(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】インク吸収器、印刷装置、インク吸収器を生産する方法および印刷装置を生産する方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20241210BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B41J2/17 205
B01J20/26 B
(21)【出願番号】P 2020185201
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】仲田 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】河野 太軌
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸子
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171598(JP,A)
【文献】特開2013-022878(JP,A)
【文献】特開2020-116744(JP,A)
【文献】特開2004-001575(JP,A)
【文献】特開2005-271588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0187751(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状をなし、液滴吐出ヘッドから吐出されるインクの廃液を吸収する複数のインク吸収体と、
前記複数のインク吸収体を収容する収容容器と、を備え、
前記複数のインク吸収体は、
各前記インク吸収体の長手方向が鉛直方向に
揃い、かつ、軸回りの向きが不揃いであることを特徴とするインク吸収器。
【請求項2】
前記収容容器内で前記複数のインク吸収体が配置されている領域における前記インク吸収体の占有率は、前記インク吸収体の乾燥時において50%以上99%以下である請求項1に記載のインク吸収器。
【請求項3】
前記複数のインク吸収体
の形状は、
直方体状である請求項1または2に記載のインク吸収器。
【請求項4】
前記インク吸収体は、
前記長手方向に配向している繊維と、高分子吸収材料と、を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインク吸収器。
【請求項5】
前記収容容器は、容器本体と、
蓋と、前記蓋との間に空間を形成するように前記容器本体内に設けられ、前記複数のインク吸収体
に接触して前記長手方向の移動を規制する規制板を有する請求項1ないし
4のいずれか1項に記載のインク吸収器。
【請求項6】
前記規制板は、前記インクの廃液が通過する
メッシュを有する請求項
5に記載のインク吸収器。
【請求項7】
請求項1ないし
6のいずれか1項に記載のインク吸収器を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
インクの廃液を吸収するシート状のインク吸収体母材を搬送し、
搬送方向が長手方向になるように前記インク吸収体母材を切断して長尺状のインク吸収体を複数形成し、
前記インク吸収体の長手方向が鉛直方向に揃い、かつ、軸回りの向きが不揃いになるように複数の前記インク吸収体を収容容器に収める、
ことを特徴とするインク吸収器を生産する方法。
【請求項9】
インクの廃液を吸収するシート状のインク吸収体母材を搬送し、
搬送方向が長手方向になるように前記インク吸収体母材を切断して長尺状のインク吸収体を複数形成し、
前記インク吸収体の長手方向が鉛直方向に揃い、かつ、軸回りの向きが不揃いになるように複数の前記インク吸収体を収容容器に収め、
液滴吐出ヘッドから吐出されたインクが前記インク吸収体に流入するように前記収容容器を配置する、
ことを特徴とする印刷装置を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク吸収器、印刷装置、インク吸収器を生産する方法および印刷装置を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、インクジェットプリンター等の印刷装置では、通常、インクの目詰まりによる印刷品質の低下を防止するために実施されるヘッドクリーニング動作や、インクカートリッジ交換後のインク充填動作の際に、インクの廃液が発生する。このような廃液のプリンター内部の機構等に対する不本意な付着が生じないようにするために、例えば特許文献1に開示されているような吸収体を備える廃液保持容器が用いられている。
【0003】
