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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】クレーン、クレーン制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/23 20060101AFI20241210BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20241210BHJP
   B66D 1/54 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B66C13/23 C
B66C15/00 A
B66D1/54 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020190769
(22)【出願日】2020-11-17
(65)【公開番号】P2022079902
(43)【公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100141298
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 文典
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 仁士
(72)【発明者】
【氏名】笹井 慎太郎
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-063968(JP,A)
【文献】特開2005-255281(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056026(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00 - 15/06
B66D 1/00 - 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊りロープを支えるブームと、
前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行うウインチ装置と、
前記ウインチ装置を制御するウインチ制御部と、
前記吊りロープに吊るされた吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、
前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出する許容減速率導出部と、を備え、
前記許容減速率導出部は、前記荷重計測装置の前記計測荷重が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい前記許容減速率を導出し、
前記ウインチ制御部は、前記ウインチ装置が前記吊りロープを巻取り中に前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取りを減速させる場合に、前記許容減速率の範囲内に制限しつつ減速させる、クレーン。
【請求項2】
吊りロープを支えるブームと、
前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行うウインチ装置と、
前記ウインチ装置を制御するウインチ制御部と、
前記吊りロープに吊るされた吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、
前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出する許容減速率導出部と、
前記ウインチ装置が前記吊りロープの巻取りを開始速度から前記許容減速率で減速するとすれば前記ウインチ装置が停止するまでに予め設定される許容時間を要する場合における前記開始速度である上限巻取り速度を導出する上限速度導出部と、を備え、
前記許容減速率導出部は、前記荷重計測装置の前記計測荷重が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい前記許容減速率を導出し、
前記ウインチ制御部は、前記ウインチ装置が前記吊りロープを巻取り中に前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取りを減速させる場合に、前記許容減速率の範囲内に制限しつつ減速させ、
前記ウインチ制御部は、前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取り速度を前記上限巻取り速度の範囲内に制限する、クレーン。
【請求項3】
吊りロープを支えるブームと、
前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行うウインチ装置と、
前記ウインチ装置を制御するウインチ制御部と、
