(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】緩衝材
(51)【国際特許分類】
D04H 1/587 20120101AFI20241210BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20241210BHJP
【FI】
D04H1/587
D04H1/425
(21)【出願番号】P 2020158308
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 徹司
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 順
(72)【発明者】
【氏名】大村 眞
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰雄
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-223273(JP,A)
【文献】国際公開第2015/150750(WO,A1)
【文献】特開2017-048475(JP,A)
【文献】特開2020-062791(JP,A)
【文献】特表2002-529568(JP,A)
【文献】特許第4077027(JP,B1)
【文献】特開2007-320168(JP,A)
【文献】特開2021-155657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/587
D04H 1/425
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、該セルロース繊維を結着させる結合材料と、を含む繊維構造体
から
なる緩衝材であって、
前記セルロース繊維が、前記繊維構造体に対して50.0質量%以上70.0質量%以
下が含有され、前記結合材料が
シェラック樹脂であり、
前記繊維構造体の厚さが、3.0mm以上15.0mm以下であり、
前記繊維構造体の密度が、0.03g/cm3以上0.30g/cm3以下である、緩衝
材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造体、及び、繊維構造体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、プラスチック材に代わる環境負荷を低減させた梱包材や緩衝材が求められている。従来から、古紙を再利用する加工方法が知られている。例えば、特許文献1には、古紙を粉砕繊維化して、ポリプロピレン、酢酸ビニルエマルジョンを固化材として用いて成形加工する加工方法が提案されている。また、特許文献2には、紙基材の片面もしくは両面に、カイガラ虫が分泌する酸エステル樹脂状物質を精製してなる生物産生天然樹脂であるシェラック樹脂を用いて包装材に加工する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-296398号公報
【文献】特開2002-172728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている加工方法は、固化材が天然由来材料ではないため、環境負荷低減が不十分である。特許文献2に開示されている加工方法は、シェラック樹脂を水またはアルコール等に溶解して紙基材に塗布することで耐水性、耐油性を高めているが、包装材の強度については触れられていない。したがって、環境負荷がより低減され、緩衝材としての強度が得られる繊維構造体が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る繊維構造体の一態様は、
セルロース繊維と、該セルロース繊維を結着させる結合材料と、を含む繊維構造体であって、
前記セルロース繊維が、前記繊維構造体に対して50.0質量%以上70.0質量%以下が含有され、前記結合材料が天然系成分である、繊維構造体である。
【0006】
上記繊維構造体において、
前記結合材料は、シェラック樹脂を含む、繊維構造体構造体であってもよい。
【0007】
前記繊維構造体において、
前記結合材は、熱可塑デンプンを含む、繊維構造体であってもよい。
【0008】
前記繊維構造体において、
厚さが、1.0mm以上20.0mm以下であり、
密度が、0.02g/cm3以上0.50g/cm3以下である、繊維構造体であってもよい。
【0009】
