(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用の負極、リチウム二次電池、リチウム二次電池用の負極の製造方法及び、リチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20241210BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20241210BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/66 A
H01M4/1395
(21)【出願番号】P 2020193872
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克行
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-074457(JP,A)
【文献】特開2012-238461(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217077(WO,A1)
【文献】特開2018-092928(JP,A)
【文献】特表2019-509606(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0154062(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/66
H01M 4/1395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極基材層と、
上記負極基材
層に積層され
、最表面に位置する第1コート層と
、
上記負極基材層と上記第1コート層との間に積層されているリチウム金属層と
を備え、
上記第1コート層がフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有し、
上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P
2Pのピーク位置が135eV以上であるリチウム二次電池用の負極。
【請求項2】
負極基材層と、
上記負極基材層に積層され、最表面に位置する第1コート層と、
放電時に溶解し、充電時に上記負極基材層と上記第1コート層との間に析出する析出型リチウム金属層と
を備え、
上記第1コート層がフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有し、
上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P
2P
のピーク位置が135eV以上であるリチウム二次電池用の負極。
【請求項3】
上記負極基材層と上記第1コート層との間、かつ上記負極基材層の表面に直接又は間接に積層されている第2コート層を備え、
上記第2コート層が金、スズ、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、これらのいずれかを含むリチウム合金、カーボンナノチューブのうちの少なくとも1つを主成分とする請求項1
又は請求項2に記載の負極。
【請求項4】
上記リチウム金属層又は上記析出型リチウム金属層が、上記負極基材層と上記第2コート層との間、上記第1コート層と上記第2コート層との間、又はこれらの組み合わせに積層され
る又は析出する請求項3に記載の負極。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極を備えるリチウム二次電池。
【請求項6】
負極基材層の表面に直接又は間接にリチウム金属層を積層すること、及び
フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層形成材料の塗工により、
上記負極基材
層に第1コート層を
最表面に位置するように積層することを備え、
上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P
2Pのピーク位置が135eV以上であるリチウム二次電池用の負極の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の負極、又は請求項6に記載の負極の製造方法により得られた負極を用いてリチウム二次電池を作製することを備えるリチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用の負極、リチウム二次電池、リチウム二次電池用の負極の製造方法及び、リチウム二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、飛行機等の飛行体、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記リチウムイオン二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間での受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池の高容量化に向けて、負極の高容量化が求められている。リチウム金属は、現在リチウムイオン二次電池の負極活物質として広く用いられている黒鉛と比較すると活物質質量あたりの放電容量が著しく大きい。すなわち、黒鉛の質量あたりの理論容量は372mAh/gであるが、リチウム金属の質量あたりの理論容量は3860mAh/gであり、著しく大きい。このため、負極活物質としてリチウム金属を用いたリチウム二次電池が提案されている(特開2011-124154号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、負極活物質にリチウム金属が用いられたリチウム二次電池においては、充電の際に負極表面でリチウム金属が樹枝状に析出することがある(以下、樹枝状の形態をしたリチウム金属を「デンドライト」という。)。このデンドライトが成長すると、セパレータを貫通して正極と接触し、短絡を引き起こすおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できるリチウム二次電池用の負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、負極基材層と上記負極基材層の表面に直接又は間接に積層されている第1コート層とを備え、上記第1コート層がフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有し、上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上であるリチウム二次電池用の負極である。
【0008】
