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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】付加製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/364 20210101AFI20241210BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241210BHJP
   B22F 12/37 20210101ALI20241210BHJP
   B22F 12/45 20210101ALI20241210BHJP
   B22F 12/90 20210101ALI20241210BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241210BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20241210BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241210BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20241210BHJP
【FI】
B22F10/364
B22F10/28
B22F12/37
B22F12/45
B22F12/90
B33Y30/00
B33Y50/02
B23K26/21 W
B23K26/21 Z
B23K26/34
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020097440
(22)【出願日】2020-06-04
(65)【公開番号】P2021188111
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 高史
(72)【発明者】
【氏名】長濱 貴也
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 好一
(72)【発明者】
【氏名】田野 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩平
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 翔
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-217799(JP,A)
【文献】特開2016-074956(JP,A)
【文献】特開2017-141505(JP,A)
【文献】特表2019-507250(JP,A)
【文献】特開2020-079432(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069701(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1787718(KR,B1)
【文献】特開2017-114716(JP,A)
【文献】特表2019-513901(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0093416(US,A1)
【文献】国際公開第2019/167274(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/017405(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
B22F 10/00-12/90
B23K 26/00-26/70
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
C22C 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン(WC)である硬質材、並びに、コバルト(Co)又はニッケル(Ni)である超硬バインダを含む粉末材料を基材に供給する粉末材料供給装置と、
前記基材に供給された前記粉末材料を前記粉末材料の融点以上に加熱して溶融する溶融光ビームを照射する溶融光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビームが照射される照射範囲である溶融光照射範囲の外側にて前記融点未満に加熱して保温する保温光ビームを照射する保温光ビーム照射装置と、
前記基材の造形面に形成された付加製造物の状態を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により撮像された前記付加製造物の画像データに基づいて、前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの照射、並びに、前記基材に対する前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査について、前記溶融光ビーム照射装置及び前記保温光ビーム照射装置の各々を独立して制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記保温光ビームが照射される照射範囲であって前記溶融光照射範囲よりも大きな保温光照射範囲を前記溶融光照射範囲に重畳させた状態とし、且つ、前記撮像装置により撮像された前記付加製造物の画像データに基づいて前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御する、付加製造装置。
【請求項2】
前記保温光照射範囲の外形は、前記保温光ビームの前記走査の方向に沿った長辺を有する四角形状、又は、前記保温光ビームの前記走査の方向に沿った長軸を有する楕円形状であり、
前記制御装置は、前記画像データに基づいて、前記保温光ビームの長手方向の長さが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御する、請求項1に記載の付加製造装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記保温光ビームの照射方向が前記溶融光ビームの照射方向に対して傾いた状態で、前記保温光ビーム照射装置の前記姿勢を制御し、
前記画像データに基づいて、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の傾きを変化させることにより、前記保温光ビームの長手方向の長さを変化させる、請求項2に記載の付加製造装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記保温光ビームの照射方向が前記溶融光ビームの照射方向に対して傾いた状態で、前記保温光ビーム照射装置の前記姿勢を制御し、
前記画像データに基づいて、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の傾きを変化させることにより、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさを変化させる、請求項1に記載の付加製造装置。
【請求項5】
前記保温光照射範囲は、前記溶融光照射範囲における前記溶融光ビームの前記走査の方向の前側端よりも前側領域を含み、前記溶融光照射範囲における前記溶融光ビームの前記走査の方向の後側端よりも後側領域を含み、
