(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】移動体用演算装置の冷却構造
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20241210BHJP
H01L 23/473 20060101ALI20241210BHJP
G06F 1/20 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H05K7/20 N
H01L23/46 Z
G06F1/20 A
G06F1/20 C
(21)【出願番号】P 2020084579
(22)【出願日】2020-05-13
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勉
(72)【発明者】
【氏名】吉武 慎介
(72)【発明者】
【氏名】森本 康治
(72)【発明者】
【氏名】岡野 俊一
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0068748(US,A1)
【文献】特開2011-171663(JP,A)
【文献】特開2001-068880(JP,A)
【文献】国際公開第2019/012801(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
H01L 23/473
G06F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体用演算装置の冷却構造であって、
箱状の筐体と、
前記筐体内に収容され、発熱素子が実装された一対の実装基板と、
前記筐体に固定されかつ前記筐体内に収容され、冷却水が流通する流通経路を有する冷却体と、を備え、
前記冷却体は、前記筐体の内部を二室に区分するように配置され、
前記実装基板は、前記冷却体と熱的に接続された状態で前記二室に1つずつ配置されるとともに、前記筐体に対してそれぞれ取り外し可能にかつ前記冷却体と分離可能に前記筐体に取り付けられ
、
前記筐体は、
前記一対の実装基板のうち一方の実装基板が取り付けられる第1基板側部材と、
前記一対の実装基板のうち他方の実装基板が取り付けられる第2基板側部材と、
前記冷却体が固定される冷却体固定部材と、
を有し、
前記第1基板側部材、前記第2基板側部材、及び前記冷却体固定部材は、互いに分離可能に構成されていることを特徴とする移動体用演算装置の冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体用演算装置の冷却構造において
前記筐体は、外観が直方体形状の箱状をなし、
前記一対の実装基板は、電源ラインと接続される第1コネクタをそれぞれ有し、
前記流通経路は、前記冷却水が流通する流通路と接続される第2コネクタを有し、
前記各第1コネクタは、前記筐体の第1壁部に設けられた第1孔部を通って、該筐体の外部にそれぞれ突出し、
前記第2コネクタは、前記筐体における前記第1壁部とは異なる第2壁部に設けられた第2孔部を通って、該筐体の外部に突出することを特徴とする移動体用演算装置の冷却構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の移動体用演算装置の冷却構造において、
前記各実装基板は、前記冷却体側に面する第1実装面と、該第1実装面と対向しかつ前記冷却体とは反対側に位置する第2実装面との両方に前記発熱素子を実装可能な両面実装型の基板であり、
前記発熱素子は、相対的に発熱量の大きい第1発熱素子と、相対的に発熱量の小さい第2発熱素子とを含み、
前記第1発熱素子は前記第1実装面にそれぞれ実装され、
前記第2発熱素子は前記第2実装面にそれぞれ実装されていることを特徴とする移動体用演算装置の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、移動体用演算装置の冷却構造に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車や鉄道車両などの移動体に備えられたアクチュエータのほぼ全てが電子制御されるようになっている。電子制御を行うための演算装置は、例えば、半導体素子により構成される。このような電子素子は、一般に熱に弱いため、適切に冷却する必要がある。コンピュータの分野では、電子素子を有する演算装置の冷却構造が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、電子部品が実装された一対の電子カード(実装基板)と、自律液体冷却デバイス(冷却体)とを有し、一対の電子カードで自律液体冷却デバイスを挟んでサンドイッチ構造体を形成し、該サンドイッチ構造体を筐体内に収容する冷却構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実装基板の電子部品が故障したり、実装基板に設けられた配線が断線したりしたときには、筐体から実装基板を取り出して修理を行う必要がある。また、電子部品の交換を行う際にも筐体から実装基板を取り出す必要がある。特許文献1に記載の冷却構造では、一対の実装基板で冷却体を挟んでサンドイッチ構造体を1つのユニットとしているため、筐体から実装基板を取り出す際には、サンドイッチ構造体ごと筐体から外す必要がある。したがって、一対の実装基板のうちの一方の実装基板が故障したときであっても、故障していない他方の実装基板及び冷却体も一緒に筐体から取り出す必要がある。
