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特許7600518多層構造体、多層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】多層構造体、多層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20241210BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20241210BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
H01L21/20
H01L21/322 J
H01L29/91 F
H01L29/91 C
H01L29/91 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019129267
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2021014378
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 明
(72)【発明者】
【氏名】寺西 秀明
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-002277(JP,A)
【文献】特開2013-183064(JP,A)
【文献】特開2013-107788(JP,A)
【文献】特開2018-029104(JP,A)
【文献】特開2018-166196(JP,A)
【文献】特開2011-109018(JP,A)
【文献】特開2016-063111(JP,A)
【文献】特開2016-166101(JP,A)
【文献】特開2018-117084(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092887(WO,A1)
【文献】特開2017-195333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 25/20
H01L 21/20
H01L 21/322
H01L 29/861
H01L 21/329
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素の基板と、
前記基板の上に設けられた、前記基板よりも低不純物密度の第1導電型の緩衝層と、
前記緩衝層の上に設けられた、前記緩衝層よりも低不純物密度の第1導電型のエピタキシャル成長層と、を備え、
前記緩衝層の内部において、前記基板との界面から前記エピタキシャル成長層との界面まで前記緩衝層の厚さ方向に延在して設けられた、前記基板の内部に存在する基底面転位から連続して前記エピタキシャル成長層の内部に発生する基底面転位を不動化する第1不動化層を備え、
前記基板は、表面が(0001)面で[0001]軸方向に対して[11-20]方向に0°より大きく8°より小さいオフ角を有し、
記第1不動化層は[11-20]方向に直交する方向に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の第2導電型半導体領域であり、
複数の前記第2導電型半導体領域の間の間隔dは、前記緩衝層の膜厚をh、前記基板のオフ角をθとしたとき、h/d>tanθを満たし、
前記緩衝層と前記基板との界面の下の前記基板の表面側に、基底面転位を結晶欠陥により不動化する第2不動化層を更に備え、
前記第2不動化層は、基底面転位を不動化する原子を含み、かつ前記基板の面内方向の全面に設けられることを特徴とする多層構造体。
【請求項2】
前記第1不動化層と前記第2不動化層とが前記緩衝層と前記基板との界面で接することを特徴とする請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記第2不動化層に含まれる前記基底面転位を不動化する原子が、アルゴン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、及び鉄のいずれかから選ばれる少なくとも1種類の原子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記第2不動化層に含まれる前記基底面転位を不動化する原子の不純物密度が、1×1014cm-3以上、1×1018cm-3以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記第2不動化層に含まれる前記基底面転位を不動化する原子の不純物密度が、3×1015cm-3以上、3×1016cm-3以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項6】
第1導電型の炭化珪素の基板の上に該基板よりも低不純物密度で第1導電型の緩衝層をエピタキシャル成長するステップと、
前記緩衝層の上に、前記緩衝層よりも低不純物密度で第1導電型のエピタキシャル成長層をエピタキシャル成長するステップと、
前記緩衝層の内部において、前記基板との界面から前記エピタキシャル成長層との界面まで前記緩衝層の厚さ方向に延在し、前記基板の内部に存在する基底面転位から連続して前記エピタキシャル成長層の内部に発生する基底面転位を不動化する第1不動化層を形成するステップと、
前記緩衝層と前記基板との界面の下の前記基板の表面側に、基底面転位を結晶欠陥により不動化する第2不動化層を形成するステップと、
を含み、
前記基板は、表面が(0001)面で[0001]軸方向に対して[11-20]方向に0°より大きく8°より小さいオフ角を有し、
記第1不動化層は[11-20]方向に直交する方向に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の第2導電型半導体領域であり、
複数の前記第2導電型半導体領域の間の間隔dは、前記緩衝層の膜厚をh、前記基板のオフ角をθとしたとき、h/d>tanθを満たし、
前記第2不動化層は、基底面転位を不動化する原子を含み、かつ前記基板の面内方向の全面に形成されることを特徴とする多層構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第2不動化層を形成するステップでは、前記緩衝層と前記基板との界面から1μmの間の前記基板の内部となる射影飛程で、前記基板の上面から、前記基底面転位を不動化する原子を注入する段階を含むことを特徴とする請求項6に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第1不動化層と前記第2不動化層とは、前記緩衝層と前記基板との界面で接するように形成することを特徴とする請求項6又は7に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項9】
前記第2不動化層に注入される前記基底面転位を不動化する原子が、アルゴン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、及び鉄のいずれかから選ばれる少なくとも1種類の原子であることを特徴とする請求項7に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項10】
第1導電型の炭化珪素の基板の上に、該基板よりも低不純物密度で第1導電型の緩衝層をエピタキシャル成長するステップと、
前記基板と前記緩衝層との界面から50nmの間となる前記緩衝層の内部に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、前記基板の内部に存在する基底面転位から連続して前記緩衝層の内部に発生する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第1不動化層を、前記緩衝層の面内方向の全面に形成するステップと、
前記緩衝層の上に、前記緩衝層よりも低不純物密度で第1導電型の走行層をエピタキシャル成長するステップと、
前記走行層の表面に、前記走行層にキャリアを注入する第2導電型の担体注入領域を形成するステップと
を含み、
前記緩衝層をエピタキシャル成長するステップは、
前記基板の上に基底面転位を貫通転位に変換する欠陥変換層をエピタキシャル成長する段階と、
該欠陥変換層の上に、前記欠陥変換層よりも高不純物密度で、注入された少数キャリアを再結合により減少させる再結合促進層をエピタキシャル成長させる段階と、
を含み、
前記再結合促進層の内部の、前記欠陥変換層と前記再結合促進層との界面から50nmの間に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、前記再結合促進層に存在する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第3不動化層を、前記再結合促進層の面内方向の全面に形成するステップを更に備えることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第1不動化層を形成するステップでは、前記緩衝層の上面から、前記基板と前記緩衝層との界面から50nmの間の前記緩衝層の内部となる射影飛程で、前記基底面転位を不動化する原子を注入する段階を含むことを特徴とする請求項10に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記基板の上面から1μmの間の前記基板の内部に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、前記基板の内部から上面に向かって存在する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第2不動化層を、前記基板の面内方向の全面に形成するステップを更に含むことを特徴とする請求項10又は11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2不動化層を形成するステップでは、前記基板の上面から1μmの間の前記基板の内部となる射影飛程で、前記基底面転位を不動化する原子を前記基板に注入する段階を含むことを特徴とする請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