前記制御装置は、前記画像データに基づいて、前記保温光照射範囲における前記溶融光ビームの前記走査の方向において前記前側領域の長さが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御する、請求項1-4の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記画像データにおける前記付加製造物のビード幅に基づいて、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御する、請求項1-5の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項7】
炭化タングステン(WC)である硬質材、並びに、コバルト(Co)又はニッケル(Ni)である超硬バインダを含む粉末材料を基材に供給する粉末材料供給装置と、
前記基材に供給された前記粉末材料を前記粉末材料の融点以上に加熱して溶融する溶融光ビームを照射する溶融光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビームが照射される照射範囲である溶融光照射範囲の外側にて前記融点未満に加熱して保温する保温光ビームを照射する保温光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの照射、並びに、前記基材に対する前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査について、前記溶融光ビーム照射装置及び前記保温光ビーム照射装置の各々を独立して制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記保温光ビームが照射される照射範囲であって前記溶融光照射範囲よりも大きな保温光照射範囲を前記溶融光照射範囲に重畳させた状態とし、且つ、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御し、
前記制御装置は、
前記保温光ビームの照射方向が前記溶融光ビームの照射方向に対して傾いた状態で、前記保温光ビーム照射装置の前記姿勢を制御し、
前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の傾きを変化させることにより、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさを変化させる、付加製造装置。
【請求項8】
前記保温光照射範囲の外形は、前記保温光ビームの前記走査の方向に沿った長辺を有する四角形状、又は、前記保温光ビームの前記走査の方向に沿った長軸を有する楕円形状であり、
前記制御装置は、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の傾きを変化させることにより、前記保温光ビームの長手方向の長さを変化させる、請求項に記載の付加製造装置。
【請求項9】
炭化タングステン(WC)である硬質材、並びに、コバルト(Co)又はニッケル(Ni)である超硬バインダを含む粉末材料を基材に供給する粉末材料供給装置と、
前記基材に供給された前記粉末材料を前記粉末材料の融点以上に加熱して溶融する溶融光ビームを照射する溶融光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビームが照射される照射範囲である溶融光照射範囲の外側にて前記融点未満に加熱して保温する保温光ビームを照射する保温光ビーム照射装置と、
前記基材を前記基材の中心軸線の回りに回転させる第一モータと、
前記基材を前記中心軸線の方向に移動させる第二モータと、
前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの照射、並びに、前記基材に対する前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査について、前記溶融光ビーム照射装置及び前記保温光ビーム照射装置の各々を独立して制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記保温光ビームが照射される照射範囲であって前記溶融光照射範囲よりも大きな保温光照射範囲を前記溶融光照射範囲に重畳させた状態とし、且つ、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御し、
前記第一モータの回転及び前記第二モータの回転を制御することにより、前記基材における前記中心軸線回りの周面に対する、前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査を制御する、付加製造装置。
【請求項10】
前記溶融光ビームの照射方向は、前記基材において付加製造物を造形する造形面に直交する方向である、請求項1-の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項11】
前記保温光照射範囲は、前記保温光ビームの前記走査の方向に沿った長辺を有する四角形状である、請求項7-の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項12】
前記保温光照射範囲は、前記保温光ビームの前記走査の方向に沿った長軸を有する楕円形状である、請求項7-の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項13】
前記保温光照射範囲は、円形状の前記溶融光照射範囲を内部に収容する円環状である、請求項7-9の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項14】
前記保温光照射範囲の外形は、前記溶融光照射範囲における前記溶融光ビームの前記走査の方向の前側端よりも前側領域を含み、前記溶融光照射範囲における前記溶融光ビームの前記走査の方向の後側端よりも後側領域を含み、且つ、前記溶融光ビームの前記走査の方向において前記前側領域よりも前記後側領域が長くなる、請求項7-9の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項15】
前記制御装置は、
前記溶融光ビームが照射されて前記粉末材料が溶融することにより形成された溶融池を前記保温光ビームが照射する際、前記保温光ビームの単位面積当たりの出力を表すパワー密度を、前記溶融池における単位時間当たりの温度低下を表す冷却速度が前記溶融池に含まれる前記超硬バインダの凝固点において540℃/s以下となるように制御する、請求項1-14の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項16】
前記制御装置は、
前記基材上における前記粉末材料の温度に基づいて、少なくとも前記保温光ビームの前記パワー密度を変更する、請求項15に記載の付加製造装置。
【請求項17】
前記保温光ビームは、前記基材を600℃以上に加熱する、請求項15又は16に記載の付加製造装置。
【請求項18】
前記制御装置は、少なくとも前記溶融光ビームの前記走査の方向に対して後側における前記保温光ビームの前記パワー密度を制御する、請求項1517の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項19】
前記粉末材料供給装置は、前記基材に対し前記粉末材料を噴射して供給するものであり、前記溶融光ビーム照射装置と一体に移動可能に設けられる、請求項1-18の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項20】
