IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-モータ装置及びマップの設定方法 図1
  • 特許-モータ装置及びマップの設定方法 図2
  • 特許-モータ装置及びマップの設定方法 図3
  • 特許-モータ装置及びマップの設定方法 図4
  • 特許-モータ装置及びマップの設定方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】モータ装置及びマップの設定方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/05 20060101AFI20241210BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20241210BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/22
H02P27/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020154828
(22)【出願日】2020-09-15
(65)【公開番号】P2022048802
(43)【公開日】2022-03-28
【審査請求日】2023-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂利
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111788(JP,A)
【文献】特開2011-223724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリング装置に搭載され、前記ステアリング装置に対してトルクを付与するように、当該ステアリング装置が有するモータを動作させるべく当該モータに電圧を印加するインバータ回路を制御するモータ制御装置と、前記モータの回転角度を検出する回転角度センサとを備えたモータ装置であって、
前記モータ制御装置は、
指令電流に前記モータに流れる実電流を追従させる電流フィードバック制御するための操作量として指令電圧を演算する指令電圧演算部と、
前記指令電圧演算部により演算された前記指令電圧に基づいて、前記モータに印加する電圧が前記指令電圧となるように前記インバータ回路を操作する操作処理部と、
前記指令電圧を補正するための高調波電圧を補正電圧として設定する開ループ処理部とを備え、
前記開ループ処理部は、
記回転角度及び前記回転角度の変化量である回転速度に基づいて、高調波磁束を演算する高調波磁束演算部と、
前記高調波磁束演算部により演算された前記高調波磁束に基づいて、前記補正電圧を演算する補正電圧演算部とを有し、
前記操作処理部は、前記補正電圧演算部により演算された前記補正電圧によって補正された前記指令電圧に基づいて、前記インバータ回路を操作し、
前記モータ制御装置は、前記回転角度及び前記回転速度と前記高調波磁束との関係を示すマップを設定するマップ設定部をさらに備え、
前記マップ設定部は、前記回転角度センサにより検出された前記回転角度により得られた前記回転速度の変化量を示す回転速度変動を検出し、当該回転速度変動に慣性モーメントを示す所定係数を乗算することによりトルクリプルを推定し、当該トルクリプルに基づいて前記高調波磁束を演算するための前記マップを生成し、当該マップを前記高調波磁束演算部が参照できるように設定するモータ装置。
【請求項2】
前記開ループ処理部は、前記モータに流れる実電流を基本波電流とする場合に当該モータに印加される高調波電圧を前記補正電圧とする請求項1に記載のモータ装置。
【請求項3】
前記高調波磁束演算部は、d軸の実電流、q軸の実電流、前記回転角度、及び前記回転速度と、d軸の前記高調波磁束及びq軸の前記高調波磁束との関係を定めた4次元マップを備えており、
前記高調波磁束演算部は、前記4次元マップを参照することにより、前記d軸の実電流、前記q軸の実電流、前記回転角度、及び前記回転速度に基づいて、d軸の前記高調波磁束及びq軸の前記高調波磁束をマップ演算する請求項1または2に記載のモータ装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のモータ装置の前記開ループ処理部で用いるマップの設定方法であって、
前記回転角度及び前記回転速度の変化を測定する測定ステップと、
前記測定ステップで測定された前記回転速度の変化量を示す回転速度変動を検出する変動検出ステップと、
前記変動検出ステップで検出された前記回転速度変動に慣性モーメントを示す所定係数を乗算することによりトルクリプルを推定する推定ステップと、
前記推定ステップで推定された前記トルクリプルに基づいて前記高調波磁束を演算するマップを生成するマップ生成ステップとを含み、
前記マップは、前記回転角度及び前記回転速度と前記高調波磁束との関係を定めているマップの設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置及びマップの設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動パワーステアリング装置が開示されている。電動パワーステアリング装置は、車両の操舵機構にモータのモータトルクを付与することにより、運転者のステアリング操作を補助する。電動パワーステアリング装置に搭載されるモータを制御対象とする制御装置は、検出された操舵トルクに基づいて、モータに流れる実電流の目標である指令電流を演算する。制御装置は、モータの回転角度に基づいて、指令電流を補正するための補正電流を演算する。補正電流は、空間高調波に起因したトルクリプルを低減するためのものである。そして、制御装置は、補正電流を用いて補正された指令電流に実電流を追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、モータが出力するモータトルクを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-137110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