本発明の他の一側面は、フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層形成材料の塗工により、負極基材層の表面に直接又は間接に第1コート層を積層することを備え、上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上であるリチウム二次電池用の負極の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面に係るリチウム二次電池用の負極によれば、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示されるリチウム二次電池の負極、リチウム二次電池、リチウム二次電池の負極の製造方法及びリチウム二次電池の製造方法の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面は、負極基材層と上記負極基材層の表面に直接又は間接に積層されている第1コート層とを備え、上記第1コート層がフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有し、上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上であるリチウム二次電池用の負極である。
【0013】
当該リチウム二次電池用の負極によれば、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。一般に、リチウム二次電池において非水電解質として非水電解液を用いると、リチウム金属の析出サイトについて自由度が高く、析出サイトの不均一性に対応してリチウム金属が析出しやすいサイトへ電流が集中しやすい。これにより、充電時に負極表面においてデンドライトの成長が促進されるため、短絡が早期に生じるおそれがある。また、このデンドライトは、続く放電時に負極表面のリチウム金属が溶解することによって電気的に孤立化も生じやすくなる。これに対し、当該リチウム二次電池用の負極は、フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層を負極基材層の表面に直接又は間接に備え、上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上であることで、第1コート層が上記リン化合物の供給源として働き、充放電サイクルに伴って、負極表面における被膜が消費されると、上記第1コート層から必要量の上記リン化合物が溶解して被膜を形成し、常に負極表面において良好な被膜が維持される。その結果、デンドライトの成長が抑制されて、短絡の発生が遅延することになると考えられる。また、負極基材層の表面に予め、上記第1コート層を直接又は間接に形成することで、リチウム金属が析出することによるデンドライトの正極方向への成長が物理的に抑制される。その結果、デンドライトの成長が抑制され、短絡の発生が遅延すると考えられる。従って、当該リチウム二次電池用の負極は、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できる。
【0014】
本願発明において、「リチウム二次電池」とは、非水電解質を介して正極及び負極間でリチウムイオンの授受が行われる二次電池であって、負極活物質としてリチウム金属を用いたものをいう。なお、本開示の「リチウム二次電池」には、リチウム空気電池も含まれる。
【0015】
当該リチウム二次電池用の負極においては、上記負極基材層と上記第1コート層との間、かつ上記負極基材層の表面に直接又は間接に積層されている第2コート層を備え、上記第2コート層が金、スズ、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、これらのいずれかを含むリチウム合金、カーボンナノチューブのうちの少なくとも1つを主成分とすることが好ましい。当該リチウム二次電池用の負極が、上記負極基材層と上記第1コート層との間、かつ上記負極基材層の表面に金、スズ、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、これらのいずれかを含むリチウム合金、カーボンナノチューブのうちの少なくとも1つを主成分とする第2コート層をさらに備えることで、リチウム二次電池における短絡発生をより抑制できる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。当該リチウム二次電池用の負極は、上述のように、フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層を負極基材層の表面に直接又は間接に備えることで、常に負極表面において良好な被膜が維持され、被膜抵抗の不均一性に起因する電流集中が軽減される。さらに、上記負極基材層と上記第1コート層との間、かつ上記負極基材層の表面に直接又は間接に上記金、スズ、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、これらのいずれかを含むリチウム合金、カーボンナノチューブのうちの少なくとも1つを主成分とする第2コート層を被覆することで、これらの第2コート層の成分がリチウム金属の析出サイトとして作用するため、より電流集中が低減されることになる。また、当該リチウム二次電池用の負極が第1コート層により安定な被膜が維持されていることで、リチウム金属の孤立化が起こりにくく、上記成分の析出サイトとしての役割が長期的に持続すると考えられる。従って、当該リチウム二次電池用の負極が第1コート層と第2コート層とを組み合わせて備えることで、短絡発生をより抑制すると推測される。ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、総質量に対して50質量%以上含まれる成分をいう。
【0016】
当該負極は、上記負極基材層と上記第1コート層との間に積層されているリチウム金属層を備えることが好ましい。上記リチウム金属層は、負極活物質層として機能するとともに、デンドライトの電気的な孤立化によって充放電に寄与できなくなったリチウムに相当する電気量を補うリチウム補給層としても機能することができる。
【0017】
当該負極は、上記負極基材層と上記第2コート層との間、上記第1コート層と上記第2コート層との間、又はこれらの組み合わせに積層されているリチウム金属層を備えることが好ましい。当該負極が上記リチウム金属層を備えることにより、デンドライトの電気的な孤立化によって充放電に寄与できなくなったリチウムに相当する電気量を、上記リチウム金属層によって補うことができる。
【0018】
