(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】印刷装置、及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241210BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20241210BHJP
B41J 2/19 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/165 211
B41J2/165 501
B41J2/19
B41J2/01 205
(21)【出願番号】P 2020193324
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 慎也
(72)【発明者】
【氏名】依田 智裕
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-214541(JP,A)
【文献】特開2018-1558(JP,A)
【文献】特開2016-124235(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0288492(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に液体を吐出する複数のノズルを有するヘッドと、
前記複数のノズルのうち吐出不良を生じた異常ノズルを検出する異常ノズル検出部と、
前記ヘッドと前記媒体との接触を検出する接触検出部と、
前記複数のノズルから前記液体を排出する排出動作を行う排出部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出された場合に、前記排出動作を実行し、
前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出されなかった場合に、前記異常ノズルを補完する印刷を実行すること、
を特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記異常ノズルの数が閾値以上検出された場合に、前記排出動作を実行すること、
を特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記ヘッドは、前記液体を吐出させるアクチュエーターとして圧電素子を有し、
前記異常ノズル検出部は、前記液体を吐出させた後に生じる、前記圧電素子の残留振動に基づいて前記異常ノズルを検出すること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記接触検出部は、超音波式の距離センサーであり、
前記媒体が搬送される搬送方向に沿う前記ヘッドの上流側及び下流側に設けられること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
媒体に液体を吐出する複数のノズルを有するヘッドと、前記複数のノズルのうち吐出不良を生じた異常ノズルを検出する異常ノズル検出部と、前記ヘッドと前記媒体との接触を検出する接触検出部と、前記複数のノズルから前記液体を排出する排出動作を行う排出部と、を備える印刷装置の印刷方法であって、
前記異常ノズルを検出する工程と、
前記ヘッドと前記媒体との接触を検出する工程と、
前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出された場合に、前記排出動作を実行する工程と、
前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出されなかった場合に、前記異常ノズルを補完する補完印刷を実行する工程と、を含むこと、
