(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ネジ締め不良判定装置
(51)【国際特許分類】
B25B 23/14 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
B25B23/14 620H
B25B23/14 620B
(21)【出願番号】P 2020088129
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達也
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 貴紀
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/045871(WO,A1)
【文献】特開昭61-182781(JP,A)
【文献】特開昭61-050777(JP,A)
【文献】特開昭64-020977(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042597(WO,A1)
【文献】特開2005-095942(JP,A)
【文献】特開2013-061695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジを締めるためのドライバーの、軸周りでの回転運動を生じさせるモータの回転トルクを所定の周期でサンプリングしたデータ点のうち、前記回転トルクが所定の第1閾値以上になるデータ点を末尾とする、所定の数のデータ点からなる前記回転トルクのデータ列について、当該データ列の最初のデータ点における前記回転トルクに対する、それぞれのデータ点における前記回転トルクの変化量である正規化トルクのデータ列を生成し、
前記正規化トルクのデータ列に基づいてネジ締めに不良が発生しているか否かを判定する判定部を備え
、
前記所定の数は、前記正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データに基づいて、学習によって決定されるネジ締め不良判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記正規化トルクのデータ列のうち、所定の位置のデータ点における前記正規化トルクが所定の第2閾値以上である場合に、前記ネジ締めに不良が発生していると判定する請求項1に記載のネジ締め不良判定装置。
【請求項3】
前記正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データに基づいて、請求項2に記載のネジ締め不良判定装置における前記所定の数、前記所定の位置、および、前記所定の第2閾値のうち1以上を学習によって決定し、
決定した前記所定の数、前記所定の位置、または、前記所定の第2閾値を前記ネジ締め不良判定装置に出力する学習装置。
【請求項4】
前記判定部による所定の回数の判定、所定の期間の経過、または外部からの指示があった場合に、前記ネジ締めにおける前記正規化トルクのデータ列、および前記判定部による判定結果に基づいて、前記所定の数、前記所定の位置、および、前記所定の第2閾値のうち1以上を学習によって更新する請求項3に記載の学習装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記正規化トルクのデータ列のうち、所定の範囲のデータ点における前記正規化トルクの合計が所定の第3閾値以上である場合に前記ネジ締めに不良が発生していると判定する請求項1に記載のネジ締め不良判定装置。
【請求項6】
前記正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データとに基づいて、請求項5に記載のネジ締め不良判定装置における前記所定の数、前記所定の範囲、および、前記所定の第3閾値のうち1以上を学習によって決定し、
決定した前記所定の数、前記所定の範囲、または、前記所定の第3閾値を前記ネジ締め不良判定装置に出力する学習装置。
【請求項7】
前記判定部による所定の回数の判定、所定の期間の経過、または外部からの指示があった場合に、前記ネジ締めにおける前記正規化トルクのデータ列、および前記判定部による判定結果に基づいて、前記所定の数、前記所定の範囲、および、前記所定の第3閾値のうち1以上を学習によって更新する請求項6に記載の学習装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はネジ締め不良判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クラッチ機構において、減速機構のインターナルギヤに係合する鋼球に対し、前記鋼球を弾力的に支持するスプリングを収納する筒状ケーシングを備え、前記筒状ケーシング内の前記スプリングの弾力調整を行う調整ねじ具を外部操作可能に設けてなるトルク調整機構を設け、前記筒状ケーシングの外側面にトルク検出素子を設ける電動回転工具のねじ締め状態検出装置が開示されている。
【0003】