【0006】
冷却体を筐体から外すときには、冷却液が実装基板に付着するおそれがある。冷却液が実装基板に付着すると、短絡が発生して故障の原因となり得る。このため、故障していない他方の実装基板が故障してしまうおそれがある。また、電子部品としての集積回路をアップデートのために交換するときに冷却液が実装基板に付着して、実装基板の電子回路が故障してしまうと、本来必要のない修理を行う必要が生じてしまい、無駄な作業が生じてしまう。
【0007】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするとこは、演算装置の冷却効率を維持しつつメンテナンス性を向上させる演算装置の冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、移動体用演算装置の冷却構造を対象として、箱状の筐体と、前記筐体内に配置され、発熱素子が実装された一対の実装基板と、前記筐体に固定され、冷却媒体が流通する流通経路を有する冷却体と、を備え、前記冷却体は、前記筐体の内部を二室に区分するように配置され、前記実装基板は、前記冷却体と熱的に接続された状態で前記二室に1つずつ配置されるとともに、前記筐体にそれぞれ取り外し可能に取り付けられている、という構成とした。
【0009】
この構成によると、実装基板と筐体とは着脱可能である。冷却体は筐体に固定されている。このため、冷却体を筐体から取り外すことなく、実装基板を筐体から取り出すことができる。各実装基板は、冷却体によって区分された部屋に1つずつ配置されているため、各実装基板は互いに独立して冷却体による冷却が可能である。したがって、演算装置の冷却効率を維持しつつメンテナンス性を向上させることができる。
【0010】
前記移動体用演算装置の冷却構造において、前記筐体は、外観が直方体形状の箱状をなし、前記一対の実装基板は、電源ラインと接続される第1コネクタをそれぞれ有し、前記流通経路は、前記冷却媒体が流通する流通路と接続される第2コネクタを有し、前記各第1コネクタは、前記筐体の第1壁部に設けられた第1孔部を通って、該筐体の外部にそれぞれ突出し、前記第2コネクタは、前記筐体における前記第1壁部とは異なる第2壁部に設けられた第2孔部を通って、該筐体の外部に突出する、という構成でもよい。
【0011】
この構成によると、実装基板を筐体から取り外すときに、第1コネクタが第2コネクタと干渉しにくくなる。また、第1孔部から冷却媒体が筐体内に浸入することを抑制することができる。このため、実装基板に冷却媒体が付着して実装基板が故障する可能性を出来る限り低くすることができる。これにより、演算装置のメンテナンス性をより向上させることができる。
【0012】
前記移動体用演算装置の冷却構造において、前記各実装基板は、前記冷却体側に面する第1実装面と、該第1実装面と対向しかつ前記冷却体とは反対側に位置する第2実装面との両方に前記発熱素子を実装可能な両面実装型の基板であり、前記発熱素子は、相対的に発熱量の大きい第1発熱素子と、相対的に発熱量の小さい第2発熱素子とを含み、前記第1発熱素子は前記第1実装面にそれぞれ実装され、前記第2発熱素子は前記第2実装面にそれぞれ実装されている、という構成でもよい。
【0013】
すなわち、発熱量の大きい素子ほど積極的に冷却する必要がある。前記の構成によると、相対的に発熱量の大きい第1発熱素子が冷却体側に位置するため、該第1発熱素子を積極的に冷却することができ、演算装置の冷却効率を向上させることができる。
【0014】
前記移動体用演算装置の冷却構造において、前記筐体は、前記一対の実装基板のうち一方の実装基板が取り付けられる第1基板側部材と、前記一対の実装基板のうち他方の実装基板が取り付けられる第2基板側部材と、前記冷却体が固定される冷却体固定部材とを有し、前記第1基板側部材、前記第2基板側部材、及び前記冷却体固定部材は、互いに分離可能に構成されている、という構成でもよい。
【0015】