補正電流を用いて指令電流を補正する場合には、電流フィードバック制御のフィードバックループの応答速度を十分に速くしなければ、空間高調波に起因したトルクリプルを低減する効果を得ることができない。しかし、電流フィードバック制御のフィードバックループの応答速度を速くするほど、指令電流に実電流を追従させることが困難になる。このため、電流フィードバック制御のフィードバックループの応答速度は、指令電流に実電流を追従させることができる程度に設定せざるを得ず、こうした電流フィードバック制御のフィードバックループの応答速度では、トルクリプルを低減する効果が十分に得られないおそれがあった。この場合、トルクリプルが発生することに起因して、モータから音や振動が発生するおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、モータ装置及びマップの設定方法において、トルクリプルを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するモータ装置は、車両のステアリング装置に搭載され、前記ステアリング装置に対してトルクを付与するように、当該ステアリング装置が有するモータを動作させるべく当該モータに電圧を印加するインバータ回路を制御するモータ制御装置と、前記モータの回転角度を検出する回転角度センサとを備えたモータ装置であって、前記モータ制御装置は、指令電流に前記モータに流れる実電流を追従させる電流フィードバック制御するための操作量として指令電圧を演算する指令電圧演算部と、前記指令電圧演算部により演算された前記指令電圧に基づいて、前記モータに印加する電圧が前記指令電圧となるように前記インバータ回路を操作する操作処理部と、前記指令電圧を補正するための高調波電圧を補正電圧として設定する開ループ処理部とを備え、前記開ループ処理部は、前記回転角度及び前記回転角度の変化量である回転速度に基づいて、高調波磁束を演算する高調波磁束演算部と、前記高調波磁束演算部により演算された前記高調波磁束に基づいて、前記補正電圧を演算する補正電圧演算部とを有し、前記操作処理部は、前記補正電圧演算部により演算された前記補正電圧によって補正された前記指令電圧に基づいて、前記インバータ回路を操作し、前記モータ制御装置は、前記回転角度及び前記回転速度と前記高調波磁束との関係を示すマップを設定するマップ設定部をさらに備え、前記マップ設定部は、前記回転角度センサにより検出された前記回転角度により得られた前記回転速度の変化量を示す回転速度変動を検出し、当該回転速度変動に慣性モーメントを示す所定係数を乗算することによりトルクリプルを推定し、当該トルクリプルに基づいて前記高調波磁束を演算するための前記マップを生成し、当該マップを前記高調波磁束演算部が参照できるように設定する。
【0007】
上記構成によれば、開ループ処理部は、回転角度及び回転速度に基づいて演算された高調波磁束を用いて、指令電圧を補正するための補正電圧を演算するようにしている。高調波磁束の演算に際しては、回転角度だけでなく、回転速度を用いて高調波磁束を演算している。空間高調波に起因したトルクリプルは回転速度の変動に基づいて推定することができることから、回転速度に基づいてトルクリプルを低減するための補正電圧を演算することができる。そして、トルクリプルが低減するように補正している対象は、電流フィードバック制御に用いられる指令電流ではなく、指令電圧である。このため、電流フィードバック制御のフィードバックループの応答速度を指令電流に実電流を追従させることができる程度に設定したとしても、指令電圧を補正することで、トルクリプルを低減することができる。
また、上記構成によれば、マップ設定部は、トルクリプルをトルク変動から検出するのではなく、トルクリプルを回転速度変動から推定するようにしている。高調波磁束を演算するマップを生成するために必要となる情報は、回転角度センサを通じて測定することができる回転速度変動である。この回転速度変動は、モータ制御装置が備える回転角度センサを通じて得ることができる。この回転角度センサは、モータに電圧を印加するにあたって必要になる回転角度を検出するために、そもそも設けられるセンサである。このため、マップ設定部がマップを生成するにあたって、トルクリプルを検出するためのトルク計等のセンサを別途設ける場合と比べて、マップを生成する際に必要となる構成を少なくすることができる。
【0008】
上記モータ装置において、前記開ループ処理部は、前記モータに流れる実電流を基本波電流とする場合に当該モータに印加される高調波電圧を前記補正電圧とすることが好ましい。
【0009】
特に、高速回転速度領域では、鎖交磁束が基本波からずれることによる空間高調波に起因したトルクリプルが目立たなくなり、実電流が大きくなるときの磁気飽和による空間高調波に起因したトルクリプルが顕著となりやすい。上記構成によれば、指令電圧を補正電圧によって補正するため、モータに流れる実電流を基本波電流に近付けることができて、高速回転速度領域についても、空間高調波に起因したトルクリプルを低減することができる。
【0010】
上記モータ装置において、前記高調波磁束演算部は、d軸の実電流、q軸の実電流、前記回転角度、及び前記回転速度と、d軸の前記高調波磁束及びq軸の前記高調波磁束との関係を定めた4次元マップを備えており、前記高調波磁束演算部は、前記4次元マップを参照することにより、前記d軸の実電流、前記q軸の実電流、前記回転角度、及び前記回転速度に基づいて、d軸の前記高調波磁束及びq軸の前記高調波磁束をマップ演算することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、4次元マップには回転速度を入力できるようにしていることから、回転速度に応じた高調波磁束の振幅の減少や回転速度に応じた高調波磁束の位相の遅れ等を考慮した4次元マップを設定することができる。高調波磁束演算部は、例えば、d軸の実電流、q軸の実電流、及び回転角度と、d軸の高調波磁束及びq軸の高調波磁束との関係を定めた3次元マップを参照する場合と比べて、d軸の実電流、q軸の実電流、回転角度、及び回転速度に基づいて好適な高調波磁束を演算することができる。