当該リチウム二次電池は当該負極を備える。当該リチウム二次電池が当該負極を備えるので、短絡発生が抑制される。当該リチウム二次電池は、従来からの課題であった短絡発生による充放電サイクル寿命低下に対する改善効果が高い。従って、当該リチウム二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、飛行機、ドローン等の飛行体用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等、種々の電源に好適である。中でも、当該リチウム二次電池は、飛行体用電源に対して特に要求される極めて高い質量エネルギー密度と、十分な充放電サイクル性能とを兼ね備えることから、飛行体電源用として特に好適である。
【0019】
本発明の他の一側面は、フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層形成材料の塗工により、負極基材層の表面に直接又は間接に第1コート層を積層することを備え、上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上であるリチウム二次電池用の負極の製造方法である。当該リチウム二次電池用の負極の製造方法は、負極基材層の表面にフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層形成材料の塗工により、上記負極基材層の表面に直接又は間接に第1コート層が積層され、上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上であることで、常に負極表面において良好な被膜が維持される結果、デンドライトの成長が抑制されて、短絡の発生が遅延することになると考えられる。従って、当該リチウム二次電池用の負極の製造方法は、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できるリチウム二次電池用の負極を製造できる。
【0020】
当該リチウム二次電池の製造方法は、当該負極、又は当該負極の製造方法により得られた負極を用いてリチウム二次電池を作製することを備える。当該リチウム二次電池の製造方法が、当該負極、又は当該負極の製造方法により得られた負極を用いてリチウム二次電池を作製することを備えるので、短絡発生が抑制されたリチウム二次電池を製造できる。
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用の負極の構成、リチウム二次電池の構成、及びリチウム二次電池用の負極の製造方法、リチウム二次電池の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0022】
<リチウム二次電池用の負極>
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用の負極は、負極基材層と上記負極基材層の表面に直接又は間接に積層されている第1コート層とを備える。
【0023】
(負極基材層)
負極基材層は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。負極基材層の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材層としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材層としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0024】
負極基材層の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材層の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材層の強度を高めつつ、リチウム二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0025】
(第1コート層)
第1コート層は、上記負極基材層の表面に直接又は間接に積層される。上記第1コート層は、フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する。
【0026】
上記フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物としては、例えばリチウムジフルオロホスフェート(LiDFP)、リチウムテトラフルオロオキサレートホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサレートホスフェート、リチウム(フルオロスルホニル)(ジフルオロホスホリル)イミド等が挙げられる。
【0027】
上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおけるP2Pのピーク位置の下限としては、135eVであり、136eVが好ましい。一方、上記P2Pのピーク位置の上限としては、138eVが好ましく、137eVがより好ましい。フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおけるP2Pのピーク位置が上記範囲であることで、第1コート層が上記リン化合物の供給源として働き、充放電サイクルに伴って、負極表面における被膜が消費されると、上記第1コート層から必要量の上記リン化合物が溶解して被膜を形成し、常に負極表面において良好な被膜が維持される。その結果、デンドライトの成長が抑制されて、短絡の発生が遅延することになると考えられる。上記X線光電子分光法によるスペクトルのP2Pのピーク位置は、完全放電状態のリチウム二次電池における第1コート層の表面を測定することにより得られた値である。
【0028】
X線光電子分光法(XPS)による負極の第1コート層表面のスペクトルの測定に用いる試料は、次の方法により準備する。リチウム二次電池を、0.1Cの電流で、通常使用時の放電終止電圧まで放電し、完全放電状態とする。ここで、「通常使用時」とは、当該リチウム二次電池において推奨され、又は指定される放電条件を採用して当該リチウム二次電池を使用する場合をいう。完全放電状態のリチウム二次電池を解体して負極を取り出し、ジメチルカーボネートを用いて負極を充分に洗浄した後、室温にて減圧乾燥を行う。乾燥後の負極を、所定サイズ(例えば2cm×2cm)に切り出し、XPSによるスペクトルの測定に用いる試料とする。リチウム二次電池の解体からXPSによるスペクトルの測定までの作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。負極の第1コート層表面のXPSによるスペクトルの測定における使用装置及び測定条件は以下のとおりである。
装置:KRATOS ANALYTICAL社の「AXIS NOVA」
X線源:単色化AlKα
管電圧:15kV
管電流:10mA
中和銃:ON
分析面積:700μm×300μm
