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  • 特許-半導体用処理液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-06
(45)【発行日】2024-12-16
(54)【発明の名称】半導体用処理液
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/308 20060101AFI20241209BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20241209BHJP
   C23G 1/20 20060101ALI20241209BHJP
   C23F 1/32 20060101ALI20241209BHJP
【FI】
H01L21/308 F
H01L21/306 F
H01L21/306 R
C23G1/20
C23F1/32
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024515144
(86)(22)【出願日】2023-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2023035958
(87)【国際公開番号】W WO2024075704
(87)【国際公開日】2024-04-11
【審査請求日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2022159584
(32)【優先日】2022-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄山
(72)【発明者】
【氏名】吉川 由樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伴光
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/030627(WO,A1)
【文献】特開2022-099242(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150990(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0124082(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0045898(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
H01L 21/306
C23G 1/20
C23F 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の遷移金属含有物の除去に用いる半導体用処理液であって、
前記半導体用処理液が、過ヨウ素酸イオンと
ウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、
Ca、Na、及びKを含み、並びにCa、Na、及びKの合計濃度が1質量ppt以上600質量ppt以下であり、
前記半導体用処理液中で、
過ヨウ素酸イオンの含有量が、処理液全質量に対して、0.3質量%以上35.0質量%以下であり、
ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンの合計濃度が20質量ppb~20000質量ppmであり、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンから選択される少なくとも1種のイオンの合計濃度の比が1以上1×10 以下であり、
前記半導体用処理液のpHが8.5以上11.0以下である、半導体用処理液
【請求項2】
前記半導体用処理液がヨウ素酸イオンを少なくとも含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンの合計濃度の比が1以上1×10 以下である、請求項1に記載の半導体用処理液。
【請求項3】
前記半導体用処理液がヨウ素酸イオンを少なくとも含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンの合計濃度の比が1以上1.9×10 以下である、請求項1に記載の半導体用処理液。
【請求項4】
前記半導体用処理液がヨウ素酸イオンを少なくとも含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンの合計濃度の比が1以上1×10 以下である、請求項1に記載の半導体用処理液。
【請求項5】
前記半導体用処理液がヨウ化物イオンを少なくとも含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンの合計濃度の比が1以上2.5×10 以下である、請求項1に記載の半導体用処理液。
【請求項6】
前記半導体用処理液がヨウ化物イオンを少なくとも含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンの合計濃度の比が1以上4.5×10 以下である、請求項1に記載の半導体用処理液。
【請求項7】
Ca、Na、及びKの合計濃度が1質量ppt以上300質量ppt以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の半導体用処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造工程において、金属配線処理に用いる半導体用処理液等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子中には、トランジスタが発する電気信号を外部に取り出す目的で、配線層が形成されている。半導体素子は年々微細化が進んでおり、エレクトロマイグレーション耐性が低い又は抵抗が高い材料を用いた場合、半導体素子の信頼性の低下や、高速動作の阻害を招く。そこで、配線材料としては、エレクトロマイグレーション耐性が高く、抵抗値の低い材料が所望されている。
【0003】
このようにエレクトロマイグレーション耐性が高く、抵抗値の低い材料としては、例えば、これまで、アルミニウムや銅が使用されており、最近では、タングステン、コバルト、モリブデン、ルテニウムなどが検討されている。半導体素子へ配線層を形成する場合、配線材料を加工する工程が含まれるが、この工程はドライ又はウェットのエッチングが用いられる。
【0004】
配線材料をウェットエッチングする場合、エッチング後の表面状態が荒れていると、その上に新たに金属を製膜した際に電気抵抗が増大し、電気特性が悪化してしまうという課題がある。
そのため、ウェットエッチング後の表面状態を平滑なまま維持することが可能な処理液が求められている。エッチング後の表面状態を平滑なまま維持する方法として、処理液に対して新たに添加剤を加える手法があり、添加剤による表面状態の改質や、エッチング性能を制御する方法などが考えられている。また、エッチング速度の安定性が良ければ、ウエハ上、またはウエハ毎でエッチング量にばらつきが生じることが少なく、歩留まりが生じにくくなる。
特許文献1では、エッチング後の表面状態の悪化を抑制可能な添加物の検討が行われている。この発明では、エッチングに用いる処理液中の次亜塩素酸イオンが、処理液中の次亜塩素酸イオンに対して、所定量の亜塩素酸イオンを添加している。これは、亜塩素酸イオンの添加により酸化還元電位を制御することが可能となり、処理後の金属配線の表面状態の平滑性に対して有効となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019―218436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1に開示された方法を用いて遷移金属含有物の除去性及び、エッチング速度の安定性について検討したところ、優れた溶解能を有するものの、被処理部の平滑性は十分ではなく、次亜塩素酸イオンと亜塩素酸イオンが反応してしまい、次亜塩素酸イオンが分解してしまうことから、エッチング速度の安定性はより十分ではなく、更なる改良が必要であった。
また、半導体ウエハのウェットエッチング工程では、処理後の金属配線の表面状態の平滑性以外にも、遷移金属含有物に対するエッチング速度の安定性が求められている。エッチング速度の安定性が悪いと、保存期間によって、ウエハ上、またはウエハ毎でエッチング量にばらつきが生じ、歩留まり率が上昇してしまう可能性がある。
