(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】伸縮性導電糸、導電性構造物、及びウェアラブルデバイス
(51)【国際特許分類】
D02G 3/32 20060101AFI20241210BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20241210BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20241210BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
D02G3/32
D02G3/04
D02G3/36
A41D13/00 102
(21)【出願番号】P 2020163103
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】堀元 章弘
(72)【発明者】
【氏名】山野井 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 潤
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 基
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-209481(JP,A)
【文献】特開2014-025180(JP,A)
【文献】特開2007-173226(JP,A)
【文献】特開昭63-046230(JP,A)
【文献】特開2020-143244(JP,A)
【文献】特表2020-518730(JP,A)
【文献】特開2019-076214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
D01F 1/00- 9/04
D06M 13/00-15/715
A41D 13/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一または二本以上の糸を含む伸縮性導電糸であって、
前記糸が、前記糸の径方向の断面の一つにおいて、絶縁性エラストマー層と、前記絶縁性エラストマー層の表面に積層した導電性エラストマー層と、を有
し、
前記導電性エラストマー層が、粉末状または繊維状の導電性フィラーを含む、伸縮性導電糸。
【請求項2】
請求項1に記載の伸縮性導電糸であって、
前記糸が、前記絶縁性エラストマー層を含む絶縁性チューブ構造体、及び前記導電性エラストマー層を含む導電性チューブ構造体の少なくとも一方を有する、伸縮性導電糸。
【請求項3】
請求項2に記載の伸縮性導電糸であって、
前記糸が、
前記絶縁性エラストマー層を含む絶縁性チューブ構造体、及び前記絶縁性エラストマー層を含む中実の絶縁性芯構造体の少なくとも一方と、
前記絶縁性チューブ構造体における外表面上、その内表面上、及び前記絶縁性芯構造体における外表面上の少なくとも一以上の面を覆うように構成された、前記導電性エラストマー層を含む導電性チューブ構造体と、を有する、伸縮性導電糸。
【請求項4】
請求項2または3に記載の伸縮性導電糸であって、
前記糸の最外層に、前記絶縁性チューブ構造体及び前記導電性チューブ構造体のいずれか一方が設けられている、伸縮性導電糸。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
前記絶縁性エラストマー層が、シリコーンゴム、及びウレタンゴムからなる群から選ばれる一または二以上を含む、伸縮性導電糸。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
前記絶縁性エラストマー層が、非導電性フィラーを含む、伸縮性導電糸。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
導電性エラストマー層が、シリコーンゴム、及びウレタンゴムからなる群から選ばれる一または二以
上を含む、伸縮性導電糸。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
前記絶縁性エラストマー層が、ビニル基含有オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成され、
前記導電性エラストマー層が、
前記導電性フィラーと、ビニル基含有オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物とで構成される、伸縮性導電糸。
【請求項9】
請求項
1~8のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
前記導電性フィラーが、銀粉を含む、伸縮性導電糸。
【請求項10】
請求項
1~9のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
前記導電性フィラーの含有量は、前記導電性エラストマー層の100質量%中、70質量%以上90質量%以下である、伸縮性導電糸。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
導電性エラストマー層が、導電性ペーストからなるコーティング層で構成される、伸縮性導電糸。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における破断強度が、4MPa以上17MPa以下である、伸縮性導電糸。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における破断伸びが、200%以上1500%以下である、伸縮性導電糸。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
未伸長時の当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における電気抵抗値が、0.1Ω/cm以上50Ω/cm以下である、伸縮性導電糸。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
50%伸長時の当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における電気抵抗値が、0.1Ω/cm以上400Ω/cm以下である、伸縮性導電糸。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
100%伸長時の当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における電気抵抗値が、0.5Ω/cm以上800Ω/cm以下である、伸縮性導電糸。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸であって、
当該伸縮性導電糸について50%の伸長操作を、100回行った前後における、一本の前記糸における未伸長時の電気抵抗値の変化率が、200%以下である、伸縮性導電糸。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸を用いてなる編物または織物で構成される、導電性構造物。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか一項に記載の伸縮性導電糸、または請求項
18に記載の導電性構造物を備える、ウェアラブルデバイス。
【請求項20】
請求項19に記載のウェアラブルデバイスであって、
前記ウェアラブルデバイス中のセンサーまたは伸縮配線が、前記伸縮性導電糸または前記導電性構造物で構成される、ウェアラブルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性導電糸、導電性構造物、及びウェアラブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで導電糸について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、ステンレス鋼繊維を含む金属材料からなる導電糸が記載されている(特許文献1の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の金属製導電糸において、伸縮電気特性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、絶縁性エラストマー層の表面に導電性エラストマー層が積層した構造を有する伸縮性導電糸を用いることによって、伸縮性及び伸縮時における電気特性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、
一または二本以上の糸を含む伸縮性導電糸であって、
前記糸が、前記糸の径方向の断面の一つにおいて、絶縁性エラストマー層と、前記絶縁性エラストマー層の表面に積層した導電性エラストマー層と、を有する、伸縮性導電糸が提供される。
【0007】
また本発明によれば、
上記の伸縮性導電糸を用いてなる編物または織物で構成される、導電性構造物が提供される。
【0008】
また本発明によれば、
上記の伸縮性導電糸、または上記の導電性構造物を備える、ウェアラブルデバイスが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伸縮電気特性に優れた伸縮性導電糸、それを用いた導電性構造物、及びウェアラブルデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る伸縮性導電糸の構成を模式的に示す図である。
【
図2】(a)は
図1のA-A断面図であり、(b)~(d)は伸縮性導電糸の変形例の断面図である。
【
図3】本実施形態に係る導電性構造物の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0012】
本実施形態の伸縮性導電糸を説明する。
【0013】
本実施形態の伸縮性導電糸は、一または二本以上の糸を含み、当該糸が、糸の径方向の断面の一つにおいて、絶縁性エラストマー層と、絶縁性エラストマー層の表面に積層した導電性エラストマー層と、を有するものである。
【0014】
本実施形態によれば、伸長時や繰り返し伸長時後にも導通が維持される、伸縮電気特性に優れた伸縮性導電糸を実現できる。
【0015】
伸縮性導電糸は、例えば、そのまま線状の糸として使用してもよく、編物または織物として使用してもよい。
【0016】
伸縮性導電糸は、各種の電気機器用途に用いることができるが、例えば、ウェアラブルデバイス、スマートテキスタイル、歪みセンサー、生体センサーデバイス、伸縮配線、柔軟電極、導電布等に用いることができる。
【0017】
以下、本実施形態の伸縮性導電糸を詳述する。
【0018】
図1は、本実施形態の伸縮性導電糸100の一例を模式的に示す斜視図である。
図2(a)は、
図1(a)の伸縮性導電糸100のA-A断面図である。
【0019】
本明細書中、糸の径方向の断面とは、糸を直線状態とした部分における、糸の径方向に平行、かつ軸方向に対して直交する断面と定義する。
【0020】
