形成して、結晶粒を包み込み、隣接する結晶粒間の脱磁結合作用を増強させ、磁石の保磁力を向上させる。具体的に、保磁力が17.37kOeから20.04kOeに、15.4%上昇した。同時に、保磁力温度係数と残留磁束密度温度係数はいずれも明らかに低下し、20~200℃の温度区間内で、保磁力温度係数の絶対値が0.454%/℃から0.442%/℃に低下され、残留磁束密度温度係数が0.124%/℃から0.12%/℃に低下した。しかしながら、当該文献の磁石材料は、拡散による保磁力の上昇量が2.67kOeに過ぎず、制限的であるという欠点もある。
【0004】
従来のネオジウム鉄ホウ素の製造において、Cuの少量添加は、保磁力を高めるのに大きな作用がある。拡散物の場合、拡散基質内のCuの添加量が0.5wt%を超える場合、粒界拡散は、製品の保磁力の向上作用を大幅に低減させ、同時に、残留磁束密度も低減させる。一般的な配合設計では、拡散基質内のCuは、0.5wt.%より大きく直接設定され、さらにTb拡散によって高Cu成分という目的を達成して、高性能の54SHブランド品を製造したが、実際には、Cuの添加量が0.5wt.%より大きいと、Tb拡散後の磁気性能が54SHブランドの要求に達することが困難である。
【0005】
現在、重希土類元素による保磁力への向上作用を十分に利用可能な製造工程が不足している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、主に従来技術に存在する、粒界拡散工程における重希土類元素の添加によって保磁力の向上度が低いという欠陥を解決するために、粒界拡散材料、ネオジム鉄ホウ素磁石およびその製造方法、並びに応用を提供する。本発明におけるネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料で製造されたネオジム鉄ホウ素磁石は、同じ含有量の重希土類元素を添加する前提の下で、保磁力をより顕著に向上させ、残留磁束密度をほぼ一定に維持することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、主に次のような技術案により上記の技術的課題を解決する。
【0008】
本発明には、拡散基質と、粒界拡散処理時に添加される拡散対象原料である拡散源とを含む、ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料が提供され、
前記拡散基質は、下記の成分を含み、
LR:29~30wt.%、前記LRは、軽希土類元素であり、
Cu:0.15~0.5wt.%、
B:0.99~1.05wt.%、
Fe:67~70wt.%、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、
前記拡散源は、CuとTbとを含み、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する前記ネオジム鉄ホウ素磁石中のCuの質量の百分率は、0.5wt.%より大きい。
【0009】
本発明において、当業者に知られているように、前記拡散基質は、一般的に粒界拡散処理を直接行うことができる磁石材料を意味し、一般的に焼結体であってもよい。
【0010】
本発明において、前記拡散基質において、前記LRの含有量は、好ましくは、29.4~30wt.%であり、例えば、29.42wt.%、29.5wt.%、29.62wt.%、29.65wt.%、29.6wt.%、29.68wt.%、29.7wt.%または29.73wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0011】
本発明において、前記LRは、本分野の通常のものであってもよく、一般的には、Nd、PrおよびPrNd合金のうちの1つまたは複数を含み得、好ましくは、Nd、「NdおよびPr」またはPrNd合金である。
【0012】
前記LRがNdである場合、前記Ndの含有量は、好ましくは、29.4~29.8wt.%で、例えば、29.42wt.%、29.5wt.%、29.6wt.%、29.68wt.%、29.7wt.%または29.73wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。前記LRがNdである場合、残留磁束密度は、前記NdおよびPr、並びに前記PrNd合金のネオジム鉄ホウ素磁石材料より高い。
【0013】
前記LRがNdおよびPrである場合、前記Ndの含有量は、好ましくは、21~23wt.%で、例えば、22.28wt.%であり、前記Prの含有量は、好ましくは、6~8wt.%で、例えば、7.43wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0014】
前記LRが、PrNd合金である場合、前記PrNd合金の含有量は、好ましくは、29~30wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率であり、前記PrNd合金において、NdとPrとの質量比は、例えば、3:1である。
【0015】
本発明において、前記拡散基質において、前記Cuの含有量は、好ましくは、0.15~0.35wt.%で、例えば、0.16wt.%、0.24wt.%、0.25wt.%または0.34wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0016】
本発明において、前記Bの含有量は、好ましくは、0.99~1.03wt.%で、例えば、0.99wt.%、1wt.%または1.01wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0017】
本発明において、前記拡散基質は、さらに本分野の通常の添加元素を含んでもよく、例えば、Al、Co、TiおよびTbのうちの1つまたは複数である。
