(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置および窒化物半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20241210BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241210BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20241210BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241210BHJP
H01L 21/822 20060101ALI20241210BHJP
H01L 27/04 20060101ALI20241210BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H01L29/78 301G
H01L21/316 X
H01L21/31 C
H01L29/78 301B
H01L27/04 C
H01L29/78 652T
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/78 658E
(21)【出願番号】P 2020145825
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝典
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】稲本 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】高島 信也
【審査官】石川 雄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054250(JP,A)
【文献】特開2016-072358(JP,A)
【文献】特開2014-138167(JP,A)
【文献】特開2019-153627(JP,A)
【文献】特開2009-076673(JP,A)
【文献】特開2017-168470(JP,A)
【文献】特開2016-046527(JP,A)
【文献】特表2019-513294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
H01L 21/316
H01L 21/336
H01L 21/822
H01L 27/04
H01L 29/12
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gaを含む窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層の上面に積層された絶縁膜と、
前記絶縁膜の上方に設けられた電極と、
を備え、
前記絶縁膜中の固定電荷密度と、前記絶縁膜の厚さとの積は、
固定電荷が正の場合1E7
(/cm)以下の範囲内であり、
前記絶縁膜
における界面固定電荷密度は、
固定電荷が正の場合1E11
(/cm
2)以下
である、
窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記絶縁膜のGa濃度は、前記窒化物半導体層との界面からの30nmより上方の領域において、+4E17cm
-3以下である、
請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記絶縁膜はSiを含む酸化物を含む、
請求項1または2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記絶縁膜は酸窒化物を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記絶縁膜は、30nm以上100nm以下の厚さを有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記窒化物半導体層は、GaNを含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記窒化物半導体層は、MgドープのP型GaNを含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
前記窒化物半導体層のMg濃度は、+1E16cm
-3以上、+1E18cm
-3以下である、