【0014】
上記課題を解決するモータ装置で用いるマップの設定方法は、前記回転角度及び前記回転速度の変化を測定する測定ステップと、前記測定ステップで測定された前記回転速度の変化量を示す回転速度変動を検出する変動検出ステップと、前記変動検出ステップで検出された前記回転速度変動に慣性モーメントを示す所定係数を乗算することによりトルクリプルを推定する推定ステップと、前記推定ステップで推定された前記トルクリプルに基づいて前記高調波磁束を演算するマップを生成するマップ生成ステップとを含み、前記マップは、前記回転角度及び前記回転速度と前記高調波磁束との関係を定めている。
【0015】
上記方法によれば、変動検出ステップでは、測定ステップで測定された回転角度及び回転速度の変化量を示す回転速度変動を検出する。トルクリプルと回転速度変動との間には所定の関係が存在する。すなわち、トルクリプルは、回転速度変動の時間微分に慣性モーメントを示す所定係数を乗算した値である。このため、推定ステップでは、変動検出ステップで検出した回転速度変動からトルクリプルを推定することができる。そして、推定ステップで推定されたトルクリプルに基づいてトルクリプルを低減するための高調波磁束を演算することができる。これにより、回転角度及び回転速度と高調波磁束との関係を求めることができるため、高調波磁束を演算するためのマップを生成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のモータ装置及びマップの設定方法によれば、トルクリプルを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】モータ装置の概略構成を示す図。
図2】モータ装置の概略構成を示す斜視図。
図3】高調波磁束演算部の概略構成を示す図。
図4】(a),(b)は、相電圧の歪みを示す図。
図5】マップの設定の手順を示すチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
モータ制御装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態におけるモータ装置1の構成を示している。モータ装置1は、モータ10と、インバータ回路INVと、モータ制御装置20とを備えている。モータ装置1は、例えば、車両の電動パワーステアリング装置に搭載されるものである。モータ10は、3相モータである。モータ10には、例えば、極数が10、スロット数が12の表面磁石同期電動機(SPMSM)が採用されている。モータ10は、ユーザによるステアリング操作に応じて転舵輪を転舵するためのアシストトルクを生成する。
【0019】
図2に示すように、モータ装置1は、モータ10と、インバータ回路INVと、モータ制御装置20とが一体化した、所謂、モータコントロールユニットである。モータ装置1のハウジングの内部には、モータ10、インバータ回路INV、及びモータ制御装置20が収容されている。また、モータ制御装置20は、回転角度センサ12を備えている。回転角度センサ12は、モータ制御装置20を構成するマイコン等の各種の電子部品が実装される制御基板に設けられている。回転角度センサ12は、モータ10の回転軸10aの回転角度を検出する。
【0020】
図1に示すように、モータ10のモータコイルの各端子は、インバータ回路INVを介してバッテリ14に接続されている。インバータ回路INVは、バッテリ14の正極とモータ10のモータコイルの3個の端子との間をそれぞれ開閉するとともに、バッテリ14の負極とモータ10のモータコイルの3個の端子との間をそれぞれ開閉する回路である。
【0021】
インバータ回路INVは、6つのスイッチング素子によって構成されている。スイッチング素子としては、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)が採用されている。スイッチング素子には、モータ10のU相のモータコイルの端子に接続されるものに「u」、V相のモータコイルの端子に接続されるものに「v」、W相のモータコイルの端子に接続されるものに「w」の符号を付している。また、スイッチング素子MOSFETには、上側アーム、すなわちバッテリ14の正極側に「p」を付与している。スイッチング素子には、下側アーム、すなわちバッテリ14の負極側に「n」を付与している。なお、以下では、「u,v,w」を総括して「¥」と表記して、「p,n」を総括して「#」と表記している。インバータ回路INVは、バッテリ14の正極とモータ10のモータコイルの端子との間を開閉するスイッチング素子S¥pと、バッテリ14の負極とモータ10のモータコイルの端子との間を開閉するスイッチング素子S¥nとを備えている。スイッチング素子S¥pと、スイッチング素子S¥nとは、直列に接続されている。これらスイッチング素子S¥#は、それぞれダイオードD¥#を有している。
【0022】
モータ10のモータコイルの各端子とインバータ回路INVとの間の接続線には、電流センサ16が設けられている。電流センサ16は、接続線を流れるモータ10の各相の電流値から得られる実電流を検出する。なお、図1では、説明の便宜上、各相の電流センサを1つに纏めて図示している。また、以下では、接続線を流れる各相の実電流を、¥相実電流i¥と表記している。
【0023】
モータ制御装置20について説明する。
モータ制御装置20は、モータ10を制御対象としている。モータ制御装置20は、モータ10に電圧を印加するインバータ回路INVを操作する。
【0024】
モータ制御装置20は、dq変換部22と、回転速度演算部23と、指令電流設定部24と、偏差演算部26,28と、電流フィードバック制御部30,32と、非干渉制御部34と、uvw変換部36と、PWM処理部38と、デッドタイム生成部40と、開ループ処理部60と、電圧補正部66,68とを備えている。
【0025】
dq変換部22は、電流センサ16により検出された3相の実電流iu,iv,iwをd軸の実電流id及びq軸の実電流iqに変換する。
