(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】スピーカーおよび車両
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20241210BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20241210BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H04R1/28 310Z
H04R1/02 101Z
H04R1/02 102B
B60R11/02 S
(21)【出願番号】P 2019234223
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】松岡 潤弥
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-118366(JP,A)
【文献】特開平02-113697(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03477629(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/28-1/30
H04R 1/02
H04R 3/00-3/14
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
聴取空間に向けて放音する放音面を有する振動板と、
所定の周波数帯域に制限された音声を示す音声信号に基づいて、前記振動板を駆動する駆動部と、
少なくとも1つの開口部を有し、前記少なくとも1つの開口部とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間を前記聴取空間に向けて放音する放音面側に形成するように配置される音響部材と、を有し、
前記振動板は、コーン型であり、
前記音響部材は、板状の蓋部材であり、
前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記放音面からの音の周波数成分のうち、前記所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、前記所定の周波数帯域を超える成分を減衰させる、
スピーカー。
【請求項2】
聴取空間に向けて放音する放音面を有する振動板と、
所定の周波数帯域に制限された音声を示す音声信号に基づいて、前記振動板を駆動する駆動部と、
少なくとも1つの開口部を有し、前記少なくとも1つの開口部とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間を前記聴取空間に向けて放音する放音面側に形成するように配置される音響部材と、を有し、
前記音響部材の厚さは、前記少なくとも1つの開口部に向かって厚くなり、
前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記放音面からの音の周波数成分のうち、前記所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、前記所定の周波数帯域を超える成分を減衰させる、
スピーカー。
【請求項3】
前記ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数が前記音声信号の前記所定の周波数帯域における中心周波数よりも高域の周波数である、
請求項1
または2に記載のスピーカー。
【請求項4】
前記ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数が前記音声信号の前記所定の周波数帯域の上限値付近である、
請求項1
または2に記載のスピーカー。
【請求項5】
前記ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数が前記音声信号の前記所定の周波数帯域内の周波数である、
請求項
3または4に記載のスピーカー。
【請求項6】
前記少なくとも1つの開口部は、前記音響部材と前記振動板とが重なる方向からみて、前記振動板の中心を包含する1つの開口部である、
請求項1から
5のいずれか1項に記載のスピーカー。
【請求項7】
前記少なくとも1つの開口部は、複数の開口部である、
請求項1から
5のいずれか1項に記載のスピーカー。
【請求項8】
聴取空間に向けて放音する放音面を有するコーン型の振動板を含み、前記振動板が所定の周波数帯域に制限された音声を示す音声信号に基づいて駆動される放音ユニットと、
前記放音面を外部空間に露出させた状態で前記放音ユニットが取り付けられるキャビネットと、
少なくとも1つの開口部を有し、前記キャビネットに取り付けられる板状の音響部材と、を有し、
前記音響部材は、前記少なくとも1つの開口部とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間を前記聴取空間に向けて放音する放音面側に形成するように配置され、