したがって、本発明の目的は、遷移金属含有物に対して優れた溶解能を有し、かつ優れた平滑性を実現でき、エッチング速度が安定的である処理液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。そして、次亜臭素酸イオン、次亜塩素酸イオン、及び過ヨウ素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン酸素酸イオンと、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、及び塩素酸イオン、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、Ca、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含む半導体用処理液によれば、上記課題を解決できることを見出した。Ca、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含むことで、被処理部の平滑性が維持され、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、及び塩素酸イオン、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを含むことで、処理液のエッチング速度の安定的である結果が得られ、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
【0008】
項1 基板上の遷移金属含有物の除去に用いる半導体用処理液であって、
前記半導体用処理液が、次亜臭素酸イオン、次亜塩素酸イオン、及び過ヨウ素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン酸素酸イオンと、
臭化物イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、塩素酸イオン、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、
Ca、Na、K、Cr、Ni、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の金属を含み、並びにCa、Na、K、Cr、Ni、またはAlのいずれか1種の金属の濃度が0.1質量ppt以上200質量ppt以下である、半導体用処理液。
項2 前記半導体用処理液中で、
Ca、Na、K、Cr、Ni、またはAlのいずれか1種の金属の濃度に対する、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、または塩素酸イオンのいずれか1種のイオンの濃度の比が1以上1x10以下であり、
且つ次亜臭素酸イオンを含む、項1に記載の半導体用処理液。
項3 前記金属がCa、Na、及びKである、項1又は2に記載の半導体用処理液。
項4 前記半導体用処理液が、
臭化物イオン、亜臭素酸イオン、または臭素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、
Ca、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、
次亜臭素酸イオンを含む、項1に記載の半導体用処理液。
項5 前記半導体用処理液のpHが10.0以上13.0以下である、項3または4に記載の半導体用処理液。
項6 前記半導体用処理液が臭素酸イオンを含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、臭素酸イオンの濃度の比が1以上1x10以下である、項3または4に記載の半導体用処理液。
項7 前記半導体用処理液が臭化物イオン、亜臭素酸イオン、または臭素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを含み、
Cr、Ni及びAlの合計濃度に対する、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、または臭素酸イオンの濃度の比が1以上1x10以下である、項3または4に記載の半導体用処理液。
項8 前記半導体用処理液中で、
Ca、Na、K、Cr、Ni、またはAlのいずれか1種の金属の濃度に対する、塩化物イオン、または塩素酸イオンのいずれか1種のイオンの濃度の比が1以上1x10以下であり、
且つ次亜塩素酸イオンを含む、項1に記載の半導体用処理液。
項9 前記半導体用処理液中が、
塩化物イオン、及び塩素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、
Ca、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、
次亜塩素酸イオンを含む、項1に記載の半導体用処理液。
項10 前記半導体用処理液のpHが10.0以上13.0以下である、項8または9に記載の半導体用処理液。
項11
前記半導体用処理液が塩素酸イオンを含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、塩素酸イオン濃度の比が1以上1x10以下である、項8または9に記載の半導体用処理液。
項12 前記半導体用処理液が塩化物イオンを含み、
Cr、Ni及びAlの合計濃度に対する、塩化物イオンの濃度の比が1以上1x10以下である、項8または9に記載の半導体用処理液。
項13
前記半導体用処理液中で、
Ca、Na、K、Cr、Ni、またはAlのいずれか1種の金属の濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、または三ヨウ化物イオンのいずれか1種のイオンの濃度の比が1以上1x10以下であり、
且つ過ヨウ素酸イオンを含む、項1に記載の半導体用処理液。
項14 前記半導体用処理液中が、
ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、
Ca、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、
過ヨウ素酸イオンを含む、項1に記載の半導体用処理液。
項15 前記半導体用処理液のpHが8.5以上11.0以下である、項13または14に記載の半導体用処理液。
項16 前記半導体用処理液がヨウ素酸イオンを含み、
Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオンの濃度の比が1以上1x10以下である、項14または15に記載の半導体用処理液。
項17 前記半導体用処理液がヨウ化物イオンを含み、
Cr、Ni及びAlの合計濃度に対する、ヨウ化物イオンの濃度の比が1以上1x10以下である、項14または15に記載の半導体用処理液。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ある種の金属とある種のイオンを、好ましくは特定の濃度または濃度比で添加することで、遷移金属含有物の被処理部に対して、優れた平滑性を有し、かつ、エッチング速度を安定的に得ることができる半導体用処理液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】半導体素子の製造方法におけるエッチング工程で用いられる、設備の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(半導体用処理液)
本実施形態の半導体用処理液は、後述する対象混合物を含有することを特徴としている。また、本発明の半導体用処理液は、処理液とも記載する。
対象混合物とは、特定のイオンと、特定の金属が存在している混合物である。特定のイオンとは、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、及び塩素酸イオン、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、後述するハロゲン酸素酸イオンとを含む、イオンである。また、特定の金属とは、Ca、Na、K、Cr、Ni、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の金属である。
【0012】
(処理対象)
本実施形態の処理液を用いることで、メカニズムは明確ではないが、基板表面の平滑性、及び、エッチング速度の安定性(本明細書中では、単に「安定性」とも表記)を保つことができる。前記の平滑性、及び、エッチング速度の安定性は、ウエハ上の遷移金属含有物の表面酸化状態の違いによるものとされている。半導体ウエハとしては、好適には、Ru、Rh、Ti、Ta、Co、Cr、Hf、Os、Pt、Ni、Mn、Cu、Zr、La、Mo、及びWから選択される少なくとも1種の遷移金属が含まれ、Ru、Mo、及びWが更に好ましい。
本実施形態の処理液を用いることで、遷移金属含有物表面上に対象混合物が吸着し酸化状態が整えられ、基板表面の平滑性、及び、エッチング速度の安定性を保つことができると推察している。
【0013】