引用文献1に記載の電動回転工具のねじ締め状態検出装置は、例えばねじ締め作業に際してトルク検出素子により検出される出力信号の検出値に基づいて、当該検出値をトルク値に変換することによって、ねじ締め状態の良否判定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば樹脂などの柔らかい材料(ワーク)に対してタッピングねじを用いる場合、ねじの長さ間違いまたはワークの形成不良などにより、タッピングねじの座面がワークに接触するまでの工程である仮締め時にワークの底部からタッピングねじ先端が進行する現象が生じうる。この場合、例えばタッピングねじの仮締めからタッピングねじの座面がワークに接触した後の工程である本締めまでに要するトルク値が異なる。しかし、トルク値はワークごとに変動する。このため、特許文献1に記載の電動回転工具のねじ締め状態検出装置において単純にトルク値に基づいてねじ締め状態の良否判定を行うだけでは、タッピングねじが底部に正常に到達しているか否かを判定することが困難であった。
【0006】
本発明の一態様は、柔らかい材料にタッピングねじを用いる場合においても、ネジ締めに不良が発生しているか否かを判定することが可能なネジ締め不良判定装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るネジ締め不良判定装置は、ネジを締めるためのドライバーの、軸周りでの回転運動を生じさせるモータの回転トルクを所定の周期でサンプリングしたデータ点のうち、前記回転トルクが所定の第1閾値以上になるデータ点を末尾とする、所定の数のデータ点からなる前記回転トルクのデータ列について、当該データ列の最初のデータ点における前記回転トルクに対する変化量である正規化トルクのデータ列を生成し、前記正規化トルクのデータ列に基づいてネジ締めに不良が発生しているか否かを判定する。
【0008】
上記の構成によれば、正規化トルクのデータ列と例えば異常時トルクのデータ列とを比較して、ネジ締めに不良が発生しているかを判定することができる。このため、例えば柔らかい材料にタッピングねじを用いる場合において、トルク値がワークごとに変動する状況でも、ネジ締めに不良が発生しているか否かを判定することができる。
【0009】
また、本発明の一態様に係るネジ締め不良判定装置において、判定部は、前記正規化トルクのデータ列のうち、所定の位置のデータ点における前記正規化トルクが所定の第2閾値以上である場合に前記ネジ締めに不良が発生していると判定することが好ましい。
【0010】
上記の構成によれば、正規化トルクのデータ列のうち、所定の位置のデータ点における正規化トルクが第2閾値以上であるかを判定することで、ネジ締めに不良が発生していることを判定することができる。
【0011】
また、本発明の一態様に係る学習装置は、前記正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データに基づいて、ネジ締め不良判定装置における前記所定の数、前記所定の位置、および、前記所定の第2閾値のうち1以上を学習によって決定し、決定した前記所定の数、前記所定の位置、または、前記所定の第2閾値を前記ネジ締め不良判定装置に出力する。
【0012】
上記の構成によれば、学習によって決定した所定の数、所定の位置、または第2閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していることを適切に判定することができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係る学習装置は、前記判定部による所定の回数の判定、所定の期間の経過、または外部からの指示があった場合に、前記ネジ締めにおける前記正規化トルクのデータ列、および前記判定部による判定結果に基づいて、前記所定の数、前記所定の位置、および、前記所定の第2閾値のうち1以上を学習によって更新することが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、更新された所定の数、所定の位置、または第2閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していることをより適切に判定することができる。
【0015】
また、本発明の一態様に係るネジ締め不良判定装置において、判定部は、前記正規化トルクのデータ列のうち、所定の範囲のデータ点における前記正規化トルクの合計が所定の第3閾値以上である場合に前記ネジ締めに不良が発生していると判定することが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、正規化トルクのデータ列のうち、所定の範囲のデータ点における正規化トルクの合計が第3閾値以上であるかを判定することで、ネジ締めに不良が発生していることを判定することができる。
【0017】
また、本発明の一態様に係る学習装置は、前記正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データとに基づいて、ネジ締め不良判定装置における前記所定の数、前記所定の範囲、および、前記所定の第3閾値のうち1以上を学習によって決定し、決定した前記所定の数、前記所定の範囲、または、前記所定の第3閾値を前記ネジ締め不良判定装置に出力する。
【0018】
上記の構成によれば、学習によって決定した所定の数、所定の範囲、または、第3閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していることを適切に判定することができる。
【0019】