を特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体を吐出するヘッドと媒体との接触を検出する印刷装置が知られていた。例えば、特許文献1には、ヘッドを搭載するキャリッジに設けられた変位部と媒体との接触によって生じる変位量に応じて印刷動作を制御する印刷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の印刷装置は、ヘッドと媒体との接触の度合いに応じて印刷動作を停止してヘッドのクリーニングを行う。しかしながら、ヘッドと媒体との接触と、クリーニングを必要とするノズル詰まりと、の因果関係が不明確であった。つまり、ヘッドと媒体とが接触したからといって必ずノズルが詰まるとは限らず、また、ノズルが詰まったからといって直ぐにクリーニングが必要とも限らない。したがって、特許文献1の印刷装置は、不必要なクリーニングを実施することにより、印刷効率が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
印刷装置は、媒体に液体を吐出する複数のノズルを有するヘッドと、前記複数のノズルのうち吐出不良を生じた異常ノズルを検出する異常ノズル検出部と、前記ヘッドと前記媒体との接触を検出する接触検出部と、前記複数のノズルから前記液体を排出する排出動作を行う排出部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出された場合に、前記排出動作を実行し、前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出されなかった場合に、前記異常ノズルを補完する印刷を実行する。
【0006】
印刷方法は、媒体に液体を吐出する複数のノズルを有するヘッドと、前記複数のノズルのうち吐出不良を生じた異常ノズルを検出する異常ノズル検出部と、前記ヘッドと前記媒体との接触を検出する接触検出部と、前記複数のノズルから前記液体を排出する排出動作を行う排出部と、を備える印刷装置の印刷方法であって、前記異常ノズルを検出する工程と、前記ヘッドと前記媒体との接触を検出する工程と、前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出された場合に、前記排出動作を実行する工程と、前記異常ノズルが検出され、且つ前記ヘッドと前記媒体との接触が検出されなかった場合に、前記異常ノズルを補完する補完印刷を実行する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る印刷装置の構成を示す斜視図。
【
図3】ヘッド及び接触検出部の配置を説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.実施形態
実施形態に係わる印刷装置1の概略構成について説明する。なお、図面に付記する座標においては、Z軸に沿う両方向は上下方向であり矢印方向が「上」、X軸に沿う両方向は左右方向であり矢印方向が「左」、Y軸に沿う両方向は前後方向であり矢印方向が「前」としている。また、X軸に沿う両方向は主走査方向に対応し、Y軸は印刷部70における搬送方向に対応する。また、媒体Sの搬送方向に沿う位置関係を「上流」「下流」ともいう。
【0009】
図1及び
図2に示すように、印刷装置1は、供給部40、搬送部50、案内部55、巻取部60、印刷部70、吸引部95、及び印刷装置1の各部を制御する制御部10を含んで構成される。供給部40、巻取部60は、X方向に離間した一対の脚部20に設けられる。搬送部50、案内部55は、一対の脚部20に架設されたベースフレーム21に支持される。印刷部70、及び制御部10は、搬送部50、案内部55の上方に位置する、ベースフレーム21に支持されたX軸に長い略直方体状の筐体30の内部に設けられる。
【0010】
供給部40は、筐体30の後方下部に設けられる。供給部40には、未使用の媒体Sが芯管42に巻き重ねられたロール体R1が保持される。供給部40は、芯管42の両端を挟む一対のホルダー41を備える。一方のホルダー41には、芯管42に回動力を供給するモーターが備えられる。モーターが駆動され芯管42が回転することにより、ロール体R1から巻き解かれた媒体Sが印刷部70へ給送される。なお、供給部40には、媒体Sの幅や巻き数の異なる複数サイズのロール体R1が交換可能に装填される。
【0011】
巻取部60は、筐体30の前方下部に設けらる。巻取部60には、印刷部70で印刷された媒体Sが芯管62に巻き取られてロール体R2が形成される。巻取部60は、芯管62の両端を挟む一対のホルダー61を備える。一方のホルダー61には、芯管62に回動力を供給するモーターが備えられる。モーターが駆動され芯管62が回転することにより、媒体Sが芯管62に巻き取られる。なお、巻取部60は、自重によって垂れ下がる媒体Sの裏面側を押圧し、芯管62に巻き取られる媒体Sに張力を付与するテンションローラーを備えた構成であってもよい。