請求項7に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
前記窒化物半導体層、前記絶縁膜および前記電極は、MOSゲート構造を有する電界効果トランジスタを構成する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項10】
前記電界効果トランジスタは、+3V以上の閾値電圧を有する、
請求項9に記載の窒化物半導体装置。
【請求項11】
前記絶縁膜のC不純物濃度は、+4E17cm
-3以下である、
請求項1から10のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項12】
Gaを含む窒化物半導体層を設ける段階と、
前記窒化物半導体層の上面に積層された絶縁膜を設ける段階と、
前記絶縁膜の上方に設けられた電極を設ける段階と、を備え、
前記絶縁膜中の固定電荷密度と、前記絶縁膜の厚さとの積は、
固定電荷が正の場合1E7
(/cm)
以下の範囲内であり、
前記絶縁膜
における界面固定電荷密度は、
固定電荷が正の場合1E11
(/cm
2)以下
である、
窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記絶縁膜を設ける段階は、プラズマCVDにより行われる、
請求項12に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記プラズマCVDにおける原料ガスは、モノシランまたはジシランを含む、
請求項13に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記プラズマCVDにおける原料ガスは、酸素ガス、水、または酸素ラジカルを含む、
請求項13または14に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記絶縁膜を設ける段階において、
前記絶縁膜は、25nm/min以上の成膜速度で設けられる、
請求項12から15のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記絶縁膜を設ける段階において、前記窒化物半導体層の温度は350℃以下に設定される、
請求項12から15のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体装置および窒化物半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2、および特許文献3には、窒化ガリウム等のワイドギャップ半導体を含む半導体装置が記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2016-54250号公報
[特許文献2] 特開2016-66641号公報
[特許文献3] 特開2016-72358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
絶縁膜中の固定電荷分布を調整して、移動度や閾値電圧などで良好な特性を有する窒化物半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、Gaを含む窒化物半導体層と、窒化物半導体層の上面に積層された絶縁膜と、絶縁膜の上方に設けられた電極と、を備え、絶縁膜中の固定電荷密度と、絶縁膜の厚さとの積は、固定電荷が正の場合1E7(/cm)以下の範囲内であり、絶縁膜中における界面固定電荷密度は、固定電荷が正の場合1E11(/cm2)以下である、窒化物半導体装置を提供する。
【0005】
絶縁膜のGa濃度は、界面からの30nmより上方の領域において、+4E17cm-3以下であってよい。
【0006】
絶縁膜はSiを含む酸化物を含んでよい。
【0007】
絶縁膜は酸窒化物を含んでよい。
【0008】
絶縁膜は、30nm以上100nm以下の厚さを有してよい。
【0009】
窒化物半導体層は、GaNを含んでよい。
【0010】
窒化物半導体層は、MgドープのP型GaNを含んでよい。
【0011】
窒化物半導体層のMg濃度は、+1E16cm-3以上、+1E18cm-3以下であってよい。
【0012】
窒化物半導体層、絶縁膜および電極は、MOSゲート構造を有する電界効果トランジスタを構成してよい。
【0013】
電界効果トランジスタは、+3V以上の閾値電圧を有してよい。
【0014】