第1不動化層と前記第2不動化層とは、前記基板と前記緩衝層との界面で接するように形成することを特徴とする請求項12又は13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記走行層の、前記緩衝層と前記走行層との界面から50nmの間に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、前記走行層に存在する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第4不動化層を、前記走行層の面内方向の全面に形成するステップを更に含むことを特徴とする請求項10~14のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記第1不動化層に注入される前記基底面転位を不動化する原子が、アルゴン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、及び鉄のいずれかから選ばれる少なくとも1種類の原子であることを特徴とする請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記第2不動化層に注入される前記基底面転位を不動化する原子が、アルゴン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、及び鉄のいずれかから選ばれる少なくとも1種類の原子であることを特徴とする請求項13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
第1導電型の炭化珪素の基板の上に、該基板よりも低不純物密度で第1導電型の緩衝層をエピタキシャル成長するステップと、
前記基板と前記緩衝層との界面から50nmの間となる前記緩衝層の内部に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、前記基板の内部に存在する基底面転位から連続して前記緩衝層の内部に発生する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第1不動化層を、前記緩衝層の面内方向の全面に形成するステップと、
前記緩衝層の上に、前記緩衝層よりも低不純物密度で第1導電型の走行層をエピタキシャル成長するステップと、
前記走行層の表面に、前記走行層にキャリアを注入する第2導電型の担体注入領域を形成するステップと
を含み、
前記緩衝層をエピタキシャル成長するステップの前に、前記基板の上面から1μmの間の前記基板の内部に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、前記基板の内部から上面に向かって存在する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第2不動化層を、前記基板の面内方向の全面に形成するステップを更に含み、
前記第1不動化層と前記第2不動化層はともに、前記基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピーク位置が、前記緩衝層と前記基板との界面から離間するよう形成されることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地の基板となる単結晶等の上に、炭化珪素(SiC)単結晶をエピタキシャル成長させた複合構造である多層構造体(SiCエピタキシャル成長基板)、多層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCのエピタキシャル成長層を含む多層構造体には、多くの積層欠陥が含まれ、半導体装置の特性に悪影響を与えることが知られている。市販のSiC基板には、c軸方向に伝播する貫通型のらせん転位や刃状転位、及び基底面内を伝播する基底面転位(BPD)が内包されている。また、らせん転位と刃状転位が混合した混合転位(転位ループ)も多数存在する。これらの多層構造体内の転位は、エピタキシャル成長時にエピタキシャル層内に伝播して引き継がれる。らせん転位や刃状転位などの貫通転位は、SiC単結晶を用いた半導体装置(以下において「SiC半導体装置」という。)のリーク電流を増加させることが知られている。特許文献1には、多層構造体を構成する基板の主面にイオン注入して結晶性を低下させた後、熱処理を行って結晶性を回復させることにより、基板表層部の貫通混合転位から、らせん転位を消滅させることが記載されている。
【0003】
一方、基底面転位は、SiC単結晶を用いた電力用半導体装置(以下において「SiCパワーデバイス」という。)の特性の劣化、特に順方向特性の劣化の原因となる。例えば、SiC多層構造体を用いたpinダイオードに順方向電流を流したときに、順方向抵抗が増大する現象が知られている。pinダイオードの順方向抵抗の増大は、n型エピタキシャル層のドリフト領域に存在する基底面転位を起点として積層欠陥が拡大することによって起こる。基底面転位は基板からエピタキシャル層まで続いており、エピタキシャル層を貫通して表面に至る。ドリフト領域の基底面転位は、通電によりp型アノード領域から少数キャリア(n型エピタキシャル層では正孔)がドリフト領域に注入されることにより、積層欠陥の起点となり得る。
【0004】
基板内の転位がエピタキシャル層へと伝播する過程では、転位の変換がなされることが知られている。基板内の基底面転位の大部分は、エピタキシャル成長時に貫通転位に変換され、残りの少数は、そのまま基底面転位としてエピタキシャル層を伝播する。貫通転位は積層欠陥に拡大しないので、ドリフト領域における基底面転位から貫通転位への変換率を100%に近くして、更に、基底面転位に注入される正孔密度を減らすことで、積層欠陥の発生を抑制することが可能となる。
【0005】
基底面転位から貫通転位への変換率は95%程度であり、エピタキシャル層中には5%程度残存することになる。非特許文献1には、アルゴン(Ar)イオンを基板の上面近傍にイオン注入することにより、BPDからTEDへの変換率が上がることが報告されている。しかし、無害な貫通転位に変換されてはいるが、貫通転位の根元の基底面転位がエピタキシャル層内の基板界面付近に残るため、積層欠陥拡大の原因欠陥を完全に防止することが困難である。更に、p型アノード領域から注入される正孔密度を緩衝層により減少させる方法に関しても、基底面転位が積層欠陥に拡大を開始する正孔密度の閾値は、基板内の応力などによって大きくばらつく。そのため、小さな閾値を持つ基底面転位の積層欠陥への拡大を防止するためには、通電電流を大きくできず、デバイスの限界性能で使用することを難しくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-168453号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】C.ハイドルン(Heidorn)他、「ウェハ基板へのイオン注入による4H-SiCホモ・エピタキシャル層中の基底面転位の増大(Basal Plane Dislocation Enhancement in 4H-SiC homo-epitaxial Layers by Ion Implantation into the Wafer Substrate)、第12回炭化珪素及び関連材料に関する欧州会議(12th European Conference on Silicon Carbide and Related Materials)、2018年、プロシディングID:1228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を鑑み、積層欠陥の拡大を防止し、SiCを用いた半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することが可能な多層構造体、多層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、(a)第1導電型の炭化珪素の基板と、(b)基板の上に設けられた、基板よりも低不純物密度の第1導電型の緩衝層と、(c)緩衝層の上に設けられた、緩衝層よりも低不純物密度の第1導電型のエピタキシャル成長層と、を備え、緩衝層の内部において、基板との界面からエピタキシャル成長層との界面まで緩衝層の厚さ方向に延在して設けられた、基板の内部に存在する基底面転位から連続してエピタキシャル成長層の内部に発生する基底面転位を不動化する第1不動化層を備え、基板は、表面が(0001)面で[0001]軸方向に対して[11-20]方向に0°より大きく8°より小さいオフ角を有し、第1不動化層は[11-20]方向に直交する方向に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の第2導電型半導体領域であり、複数の第2導電型半導体領域の間の間隔dは、緩衝層の膜厚をh、基板のオフ角をθとしたとき、h/d>tanθを満たし、緩衝層と基板との界面の下の基板の表面側に、基底面転位を結晶欠陥により不動化する第2不動化層を更に備え、第2不動化層は、基底面転位を不動化する原子を含み、かつ基板の面内方向の全面に設けられる多層構造体であることを要旨とする。
【0010】
本発明の他の態様は、(a)第1導電型の炭化珪素の基板の上に該基板よりも低不純物密度で第1導電型の緩衝層をエピタキシャル成長するステップと、(b)緩衝層の上に、緩衝層よりも低不純物密度で第1導電型のエピタキシャル成長層をエピタキシャル成長するステップと、(緩衝層の内部において、基板との界面からエピタキシャル成長層との界面まで緩衝層の厚さ方向に延在し、基板の内部に存在する基底面転位から連続してエピタキシャル成長層の内部に発生する基底面転位を不動化する第1不動化層を形成するステップと、(d)緩衝層と基板との界面の下の基板の表面側に、基底面転位を結晶欠陥により不動化する第2不動化層を形成するステップと、を含み、基板は、表面が(0001)面で[0001]軸方向に対して[11-20]方向に0°より大きく8°より小さいオフ角を有し、
