(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】インクジェット捺染インクおよび画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20241210BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20241210BHJP
D06P 1/44 20060101ALI20241210BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241210BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C09D11/322
D06P5/30
D06P1/44 J
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020179022
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 謙
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓史
【審査官】井上 莉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011320(JP,A)
【文献】特開2018-053094(JP,A)
【文献】特開2009-035579(JP,A)
【文献】特開2010-163534(JP,A)
【文献】特開2011-038025(JP,A)
【文献】特開2018-001735(JP,A)
【文献】特開2012-179789(JP,A)
【文献】特開2016-176016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
D06P
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、ガラス転移温度が50℃以上であるポリマー粒子と、水とを含むインクジェット捺染インクであって、
前記顔料の含有量M1と、前記ポリマー粒子の含有量M2との比M2/M1は、
8~19(質量比)であ
り、
前記顔料の平均粒子径d1と、前記ポリマー粒子の平均粒子径d2との比d2/d1は、0.5~1.9である、
インクジェット捺染インク。
【請求項2】
前記ポリマー粒子は、無色である、
請求項1に記載のインクジェット捺染インク。
【請求項3】
d2/d1は、1.1~
1.9である、
請求項
1または2に記載のインクジェット捺染インク。
【請求項4】
前記ポリマー粒子は、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含む、
請求項1~
3のいずれか一項に記載のインクジェット捺染インク。
【請求項5】
前記樹脂の一部は、架橋している、
請求項
4に記載のインクジェット捺染インク。
【請求項6】
前記ポリマー粒子の平均粒子径d2は、80~400nmである、
請求項1~
5のいずれか一項に記載のインクジェット捺染インク。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載のインクジェット捺染インクの液滴を、インクジェット方式で布帛上に付与する工程を含む、
画像形成方法。
【請求項8】
前記布帛に付与した前記インクジェット捺染インクを、(Tg+50)℃以下(Tgは、前記ポリマー粒子のガラス転移温度)の温度で乾燥させる工程をさらに含む、
請求項7に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染インクおよび画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染方法として、従来では、染料で満たされた浴に布帛を浸漬して捺染を行う吸尽捺染などが知られているが、染色に長時間を要することから、生産効率が低かった。近年では、短時間で染色でき、生産効率が高いことなどから、インクジェット方式により布帛への画像形成を行う、所謂、インクジェット捺染が広く行われている。
【0003】
インクジェット捺染では、インクの微小液滴をインクジェット記録ヘッドから吐出させ、布帛に着弾させて画像形成を行う。インクジェット捺染で使用されるインク(インクジェット捺染インク)としては、染料インクが知られている。例えば、綿、レーヨン繊維、麻繊維などを含む布帛向けでは、反応染料を含むインクなどが知られている。
【0004】
染料インクでは、染料が布帛の繊維中に溶解または繊維と反応するため、繊維の風合いを失わずに高い堅牢性を有する画像を形成しやすい。一方で、溶解しなかった染料または反応しなかった染料を洗い流す洗浄工程が必要となるため、生産効率を一層高める観点では、そのような工程を省略できることが望まれている。
【0005】
これに対し、インクジェット捺染に適した顔料インクの検討も進められている。例えば、顔料と、ウレタン樹脂粒子と、界面活性剤と、水とを含有する顔料捺染インクジェットインク組成物が知られている(例えば特許文献1参照)。実施例では、インク組成物中のウレタン樹脂粒子の含有量は、顔料の含有量に対して1.5以下であることが示されている。
【0006】
また、顔料と、Tgが20℃以下のポリマー粒子分散体と、水とを含む布地透け防止用着色剤組成物も知られている(例えば特許文献2参照)。この文献では、着色剤組成物を布地の裏面に付与した後、溶媒を蒸発させるとともに、ポリマー粒子を被膜化させて、顔料をポリマー粒子とともに布地に固着させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019―163397号公報
【文献】特開2008-133461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示されるような、樹脂粒子の含有量が相対的に少ないインクを布帛上に付与しても、得られる画像の濃度は低く、色再現性が得られないという問題があった。
【0009】
また、特許文献2の着色剤組成物は、Tgが低いポリマー粒子を含むため、布帛に付与した着色剤組成物を乾燥させる際に、ポリマー粒子が被膜化して、繊維同士が接着されやすい。それにより、得られる画像形成物は硬くなりやすく、布帛の風合いが損なわれやすい。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、布帛の風合いを損なうことなく、十分な濃度を有する画像を形成可能なインクジェット捺染インク、およびそれを用いた画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のインクジェット捺染インクおよび画像形成方法に関する。
【0012】