【0012】
案内部55は、上流側案内部56、プラテン57、及び下流側案内部58を備える。プラテン57は、X軸に長い板状をなし、印刷部70と対向する位置に設けられる。プラテン57は、印刷部70で印刷される媒体Sを下方から支持する。上流側案内部56は、プラテン57の上流側に設けられる。また、筐体30の背面には、上流側案内部56の上側となる位置に、媒体Sを筐体30の内部へ供給するための供給口31が形成される。上流側案内部56は、供給部40から供給される媒体Sを、供給口31を介してプラテン57へ案内する。下流側案内部58は、プラテン57の下流側に設けられる。また、筐体30の前面には、下流側案内部58の上側となる位置に、媒体Sを筐体30の外部へ排出するための排出口32が形成される。下流側案内部58は、印刷部70で印刷された媒体Sを、排出口32を介して巻取部60へ案内する。
【0013】
印刷装置1は、媒体Sを加熱する第1ヒーター86、第2ヒーター87、第3ヒーター88を備える。第1、第2及び第3ヒーター86,87,88は、例えば、チューブヒーターであり、アルミテープ等を介して、上流側案内部56、プラテン57及び下流側案内部58のそれぞれの下面に貼付される。第1ヒーター86は、上流側案内部56を加熱するヒーターであり、上流側案内部56に支持される媒体Sを常温から目標温度に向けて徐々に昇温させる。第2ヒーター87は、プラテン57を加熱するヒーターであり、印刷部70と対向するプラテン57上の媒体Sを目標温度の40℃に保つ。第3ヒーター88は、下流側案内部58を加熱するヒーターであり、下流側案内部58に支持される媒体Sを目標温度よりも高い50℃に加熱する。これにより、媒体Sに吐出された液体としてのインクが速やかに乾燥定着され、滲みやぼやけの少ない、品質の高い画像が形成される。
【0014】
搬送部50は、媒体Sの下側に配置されて回転駆動する駆動ローラー51、駆動ローラー51の上側に配置され駆動ローラー51の回転に従動して回転する従動ローラー52、駆動ローラー51に回動力を供給するモーターを備える。駆動ローラー51は、媒体Sの搬送方向と交差する方向に延在し、プラテン57と上流側案内部56との間に設けられる。従動ローラー52は、駆動ローラー51に対して離間又は圧接するように移動可能に構成される。モーターが駆動されて駆動ローラー51が回転駆動することで、従動ローラー52と駆動ローラー51との間に挟持された媒体Sが搬送方向へ搬送される。
【0015】
印刷部70は、プラテン57の配置位置に対して上方に配置される。印刷部70は、プラテン57上の媒体Sに対してインクを吐出するヘッド71、ヘッド71が搭載されるキャリッジ72、キャリッジ72を主走査方向に移動させるヘッド移動部75を備える。また、搬送方向に沿うヘッド71の上流側及び下流側には、接触検出部90が設けられている。
【0016】
ヘッド移動部75は、主走査方向にキャリッジ72を移動させる。キャリッジ72は、X軸に沿って配置されたガイドレール73,74に支持され、ヘッド移動部75によって主走査方向に往復移動可能に構成される。ヘッド移動部75の機構としては、例えば、ボールねじとボールナットとを組み合わせた機構や、リニアガイド機構などを採用することができる。さらに、ヘッド移動部75は、キャリッジ72をX軸方向に沿って移動させるための動力源であるモーターを備えている。モーターが駆動されると、ヘッド71は、キャリッジ72と共に主走査方向に往復移動する。ヘッド71が主走査方向に移動しながら媒体Sに対してインクを吐出することで、印刷が行われる。
【0017】
筐体30の右上部には、設定操作や入力操作を行うための操作部35が設けられる。筐体30の右下部には、インクを収容可能なインク収容容器34を装着可能な容器装着部33が設けられる。容器装着部33には、インクの種類や色に対応して、複数のインク収容容器34が装着される。インク収容容器34とヘッド71とは、可撓性を有するチューブで接続され、ヘッド71にインクが供給される。
【0018】
