(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】ビタミンC含有飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20241209BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20241209BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20241209BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241209BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20241209BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 B
A23F3/16
A23L33/105
A23L33/15
A23L2/52 101
(21)【出願番号】P 2024000970
(22)【出願日】2024-01-09
【審査請求日】2024-02-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2023年2月24日 https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1341.html を通じて発明した飲料に係る商品を全国販売することを告知。 2023年3月21日 発明した飲料に係る商品を全国販売。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】堀内 真由美
(72)【発明者】
【氏名】久保 美遥
(72)【発明者】
【氏名】矢部 紗和子
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0134114(US,A1)
【文献】特開2009-011203(JP,A)
【文献】特開2022-127472(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113598251(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0066160(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0066161(KR,A)
【文献】特開2023-175519(JP,A)
【文献】特開2021-065130(JP,A)
【文献】Assessment of the Volatile Composition of Juices of Apricot, Peach, and Pear According to Two Pectolytic Treatments,J. Agric. Food Chem.,Vol. 53,2005年,pp. 7837-7843
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-3/42
CAplus/MEDLINE//AGRICOLA/EMBASE/FSTA/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンの含有量が50~1000ppm、ビタミンCの含有量が1000ppm以上、γ-ノナラクトンの含有量が0.05ppm以上、(ビタミンCの含有量)/(γ-ノナラクトンの含有量)が
500~35000である飲料。
【請求項2】
茶抽出物を含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
紅茶抽出物または烏龍茶抽出物を含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項4】
果汁を含む飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項5】
バニリンを含有する、請求項1に記載の飲料。
【請求項6】
ナイアシンを含む、請求項1に記載の飲料。
【請求項7】
乳成分を含まない飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項8】
ビタミンCの含有量が1100~3000ppmである、請求項1に記載の飲料。
【請求項9】
非炭酸飲料である、請求項1に記載の飲料。
【請求項10】
タンニンの含有量を50~1000ppm、ビタミンCの含有量を1000ppm以上、γ-ノナラクトンの含有量を0.05ppm以上、(ビタミンCの含有量)/(γ-ノナラクトンの含有量)を
