(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20241209BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241209BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K1/03 610R
H05K1/03 630H
B32B27/20 A
(21)【出願番号】P 2023551426
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2022035483
(87)【国際公開番号】W WO2023054192
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021159898
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯川 英敏
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-033949(JP,A)
【文献】国際公開第2007/086568(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 1/03
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1絶縁フィラーが分散している第1絶縁層と、
該第1絶縁層の上面に位置する第2絶縁層と、
を含み、
前記第1絶縁層は、前記第1絶縁フィラーのうち、前記第1絶縁層の上面から突出するように位置した突出フィラーと、該突出フィラーの突出している表面の一部または全てを被覆する被膜とを含み、
該被膜が、
前記突出フィラーの表面からスズ層およびシランカップリング剤層の順で積層された構造を有しており、
前記第2絶縁層は、前記被膜を含む前記第1絶縁層の上面を被覆している、
配線基板。
【請求項2】
前記被膜が、前記第1絶縁層の上面において、前記突出フィラー以外の一部にも位置している、請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記第2絶縁層に、第2絶縁フィラーが分散している、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項4】
平面透視した場合、前記第1絶縁層の上面における前記被膜の占める割合が、40%以上80%以下である、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項5】
前記第1絶縁フィラーが、0.1μm以上1μm以下の平均粒子径を有する、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項6】
前記第1絶縁層における前記第1絶縁フィラーの充填率が、50質量%以上90質量%以下である、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項7】
前記スズ層が、2nm以上5nm以下の厚みを有する、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項8】
前記スズ層は、酸化している、請求項1または2に記載の配線基板。
【請求項9】
前記シランカップリング剤層は、15nm以下の厚みを有し、かつ前記スズ層よりも厚い、請求項1または2に記載の配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配線基板に含まれる絶縁樹脂層(コア層およびビルドアップ絶縁層)には、低熱膨張率化および高密度化を目的に、例えば特許文献1に記載のように、シリカフィラーのような絶縁フィラーが充填されている。近年、この絶縁フィラーの充填率が高くなってきており、絶縁フィラーの充填率が高くなると、絶縁樹脂層の表面から露出する絶縁フィラーが多くなる。その結果、絶縁樹脂層間の境界面において、絶縁フィラーと絶縁樹脂との密着性が乏しくなり、絶縁信頼性に影響を及ぼすことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示に係る配線基板は、第1絶縁フィラーが分散している第1絶縁層と、第1絶縁層の上面に位置する第2絶縁層とを含む。第1絶縁層は、第1絶縁フィラーのうち、第1絶縁層の上面から突出するように位置した突出フィラーと、突出フィラーの突出している表面の一部または全てを被覆する被膜とを含む。被膜が、スズ層およびシランカップリング剤層の順で積層された構造を有している。第2絶縁層は、被膜を含む第1絶縁層の上面を被覆している。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本開示の一実施形態に係る配線基板の要部を示す拡大説明図である。