この構成によると、例えば、一対の実装基板のうち一方の実装基板のみが故障したときには、一方の実装基板のみを第1基板側部材ごと分離させることができる。これにより、新たな故障のリスクが低減されるとともに、演算装置のメンテナンス性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、一対の実装基板のそれぞれを冷却体から分離して筐体から取り出すことができるため、演算装置の冷却効率を維持しつつメンテナンス性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】例示的な実施形態に係る冷却構造を有する演算装置が搭載された自動車を示す概略図である。
【
図4】
図3におけるIV-IV線で切断した断面図である。
【
図5】
図3におけるV-V線で切断した断面図である。
【
図6】筐体の内部において冷却体側から上側部材を見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る演算装置が搭載された自動車1を示す。この自動車1は、不図示の駆動装置(エンジンやモータ)が車両前側に搭載されたFF式又はFR式の自動車である。自動車1は演算装置100を備える。演算装置100は、コンピュータハードウェアであって、具体的には、CPUを有するプロセッサ、複数のモジュールが格納されたメモリ等を有している。演算装置100は、モジュールを構成する複数の電気素子10(
図3等参照)が搭載されている。複数の電気素子10は、自動車1の自動運転を可能にするためのプログラムが記録された特定集積回路11を含む。この自動運転用の特定集積回路11は、人工知能(Artificial Intelligence:AI)が搭載されていてもよい。電気素子10は、発熱素子の一例である。
【0020】
自動車1は、演算装置100に供給する電力が蓄積されたバッテリ4を有する。バッテリ4は電源ライン5により、演算装置100と電気的に接続されている。
【0021】
自動車1には、該自動車1に搭載されたデバイスに冷却水を供給するためのウォータポンプ2が設けられている。ウォータポンプ2は、例えば、前記駆動装置に冷却水を供給するウォータポンプである。ウォータポンプ2は、流水管3を介して演算装置100の冷却体30(
図3等参照)と接続されている。つまり、演算装置100は、ウォータポンプ2から供給される冷却水により冷却されるようになっている。演算装置100の冷却構造については後述する。
【0022】
図2~
図5は、演算装置100のハード構成を概略的に示す。以下の説明では、上、下、右、左、前、及び後は、
図2に示す矢印に従う。これは、演算装置100が実際に自動車1に搭載された状態での方向を限定するものではない。
【0023】
図2及び
図3に示すように、演算装置100は筐体20を有する。筐体20は、アルミニウム製の箱体であって、外観が直方体形状をなす。筐体20は、複数の部材(ここでは3つの部材)で構成されている。筐体20は、有底の角筒状をなしかつ相対的に上側に位置する部材(以下、上側部材21という)と、有底の角筒状をなしかつ相対的に下側に位置する部材(以下、下側部材22という)と、上側部材21と下側部材22とに挟まれかつ冷却体30を支持する支持プレート23と、を有する。上側部材21、下側部材22、及び支持プレート23は、互いに分離可能に構成されている。上側部材21と下側部材22とは締結部材24により互いに固定されている。具体的には、上側部材21の下側端縁には上側フランジ21aが形成される一方、下側部材22の上側端縁には下側フランジ22aが形成されており、上側フランジ21aと下側フランジ22aとが上下に重ね合わされた状態で、締結部材24により互いに固定されている。
【0024】
筐体20の右側壁部20aにおいて、上側部材21は上側に向かって凹む上側凹部21bを有する一方で、下側部材22は下側に向かって凹む下側凹部22bを有する。
図2、
図3、及び
図5に示すように、上側凹部21b及び下側凹部22bには、支持プレート23が嵌まり込む。
図5に示すように、上側凹部21b及び下側凹部22bのそれぞれの周縁には、係合溝23aが形成されている。この係合溝23aに、支持プレート23の周縁全体に設けられた突出部23bが入り込むことで、上側部材21と下側部材22とが固定された状態で、支持プレート23が上側部材21及び下側部材22から外れないようになる。これにより、支持プレート23は、筐体20の右側壁部20aの一部を構成する。右側壁部20aは、筐体20の第2壁部に相当する。
【0025】
筐体20の前側壁部20bにおいて、上側部材21及び下側部材22は、矩形状の上側孔部21c及び下側孔部22cをそれぞれ有する。この上側孔部21c及び下側孔部22cは、それぞれ、電源ライン5と接続される後述の電源コネクタ60が挿通する孔部である。前側壁部20bは、筐体20の第1壁部に相当する。
【0026】
図4及び
図5に示すように、上側部材21の下側縁部における上側凹部21bを除く部分、及び下側部材22の上側縁部における下側凹部22bを除く部分には、溝がそれぞれ設けられている。この溝には、防水シール25が配置される。