複数のセルロース繊維と、該セルロース繊維を結着させる結合材料と、を混合する混合部と、
混合された前記複数のセルロース繊維と前記結合材料とを堆積させる堆積部と、
前記堆積部で堆積された堆積物を加熱して繊維構造体を形成する形成部と、
を備え、
前記形成部は、加熱部及び加圧部を備える、繊維構造体の製造装置である。
【0010】
上記製造装置において、
前記加熱部の加熱温度が140℃以上200℃未満である、繊維構造体の製造装置であってもよい。
【0011】
上記製造装置において、
前記加圧部の圧力は0.1キロパスカル以上10.0メガパスカル以下である、繊維構造体の製造装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る繊維構造体の製造装置の一例を模式的に示す図。
【
図2A】実施形態に係る繊維構造体の成形型の一例を示す図。
【
図2B】実施形態に係る繊維構造体の成形型の一例を示す図。
【
図2C】実施形態に係る繊維構造体の成形型の一例を示す図。
【
図2D】実施形態に係る繊維構造体の成形型の一例を示す図。
【
図3】実施形態に係る繊維構造体で得られた緩衝材の画像。
【
図4】実施形態に係る繊維構造体で得られた緩衝材の画像。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0014】
1.繊維構造体
本実施形態の繊維構造体は、複数のセルロース繊維と、該セルロース繊維を結着させる結合材料と、を含む。そして、前記セルロース繊維が、前記繊維構造体に対して50.0質量%以上70.0質量%以下が含有され、前記結合材料が天然系成分である、繊維構造体である。以下、セルロース繊維、結合材料、繊維構造体の形成方法について順次説明する。
【0015】
1.1.セルロース繊維
本実施形態の繊維構造体において、セルロース繊維は原料の一部として使用され、繊維構造体には複数のセルロース繊維が含まれる。係るセルロース繊維としては、天然セルロース繊維(動物セルロース繊維、植物セルロース繊維)、化学セルロース繊維(有機セルロース繊維、無機セルロース繊維、有機無機複合セルロース繊維)などが挙げられる。更に詳しくは、セルロース繊維としては、セルロース、綿、大麻、ケナフ、亜麻、ラミー、黄麻、マニラ麻、サイザル麻、針葉樹、広葉樹等からなるセルロース繊維が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、適宜混合して用いてもよいし、精製などを行った再生セルロース繊維として用いてもよい。また、セルロース繊維は、乾燥されていてもよいし、水、有機溶剤等の液体が含有又は含浸されていてもよい。さらにセルロース繊維は、各種の表面処理が施されていてもよい。
【0016】
本実施形態の繊維構造体に含まれる複数のセルロース繊維のうちの1つのセルロース繊維は、独立した1本のセルロース繊維としたときに、その平均的な直径(断面が円でない場合には長手方向に垂直な方向の長さのうち、最大のもの、又は、断面の面積と等しい面積を有する円を仮定したときの当該円の直径(円相当径))が、平均で、1.0μm以上1000.0μm以下、好ましくは5.0μm以上100.0μm以下である。
【0017】
本実施形態の繊維構造体に含まれるセルロース繊維の長さは、特に限定されないが、独立した1本のセルロース繊維として、そのセルロース繊維の長手方向に沿った長さは、1.0μm以上5.0mm以下である。また、セルロース繊維の平均の長さは、長さ-長さ加重平均セルロース繊維長として、20.0μm以上3600.0μm以下である。さらに、セルロース繊維の長さは、ばらつき(分布)を有してもよい。
【0018】
本明細書では、セルロース繊維というときには、セルロース繊維1本のことを指す場合と、複数のセルロース繊維の集合体(例えば綿のような状態)のことを指す場合とがある。また、セルロース繊維は、被解繊物を解繊処理することにより繊維状に解きほぐされたセルロース繊維(解繊物)であってもよい。ここで被解繊物としては、例えば、パルプシート、紙、古紙、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、クリーナー、フィルター、液体吸収材、吸音体、緩衝材、マット、段ボールなどの、セルロース繊維が絡み合い又は結着されたものを指す。
【0019】
1.2.結合材料