【
図2】
図1において、第1絶縁層と第2絶縁層とが分離した状態を示す説明図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る配線基板の要部を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
上記のように、絶縁フィラーの充填率が高くなると、絶縁樹脂層の表面から露出する絶縁フィラーが多くなる。その結果、絶縁樹脂層間の境界面において、絶縁フィラーと絶縁樹脂との密着性が乏しくなり、絶縁信頼性に影響を及ぼすことになる。したがって、絶縁フィラーが分散している絶縁樹脂層の表面に積層される絶縁樹脂層の密着性に優れ、絶縁信頼性に優れる配線基板が求められている。
【0007】
本開示に係る配線基板によれば、上記のように、第1絶縁層の上面から突出するように位置した突出フィラーの突出している表面の一部を被覆する特定の被膜が存在する。このような特定の被膜が存在することによって、本開示に係る配線基板は、絶縁フィラーが分散している絶縁樹脂層の表面に積層される絶縁樹脂層の密着性に優れ、絶縁信頼性に優れる。
【0008】
本開示の一実施形態に係る配線基板を、
図1~3に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る配線基板の要部を示す拡大説明図である。
図1に示すように、一実施形態に係る配線基板は、第1絶縁層1および第2絶縁層2を含む。図示していないが、第1絶縁層1および第2絶縁層2との間の一部には、銅などの金属で形成された配線導体層などの導体層が存在している。
【0009】
第1絶縁層1は、
図1に示すように、第1絶縁樹脂11に第1絶縁フィラー12が分散した構造を有している。第1絶縁樹脂11は、絶縁性を有する素材で形成されていれば限定されない。絶縁性を有する素材としては、例えば、エポキシ樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマーなどの樹脂が挙げられる。第1絶縁樹脂11は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。第1絶縁層1は配線基板の絶縁性を有するコア基板であってもよい。コア基板はガラス繊維を有していても、有していなくてもよい。第1絶縁層1の厚みは特に限定されず、例えばコア基板の場合は10μm以上20mm以下であり、積層用の絶縁層の場合は2μm以上100μm以下である。
【0010】
第1絶縁樹脂11に分散している第1絶縁フィラー12は、第1絶縁層1の熱膨張係数を小さくする機能を有している。第1絶縁フィラー12は限定されず、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、ガラス、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機絶縁性フィラーが挙げられる。第1絶縁フィラー12は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
第1絶縁フィラー12の平均粒子径は限定されない。第1絶縁フィラー12の充填率を高めるために、平均粒子径は複数種類あるのがよい。第1絶縁フィラー12は、例えば、0.1μm以上1μm以下の平均粒子径を有していてもよい。第1絶縁層1における第1絶縁フィラー12の充填率は、限定されない。第1絶縁層1の熱膨張係数を十分に小さくするために、第1絶縁層1における第1絶縁フィラー12の充填率は、50質量%以上90質量%以下であってもよい。平均粒子径は、例えばX線CT分析で測定してもよい。充填率は、エネルギー分散型X線分析により検出してもよい。
【0012】
第1絶縁フィラー12には、第1絶縁層
1の上面から突出するように位置した突出フィラー121が含まれる。この突出フィラー121の突出している表面の一部は、
図2および3に示すように、被膜13で被覆されている。
図2は、
図1において、第1絶縁層1と第2絶縁層2とが分離した状態を示す説明図である。
図3は、一実施形態に係る配線基板の要部を示す電子顕微鏡写真である。被膜13は、突出フィラー121の突出している表面の全てを被覆していてもよい。
【0013】
被膜13は、突出フィラー121の表面からスズ層およびシランカップリング剤層の順で積層された構造を有する。このような被膜13が存在することによって、第1絶縁層1の表面に積層される第2絶縁層2の密着性を向上させることができ、得られる一実施形態に係る配線基板の絶縁信頼性を向上させることができる。
【0014】