特許文献1に開示されている吸収体は、合成繊維やパルプ等を原料とするフェルト材等により構成されたブロック状をなしており、印刷装置に内蔵された廃液タンク内に設置されている。廃液タンクに供給されたインクの廃液は、吸収体によって吸収され、保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の構成では、吸収体がブロック状をなしているため、インクの廃液を吸収する際の浸透性、拡散性が不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下のものとして実現することが可能である。
【0007】
本発明のインク吸収器は、長尺状をなし、液滴吐出ヘッドから吐出されるインクの廃液を吸収する複数のインク吸収体と、
前記複数のインク吸収体を収容する容器と、を備え、
前記複数のインク吸収体は、長手方向が鉛直方向に沿うように配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の印刷装置は、本発明のインク吸収器を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明のインク吸収器の第1実施形態を示す部分断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すインク吸収体の繊維および樹脂の状態を示す拡大図である。
【
図4】
図4は、
図3中矢印A方向からインク吸収体を投影した投影図である。
【
図5】
図5は、収容容器内のインク吸収体を上方から見た図である。
【
図6】
図6は、インク吸収体の製造方法の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、インク吸収体の製造方法の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、インク吸収体の製造方法の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明のインク吸収器の第2実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のインク吸収器および印刷装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、本発明のインク吸収器の第1実施形態を示す部分断面図である。
図2は、
図1に示すインク吸収体の繊維および樹脂の状態を示す拡大図である。
図3は、
図1に示すインク吸収体の斜視図である。
図4は、
図3中矢印A方向からインク吸収体を投影した投影図である。
図5は、収容容器内のインク吸収体を上方から見た図である。
図6~
図8は、インク吸収体の製造方法の一例を示す図である。
【0012】
なお、以下では、説明の都合上、
図1、
図3、
図4、
図6~
図8中(
図9についても同様)の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。なお、これらの図において、上側が鉛直方向上側であり、下側が鉛直方向下側である。
【0013】
また、本明細書における「吸水」とは、水系溶媒に色材が溶解または分散した水系インク、溶剤にバインダーが溶解した溶剤系インク、UV照射により硬化する液状のモノマー中にバインダーが溶解したUV硬化性インク、分散媒にバインダーが分散したラテックスインク等のインクを吸収することを言う。
【0014】
図1に示す印刷装置200は、例えば、インクジェット式のカラープリンターである。この印刷装置200は、インクQを吐出する液滴吐出ヘッド201と、液滴吐出ヘッド201のノズル201aの目詰まりを防止するキャッピングユニット202と、インク吸収器100と、キャッピングユニット202とインク吸収器100とを接続するチューブ203と、インクQをキャッピングユニット202からインク吸収器100に送るローラーポンプ204と、を備えている。
【0015】
液滴吐出ヘッド201は、下方に向かってインクQを吐出するノズル201aを複数有している。この液滴吐出ヘッド201は、
図1中の二点鎖線で示すように、PPCシート等のような記録媒体に対して移動しつつ、インクQを吐出して、印刷を施すことができる。
【0016】
キャッピングユニット202は、液滴吐出ヘッド201が待機位置にあるときに、ローラーポンプ204の作動により、各ノズル201aを一括して吸引して、ノズル201aの目詰まりを防止するものである。
【0017】
チューブ203は、キャッピングユニット202を介して吸引されたインクQの排液(以下、単に「インクQ」と言う)を送液、排出するものである。また、チューブ203は、一端部が収容容器1の蓋体8に差し込まれており、収容容器1内にインクQを排出することができる。この差し込まれたチューブ203の端部の開口が、排出口31である。
【0018】
