(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20241210BHJP
B60W 30/182 20200101ALI20241210BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20241210BHJP
B60W 10/101 20120101ALI20241210BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241210BHJP
B60W 10/119 20120101ALI20241210BHJP
F16H 61/14 20060101ALI20241210BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20241210BHJP
B60K 17/348 20060101ALI20241210BHJP
B60K 23/08 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/182
B60W40/076
B60W10/101
B60W10/06
B60W10/119
F16H61/14 601D
F02D29/00 D
B60K17/348 B
B60K23/08 C
(21)【出願番号】P 2020173767
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 陽一
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】延谷 尚輝
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115763(JP,A)
【文献】特開昭62-059126(JP,A)
【文献】実開平02-138265(JP,U)
【文献】特開平04-145323(JP,A)
【文献】特開2019-043424(JP,A)
【文献】特開2002-130465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 40/13
B60W 10/00 ~ 10/30
F16H 61/14
F02D 29/00 ~ 29/02
B60K 17/348
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジン
と、前記エンジンの動力伝達経路上に設けられたロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する車両の制御システムであって、
前記車両の前後方向に沿った路面勾配を計測する勾配計測手段と、
前記車両の運転者の操作に応じて、通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択する走行モード選択手段と、
前記エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時に前記エンジンの回転数が前記アイドル回転数となるように前記エンジンを制御するエンジン制御手段と、を有し、
前記エンジン制御手段は、前記勾配計測手段により計測された路面勾配が前記車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合には、前記第1走行モードが選択されている場合、又は、前記路面勾配が上り勾配若しくは前記所定値以下の下り勾配の場合よりも、前記アイドル回転数を低く
し、
前記車両の制御システムは、前記車両の第1の運転領域において前記ロックアップクラッチを締結状態とし、前記車両の第2の運転領域において前記ロックアップクラッチを解放状態とするように、前記ロックアップクラッチを制御するロックアップクラッチ制御手段を有し、
前記ロックアップクラッチ制御手段は、前記勾配計測手段により計測された路面勾配が前記車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合には、前記第1走行モードが選択されている場合、及び、前記路面勾配が上り勾配若しくは前記所定値以下の下り勾配の場合よりも前記第1の運転領域を拡大する、
ことを特徴とする車両の制御システム。
【請求項2】
前記エンジン制御手段は、前記勾配計測手段により計測された路面勾配が前記車両の進行方向に向かって前記所定値より大きい下り勾配であり、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合において、前記下り勾配が大きいときには、前記下り勾配が小さいときよりも前記アイドル回転数を低くする、請求項1に記載の車両の制御システム。
【請求項3】
前記車両は、前記エンジンにより発生したトルクが駆動輪である前輪と補助駆動輪である後輪とに配分される四輪駆動車であり、
前記前輪と前記後輪とに配分するトルクを制御するトルク配分制御手段を有し、
前記トルク配分制御手段は、
前記勾配計測手段により計測された路面勾配が前記車両の進行方向に向かって所定値より大きい上り勾配であり、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合には、前記第1走行モードが選択されている場合、又は、前記路面勾配が下り勾配若しくは前記所定値以下の上り勾配の場合よりも前記後輪に配分するトルクを大きくし、
前記勾配計測手段により計測された路面勾配が前記車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合には、前記路面勾配が前記車両の進行方向に向かって所定値より大きい上り勾配且つ前記第2走行モードが選択されている場合よりも前記後輪に配分するトルクを小さくする、
請求項1又は2に記載の車両の制御システム。
【請求項4】
駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジン
と、前記エンジンの動力伝達経路上に設けられたロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する車両の制御システムであって、
前記車両の加速度を測定する加速度センサと、
通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択するための操作を受け付ける走行モード選択スイッチと、
プログラムを格納するメモリと、
前記プログラムを実行するプロセッサと、を有し、