前記吊りロープに吊るされた吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、
前記吊りロープの垂下長さを計測する垂下長さ計測装置と、
前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出する許容減速率導出部と、
前記垂下長さ計測装置による計測長さに応じて、前記ウインチ装置が前記吊りロープの巻取りを開始速度から前記許容減速率で減速するとすれば前記ウインチ装置が停止するまでに前記垂下長さが前記計測長さから予め設定される最小垂下長さまで変化する場合における前記開始速度である上限巻取り速度を導出する上限速度導出部と、備え、
前記ウインチ制御部は、前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取り速度を、前記垂下長さの前記計測長さに応じて導出される前記上限巻取り速度の範囲内に制限するクレーン。
【請求項4】
吊りロープを支えるブームと、前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行うウインチ装置と、前記吊りロープに吊るされた吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、を備えるクレーンを制御するクレーン制御方法であって、
前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出し、前記荷重計測装置の前記計測荷重が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい前記許容減速率を導出する工程と、
前記ウインチ装置を制御することにより前記ウインチ装置が前記吊りロープを巻取り中に前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取りを減速させる場合に、前記許容減速率の範囲内に制限しつつ減速させる工程と、を含むクレーン制御方法。
【請求項5】
吊りロープを支えるブームと、前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行うウインチ装置と、前記吊りロープに吊るされた吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、を備えるクレーンを制御するクレーン制御方法であって、
前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出し、前記荷重計測装置の前記計測荷重が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい前記許容減速率を導出する工程と、
前記ウインチ装置が前記吊りロープの巻取りを開始速度から前記許容減速率で減速するとすれば前記ウインチ装置が停止するまでに予め設定される許容時間を要する場合における前記開始速度である上限巻取り速度を導出する工程と、
前記ウインチ装置を制御することにより前記ウインチ装置が前記吊りロープを巻取り中に前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取りを減速させる場合に、前記許容減速率の範囲内に制限しつつ減速させる工程と、
前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取り速度を前記上限巻取り速度の範囲内に制限する工程と、を含むクレーン制御方法。
【請求項6】
吊りロープを支えるブームと、前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行うウインチ装置と、前記吊りロープに吊るされた吊り荷の荷重を計測する荷重計測装置と、前記吊りロープの垂下長さを計測する垂下長さ計測装置と、を備えるクレーンを制御するクレーン制御方法であって、
前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出し、前記荷重計測装置の前記計測荷重が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい前記許容減速率を導出する工程と、
前記垂下長さ計測装置による計測長さに応じて、前記ウインチ装置が前記吊りロープの巻取りを開始速度から前記許容減速率で減速するとすれば前記ウインチ装置が停止するまでに前記垂下長さが前記計測長さから予め設定される最小垂下長さまで変化する場合における前記開始速度である上限巻取り速度を導出する工程と、