前記制御装置は、前記溶融光ビーム照射装置によって照射された前記溶融光ビームの前記走査の軌跡を追従するように、前記保温光ビーム照射装置によって照射された前記保温光ビームの前記走査を制御する、請求項1-19の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項21】
前記保温光ビーム照射装置は、前記基材を加熱して保温する、請求項1-20の何れか一項に記載の付加製造装置。
【請求項22】
前記硬質材の融点は、前記超硬バインダの融点よりも高い、請求項1-21の何れか一項に記載の付加製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造には、例えば、指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition)方式、粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)方式等があることが知られている。指向性エネルギー堆積方式は、光ビーム(レーザビーム及び電子ビーム等)の照射と材料の供給を行う加工ヘッドの位置を制御することで付加製造を行う。指向性エネルギー堆積方式には、LMD(Laser Metal Deposition)、DMP(Direct Metal Printing)等が含まれる。粉末床溶融結合方式は、平らに敷き詰められた粉末材料に対して、光ビームを照射することで付加製造を行う。粉末床溶融結合方式には、SLM(Selective Laser Melting)、EBM(Electron Beam Melting)等が含まれる。
【0003】
例えば、指向性エネルギー堆積方式のLMDは、硬質材を含む粉末材料等を噴射しながら光ビームを照射することにより、粉末材料等を溶融させた後に凝固させることができる。これにより、LMDは、例えば、基材に対して部分的に硬質材の付加製造物を付加する肉盛技術として利用されている。
【0004】
そして、例えば、特許文献1には、粉末材料を噴射すると共にレーザ光を照射する積層ヘッドと、積層ヘッドと一体に移動するように固定されて溶融した粉末材料を加熱する加熱ヘッドとを備えた付加製造装置が開示されている。従来の付加製造装置において、加熱ヘッドは、溶融した材料粉末の急激な温度低下を抑制したり、材料粉末が溶融し易い雰囲気を形成したりするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-196265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、付加製造においては、基材及び供給された材料粉末の予熱と、粉末材料を溶融させて形成した溶融池の保温を適切に行うことが、付加製造物の品質を向上させる上で極めて重要である。この点に関し、特許文献1に開示された付加製造装置では、加熱ヘッドが積層ヘッドと一体に移動する、即ち、加熱ヘッドが積層ヘッドに対して相対移動不能とされている。このため、加熱ヘッドを用いても、時々刻々と変化する基材や材料粉末の予熱(加熱)、及び、溶融池の保温をきめ細かく調整することが極めて困難である。
【0007】
本発明は、基材、粉末材料及び溶融池の予熱及び保温が容易であり、高品質な付加製造物を付加製造することができる付加製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一態様は、炭化タングステン(WC)である硬質材、並びに、コバルト(Co)又はニッケル(Ni)である超硬バインダを含む粉末材料を基材に供給する粉末材料供給装置と、
前記基材に供給された前記粉末材料を前記粉末材料の融点以上に加熱して溶融する溶融光ビームを照射する溶融光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビームが照射される照射範囲である溶融光照射範囲の外側にて前記融点未満に加熱して保温する保温光ビームを照射する保温光ビーム照射装置と、
前記基材の造形面に形成された付加製造物の状態を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置により撮像された前記付加製造物の画像データに基づいて、前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの照射、並びに、前記基材に対する前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査について、前記溶融光ビーム照射装置及び前記保温光ビーム照射装置の各々を独立して制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記保温光ビームが照射される照射範囲であって前記溶融光照射範囲よりも大きな保温光照射範囲を前記溶融光照射範囲に重畳させた状態とし、且つ、前記撮像装置により撮像された前記付加製造物の画像データに基づいて前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御する、付加製造装置にある。
本発明の第二態様は、炭化タングステン(WC)である硬質材、並びに、コバルト(Co)又はニッケル(Ni)である超硬バインダを含む粉末材料を基材に供給する粉末材料供給装置と、
前記基材に供給された前記粉末材料を前記粉末材料の融点以上に加熱して溶融する溶融光ビームを照射する溶融光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビームが照射される照射範囲である溶融光照射範囲の外側にて前記融点未満に加熱して保温する保温光ビームを照射する保温光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの照射、並びに、前記基材に対する前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査について、前記溶融光ビーム照射装置及び前記保温光ビーム照射装置の各々を独立して制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記保温光ビームが照射される照射範囲であって前記溶融光照射範囲よりも大きな保温光照射範囲を前記溶融光照射範囲に重畳させた状態とし、且つ、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御し、
前記制御装置は、
前記保温光ビームの照射方向が前記溶融光ビームの照射方向に対して傾いた状態で、前記保温光ビーム照射装置の前記姿勢を制御し、
前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の傾きを変化させることにより、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさを変化させる、付加製造装置にある。
本発明の第三態様は、炭化タングステン(WC)である硬質材、並びに、コバルト(Co)又はニッケル(Ni)である超硬バインダを含む粉末材料を基材に供給する粉末材料供給装置と、
前記基材に供給された前記粉末材料を前記粉末材料の融点以上に加熱して溶融する溶融光ビームを照射する溶融光ビーム照射装置と、
前記溶融光ビームが照射される照射範囲である溶融光照射範囲の外側にて前記融点未満に加熱して保温する保温光ビームを照射する保温光ビーム照射装置と、