スズ層は、シランカップリング剤層を、突出フィラー121の表面に安定して被着させる機能を有しており、スズおよび酸化スズを含有している。スズが酸化していると、絶縁抵抗が高くなることから、スズが酸化していない場合に比べて、例えば互いに隣接している配線導体間の絶縁信頼性を向上させることができる。スズ層の厚みは限定されない。スズ層は、例えば2nm以上5nm以下の厚みを有する。スズ層が存在する場合には、後述する飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)により、例えばスズおよび酸化スズが検出される。スズ層の厚みは、透過電子顕微鏡観察により測定することができる。
【0015】
シランカップリング剤層は、スズ層を被覆するように位置している。シランカップリング剤は、分子内に無機材料と反応する官能基と有機材料に反応する官能基とを有する化合物である。そのため、例えば、無機材料である突出フィラー121および導体層と反応して接続している官能基と、有機材料である第2絶縁層2と反応して接続している官能基とを備えた分子構造を有するシランカップリング剤層が存在することによって、第1絶縁フィラー12と第2絶縁層2に含まれる第2絶縁樹脂21との接着性(密着性)を向上させることができる。シランカップリング剤層の厚みは限定されない。シランカップリング剤層は、例えば15nm以下の厚みを有しており、スズ層よりも厚くてもよい。
【0016】
シランカップリング剤層が存在するか否かは、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)で質量分析したり、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて上記の官能基構造を分析したりすることによって確認することができる。TOF-SIMSは、ごく表面に存在する元素や分子を定性分析する表面分析方法である。具体的には、超高真空中で固体試料へ収束化したイオンビームを照射すると、スパッタリング現象に伴って、中性粒子と二次イオンとが真空中に放出される。この二次イオンが検出器に到達するまでの飛行時間を精密に測定することによって、試料表面の構成元素を分析する。シランカップリング剤層が存在する場合には、TOF-SIMSにより、例えばポリジメチルシロキサンが検出される。
【0017】
被膜13は、突出フィラー121の突出している表面の一部を被覆するだけでなく、
図2に示すように、第1絶縁層1の上面において、突出フィラー121以外の一部にも位置していてよい。このように、突出フィラー121以外の一部にも被膜13が位置していることによって、第1絶縁層1の表面に積層される第2絶縁層2の密着性を、より向上させることができる。
【0018】
第1絶縁層1の上面における被膜13の占める割合は、限定されない。平面透視した場合、第1絶縁層1の上面における被膜13の占める割合は、例えば、40%以上80%以下であってもよい。被膜13の占める割合が40%以上80%以下であれば、優れた密着性を発揮しつつ、優れた絶縁信頼性も維持することができる。
【0019】
第2絶縁層2は、第1絶縁層1の上面に位置している。第2絶縁層2は、
図1に示すように、第2絶縁樹脂21に第2絶縁フィラー22が分散した構造を有している。第2絶縁樹脂21は、第1絶縁樹脂11と同様、絶縁性を有する素材で形成されていれば特に限定されない。絶縁性を有する素材としては、例えば、エポキシ樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマーなどの樹脂が挙げられる。第2絶縁樹脂21は、第1絶縁樹脂11と同じ樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよい。第2絶縁樹脂21は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。第2絶縁層2の厚みは特に限定されず、例えば2μm以上100μm以下である。
【0020】
第2絶縁樹脂21に分散している第2絶縁フィラー22は、第2絶縁層2の熱膨張係数を小さくする機能を有している。第2絶縁フィラー22は限定されず、第1絶縁フィラー12と同様、例えば、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、ガラス、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機絶縁性フィラーが挙げられる。第2絶縁フィラー22は、第1絶縁フィラー12と同じ絶縁フィラーであってもよく、異なる絶縁フィラーであってもよい。第2絶縁フィラー22は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
