(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】炭素繊維のアクリル繊維前駆体製造のための紡糸液最適調製方法及び関連する炭素繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/18 20060101AFI20241210BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
D01F6/18 E
D01F9/22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020139352
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】102019000014880
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518090672
【氏名又は名称】モンテフィブレ マエ テクノロジーズ エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】フランコ フランカランチ
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-132040(JP,A)
【文献】特開昭48-063029(JP,A)
【文献】特開2007-031564(JP,A)
【文献】国際公開第2007/018136(WO,A1)
【文献】特開昭56-049022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00- 6/96
9/00- 9/04
9/08- 9/32
C08F 6/00-246/00
301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維用のアクリル繊維前駆体(PAN)製造のための均質紡糸液の調製方法であって、
i)粉末状のアクリロニトリルコポリマーを、
溶媒の総重量に対して90~99重量%の範囲の量のDMSOと、1~10重量%の範囲の量のアンモニア及び/又は1種類以上の1級アミン及び/又は1種類以上の2級アミンの水溶液とを含む混合物から成る溶媒と、
5~10℃の範囲の温度で混合することによ
り、
均質な懸濁液を調製するステップであり、
前記混合は、DMSO溶媒/アンモニア水溶液及び/又は1級若しくは2級アミンの流れを、
脱凝集して事前混合した前記アクリロニトリルコポリマー粉末の流れに、噴霧することにより5~30分の範囲の時間遂行される、調製ステップと、
ii)ステップi)による前記均質懸濁液を、70~150℃の範囲の温度で0.5~30分の範囲の時間、前記コポリマーが完全に溶解して均質な溶液が形成されるまで、加熱するステップと、
を含む、調製方法。
【請求項2】
前記アンモニア又は1級アミン又は2級アミンの水溶液は、前記溶液の総重量に対して1~10重量
%の含窒素化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒は、DMSOとアンモニア水溶液
を含む混合物から成る、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1級アミンは、メチルアミン、エチルアミン及びイソプロピルアミンから選択され、及び/又は、前記2級アミンは、ジメチルアミン、ジエチルアミン及びジイソプロピルアミンから選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記コポリマーは、ポリマーの総重量に対して90~99重量%の範囲の量のアクリロニトリルと、ポリマーの総重量に対して1~10重量%の範囲の量の1種類以上のコモノマーとから成る、100,000~300,000Daの範囲の高分子量コポリマーである、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸から選択される1以上の酸基を有するビニル分子
である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コポリマーは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、アクリルアミド
から選択される中性ビニル分子から選択される第3のコモノマーをも含む、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記コモノマーはイタコン酸である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