前記基材を前記基材の中心軸線の回りに回転させる第一モータと、
前記基材を前記中心軸線の方向に移動させる第二モータと、
前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの照射、並びに、前記基材に対する前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査について、前記溶融光ビーム照射装置及び前記保温光ビーム照射装置の各々を独立して制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記保温光ビームが照射される照射範囲であって前記溶融光照射範囲よりも大きな保温光照射範囲を前記溶融光照射範囲に重畳させた状態とし、且つ、前記溶融光照射範囲の外形の大きさに対する前記保温光照射範囲の外形の大きさが可変となるように、前記溶融光ビーム照射装置に対する前記保温光ビーム照射装置の相対的な姿勢を制御し、
前記第一モータの回転及び前記第二モータの回転を制御することにより、前記基材における前記中心軸線回りの周面に対する、前記溶融光ビーム及び前記保温光ビームの相対的な走査を制御する、付加製造装置にある。
【0009】
これによれば、保温光ビームを照射する保温光ビーム照射装置は、溶融光ビームを照射する溶融光ビーム照射装置に対して相対移動することにより、独立的に姿勢を変更することができる。これにより、溶融光ビームの溶融光照射範囲の大きさを変更することなく、保温光ビームの保温光照射範囲の大きさを独立して変更することができる。従って、保温光ビームによって加熱する範囲を自由に変更することができるため、例えば、時々刻々と変化する基材の温度や粉末材料の温度に応じて予熱(加熱)を調整したり、粉末材料が溶融されて形成された溶融池の保温を維持したりすることができる。従って、付加製造装置は、高品質な付加製造物を付加製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】付加製造装置を示す図である。
図2図1の付加製造装置の移動装置を説明するための図である。
図3】溶融光ビームの溶融光照射範囲と保温光ビームの保温光照射範囲とを説明するための図である。
図4図1の付加製造装置において基材に付加製造物を付加製造する場合のパワー密度と光照射範囲との関係を示すビームプロファイルである。
図5図1の付加製造装置による付加製造物を付加製造する際の基材に付加した付加製造物の初期状態を示す断面図である。
図6図5の状態から走査が進んだときの基材に付加製造した付加製造物の途中状態及び付加状態を示す断面図である。
図7】超硬バインダであるコバルト(Co)の凝固点における冷却速度を説明するためのグラフである。
図8】付加製造装置制御プログラムのフローチャートである。
図9】保温光ビームのパワー密度の変更を説明するためのビームプロファイルである。
図10】予熱を抑制する際の保温光ビームの保温光照射範囲の変更を説明するための図である。
図11】予熱を強める際の保温光ビームの保温光照射範囲の変更を説明するための図である。
図12】保温光ビームの照射形状の変更例を示す図である。
図13】保温光ビームの照射形状の変更例を示す図である。
図14】溶融光照射範囲と保温光照射範囲との重畳を説明するための図である。
図15】溶融光照射範囲と保温光照射範囲との重畳を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.付加製造装置の概要)
本例の付加製造装置は、例えば、指向性エネルギー堆積方式であってLMD方式を採用する。本例において、付加製造装置は、硬質材である硬質粉末材料に結合粉末材料を混合した粉末材料を基材に向けて噴射しながら光ビームを照射することにより、基材に硬質の付加製造物を付加製造する。粉末材料、特に、硬質粉末材料と基材は、異なる材料でも良く、同一種類の材料でも良い。更に、粉末材料は、硬質粉末材料と結合粉末材料とを固めた造粒粉末でも良い。
【0012】
本例では、硬質材である炭化タングステン(WC)の硬質粉末材等を用いて造形される硬質の付加製造物を、炭素鋼(S45C)を用いて形成された基材に付加製造する場合について説明する。本例においては、結合粉末材料は、炭化タングステン(WC)を結合する超硬バインダとして作用するコバルト(Co)を用いる。ここで、炭化タングステン(WC)の融点(凝固点)は、2870℃であり、超硬バインダであるコバルト(Co)の融点(凝固点)の1495℃よりも高い。尚、本例においては、超硬バインダとしてコバルト(Co)を用いる。しかし、超硬バインダはコバルト(Co)に限られず、例えば、ニッケル(Ni)を超硬バインダとして用いることも可能である。
【0013】
(2.付加製造装置100の構成)
図1に示すように、付加製造装置100は、粉末材料供給装置110、光ビーム照射装置120及び制御装置130を主に備える。尚、本例の付加製造装置100の基本的な構成及び動作については、周知のLMD型の付加製造装置と同等である。このため、付加製造装置100についての詳細な構成及び動作等の説明については省略する。
【0014】
粉末材料供給装置110は、ホッパ111、バルブ112、ガスボンベ113及び噴射ノズル114を備える。ホッパ111は、結合粉末材料P2が混合された硬質粉末材料P1を貯蔵する。尚、以下の説明において、硬質粉末材料P1と結合粉末材料P2とを混合した粉末材料を「粉末材料P」と称呼する。
【0015】
バルブ112は、粉末導入バルブ112a、粉末供給バルブ112b及びガス導入バルブ112cを備える。粉末導入バルブ112aは、配管111aを介してホッパ111と接続される。粉末供給バルブ112bは、配管114aを介して噴射ノズル114と接続される。ガス導入バルブ112cは、配管113aを介してガスボンベ113と接続される。
【0016】
噴射ノズル114及び配管114aは、噴射ノズル114側に傾斜部分を有する筒状の容器115に収容される。噴射ノズル114は、容器115の傾斜部分の先端に配置される。そして、噴射ノズル114は、配管114aを介して、例えば、ガスボンベ113から供給される高圧の窒素により、粉末材料Pを基材B、より詳しくは、付加製造物FFを造形する造形面B1に向けて噴射する。尚、粉末材料Pを噴射するガスは、窒素に限定されるものではなく、アルゴン等の不活性ガスであっても良い。
【0017】
光ビーム照射装置120は、溶融光ビーム照射装置121と、保温光ビーム照射装置122と、溶融光ビーム照射装置121及び保温光ビーム照射装置122の各々を独立して相対移動させる移動装置123を主に備える。ここで、図1及び図2に示すように、溶融光ビーム照射装置121と保温光ビーム照射装置122とは、移動装置123によって各々が照射する光ビームの照射方向(光軸)が交差する、或いは、ねじれの位置関係を有するように配置される。つまり、図3に示すように、溶融光ビーム照射装置121と保温光ビーム照射装置122とは、溶融光ビーム照射装置121による溶融光ビームMBMの照射範囲と、保温光ビーム照射装置122による保温光ビームKBMの照射範囲と、が重畳するように(重なるように)、配置される。
【0018】
溶融光ビーム照射装置121は、溶融光ビーム生成部121aにより生成され供給される溶融光ビームMBMを基材Bの造形面B1に直交するように照射する溶融光ビーム照射部121bを備える。溶融光ビーム生成部121aは、制御装置130によって制御されて、溶融光ビームMBMを生成する。
【0019】