絶縁膜のC不純物濃度は、+4E17cm-3以下であってよい。
【0015】
本発明の第2の態様においては、Gaを含む窒化物半導体層を設ける段階と、窒化物半導体層の上面に積層された絶縁膜を設ける段階と、絶縁膜の上方に設けられた電極を設ける段階と、を備え、絶縁膜中の固定電荷密度と、絶縁膜の厚さとの積は、固定電荷が正の場合1E7(/cm)以下の範囲内であり、絶縁膜中における界面固定電荷密度は、固定電荷が正の場合1E11(/cm2)以下である、窒化物半導体装置の製造方法を提供する。
【0016】
絶縁膜を設ける段階は、プラズマCVDにより行われてよい。
【0017】
プラズマCVDにおける原料ガスは、モノシランまたはジシランを含んでよい。
【0018】
プラズマCVDにおける原料ガスは、酸素ガス、水、または酸素ラジカルを含んでよい。
【0019】
絶縁膜を設ける段階において、絶縁膜は、25nm/min以上の成膜速度で設けられてよい。
【0020】
絶縁膜を設ける段階において、窒化物半導体層の温度は350℃以下に設定されてよい。
【0021】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】窒化物半導体装置100の構成の一例を示す。
【
図2】絶縁膜30の成膜速度およびGa濃度(cm
-3)の関係の一例を示す。
【
図4A】絶縁膜30の深さと、Ga濃度との関係を示す。
【
図4B】絶縁膜30中のGa濃度と、絶縁膜30の固定電
荷密度との関係を示す。
【
図4C】絶縁膜30中のGa濃度と、固定電荷密度/絶縁膜30の厚さとの関係を示す。
【
図5】第2実施形態に係る窒化物半導体装置200の構成の一例を示す。
【
図6】第2実施形態に係る窒化物半導体装置200の製造方法を示す。
【
図7】絶縁膜30の固定電
荷密度N
effと閾値電圧Vthとの関係を示す。
【
図8A】成膜速度を変えた場合における、膜厚d
oxと固定電
荷密度N
effとの関係を示す。
【
図8B】絶縁膜30の界面固定電荷密度と、電界効果移動度μの最大値μ
maxとの関係を示す。
【
図9】第3実施形態に係る窒化物半導体装置300の構成の一例を示す。
【
図10】第4実施形態に係る窒化物半導体装置400の構成の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0024】
図1は、第1実施形態に係る窒化物半導体装置100の構成の一例を示す。本例の窒化物半導体装置100は、下面電極42と、窒化物半導体基板層10と、窒化物半導体層20と、絶縁膜30と、上面電極40とを備える。
【0025】
本例の窒化物半導体装置100は、下面電極42と上面電極40との間に絶縁膜30が設けられている。即ち、本例の窒化物半導体装置100は、絶縁膜30を誘電体とするキャパシタを形成する。
【0026】
本例の窒化物半導体基板層10は、GaNを含む。一例として窒化物半導体基板層10は、気相成長法または液相成長法等の方法を用いて得られる。
【0027】
窒化物半導体層20は、窒化物半導体基板層10にエピタキシャル成長させて得られた層である。本例の窒化物半導体層20は、Gaを含む。
【0028】
絶縁膜30は、窒化物半導体層20の上面21に積層される。絶縁膜30は、化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)法で成膜された層であってよい。一例として、絶縁膜30は、μ波プラズマCVD法、リモートプラズマCVD法または高周波(RF:Radio Frequency)プラズマCVD法等のプラズマCVD法で設けられる。絶縁膜30は、絶縁膜30を設ける際のCVD法におけるSi原料ガスとして、モノシランまたはジシランが用いられてよい。さらに、CVD法における酸素原料ガスとして酸素ガス、水、または酸素ラジカルが用いられてよい。
【0029】
一例として、絶縁膜30は、Siを含む酸化物層である。本例の絶縁層30は、SiO2を含む。別例において、絶縁膜30は、酸窒化物を含んでもよい。一例として、絶縁膜30は、30nm以上100nm以下の厚さを有する。絶縁膜30がSiO2膜である場合、約10MV/cmの耐圧を有する絶縁膜30を用いることができる。この場合、絶縁膜の厚さを30nm以上100nm以下とすれば、約30V以上約100V以下の耐圧を有する絶縁膜を製造できる。
【0030】