炭素繊維の製造方法であって、請求項1~請求項7のいずれか一項によって得られる前記均質溶液に対して、
iii)ステップii)で得られる前記均質溶液を紡糸し、500
本(0.5K)~400,000
本(400K)の単繊
維を含むトウ(tow)を得るステップと、
iv)ステップiii)で得られる前記トウに対する耐炎化又は酸化ステップであって、前記酸化は240~260℃の範囲の温度で、40~120分の範囲の時間の間行われるステップと、
v)ステップiv)で得られる酸化されたトウを最高温度1,600℃での炭化ステップに供給するステップと、
を更に行う方法。
【請求項10】
前記ステップi)において、前記溶媒は、前記溶媒の総重量に対して93~98重量%の範囲の量のDMSOと、2~7重量%の範囲の量のアンモニア及び/又は1種類以上の1級アミン及び/又は1種類以上の2級アミンの水溶液とを含む混合物から成り、前記混合は5℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップi)において、前記溶媒は、前記溶媒の総重量に対して93~96重量%の範囲の量のDMSOと、4~7重量%の範囲の量のアンモニア及び/又は1種類以上の1級アミン及び/又は1種類以上の2級アミンの水溶液とを含む混合物から成り、前記混合は5℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(iii)において、1,000本(1K)~50,000本(50K)の単繊維を含むトウ(tow)が得られる、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維のアクリル繊維前駆体(PAN)製造のための紡糸液最適調製方法、及びそのアクリル前駆体(PAN)からの炭素繊維の最適製造方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、炭素繊維製造の分野に属する。炭素繊維の調製方法は長年にわたり知られており、ほとんどの場合、ヘテロ原子の制御された段階的な除去に適した化学組成を有する適切なアクリル前駆体(PAN)の熱処理に基づいている。
【背景技術】
【0003】
このヘテロ原子の段階的な除去は、酸化/耐炎化処理中に発生する熱を比較的長時間分布させることができる基を有する特定のコモノマーが前駆体のポリマー鎖に存在することにより実現される。これにより、低品位の炭素繊維をもたらすばかりでなく、この加熱段階における制御できない燃焼リスクにさらす、急激な発熱ピークが回避される。この目的のために最も一般的に使用されるコモノマーは、カルボン酸ビニル又はジカルボン酸ビニルである。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸又はイタコン酸が、重合反応器に供給されるモノマーの総重量に対して通常0.5~5重量%の範囲の量で使用される。他の試薬は主としてアクリロニトリル(95~99.5重量%)であり、任意選択的に、一般にアクリル酸メチル、酢酸ビニル及びアクリルアミドから選ばれる第3の成分(0~3.0重量%)である。
【0004】
PAN前駆体は、選択されたコモノマーから開始する様々な方法によって調製することができる。現行技術は、次のように分類して体系化できる。
A.不連続方法(2ステップ)
【0005】
2ステップの不連続方法においては、ポリマーは一般に水性懸濁液で生成され、単離された後に適切な溶媒に溶解されて紡糸され、炭素繊維の繊維前駆体に変換される。紡糸液の調製に最も一般的に使用される溶媒は、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)水溶液である。
B.連続方法(1ステップ).
【0006】
ただし連続方法では、重合は溶媒中で起き、こうして得られる溶液が、中間的なポリマーの分離なしで紡糸に直接使用される。これらの方法において最も一般的に使用される溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、塩化亜鉛(ZnCl2)水溶液、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)水溶液である。
【0007】
これらの方法によって、当業者には周知のように、標準的な特性の靭性及び弾性定数を有する様々な種類の炭素繊維が容易に得られる。ただし、生成された繊維の性能を向上させるために、これらの方法に対するいくつかの修正が提案されてきている。
【0008】
最も重要な変更の1つは、PAN前駆体の生成方法における窒素化合物の使用、具体的には1級及び2級の低分子量アミン及び、中でもアンモニアの使用に関する。