【0018】
ここで、前記拡散基質がAlを含む場合、前記Alの含有量は、0.2~0.4wt.%であってもよく、例えば、0.3wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0019】
ここで、前記拡散基質がCoを含む場合、前記Coの含有量は、0.5~1.5wt.%であってもよく、例えば、1wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0020】
ここで、前記拡散基質がTiを含む場合、前記Tiの含有量は、0.1~0.2wt.%であってもよく、例えば、0.15wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0021】
ここで、前記拡散基質がTbを含む場合、前記Tbの含有量は、好ましくは、1wt.%以下で、例えば、0.8wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0022】
本発明において、発明者らはさらに、前記拡散基質にAlおよびCoが含まれていない場合、前記粒界拡散処理により得たネオジム鉄ホウ素磁石の保磁力がより顕著に向上することができたことを見出した。
【0023】
当業者に知られているように、前記拡散基質にAlが含まれていない場合は、一般的に、前記拡散基質の製造中にAlを追加添加しないことを意味するが、前記拡散基質の製造中に1wt.%以下、例えば、0.06wt.%または0.07wt.%のAlが不可避的に導入されるようになり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量で占める比である。
【0024】
本発明において、前記拡散基質に、前記Feの含有量は、好ましくは、67~69wt.%で、例えば、66.87wt.%、67.12wt.%、67.57wt.%、67.6wt.%、67.69wt.%、67.76wt.%、67.9wt.%、67.91wt.%または68.03wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量で占める比である。
【0025】
本発明において、前記拡散源内の前記Tbの含有量は、本分野の通常のものであってもよく、好ましくは、0.1~1.5wt.%で、例えば、0.65wt.%、0.66wt.%、0.7wt.%、0.81wt.%、0.85wt.%、0.86wt.%、0.88wt.%または1wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対するTbの含有量の比を意味する。
【0026】
本発明において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石に、前記Cuの含有量は、好ましくは、0.51~0.65wt.%で、例えば、0.51wt.%、0.52wt.%、0.55wt.%、0.61wt.%、0.62wt.%、0.63wt.%または0.65wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対するCuの含有量の比を意味する。
【0027】
本発明において、前記拡散基質の製造方法は、本分野における通常のものを採用することができ、一般的には、前記拡散基質の原料組成物に対して順に溶解製錬、粉砕、成形および焼結の処理を行う工程を含む。
【0028】
ここで、前記溶解製錬の温度は、好ましくは、1400~1550℃で、例えば、1480℃、1500℃または1520℃である。当業者に知られているように、実際の動作中に、前記溶解製錬の温度が±20℃の誤差がある。
【0029】
ここで、前記溶解製錬の後に得られた合金シートの厚さは、好ましくは、0.25~0.55mmで、例えば、0.3mmである。当業者に知られているように、実際の動作において、前記合金シートの厚さが±0.05mmの誤差がある。
【0030】
ここで、前記粉砕は、一般的に水素破砕とジェットミル粉砕の順に行われる。
【0031】
前記粉砕の後に得られた粉体の粒径は、例えば、3~5μmである。
【0032】
ここで、前記成形は、一般的に磁場成形である。前記磁気性能成形の磁場強度は、例えば、1.6T以上である。
【0033】
ここで、前記焼結の温度は、例えば、1000~1100℃である。
【0034】
ここで、前記焼結の時間は、例えば、4~6hである。
【0035】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.6wt.%のNd、0.24wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.69wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.88wt.%のTbおよび0.38wt.%のCuである。
【0036】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.68wt.%のNd、0.16wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.6wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.86wt.%のTbおよび0.49wt.%のCuである。
【0037】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.73wt.%のNd、0.34wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび67.57wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.85wt.%のTbおよび0.29wt.%のCuである。