前記、特定の金属は、通常、半導体処理液に不純物として含有される物質である。これらの金属のパーティクルは、微細な金属配線上等に残存してしまうと、短絡等を引き起こし、半導体素子に大きな影響を与えてしまう可能性がある。このため、処理液中の金属元素の量は少なければ少ないほど良いと考えられてきた。しかしながら、特開2019―142788号公報、及び、特開2017-169832号公報にて、処理液中の金属量とウエハ上の金属量は、必ずしも相関しないことが示されている。そのため、金属の微量添加による、金属パーティクルによる短絡などの影響は起きにくいと考えられる
【0014】
(ハロゲン酸素酸イオン)
本実施形態の処理液には、次亜臭素酸イオン、次亜塩素酸イオン、および過ヨウ素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン酸素酸イオンを含む。ハロゲン酸素酸イオンは酸化剤として機能する。その濃度は本発明の目的を逸脱しない限り特に制限されることはないが、50質量ppm以上35.0質量%以下が好ましい。
本実施形態の処理液に含まれるハロゲン酸素酸イオンとして次亜臭素酸イオン、または次亜塩素酸イオンが選択される場合としては、特に限定はされないが、遷移金属を溶解できる点から、処理液全質量に対して、50質量ppm以上5.0質量%以下が好ましく、500質量ppm以上2.0質量%以下がより好ましく、500質量ppm以上5000質量ppm以下がさらに好ましい。
本実施形態の処理液に含まれるハロゲン酸素酸イオンとして過ヨウ素酸イオンが選択される場合としては、特に限定はされないが、遷移金属を溶解できる点から、オルト過ヨウ素酸イオン、または、メタ過ヨウ素酸イオンが好ましい。また、水に溶かすことによってイオン化することからオルト過ヨウ素酸の塩、及び、メタ過ヨウ素酸の塩であってもよい。特に、Naなどを含まず、安定した組成である点から、オルト過ヨウ素酸イオンがより好ましい。
処理液の溶解能から、過ヨウ素酸イオンの含有量は、処理液全質量に対して、0.5質量%以上35.0質量%が好ましく、2.0質量%以上8.0質量%以下がより好ましい。
本実施形態の処理液に含まれる前記ハロゲン酸素酸イオンは、1種であっても、2種以上であってもよい。複数種含まれることで、エッチング速度の安定化や、再利用の際の安定性を向上させる可能性がある。例として、1種目のハロゲン酸素酸イオンに次亜臭素酸イオンが含まれる場合、酸化による消費や不均化による分解が進むと、臭化物イオンが生成する。ハロゲン酸素酸イオンの濃度の減少はエッチング速度の減少を引き起こす。
しかし、該処理液に2種目のハロゲン酸素酸イオンとして、次亜塩素酸イオンが含まれていれば、生成した臭化物イオンを酸化し、次亜臭素酸イオンへ変化させることができる。これによってエッチング速度の安定化が得られやすくなる。
以上の理由から、本実施形態の処理液に次亜臭素酸イオンが含まれる場合、次亜塩素酸イオンが共存する事が好ましい。次亜塩素酸イオンの濃度は、本発明の趣旨を逸脱しない限り制限されないが、50質量ppm以上5質量%以下であることが好ましい。次亜塩素酸イオンの濃度が50質量ppmより小さいと、例えばBrを効率よく酸化することができず、ルテニウム等のエッチング速度が低下する。一方、次亜塩素酸イオンの添加量が5質量%より大きいと、次亜塩素酸イオンの安定性が低下するし、次亜塩素酸イオン/次亜臭素酸イオン間の反応による次亜臭素酸イオンの分解を促進するため適当でない。次亜塩素酸イオンの濃度は、50質量ppm以上5質量%以下であることが好ましく、500質量ppm以上2質量%であることがより好ましく、500質量ppm以上5000質量ppm以下がさらに好ましい。
【0015】
(特定のイオン)
前記の通り、本実施形態の処理液は対象混合物を含有する。また、該対象混合物は特定のイオンを含有する。本実施形態の処理液に含まれる特定のイオンとは、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、及び塩素酸イオン、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、ハロゲン酸素酸イオンが含まれる。該ハロゲン酸素酸イオンは、次亜臭素酸イオン、次亜塩素酸イオン、及び過ヨウ素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のハロゲン酸素酸イオンである。
臭化物イオンは、例えば臭素ガス、臭化水素、または臭素塩により処理液に含有させることができる。また、その含有量は処理液に対する、臭素ガス、臭化水素、または臭素塩の添加する重量により調整することができる。
亜臭素酸イオンは、例えば亜臭素酸、または亜臭素酸塩により処理液に含有させることができる。亜臭素酸塩は亜臭素酸イオンのカウンターとなるカチオンがハロゲン酸素酸イオンと反応しないか、反応しても本発明の障害とならないものであれば、どのような塩であってもよく、下記で例示したものを挙げることができる。また、その含有量は処理液に対する、亜臭素酸、または亜臭素酸塩の添加する重量により調整することができる。
臭素酸イオンは、例えば臭素酸、または臭素酸塩により処理液に含有させることができる。また、その含有量は処理液に対する、臭素酸、または臭素酸塩の添加する重量により調整することができる。
塩化物イオンは、例えば塩素ガス、塩化水素、または塩素塩により処理液に含有させることができる。また、その含有量は処理液に対する、塩素ガス、塩化水素、または塩素塩の添加する重量により調整することができる。
塩素酸イオンは、例えば塩素酸、または塩素酸塩により処理液に含有させることができる。また、その含有量は処理液に対する、塩素酸、または塩素酸塩の添加する重量により調整することができる。
ヨウ素酸イオンは、例えばヨウ素酸塩により処理液に含有させることができる。また、その含有量は処理液に対する、ヨウ素酸塩の添加する重量により調整することができる。
ヨウ化物イオンは、例えばヨウ素、ヨウ素ガス、ヨウ化水素、ヨウ素塩により処理液に含有させることができる。また、その含有量は処理液に対する、ヨウ素、ヨウ素ガス、ヨウ化水素、ヨウ素塩の添加する重量により調整することができる。
三ヨウ化物イオンは、例えば三ヨウ化物塩により処理液に含有させることができる。また、その含有量は処理液に対する、三ヨウ化物塩の添加する重量により調整することができる。
【0016】
本実施形態の処理液に含まれる前記ハロゲン酸素酸イオンと特定のイオンの組み合わせは複数考えられるが、ハロゲン酸素酸イオン毎に好ましい特定のイオンが存在する。ハロゲン酸素酸イオンに対して好ましい特定のイオンを選択することで、処理液の保存安定性がさらに向上する。これは、ハロゲン酸素酸イオンの不均化反応を抑制するためであると考えられる。この時選択される特定のイオンは1種であっても2種以上であってもよく、2種以上選択される場合は、特定のイオンの合計の濃度が、処理液の全質量に対して、0.01質量ppt以上2質量%以下が好ましく、1質量ppb以上1質量%以下であることが好ましく、10質量ppb以上0.1質量%以下がより好ましい。
【0017】
ハロゲン酸素酸イオンとして次亜臭素酸イオンが選択される場合、好ましい特定のイオンは、臭素酸イオン、亜臭素酸イオン、臭化物イオン、塩素酸イオン、塩化物イオン、またはヨウ素酸イオンであり、より好ましくは臭素酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、または塩素酸イオンである。
【0018】
ハロゲン酸素酸イオンとして次亜塩素酸イオンが選択される場合、好ましい特定のイオンは、塩素酸イオン、塩化物イオン、臭素酸イオン、亜臭素酸イオン、またはヨウ素酸イオンであり、より好ましくは塩素酸イオン、または塩化物イオンである。
【0019】
ハロゲン酸素酸イオンとして過ヨウ素酸イオンが選択される場合、好ましい特定のイオンは、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、三ヨウ化物イオン、臭化物イオン、または塩化物イオンであり、より好ましくはヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、または三ヨウ化物イオンである。
【0020】
また、ハロゲン酸素酸イオンが2種以上選択される場合でも、選択される特定のイオンとして好ましい特定のイオンが存在する。ハロゲン酸素酸イオンとして、次亜塩素酸イオンと次亜臭素酸イオンが選択される場合、好ましい特定のイオンは、臭素酸イオン、亜臭素酸イオン、臭化物イオン、塩素酸イオン、塩化物イオン、またはヨウ素酸イオンであり、より好ましくは臭素酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、または塩素酸イオンである。
【0021】