【0009】
具体的には、米国特許第5,804,108号、米国特許第6,054,214号、及び米国特許出願第2009/0224420(A1)号が、生成された炭素繊維の弾性率を最大で2.5倍に増大する方法を記述している。
【0010】
この方法において、イタコン酸を含むPAN前駆体は、紡糸段階においてアミン又はアンモニアで処理される。具体的には、PAN繊維は、紡糸口金の出口における凝固段階の直後に、アミン又はアンモニアを含む水浴で処理され、紡糸終了後に炭化される前に繊維が240~260℃の範囲の温度で12~15分間処理される。
【0011】
反応機構は、イタコン酸がアミン又はアンモニアで塩化されると考えられる。これらのアンモニウム塩は熱処理の後アミドに変化し、その結果ポリマー鎖にあるニトリル基を攻撃してPAN繊維の架橋を引き起こす。
【0012】
このアンモニア又はアミンによる塩化工程は均一に発生して、水に溶解したアンモニア又はアミンとの接触に、より直接的にさらされる繊維の外表面上にあるカルボキシル基のみばかりでなく、繊維を構成するすべてのポリマーに影響を与えることが特に重要である。繊維の最表面部分に限定される部分的塩化の場合には、実際にPAN前駆体の内部に対して繊維の外表面では、熱処理に対して異なった挙動を起こし、不満足な品質の炭素繊維となる。全てのカルボキシル基の塩化において必要な均質性を確保するために、アンモニア又はアミンでの処理は、適切な延伸と緩和の条件下で行われることが必要であって、それによりアンモニア又はアミンが繊維構造の内部にも浸透することが可能となる。
【0013】
例えば特開平11-12856(A)号、米国特許第8,137,810号、及び米国特許第8,674,045号などの他の特許において、紡糸液へ気体アンモニアを直接使用(ドープ)することが権利主張されている。これらの場合、アンモニアを使用する主な動機は、使用されるコモノマー(主としてイタコン酸及びアクリル酸)が保有する酸基の中和である。アンモニアで酸基を塩化してカルボン酸アンモニウムを得ることがPAN前駆体の生成方法を改善し、酸末端基の塩化とそのアンモニウム塩への変換後のポリマー鎖の高い親水性の性質により、凝固段階を容易にする。
【0014】
この中和方法ではポリマーが溶媒に溶解し、したがって反対にアンモニアやアミンの水溶液に浸漬した固体(PANファイバ)を有する不均質相で操作するときに起こるような反応性の異なる領域がないので、処理の均質性が保証される。
【0015】
含まれる機構に拘わらず、アンモニア、又は1級若しくは2級のアミンを使用することが、アンモニアやアミンのない場合に得られるものに比べてより高品質の炭素繊維の生成に寄与する。更なる利点が、少なくとも1.35~1.43g/ccの繊維密度への到達に要する熱処理時間の短縮にある。この密度は酸化製品(PANOX)の炭化炉への供給に必要である。この耐炎化時間の短縮は、エネルギ消費及び耐炎化炉の構築投資の両方の観点においてかなりの利点をもたらす。
【0016】
いずれにせよ、上記の方法はPAN前駆体の製造方法に必然的に追加のステップを提供する。
【0017】
米国特許出願第2009/0224420(A1)号では、延伸状態でアミン又はアンモニアを追加するための1ステップが追加されなければならない。その後緩和段階とした後により高温での新たな延伸段階が続く。米国特許第8,137,810号及び米国特許第8,674,045号では、毒性ガスとしての特徴を持つ気体アンモニアなどの扱い難い危険な試薬の使用を提供する。
【0018】
一方で、欧州特許第2,894,243号(米国特許第9,296,889号)には、アクリル繊維すなわち炭素繊維前駆体の調製法が記載されており、そこではイタン酸又はアクリル酸を含むアクリル系ポリマーが特定の条件、具体的には、重量%で94.5/5.5~97/3の範囲の比のDMSO/水混合物の下で溶解される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、炭素繊維のアクリル繊維前駆体(PAN)製造のための紡糸液調製の最適方法を提供することであり、具体的には、現行技術の方法の欠点を克服し、製造コストを低減し、とりわけ,特に高テナシティで高弾性率特性の炭素繊維を得ることを可能とする、アクリル前駆体(PAN)からの炭素繊維製造の最適方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明は、炭素繊維のアクリル前駆体(PAN)製造のための均質紡糸液の調製方法に関する。この方法は、