下面電極42および上面電極40は、金属等の導電性の材料を含む。下面電極42および上面電極40は、同一の金属で設けられてよく、異なる金属で設けられてもよい。一例として、下面電極42および上面電極40の材料は、アルミニウム(Al)である。上面電極40は、アルミニウム蒸着により絶縁膜30の上方に設けられてよい。下面電極42は、窒化物半導体基板層10の下面11に設けられる。
【0031】
図2は、絶縁膜30の成膜速度およびGa濃度(cm
-3)の関係の一例を示す。本例において、横軸を成膜速度(nm/min)、縦軸をGa
濃度とした図が示されている。
【0032】
GaNは熱分解しやすいので、Gaを含有する窒化物半導体層20の上面に絶縁膜30を成膜する場合、窒化物半導体層20から絶縁膜30へとGaが取り込まれる。さらに、絶縁膜30において、窒化物半導体層20の上面21の近傍にGaOx界面層が形成される。取り込まれるGaの濃度が高くなると、GaOx界面層の有する電荷の絶対値も大きくなる。絶縁膜30の成膜速度を速くすることにより、窒化物半導体層20がプラズマに暴露される時間は短くなる。これが一因となり、絶縁膜30を速い成膜速度で設ける場合には、絶縁膜30に取り込まれるGa濃度が低くなる。一例として、絶縁膜30は、25nm/min以上の成膜速度で設けられる。
【0033】
また、窒化物半導体装置100の製造において、絶縁膜30および窒化物半導体層20との界面を熱安定化することを目的とした熱処理を行うか否かを選択してよい。本例では、熱処理を行った場合の絶縁膜30のGa濃度と、熱処理を行わない場合の絶縁膜30のGa濃度とが示される。一例として、熱処理は800℃で行われる。熱処理を行った場合、窒化物半導体層20から絶縁膜30中にGaが拡散されやすくなり、Ga濃度が高くなる。熱処理を行わない場合には、絶縁膜30に取り込まれるGa濃度が低くなる。熱処理を行わない場合には、一例として、絶縁膜30を設ける際に、窒化物半導体層20の温度が350℃以下に保たれる。
【0034】
絶縁膜30において、Gaは不純物として働く。絶縁膜30中の不純物濃度が高いほど、絶縁膜30の絶縁破壊が生じる電界の大きさが小さくなり、絶縁破壊が起きやすくなる。絶縁膜30のGa濃度は、絶縁膜30の成膜速度を速くし、かつ、熱処理を行わないことで低くなり、絶縁破壊に対する耐性を向上させる。
【0035】
図中、2A、2B、および2Cの3点の成膜条件が示される。これらの3点の成膜条件におけるGa濃度プロファイルが、
図4Aを参照して後述される。
【0036】
図3は、絶縁膜30の炭素(C)濃度の一例を示す。絶縁膜30をプラズマCVDにより設け、Si原料ガスとしてモノシランを用いた場合について、絶縁膜30の深さに応じたC濃度と、絶縁膜30がバックグラウンドとして有するBG(BackGround)レベルとが示される。
【0037】
絶縁膜30をCVD法により成膜する場合、Si原料ガスとして、化学式がSi(OC2H5)であるオルトケイ酸エチル(別称:テトラエトキシシラン、TEOS:Tetraehyl orthosilicate)を用いることがある。TEOSガスは元素として炭素を含むので、TEOSを原料ガスとして用いた場合には、絶縁膜中に不純物として炭素が取り込まれる。
【0038】
窒化物半導体装置100では、プラズマCVDにおけるSi原料ガスとしてモノシランまたはジシラン等の炭素を含まないガスが用いられる。これにより、SiO2中のC濃度を低減できる。
【0039】
本例では、原料ガスとしてモノシランを用いたプロファイルが示されている。本例の絶縁膜30のC濃度は、界面近傍以外でBGレベル前後のオーダーに収めることができる。
【0040】
図4Aは、絶縁膜30の深さと、Ga濃度との関係を示す。本例の横軸は、絶縁膜30の表面から窒化物半導体層20との界面へ向けて取った長さである。縦軸は、絶縁膜30中のGa濃度に対応する。各曲線において、最大Ga濃度を有する深さを一致させている。なお、最大Ga濃度の深さが、おおよそ絶縁膜30と窒化物半導体層20の界面に対応する。図中の3つの曲線は、
図2に示された2A、2B、および2Cの3点に対応する成膜条件でのGa濃度プロファイルに相当する。
【0041】
Ga濃度プロファイルでは、絶縁膜30中において、表面から30nmの領域はGaまたはCなどの吸着物の影響で実際のGa濃度より大きな値が示されることがある。30nm以上で表面からのGa濃度プロファイルへの影響が小さくなり、Ga濃度プロファイルがフラットとなった。同様に、絶縁膜30と窒化物半導体層20との界面から絶縁膜30側に深さが30nm以上で窒化物半導体層20から拡散するGaの影響が小さくなり、Ga濃度プロファイルがフラットとなった。