前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取り速度を、前記垂下長さの前記計測長さに応じて導出される前記上限巻取り速度の範囲内に制限する工程と、を含むクレーン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊りロープの巻取り制御を行うクレーンおよびクレーン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンは、吊りロープを支えるブームと、前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行うウインチ装置とを備える。吊り荷は、前記吊りロープに吊るされる。前記ウインチ装置は、前記吊りロープを巻き取るウインチドラムおよび前記ウインチドラムを回転させるモーターを備える。
【0003】
前記ウインチドラムにおける前記吊りロープの巻き取り状態が乱れる場合がある。前記ロープの巻き取りが乱れた状態は、乱巻き状態と称される。前記乱巻き状態が発生すると、例えば前記吊り荷が一時的に急降下するなど、危険な状況に繋がるおそれがある。
【0004】
前記クレーンにおいて、油圧シリンダがリンクを介して前記吊りロープに対して一定の負荷を与え、制御装置が、前記吊りロープの繰り出し中に前記リンクの角度が所定角度を超えたときに前記ウインチを停止させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。これにより、前記吊り荷が着床したときの前記吊りロープの余分な繰り出しが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-313592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記吊り荷が軽い場合に、前記ウインチ装置が前記吊りロープの巻き上げを急減速すると、一時的に前記吊りロープが緩み、前記ウインチ装置において前記乱巻き状態が発生するおそれがある。
【0007】
一方、前記吊りロープの巻取りを緩やかに減速することは、前記クレーンによる前記吊り荷の運搬の作業効率の悪化に繋がる。
【0008】
本発明の目的は、作業効率を極力悪化させることなく、吊りロープの巻取りの急減速に起因するウインチ装置での乱巻き状態の発生を回避できるクレーンおよびクレーン制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に係るクレーンは、ブームと、ウインチ装置と、ウインチ制御部と、荷重計測装置と、許容減速率導出部と、を備える。前記ブームは、吊りロープを支える。前記ウインチ装置は、前記吊りロープの巻取りまたは繰り出しを行う。前記ウインチ制御部は、前記ウインチ装置を制御する。前記荷重計測装置は、前記吊りロープに吊るされた吊り荷の荷重を計測する。前記許容減速率導出部は、前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出する。前記許容減速率導出部は、前記荷重計測装置の前記計測荷重が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい前記許容減速率を導出する。前記ウインチ制御部は、前記ウインチ装置が前記吊りロープを巻取り中に前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取りを減速させる場合に、前記許容減速率の範囲内に制限しつつ減速させる。
【0010】
本発明の他の局面に係るクレーン制御方法は、前記ブームと、前記ウインチ装置と、前記荷重計測装置と、を備えるクレーンを制御する方法である。前記クレーン制御方法は、前記荷重計測装置の計測荷重に応じて前記吊りロープの巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率を導出し、前記荷重計測装置の前記計測荷重が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい前記許容減速率を導出する工程を含む。さらに、前記クレーン制御方法は、前記ウインチ装置を制御することにより前記ウインチ装置が前記吊りロープを巻取り中に前記ウインチ装置による前記吊りロープの巻取りを減速させる場合に、前記許容減速率の範囲内に制限しつつ減速させる工程を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業効率を極力悪化させることなく、吊りロープの巻取りの急減速に起因するウインチドラムでの乱巻き状態の発生を回避できるクレーンおよびクレーン制御方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係るクレーンの構成図である。
図2図2は、実施形態に係るクレーンにおける制御関連機器の構成を表すブロック図である。
図3図3は、実施形態に係るクレーンにおける制御装置の構成を表すブロック図である。
図4図4は、実施形態に係るクレーンにおける吊りロープ巻取り制限制御の手順の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、実施形態に係るクレーンにおける吊り荷重と吊りロープの巻取りの許容減速率との対応関係の例を示すグラフであり、図5(A)は吊り荷重に応じて連続的に変化する許容減速率が導出される例を示すグラフであり、図5(B)は吊り荷重に応じて多段階に変化する許容減速率が導出される例を示すグラフであり、図5(C)は吊り荷重に応じて2段階に変化する許容減速率が導出される例を示すグラフである。