本発明のインクジェット捺染インクは、顔料と、ガラス転移温度が50℃以上であるポリマー粒子と、水とを含み、前記顔料の含有量M1と、前記ポリマー粒子の含有量M2との比M2/M1は、3~19(質量比)である。
【0013】
本発明の画像形成方法は、本発明のインクジェット捺染インクの液滴を、インクジェット方式で布帛上に付与する工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、布帛の風合いを損なうことなく、十分な濃度の画像を形成可能なインクジェット捺染インク、およびそれを用いた画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1Aは、従来のインクを布帛に付与した時の、布帛の表面近傍のインクの付着状態のイメージを示す断面図であり、
図1Bは、本発明のインクを布帛に付与した時の、布帛の表面近傍のインクの付着状態のイメージを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、顔料インクに含まれるポリマー粒子のTgを50℃以上とし、かつポリマー粒子の含有量M2を、顔料の含有量M1に対して適度に多くすることで、布帛の風合いを損なうことなく、高濃度の画像を形成できることを見出した。この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0017】
図1Aは、従来のインクを布帛に付与した時の、布帛の表面近傍のインクの付着状態のイメージを示す断面図であり、
図1Bは、本発明のインクを布帛に付与した時の、布帛の表面近傍のインクの付着状態のイメージを示す断面図である。なお、
図1Aでは、従来のインクの一例として、ポリマー粒子を含まないインクを用いた例を示す。
【0018】
布帛の表面に、ポリマー粒子を含まないか、または、ポリマー粒子の含有量が相対的に少ない従来の顔料インクを付与した場合、インクの乾燥時に毛管現象により繊維10と繊維10の隙間に顔料粒子11が集まりやすく、繊維10の表面には顔料粒子11が存在しにくい(
図1A参照)。そのため、得られる画像は、繊維10の地色が出やすく、顔料粒子11の光学濃度(画像濃度)が出にくい。
【0019】
これに対し、本発明の顔料インクは、顔料粒子11に加えて、ポリマー粒子12をさらに多く含む。そのような顔料インクを布帛の表面に付与した場合、インクの乾燥時に、繊維10と繊維10の隙間に、ポリマー粒子12が適度に集まるため、繊維10と繊維10の隙間に集まる顔料粒子11の割合を少なくすることができる(
図1B参照)。その結果、繊維10の表面に顔料粒子11が分布しやすくなるため、繊維10の地色が目立ちにくく、顔料粒子11の光学濃度(画像濃度)を出やすくすることができる。
【0020】
また、顔料粒子11は、通常、屈折率が高いため、従来のように、顔料粒子11が特定の領域に密集すると、当該密集した領域において、顔料粒子11の表面での光反射が増えるため、色がくすんで見えやすくなる。これに対し、本発明の顔料インクを用いることで、体積当たりの顔料粒子11の濃度を低くし、体積当たりの光の反射を少なくすることができるため、色がくすんで見えにくく、きれいな色を再現することができる。
【0021】
また、特許文献1のようにポリマー粒子12のTgが20℃以下と低い場合、インクの乾燥時にポリマー粒子12が融着して被膜化し、繊維10同士が接着されるため、得られる画像形成物は硬くなりやすい。これに対し、本発明の顔料インクに含まれるポリマー粒子12のTgは50℃以上と高いため、インクの乾燥時にポリマー粒子12同士が融着しにくく、被膜化しにくい。それにより、繊維10同士が接着されにくいため、画像形成物は硬くなりにくく、布帛の風合いが損なわれにくい。以下、本発明のインクの構成について説明する。
【0022】
1.インクジェット捺染インク
インクジェット捺染インクは、顔料と、ポリマー粒子と、水とを含む。
【0023】
1-1.顔料
顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料または無機顔料でありうる。
【0024】
橙または黄顔料の例としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213等が挙げられる。
【0025】
赤またはマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0026】
青またはシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0027】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193が含まれる。
【0028】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0029】
顔料の市販品の例には、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3な870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業製); KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(大日本インキ化学製);Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、ColortexBlue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素製);Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ製)、Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリ製);Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、Hostaperm Blue B2G(クラリアント製);カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、CF9(三菱化学製)が含まれる。
【0030】
顔料は、インク中における分散性を高める観点から、顔料分散剤でさらに分散されていることが好ましい。顔料分散剤については、後述する。
【0031】
また、顔料は、自己分散性顔料であってもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0032】
親水性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、およびリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0033】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0034】