【0038】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.7wt.%のNd、0.5wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.76wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.81wt.%のTbおよび0.02wt.%のCuである。
【0039】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.6wt.%のNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.03wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.65wt.%のTbおよび0.26wt.%のCuである。
【0040】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.5wt.%のNd、0.8wt.%のTb、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.12wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.85wt.%のTbおよび0.27wt.%のCuである。
【0041】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.42wt.%のNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1.01wt.%のB、0.3wt.%のAlおよび66.87wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.7wt.%のTbおよび0.3wt.%のCuである。
【0042】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、22.28wt.%のNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.91wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.65wt.%のTbおよび0.28wt.%のCuである。
【0043】
本発明の一具体的な実施例において、前記拡散基質は、29.7wt.%のPrNd、0.25wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.9wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記拡散源は、0.66wt.%のTbおよび0.28wt.%のCuである。
【0044】
本発明はさらに、上記の前記拡散基質を上記の拡散源で粒界拡散処理を行う工程を含む前記ネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法を提供する。
【0045】
本発明において、前記粒界拡散処理の方式は、本分野における通常のものを採用することができ、一般的に、前記拡散基質の表面に拡散源を形成した後、熱処理を行えばよい。
【0046】
本発明において、前記粒界拡散処理では、熱処理の温度は、好ましくは、850~950℃で、より好ましくは、910~930℃で、例えば、920℃である。
【0047】
本発明において、前記熱処理の時間は、本分野における通常のものであってもよく、好ましくは、10~40hで、例えば、30hである。
【0048】
本発明において、拡散源を形成する方式は、マグネトロンスパッタリングが好ましく、即ち、前記拡散基質の表面に拡散膜層を形成することであって、例えば、Tb膜層あるいはCu膜層を先に形成することである。当業者に知られているように、マグネトロンスパッタリングを採用する方式は、TbCu合金粉末を採用する方式に比べて、工程がより簡単で、拡散源の製造難易度が低い。
【0049】
本発明には、上記のネオジム鉄ホウ素磁石の製造方法で製造されるネオジム鉄ホウ素磁石がさらに提供される。
【0050】
本発明には、ネオジム鉄ホウ素磁石がさらに提供され、このネオジム鉄ホウ素磁石は、下記の成分を含み、
LR:29~30.0wt.%、前記LRは、軽希土類元素であり、
Cu>0.5wt.%、
B:0.99~1.05wt.%、
Fe:67.0~70.0wt.%、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石はさらに、Tbを含み、
前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1~2.6μmであるCuリッチ相を含む。
【0051】
本発明において、前記粒界相は、本分野で通常理解されている意味であり得、一般的に二粒子粒界相と粒間三角領域とによって形成される領域の総称である。前記二粒子粒界相は、一般的に2つの主相粒子間の粒界相である。
【0052】
本発明において、当業者に知られているように、前記Cuリッチ相は、一般的にEPMA分析図で直観的にCuリッチ物相構造が見られることを意味し、前記Cuリッチ相中の前記Cuの含有量は、当該領域の全元素の総質量の15wt.%以上である。
【0053】
本発明において、前記Cuリッチ相の幅は、一般的にEPMAで観察されたCuリッチ領域の短辺寸法の平均値を指し、本発明に記載のCuリッチ相は、一般的に不規則な棒状、即ち、前記短辺寸法は、前記不規則な長棒状の幅の平均値である。
【0054】