溶融光ビーム照射部121bは、容器115の内部において、噴射ノズル114の近傍に配置される。具体的に、溶融光ビーム照射部121bは、噴射ノズル114から噴射される粉末材料Pの供給位置に向けて溶融光ビームMBMが照射可能となるように、容器115の傾斜部分の先端に配置される。
【0020】
溶融光ビームMBMは、容器115の内部に配置された図示省略のコリメータレンズや集光レンズ等の光学系を通して溶融光ビームMBMを照射する。そして、溶融光ビームMBMは、図1に示すように、基材Bにおいて粉末材料供給装置110から供給された粉末材料Pを溶融することにより溶融池MPを形成する。尚、「加工ヘッド」は、噴射ノズル114、溶融光ビーム照射装置121及び容器115を含んで構成されることにより、粉末材料Pと溶融光ビームMBMとは一体に移動する。
【0021】
保温光ビーム照射装置122は、保温光ビーム生成部122aにより生成され供給される保温光ビームKBMを基材Bの造形面B1に照射する保温光ビーム照射部122bを備える。保温光ビーム照射装置122は、保温光ビームの照射方向(光軸)が、溶融光ビーム照射装置121による溶融光ビームMBMの照射方向(光軸)に対して傾きを有するように配置される。保温光ビーム照射装置122は、基材B又は基材B上に供給されて未溶融の状態にある粉末材料Pを加熱して保温する。
【0022】
保温光ビーム生成部122aは、制御装置130によって制御されて、保温光ビームKBMを生成する。保温光ビーム照射部122bは、筒状の容器122cにおいて、基材Bに対向する先端に配置される。具体的に、保温光ビーム照射部122bは、溶融光ビーム照射装置121から照射された溶融光ビームMBMの照射範囲に重ねて保温光ビームKBMが照射可能となるように、容器122cの先端に配置される。又、保温光ビーム照射部122bは、形成された溶融池MPに対し、溶融光ビーム照射装置121の走査方向にて前側及び後側、特に、少なくとも後側に向けて保温光ビームKBMが照射可能となるように、容器122cの先端に配置される。
【0023】
保温光ビームKBMは、容器122cの内部に配置された図示省略のコリメータレンズや集光レンズ等の光学系を通して保温光ビームKBMを照射する。そして、保温光ビームKBMは、基材Bの造形面B1及び供給された未溶融の粉末材料Pを予熱(加熱)すると共に、溶融光ビームMBMによって形成された溶融池MPを保温する。
【0024】
移動装置123は、図2に示すように、第一ロボットアーム123a及び第二ロボットアーム123bを主に備える。第一ロボットアーム123aは、溶融光ビーム照射装置121(即ち、加工ヘッド)を支持する。そして、第一ロボットアーム123aは、基材Bの造形面B1に対して、溶融光ビームMBMの照射方向(即ち、溶融光ビームMBMの光軸)が直交する状態で、溶融光ビーム照射装置121を相対変位させる。
【0025】
第二ロボットアーム123bは、保温光ビーム照射装置122を支持する。具体的に、第二ロボットアーム123bは、溶融光ビームMBMの照射方向(溶融光ビームMBMの光軸)に対して保温光ビームKBMの照射方向(保温光ビームKBMの光軸)が傾いた姿勢、換言すれば、造形面B1に対して保温光ビームKBMの照射方向(保温光ビームKBMの光軸)が傾いた姿勢で、保温光ビーム照射装置122を支持する。そして、第二ロボットアーム123bは、保温光ビーム照射装置122を、溶融光ビーム照射装置121に追従させて、基材Bに対して相対変位させる。
【0026】
ここで、本例においては、図3に示すように、溶融光ビーム照射装置121は、円形状の照射形状となる溶融光ビームMBMを照射する。又、保温光ビーム照射装置122は、溶融光ビームMBMの照射範囲に重畳し且つ溶融光ビームMBMの照射範囲の外側を囲う四角形状の照射形状となる保温光ビームKBMを照射する。そして、保温光ビームKBMの照射範囲の保温光ビームKBMの走査方向における長さ(長辺又は長軸)は、溶融光ビームMBMの走査方向における溶融光ビームMBMの照射範囲の長さに対して1.5倍以上、好ましくは、2倍以上、より好ましくは3倍以上に設定される。
【0027】
これにより、溶融光ビームMBMは、主として、基材Bの造形面B1において粉末材料Pを溶融することにより、図1に示すように、複数のビードNによる付加製造物FFを付加製造する。又、保温光ビームKBMは、主として、基材Bの造形面B1を予熱する。又、保温光ビームKBMは、主として、基材Bの造形面B1に付加製造された付加製造物FF(より詳しくは、粉末材料Pが溶融した溶融池MP)の温度低下を抑制することにより保温する。
【0028】
尚、本例においては、溶融光ビームMBM及び保温光ビームKBMとして、レーザ光を用いる。しかしながら、溶融光ビームMBM及び保温光ビームKBMは、レーザ光に限られず、電磁波であれば例えば電子ビームを用いることも可能である。又、本例においては、円形状の溶融光ビームMBMに対して四角形状の保温光ビームKBMを重畳するように照射するが、照射形状についてはこれらに限定されるものではない。
【0029】
制御装置130は、CPU、ROM、RAM、インターフェース等を主要構成部品とするコンピュータ装置である。制御装置130は、粉末材料供給装置110の粉末供給を制御する。具体的に、制御装置130は、粉末供給バルブ112b及びガス導入バルブ112cの開閉を制御することにより、噴射ノズル114から基材Bの造形面B1に向けた粉末材料Pの噴射供給を制御する。
【0030】
制御装置130は、光ビーム照射装置120即ち溶融光ビーム照射装置121、保温光ビーム照射装置122及び移動装置123の光照射を制御する。具体的に、制御装置130は、溶融光ビーム照射装置121の溶融光ビーム生成部121a及び保温光ビーム照射装置122の保温光ビーム生成部122aの動作をそれぞれ制御する。これにより、制御装置130は、溶融光ビームMBM及び保温光ビームKBMの各々の出力条件を独立して制御する。ここで、出力条件としては、例えば、それぞれのレーザ出力や、図3に示すように、溶融光ビームMBMの照射範囲である溶融光照射範囲MS及び保温光ビームKBMの照射範囲である保温光照射範囲KSの各単位面積当たりのレーザ出力(W)であるパワー密度の分布形状、即ち、ビームプロファイルを挙げることができる。
【0031】
ここで、制御装置130は、図4に示すように、溶融光ビームMBMのパワー密度のビームプロファイルにおけるピークMBP1を、保温光ビームKBMのパワー密度のビームプロファイルにおけるピークKBP1より増加させる制御を行う。溶融光ビームMBMのレーザ出力は、硬質粉末材料P1及び結合粉末材料P2を溶融して溶融池MPを形成できる温度となるように制御される。又、保温光ビームKBMのレーザ出力は、硬質粉末材料P1及び結合粉末材料P2を溶融させることがない所定の温度となるように制御される。
【0032】
又、制御装置130は、移動装置123の第一ロボットアーム123a及び第二ロボットアーム123bを作動させることにより、保温光ビームKBMを溶融光ビームMBMの軌跡に追従させる。この場合、制御装置130は、第二ロボットアーム123bを作動させることにより、保温光ビームKBMの照射範囲の大きさや保温光ビームKBMの光軸の溶融光ビームMBMの光軸に対する角度等を制御することができる。これにより、溶融光ビームMBMの照射範囲(溶融光照射範囲)の大きさに対する保温光ビームKBMの照射範囲(保温光照射範囲)の大きさが可変となるように、制御装置130は、溶融光ビーム照射装置121に対する保温光ビーム照射装置122の相対的な姿勢を制御することができる。