【0042】
図4Bは、絶縁膜30中のGa濃度と、絶縁膜30の固定電
荷密度との関係を示す。絶縁膜30中に取り込まれるGaの濃度が増大すればするほど、絶縁膜30の有する固定電
荷密度も増大する。それらの関係は、直線で近似できる。
【0043】
図4Cは、絶縁膜30中のGa濃度と、固定電荷密度/絶縁膜30の厚さとの関係を示す。
図4Cにおいては縦軸の固定電荷密度Neffを絶縁膜30の厚さで割ることにより、絶縁膜30中の平均固定電荷密度が与えられる。
【0044】
横軸のGa濃度に対し、縦軸の平均固定電荷密度は、約30%の値を示す。これは、絶縁膜30中の固定電荷は、Ga由来のものが大きいことを意味する。即ち、絶縁膜30では、窒化物半導体層20から取り込まれるGaが絶縁膜30内で正イオン化し、固定電荷の主要因として寄与するものと推定される。
【0045】
図5は、第2実施形態に係る窒化物半導体装置200の構成の一例を示す。窒化物半導体装置200は、MOS(金属酸化物半導体)ゲート構造を有する電界効果トランジスタ、即ちMOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)デバイスを構成する。窒化物半導体装置200は、窒化物半導体基板層10と、窒化物半導体層20と、高濃度N型領域26と、絶縁膜30と、ソース電極44と、ドレイン電極46と、ゲート電極48とを備える。なお、窒化物半導体装置200がFETとして機能する場合、電源回路またはインバータなどのパワー半導体素子として用いられてよい。
【0046】
窒化物半導体基板層10は、GaNを含む。窒化物半導体基板層10の含むGaNは、Ga面GaN、N面GaN、a面GaN、m面GaNであってもよい。
【0047】
本例の窒化物半導体層20は、N型窒化物半導体層22と、P型窒化物半導体層24とを備える。窒化物半導体層20のいずれも、窒化物半導体基板層10をエピタキシャル成長させることによる成膜で設けることができる。
【0048】
N型窒化物半導体層22は、窒化物半導体基板層10に対してエピタキシャル成長させて形成した層であってよい。一例として、N型窒化物半導体層22はNdドープのN型GaNである。N型窒化物半導体層22にドーピングされるNd濃度は、+5E15cm-3以上+5E16cm-3以下であってよい。例えば、N型窒化物半導体層22のNd濃度は、+1E16cm-3に設定される。
【0049】
P型窒化物半導体層24は、N型窒化物半導体層22に対しエピタキシャル成長させて形成した層であってよい。一例として、P型窒化物半導体層24は、MgドープのP型GaNである。P型窒化物半導体層24にドーピングされるMg濃度は、+1E16cm-3以上+1E18cm-3以下であってよく、+1E16cm-3以上+5E17cm-3以下であってもよい。例えば、P型窒化物半導体層24のMg濃度は、+1E17cm-3に設定される。
【0050】
高濃度N型領域26は、N型窒化物半導体層22より高いド-ピング濃度のN型半導体領域である。一例として、高濃度N型領域は、Siが添加され、熱処理を施すことによって得られる。
【0051】
絶縁膜30は、P型窒化物半導体層24の上方に形成される。絶縁膜30は、Siを含む酸化物を含んでよく、酸窒化物を含んでもよい。絶縁膜30は、MOSFETデバイスのゲート絶縁膜に相当する。一例として、絶縁膜30の膜厚は、100nmに設定される。
【0052】
ソース電極44は、MOSFETデバイスのソース電極に対応する。ソース電極44は、高濃度N型領域26の上方に形成される。ソース電極44の下方に設けられる高濃度N型領域26は、MOSFETデバイスのソース領域に対応する。
【0053】
ドレイン電極46は、MOSFETデバイスのドレイン電極に対応する。ドレイン電極46の下方に設けられる高濃度N型領域26は、MOSFETデバイスのドレイン領域に対応する。本例の窒化物半導体装置200は、プレーナ型のFETを構成する。本例ではソース電極44と、ドレイン電極46に印加する電圧を入れ替えることで、それらの役割を入れ替えることができる。
【0054】
ゲート電極48は、MOSFETデバイスのゲート電極に対応する。ゲート電極48にゲート電圧が印加された場合、P型窒化物半導体層24にはN型のチャネルが形成され、ソース領域とドレイン領域の間をN型のチャネルで接続する。これにより、窒化物半導体装置200は、FETとして動作する。当該FETは、3V以上の閾値電圧Vth(V)を有していてよい。
