(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】光デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 6/32 20060101AFI20241210BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G02B6/32
G02B6/42
(21)【出願番号】P 2020178441
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 学
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 智哉
(72)【発明者】
【氏名】上坂 勝己
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/143183(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/229992(WO,A1)
【文献】特表2019-533834(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0084039(US,A1)
【文献】特開2001-034998(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104037616(CN,A)
【文献】特開2019-161005(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002149(WO,A1)
【文献】特開昭58-030185(JP,A)
【文献】特開平09-331108(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0316275(US,A1)
【文献】特表2008-530641(JP,A)
【文献】特開2016-102872(JP,A)
【文献】特開2011-191646(JP,A)
【文献】特開2013-050586(JP,A)
【文献】特開2003-004960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00 -11/30
G01D 5/26 - 5/38
18/00 -21/02
G02B 6/00
6/02
6/245- 6/25
6/46 - 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光素子の光導波路の端面に接合し、前記光素子からの出射光を放射する第1レンズと、
前記第1レンズと光結合し、前記第1レンズからの出射光をコリメート光に変換する第2レンズと、を備え、
前記光素子は、レーザ素子、光変調素子、光増幅素子のいずれかであり、
前記第1レンズは、前記光素子側の反対側に突出した曲面を有する非球面レンズであって、前記光素子の前記光導波路の前記端面と接合する側が前記第1レンズの光軸と直交する平面に形成され、前記平面の面積が、前記光導波路の光軸に直交する断面の最大面積よりも小さい、光デバイス。
【請求項2】
前記第2レンズから出射された前記コリメート光を集光する第3レンズと、
前記第3レンズと光結合され、前記第3レンズから出射された集束光が入射される光ファイバと、をさらに備える、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記第1レンズは、屈折率n、前記光素子側の面の所定位置を点O、前記第1レンズの前記光素子側の面を除く表面上の任意の位置を点S、前記第1レンズによる虚像の位置を点Pとするとき、前記点Oと前記点S間の距離に前記屈折率nを乗算した値から、前記点Sと前記点P間の距離を減算した値が、一定値の関係である、請求項1または請求項2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記光導波路の光軸が前記第1レンズの前記点Oの位置で前記光素子側の面と直交し、前記第1レンズの前記虚像の位置点Pが前記光導波路の光軸上にある、請求項3に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記光導波路の光軸が前記第1レンズの前記点Oの位置で前記光素子側の面と直交し、前記第1レンズの前記虚像の位置点Pが前記光導波路の光軸から離れた位置にある、請求項3に