第1不動化層は[11-20]方向に直交する方向に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の第2導電型半導体領域であり、複数の第2導電型半導体領域の間の間隔dは、緩衝層の膜厚をh、基板のオフ角をθとしたとき、h/d>tanθを満たし、第2不動化層は、基底面転位を不動化する原子を含み、かつ基板の面内方向の全面に形成される多層構造体の製造方法であることを要旨とする。
【0011】
本発明の他の態様は、(a)第1導電型の炭化珪素の基板の上に、基板よりも低不純物密度で第1導電型の緩衝層をエピタキシャル成長するステップと、(b)基板と緩衝層との界面から50nmの間となる緩衝層の内部に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、基板の内部に存在する基底面転位から連続して緩衝層の内部に発生する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第1不動化層を、緩衝層の面内方向の全面に形成するステップと、(c)緩衝層の上に、緩衝層よりも低不純物密度で第1導電型の走行層をエピタキシャル成長するステップと、(d)走行層の表面に、走行層にキャリアを注入する第2導電型の担体注入領域を形成するステップとを含み、緩衝層をエピタキシャル成長するステップは、基板の上に基底面転位を貫通転位に変換する欠陥変換層をエピタキシャル成長する段階と、欠陥変換層の上に、欠陥変換層よりも高不純物密度で、注入された少数キャリアを再結合により減少させる再結合促進層をエピタキシャル成長させる段階と、を含み、再結合促進層の内部の、欠陥変換層と再結合促進層との界面から50nmの間に基底面転位を不動化する原子の濃度分布のピークを有し、再結合促進層に存在する基底面転位を結晶欠陥により不動化する第3不動化層を、再結合促進層の面内方向の全面に形成するステップを更に備える半導体装置の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、積層欠陥の拡大を防止し、SiCを用いた半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することが可能な多層構造体、多層構造体の製造方法及び半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態の説明に係る半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図2図2(a)は、SiC基板における基底面欠陥の一例を示す上面概略図、図2(b)は対応する断面概略図である。
図3図3(a)はSiC基板及びエピタキシャル層における転位欠陥の挙動の一例を示す上面概略図、図3(b)は対応する断面概略図である。
図4】SiC基板における部分転位の間隔の拡大を説明する上面概略図である。
図5】SiC基板の上部にイオン注入による副不純物原子の導入位置の一例を示す断面概略図である。
図6図6(a)は、図5に示したSiC基板及び成長層における転位欠陥の挙動の一例を示す上面概略図、図6(b)は対応する断面概略図である。
図7図7(a)は、第1実施形態に係る多層構造体(エピタキシャル成長基板)の一例を示す(a)上面概略図、図7(b)は対応する断面概略図である。
図8図8(a)は、第1実施形態に係る多層構造体の他の例を示す(a)上面概略図、図8(b)は対応する断面概略図である。
図9図9(a)は、第1実施形態に係る多層構造体の他の例を示す(a)上面概略図、図9(b)は対応する断面概略図である。
図10図10(a)は、第1実施形態に係る多層構造体に対して、SIMSで測定したn型不純物分布の一例、図10(b)は対応する基底面転位を不動化する原子の不純物分布の一例、図10(c)は対応する基底面転位を不動化する原子の不純物分布の他の例を示す図である。
図11】第1実施形態に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の工程の一例を説明する断面概略図である。
図12】第1実施形態に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の図11に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図13】第1実施形態に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の図12に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図14】第1実施形態に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の図13に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図15】第1実施形態に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の図14に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図16】第1実施形態に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の図12に引き続く工程の他の例を説明する断面概略図である。
図17】第1実施形態に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の図16に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図18】第1実施形態の変形例に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の工程の一例を説明する断面概略図である。
図19】第1実施形態の変形例に係る多層構造体を用いる半導体装置の製造方法の図19に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図20】第1実施形態の変形例に係る多層構造体に対して、SIMSで測定した(a)n型不純物分布の一例、(b)基底面転位を不動化する原子の不純物分布の一例を示す図である。
図21】本発明の第2実施形態の説明に用いる半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図22】第2実施形態に係る多層構造体の製造方法の工程の一例を説明する断面概略図である。
図23】第2実施形態に係る多層構造体の製造方法の図22に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図24】第2実施形態に係る多層構造体の製造方法の図23に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図25】第2実施形態に係る多層構造体の製造方法の工程の他の例を説明する断面概略図である。
図26】第2実施形態に係る多層構造体の製造方法の図25に引き続く工程の他の例を説明する断面概略図である。
図27】第2実施形態の変形例の説明に用いる半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図28】第2実施形態の変形例に係る半導体装置の他の例を説明する断面概略図である。
図29】第2実施形態の変形例に係る半導体装置の他の例を説明する断面概略図である。
図30】第2実施形態の変形例に係る半導体装置の他の例を説明する断面概略図である。
図31】第2実施形態の変形例に係る多層構造体の製造方法の工程の一例を説明する断面概略図である。
図32】第2実施形態の変形例に係る多層構造体の製造方法の図32に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図33】第2実施形態の変形例に係る多層構造体の製造方法の図33に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図34】第2実施形態の変形例に係る多層構造体の製造方法の図34に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図35】その他の実施形態の説明に用いる半導体装置の一例を示す断面概略図である。
図36図36中のA-A線方向から見た平面図である。
図37図36に示した半導体装置に設ける転位不動化層の一例を示す断面概略図である。
図38】その他の実施形態に係る多層構造体の製造方法の工程の一例を説明する断面概略図である。
図39】その他の実施形態に係る多層構造体の製造方法の図39に引き続く工程の一例を説明する断面概略図である。
図40】その他の実施形態に係る半導体装置に用いる多層構造体の他の例を示す断面概略図である。
図41】その他の実施形態に係る半導体装置に用いる多層構造体の他の例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。
【0015】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。また以下の説明では、第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をp型、第2導電型をn型としても構わない。またnやpに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物密度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じnとnとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物密度が厳密に同じであることを意味するものではない。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0016】