本実施形態の繊維構造体は、結合材料を含む。結合材料は、セルロース繊維とセルロース繊維とを結着する機能を有する。結合材料は、セルロース繊維とセルロース繊維とを結着すること以外の機能を有してもよい。また、結合材料は、必ずしも全てが特定の機能を発揮する必要はない。結合材料は、着色材、凝集抑制剤等を含む複合体であってもよい。結合材料は、有機溶剤、界面活性剤、防黴剤・防腐剤、酸化防止剤・紫外線吸収剤、酸素吸収剤等を含んでもよい。
【0020】
結合材料は、繊維構造体に対して、例えば、セルロース繊維とセルロース繊維との結着、着色、ウェブ構造体同士若しくはウェブ構造体と他の物体との接着又は貼着、ウェブ構造体の難燃化、等の機能を付与してもよい。また、結合材料は、他の機能材(着色剤など)がウェブ構造体から脱落することを抑制する機能を有してもよい。
【0021】
結合材料には樹脂が含まれる。樹脂の種類としては、天然樹脂、合成樹脂のいずれでもよく、また、結合材料は、熱可塑性を有する。これにより熱を付与することで結合材料が溶融して、セルロース繊維間で延展することによりセルロース繊維間を結着させやすい。
【0022】
天然樹脂としては、ロジン、ダンマル、マスチック、コーパル、琥珀、シェラック、麒麟血、サンダラック、コロホニウムなどが挙げられ、これらを単独又は適宜混合したものが挙げられ、また、これらは適宜変性されていてもよい。
【0023】
合成樹脂のうち熱可塑性樹脂としては、AS樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、などが挙げられる。
【0024】
さらに、結合材料には、合成樹脂のうち、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブタン酸などの生分解性樹脂を用いてもよい。生分解性樹脂を用いることにより、ウェブ構造体を環境適合性により優れたものとすることができる。
【0025】
また、樹脂は、共重合体化や変性が為されてもよく、このような樹脂の系統としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系共重合樹脂、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N-ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂等が挙げられる。以上例示した樹脂は、単独又は適宜混合して用いてもよい。
【0026】
結合材料に含まれる樹脂は、200.0℃以下で溶融又は軟化するものが好ましく、160.0℃以下で溶融又は軟化するものが省エネルギーの観点でさらに好ましい。結合材料に含まれる樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えばウェブ構造体の厚さや熱処理される温度により適宜選択され得る。好ましくは45.0℃以上、より好ましくは50.0℃以上である。また、Tgの上限値は、好ましくは95.0℃以下、より好ましくは90.0℃以下である。ガラス転移温度が45.0℃以上であれば、高温時の結合材料の軟化が抑制される。
【0027】
結合材料は、天然高分子である澱粉を含む。澱粉は、成形物の形状の保持に寄与するとともに、成形物の強度等の特性を維持・向上させる成分である。
【0028】
澱粉は、複数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した高分子材料である。澱粉は、直鎖状であってもよいし、分岐を含んでもよい。
【0029】
澱粉は、各種植物由来のものを用いることができる。澱粉の原料としては、トウモロコシ、小麦、米等の穀類、ソラマメ、緑豆、小豆等の豆類、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ等のイモ類、カタクリ、ワラビ、葛等の野草類、サゴヤシ等のヤシ類が挙げられる。
【0030】
また、澱粉として加工澱粉、変性澱粉を用いてもよい。加工澱粉としては、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化澱粉、酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉、リン酸物エステル化リン酸架橋澱粉、尿素リン酸化エステル化澱粉、澱粉グリコール酸ナトリウム、高アミロースコーンスターチ等が挙げられる。また、変性澱粉としては、α化澱粉、デキストリン、ラウリルポリグルコース、カチオン化澱粉、熱可塑性澱粉、カルバミン酸澱粉等が挙げられる。
【0031】