特定のイオンを含有させる方法として塩が選択される場合、カウンターとなるカチオンとしては、ハロゲン酸素酸イオンと反応しないか、反応しても本発明の障害とならないものであれば、どのような塩であっても良い。特に限定はされないが、塩化物イオンの場合の例を挙げれば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化アンモニウム、塩化オニウム等を挙げることができる。ここでいう塩化オニウムとは、オニウムイオンと塩化物イオンから形成される化合物である。オニウムイオンは、単原子陰イオンに過剰のプロトン(水素陽イオン)が付加してできた多原子陽イオンの化合物である。具体的には、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、フルオロニウムイオン、クロロニウムイオン、ブロモニウムイオン、ヨードニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオン、セレノニウムイオン、テルロニウムイオン、アルソニウムイオン、スチボニウムイオン、ビスムトニウムイオン等の陽イオンである。処理液中の金属量を変化させないという理由から、塩としてはオニウムイオンと形成される塩が好ましく、水素イオンを含む化合物が更に好ましい。
処理液のエッチング速度の安定性が優れる点から、特定のイオンの含有量は、処理液の全質量に対して、0.01質量ppt以上2質量%以下が好ましく、1質量ppb以上1質量%以下であることが好ましく、10質量ppb以上0.1質量%以下がより好ましい。この濃度範囲は、上記のいずれの特定イオンの場合にも適用できる。
【0022】
特定のイオンはいずれもアニオンであり、カウンターとなるカチオンが処理液中に存在する。
カチオンとしては、例えば、水素カチオン(H)、テトラアルキルアンモニウムカチオン(例えば、テトラメチルアンモニウムカチオン(TMA)、テトラエチルアンモニウムカチオン(TEA)、エチルトリメチルアンモニウムカチオン(ETMA)、若しくは、テトラブチルアンモニウムカチオン(TBA))、又は、アンモニウムイオン(NH )が好ましく、水素カチオン(H)、またはテトラメチルアンモニウムカチオン(TMA)が更に好ましい。
【0023】
(特定の金属)
前記の通り、本実施形態の処理液は対象混合物を含有する。また、該対象混合物は特定のイオンとともに特定の金属を含有する。該特定の金属とは、Ca、Na、K、Cr、Ni、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種である。メカニズムは明確ではないが、遷移金属含有物表面上にカチオンとなった対象混合物が吸着し酸化状態が均一化されると考えられることから、遷移金属のエッチングにおける表面平滑性に効果があると考えられる。これら金属の中でも選択される金属としては、イオン化傾向の高いCa、Na、またはKが好ましい。本実施形態の処理液にCr、Ni、またはAlが含まれる場合であっても、Ca、Na、またはKが含まれる場合と同様に、表面平滑性に関する効果が得られるが、イオン化傾向の高いCa、Na、またはKを含む場合の方がより効果が高い。
処理液の平滑性が優れる点から、特定の金属の含有量は、処理液全質量に対して、0.01質量ppt以上200質量ppt以下であり、0.01質量ppt以上100質量ppt以下が好ましく、0.01質量ppt以上50質量ppt以下がさらに好ましい。
また、上記の金属の中でも、Na、K、Caの全ての金属の濃度がそれぞれ0.01質量ppt以上200質量ppt以下であることが好ましい。さらに、上記の金属の中でも、Na、K、Caの全ての金属の合計濃度が、処理液全質量に対して、0.01質量ppt以上600質量ppt以下であり、0.01質量ppt以上300質量ppt以下が好ましく、0.01質量ppt以上150質量ppt以下がさらに好ましい。
また、上記の金属の中でも、Cr、Ni、Alの全ての金属の合計濃度が、処理液全質量に対して、0.01質量ppt以上600質量ppt以下であり、0.01質量ppt以上300質量ppt以下が好ましく、0.01質量ppt以上150質量ppt以下がさらに好ましい。
また、処理液のエッチング速度の安定性が優れる点から、各特定の金属に対する特定のイオンの濃度比は、1以上1x10以下が好ましい。
なお、本実施形態の処理液は上記の特定の金属以外にも、Fe、Zn、またはCuを含んでいてもよい。また、Fe、Zn、またはCuを含む場合、これらのそれぞれの金属の含有量は、処理液全質量に対して、0.01質量ppt以上200質量ppt以下であり、0.01質量ppt以上100質量ppt以下が好ましく、0.01質量ppt以上50質量ppt以下がさらに好ましい。
【0024】
(特定のイオンと特定の金属の組み合わせ)
下記の具体例で示す処理液は、Ca、Na、K、Cr、Ni、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
本実施形態の第一の具体例の処理液におけるCa、Na、K、Cr、Ni、またはAlのいずれか1種の金属の濃度に対する、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、塩化物イオン、または塩素酸イオンのいずれか1種のイオンの濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は2.4×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。
また、本実施形態の第二の具体例の処理液におけるCa、Na、及びKの合計濃度に対する、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、または臭素酸イオンのいずれか1種のイオン濃度の比が1以上1x10であることが好ましい。前記濃度比の上限値は2.4×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。この具体例では、処理液がCa、Na、及びKの全てを含むことが好ましい。
また、前記第一と第二の2つの具体例では、半導体用処理液のpHが10.0以上13.0以下であることが好ましい。
また、本実施形態の第三の具体例の処理液は、臭素酸イオンを含み、Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、臭素酸イオンの濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は9.7×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。この具体例では、処理液がCa、Na、及びKの全てを含むことが好ましい。
また、本実施形態の第四の処理液は、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、または臭素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンを含み、
Cr、Ni及びAlの合計濃度に対する、臭化物イオン、亜臭素酸イオン、または臭素酸イオンの濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は6.0×10であることが好ましく、5.0×10であることがより好ましい。この具体例では、処理液がCr、Ni及びAlの全てを含むことが好ましい。
また、本実施形態の第五の具体例の処理液における、Ca、Na、K、Cr、Ni、またはAlのいずれか1種の金属の濃度に対する、塩化物イオン、または塩素酸イオンのいずれか1種のイオン濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は2.3×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。
また、本実施形態の第六の具体例の処理液は、塩化物イオン、及び塩素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、Ca、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、次亜塩素酸イオンを含むことが好ましい。
また、本実施形態の第七の具体例の処理液におけるCa、Na、及びKの合計濃度に対する、塩化物イオン、または塩素酸イオンのいずれか1種のイオン濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は2.3×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。この具体例では、処理液がCa、Na、及びKの全てを含むことが好ましい。
また、前記第六と第七の具体例の処理液のpHは10.0以上13.0以下であることが好ましい。