回転速度演算部23は、回転角度センサ12により検出された回転角度θeを時間微分することにより、回転速度ωeを演算する。回転角度センサ12により検出された回転角度θeは電気角であり、回転速度ωeは電気角速度である。
【0026】
指令電流設定部24は、モータ10の生成するトルクの指令値であるトルク指令値Trq*及び回転速度ωeに基づいて、d軸の指令電流id*及びq軸の指令電流iq*を設定する。指令電流設定部24は、q軸の指令電流iq*を、トルク指令値Trq*の絶対値が大きいほどその絶対値が大きくなるように設定する。一方、指令電流設定部24は、d軸の指令電流id*を、回転速度ωeの絶対値が所定速度以上となる場合、その絶対値がゼロよりも大きい値となるように設定する。指令電流設定部24は、回転速度ωeの絶対値が所定速度以上の領域において、回転速度ωeが大きくなるほどその絶対値が大きくなるように設定する。d軸の指令電流id*は、周知の弱め界磁制御を行うためのものである。
【0027】
偏差演算部26は、d軸の指令電流id*からd軸の実電流idを減算した偏差を演算する。偏差演算部28は、q軸の指令電流iq*からq軸の実電流iqを減算した偏差を演算する。電流フィードバック制御部30は、d軸の指令電流id*にd軸の実電流idを追従させるべくd軸の実電流idの電流フィードバック制御を実行することにより、電流フィードバック制御するための操作量としてd軸の電圧を演算する。すなわち、電流フィードバック制御部30は、d軸の指令電流id*と実電流idとの偏差を無くすように、d軸の電圧を演算する。電流フィードバック制御部32は、q軸の指令電流iq*にq軸の実電流iqを追従させるべくq軸の実電流iqの電流フィードバック制御を実行することにより、電流フィードバック制御するための操作量としてq軸の電圧を演算する。すなわち、電流フィードバック制御部32は、q軸の指令電流iq*とq軸の実電流iqとの偏差を無くすように、q軸の電圧を演算する。本実施形態では、電流フィードバック制御部30,32は、電流フィードバック制御として比例要素及び積分要素を用いたPI制御を実行する。
【0028】
非干渉制御部34は、電流フィードバック制御部30,32により演算されたd軸の電圧及びq軸の電圧を、非干渉項と誘起電圧補償項とにより補正したものを最終的なd軸の指令電圧vd*及びq軸の指令電圧vq*として出力する。ここで、非干渉項とは、d軸の実電流id及びq軸の実電流iqに基づく開ループ操作量である。また、誘起電圧補償項とは、回転速度ωeに基づく開ループ操作量である。これらは周知のため、これ以上の記載を省略する。なお、特許請求の範囲に記載した指令電圧演算部は、電流フィードバック制御部30,32及び非干渉制御部34に相当する。
【0029】
uvw変換部36は、d軸の指令電圧vd*及びq軸の指令電圧vq*を3相の指令電圧vu*,vv*,vw*に変換する。PWM処理部38は、3相の指令電圧vu*,vv*,vw*に基づき、3相のPWM信号gu,gv,gwを生成する。デッドタイム生成部40は、PWM信号g¥に基づき、スイッチング素子S¥#の操作信号g¥#を生成し、インバータ回路INVに出力する。PWM信号g¥は、上側アームのスイッチング素子S¥pのオン期間、及び下側アームのスイッチング素子S¥nのオン期間を規定する。PWM信号g¥#には、上側アームのスイッチング素子S¥pと下側アームのスイッチング素子S¥nとのいずれか一方がオフ操作からオン操作に切り替わるに先立って、他方がオフ操作されるようにデットタイムが付与されている。なお、特許請求の範囲に記載した操作処理部は、uvw変換部36、PWM処理部38、及びデッドタイム生成部40に相当する。
【0030】
開ループ処理部60には、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeが入力される。開ループ処理部60は、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeに基づいて、d軸の指令電圧vd*を補正するためのd軸の補正電圧vdhを演算するとともに、q軸の指令電圧vq*を補正するためのq軸の補正電圧vqhを演算する。d軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhは、モータ10に流れる実電流の絶対値が大きくなる場合に、ステータコイルのインダクタンスの磁気飽和に起因した空間高調波によってモータ10に流れる実電流が基本波からずれることを抑制するためのものである。ここで、d軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhは、開ループ制御量である。
【0031】
具体的には、開ループ処理部60は、高調波磁束演算部62と、補正電圧演算部64とを備えている。
図3に示すように、高調波磁束演算部62には、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeが入力される。高調波磁束演算部62は、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeに基づいて、高調波磁束λdh,λqhを演算する。高調波磁束演算部62は、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeと、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhとの関係を定めた4次元マップMを備えている。4次元マップMは、高調波磁束演算部62の記憶部に記憶されている。記憶部は、図示しないメモリの所定の記憶領域である。4次元マップMは、例えば、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、及び回転角度θeの3次元マップが、回転速度ωe毎に複数用意されたものである。この4次元マップMは、モータ10に定常的に基本波電流を流した際におけるd軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeの組毎に高調波磁束λdh,λqhを求めることで生成されたものである。4次元マップMの設定方法については後述する。4次元マップMでは、d軸の実電流idの絶対値が大きいほど、またq軸の実電流iqの絶対値が大きいほど、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhの絶対値が大きくなる。なお、4次元マップMに入力される回転角度θeの角度範囲は、例えば、「0~60°」の範囲とする。これは、6次の高調波、およびその定数倍の高調波を低減することを狙ったための設定である。