【0033】
更に、制御装置130は、基材Bの造形面B1に対する溶融光ビームMBM及び保温光ビームKBMの相対的な走査を制御する。具体的に、本例においては、制御装置130は、モータM1の回転を制御して基材Bを中心軸線Cの回りに回転させると共に、モータM2の回転を制御して基材Bを中心軸線Cの方向に移動させる。これにより、基材Bの周面に対する溶融光ビームMBM及び保温光ビームKBMの相対的な走査を制御する。
【0034】
尚、本例においては、制御装置130が基材Bを回転及び移動させるようにする。しかしながら、制御装置130が移動装置123を制御することにより、溶融光ビーム照射装置121及び保温光ビーム照射装置122を基材Bの造形面B1に対して相対的に移動させることが可能であることは言うまでもない。
【0035】
更に、制御装置130は、撮像装置140と接続される。撮像装置140は、溶融光ビーム照射装置121に組み付けられており、基材Bの造形面B1に形成された付加製造物FF(ビードN)の状態を撮像する。撮像装置140は、例えば、赤外線カメラやサーモグラフィ等を用いることができる。
【0036】
(3.付加製造物FFの付加製造方法の概略)
次に、付加製造物FF(ビードN)の付加製造方法について説明する。付加製造物FF(ビードN)の付加製造方法では、第一段階として、保温光ビームKBMにより、付加製造物FF(ビードN)の付加製造処理における前処理である予熱処理を行う。
【0037】
一般に、基材Bの造形面B1の温度が低い状態では、溶融光ビームMBMの照射による熱エネルギーが基材Bに逃げ易い。これにより、第二段階において付加製造物FF(ビードN)を基材Bの造形面B1に付加製造する場合、溶融不足の発生等の溶融の不良要因となり易いため、第一段階で保温光ビームKBMを用いて基材Bの造形面B1を予熱(加熱)する。
【0038】
このとき、予熱処理における保温光ビームKBMの保温光照射範囲KSは、溶融光ビームMBMの溶融光照射範囲MSと重なり(溶融光ビームMBMの光軸に交差し)且つ溶融光ビームMBMの走査方向SDの前側の保温光照射範囲KSFまで照射する(図5を参照)。又、予熱処理における保温光ビームKBMのレーザ出力は、基材Bの造形面B1が溶融せずに所定の温度となるように制御される。
【0039】
一方、例えば、複数のビードNが形成されることによって基材Bの造形面B1の温度が上昇して高い状態では、溶融光ビームMBMの照射による熱エネルギーが過多になり易い。これにより、第二段階において付加製造物FF(ビードN)を基材Bの造形面B1に付加製造する場合、ビードNのビード幅が広がったりビード高さが変動等したりして付加製造の不良要因となり易い。このため、第一段階で保温光ビームKBMを用いた基材Bの造形面B1の予熱を抑制する。
【0040】
このとき、予熱処理における保温光ビームKBMの保温光照射範囲KSとしては、溶融光照射範囲MSと重なる(溶融光ビームMBMの光軸と交差する)。ここで、保温光ビームKBMのパワー密度は、溶融光ビームMBMのパワー密度に比べて小さい。このため、溶融光ビームMBMによる粉末材料Pの溶融に対する影響は小さい。
【0041】
次に、第二段階として、図5及び図6に示すように、溶融光ビームMBMを照射することにより、溶融光照射範囲MSにおいて、基材Bの造形面B1の一部及び粉末材料Pを溶融して溶融池MPを形成する溶融処理を行う。又、この溶融処理においては、保温光ビームKBMの保温光照射範囲KSのうち、溶融光ビームMBMの走査方向SDにて溶融光ビームMBMよりも前側の保温光照射範囲KSFにて、保温光ビームKBMの一部により溶融池MPの形成処理の前処理としての予熱処理を行う。
【0042】
そして、図6に示すように、溶融光ビームMBMを走査方向SDに走査する(本例では、基材Bが回転することにより走査するが、図6では便宜上、溶融光ビームMBMを走査するものとして説明する。)ことで溶融池MPを拡大させることにより、付加製造物FF(ビードN)を付加製造する。ここで、本例の付加製造物FF(ビードN)は、硬質粉末材料P1の炭化タングステン(WC)が超硬バインダとして作用する結合粉末材料P2のコバルト(Co)によって結合されて形成されるものである。そして、本例の付加製造物FFは、基材Bの周方向に沿って筋状に形成される複数のビードNによって構成される(図1を参照)。
【0043】
又、溶融光ビームMBMは、溶融池MPを拡大させるように粉末材料Pを溶融させた後、走査方向SDに順次移動する。このため、保温光ビームKBMの保温光照射範囲KSのうち、溶融光ビームMBMの走査方向SDにて溶融光ビームMBMよりも後側の保温光照射範囲KSBにおいて、保温光ビームKBMの一部が溶融池MPを照射する。これにより、保温光ビームKBMは、付加製造物FFの付加製造の後処理としての保温処理を行う。
【0044】
ところで、上述したように、複数のビードNが形成されることによって基材Bの造形面B1の温度が高い状態では、溶融光ビームMBMの照射による熱エネルギーが過多になる場合がある。この場合、制御装置130は、保温光照射範囲KSを小さくする。但し、制御装置130は、保温処理を継続するために、保温光ビームKBMの保温光照射範囲KSとしては、溶融光照射範囲MSと重なり(即ち、溶融光ビームMBMの光軸と交差し)、且つ、後側の保温光照射範囲KSBに保温光ビームKBMを照射する。
【0045】
ここで、予熱(及び保温)の効果について説明しておく。図7に付加製造物FFにおける温度の時間変化の線図を示すように、基材Bの予熱が行われない場合(図7にて破線により示す)には、コバルト(Co)の凝固点即ち融点を超えるまで加熱された後において急速に付加製造物FFの温度が低下する。つまり、予熱がない場合には、凝固後において予め与えられている熱エネルギーが相対的に小さい。このため、従って、図7にて太い二点鎖線により示すように、コバルト(Co)の凝固点における単位時間当たりの温度低下を表す冷却速度(℃/s)、即ち、コバルト(Co)の凝固点における接線の傾きは大きくなり、急冷となる。
【0046】
一方、基材Bが予熱されて予熱温度(加熱温度)が600℃以上の場合(図7にて実線により示す)には、コバルト(Co)の凝固点即ち融点を超えるまで加熱された後において緩やかに付加製造物FFの温度が低下する。つまり、予熱がある場合には、凝固した後において予め与えられている熱エネルギーが相対的に大きい。このため、図7にて太い二点鎖線により示すように、コバルト(Co)の凝固点における冷却速度(℃/s)は、予熱がない場合に比べて、小さくなる。
【0047】
従って、結合粉末材料P2のコバルト(Co)の凝固点における冷却速度(℃/s)を適切に設定することにより、付加製造物FFの割れを抑制できる。具体的に、コバルト(Co)の凝固点における冷却速度(℃/s)を540℃/s以下となるように基材Bを予熱(及び保温)した場合に、付加製造物FFの急冷が防止され、付加製造物FFの割れが生じることを抑制することができる。
【0048】
このため、制御装置130は、保温光ビームKBMのパワー密度のビームプロファイルを、冷却速度が540℃/s以下となるように設定し、保温光ビーム照射装置122の作動を制御する。これにより、保温光ビームKBMが照射される保温光照射範囲KSにおいては、540℃/s以下となる冷却速度となり、換言すれば、600℃以上の状態で保温され、急冷が防止される。その結果、付加製造物FFの割れを抑制することができる。
【0049】
(4.付加製造物FFの付加製造方法の詳細)