結合材料は、セルロース繊維の直径よりも小さい体積平均粒子径の粒子で構成された粉体がよい。粉体であれば、セルロース繊維に対する配合量を容易に変えることができる。また粉体であることにより、セルロース繊維に対する付着の均一性が向上する。結合材料の体積平均粒子径としては、例えば、1.0μm以上100.0μm以下、好ましくは5.0μm以上50.0μm以下である。
【0032】
結合材料は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機、多軸押出機、二本ロール、三本ロール、連続式ニーダー、連続式二本ロールなどを用いて混練した後、適宜の方法でペレタイズし、粉砕することにより得ることができる。結合材料には様々な大きさの粒子が含まれている場合もあり、公知の分級装置を用いて分級してもよい。また、結合材料の粒子の外形形状は、特に限定されず、球状、円盤状、繊維状、不定形等の形状であってもよい。
【0033】
本明細書において、「セルロース繊維と結合材料とを結着する」とは、セルロース繊維と結合材料とが離れにくい状態や、セルロース繊維とセルロース繊維との間に結合材料が配置され、セルロース繊維とセルロース繊維とが結合材料を介して離れ難くなっている状態をいう。また、結着とは、接着を含む概念であって2種以上の物体が接触して離れにくくなった状態を含む。また、セルロース繊維とセルロース繊維とが結合材料を介して結着した際に、セルロース繊維とセルロース繊維とが平行に又は交差してもよいし1本のセルロース繊維に複数のセルロース繊維が結着してもよい。
【0034】
本実施形態の繊維構造体を用いて成形される成形体において、セルロース繊維とセルロース繊維とを結着させる方法は、結合材料を溶融又は軟化させてセルロース繊維間を結着させることができるかぎり、特に限定されない。そのような結着を実現する構成としては、例えば、熱プレス、ヒートローラー、立体成形加工機等が挙げられる。
【0035】
結合材料は、繊維構造体に対して5.0質量%以上50.0質量%以下、好ましくは7.0質量%以上45.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以上40.0質量%以下含有されることが好ましい。結合材料の含有量がこのような範囲であれば、繊維構造体を用いて成形物を成形した場合に、十分な強度・剛性を得やすいとともに、いわゆる深絞り等を要する立体形状を形成する場合においても、成形品におけるシワや破れの発生を抑制することができる。
【0036】
1.3.繊維構造体の性状
繊維構造体WSの密度は、0.01g/cm3以上0.50g/cm3以下であることが好ましく、0.02g/cm3以上0.50g/cm3以下であることがより好ましく、0.10g/cm3以上0.50g/cm3以下であることがさらに好ましい。繊維構造体WSの密度がこの範囲であれば、繊維構造体WSを用いて成形物を成形した場合に、十分な強度・剛性を得やすいとともに、いわゆる深絞り等を要する立体形状を形成する場合においても、成形品におけるシワや破れの発生をさらに抑制することができ、例えば緩衝材に成形加工することが容易である。さらに強度が保持され、衝撃に対する耐久性も良好となる。
【0037】
構造体WSは、シート状の外観を有してもよい。繊維構造体WSの厚さは、例えば、0.5mm以上30.0mm以下、好ましくは1.0mm以上20.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以上15.0mm以下である。このような厚さとすることにより、繊維構造体WSを用いて成形物を成形した場合に、十分な強度・剛性を得やすいとともに、いわゆる深絞り等を要する立体形状を形成する場合においても、成形品におけるシワや破れの発生をさらに抑制することができる。
【0038】
2.繊維構造体の製造装置
本実施形態の繊維構造体の製造装置は、上述の繊維構造体を製造することのできる装置である。
【0039】
図1は、本実施形態に係る繊維構造体の製造装置100を模式的に示す図である。繊維構造体の製造装置100は、
図1に示すように、供給部10と、粗砕部12と、解繊部20と、選別部40と、第1ウェブ形成部45と、回転体49と、混合部50と、堆積部60と、第2ウェブ形成部70と、繊維構造体形成部80と、切断部90と、加湿部78と、を有している。
【0040】
供給部10は、粗砕部12に原料を供給する。供給部10は、例えば、粗砕部12に原料を連続的に投入するための自動投入部である。粗砕部12に供給される原料は、セルロース繊維を含むものであればよい。