また、本実施形態の第八の具体例の処理液は、塩素酸イオンを含み、Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、塩素酸イオン濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は2.6×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。この具体例では、処理液がCa、Na、及びKの全てを含むことが好ましい。
また、本実施形態の第九の具体例の処理液は、塩化物イオンを含み、Cr、Ni及びAlの合計濃度に対する、塩化物イオンの濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は6.0×10であることが好ましく、5.5×10であることがより好ましい。この具体例では、処理液がCr、Ni及びAlの全てを含むことが好ましい。
また、本実施形態の第十の具体例の処理液では、Ca、Na、K、Cr、Ni、またはAlのいずれか1種の金属の濃度に対する、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、または三ヨウ化物イオンのいずれか1種のイオンの濃度の比が1以上1x10以下であり、且つ過ヨウ素酸イオンを含むことが好ましい。前記濃度比の上限値は1.8×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。
また、本実施形態の第十一の具体例の処理液は、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンからなる群から選択される少なくとも1種のイオンと、Ca、Na、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属と、過ヨウ素酸イオンを含むことが好ましい。
また、前記第十二の具体例の処理液において、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、三ヨウ化物イオンのいずれか1種のイオンの濃度が1質量ppb以上1質量%以下であることが好ましい。
また、前記第十と第十一の具体例の処理液のpHは8.5以上11.0以下であることが好ましい。
また、前記第十と第十一の具体例の処理液では、Ca、Na、及びKの合計濃度に対する、ヨウ素酸イオンの濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は1.9×10であることが好ましく、1×10であることがより好ましい。
また、本実施形態の第十三の具体例の処理液は、ヨウ化物イオンを含み、Cr、Ni及びAlの合計濃度に対する、ヨウ化物イオンの濃度の比が1以上1x10以下であることが好ましい。前記濃度比の上限値は5.5×10であることが好ましく、5.0×10であることがより好ましい。この具体例では、処理液がCr、Ni及びAlの全てを含むことが好ましい。
【0025】
(pH)
本実施形態の処理液のpHは、pH8.5~13.0が好ましい。この範囲の中でも、選択されるハロゲン酸素酸イオンに応じて、好ましいpHの範囲が存在する。具体的には、上記の各態様で説明した通りである。好ましいpHの範囲が存在する理由としてはpHが低すぎるとハロゲン酸素酸イオンの保存安定性が悪くなり、pHが高すぎると遷移金属に対するエッチング速度が遅くなるためである。保存安定性とは、処理液を長期保管した際の、ハロゲン酸素酸イオンの濃度変化を評価したものである。
本実施形態の処理液に含まれるハロゲン酸素酸イオンとして、過ヨウ素酸イオンが含まれている場合、溶解能、平滑性、保存安定性、及び、エッチング速度の安定性の観点から、pH8.5~11.0が好ましく、pH9.0~10.0がより好ましい。
本実施形態の処理液に含まれるハロゲン酸素酸イオンとして、次亜臭素酸イオン、または次亜塩素酸イオンのいずれか1種以上が選択されている場合、溶解能、平滑性、保存安定性、及び、エッチング速度の安定性の観点から、pH10.0~13.0が好ましく、pH12.0~12.6がより好ましい。
【0026】
(その他)
本実施形態の処理液には、本発明の目的を損なわない範囲で、従来から半導体用処理液に使用されているその他の添加剤を配合してもよい。例えば、その他の添加剤として、酸、金属防食剤、水溶性有機溶媒、フッ素化合物、還元剤、錯化剤、キレート剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、安定化剤などを加えることができる。これらの添加剤は単独で添加してもよいし、複数を組み合わせて添加してもよい。
【0027】
pH調整剤として、酸またはアルカリを本実施形態の処理液に添加することができる。アルカリとしては、半導体製造において問題となる金属イオンを含まないことから、有機アルカリを用いることが好ましい。なかでも、単位重量当たりの水酸化物イオン数が多く、高純度品が容易に入手可能であることから、該有機アルカリは水酸化テトラアルキルアンモニウムであることが好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウムであることがより好ましい。
【0028】
本実施形態の処理液に含まれる水は、蒸留、イオン交換処理、フィルター処理、各種吸着処理などによって、金属イオンや有機不純物、パーティクル粒子などが除去された水が好ましく、特に純水、超純水が好ましい。このような水は、半導体製造に広く利用されている公知の方法で得ることができる。
【0029】
本実施形態の半導体処理液を用いてルテニウムをエッチングするときの温度は特に制限されないが、ルテニウムのエッチング速度、RuOガス発生量などを考慮して決定すればよい。処理温度が高い場合、RuOガス量は多くなり、ハロゲン酸素酸イオンの安定性も低下する。一方、低温ほど、エッチング速度は低下傾向にある。このような理由から、ルテニウムをエッチングする温度は10℃~90℃が好ましく、15℃~60℃がより好ましく、25℃~45℃であることが最も好ましい。
【0030】
本実施形態の処理液は、低温及び/あるいは遮光して保存する事が好ましい。低温及び/あるいは遮光にて保存する事で、処理液中の酸化剤の分解を抑制する効果が期待できる。さらに、不活性ガスを封入した容器で処理液を保存し、二酸化炭素の混入を防ぐことで、処理液の安定性を維持することができる。また、該容器の内面、すなわち処理液と接する面は、ガラスまたは有機高分子材料で形成されていることが好ましい。該容器の内面がガラスまたは有機高分子材料で形成されていれば、金属、金属酸化物、有機物等の不純物混入をより低減できるためである。
【0031】
(濾過用円滑剤)
本実施形態の処理液には、濾過用円滑剤として、オニウムイオンを含んでいてもよい。濾過用円滑剤の表面張力が低いと、濾過工程にて除去されてしまう可能性があることから、濾過用円滑剤の表面張力は60mN/m以上75mN/m以下であることが望ましい。オニウムイオンが半導体ウエハの金属表面と相互作用する事で、金属表面の荒れを抑制する事が可能となる。また、半導体ウエハにルテニウムが含まれる場合、ルテニウムのエッチング時に発生するRuO やRuO 2-等と相互作用する事で、RuOガスおよび付随して生成されるRuOパーティクルの発生を抑制する事ができる。
このように、本実施形態に用いられる濾過用円滑剤に含まれるオニウムイオンは様々な役割を果たしているが、これらの効果を高く維持するためには、濾過用円滑剤の表面張力が鍵となる。すなわち、濾過用円滑剤の表面張力が60mN/m未満では、濾過用円滑剤中に含まれるオニウムイオンが濾過工程によって除去されやすくなるため、上記で説明したような良好な表面平滑性やRuOガスの抑制効果を保ちにくくなる。表面張力を増加させる方法の一つとして、多量の塩を添加する方法が挙げられるが、本実施形態に用いられる濾過用円滑剤に後述する酸化剤が含まれる場合、塩と酸化剤が反応する事で酸化剤の安定性が低下したり、高濃度の塩によりエッチングの阻害が生じる事がある。このような理由から、表面張力は75mN/m以下である事が好ましい。
【0032】
ここで、濾過工程について説明する。半導体ウエハの製造では、パーティクルがウエハへ付着すると歩留まり低下を招くため、処理液中のパーティクルを除去する目的で、処理液の濾過が行われる。最先端の半導体ウエハの場合、配線幅は数nm~数十nmと非常に微細なため、濾過工程で用いられるフィルターの細孔径も同程度のサイズが求められる。しかし、フィルターの細孔径が小さくなるほど、オニウム塩又はオニウムイオンは吸着除去されやすくなる。これによって、処理液中のオニウムイオン濃度が低下する事で、上述した処理液としての機能が損なわれてしまう。
しかし、このようなオニウムイオンの濃度低下は、濾過用円滑剤の表面張力を制御する事で避ける事が可能となる。具体的には、水の表面張力は25℃において73mN/m前後であり、この値に近づけることでオニウム塩又はオニウムイオンのフィルターへの吸着を抑制することが可能となる。すなわち、濾過用円滑剤の表面張力を60mN/m以上75mN/m以下に制御する事で、オニウム塩又はオニウムイオンのフィルターへの吸着を抑制し、濾過用円滑剤を処理液として用いた時にその機能が損なわれることなく使用できる。このような理由から、表面張力は、60mN/m以上75mN/m以下であり、68mN/m以上75mN/m以下である事が好ましく、71mN/m以上73mN/m以下である事が最も好ましい。ここで、本明細書における表面張力は25℃での値である。