また、本発明の一態様に係る学習装置は、前記判定部による所定の回数の判定、所定の期間の経過、または外部からの指示があった場合に、前記ネジ締めにおける前記正規化トルクのデータ列、および前記判定部による判定結果に基づいて、前記所定の数、前記所定の範囲、および、前記所定の第3閾値のうち1以上を学習によって更新してもよい。
【0020】
上記の構成によれば、更新された所定の数、所定の範囲、または第3閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していることをより適切に判定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様に係るネジ締め不良判定装置によれば、柔らかい材料にタッピングねじを用いる場合においても、ネジ締めに不良が発生しているか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係るネジ締めシステムの概要を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態に係るPLCの構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態に係るネジ締めシステムの外観の例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る正規化トルクのデータ列を示す図である。
【
図5】本実施形態に係るネジ締め不良判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態の変形例に係るPLCの構成および学習装置を示すブロック図である。
【
図7】本実施形態の変形例に係るネジ締め不良判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一側面に係る実施形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。
【0024】
§1 適用例
図1は、本実施形態に係るネジ締めシステム1の概要を示すブロック図である。
図1に示すように、ネジ締めシステム1は、PLC(Programmable Logic Controller)10(ネジ締め不良判定装置)、カプラ20、回転用サーボ30(第1モータ)、および往復用サーボ40(第2モータ)を備える。ネジ締めシステム1は、後述するドライバー51(
図3参照)の、軸周りでの回転運動および軸方向への往復運動により、ネジ締め動作を行う。このとき、PLC10は、ネジ締め動作の制御を行うとともに、当該ネジ締め動作における不良の発生を判定する。
【0025】
本明細書においては、ネジ締め動作における不良とは、底付きを意味する。底付きとは、ネジがネジ穴よりも長い、またはワークの形成不良などの理由で、ネジ締めが完了する前にネジ穴の底にネジが到達することをいう。
【0026】
回転用サーボ30は、ドライバー51の軸周りの回転運動を生じさせるモータである。また、回転用サーボ30は、自身の回転速度(deg./s)、回転量(deg.)、および回転トルク(定格トルクに対する割合(%))をカプラ20へ出力する。具体的には、回転用サーボ30は、自身の回転速度、回転量、および回転トルクを所定の周期でサンプリングしたデータ点をカプラ20へ出力する。
【0027】
往復用サーボ40は、ドライバー51の軸方向への往復運動を生じさせるモータである。また、往復用サーボ40は、自身の回転によるドライバー51の移動速度(mm/s)、移動位置(mm)、および移動トルク(定格トルクに対する割合(%))をカプラ20へ出力する。
【0028】
カプラ20は、PLC10と、回転用サーボ30および往復用サーボ40と、を接続する。詳細には、カプラ20は、PLC10から受信した制御信号を回転用サーボ30および往復用サーボ40へ送信する。また、カプラ20は、回転用サーボ30から受信した、回転用サーボ30の回転速度、回転量および回転トルクを所定の周期でサンプリングしたデータ点をPLC10へ送信する。また、カプラ20は、往復用サーボ40から受信した、往復用サーボ40の回転によるドライバー51の移動速度、移動位置および移動トルクをPLC10へ送信する。
【0029】
以下の説明では、回転用サーボ30の回転速度、回転量および回転トルク、および回転トルクのデータ列並びに往復用サーボ40の回転によるドライバー51の移動速度、移動位置および移動トルクを総称してパラメータと称することがある。
【0030】
図2は、PLC10の構成を示すブロック図である。PLC10は、ネジ締めシステム1の動作を制御する。
図2に示すように、PLC10は、制御部11、通信部12、および判定部13を備える。
【0031】
制御部11は、回転用サーボ30および往復用サーボ40を制御するための制御信号を通信部12へ出力する。通信部12は、制御部11から入力された制御信号をカプラ20へ送信する。制御信号は、カプラ20を介して回転用サーボ30および往復用サーボ40へ送信され、回転用サーボ30および往復用サーボ40を制御する。制御部11は、回転用サーボ30および往復用サーボ40を同期させて制御する。また、制御部11は、回転用サーボ30および往復用サーボ40のパラメータを当該回転用サーボ30および往復用サーボ40の制御にフィードバックする。
【0032】
通信部12は、回転用サーボ30および往復用サーボ40から、カプラ20を介してパラメータを受信する。制御部11および判定部13は、通信部12を介して必要に応じてパラメータをカプラ20から取得する。