【0041】
粗砕部12は、供給部10によって供給された原料を、大気中(空気中)等の気中で裁断して細片にする。細片の形状や大きさは、例えば、数cm角の細片である。図示の例では、粗砕部12は、粗砕刃14を有し、粗砕刃14によって、投入された原料を裁断することができる。粗砕部12としては、例えば、シュレッダーを用いる。粗砕部12によって裁断された原料は、ホッパー1で受けてから管2を介して、解繊部20に移送(搬送)される。
【0042】
解繊部20は、粗砕部12によって裁断された原料を解繊する。ここで、「解繊する」とは、複数のセルロース繊維が結着されてなる原料(被解繊物)を、セルロース繊維1本1本に解きほぐすことをいう。解繊部20は、原料に付着した樹脂粒やインク、トナー、填料、にじみ防止剤等の物質を、セルロース繊維から分離させる機能をも有する。
【0043】
解繊部20を通過したものを「解繊物」という。「解繊物」には、解きほぐされた解繊物セルロース繊維の他に、セルロース繊維を解きほぐす際にセルロース繊維から分離した樹脂(複数のセルロース繊維同士を結着させるための樹脂)粒や、インク、トナー、填料、などの色剤や、にじみ防止材、紙力増強剤等の添加剤を含んでいる場合もある。
【0044】
解繊部20は、乾式で解繊を行う。水等の液体中(スラリー状に溶解させる湿式)ではなく大気等の気中において、解繊等の処理を行うことを乾式と称する。解繊部20として、本実施形態ではインペラーミルを用いる。解繊部20は、原料を吸引し、解繊物を排出するような気流を発生させる機能を有している。これにより、解繊部20は、自ら発生する気流によって、導入口22から原料を気流と共に吸引し、解繊処理して、解繊物を排出口24へと搬送することができる。解繊部20を通過した解繊物は、管3を介して、選別部40に移送される。なお、解繊部20から選別部40に解繊物を搬送させるための気流は、解繊部20が発生させる気流を利用してもよいし、ブロアー等の気流発生装置を設け、その気流を利用してもよい。
【0045】
選別部40は、解繊部20により解繊された解繊物を導入口42から導入し、セルロース繊維の長さによって選別する。選別部40は、ドラム部41と、ドラム部41を収容するハウジング部43と、を有している。ドラム部41としては、例えば、篩(ふるい)を用いる。ドラム部41は、網(フィルター、スクリーン)を有し、網の目開きの大きさより小さいセルロース繊維又は粒子(網を通過するもの、第1選別物)と、網の目開きの大きさより大きいセルロース繊維や未解繊片やダマ(網を通過しないもの、第2選別物)と、を分けることができる。例えば、第1選別物は、管7を介して、混合部50に移送される。第2選別物は、排出口44から管8を介して、解繊部20に戻される。具体的には、ドラム部41は、モーターによって回転駆動される円筒の篩である。ドラム部41の網としては、例えば、金網、切れ目が入った金属板を引き延ばしたエキスパンドメタル、金属板にプレス機等で穴を形成したパンチングメタルを用いる。
【0046】
第1ウェブ形成部45は、選別部40を通過した第1選別物を、混合部50に搬送する。第1ウェブ形成部45は、メッシュベルト46と、張架ローラー47と、吸引部(サクション機構)48と、を含む。
【0047】
吸引部48は、選別部40の開口(網の開口)を通過して空気中に分散された第1選別物をメッシュベルト46上に吸引することができる。第1選別物は、移動するメッシュベルト46上に堆積し、ウェブVを形成する。メッシュベルト46、張架ローラー47及び吸引部48の基本的な構成は、後述する第2ウェブ形成部70のメッシュベルト72、張架ローラー74及びサクション機構76と同様である。
【0048】
ウェブVは、選別部40及び第1ウェブ形成部45を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態に形成される。メッシュベルト46に堆積されたウェブVは、管7へ投入され、混合部50へと搬送される。
【0049】
回転体49は、ウェブVが混合部50に搬送される前に、ウェブVを切断することができる。図示の例では、回転体49は、基部49aと、基部49aから突出している突部49bと、を有している。突部49bは、例えば、板状の形状を有している。図示の例では、突部49bは4つ設けられ、4つの突部49bが等間隔に設けられている。基部49aが方向Rに回転することにより、突部49bは、基部49aを軸として回転することができる。回転体49によってウェブVを切断することにより、例えば、堆積部60に供給される単位時間当たりの解繊物の量の変動を小さくすることができる。