i)粉末状のアクリロニトリルコポリマーを、溶媒の総重量に対して90~99重量%の範囲の量のDMSOと、1~10重量%の範囲の量のアンモニア及び/又は1種類以上の1級アミン及び/又は1種類以上の2級アミンの水溶液とを含む混合物から成る溶媒と、5~10℃の範囲の温度で混合することにより、好ましくは、溶媒の総重量に対して93~98重量%、好ましくは93~96重量%の範囲の量のDMSOと、2~7重量%、好ましくは4~7重量%の範囲の量のアンモニア又は1級アミン又は2級アミンの水溶液とを含む混合物から成る溶媒と、5℃の温度で混合することにより、均質な懸濁液を調製するステップであり、前記混合は、DMSO溶媒/アンモニア又は1級アミン又は2級アミンの水溶液の流れを、脱凝集して事前混合したアクリロニトリルコポリマー粉末の流れに噴霧することにより、5~30分の範囲の時間遂行される、調製ステップと、
ii)ステップi)による均質懸濁液を、70~150℃の範囲の温度で0.5~30分の範囲の時間、コポリマーが完全に溶解して均質な溶液が形成されるまで、加熱するステップと、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
アンモニア又は1級アミン又は2級アミンの水溶液は、溶液の総重量に対して1~10重量%、好ましくは2~7重量%の含窒素化合物を含む。
【0022】
水溶液は、好ましくはアンモニア又は1級アミン又は2級アミンの水溶液である。
【0023】
溶媒は、好ましくはDMSOとアンモニア水溶液を含む混合物から成る。
【0024】
1級及び/又は2級アミンの水溶液において、1級アミンは、メチルアミン、エチルアミン及びイソプロピルアミンから選択され、好ましくはメチルアミンであり、及び/又は2級アミンは、ジメチルアミン、ジエチルアミン及びジイソプロピルアミンから選択され、好ましくはジメチルアミンである。
【0025】
本発明の目的の方法で使用されるポリマーは、ポリマーの総重量に対して90~99重量%の範囲の量のアクリロニトリルと、ポリマーの総重量に対して1~10重量%の範囲の量の1種類以上のコモノマーとから主として成る、100,000~300,000Daの範囲の高分子量コポリマーである。
【0026】
好適なコモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸などの1以上の酸基を有するビニル分子であり、好ましくはイタコン酸である、コポリマーは任意選択により、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、アクリルアミドなどの中性ビニル分子から選択される第3のコモノマーも含むことができる。
【0027】
本発明による方法の終了時点で得られる均質な紡糸液は、ゲル及び未溶解残渣を含んでおらず、紡糸ライン(装置)又は貯蔵タンクに直接供給可能である。
【0028】
本発明はこうして、粉末状のポリマーと溶媒の間の第1の接触段階におけるDMSOの溶媒能力を低減して、不溶性凝集物の生成なしにゲル非含有のアクリロニトリルコポリマー溶液を得ることを可能とする。こうして、均質懸濁液(スラリー)の形成が得られ、これは次に懸濁液そのものの加熱によって、ゲル及び不溶物質なしの均質溶液に変換される。したがって、本発明による方法は、重合と紡糸の2つのステップを容易に統合可能とする。
【0029】
ゲル及び不溶材料非含有の良質な紡糸液は、したがって、ポリマーの不溶条件下で均質なスラリーを調製するステップi)と、こうして得られたスラリーを次に急速加熱するステップii)とで得られる。DMSOでのポリマーの不溶条件は、アンモニア又はアミンの水溶液中の水をDMSOに付加することによって達成される。
【0030】
水の存在は、溶媒の凝固温度を、純粋なDMSOの18℃から、水分の含有量に関係するが、約0~7℃に下げ、また、純粋なDMSOと比べて得られる混合物の可溶化特性を顕著に低下させる、という二重の効果を有する。
【0031】
本発明によるPAN前駆体の調製方法の主たる利点は、水性のDMSO溶媒にポリマーの均質な懸濁液を調製可能なことである。これらの条件のもとで、溶媒は実際に各ポリマー粒子の内部に浸透可能であり、部分的な溶解の結果ドープの表面被膜を形成してすべてのポリマー材料の均質な浸潤を防止するということがない。
【0032】
溶媒を均一に含浸させた懸濁液を急速加熱することにより、極めて高品質のドープが得られ、このドープは、従来の製造技術での高品質かつ高性能な炭素繊維の調製に適する。
【0033】
本発明による方法は、溶媒とすべての単一ポリマー粒子との間の密接な接触を可能とし、さらにはそれを支援することにより、酸コモノマーのカルボキシル末端基にアンモニウム基を均一に導入するための最適解を表す。この均質な塩化は、DMSOの共溶媒としてアンモニア又はアミンの水溶液を使用するために、特に簡単かつ効率的であり、この後に、高品質かつ高性能な炭素繊維を得ることを可能とする。