前記プロセッサは、
前記加速度センサにより検出された加速度に基づき、前記車両の前後方向に沿った路面勾配を取得し、
前記エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時に前記エンジンの回転数が前記アイドル回転数となるように前記エンジンを制御し、
前記路面勾配が前記車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、前記走行モード選択スイッチにより前記第2走行モードが選択されている場合には、前記第1走行モードが選択されている場合、又は、前記路面勾配が上り勾配若しくは前記所定値以下の下り勾配の場合よりも前記アイドル回転数を
低くし、
前記車両の第1の運転領域において前記ロックアップクラッチを締結状態とし、前記車両の第2の運転領域において前記ロックアップクラッチを解放状態とするように、前記ロックアップクラッチを制御し、
前記路面勾配が前記車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、前記走行モード選択スイッチにより前記第2走行モードが選択されている場合には、前記第1走行モードが選択されている場合、及び、前記路面勾配が上り勾配若しくは前記所定値以下の下り勾配の場合よりも前記第1の運転領域を拡大するように構成されている、
ことを特徴とする車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンを有する車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クリープ走行中の燃費を向上するために、路面の勾配に応じてエンジン回転数とエンジン動力伝達率を制御する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車両がアイドル停車時又はアイドリングストップ時において、路面が下り勾配でありブレーキが解除された場合に、勾配に応じて平坦時よりも低いエンジン回転数に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば未舗装路のように路面の凹凸が激しい悪路を走行している場合、運転者は舗装路を走行している場合よりもアクセルペダルを大きく踏み込む傾向がある。しかしながら、凹凸の激しい路面は一般に摩擦係数が小さいので、駆動輪が空転しやすい。即ち、悪路走行中は通常よりも駆動輪が空転しやすいにも関わらず、運転者は通常よりもアクセルペダルを大きく踏み込むので、駆動輪へ伝達される駆動トルクが過大となり一層駆動輪が空転しやすい状況となってしまう。特に、車両の前向きに下り勾配の坂道では重力加速度も加わることから、アクセルペダルの踏み過ぎや低い路面摩擦係数による車輪の滑りと相まって、車両の発進時に運転者が意図する以上の加速度で車両が前方に飛び出しやすい。しかし、上記した特許文献1記載された技術では、悪路走行時のアクセルペダルの踏み過ぎや路面の凹凸を考慮に入れてエンジン回転数を決定してはいない。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、下り勾配の悪路を走行する状況において、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる、車両の制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンと、エンジンの動力伝達経路上に設けられたロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する車両の制御システムであって、車両の前後方向に沿った路面勾配を計測する勾配計測手段と、車両の運転者の操作に応じて、通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択する走行モード選択手段と、エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時にエンジンの回転数がアイドル回転数となるようにエンジンを制御するエンジン制御手段と、を有し、エンジン制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合には、第1走行モードが選択されている場合、又は、路面勾配が上り勾配若しくは所定値以下の下り勾配の場合よりも、アイドル回転数を低くし、車両の制御システムは、車両の第1の運転領域においてロックアップクラッチを締結状態とし、車両の第2の運転領域においてロックアップクラッチを解放状態とするように、ロックアップクラッチを制御するロックアップクラッチ制御手段を有し、ロックアップクラッチ制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合には、第1走行モードが選択されている場合、及び、路面勾配が上り勾配若しくは所定値以下の下り勾配の場合よりも第1の運転領域を拡大することを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値以上の下り勾配の坂道という車両の急な加速が発生しやすい状況においては、エンジン制御手段はアイドル回転数を低く設定する。これにより、アイドリング中のエンジンからの駆動トルクを小さくすることができるので、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んでしまったり低い路面摩擦係数により車輪が滑ったりしても、車両の発進時に運転者が意図する以上の加速度で車両が前方に飛び出すことを抑制できる。したがって、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。また、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値より大きい下り勾配の坂道という車両の急な加速が一層発生しやすい状況においては、ロックアップクラッチが締結されやすくなる。これにより、駆動輪とエンジンとの間の伝達ロスを低減できるので、エンジンブレーキによる制動力を高めることができ、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【0007】
本発明において、好ましくは、エンジン制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合において、下り勾配が大きいときには、下り勾配が小さいときよりもアイドル回転数を低くする。