図3に示すように、ヘッド71は、媒体Sに各種のインクを吐出する複数のノズル76が形成されたノズルプレート77を有している。例えば、ヘッド71は、ブラックインクを吐出するノズル列K、シアンインクを吐出するノズル列C、マゼンタインクを吐出するノズル列M、イエローインクを吐出するノズル列Y、グレーインクを吐出するノズル列LK、ライトシアンインクを吐出するノズル列LCを備えている。各ノズル列K,C,M,Y,LK,LCは、#1~#400の400個のノズル76で構成されている。
【0019】
接触検出部90は、複数の超音波式の距離センサー91で構成されている。距離センサー91は、媒体Sに向かって超音波を発信する発信部92と、媒体Sで反射した超音波を受信する受信部93とを有している。距離センサー91は、発信部92から超音波を発射してから受信部93で超音波を受信するまでの時間によって、媒体Sと距離センサー91の距離を求める。この距離から媒体Sがヘッド71に接触したか否かを検出することができる。
【0020】
吸引部95は、ノズルから液体を排出する排出動作を行う排出部の一例である。
吸引部95は、ヘッド71に蓋をすると共に複数のノズル76からヘッド71内のインクを吸引する、排出動作の一例としての吸引動作を行う装置である。吸引部95は、X方向において、プラテン57のいずれか一方の外側に設けられている。吸引部95は、+Z方向からの平面視にてX方向に往復移動するヘッド71と重なる位置に配置される。吸引部95は、図示しない負圧ポンプを備え、ヘッド71を蓋した状態で負圧ポンプを駆動させることで、ヘッド71内のインクを吸引する。これにより、ヘッド71内に混入した気泡や異物等が取り除かれ、ノズル詰まりを生じたノズル76の吐出を回復することができる。なお、本実施形態では、排出動作として、ヘッド71を吸引することでインクを吸引する吸引動作を例示したが、ヘッド71に供給するインクを加圧することでノズル76から液体を強制的に排出する加圧動作であってもよい。また、吸引部95は、ヘッド71をクリーニングするクリーニング手段の一つである。クリーニング手段としては、吸引部95の他に、ノズルプレート77を払拭するワイパーや、ノズル76から強制的に排出させたインクを受容するフラッシングボックスなどを備えた構成であってもよい。
【0021】
次に、ヘッド71の内部構造について説明する。
図4に示すように、ヘッド71は、複数の圧電素子172、固定板173、及び、フレキシブルケーブル174等をユニット化した圧電素子ユニット170と、この圧電素子ユニット170を収納可能なケース171と、ケース171の先端面に接合された流路ユニット180とを備えている。圧電素子172は、各ノズル76からインクを吐出させるアクチュエーターとして機能する。
【0022】
ケース171は、先端と後端が共に開放された収納空部175を形成した合成樹脂製のブロック状部材であり、収納空部175内には圧電素子ユニット170が収納固定されている。
【0023】
圧電素子172は、縦方向に細長い櫛歯状に形成されている。この圧電素子172は、圧電体と内部電極とを交互に積層して構成された積層型の圧電振動子であって、積層方向に直交する縦方向に伸縮可能な縦振動モードの圧電振動子である。そして、各圧電素子172の先端面が、流路ユニット180の島部176に接合されている。
なお、この圧電素子172はコンデンサーと同じように振る舞う。即ち、信号の供給が停止された場合において、圧電素子172の電位は、停止直前の電位で保持される。
【0024】
流路ユニット180は、流路形成基板183を間に挟んでノズルプレート77を流路形成基板183の一方の面側に配置し、弾性板184をノズルプレート77とは反対側となる他方の面側に配置して積層することで構成されている。
【0025】
ノズルプレート77は、複数のノズル76をY方向に沿って形成した薄手の金属製板材によって構成されている。流路形成基板183は、共通インク室186、インク供給口187、圧力室188、及び、ノズル連通口189からなる一連のインク流路が形成された板状部材である。本実施形態では、この流路形成基板183をシリコンウェハーのエッチング処理によって作製している。弾性板184は、ステンレス製の支持板182上に樹脂フィルム181をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、圧力室188に対応した部分の支持板182を環状に除去して島部176を形成している。