図1の伸縮性導電糸100は、チューブ構造を有する糸50を有する。
【0021】
本明細書中、伸縮性を有するとは、糸の延在方向に伸長したときの伸長率が、未伸長時の長さに対して、例えば、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは100%まで伸長可能であることを意味する。伸縮性導電糸100は、糸の延在方向に伸長したとき、上記の伸長率の範囲内において、導電性エラストマー層20が断線しない状態を維持できる。
【0022】
図1の糸50は、絶縁性エラストマー層10を含む絶縁性チューブ構造体、及び導電性エラストマー層20を含む導電性チューブ構造体の両方を備える。すなわち、糸50は、絶縁性チューブ構造体の外周上に導電性チューブ構造体が積層したチューブ構造で構成される。
【0023】
この糸50は、
図2(a)に示すように、糸50の径方向の断面において、絶縁性エラストマー層10の表面に導電性エラストマー層20が積層した積層構造を少なくとも有する。
【0024】
この絶縁性エラストマー層10及び導電性エラストマー層20は、それぞれ、伸縮性を有するエラストマーで構成される。導電性エラストマー層20によって、導通を図るこができる。その上、導電性エラストマー層20が絶縁性エラストマー層10上に積層されるため、伸長時においても耐久性を向上させることが可能である。
【0025】
糸50中、絶縁性エラストマー層10と導電性エラストマー層20とが積層した状態とは、互いの層同士が面接触している状態で、化学的及び/又は物理的に結合し密着した状態であってもよい。このため、糸50は、伸長時や繰り返し伸長時においても、絶縁性エラストマー層10と導電性エラストマー層20との間に剥離などの破損が生じる恐れを抑制できる。しがたって、信頼性に優れた伸長電気特性を有する伸縮性導電糸100を実現できる。
【0026】
糸50の導電性チューブ構造体の内側には、糸50の両端を貫通する貫通孔(穴30)が、1又は2個以上設けされていてもよい。これにより、外部応力に対する糸50の伸長容易性を高めることが可能である。
【0027】
次に、伸縮性導電糸100の構造における変形例を説明する。
図2は、伸縮性導電糸100の変形例の一例を示す断面図である。
【0028】
伸縮性導電糸中の糸は、絶縁性エラストマー層を含む絶縁性チューブ構造体、及び導電性エラストマー層を含む導電性チューブ構造体の少なくとも一方を有してもよい。糸は、多層チューブ構造体で構成されてもよく、内部に、一または二以上の絶縁性チューブ構造体を有してもよく、及び/又は、一または二以上導電性チューブ構造体を有してもよい。
【0029】
図2の糸50,51,52はそれぞれ、絶縁性エラストマー層10,11,12,を含む絶縁性チューブ構造体を有する。また、
図2の糸50,51,52,53はそれぞれ、導電性エラストマー層20,21,22,23,24を含む導電性チューブ構造体を有する。2層以上の導電性チューブ構造体によって、糸の多層配線化が可能である。
【0030】
伸縮性導電糸中の糸は、糸の最外層に、絶縁性チューブ構造体及び導電性チューブ構造体のいずれか一方が設けられていてもよい。
【0031】
図2の糸50,51,53は、最外層に導電性チューブ構造体を有する。最外層に設けられた導電性チューブ構造体中の導電性エラストマー層20,21,24は、外部接続が容易な構造を実現できる。
図2の糸52は、最外層に、絶縁性チューブ構造体を有する。最外層に設けられた絶縁性チューブ構造体中の絶縁性エラストマー層12は、内側に設けられた導電性エラストマー層23を保護する保護部材としての機能を果たす。
【0032】
伸縮性導電糸中の糸は、絶縁性エラストマー層を含む絶縁性チューブ構造体、及び絶縁性エラストマー層を含む中実の絶縁性芯構造体の少なくとも一方を有してもよい。
【0033】
図2の糸50,51,52はそれぞれ、絶縁性エラストマー層10,11,12,を含む絶縁性チューブ構造体を有する。絶縁性チューブ構造体によって、外部応力に対する糸の伸長容易性を高めることが可能である。
図2の糸53は、絶縁性エラストマー層13を含む中実の絶縁性芯構造体を有する。絶縁性芯構造体によって、糸の機械的強度を高めることが可能である。
【0034】
伸縮性導電糸中の糸は、絶縁性チューブ構造体と、絶縁性チューブ構造体における外表面上、その内表面上少なくとも一以上の面を覆うように構成された、導電性エラストマー層を含む導電性チューブ構造体と、を有してもよい。また、伸縮性導電糸中の糸は、絶縁性芯構造体と、絶縁性芯構造体における外表面上を覆うように構成された、導電性エラストマー層を含む導電性チューブ構造体と、を有してもよい。
【0035】
図2の糸50は、絶縁性エラストマー層10を含む絶縁性チューブ構造体と、絶縁性チューブ構造体における外表面上の面の少なくとも一部を覆うように構成された、導電性エラストマー層20を含む導電性チューブ構造体と、を備える。
図2の糸51は、絶縁性エラストマー層11を含む絶縁性チューブ構造体と、絶縁性チューブ構造体における外表面上及び内表面上の、それぞれの面の少なくとも一部を覆うように構成された、導電性エラストマー層21,22を含む導電性チューブ構造体と、を備える。
図2の糸52は、絶縁性エラストマー層12を含む絶縁性チューブ構造体と、絶縁性チューブ構造体における内表面上の面の少なくとも一部を覆うように構成された、導電性エラストマー層23を含む導電性チューブ構造体と、を備える。
図2の糸53は、絶縁性エラストマー層13を含む中実の絶縁性芯構造体と、絶縁性芯構造体における外表面上を覆うように構成された、導電性エラストマー層24を含む導電性チューブ構造体と、を有する。
【0036】
本明細書中、絶縁性エラストマー層上に積層した導電性エラストマー層が、絶縁性エラストマー層の外表面及び又は内表面の少なくとも一方の表面を被覆する状態において、被覆するとは、表面の少なくとも一部または全面を覆う状態を意味する。
【0037】
導電性エラストマー層は、同じ層内において、チューブ構造で構成されてもよいが、これに限定されず、様々な形状を有していてもよい。導電性エラストマー層は、後述にて詳細を説明するが、導電性フィラーを用いて印刷などの塗布手段によって形成されるため、線状、波状などの各種配線パターンで形成できる。
【0038】
また、同一層内における導電性エラストマー層は、一体化した一つの部材で構成されてもよいが、互いに離間した複数の部材で構成されてもよい。複数の部材として、例えば、第一導電性エラストマー層と第二導電性エラストマー層とを有する場合、これらの間は、空隙で構成されてもよいが、絶縁性エラストマー層を構成する材料などの絶縁性材料で充填されていてもよい。これにより、同一層の導電性エラストマー層中に2以上の配線パターンを形成することが可能になる。
【0039】
糸中の導電性エラストマー層は、単層、又は2層や3層以上の多層で構成されてもよい。多層の場合、層間には絶縁性エラストマー層や他の層が形成されていてもよい。
【0040】
伸縮性導電糸は、1本の線状の糸(導電糸)で構成されてもよいが、線状の糸(導電糸)を複数本撚り合わせた撚糸で構成されてもよい。
【0041】
次に、伸縮性導電糸100を構成する材料や特性について説明する。
【0042】
絶縁性エラストマー層は、絶縁性エラストマーで構成されてもよく、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム等の熱硬化性エラストマーで構成されてもよい。この中でも、エラストマーは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムからなる群から選択される一種以上の熱硬化性エラストマーを用いてもよい。好ましくは、絶縁性エラストマー層は、シリコーンゴムで構成されてもよい。シリコーンゴムは、エラストマーの中でも、化学的に安定であり、また、機械的強度にも優れる。
【0043】
絶縁性エラストマー層は、非導電性フィラーを含んでもよい。これにより、導電性エラストマー層の機械的特性を高められる。非導電性フィラーとしては、公知の材料が使用できるが、例えば、シリカ粒子、シリコーンゴム粒子、タルク等を用いてもよい。
【0044】
導電性エラストマー層は、導電性エラストマーで構成されてもよく、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム等の熱硬化性エラストマーと導電性フィラーとを含むように構成されてもよい。この中でも、エラストマーは、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムからなる群から選択される一種以上熱硬化性エラストマーを用いてもよい。この中でも、導電性エラストマー層は、シリコーンゴムを含むように構成されてもよい。これにより、導電性エラストマー層の伸縮性及び導通性を高められる。
導電性エラストマー層は、導電性フィラーとともに非導電性フィラーを含んでもよい。これにより、伸縮耐久性を高められる。
【0045】
導電性フィラーとしては、例えば、粉末状または繊維状の、金属系フィラー、炭素系フィラー、金属酸化物フィラー、金属メッキフィラー等が挙げられる。この中でも、導電性フィラーとして、金属系フィラー、好ましくは銀粉を用いてもよい。
【0046】
絶縁性エラストマー層及び導電性エラストマー層は、同一の熱硬化性エラストマーを含むように構成されてもよい。
【0047】
本明細書中、同一の熱硬化性エラストマーを含むとは、上記に例示される熱硬化性エラストマーの種類のうち、少なくとも一つ以上の同じ種類のエラストマーを含むことを意味する。
【0048】
以下、シリコーンゴム系硬化性組成物における成分について詳細を説明する。
【0049】
絶縁性エラストマー層及び導電性エラストマー層は、同一のシリコーンゴムを含むように構成されてもよい。
【0050】
本明細書中、同一のシリコーンゴムを含むとは、シリコーンゴム系硬化性組成物が、少なくとも、同種のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンを含むことを意味し、さらに、同種の架橋剤、同種の非導電性フィラー、同種のシランカップリング剤、及び同種の触媒からなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。
【0051】
絶縁性エラストマーは、ビニル基含有オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成されてもよい。
また導電性エラストマーは、導電性フィラーと、ビニル基含有オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物とで構成されてもよい。
【0052】
同種のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサンとは、少なくとも官能基が同じビニル基を含み、直鎖状を有していればよく、分子中のビニル基量や分子量分布、あるいはその添加量が異なっていてもよい。
【0053】
同種の架橋剤とは、少なくとも直鎖構造や分岐構造などの共通の構造を有していればよく、分子中の分子量分布や異なる官能基が含まれていてもよく、その添加量が異なっていてもよい。