顔料の平均粒子径d1は、インク中で分散している顔料の平均粒子径、具体的には、インクが顔料分散剤を含む場合は、顔料分散剤が吸着した顔料粒子の平均分散粒径(Z平均)を意味する。顔料の平均粒子径d1は、インクジェット方式による出射性を損なわない範囲であればよく、特に制限されないが、50~350nmであることが好ましく、70~250nmであることがより好ましい。顔料の分散粒径は、動的散乱を用いた粒径分布測定器により測定することができる。
【0035】
顔料の平均粒子径d1は、主に、顔料粒子自体の大きさによって調整されうるが、顔料分散剤の分子量や含有量、顔料粒子の分散処理条件などによっても調整されうる。
【0036】
顔料の含有量M1は、特に限定されないが、インクの粘度を上記範囲内に調整しやすく、かつ高濃度の画像を形成可能にする観点では、インクに対して0.3~10質量%であることが好ましい。顔料の含有量M1が0.3質量%以上であると、ポリマー粒子を多く含有させることができるため、得られる画像の色が鮮やかになりやすく、5質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、出射安定性が損なわれにくい。同様の観点から、顔料の含有量M1は、インクに対して0.5~3質量%であることがより好ましい。
【0037】
1-2.ポリマー粒子
Tgが50℃以上のポリマー粒子は、顔料粒子とともに存在して、顔料粒子の体積密度を低減するとともに、粒子の体積を増やして、顔料粒子が繊維と繊維の隙間に集まりにくくしうる。ポリマー粒子のTgが50℃以上であると、布帛に付与したインクを乾燥させる際に、ポリマー粒子が融着して被膜化するのを抑制できる。それにより、画像形成物が硬くなりにくく、布帛の風合いが損なわれにくくしうる。同様の観点から、ポリマー粒子のTgは、80~150℃であることがより好ましい。ポリマー粒子のTgが150℃以下であると、ポリマー粒子や顔料粒子の布帛への定着性がさらに損なわれにくい。
【0038】
ポリマー粒子のTgは、以下の方法で測定することができる。
まず、インクから分離したポリマー粒子を乾燥させて、試料とする。この試料を、示差走査熱量測定法により、JIS K7121に準拠して、昇温速度10℃/分にて測定を行い、ガラス転移温度を求めることができる。
【0039】
ポリマー粒子のTgは、ポリマー粒子を構成する樹脂の組成や架橋度などによって調整することができる。
【0040】
また、ポリマー粒子は、顔料粒子の色を高度に再現する観点から、無色であることが好ましい。無色なポリマー粒子とは、具体的には、UV-Vis分光測定で得られる吸収スペクトルにおいて、波長400~700nmにUV吸収ピークを持たないポリマー粒子をいう。
【0041】
さらに、ポリマー粒子は、透光性を有することが好ましく、透明であることがより好ましい。すなわち、ポリマー粒子は、無色透明であることが特に好ましい。
【0042】
そのようなポリマー粒子としては、少なくともTgが上記範囲を満たすものであれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選ばれる一以上の樹脂を含むことが好ましい。中でも、Tgが適度に高く、風合いが損なわれにくい観点では、ポリマー粒子は、(メタ)アクリル系樹脂およびポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含むことが好ましい。
【0043】
((メタ)アクリル系樹脂)
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリロニトリルの少なくとも一方の単独重合体、またはそれと他の共重合モノマーとの共重合体でありうる。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステルは、単官能の(メタ)アクリル酸エステルであり、その例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシルなどが含まれ、好ましくはメタクリル酸メチルである。(メタ)アクリロニトリルは、アクリロトリルまたはメタクリロイルニトリルである。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位と(メタ)アクリロニトリルに由来する構造単位の合計含有量は、樹脂を構成する全構造単位に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上でありうる。
【0046】
他の共重合モノマーは、他の単官能のビニル系モノマーや多官能のビニル系モノマー(架橋性ビニル系モノマー)でありうる。
【0047】
他の単官能のビニル系モノマーの例には、エチレン性不飽和カルボン酸(例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸など)、官能基含有(メタ)アクリレート(例えばトリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレートなどの第4級アンモニウム基含有(メタ)アクリレートや、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレートなど)、アクリルアミド、スチレン類(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなど)、飽和脂肪酸ビニル類(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)が含まれる。他の単官能のビニル系モノマー由来の構造単位の含有量は、樹脂を構成する全構造単位に対して50質量%以下としうる。
【0048】
多官能のビニル系モノマーの例には、ビニル化合物(例えば1,4-ジビニロキシブタン、ジビニルベンゼンなど)、アリル化合物(例えばジアリルフタレート、トリアリルシアヌレートなど)、多官能(メタ)アクリレート類(例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレートなど)が含まれる。多官能のビニル系モノマー由来の構造単位の含有量は、樹脂を構成する全構造単位に対して20質量%以下、好ましくは0.5~10質量%としうる。
【0049】
また、ポリマー粒子同士をより融着させにくくする観点では、アクリル系樹脂は、架橋していてもよい(すなわち、架橋アクリル系樹脂であってもよい)。架橋アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリロニトリルの少なくとも一方を含む単官能のビニル系モノマーと、多官能のビニル系モノマーとの共重合体である。そのような架橋(メタ)アクリル系樹脂は、インク乾燥時に融着しにくく、被膜化しにくいからである。