【0032】
図4(a)に、モータ10に基本波電流を流した際のモータ10のモータコイルの各端子に印加される電圧である相電圧vu,vv,vwの推移を示す。図示されるように、この場合、相電圧vu,vv,vwは基本波に対して歪みを有する。図4(b)に、図4(a)の相電圧v¥の歪率を定量化して示す。ここで、歪率は、基本波の実効値に対する高調波の実効値の百分率にて定量化されている。図示されるように、歪率が大きくなるのは、uvwの固定座標系において、3次、5次、7次、11次、および13次である。ここで、3次の成分は実際にはトルクリップル等に寄与しない。一方、3次および5次の高調波成分は、回転座標系では6次の高調波成分となり、11次および13次の高調波成分は、回転座標系では、12次の高調波成分となる。このため、本実施形態では、6次の高調波およびその倍数の高調波成分をターゲットとする。ここで、6次の高調波は、「60°」を周期とするものであり、その倍数の高調波は、「60°」の約数を周期とするものである。このため、マップの入力変数としての回転角度θeの領域は、「60°」となる。
【0033】
図3に示すように、高調波磁束演算部62は、4次元マップMを参照することにより、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeに基づいて、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhをマップ演算する。
【0034】
図1に示すように、補正電圧演算部64は、高調波磁束演算部62により演算されたd軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhと、回転速度ωeとに基づいて、下記の式(c1)を用いてd軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhを算出する。なお、式(c1)の導出については、<補正電圧の導出について>の欄に記載する。
【0035】
【数1】
電圧補正部66は、非干渉制御部34により演算されたd軸の指令電圧vd*にd軸の補正電圧vdhを加算することで、d軸の指令電圧vd*を補正してuvw変換部36に出力する。電圧補正部68は、非干渉制御部34により演算されたq軸の指令電圧vq*にq軸の補正電圧vqhを加算することで、q軸の指令電圧vq*を補正してuvw変換部36に出力する。
【0036】
モータ制御装置20は、マップ設定部100を更に備えている。マップ設定部100には、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeが入力される。マップ設定部100は、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeに基づいて、上記4次元マップMを生成する。マップ設定部100は、生成した4次元マップMを開ループ処理部60の高調波磁束演算部62に出力することで、4次元マップMを設定する。4次元マップMの設定方法については、<4次元マップMの設定方法について>の欄に記載する。
【0037】
<補正電圧の導出について>
以下、上記の式(c1)を導出する。まず、dq軸上での電圧方程式は、下記の式(c2)となる。
【0038】
【数2】
ただし、式(c2)においては、d軸の抵抗Rd、q軸の抵抗Rq、微分演算子p、永久磁石による磁束のd軸成分Φmdおよびq軸成分Φmq、d軸のインダクタンスLd,q軸のインダクタンスLqを用いた。ここで、磁束λd,λqは、「λd=Φmd+Ld・id,λq=Φmq+Lq・iq」と定義でき、また、dq軸の磁束λd,λqは、基本波成分λdDC,λqDCと、高調波成分λd(6θ),λq(6θ),λd(12θ),λq(12θ)等とに分解できることから、以下の式(c3)が成立する。
【0039】
【数3】
上記の式(c3)におけるd軸の電圧vd及びq軸の電圧vqが基本波電圧とd軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhとの和であるとして、且つd軸の実電流id及びq軸の実電流iqを基本波電流とすると、d軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhは、下記の式(c4)にて表現される。
【0040】
【数4】
このように導出された上記の式(c4)は、上記の式(c1)と同一である。
【0041】
<4次元マップMの設定方法について>
4次元マップMの設定は、モータ装置1が車両の電動パワーステアリング装置に搭載される前に実行される。このため、例えば、4次元マップMの設定は、モータ装置1の工場出荷前に実行される。
【0042】
4次元マップMの設定にあたっては、まず、4次元マップMの設定対象であるモータ装置1を、工場における所定のマップ設定エリアに設置する。このマップ設定エリアは、モータ装置1に対して電力を供給できるのであれば、工場内のどのような場所であってもよい。これは、モータ装置1が、4次元マップMを設定するために必要となる情報を検出するための回転角度センサ12を自身で備えているためである。そして、図2に示すように、モータ装置1をマップ設定エリアに設置した後、モータ装置1はマップ設定用制御装置110に接続される。マップ設定用制御装置110は、4次元マップMを設定する際に電力を供給するバッテリを備えている。4次元マップMを設定する際には、マップ設定用制御装置110のバッテリが図1のバッテリ14として機能する。そして、4次元マップMの設定の準備完了後、マップ設定用制御装置110は、モータ装置1に対して4次元マップMの設定を開始する旨の信号を出力する。モータ装置1のモータ制御装置20は、4次元マップMの設定を開始する旨の信号を取得した場合、図5のフローチャートに示す手順にしたがって4次元マップMの設定を実行する。