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記光導波路の光軸が前記点O以外の位置で前記光素子側の面に直交する、請求項3に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記第1レンズは、前記第2レンズと光結合する側に少なくとも半球状部分を有する、請求項1または請求項2に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記第1レンズは、光軸方向のレンズの厚みが、前記半球状部分の曲率半径よりも大きい、請求項7に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記第1レンズの光軸が、前記光素子の前記光導波路の光軸に対して、前記光素子の前記光導波路におけるビーム径の半分以上オフセットされている、請求項7または請求項8に記載の光デバイス。
【請求項10】
前記第1レンズは、ガラスまたは樹脂のいずれかからなる、請求項1から請求項
9のいずれか一項に記載の光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信速度の高速化への要求から、通信ネットワーク内で使用されている光デバイスを小型化し、複数の光素子を高密度実装することよって、ネットワークの大容量化を実現させている。ネットワークの大容量化のためには、効率的な光通信を行う必要があり、光学系の光結合効率を高める必要がある。特許文献1には、レーザダイオードと光ファイバとを光学的に結合するレーザダイオードモジュールが開示されており、レーザダイオードからの出射光を光ファイバ内に導入するために、レーザダイオードと光ファイバ入射端面とを所定の位置関係で固定し、レーザダイオードと光ファイバとの間にこれらと光結合した集光用のレンズが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたレーザダイオードモジュールでは、レーザダイオードからの光を効率よく外部の光ファイバに導くために、レーザダイオード、集光レンズ、および、光ファイバの各構成部品を極めて高い精度で位置決めすることが要求される。同様に、基板上に形成した光導波路を用いて多数の光素子を高密度に集積した光回路においても、光回路の光導波路からの光を外部の素子に効率よく入力し、さらに外部の素子から光回路の光導波路に光を効率よく入力する必要がある。このため、外部の素子との光結合効率の良好なインターフェースが求められている。
【0005】
本開示は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、外部との光結合効率の良好な光デバイスを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る光デバイスは、光素子の光導波路の端面に接合し、前記光素子からの出射光を放射する第1レンズと、前記第1レンズと光結合し、前記第1レンズからの出射光をコリメート光に変換する第2レンズと、を備え、前記光素子は、レーザ素子、光変調素子、光増幅素子のいずれかであり、前記第1レンズは、前記光素子側の反対側に突出した曲面を有する非球面レンズであって、前記光素子の前記光導波路の前記端面と接合する側が前記第1レンズの光軸と直交する平面に形成され、前記平面の面積が、前記光導波路の光軸に直交する断面の最大面積よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、外部との光結合効率の良好な光デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施形態に係る光デバイスの一例を示す図である。
【
図3】
図1に示す光デバイスにおける、光導波路からの光の広がりを説明するための図である。
【
図4】
図1に示す光デバイスにおける、光素子から光ファイバまでの光路を示す図である。
【
図5】
図1に示す光デバイスにおいて、光導波路の光軸と第1レンズの光軸をずらした際の図である。
【
図6】
図1に示す光デバイスにおける、光導波路と第1レンズの光軸の軸ずらし量に対する、ロス増および反射戻り率の関係を示す特性図である。
【
図7】
図1に示す光デバイスにおいて、第1レンズの像倍率を変えた場合の、光導波路のビーム径に対する、ケラレによるロスの関係を示す特性図である。
【
図8】