【0050】
回転体49は、第1ウェブ形成部45の近傍に設けられている。図示の例では、回転体49は、ウェブVの経路において下流側に位置する張架ローラー47aの近傍に(張架ローラー47aの横に)設けられている。回転体49は、突部49bがウェブVと接触可能な位置であって、ウェブVが堆積されるメッシュベルト46と接触しない位置に設けられている。突部49bとメッシュベルト46との間の最短距離は、例えば、0.05mm以上0.5mm以下である。
【0051】
混合部50は、選別部40を通過した第1選別物(第1ウェブ形成部45により搬送された第1選別物)と、結合材料を含む添加物と、を混合する。混合部50は、添加物を供給する添加物供給部52と、第1選別物と添加物とを搬送する管54と、ブロアー56と、を有している。図示の例では、添加物は、添加物供給部52からホッパー9を介して管54に供給される。管54は、管7と連続している。
【0052】
混合部50では、ブロアー56によって気流を発生させ、管54中において、第1選別物と添加物とを混合させながら、搬送することができる。なお、第1選別物と添加物とを混合させる機構は、特に限定されず、高速回転する羽根により攪拌するものであってもよいし、V型ミキサーのように容器の回転を利用するものであってもよい。
【0053】
添加物供給部52としては、
図1に示すようなスクリューフィーダーや、図示せぬディスクフィーダーなどを用いる。添加物供給部52から供給される添加物は、上述の結合材料を含む。結合材料が供給された時点では、複数のセルロース繊維は結着されていない。結合材料は、繊維構造体形成部80を通過する際に一部が溶融して、ウェブ構造体WSの表面領域の複数のセルロース繊維を結着させる。
【0054】
なお、添加物供給部52から供給される添加物には、結合材料の他、製造されるウェブ構造体WSの種類に応じて、セルロース繊維を着色するための着色剤や、セルロース繊維の凝集や結合材料の凝集を抑制するための凝集抑制剤、セルロース繊維等を燃えにくくするための難燃剤が含まれていてもよい。混合部50を通過した混合物(第1選別物と添加物との混合物)は、管54を介して、堆積部60に移送される。
【0055】
堆積部60は、混合部50を通過した混合物を導入口62から導入し、絡み合った解繊物(セルロース繊維)をほぐして、空気中で分散させながら降らせる。これにより、堆積部60は、第2ウェブ形成部70に、混合物を均一性よく堆積させることができる。
【0056】
堆積部60は、ドラム部61と、ドラム部61を収容するハウジング部63と、を有している。ドラム部61としては、回転する円筒の篩を用いる。ドラム部61は、網を有し、混合部50を通過した混合物に含まれる、網の目開きの大きさより小さいセルロース繊維又は粒子(網を通過するもの)を降らせる。ドラム部61の構成は、例えば、ドラム部41の構成と同じである。
【0057】
なお、ドラム部61の「篩」は、特定の対象物を選別する機能を有していなくてもよい。すなわち、ドラム部61として用いられる「篩」とは、網を備えたもの、という意味であり、ドラム部61は、ドラム部61に導入された混合物の全てを降らしてもよい。
【0058】
第2ウェブ形成部70は、堆積部60を通過した通過物を堆積して、繊維構造体WSとなる堆積物であるウェブWを形成する。この際、成形型(図示せず)をメッシュベルトに乗せて受け皿のようにして、成形型内にウェブを形成することができる。第2ウェブ形成部70は、例えば、メッシュベルト72と、張架ローラー74と、サクション機構76と、を有している。
【0059】
メッシュベルト72は、移動しながら、堆積部60の開口(網の開口)を通過した通過物を成形型に堆積させる。メッシュベルト72および成形型は、張架ローラー74によって張架され、通過物を通しにくく空気を通す構成となっている。メッシュベルト72は、張架ローラー74が自転することによって移動する。メッシュベルト72が連続的に移動しながら、堆積部60を通過した通過物が連続的に降り積もることにより、メッシュベルト72上の成形型にウェブWが形成される。メッシュベルト72及び成形型は、例えば、金属製、樹脂製、布製、あるいは不織布等である。
【0060】