【0055】
図6は、第2実施形態に係る窒化物半導体装置200の製造方法を示す。窒化物半導体装置200の製造方法は、段階S100から段階S108を備える。
【0056】
S100において、N型窒化物半導体層22を設ける。N型窒化物半導体層22は、窒化物半導体基板層10に対してMOCVD(有機金属化学気相成長法.Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によりエピタキシャル成長を行ってNdドープのN型GaNとして形成してよい。
【0057】
さらにN型窒化物半導体層22の上方にP型窒化物半導体層24をエピタキシャル成長させ、MgドープのP型GaNとして形成してよい。また、半導体装置に熱処理を行い、P型窒化物半導体層24を活性化させてもよい。
【0058】
段階S102において、P型窒化物半導体層24に高濃度N型領域26を設ける。高濃度N型領域26を設ける段階は、P型窒化物半導体層24の一部にN+型のイオン注入を行うことにより行われる。一例として、注入されるイオンは、Siイオンである。ただし、Geイオン等の異なるN型ドーパントが注入されてもよい。さらに、熱処理段階を行うことによりSiドーパントの活性化が行われる。
【0059】
S104において、P型窒化物半導体層24の上面に絶縁膜30を設ける。絶縁膜は、プラズマCVD法で設けられてよい。プラズマCVD法における原料ガスは、Si原料ガスとしてモノシラン又はジシランが用いられてよく、酸素原料ガスとして酸素ガス、水、または酸素ラジカルが用いられてよい。一例として、絶縁膜30は、P型窒化物半導体層24と高濃度N型領域26とにまたがって設けられる。所望の領域以外に設けられた絶縁膜30は、ウェットエッチング等のエッチングにより除去される。絶縁膜を設ける際に、窒化物半導体層の温度は350℃以下に設定されてよい。
【0060】
段階S106において、絶縁膜30の上方にゲート電極48が設けられる。一例として、ゲート電極48は、メタルマスクを用いたアルミニウム蒸着によって設けられる。
【0061】
段階S108において、高濃度N型領域26の一部の上方にソース電極44およびドレイン電極46が設けられる。一例として、ソース電極44およびドレイン電極46は、ゲート電極48と同様に、メタルマスクを用いたアルミニウム蒸着により設けられるが、異なる導電体によって設けられてよく、電極を設ける方法もアルミニウム蒸着に限定されない。
【0062】
また、段階S106および段階S108の順番は、入れ替えて行われてもよい。以上の工程により窒化物半導体装置200が製造される。
【0063】
図7は、絶縁膜30の固定電
荷密度N
effと閾値電圧Vthとの関係を示す。縦軸はMOSゲートの閾値電圧Vth(V)を示し、横軸はMOSFETデバイスの固定電
荷密度N
eff(cm
-2)を示す。本例では、窒化物半導体装置200に係るMOSFETデバイスを用いて説明する。
【0064】
本例のMOSFETデバイスをパワーMOSFETデバイスとして用いる場合、パワーMOSFETデバイスの安全性のためにノーマリオフ動作を実現することが好ましい。この場合、オンオフ境界である閾値電圧Vthとして、例えば、動作の信頼性を実現すべくVthを+3V以上に設定し、電圧の制御性を実現すべく、Vthを10V以下に設定することがある。ただし、Vthの範囲は、+3V以上10V以下の値に限定されるものではない。
【0065】
閾値電圧VthとMOSFETデバイスの固定電荷密度Neffには、直線的な関係がある。閾値電圧Vthを+3Vよりも大きく、+10Vよりも小さくするための固定電荷密度Neffの条件は、固定電荷が正の場合、Neff<9.8E11(/cm2)となる。
【0066】
ここで、閾値電圧Vthとフラットバンド電圧Vfbには下記の式の関係がある。
Vth=Vfb+2φb+√(2ε
sqNa(2φb))/Cox
N
eff=-Cox(Vfb-Vfb(ideal))
ただし、ε
sは、半導体の比誘電率である。また、アクセプタ濃度Na=1E17cm
-3、絶縁膜30の膜厚d
ox=100nm、フラットバンド電圧Vfb(ideal)=-3V、および障壁高さφb=1.53Vの各式を満たす。この場合、(2ε
sqNa(2φb))/Cox=8.3(V)であり、Vth+N
eff/Cox=8.4(V)となる。また、