【0050】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂は、スチレン類の単独重合体、または、スチレン系類と他の共重合モノマーとの共重合体でありうる。
【0051】
スチレン類は、上記と同様のものを使用できる。スチレン類に由来する構造単位は、樹脂を構成する全構造単位に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上でありうる。他の共重合モノマーは、上記と同様のものを使用できる。
【0052】
ポリスチレン系樹脂は、架橋ポリスチレン系樹脂であってもよい。架橋ポリスチレン系樹脂は、スチレン類を含む単官能のビニル系モノマーと多官能のビニル系モノマーとの共重合体である。
【0053】
これらの中でも、ポリマー粒子は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、メタクリレート・アクリロニトリル共重合体、ポリスチレンのまたはスチレン共重合体を含む粒子であることが好ましい。
【0054】
(共通物性)
ポリマー粒子を構成する樹脂(水分散性樹脂)の酸価は、水系媒体中に良好に分散しうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば20~140mgKOH/g、好ましくは30~70mgKOH/gである。酸価は、JIS K 0070またはISO 3961に準じて測定することができる。具体的には、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数として測定することができる。
【0055】
ポリマー粒子の平均粒子径d2は、特に制限されないが、顔料粒子が、布帛の繊維と繊維の隙間に集まりにくくする観点では、顔料粒子の平均粒子径d1に対して小さすぎないことが好ましい。具体的には、顔料の平均粒子径d1と、ポリマー粒子の平均粒子径d2との比d2/d1は、0.5~3であることが好ましく、1.1~2.5であることがさらに好ましい。
【0056】
ポリマー粒子の平均粒子径d2は、例えば80~400nmであることが好ましく、150~300nmであることがより好ましい。ポリマー粒子の平均粒子径d2は、顔料粒子の平均粒子径d1と同様の方法で測定することができる。
【0057】
インクにおけるポリマー粒子の含有量M2と、顔料の含有量M1との比M2/M1は、3~19(質量比)であることが好ましい。M2/M1が3(質量比)以上であると、インクを布帛に付与した時に、布帛の繊維と繊維の隙間に顔料粒子が集まる割合を少なくすることができる。そのため、顔料粒子を繊維の表面に均一に分布させやすくなるため、十分な画像濃度が得られやすい。一方、M2/M1が19(質量比)以下であると、インク中の顔料粒子の割合が少なくなりすぎないため、画像濃度が低下しにくいだけでなく、ポリマー粒子の割合が多すぎないため、風合いも損なわれにくい。同様の観点から、比M2/M1は、5~17(質量比)であることがより好ましく、8~14(質量比)であることがさらに好ましい。
【0058】
具体的には、ポリマー粒子の含有量M2は、インクに対して1~10質量%であることが好ましく、3~8質量%であることがより好ましい。ポリマー粒子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0059】
1-3.溶媒
溶媒は、特に制限されないが、水を含むことが好ましく、水溶性有機溶剤をさらに含むことが好ましい。
【0060】
水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されないが、インクを布帛の内部まで浸透させやすくする観点、インクジェット方式での出射安定性を損なわれにくくする観点では、インクが乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、インクは、沸点が200℃以上の高沸点溶媒を含むことが好ましい。
【0061】
沸点が200℃以上の高沸点溶媒は、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤であればよく、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類であることが好ましい。
【0062】
沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコールなどの2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)などの3価以上のアルコール類が含まれる。
【0063】
沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);およびポリプロピレングリコールなどの2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオールなどの3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0064】
溶媒は、上記高沸点溶媒以外の他の溶媒をさらに含んでもよい。他の溶媒の例には、沸点が200℃未満の多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサントリオールなど);沸点が200℃未満の多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル;1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);およびスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0065】
1-4.他の成分
インクジェット捺染インクは、必要に応じて他の成分をさらに含みうる。他の成分の例には、顔料分散剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤などが含まれても良い。
【0066】
(顔料分散剤)
顔料分散剤は、インク中で、顔料粒子の表面を取り囲むように存在するか、または、顔料粒子の表面に吸着されて、顔料分散体を形成し、顔料を良好に分散させる。そのような顔料分散剤は、顔料の分散性に優れる観点から、高分子分散剤であることが好ましい。
【0067】
高分子分散剤の例には、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤が含まれる。
【0068】
アニオン性分散剤は、カルボン酸基、リン含有基およびスルホン酸基からなる群より選ばれる親水性基を有する高分子分散剤でありうる。中でも、カルボン酸基を有する高分子分散剤が好ましい。
【0069】
カルボン酸基を有する高分子分散剤の例には、ポリカルボン酸またはその塩が含まれる。ポリカルボン酸の例には、アクリル酸またはその誘導体、マレイン酸またはその誘導体、イタコン酸またはその誘導体、フマル酸またはその誘導体から選ばれる単量体の(共)重合体およびこれらの塩が含まれる。共重合体を構成する他の単量体の例には、スチレンやビニルナフタレンが含まれる。