【0054】
同種の非導電性フィラーとは、少なくとも共通の構成材料を有していればよく、粒子径、比表面積、表面処理剤、又はその添加量が異なっていてもよい。
【0055】
同種のシランカップリング剤とは、少なくとも共通の官能基を有していればよく、分子中の他の官能基や添加量が異なっていてもよい。
【0056】
同種の触媒とは、少なくとも共通の構成材料を有していればよく、触媒中に異なる組成が含まれていてもよく、その添加量が異なっていてもよい。
【0057】
同一のシリコーンゴムを構成するシリコーンゴム系硬化性組成物には、さらに、異なる種類の、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン、架橋剤、非導電性フィラー、シランカップリング剤、及び触媒からなる群から選ばれる一又は二以上を含んでもよい。
【0058】
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を含むことができる。ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物の主成分となる重合物である。
【0059】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、直鎖構造を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含むことができる。
【0060】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基が硬化時の架橋点となる。
【0061】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、例えば、分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるのが好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。
【0062】
なお、本明細書中において、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0063】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1000~10000程度、より好ましくは2000~5000程度の範囲内である。なお、重合度は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0064】
本明細書中、「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0065】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9~1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0066】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0067】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるが好ましい。
【0068】
【0069】
式(1)中、R1は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0070】
また、R2は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0071】
また、R3は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0072】
さらに、式(1)中のR1およびR2の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、R3の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0073】
なお、式(1)中、複数のR1は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、R2、およびR3についても同様である。
【0074】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0~2000の整数、nは1000~10000の整数である。mは、好ましくは0~1000であり、nは、好ましくは2000~5000である。
【0075】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1-1)で表されるものが挙げられる。
【0076】
【0077】
式(1-1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0078】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.4モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を含んでもよい。第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)のビニル基量は、0.1モル%以下でもよい。
【0079】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)とビニル基含有量が0.5~15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを含有してもよい。
【0080】
シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせることで、ビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂強度を高めることができる。
【0081】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、例えば、上記式(1-1)において、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、分子内に2個以上有し、かつ0.4モル%以下を含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、0.5~15モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを用いるのが好ましい。
【0082】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)は、ビニル基含有量が0.01~0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)は、ビニル基含有量が、0.8~12モル%であるのが好ましい。
【0083】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(A1-1):(A1-2)が50:50~95:5であるのが好ましく、80:20~90:10であるのがより好ましい。
【0084】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)および(A1-2)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、分岐構造を有するビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含んでもよい。
【0086】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を含むことができる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0087】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0088】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0089】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0090】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0091】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0092】
【0093】
式(2)中、R4は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0094】
また、R5は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0095】
なお、式(2)中、複数のR4は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。R5についても同様である。ただし、複数のR4およびR5のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0096】
また、R6は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のR6は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0097】
なお、式(2)中のR4,R5,R6の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0098】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2~150整数、nは2~150の整数である。好ましくは、mは2~100の整数、nは2~100の整数である。
【0099】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0101】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の比重は、0.9~0.95の範囲である。
【0102】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0103】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0104】
平均組成式(c)
(Ha(R7)3-aSiO1/2)m(SiO4/2)n
(式(c)において、R7は一価の有機基、aは1~3の範囲の整数、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である)
【0105】
式(c)において、R7は一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0106】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1~3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0107】