前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記放音面からの音の周波数成分のうち、前記所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、前記所定の周波数帯域を超える成分を減衰させる、
スピーカー。
【請求項9】
前記ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数は、2KHz以上5KHz以下の範囲内にある、
請求項1から
8のいずれか1項に記載のスピーカー。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか1項に記載のスピーカーを有する、
車両。
【請求項11】
前記聴取空間と遮蔽物により隔てられる空間に当該スピーカーが設置される、
請求項
10に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカーおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルムホルツ共鳴を利用するスピーカーが知られている。例えば、特許文献1には、ハウジングに収納された振動板の振動により音を発する発音ユニットが開示される。当該ハウジングは、当該振動板の前面側に設けられるケース本体部を有する。当該ケース本体部と当該振動板との間には、空間が形成されており、当該ケース本体部には、複数の開口部が設けられる。当該空間および当該開口部によってヘルムホルツ共鳴器が構成される。特許文献1に記載のユニットでは、振動板から発せられた音における基本周波数の音圧が当該ヘルムホルツ共鳴器によって高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、車載用等のスピーカーは、インストルメントパネルまたはヘッドコンソール等のパネルの内側に配置される。ここで、意匠的な観点等からスピーカーがパネルにより覆われる場合がある。この場合、当該パネルがスピーカーからの音の伝播を妨げる障害物となり、スピーカーからの高域の音が減衰してしまう。特許文献1に記載のユニットでは、当該高域の音を好適に高めることができない。このため、特許文献1に記載のユニットでは、車載用等として用いた場合、スピーカーからの音声が聞き取りづらくなるという課題がある。
【0005】
以上の事情を考慮して、本発明は、スピーカーの正面に障害物がある環境下でも、スピーカーからの音声を聞き取りやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係るスピーカーは、放音する放音面を有する振動板と、所定の周波数帯域に制限された音声を示す音声信号に基づいて、前記振動板を駆動する駆動部と、少なくとも1つの開口部を有し、前記少なくとも1つの開口部とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間を前記放音面との間に形成するように配置される音響部材と、を有し、前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記放音面からの音の周波数成分のうち、前記所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、前記所定の周波数帯域を超える成分を減衰させる。
【0007】
本発明の他の好適な態様に係るスピーカーは、放音する放音面を有するコーン型の振動板を含む放音ユニットと、前記放音面を外部空間に露出させた状態で前記放音ユニットが取り付けられるキャビネットと、少なくとも1つの開口部を有し、前記キャビネットに取り付けられる板状の音響部材と、を有し、前記音響部材は、前記少なくとも1つの開口部とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間を前記放音面との間に形成するように配置される。
【0008】
本発明の好適な態様に係る車両は、前述のいずれかの態様に係るスピーカーを有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るスピーカーの外観を概略的に示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るスピーカーの断面図である。
【
図3】典型的なヘルムホルツ共鳴器を概念的に示す図である。
【
図4】スピーカーからの音の周波数特性を示すグラフである。
【
図5】第1実施形態における音響部材の平面図である。
【
図7】第2実施形態における音響部材の平面図である。
【
図9】聴取空間と遮蔽物により隔てられる空間にスピーカーが設置される場合を説明するための概念図である。
【
図10】スピーカーが車両に設置される場合を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に記載する実施形態は、本発明の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0011】
1-1.スピーカーの概略
図1は、第1実施形態に係るスピーカー10の外観を概略的に示す斜視図である。
図2は、第1実施形態に係るスピーカー10の断面図である。
【0012】