図6図6は、実施形態に係るクレーンにおける吊りロープの巻取り停止の許容時間と巻取りの第1上限速度との関係を示すグラフである。
図7図7は、実施形態に係るクレーンにおける吊りロープの巻取り停止の停止所要時間と巻取りの第2上限速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0014】
[クレーン10の概略構成]
本発明の実施形態に係るクレーン10は、吊り荷9を吊り上げ、移動させる作業機械である。以下、クレーン10がジブクレーンである場合の例について説明する。
【0015】
図1に示されるように、クレーン10は、下部走行体11、上部旋回体12、キャブ13、ガントリ15、ウインチ装置16、カウンターウェイト17、ブーム21、起伏ロープ31、吊りロープ32およびフック30などを備える。ウインチ装置16は、第1ウインチ装置161および第2ウインチ装置162を含む。
【0016】
下部走行体11は、上部旋回体12を旋回可能に支持する台座部分である。図1に示されるクレーン10は移動式クレーンである。そのため、クレーン10の下部走行体11は、クレーン10全体を走行させる走行装置14を備える。図1は、走行装置14がクローラー式の装置である例を示す。なお、下部走行体11は、下部基体の一例である。
【0017】
上部旋回体12は、下部走行体11の上部に旋回可能に連結されている。上部旋回体12は、キャブ13、ガントリ15およびウインチ装置16と一体に構成されている。ガントリ15は、上部旋回体12から起立する状態で上部旋回体12に固定されている。さらに、上部旋回体12は、ウインチ装置16、カウンターウェイト17およびブーム21を支持している。
【0018】
上部旋回体12は、下部走行体11に設けられた旋回モーター441によって旋回駆動される(図2参照)。キャブ13は、操縦室である。ブーム21は、上部旋回体12に起伏可能に連結されている。
【0019】
起伏ロープ31は、ガントリ15の先端部に設けられたガントリシーブ23に掛けられており、起伏ロープ31の両端が、それぞれブーム21および第1ウインチ装置161に接続されている。第1ウインチ装置161は、起伏ロープ31を介してブーム21を支える。
【0020】
第1ウインチ装置161は、起伏ロープ31の巻き取り、または、繰り出しを行うことにより、ブーム21の起伏角度を変化させる。第1ウインチ装置161は、起伏ロープ31を巻き取るドラムを回転駆動する第1ウインチモーター442を備える(図2参照)。
【0021】
吊りロープ32は、ブーム21の先端に設けられたポイントシーブ25に掛けられており、フック30は、吊りロープ32の先端に接続されている。
【0022】
吊り荷9は、フック30に吊り下げられる。これにより、吊り荷9は、吊りロープ32によってブーム21に吊るされる。吊り荷重LD1が吊りロープ32に加わる。ブーム21は、吊りロープ32を支える。
【0023】
第2ウインチ装置162は、吊りロープ32の巻き取り、または、繰り出しを行うことにより、フック30および吊り荷9を昇降させる。第2ウインチ装置162は、吊りロープ32を巻き取るドラムを回転駆動する第2ウインチモーター443を備える(図2参照)。
【0024】
カウンターウェイト17は、ブーム21およびフック30に吊られた吊り荷9の荷重とのバランスをとる。
【0025】
図2に示されるように、クレーン10は、エンジン41、油圧ポンプ42、制御弁43および油圧アクチュエータ44などの駆動系の機器と、操作装置5と、制御装置6と、表示装置7とを備える。
【0026】
エンジン41は、油圧ポンプ42を駆動するディーゼルエンジンである。制御弁43は、制御装置6から出力される制御信号に従って油圧アクチュエータ44と油圧ポンプ42などとの間の作動油の流れを制御する。
【0027】
油圧アクチュエータ44は、旋回モーター441、第1ウインチモーター442および第2ウインチモーター443などの油圧モーターを含む。旋回モーター441は、上部旋回体12を旋回駆動する。
【0028】
第1ウインチ装置161は、起伏ロープ31を巻き取るドラムおよびそのドラムを回転駆動する第1ウインチモーター442を備える。第2ウインチ装置162は、吊りロープ32を巻き取るドラムおよびそのドラムを回転駆動する第2ウインチモーター443を備える。
【0029】
操作装置5および表示装置7などのヒューマンインターフェースのための装置は、キャブ13内に設けられている。さらに、クレーン10は、クレーン10が備える各種の機器の状態を計測する状態計測装置45も備える。
【0030】
制御装置6は、状態計測装置45および操作装置5などの他の機器とCAN(Controller Area Network)などの車載ネットワーク100を通じて通信可能である。