【0033】
判定部13は、ネジ締めに不良が発生しているか否かを判定する。判定部13による判定の内容については後述する。
【0034】
また、ネジ締めシステム1は、図示しない報知装置をさらに備える。判定部13は、ネジ締めに不良が発生していると判定した場合に、判定結果を報知装置により出力する。報知装置は、例えば判定結果を示す音声を出力するスピーカー、または判定結果を示す画像を表示するディスプレイである。
【0035】
§2 構成例
(ネジ締めシステム1の構成)
図3は、本実施形態に係るネジ締めシステム1の外観の例を示す図である。
図3に示すように、ネジ締めシステム1は、回転用サーボ30、往復用サーボ40、ドライバーユニット50および支柱60を備える。また、
図3には表れていないが、ネジ締めシステム1は、上述したとおり、PLC10およびカプラ20も備える。
【0036】
ドライバーユニット50は、ネジを締めるためのユニットである。ドライバーユニット50は、ドライバー51と、ネジ保持部52とを備える。ドライバー51は、軸周りで回転運動しながら軸方向に往復運動することで、ネジ締め動作を実行する。以下の説明では、ドライバー51の軸方向のうち、ネジ締めの過程でドライバー51が移動する方向を下方と称する。
【0037】
回転用サーボ30は、ドライバー51の上方に配され、ドライバー51の軸周りの回転運動を生じさせる。また、ネジ保持部52は、ドライバー51の下方に設けられ、ドライバー51によるネジ締めの対象となるネジを保持する。
【0038】
支柱60は、ドライバーユニット50を上下に移動可能に支持する。往復用サーボ40は、支柱60の上部に設けられ、ボールネジ(不図示)を介してドライバーユニット50と接続されている。往復用サーボ40の回転運動が、ボールネジにより上下方向への直線運動に変換される。その結果、ドライバーユニット50が上下に往復運動する。
【0039】
(ネジ締め動作)
ネジ締めシステム1によるネジ締めの動作は、以下のとおりである。まず、ネジを保持した状態のネジ保持部52が、ネジ締めを行う対象であり、樹脂からなるワーク(不図示)の、ネジ締めを行う箇所へネジを降下させる。ただし、ワークは、柔らかい材料であれば、樹脂に限られない。次に、ドライバー51は、ネジが仮着座するまで、ネジ締めを行う箇所へネジを回転させながら押し当てる。ここで、仮着座とは、ネジの座面がワークに接触した状態を指す。
【0040】
ネジ締めシステム1は、ネジが仮着座した状態から、さらにネジを回転させながら押し当てることで、本締めを行う。本実施形態では、本締めは、回転用サーボ30の回転トルクが所定の本締め完了値に到達するまで行われる。回転トルクが本締め完了値に到達すると、ネジ締めシステム1は、ネジを押し当てることをやめ、回転トルクが本締め完了値以上である状態を100msの間保持する。
【0041】
その後、ネジ締めシステム1は、回転用サーボ30の回転トルクが0%以下になるようにして、ネジを解放する。さらに、ネジ締めシステム1は、ドライバー51を上方へ移動させて元の位置に復帰させることで、ネジ締め動作を完了する。ただし、上述した回転トルクおよび保持時間は一例であり、ネジの種類および締結物/被締結物の種類によって異なる。
【0042】
(ネジ締め不良判定動作)
具体的には、判定部13は、通信部12を介して回転トルクのデータ点をカプラ20から取得する。次に判定部13は、取得したデータ点のうち、回転トルクが所定の第1閾値以上になるデータ点を末尾とする所定の数のデータ点からなる回転トルクのデータ列について、正規化トルクのデータ列を生成する。ここで、正規化トルクのデータ列とは、回転トルクのデータ列の最初のデータ点における回転トルクに対する、それぞれのデータ点における回転トルクの変化量をいう。また、第1閾値は、ネジ締めシステム1がネジの仮締めを完了し、本締めを開始する時の、回転用サーボ30の回転トルクについての所定の値である。
【0043】
判定部13は、不図示の記憶装置から第2閾値を取得する。ここで、第2閾値は、正規化トルクのデータ列のうち、所定の位置のデータ点における正規化トルクの値についての、ネジ締めに不良が発生していることを判定するための所定の閾値である。
【0044】
判定部13は、正規化トルクのデータ列のうち、所定の位置のデータ点における正規化トルクが所定の第2閾値以上である場合にネジ締めに不良が発生していると判定する。これにより、判定部13は、正規化トルクのデータ列のうち、所定の位置のデータ点における正規化トルクが第2閾値以上であるかを判定することで、ネジ締めに不良が発生していることを判定することができる。
【0045】
なお、判定部13は、不図示の記憶装置から第3閾値を取得してもよい。ここで、第3閾値は、正規化トルクのデータ列のうち、所定の範囲のデータ点における正規化トルクの合計値についての、ネジ締めに不良が発生していることを判定するための所定の閾値である。
【0046】
この場合、判定部13は、正規化トルクのデータ列のうち、所定の範囲のデータ点における正規化トルクの合計が第3閾値以上である場合にネジ締めに不良が発生していると判定する。これにより、判定部13は、正規化トルクのデータ列のうち、所定の範囲のデータ点における正規化トルクの合計が第3閾値以上であるかを判定することで、ネジ締めに不良が発生していることを判定することができる。
【0047】
図4は、本実施形態に係る正規化トルクのデータ列を示す図である。