【0033】
(オニウムイオン)
表面張力は、本実施形態で用いられる濾過用円滑剤としてのオニウムイオンによる影響を受ける。そのため、オニウムイオンの種類や濃度を適切に選択する事で、表面張力を適切な範囲に保つ事が可能となる。表面張力を好ましい範囲に保つためには、下記、式(1)~(6)で示す構造のオニウムイオンからなる群から選択される一種以上を選択する事が好ましい。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(式(1)~式(6)中、
、R、R、R、R、Rは独立して、炭素数2~9のアルキル基、アリル基、炭素数1~9のアルキル基を有するアラルキル基、又はアリール基である。また、アラルキル基中のアリール基及びアリール基の環において少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、炭素数1~9のアルキル基、炭素数2~9のアルケニル基、炭素数1~9のアルコキシ基、又は炭素数2~9のアルケニルオキシ基で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素で置き換えられてもよい。
上記のオニウムイオンに対するカウンターアニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、メタン硫酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、オルト過ヨウ素酸イオン、メタ過ヨウ素酸イオン、ヨウ素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、フルオロホウ酸イオン、又はトリフルオロ酢酸イオンを挙げることができる。
Aはアンモニウムイオン、又はホスホニウムイオンである。
Zは、窒素、硫黄、酸素原子を含んでもよい芳香族基又は脂環式基であり、該芳香族基又は該脂環式基において、炭素又は窒素は、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、少なくとも1つの炭素数1~9のアルキル基、少なくとも1つの炭素数2~9のアルケニルオキシ基、少なくとも1つの炭素数1~9のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は、少なくとも1つの炭素数1~9のアルキル基で置換されてもよい脂環式基を有していてもよい。
Rは塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、炭素数1~9のアルキル基、アリル基、少なくとも1つの炭素数1~9のアルキル基で置換されてもよい芳香族基、又は少なくとも1つの炭素数1~9のアルキル基で置換されてもよい脂環式基である。nは1又は2の整数であり、Rの数を示す。nが2の場合、Rは同一又は異なっていてもよく、環を形成してもよい。
aは1~10の整数である。)
【0034】
式中Rで示される炭化水素基は、長鎖であるほど疎水性が高くなる。そのため、長鎖の炭化水素基を有するオニウムイオンを含む濾過用円滑剤ほど、表面張力は低下する傾向にある。一方で、炭化水素鎖が短すぎると、オニウムイオンの効果である、表面平滑性の向上やRuOガスの抑制効果が制限されてしまう。このような理由から、炭化水素基の炭素数は、上述の範囲内である事が好ましい。
【0035】
本実施形態の処理液中のオニウムイオンの濃度は1質量ppm以上10,000質量ppm以下であることが好ましい。オニウムイオンの添加量が少なすぎると、ルテニウムの半導体処理液として用いた場合、RuO 等との相互作用が弱まりRuOガス抑制効果が低減するだけでなく、エッチング時に金属表面へ付着するオニウムイオンの量が不十分となるため、表面平滑性が低下する傾向にある。一方、添加量が多すぎると、オニウムイオンの金属表面への吸着量が過多となって、エッチング速度が低下する。また、本実施形態の半導体用処理液において、ハロゲン酸素酸イオンとオニウムイオンが反応する事でハロゲン酸素酸イオンの濃度低下の原因となる場合がある。したがって、本実施形態の処理液は、オニウムイオンを1質量ppm以上10,000質量ppm以下含むことが好ましく、10質量ppm以上5,000質量ppm以下含むことがより好ましく、50質量ppm以上2000質量ppm以下含むことがさらに好ましい。なお、オニウムイオンを添加する場合には、1種のみを添加してもよいし、2種以上を組み合わせて添加してもよい。2種類以上のオニウムイオンを含む場合であっても、オニウムイオンの濃度の合計が上記の濃度範囲であれば、RuOガスの発生を効果的に抑制することができる。
【0036】
このようなオニウムイオンを例示すれば、クロロコリンイオン、trans-2-ブテン1,4-ビス(トリフェニルホスホニウムイオン)、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムイオン、アリルトリフェニルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオン、メチルトリフェニルホスホニウムイオン、(2-カルボキシエチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(3-カルボキシプロピル)トリフェニルホスホニウムイオン、(4-カルボキシブチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(5-カルボキシペンチル)トリフェニルホスホニウムイオン、シンナミルトリフェニルホスホニウムイオン、(2-ヒドロキシベンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、(1-ナフチルメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、(tert-ブトキシカルボニルメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、アリルトリフェニルホスホニウムイオン、(3-メトキシベンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(1-エトキシー1-オキソプロパンー2-イル)トリフェニルホスホニウムイオン、(3,4-ジメトキシベンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、メトキシカルボニルメチル(トリフェニル)ホスホニウムイオン、(2,4-ジクロロベンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)トリフェニルホスホニウムイオン、(4-クロロベンンジル)トリフェニルホスホニウムイオン、(3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムイオン、メタクロイルコリンイオン、ベンゾイルコリンイオン、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムイオン、(2-メトキシエトキシメチル)トリエチルアンモニウムイオン、カルバミルコリンイオン、1,1’-ジフルオロ-2,2'-ビピリジニウムビス(テトラフルオロボラート)、ベンジルトリブチルアンモニウムイオン、トリメチルフェニルアンモニウムイオン、5-アゾニアスピロ[4.4]ノナンイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、ジアリルジメチルアンモニウムイオン、1,1-ジメチルピペリジニウムイオン、(2-ヒドロキシエチル)ジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、3-(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルアンモニウムイオン、1,1'-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジイオン、(3-ブロモプロピル)トリメチルアンモニウムイオン、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムイオン、アリルトリメチルアンモニウムイオン、トリメチルビニルアンモニウムイオン、コリンイオン、β-メチルコリンイオン、およびトリフェニルスルホニウムイオン等が挙げられ、好ましくは、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムイオン、1-エトキシー1-オキソプロパンー2-イル)トリフェニルホスホニウムイオン、1,1'-(デカン-1,10-ジイル)ビス[4-アザ-1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン]ジイオン、ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、(2-カルボキシエチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(3-カルボキシプロピル)トリフェニルホスホニウムイオン、(4-カルボキシブチル)トリフェニルホスホニウムイオン、アリルトリフェニルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン、およびベンジルトリフェニルホスホニウムイオンからなる群から選択される1種以上である。