【0031】
操作装置5は、操縦者の操作を受け付ける装置である。表示装置7は情報を表示する装置であり、例えば液晶表示ユニットなどのパネル表示装置である。
【0032】
操作装置5は、旋回操作装置51、起伏操作装置52、昇降操作装置53および操作入力装置54などを含む。
【0033】
旋回操作装置51は、中立位置から2方向へ変位可能な旋回レバー511を備える。旋回操作装置51は、旋回レバー511に対する操作方向および操作量に応じて、旋回モーター441の回転方向および回転速度を指示する信号を制御装置6へ出力する。
【0034】
起伏操作装置52は、中立位置から2方向へ変位可能な起伏レバー521を備える。起伏操作装置52は、起伏レバー521に対する操作方向および操作量に応じて、第1ウインチモーター442の回転方向および回転速度を指示する信号を制御装置6へ出力する。
【0035】
昇降操作装置53は、中立位置から2方向へ変位可能な昇降レバー531を備える。昇降操作装置53は、昇降レバー531に対する操作方向および操作量に応じて、第2ウインチモーター443の回転方向および回転速度の制御信号を制御装置6へ出力する。
【0036】
制御装置6は、旋回操作装置51、起伏操作装置52および昇降操作装置53のそれぞれから得られる制御信号に応じて、旋回モーター441、第1ウインチモーター442および第2ウインチモーター443それぞれに対応する制御弁43を制御する。
【0037】
操作入力装置54は、前記操縦者による情報入力を受け付ける。例えば、操作入力装置54は、表示装置7と一体に構成されたタッチパネルなどである。また、操作入力装置54が、前記操縦者の音声操作による情報入力を受け付ける装置であってもよい。
【0038】
状態計測装置45は、荷重計451、起伏角度計測装置452および繰り出し長さ計測装置453などを含む。各種の状態計測装置45の計測結果は、車載ネットワーク100を通じて制御装置6へ伝送される。
【0039】
荷重計451は、ブーム21に加わる吊り荷9の荷重を計測する。例えば、荷重計451が、起伏ロープ31に取り付けられたロードセルなどの荷重センサーであることが考えられる。荷重計451は、荷重計測装置の一例である。
【0040】
起伏角度計測装置452は、ブーム21の起伏角度を計測する。起伏角度計測装置452が、ブーム21に取り付けられた角度計であることが考えられる。
【0041】
繰り出し長さ計測装置453は、吊りロープ32の繰り出し長さを計測する装置である。例えば、繰り出し長さ計測装置453は、吊りロープ32に接触して従動回転する回転体の回転数をカウントすることによって吊りロープ32の繰り出し長さを計測する。
【0042】
図3に示されるように、制御装置6は、MPU(Miro Processing Unit)601、RAM(Random Access Memory)602、不揮発性メモリー603および信号インターフェイス604などを備える。なお、RAM602および不揮発性メモリー603は、コンピューター読み取り可能な記憶装置である。
【0043】
MPU601は、予め不揮発性メモリー603に記憶されたプログラムを実行することにより、各種のデータ処理および制御を実行するプロセッサーの一例である。
【0044】
RAM602は、MPU601によって実行される前記プログラムおよびMPU601が導出もしくは参照するデータを一時記憶する揮発性のメモリーである。
【0045】
不揮発性メモリー603は、MPU601によって実行される前記プログラムおよびMPU601が参照するデータを予め記憶する。例えば、不揮発性メモリー603がEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)またはフラッシュメモリーなどであることが考えられる。
【0046】
信号インターフェイス604は、状態計測装置45の計測信号をデジタルデータへ変換してMPU601へ伝送する。さらに、信号インターフェイス604は、MPU601が出力する制御指令を電流信号または電圧信号などの制御信号へ変換し、制御対象の機器へ出力する。
【0047】
制御装置6のMPU601は、所定のコンピュータープログラムを実行することにより実現される複数の処理モジュールを含む。前記複数の処理モジュールは、主処理部61、旋回制御部62、起伏制御部63、昇降制御部64および垂下長さ導出部65などを含む(図2参照)。
【0048】
主処理部61は、制御装置6が起動したときの各種の処理の開始制御、表示装置7の制御および操作入力装置54に対する入力操作に従った情報入力処理などを実行する。
【0049】
旋回制御部62は、旋回モーター441に対応する制御弁43を制御することにより、上部旋回体12の旋回方向および旋回速度を制御する。
【0050】
起伏制御部63は、第1ウインチモーター442に対応する制御弁43を制御することにより、第1ウインチ装置161による起伏ロープ31の繰り出しまたは巻取りを制御する。即ち、起伏制御部63は、ブーム21の起伏角度を制御する。