500~35000に調整することを含む、飲料の製造方法。
【請求項11】
タンニンの含有量が50~1000ppm、ビタミンCの含有量が1000ppm以上である飲料の香味を向上する方法であって、γ-ノナラクトンの含有量を0.05ppm以上、(ビタミンCの含有量)/(γ-ノナラクトンの含有量)を
500~35000にすることを含む、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のビタミンCを含有する飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向に伴って、ビタミン類などの健康素材を比較的高濃度で配合した飲食品が多数開発されている。中でも、ビタミンCは代表的な健康素材であり、ビタミンCが強化された飲食品が数多く市販されている。
【0003】
ビタミンCを含む飲料の従来技術として、特許文献1には、ビタミンCを含む各種ビタミン類に由来する特有の不快臭(ビタミン臭)について、スクラロースを配合してマスキングする技術が記載されている。また、特許文献2には、アスコルビン酸又はその塩を含む茶飲料において、アストラガリンを含有させることによって鼻抜け香を強化する技術が開示されている。
【0004】
その一方、茶飲料のようなタンニンを含む飲料において、少量のビタミンCを酸化防止剤として配合することはあったものの、高濃度のビタミンCを配合した飲料は、市場には出回っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO00/24273
【文献】特開2021-007414
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、飲料の研究開発過程において、タンニンを含む飲料にビタミンCを配合した場合、ビタミンC含有量が少なければ香味への影響はほとんどないが、ビタミンCを飲料に多く配合すると飲用時に喉にひっかかるような不快感が生じることを見出した。具体的には、タンニンを含む飲料に1000ppm以上のビタミンCを含有させると、飲用時に、喉にひっかかるような不快感が顕在化する。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、タンニンを含む飲料において高濃度でビタミンCを含有させた場合に生じる、飲用時の喉の不快感を軽減する技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、種々の成分を試験した結果、γ-ノナラクトンが、高濃度のビタミンCとタンニンが併存した場合に生じる不快感を効果的に抑制することを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、これらに限定されないが、以下の態様を包含する。
[1] タンニンの含有量が50~1000ppm、ビタミンCの含有量が1000ppm以上、γ-ノナラクトンの含有量が0.05ppm以上である飲料。
[2] 茶抽出物を含有する、[1]に記載の飲料。
[3] 紅茶抽出物または烏龍茶抽出物を含有する、[1]に記載の飲料。
[4] 果汁を含む飲料である、[1]に記載の飲料。
[5] バニリンを含有する、[1]に記載の飲料。
[6] ナイアシンを含む、[1]に記載の飲料。
[7] 乳成分を含まない飲料である、[1]に記載の飲料。
[8] タンニンの含有量を50~1000ppm、ビタミンCの含有量を1000ppm以上、γ-ノナラクトンの含有量を0.05ppm以上に調整することを含む、飲料の製造方法。
[9] タンニンの含有量が50~1000ppm、ビタミンCの含有量が1000ppm以上である飲料の香味を向上する方法であって、γ-ノナラクトンの含有量を0.05ppm以上にすることを含む、上記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タンニンを含む飲料に高濃度のビタミンCを配合した場合に生じる、飲用時の喉の不快感を軽減することができる。本発明の技術を利用することにより、例えば、美味しく手軽にビタミン補給できる飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、所定量のタンニンおよびビタミンCを含有し、γ-ノナラクトンを含有する飲料である。
【0012】
ビタミンC(L-アスコルビン酸)