【0034】
スラリーの調製中に、非溶解の条件下で、使用される溶媒(DMSOとアンモニア又は1級若しくは2級アミンの水溶液との混合物)に含まれるアンモニア又はアミンが、本発明によるポリマー粉末の均一かつ完全な浸潤条件によりポリマーの全てのカルボキシル基と密接な接触をする。
【0035】
こうして調製されたスラリーを急速加熱することで、紡糸ドープが得られ、そこではすべての酸基がアンモニア又は1級若しくは2級アミンで塩化される。この状態は、例えば米国特許第8,137,810号及び米国特許第8,674,045号に記載されている、ドープ内における気体アンモニアの拡散によって得られるものに匹敵する。
【0036】
本発明によるこのドープ製造方法の有利で単純化された態様は明らかである。まず第1に、既存の製造方法を全く変更することなしに、アンモニア又はアミンの無害の希釈水溶液を使用することにより、中和されたドープが得られる。一方、その反対に、危険かつ有毒な試薬であるという欠点もあって、気体アンモニアの使用はまた、この目的のための処理ステップと特定の設備を必要とする。
【0037】
本発明はまた、炭素繊維の製造方法にも関する。これは上記で得られた均質溶液に以下の更なるステップを行う。
iii)ステップii)から得られる均質溶液を紡糸し、500(0.5K)~400,000(400K)の単繊維、好ましくは1,000(1K)~50,000(50K)の単繊維を含むトウ(tow)を得るステップ。
iv)ステップiii)から得られるトウを耐炎化又は酸化するステップに供給し、240~260℃の範囲の温度で、40~120分の範囲の時間の酸化を行なうステップ。
v)ステップiv)から得られる酸化されたトウを最高温度1,600℃での炭化ステップに供給するステップ。
【0038】
本発明はさらに、炭素繊維のアクリル繊維前駆体製造のための均質紡糸液と、本発明による方法で得られる炭素繊維にも関する。
【0039】
酸化とも呼ばれる耐炎化方法は、所望の炭素繊維の種類に応じて様々な量の単繊維を含むトウの形態をしたPAN前駆体への処理を提供する。500(0.5K)~400,000(400K)の単繊維を含むトウが使用可能であり、好ましくは1,000(1K)~50,000(50K)の単繊維を含むトウが使用される。紡糸機から出てくるトウは、リール、又はボックス若しくはケーソン(caissons)に回収され、そこから簡単に取り外して耐炎化部へ供給可能である。
【0040】
本発明による方法の更なる利点は、このようにして得られたアクリル前駆体すなわちPAN前駆体は、炭素繊維製造の最終の炭化工程に先行する耐炎化/酸化工程において、より迅速かつより低温で耐炎化できることである。
【実施例】
【0041】
本発明の非限定的な実施例として、本発明による方法のいくつかの実施形態に係る実施例及びいくつかの比較例を以下に示す。
実施例1(参考)
【0042】
アクリロニトリル(ポリマーの総重量に対して96重量%)、イタコン酸(ポリマーの総重量に対して1重量%)及びアクリル酸メチル(ポリマーの総重量に対して3重量%)からなる高分子量アクリル系コポリマー(nMW=150,000~180,000)の溶解
【0043】
ポリマーが5℃に保たれた95/5DMSO/水溶液に、溶媒中のポリマー濃度が17.5重量%になるまで分散された。
【0044】
溶媒溶液中へのポリマーの溶解は、アクリル系ポリマーの紡糸液の製造用の工業ラインで行われた。チューブバンドル交換器を用いて、分散体を88℃で90秒間加熱した後、60℃で350ポアズの粘度を有する均質なドープが得られた。
【0045】
こうして得られた溶媒ポリマー溶液が炭素繊維前駆体用の紡糸ラインへ供給された。
【0046】
紡糸工程の間、水とDMSOの混合物から成る凝固浴に浸漬された紡糸口金が、完全に丸くてコンパクトなクラックなしの繊維を生成した。こうして得られた繊維を脱イオン水で洗浄して残留溶媒を除去し、沸騰水中を様々に通過させて元の長さの約10倍に延伸し、熱ローラー上で乾燥させてリールに回収した。得られたトウは、直径約12ミクロン、平均強度56cN/Texであり、ASTM D-3822に従って、インストロン社5542ダイナモメータを用いて10Nのセルで測定した極限伸びが約17%の繊維から構成される。
【0047】
こうして得られた前駆体のトウが酸化炉内において240~270℃の温度勾配で90分処理され、最終的に密度1.39g/ccのPANOXタイプの酸化繊維を得た。酸化された繊維は、次いで最高温度1,600℃の炭化部に供給され、テナシティが4.60GPaに等しく、弾性率が245MPaの炭素繊維となる。