【0070】
アニオン性分散剤のアニオン性基当量は、顔料粒子を十分に分散させうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば1.1~3.8meq/gであることが好ましい。アニオン性基当量が上記範囲内であると、アニオン性分散剤の分子量を大きくしなくても、高い顔料分散性が得られやすい。アニオン性基当量は、酸価の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0071】
カチオン性分散剤が有するカチオン性基の例には、第2級アミノ基(イミノ基)、第3級アミノ基または第4級アンモニウム基などでありうる。カチオン性分散剤は、上記のような顔料分散体を形成しうるものであればよく、特に制限されないが、例えばカチオン性重合体(ポリマーまたはプレポリマー)でありうる。
【0072】
カチオン性重合体の例には、カチオン性基(第3級アミノ基または第4級アンモニウム基)を有するエチレン性不飽和モノマーの(共)重合体が含まれる。
【0073】
第3級アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマーの例には、ジメチルまたはジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルまたはジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;ジメチルまたはジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド,ジメチルまたはジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド類;アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類などが含まれる。
【0074】
第4級アンモニウム基を有するエチレン性不飽和モノマーの例には、2-(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(メタ)アクリロイロキシ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの(メタ)アクリロイロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩;アクリルアミド-2-(アクリロイルオキシ)メチルトリメチルアンモニウムクロリド、(3-(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3-(メタ)アクリロイルアミノ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの(メタ)アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム塩;2-(メタ)アクリロイロキシエチルベンジルアンモニウムクロライド、2-(メタ)アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの2-(メタ)アクリロイロキシアルキルベンジルアンモニウム塩;ジメチルジアリルアンモニウムクロライドなどのジアルキルジアリルアンモニウム塩などが含まれる。
【0075】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和モノマーは、1種類だけであってもよいし、2種類以上あってもよい。例えば、第3級アミノ基を有するエチレン性不飽和モノマーと、第4級アンモニウム基を有するエチレン性不飽和モノマーとを共重合させてもよい。
【0076】
また、これらのカチオン性基を有するエチレン性不飽和モノマーは、他のモノマーと共重合されてもよい。他のモノマーの例には、(メタ)アクリル酸およびそのエステル類、アリルエーテル類、ビニルエーテル類、芳香族ビニルモノマー類、ビニルエステルモノマー類、オレフィンモノマー類、ジエンモノマー類が含まれる。
【0077】
このようなカチオン性重合体の例には、ジメチルアミノエチルメタクリレート重合体、メタクリル酸-2-ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、ブチルアクリレート-ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、アクリルアミド-2-(アクリロイルオキシ)メチルトリメチルアンモニウムクロリド重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体などが含まれる。
【0078】
カチオン性分散剤のカチオン性基当量は、顔料粒子を十分に分散させうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば1~5meq/gであることが好ましい。カチオン性基当量が上記範囲内であると、カチオン性分散剤の分子量を大きくしなくても、高い顔料分散性が得られやすい。カチオン性基当量は、アミン価の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0079】
これらの中でも、汚れシミが付きやすいカチオン前処理を不要とし、色再現性をより長時間持続させやすくする観点では、顔料インクに含まれる顔料分散剤は、カチオン性分散剤であることが好ましい。
【0080】
高分子分散剤の重量平均分子量は、特に制限されないが、5000~30000であることが好ましい。高分子分散剤の重量平均分子量が5000以上であると、顔料粒子を十分に分散させやすく、30000以下であると、インクが増粘しすぎないため、布帛への浸透性が損なわれにくい。高分子分散剤の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりスチレン換算にて測定することができる。
【0081】
高分子分散剤の含有量は、顔料粒子を十分に分散させるとともに、布帛に対する浸透性を損なわない程度の粘度を有する範囲であればよく、特に制限されないが、顔料に対して20~100質量%であることが好ましく、25~60質量%であることがより好ましい。
【0082】
(界面活性剤)
インクジェット捺染インクは、必要に応じて界面活性剤をさらに含みうる。
【0083】
界面活性剤は、インクの表面張力を低下させて、布帛に対する濡れ性を高めうる。界面活性剤の種類は、特に制限されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などでありうる。
【0084】
(防腐剤、防黴剤)
防腐剤または防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)などが含まれる。