本発明の飲料は、1000ppm以上のビタミンCを含有する。上述したように、タンニンを含む飲料に高濃度のビタミンCを配合すると、飲用時の喉にひっかかるような不快感が知覚され、特に、ビタミンCの濃度が1000ppm以上になるとこの問題が顕在化するが、本発明に基づいてγ-ノナラクトンを配合することによってこの問題を抑制することができる。
【0013】
ビタミンCの含有量の下限値は、好ましくは1100ppmであり、より好ましくは1200ppmである。また、ビタミンCの含有量の上限値は、特に限定されないが、飲料の良好な風味を保持する観点から、3000ppmとすることができ、好ましくは2000ppmであり、より好ましくは1700ppmであり、最も好ましくは1500ppmである。ビタミンCの含有量は、当業者に公知の方法を用いて測定することができ、例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて定量することができる。ここで、本発明においてビタミンCの含有量は、L-アスコルビン酸(還元型)とL-デヒドロアスコルビン酸(酸化型)の含有量の合計値として算出するものとする
本発明のビタミンCは、塩の形態(例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムまたはアスコルビン酸カルシウム)で添加されているものや、果汁などの天然物由来のものも含む。また、一つの態様において、本発明に係る飲料にL-アスコルビン酸を配合する際、L-アスコルビン酸製剤を用いてもよい。L-アスコルビン酸製剤を配合することにより、高濃度のビタミンCを含有する飲料を調製しやすくなる。
【0014】
好ましい態様において、本発明に係る飲料は、ビタミンC以外のビタミンを含有することができる。本発明に係る飲料に配合するビタミンとしては、ビタミンBなどの水溶性ビタミンが好ましく、例えば、ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンなどが挙げられる。
【0015】
好ましい態様において本発明に係る飲料はナイアシンを含有する。ナイアシンはビタミンBの一種であり、ニコチン酸とも呼ばれる。本発明においてナイアシンというときは、特に断らない限り、ニコチン酸だけでなく、ニコチン酸のアミド体(ナイアシンアミド)も包含するものとする。ナイアシンは、体内でピリジンヌクレオチドに生合成された後、脱水素酵素の補酵素として糖質、脂質、タンパク質の代謝、エネルギー産生に関与しているとされ、コーヒー飲料に含まれることが知られている。
【0016】
本発明に係る飲料にナイアシンを配合する場合、その由来は特に限定されず、精製品の他、粗製品を用いることもできる。例えば、ナイアシンを含有する天然物またはその加工品を用いてもよいし、香料などの製剤を用いてもよい。本発明の飲料におけるナイアシンの含有量は、例えば、0.1~100ppmとすることができ、1~60ppmや5~30ppmとすることが好ましい。ナイアシンの含有量は、当業者に公知の方法を用いて測定することができ、例えば、HPLCを用いて定量することができる。
【0017】
好ましい態様において本発明に係る飲料はビタミンB6を含有する。ビタミンB6はビタミンBの一種であり、タンパク質の代謝などに関与することが知られている。本発明に係る飲料にビタミンB6を配合する場合、その由来は特に限定されず、精製品の他、粗製品を用いることもできる。例えば、ビタミンB6を含有する天然物またはその加工品を用いてもよいし、香料などの製剤を用いてもよい。本発明の飲料におけるビタミンB6の含有量は、例えば、0.1~100ppmとすることができ、0.5~60ppmや1~30ppmとすることが好ましい。ビタミンB6の含有量は、当業者に公知の方法を用いて測定することができ、例えばHPLCを用いて定量することができる。
【0018】
γ-ノナラクトン
本発明に係る飲料は、γ-ノナラクトンを含有する。γ-ノナラクトンは、C9H16O2で表される有機化合物であり、下記の構造を有する(CAS登録番号:104-61-0)。
【0019】
【0020】
γ-ノナラクトンは、天然にはモモやアンズなどの果実、ジャスミン油などに含まれ、ココナッツのような香りを持つことが知られているが、一般的な茶飲料には含まれていない成分である。本発明においてγ-ノナラクトンの由来は特に限定されず、精製品の他、粗製品を用いることもできる。例えば、γ-ノナラクトンを含有する天然物またはその加工品を用いてもよいし、香料などの製剤を用いてもよい。
【0021】
本発明においては、0.05ppm以上のγ-ノナラクトンを飲料に含有させることにより、高濃度のビタミンCとタンニンが併存した場合に生じる飲用時の喉の不快感を軽減させることができる。本発明の飲料におけるγ-ノナラクトンの含有量は、例えば、0.05~20ppmとすることができ、0.08~10ppmがより好ましく、0.1~5ppmや0.12~3ppmとしてもよい。また、γ-ノナラクトンの含有量の下限値は0.15ppmとしてもよく、上限値は1ppmや0.5ppmとしてもよい。