また、式(c)において、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。
【0108】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では1.8~2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では0.8~1.7の範囲となる。
【0109】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0110】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0111】
【0112】
式(3)中、R7は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。R7の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0113】
なお、式(3)中、複数のR7は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0114】
また、式(3)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0115】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0116】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の合計のヒドリド基量が、0.5~5モルとなる量が好ましく、1~3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。
【0117】
<<シリカ粒子(C)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、必要に応じ、非導電性フィラーとして、シリカ粒子(C)を含むことができる。
【0118】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0119】
シリカ粒子(C)は、例えば、BET法による比表面積が例えば50~400m2/gであるのが好ましく、100~400m2/gであるのがより好ましい。また、シリカ粒子(C)の平均一次粒径は、例えば1~100nmであるのが好ましく、5~20nm程度であるのがより好ましい。
【0120】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上をさせることができる。
【0121】
<<シランカップリング剤(D)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シランカップリング剤(D)を含むことができる。
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有することができる。加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0122】
また、このシランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)し、その結果、シリコーンゴム系硬化性組成物中のシリカ粒子の分散性が向上すると推測される。これにより、シリカ粒子とゴムマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子の補強効果が増大する。さらに、ゴムのマトリックス変形の際、マトリックス内でのシリカ粒子の滑り性が向上すると推測される。そして、シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂強度など)が向上する。
【0123】
さらに、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化の際、すなわち、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が有するビニル基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とがヒドロシリル化反応して、これらによるネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とのヒドロシリル化反応に関与するため、ネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの低硬度化および高モジュラス化を図ることができる。
【0124】
シランカップリング剤(D)としては、疎水性基を有するシランカップリング剤およびビニル基を有するシランカップリング剤を併用することができる。
【0125】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0126】
Yn-Si-(X)4-n・・・(4)
上記式(4)中、nは1~3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。Xは、加水分解性基を表わす。
【0127】
疎水性基は、炭素数1~6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0128】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0129】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(4)中の(Yn-Si-)の構造を2つ有するものとなる。
【0130】
上記式(4)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例は、例えば、官能基として疎水性基を有するものとして、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランのようなアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランのようなクロロシラン;ヘキサメチルジシラザンが挙げられ、官能基としてビニル基を有するものとして、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシランのようなクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられるが、中でも、上記記載を考慮すると、特に、疎水性基を有するものとしてはヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンであるのが好ましい。
【0131】
本実施形態において、シランカップリング剤(D)の含有量の下限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、シランカップリング剤(D)の含有量上限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
シランカップリング剤(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、シリコーンゴムが基板との適度な密着性を持ち、また、シリカ粒子(C)を用いる場合においては、シリコーンゴム全体としての機械的強度の向上に資することができる。また、シランカップリング剤(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、シリコーンゴムが適度な機械特性を持つことができる。
【0132】
<<白金または白金化合物(E)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、白金または白金化合物(E)を含むことができる。
白金または白金化合物(E)は、硬化の際の触媒として作用する触媒成分である。白金または白金化合物(E)の添加量は触媒量である。
【0133】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0134】
なお、白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0135】
<<水(F)>>
また、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)~(E)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0136】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。そのため、シリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とを、より確実に互いに連結したものとすることができ、全体として均一な特性を発揮することができる。
【0137】
さらに、水(F)を含有する場合、その含有量は、適宜設定することができるが、具体的には、シランカップリング剤(D)100重量部に対して、例えば、10~100重量部の範囲であるのが好ましく、30~70重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。
【0138】
(その他の成分)
さらに、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)~(F)成分以外に、他の成分をさらに含むことができる。この他の成分としては、例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等のシリカ粒子(C)以外の無機充填材、反応阻害剤、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等の添加剤が挙げられる。
【0139】
なお、シリコーンゴム系硬化性組成物において、各成分の含有割合は特に限定されないが、例えば、以下のように設定される。
【0140】
本実施形態において、シリカ粒子(C)の含有量の上限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対し、例えば、60重量部以下でもよく、好ましくは50重量部以下でもよく、さらに好ましくは40重量部以下でもよい。これにより、硬さや引張強等の機械的強度のバランスを図ることができる。また、シリカ粒子(C)の含有量の下限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対し、特に限定されないが、例えば、10重量部以上でもよい。
【0141】