【0037】
上述のように、オニウムイオンの効果は、エッチング時の表面荒れの抑制、RuOガスの抑制(ルテニウムをエッチングする場合)が挙げられるが、これに加えて、半導体処理液として用いた場合の再利用回数を向上させる効果もある。半導体ウエハの製造所では、コスト削減の観点から、使用済みの処理液を循環して再利用する事が一般的である。この場合、例えばエッチングでは、金属が処理液に溶けだすため、使用前と使用後では処理液の組成は異なる。次亜臭素酸イオンのようなハロゲン酸素酸イオンによるルテニウムのエッチングを例に説明すると、ルテニウムはアルカリ性条件下ではRuO として溶けだす。この場合、このRuO もしくはRuO が変化して生成されたRuO 2-やRuOと、次亜臭素酸イオンが反応すると、エッチングに有効な化学種である次亜臭素酸イオン濃度が低下する。そのため、処理液の再利用回数が多くなるほど、また、再利用時間が長くなるほど、エッチング速度は低下する。
【0038】
しかし、本実施形態の処理液にオニウムイオンを含ませる事で、再利用時の安定性を改善できる場合がある。すなわち、ルテニウムをエッチングする場合、RuO 等がオニウムイオンと積極的に反応する事で、RuO 等と次亜臭素酸イオンのようなハロゲン酸素酸イオンの反応を抑制する事が可能となる。このような目的に用いる事ができるオニウムイオンとしては、ホスホニウムイオンである事が好ましい。アンモニウムイオンの場合、次亜臭素酸イオンのようなハロゲン酸素酸イオンとの反応により、アミンが生成される懸念があるため、このアミンが次亜臭素酸イオンのようなハロゲン酸素酸イオンを分解する可能性がある。また、一般的にアンモニウムイオンよりもホスホニウムイオンの方が分子サイズは大きく、溶解により発生したRuO とイオン対を形成しやすいため、RuO を束縛する事でRuO と次亜臭素酸イオンのようなハロゲン酸素酸イオンとの反応を抑制する効果も得られる。
【0039】
このようなオニウムイオンを例示すれば、アリルトリフェニルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン、trans-2-ブテン-1,4-ビス(トリフェニルホスホニウムイオン)、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、トリブチルヘキシルホスホニウムイオン、ヘプチルトリフェニルホスホニウムイオン、シクロプロピルトリフェニルホスホニウムイオン、(ブロモメチル)トリフェニルホスホニウムイオン、(クロロメチル)トリフェニルホスホニウムイオン等が挙げられる。
【0040】
(半導体ウエハのエッチング処理)
本実施形態の処理液は、半導体ウエハのエッチング処理に用いることができる。エッチング処理は、半導体ウエハと本実施形態の処理液を接触させる工程を含む。
本実施形態の処理液は、上記で説明した濾過用円滑剤を含む場合、半導体ウエハのエッチング液として好ましく使用することができる。濾過用円滑剤の条件は上記で説明した内容を適用できる。
本実施形態の処理液を用いて行うエッチング処理として、ルテニウムのウェットエッチング処理を例に説明する。まず、半導体(例えばSi)からなる基体を用意する。用意した基体に対して、酸化処理を行い、基体上に酸化シリコン膜を形成する。その後、低誘電率(Low-k)膜からなる層間絶縁膜を成膜し、所定の間隔でビアホールを形成する。ビアホール形成後、熱CVDによって、ルテニウムを成膜する。このルテニウム膜を本実施形態の処理液を用いてエッチングすることで、RuOガス発生を抑制しながら、表面平滑性に優れたルテニウム配線をビアホール内に形成する事が可能となる。なお、半導体ウエハが有する金属としては、Ru、Rh、Ti、Ta、Co、Cr、Hf、Os、Pt、Ni、Mn、Cu、Zr、La、Mo、及びWから選択される少なくとも1種の金属を挙げることができる。これらの中で、ルテニウムは、金属ルテニウムに制限されず、ルテニウムを70原子%以上含有すればよく、ルテニウム合金、ルテニウムの酸化物(二酸化ルテニウム、三酸化二ルテニウムなど)、窒化物、酸窒化物、金属間化合物、イオン性化合物、錯体等も含む。
【0041】
本実施形態の処理液を用いてルテニウム等の金属(具体例は後述する)をエッチングするときの温度は特に制限されないが、ルテニウム等の金属のエッチング速度などを考慮して決定すればよい。処理温度が高い場合、例えばルテニウムをエッチングする際にRuOガス量が多くなり、ハロゲン酸素酸の安定性も低下する。一方、低温ほど、エッチング速度は低下傾向にある。このような理由から、ルテニウム等の金属をエッチングする温度は10℃~90℃が好ましく、15℃~60℃がより好ましく、25℃~45℃であることが最も好ましい。本実施形態の処理液が濾過用円滑剤を含む場合の25℃での表面張力は60mN/m以上75mN/m以下であることが好ましい。
【0042】
図1に基づき説明すると、半導体素子の製造時に、本実施形態の処理液はフィルター1および2または3を通過する機会がある。図1のバルブ10を閉じ、バルブ9を解放した場合、ケミカルキャビネット6内の薬液はポンプ4の駆動によりフィルター1及び2を通過することで濾過が行われる。ケミカルキャビネット6内の薬液の不純物を極力除去するために、薬液をフィルター1及び2を通過させる濾過工程を複数回行ってもよい。1回の濾過工程時に通過させるフィルターの数は、例えば1以上を挙げることができ、2であってもよく、3であってもよく、4以上であってもよい。
図1のバルブ10を解放すると、ケミカルキャビネット6内の薬液はポンプ4の駆動によりエッチング台8に供給され、半導体ウエハのエッチングが行われる。また、ケミカルキャビネット6内の薬液を補充するために、ポンプ5の駆動により薬液補充ユニット内の薬液がフィルター3を通過してケミカルキャビネット6内に補充される。
なお、ここで説明した薬液は本実施形態の処理液であり、上記の濾過用円滑剤が添加された処理液であってもよい。
なお、半導体ウエハのエッチング処理に加え、ウエハ作製工程、酸化膜形成工程、トランジスタ形成工程、配線形成工程およびCMP工程から選択される1以上の工程など、半導体素子の製造方法に用いられる公知の工程を行って半導体素子を製造することもできる。
【実施例
【0043】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0044】
(次亜塩素酸トリメチルアンモニウム溶液の製造)
2Lのガラス製三ツ口フラスコ(コスモスビード社製)に25質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液209g、超純水791gを混合して、CO含有量が0.5ppmであり、5.2質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を得た。このときのpHは13.8であった。
【0045】
次いで、三ツ口フラスコの内に回転子(AsOne社製、全長30mm×径8mm)を入れ、一つの開口部に温度計保護管(コスモスビード社製、底封じ型)と温度計を投入し、もう一つの開口部に塩素ガスボンベ、及び窒素ガスボンベに接続され、任意で塩素ガス/窒素ガスの切換えが可能な状態にしたPFA製チューブ(フロン工業株式会社製、F-8011-02)の先端を該溶液底部に浸漬させ、残りの一つの開口部は5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で満たしたガス洗浄瓶(AsOne社製、ガス洗浄瓶、型番2450/500)に接続した。次に、二酸化炭素濃度が1ppm未満の窒素ガスをPFA製チューブから、0.289Pa・m/秒(0℃換算時)で20分間流すことで気相部の二酸化炭素を追いだした。この時、気相部の二酸化炭素濃度は、1ppm以下であった。
【0046】