また、以下の説明において、半導体装置の代表例としてpinダイオードを用いて説明するが、本発明の半導体装置はpinダイオードに限定されない。例えば、pn接合に順方向の電流が通電される絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)、静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)やゲートターンオフ(GTO)サイリスタ等のバイポーラデバイスであってもよい。また、基板上にエピタキシャル成長したドレイン領域を有するボディダイオードが寄生する構造のMOS電界効果トランジスタ(FET)、MISFETや静電誘導トランジスタ(SIT)等であってもよい。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る半導体装置は、図1に示すように、上方から走行してきた担体(キャリア)を収集する第1導電型(n+型)の半導体領域からなる担体収集層1を下部に備える縦型構造を有する。第1実施形態に係る半導体装置は更に、担体収集層1によって収集されるキャリアがドリフト電界で縦方向に走行するn型の走行層3、及び走行層にキャリアを注入する第2導電型(p+型)の担体注入領域5を備える。走行層3には、担体収集層1と走行層3との界面近傍に第1不動化層21が設けられている。p+型の担体注入領域5がn型の走行層3の上部に局所的に埋め込まれることにより、走行層3へのキャリアの注入を制御する電位障壁を構成するp+‐n接合が形成されている。図1に示す縦型の2端子構造において担体収集層1は「カソード領域」として機能し、担体注入領域5は「アノード領域」として機能している。図1に示す多層構造は、SiC結晶からなる基板を担体収集層1とし、基板の上にSiC結晶を縦方向にエピタキシャル成長したエピタキシャル成長層を走行層3とする構造である。走行層3は、主電流となる担体(キャリア)がドリフト走行する「ドリフト領域」として機能する。2端子構造を構成するように、担体収集層1の下面にはカソード電極9がオーミック電極として設けられ、担体注入領域5の上面にはアノード電極7がオーミック電極として設けられている。外部回路からの電流がアノード電極7を介して担体注入領域5に供給され、担体収集層1に供給されたキャリアがカソード電極9を介した電流として外部回路に供給される。走行層3の不純物密度は真性半導体に近い低不純物密度であることが望ましい。走行層3の不純物密度が真性半導体に近い場合は、「i層」と見なすことが可能であり、この場合はp+型の担体注入領域5、i型の走行層3及びn+型の担体収集層1で「pinダイオード」が構成できる。
【0018】
担体注入領域5もSiC結晶からなる半導体領域である。担体収集層1のn型(第1導電型)不純物元素は、例えば窒素(N)であり、不純物密度は5×1017cm-3~1×1018cm-3程度の範囲で、担体収集層1の厚さは100μm~600μm程度である。担体収集層1の表面は、(0001)Si面であり、<0001>(c軸)方向に対して<11-20>方向に0°~8°程度のオフ角を有する。担体収集層1の上にエピタキシャル成長された走行層3及び担体注入領域5も担体収集層1と同じオフ角を有する。走行層3のn型不純物は、例えばNであり、不純物密度は1×1014cm-3~1×1017cm-3程度の範囲である。走行層3の厚さは、10μm~数100μm程度の範囲であり、pinダイオードの耐圧仕様に応じて最適な厚さと不純物密度が選ばれる。例えば、耐圧1000Vで10μm程度、耐圧10kVで100μm程度が選ばれる。担体注入領域5は、走行層3の上部に、走行層3の不純物とは反対導電型であるp型(第2導電型)の不純物元素を選択的に添加してp+‐n-接合を形成している。アノード電極7は、コンタクト層、バリアメタル層及び表面電極層等を含んでよい。例えば、コンタクト層がニッケルシリサイド(NiSix)膜、バリアメタル層が窒化チタン(TiN)膜、表面電極層がアルミニウム(Al)膜で構成できる。カソード電極9は、例えば金(Au)からなる単層膜や、Al、ニッケル(Ni)、Auの順で積層された金属膜が使用可能である。
【0019】
SiC結晶には結晶多形が存在し、主なものは立方晶の3C、及び六方晶の4H、6Hである。室温における禁制帯幅は3C-SiCでは2.23eV、4H-SiCでは3.26eV、6H-SiCでは3.02eVの値が報告されている。本発明では、4H-SiCを用いて説明する。
【0020】
基板が構成する担体収集層1と走行層3との界面に設けられる第1不動化層21は、走行層3内の下部において、界面から50nm程度の間に設けられた領域である。この第1不動化層21は、走行層3の下部に基底面転位を不動化する原子となる不純物イオンが注入されて構成されている。基底面転位を不動化する原子となる、シリコン(Si)、炭素(C)、水素(H)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、及び鉄(Fe)の中のいずれか1種類の原子、又は複数種類の原子が採用可能である。基底面転位を不動化する原子の不純物密度は、イオン注入によって過剰な欠陥による抵抗の増大を避けるため、1×1014cm-3以上、1×1018cm-3以下の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、不純物密度が3×1015cm-3以上、3×1016cm-3以下の範囲である。このようにすることで、不純物密度と同程度の数の結晶欠陥を形成することができる。SiC結晶の構成原子であるSiとC以外の基底面転位を不動化する原子は、2次イオン質量分析(SIMS)により検知することができる。
【0021】
図2(a)及び(b)に示すように、担体収集層1として用いる基板であるn+型の4H-SiC基板1sには多数の基底面転位(BPD)が存在する。図2(a)に示す2点鎖線は、基板1sの表面と、図2(b)に示す基板側基底面転位12が含まれる基底面との交線Lbである。基板側基底面転位12は、基底面内で2本の部分転移、珪素(Si)芯12sと炭素(C)芯12cに分解して、交線Lbに達している。基板側Si芯12sと基板側C芯12cとの間隔は、30nm~70nm程度である。
【0022】
基板1sの上に基板1sよりも低不純物密度のエピタキシャル成長層(中間成長層)3eを、例えば1μm程度の厚さで成長する。図3(a)及び(b)に示すように、基板1sの基板側基底面転位12は、中間成長層3e内にまで延伸し成長層側基底面転位22に続いている。図3(b)に示すように、大部分の成長層側基底面転位22は成膜中に基板1sと中間成長層3eの界面近傍で貫通転位(TED)14に変換される。この場合、図3(a)に示すように、エピタキシャル成長の過程で、基板1s内で2つに分解していた基板側基底面転位12の基板側Si芯12sと基板側C芯12cは、中間成長層3e内で成長層側基底面転位22の成長層側Si芯22sと成長層側C芯22cに引き継がれる。ここで、基板側Si芯12sはSi‐Si結合であり、基板側C芯12cはC‐C結合である。Si‐Si結合のエネルギがC‐C結合のエネルギより小さいため、加熱や通電等で与えられるエネルギでSi芯を有する部分転位は可動であるが、C芯を有する部分転位は可動ではない。そのため、図3(a)に示すように、成長層側Si芯22sが成長層側C芯22cに近づき1つの貫通転位14に変換される。ただし、成長層側基底面転位22の一部は、中間成長層3eの内部でも貫通転位14に変換されずに成長層側基底面転位22zとして引き継がれ、交線Lsにおいて中間成長層3eの表面に達する。
【0023】
pinダイオードの順方向抵抗の増大は、図3(a)及び(b)に示す中間成長層3eに存在する成長層側基底面転位22zを起点として、積層欠陥が拡大することによって起こる。より詳しくは、n型の中間成長層3e内の積層欠陥がつくる電子準位に、図1に示したp型の担体注入領域5から少数キャリアが注入されることにより起こる。図1に示したn型走行層3では「少数担体(少数キャリア)」として正孔が担体注入領域5から注入される。この積層欠陥の電子準位は、4H-SiC結晶の伝導帯の下端から0.2eV~0.3eV低い位置にあることが知られている。通電または光励起により生成された伝導帯の電子が積層欠陥の電子準位で正孔と再結合することにより、積層欠陥の拡大が起こる。基板1s中の基板側基底面転位12は、基板製造段階の温度の不均一に起因する結晶内部の応力を緩和するために発生し、基板1s中に1000個/cm2台で存在している。図3(b)に示すように、成長層側基底面転位22zは、基板1sの基板側基底面転位12から中間成長層3eに延伸した部分であり、成長層側基底面転位22zは中間成長層3eを貫通して表面に至っている。このような中間生成物としての多層構造体(1s,3e)を用い、その上に主成長層(上部成長層)を成長してpinダイオードを製造する場合、通電により、中間成長層3e中の成長層側基底面転位22zが積層欠陥の拡大の起点となり得る。即ち、アノード領域を構成しているp型の担体注入領域から正孔が少数担体として中間成長層3eの上に成長される主成長層(上部成長層)が構成する走行層に注入されることにより、成長層側基底面転位22zが積層欠陥の拡大の起点となり得る。
【0024】
一方、成長層側基底面転位22は、図3(b)に示すように、基板1sの基板側基底面転位12から中間成長層3eに続いている部分に対応するが、中間成長層3e内でSiC結晶のc軸に平行な貫通転位14に変換している。貫通転位14は積層欠陥に拡大しない。しかし、図1に示した構造において、p型の担体注入領域5から注入された正孔が、中間成長層3eの上に成長される主成長層(上部成長層)が構成する走行層3の中を走行して担体収集層1と走行層3との界面付近まで到達すると、積層欠陥の拡大が起こり得る。図3(b)に示すように、注入された正孔が基板1sと中間成長層3eとの界面付近まで到達すると、成長層側基底面転位22を起点とする積層欠陥の電子準位に正孔が注入される。成長層側基底面転位22を起点とする積層欠陥は、基板1sと中間成長層3eとの界面付近の正孔密度が閾値の1×1015cm-3以上で拡大が始まるといわれている。
【0025】