図7より、Vth+N
eff/Coxが約8.1(V)となる。
【0067】
dox=100nm以外に対しては、Cox=εox/doxの関係があるので、予め定められた閾値電圧Vthの範囲を満たすのは、絶縁膜30の固定電荷密度Neffと絶縁膜30の膜厚doxとの積が、固定電荷が正の場合、1E7(/cm)以下の範囲内となる。
【0068】
また、膜中の平均の固定電荷密度Neff/doxについて、(Neff/dox)<1E17(/cm3)となり、Ga濃度が4E17cm-3以下の範囲であれば閾値電圧Vthへの影響を抑制できる。特に、表面吸着Gaまたは拡散Ga等の影響の少ない界面から30nmより上方の領域において、Ga濃度は4E17cm-3以下であってよい。
【0069】
図8Aは、成膜速度を変えた場合における、絶縁膜30をSiO2膜としたときの膜厚d
oxと固定電荷面密度N
effとの関係を示す図である。横軸に絶縁膜30の膜厚d
ox(nm)、縦軸に固定電荷密度N
eff(cm
-2
)の大きさを取った図が示される。
【0070】
既述の通り、成膜速度が大きいほど、窒化物半導体層20がプラズマにさらされる時間が短くなり、Gaが絶縁膜中に取り込まれる量が少なくなる。絶縁膜30の界面固定電荷
密度は、固定電荷の絶縁膜30の膜厚依存性から導出でき、
図8Aの縦軸の切片となる。
【0071】
図8Bは、絶縁膜30の界面固定電荷密度と、電界効果移動度μの最大値μmaxとの関係を示す。横軸に、絶縁膜30の界面固定電荷密度
(/cm
-2)、縦軸に、電界効果移動度μ(cm
-2/Vs)の最大値を取った図が示される。
【0072】
電界効果移動度μ(cm-2/Vs)は、窒化物半導体層20内の絶縁膜30との界面付近に形成されるチャネル領域におけるキャリアの移動度を指す。パワーMOSFETデバイスにおいては、電界効果移動度μの値が大きいほど制御出力が大きくなるので、電界効果移動度μは大きな値であることが好ましい。一例として、電界効果移動度μ(cm2/Vs)は、50(cm2/Vs)以上に設定されるが、100(cm2/Vs)以上に設定されてもよい。
【0073】
ゲート電極48にゲート電圧が印加された場合、P型窒化物半導体層24内の絶縁膜30側には、N型のチャネルが形成される。一方で、P型窒化物半導体層24と絶縁膜30との境界の近傍においては、境界面の粗さによるラフネス散乱と、キャリアおよび絶縁膜30における界面の電荷の間で生じるクーロン相互作用によるクーロン散乱等の電磁的相互作用による散乱とが発生する。これらの散乱は、境界近傍におけるキャリア移動度を半導体基板のバルクにおけるキャリア移動度より小さくする。
【0074】
なお、界面の電磁気的相互作用による散乱には、キャリアと界面固定電荷とのクーロン相互作用の他に、界面に静電ポテンシャルが存在する場合には、静電ポテンシャルにより生じる相互作用も寄与する。ここで、P型窒化物半導体層24と絶縁膜30との間に生じる界面準位密度Ditは小さい。例えば、P型窒化物半導体層24がGaNであり、絶縁膜30がSiO2である場合には、GaN/SiO2間に生じる界面準位密度Ditは、1E10(cm-2/eV)以下の大きさである。この場合、界面準位密度Ditが散乱に与える寄与は、界面固定電荷によって生じるクーロン散乱の寄与に比べて小さくなる。
【0075】
クーロン散乱の寄与は、界面固定電荷密度を小さくすることによって小さくなる。したがって、界面固定電荷密度を小さくすることにより、界面の電磁気的相互作用による散乱の影響を減少させ、電界効果移動度μ(cm2/Vs)を大きくできる。
【0076】
実験結果において、電界効果移動度μ(cm2/Vs)を50(cm2/Vs)以上とするためには、界面固定電荷密度は、1E11(/cm2)以下となった。
【0077】
界面電荷の正負はクーロン相互作用が引力となるか斥力となるかにおいては寄与するが、クーロン散乱によるキャリア移動度への寄与という点では、いずれの相互作用も小さいことが好ましい。したがって、界面固定電荷密度の絶対値を小さくすることにより、所望の電界効果移動度μ(cm2/Vs)が得られる。本例の絶縁膜30において、界面固定電荷密度は、固定電荷が正の場合1E11(/cm2)以下、さらに好ましくは、7E10(/cm2)以下であってよい。
【0078】
図9は、第3実施形態に係る窒化物半導体装置300の構成の一例を示す。本例の窒化物半導体装置300は、縦型MOSFETを構成する。窒化物半導体装置200は、窒化物半導体基板層10と、窒化物半導体層20と、高濃度N型領域26と、N型ウェル領域28と、絶縁膜30と、ソース電極44と、ドレイン電極46と、ゲート電極48とを備える。