ローラーポンプ204は、チューブ203の途中に配置され、ローラー部204aと、ローラー部204aとの間でチューブ203の途中を挟持する挟持部204bとを有している。ローラー部204aが回転することにより、チューブ203を介して、キャッピングユニット202に吸引力が生じる。そして、ローラー部204aが回転し続けることにより、ノズル201aに付着したインクQをインク吸収器100まで送り込むことができる。
【0019】
図1に示すように、インク吸収器100は、収容容器1と、インクQの吸収に用いられるインク吸収体10と、を備えている。このインク吸収器100は、印刷装置200に対し、着脱自在に装着され、その装着状態で、前述したようにインクQの廃液吸収に用いられる。このように、インク吸収器100を、いわゆる「廃液タンク」または「廃インクタンク」として用いることができる。そして、インク吸収器100のインクQの吸収量が限界に達したら、このインク吸収器100を、新たなインク吸収器100に交換することができる。なお、インク吸収器100のインクQの吸収量が限界に達したか否かについては、印刷装置200内の図示しない検出部によって検出される。また、インク吸収器100のインクQの吸収量が限界に達した場合には、その旨が、例えば、印刷装置200に内蔵されたモニター等の図示しない報知部により報知される。
【0020】
インク吸収体10は、収容容器1内でインクQの吸収に用いられるものである。
図2および
図3に示すように、インク吸収体10は、繊維20と、繊維20同士を結着させる樹脂30と、を含んでいる。インク吸収体10にインクQが付与された場合に、当該インクQを繊維20が吸収、すなわち、保持することができる。
【0021】
インク吸収体10は、
図2に示す繊維20および樹脂30を含む材料が棒状に成形されたものである。棒状とは、投影面積が最大となる向き、例えば、
図3中矢印A方向から投影した際に、
図4に示すように、その投影像10Aにおいて、最大の幅Wと最大の長さLとの比W/Lが、1以下であることを言う。また、幅Wや長さLが異なる部分を有していてもよい。
【0022】
図示の構成では、インク吸収体10は、角柱状をなしている。すなわち、インク吸収体10は、横断面形状が矩形をなす長尺体で構成されている。ただし、これに限定されず、例えば、角錐状、円柱状、円錐状等であってもよい。
【0023】
インク吸収器100では、棒状のインク吸収体10が、収容容器1に複数収容されている。このことに関しては、後に詳述する。
【0024】
また、インク吸収体10における構成材料の密度、すなわち、繊維20、樹脂30およびその他の含有物の合計の密度は、0.01g/cm2以上1.0g/cm2以下であるのが好ましく、0.05g/cm2以上0.8g/cm2以下であるのがより好ましい。これにより、繊維20間に十分に隙間を確保することができるため、浸透性に優れるとともに、十分な強度を有し、容器本体9内で形状を維持することができる。
【0025】
繊維20としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の合成樹脂繊維;セルロース繊維、ケラチン繊維、フィブロイン繊維等の天然樹脂繊維やその化学修飾物等が挙げられ、これらを単独でまたは適宜混合して用いることができるが、セルロース繊維を主とするのが好ましく、ほぼ全部がセルロース繊維であるのがより好ましい。
【0026】
セルロースは、好適な親水性を有する材料であるため、インク吸収体10にインクQが付与された場合に、流動性が特に高い状態、例えば、粘度が10mPa・s以下の状態を速やかに脱することができる。また、セルロース繊維は、再生可能な天然素材で、各種繊維の中でも、安価で入手が容易であるため、インク吸収体10の生産コストの低減、安定的な生産、環境負荷の低減等の観点からも有利である。
【0027】
なお、本明細書において、セルロース繊維とは、化合物としてのセルロースを主成分とし繊維状をなすものであればよく、セルロースの他に、ヘミセルロース、リグニンを含むものであってもよい。
【0028】
また、一般に、セルロース繊維等の繊維、特に、古紙由来の繊維は、比較的安価であり、インク吸収体10の製造コストの低減の観点からも有利である。また、繊維20としては、古紙由来のものを好適に用いることができるため、廃棄物の削減、資源の有効活用等の観点からも有利である。
【0029】
このような繊維20の平均長さは、特に限定されないが、0.1mm以上5mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上3mm以下であるのがより好ましい。繊維20の平均幅は、特に限定されないが、0.5μm以上200μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上100μm以下であるのがより好ましい。繊維20の平均アスペクト比、すなわち、平均幅に対する平均長さの比率は、特に限定されないが、10以上1000以下であるのが好ましく、15以上500以下であるのがより好ましい。
【0030】