【0022】
また、本発明の飲料においてビタミンC含有量/γ-ノナラクトン含有量の比率は、特に限定されないが、例えば、500~35000であり、好ましくは2000~20000、より好ましくは5000~10000である。
【0023】
なお、γ-ノナラクトンの含有量は、当業者に公知の方法を用いて測定することができ、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)を用いて、下記のように定量することができる。
(測定手順) 試料を1g採取して20mLに定容し、ヘキサン10mL、塩化ナトリウム8gを添加し、振とう(10分)後、遠心分離(2000rpm、5分)を行い、得られた溶液のヘキサン層をGC/MSにて測定する。
(測定条件)
・機種:7890B/5977B[Agilent Technologies]
・カラム:DB-WAX UI[Agilent Technologies]
(直径0.25mm×30m、膜厚:0.25μm)
・注入方法:スプリットレス
・温度:試料注入口220℃
カラム40℃(1min保持)→10℃/min昇温→240℃(10min保持)
・ガス流量:ヘリウム(キャリヤーガス)1mL/min
・イオン源温度:230℃
・イオン化法:EI
・設定質量数(m/z):85
タンニン
本発明の飲料は、50~1000ppmのタンニンを含む。タンニンとは、カテキン類、没食子酸、そのエステル及びそれらの縮合物を包含する名称である。高濃度のビタミンCとタンニンを含有する飲料においては、これらの何らかの相互作用が発生することにより、飲用後に舌の上にべったりはりつく感覚が生じると考えられる。
【0024】
本発明の飲料におけるタンニンの含有量の上限値は、好ましくは800ppmであり、より好ましくは600ppm、さらに好ましくは400ppm、最も好ましくは200ppmである、また、本発明の飲料におけるタンニンの含有量の下限値は、好ましくは80ppmで、より好ましくは110ppm、より好ましくは130ppm、最もこの好ましくは150ppmである。本発明において飲料中のタンニン濃度が高くなりすぎると、タンニン由来の渋味から本発明の効果が知覚しにくくなり、タンニン濃度が低くなりすぎると、本発明の課題は生じない。
【0025】
本発明において飲料中のタンニン濃度は、酒石酸鉄吸光光度法により測定することができる。具体的には、「日本食品標準成分表2020年版(八訂)分析マニュアル」(令和4年2月)に記載の方法(酒石酸鉄吸光光度法)に基づいてタンニン濃度を測定すればよく、当該方法では、発色剤として酒石酸鉄試薬を使用し、当該試薬により発色させた上で波長540nmにおける吸光度を測定することによりタンニンの量を調べることができる。当該方法では、標準物質として没食子酸エチルを用いて検量線を作成し、その検量線から試料の吸光度に相当する没食子酸エチル量を求め、得られた数値を換算してタンニンの量を求めることができる。
【0026】
本発明において配合するタンニンの形態に制限はないが、例えば、茶抽出物やその濃縮物の形態で好適に用いることができる。タンニンを含有する植物の抽出物やその濃縮物は、例えば、紅茶、緑茶、烏龍茶、プーアル茶などのカメリア・シネンシスに属する茶葉を原料として調製したものはもちろん、ルイボス茶など、カメリア・シネンシス以外の植物から調製したものなどを用いることができる。中でも、本発明の効果の側面から、紅茶葉より得られる抽出物を好適に用いることができる。タンニンは、茶抽出物由来であることが好ましく、紅茶抽出物由来であることがより好ましい。本発明の飲料は、茶抽出物(好ましくは紅茶抽出物)を含んでいてもよい。
【0027】
飲料
本発明において飲料の種類は特に限定されない。好ましい態様において本発明の飲料は清涼飲料であり、アルコール飲料ではない。例えば、栄養飲料、機能性飲料、フレーバードウォーター(ニアウォーター)系飲料、茶系飲料(紅茶、ウーロン茶、緑茶、ルイボス茶等)、コーヒー飲料などいずれであってもよい。なお、本発明においては、炭酸の刺激によって本発明の効果が知覚されにくくなることから、本発明の飲料は、炭酸ガスを含まない飲料(すなわち、非炭酸飲料)であることが好ましい。また、本発明に係る飲料のpHは、香味及び保存安定性の観点から、好ましくは2.5~7.0であり、より好ましくは3.0~4.5である。
【0028】