【0079】
窒化物半導体層20は、N型窒化物半導体層22と、P型窒化物半導体層24とを備える。一例として、N型窒化物半導体層22は、GaN半導体基板層上にエピタキシャル成長させたN型GaN層である。別の例において、N型窒化物半導体層22は、N型半導体基板の層であってよく、N型半導体基板およびN型半導体基板をエピタキシャル成長させたN型半導体の層の両方を含んでもよい。P型窒化物半導体層24は、N型窒化物半導体層22をエピタキシャル成長させて成膜されてよい。
【0080】
本例では、高濃度N型領域26は、いずれもMOSFETデバイスのソース領域に相当する。高濃度N型領域26の一部の上方には、ソース電極44が形成される。高濃度N型領域26には、SiまたはGeが添加されてよい。
【0081】
N型ウェル領域28は、P型窒化物半導体層25の一部にN型ドーパントを添加させて設けられる。N型ウェル領域28には、SiまたはOが添加されてよい。
【0082】
ドレイン電極46は、N型窒化物半導体層22の下方に設けられる。ドレイン電極46はMOSFETデバイスのドレイン電極として機能する。
【0083】
ゲート電極48にゲート電圧が印加されると、高濃度N型領域26およびN型ウェル領域28の間のP型窒化物半導体層の絶縁膜30側にN型のチャネルが形成される。これにより、高濃度N型領域26およびN型ウェル領域28の間をキャリアが流れ、N型ウェル領域28およびN型窒化物半導体層22を通じたキャリアの経路が導通する。これにより、窒化物半導体装置300は、MOSFETデバイスとして動作する。
【0084】
窒化物半導体装置300は、窒化物半導体装置200と異なり、窒化物半導体層20の深さ方向にわたって上面21から下方のドレイン電極46までキャリアの経路が導通する。したがって、窒化物半導体装置300は、窒化物半導体装置200に比べて、MOSFETデバイスの耐圧を向上できる。
【0085】
図10は、第4実施形態に係る窒化物半導体装置400の構成の一例を示す。本例の窒化物半導体装置400は、トレンチゲート型デバイスを構成する。本例の窒化物半導体装置400は、トレンチゲート型MOSFETを構成する。窒化物半導体装置200は、窒化物半導体基板層10と、窒化物半導体層20と、高濃度N型領域26と、N型ウェル領域28と、絶縁膜30と、ソース電極44と、ドレイン電極46と、ゲート電極48とを備える。以下では、主に窒化物半導体装置300との相違点について述べる。
【0086】
本例では、高濃度N型領域26をP型窒化物半導体層24の上方に設けた後、基板にエッチングが施され、トレンチが設けられる。トレンチには、絶縁膜30およびゲート電極48が設けられる。
【0087】
ゲート電極48は、金属で設けられてよく、ポリシリコンで設けられてもよい。ゲート電極48にゲート電圧が印加されると、高濃度N型領域26およびN型窒化物半導体層22の間のP型窒化物半導体層24において、絶縁膜30側にN型チャネルが形成される。これにより、高濃度N型領域26、N型チャネル、およびN型窒化物半導体層22を介して、ソース電極44からドレイン電極46へのキャリアの経路が導通する。したがって、窒化物半導体装置400がMOSFETデバイスとして動作する。
【0088】
窒化物半導体装置400においては、窒化物半導体装置300に比べ多数のゲート電極48を設けやすい。これにより、窒化物半導体層20においてチャネルとして用いることのできる領域の比率が大きくなり、半導体装置としての動作効率が向上する。
【0089】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0090】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0091】
10・・・窒化物半導体基板層、11・・・下面、20・・・窒化物半導体層、21・・・上面、22・・・N型窒化物半導体層、24・・・P型窒化物半導体層、26…高濃度N型領域、28・・・N型ウェル領域、30・・・絶縁膜、40・・・上面電極、42・・・下面電極、44・・・ソース電極、46・・・ドレイン電極、48・・・ゲート電極、100・・・窒化物半導体装置、200・・・窒化物半導体装置、300・・・窒化物半導体装置、400・・・窒化物半導体装置