第2絶縁フィラー22の平均粒子径は限定されない。第2絶縁フィラー22の充填率を高めるために、平均粒子径は複数種類あるのがよい。第2絶縁フィラー22は、例えば、0.1μm以上1μm以下の平均粒子径を有していてもよい。第2絶縁層2における第2絶縁フィラー22の充填率は、限定されない。第2絶縁層2の熱膨張係数を十分に小さくするために、第2絶縁層2における第2絶縁フィラー22の充填率は、50質量%以上90質量%以下であってもよい。平均粒子径および充填率の算出方法は、上述の通りである。
【0022】
一実施形態に係る配線基板において、第1絶縁層1の表面に被膜13を形成する方法は限定されず、例えば、下記の手順によって形成される。まず、第1絶縁フィラー12が分散している第1絶縁樹脂11で形成された樹脂フィルムを準備する。この樹脂フィルム(樹脂板)が第1絶縁層1の前駆体となる。以下、第1絶縁層1がコア層である場合について説明する。
【0023】
次いで、樹脂フィルムに、必要に応じてスルーホールを形成する。スルーホールは、例えば、ドリル、ブラストまたはレーザー加工によって形成される。第1絶縁層1がビルドアップ絶縁層である場合は、スルーホールの代わりにビアホールである。次いで、デスミア処理を行い、樹脂フィルムの表面およびスルーホールの内壁面に、無電解めっきによって銅などの金属でシード層を形成する。次いで、樹脂フィルムの表面にレジストを形成して、露光および現像を行う。次いで、電解めっきによって、銅などの金属を、スルーホールの樹脂フィルムの表面およびスルーホールの内壁面に形成させる。その後、レジストを剥離して、シード層も除去する。
【0024】
次いで、酸洗浄によって、銅の酸化膜など金属酸化膜を除去する。その後、スズめっきによって、樹脂フィルムの上面から突出している突出フィラー121の突出している表面、および突出フィラー121以外の部分に、100nm程度の厚みを有するようにスズを析出させる。
【0025】
次いで、過剰に析出させたスズを、例えば硝酸を用いたエッチングによって除去する。このようにエッチングを行い、スズの厚みを2nm以上5nm以下程度に調整する。銅上は突出フィラー121に比べてスズの析出量が多いため、硝酸によるエッチングにより10nm以上20nm以下程度の厚みに調整される。100nmのスズを、2nm以上5nm以下程度に調整するためには、硝酸に2秒以上90秒以下程度浸漬させればよい。硝酸に浸漬させる時間によって、スズ層の厚みを調整することができる。
【0026】
次いで、形成されたスズ層を被覆するように、シランカップリング剤を塗布する。シランカップリング剤としては、FC-9100Z(メック株式会社製)、KBM-303(信越化学工業株式会社製)、DOWSILTMZ-6040 Silane(ダウ・東レ株式会社製)など市販されているものを使用することができる。シランカップリング剤を塗布した後、70℃以上100℃以下の温度で1分以上10分以下処理することによって、スズ層の表面にシランカップリング剤層を形成する。シランカップリング剤層は、上記のように、15nm以下の厚みを有しており、スズ層よりも厚くてもよい。加熱温度または加熱時間によって、シランカップリング剤層の厚みを調整することができる。
【0027】
このようにして、絶縁層間の密着性に優れた配線基板を製造することができる。絶縁層間であれば、コア層とビルドアップ絶縁層との接合であってもよく、ビルドアップ絶縁層間の接合であってもよい。本明細書において「第1絶縁層」および「第2絶縁層」の用語は、便宜的に記載しており、「第1絶縁層」がコア層というように限定されない。例えば、「第1絶縁層」および「第2絶縁層」のいずれも、ビルドアップ絶縁層の場合もあり得る。
【0028】
さらに、
図1は、一実施形態に係る配線基板1の要部を示す拡大説明図であるため、2層の絶縁層しか示していない。しかし、本開示の配線基板は、3層以上の絶縁層が積層された構造を有していてもよい。3層以上の絶縁層が積層された構造を有する場合、隣接する2層の絶縁層において、下部に位置している絶縁層を「第1絶縁層」、上部に位置している絶縁層を「第2絶縁層」とみなせばよい。
【0029】
上述の一実施形態に係る配線基板1において、第2絶縁層2には第2絶縁フィラー22が分散している。しかし、本開示に係る配線基板において、第2絶縁層2には絶縁フィラーが存在していなくてもよい。
【0030】
さらに、上述の一実施形態に係る配線基板1において、被膜13は、突出フィラー121以外の第1絶縁層1の上面の一部にも位置している。しかし、本開示に係る配線基板において、被膜は、突出フィラー121の突出している表面の一部を被覆しているだけでもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 第1絶縁層
11 第1絶縁樹脂
12 第1絶縁フィラー
121 突出フィラー
13 被膜
2 第2絶縁層
21 第2絶縁樹脂
22 第2絶縁フィラー