【0085】
(pH調整剤)
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウムなどが含まれる。
【0086】
1-5.物性
インクの、25℃における粘度は、インクジェット方式による出射性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3~20mPa・sであることが好ましく、4~12mPa・sであることがより好ましい。インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0087】
1-6.インクの調製
本発明のインクは、任意の方法で製造することができる。例えば、本発明のインクは、1)顔料と、顔料分散剤と、溶媒(水など)とを混合して、顔料分散液を得る工程と、2)得られた顔料分散液と、ポリマー粒子を含む分散液と、任意の他の成分(例えば界面活性剤、高沸点溶媒など)とをさらに混合して製造されうる。それにより、顔料が良好に分散したインクが得られやすい。
【0088】
2.画像形成方法
本発明の画像形成方法は、本発明のインクの液滴を、インクジェット方式で布帛上に付与する工程を含む。
【0089】
具体的には、本発明の画像形成方法は、1)インクジェット記録ヘッドからインクを吐出させて、布帛上にインクの液滴を付与する工程(インク付与工程)と、2)布帛に付与したインクを乾燥および定着させる工程(乾燥・定着工程)とを含む。
【0090】
1)の工程(インク付与工程)について
インクジェット記録ヘッドからインクを吐出させて、布帛上にインクの液滴を付与する。
【0091】
布帛を構成する繊維素材の種類は、特に制限されず、綿(セルロース繊維)、麻、羊毛、絹などの天然繊維や;レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステルまたはアセテートなどの化学繊維を含むことが好ましい。布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布など、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布または混紡不織布などであってもよい。
【0092】
例えば、インクがアニオン性分散剤を含む場合は、顔料の吸着速度や定着性を高める観点から、布帛は、少なくとも表面にカチオン性基または酸基を有するものであることが好ましい。少なくとも表面にカチオン性基、または酸基を有する布帛は、前処理されたものであってもよいし、前処理されていないものであってもよい。
【0093】
また、インクがカチオン性分散剤を含む場合は、顔料の吸着速度や定着性を高める観点から、布帛は、少なくとも表面にアニオン性基を有するものであることが好ましい。すなわち、アニオン性基を有する繊維(例えば綿やアニオン性基を有するポリエステル)を含む布帛は、そのままでもアニオン性基を有するため、必ずしも前処理によってアニオン性基が付与されてなくてもよい。一方、アニオン性基を有する繊維を含まない布帛は、そのままではアニオン性基を有しないため、前処理によってアニオン性基が付与されることが好ましい。
【0094】
本発明では、インクを付与した際、インクに含まれるポリマー粒子が、繊維と繊維の間の隙間にある程度集まるため、顔料粒子が、繊維と繊維の隙間に過剰に集まりにくく、繊維の表面に均一に分布しやすい(
図1B参照)。
【0095】
2)の工程(乾燥・定着工程)について
乾燥工程では、布帛に付与したインクを乾燥させて、インク中の溶媒成分を除去する。それにより、布帛に顔料を定着させる。
【0096】
乾燥方法は、特に制限されず、ヒーター、温風乾燥機、加熱ローラなどを用いた方法でありうる。中でも、温風乾燥機とヒーターを用いて、布帛の両面を加熱して乾燥させることが好ましい。
【0097】
乾燥温度や乾燥時間は、インク中の溶媒成分を蒸発させつつ、ポリマー粒子が被膜化しない程度に設定されることが好ましい。具体的には、乾燥温度は、(Tg+50)℃(Tgは、ポリマー粒子のTgを意味する)以下であることが好ましい。乾燥温度は、室温であってもよい。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば0.5~30分間程度としうる。
【0098】
本発明では、布帛に付与されたポリマー粒子のTgが適度に高いため、インクの乾燥時に、ポリマー粒子同士の融着が過度には進みにくく、被膜化しにくい。したがって、繊維と繊維の隙間が接着されないため、画像形成物が硬くなりにくくすることができる(
図1B参照)。
【0099】
また、本発明の画像形成方法は、必要に応じて、3)布帛を前処理する工程(前処理工程)をさらに含んでもよい。
【0100】
3)の工程(前処理工程)について
前処理工程では、布帛に前処理剤を付与する。
【0101】
前処理剤の種類は、特に制限されず、インクの組成に応じて選択されうる。例えば、インクがアニオン性分散剤を含む場合は、前処理剤は、酸基またはカチオン性基を有する化合物を含む前処理剤であることが好ましい。インクがカチオン性分散剤を含む場合は、前処理剤は、アニオン性基を有する化合物を含むアニオン性の前処理剤であることが好ましい。
【0102】
アニオン性基を有する化合物は、特に制限されず、アニオン性界面活性剤と同様のものであってもよいし、アニオン性基を有する高分子化合物などであってもよい。アニオン性基を有する高分子化合物の例には、ペクチン酸などの植物皮類、カルボキシメチルセルロースなどの繊維素誘導体、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉などの加工澱粉、アクリル酸・アクリル酸エステル共重合体、スチレン・アクリル酸共重合体などのアクリル酸を共重合成分とするアクリル系重合体)などの合成糊などが含まれる。
【0103】
前処理剤は、必要に応じてpH調整剤、防腐剤などをさらに含んでもよい。防腐剤としては、インクジェット捺染インクの防腐剤として挙げたものと同様のものを使用できる。
【0104】
布帛に前処理剤を付与する方法は、特に制限されないが、例えばパッド法、コーティング法、スプレー法、またはインクジェット法などでありうる。
【0105】
布帛に付与された前処理剤は、温風、ホットプレート、またはヒートローラーを用いて加熱乾燥させることもできる。
【0106】
なお、均一な画像を得やすくする観点から、布帛に前処理剤を付与する前に、布帛繊維に付着した天然不純物(油脂、ロウ、ペクチン質、天然色素など)、布帛製造過程で用いた薬剤の残留物(のり剤など)、または布帛に付着した汚れなどを洗浄しておいてもよい。
【0107】