なお、基板1sに中間成長層3eをエピタキシャル成長した場合,基板1sの周辺部の成長層側基底面転位22の貫通転位14への変換率が他の部分よりも低いことが知られている.この原因として,基板1sの周辺の温度分布が大きいことが推定されている。図4は、基板1sの周辺部で転位変換率が低い原因のメカニズムを説明するものである。図4に示すように、基板1s中の基板側基底面転位12は、基板側C芯12cと基板側Si芯12sからなる部分転位に分解している。基板1s上に第1中間成長層及び上部成長層を成膜する場合の温度は1600℃程度であるが、1600℃まで昇温する前に900℃~1000℃まで昇温し,一定時間保つ。この一定時間保つ間の基板1s面内の温度分布が大きい場合、温度差により基板側基底面転位12にせん断応力が加わる。そのため,図4に示すように、基板1sの表面近傍で基板側Si芯12sと基板側C芯12cの間隔が拡大する。図4では、基板側C芯12cよりも可動性の高い基板側Si芯12sが表面近傍で移動して、基板側Si芯12bと基板側C芯12cからなる部分転位の間隔Dbが、元の基板側Si芯12sと基板側C芯12cからなる部分転位の間隔Dsから拡大した状態を表している。このように、第1中間成長層及び上部成長層のエピタキシャル成長前に基板側Si芯12bと基板側C芯12cとの部分転位の間隔Dbが大きく広がった場合、エピタキシャル成長中に基板側基底面転位12が貫通転位14に変換され難くなる。
【0026】
図5に示すように、基板1sの表面にイオン注入により結晶欠陥が導入された第2不動化層11を設けることにより、エピタキシャル成長での昇温中に部分転位の間隔が拡大することを防止することができる。即ち、結晶欠陥を導入することにより部分転位の移動を抑制する効果があることが知られている。例えば、非特許文献1には、アルゴン(Ar)イオンを基板表面にイオン注入することにより基板側基底面転位から貫通転位への変換率が上がることが報告されている。エピタキシャル成長前に基板1sの表面にイオン注入により第2不動化層11を設けて部分転位の運動を抑制する。その結果、図6(a)及び(b)に示すように、基板1s上へのエピタキシャル成長中に中間成長層3eにおいて成長層側基底面転位22から貫通転位14への変換率が向上する。
【0027】
p‐n接合への順方向通電による積層欠陥の拡大は貫通転位14を起点としては発生しないため、基板1s中の基板側基底面転位12を貫通転位14へ変換することは積層欠陥の拡大防止に一定の効果がある。しかし、通電量を増大または通電時間を長くしていくと、積層欠陥の拡大は中間成長層3eと基板1sの界面付近を起点として発生し、完全な防止とはならない。この原因は、図6(a)に示すように、基板1sと中間成長層3eの界面で成長層側基底面転位22から貫通転位14に変換される部分に成長層側Si芯22sの部分転位が残存していることによる。この成長層側Si芯22sの部分転位は,イオン注入によって基板側基底面転位12が不動な状態になっている基板1s中ではなく、中間成長層3e中にある。そのため、成長層側Si芯22sは可動な状態にあり,通電で移動に必要なエネルギを得ることにより移動して積層欠陥の起点になる。基板1s表面に第2不動化層11を設けることにより、基板1s中の基板側基底面転位12の貫通転位14への変換率は99%程度と高くすることができる。しかし、成長層側基底面転位22が貫通転位14に変換される基板1sと中間成長層3eの界面の位置の成長層側Si芯22sに対する対策が打たれていないため、積層欠陥の拡大の完全な防止はできていない。
【0028】
図1に示したように、第1実施形態に係る半導体装置では、担体収集層1と走行層3との界面近傍の走行層3内に第1不動化層21を設ける。具体的には、図7(a)及び(b)に示すように、基板1sと中間成長層3eの界面近傍の中間成長層3e内に、成長層側基底面転位22を不動化する結晶欠陥が導入された第1不動化層21を設ける。結晶欠陥は、結晶欠陥を不動化する原子をイオン注入して形成する。第1不動化層21は、成長層側基底面転位22が基板1sと中間成長層3eの界面で貫通転位14に変換された後に中間成長層3e内に残る、図7(a)に示した成長層側Si芯22sを不動な転位にすることができる。図7(b)に示すように、例えば1μm程度の厚さでエピタキシャル成長した中間成長層3eに残存する成長層側基底面転位22の成長層側Si芯22sの位置に対して、中間成長層3e表面から成長層側基底面転位22を不動化する原子となる不純物イオンを注入して第1不動化層21を形成する。第1不動化層21において、成長層側基底面転位22を不動化する原子を注入することで誘起された欠陥は、成長層側基底面転位22の成長層側Si芯22sを不動な転位にする。成長層側基底面転位22の大部分は、基板1sと中間成長層3eの界面から50nm程度の範囲内で貫通転位14に変換される。したがって、第1不動化層21は、基板1sと中間成長層3eの界面から50nm程度の範囲の中間成長層3e内に設ければよい。その結果、第1実施形態に係る半導体装置に順方向電流を流したときに、成長層側基底面転位22に起因する積層欠陥の拡大を防止し、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができる。
【0029】
また、図1に示した第1実施形態に係る半導体装置の構造において、p型の担体注入領域5から注入された正孔の密度はn+型の基板1s内では電子と再結合して急激に減少する。しかし、基板1sと中間成長層3eの界面近傍の基板1s側では正孔密度の減少も小さく、基板側基底面転位12のSi芯の部分転位は不動化されていない。そのため、基板1s表面近傍に存在する基板側基底面転位12は順方向通電による積層欠陥の拡大の起点となり得る。したがって、図8(a)及び(b)に示すように、基板1sと中間成長層3eの界面近傍の基板1s側及び成長層3e側それぞれに第2不動化層11及び第1不動化層21を設けることが望ましい。例えば、1μm以下の厚さの中間成長層3eの表面からイオン注入の加速電圧を変化させて基底面転位を不動化する原子の注入ドーズ量分布のピーク位置を調整すればよい。第2不動化層11は、基板1sと中間成長層3eとの界面から1μmの基板1s内、すなわち基板1sの中間成長層3e側の表面1μmの領域に設けられることが好ましい。
【0030】
また、上述の説明では、平面視で第1不動化層21は基板1sと中間成長層3eの界面近傍の全面に亘るように設けられているが、限定されない。例えば、図9(a)及び(b)に示すように、平面パターンにおいて、複数の第1不動化層21aを[11-20]方向に直交する方向に互いに平行なストライプ状に設けてもよい。基板側基底面転位12は[11-20]方向に伝搬しやすい。例えば基板1sが4°オフであれば、第1不動化層21aの間隔sを2μm程度とすれば、高さhを0.14μm以上程度にすることにより、成長層側基底面転位22の伸展を防止することができる。
【0031】
‐半導体装置の製造方法‐
次に、図10に示す不純物プロファイル、及び図11図15に示す工程図を用いて、本発明の第1実施形態に係る半導体装置の製造方法を、pinダイオードの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるpinダイオードの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0032】
図11に示すように、4H‐SiC結晶のn+型の基板1sを準備する。基板1sは、主面が<11-20>方向に4°オフした(0001)Si面で、厚さが100μm~600μm程度である。基板1sは、例えば窒素(N)等のn型の不純物元素が5×1017cm-3~1×1018cm-3程度の不純物密度で添加されている。基板1sには多数の基板側基底面転位12が含まれるが、図11では1つの基板側基底面転位12を模式的に図示している。
【0033】
図12に示すように、気相エピタキシャル成長技術等により、基板1sの上にn型の中間成長層3eをエピタキシャル成長させて、中間生成物としての多層構造体(1s,3e)を作製する。中間成長層3eには、図10(a)に示すように、例えばN等のn型の不純物元素が基板1sより低不純物密度の1×1014cm-3~1×1017cm-3程度で添加されている。中間成長層3eの厚さは、1μm程度である。基板1sに存在する基板側基底面転位12は、中間成長層3e内に成長層側基底面転位22として伝播する。基板1sと中間成長層3eの界面から50nm以下の範囲の中間成長層3e内において、成長層側基底面転位22は変換率95%程度で貫通転位14に変換される。
【0034】
図13に示すように、イオン注入技術により、基板1sと中間成長層3eの界面近傍が射影飛程となるように中間成長層3e内に基底面転位を不動化する原子となる、例えばAr原子221をイオン注入する。図7(a)に示したように成長層側基底面転位22の成長層側Si芯22sは、成長層側基底面転位22が基底面から貫通転位14に立ち上がる位置に残存する。そのため、図10(b)に示すように、Ar原子221のイオンの注入のドーズ量のピークP2が貫通転位14に立ち上がり位置の近傍となるように調整する。実際には、エピタキシャル成長中に成長層側基底面転位22が貫通転位14に変換する立ち上がりの位置はエピタキシャル成長中でばらつきがある。そのため、イオン注入の加速電圧を変化させる多段イオン注入によって、注入されたArイオンのドーズ量のピークが中間成長層3eと基板1sの界面付近、例えば界面から50nm程度の中間成長層3e内に分布するようにすることが望ましい。なお、基底面転位を不動化する原子となるArを用いたが、H、He、Ar、Mg、Ca、Ba、Ti、V、Cr、Mn、Feのいずれか1種類の原子、あるいは複数種類の原子を用いてもよい。
【0035】
その後、図14に示すように、イオン注入で導入された欠陥の状態を制御するため、900℃~1400℃程度で30分~2時間程度で熱処理を行い、第1不動化層21を形成する。中間成長層3eの上に更にn型の主成長層(上部成長層)をエピタキシャル成長させ、基板1s上に第1中間成長層と上部成長層からなる走行層3を形成する。走行層3には、例えばN等のn型の不純物元素が基板1sより低不純物密度の1×1014cm-3~1×1017cm-3程度で添加されている。走行層3の厚さは10μm~数100μm程度の範囲であり、pinダイオードの耐圧仕様に応じて最適な厚さと不純物密度が選ばれる。例えば、耐圧1000Vで10μm程度、耐圧10kVで100μm程度が選ばれる。中間成長層3eに存在する貫通転位14は、走行層3の上部成長層内に伝播する。なお、イオン注入層の熱処理は、走行層3の追加のエピタキシャル成長の際に実施してもよい。
【0036】