図1に示す光デバイスにおいて、レンズの厚みを一定にした場合の、半球状部分の曲率半径に対する、像倍率およびレンズ先端から虚像までの距離の関係を示す特性図である。
【
図9】
図1に示す光デバイスにおける、レンズの曲率半径に対する、収差によるロスの関係を示す特性図である。
【
図10】第1レンズの厚みを厚くした際の、レンズの収差と虚像の関係を説明するための図である。
【
図11】
図1に示す光デバイスにおいて、第1レンズに用いられる非球面レンズを説明するための図である。
【
図12B】非球面レンズのさらに他の例を示す図である。
【
図12C】非球面レンズのさらに他の例を示す図である。
【
図13】従来の光デバイスにおける、光素子から光ファイバまでの光路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施態様の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
(1)本開示に係る光デバイスは、光素子の光導波路の端面に接合し、前記光素子からの出射光を放射する第1レンズと、前記第1レンズと光結合し、前記第1レンズからの出射光をコリメート光に変換する第2レンズと、を備え、前記光素子は、レーザ素子、光変調素子、光増幅素子のいずれかであり、前記第1レンズは、前記光素子側の反対側に突出した曲面を有する非球面レンズであって、前記光素子の前記光導波路の前記端面と接合する側が前記第1レンズの光軸と直交する平面に形成され、前記平面の面積が、前記光導波路の光軸に直交する断面の最大面積よりも小さい。これにより、外部との光結合効率の良好な光デバイスを得ることができ、第1レンズの収差による光のロスを抑えることができる。
【0011】
(2)本開示に係る光デバイスでは、前記第2レンズから出射された前記コリメート光を集光する第3レンズと、前記第3レンズと光結合され、前記第3レンズから出射された集束光が入射される光ファイバと、をさらに備えていてもよい。これにより、光デバイスからの光を光ファイバに効率よく導くことが可能となる。
【0017】
(3)本開示に係る光デバイスでは、前記第1レンズは、屈折率n、前記光素子側の面の所定位置を点O、前記光素子側の面を除く表面上の任意の位置を点S、前記第1レンズによる虚像の位置を点Pとするとき、前記点Oと前記点S間の距離に前記屈折率nを乗算した値から、前記点Sと前記点P間の距離を減算した値が、一定値の関係である。これにより、第1レンズの収差による光のロスを抑えることができる。
【0018】
(4)本開示に係る光デバイスでは、前記光導波路の光軸が前記点Oの位置で前記第1レンズの光素子側の面と直交し、前記第1レンズの前記虚像の位置点Pが前記光導波路の光軸上にあってよい。これにより、第1レンズを光軸に対して対称に形成できるため、製作が容易になる。
【0019】
(5)本開示に係る光デバイスでは、前記光導波路の光軸が前記点Oの位置で前記第1レンズの光素子側の面と直交し、前記第1レンズの前記虚像の位置点Pが前記光導波路の光軸から離れた位置にあってよい。これにより、第1レンズの収差による光のロスを抑えつつ、第1レンズの表面での反射戻り光による影響を小さくすることができる。
【0020】
(6)本開示に係る光デバイスでは、前記光導波路の光軸が前記点O以外の位置で前記光素子側の面に直交してよい。これにより、第1レンズの収差による光のロスを抑えつつ、第1レンズの表面での反射戻り光による影響を小さくすることができる。
【0021】
(7)本開示に係る光デバイスでは、前記第1レンズは、前記第2レンズと光結合する側に少なくとも半球状部分を有する。これにより、光導波路から放出される光の広がりを抑えることができ、第2レンズのパワーを小さくすることができる。また、各構成部材の実装時における位置合わせ精度の許容値を大きくすることができる。
【0022】
(8)本開示に係る光デバイスでは、前記第1レンズは、光軸方向のレンズの厚みが、前記半球状部分の曲率半径よりも大きい。これにより、第1レンズの像倍率が大きくなり、光導波路のビーム径が小さい場合も光の広がりを抑えることができる。
【0023】
(9)本開示に係る光デバイスでは、前記第1レンズの光軸が、前記光素子の前記光導波路の光軸に対して、前記光素子の前記光導波路におけるビーム径の半分以上オフセットされていてもよい。これにより、第1レンズの表面での反射戻り光による影響を小さくすることができる。
【0024】
(10)本開示に係る光デバイスでは、前記第1レンズは、ガラスまたは樹脂のいずれかからなる。これにより、レンズ材料の選択肢が増える。また、樹脂を用いる場合は、3Dプリンティング技術を用いて形成できる。