測定範囲:P2P=150~120eV、C1S=300~270eV
測定間隔:0.1eV
Dwell Time:P2P=426ミリ秒、C1S=250ミリ秒
積算回数:P2P=20回、C1S=10回
【0029】
また、上記スペクトルにおけるP2Pのピーク位置は、CasaXPS(Casa Software社製)を用いて、次のようにして求められる値とする。まず、C1sにおけるsp2炭素のピークの結合エネルギーを284.8eVとし、得られたすべてのスペクトルを補正する。次に、それぞれのスペクトルに対して、Shirley法を用いてバックグラウンドを除去する。このようにして得たスペクトルの130から138eVの範囲におけるピークのピーク強度が、もっとも高い値を示す結合エネルギーをP2Pのピーク位置とする。
【0030】
(第2コート層)
当該リチウム二次電池用の負極においては、上記負極基材層と上記第1コート層との間、かつ上記負極基材層の表面に直接又は間接に積層されている第2コート層を備えていることが好ましい。上記第2コート層は、金、スズ、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、これらのいずれかを含むリチウム合金、カーボンナノチューブのうちの少なくとも1つを主成分とすることが好ましい。当該リチウム二次電池用の負極が、上記負極基材層の表面に金、スズ、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、これらのいずれかを含むリチウム合金、カーボンナノチューブのうちの少なくとも1つを主成分とする第2コート層をさらに備えることで、これらの第2コート層の成分がリチウム金属の析出サイトとして作用するため、より電流集中が低減されることになる。従って、リチウム二次電池における短絡発生をより抑制できる。上記第2コート層の主成分としては、当該リチウム二次電池における短絡発生をさらに抑制する観点から、これらの中でも金、スズ、アルミニウム、カーボンナノチューブ又はこれらの組み合わせがより好ましい。
【0031】
第2コート層における金、スズ、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、これらのいずれかを含むリチウム合金、カーボンナノチューブのうちの少なくとも1つの含有量の下限としては、50質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。第2コート層における上記成分の含有量の範囲が上記範囲であることで、リチウム二次電池における短絡発生をより抑制できる。
【0032】
第2コート層の平均厚さの下限としては、1nmが好ましく、15nmがより好ましい。一方、第2コート層の平均厚さの上限としては、1000nmが好ましく、800nmがより好ましく、500nmがさらに好ましい。第2コート層の平均厚さを上記の範囲とすることで、上記成分がリチウム金属の析出サイトとして適度に作用するため、短絡発生をより抑制できる。なお、「コート層の平均厚さ」とは、負極上のコート層の質量を負極のコート層の面積で除し、さらにコート層の真密度で除した値をいう。
【0033】
第2コート層の塗工量の下限としては、0.0019mg/cm2が好ましく、0.029mg/cm2がより好ましい。一方、第2コート層の塗工量の上限としては、1.90mg/cm2が好ましく、1.50mg/cm2がより好ましく、0.97mg/cm2がさらに好ましい。第2コート層の塗工量を上記の範囲とすることで、上記成分がリチウム金属の析出サイトとして適度に作用するため、短絡発生をより抑制できる。
【0034】
(リチウム金属層)
当該負極は、リチウム金属層を備えることが好ましい。上記リチウム金属層は、負極活物質層又はリチウム補給層としての機能を有する。従って、上記リチウム金属層は、負極活物質を供給するとともに、デンドライトの電気的な孤立化によって充放電に寄与できなくなったリチウムに相当する電気量を補うことができる。
【0035】
リチウム金属層は、負極活物質としてのリチウム金属を含む。負極活物質としてリチウム金属を含むことで活物質質量あたりの放電容量を向上できる。上記リチウム金属には、リチウム単体の他、リチウム合金が含まれる。リチウム合金としては、例えば、リチウムアルミニウム合金、リチウム銀合金、リチウム亜鉛合金、リチウムカルシウム合金、リチウムマグネシウム合金、リチウムインジウム合金等が挙げられる。リチウム合金は、リチウム以外の複数の金属元素を含んでいてもよい。上記リチウム金属層の態様としては、例えばリチウム金属薄膜、リチウム金属粒子等が挙げられる。リチウム金属を含む負極は、リチウム金属を所定の形状に切断するか、所定の形状に成形することにより製造できる。
【0036】
当該負極が上記第2コート層を備えていない場合においては、上記リチウム金属層は上記負極基材層と上記第1コート層との間に備えられ、当該負極が上記第2コート層を備えている場合は、上記リチウム金属層は上記負極基材層と上記第2コート層との間に備えられていることが好ましい。
【0037】
当該リチウム二次電池がリチウムを含む正極活物質を備えている場合、当該負極は最初にリチウム金属層を備えておらず、充電時に負極基材層の表面にリチウム金属が析出し、放電時に負極基材層の表面に析出したリチウム金属が溶解する形態であってもよい。すなわち、充電時においては、負極基材層とリチウム金属とを含むものが負極となり、放電時においては、負極基材層が負極となる形態であってもよい。この形態の場合、初期の充電により、最初にリチウムを含む正極活物質からリチウムイオンが供給される結果、当該負極における上記負極基材層と上記第1コート層との間又は上記第1コート層と上記第2コート層との間にリチウム金属層が形成されることになる。なお、この形態において、当該負極が上記第2コート層を備えていない場合は、上記リチウム金属層が上記負極基材層と上記第1コート層との間に積層され、当該負極が上記第2コート層を備えている場合は、上記リチウム金属層が上記第1コート層と上記第2コート層との間に積層されていることが好ましい。
【0038】
上記負極基材層として金属箔(例えば銅箔)を用いた場合、金属箔とリチウム金属層との間に金属箔の成分である金属(例えば銅)とリチウムを含む合金層が形成されていてもよい。
【0039】
当該リチウム二次電池用の負極は、負極基材層とリチウム金属層との間に配される中間層を備えていてもよい。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで負極基材層とリチウム金属層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0040】