サクション機構76は、メッシュベルト72の下方(堆積部60側とは反対側)に設けられている。サクション機構76は、下方に向く気流(堆積部60からメッシュベルト72に向く気流)を発生させることができる。サクション機構76によって、堆積部60により空気中に分散された混合物をメッシュベルト72上に吸引することができる。これにより、堆積部60からの排出速度を大きくすることができる。さらに、サクション機構76によって、混合物の落下経路にダウンフローを形成することができ、落下中に解繊物や添加物が絡み合うことを抑制できる。
【0061】
以上のように、堆積部60及び第2ウェブ形成部70(ウェブ形成工程)を経ることにより、空気を多く含み柔らかくふくらんだ状態のウェブWが形成される。メッシュベルト72上の成形型に堆積されたウェブWは、繊維構造体形成部80へと搬送される。繊維構造体形成部80に搬送されるウェブW(堆積物)の厚さは、1.0mm以上150.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは2.0mm以上120.0mm以下、さらに好ましくは5.0mm以上100.0mm以下である。また、ウェブW(堆積物)の密度は、0.02g/cm3以上0.05g/cm3以下、好ましくは0.02g/cm3以上0.03g/cm3以下である。
【0062】
繊維構造体形成部80は、メッシュベルト72上の成形型に堆積したウェブWを加熱して繊維構造体WSを形成する。繊維構造体形成部80では、ウェブWにおいて混ぜ合された解繊物及び添加物の混合物の堆積物(ウェブW)に、熱を加えることにより、結合材料を溶融させることができる。溶融した結合材料により複数のセルロース繊維が結着されてもよい。
【0063】
繊維構造体形成部80は、ウェブWを加熱する加熱部84を備えている。加熱部84としては、例えば、ヒートプレス、加熱ローラー(ヒーターローラー)が用いられるが、以下は加熱ローラー(ヒーターローラー)を用いた例で説明する。加熱部84における加熱ローラーの数は、特に限定されない。図示の例では、加熱部84は、一対の加熱ローラー86を備えている。加熱部84を加熱ローラー86として構成することにより、ウェブWを連続的に搬送しながら繊維構造体WSを成形することができる。加熱ローラー86は、例えば、その回転軸が平行になるように配置される。加熱ローラー86のローラー半径は、例えば、2.0cm以上5.0cm以下、好ましくは2.5cm以上4.0cm以下、より好ましくは2.5cm以上3.5cm以下である。
【0064】
加熱ローラー86は、ウェブWに接触し、ウェブWを挟んで搬送しつつウェブWを加熱する。加熱ローラー86の回転速度は、例えば、20.0rpm以上500.0rpm以下、好ましくは30.0rpm以上350.0rpm以下、より好ましくは50.0rpm以上300.0rpm以下である。加熱ローラー86の回転速度がこの程度であれば、ウェブWの表面領域を十分にかつ精度よく加熱することができる。
【0065】
加熱ローラー86は、ウェブWを挟んで搬送し、所定の厚さの繊維構造体WSを形成する。ここで加熱ローラー86によってウェブWに印加される圧力は、0.1メガパスカル以上10.0メガパスカル以下であることが好ましく、0.5メガパスカル以上7.0メガパスカル以下がより好ましい。
【0066】
ウェブWを加熱する際の加熱ローラー86の表面温度は、結合材料に含まれる樹脂のTgや融点に応じて適宜設定されるが、例えば、60.0℃以上250.0℃以下、好ましくは70.0℃以上220.0℃以下、より好ましくは80.0℃以上200.0℃以下である。加熱ローラー86の表面温度をこの範囲にすることにより、ウェブW(堆積物)の表面を当該温度範囲に加熱することができる。
【0067】
加熱部84の一対の加熱ローラー86間のギャップは、繊維構造体WSの厚さが1.0mm以上20.0mm以下、好ましくは2.0mm以上18.0mm以下、より好ましくは3.0mm以15.0mm以下となるように調整され、かつ、繊維構造体WSの密度が0.02g/cm3以上0.50g/cm3以下、好ましくは0.03g/cm3以上0.30g/cm3以下となるように調整されることが好ましい。
【0068】
本実施形態の繊維構造体の製造装置100によって、以上のように本実施形態の繊維構造体WSを製造することができる。
【0069】