次いで、図15に示すように、走行層3の上部にAl等のp型の担体注入領域5を選択的に形成する。例えば、フォトリソグラフィによって、イオン注入用マスクを形成して、走行層3の上部にAl等のp型を呈する不純物イオンを高不純物密度で注入すればよい。引き続き、化学機械研磨(CMP)等により、基板1sの下面を研磨して厚み調整をして、担体収集層1を半導体装置の電気的特性が要求する仕様の厚さに仕上げる。スパッタリングあるいは真空蒸着などにより、担体収集層1の下面にAu等からなる裏面電極(カソード電極)9を形成する。更に、スパッタリングあるいは真空蒸着などにより、Al等の金属膜を堆積し、表面電極(アノード電極)7を形成する。このようにして、図1に示した第1実施形態に係る半導体装置が完成する。
【0037】
図1に示した構造において、p型の担体注入領域5から注入された正孔の密度はn+型の担体収集層1内では電子と再結合して急激に減少する。しかし、担体収集層1と走行層3の界面近傍では担体収集層1内の正孔密度の減少も小さく、基板側基底面転位12のSi芯の部分転位は不動化されていない。そのため、担体収集層1表面近傍に存在する基板側基底面転位12は順方向通電による積層欠陥の拡大の起点となり得る。このため、Ar原子221のイオン注入により第1不動化層21を形成する際に、第2不動化層11を同時に形成してもよい。ここで、第2不動化層11は、基板1sと中間成長層3eとの界面から1μm以内の基板1s内に形成することが好ましい。また、担体収集層1と走行層3の界面にもAr原子221をイオン注入することで、第1不動化層21と第2不動化層11とが接するように形成してもよい。
【0038】
例えば、図16に示すように、基板1sと中間成長層3eの界面近傍において、中間成長層3e内にAr原子221aを、界面にAr原子221bを、そして基板側にはAr原子221cを、それぞれイオン注入する。その後、図17に示すように、中間成長層3eの上に更にn型の主成長層(上部成長層)をエピタキシャル成長させ、基板1s上に走行層3を形成する。基板1sと走行層3の界面近傍において、基板1s側に第2不動化層11、走行層側に第1不動化層21がそれぞれ形成される。第1不動化層21及び第2不動化層11は、例えば図10(c)に示すように、イオン注入されたAr原子221a、221b、221cのそれぞれに対応したドーズ量分布のピークP2a、P2b、P2cが互いに重なり合ってほぼ平坦な分布にすることができる。その結果、第1不動化層21と第2不動化層11とが基板1sと中間成長層3eとの界面で接する。これにより、基板1sと走行層3の界面近傍の基板1s側に存在する成長層側基底面転位22の成長層側Si芯22sを不動化することができ、順方向通電による積層欠陥の拡大を防止することが可能となる。
【0039】
第1実施形態に係る半導体装置の製造方法では、基板1sの上に中間成長層3eをエピタキシャル成長し、中間成長層3eの上面からAr原子221をイオン注入して第1不動化層21を形成する。これにより、Ar原子221のイオン注入で導入される結晶欠陥の位置を、貫通転位14が立ち上がる位置となる担体収集層1と走行層3の界面近傍の走行層3内に、高精度で制御することができる。したがって、担体収集層1と走行層3の界面近傍の走行層3内に残存する成長層側基底面転位22の成長層側Si芯22sの部分転位を不動化することが可能となる。また、イオン注入により第2不動化層11を、基板1sと中間成長層3eとの界面から1μm以内の基板1s内に形成する。これにより基板1s中の部分転位を不動化し、基板側基底面転位12の貫通転位14への変換率を上げることができる。その結果、第1実施形態に係る半導体装置に順方向電流を流したときに、成長層側基底面転位22に起因する積層欠陥の拡大を防止し、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができる。
【0040】
(第1実施形態の変形例)
上述のように、本発明の第1実施形態に係る半導体装置では、中間成長層3eによって成長層側基底面転位22を95%程度貫通転位14に変換するが、5%程度は、中間成長層3e上にエピタキシャル成長した上部成長層内を伝播し、積層欠陥の拡大の起点となり得る。第1実施形態の変形例では、図18に示すように、予め基板1sの上面近傍にイオン注入により結晶欠陥が導入された第2不動化層11を設ける。第2不動化層11により、基板側基底面転位12の貫通転位14への変換効率を向上することができる。第1実施形態の変形例に係る半導体装置は、中間成長層3eのエピタキシャル成長の前に予め基板1sの表面にイオン注入による第2不動化層11を設ける点が第1実施形態とは異なる。他の構成は第1実施形態と同様であるので、重複する記載は省略する。
【0041】
‐中間生成物の製造方法‐
図18及び図19に示す工程図及び図20に示す不純物プロファイルを用いて、本発明の第1実施形態の変形例に係る中間生成物としての多層構造体(1s,3e)の製造方法を説明する。なお、以下に述べる中間生成物としての多層構造体(1s,3e)の製造方法は上部成長層を成長する前の一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0042】
まず、図18に示すように、エピタキシャル成長の前に、N等のn型の不純物元素が5×1017cm-3~1×1018cm-3程度の不純物密度に添加された基板1sの上面からAr等の基板側基底面転位12を不動化する原子となる不純物イオンを注入して第2不動化層11を設ける。第2不動化層11は、基板1sの上面から1μm程度の範囲内に基底面転位を不動化する原子が分布するように射影飛程を調整してイオン注入することにより形成する。
【0043】
その後、図19に示すように、基板1sの上にn型の中間成長層3eをエピタキシャル成長させて、中間生成物としての多層構造体(1s,3e)を作製する。中間成長層3eには、図20(a)に示すように、例えばN等のn型の不純物元素が基板1sより低不純物密度の1×1014cm-3~1×1017cm-3程度で添加されている。中間成長層3eの厚さは、1μm程度である。基板1sに存在する基板側基底面転位12は、中間成長層3e内に成長層側基底面転位22として伝播する。基板側基底面転位12の基板側Si芯12sの部分転位は、図6(a)及び(b)で説明したように、第2不動化層11によって不動化されている。そのため、基板1sから伝播した成長層側基底面転位22は、基板1sと中間成長層3eの界面から50nm以下の範囲の中間成長層3e内において、99%程度と高い変換率で貫通転位14に変換される。
【0044】
更に、中間成長層3eのエピタキシャル成長後、基板1sと中間成長層3eの界面近傍の中間成長層3e内に成長層側基底面転位を不動化する原子となる、例えばAr原子のイオンを注入する。イオン注入後に900℃~1400℃程度で30分~2時間程度で熱処理を行い、イオン注入で導入された欠陥の状態を制御する熱処理を実施し、図19に示すように、第1不動化層21を形成する。図20(a)及び(b)に示すように、第2不動化層11にはドーズ量分布のピークP1が界面から基板1s側の1μm以内に位置し、第1不動化層21にはドーズ量分布のピークP2が界面から中間成長層3e側の50nm以内に位置するようにAr原子が分布する。このようにして、Nが高濃度に添加された基板1s側に第2不動化層11、及びNが基板1sよりも低不純物密度で添加された中間成長層3e側に第1不動化層21を有する中間生成物としての多層構造体(1s,3e)が作製される。
【0045】
第1実施形態の変形例では、予め基板1sの表面近傍に基板側基底面転位12を不動化する原子となる不純物イオンを注入して第2不動化層11を形成した後、基板1s上に1μm程度の中間成長層3eをエピタキシャル成長させる。更に、中間成長層3eの上面から成長層側基底面転位22を不動化する原子となる不純物イオンを注入して第1不動化層21を形成する。基板1sに第2不動化層11が設けられているので、中間成長層3eのエピタキシャル成長の際に基板1sに存在する基板側基底面転位12の部分転位を不動化することができる。そのため、中間生成物としての多層構造体(1s,3e)の上に主成長層をエピタキシャル成長する場合、エピタキシャル成長中に中間成長層3eに伝播する成長層側基底面転位22の貫通転位14への変換率を大きくすることができる。この結果、中間成長層3eの上面の主成長層(上部成長層)に伝播する成長層側基底面転位22を低減することが可能となる。また、基板1sの上に1μm程度の中間成長層3eをエピタキシャル成長し、中間成長層3eの上面からAr原子221を基板1sと中間成長層3eの界面近傍にイオン注入して第1不動化層21を設ける。そのため、成長層側基底面転位22が貫通転位14に変換した後に基板1sと中間成長層3eの界面近傍の中間成長層3e内に残存する成長層側Si芯22sの部分転位を不動化することが可能となる。その結果、中間生成物としての多層構造体(1s,3e)の上に主成長層(上部成長層)をエピタキシャル成長した構造の半導体装置に順方向電流を流したときに、成長層側基底面転位22に起因する積層欠陥の拡大を防止し、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0046】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る半導体装置は、図21に示すように、n+型の担体収集層1、n型の緩衝層2、n-型の走行層3、p+型の担体注入領域5、アノード電極7、及びカソード電極9を備える。担体収集層1には、N等のn型の不純物元素が5×1017cm-3~1×1018cm-3程度の不純物密度で添加されている。第1中間成長層としての緩衝層2には、N等のn型の不純物元素が担体収集層1よりも低不純物密度、且つ走行層3よりも高不純物密度の、例えば1×1017cm-3~5×1017cm-3程度で添加される。緩衝層2は、担体収集層1と走行層3との間に設けられ、成長層側基底面転位22(図示省略)を貫通転位14(図示省略)に変換する。更に、緩衝層2内では電子密度が走行層3より高く、通電時に走行層3から注入される正孔と再結合して正孔密度を低減することができる。第2実施形態は、緩衝層2が担体収集層1と上部成長層である走行層3との間に、走行層3よりも高不純物密度の緩衝層2を設ける点が、第1実施形態とは異なる。他の構成は第1実施形態と同様であるので、重複する記載は省略する。
【0047】