以下では、説明の便宜上、互いに直交する「X軸」、「Y軸」および「Z軸」を適宜に用いて説明する。また、X軸に沿う一方向を「X1方向」といい、X1方向とは反対の方向を「X2方向」という。同様に、Y軸に沿う一方向を「Y1方向」といい、Y1方向とは反対の方向を「Y2方向」という。Z軸に沿う一方向を「Z1方向」といい、Z1方向とは反対の方向を「Z2方向」という。ここで、Z軸は、後述する振動板21の振動方向に沿う軸である。また、Z1方向またはZ2方向からみることを「平面視」という。
【0013】
スピーカー10は、例えば、自動車等の車両のインストルメントパネルまたはヘッドコンソール等のパネルの内側に配置される車載用のスピーカーである。スピーカー10は、図示しないアンプ等の外部装置から入力される音声信号により駆動されることで、当該音声信号に基づく音声を放音する。当該音声信号は、所定の周波数帯域に制限された音声を示す信号である。当該所定の周波数帯域は、例えば、一般に音声通信に用いられる帯域であり、具体的には、0.3KHz以上3.4KHz以下の範囲である。
【0014】
なお、スピーカー10の用途は、車載用に限定されず、他の用途でもよい。また、スピーカー10は、聴取空間と遮蔽物により隔てられる空間に設置される場合に好適である。
【0015】
図1および
図2に示すように、スピーカー10は、放音ユニット20とキャビネット30と音響部材40とを有する。
【0016】
図2に示すように、放音ユニット20は、振動板21と駆動部22とフレーム23とを有し、これらをユニット化した構造体である。
【0017】
振動板21は、シート材で構成される振動体である。当該シート材は、例えば、樹脂材料を繊維基材に含浸させた状態で硬化または固化することで得られる。当該樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、変性ゴム樹脂およびフェノール樹脂等が挙げられる。当該繊維基材としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、ジルコニア繊維、ポリアクリレート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、綿繊維、麻繊維およびセルロース繊維等が挙げられる。
【0018】
振動板21は、放音する放音面21aを有する。振動板21は、Z軸に沿う方向に振動するように配置されており、放音面21aは、振動板21の両面のうちのZ1方向側の面である。本実施形態の振動板21は、コーン型である。このため、放音面21aは、振動板21の内壁面である。なお、振動板21の形状は、コーン型に限定されず、例えば、ドーム型等でもよい。
【0019】
駆動部22は、入力される音声信号に基づいて振動板21を駆動する機構である。駆動部22は、例えば、振動板21に固定されるコイルと、当該コイルに作用する磁界を発生させる永久磁石と、を有する。当該コイルは、電気的な音声信号が入力されることで、当該永久磁石との間における磁力の相互作用により振動板21を振動させる。この振動により、放音面21aから当該音声信号に基づく音声が放音される。なお、駆動部22は、音声信号に基づいて振動板21を駆動することができればよく、コイルおよび永久磁石を有する構成に限定されず、任意である。
【0020】
フレーム23は、振動板21および駆動部22を支持する構造体である。フレーム23は、例えば、鉄または金属材料または樹脂材料で構成される。フレーム23には、振動板21および駆動部22がネジ止めまたは接着剤等により適宜に固定される。なお、フレーム23の形状は、振動板21および駆動部22を支持することができればよく、
図2に示す形状に限定されず、任意である。
【0021】
キャビネット30は、放音ユニット20および音響部材40が取り付けられる箱体である。キャビネット30は、例えば、樹脂材料または金属材料で構成される。
【0022】
キャビネット30は、概略的に、空間S0を有する中空の直方体である。具体的には、キャビネット30は、X軸に沿う方向に並ぶ側板31X1および31X2と、Y軸に沿う方向に並ぶ側板31Y1および31Y2と、Z軸に沿う方向に並ぶ天板31Z1および底板31Z2と、を有する。側板31X1および31X2のそれぞれは、X軸に垂直な平板状の部材である。側板31Y1および31Y2のそれぞれは、Y軸に垂直な平板状の部材である。天板31Z1および底板31Z2のそれぞれは、Z軸に垂直な平板状の部材である。
【0023】
これらの板のうち、天板31Z1には、放音ユニット20および音響部材40が取り付けられる。ここで、放音ユニット20および音響部材40のそれぞれは、天板31Z1に対して嵌合、ネジ止めまたは接着剤等により固定される。放音ユニット20は、天板31Z1と底板31Z2との間に配置される。したがって、放音ユニット20は、キャビネット30の空間S0内に配置される。また、天板31Z1には、振動板21の放音面21aを外部空間に露出させるための開口部32が設けられる。
【0024】
音響部材40は、前述の振動板21の放音面21aとの間に空間S1を形成するように配置され、開口部41を有する部材である。本実施形態の音響部材40は、後に詳述するように板状をなし、Z軸に垂直な平面に沿って配置される。
【0025】