本実施形態の繊維構造体の製造装置100は、必要に応じて、切断部90を有してもよい。図示の例では、加熱部84の下流側に切断部90が設けられている。切断部90は、繊維構造体形成部80によって成形された繊維構造体WSを含む成形型を切断する。図示の例では、切断部90は、繊維構造体WSの搬送方向と交差する方向に繊維構造体WSの成形型を切断する第1切断部92と、搬送方向に平行な方向に繊維構造体WSを切断する第2切断部94と、を有している。第2切断部94は、例えば、第1切断部92を通過した繊維構造体WSを含む成形型を切断する。
【0070】
また、本実施形態の繊維構造体の製造装置100は、加湿部78を有してもよい。図示の例では、切断部90の下流側であって排出部96の上流側に設けられている。加湿部78は、繊維構造体WSに対して水や水蒸気を付与することができる。加湿部78の具体的な態様としては、例えば、水又は水溶液のミストを吹き付ける態様、水又は水溶液をスプレーする態様、水又は水溶液をインクジェットヘッドから吐出して付着させる態様等が挙げられる。
【0071】
繊維構造体の製造装置100が加湿部78を有することにより、形成されるウェブ構造体WSに湿り気をもたせることができる。これにより、セルロース繊維が湿気を帯びて柔らかくなる。そのため、繊維構造体WSを用いて容器等を立体成形する場合に、シワや破れがさらに生じにくくなる。また、繊維構造体WSに湿り気をもたせることにより、セルロース繊維間の水素結合を形成しやすくなるので、成形物の密度が高まり、例えば、強度を向上できる。
【0072】
図1の例では、加湿部78は、切断部90の下流側に設けられているが、加湿部78は加熱部84の下流側に設けられれば、上記と同様の効果を得ることができる。すなわち、加湿部78は、加熱部84の下流側であって切断部90の上流側に設けられてもよい。
【0073】
以上により、ウェブ構造体WSが成形された成形型から繊維構造体WSだけを型抜きすることにより、例えば凸形状を有する立体成形物が得られる。
【0074】
3.実施例及び比較例
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。
【0075】
3.1.成形品の作成
古紙として富士ゼロックス製コピー用紙(品名GR70)を市販の解繊機(相川鉄工株式会社 ディスクリファイナー)で解繊した。解繊された繊維と結合材として中国産シェラック樹脂粉末と、特表平5-501686に倣って製造した熱可塑でんぷんを表1の組成に従って配合して、上述の製造装置にて成型した。成形性について成形型どおりに成形品が成形できた場合は、成形可能と評価した。
【0076】
【0077】
3.2.弾性率(ヤング率)及び織曲げ試験の評価
実施例で得られた成形品(
図3、
図4)のサンプル形状をもちいて、万能試験機による弾性率(ヤング率)評価試験を行った。評価サンプルを表2に示す。
【0078】
【0079】
表1および表2に示すとおり、セルロース繊維と、該セルロース繊維を結着させる結合材料と、を含む繊維構造体であって、前記セルロース繊維が、前記繊維構造体に対して50.0質量%以上70.0質量%以下が含有され、前記結合材料が天然系成分である、繊維構造体であることにより、成形性も良好であり、かつ緩衝効果が得られる成形品が得られることが分かった。市販されている塩化ビニル製(凸状立体緩衝材)の凸部分15個分を参考例1、凸部分1個分を参考例2として示す。これらと同等以上の特性が得られることが分かった。
【0080】
また、
図2A,2B,2C,2Dは、成形型に用いられる形状の一例である。砲弾形、半球形、横楕円形、スピーカー形、円筒形、円錐形、階段円錐形等、凸部を有する立体的形状であれば、衝撃に耐えうることから任意に変えることが可能である。
【0081】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0082】
1…ホッパー、2,3,7,8…管、9…ホッパー、10…供給部、12…粗砕部、14…粗砕刃、20…解繊部、22…導入口、24…排出口、40…選別部、41…ドラム部、42…導入口、43…ハウジング部、44…排出口、45…第1ウェブ形成部、46…メッシュベルト、47,47a…張架ローラー、48…吸引部、49…回転体、49a…基部、49b…突部、50…混合部、52…添加物供給部、54…管、56…ブロアー、60…堆積部、61…ドラム部、62…導入口、63…ハウジング部、70…第2ウェブ形成部、72…メッシュベルト、74…張架ローラー、76…サクション機構、78…加湿部、80…繊維構造体形成部、84…加熱部、86…加熱ローラー、90…切断部、92…第1切断部、94…第2切断部、96…排出部、100…繊維構造体の製造装置。