このように構成された本発明によれば、下り勾配が大きいために車両の急な加速が一層発生しやすい状況においては、エンジン制御手段はアイドル回転数を更に低く設定する。したがって、アイドリング中のエンジンからの駆動トルクを路面勾配に応じて適切な大きさにすることができ、様々な路面勾配において運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、車両は、エンジンにより発生したトルクが駆動輪である前輪と補助駆動輪である後輪とに配分される四輪駆動車であり、前輪と後輪とに配分するトルクを制御するトルク配分制御手段を有し、トルク配分制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい上り勾配であり、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合には、第1走行モードが選択されている場合、又は、路面勾配が下り勾配若しくは所定値以下の上り勾配の場合よりも後輪に配分するトルクを大きくし、勾配計測手段により計測された路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合には、路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい上り勾配且つ第2走行モードが選択されている場合よりも後輪に配分するトルクを小さくする。
このように構成された本発明によれば、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値より大きい下り勾配の坂道という車両の急な加速が一層発生しやすい状況においては、トルク配分制御手段は上り勾配の場合よりも後輪のトルク配分を小さく設定する。これにより、悪路における車両の推進力を低下させることができ、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【0010】
別の観点では、本発明は、駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンと、エンジンの動力伝達経路上に設けられたロックアップクラッチを備えたトルクコンバータとを有する車両の制御システムであって、車両の加速度を測定する加速度センサと、通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択するための操作を受け付ける走行モード選択スイッチと、プログラムを格納するメモリと、プログラムを実行するプロセッサと、を有し、プロセッサは、加速度センサにより検出された加速度に基づき、車両の前後方向に沿った路面勾配を取得し、エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時にエンジンの回転数がアイドル回転数となるようにエンジンを制御し、路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択スイッチにより第2走行モードが選択されている場合には、第1走行モードが選択されている場合、又は、路面勾配が上り勾配若しくは所定値以下の下り勾配の場合よりもアイドル回転数を低くし、車両の第1の運転領域においてロックアップクラッチを締結状態とし、車両の第2の運転領域においてロックアップクラッチを解放状態とするように、ロックアップクラッチを制御し、路面勾配が車両の進行方向に向かって所定値より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択スイッチにより第2走行モードが選択されている場合には、第1走行モードが選択されている場合、及び、路面勾配が上り勾配若しくは所定値以下の下り勾配の場合よりも第1の運転領域を拡大するように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値以上の下り勾配の坂道という車両の急な加速が発生しやすい状況においては、プロセッサはアイドル回転数を低く設定する。これにより、アイドリング中のエンジンからの駆動トルクを小さくすることができるので、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んでしまったり低い路面摩擦係数により車輪が滑ったりしても、車両の発進時に運転者が意図する以上の加速度で車両が前方に飛び出すことを抑制できる。したがって、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。また、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値より大きい下り勾配の坂道という車両の急な加速が一層発生しやすい状況においては、ロックアップクラッチが締結されやすくなる。これにより、駆動輪とエンジンとの間の伝達ロスを低減できるので、エンジンブレーキによる制動力を高めることができ、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両の制御システムによれば、下り勾配の悪路を走行する状況において、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態による車両の制御システムが適用された車両の概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両の制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】ロックアップクラッチの制御条件の一例を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施形態による車両制御処理のフローチャートである。
【
図5】路面勾配とエンジンの補正回転数との関係を示す説明図である。
【
図6】路面勾配とエンジンの補正後輪トルク配分との関係を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施形態による車両の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御装置を説明する。
【0014】