【0027】
支持プレート23は、複数の貫通孔を有する。具体的には、支持プレート23は、相対的に大径な2つの大径孔23cと、相対的に小径な3つの小径孔23dとを有する。大径孔23cと小径孔23dとは、支持プレート23の長手方向に交互に並んでいる。2つの大径孔23cは、冷却体30の後述する水路用コネクタ34が挿通される孔である。3つの小径孔23dは、支持プレート23に冷却体30を取り付けるためのボルト26が通る孔である。
【0028】
筐体20の内部には、
図3~
図5に示すように、それぞれ複数の電気素子10が実装された、上側実装基板40及び下側実装基板50から成る一対の実装基板と、上側及び下側実装基板40,50に上下方向に挟まれるように配置された冷却体30とが収容されている。
【0029】
冷却体30は、アルミニウム合金で構成されたブロック状の本体部31を有する。本体部31は、筐体20の内部における上下方向の中央部において、前後方向及び左右方向に広がるように配置されている。これにより、冷却体30は、筐体20の内部を上下に二室に区分するように配置される。冷却体30は、冷却水が流通する流通経路32を有する。流通経路32は、冷却体30内に形成されたU字状の内部経路33と、内部経路33の2つの開口にそれぞれ接続され、流水管3と接続される2つの水路用コネクタ34とを有する。2つの水路用コネクタ34のうち一方は冷却水の流入部となっており、他方は内部経路33を流通した後の冷却水の流出部となっている。
【0030】
図5に示すように、各水路用コネクタ34は、細長い金属管でそれぞれ構成されている。水路用コネクタ34は、一端部が内部経路33に差し込まれている。各水路用コネクタ34は、本体部31にロウ付けにより接合されている。
【0031】
冷却体30は、各水路用コネクタ34を大径孔23cに挿通させた後、支持プレート23にボルト26により固定される。これにより、冷却体30は、筐体20に固定支持される。このことから、支持プレート23は、冷却体固定部材に相当する。
【0032】
図4に示すように、上側実装基板40は、冷却体30により区分された二室のうち上側の室に配設されている、上側実装基板40は、特定集積回路11を含む複数の電気素子10が実装されている。上側実装基板40は、冷却体30側に面する第1上側実装面41と、該第1上側実装面41と対向しかつ冷却体30とは反対側に位置する第2上側実装面42とを有する。つまり、上側実装基板40は、両面実装型の実装基板である。第1上側実装面41は、特定集積回路11が実装される実装面である。第2上側実装面42は、各電気素子10のうち特定集積回路11以外の電気素子、詳しくは、特定集積回路11よりも単位時間当たりの発熱量が小さい低発熱素子(コンデンサなど)が実装される実装面である。特定集積回路11は第1発熱素子に相当し、低発熱素子は第2発熱素子に相当する。
【0033】
図4~
図6に示すように、第1上側実装面41において、各特定集積回路11は、冷却体30の内部経路33に対応する位置にそれぞれ配置されている。すなわち、各特定集積回路11は、内部経路33に沿ってそれぞれ配置されている。各特定集積回路11は、伝熱シート12を介して冷却体30と熱的に接続されている。
【0034】
第2上側実装面42には、電源コネクタ60の配線61が実装されている。電源コネクタ60は、実際に電源ライン5と接続される電源端子62を有する。電源端子62は、ハウジング63を有する。ハウジング63は、直方体形状の箱体をなし、短手方向の途中に鍔部63aを有する。鍔部63aは、
図4に示すように、上側孔部21cよりも大きい断面積を有する。これにより、電源端子62における、鍔部63aに対して配線61とは反対側に位置する部分のみが、上側孔部21cに挿通されるようになる。ハウジング63は、長手方向の両側端部に、電源端子62を上側実装基板40に対して取付固定するための取付部64をそれぞれ有する。各取付部64が、不図示のボルトにより上側実装基板40にそれぞれ取り付けられることで、電源端子62が上側実装基板40に対して固定される。これにより、上側実装基板40は、電源コネクタ60も含むユニット体となっている。
【0035】
図6に示すように、上側実装基板40は、ボルト43により筐体20の上側部材21に取り外し可能に取り付けられている。具体的には、上側部材21の内部において、四隅のコーナー部には、ボス部21dがそれぞれ設けられ、上側実装基板40の四隅のコーナー部には、厚み方向(ここでは上下方向)に貫通する貫通孔44(
図3参照)がそれぞれ設けられている。各ボス部21dの孔と各貫通孔44とが上下方向に連通した状態で、ボルト43が貫通孔44を通ってボス部21dとそれぞれ締結されることで、上側実装基板40が上側部材21に取り付けられる。上側実装基板40と上側部材21との固定位置は、ボルト43の軸方向(ここでは上下方向)から見て、冷却体30と重複しない位置となっている。上側部材21は、各実装基板40,50のうち上側実装基板40が取り付けられる第1基板側部材に相当する。