本発明において、前記Cuリッチ相の幅は、好ましくは、1~2μmで、例えば、1.2μm、1.5μm、1.6μm、1.7μmまたは1.8μmである。
【0055】
本発明において、前記LRの含有量は、好ましくは、29~29.5wt.%で、例えば、29.05wt.%、29.12wt.%、29.20wt.%、29.21wt.%、29.27wt.%、29.30wt.%、29.33wt.%、29.34wt.%または29.35wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0056】
本発明において、前記LRは、本分野の通常のものであってもよく、一般的には、Nd、PrおよびPrNd合金のうちの1つまたは複数を含み得、好ましくは、Nd、「NdおよびPr」またはPrNd合金である。
【0057】
前記LRがNdである場合、前記Ndの含有量は、好ましくは、29~29.5wt.%で、例えば、29.05wt.%、29.12wt.%、29.20wt.%、29.21wt.%、29.27wt.%、29.30wt.%または29.34wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0058】
前記LRがNdおよびPrである場合、前記Ndの含有量は、好ましくは、21~23wt.%で、例えば、22wt.%であり、前記Prの含有量は、好ましくは、6~8wt.%で、例えば、7.35wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0059】
前記LRが、PrNd合金である場合、前記PrNd合金の含有量は、好ましくは、29~30wt.%で、例えば、29.33wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0060】
本発明において、前記Cuの含有量は、好ましくは、0.51~0.65wt.%で、例えば、0.51wt.%、0.52wt.%、0.53wt.%、0.55wt.%、0.61wt.%、0.62wt.%、0.63wt.%または0.65wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0061】
本発明において、前記Bの含有量は、好ましくは、0.99~1.03wt.%で、例えば、0.99wt.%、1wt.%または1.01wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0062】
本発明において、前記Feの含有量は、好ましくは、67.0~69wt.%で、例えば、67.33wt.%、67.88wt.%、67.94wt.%、68.06wt.%、68.04wt.%、68.26wt.%、68.27wt.%、67.48wt.%または68.52wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0063】
本発明において、前記Tbの含有量は、好ましくは、0.1~2wt.%で、例えば、0.65wt.%、0.66wt.%、0.7wt.%、0.81wt.%、0.85wt.%、0.86wt.%、0.88wt.%または1.65wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0064】
本発明において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石はさらに、本分野の通常の添加元素を含んでもよく、例えばAl、CoおよびTiのうちの1つまたは複数である。
【0065】
ここで、前記ネオジム鉄ホウ素磁石がAlを含む場合、前記Alの含有量は、0.2~0.4wt.%であってもよく、例えば、0.3wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0066】
ここで、前記ネオジム鉄ホウ素磁石がCoを含む場合、前記Coの含有量は、0.5~1.5wt.%であってもよく、例えば、1wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0067】
ここで、前記ネオジム鉄ホウ素磁石がTiを含む場合、前記Tiの含有量は、0.1~0.2wt.%であってもよく、例えば、0.15wt.%であり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0068】
本発明において、好ましくは、前記ネオジム鉄ホウ素磁石がAlとCoを含まない。ここで、上記のように、前記のAlを含まないことは、一般的にAlの含有量が0.1wt.%以下で、例えば、0.06wt.%または0.07wt.%であることを意味し、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量中で占める百分率である。
【0069】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.34wt.%のNd、0.88wt.%のTb、0.62wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび67.94wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.2μmであるCuリッチ相を含む。
【0070】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.21wt.%のNd、0.86wt.%のTb、0.65wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび68.06wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1μmであるCuリッチ相を含む。