【0051】
昇降制御部64は、第2ウインチモーター443に対応する制御弁43を制御することにより、第2ウインチ装置162による吊りロープ32の繰り出しまたは巻取りを制御する。即ち、昇降制御部64は、吊り荷9の高さを制御する。
【0052】
なお、昇降操作装置53は、第2ウインチ装置162の動作を指示する操作を受け付けるウインチ操作装置の一例である。昇降制御部64は、昇降操作装置53に対する操作に応じて第2ウインチ装置162を制御するウインチ制御部の一例である。
【0053】
垂下長さ導出部65は、繰り出し長さ計測装置453の検出結果を、予め設定されるブーム21の長さと起伏角度計測装置452の計測角度とに基づいて補正することにより、吊りロープ32の垂下長さL1を導出する(図1参照)。
【0054】
繰り出し長さ計測装置453および垂下長さ導出部65は、吊りロープ32の垂下長さL1を計測する垂下長さ計測装置の一例である。昇降制御部64は、第1ウインチモーター442に対応する制御弁43を制御することにより、垂下長さL1を制御することになる。
【0055】
ところで、吊り荷9が軽い場合に、第2ウインチ装置162が吊りロープ32の巻き上げを急減速すると、一時的に吊りロープ32が緩み、第2ウインチ装置162において前記乱巻き状態が発生するおそれがある。
【0056】
一方、吊りロープ32の巻取りを緩やかに減速することは、クレーン10による吊り荷9の運搬の作業効率の悪化に繋がる。
【0057】
クレーン10において、制御装置6は、後述する吊りロープ巻取り制限制御を実行する。これにより、クレーン10は、作業効率を極力悪化させることなく、吊りロープ32の巻取りの急減速に起因する第2ウインチ装置162での前記乱巻き状態の発生を回避することができる。
【0058】
本実施形態において、制御装置6のMPU601は、前記コンピュータープログラムを実行することにより実現される前記処理モジュールとして、許容減速率導出部66、第1上限速度導出部67および第2上限速度導出部68をさらに含む(図2参照)。
【0059】
昇降制御部64、許容減速率導出部66、第1上限速度導出部67および第2上限速度導出部68は、前記吊りロープ巻取り制限制御を実行する。
【0060】
[吊りロープ巻取り制限制御]
以下、図4に示されるフローチャートを参照しつつ、クレーン10における前記吊りロープ巻取り制限制御の手順の一例について説明する。
【0061】
例えば、許容減速率導出部66は、荷重計451の計測荷重である吊り荷重LD1が予め定められた変化幅を超えて変化したときに、前記吊りロープ巻取り制限制御を開始する。
【0062】
以下の説明において、S1,S2,…は、前記吊りロープ巻取り制限制御における複数の工程の識別符号を表す。
【0063】
<工程S1>
前記吊りロープ巻取り制限制御において、許容減速率導出部66が、荷重計451から吊り荷重LD1のデータを取得し、吊り荷重LD1に応じて吊りロープ32の巻取りの減速率の許容値を表す許容減速率dVL1を導出する(図5参照)。さらに、後述する工程S2の処理が実行される。
【0064】
例えば、許容減速率dVL1は正の値である。この場合、許容減速率dVL1は、その値が大きいほど、吊りロープ32の巻取りについてより急な減速を許容すること意味する。換言すれば、許容減速率dVL1は、その値が小さいほど、吊りロープ32の巻取りがより緩やかに減速するよう制限することを意味する。
【0065】
図5に示されるように、許容減速率導出部66は、吊り荷重LD1が大きい場合よりも小さい場合の方が小さい許容減速率dVL1を導出する。図5(A)~(C)は、吊り荷重LD1から許容減速率dVL1を導出する方法の3つの例を示す。
【0066】
図5(A)は、吊り荷重LD1に応じて連続的に変化する許容減速率dVL1が導出される例を示す。図5(B)は吊り荷重LD1に応じて多段階に変化する許容減速率dVL1が導出される例を示す。図5(C)は吊り荷重LD1に応じて2段階に変化する許容減速率dVL1が導出される例を示す。
【0067】
例えば、許容減速率導出部66は、吊り荷重LD1と許容減速率dVL1との関係を表す予め定められた計算式またはルックアップテーブルに吊り荷重LD1を適用することにより、許容減速率dVL1を導出する。
【0068】
<工程S2>
工程S2において、第1上限速度導出部67が、工程S1で導出された許容減速率dVL1と予め定められた許容時間t1とに基づいて、第1上限巻取り速度Vmx1を導出する。さらに、後述する工程S3の処理が実行される。
【0069】
図6に示されるように、第1上限速度導出部67は、第2ウインチ装置162が吊りロープ32の巻取りを第1開始速度Vs1から許容減速率dVL1で減速するとすれば第2ウインチ装置162が停止するまでに予め設定される許容時間t1を要する場合における第1開始速度Vs1を、第1上限巻取り速度Vmx1として導出する。