以上のような数値範囲により、繊維20によるインクQの吸水性および浸透性をより高めることができ、インク吸収体10全体としてのインクQの吸水性および浸透性をより優れたものとすることができる。
【0031】
また、本実施形態では繊維20の他に樹脂30を含んでいる。樹脂30は、繊維20同士を結着するバインダーとしての機能を有する。具体的には、樹脂30は、溶融状態が冷却されて固化したものであり、溶融状態において各繊維20に付着し、冷却されて固化することにより、
図2に示すように、繊維20同士を結着する。このような樹脂30により、繊維20が変形するのを適度に規制することができ、インク吸収体10をブロック状に成形しやすく、また、後述する容器本体9内でブロック状を維持することができる。
【0032】
樹脂30としては、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂等を用いることができるが、熱可塑性樹脂であるのが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-12、ナイロン6-66等のポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、熱可塑性樹脂としては、ポリエステルまたはこれを含むものを用いる。
【0033】
また、樹脂30の平均粒径は、0.01μm以上800μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上600μm以下であるのがより好ましく、1μm以上500μm以下であるのがさらに好ましい。これにより、繊維20同士を良好に結着させることができる。
【0034】
なお、平均粒径とは、体積基準の平均粒径をいう。平均粒径は、例えば、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置、すなわちレーザー回折式粒度分布測定装置による測定で求めることができる。
【0035】
また、樹脂30として、高分子吸収材料、すなわち、吸水性樹脂を含んでいるのが好ましい。吸水性樹脂を含んでいることにより、インク吸収体10が吸収できるインクの量が一層増大する。特に繊維20としてセルロース繊維を用いた場合、一旦取り込んだインクQを、好適に樹脂30に送り込むことができる。その結果、インク吸収体10全体としてのインクQの浸透性を特に優れたものとすることができる。また、セルロースは、一般に吸水性樹脂との親和性が高いため、繊維20の表面に吸水性樹脂をより好適に担持させることができる。
【0036】
吸水性樹脂は、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、澱粉-アクリル酸グラフト共重合体、澱粉-アクリロニトリルグラフト共重合体の加水分解物、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、イソブチレンとマレイン酸との共重合体等、アクリロニトリル共重合体やアクリルアミド共重合体の加水分解物、ポリエチレンオキサイド、ポリスルフォン酸系化合物、ポリグルタミン酸や、これらの塩、架橋体等が挙げられる。吸水性樹脂には、吸水するとゲル化するものが多い。
【0037】
中でも、吸水性樹脂は、側鎖に官能基を有する樹脂が好ましい。官能基としては、例えば、酸基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0038】
特に、吸水性樹脂は、側鎖に酸基を有する樹脂であるのが好ましく、側鎖にカルボキシル基を有する樹脂であるのがより好ましい。
【0039】
吸水性樹脂を構成するカルボキシル基含有単位としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、ソルビン酸、ケイ皮酸やこれらの無水物、塩等の単量体から誘導されるものが挙げられる。
【0040】
吸水性樹脂は、例えば、鱗片状、針状、繊維状、粒子状等、いかなる形状をなしていてもよいが、粒子状をなしているのが好ましい。吸水性樹脂が粒子状をなしている場合には、インクQの浸透性を容易に確保することができる。また、繊維20に吸水性樹脂を好適に担持させることができる。なお、この粒子の平均粒径は、50μm以上800μm以下であるのが好ましく、100μm以上600μm以下であるのがより好ましく、200μm以上500μm以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
このように、インク吸収体10が、繊維20と、高分子吸収材料としての吸水性樹脂と、を含むことにより、繊維20によってインクQを浸透させ、高分子吸収材料によってインクQを吸収することができる。よって、インクQの浸透性および保持性を高めることができる。
【0042】