シランカップリング剤(D)は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)100重量部に対し、例えば、シランカップリング剤(D)が5重量部以上100重量部以下の割合で含有するのが好ましく、5重量部以上40重量部以下の割合で含有するのがより好ましい。これにより、シリカ粒子(C)のシリコーンゴム系硬化性組成物中における分散性を確実に向上させることができる。
【0142】
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の含有量は、具体的にビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)及びシリカ粒子(C)及びシランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、例えば、0.5重量部以上20重量部以下の割合で含有することが好ましく、0.8重量部以上15重量部以下の割合で含有するのがより好ましい。(B)の含有量が前記範囲内であることで、より効果的な硬化反応ができる可能性がある。
【0143】
白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量に対して、本成分中の白金族金属が重量単位で0.01~1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1~500ppmとなる量である。白金または白金化合物(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、得られるシリコーンゴム組成物を十分硬化させることができる。白金または白金化合物(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、得られるシリコーンゴム組成物の硬化速度を向上させることができる。
【0144】
さらに、水(F)を含有する場合、その含有量は、適宜設定することができるが、具体的には、シランカップリング剤(D)100重量部に対して、例えば、10~100重量部の範囲であるのが好ましく、30~70重量部の範囲であるのがより好ましい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。
【0145】
<シリコーンゴムの製造方法>
次に、本実施形態のシリコーンゴムの製造方法について説明する。
本実施形態のシリコーンゴムの製造方法としては、シリコーンゴム系硬化性組成物を調製し、このシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを得ることができる。
以下、詳述する。
【0146】
まず、シリコーンゴム系硬化性組成物の各成分を、任意の混練装置により、均一に混合してシリコーンゴム系硬化性組成物を調製する。
【0147】
[1]たとえば、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)と、シリカ粒子(C)と、シランカップリング剤(D)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置により、混練することで、これら各成分(A)、(C)、(D)を含有する混練物を得る。
【0148】
なお、この混練物は、予めビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とシランカップリング剤(D)とを混練し、その後、シリカ粒子(C)を混練(混合)して得るのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)中におけるシリカ粒子(C)の分散性がより向上する。
【0149】
また、この混練物を得る際には、水(F)を必要に応じて、各成分(A)、(C)、および(D)の混練物に添加するようにしてもよい。これにより、シランカップリング剤(D)とシリカ粒子(C)との反応をより確実に進行させることができる。
【0150】
さらに、各成分(A)、(C)、(D)の混練は、第1温度で加熱する第1ステップと、第2温度で加熱する第2ステップとを経るようにするのが好ましい。これにより、第1ステップにおいて、シリカ粒子(C)の表面をカップリング剤(D)で表面処理することができるとともに、第2ステップにおいて、シリカ粒子(C)とカップリング剤(D)との反応で生成した副生成物を混練物中から確実に除去することができる。その後、必要に応じて、得られた混練物に対して、成分(A)を添加し、更に混練してもよい。これにより、混練物の成分のなじみを向上させることができる。
【0151】
第1温度は、例えば、40~120℃程度であるのが好ましく、例えば、60~90℃程度であるのがより好ましい。第2温度は、例えば、130~210℃程度であるのが好ましく、例えば、160~180℃程度であるのがより好ましい。
【0152】
また、第1ステップにおける雰囲気は、窒素雰囲気下のような不活性雰囲気下であるのが好ましく、第2ステップにおける雰囲気は、減圧雰囲気下であるのが好ましい。
【0153】
さらに、第1ステップの時間は、例えば、0.3~1.5時間程度であるのが好ましく、0.5~1.2時間程度であるのがより好ましい。第2ステップの時間は、例えば、0.7~3.0時間程度であるのが好ましく、1.0~2.0時間程度であるのがより好ましい。
【0154】
第1ステップおよび第2ステップを、上記のような条件とすることで、前記効果をより顕著に得ることができる。
【0155】
[2]次に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)と、白金または白金化合物(E)とを所定量秤量し、その後、任意の混練装置を用いて、上記工程[1]で調製した混練物に、各成分(B)、(E)を混練することで、シリコーンゴム系硬化性組成物を得る。得られたシリコーンゴム系硬化性組成物は溶剤を含むペーストであってもよい。
【0156】
なお、この各成分(B)、(E)の混練の際には、予め上記工程[1]で調製した混練物とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)とを、上記工程[1]で調製した混練物と白金または白金化合物(E)とを混練し、その後、それぞれの混練物を混練するのが好ましい。これにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応を進行させることなく、各成分(A)~(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中に確実に分散させることができる。
【0157】
各成分(B)、(E)を混練する際の温度は、ロール設定温度として、例えば、10~70℃程度であるのが好ましく、25~30℃程度であるのがより好ましい。
【0158】
さらに、混練する時間は、例えば、5分~1時間程度であるのが好ましく、10~40分程度であるのがより好ましい。
【0159】
上記工程[1]および上記工程[2]において、温度を上記範囲内とすることにより、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応の進行をより的確に防止または抑制することができる。また、上記工程[1]および上記工程[2]において、混練時間を上記範囲内とすることにより、各成分(A)~(E)をシリコーンゴム系硬化性組成物中により確実に分散させることができる。
【0160】
なお、各工程[1]、[2]において使用される混練装置としては、特に限定されないが、例えば、ニーダー、2本ロール、バンバリーミキサー(連続ニーダー)、加圧ニーダー等を用いることができる。
【0161】
また、本工程[2]において、混練物中に1-エチニルシクロヘキサノールのような反応抑制剤を添加するようにしてもよい。これにより、混練物の温度が比較的高い温度に設定されたとしても、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)とオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)との反応の進行をより的確に防止または抑制することができる。
【0162】
[3]次に、シリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることによりシリコーンゴムを形成する。
【0163】
本実施形態において、シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化工程は、例えば、100~250℃で1~30分間加熱(1次硬化)した後、200℃で1~4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
【0164】
以上のような工程を経ることで、シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化物からなるシリコーンゴムが得られる。
【0165】
なお、[3]次に、工程[2]で得られたシリコーンゴム系硬化性組成物を、溶剤に溶解させることにより、絶縁性ペーストを得ることができる。
また、[3]次に、工程[2]で得られたシリコーンゴム系硬化性組成物を、溶剤に溶解させ、導電性フィラーを加えることで導電性ペーストを得ることができる。
【0166】
(導電性フィラー)
導電性フィラーとしては、公知の導電材料を用いてもよいが、金属粉(G)を用いてもよい。。
金属粉(G)を構成する金属は特に限定はされないが、例えば、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、或いはこれらを合金化した金属粉のうち少なくとも一種類、あるいは、これらのうちの二種以上を含むことができる。
これらのうち、金属粉(G)としては、導電性の高さや入手容易性の高さから、銀または銅を含むこと、すなわち、銀粉または銅粉を含むことが好ましい。
なお、これらの金属粉(G)は他種金属でコートしたものも使用できる。
【0167】
本実施形態において、金属粉(G)の形状には制限がないが、樹枝状、球状、リン片状等の従来から用いられているものが使用できる。この中でも、リン片状の金属粉(G)を用いてもよい。
【0168】
また、金属粉(G)の粒径も制限されないが、たとえば平均粒径D50で0.001μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上であり、さらに好ましくは0.1μm以上である。金属粉(G)の粒径は、たとえば平均粒径D50で1,000μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。
平均粒径D50をこのような範囲に設定することで、シリコーンゴムとして適度な導電性を発揮することができる。
なお、金属粉(G)の粒径は、たとえば、導電性ペースト、あるいは導電性ペーストを用いて成形したシリコーンゴムについて透過型電子顕微鏡等で観察の上、画像解析を行い、任意に選んだ金属粉200個の平均値として定義することができる。
【0169】