【0036】
図4に示すように、下側実装基板50は、配置される電気素子10が上側実装基板40と若干異なるだけで、基本的には上側実装基板40と上下対称な構造をしている。具体的には、下側実装基板50は、冷却体30により区分された二室のうち下側の室に配設されている、下側実装基板50は、冷却体30側に面する第1下側実装面51と、該第1下側実装面51と対向しかつ冷却体30とは反対側に位置する第2下側実装面52とを有する。つまり、下側実装基板50も、両面実装型の実装基板である。第1下側実装面51は、特定集積回路11が実装される実装面である。第2下側実装面52は、各電気素子10のうち特定集積回路11以外の電気素子、詳しくは、特定集積回路11よりも単位時間当たりの発熱量が小さい低発熱素子(コンデンサなど)が実装される実装面である。
【0037】
第1下側実装面51においても、各特定集積回路11は、冷却体30の内部経路33に対応する位置にそれぞれ配置されている。各特定集積回路11は、伝熱シート12を介して冷却体30と熱的に接続されている。
【0038】
第2下側実装面52には、電源コネクタ60の配線61が実装されている。電源コネクタ60の構成は上側実装基板40に取付固定されるものと同じであるため、詳細な説明は省略する。下側の電源コネクタ60の電源端子62も、ハウジング63の長手方向の両側端部に取付部64をそれぞれ有しており、各取付部64が、不図示のボルトにより下側実装基板50にそれぞれ取り付けられることで、電源端子62が下側実装基板50に対して固定されている。
【0039】
図3に示すように、下側実装基板50は、ボルト53により筐体20の下側部材22に取り外し可能に取り付けられている。具体的には、下側部材22の内部において、四隅のコーナー部には、ボス部22d(
図3で1つだけ示している)がそれぞれ設けられ、下側実装基板50の四隅のコーナー部には、厚み方向(ここでは上下方向)に貫通する貫通孔54(
図3参照)がそれぞれ設けられている。各ボス部22dの孔と各貫通孔54とが上下方向に連通した状態で、ボルト53が貫通孔54を通ってボス部22dとそれぞれ締結されることで、下側実装基板50が下側部材22に取り付けられる。下側実装基板50と下側部材22との固定位置も、ボルト53の軸方向(ここでは上下方向)から見て、冷却体30と重複しない位置となっている。下側部材22は、各実装基板40,50のうち下側実装基板50が取り付けられる第2基板側部材に相当する。
【0040】
図3及び
図5に示すように、上側実装基板40の第1上側実装面41と下側実装基板50の第1下側実装面51とは、通電コネクタ13により接続されている。この通電コネクタ13により、第1上側実装面41に実装された特定集積回路11と、第1下側実装面51に実装された特定集積回路11とが電気的に接続される。これにより、上側の特定集積回路11と下側の特定集積回路11との間の通信が可能となる。
【0041】
ここで、各実装基板40,50の電気素子10が故障したり、各実装基板40,50に設けられた配線が断線したりしたときには、筐体20から故障した実装基板を取り出して修理を行う必要がある。また、電気素子10の交換を行う際にも筐体20から対象の実装基板を取り出す必要がある。特に、特定集積回路11にAIが搭載されているときには、AIのアップデートのために、特定集積回路11自体の交換が必要になることがある。従来は、各実装基板40,50を筐体20から取り外すときには、冷却体30も一緒に取り外す必要があった。このため、冷却体30を筐体20から外すときに、冷却水が各実装基板40,50に付着してしまい、短絡などの新たな故障を発生させるおそれがあった。
【0042】
これに対して、本実施形態によると、各実装基板40,50と筐体20とは着脱可能である。また、冷却体30は支持プレート23に固定されている。このため、冷却体30を筐体20から取り外すことなく、各実装基板40,50を筐体20からそれぞれ取り出すことができる。これにより、新たな故障を発生させるリスクが低減されるため、演算装置100のメンテナンス性を向上させることができる。
【0043】
特に、本実施形態では、電源コネクタ60が、各実装基板40.50のそれぞれに取付固定されており、各実装基板40.50は、電源コネクタ60も含めたユニット体となっている。これにより、ハードウェアのアップデートのために基板毎全ての回路を交換するようなときにも、交換作業を非常に容易に行うことができる。
【0044】