【0025】
[本願発明の実施形態の詳細]
本開示に係る光デバイスの具体例を、以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、複数の実施形態について組み合わせが可能である限り、本発明は任意の実施形態を組み合わせたものを含む。なお、以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成部材等は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0026】
(実施形態1)
本実施形態では、光デバイスに用いる光素子として、レーザ素子を例に説明するが、光導波路から光を外部へ放出する光素子であれば、レーザ素子に限らず、光変調素子、光増幅素子であってもよい。
図1は、本開示の実施形態に係る光デバイスの一例を示す図であり、
図2は、
図1に示す光デバイスの斜視図である。また、
図3は、
図1に示す光デバイスにおける、光導波路からの光の広がりを説明するための図であり、
図4は、
図1に示す光デバイスにおける、光素子から光ファイバまでの光路を示す図である。なお、
図4では、光素子と光ファイバの記載を省略している。
【0027】
本実施形態の光デバイス1は、光学系の構成部材として、レーザ素子であるレーザダイオードチップ(以下、「LDチップ」という。)40、第1レンズ10、第2レンズ20、第3レンズ30、および、シングルモードファイバ(SMF)である光ファイバ60を備えている。LDチップ40は、熱伝導率の大きい例えば窒化アルミ製のサブキャリア52の上に実装されている。第2レンズ20は、後述するように第1レンズから入射した光を平行ビームであるコリメート光に変換するコリメートレンズであり、LDチップ40を実装したサブキャリア52とともにキャリア51の上に固定されている。キャリア51は、例えばFe-Ni-Co合金(例えば、商品名コバール)等を用いたパッケージ50内に配置されている。LDチップ40の駆動信号は、パッケージ50の外部から、フィードスルー53を介して供給される。
【0028】
本実施形態の第1レンズ10は、樹脂から形成され、LDチップ40の光導波路41の端面に接合して設けられている。第1レンズ10を樹脂から形成する場合は、3Dプリンティング技術を用いて作製することができる。第1レンズ10と第2レンズ20とは光結合されており、第2レンズは調芯された状態で、例えばエポキシ系などの接着剤で高精度にキャリア51上に固定される。光ファイバ60はフェルール61内に収納された状態で、レセプタクル62内に位置決め保持される。第3レンズ30は集光レンズであり、第2レンズ20からのコリメート光は、第3レンズ30で集光され、光ファイバ60に結合する。第3レンズ30は、パッケージ50の外に配置したホルダ63に収納されており、第3レンズ30と光ファイバ60は光結合が得られるように調芯され、ホルダ63とパッケージ50とは、例えば、YAG溶接にて固定される。
【0029】
本開示のLDチップ40は、光導波路41を有する光素子である。光導波路付き半導体レーザに限らず、例えば、ダブルヘテロ接合を有する半導体レーザは、活性層が周囲のクラッド層よりも大きな屈折率を有しているため光導波路を形成しており、光導波路を有する光素子であるといえる。
図3に示すように、本実施形態では、第1レンズ10は、半球レンズとして形成されており、LDチップ40の光導波路41の端面に接合して設けられている。そして、第1レンズ10の光軸(中心軸)は、LDチップ40の光導波路41の光軸と一致するように、オフセットなしで設けられている。
【0030】
光デバイス1は、第1レンズ10がLDチップ40の光導波路41の端面に設けられているため、
図4に示すように、図示しないLDチップ40の光導波路41から放出された光が、第1レンズ10によって効率よく第2レンズ20に導かれる。そして、第2レンズ20でコリメート光Aに変換された後、第3レンズで集光されて図示しない光ファイバ60に導かれる。このため、光デバイス1は、従来に比べて外部の光ファイバ60との光結合効率の良好な光デバイス1を実現している。
【0031】
ここで、本開示の光デバイスと従来の光デバイスとの違いについて説明する。
図13は、比較のためのモデルとして、従来の光デバイスにおける、光素子から光ファイバまでの光路を示す図であり、