導電性ペースト中における導電性フィラーの含有量は、導電性ペースト100質量%中、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、導電性ペースト中における導電性フィラーの含有量は、導電性ペースト100質量%中、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることがさらに好ましい。
導電性フィラーの含有量を上記下限値以上とすることにより、シリコーンゴムが適度な導電特性を持つことができる。また、導電性フィラーの含有量を上記上限値以下とすることにより、シリコーンゴムが適度な柔軟性を持つことができる。
【0170】
導電性ペースト中におけるシリカ粒子(C)の含有量の下限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%中、例えば、1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上とすることができる。これにより、シリコーンゴムの機械的強度を向上させることができる。一方で、上記導電性ペースト中における上記シリカ粒子(C)の含有量の上限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%中、例えば、20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。これにより、シリコーンゴムにおける伸縮電気特性と機械的強度のバランスを図ることができる。
【0171】
導電性ペースト/絶縁性ペースト中におけるシリコーンゴム系硬化性組成物の含有量は、導電性ペースト/絶縁性ペースト100質量%中、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、導電性ペースト/絶縁性ペースト中におけるシリコーンゴム系硬化性組成物の含有量は、導電性ペースト/絶縁性ペースト100質量%中、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
シリコーンゴム系硬化性組成物の含有量を上記下限値以上とすることにより、シリコーンゴムが適度な柔軟性を持つことができる。また、シリコーンゴム系硬化性組成物の含有量を上記上限値以下とすることにより、シリコーンゴムの機械的強度の向上を図ることができる。
【0172】
(溶剤)
導電性ペーストや絶縁性ペーストは、溶剤を含む。
溶剤としては、公知の各種溶剤を用いることができるが、例えば、高沸点溶剤を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0173】
上記高沸点溶剤の沸点の下限値は、例えば、100℃以上であり、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは150℃以上である。これにより、スクリーン印刷などの印刷安定性を向上させることができる。一方で、上記高沸点溶剤の沸点の上限値は、特に限定されないが、例えば、300℃以下でもよく、290℃以下でもよく、280℃以下でもよい。これにより、配線形成時においての過度の熱履歴を抑制できるので、下地へのダメージや、導電性ペーストで形成された配線の形状を良好に維持することができる。
【0174】
また、溶剤としては、シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の溶解性や沸点の観点から適切に選択できるが、例えば、炭素数5以上20以下の脂肪族炭化水素、好ましくは炭素数8以上18以下の脂肪族炭化水素、より好ましくは炭素数10以上15以下の脂肪族炭化水素を含むことができる。
【0175】
また、溶剤の一例としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、トリフルオロメチルベンゼン、ベンゾトリフルオリドなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロペンチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンなどのハロアルカン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ジエチルカーボネートなどのエステル類などを例示することができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで用いられる溶媒は、上記の導電性ペースト中の組成成分を均一に溶解ないし分散させることのできる溶媒の中から適宜選択すればよい。
【0176】
上記溶剤が、ハンセン溶解度パラメータの極性項(δp)の上限値が、例えば、10MPa1/2以下であり、好ましくは7MPa1/2以下であり、より好ましくは5.5MPa1/2以下である第1溶剤を含むことができる。これにより、ペースト中においてシリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の分散性や溶解性を良好なものとすることができる。この第1溶剤の上記極性項(δp)の下限値は、特に限定されないが、例えば、0Pa1/2以上でもよい。
【0177】
上記第1溶剤におけるハンセン溶解度パラメータの水素結合項(δh)の上限値が、例えば、20MPa1/2以下であり、好ましくは10MPa1/2以下であり、より好ましくは7MPa1/2以下である。これにより、ペースト中において、シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の分散性や溶解性を良好なものとすることができる。この第1溶剤の上記水素結合項(δh)の下限値は、特に限定されないが、例えば、0Pa1/2以上でもよい。
【0178】
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)は、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかという溶解性を表す指標である。HSPは、溶解性を3次元のベクトルで表す。この3次元ベクトルは、代表的には、分散項(δd)、極性項(δp)、水素結合項(δh)で表すことができる。そしてベクトルが似ているもの同士は、溶解性が高いと判断できる。ベクトルの類似度をハンセン溶解度パラメータの距離(HSP距離)で判断することが可能である。
【0179】
本明細書で用いている、ハンセン溶解度パラメーター(HSP値)は、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)というソフトを用いて算出することができる。ここで、ハンセンとアボットが開発したコンピューターソフトウエアHSPiPには、HSP距離を計算する機能と様々な樹脂と溶剤もしくは非溶剤のハンセンパラメーターを記載したデータベースが含まれている。
各樹脂の純溶剤および良溶剤と貧溶剤の混合溶剤に対する溶解性を調べ、HSPiPソフトにその結果を入力し、D:分散項、P:極性項、H:水素結合項、R0:溶解球半径を算出する。
【0180】
本実施形態の溶剤としては、例えば、エラストマーやエラストマーを構成する構成単位と溶剤との、HSP距離、極性項や水素結合項の差分が小さいもの選択することができる。
【0181】
室温25℃においてせん断速度20〔1/s〕で測定した時の導電性ペースト及び/又は絶縁性ペーストの粘度の下限値は、例えば、1Pa・s以上であり、好ましくは5Pa・s以上であり、より好ましくは10Pa・s以上である。これにより、成膜性を向上させることができる。また、厚膜形成時においても形状保持性を高めることができる。一方で、室温25℃における導電性ペースト及び/又は絶縁性ペーストの粘度の上限値は、例えば、100Pa・s以下であり、好ましくは90Pa・s以下であり、より好ましくは80Pa・s以下である。これにより、ペーストにおける印刷性を向上させることができる。
【0182】
室温25℃において、せん断速度1〔1/s〕で測定した時の粘度をη1とし、せん断速度5〔1/s〕で測定した時の粘度をη5とし、チキソ指数を粘度比(η1/η5)とする。
このとき、導電性ペースト及び/又は絶縁性ペーストのチキソ指数の下限値は、例えば、1.0以上であり、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.2以上である。これにより、印刷法で得られた配線の形状を安定的に保持することができる。一方で、導電性ペースト及び/又は絶縁性ペーストのチキソ指数の上限値は、例えば、3.0以下であり、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは2.0以下である。これにより、ペーストの印刷容易性を向上させることができる。
【0183】
本実施形態において、上記のシリコーンゴム系硬化性組成物を硬化させることで、絶縁性エラストマーが得られる。
また、上記のシリコーンゴム系硬化性組成物を用いて、押出成形や圧縮成形などの各種の成形方法により、チューブ構造や中実芯構造の絶縁性エラストマーが得られる。
また、絶縁性ペーストを用いて、印刷、スプレー、ディップ等の各種の塗布手段を用いて、塗布膜を形成し、これを乾燥させることで、絶縁性エラストマーが得られる。
絶縁性ペーストと同様に、導電性ペーストを用いて、印刷、スプレー、ディップ等の各種の塗布手段を用いて、塗布膜を形成し、これを乾燥させることで、導電性エラストマーが得られる。
これらの絶縁性エラストマーや導電性エラストマーを用いて、絶縁性エラストマー層や導電性エラストマー層を形成することができる。
【0184】
伸縮性導電糸100の製造工程の一例としては、例えば、シリコーンゴム系硬化性組成物を用い、押出機を用いてチューブ状に押出成形し、絶縁性エラストマー層10を含む絶縁性チューブ構造体を得る。得られた絶縁性チューブ構造体の外表面上に、導電性ペーストを塗布し、乾燥させることで、絶縁性チューブ構造体の外表面上に、導電性エラストマー層20を含む導電性チューブ構造体が積層した糸50を形成できる。
また、伸縮性導電糸100の製造工程の一例としては、押出成形によって、絶縁性エラストマー層12を含む絶縁性チューブ構造体を得、得られた絶縁性チューブ構造体の内孔に導電性ペーストを塗布し、乾燥させることで、絶縁性チューブ構造体の内表面上に、導電性エラストマー層23を含む導電性チューブ構造体が積層した糸52を形成できる。
【0185】
このように、伸縮性導電糸中の導電性エラストマー層は、導電性ペーストからなるコーティング層(導電性シリコーンゴム)で構成されてもよい。導電性エラストマー層のパターン形状を自在に選択可能になる。また、絶縁性エラストマー層が上記のシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成される場合、導電ペーストで構成されたコーティング層と絶縁性エラストマー層との密着性を高めることができる。
【0186】