<装置構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態による車両の制御システムが適用された車両の全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両の制御システムが適用された車両の概略構成図である。
【0015】
図1に示すように、車両1は、主に、エンジン2と、トランスミッション4と、トランスファー6と、フロントドライブシャフト8と、左右一対の前輪10と、左右一対の後輪12と、プロペラシャフト14と、電磁カップリング16と、リヤデファレンシャルギヤ18と、リヤドライブシャフト20と、コントローラ22と、走行モード選択スイッチSN1と、車輪速センサSN2と、加速度センサSN3と、舵角センサSN4と、シフトポジションセンサSN5とを有する。
【0016】
車両1は、フロントエンジン・フロントドライブ方式(FF方式)をベースとした四輪駆動車である。具体的には、車両1は、フルタイム式の四輪駆動を実施するのではなく、二輪駆動状態(前輪10のみを駆動する状態)と、四輪駆動状態(前輪10及び後輪12の両方を駆動する状態)とを適宜切り替え可能に構成されている。つまり、FF方式をベースとした四輪駆動車の車両1においては、前輪10は駆動輪として機能し、後輪12は補助駆動輪として機能する。また、車両1は、図示しないステアリングホイールの操作に応じて、前輪10を操舵するように構成されている。なお、本発明の少なくとも一部は、
図1に示すような四輪駆動車の駆動形式への適用に限定はされず、種々の駆動形式(例えばFF方式やフロントエンジン・リアドライブ方式(FR方式)などの二輪駆動車や、FR方式をベースとした四輪駆動車等)に対しても適用可能である。
【0017】
エンジン2は、燃料と空気との混合気を燃焼させて、車両1の推進力としての駆動トルク(エンジントルク)を発生し、この駆動トルクをトランスミッション4に伝達する。トランスミッション4は、トルクコンバータ4aと自動変速機4bとを備え、エンジン2からの駆動トルクを設定されたギヤ比にて伝達する。トルクコンバータ4aは、エンジン2の駆動トルクを流体により自動変速機4bに伝達するトーラス4cと、エンジン2と自動変速機4bとを機械的に直結させるロックアップクラッチ4dとを備えている。また、自動変速機4bは、多段変速歯車機構であり、歯車の組み合わせにより回転数及びトルクの変換を行う。歯車の切り替えは、図示しないオイルポンプから供給される油圧を利用して行われる。自動変速機4bは、エンジン2からのトルクコンバータ4aを介して伝達された駆動トルクを、フロントドライブシャフト8を介して前輪10に伝達すると共に、トランスファー6に伝達する。トランスファー6は、自動変速機4bからの駆動トルクをプロペラシャフト14に伝達し、プロペラシャフト14は、トランスファー6からの駆動トルクを電磁カップリング16に伝達する。そして、電磁カップリング16は、プロペラシャフト14からの駆動トルクをリヤデファレンシャルギヤ18に伝達し、リヤデファレンシャルギヤ18は、電磁カップリング16から伝達された駆動トルクを、リヤドライブシャフト20を介して後輪12に伝達する。
【0018】
詳しくは、電磁カップリング16は、プロペラシャフト14とリヤデファレンシャルギヤ18に接続されたシャフトとを連結するカップリングであり、図示しない電磁コイルやカム機構やクラッチなどを有している。電磁カップリング16は、コントローラ22による制御の元で、内部の電磁コイルに供給される電流に応じて、当該電磁カップリング16における締結トルクを可変に構成されている。このように締結トルクを変えることで、電磁カップリング16は、プロペラシャフト14からの駆動トルクのうち、リヤデファレンシャルギヤ18に伝達する駆動トルク(つまり後輪12に伝達する駆動トルク)の最大値である最大伝達トルクを変えられるようになっている。この場合、電磁カップリング16は、コントローラ22の制御により最大伝達トルクが設定され、この最大伝達トルクに応じた駆動トルクをリヤデファレンシャルギヤ18に伝達するよう機能する。
【0019】
具体的には、電磁カップリング16は、プロペラシャフト14から伝達された、最大伝達トルク以下の駆動トルクについては、この駆動トルクをそのままリヤデファレンシャルギヤ18に伝達する。他方で、電磁カップリング16は、プロペラシャフト14から伝達された、最大伝達トルクを超える駆動トルクについては、伝達された駆動トルクの全てをリヤデファレンシャルギヤ18に伝達せず、最大伝達トルクに対応する駆動トルクのみをリヤデファレンシャルギヤ18に伝達する。なお、電磁カップリング16には、例えば特開2013-32060号公報や特開2020-85045号公報に記載されたような構成を適用することができる。
【0020】
走行モード選択スイッチSN1は、例えば舗装路のように滑らかな路面を走行する通常走行のための通常モード(第1走行モード)と、例えば未舗装路のように路面の凹凸が激しい悪路を走行するためのオフロードモード(第2走行モード)との何れかの走行モードを選択するためのスイッチであり、車両1の運転者が操作可能な位置(典型的には車室内のセンターコンソールやダッシュボード上)に配置されている。なお、走行モード選択スイッチSN1は、通常モード及びオフロードモードに加えて他の走行モード(例えばスポーツモードや雪上モード等)を選択可能であってもよい。車輪速センサSN2は、車輪の速度を検出する。典型的には、車輪速センサSN2は左右の前輪10及び左右の後輪12のそれぞれに設けられ、各車輪の速度を検出する。加速度センサSN3は、典型的には、車両1の前後方向、左右方向及び上下方向の3軸の加速度を測定可能な3軸加速度センサである。舵角センサSN4は、車両1の舵角を検出する。例えば、舵角センサSN4は、図示しないステアリングシャフトの回転角度に基づき操舵角を検出する。シフトポジションセンサSN5は、図示しないシフトレバーやパドルスイッチにより選択されたシフトポジション(例えばPレンジ、Rレンジ、Dレンジ等)を検出する。これらの走行モード選択スイッチSN1、車輪速センサSN2、加速度センサSN3、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5は、それぞれ、検出した走行モード、車輪速度、加速度、舵角及びシフトポジションに対応する検出信号をコントローラ22に出力する。
【0021】
次に、
図2は、本発明の実施形態による車両の制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0022】