本発明の飲料は、一実施形態において、茶飲料であることが好ましい。ここで「茶飲料」とは、茶樹(学名:Camellia sinensis)の茶葉や穀物、茶樹以外の茎葉や根といった植物原料からの抽出物を含有する飲料であり、具体的には、紅茶飲料、烏龍茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料、玄米茶飲料、ルイボス茶飲料、カモミール茶飲料、桑の葉茶飲料などであり、タンニンを含むことから、紅茶飲料、烏龍茶飲料、緑茶飲料、ルイボス茶飲料が好ましく、紅茶飲料がより好ましい。
【0029】
一つの態様において本発明に係る飲料は、バニリンを含有してもよい。バニリンは、バニロイド類に属し、化学式C8H8O3で表される有機化合物である(CAS登録番号:121-33-5)。バニリンは、別名として4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒドとも称され、バニラ特有の甘い香りを有することが知られている。本発明に係る飲料にバニリンを配合する場合、バニリンの由来は特に限定されず、精製品の他、粗製品を用いることもできる。例えば、バニリンを含有する天然物またはその加工品を用いてもよいし、香料などの製剤を用いてもよい。
【0030】
バニリンを配合する場合、本発明の飲料におけるバニリンの含有量は、例えば、0.1~10ppmとすることができ、0.3~5ppmや0.5~2ppmとすることが好ましい。バニリンの含有量は、当業者に公知の方法を用いて測定することができ、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いて、下記のように定量することができる。
(測定手順) 試料を2g採取し、水1mL、エタノール3mL、さらに水及びエタノールの混液(1:1)10mLを添加し、超音波を5分間照射して抽出を行い、20mLに定容して試験溶液を得た上で、LC/MSを用いて分析する。
(測定条件)
・カラム:Intersil ODS-2(直径2.1mm×150mm、粒径:5μm)
・カラム温度:40℃
・移動相:1%酢酸及びアセトニトリルの混液(85:15)
・流量:0.2mL/分
・イオン化法:エレクトロスプレー(正イオン検出モード)
・設定質量数(m/z):152.8→64.7
一つの態様において、本発明に係る飲料は乳成分を含まない。本明細書において、乳成分とは、例えば、牛乳、練乳、脱脂乳、還元乳(全粉乳、脱脂粉乳又は調製粉乳から還元した還元乳)、濃縮ホエー、濃縮乳、クリームなど乳タンパク質を含む成分をいう。飲料に乳成分を配合すると、乳タンパク質が本発明の効果に影響を与えることがあるため、飲料に乳成分を配合する場合は、乳タンパク質の影響を考慮して飲料の処方を決定する必要がある。
【0031】
本発明の飲料の甘味度は、特に限定されない。本発明者らの検討によると、甘味度が一定以上であると本発明の効果が顕著に知覚されるため、好ましい態様において飲料の甘味度は、例えば、1~30であり、3~20や5~10であることが好ましい。
【0032】
ここで、甘味度とは、甘味の強さを示す尺度であり、ショ糖1重量%(20℃)の甘味を1とした場合の相対比である。本明細書において飲料の甘味度とは、飲料100g中にショ糖1g含有する飲料の甘さを「1」とした場合における、飲料の相対的な甘味を表す指標である。飲料の甘味度は、各甘味成分の含有量を、ショ糖の甘味1に対する当該甘味成分の甘味の相対比に基づいて、ショ糖の相当量に換算して、次いで当該飲料に含まれる全ての甘味成分のショ糖甘味換算量(果汁やエキス等由来の甘味成分も含む)を総計することによって求められる。ショ糖の甘味1に対する各種代表的な甘味成分の甘味の相対比は、公知の甘味換算表(例えば、マクマリー有機化学、第7版、988頁)を用いたり、官能評価より甘味度を求めたりすればよい。
【0033】
飲料の甘味度は、公知の方法によって調整すればよいが、例えば、甘味料を用いることもできる。甘味料は、甘味を付与できるものであれば特に制限されないが、例えば、果糖、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、高果糖液糖、糖アルコール、オリゴ糖、はちみつ、サトウキビ搾汁液(黒糖蜜)、水飴、ステビア末、ステビア抽出物、羅漢果末、羅漢果抽出物、甘草末、甘草抽出物、ソーマトコッカスダニエリ種子末、ソーマトコッカスダニエリ種子抽出物などの天然甘味料や、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリンなどの人工甘味料などが挙げられる。
【0034】