糸中の導電性フィラーの含有量の下限は、導電性エラストマー層の100質量%中、例えば、70質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。これにより、伸縮性導電糸の伸縮電気特性を高められる。一方、糸中の導電性フィラーの含有量の上限は、導電性エラストマー層の100質量%中、例えば、90質量%以下、好ましくは88質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。これにより、伸縮性導電糸の伸縮性などのゴム特性の低下を抑制できる。
【0187】
伸縮性導電糸中の一本の糸における破断強度の下限は、例えば、4MPa以上、好ましくは5MPa以上、より好ましくは15MPa以上である。一方、伸縮性導電糸中の一本の糸における破断強度の上限は、例えば、17MPa以下、好ましくは15MPa以下、より好ましくは13MPa以下である。
【0188】
伸縮性導電糸中の一本の糸における破断伸びの下限は、例えば、200%以上、好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上である。一方、伸縮性導電糸中の一本の糸における破断伸びの上限は、例えば、1500%以下、好ましくは1400%以下、より好ましくは1300%以下である。
【0189】
未伸長時の伸縮性導電糸中の一本の糸における電気抵抗値R0は、例えば、0.1Ω/cm~50Ω/cm、好ましくは0.3Ω/cm~35Ω/cm、より好ましくは0.5Ω/cm~20Ω/cmである。
電気抵抗値R0は、下記式から算出される。
R0(Ω/cm)=未伸長時の糸の抵抗値(Ω)/未伸長時の糸の長さ(cm)
【0190】
50%伸長時の伸縮性導電糸中の一本の糸における電気抵抗値R50は、例えば、0.1Ω/cm~400Ω/cm、好ましくは0.3Ω/cm~200Ω/cm、より好ましくは0.5Ω/cm~100Ω/cmである。
電気抵抗値R50は、下記式から算出される。
R50(Ω/cm)=50%伸長時の糸の抵抗値(Ω)/50%伸長時の糸の長さ(cm)
【0191】
100%伸長時の伸縮性導電糸中の一本の糸における電気抵抗値R100は、0.5Ω/cm~800Ω/cm、好ましくは1Ω/cm~450Ω/cm、より好ましくは1.5~250Ω/cmである。
電気抵抗値R100は、下記式から算出される。
R100(Ω/cm)=100%伸長時の糸の抵抗値(Ω)/100%伸長時の糸の長さ(cm)
【0192】
伸縮性導電糸について50%の伸縮操作を、100回行った前後における、一本の糸における未伸長時の電気抵抗値の変化率は、例えば、200%以下、好ましくは180%以下、より好ましくは150%以下である。
電気抵抗値の変化率は、未伸長時における糸の抵抗値をR0、100回伸縮操作した後における糸の未伸長時の抵抗値をR0'とした時の、(R0'-R0)/R0×100と定義とする。
【0193】
伸縮性導電糸に含まれる絶縁性エラストマー層及び導電性エラストマー層の少なくとも一方、好ましくは両者が、次のような特性を有するエラストマーで構成されてもよい。
【0194】
エラストマーの引裂強度の下限は、例えば、25N/mm以上、好ましくは28N/mm以上、より好ましくは30N/mm以上、さらに好ましくは33N/mm以上、一層好ましくは35N/mm以上である。これにより、エラストマーの繰り返し使用時における耐久性を向上できる。また、エラストマーの機械的強度を向上できる。
一方、エラストマーの引裂強度の上限は、特に限定されないが、例えば、80N/mm以下としてもよく、70N/mm以下としてもよい。これにより、エラストマーの諸特性のバランスをとることができる。
【0195】
エラストマーの引張強度の下限は、例えば、5.0MPa以上であり、好ましくは10.0MPa以上であり、より好ましくは12.0MPa以上である。これにより、エラストマーの機械的強度を向上させることができる。また、繰り返しの変形に耐えられる耐久性に優れたエラストマーを実現できる。
一方、エラストマーの引張強度の上限は、特に限定されないが、例えば、25MPa以下としてもよく、20MPa以下としてもよい。これにより、エラストマーの諸特性のバランスをとることができる。
【0196】
エラストマーのデュロメータ硬さAの上限は、特に限定されないが、例えば、80以下でもよく、好ましくは75以下でもよく、より好ましくは70以下でもよい。これにより、シリコーンゴムの硬化物性のバランスを図ることができる。これにより、エラストマーにおいて、屈曲や伸張などの変形が容易となる変形容易性を高められる。
一方、エラストマーのデュロメータ硬さAの下限は、特に限定されないが、例えば、20以上、好ましくは25以上、より好ましくは30以上である。これにより、エラストマーの機械的強度を高められる。
【0197】
本実施形態において、伸縮性導電糸中の糸(導電糸)、糸を構成するエラストマーの特性を測定する方法として、例えば、以下の方法を採用できる。導電糸の特性の測定には、試験片として、導電糸をそのまま使用してもよい。
【0198】
(引裂強度の測定条件)
エラストマーを用いてクレセント形試験片を作製し、得られたクレセント形試験片について、25℃、JIS K6252(2001)に準拠して、引裂強度を測定する。
【0199】
(引張強度の測定条件)
エラストマーを用いてダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片について、25℃、JIS K6251(2004)に準拠して、引張強度を測定する。
【0200】
(破断伸びの測定条件)
エラストマーを用いてダンベル状3号形試験片を作製し、得られたダンベル状3号形試験片について、25℃、JIS K6251(2004)に準拠して、破断伸びを測定する。
【0201】
(デュロメータ硬さAの測定手順)
エラストマーを用いて、シート状試験片を作製し、JIS K6253(1997)に準拠して、25℃における、得られたシート状試験片のデュロメータ硬さAを測定する。
【0202】
未伸長時の導電性エラストマーの電気抵抗値R0は、例えば、0.1Ω/cm~50Ω/cm、好ましくは0.3Ω/cm~35Ω/cm、より好ましくは0.5Ω/cm~20Ω/cmである。
50%伸長時の導電性エラストマーの電気抵抗値R50は、例えば、0.1Ω/cm~400Ω/cm、好ましくは0.3Ω/cm~200Ω/cm、より好ましくは0.5Ω/cm~100Ω/cmである。
100%伸長時の導電性エラストマーの電気抵抗値R100は、0.5Ω/cm~800Ω/cm、好ましくは1Ω/cm~450Ω/cm、より好ましくは1.5~250Ω/cmである。
【0203】
図3は、本実施形態の導電性構造物200の構造の一例を模式的に示す図である。
本実施形態の導電性構造物200は、伸縮性導電糸100を用いてなる編物または織物で構成される。
【0204】
本実施形態のウェアラブルデバイスは、上記の伸縮性導電糸、または導電性構造物を備える。
【0205】
ウェアラブルデバイスが備えるセンサーまたは伸縮配線が、上記の伸縮性導電糸または導電性構造物で構成されてもよい。
【0206】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 一または二本以上の糸を含む伸縮性導電糸であって、
前記糸が、前記糸の径方向の断面の一つにおいて、絶縁性エラストマー層と、前記絶縁性エラストマー層の表面に積層した導電性エラストマー層と、を有する、伸縮性導電糸。
2. 1.に記載の伸縮性導電糸であって、
前記糸が、前記絶縁性エラストマー層を含む絶縁性チューブ構造体、及び前記導電性エラストマー層を含む導電性チューブ構造体の少なくとも一方を有する、伸縮性導電糸。
3. 2.に記載の伸縮性導電糸であって、
前記糸が、
前記絶縁性エラストマー層を含む絶縁性チューブ構造体、及び前記絶縁性エラストマー層を含む中実の絶縁性芯構造体の少なくとも一方と、
前記絶縁性チューブ構造体における外表面上、その内表面上、及び前記絶縁性芯構造体における外表面上の少なくとも一以上の面を覆うように構成された、前記導電性エラストマー層を含む導電性チューブ構造体と、を有する、伸縮性導電糸。
4. 2.または3.に記載の伸縮性導電糸であって、
前記糸の最外層に、前記絶縁性チューブ構造体及び前記導電性チューブ構造体のいずれか一方が設けられている、伸縮性導電糸。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
前記絶縁性エラストマー層が、シリコーンゴム、及びウレタンゴムからなる群から選ばれる一または二以上を含む、伸縮性導電糸。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
前記絶縁性エラストマー層が、非導電性フィラーを含む、伸縮性導電糸。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
導電性エラストマー層が、シリコーンゴム、及びウレタンゴムからなる群から選ばれる一または二以上と、導電性フィラーと、を含む、伸縮性導電糸。
8. 1.~4.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
前記絶縁性エラストマー層が、ビニル基含有オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成され、
前記導電性エラストマー層が、導電性フィラーと、ビニル基含有オルガノポリシロキサンを含むシリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物とで構成される、伸縮性導電糸。
9. 7.または8.に記載の伸縮性導電糸であって、
前記導電性フィラーが、銀粉を含む、伸縮性導電糸。
10. 7.~9.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
前記導電性フィラーの含有量は、前記導電性エラストマー層の100質量%中、70質量%以上90質量%以下である、伸縮性導電糸。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
導電性エラストマー層が、導電性ペーストからなるコーティング層で構成される、伸縮性導電糸。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における破断強度が、4MPa以上17MPa以下である、伸縮性導電糸。
13. 1.~12.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における破断伸びが、200%以上1500%以下である、伸縮性導電糸。
14. 1.~13.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
未伸長時の当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における電気抵抗値が、0.1Ω/cm以上50Ω/cm以下である、伸縮性導電糸。
15. 1.~14.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
50%伸長時の当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における電気抵抗値が、0.1Ω/cm以上400Ω/cm以下である、伸縮性導電糸。