【0026】
このヘッド71では、共通インク室186から圧力室188を通ってノズル76に至る一連のインク流路がノズル76毎に形成される。そして、圧電素子172を充電したり放電したりすることで圧電素子172が変形する。即ち、この縦振動モードの圧電素子172は、充電によって振動子長手方向に収縮し、放電によって振動子長手方向に伸長する。従って、充電によって電位を上昇させると、島部176が圧電素子172側に引っ張られ、島部176周辺の樹脂フィルム181が変形して圧力室188が膨張する。また、放電によって電位を下降させると、圧力室188が収縮する。
【0027】
このように、電位に応じて圧力室188の容積が制御できるので、圧力室188内のインクに圧力変動を生じさせることができ、ノズル76からインクを吐出させることができる。例えば、定常容積の圧力室188を一旦膨張させた後に急激に収縮させることで、インクを液滴に吐出させることができる。
【0028】
なお、本実施形態では、縦振動型の圧電素子172を用いた構成を例示したが、これに限定するものではない。例えば、下電極と圧電体層と上電極とを積層形成した撓み変形型の圧電振動子を用いてもよい。
【0029】
次に、印刷装置1の電気的構成について、
図5を参照して説明する。
【0030】
印刷装置1は、入力装置2から入力される画像データに基づいて媒体Sに画像などを記録する。入力装置2は、パーソナルコンピューター、スマートフォン、タブレット型端末など画像データを保存、送信可能な機器である。
【0031】
印刷装置1は、印刷装置1に備えられる各部の制御を行う制御部10を有する。制御部10は、I/F(Interface)部11、CPU(Central Processing Unit)12、記憶部13、制御回路14、異常ノズル検出部150などを含んで構成される。
I/F部11は、入力装置2と制御部10との間でデータの送受信を行うためのものであり、入力装置2から送信された画像データなどを受信する。
CPU12は、各種の入力信号処理や、入信した画像データから印刷を実行するための印刷データなどを生成する演算処理装置である。CPU12は、記憶部13に格納されているプログラム及び印刷データに基づいて印刷装置1全体の制御を行う。
記憶部13は、CPU12のプログラムを格納する領域や作業領域などを確保するための記憶媒体であり、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの記憶素子を有している。記憶部13には、画像データを扱う一般的な画像処理アプリケーションソフトウェアや、印刷装置1に印刷を実行させるための印刷データを生成するプリンタードライバーソフトウェアが格納される。
【0032】
制御回路14は、印刷データおよびCPU12の演算結果に基づいて搬送部50、ヘッド移動部75、吸引部95、ヘッド71などを制御するための制御信号を生成する回路である。制御回路14は、駆動信号生成部14a、吐出信号生成部14b、移動信号生成部14cを含んでいる。
駆動信号生成部14aは、各ノズル76に対応する圧電素子172を駆動するための駆動制御信号を生成する回路である。生成された駆動制御信号を圧電素子172に印加することでノズル76からインクが吐出される。
吐出信号生成部14bは、印刷データおよびCPU12の演算結果に基づいて、インクを吐出させるノズル76の選択、インクを吐出させる吐出タイミングなどを制御するための吐出制御信号を生成する回路である。
移動信号生成部14cは、印刷データおよびCPU12の演算結果に基づいて、搬送部50、ヘッド移動部75を駆動するための移動制御信号を生成する回路である。
【0033】
制御部10は、制御回路14から出力する制御信号によって、ノズル76からインクを吐出させながらキャリッジ72を主走査方向に沿って移動させる主走査を行うことで、X軸に沿ってドットの並ぶラスターラインを媒体S上に形成する。また、制御部10は、制御回路14から出力する制御信号によって、媒体Sを搬送方向に移動させる副走査を行う。この主走査と副走査とを交互に行うことにより、画像データに基づく所望の画像が媒体Sに印刷される。なお、以下の説明では、主走査を「パス」ともいう。
【0034】