本発明に係る飲料のBrix値(ブリックス値)は、特に限定されない。ただし、飲料のBrix値が高くなると本発明の効果が顕著に知覚されるなるため、好ましい態様において、本発明に係る飲料のBrix値は、例えば、1~30とすることができ、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。ここで、Brix値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値であり、一般に「°Bx」、「%」又は「度」という単位で表示される。Brix値は、糖度計や屈折計などを用いて常法によって測定すればよい。
【0035】
本発明に係る飲料は、果汁を含んでいてもよい。好ましい態様において、例えば、茶飲料に果汁を配合することによってフルーツティーのような華やかな飲料にすることができる。果汁の配合率に制限はないが、例えば、ストレート果汁換算で40%以下とすることができ、1~30%や3~15%がより好ましい。使用する果汁に特に制限はないが、果実や野菜を搾汁して得られる果汁をそのまま使用するストレート果汁であってもよいし、濃縮や加熱、加糖などの処理をした果汁であってもよい。また、果汁として透明果汁、混濁果汁を使用することもでき、果実の外皮を含む全果を破砕し種子など特に粗剛な固形物のみを除いた全果果汁、果実を裏ごしした果実ピューレ、あるいは、乾燥果実の果肉を破砕もしくは抽出した果汁を用いることもできる。
【0036】
果汁の原料となる果実や野菜の種類は、特に限定されず、1種類の果汁を単独で使用してもよいし、2種類以上の果汁を併用してもよい。使用する果汁の具体例としては、例えば、柑橘類果汁(オレンジ果汁、うんしゅうみかん果汁、グレープフルーツ果汁、レモン果汁、ライム果汁、柚子果汁、いよかん果汁、なつみかん果汁、はっさく果汁、ポンカン果汁、シイクワシャー果汁、かぼす果汁等)、ブドウ果汁、モモ果汁、熱帯果実果汁(パイナップル果汁、グァバ果汁、バナナ果汁、キウイ果汁、マンゴー果汁、アセロラ果汁、ライチ果汁、パパイヤ果汁、パッションフルーツ果汁等)、その他果実の果汁(りんご果汁、ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、ベリー果汁、キウイフルーツ果汁等)、イチゴ果汁、メロン果汁などが挙げられ、中でも、本発明の効果が知覚しやすいことから、ブドウ果汁、モモ果汁、オレンジ果汁、りんご果汁、パイナップル果汁、イチゴ果汁、キウイ果汁、マンゴー果汁が好ましく、モモ果汁がより好ましい。
【0037】
本発明の飲料には、上記に示した各種成分に加えて、飲料に一般的に用いられる成分を配合することができる。例えば、限定されないが、香料、糖類、酸味料、栄養強化剤、酸化防止剤、乳化剤、保存料、エキス類、食物繊維、品質安定剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0038】
本発明の飲料は、容器に充填して密閉した状態の容器詰飲料とすることができる。容器詰飲料に用いる容器は特に制限されず、公知の容器を使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂を主成分とする成形容器(いわゆるPETボトルなど)、アルミ缶やスチール缶などの金属缶、紙容器、ガラスの瓶などを挙げることができる。また、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器など、複数の材料を組み合わせた容器も好適に使用することができる。容器詰飲料の内容量は特に限定されないが、例えば、100mL以上や200mL以上であり、好ましくは300mL~3000mLであり、より好ましくは350mL~2000mLや500mL~1000mLである。
【0039】
本発明に係る飲料は加熱殺菌処理をしてもよいが、ビタミンCは加熱殺菌により減少するため、加熱殺菌する場合は、加熱殺菌後のビタミンC濃度が所定の濃度になるよう調整するとよい。
【0040】
加熱殺菌の手段は特に限定されないが、例えば、UHT殺菌及びレトルト殺菌等、公知の方法によることができる。本発明における加熱殺菌の条件は、例えば、食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択することができ、具体的には、60~150℃、好ましくは90~150℃、より好ましくは110~150℃で、1秒間~60分間、好ましくは1秒間~30分間とすることができる。一つの態様において、容器として耐熱性容器(金属缶、ガラス等)を使用する場合にはレトルト殺菌(110~140℃、1~数十分間)を行うことができ、また、容器として非耐熱性容器(PETボトル、紙容器等)を用いる場合は、例えば、調合液を予めプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後(UHT殺菌:110~150℃、1~数十秒間)し、一定の温度まで冷却した後、容器に充填することができる。