図2に示すように、コントローラ22には、走行モード選択スイッチSN1からの信号と、車輪速センサSN2からの信号と、加速度センサSN3からの信号と、舵角センサSN4からの信号と、シフトポジションセンサSN5からの信号とが入力されるようになっている。
【0023】
コントローラ22は、1つ以上のプロセッサ22a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如きメモリ22bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ22は、本発明における「車両の制御システム」の「勾配計測手段」、「走行モード選択手段」、「エンジン制御手段」、「トルク配分制御手段」及び「ロックアップクラッチ制御手段」として機能する。
【0024】
具体的には、コントローラ22は、上述した走行モード選択スイッチSN1、車輪速センサSN2、加速度センサSN3、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5からの検知信号に基づき、主に、エンジン2、自動変速機4b、ロックアップクラッチ4d及び電磁カップリング16に対して制御信号を出力し、これを制御する。例えば、コントローラ22は、エンジン2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御、自動変速機4bの変速段を切り換える制御、ロックアップクラッチ4dを締結状態と解放状態とを含む複数の状態の間で切り換える制御、電磁カップリング16の締結トルクを調整する制御などを行う。より具体的には、例えば、コントローラ22は、エンジン2の点火プラグや燃料噴射弁やスロットル弁などを制御し、自動変速機4bのクラッチやブレーキに油圧を供給するオイルポンプや油圧制御弁などを制御し、ロックアップクラッチ4dに油圧を供給するオイルポンプや油圧制御弁などを制御し、電磁カップリング16の電磁コイルやカム機構やクラッチなどを制御する。
【0025】
<車両の制御>
次に、本発明の実施形態において、コントローラ22が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ22は、エンジン2のアイドル回転数及び後輪12に配分するトルクを決定すると共に、ロックアップクラッチ4dの制御条件を設定する、車両制御処理を実行する。
【0026】
まず、ロックアップクラッチ4dの基本的な制御について説明する。コントローラ22は、ロックアップクラッチ4dに油圧を供給するオイルポンプや油圧制御弁などを制御することによって、ロックアップクラッチ4dの状態を締結状態、解放状態、スリップ状態を含む複数の状態の間で適宜切り換える。コントローラ22は、車両1の運転状態が予め設定された所定のロックアップ領域(第1の運転領域)の範囲内にある場合にロックアップクラッチ4dを締結状態とし、運転状態が所定の非ロックアップ領域(第2の運転領域)の範囲内にある場合にロックアップクラッチ4dを解放状態とするように制御を行う。例えば、
図3は、車速を条件としてロックアップ領域及び非ロックアップ領域を設定した制御マップの一例を示している。この
図3の例では、後述する通常モードにおけるロックアップ領域は車速がV2以上の運転領域として設定されており、非ロックアップ領域は車速がV2未満の運転領域として設定されている。また、後述する拡大モードにおけるロックアップ領域は車速がV2より小さいV1以上の運転領域として設定されており、非ロックアップ領域は車速がV1未満の運転領域として設定されている。つまり、拡大モードにおいては通常モードと比較してロックアップ領域が拡大されており、ロックアップクラッチ4dが締結されやすくなっている。なお、
図3の例では車速のみに基づいてロックアップ領域及び非ロックアップ領域が設定されているが、車速に加えて他の運転状態(例えばアクセル開度)に基づいて設定してもよく、車速以外に基づき設定してもよい。
【0027】
次に、
図4から
図6を参照して、本発明の実施形態による車両制御処理について具体的に説明する。
図4は、本発明の実施形態による車両制御処理のフローチャートであり、
図5は、路面勾配とエンジンの補正回転数との関係を示す説明図であり、
図6は、路面勾配とエンジンの補正後輪トルク配分との関係を示す説明図である。車両制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両システムに電源が投入された場合に起動され、コントローラ22によって所定周期で繰り返し実行される。
【0028】
図4に示す車両制御処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ22は、上述した走行モード選択スイッチSN1、車輪速センサSN2、加速度センサSN3、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5からの検知信号に対応する情報も含めて、車両1の種々の情報を取得する。そして、コントローラ22は、ステップS12に進む。
【0029】
ステップS12において、コントローラ22は、ステップS11において取得した情報に基づき、通常アイドル回転数Rsを算出する。通常アイドル回転数Rsは、コントローラ22が車両制御処理において走行モードや路面勾配に基づきアイドル回転数の補正を行わない通常の状況におけるアイドル回転数である。具体的には、コントローラ22は、エンジン2の冷却水温度、車両1のエアコン用コンプレッサの動作状態、車両1における電力の使用状況等とアイドル回転数との関係について規定されたアイドル回転数マップ(予め作成されてメモリ22bなどに記憶されている)を参照し、ステップS11において取得した情報に基づく現在の車両1の各種状態に対応する通常アイドル回転数Rsを算出する。例えば、通常アイドル回転数Rsは約800rpmである。
【0030】
次に、ステップS13において、コントローラ22は、走行モード選択スイッチSN1からの検知信号に基づき、走行モードとしてオフロードモードが選択されているか否かを判定する。具体的には、運転者が走行モード選択スイッチSN1を操作してオフロードモードを選択した場合には、オフロードモードが選択されていると判定し(ステップS13:Yes)、オフロードモード以外の走行モード(例えば通常モード)を選択した場合には、オフロードモードが選択されていないと判定する(ステップS13:No)。
【0031】