【0043】
図5に示すように、モータ制御装置20は、測定ステップを実行する(ステップS1)。測定ステップにおいて、モータ制御装置20は、モータ10に定常的に基本波電流を流した際におけるd軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeを測定する。モータ10は、定常的に基本波電流を流した際、すなわち一定のd軸の指令電流id*及びq軸の指令電流iq*によって実電流を流すことで回転する。この場合、トルクリプルが発生していなければ、モータ10は一定の負荷で回転することになるため、モータ10の回転は一定の加速度で加速することになる。モータ10は、モータ装置1が電動パワーステアリング装置に搭載された場合に回転軸10aが回転することのできる角度範囲に応じた角度範囲で回転する。マップ設定部100には、回転角度センサ12により検出された回転角度θeの変化、及び回転速度演算部23により演算された回転速度ωeの変化が入力される。また、マップ設定部100には、d軸の実電流id及びq軸の実電流iqの変化が入力される。マップ設定部100は、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeの組毎に測定データを用意する。
【0044】
マップ設定部100は、測定ステップの終了後、変動検出ステップを実行する(ステップS2)。変動検出ステップにおいて、マップ設定部100は、回転速度ωeの変化に基づいて、回転速度ωeの変動である回転速度変動を検出する。トルクリプルが発生していなければ、モータ10は一定の負荷で回転することから、回転速度ωeの絶対値は一定の変化量で変化することになる。しかし、トルクリプルが発生した場合には、モータ10が回転速度ωeの絶対値が一定の変化量で変化するという回転速度ωeの関係が崩れることになる。このため、トルクリプルが発生していない場合の回転速度ωeとトルクリプルが発生している場合の回転速度ωeとの間に乖離が生じる。
【0045】
変動検出ステップにおいて、マップ設定部100は、回転速度変動を示す情報として、当該回転速度変動の振幅、及び当該回転速度変動の位相を回転速度変動毎に記憶する。なお、回転速度変動の振幅は、トルクリプルが発生していない場合の回転速度ωeとトルクリプルが発生している場合の回転速度ωeとの偏差である。また、回転速度変動の位相は、回転速度変動が生じている回転角度θeの位置である。
【0046】
マップ設定部100は、変動検出ステップの終了後、推定ステップを実行する(ステップS3)。ここで、トルクリプルは、回転速度変動の時間微分に慣性モーメントを示す所定係数を乗算した値である。このため、トルクリプルと回転速度変動との間には所定の関係が存在する。そこで、推定ステップにおいて、マップ設定部100は、変動検出ステップで検出された回転速度変動に基づいて、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeの組毎にトルクリプルを推定する。
【0047】
マップ設定部100は、推定ステップの終了後、マップ生成ステップを実行する(ステップS4)。マップ生成ステップにおいて、マップ設定部100は、推定ステップで推定されたトルクリプルに基づいて、高調波磁束を演算する4次元マップMを生成する。具体的には、マップ設定部100は、トルクリプルが最小となることが推定されるd軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算する。マップ設定部100は、これらのd軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeの組毎に演算する。マップ設定部100は、これらの演算結果を纏めることで4次元マップMを生成する。マップ設定部100は、4次元マップMの生成後、生成した4次元マップMを開ループ処理部60の高調波磁束演算部62に出力する。高調波磁束演算部62は、マップ設定部100により生成された4次元マップMを記憶部に記憶して4次元マップMを設定する。このようにして、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeと、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhとの関係を定めた4次元マップMが高調波磁束演算部62に設定される。
【0048】
高調波磁束演算部62への4次元マップMの設定後、モータ装置1とマップ設定用制御装置110との間の接続が解除される。このようにして4次元マップMが設定されたモータ装置1は、工場から出荷されて、車両の電動パワーステアリング装置に搭載される。
【0049】
本実施形態の作用を説明する。
開ループ処理部60は、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを用いて、d軸の指令電圧vd*及びq軸の指令電圧vq*を演算するようにしている。d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhの演算に際しては、回転角度だけでなく、回転速度ωeを用いて、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算している。空間高調波に起因したトルクリプルは回転速度変動に基づいて推定することができることから、回転速度ωeに基づいてトルクリプルを低減するためのd軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhを演算することができる。ここで、d軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhは、モータ10に基本波電流を流した際にトルクリプルを最小とするように求めたものである。このため、非干渉制御部34により演算されたd軸の指令電圧vd*に開ループ処理部60により演算されたd軸の補正電圧vdhを重畳し、非干渉制御部34により演算されたq軸の指令電圧vq*に開ループ処理部60により演算されたq軸の補正電圧vqhを重畳することで、モータ10に流れる実電流を基本波電流に近付けることができる。モータ10に流れる実電流を基本波電流に近付けることができるため、開ループ処理部60に入力されるd軸の実電流id及びq軸の実電流iqも基本波電流に近いものとなる。