実施例2
【0048】
アクリロニトリル(ポリマーの総重量に対して96重量%)、イタコン酸(ポリマーの総重量に対して1重量%)及びメタクリル酸メチル(ポリマーの総重量に対して3重量%)からなる高分子量アクリル系コポリマー(nMW=150,000~180,000)の溶解
【0049】
ポリマーは実施例1で述べたのと同様にしてドープに変換された。ただし、DMSO(95重量%)と1.5重量%アンモニア水溶液が5重量%とから成る混合物を溶媒媒体として使用し、溶媒内のポリマー濃度が17.5重量%に達するまで変換を行った。スラリーが温度5℃で調製され、次の88℃で90秒間の加熱により、60℃における粘度が380ポアズの、均質な紡糸ドープが得られた。
【0050】
こうして、得られた溶媒ポリマー溶液が炭素繊維前駆体用の紡糸ラインへ供給された。
【0051】
紡糸工程の間、水とDMSOの混合物から成る凝固浴に浸漬された紡糸口金が、完全に丸くてコンパクトなクラックなしの繊維を生成した。こうして得られた繊維を脱イオン水で洗浄して残留溶媒を除去し、沸騰水中を様々に通過させて元の長さの約10倍に延伸し、熱ローラー上で乾燥させてリールに回収した。得られたトウは、直径約12ミクロン、平均テナシティ58cN/Texであり、ASTM D-3822に従って、インストロン社5542ダイナモメータを用いて10Nのセルで測定した極限伸びが約18%の、繊維から構成される。
【0052】
こうして得られた前駆体のトウが酸化炉内において240~260℃の温度勾配で60分処理され、最終的に密度1.43g/ccのPANOXタイプの酸化繊維を得た。酸化された繊維は、次いで最高温度1,600℃の炭化セクションに供給され、テナシティが5.20GPaに等しく、弾性率が288MPaの炭素繊維となる。
実施例3
【0053】
アクリロニトリル(ポリマーの総重量に対して97重量%)、及びイタコン酸(ポリマーの総重量に対して3重量%)からなる高分子量アクリル系コポリマー(nMW=180,000~200,000)の溶解
【0054】
ポリマーは実施例1で述べたのと同様にしてドープに変換された。ただし、DMSO(94重量%)と3重量%アンモニア水溶液が6重量%とから成る混合物を溶媒媒体として使用し、溶媒内のポリマー濃度が17.5重量%に達するまで変換を行った。スラリーが温度4℃で調製され、紡糸ドープが88℃で90秒間の加熱により得られた。そうして60℃で450ポアズの粘度を有する均質なドープが得られた。
【0055】
こうして、得られた溶媒ポリマー溶液が炭素繊維前駆体用の紡糸ラインへ供給された。
【0056】
紡糸工程の間、水とDMSOの混合物から成る凝固浴に浸漬された紡糸口金が、完全に丸くてコンパクトなクラックなしの繊維を生成した。こうして得られた繊維を脱イオン水で洗浄して残留溶媒を除去し、沸騰水中を様々に通過させて元の長さの約10倍に延伸し、熱ローラー上で乾燥させてリールに回収した。得られたトウは、直径約12ミクロン、平均テナシティ65cN/Texであり、ASTM D-3822に従って、インストロン社5542ダイナモメータを用いて10Nのセルで測定した極限伸びが約16%の、繊維から構成される。
【0057】
こうして得られた前駆体のトウが酸化炉内において240~260℃の温度勾配で40分処理され、最終的に密度1.40g/ccのPANOXタイプの酸化繊維を得た。酸化された繊維は、次いで最高温度1,600℃の炭化部に供給され、テナシティが5.34GPaに等しく、弾性率が295MPaの炭素繊維となる。
実施例4
【0058】
アクリロニトリル(ポリマーの総重量に対して96重量%)、イタコン酸(ポリマーの総重量に対して1重量%)及びアクリル酸メチル(ポリマーの総重量に対して3重量%)からなる高分子量アクリル系コポリマー(nMW=150,000~180,000)の溶解
【0059】
ポリマーは実施例1で述べたのと同様にドープに変換された。ただし、DMSO(95重量%)と3.5重量%メチルアミン水溶液が5重量%とから成る混合物を溶媒媒体として使用し、溶媒内のポリマー濃度が17.5重量%に達するまで変換を行った。スラリーが温度5℃で調製され、次の88℃で90秒間の加熱により、60℃における粘度が380ポアズの、均質な紡糸ドープが得られた。
【0060】
こうして、得られた溶媒ポリマー溶液が炭素繊維前駆体用の紡糸ラインへ供給された。
【0061】