次に、付加製造物FFの付加製造方法の詳細について説明する。制御装置130は、図8に示す付加製造装置制御プログラムの実行をステップS10にて開始し、続くステップS11にて、制御装置130は、粉末材料供給装置110の作動を制御する。即ち、制御装置130は、粉末材料供給装置110のバルブ112、具体的には、粉末供給バルブ112b及びガス導入バルブ112cの開閉を制御し、予め設定された供給量の粉末材料Pを噴射ノズル114から基材Bに供給する。そして、制御装置130は、粉末材料Pを基材Bに供給すると、ステップS12のステップ処理を実行する。
【0050】
ステップS12においては、制御装置130は、光ビーム照射装置120の溶融光ビーム照射装置121及び保温光ビーム照射装置122を作動させる。そして、制御装置130は、前記ステップS11にて基材Bに供給された粉末材料Pに対して溶融光ビームMBM及び保温光ビームKBMを照射し、基材Bの造形面B1にビードN即ち付加製造物FFを付加製造する。
【0051】
ステップS13においては、制御装置130は、撮像装置140によって撮像されたビードNの画像データGを取得する。そして、制御装置130は、ステップS14のステップ処理を実行する。尚、制御装置130は、静止画である画像データGを取得することに限られず、例えば、撮像装置140によって撮像された動画である動画データを取得しても可能である。
【0052】
ステップS14においては、制御装置130は、前記ステップS13にて取得した画像データG(又は、動画データ)に基づき、形成されたビードNの形成状態として、ビードNの幅を表すビード幅Wが安定しているか否かを判定する。具体的に、ビード幅Wが予め設定された最小ビード幅WLと最大ビード幅WHとによって規定される範囲内に存在する場合、ビード幅Wは安定している。一方、ビード幅Wが最小ビード幅WLと最大ビード幅WHとによって規定される範囲外に存在する場合、ビード幅Wは不安定である。
【0053】
従って、制御装置130は、ビード幅Wが最小ビード幅WL以上であり、且つ、最大ビード幅WH未満である場合、ステップS14にて「Yes」と判定して、ステップS15のステップ処理を実行する。一方、制御装置130は、ビード幅Wが最小ビード幅WL未満、又は、ビード幅Wが最大ビード幅WH以上である場合、ステップS14にて「No」と判定する。そして、制御装置130は、前記ステップS12のステップ処理を実行する。
【0054】
上述したように、ビード幅Wが最大ビード幅WH以上になる場合、予熱処理による基材Bの温度が高くなり、溶融光ビームMBMが照射された際のエネルギーが過多になっている可能性がある。即ち、エネルギーが過多になった場合、供給された粉末材料Pが過剰に溶融するために溶融池MPが大きくなり、その結果、ビード幅Wが最大ビード幅WH以上になる。一方、ビード幅Wが最小ビード幅WL未満になる場合、予熱処理による基材Bの温度が低く、溶融不足が発生している可能性がある。即ち、溶融不足が発生する場合、溶融池MPが小さくなり、その結果、ビード幅Wが最小ビード幅WL未満になる。
【0055】
そこで、制御装置130は、ステップS14における「No」の判定処理に従い、前記ステップS12のステップ処理を実行する際、ビード幅Wが最大ビード幅WH以上の場合と、ビード幅Wが最小ビード幅WL未満の場合とに応じて、光ビーム照射装置120の作動内容を調整する。以下、具体的に説明する。
【0056】
ビード幅Wが最大ビード幅WH以上の場合、上述したように、光ビーム照射装置120によるエネルギー過多が主な要因である。このため、制御装置130は、基材Bの予熱によるエネルギーを減少させるべく、保温光ビームKBMのパワー密度を低減させる。又、必要に応じて、溶融池MPを小さくするために溶融光ビームMBMのパワー密度を低減させる。この場合、制御装置130は、図9に示すように、ビームプロファイルにおいて、保温光ビームKBMのパワー密度のビームプロファイルにおけるピークKBP1を低減させる。
【0057】
或いは、制御装置130は、基材Bの予熱によるエネルギーを減少させるべく、移動装置123の第二ロボットアーム123bを作動させることにより、図10に示すように、保温光照射範囲KSを小さくする(前側の保温光照射範囲KSFを相対的に小さくする)。この場合、制御装置130は、第二ロボットアーム123bを作動させて、例えば、溶融光ビームMBMの光軸に対する保温光ビームKBMの光軸の傾きを小さくする(角度を小さくする)。これにより、保温光照射範囲KSを小さくすることができる。
【0058】
尚、この場合においても、制御装置130は、保温光ビームKBMの後側の保温光照射範囲KSBによって溶融池MPは保温される。これにより、形成された溶融池MPが急冷されることが抑制され、形成された付加製造物FF(ビードN)における割れの発生を防止することができる。
【0059】
一方、ビード幅Wが最小ビード幅WL未満の場合、上述したように、予熱不足が主な要因である。このため、制御装置130は、基材Bの予熱によるエネルギーを増加させるべく、保温光ビームKBMの出力を増大させる。この場合、制御装置130は、図9に示すビームプロファイルにおいて、保温光ビームKBMのパワー密度のビームプロファイルにおけるピークKBP1を増大させる。
【0060】
或いは、制御装置130は、基材Bの予熱によるエネルギーを増加させるべく、移動装置123の第二ロボットアーム123bを作動させることにより、図11に示すように、保温光照射範囲KSを大きくする(前側の保温光照射範囲KSFを相対的に大きくする)。この場合、制御装置130は、第二ロボットアーム123bを作動させて、例えば、溶融光ビームMBMの光軸に対する保温光ビームKBMの光軸の傾きを大きくする(角度を大きくする)。これにより、保温光照射範囲KSを大きくすることができて、基材Bの造形面B1を良好に予熱することができる。
【0061】
又、この場合、制御装置130は、第二ロボットアーム123bを作動させて、例えば、保温光ビーム照射装置122を基材Bから離間する方向に相対移動させると共に、保温光ビームKBMの出力を増大させる。これにより、保温光ビーム照射装置122が基材Bから離間する方向に相対移動することに伴って保温光照射範囲KSが大きくなる。そして、保温光照射範囲KSが大きくなる場合、パワー密度が相対的に低下するため、保温光ビームKBMの出力を増大させる。これにより、前側の保温光照射範囲KSFを相対的に大きくすることができると共に、保温光照射範囲KSFにおける保温光ビームKBMによって基材Bを良好に予熱することができる。
【0062】
尚、この場合においても、制御装置130は、保温光ビームKBMの後側の保温光照射範囲KSBによって溶融池MPは保温される。これにより、形成された溶融池MPが急冷されることが抑制され、形成された付加製造物FF(ビードN)における割れの発生を防止することができる。
【0063】
制御装置130は、ビード幅Wに応じて光ビーム照射装置120及び移動装置123の作動内容を調整すると、調整した作動内容に従って光ビーム照射装置120を作動させる。そして、再び、前記ステップS13以降の各ステップ処理を実行する。
【0064】
一方、図8に示す前記ステップS14にて「Yes」と判定すると、制御装置130は、ステップS15のステップ処理を実行する。即ち、制御装置130は、ステップS15において、前記ステップS13にて取得した画像データG(或いは、動画データ)に基づき、形成されたビードNの形成状態として、ビードNの高さを表すビード高さHが安定しているか否かを判定する。具体的に、ビード高さHが予め設定された最小ビード高さHLと最大ビード高さHHとによって規定される範囲内に存在する場合、ビード高さHは安定している。一方、ビード高さHが最小ビード高さHLと最大ビード高さHHとによって規定される範囲外に存在する場合、ビード高さHは不安定である。