空間S1および開口部41は、ヘルムホルツ共鳴器を構成する。当該ヘルムホルツ共鳴器は、放音面21aからの音の周波数成分のうち、音声信号の所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、当該所定の周波数帯域を超える成分を減衰させる。
【0026】
この音成分の増強により、スピーカー10の正面に障害物がある環境下でも、当該所定の周波数帯域内における音量低下を低減する効果が得られる。また、この音成分の減衰により、スピーカー10の高調波歪みにより発生する音を低減する効果が得られる。これらの効果により、S/N比が改善されるので、スピーカー10の正面に障害物がある環境下でも、スピーカー10からの音声を聞き取りやすくすることができる。
【0027】
1-2.ヘルムホルツ共鳴器の作用
図3は、典型的なヘルムホルツ共鳴器50を概念的に示す図である。ヘルムホルツ共鳴器50は、容器51と、容器51に接続される管52と、を有する。ヘルムホルツ共鳴器50では、容器51内および管52内の空気は、管52内の空気を質量とし、容器51内の空気をバネとする振動系を構成する。したがって、ヘルムホルツ共鳴器50は、この振動系の共鳴周波数の音圧を高める。また、ヘルムホルツ共鳴器50は、この振動系の共鳴周波数から所定以上高い帯域の音圧を低める。
【0028】
ここで、容器51内の体積をVとし、管52の長さをlとし、管52内の横断面積をsとするとき、ヘルムホルツ共鳴器50の共鳴周波数f
0は、以下の式(1)で表される。
【数1】
【0029】
この式(1)において、cは、空気中の音速である。また、δは、開口端補正値であり、管52内の横断面形状が円形である場合、管52内の直径をdとするとき、δ≒0.8×dで表される。前述の式(1)から理解される通り、体積V、断面積sおよび長さlに応じて、ヘルムホルツ共鳴器50の共鳴周波数f0を調整することができる。具体的には、体積Vまたは長さlが小さくなるほど、または、断面積sが大きくなるほど、共鳴周波数f0が大きくなる。
【0030】
前述の構成のスピーカー10において、空間S1は、前述の容器51内の空間に相当する。また、音響部材40の開口部41が前述の管52に相当する。したがって、Z軸に沿う開口部41の長さが前述の長さlに相当する。このため、開口部41の断面積または長さに応じて、所望の共鳴周波数f0を調整することができる。また、開口部41の断面積または長さの異なる複数の音響部材40を用意しておき、キャビネット30に取り付ける音響部材40を交換することで、共鳴周波数f0の選択が可能である。
【0031】
図4は、スピーカー10からの音の周波数特性を示すグラフである。
図4では、音響部材40を有するスピーカー10の特性が実線で示され、スピーカー10から音響部材40を省略した場合の特性が破線で示される。また、
図4では、音声信号の周波数帯域が0.3KHz以上3.4KHz以下の範囲である場合が図示される。
【0032】
図4に示す例では、前述のヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数f
0が音声信号の周波数帯域の上限値付近である。この結果、音響部材40を用いる場合、音響部材40を用いない場合に比べて、音声信号の周波数帯域内の成分が増強されるとともに、音声信号の周波数帯域を超える成分が減衰される。
【0033】
図4に示す例では、共鳴周波数f
0が音声信号の周波数帯域を超える周波数であるが、これに限定されず、共鳴周波数f
0が音声信号の周波数帯域内の周波数であってもよい。ただし、S/N比を容易かつ効果的に高められるという観点から、共鳴周波数f
0が音声信号の周波数帯域における中心周波数よりも高域の周波数であることが好ましい。
【0034】
具体的には、開口部41および空間S1で構成されるヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数f0は、前述のように、当該所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、当該所定の周波数帯域を超える成分を減衰させることができればよいが、S/N比をより改善する観点から、例えば、好ましくは、1KHz以上5KHz以下の範囲内にあり、より好ましくは、2KHz以上5KHz以下の範囲内にある。
【0035】
1-3.音響部材40の詳細
図5は、第1実施形態における音響部材40の平面図である。
図6は、
図5中のA1-A1線断面図である。
図5に示すように、音響部材40は、平面視で略円形の外形をなす。
図5に示す例では、音響部材40の外周には、4つの突起42が設けられる。このため、前述のキャビネット30の開口部32の形状を音響部材40の外周に嵌め合う形状とすることで、キャビネット30に対する音響部材40の周方向での位置ずれを防止することができる。なお、突起42の形状、位置または数等は、
図5に示す例に限定されず、任意である。また、突起42は、必要に応じて設ければよく、省略してもよい。
【0036】
音響部材40は、前述のように板状をなしており、厚さ方向に貫通する開口部41を有する。本実施形態では、音響部材40が有する開口部41の数は、1つである。