得られる画像形成物は、布帛と、その表面に配置された画像層とを含む。画像層は、顔料粒子と、ポリマー粒子とを含むインクの乾燥物を含む。当該インクの乾燥物では、ポリマー粒子の大部分は被膜化しておらず、少なくとも一部において粒子形状を留めており、布帛の繊維間が接着されていない。それにより、画像形成物は硬くなりにくく、布帛の風合いを良好に維持しうる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
[実施例1]
1.インクの材料
(1)アニオン性顔料分散液の調製
(アニオン性顔料分散液1の調製)
顔料分散剤としてスチレン・ブチルアクリレート・メタクリル酸共重合体(アニオン性分散剤、重量平均分子量16000、アニオン性基当量3.5meq/g)7質量部に対し、水78質量部を混合した後、加温攪拌し、顔料分散剤の中和物を調製した。この混合液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15質量部添加し、予備混合した後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散させて、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
【0110】
(アニオン性顔料分散液2の調製)
顔料をC.I.ピグメントレッド 122に変更した以外は上記と同様にして、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
【0111】
顔料分散液中の顔料の平均粒子径d1は、以下の方法で測定した。
【0112】
(顔料の平均粒子径d1の測定)
得られた顔料分散液中の顔料の平均分散粒径(Z平均)を、Melvern社製Zataizer NanoS90により測定し、平均粒子径d1とした。
【0113】
(2)ポリマー粒子分散液の調製
(PMMA粒子分散液A1~A3の調製)
メチルメタクリレート50g、メタクリル酸5g、エチレングリコールジメタクリレート1g、重合開始剤AIBN0.5gを溶解後、水500mLを三ツ口フラスコに入れ、超音波で分散した後、窒素気流下で重合させた。その後、中和を行い、限外ろ過で濃縮、遠心分離で粗大粒子を除いて、固形分20質量%のPMMA粒子(架橋粒子)の分散液を得た。
【0114】
得られたPMMA粒子分散液A1~A3のPMMA粒子のTgは100℃であり、A1の平均粒子径は210nm、A2の平均粒子径は430nm、A3の平均粒子径は460nmであった。
【0115】
(PMMA粒子分散液A4の調製)
エチレングリコールジメタクリレートを配合しなかった以外は上記PMMA粒子分散液1の調製方法と同様にして、重合/限外ろ過で濃縮を行い、固形分20質量%のPMMA粒子(非架橋粒子)の分散液を得た。
【0116】
(PAN粒子分散液)
ポリアクリロニトリル粒子の水分散液(Tg:104℃、平均粒子径:180nm)
【0117】
(ポリスチレン粒子分散液1)
ポリマー分散液A1のメチルメタクリレートをスチレンに変えた以外は同様にして、ポリスチレン粒子分散液1(Tg:95℃、平均粒子径:280nm)を得た。
【0118】
(St-Ac共重合体(スチレン・アクリル共重合体)分散液)
スチレン・メチルメタクリレート・ブチルメタアクリレート共重合体の水分散液(モノマー比:5/4/1(質量比)、Tg:90℃、平均粒子径:220nm)
【0119】
(ポリウレタン粒子分散液1)
第一工業製薬社製スーパーフレックス860(Tg:36℃、平均粒子径:200nm)
【0120】
(ポリウレタン粒子分散液2)
第一工業製薬社製スーパーフレックス870(Tg:78℃、平均粒子径:30nm)
【0121】
ポリマー粒子のTgは、以下の方法で測定した。
【0122】
(Tg)
ポリマー粒子分散液から、ポリマー粒子を回収し、乾燥させた試料を、示差走査熱量で測定を行い、ガラス転移温度を求めた。ガラス転移温度は、上記と同様の条件で行った。
【0123】
(平均粒子径d2)
ポリマー粒子分散液におけるポリマー粒子の分散粒径(Z平均)を、Melvern社製Zataizer NanoS90により測定し、平均粒子径d2とした。
【0124】
なお、これらのポリマー粒子は、UV-Vis分光測定で得られる吸収スペクトルにおいて、波長400~700nmにUV吸収ピークを持たなかった。
【0125】
(3)他の成分
オルフィンE1010(日信化学社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
【0126】
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、防腐剤)
【0127】
エチレングリコール
プロピレングリコール
グリセリン
【0128】
2.インクの調製および評価
<インク1の調製>
(インクの調製)
次いで、下記成分を混合して合計100質量部とし、インク1を得た。
アニオン性顔料分散液1(顔料濃度15質量%):6.7質量部(固形分1質量部)
PMMA粒子分散液A1(固形分濃度20質量%):45質量部(固形分9質量部)
エチレングリコール:20質量部
プロピレングリコール:5質量部
グリセリン:5質量部
オルフィンE1010(日信化学製アセチレングリコール系界面活性剤):0.1質量部
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン製):0.1質量部
イオン交換水:残部
【0129】
得られたインク中におけるポリマー粒子および顔料粒子の分散粒径は、ポリマー粒子分散液中のポリマー粒子の分散粒径および顔料分散液中の顔料粒子の分散粒径とほぼ同じであった。
【0130】
<インク2~16の調製>
次いで、表1に示される組成となるように、各成分を混合して、インク2~16を得た。
【0131】
<画像形成試験>
得られたインク1~16を用いて、画像形成試験を行った。
まず、画像形成装置として、インクジェットヘッド(コニカミノルタヘッド #204)を準備した。次いで、表1に示されるインクを、上記画像形成装置のインクジェットヘッドのノズルから吐出させて、布帛として、綿布上に画像を形成した。具体的には、以下の手順で画像形成を行った。
【0132】
(インク付与工程)
得られたインクを、画像形成装置にセットした。そして、主走査540dpi×副走査720dpiにて、得られたインクを用いて上記布帛上に、ベタ画像を形成した。なお、dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。
【0133】
(乾燥工程)
インクを付与した布帛を、ベルト搬送式乾燥機にて120℃で5分間乾燥させた。
【0134】
<評価>
各インクを用いて画像形成試験を行った時の、出射安定性(出射性)、得られた画像形成物の色再現性および風合いを、以下の方法で評価した。
【0135】
(出射安定性)
得られた画像形成物を目視観察し、以下の基準で出射安定性を評価した。
○:画像がかすれておらず、均一に見える
△:画像が一部かすれている
×:画像でカスレが多くみられる