また、インク吸収体10は、前述した以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、界面活性剤、潤滑剤、消泡剤、フィラー、ブロッキング防止剤、イオン交換樹脂、活性炭、ラボナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、紫外線吸収剤、顔料、染料等の着色剤、難燃剤、流動性向上剤等が挙げられる。
【0043】
次に、収容容器1について説明する。
図1に示すように、収容容器1は、インク吸収体10を収容する収容空間93を有する容器本体9と、容器本体9に着脱自在に装着される蓋体8と、規制板7と、を備えている。
【0044】
容器本体9は、平面視で例えば四角形状をなす底部91と、底部91の縁部から上方に向かって立設した4つの側壁部92とを有する箱状をなすものである。そして、底部91と、4つの側壁部92とに囲まれた収容空間93内に、インク吸収体10を収容することができる。
【0045】
なお、容器本体9は、平面視で四角形状をなす底部91を有するものに限定されず、例えば、平面視で円形状をなす底部91を有し、全体が円筒状のものであってもよい。
【0046】
本実施形態では、容器本体9は、硬質のものである、すなわち、容器本体9に内圧または外力が作用した場合に、容積V1が例えば10%以上変化しない程度の形状保持性を有するものである。これにより、容器本体9は、インク吸収体10がインクQを吸収した後に膨張して、そのインク吸収体10からの力を内側から受けても、容器本体9自身の形状を維持することができる。これにより、印刷装置200内での容器本体9の設置状態が安定し、インク吸収体10がインクQを安定して吸収することができる。
【0047】
容器本体9は、インクQを透過しない材料で構成されていれば、その構成材料は、特に限定されない。このような容器本体9の構成材料としては、例えば、環状ポリオレフィンやポリカーボネート等のような各種樹脂材料を用いることができる。また、容器本体9の構成材料としては、前記各種樹脂材料の他に、例えば、アルミニウムやステンレス鋼等のような各種金属材料を用いることができる。
【0048】
また、容器本体9は、内部視認性を有する透明、半透明なもの、または、不透明なもののいずれでもよいが、容器本体9および後述する蓋体8の少なくとも一部が内部視認性を有するものが好ましい。
【0049】
前述したように、インク吸収器100は、蓋体8を備えている。
図1に示すように、蓋体8は、板状をなし、容器本体9の上部開口部94に嵌合することができる。この嵌合により、上部開口部94を封止することができる。これにより、例えば、インクQがチューブ203から排出されて落下した際に、インク吸収体10に衝突して跳ね上がった場合でも、そのインクQが外方に飛散するのを防止することができる。よって、インクQがインク吸収器100の周辺に付着して汚れるのを防止することができる。
【0050】
また、蓋体8は、インクQを吸収する吸収性を有していてもよいし、インクQを弾く撥液性を有していてもよい。
【0051】
蓋体8の厚さとしては、特に限定されず、例えば、1mm以上20mm以下であるのが好ましく、8mm以上10mm以下であるのがより好ましい。なお、蓋体8は、このような数値範囲の板状をなすものに限定されず、それよりも薄いフィムル状のものであってもよい。この場合、蓋体8の厚さとしては、特に限定されず、例えば、10μm以上1mm未満であるのが好ましい。
【0052】
前述したように、インク吸収器100は、インク吸収体10の鉛直方向の移動を規制する、すなわち、インク吸収体10の長手方向の移動を規制する規制板7を備えている。規制板7は、その厚さ方向が鉛直方向に沿う向きで容器本体9内に配置されている。また、規制板7は、複数のインク吸収体10の容器本体9内の上方に配置されている。規制板7は、複数のインク吸収体10と接触していてもよく、接触していなくてもよい。なお、例えば、容器本体9の内面に規制板7の上下方向の位置を位置決めする位置決め部を設けることにより、規制板7がインク吸収体10と接触していない状態とすることができる。
【0053】
また、規制板7は、その中央部、すなわち、チューブ203の排出口31の直下に対応する位置に設けられた貫通孔で構成された孔部71を有する。この孔部71が設けられていることにより、排出口31から排出されたインクQが孔部71を介して下方のインク吸収体10に滴下することができる。
【0054】
このように、収容容器1は、容器本体9と、容器本体9内に設けられ、複数のインク吸収体10の長手方向の移動を規制する規制板7を有する。これにより、例えば、インク吸収体10の配設密度が比較的低い場合であっても、インク吸収体10が容器本体9内で過剰に移動してしまうのを防止することができる。よって、インク吸収体10がインクQを安定的に吸収することができる。
【0055】
また、規制板7は、インクQの廃液が通過する孔部71を有する。これにより、インクQの通過を許容しつつ、インク吸収体10が容器本体9内で過剰に移動してしまうのを防止することができる。