【0070】
例えば、第1上限速度導出部67は、以下の(1)式に基づいて第1上限巻取り速度Vmx1を導出する。
【数1】
【0071】
<工程S3>
工程S3において、昇降制御部64は、第2ウインチ装置162が吊りロープ32を巻取り中であるか否かを判定し、第2ウインチ装置162が吊りロープ32を巻取り中であると判定する場合に、処理を次の工程S4へ移行させる。
【0072】
昇降制御部64は、工程S3以降の処理と並行して、昇降操作装置53に対する操作に従った第2ウインチ装置162の制御を実行する。
【0073】
昇降制御部64は、工程S4以降において、吊りロープ32の巻取り速度が第1上限巻取り速度Vmx1または後述する第2上限巻取り速度Vmx2を超えない範囲で、昇降操作装置53に対する操作に従った第2ウインチ装置162の制御を実行する。
【0074】
昇降制御部64は、繰り出し長さ計測装置453による計測長さの変化率およびその計測長さの変化率の変化率を導出することにより、吊りロープ32の巻取りの速度および加速度を導出する。
【0075】
<工程S4>
工程S4において、第2上限速度導出部68が、工程S1で導出された許容減速率dVL1と垂下長さ導出部65により導出される垂下長さL1と最小垂下長さL0とに基づいて、第2上限巻取り速度Vmx2を導出する(図7参照)。さらに、後述する工程S5の処理が実行される。
【0076】
最小垂下長さL0は、例えば主処理部61により、操作入力装置54に対する入力操作に従って予め設定される。
【0077】
なお、垂下長さL1は、繰り出し長さ計測装置453および垂下長さ導出部65からなる前記垂下長さ計測装置による計測長さである。
【0078】
図7に示されるように、第2上限速度導出部68は、第2ウインチ装置162が吊りロープ32の巻取りを第2開始速度Vs2から許容減速率dVL1で減速するとすれば第2ウインチ装置162が停止するまでに垂下長さL1が現在の計測長さから最小垂下長さL0まで変化する場合における第2開始速度Vs2を、第2上限巻取り速度Vmx2として導出する。
【0079】
図7における停止所要時間t2は、第2ウインチ装置162が吊りロープ32を第2開始速度Vs2で巻き取る状態から許容減速率dVL1で減速することによって停止するまでに要する時間である。
【0080】
また、図7における巻取り長さLUP1は、垂下長さL1が現在の計測長さから最小垂下長さL0まで変化するときの吊りロープ32の巻取り長さである。
【0081】
例えば、第2上限速度導出部68は、以下の(2)式に基づいて第2上限巻取り速度Vmx2を導出する。
【数2】
【0082】
<工程S5>
工程S5において、昇降制御部64は、第2ウインチ装置162による吊りロープ32の巻取り速度を、第1上限巻取り速度Vmx1の範囲内、かつ、第1上限巻取り速度Vmx1の範囲内に制限する制御を実行する。さらに、後述する工程S6の処理が実行される。
【0083】
即ち、昇降制御部64は、昇降操作装置53に対する操作に従って第2ウインチ装置162を制御する場合における吊りロープ32の巻取り速度が、第1上限巻取り速度Vmx1および第2上限巻取り速度Vmx2以下である場合には、昇降操作装置53に対する操作に従って第2ウインチ装置162を制御する。
【0084】
一方、昇降制御部64は、昇降操作装置53に対する操作に従って第2ウインチ装置162を制御する場合における吊りロープ32の巻取り速度が、第1上限巻取り速度Vmx1または第2上限巻取り速度Vmx2を上回る場合には、吊りロープ32の巻取り速度が、第1上限巻取り速度Vmx1および第2上限巻取り速度Vmx2のうちの低い方の速度になるように、第2ウインチ装置162を制御する。
【0085】
<工程S6>
工程S6において、昇降制御部64は、昇降操作装置53に対して吊りロープ32の巻取りを減速させる減速操作が行われたか否かを判定する。
【0086】
そして、昇降制御部64は、前記減速操作が行われたと判定する場合に処理を工程S7,S8へ移行させ、そうでない場合に処理を工程S8へ移行させる。
【0087】
<工程S7,S8>
昇降制御部64は、工程S7において減速率制限制御を実行し、工程S8において第2ウインチ装置162が停止したか否かを判定する。
【0088】
前記減速率制限制御は、第2ウインチ装置162が吊りロープ32を巻取り中に第2ウインチ装置162による吊りロープ32の巻取りを減速させる場合に、許容減速率dVL1の範囲内に制限しつつ減速させる制御である。
【0089】
例えば、昇降制御部64は、吊りロープ32の巻取りの加速度に基づいて第2ウインチモーター443に対応する制御弁43をフィードバック制御することにより、吊りロープ32の巻取りの減速率を許容減速率dVL1の範囲内に制限する。
【0090】
昇降制御部64は、第2ウインチ装置162が停止したと判定するまで工程S7の前記減速率制限制御を継続する。そして、昇降制御部64は、第2ウインチ装置162が停止したと判定したときに、前記吊りロープ巻取り制限制御を終了させる。