△以上であれば、許容範囲とした。
【0136】
(色再現性)
得られた画像形成物を、目視で、色再現性を評価した。評価は、以下の基準で目視評価を行った。
◎:色濃度、色鮮やかさが優れている
○:色濃度が僅かに薄いか、または、色鮮やかさが僅かに劣るが、良好なレベル
△:色濃度が少し薄いか、または、色鮮やかさが少し劣るが、実用上問題ないレベル
×:色濃度が薄いか、または色がくすんでおり、実用上問題となるレベル
△以上であれば、許容範囲とした。
【0137】
(風合い)
得られた画像形成物と生地の風合いを手指で触って、官能的に評価した。評価は、以下の基準に基づいて行った。
◎:生地本来の柔らかさを維持している
○:生地本来の柔らかさが少し失われ、硬くなっているが、生地の風合いは損なわれていない
△:生地本来の柔らかさが失われ、硬くなっているが、生地の風合いは維持している。
×:生地本来よりも硬くなっており、生地の風合いが損なわれている
△以上であれば、許容範囲とした。
【0138】
インク1~16の評価結果を、表1に示す。
【0139】
【0140】
表1に示されるように、Tgが50℃以上のポリマー粒子を用い、かつポリマー粒子の含有量M2と顔料の含有量M1の比(M2/M1)を3~19(質量比)としたインク1~7、9~11および13~15を用いた場合、布帛の生地の風合いを損なうことなく、布帛の表面に均一に高濃度の画像を形成でき、良好な色再現性が得られることがわかる。また、出射安定性(出射性)も維持できることがわかる。
【0141】
これに対して、ポリマー粒子の含有量M2と顔料の含有量M1の比(M2/M1)を3(質量比)未満としたインク12および16では、十分な画像濃度が得られず、色再現性が低いことがわかる。また、M2/M1を19(質量比)超としたインク8では、ポリマー粒子の含有量が多くなり、顔料粒子の含有比率が少なくなりすぎて、全体として画像濃度が低下することがわかる。また、Tgが50℃未満のポリマー粒子を含むインク7では、得られる画像形成物の風合いが劣ることがわかる。これは、Tgが50℃未満のポリマー粒子は、乾燥時に被膜化して、画像形成物が硬くなったためと考えられる。
【0142】
[実施例2]
1.インクの材料
(1)カチオン性顔料分散液の調製
(カチオン性顔料分散液1の調製)
顔料分散剤として、ブチルアクリレート・ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体(カチオン性分散剤、重量平均分子量16000、カチオン性基当量4.4meq/g)を7質量部に対し、水78質量部を混合した後、加温攪拌し、上記顔料分散剤の中和物を調製した。この混合液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15質量部添加し、予備混合した後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散させて、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
【0143】
(カチオン性顔料分散液1の調製)
顔料をC.I.ピグメントレッド 122に変更した以外は上記と同様にして、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
【0144】
得られた顔料分散液中の顔料の平均粒子径d1は、上記と同様の方法でそれぞれ測定した。
【0145】
(2)ポリマー粒子分散液の調製
(PMMA粒子分散液C1~3の調製)
メチルメタクリレート50g、トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート5g、エチレングリコールジメタクリレート1gおよび重合開始剤AIBN0.5gを溶解させた後、水500mLを三ツ口フラスコに入れ、超音波で分散させ、窒素気流下で、重合させた。その後、限外ろ過で濃縮を行い、固形分20質量%のPMMA粒子(カチオン性基を有する架橋粒子)の分散液を得た。なお、重合時間を調整して、表2に示される平均粒子径d2となるように調整した。
【0146】
(ポリスチレン粒子分散液2)
PMMA粒子分散液C1の調製で用いたメチルメタクリレートの代わりにスチレンを用いた他は同様にして、ポリスチレン粒子の水分散液2(Tg:100℃、平均粒子径:180nm)を得た。
【0147】
(ポリウレタン粒子分散液3)
第一工業製薬社製 スーパーフレックス620(Tg:43℃、平均粒子径:20nm
【0148】
(ポリウレタン粒子分散液4)
第一工業製薬社製 スーパーフレックスE4800(Tg:-65℃、平均粒子径:300nm)
【0149】
2.インクの調製
<インク17の調製>
下記成分を混合して合計100質量部とし、インク1を得た。
カチオン性顔料分散液1(顔料濃度15質量%):6.7質量部(固形分1質量部)
PMMA粒子分散液C1(固形分濃度20質量%):45質量部(固形分9質量部)
エチレングリコール:20質量部
プロピレングリコール:5質量部
グリセリン:5質量部
オルフィンE1010(日信化学製アセチレングリコール系界面活性剤):0.1質量部
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン製):0.1質量部
イオン交換水:残部
【0150】
<インク18~30の調製>
次いで、表2に示される組成となるように、各成分を混合して、インク18~30を得た。
【0151】
<画像形成試験および評価>
得られたインク17~30を用いて、上記と同様に画像形成試験を行い、上記と同様の評価(出射安定性(出射性)、画像形成物の色再現性および風合い)を、同様にして行った。その結果を表2に示す。
【0152】
【0153】
表2に示されるように、Tgが50℃以上のポリマー粒子を用い、かつポリマー粒子の含有量M2と顔料の含有量M1の比(M2/M1)を3~19(質量比)としたインク17~19、23~25、27~29を用いた場合、布帛の生地の風合いを損なうことなく、布帛の表面に均一に高濃度の画像を形成でき、良好な色再現性が得られることがわかる。また、出射安定性(出射性)も維持できることがわかる。
【0154】
これに対して、ポリマー粒子の含有量M2と顔料の含有量M1の比(M2/M1)を3(質量比)未満としたインク26および30では、十分な画像濃度が得られず、色再現性が低いことがわかる。また、M2/M1を19(質量比)超としたインク22では、ポリマー粒子の含有量が多くなり、顔料粒子の含有比率が少なくなりすぎて、全体として画像濃度が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明によれば、布帛の風合いを損なうことなく、十分な濃度の画像を形成可能なインクジェット捺染インクを提供することができる。
【符号の説明】
【0156】
10 (布帛の)繊維
11 顔料粒子
12 ポリマー粒子