図5に示す例では、音響部材40の開口部41は、平面視で、前述の放音面21aの中心PCを包含する円形をなす。なお、開口部41の平面視形状は、円形に限定されず、例えば、三角形、四角形、五角形または六角形等の多角形でもよいし、スリット状、星形または楕円形等でもよい。
【0037】
図6に示すように、音響部材40の厚さは、一定厚さの第1部分43と、第1部分43よりも厚い第2部分44と、を有する。
【0038】
第1部分43は、音響部材40における外周に沿う環状の部分である。第1部分43の厚さは、厚さt1で一定である。
図6に示す例では、第1部分43におけるZ2方向側の面には、音響部材40の周方向に沿って延びる凸部45が設けられる。凸部45は、キャビネット30の開口部32の壁面に接触する。このため、キャビネット30に対する音響部材40の位置ずれが防止される。なお、凸部45は、必要に応じて設ければよく、省略してもよい。
【0039】
第2部分44は、音響部材40における第1部分43よりも内側の部分である。第2部分44の厚さは、音響部材40の径方向での外側から内側に向かうに従い、厚さt1から厚さt2に変化する。
図6に示す例では、第2部分44の厚さは、音響部材40の径方向での外側から内側に向かうに従い連続的に変化する。なお、第2部分44の厚さは、音響部材40の径方向での外側から内側に向かうに従い段階的に変化してもよい。
【0040】
第2部分44には、開口部41が設けられる。このため、開口部41の長さlは、第2部分44の厚さt2に等しい。
図6に示す例では、開口部41の幅は、開口部41の中心からZ1方向およびZ2方向に向かうに従い拡がる。このため、開口部41の幅が一定である場合に比べて、開口部41での音の損失が低減される。なお。開口部41の幅が一定でもよい。
【0041】
以上のように、スピーカー10は、振動板21と駆動部22と音響部材40とを有する。振動板21は、放音する放音面21aを有する。駆動部22は、所定の周波数帯域に制限された音声を示す音声信号に基づいて、振動板21を駆動する。音響部材40は、1つの開口部41を有し、当該1つの開口部41とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間S1を放音面21aとの間に形成するように配置される。当該ヘルムホルツ共鳴器は、放音面21aからの音の周波数成分のうち、当該所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、当該所定の周波数帯域を超える成分を減衰させる。
【0042】
以上のスピーカー10では、放音面21aからの音の周波数成分のうち、音声信号の所定の周波数帯域内の成分が増強される。このため、スピーカー10の正面に障害物がある環境下でも、当該所定の周波数帯域内における音量低下を低減することができる。そのうえ、放音面21aからの音の周波数成分のうち、音声信号の所定の周波数帯域を超える成分が減衰される。このため、スピーカー10の高調波歪みにより発生する音を低減することもできる。以上より、S/N比が改善されるので、スピーカー10の正面に障害物がある環境下でも、スピーカー10からの音声を聞き取りやすくすることができる。
【0043】
ここで、スピーカー10は、放音ユニット20とキャビネット30と板状の音響部材40とを有する。放音ユニット20は、放音する放音面21aを有するコーン型の振動板21を含む。キャビネット30は、放音面21aを外部空間に露出させた状態で放音ユニット20が取り付けられる。音響部材40は、1つの開口部41とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間S1を放音面21aとの間に形成するように配置された状態でキャビネット30に取り付けられる。
【0044】
このように、本実施形態の振動板21は、コーン型である。このため、板状等の部材を用いて音響部材40を構成することができる。このため、音響部材40が複雑な形状となったり、当該空間S1の必要な大きさを確保するためのスペーサー等の部材を別途用意したりしなくて済む。また、スピーカー10の小型化等を図ることができる。
【0045】
本実施形態の音響部材40は、板状の蓋部材である。このため、音響部材40の形状が箱状等の複雑な形状である場合に比べて、音響部材40の製造および取付等が容易となる。
【0046】
また、音響部材40の厚さは、開口部41に向かって厚くなる。このため、音響部材40の板厚を利用してヘルムホルツ共鳴器の首の長さlを長くすることができる。この結果、音響部材40の製造が容易となる。また、取り付けに用いられる音響部材40の外周部の厚さが薄くなるので、音響部材40の取り付けに関する構成が簡素化される。
【0047】
ここで、開口部41は、音響部材40と振動板21とが重なる方向(Z1方向またはZ2方向)からみて、振動板21の中心CPを包含する1つの開口部である。このため、音響部材40に設ける開口部の数が複数である場合に比べて、開口部41の断面積を大きくしやすい。このため、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数f0を高くしやすいという利点がある。
【0048】
2.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0049】