【0050】
本実施形態の効果を説明する。
(1)トルクリプルが低減するように補正している対象は、電流フィードバック制御に用いられるd軸の指令電流id*及びq軸の指令電流iq*ではなく、d軸の指令電圧vd*及びq軸の指令電圧vq*である。このため、電流フィードバック制御のフィードバックループの応答速度を指令電流に実電流を追従させることができる程度に設定したとしても、d軸の指令電圧vd*及びq軸の指令電圧vq*を補正することで、トルクリプルを低減することができる。
【0051】
(2)特に、高速回転速度領域では、鎖交磁束が基本波からずれることによる空間高調波に起因したトルクリプルが目立たないものとなり、実電流が大きくなるときの磁気飽和による空間高調波に起因したトルクリプルが顕著となりやすい。特に、磁気飽和による空間高調波に起因したトルクリプルは、モータ装置1の機械構成やモータ装置1が搭載される電動パワーステアリング装置の機械構成の共振周波数と一致して異音を発生させるおそれがある。本実施形態では、d軸の指令電圧vd*及びq軸の指令電圧vq*をd軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhによって補正するため、モータ10に流れる実電流を基本波電流に近付けることができて、高速回転速度領域についても、空間高調波に起因したトルクリプルを低減することができる。
【0052】
(3)4次元マップMには回転速度ωeを入力できるようにしていることから、回転速度ωeに応じた高調波磁束の振幅の減少や回転速度ωeに応じた高調波磁束の位相の遅れ等を考慮した4次元マップMを設定することができる。高調波磁束演算部62は、例えば、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、及び回転角度θeと、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhとの関係を定めた3次元マップを参照する場合と比べて、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeに基づいて好適な高調波磁束を演算することができる。
【0053】
(4)マップ設定部100は、トルクリプルをトルク変動から検出するのではなく、トルクリプルを回転速度変動から推定するようにしている。高調波磁束を演算する4次元マップMを生成するために必要となる情報は、回転角度センサ12を通じて測定することができる回転速度変動である。この回転速度変動は、モータ制御装置20が備える回転角度センサ12を通じて得ることができる。この回転角度センサ12は、モータ10に電圧を印加するにあたって必要になる回転角度θeを検出するために、そもそも設けられるセンサである。このため、マップ設定部100が4次元マップMを生成するにあたって、トルクリプルを検出するためのトルク計などのセンサを別途設ける場合と比べて、4次元マップMを生成する際に必要となる構成を少なくすることができる。
【0054】
(5)測定ステップでモータ10の回転速度ωeの変化を測定するにあたって、モータ10は自身で回転するようにしている。このため、マップ設定部100が4次元マップMを生成するにあたって、モータ10の回転軸10aを回転させるための外付けモータを別途設ける場合と比べて、4次元マップMを生成する際に必要となる構成を少なくすることができる。
【0055】
(6)変動検出ステップでは、測定ステップで測定されたモータ10の回転速度の変化に基づいて、回転速度変動を検出する。トルクリプルと回転速度変動との間には所定の関係が存在する。すなわち、トルクリプルは、回転速度変動の時間微分に慣性モーメントを示す所定係数を乗算した値である。このため、推定ステップでは、変動検出ステップで検出した回転速度変動からトルクリプルを推定することができる。そして、推定ステップで推定されたトルクリプルに基づいてトルクリプルを低減するためのd軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算することができる。これにより、回転角度θe及び回転速度ωeとd軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhとの関係を求めることができるため、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算するための4次元マップMを生成することができる。
【0056】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・高調波磁束演算部62は、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算する際、d軸の実電流idに代えてd軸の指令電流id*を用い、q軸の実電流iqに代えてq軸の指令電流iq*を用いるようにしてもよい。また、トルク指令値Trq*とq軸の指令電流id*との間に相関関係がある場合や、回転速度ωeとd軸の指令電流id*との間に相関関係がある場合がある。この場合、高調波磁束演算部62は、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算する際、q軸の実電流iqに代えてトルク指令値Trq*を用い、d軸の実電流idに代えて回転速度ωeを用いるようにしてもよい。
【0057】