制御部10は、制御回路14から出力する制御信号によって、吸引部95を制御して吸引動作を行う。また、制御部10は、接触検出部90から出力された信号を受信し、媒体Sとヘッド71との接触を検出する。
【0035】
異常ノズル検出部150は、複数のノズル76のうちノズル詰まりを生じ吐出不良になった異常ノズルを検出する。制御部10によって駆動信号が圧電素子172に入力されると、圧電素子172が振動しノズル76からインクが吐出される。そして、圧電素子172は、インクを吐出した後、次の駆動信号が入力されるまでの間、残留振動を生じている。圧力室188に気泡が混入して吐出不良を生じたノズル76に対応する圧電素子172は、その残留振動の周波数が変化する。異常ノズル検出部150は、各ノズル76に対応する圧電素子172の残留振動に基づいて、吐出不良を生じた異常ノズルを検出する。
【0036】
図6に示すように、異常ノズル検出部150は、残留振動検出手段151と、計測手段155と、判定手段156とを備えている。残留振動検出手段151は、発振回路152と、F/V変換回路153と、波形整形回路154とから構成される。計測手段155は、残留振動検出手段151によって検出された残留振動波形データから周波数や振幅などを計測する。判定手段156は、計測手段155によって計測された周波数などに基づいてノズル76の吐出不良を判定する。
【0037】
残留振動検出手段151は、圧電素子172の残留振動に基づいて、発振回路152が発振し、その発振周波数からF/V変換回路153及び波形整形回路154において振動波形を形成して、検出する。そして、計測手段155は、検出された振動波形に基づいて残留振動の周波数などを計測し、判定手段156は、計測された残留振動の周波数などに基づいて、ノズル76の吐出不良を検出する。
なお、本実施形態では、残留振動に基づいて異常ノズルを検出する異常ノズル検出部150を備えた構成の印刷装置1を例示したが、吐出不良を生じた異常ノズルの検出方法は、ノズル76から吐出されるインクを光学センサーで検出する方法や、媒体Sに吐出させたインクのドットをスキャナーで読み取って検出する方法であってもよい。
【0038】
次に、印刷装置1の印刷方法について
図7を参照して説明する。
【0039】
ステップS101は、異常ノズルを検出する異常ノズル検出工程である。制御部10の異常ノズル検出部150は、今回実行するノズル76からインクを吐出するパスの前に実行されたパスによって生じた、各ノズル76に対応する圧電素子172の残留振動を受信する。
【0040】
ステップS102は、異常ノズルがあるか否かを判定する工程である。異常ノズル検出部150は、受信した圧電素子172の残留振動に基づいて吐出不良を生じた異常ノズルの有無を判断する。異常ノズルがある場合(ステップS102:Yes)は、ステップS103に進む。異常ノズルがない場合(ステップS102:No)は、ステップS108の主走査工程に進む。
【0041】
ステップS103は、ヘッド71と媒体Sとの接触を検出する媒体接触検出工程である。制御部10は、今回実行するノズル76からインクを吐出するパスの前に実行されたパスにおいて、接触検出部90から出力された出力信号を受信する。
【0042】
ステップS104は、ヘッド71と媒体Sとの接触があったか否かを判定する工程である。制御部10は、受信した出力信号から接触検出部90と媒体Sとの距離を算出し、ヘッド71と媒体Sとの接触の有無を判断する。例えば、制御部10は、媒体Sの高さが、ヘッド71の高さよりも0.2mm以上高い状態が10msec以上継続した場合に、ヘッド71と媒体Sとの接触があったと判断する。ヘッド71と媒体Sとの接触があった場合(ステップS104:Yes)は、ステップS105に進む。ヘッド71と媒体Sとの接触がなかった場合(ステップS104:No)は、ステップS106に進む。
【0043】
ステップS105は、吸引動作を実行する吸引工程である。異常ノズルが検出され、且つヘッド71と媒体Sとの接触が検出された場合は、ノズル76からノズル連通口189にノズル76の径よりも大きな気泡が混入した可能性が高い。この気泡を放置すると、気泡とインクとの界面が乾燥し、固化してしまう。大きな気泡は、固化した後にノズル76からインクを吸引する吸引動作を行っても排出ができず、ノズル詰まりを生じたノズル76の吐出を回復することが困難になる。そこで、制御部10は、印刷動作を停止して吸引動作を実行した後、ステップS108の主走査実行工程に進み印刷動作を再開する。