図7は、第2実施形態における音響部材40Aの平面図である。
図8は、
図7中のA2-A2線断面図である。音響部材40Aは、1つの開口部41に代えて複数の開口部41Aを有するとともに厚さが異なる以外は、前述の第1実施形態の音響部材40Aと同様である。
【0050】
具体的に説明すると、
図7に示すように、音響部材40Aは、複数の開口部41Aを有する。当該複数の開口部41Aは、音響部材40Aと前述の放音面21aとの間の空間S1とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する。ここで、当該複数の開口部41Aの合計の断面積が前述の断面積sに相当する。
【0051】
図7に示す例では、当該複数の開口部41Aは、千鳥状に規則的に配置される。また、各開口部41Aは、平面視で円形をなす。なお、複数の開口部41Aの配置は、行列状等の他の規則的な配置でもよいし、ランダムであってもよい。ただし、複数の開口部41Aの配置が規則的である場合、複数の開口部41Aの配置がランダムである場合に比べて、音響部材40Aの設計が容易である。また、各開口部41Aの平面視形状は、円形に限定されず、例えば、三角形、四角形、五角形または六角形等の多角形でもよいし、スリット状、星形または楕円形等でもよい。さらに、開口部41Aの数は、
図7に示す数に限定されず、任意である。また、複数の開口部41Aの大きさは、互いに異なってもよい。
【0052】
図8に示すように、音響部材40AにおけるZ2方向側の面には、凹部46および47が設けられる。このため、凹部46および47を省略した場合に比べて、空間S1の体積を大きくすることができる。また、Z軸に沿う各開口部41Aの長さを小さくすることができる。ここで、凹部46の幅W1は、凹部47の幅W2よりも大きい。また、凹部46を囲む壁部45Aは、前述の凸部45と同様、キャビネット30に対する音響部材40の位置ずれを防止する。
【0053】
以上の第2実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態の音響部材40Aは、複数の開口部41Aを有するので、各開口部41Aを指等が入らない大きさとすることができる。このため、音響部材40Aの設置時等における振動板21の損傷を低減することができる。
【0054】
3.応用例
図9は、聴取空間S2と遮蔽物200により隔てられる空間S3にスピーカー10が設置される場合を説明するための概念図である。聴取空間S2は、ユーザーUが存在する空間である。空間S3は、スピーカー10が設置される空間である。遮蔽物200は、聴取空間S2と空間S3との間を隔てる構造体である。
図9に示す例では、遮蔽物200が空間S3を囲む形状をなす。また、遮蔽物200には、複数の孔201が設けられる。
【0055】
ここで、スピーカー10からの音は、各孔201を介して空間S3から聴取空間S2へ伝わる。しかし、遮蔽物200の意匠的な都合上からスピーカー10の正面に孔201を配置することができない場合がある。この場合でも、スピーカー10において前述のようにヘルムホルツ共鳴器による音圧の調整が行われるので、ユーザーUがスピーカー10からの音声を聞き取りやすい。
【0056】
図10は、スピーカー10が車両100に設置される場合を説明するための図である。
図10では、車両100のインストルメントパネル101の内側にスピーカー10が設置される場合が示される。このようにスピーカー10を有する車両100では、インストルメントパネル101の内側にスピーカー10を配置しても、スピーカー10からの音声を聞き取りやすくすることができる。このため、インストルメントパネル101のデザインの自由度が増すので、意匠性に優れる車両100を提供することができる。
【0057】
4.変形例
本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる各種の変形が可能である。また、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0058】
4-1.変形例1
前述の形態では、音響部材40または40Aがキャビネット30に直接取り付けられる構成が例示されるが、この例示に限定されない。例えば、キャビネット30と音響部材40との間に枠状のスペーサーを配置してもよい。この場合、当該スペーサーの厚さまたは径により、空間S1の体積を調整し、所望の共鳴周波数f0を得ることができる。
【0059】
4-2.変形例2
前述の形態では、音響部材40または40Aが板状をなす場合が例示されるが、この例示に限定されない。例えば、音響部材がトレイ状をなしてもよい。
【0060】
4-3.変形例3
前述の形態では、音響部材40または40Aがキャビネット30とは別体であるが、これに限定されず、音響部材40または40Aがキャビネット30と一体でもよい。
【0061】
5.付記
以上に例示する形態または変形例から、例えば以下の態様が把握される。
【0062】