その後、マグネットスターラー(AsOne社製、C-MAG HS10)を三ツ口フラスコ下部に設置して300rpmで回転、撹拌し、三ツ口フラスコ外周部を氷水で冷却しながら、塩素ガス(フジオックス社製、仕様純度99.4%)を0.059Pa・m/秒(0℃換算時)で180分間、供給し、次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム水溶液(次亜塩素酸イオン;3.51質量%相当、0.28mol/L)と水酸化テトラメチルアンモニウム(0.09質量%相当、0.0097mol/L)の混合溶液を得た。この時、反応中の液温は11℃であった。
【0047】
(処理液の製造)
ハロゲン酸素酸イオンを含む溶液、特定の金属、特定のイオン、超純水、pH調整剤を所定の量にて混合することで、表1に記載された組成の処理液を得た。
【0048】
(処理液中のハロゲン酸素酸イオン)
ハロゲン酸素酸イオンとして、次亜塩素酸イオンが選択される場合、上記操作によって得られた次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液を、ハロゲン酸素酸イオンを含む溶液として、所定の濃度にて使用した。
ハロゲン酸素酸イオンとして、次亜臭素酸イオン、または次亜臭素酸イオンと次亜塩素酸イオンが選択される場合、上記操作によって得られた次亜塩素酸テトラメチルアンモニウム溶液に、臭化テトラメチルアンモニウム(97質量%、東京化成工業社製)を所定の量添加することで、ハロゲン酸素酸イオンを含む溶液として、所定の濃度にて使用した。
ハロゲン酸素酸イオンとして、過ヨウ素酸イオンが選択される場合、オルト過ヨウ素酸イオンを含む溶液を、ハロゲン酸素酸イオンを含む溶液として、所定の濃度にて使用した。
【0049】
(処理液中の特定のイオン)
特定のイオンとして、塩素酸イオン、塩化物イオン、臭素酸イオン、亜臭素酸イオン、臭化物イオン、ヨウ素酸イオン、ヨウ化物イオン、及び三ヨウ化物イオンを表1に記載の濃度となるように、市販の塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)、亜塩素酸ナトリウム(和光純薬社製)、塩化水素(35質量%、関東化学社製)、臭素酸ナトリウム(和光純薬社製)、亜臭素酸ナトリウム(日本シリカ工業製)、臭化水素(47質量%、多摩化学工業社製)、ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬社製)、ヨウ化水素(55質量%和光純薬社製)、三ヨウ化テトラブチルアンモニウム(シグマアルドリッチ社製)を処理液に対する所定の重量で添加した。塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウム、及び三ヨウ化テトラブチルアンモニウムは、イオン交換樹脂を用いてカチオンをテトラメチルアンモニウムイオンへと交換した。
それぞれの添加量はイオンクロマトグラフィー(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)を用いることで所定の量のイオンが添加されていることを確認した。
【0050】
(評価)
製造した処理液を用いて、上述した方法により、ルテニウムの表面平滑性、及びルテニウムのエッチング速度の安定性を評価した。
【0051】
(エッチング後の表面平滑性の評価)
まず、シリコンウエハ上にバッチ式熱酸化炉を用いて酸化膜を形成し、その上にスパッタ法を用いてルテニウムを1200Å(±10%)成膜し、エッチング前のルテニウム膜を得た。続いて、上記で得られた処理液のうちの40mLを、蓋付きフッ素樹脂製容器(AsOne社製、PFA容器94.0mL)に準備した。膜厚1200Åのルテニウム膜を成膜した10×10mmのルテニウム膜片を、35℃の薬液に2分間浸漬し、エッチング後のルテニウム膜を得た。電界放射型走査電子顕微鏡(JSM-7800F Prime、日本電子社製)によりエッチング前とエッチング後のルテニウム表面を観察し、表面荒れの有無を確認し、下記の基準で評価した。表面荒れが少ない順にA~Dとなっており、いずれも評価A~Cが許容レベル、評価Dが不可レベルである。
A:表面荒れは見られない
B:表面荒れが若干見られる
C:表面全体に荒れは見られるが、荒れが浅い
D:表面全体に荒れが見られ、かつ荒れが深い
【0052】
(エッチング速度の安定性の評価)
上記で得られた処理液を用意し、エッチング速度の安定性を評価した。四探針抵抗測定器(ロレスタ-GP、三菱ケミカルアナリテック社製)によりシート抵抗を測定して膜厚に換算し、エッチング処理前のルテニウム膜厚とした。上記で得られた処理液のうちの40mLを、蓋付きフッ素樹脂製容器(AsOne社製、PFA容器94.0mL)に準備した。膜厚1200Åのルテニウム膜を成膜した10×10mmのルテニウム膜片を、35℃の薬液に2分間浸漬し、前述の方法に従いルテニウム膜厚を測定し、エッチング処理後の膜厚とした。これを処理液製造直後のエッチング速度とし、以降1週間毎に前述の方法でエッチング速度を評価した。得られたエッチング速度が、処理液製造直後のエッチング速度に対して±10%以内の増減であった時間をエッチング速度の安定性と定義し、下記の基準で評価した。評価A~Cは許容レベルであり、評価Dが不可レベルである。
A:180日以上
B:120日以上179日以下
C:60日以上119日以下
D:59日以下
【0053】
(総合評価)
上記で得られた、エッチング後の表面平滑性の評価と、エッチング速度の安定性の評価の両方の結果を加味し、下記の基準で評価した。処理液としての効果が高い順にA~Dとなっており、評価A~Cは許容レベルであり、評価Dが不可レベルである。
A:表面荒れの評価がA、かつ、安定性の評価がA
B:表面荒れの評価、または安定性の評価のどちらか一つにBを含み、かつ、両方の評価がA~Cの範囲内である。
C:表面荒れの評価、または安定性の評価のどちらか一つにCを含み、かつ、両方の評価がA~Cの範囲内である。(許容レベル)
D:表面荒れの評価、または安定性の評価のどちらか一つにDを含む。
【0054】
(次亜臭素酸イオン及び次亜塩素酸イオン濃度の算出方法)
次亜臭素酸イオン及び次亜塩素酸イオン濃度の測定は紫外可視分光光度計(UV-2600、島津製作所社製)を用いた。濃度既知の次亜臭素酸イオン及び次亜塩素酸イオン水溶液を用いて検量線を作成し、製造した半導体用処理液中の次亜臭素酸イオン及び次亜塩素酸イオン濃度を決定した。次亜臭素酸イオン濃度及び次亜塩素酸イオン濃度は、処理液を製造した後、吸収スペクトルが安定したときの測定データから求めた。
【0055】
<実施例1~61、比較例1~12>
上記に記載の方法で、実施例1~61、比較例1~12の試験を行った。表1~5に、処理液の組成、及び各評価結果を示す。下記の表1~4で示される「特定の比」は、処理液に含まれるNa、K、Caの合計濃度に対する表中に記載の特定のイオンの濃度の比である。下記の表5で示される「特定の比」は、処理液に含まれるCr、Ni、Alの合計濃度に対する表中に記載の特定のイオンの濃度の比である。表1~4に示したように、比較例1~2、4~5、7~8、10~11では亜塩素酸イオンの添加によってエッチング速度安定性が失われ、比較例3、6、9、12では過剰な金属量によって表面の平滑性が失われる結果となった。対して、本実施例の処理液は、特定の金属と特定のイオンを添加することによって、表面平滑性、及びエッチング速度安定性を満たすことを確認した。また、特定のイオンの濃度が上昇するにしたがってエッチング速度安定性が悪くなる結果を示し、特定の金属と特定のイオンの比が所定の範囲内であることで、表面平滑性とエッチング速度の安定性がより効果のある結果を示した。また、表5は、実施例1、19、33、43で加えた金属種をNa、K、Caの合計濃度からCr、Ni、Alの合計濃度に変更した結果である。表5に示したように、Cr、Ni、Alの合計濃度であっても、Na、K、Caの合計濃度の結果と同様の効果が得られる。しかし実施例1、19、33、43に示したように、Na、K、Caの合計濃度を選択した方が、イオン化傾向による吸着の違いから、より表面荒れに対する効果が高い。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】
【0056】
<実施例62~65>
ルテニウムの製膜方法と同様に、まず、シリコンウエハ上にバッチ式熱酸化炉を用いて酸化膜を形成し、その上にスパッタ法を用いて遷移金属(W、Mo)を1200Å(±10%)成膜した。四探針抵抗測定器(ロレスタ-GP、三菱ケミカルアナリテック社製)によりシート抵抗を測定して膜厚に換算した。
実施例1、19、33、43と同じ組成の処理液を用いて、実施例1~61と同様の方法で、上記方法で得られた遷移金属膜(W、Mo)の被処理部の表面平滑性、及びエッチング速度の安定性の評価を行った。
【表6】
【符号の説明】
【0057】
1 フィルター1
2 フィルター2
3 フィルター3
4 ポンプ1
5 ポンプ2
6 ケミカルキャビネット
7 薬液補充ユニット
8 エッチング台
9 バルブ1
10 バルブ2
図1