図4の横軸はデータ点(サンプリング時間)を示し、縦軸は正規化トルクの値を示す。
図4の縦軸におけるTh2は、第2閾値を示す。
図4に示す例では、正規化トルクのデータ列に含まれるデータ点の数を51とし、所定の位置を当該データ列の先頭から43番目の位置としている。このため、43番目のデータ点における正規化トルクがTh2以上である場合に、判定部13は、ネジ締めに不良が発生していると判定する。
図4においては、ネジ締めが正常であった50本のネジについてのデータが黒色、異常であった32本のネジについてのデータが灰色で示されている。正常であったネジのデータでは、43番目のデータ点における正規化トルクはいずれもTh2未満であった。一方、異常であったネジのデータでは、ネジがネジ穴の底を超えて進行することによるトルク増加が生じるため、43番目のデータ点における正規化トルクはいずれもTh2以上であった。したがって、上記の判定によれば、ネジ締めにおける不良を適切に判定できる。なお、開始点を合わせる前の非正規化トルク(生データ)では、ワークごとのトルクのばらつきが大きいため、単一の閾値で正常と異常とを分離することはできない。
【0048】
第2閾値の具体的な値は、ネジ締めの正常と不良とを判定可能な値に適宜設定されればよい。また、正規化トルクのデータ列に含めるデータ点の数も51に限らず、適宜設定されればよい。また、所定の位置についても43番目の位置に限られず、第2閾値によりネジ締めの正常と不良とを判定可能な位置に、適宜設定されればよい。また、判定部13が第3閾値を用いて判定を行う場合における、第3閾値の具体的な値、および、正規化トルクの合計値を算出するためのデータ点の具体的な範囲についても同様である。
【0049】
なお、上述したネジ締め動作の例は、ネジ締めシステム1は、ネジ締めを行う箇所に雌ネジが切られていない状態(タッピン(セルフタップ))のワークに対してネジ締めを行うものである。しかし、ネジ締めシステム1は、ネジ締めを行う箇所に雌ネジが予め切られた状態(タップ)のワークに対してネジ締めを行うことも可能である。
【0050】
§3 動作例
図5は、本実施形態に係るネジ締め不良判定処理の一例を示すフローチャートである。判定部13による、ネジ締め動作における不良の発生の判定について、
図5を用いて説明する。
【0051】
図5に示すように、判定部13は、通信部12を介して回転トルクのデータ列をカプラ20から取得する(S1)。次に、判定部13は、正規化トルクのデータ列を生成する(S2)。次に、判定部13は、記憶装置から第2閾値を取得して、正規化トルクのデータ列のうち、所定の位置のデータ点における正規化トルクが第2閾値以上であるかを判定する(S3)。正規化トルクが第2閾値以上である場合(S3においてYES)、判定部13は、ネジ締めが不良であることを示す報知信号を報知装置に出力する(S4)。正規化トルクが第2閾値以上でない場合(S3においてNO)、判定部13は、ステップS4を実行せずに処理を終了する。
【0052】
なお、判定部13は、ステップS3において記憶装置から第3閾値を取得して、正規化トルクのデータ列のうち、所定の範囲のデータ点における正規化トルクの合計が第3閾値以上であるかを判定してもよい。
【0053】
§4 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0054】
本変形例に係るネジ締めシステムは、ネジ締めシステム1の構成に加えて、学習部70(学習装置)を備える。学習部70は、機械学習を行うことができるように構成されており、例えばパソコン、スマートフォン、携帯情報端末、またはサーバである。
【0055】
図6は、本変形例に係るPLC10および学習装置の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、本変形例において、学習部70は、判定部13と接続されている。
【0056】
学習部70は、正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データに基づいて、PLC10における所定の数、所定の位置、および第2閾値のうち1以上を学習によって決定する。ただし、学習部70は、正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データに基づいて、PLC10における所定の数、所定の範囲、および第3閾値のうち1以上を学習によって決定してもよい。本実施形態において学習部70は、正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データに基づいて、PLC10における所定の数、所定の位置、および、第2閾値の全てを学習によって決定する。
【0057】
ここで、学習は、機械学習を意味し、教師あり学習を意味する。教師あり学習のアルゴリズムとして、例えばニューラルネットワーク、アイソレーションフォレスト、サポートベクターマシンが用いられる。また、学習部70は、確率密度関数およびカーネル化確率モデルを用いて異常度スコアを算出するものであってもよい。確率密度関数は、例えば正規分布であるがこれに限られない。
【0058】