【0071】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.27wt.%のNd、0.85wt.%のTb、0.63wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.07wt.%のAlおよび68.04wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.8μmであるCuリッチ相を含む。
【0072】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.2wt.%のNd、0.81wt.%のTb、0.52wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.26wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が2.5μmであるCuリッチ相を含む。
【0073】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.12wt.%のNd、0.65wt.%のTb、0.51wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.52wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.5μmであるCuリッチ相を含む。
【0074】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.3wt.%のNd、1.65wt.%のTb、0.52wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび67.33wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.5μmであるCuリッチ相を含む。
【0075】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.05wt.%のNd、0.7wt.%のTb、0.55wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のCo、1.01wt.%のB、0.3wt.%のAlおよび67.24wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.7μmであるCuリッチ相を含む。
【0076】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、22wt.%のNd、7.35wt.%のPr、0.65wt.%のTb、0.53wt.%のCu、0.15wt.%のTi、0.99wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.27wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.6μmであるCuリッチ相を含む。
【0077】
本発明の一具体的な実施例において、前記ネオジム鉄ホウ素磁石は、29.33wt.%のPrNd、0.66wt.%のTb、0.53wt.%のCu、0.15wt.%のTi、1wt.%のB、0.06wt.%のAlおよび68.27wt.%のFeの成分からなり、wt.%は、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率であり、前記ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界相は、幅が1.5μmであるCuリッチ相を含む。
【0078】
本発明はさらに、永久磁石モータの製造用の材料としての前記ネオジム鉄ホウ素磁石の応用を提供する。
【0079】
ここで、前記永久磁石モータは、例えばエアコンコンプレッサ、汎用サーボモータである。
【0080】
本分野の周知常識に準拠した上で、上記の各々好適な条件を任意に組み合わせることによって、本発明の各々好適な具現例が得られる。
【0081】
本発明で使用される試薬および原料は、いずれも市販されている。
【発明の効果】
【0082】
本発明の積極的な進歩的効果は、ネオジム鉄ホウ素磁石の粒界拡散材料で製造されたネオジム鉄ホウ素磁石は、同じ含有量の重希土類元素を添加する前提の下で、保磁力をより顕著に向上させ、残留磁束密度をほぼ一定に維持して、高性能のネオジム鉄ホウ素磁石(例えば、54SHブランド)を獲得することができる、ことにある。
【図面の簡単な説明】
【0083】
図1】実施例4におけるネオジム鉄ホウ素磁石のEPMA分析である。
図2】実施例5におけるネオジム鉄ホウ素磁石のEPMA分析である。
図3】実施例7におけるネオジム鉄ホウ素磁石のEPMA分析である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明を上記の実施例の範囲に制限するものではない。以下の実施例において、具体的な条件が明記されていない実験方法は、通常の方法および条件に従って、または商品仕様書に応じて選択される。
実施例1
(1)拡散基質の製造
【0085】
表1に示す配合方法に従って、各成分原材料を混合し、順次に、誘導炉にて1500±20℃の温度条件で溶解製錬し、高速焼入れと溶融紡糸によって0.3±0.05mm厚さのシート状合金を製造し、水素破砕およびジェットミル粉砕によって3~5μmの粉体に粉砕し、1.6T磁場強度以上の磁場条件で成形し、そして、1000~1100℃で4~6h焼結した後、塊状のネオジウム鉄ホウ素永久磁石を得る。粒界拡散を行うように、塊状のネオジウム鉄ホウ素永久磁石をシート状の基材に切断する。
(2)粒界拡散処理