【0056】
なお、規制板7の構成としては、上記に限定されず、例えば、メッシュ素材で構成された板材等、インクQの通過を許容する構成であればよい。また、規制板7の必須の構成はなく、蓋体8によってインク吸収体10の長手方向の移動を規制する構成としてもよい。
【0057】
このような容器本体9、蓋体8および規制板7の構成材料としては、特に限定されず、例えば、各種樹脂材料を好適に用いることができる。樹脂材料としては、各種熱可塑性樹脂や、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の各種硬化性樹脂が挙げられる。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
このような収容容器1内には、
図1に示すように、複数のインク吸収体10が、その長手方向が鉛直方向に沿うように配置されている。すなわち、複数のインク吸収体10は、収容容器1の深さ方向に沿う向きで挿入されている。ここで、
図5に示すように、各インク吸収体10の周囲には、部分的に、隣り合うインク吸収体10との間に空隙Gが形成されている。
【0059】
インクQがインク吸収体10に滴下されると、インク吸収体10がインクQを取り込んで、自身の長手方向、すなわち、鉛直下方側に浸透させ、保持するとともに、隣り合うインク吸収体10にもインクQを伝搬する。このため、各インク吸収体10にインクQが広がっていく。特に、インク吸収器100では、インクQが空隙Gを通過するように広がっていくため、空隙Gが形成されている分、従来のブロック状のインク吸収体に比べて、インクQの浸透性、特に、インク吸収体10の長手方向における浸透性を高めることができる。
【0060】
また、収容容器1内で複数のインク吸収体10が配置されている領域における前記インク吸収体10の占有率、すなわち、収容空間93のうち、規制板7の下方の領域の容積をV1とし、インク吸収体10の体積の合計をV2としたとき、V2/V1は、インク吸収体10の乾燥時において50%以上99%以下であるのが好ましく、60%以上95%以下であるのがより好ましい。これにより、浸透性およびインクQの保持性を高めることができる。占有率が低すぎると、インク吸収体10が規制板7の下方の空間において、水平方向に移動する可能性があるとともに、インクQの保持力が低下してしまうおそれがある。一方、占有率が高すぎると、空隙Gの確保が不十分となり、インクQが底部91まで浸透し難くなり、本発明の効果が得難くなるおそれがある。
【0061】
なお、インク吸収体10の乾燥時とは、インク吸収体10の含水率が5%以下である状態を言う。また、上記占有率においては、1つのインク吸収体10における繊維20同士の間の空隙は、無視している。すなわち、上記占有率は、各インク吸収体10を、中実の棒状体として計算している。
【0062】
また、
図5に示すように、各インク吸収体10は、インク吸収体10の軸回りの向きがランダムに配置されている。すなわち、各インク吸収体10は、軸回りの向きが不揃いの状態で収容容器1に配置されている。これにより、各インク吸収体10同士の間に、前述した空隙Gを形成しやすくすることができる。よって、インクQの浸透性をより確実に高めることができる。
【0063】
また、インク吸収体10では、繊維20は、インク吸収体10の長手方向に配向している。これにより、インクQが繊維20に沿って浸透していくため、インクQが下方の底部91に向かって浸透しやすくなる。よって、本発明の効果との相乗効果により、さらにインクQの浸透性を高めることができる。
【0064】
なお、繊維20がインク吸収体10の長手方向に配向している状態は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製:VHX5000)等を用いて直接観察できるほか、長手方向の引張強度の大きさが、長手方向に対して垂直な方向の引張強度の大きさよりも大きければ、繊維20が長手方向に配向していると考えられる。
【0065】
このようなインク吸収体10は、
図6~
図8に示すような方法で製造することができる。
【0066】
図6に示す構成では、例えば、特開2018-140560号公報や、特開2014-40045号公報に記載されているシート製造装置にて製造したシートSを複数枚重ねて積層体S1を得る。そして、積層体S1を、破線で示した切断位置300にて切断する。これにより、棒状のインク吸収体10を得ることができる。
【0067】
また、
図6中矢印B方向が、シートSを製造する際の搬送方向になる向きでシートSを積層することにより、繊維20がインク吸収体10の長手方向に配向したインク吸収体10を得ることができる。これは、シートSをローラー搬送する際に、搬送方向に沿ってテンションがかかり、繊維20に配向性が生じるためである。
【0068】