図4と同様に、光素子と光ファイバの記載を省略している。従来の光デバイス1’においても、第1レンズ10’、コリメートレンズである第2レンズ20’、集光レンズである第3レンズ30を備えており、図示しないLDチップ40の光導波路41から放出される光が、第1レンズ10’によって第2レンズ20’に導かれ、さらに、第2レンズ20’でコリメート光Aに変換された後、第3レンズ30で集光されて光図示しない光ファイバ60に導かれる。
【0032】
図13に示す光デバイス1’は、開口数NA0.65の第1レンズ10’に対して、光導波路のビーム半径ωが0.8μm、波長λが1.55μmのガウシアンビームが入射した場合の図を示している。ここで、光導波路41の開口数NAは、NA=λ/(π×ω)から求まり、0.62である。
図13の一部拡大図から分かるように、光導波路からの光の拡散のために、第1レンズ10’では、破線Bで示すように周辺光がケラレる現象が生じている。
図13に示す光デバイス1’の場合、光のロスは1.0dBとなる。なお、一般に、ビームのNAが0.6以上(ビーム半径ωが0.8μm以下)となると、光導波路からの光の広がりが大きくなりレンズで光を受けきることが難しくなる。このため、光のロスが発生する。
【0033】
次に、本実施形態の光デバイス1について説明する、
図3は、本実施形態の光デバイスにおける、光導波路41からの光の広がりを説明するための図である。
図3に示す光デバイス1は、従来の光デバイス1’の場合(
図13参照。)と同様に、光導波路41の開口数NAは0.62で、光導波路41からは、ビーム半径ωが0.8μm、波長λが1.55μmのガウシアンビームが出射される場合を示している。第1レンズ10は、屈折率nが1.5、曲率半径Rが50μmの半球レンズであり、第2レンズ20は開口数NAが0.65のコリメートレンズである。
【0034】
図3に示すように、本実施形態の光デバイス1では、LDチップ40の光導波路41の端面に接合して第1レンズ10を形成している。光デバイス1ではLDチップ40と第1レンズ10との間に空気を介さないため、光導波路41からの光は漏れなく第1レンズ10に入射する。第1レンズ10の屈折率を屈折率nとした場合、LDチップ40からの光の広がりは、第1レンズ10への入射時は屈折により空気中の1/n倍となる。一方、半球レンズである第1レンズ10の中心から入射した光はレンズ表面に垂直に入射し、出射時は屈折しないため、その広がりが維持される。そのため、LDチップ40からの光の広がりは、第1レンズ10全体で空気中の1/n倍に抑えられる。
【0035】
本実施形態の光デバイス1では、第1レンズ10の屈折率nを1.5とした場合に、光導波路41からの光を、第2レンズ20にロス0.06dBとほぼロスがない状態で導くことができる。これによって、第2レンズ20のパワーを小さくすることでき、実装時の調芯のずれに対するトレランスを大きくできる。
【0036】
(実施形態2)
実施形態1では、光導波路41の光軸と第1レンズ10の光軸(中心軸)を一致させているため、第1レンズ10の表面に光が垂直に入射することとなり、表面での反射光は光をそのまま逆向きにたどることとなる。これにより、光導波路41側への反射戻り光の影響が大きくなる。本実施形態2では、第1レンズ10の表面での反射戻り光の問題に対処するため、第1レンズ10の光軸を光導波路41の光軸とずらしている。なお、実施形態5で後述する、光の進行方向が第2レンズ20から第1レンズ10に入射する場合も、第1レンズ10の表面で反射戻り光が発生し、光ファイバ等の光導波路影響を与えることから、第1レンズ10の光軸を光導波路41の光軸とずらすことが望ましい。
【0037】
図5は、
図1に示す光デバイスにおいて、光導波路の光軸と第1レンズの光軸をずらした際の図である。
図5では、簡単化のため、LDチップ40の記載を省略している。また、
図5では、第1レンズ10の光軸を、図示しないLDチップ40の光導波路41の光軸に対して、軸ずらし量dだけ紙面上方に平行にずらし、オフセットを設けている。このため、第1レンズからの出射光の内、第2レンズ20では、紙面上部の入射光がコリメート光に変換されずにケラレている。
【0038】
図6は、
図1に示す光デバイスにおける、光導波路の光軸と第1レンズの光軸の軸ずらし量に対する、ロス増および反射戻り率の関係を示す特性図である。
図6において、実線は、横軸軸ずらし量(μm)に対するロス増(dB)を示し、破線は、軸ずらし量に対する反射戻り率(dB)を示している。