【0041】
飲料の製造方法など
ある態様において、本発明は飲料の製造方法である。より具体的には、本発明の一態様は、所定量のタンニン、ビタミンC、γ-ノナラクトンを含有する飲料を調製する工程を有しており、必要に応じて、加熱殺菌する工程や容器へ充填する工程などを有していてもよい。本発明において各工程の順序を入れ替えることが可能であり、また各工程間に別の工程を挿入することも可能である。
【0042】
また別の態様において本発明は、所定量のタンニンとビタミンCを含む飲料において飲料の香味を向上する方法と理解することもできる。すなわち、本発明は、所定量のタンニンとビタミンCを含む飲料にγ-ノナラクトンを配合する工程を含み、それによって、タンニンとビタミンCが併存した場合に生じる飲用時の喉の不快感を効果的に抑制することができる。
【0043】
特に断りがない限り、本明細書において濃度などは重量基準であるが、「ppm」は重量/容量(w/v)のppmを意味する。また、本明細書において下限値と上限値によって表されている数値範囲、すなわち「下限値~上限値」は、それら下限値及び上限値を包含するものとする。例えば、「1~2」により表される範囲は、1及び2を含む。
【実施例】
【0044】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
実験1(参考例)
紅茶エキスパウダー(Instant Black Tea、James Finlay Kenya Limited社、タンニン含量約5%)とビタミンC(L-アスコルビン酸)を水に溶解して、タンニンとビタミンCの含有量が下表のとおりである飲料を調製した。
【0046】
それぞれの飲料について、6名の専門パネルにより官能評価を行った。具体的には専門パネルが個別に飲料を飲用し、飲用時の喉の不快感の有無を確認した。
【0047】
下表に示す結果から明らかなように、タンニンを含む飲料において、ビタミンCの含有量が多くなると飲用時の喉の不快感が顕在化することが明らかになった。一方、タンニンを含まない飲料は、ビタミンCを含有させても飲用後の不快感は生じなかった。
【0048】
【0049】
実験2(紅茶飲料)
実験1と同じ紅茶エキスパウダーとビタミンCを用いて調製した紅茶飲料に、下表に示す濃度のγ-ノナラクトンを添加して容器詰茶飲料を製造した(タンニン含有量:約150ppm)。また、サンプル2-6ではバニリン、サンプル2-7ではナイアシンを飲料に配合した。さらに、サンプル2-8では果糖ブドウ糖液糖、サンプル2-9では透明ピーチ果汁と果糖ブドウ糖液糖を飲料に配合し、甘味度が8である飲料を調製した。
【0050】
それぞれの飲料について、飲用時の喉の不快感に関する官能評価を行った。官能評価は6名の専門パネルにて行い、以下の基準に沿って専門パネル各自が1~5点で評価し、得られた点数の平均値を最終的な評価点とした。
(不快感の評価基準)
1点:強く感じる(対照サンプルと同程度またはそれ以上)
2点:感じる
3点:少し感じる
4点:わずかに感じる
5点:全く感じない
下表に示す結果から明らかなように、γ-ノナラクトンを飲料に含有させることによって、飲用時の喉の不快感が軽減されることが分かった。また、バニリンをさらに含有させることによって、飲用時の喉の不快感が大きく軽減された。さらに、甘味度を高くした場合にも、飲用後の不快感が大きく軽減された。
【0051】
【0052】
実験3(烏龍茶飲料)
紅茶エキスに代えて烏龍茶パウダー(インスタントウーロン茶、Super FI (M) Sdn. Bhd.、タンニン含量:約23%)を用いて、実験2と同様にして容器詰茶飲料を製造した(タンニン含有量:約800ppm)。
【0053】
それぞれの飲料について、実験2と同様にして、飲用時の喉の不快感に関する官能評価を行った。下表に示す結果から明らかなように、烏龍茶飲料においても、γ-ノナラクトンを含有させることによって、飲用時の喉の不快感が軽減されることが分かった。また、バニリンをさらに含有させることによって、飲用時の喉の不快感が大きく軽減された。
【0054】
【要約】
【課題】本発明の課題は、高濃度のビタミンCを含有する飲料において飲用後の不快感を軽減することである。
【解決手段】本発明によって、タンニンの含有量が50~1000ppm、ビタミンCの含有量が1000ppm以上、γ-ノナラクトンの含有量が0.05ppm以上である飲料が提供される。
【選択図】なし