学習部70は、決定した所定の数、所定の位置、または第2閾値をPLC10が備える判定部13に出力する。これにより、判定部13は、決定した所定の数、所定の位置、または、第2閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していると判定することができる。ただし、学習部70は、決定した所定の数、所定の範囲、または第3閾値をPLC10が備える判定部13に出力してもよい。本実施形態において学習部70は、決定した所定の数、所定の位置、および、第2閾値をPLC10が備える判定部13に出力する。これにより、判定部13は、学習部70が学習した決定した所定の数、所定の位置、および、第2閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していると判定することができる。学習部70が所定の数、所定の位置、および第2閾値のうち1以上を学習によって決定しない場合には、決定しない値については記憶装置に予め保存されていればよい。
【0059】
学習部70は、判定部13による所定の回数の判定、所定の期間の経過、または外部からの指示があった場合に、ネジ締めにおける正規化トルクのデータ列、および判定部による判定結果に基づいて、所定の数、所定の位置、および第2閾値のうち1以上を学習によって更新する。これにより、判定部13は、更新された所定の数、所定の位置、または、第2閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していると判定することができる。ただし、学習部70は、判定部13による所定の回数の判定、所定の期間の経過、または外部からの指示があった場合に、ネジ締めにおける正規化トルクのデータ列、および判定部による判定結果に基づいて、所定の数、所定の範囲、および第3閾値のうち1以上を学習によって更新してもよい。本実施形態において学習部70は、学習開始の条件を満たした場合に、ネジ締めにおける正規化トルクのデータ列、および判定部による判定結果に基づいて、所定の数、所定の位置、および、第2閾値の全てを学習によって更新する。これにより、判定部13は、更新された所定の数、所定の位置、および、第2閾値に基づいて、ネジ締めに不良が発生していると判定することができる。
【0060】
図7は、本変形例に係るネジ締め不良判定処理の一例を示すフローチャートである。以下に、判定部13および学習部70による、ネジ締め動作における不良の発生の判定について
図7を用いて説明する。
図7に示すように、判定部13は、S1からS5までの処理を行う。S1からS4までの判定部13による処理は、前述と同様であるため、説明を省略する。判定部13は、正規化トルクが第2閾値以上でない場合(S3においてNO)、またはネジ締めが不良であることを示す報知信号を報知装置に出力した後(S4)、学習部70に判定結果のデータを出力する(S5)。具体的には、判定部13は、正規化トルクのデータ列と、当該正規化トルクのデータ列についての正常または不良の判定結果とを含む学習用データを学習部70に出力する。そして判定部13は、不良の発生の判定の処理を終了する。
【0061】
学習部70は、学習開始の条件を満たしたかを判定する(S11)。学習開始の条件とは、例えば、
(i)学習部70の処理を開始した直後であること、
(ii)判定部13による所定の回数の判定が行われること、
(iii)最後に学習開始の条件を満たしてから所定の期間が経過すること、および
(iv)外部から学習開始の指示を受け付けること
である。これらの条件のいずれかを満たした場合に、学習部70は、学習開始の条件を満たしたと判定する。ただし、学習開始の条件はこれらに限られない。また、これらのうち1以上を、学習開始の条件としなくてもよい。
【0062】
学習開始の条件を満たしていない場合(S11においてNO)、学習部70は学習開始の条件を満たすまでステップS11を繰り返す。学習開始の条件を満たしている場合(S11においてYES)、学習部70は学習用データを取得する(S12)。学習部70の処理を開始した直後である場合には、学習用データは、記憶装置に記憶されている教師データである。その他の場合には、学習用データは、ステップS5において判定部13から記憶装置に記憶された学習用データである。次に、学習部70は、学習用データに基づいてPLC10における所定の数を学習によって決定し、当該所定の数を判定部13に出力する(S13)。次に、判定部13は、学習用データに基づいてPLC10における所定の位置および第2閾値を学習によって決定し、当該所定の位置および第2閾値を判定部13に出力する(S14)。そして、学習部70は、学習処理を終了する。
【0063】
なお、判定部13はS3において第3閾値を基準として判定した場合、判定部13はS14において学習用データに基づいてPLC10における所定の範囲および第3閾値を学習によって決定し、当該所定の範囲および第3閾値を判定部13に出力してもよい。
【0064】
〔ソフトウェアによる実現例〕
PLC10の制御ブロック(特に判定部13)および学習部70は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0065】
後者の場合、PLC10は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0066】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 ネジ締めシステム
10 PLC(ネジ締め不良判定装置)
30 回転用サーボ(第1モータ)
40 往復用サーボ(第2モータ)
51 ドライバー
70 学習部(学習装置)