【0086】
粒界拡散処理は、マグネトロンスパッタリングめっきする後に熱処理する方式により、ネオジム鉄ホウ素磁石を得ており、マグネトロンスパッタリングにより増加された膜層の重量は、1.26wt.%(この重量は、拡散源中のTbとCuの総質量である)であり、粒界拡散処理中の熱処理の温度は、920℃、時間は、30hである。
【0087】
実施例1~9および比較例1における拡散基質の配合方法および粒界拡散処理時の拡散源を下記の表1に示す。実施例2~9および比較例1の製造ステップおよび工程パラメータは実施例1と同じである。
【0088】
表1

備考:表1の拡散基質の成分含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)を使用して測定した。PrNd合金は、Prに対するNdの質量比が3:1であることを意味する。
【0089】
ここで、「/」は、当該元素を含まないことを表す。拡散基質において、各成分の含有量は、ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率である。当該拡散基質の総質量は、製造過程に導入された不可避的な不純物、例えばC、Oなどを含まない。ただし、当該拡散基質内の0.08wt.%以下のAlは、非Alの原材料から導入されたものである。拡散源において、TbとCuの質量含有量は、それぞれ、ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対するTbとCuの質量の百分率である。
效果実施例1
1、実施例1~9および比較例1で製造されたネオジム鉄ホウ素磁石の成分測定
【0090】
高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)を使用して測定した。試験結果は、下記の表2に示す。
【0091】
表2(単位は、wt.%である)

備考:各成分の含有量は、ネオジム鉄ホウ素磁石の総質量に対する各成分の質量の百分率である。検出によってネオジム鉄ホウ素磁石内のNdの含有量が減少されることがわかり、これは、粒界拡散処理が熱処理過程に該当し、拡散基質内の希土類が少量揮発されるからであると考えられる。
2、磁気性能試験
【0092】
20℃の室温条件下で、ネオジム鉄ホウ素磁石は、PFMパルス式BH減磁曲線試験装置で磁気性能を試験した。
【0093】
実施例1のネオジム鉄ホウ素磁石の同ロットにおける5つの製品を20℃での磁気性能試験結果を下記の表3に示す。
【0094】
表3
【0095】
表3から分かるように、本発明における同ロット製品の磁気性能が均一であり、安定性に優れている。
【0096】
実施例1の磁気性能の平均値を下記の表4に示す。他の実施例は、同様の試験方法を採用し、最終的に得られた磁気性能の平均値を下記の表4に示す。
【0097】
表4

備考:R-T-B磁石は、ネオジム鉄ホウ素磁石を意味する。
【0098】
上記の表のデータから分かるように、本発明の拡散方式を採用して、拡散基質に特定含有量のCuを添加し、粒界拡散処理時に特定含有量のTbとCuを添加して本発明の特定の拡散基質に結合することは、粒界拡散時にTbのみを添加する方案に比べて、保磁力の向上度合いがより著しい。発明者らは、研究開発の過程で、Cuを全部で粒界拡散時に添加したことも試みたが、保磁力の向上度合いは、比較例1と同等であり、本発明のレベルに達していない。
【0099】
さらに、本発明は、上記の方案の上で、より優れた磁気性能を有するネオジム鉄ホウ素磁石を見出した。例えば、実施例1~3に比較すると、拡散基質内のCuの含有量が0.16wt.%または0.24wt.%である場合、Cuの含有量が0.34wt.%である場合に比べて、保磁力の向上値が10kOe以上に達することが分かる。例えば、他の実施例に比べて、AlとCoを追加添加した実施例7の場合、保磁力の向上値が8.72kOeに止まる。
3、ミクロ構造の特徴
【0100】
実施例1~9および比較例1のネオジム鉄ホウ素磁石を金相学的な面に製造し、電子プローブを用いて金相学的な面製品に対して電子とパターンとを交互に作用させて二次電子、X線を発生させ、二次電子信号により試料の形状を観察し、X線の波長と強度を測定することにより、試料中の元素に対して定性及び定量の分析を行う。Cuリッチ相の幅の測定について、電子プローブによる面走査を用いて、機器自体のスケールツールで粒界Cuリッチ相の短辺寸法を校正測定する。図1に示したのは、実施例4におけるネオジム鉄ホウ素磁石のEPMA分析である。図2に示したのは、実施例5におけるネオジム鉄ホウ素磁石のEPMA分析である。図3に示したのは、実施例7におけるネオジム鉄ホウ素磁石のEPMA分析であり、Alはコロイド分散性分布を示しており、Coは粒界に大量に分布している。具体的な試験結果を下記の表5に示す。
【0101】
【表5】

備考:Cuリッチ相の幅は、EPMAで観察されたCuリッチ領域の短辺寸法の平均値を意味する。例えば、Cuリッチの領域が長棒状であれば、前記短辺寸法の平均値は、前記長棒状の幅の平均値である。
【0102】
表5と表1を組み合わせると、粒界Cuリッチ相の幅は基材に添加したCu含有量と正の相関があることが分かる。
【0103】
上記の実験の比較から、実施例4で添加されたCuは、粒界に大量に分布され、主相結晶粒内には少量分布されていることが分かった。粒界にCuを豊かに含むことにより、粒界を粗大にし、粗大な粒界は主相占有率を減少させ、残留磁束密度を低減するとともに、粗大な粒界によって基材粒界に拡散した重希土類脱磁結合の作用を減少させ、基材に拡散したTbの作用を低下させ、それにより、保磁力の向上値が低下した。また、実施例5では、Cuの含有量の添加量の総和は等しいが、より少量のCuが粒界に分布され、粒界の連続性により有利であり、保磁力を向上させた。

図1
図2
図3