ステップS13において、オフロードモードが選択されていると判定した場合(ステップS13:Yes)、ステップS14に進み、コントローラ22は、補正回転数及び補正後輪トルク配分を取得する。補正回転数は、オフロードモードが選択されている場合にアイドル回転数を補正するための補正値である。例えば、コントローラ22は、車輪速センサSN2や加速度センサSN3から入力された信号に基づき、重力ベクトルと車両1の前後方向軸線との角度を求め、この角度から車両1の前後方向に沿った路面勾配を算出する。さらに、コントローラ22は、シフトポジションセンサSN5から入力された信号に基づき車両1の進行方向(Dレンジなら前進方向、Rレンジなら後退方向等)を特定する。これにより、車両1の前後方向に沿った路面勾配が、車両1の進行方向に向かって上り勾配か下り勾配かを特定することができる。そして、コントローラ22は、
図5に示すような、車両1の進行方向の路面勾配と補正回転数との関係について規定されたマップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)を参照し、上記のように算出した路面勾配に対応する補正回転数を取得する。
【0032】
図5のマップにおける横軸は車両1の進行方向の路面勾配[%]を示し、車両1の進行方向(前進時は前方、後退時は後方)に向かって上り勾配である場合に正値、下り勾配である場合に負値となる。以下の説明において、「下り勾配が大きい」とは「下り勾配の絶対値が大きい」ことをいうものとする。また、縦軸は補正回転数[rpm]を示す。
図5に示すように、路面勾配が上り勾配である場合、補正回転数は正値であり、路面勾配が閾値m1に達するまでの間は、路面勾配が大きいほど補正回転数が大きくなる。即ち、車両1の進行方向に向かって上り勾配が大きいときには、上り勾配が小さいときよりも補正回転数が大きい。さらに、路面勾配がm1以上の場合には、補正回転数は最大値Rc
maxで一定となる。この補正回転数の最大値Rc
maxは、エンジン2の信頼性やNVH性能の要求に応じて設定することができ、例えば700rpmである。また、路面勾配の閾値m1は、例えばエンジン2のトルク特性、車両1の重量、タイヤのグリップ力等に応じて設定することができ、例えばm1は30%である。また、路面勾配が下り勾配である場合、補正回転数は負値であり、路面勾配が閾値m2に達するまでの間は、路面勾配が大きいほど(つまり路面勾配の絶対値が大きいほど)補正回転数が小さくなる。即ち、車両1の進行方向に向かって下り勾配が大きいときには、下り勾配が小さいときよりも補正回転数が小さい。さらに、路面勾配がm2以上の場合には、補正回転数は最小値Rc
minで一定となる。この補正回転数の最小値Rc
minは、エンジン2の失火限界やトルク特性、車両1の重量に応じて設定することができ、例えば-300rpmである。また、路面勾配の閾値m2は、例えばエンジン2のトルク特性、車両1の重量、タイヤのグリップ力等に応じて設定することができ、例えばm2は-15%である。なお、
図5のマップでは上り勾配では補正回転数が正値、下り勾配では補正回転数が負値となるように設定されているが、路面勾配の絶対値が所定値(例えば5%)以下の上り勾配及び下り勾配では補正回転数が0となるようにしてもよい。即ち、路面勾配の絶対値が所定値以下の場合には、コントローラ22はアイドル回転数の補正する制御を行わないようにしてもよい。
【0033】
また、補正後輪トルク配分は、オフロードモードが選択されている場合に後輪トルク配分を補正するための補正値である。例えば、コントローラ22は、
図3のステップS14と同様に車両1の前後方向に沿った路面勾配を算出する。そして、
図6に示すような、車両1の前後方向の路面勾配と補正後輪トルク配分との関係について規定されたマップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)を参照し、上記のように算出した路面勾配に対応する補正後輪トルク配分を取得する。
図6のマップにおける横軸は車両1の前後方向の路面勾配[%]を示し、車両1の進行方向に向かって上り勾配である場合に正値、下り勾配である場合に負値となる。また、縦軸は補正後輪トルク配分[%]を示す。
図6に示すように、車両1の前後方向の路面勾配が進行方向に向かって上り勾配である場合、対応する補正後輪トルク配分はTc1である。一方、車両1の前後方向の路面勾配が進行方向に向かって下り勾配である場合、対応する補正後輪トルク配分はTc2である。この補正後輪トルク配分Tc2は、補正後輪トルク配分Tc1よりも小さい。なお、
図6のマップでは上り勾配では補正後輪トルク配分がTc1、下り勾配では補正後輪トルク配分がTc2となるように設定されているが、路面勾配の絶対値が所定値(例えば5%)以下の上り勾配及び下り勾配では補正後輪トルク配分が0となるようにしてもよい。即ち、路面勾配の絶対値が所定値以下の場合には後輪トルク配分の補正が行われないようにしてもよい。
【0034】
図4に戻り、ステップS14の後、ステップS15に進み、コントローラ22は、車両1の前後方向の路面勾配が進行方向に向かって所定値ms以上の下り勾配か否かを判定する。所定値msは、本実施形態では0%とするが、例えば5%や10%としてもよい。
【0035】
ステップS15の判定の結果、路面勾配が所定値ms以上の下り勾配である場合(ステップS15:Yes)、ステップS16に進み、コントローラ22は、ロックアップクラッチ4dを締結状態とするロックアップ領域を拡大する。具体的には、コントローラ22は、
図3に例示したロックアップクラッチ4dの制御条件を拡大モードに設定することにより、車速がV1以上の運転領域においてロックアップクラッチ4dを締結状態とするように制御を行う。
【0036】