第2実施形態に係る半導体装置では、担体収集層1上に成長した緩衝層2において、成長層側基底面転位22は95%程度貫通転位14に変換される。このように、緩衝層2には、担体収集層1から伝播して貫通転位14に変化した後の成長層側基底面転位22が存在することになる。緩衝層2は走行層3よりも高不純物密度でn型の不純物元素が添加されているので電子密度が走行層3よりも高く、担体注入領域5から走行層3に少数キャリアとして注入された正孔の密度を緩衝層2内で大きく減少させることができる。その結果、緩衝層2に残存する成長層側基底面転位22に注入される正孔密度を低減でき、通電による積層欠陥の拡大を防止することが可能となる。また、担体収集層1と緩衝層2の界面近傍の緩衝層2内には成長層側基底面転位22を不動化する原子となる不純物イオンが注入されて第1不動化層21が設けられる。イオン注入された基底面転位を不動化する原子は、第1不動化層21に結晶欠陥を誘起して成長層側基底面転位22の部分転位を不動化する。更に、イオン注入された基底面転位を不動化する原子は正孔捕獲準位を形成することができ、正孔密度の減少にも効果を有する。その結果、半導体装置に順方向電流を流したときに、成長層側基底面転位22に起因する積層欠陥の拡大を防止し、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができる。
【0048】
‐半導体装置の製造方法‐
次に、図22及び図24に示す工程図を用いて、本発明の第2実施形態に係る半導体装置の製造方法を、pinダイオードの場合を一例に説明する。まず、図22に示すように、4H‐SiC結晶のn+型の基板1sを準備する。基板1sは、主面が<11-20>方向に4°オフした(0001)Si面である。基板1sは、例えば窒素(N)等のn型の不純物元素が5×1017cm-3~1×1018cm-3程度の不純物密度で添加されている。図示を省略したが、基板1sには多数の基板側基底面転位12が含まれる。
【0049】
図23に示すように、気相エピタキシャル成長技術等により、基板1sの上にn型の緩衝層2を1μm~10μm程度の厚さでエピタキシャル成長させる。第1中間成長層としての緩衝層2は、例えば窒素(N)等のn型の不純物元素が1×1017cm-3~5×1017cm-3程度の不純物密度で添加されている。その後、イオン注入技術により、基板1sと緩衝層2の界面近傍の緩衝層2内に成長層側基底面転位22を不動化する原子となる、例えばAr原子のイオンを1×1014cm-3~1×1018cm-3程度の注入量でイオン注入する。引き続き、図24に示すように、イオン注入で導入された欠陥の状態を制御するため、900℃~1400℃程度で30分~2時間程度で熱処理を行い、第1不動化層21を形成する。
【0050】
その後、気相エピタキシャル成長技術等により、緩衝層2の上にn型の主成長層(上部成長層)をエピタキシャル成長させ、図21に示した走行層3を形成する。走行層3には、例えばN等のn型の不純物元素が基板1sより低不純物密度の1×1014cm-3~1×1017cm-3程度で添加されている。走行層3の厚さは10μm~数100μm程度の範囲であり、pinダイオードの耐圧仕様に応じて最適な厚さと不純物密度が選ばれる。例えば、耐圧1000Vで10μm程度、耐圧10kVで100μm程度が選ばれる。
【0051】
次いで、フォトリソグラフィ及びイオン注入技術等により、走行層3の上部にAl等のp型の不純物元素をイオン注入することで、p型の担体注入領域5を選択的に形成する。引き続き、化学機械研磨(CMP)等により、基板1sの下面を研磨して厚み調整をして、担体収集層1をカソード領域としての仕様に仕上げる。スパッタリングあるいは真空蒸着等により、担体収集層1の下面にAu等からなる裏面電極(カソード電極)9を形成する。更に、スパッタリングあるいは真空蒸着等により、Al等の金属膜を堆積し、表面電極(アノード電極)7を形成する。このようにして、図21に示した第2実施形態に係る半導体装置が完成する。
【0052】
第2実施形態に係る半導体装置では、基板1s上にn型の緩衝層2を第1中間成長層としてエピタキシャル成長させている。そのため、基板1sから伝播する成長層側基底面転位22は緩衝層2内で貫通転位に変換される。また、緩衝層2は上部成長層である走行層3よりも高不純物密度のn型の不純物元素が添加されている。したがって、基板1sと緩衝層2との界面に存在する成長層側基底面転位22に走行層3を介して注入される正孔密度を減少させることができる。その結果、基底面転位が積層欠陥に拡大することを防止することができる。
【0053】
また、図25に示すように、緩衝層2のエピタキシャル成長の際に、基板1sから緩衝層2に伝播する成長層側基底面転位22の貫通転位14への変換率を向上させるため、基板1sの上面近傍に第2不動化層11を設けてもよい。例えば、予め基板1sの上面近傍に基板側基底面転位12を不動化する原子となる不純物イオンを注入して、結晶欠陥が導入された第2不動化層11を形成する。その後、図26に示すように、気相エピタキシャル成長技術等により、基板1sの上にn型の緩衝層2を1μm程度の厚さでエピタキシャル成長させる。次に、イオン注入技術により、基板1sと緩衝層2の界面近傍の緩衝層2内に成長層側基底面転位22を不動化する原子となる不純物イオンを注入して、第1不動化層21を形成する。基板1sの上面近傍に設けた第2不動化層11により、基板側基底面転位12の貫通転位14への変換効率を向上することができる。
【0054】
(第2実施形態の変形例)
本発明の第2実施形態の変形例に係る半導体装置は、図27に示すように、n+型の担体収集層1、n型の緩衝層2、n-型の走行層3、p+型の担体注入領域5、アノード電極7、及びカソード電極9を備える。緩衝層2は、担体収集層1と走行層3との間に設けられ、基底面転位を貫通転位に変換する欠陥変換層2a、及び走行層3側から担体収集層1側に注入される少数キャリアを減少させる再結合促進層2bを備える。担体収集層1と欠陥変換層2aの界面近傍の欠陥変換層2a内、例えば界面から50nm程度の範囲内に第1不動化層21を有する。第2実施形態の変形例に係る半導体装置は、担体収集層1と走行層3との間に設ける緩衝層2が欠陥変換層2a及び再結合促進層2bを有する点が、第1及び第2実施形態に係る半導体装置とは異なる。他の構成は第1及び第2実施形態に係る半導体装置と同様であるので、重複する記載は省略する。
【0055】
第2実施形態の変形例に係る半導体装置では、担体収集層1上に第1中間成長層として成長した欠陥変換層2aにおいて、基底面転位が95%程度貫通転位に変換される。欠陥変換層2a内で貫通転位に変化された後に欠陥変換層2aに残存する基底面欠陥は、第1不動化層21により、担体収集層1との界面近傍で不動化される。更に、欠陥変換層2a上に第2及び第3中間成長層として成長した再結合促進層2bにおいて、通電によりp+型の担体注入領域5から注入された正孔を電子と再結合させる。このように、第2実施形態の変形例に係る半導体装置では、担体収集層1から伝播した基底面転位は欠陥変換層2a内に存在することになる。欠陥変換層2aは厚いほど、積層欠陥の発生頻度を低減できるが、厚くするとエピタキシャル成長のスループットの低下を招くので、1μm程度に薄くするのが望ましい。また、欠陥変換層2aに存在する基底面転位に注入される正孔密度を減少させるため、欠陥変換層2aは走行層3よりも高不純物密度のn型エピタキシャル層を用いることが望ましい。更に、正孔密度を閾値である1×1015cm-3台以下に減少させるために、欠陥変換層2aよりも高不純物密度のn型の再結合促進層2bを追加する。
【0056】
例えば、担体収集層1には、N等のn型の不純物元素が5×1017cm-3~1×1018cm-3程度の不純物密度で添加されている。第1中間成長層としての欠陥変換層2aは、厚さが1μm程度で、N等のn型の不純物元素が担体収集層1よりも低不純物密度、且つ走行層3よりも高不純物密度の、例えば1×1017cm-3程度で添加されている。第2及び第3中間成長層としての再結合促進層2bは、厚さが5μm~10μm程度で、N等のn型の不純物元素が欠陥変換層2aよりも2倍~3倍程度高不純物密度の、例えば2×1017cm-3~5×1017cm-3程度で添加されている。第4中間成長層として走行層3は、厚さが10μm~100μm程度で、N等のn型の不純物元素が1×1014cm-3~1×1017cm-3程度で添加されている。第1不動化層21は、担体収集層1と欠陥変換層2aの界面近傍の欠陥変換層2a内、例えば界面から50nm程度の範囲内に設けられる。第1不動化層21には、成長層側基底面転位22を不動化する原子となる不純物イオンが、不純物密度が1×1014cm-3~1×1018cm-3程度になるような不純物密度でイオン注入されている。より好ましくは、不純物密度が3×1015cm-3以上、3×1016cm-3以下の範囲である。なお、再結合促進層2bには、n型の不純物元素に加えて正孔捕獲準位を形成する不純物元素として、例えばB、V、Ti、Fe及びCr等を添加してもよい。
【0057】
第2実施形態の変形例に係る半導体装置では、担体収集層1の上に第1中間成長層としての欠陥変換層2a及び第2及び第3中間成長層としての再結合促進層2bを有する緩衝層2をエピタキシャル成長させている。更に、欠陥変換層2aには、担体収集層1との界面近傍に第1不動化層21をイオン注入して設けている。そのため、基板1sから伝播する成長層側基底面転位22は欠陥変換層2a内で貫通転位に変換される。また、再結合促進層2bは走行層3及び欠陥変換層2aよりも高不純物密度のn型の不純物元素が添加されている。したがって、担体収集層1と欠陥変換層2aとの界面に存在する成長層側基底面転位22に、第4中間成長層としての走行層3を介して欠陥変換層2aから注入される正孔密度を閾値の1×1015cm-3台以下に減少させることができる。その結果、半導体装置に順方向電流を流したときに、成長層側基底面転位22が積層欠陥に拡大することを防止し、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができる。
【0058】