また、本実施形態では、各電源コネクタ60は、筐体20の前側壁部20bに設けられた上側孔部21c又は下側孔部22cを通って、該筐体20の外部にそれぞれ突出し、水路用コネクタ34は、筐体20における右側壁部20aに設けられた大径孔23cを通って、該筐体20の外部に突出する。各実装基板40,50を筐体20から取り外すときに、電源コネクタ60が水路用コネクタ34と干渉しにくくなる。また、上側孔部21c又は下側孔部22cから冷却水が筐体20内に浸入することを抑制することができる。このため、各実装基板40,50に冷却水が付着して各実装基板40,50が故障する可能性を出来る限り低くすることができる。
【0045】
また本実施形態では、筐体20は、上側実装基板40が取り付けられる上側部材21と、下側実装基板50が取り付けられる下側部材22と、冷却体30が固定される支持プレート23とを有し、上側部材21、下側部材22、及び支持プレート23は、互いにに分離可能に構成されている。これにより、例えば、上側実装基板40のみが故障したときには、冷却体30が固定された支持プレート23と切り離して、上側実装基板40を上側部材21ごと分離させることができる。このため、新たな故障のリスクが低減されるとともに、故障の修理作業を容易に行うことができる。この結果、演算装置100のメンテナンス性をより向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態では、各実装基板40,50は、冷却体30によって区分された部屋に1つずつ配置されているため、各実装基板40,50は互いに独立して冷却体30による冷却が可能である。これにより、演算装置100の冷却効率を高い状態に維持できる。
【0047】
特に、本実施形態では、各実装基板40,50において、特定集積回路11は冷却体30側の実装面(第1上側実装面41及び第1下側実装面51)に実装されている。すなわち、特定集積回路11は、自動車1の自動運転に関する演算を行うための集積回路であるため、膨大な量の演算処理を行う。このため、各特定集積回路11は、他の電気素子10と比較して発熱量が大きく、積極的に冷却する必要がある。したがって、特定集積回路11を冷却体30側の実装面に実装させて、伝熱シート12を介して冷却体30と熱的に接続するとともに、他の電気素子10は冷却体30とは反対側の実装面(第2上側実装面42及び第2下側実装面52)に実装させることで、特定集積回路11を積極的に冷却することができる。これにより、演算装置100の冷却効率を高くすることができる。
【0048】
さらに、本実施形態では、各特定集積回路11は、冷却体30の内部経路33に対応する位置に、該内部経路33に沿ってそれぞれ配置されている。これにより、各特定集積回路11を一層積極的に冷却することができる。この結果、演算装置100の冷却効率を向上させることができる。
【0049】
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0050】
例えば、前述の実施形態では、冷却体30の内部経路33はU字状をなしていた。これに限らず、内部経路33が冷却体30全体を蛇行する形状であってもよい。このときには、特定集積回路11を内部経路33の蛇行形状に沿うように配置することが好ましい。
【0051】
また、前述の実施形態では、駆動装置に冷却水を供給するウォータポンプ2を利用して、冷却水を流通経路32に流通させていた。これに限らず、演算装置100を冷却する冷却水を循環させる専用のウォータポンプを設けてもよい。
【0052】
また、前述の実施形態では、上側及び下側実装基板40,50をボルト43,53により、上側部材21及び下側部材22にそれぞれ取り付けていた。これに限らず、実装基板を筐体に取り外し可能に取り付けることができれば、任意の構造を採用してよい。例えば、筐体に爪部を設け、実装基板の四隅を爪部で係止させることで、実装基板を筐体に取り付けるようにしてもよい。
【0053】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
ここに開示された技術は、移動体用演算装置の冷却構造において、演算装置の冷却効率を維持しつつメンテナンス性を向上させる際に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 自動車(移動体)
3 流水管(流通路)
5 電源ライン
10 電気素子(発熱素子)
11 特定集積回路(第1発熱素子)
20 筐体
20a 右側壁部(第2壁部)
20b 前側壁部(第1壁部)
21 上側部材(第1基板側部材)
22 下側部材(第2基板側部材)
23 支持プレート(冷却体固定部材)
30 冷却体
32 流通経路
34 水路用コネクタ(第2コネクタ)
40 上側実装基板
41 第1上側実装面(第1実装面)
42 第2上側実装面(第2実装面)
50 下側実装基板
51 第1下側実装面(第1実装面)
52 第2下側実装面(第2実装面)
60 電源コネクタ(第1コネクタ)
100 演算装置