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用の負極によれば、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できる。
【0041】
<リチウム二次電池>
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池は、上述の当該リチウム二次電池用の負極、正極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。
【0042】
[負極]
当該リチウム二次電池は当該リチウム二次電池用の負極を備える。当該リチウム二次電池が当該リチウム二次電池用の負極を備えるので、短絡発生が抑制される。また、上記負極基材層の表面に直接又は間接にフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層を備えていることで、負極表面側でのリン化合物の選択的消費が促進され、正極表面側に形成された被膜の成長が抑制されるので、正極側における抵抗増加を抑制する効果も有すると推測される。当該リチウム二次電池用の負極の具体的な構成は、上述の通りである。
【0043】
[正極]
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記負極で例示した構成から選択することができる。
【0044】
正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0045】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、リチウム二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0046】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0047】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウム二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4,Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0049】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0050】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0051】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0052】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、リチウム二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0053】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0054】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0055】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0056】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0057】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0058】
[セパレータ]
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形態としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形態の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの負極基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0059】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、リチウム二次電池の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0060】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0061】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0062】
[非水電解質]
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0063】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0064】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもFECが好ましい。
【0065】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもDMC、TFEMCが好ましい。
【0066】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0067】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0068】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0069】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0070】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0072】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0073】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃~25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0074】
硫化物固体電解質としては、リチウム二次電池の場合、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12、等が挙げられる。
【0075】
[リチウム二次電池の具体的構成]
本実施形態のリチウム二次電池の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0076】