ステップS13においてオフロードモードが選択されていないと判定された場合(ステップS13:No)、ステップS15において路面勾配が所定値ms以上の下り勾配ではなかった場合、又はステップS16の後、ステップS17に進み、コントローラ22は、要求アイドル回転数及び要求後輪トルク配分を決定する。要求アイドル回転数は、アイドリング中にエンジン2が維持すべきエンジン回転数であり、要求後輪トルク配分は、電磁カップリング16から後輪12に伝達すべき後輪トルク配分である。具体的には、ステップS13においてオフロードモードが選択されていないと判定された場合には(ステップS13:No)、コントローラ22は、ステップS12において算出した通常アイドル回転数及び通常後輪トルク配分をそのまま要求アイドル回転数及び要求後輪トルク配分とする。つまり、通常アイドル回転数が800rpmであれば要求アイドル回転数も800rpmとなり、通常後輪トルク配分が0%であれば要求後輪トルク配分も0%となる。一方、ステップS14において補正回転数及び補正後輪トルク配分を取得した場合には、ステップS12において算出した通常アイドル回転数に補正回転数を加算した値を要求アイドル回転数とし、ステップS12において算出した通常後輪トルク配分に補正後輪トルク配分を加算した値を要求後輪トルク配分とする。例えば、通常アイドル回転数が800rpmであり補正回転数が300rpmであった場合には、要求アイドル回転数は800+300=1100rpmとなる。また、通常後輪トルク配分が0%であり補正後輪トルク配分が10%であった場合には、要求後輪トルク配分は0+10=10%となる。このとき、要求後輪トルク配分の最大値Tmax(例えば30%)を予め設定して起き、通常後輪トルク配分と補正後輪トルク配分との和がこの最大値Tmaxを超える場合には、要求後輪トルク配分を最大値Tmaxとするようにしてもよい。ステップS17の後、コントローラ22はアイドル回転数決定処理を終了する。
【0037】
コントローラ22は、エンジン2にアイドリングをさせる場合、エンジン2の回転数が最新の車両制御処理で決定した要求アイドル回転数となるように、エンジン2の制御を行う。例えば、車両1の停止中の要求アイドル回転数が800rpmであり、次いで車両1が走行を開始した後に要求アイドル回転数が1100rpmとなった状態において車両1が再び停止した場合、コントローラ22は、アイドル回転数が1100rpmまで低下したらそのままその回転数を維持するようにエンジン2を制御する。つまり、一度アイドル回転数を800rpmまで下げてから1100rpmまで上昇させるような制御は行わない。また、コントローラ22は、前輪10の駆動トルクに対する後輪12の駆動トルクの配分比率が最新の後輪トルク配分決定処理で決定した要求後輪トルク配分となるように、電磁カップリング16の制御を行う。
【0038】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態による車両の制御システムの作用及び効果について説明する。
【0039】
図7は、本発明の実施形態による車両の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
図7のタイムチャートは、上段から順に、走行モード選択スイッチSN1により選択された走行モード(通常モード/オフロードモード)、車両1の前後方向の路面勾配[%]、要求アイドル回転数[rpm]、要求後輪トルク配分[%]、ロックアップクラッチ4dの制御条件(通常モード/拡大モード)を示している。
【0040】
なお、
図7に示した例では、全期間にわたり通常アイドル回転数がS1[rpm]、通常後輪トルク配分が0%であるものとする。しかしながら、通常アイドル回転数及び通常後輪トルク配分は、
図7に示した例とは異なる値であってもよく、時間経過に伴い変化してもよい。
【0041】
まず、
図7において時刻t1までの間は、走行モードは通常モードが選択され、車両1の前後方向の路面勾配は0%である。したがって、コントローラ22は、通常アイドル回転数Rsを要求アイドル回転数とし、通常後輪トルク配分である0%を要求後輪トルク配分とし、ロックアップクラッチ4dの制御条件を通常モードとする。この場合、コントローラ22は、車速がV2以上の運転領域においてロックアップクラッチ4dを締結状態とするように制御を行う。
【0042】
時刻t1を過ぎると、上り勾配が増大し始める。これは、例えば車両1が登坂路に差し掛かり、進行方向に向かって上り勾配が増大し始めたことを意味する。しかしながら走行モードは通常モードのままなので、コントローラ22は補正回転数や補正後輪トルク配分を取得せず、通常アイドル回転数Rsを要求アイドル回転数とし、通常後輪トルク配分である0%を要求後輪トルク配分とする。また、ロックアップクラッチ4dの制御条件も通常モードのままである。
【0043】
時刻t2において、運転者が走行モード選択スイッチを操作することにより、走行モードは通常モードからオフロードモードに切り替えられる。このとき、路面勾配は上り勾配である。つまり、路面勾配が上り勾配であり且つオフロードモードが選択されているので、コントローラ22は正値の補正回転数を取得し、通常アイドル回転数Rsに加算した値を要求アイドル回転数とする。即ち、通常モードが選択されていた時刻t2以前よりも要求アイドル回転数を高くする。また、コントローラ22は上り勾配における補正後輪トルク配分Tc1を取得し、通常後輪トルク配分0%に加算した値Tc1を要求後輪トルク配分とする。即ち、通常モードが選択されていた時刻t2以前よりも要求後輪トルク配分を大きくする。
【0044】
その後、時刻t2からt3の間は路面勾配が上り勾配でありm1まで増大する。この上り勾配の増大に伴い、補正回転数も大きくなる。したがって、コントローラ22は、路面勾配が大きいほど、要求アイドル回転数を大きくする。一方、補正後輪トルク配分はTc1で一定なので、要求後輪トルク配分もTc1のまま一定である。また、ロックアップクラッチ4dの制御条件も通常モードのままである。
【0045】
時刻t3からt4の間は、走行モードはオフロードモードであり、路面勾配が閾値m1以上の上り勾配となる。したがって、この時刻t3からt4の間は、補正回転数は最大値Rcmaxで一定である。この場合、コントローラ22は、通常アイドル回転数Rs+補正回転数Rcmaxを要求アイドル回転数とする。また、補正後輪トルク配分はTc1で一定であり、通常後輪トルク配分0%+補正後輪トルク配分Tc1を要求後輪トルク配分とする。また、ロックアップクラッチ4dの制御条件は通常モードのままである。
【0046】
その後、時刻t4からt5の間は上り勾配が減少し、時刻t5において路面勾配が0%(つまり勾配のない平坦な路面)になる。この上り勾配の減少に伴い、補正回転数も小さくなり、時刻t5において補正回転数は0になる。したがって、コントローラ22は、路面勾配が小さいほど、要求アイドル回転数を小さくし、時刻t5において要求アイドル回転数は通常アイドル回転数Rsと同じになる。一方、補正後輪トルク配分はTc1で一定なので、時刻t5まで要求後輪トルク配分もTc1のまま一定である。また、ロックアップクラッチ4dの制御条件も通常モードのままである。
【0047】