【0091】
なお、昇降制御部64は、昇降操作装置53に対する前記減速操作が解除された場合には、前記減速率制限制御をスキップする。
【0092】
以上に示されるように、昇降制御部64および許容減速率導出部66は、吊り荷重LD1が小さい場合における吊りロープ32の巻き上げの停止制御において、吊りロープ32の巻き上げを緩やかに減速して停止させる(図4の工程S1,S6および図5参照)。
【0093】
従って、吊りロープ32の巻取りの急減速に起因する第2ウインチ装置162での前記乱巻き状態の発生を回避することが可能となる。
【0094】
一方、昇降制御部64および許容減速率導出部66は、吊り荷重LD1が大きい場合における吊りロープ32の巻き上げの停止制御において、吊りロープ32の巻き上げの減速の制限を緩める、または、事実上は制限しない(図4の工程S1,S6および図5参照)。
【0095】
従って、吊り荷重LD1が比較的大きい場合、即ち、吊りロープ32の巻き上げの停止の際に前記乱巻き状態が発生しにくい場合には、クレーン10による吊り荷9の運搬の作業効率の悪化が回避される。
【0096】
さらに、吊りロープ32の巻取り速度が第1上限巻取り速度Vmx1の範囲内に制限される(図4の工程S2,S5および図6参照)。これにより、吊りロープ32の巻取り停止の際の減速率が許容減速率dVL1の範囲に制限されても、吊りロープ32の巻取り停止に要する時間が、予め定められた許容時間t1以内に収まる。
【0097】
従って、吊りロープ32の巻取り停止に要する時間が、前記減速率制限制御(工程S6)によって長くなりすぎることが回避される。
【0098】
さらに、吊りロープ32の巻取り速度が第2上限巻取り速度Vmx2の範囲内に制限される(図4の工程S4,S5および図7参照)。これにより、吊りロープ32の巻取り停止の際の減速率が許容減速率dVL1の範囲に制限されても、吊り荷9が最小垂下長さL0に対応する高さを超えて吊り上げられることが回避される。
【0099】
第2上限巻取り速度Vmx2に基づく制御は、吊り荷9の吊り上げ高さを所定の高さ以下に制限したい場合、および、吊り荷9がブーム21の先端付近まで上昇することを防ぎたい場合に有効である。
【0100】
[応用例]
以下、クレーン10の応用例について説明する。
【0101】
クレーン10において、主処理部61が、操作入力装置54に対するモード選択操作に従って前記速度制限制御の動作モードを複数の候補から選択し、昇降制御部64が、選択された前記動作モードに従って前記速度制限制御を実行する、または、しないことが考えられる。
【0102】
前記動作モードは、第1上限巻取り速度Vmx1に基づく前記速度制限制御および第2上限巻取り速度Vmx2に基づく前記速度制限制御の一方または両方を省略するモード、または、両方を実行するモードである。
【0103】
また、クレーン10において、第1上限巻取り速度Vmx1および第2上限巻取り速度Vmx2の一方または両方に関する処理モジュールおよび制御が省略されることも考えられる。
【0104】
また、クレーン10において、許容減速率導出部66が、許容減速率dVL1を導出する代わりに、吊りロープ32の巻取りが現在の速度から停止するまで漸次変化する巻取り目標速度を導出してもよい。前記巻取り目標速度は、許容減速率dVL1が反映された目標速度である。
【符号の説明】
【0105】
5 :操作装置
6 :制御装置
7 :表示装置
9 :吊り荷
10 :クレーン
11 :下部走行体
12 :上部旋回体
13 :キャブ
14 :走行装置
15 :ガントリ
16 :ウインチ装置
17 :カウンターウェイト
21 :ブーム
23 :ガントリシーブ
25 :ポイントシーブ
30 :フック
31 :起伏ロープ
32 :吊りロープ
41 :エンジン
42 :油圧ポンプ
43 :制御弁
44 :油圧アクチュエータ
45 :状態計測装置
51 :旋回操作装置
52 :起伏操作装置
53 :昇降操作装置
54 :操作入力装置
61 :主処理部
62 :旋回制御部
63 :起伏制御部
64 :昇降制御部
65 :垂下長さ導出部
66 :許容減速率導出部
67 :第1上限速度導出部
68 :第2上限速度導出部
100 :車載ネットワーク
161 :第1ウインチ装置
162 :第2ウインチ装置
441 :旋回モーター
442 :第1ウインチモーター
443 :第2ウインチモーター
451 :荷重計
452 :起伏角度計測装置
453 :計測装置
511 :旋回レバー
521 :起伏レバー
531 :昇降レバー
601 :MPU
602 :RAM
603 :不揮発性メモリー
604 :信号インターフェイス
LD1 :吊り荷重
Vmx1 :第1上限巻取り速度
Vmx2 :第2上限巻取り速度
Vs1 :第1開始速度
Vs2 :第2開始速度
dVL1 :許容減速率
t1 :許容時間
t2 :停止所要時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7