図6の特性図における、光導波路41、第1レンズ10、第2レンズ20等の諸元は、実施形態1で説明したものと同様である。
図6から分かるように、軸ずらし量dを大きくすれば、ロス増が大きくなるものの、反射戻り率は著しく減少する。例えば、軸ずらし量dを1μm以上にすれば、ほとんどロス増なく、反射戻り光を-40dB以下に抑制できる。なお、LDチップ40の光導波路41のビーム径との関係から見た場合、光導波路41のビーム径の半分、すなわちビーム半径ω(本実施形態では、0.8μm)以上をオフセットさせることで、反射戻り光を十分抑制することができる。
【0039】
(実施形態3)
実施形態1、実施形態2では、光導波路41のビーム半径ωが0.8μmの場合について説明したが、光ビームの広がり角はビーム半径ωに反比例して大きくなる。このため、実施形態2の構成でも、ビーム半径ωが小さくなるにしたがって、第2レンズ20で光がケラレ、ロスが発生することになる。
【0040】
図7は、
図1に示す光デバイスにおいて、第1レンズの像倍率を変えた場合の、光導波路のビーム半径に対する、ケラレによるロスの関係を示す特性図である。
図7を参照すれば、像倍率1.5倍の半球レンズでは、ビーム半径0.7μm以下でロスが顕著に大きくなる。例えば、ビーム半径が0.5μmでは、ロスは1.2dBを超える。一方、像倍率を1.8倍、2.3倍と大きくすると、光の広がりは反比例して小さくなるため、ロスは下がり、より小さなビーム半径にも対応できることが分かる。
【0041】
半球レンズの像倍率は、空気の屈折率に対する半球レンズの屈折率nの比で決まるため、屈折率nの半球レンズの像倍率はn倍となる。このため、像倍率を大きくする1つ目の手段は、第1レンズ10に大きな屈折率nの半球レンズを用いることであり、屈折率nに比例して像倍率を大きくすることができる。そして2つ目の手段は、第1レンズ10の形状を変更し、球面の曲率半径Rをレンズの厚み(レンズの光軸方向長さ)より小さくすることである。
【0042】
図8は、
図1に示す光デバイスにおいて、レンズの厚みを一定にした場合の、半球状部分の曲率半径に対する、像倍率およびレンズ先端から虚像までの距離の関係を示す特性図であり、
図9は、
図1に示す光デバイスにおける、曲率半径に対する、収差によるロスの関係を示す特性図である。
図8において、実線は、レンズ曲率半径(μm)に対する像倍率を示し、破線は、レンズ曲率半径(μm)に対するレンズ先端から虚像までの距離(μm)を示している。また、
図10は、第1レンズの厚みを厚くした際の、レンズの収差と虚像の関係を説明するための図である。
【0043】
図8では、第1レンズ10の厚み(光軸方向長さ)Dは50μ で一定とし、像倍率を大きくするために半球状部分11の曲率半径Rを小さくした場合を示している。曲率半径Rがレンズの厚みDと等しい50μmの場合は、第1レンズ10は半球レンズになる。また、
図9は、光導波路41のビーム半径ωが0.5μmで一定とした場合を示している。そして、本実施形態3では、第1レンズ10のレンズの厚みDを、半球状部分11の曲率半径Rよりも大きくしているため、
図10に示すように、大レンズの形状は砲弾形状となっている。また、光導波路41からの光の入射位置を示す点Oは、半球状部分11の中心から光導波路41側にずれた位置となっている。
図10において、虚像の位置は点Pで示している。
【0044】
図8を参照すれば、第1レンズ10の像倍率を2.3倍にするためには、曲率半径Rを30μmにすればよいことが分かる。この場合の虚像の位置Pはレンズ先端から75μmとの位置となる。一方で、
図9を参照すれば、曲率半径Rが小さくなるほど収差によるロスは大きくなる。像倍率2.3倍(曲率半径30μm)では、ロスは0.29dBとなり、ケラレによるロスより大きくなる。
図10に示す部分拡大図は、虚像位置近傍を拡大した図であり、収差のために虚像が1点に集光しないことを示している。このように、本実施形態では、レンズの厚みが半球状部分11の曲率半径Rよりも大きい第1レンズ10を用いているため、像倍率を大きくでき、小さなビーム半径ωに対応できる。しかし、本実施形態では、第1レンズ10への入射光の位置(光源)とレンズ球面の中心位置が異なるため、収差によるロスが発生し、曲率半径Rが小さくなるほど収差によるロスは大きくなる。
【0045】
(実施形態4)
収差によるロスを抑制するためには、第1レンズ10の非球面設計が必要となる。
図11は、