【0044】
ステップS106は、異常ノズルを補完する補完印刷が可能か否かを判断する判断工程である。制御部10は、異常ノズルの数が閾値以上検出された場合に、補完印刷が不可能と判断する。例えば、異常ノズル数の閾値は、20に設定される。補完印刷が不可能な場合(ステップS106:No)は、ステップS105に進む。補完印刷が可能な場合(ステップS106:Yes)は、ステップS107に進む。
【0045】
ここで、補完印刷の一例について
図8Aから
図9Bを参照して説明する。以下の説明では、ヘッド71は、Y方向に沿って並ぶ8つのノズル76で形成されるノズル列Kを有するものとする。なお、
図8B及び
図9Bでは、インクを吐出できない異常ノズルを×印で示している。また、各図では、媒体Sとヘッド71との相対位置と、ヘッド71の移動方向を表す矢印と、媒体S上に形成されるドットDTの位置とを示している。
【0046】
図8Aに示すように、例えば、印刷データは、矢印方向にヘッド71を移動させるパスで、#1から#8のノズル76からインクを吐出して媒体S上に一列に並ぶドットDTで形成される罫線を印刷させるものとする。
図8Bに示すように、#4のノズル76が異常ノズルと判断された場合、制御部10は、#3及び#5のノズル76から吐出させるインクの量を増やす補完印刷を実行する。この場合、#3及び#5のノズル76は、異常ノズルである#4のノズル76を補完する補完ノズルである。これにより、#3のノズル76で形成されるドットDTと、#5のノズル76で形成されるドットDTとの隙間が狭くなるので、1本の罫線として視認させることができる。
図8Aに示す罫線を印刷させる印刷データの場合、制御部10は、上記閾値に加え、異常ノズルが連続して検出された場合も補完印刷が不可能と判断する。
【0047】
また、
図9Aに示すように、例えば、印刷データは、「1」で示す矢印方向にヘッド71を移動させる第1パスで奇数番目のノズル76からインクを吐出し、媒体Sを搬送方向に4ドット分搬送した後に、「2」で示す矢印方向にヘッド71を移動させる第2パスで偶数番目のノズル76からインクを吐出して媒体S上に一列に並ぶドットDTで形成される罫線を印刷させるものとする。なお、
図9Aでは、第1パスで形成されるドットDTを「1」で示す丸で、第2パスで形成されるドットDTを「2」で示す丸で表している。また、黒丸は、第1パスおよび第2パス以外のパスで形成されるドットDTを示す。
図9Bに示すように、#7のノズル76が異常ノズルと判断された場合、制御部10は、本来、第1パスの#7のノズル76で形成させるドットDTを、第2パスの#3のノズル76で形成する補完印刷を実行する。この場合、#3のノズル76は、異常ノズルである#7のノズル76を補完する補完ノズルである。なお、
図9A及び
図9Bでは、説明の便宜上、媒体Sに対してヘッド71が搬送方向に移動するように図示しているが、実際にはヘッド71に対して媒体Sが搬送方向に移動する。
図9Aに示す罫線を印刷させる印刷データの場合、制御部10は、上記閾値に加え、互いに補完関係にあるノズル76が同時に異常ノズルとして検出された場合も補完印刷が不可能と判断する。
【0048】
ステップS107は、印刷データに対してノズル補完処理を行うノズル補完工程である。異常ノズルが検出され、且つヘッド71と媒体Sとの接触が検出されなかった場合は、インクに混入していたノズル76の径よりも小さな気泡によってノズル詰まりを起こした可能性が高い。小さな気泡は、固化した後でも所定のスケジュールで実行される吸引動作により排出が可能であり、ノズル詰まりを生じたノズル76の吐出を回復することができる。そこで、制御部10は、印刷動作を継続するために、異常ノズルを補完する印刷を実行するための印刷データを再生成する。制御部10は、異常ノズルを補完する補完ノズルを駆動させるための駆動制御信号、及び吐出制御信号を生成する。
【0049】
ステップS108は、主走査を実行する主走査実行工程である。制御部10は、印刷データに基づいて当該パスを実行して本フローを終了する。なお、本フローチャートは、画像を形成させる複数パスのうちのパス毎に繰り返し実行される。また、ステップS101~ステップS104は、説明の便宜上、各ステップに分けて説明したが、実際には、略同時に実行される。