16. 1.~15.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
100%伸長時の当該伸縮性導電糸中の一本の前記糸における電気抵抗値が、0.5Ω/cm以上800Ω/cm以下である、伸縮性導電糸。
17. 1.~16.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸であって、
当該伸縮性導電糸について50%の伸長操作を、100回行った前後における、一本の前記糸における未伸長時の電気抵抗値の変化率が、200%以下である、伸縮性導電糸。
18. 1.~17.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸を用いてなる編物または織物で構成される、導電性構造物。
19. 1.~17.のいずれか一つに記載の伸縮性導電糸、または18.に記載の導電性構造物を備える、ウェアラブルデバイス。
20. 19.に記載のウェアラブルデバイスであって、
前記ウェアラブルデバイス中のセンサーまたは伸縮配線が、前記伸縮性導電糸または前記導電性構造物で構成される、ウェアラブルデバイス。
【実施例】
【0207】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0208】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A))
(A1-1):第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン:下記の合成スキーム1により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(上記式(1-1)で表わされる構造)
(A1-2):第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン:下記の合成スキーム2により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(上記式(1-1)で表わされる構造でR1およびR2がビニル基である構造)
【0209】
(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B))
(B-1):オルガノハイドロジェンポリシロキサン:モメンティブ社製、「TC-25D」
【0210】
(シリカ粒子(C))
(C):シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m2/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」
【0211】
(シランカップリング剤(D))
(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelest社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」
(D-2)ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelest社製、「1,3-DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」
【0212】
(白金または白金化合物(E))
(E-1):白金化合物 (モメンティブ社製、商品名「TC―25A」)
【0213】
(水(F))
(F):純水
【0214】
(金属粉(G))
(G1):銀粉、徳力化学研究所社製、商品名「TC-101」、メジアン径d50:8.0μm、アスペクト比16.4、平均長径4.6μm
【0215】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合成)
[合成スキーム1:第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)の合成]
下記式(5)にしたがって、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を合成した。
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、カリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を得た(Mn=2,2×105、Mw=4,8×105)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%であった。
【0216】
【0217】
[合成スキーム2:第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)の合成]
上記(A1-1)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)に加えて2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.86g(2.5mmol)を用いたこと以外は、(A1-1)の合成工程と同様にすることで、下記式(6)のように、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)を合成した。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.92モル%であった。
【0218】
【0219】
(シリコーンゴム系硬化性組成物の調製)
以下の手順に従って、表1の実施例1~8、及び(ア)のシリコーンゴム系硬化性組成物を調整した。
まず、下記の表1に示す割合で、90%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シランカップリング剤(D)および水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物にシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60~90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160~180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り10%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、下記の表2に示す割合で、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)、白金または白金化合物(E)を加えて、ロールで混練し、各シリコーンゴム系硬化性組成物を得た。
【0220】
(導電性ペーストの調製)
得られた13.7重量部の(ア)のシリコーンゴム系硬化性組成物を、31.8重量部のテトラデカン(溶剤)に浸漬し、続いて自転・公転ミキサーで撹拌し、54.5重量部の金属粉(G1)を加えた後に三本ロールで混練することで、導電性ペーストを得た。
【0221】
【0222】
(伸縮性導電糸の作製)
実施例1~8のシリコーンゴム系硬化性組成物を使用し、押出機を用いてチューブ状に押出成形して、絶縁性シリコーンゴムで構成されたチューブ部材を得た。
このチューブ部材の内層及び/又は外層に、表2、表3に示す膜厚となるように、得られた導電性ペーストを塗布し、これを180℃、2時間の条件で加熱硬化させ、導電性シリコーンゴム層を形成した。
以上により、絶縁性エラストマー層で構成される絶縁性チューブ構造体の内表面及び/又は外表面上に導電性エラストマー層が積層してなる、実施例1~8の導電層コートチューブ(伸縮性導電糸)を得た。
チューブ部材の寸法、導電性シリコーンゴム層の膜厚は、伸縮性導電糸の径方向の断面において、顕微鏡を用いて測定した。
【0223】
得られた伸縮性導電糸について、以下の項目を評価した。
評価結果を表2,3に示す。各表中、斜線は、導電性シリコーンゴム層を形成しなかったことを意味する。
【0224】
【0225】
(引張強度)
導電層コートチューブを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、25℃における引張強度を測定した。単位はMPaである。
【0226】
(破断伸び)
導電層コートチューブを用いて、JIS K6251(2004)に準拠して、破断伸びを測定した。破断伸びは、[チャック間移動距離(mm)]÷[初期チャック間距離(35mm)]×100で計算した。単位は%である。
【0227】
【0228】
(未伸長時、伸長時の電気抵抗値)
長さ5cmの導電層コートチューブを用いて、両端5mmずつテープを巻いて絶縁した上でチャックに固定した。中央3cmの両端に測定クリップを取り付けて、未伸長時、長さ方向に0.5mm/secの速度で50%伸長させた時、100%伸長させた時の、それぞれにおいて、外層の導電性シリコーンゴム層における抵抗値を測定した。
得られた抵抗値から、以下の式に基づいて、各電気抵抗値(Ω/cm)を算出した。
R0(Ω/cm)=未伸長時の糸の抵抗値(Ω)/未伸長時の糸の長さ(cm)
R50(Ω/cm)=50%伸長時の糸の抵抗値(Ω)/50%伸長時の糸の長さ(cm)
R100(Ω/cm)=100%伸長時の糸の抵抗値(Ω)/100%伸長時の糸の長さ(cm)
【0229】
(50%、100回伸縮後における電気抵抗値の変化率)
長さ5cmの導電層コートチューブを用いて、両端5mmずつテープを巻いて絶縁した上でチャックに固定した。長さ方向に1.33mm/secの速度で50%伸長させ、10秒間保持し、同じ速度で伸長を解放し、10秒間保持する試験を100回繰り返した後の、外層の導電性シリコーンゴム層における抵抗値を測定し、初期抵抗値との変化率を、下記式に基づいて算出した。
電気抵抗値の変化率は、未伸長時における糸の抵抗値をR0、100回伸縮操作した後における糸の未伸長時の抵抗値をR0'とした時の、(R0'-R0)/R0×100から算出した。
【0230】
なお、実施例1~4の導電層コートチューブを用いて、上記と同様の方法にて、未伸長時、50%伸長時、100%伸長時の抵抗値、及び50%100回伸縮後の抵抗値を測定したとき、内層及び外層のいずれの導電性シリコーンゴム層においても、破断せず、導通することが分かった。
また、実施例1~8の導電層コートチューブを用いて、50%100回伸縮を行った後、チューブ部材と導電性シリコーンゴム層との間に剥離が発生していないことを確認した。
【0231】
(比較例1)
ステンレス鋼繊維の撚糸(日本精線社製、ナスロン(登録商標)、品番:12-100/2、伸び率:1.6%)を準備した。比較例1の金属製導電糸は、容易に伸長させることが出来なかった。
【0232】
実施例1~8の伸縮性導電糸は、比較例1と比べて伸縮性、及び伸長時における電気特性に優れることが分かった。
【符号の説明】
【0233】
10,11,12,13 絶縁性エラストマー層
20,21,22,23,24 導電性エラストマー層
30 穴
50,51,52,53 糸
100 伸縮性導電糸
200 導電性構造物