図1に示す光デバイスにおいて、第1レンズに用いられる非球面レンズを説明するための図である。本実施形態では、第1レンズ10Aの性質として、光源からの光を虚像の1点に集光させるために、1点から出た光が1点に集まる場合、どの経路を通っても光路長が等しくなるという性質を利用している。
【0046】
すなわち、
図11において、第1レンズ10Aの屈折率を屈折率n、LDチップ40側の面の所定位置を点O、第1レンズ10Aの光導波路41の端面側を除く表面上の任意の位置を点S、第1レンズ10Aによる虚像の位置を点Pとするときに、点Oと点S間の距離に屈折率nを乗算した値から、点Sと点P間の距離を減算した値が、一定値の関係となるようにしている。この関係を式で表せば、次式で表せる。
n×点OS間の距離-点SP間の距離=一定値・・・(式1)
【0047】
図11に示す第1レンズ10Aは、光導波路41の光軸が点Oの位置で第1レンズ10AのLDチップ40側の面と直交している場合を示しており、虚像の位置点Pが光導波路41の光軸上に位置するように設計されている。この場合、第1レンズ10Aの光軸は光導波路41の光軸と一致し、光軸に対してレンズの形状を対称に形成することができる。そして、第1レンズ10Aは、光導波路41の端面と接合する側が第1レンズ10Aの光軸と直交する平面に形成され、この平面の面積が、第1レンズ10Aの光軸に直交する断面の最大面積よりも小さくなっており、式1の関係を満たす像倍率2.3倍の無収差レンズを示している。第1レンズ10Aでは、図示しない光導波路41のビーム半径ωが0.5μmでのロスは0.09dBとなるが、このロスはケラレによるロスで収差によるロスではない。また、光導波路41からの光は、光軸を除いてレンズ表面に垂直入射しないため、反射戻り率は第1レンズ10の光軸を光導波路41の光軸とずらさなくても-45dBと良好である。このように、第1レンズ10Aでビームの開口数NAが小さくできるため、第2レンズ以降のレンズ設計は容易になる。
【0048】
図12Aは、非球面レンズの他の例を示す図であり、第1レンズ10Bは、
図11に示した第1レンズ10Aよりも、式1における一定値の大きさを小さく(マイナス側に大きく)した場合を示している。また、
図12Bは、非球面レンズのさらに他の例を示す図であり、第1レンズ10Cは、式1における一定値の大きさをマイナス無限大にした場合を示している。このように、本実施形態では、第1レンズの形状を種々選択することが可能である。また、本実施形態の第1レンズ10Aは反射戻り光の影響が少ないが、実施形態2で説明したように、第1レンズ10Aの光軸を光導波路41の光軸とずらすことにより、レンズ表面からの反射戻り光の影響をさらに抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態で示す非球面レンズは、虚像の位置点Pを光導波路41の光軸から離れた位置にすることもできる。
図12Cは、非球面レンズのさらに他の例を示す図である。
図12Cに示す第1レンズ10Dは、光導波路の光軸が点Oの位置で第1レンズ10DのLDチップ40側の面と直交し、第1レンズ10Dの虚像の位置点Pが光導波路41の光軸から離れた位置となるように(式1)を用いて設計している。このため、第1レンズ10Dの光導波路41と接する位置点O(光源の位置)と虚像の位置点Pを結ぶ直線(光軸)が、光導波路41の光軸と交差してずれている。このように、本実施形態では、第1レンズ10Dの光軸が光導波路の光軸に対してずれた状態でも非球面設計は可能であり、これにより、反射戻り光の影響が抑制されるだけでなく、光軸のずれによる収差が無くなり、ロス増も抑制される。
【0050】
なお、本実施形態においても、実施形態2と同様に、第1レンズ10Aの光軸と光導波路41の光軸とをずらしてもよく、この場合、光導波路41の光軸が第1レンズ10Aの点O以外の位置でLDチップ40側の面に直交するようにすればよい。また、
図12Cで示す虚像の位置点Pが光導波路41の光軸から離れた位置にある第1レンズ10Dの場合も、同様に、光導波路41の光軸が第1レンズ10Dの点O以外の位置でLDチップ40側の面に直交させてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1、1'…光デバイス、10、10'、10A、10B、10C…第1レンズ、11…半球状部分、20、20'…第2レンズ、30…第3レンズ、40…LDチップ、41…光導波路、50…パッケージ、51…キャリア、52…サブキャリア、53…フィードスルー、60…光ファイバ、61…フェルール、62…レセプタクル、63…ホルダ。