・高調波磁束演算部62は、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算する際、d軸の実電流id、q軸の実電流iq、回転角度θe、及び回転速度ωeに加えて、回転速度ωeの変化量である回転加速度等のパラメータを用いるようにしてもよい。
【0058】
・高調波磁束演算部62は、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算する際に、回転座標系の値ではなく、固定2相座標系や固定3相座標系の値を用いるようにしてもよい。
【0059】
・高調波磁束演算部62は、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算する際、電気角である回転角度θeに代えて機械角である回転角度を用いるようにしてもよい。また、高調波磁束演算部62は、d軸の高調波磁束λdh及びq軸の高調波磁束λqhを演算する際、電気角である回転角度θeの変化量である回転速度ωeに代えて、機械角である回転角度の変化量である回転速度を用いるようにしてもよい。これは、補正電圧演算部64についても同様である。
【0060】
・上記実施形態では、6次のトルクリプルを低減するためのd軸の補正電圧vdh及びq軸の補正電圧vqhを演算するようにしたが、12次のトルクリプル等の他の次数のトルクリプルを低減するようにしてもよい。
【0061】
・4次元マップMは、モータ制御装置20のマップ設定部100によって生成するようにしたが、例えばマップ設定用制御装置110等のモータ制御装置20とは別の制御装置によって生成するようにしてもよい。この場合、モータ制御装置20は、マップ設定部100を備えていなくてよい。別の制御装置は、生成したマップをモータ制御装置20に対して出力し、高調波磁束演算部62は取得したマップを記憶部に記憶する。
【0062】
・モータ10とは別の外付けモータをモータ10の回転軸10aに取り付けるようにしてもよい。この場合、測定ステップでは、モータ10自身で回転軸10aを回転させるのではなく、外付けモータで回転軸10aを回転させるようにすることができる。
【0063】
・モータ制御装置20は、回転角度センサ12を備えていなくてもよい。この場合、例えば、外付けの回転角度センサをモータ制御装置20に接続するようにしてもよい。測定ステップでは、外付けの回転角度センサによって回転角度θe及び回転速度ωeの変化を検出する。また、例えば、回転軸10aの位置を検出するエンコーダ等の位置センサを接続するようにしてもよい。位置センサは、回転軸10aの位置を検出することを通じて、回転角度θeを検出する。測定ステップでは、位置センサによって回転角度θe及び回転速度ωeの変化を検出する。
【0064】
・モータ制御装置20が回転角度センサ12を備えている場合であっても、外付けの回転角度センサや位置センサをモータ制御装置20に接続するようにしてもよい。この場合、測定ステップでは、回転角度センサ12に代えて、外付けの回転角度センサや、位置センサによって、回転角度θe及び回転速度ωeの変化を検出する。
【0065】
・測定ステップでは、モータ装置1が車両の電動パワーステアリング装置に搭載される前に4次元マップMを設定するようにしたが、モータ装置1が車両の電動パワーステアリング装置に搭載された後に4次元マップMを設定するようにしてもよい。この場合、測定ステップは、電動パワーステアリング装置のステアリングホイールを右に最大限操舵した状態から左に最大限操舵した状態まで操舵したときのモータ10の回転軸10aが回転することのできる角度範囲で実行されることになる。
【0066】
・マップ設定部100は、推定ステップにおいて、回転速度変動に加えて、例えば実電流等の他のパラメータに基づいて、トルクリプルを推定するようにしてもよい。
・マップ設定部100は、マップ生成ステップにおいて、トルクリプルに加えて、例えば実電流等の他のパラメータに基づいて、4次元マップMを生成するようにしてもよい。
【0067】
・モータ制御装置20は、異常検出部を備えるようにしてもよい。この場合、異常検出部は、回転速度変動を常時監視し、当該回転速度変動が回転速度変動の最大値を示す閾値を超える場合に、モータ10に異常があったことを検出する。閾値は、例えば、4次元マップMを設定する際に検出された回転速度変動の最大値に設定される。なお、モータ10の異常としては、例えば、ロータに設けられている永久磁石の減磁や脱落、モータコイルの劣化等が考えられる。
【0068】
・モータ10は、SPMSMに限らず、埋込磁石同期モータであってもよい。なお、永久磁石同期モータにも限らず、たとえば巻線界磁型同期モータやリラクタンスモータ等であってもよい。
【0069】
・インバータ回路INVは、例えば、3レベルインバータ回路であってもよいし、モータ10のモータコイルの各端子にDCDCコンバータと同様の回路構成の回路を接続したものであってもよい。
【0070】
・モータ装置1は、電動パワーステアリング装置に搭載されるものに限らず、例えばステアバイワイヤ装置に搭載されるものであってもよいし、発電機として用いられるものであってもよい。
【0071】
上記実施形態及び上記他の実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記指令電流、前記指令電圧、前記高調波磁束、及び前記補正電圧は、回転座標系における値であり、前記高調波磁束演算部は、前記高調波磁束の微分演算に基づき前記補正電圧を演算するモータ制御装置。上記構成によれば、回転座標系を用いることで、基本波成分を直流成分として扱うことができることから、補正電圧を容易に演算することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…モータ装置
10…モータ
20…モータ制御装置
INV…インバータ回路
60…開ループ処理部
62…高調波磁束演算部
64…補正電圧演算部
100…マップ設定部
vd*,vq*…d軸、q軸の指令電圧
vdh,vqh…d軸、q軸の補正電圧
λdh,λqh…d軸、q軸の高調波磁束
M…4次元マップ
図1
図2
図3
図4
図5