時刻t5を過ぎると、下り勾配が増大し始める。これは、例えば車両1が降坂路に差し掛かり、進行方向に向かって下り勾配が増大し始めたことを意味する。路面勾配が下り勾配となったことにより補正回転数は負値となり、下り勾配が大きくなるほど、補正回転数は小さくなる。つまり、路面勾配が下り勾配であり且つオフロードモードが選択されているので、コントローラ22は負値の補正回転数を取得し、通常アイドル回転数Rsに加算した値を要求アイドル回転数とする。即ち、通常モードが選択されていた時刻t2以前や路面勾配が上り勾配であった時刻t2からt5の間よりも要求アイドル回転数を低くする。また、コントローラ22は下り勾配における補正後輪トルク配分Tc2を取得し、通常後輪トルク配分0%に加算した値Tc2を要求後輪トルク配分とする。即ち、要求後輪トルク配分を、通常モードが選択されていた時刻t2以前よりも大きく、且つ、路面勾配が上り勾配であった時刻t2からt5の間よりも小さくする。また、コントローラ22は、路面勾配が下り勾配であり且つオフロードモードが選択されているので、ロックアップクラッチ4dの制御条件を拡大モードに設定する。この場合、コントローラ22は、車速がV2より小さいV1以上の運転領域においてロックアップクラッチ4dを締結状態とするように制御を行うので、ロックアップクラッチ4dが締結されやすくなっている。つまり、コントローラ22は、ロックアップクラッチ4dを締結状態するロックアップ領域を、通常モードが選択されていた時刻t2以前や路面勾配が上り勾配であった時刻t2からt5の間よりも拡大する。
【0048】
その後、時刻t6を過ぎると、走行モードはオフロードモードであり、下り勾配が閾値m2以下となる。したがって、時刻t6以降は、補正回転数は最小値Rcminで一定である。この場合、コントローラ22は、通常アイドル回転数Rs+補正回転数Rcmin(負値)を要求アイドル回転数とする。また、補正後輪トルク配分はTc2で一定であり、通常後輪トルク配分0%+補正後輪トルク配分Tc2を要求後輪トルク配分とする。また、ロックアップクラッチ4dの制御条件は拡大モードのままである。
【0049】
以上説明したように、本実施形態では、コントローラ22は、路面勾配が車両1の進行方向に向かって所定値(0%)より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合には、通常モードが選択されている場合、又は、路面勾配が上り勾配若しくは所定値以下の下り勾配の場合よりも要求アイドル回転数を低くする。つまり、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値以上の下り勾配の坂道という車両の急な加速が発生しやすい状況においては、コントローラ22は要求アイドル回転数を低く設定する。これにより、アイドリング中のエンジン2からの駆動トルクを小さくすることができるので、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んでしまったり低い路面摩擦係数により車輪が滑ったりしても、車両1の発進時に運転者が意図する以上の加速度で車両1が前方に飛び出すことを抑制できる。したがって、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、コントローラ22は、下り勾配が大きいときには、下り勾配が小さいときよりも要求アイドル回転数を低くする。つまり、下り勾配が大きいために車両1の急な加速が一層発生しやすい状況においては、コントローラ22は要求アイドル回転数を更に低く設定する。したがって、アイドリング中のエンジン2からの駆動トルクを路面勾配に応じて適切な大きさにすることができ、様々な路面勾配において運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態は、エンジン2により発生したトルクが駆動輪である前輪10と補助駆動輪である後輪12とに配分される四輪駆動車に適用される。コントローラ22は、路面勾配が車両1の進行方向に向かって所定値(0%)より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合には、路面勾配が所定値(0%)より大きい上り勾配且つ走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合よりも要求後輪トルク配分を小さくする。つまり、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値より大きい下り勾配の坂道という車両1の急な加速が一層発生しやすい状況においては、コントローラ22は上り勾配の場合よりも後輪12のトルク配分を小さく設定する。これにより、悪路における車両1の推進力を低下させることができ、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態は、エンジン2の動力伝達経路上に設けられたロックアップクラッチ4dを備えたトルクコンバータ4aを有する車両1に適用される。コントローラ22は、路面勾配が車両1の進行方向に向かって所定値(0%)より大きい下り勾配であり、且つ、走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合には、走行モード選択スイッチSN1により通常モードが選択されている場合、又は、路面勾配が上り勾配若しくは所定値以下の下り勾配の場合よりもロックアップ領域を拡大する。つまり、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値より大きい下り勾配の坂道という車両1の急な加速が一層発生しやすい状況においては、ロックアップクラッチ4dが締結されやすくなる。これにより、駆動輪とエンジン2との間の伝達ロスを低減できるので、エンジンブレーキによる制動力を高めることができ、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みがあっても車両の急な加速を抑制することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 車両
2 エンジン
4a トルクコンバータ
4d ロックアップクラッチ
10 前輪(駆動輪)
12 後輪(補助駆動輪)
16 電磁カップリング
22 コントローラ
22a プロセッサ
22b メモリ
SN1 走行モード選択スイッチ
SN2 車輪速センサ
SN3 加速度センサ
SN4 舵角センサ
SN5 シフトポジションセンサ