紡糸工程の間、水とDMSOの混合物から成る凝固浴に浸漬された紡糸口金が、完全に丸くてコンパクトなクラックなしの繊維を生成した。こうして得られた繊維を脱イオン水で洗浄して残留溶媒を除去し、沸騰水中を様々に通過させて元の長さの約10倍に延伸し、熱ローラー上で乾燥させてリールに回収した。得られたトウは、直径約12ミクロン、平均テナシティ61cN/Texであり、ASTM D-3822に従って、インストロン社5542ダイナモメータを用いて10Nのセルで測定した極限伸びが約16%の、繊維から構成される。
【0062】
こうして得られた前駆体のトウが酸化炉内において240~260℃の温度勾配で60分処理され、最終的に密度1.41g/ccのPANOXタイプの酸化繊維を得た。酸化された繊維は、次いで最高温度1,600℃の炭化部に供給され、テナシティが5.12GPaに等しく、弾性率が278MPaの炭素繊維となる。
本開示に係る態様は以下の態様も含む。
<1>
炭素繊維用のアクリル繊維前駆体(PAN)製造のための均質紡糸液の調製方法であって、
i)粉末状のアクリロニトリルコポリマーを、
溶媒の総重量に対して90~99重量%の範囲の量のDMSOと、1~10重量%の範囲の量のアンモニア及び/又は1種類以上の1級アミン及び/又は1種類以上の2級アミンの水溶液とを含む混合物から成る溶媒と、
5~10℃の範囲の温度で混合することにより、
好ましくは、
粉末状のアクリロニトリルコポリマーを、
前記溶媒の総重量に対して93~98重量%、好ましくは93~96重量%の範囲の量のDMSOと、2~7重量%、好ましくは4~7重量%の範囲の量のアンモニア及び/又は1種類以上の1級アミン及び/又は1種類以上の2級アミンの水溶液とを含む混合物から成る溶媒と、
5℃の温度で混合することにより、
均質な懸濁液を調製するステップであり、
前記混合は、DMSO溶媒/アンモニア水溶液及び/又は1級若しくは2級アミンの流れを、脱凝集して事前混合した前記アクリロニトリルコポリマー粉末の流れに、噴霧することにより5~30分の範囲の時間遂行される、調製ステップと、
ii)ステップi)による前記均質懸濁液を、70~150℃の範囲の温度で0.5~30分の範囲の時間、前記コポリマーが完全に溶解して均質な溶液が形成されるまで、加熱するステップと、
を含む、調製方法。
<2>
前記アンモニア又は1級アミン又は2級アミンの水溶液は、前記溶液の総重量に対して1~10重量%、好ましくは2~7重量%の含窒素化合物を含む、<1>に記載の方法。
<3>
前記溶媒は、DMSOとアンモニア水溶液を含む混合物から成る、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>
前記1級アミンは、メチルアミン、エチルアミン及びイソプロピルアミンから選択され、及び/又は、前記2級アミンは、ジメチルアミン、ジエチルアミン及びジイソプロピルアミンから選択される、<1>又は<2>に記載の方法。
<5>
前記コポリマーは、ポリマーの総重量に対して90~99重量%の範囲の量のアクリロニトリルと、ポリマーの総重量に対して1~10重量%の範囲の量の1種類以上のコモノマーとから成る、100,000~300,000Daの範囲の高分子量コポリマーである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の方法。
<6>
前記コモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸から選択される1以上の酸基を有するビニル分子であり、好ましくはイタコン酸である、<5>に記載の方法。
<7>
前記コポリマーは、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、アクリルアミドなどの中性ビニル分子から選択される第3のコモノマーをも含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の方法。
<8>
<1>~<7>のいずれか1つに記載の方法を用いて得ることができる、炭素繊維のアクリル繊維前駆体製造のための均質紡糸液。
<9>
炭素繊維の製造方法であって、<1>~<7>のいずれか1つによって得られる前記均質溶液に対して、
iii)ステップii)で得られる前記均質溶液を紡糸し、500(0.5K)~400,000(400K)の単繊維、好ましくは1,000(1K)~50,000(50K)の単繊維を含むトウ(tow)を得るステップと、
iv)ステップiii)で得られる前記トウに対する耐炎化又は酸化ステップであって、前記酸化は240~260℃の範囲の温度で、40~120分の範囲の時間の間行われるステップと、
v)ステップiv)で得られる酸化されたトウを最高温度1,600℃での炭化ステップに供給するステップと、
を更に行う方法。
<10>
<9>による方法で得られるカーボン繊維。