【0065】
従って、制御装置130は、ビード高さHが最小ビード高さHL以上であり、且つ、最大ビード高さHH未満である場合、ステップS15にて「Yes」と判定して、ビードN即ち付加製造物FFの形成を継続し、付加製造物FFの形成が完了すると、ステップS16にてプログラムの実行を終了する。一方、制御装置130は、ビード高さHが最小ビード高さHL未満、又は、ビード高さHが最大ビード幅WH以上である場合、ステップS15にて「No」と判定する。そして、制御装置130は、前記ステップS11のステップ処理を実行する。
【0066】
ビード高さHが最大ビード高さHH以上になる場合、基材Bに供給される粉末材料Pの供給量が過多になっている可能性がある。即ち、粉末材料Pの供給量が過多であり供給された粉末材料Pが溶融することにより、ビード高さHが最大ビード高さHH以上になる。一方、ビード高さHが最小ビード高さHL未満になる場合、基材Bに供給される粉末材料Pの供給量が過小になっている可能性がある。即ち、粉末材料Pの供給量が過小であり供給された粉末材料Pの全てが溶融されても、ビード高さHが最小ビード高さHL未満になる。
【0067】
そこで、制御装置130は、ステップS15における「No」の判定処理に従い、前記ステップS11のステップ処理を実行する際、ビード高さHが最大ビード高さHH以上の場合と、ビード高さHが最小ビード高さHL未満の場合とに応じて、粉末材料供給装置110から供給される粉末材料Pの供給量を調整する。以下、具体的に説明する。
【0068】
ビード高さHが最大ビード高さHH以上の場合、上述したように、粉末材料供給装置110から供給される粉末材料Pの供給量の過多が主な要因である。このため、制御装置130は、基材Bに供給する粉末材料Pの供給量を減少させる。即ち、制御装置130は、粉末材料供給装置110のバルブ112、具体的には、粉末供給バルブ112b及びガス導入バルブ112cの開度を小さくする。尚、この場合、制御装置130は、ビードNの単位長さ当たりの供給量が低減するように、粉末材料Pの供給量を変更することなく、加工ヘッドの走査速度を上げることもできる。
【0069】
一方、ビード高さHが最小ビード高さHL未満の場合、上述したように、粉末材料供給装置110から供給される粉末材料Pの供給量の過小が主な要因である。このため、制御装置130は、基材Bに供給する粉末材料Pの供給量を増加させる。即ち、制御装置130は、粉末材料供給装置110のバルブ112、具体的には、粉末供給バルブ112b及びガス導入バルブ112cの開度を大きくする。尚、この場合、制御装置130は、ビードNの単位長さ当たりの供給量が増加するように、粉末材料Pの供給量を変更することなく、加工ヘッドの走査速度を下げることもできる。
【0070】
制御装置130は、ビード高さHに応じて粉末材料供給装置110の作動内容を調整すると、調整した作動内容に従って粉末材料供給装置110、具体的には、バルブ112を作動させる。そして、再び、前記ステップS12以降の各ステップ処理を実行する。
【0071】
以上の説明からも理解できるように、付加製造装置100によれば、保温光ビームKBMを照射する保温光ビーム照射装置122は、溶融光ビームMBMを照射する溶融光ビーム照射装置121に対して相対移動することにより、独立的に姿勢を変更することができる。これにより、溶融光ビームMBMの溶融光照射範囲MSの大きさを変更することなく、保温光ビームKBMの保温光照射範囲KSの大きさを独立して変更することができる。従って、保温光ビームKBMによって加熱する範囲を自由に変更することができるため、例えば、時々刻々と変化する基材Bの造形面B1の温度に応じて予熱(加熱)を調整したり、粉末材料Pが溶融されて形成された溶融池MPの保温を調整したりすることができる。従って、付加製造装置100は、高品質な付加製造物FFを付加製造することができる。
【0072】
(5.その他)
上述した本例においては、溶融光ビームMBMの照射形状を円形状とした。しかし、溶融光ビームMBMの照射形状は、例えば、多角形とすることも可能である。又、上述した本例においては、保温光ビームKBMの照射形状を四角形状とした。しかし、保温光ビームKBMの照射形状は、例えば、図12に示す楕円形状(円形状)や、図13に示すように溶融光ビームMBMを含むように円環状(又は四角環状等)、或いは、矩形以外の多角形とすることも可能である。更に、溶融光ビームMBMと保温光ビームKBMとは、図14及び図15に示すように、少なくとも一部で重畳していれば良い。これらの場合においても、上述した本例と同様の効果が期待できる。
【0073】
又、上述した本例では、付加製造装置100において、粉末材料供給装置110により、基材Bの造形面B1に対して硬質粉末材料P1及び結合粉末材料P2からなる粉末材料Pを噴射して供給するようにした。しかしながら、造形面B1への材料供給に関しては、粉末材料Pに限定されず、金属製の線形材料からなる、例えば、ワイヤ等を材料供給装置により供給することも可能である。この場合においては、供給された線形材料が光ビーム照射装置120から照射された溶融光ビームMBMにより溶融され且つ保温光ビームKBMにより保温されることにより、基材Bの造形面B1に付加製造物FFを付加製造することができる。従って、上述した本例と同様の効果が期待できる。
【0074】
更に、上述した本例等では、付加製造装置100がLMD方式を採用した場合を説明した。これに代えて、付加製造装置がSLM方式を採用した場合であっても、保温光ビームが溶融池(付加製造物)を保温することが可能である。但し、SLMを採用した場合、通常、光ビームの走査速度はLMDの光ビームの走査速度よりも速い。このため、付加製造装置がSLMを採用した場合には、例えば、通常の付加製造時よりも溶融光ビーム及び保温光ビームの走査速度を低下させることが好ましい。走査速度を低下させるほど、保温光ビームKBMによる保温効果がより発揮される。
【符号の説明】
【0075】
100…付加製造装置、110…粉末材料供給装置、111…ホッパ、111a…配管、112…バルブ、112a…粉末導入バルブ、112b…粉末供給バルブ、112c…ガス導入バルブ、113…ガスボンベ、113a…配管、114…噴射ノズル、114a…配管、115…容器、120…光ビーム照射装置、121…溶融光ビーム照射装置、121a…溶融光ビーム生成部、121b…溶融光ビーム照射部、122…保温光ビーム照射装置、122a…保温光ビーム生成部、122b…保温光ビーム照射部、122c…容器、123…移動装置、123a…第一ロボットアーム、123b…第二ロボットアーム、130…制御装置、140…撮像装置、B…基材、B1…造形面、C…中心軸線、FF…付加製造物、N…ビード、MP…溶融池、KBM…保温光ビーム、MBM…溶融光ビーム、MS…溶融光照射範囲、KS…保温光照射範囲、KSB…後側の保温光照射範囲、KSF…前側の保温光照射範囲、M1…モータ、M2…モータ、P…粉末材料、P1…硬質粉末材料、P2…結合粉末材料、G…画像データ、SD…走査方向、SS…外側光照射範囲、W…ビード幅、WH…最大ビード幅、WL…最小ビード幅、H…ビード高さ、HH…最大ビード高さ、HL…最小ビード高さ
図1
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