本発明の好適な態様(第1態様)に係るスピーカーは、放音する放音面を有する振動板と、所定の周波数帯域に制限された音声を示す音声信号に基づいて、前記振動板を駆動する駆動部と、少なくとも1つの開口部を有し、前記放音面との間に前記少なくとも1つの開口部とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間を形成するように配置される音響部材と、を有し、前記ヘルムホルツ共鳴器は、前記放音面からの音の周波数成分のうち、前記所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、前記所定の周波数帯域を超える成分を減衰させる。
【0063】
以上の態様によれば、放音面からの音の周波数成分のうち、音声信号の所定の周波数帯域内の成分が増強される。このため、スピーカーの正面に障害物がある環境下でも、当該所定の周波数帯域内における音量低下を低減することができる。そのうえ、放音面からの音の周波数成分のうち、音声信号の所定の周波数帯域を超える成分が減衰される。このため、スピーカーの高調波歪みにより発生する音を低減することもできる。以上より、S/N比が改善されるので、スピーカーの正面に障害物がある環境下でも、スピーカーからの音声を聞き取りやすくすることができる。
【0064】
第1態様の好適例(第2態様)において、前記振動板は、コーン型である。以上の態様によれば、板状等の部材を用いて音響部材を構成することができる。このため、音響部材が複雑な形状となったり、当該空間の必要な大きさを確保するためのスペーサー等の部材を別途用意したりしなくて済む。また、スピーカーの小型化等を図ることができる。
【0065】
第2態様の好適例(第3態様)において、前記音響部材は、板状の蓋部材である。以上の態様によれば、音響部材の形状が箱状等の複雑な形状である場合に比べて、音響部材の製造および取付等が容易となる。
【0066】
第3態様の好適例(第4態様)において、前記音響部材の厚さは、前記少なくとも1つの開口部に向かって厚くなる。以上の態様によれば、音響部材の板厚を利用してヘルムホルツ共鳴器の首の長さを長くすることができる。この結果、音響部材の製造が容易となる。また、取り付けに用いられる音響部材の外周部の厚さを薄くすることができ、この結果、音響部材の取り付けに関する構成が簡素化される。
【0067】
第1態様から第4態様のいずれかの好適例(第5態様)において、前記少なくとも1つの開口部は、前記音響部材と前記振動板とが重なる方向からみて、前記振動板の中心を包含する1つの開口部である。以上の態様によれば、開口部の数が複数である場合に比べて、開口部の断面積を大きくしやすい。このため、ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数を高くしやすいという利点がある。
【0068】
第1態様から第4態様のいずれかの好適例(第6態様)において、前記少なくとも1つの開口部は、複数の開口部である。以上の態様によれば、開口部を指等が入らない大きさとすることができる。このため、音響部材の設置時等における振動板の損傷を低減することができる。
【0069】
本発明の好適な態様(第7態様)に係るスピーカーは、放音する放音面を有するコーン型の振動板を含む放音ユニットと、前記放音面を外部空間に露出させた状態で前記放音ユニットが取り付けられるキャビネットと、少なくとも1つの開口部を有し、前記キャビネットに取り付けられる板状の音響部材と、を有し、前記音響部材は、前記少なくとも1つの開口部とともにヘルムホルツ共鳴器を構成する空間を前記放音面との間に形成するように配置される。
【0070】
以上の態様によれば、ヘルムホルツ共鳴器により、放音面からの音の周波数成分のうち、音声信号の所定の周波数帯域内の成分を増強させるとともに、当該所定の周波数帯域を超える成分を減衰させることができる。このため、前述の第1態様と同様、S/N比が改善されるので、スピーカーの正面に障害物がある環境下でも、スピーカーからの音声を聞き取りやすくすることができる。
【0071】
第1態様から第7態様のいずれかの好適例(第8態様)において、前記ヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数は、2KHz以上5KHz以下の範囲内にある。以上の態様によれば、S/N比が改善されるので、スピーカーからの音声がより聞き取りやすくなる。
【0072】
本発明の好適な態様(第9態様)に係る車両は、前述のいずれかの態様のスピーカーを有する。以上の態様によれば、インストルメントパネルまたはヘッドコンソール等のパネルの内側にスピーカーを配置しても、スピーカーからの音声を聞き取りやすくすることができる。このため、意匠性に優れる車両を提供することができる。
【0073】
第9態様の好適例(第10態様)において、聴取空間と遮蔽物により隔てられる空間に当該スピーカーが設置される。以上の態様によれば、スピーカーからの音が遮蔽物により減衰した後に聴取空間で聴取されるので、本発明を適用することにより得られる効果が顕著である。
【符号の説明】
【0074】
10…スピーカー、20…放音ユニット、21…振動板、21a…放音面、22…駆動部、30…キャビネット、40…音響部材、40A…音響部材、41…開口部、41A…開口部、50…ヘルムホルツ共鳴器、100…車両、101…インストルメントパネル、200…遮蔽物、CP…中心、PC…中心、S0…空間、S1…空間、S2…聴取空間、S3…空間、f0…共鳴周波数、t1…厚さ、t2…厚さ。