また、図28に示すように、欠陥変換層2aにおいて成長層側基底面転位22の貫通転位への変換率を向上させるため、担体収集層1の上面近傍に第2不動化層11を設けてもよい。また、図29に示すように、欠陥変換層2aと再結合促進層2bの界面近傍で、第2及び第3中間成長層としての再結合促進層2b内に第3不動化層21dを設けてもよい。第3不動化層21dにより、欠陥変換層2aから再結合促進層2bへ伝播する成長層側基底面転位22を不動化させ、再結合促進層2b内での成長層側基底面転位22の貫通転位への変換率を向上させることができる。更に、図30に示すように、再結合促進層2bと走行層3の界面近傍で、第4中間成長層としての走行層3内に第4不動化層21eを設けてもよい。第4不動化層21eにより、再結合促進層2bから走行層3へ伝播する成長層側基底面転位22を不動化させ、走行層3内での成長層側基底面転位22の貫通転位への変換率を向上させることができる。
【0059】
‐半導体装置の製造方法‐
次に、図31及至図34に示す工程図を用いて、第2実施形態の変形例に係る半導体装置の製造方法を、図30に示したpinダイオードの場合を一例に説明する。まず、図31に示すように、気相エピタキシャル成長技術等により、第2不動化層11が形成された4H‐SiC結晶のn+型の基板1sの上にn型の欠陥変換層(第1中間成長層)2aをエピタキシャル成長させる。基板1sは、主面が<11-20>方向に4°オフした(0001)Si面である。欠陥変換層2aは、例えば、厚さが1μm程度で、N等のn型の不純物元素が1×1017cm-3程度の不純物密度で添加されている。そして、イオン注入技術により、基板1sと欠陥変換層2aの界面近傍の欠陥変換層2a内に成長層側基底面転位22を不動化する原子となる、例えばAr原子のイオンを1×1014cm-3~1×1018cm-3程度の注入量でイオン注入する。引き続き、イオン注入で導入された欠陥の状態を制御するため、900℃~1400℃程度で30分~2時間程度で熱処理を行い、第1不動化層21を形成する。
【0060】
図32に示すように、気相エピタキシャル成長技術等により、欠陥変換層2aの上にn型の第2中間成長層2bsをエピタキシャル成長させる。第2中間成長層2bsは、例えば、厚さが1μm程度で、N等のn型の不純物元素が2×1017cm-3~5×1017cm-3程度の不純物密度で添加されている。そして、イオン注入技術により、第1中間成長層(欠陥変換層)2aと第2中間成長層2bsの界面近傍の第2中間成長層2bs内に成長層側基底面転位22を不動化する原子となる、例えばAr原子のイオンを不純物密度が1×1014cm-3~1×1018cm-3程度となる注入量でイオン注入する。より好ましくは、不純物密度が3×1015cm-3以上、3×1016cm-3以下の範囲である。引き続き、900℃~1400℃程度で30分~2時間程度で熱処理を行い、第3不動化層21dを形成する。
【0061】
その後、図33に示すように、気相エピタキシャル成長技術等により、第2中間成長層2bsの上に第3中間成長層を更にエピタキシャル成長をし、第2中間成長層2bsと第3中間成長層からなる再結合促進層2bを、欠陥変換層2aの上に形成する。再結合促進層2bは、例えば、厚さが5μm~10μm程度で、窒素(N)等のn型の不純物元素が2×1017cm-3~5×1017cm-3程度の不純物密度で添加されている。
【0062】
図34に示すように、気相エピタキシャル成長技術等により、再結合促進層2bの上に中間成長層3eを第4中間成長層としてエピタキシャル成長させる。中間成長層(第4中間成長層)3eは、例えば、厚さが1μm程度で、N等のn型の不純物元素が1×1014cm-3~1×1017cm-3程度の不純物密度で添加されている。そして、イオン注入技術により、再結合促進層2bと中間成長層3eの界面近傍の中間成長層3e内に成長層側基底面転位22を不動化する原子となる、例えばAr原子のイオンを1×1014cm-3~1×1018cm-3程度の注入量でイオン注入する。引き続き、900℃~1400℃程度で30分~2時間程度で熱処理を行い、第4不動化層21eを形成する。
【0063】
その後、気相エピタキシャル成長技術等により、中間成長層(第4中間成長層)3eの上に、主エピタキシャル成長層となるn型の上部成長層をエピタキシャル成長させ、図30に示した走行層3を形成する。走行層3には、例えばN等のn型の不純物元素が欠陥変換層2a及び再結合促進層2bより低不純物密度の1×1014cm-3~1×1017cm-3程度で添加されている。走行層3の厚さは10μm~数100μm程度の範囲であり、pinダイオードの耐圧仕様に応じて最適な厚さと不純物密度が選ばれる。例えば、耐圧1000Vで10μm程度、耐圧10kVで100μm程度が選ばれる。
【0064】
次いで、フォトリソグラフィ及びイオン注入技術等により、図27に示したように、走行層3の上部にAl等のp型の担体注入領域5を選択的に形成する。引き続き、化学機械研磨(CMP)等により、基板1sの下面を研磨して厚み調整をして、担体収集層1をカソード領域としての仕様に仕上げる。スパッタリングあるいは真空蒸着等により、担体収集層1の下面にAu等からなる裏面電極(カソード電極)9を形成する。更に、スパッタリングあるいは真空蒸着等により、Al等の金属膜を堆積し、表面電極(アノード電極)7を形成する。このようにして、第2実施形態の変形例に係る半導体装置が完成する。
【0065】
第2実施形態の変形例に係る半導体装置の製造方法では、上面に第2不動化層11が設けられた基板1sを用いている。基板1s上の欠陥変換層2a、欠陥変換層2a上の再結合促進層2b、及び再結合促進層2b上の走行層3のそれぞれの界面近傍に、第1不動化層21、第3不動化層21d、第4不動化層21eを設けている。そのため、それぞれのエピタキシャル成長中に伝播する成長層側基底面転位22の貫通転位への変換効率を向上させることができる。また、走行層3よりも高不純物密度の欠陥変換層2aの上には欠陥変換層2aよりも高不純物密度の再結合促進層2bをエピタキシャル成長している。したがって、担体収集層1と欠陥変換層2aとの界面に存在する成長層側基底面転位22に走行層3から注入される正孔密度を閾値の1×1015cm-3台以下に減少させることができる。その結果、半導体装置に順方向電流を流したときに、成長層側基底面転位22に起因する積層欠陥の拡大を防止し、半導体装置の順方向特性の劣化を抑制することができる。
【0066】
また、第2実施形態の変形例に係る半導体装置では、基板1s上に欠陥変換層2aをエピタキシャル成長させている。そのため、基板1sから伝播する成長層側基底面転位22は欠陥変換層2a内で貫通転位に変換される。また、再結合促進層2bは中間成長層(第4中間成長層)3eよりも高不純物密度のn型の不純物元素が添加されている。したがって、基板1sと緩衝層2との界面に存在する成長層側基底面転位22に中間成長層3eから注入される正孔密度を閾値の1×1015cm-3台以下に減少させることができる。その結果、成長層側基底面転位22が積層欠陥に拡大することを防止することができる。
【0067】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0068】
上述のように、基底面転位を不動化する原子となる不純物イオン注入の際に導入される結晶欠陥によって成長層側基底面転位を不動化しているが限定されない。例えば、基底面転位は、p型半導体領域によっても伝播が阻止される。そこで、図35に示すように、担体収集層1の上の緩衝層2にp型の複数の半導体領域30を選択的に設けて成長層側基底面転位22を不動化する層としてもよい。半導体領域30は、担体収集層1と緩衝層2の界面から緩衝層2内に延伸するように設けられる。担体収集層1の表面は、(0001)Si面であり、[0001](c軸)方向に対して[11-20]方向に0°~8°程度のオフ角を有する。図36に示すように、担体収集層1の上にエピタキシャル成長された緩衝層2の上面に[11-20]方向に直交する方向に互いに平行に延伸するストライプ状の複数の半導体領域30を設ける。図37に示すように、複数の半導体領域30は、それぞれ高さhで、隣接する半導体領域30の間隔dで配置されている。半導体領域30の幅は5μm以下が好ましい。例えば、オフ角をθとすれば、h/d>tanθとすれば、隣接する半導体領域30の間に存在する基底面転位は半導体領域に伝播を阻止され、緩衝層2内に閉じ込められる。その結果、[11-20]方向への基底面転位の移動が防止され、積層欠陥の拡大を防止することができる。
【0069】
図38及び図39に示す工程図を用いて、その他の実施形態に係る多層構造体の製造方法における半導体領域30の作製工程を説明する。図38に示すように、基板1sの上にエピタキシャル成長した緩衝層2の上面に、フォトリソグラフィ等を用いて、レジスト等の複数のマスク35を選択的に形成する。隣接するマスク35の間の開口部を介して緩衝層2にAl等のp型不純物のイオンの注入を行う。p型不純物のイオンの注入深さが基板1sと緩衝層2の界面に達するように加速電圧を調整して多段イオン注入を行う。イオン注入後にマスク35を除去し、p型不純物の活性化熱処理を行う。このようにして、図39に示すように、基板1sと緩衝層2の界面から緩衝層2内に延伸する複数の半導体領域30が形成される。
【0070】
なお、図40に示すように、緩衝層2のエピタキシャル成長前に基板1sの上面近傍に第2不動化層11を設けてもよい。基板1sに存在する基板側基底面転位12を不動化し、貫通転位への変換率を高くすることができる。また、図41に示すように、複数の半導体領域30のそれぞれを、基板1sとの界面から走行層3との界面まで緩衝層2の厚さ方向に延在させてもよい。
【0071】
このように、上記の実施形態及び各変形例において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0072】
1…担体収集層(カソード領域)
1s…基板
(1s,3e)…中間複合体
2…緩衝層
2a…欠陥変換層
2b…再結合促進層
3…走行層
3e…中間成長層(エピタキシャル成長層)
5…担体注入領域(アノード領域)
7…アノード電極(表面電極)
9…カソード電極(裏面電極)
11…第2不動化層
21…第1不動化層
21d…第3不動化層
21e…第4不動化層
12,12a、22…基底面転位
12c、22c…炭素芯
12s、22s…シリコン芯
14…貫通転位
30…半導体領域
221、221a、221b、221c…基底面転位を不動化する原子
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