また、
図7に示す構成では、特開2018-140560号公報や、特開2014-40045号公報に記載されているシート製造装置にて製造した第2ウェブM8を、破線で示した切断位置400にて切断する。これにより、棒状のインク吸収体10を得ることができる。
【0069】
また、
図7中矢印C方向が、第2ウェブM8の搬送方向であるため、その方向が長手方向となるような向きで切断することにより、繊維20がインク吸収体10の長手方向に配向したインク吸収体10を得ることができる。これは、上記と同様に、第2ウェブM8をローラー搬送する際に、搬送方向に沿ってテンションがかかり繊維20に配向性が生じるためである。
【0070】
このように、インク吸収体10は、シート状のインク吸収体母材である積層体S1や第2ウェブM8を切断したものである。
【0071】
また、
図8に示すように、解繊物をブロック状に堆積させて成形したブロック状の成形体10Bを格子状に切断し、かつ、下部は切断しないことにより、一端部同士が連結されたインク吸収体10を得ることができる。また、インク吸収体10同士が連結されている側が収容容器1内で底部側に位置するようにインク吸収体10を挿入することが好ましい。これにより、収容容器1において、底部付近では間隙Gが形成されないため、底部付近でのインクQの保持性に優れる。さらに、インク吸収体10を収容容器1に挿入する際、その操作を容易に行うことができる。
【0072】
以上説明したように、インク吸収器100は、長尺状をなし、液滴吐出ヘッド201から吐出されるインクの廃液であるインクQを吸収する複数のインク吸収体10と、複数のインク吸収体10を収容する収容容器1と、を備え、複数のインク吸収体10は、長手方向が鉛直方向に沿うように配置されている。これにより、インク吸収体10同士の間に空隙Gが形成されるため、空隙GをインクQが通過するように広がっていく。よって、空隙Gが形成されている分、従来のブロック状のインク吸収体に比べて、インクQの浸透性、特に、インク吸収体10の長手方向における浸透性を高めることができる。
【0073】
また、本発明の印刷装置200は、インク吸収器100を備える。これにより、インク吸収器100の利点を有する印刷装置200を得ることができる。
【0074】
<第2実施形態>
図9は、本発明のインク吸収器の第2実施形態を示す断面図である。
【0075】
以下、この図を参照して、本発明のインク吸収器および印刷装置の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0076】
図9に示すように、本実施形態のインク吸収器100では、排出口31の直下に対応する領域10C、すなわち、収容容器1を上方から見たとき、排出口31と重なる領域10Cに配置されたインク吸収体10の長さが、その周囲の領域10Dに位置するインク吸収体10の長さよりも短い。このため、複数のインク吸収体10全体で見たとき、排出口31の直下の領域10Cにおいて、排出口31側に凹部500が形成されることとなる。
【0077】
このような構成によれば、排出されたインクQが、まず、凹部500に貯留され、その後、全体に浸透していく構成とすることができる。よって、インクQの排出量が一時的に多くなったとしても、インクQが溢れることなく、安定してインクQを吸収することができる。
【0078】
以上、本発明のインク吸収器および印刷装置を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、インク吸収器および印刷装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。
【0079】
また、本発明のインク吸収器および印刷装置は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成、特徴を組み合わせたものであってもよい。
【0080】
また、領域10Cにおけるインク吸収体10の密度が、領域10Dにおけるインク吸収体10の密度よりも低くてもよい。この場合、インクQが滴下して直ぐに吸収する領域でのインクQの浸透性をさらに高めることができ、全体としてインク吸収速度を高めることができる。
【符号の説明】
【0081】
1…収容容器、7…規制板、8…蓋体、9…容器本体、10…インク吸収体、10A…投影像、10B…成形体、10C…領域、10D…領域、20…繊維、30…樹脂、31…排出口、71…孔部、91…底部、92…側壁部、93…収容空間、94…上部開口部、95…空隙、100…インク吸収器、200…印刷装置、201…液滴吐出ヘッド、201a…ノズル、202…キャッピングユニット、203…チューブ、204…ローラーポンプ、204a…ローラー部、204b…挟持部、300…切断位置、400…切断位置、500…凹部、A…矢印、B…矢印、C…矢印、G…空隙、M8…第2ウェブ、Q…インク、S…シート、S1…積層体