【0050】
なお、本実施形態では、接触検出部90が搬送方向に沿うヘッド71の上流側及び下流側に設けられた構成を例示したが、接触検出部が主走査方向に沿って移動するヘッド71の上流側及び下流側に設けられた構成であってもよい。
また、本実施形態では、ヘッド71として、往復移動するキャリッジ72に搭載され媒体Sの幅方向に移動しながらインクを吐出するシリアルヘッド方式の印刷装置1を例示したが、媒体Sの幅方向に延在し固定して配列されたラインヘッド方式の印刷装置であってもよい。
【0051】
以上述べたように、本実施形態に係る印刷装置1及び印刷方法によれば、以下の効果を得ることができる。
【0052】
印刷装置1は、吐出不良を生じた異常ノズルを検出する異常ノズル検出部150と、ヘッド71と媒体Sとの接触を検出する接触検出部90と、複数のノズル76からインクを排出する排出部としての吸引部95とを備えている。
ヘッド71と媒体Sとの接触が検出された際に検出された異常ノズルは、ノズル76が媒体Sと擦れることによりノズル76の径よりも大きい気泡がノズル76内に混入することで吐出不良を起こした可能性が高い。大きな気泡が固化すると吐出不良を回復することが困難になるため、排出動作の一例としての吸引動作を直ちに実行して固化するまえに気泡を排出する必要がある。一方、ヘッド71と媒体Sと接触が検出されること無く検出された異常ノズルは、インクに混入しているノズル76の径よりも小さい気泡により吐出不良を起こした可能性が高い。小さい気泡は、固化した後でも吸引動作を実行することで吐出不良を回復することができる。そこで、制御部10は、異常ノズルが検出され、且つヘッド71と媒体Sとの接触が検出されなかった場合に、異常ノズルを補完する印刷を実行する。これにより、印刷動作を中断して行う吸引動作の実行回数が減少する。したがって、印刷効率を向上させる印刷装置1を提供することができる。
【0053】
制御部10は、異常ノズルの数が閾値以上検出された場合に吸引動作を実行する。異常ノズル数が多くなると、補完印刷による画質低下が視認される。制御部10は、異常ノズル数が閾値以上になった場合に吸引動作を実行するので、画質の低下を抑制しつつ印刷効率を向上することができる。
【0054】
ヘッド71は、インクを吐出させるアクチュエーターとして圧電素子172を有している。異常ノズル検出部150は、圧電素子172の残留振動に基づいて異常ノズルを検出するので、圧電素子172を用いたインクジェット式のヘッド71において、異常ノズルを好適に検出することができる。
【0055】
搬送方向に沿うヘッド71の上流側及び下流側には、距離センサー91が設けられている。これにより、上流側で発生した媒体Sの浮きによるヘッド71への接触、下流側で発生した媒体Sの浮きによるヘッド71への接触を好適に検出することができる。
【0056】
印刷方法は、吐出不良を生じた異常ノズルを検出する工程と、ヘッド71と媒体Sとの接触を検出する工程と、ヘッド71からインクを排出する排出動作の一例としての吸引動作を実行する工程とを有している。
ヘッド71と媒体Sとの接触が検出された際に検出された異常ノズルは、ノズル76が媒体Sと擦れることによりノズル76の径よりも大きい気泡がノズル76内に混入することで吐出不良を起こした可能性が高い。大きな気泡が固化すると吐出不良を回復することが困難になるため、吸引動作を直ちに実行して固化するまえに気泡を排出する必要がある。一方、ヘッド71と媒体Sと接触が検出されること無く検出された異常ノズルは、インクに混入しているノズル76の径よりも小さい気泡により吐出不良を起こした可能性が高い。小さい気泡は、固化した後でも吸引動作を実行することで吐出不良を回復することができる。そこで、印刷装置1の印刷方法は、異常ノズルが検出され、且つヘッド71と媒体Sとの接触が検出されなかった場合に、異常ノズルを補完する印刷を実行する工程を有している。これにより、印刷動作を中断して行う吸引動作の実行回数が減少する。したがって、印刷装置1の印刷効率を向上させる印刷方法を提供するができる。
【符号の説明】
【0057】
1…印刷装置、10…制御部、50…搬送部、70…印刷部、71…ヘッド、90…接触検出部、91…距離センサー、95…吸引部、150…異常ノズル検出部、172…圧電素子、S…媒体。