図1に角型電池の一例としてのリチウム二次電池1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0077】
[蓄電装置の構成]
本実施形態のリチウム二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、飛行機、ドローン等の飛行体用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数のリチウム二次電池1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つのリチウム二次電池に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0078】
図2に、電気的に接続された二以上のリチウム二次電池1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上のリチウム二次電池1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上のリチウム二次電池の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0079】
<リチウム二次電池用の負極の製造方法>
当該リチウム二次電池用の負極の製造方法においては、フッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層形成材料の塗工により、負極基材層の表面に直接又は間接に第1コート層を積層することを備える。
【0080】
上記第1コート層形成材料は、例えばフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を溶媒に溶解又は分散させることにより調整することができる。上記リン化合物としては、例えばリチウムジフルオロホスフェート(LiDFP)、リチウムテトラフルオロオキサレートホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサレートホスフェート、リチウム(フルオロスルホニル)(ジフルオロホスホリル)イミド等が挙げられる。また、上記溶媒としては、例えば1,2-ジメトキシエタン(DME)が挙げられる。
【0081】
上記基材層の表面に直接又は間接に第1コート層を積層する工程においては、初めに、負極基材層の表面に直接又は間接に、上記第1コート層形成材料の液滴を単位面積当たりの滴下量が同じとなるように滴下し、塗工する。次に、自然乾燥及び真空乾燥を行うことにより、上記負極基材層の表面に直接又は間接に第1コート層が積層される。上記第1コート層の塗工方法としては、例えばスプレーによる噴霧やディップコーターによるコート、スピンコーターによるコート、ロールコーターによるコート等が挙げられる。
【0082】
上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置は135eV以上である。当該リチウム二次電池用の負極の製造方法は、負極基材層の表面にフッ素原子及び酸素原子を含むリン化合物を含有する第1コート層形成材料の塗工により、上記負極基材層の表面に直接又は間接に第1コート層が積層され、上記第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上であることで、常に負極表面において良好な被膜が維持される結果、デンドライトの成長が抑制されて、短絡の発生が遅延することになると考えられる。従って、リチウム二次電池用の負極の製造方法は、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できるリチウム二次電池用の負極を製造できる。
【0083】
また、当該リチウム二次電池用の負極の製造方法は、上記負極基材層と上記第1コート層との間にリチウム金属層を積層することを備えることが好ましい。上記リチウム金属層を積層する工程は、例えば上記負極基材層とリチウム金属層とをプレス等をすることにより行うことができる。
【0084】
当該リチウム二次電池用の負極の製造方法においては、上記第1コート層を積層することの前に、上記負極基材層の表面に直接又は間接に第2コート層を積層することを備えることが好ましい。上記第2コート層の積層方法としては、例えば第2コート層の材料のスパッタリング、蒸着、めっき、塗工等が挙げられる。
【0085】
<リチウム二次電池の製造方法>
本実施形態の一実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法は、上述の当該負極又は当該負極の製造方法により得られた負極を用いてリチウム二次電池を作成することを備える。当該リチウム二次電池の製造方法が、当該負極、又は当該負極の製造方法により得られた負極を用いてリチウム二次電池を作製することを備えるので、短絡発生が抑制されたリチウム二次電池を製造できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することとを備える。上記電極体を準備することは、正極を準備することと、当該負極を準備することと、セパレータを介して正極及び当該負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。当該負極を準備することは、当該負極又は当該負極の製造方法により得られた負極を用いることを備える。
【0086】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。当該製造方法によって得られるリチウム二次電池を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0087】
[その他の実施形態]
尚、本発明のリチウム二次電池は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0089】
[実施例1、実施例2、実施例4及び比較例1]
(負極の作製)
負極基材層を構成する金属箔として、平均厚さ10μmの銅箔を準備した。上記銅箔に厚さ100μmのリチウム金属板を積層した後、上記リチウム金属板の表面に、表1に示す第1コート層を積層した。第1コート層は、下記の手順に基づいて形成した。このようにして得た負極は、いずれも、幅32mm、長さ42mmの矩形状である。
【0090】
(第1コート層の形成)
リチウムジフルオロホスフェート(LiDFP)を、1,2-ジメトキシエタン(DME)溶媒に溶解させ、溶液を調整した。溶液におけるLiDFPの濃度は5.0質量%とし、これを第1コート層形成材料とした。次に、上記リチウム金属板の表面に、上記第1コート層形成材料を単位面積当たりの滴下量が同じとなるようにスポイトで滴下し、自然に濡れ広がらせることにより塗工した後、自然乾燥及び真空乾燥を行った。上記第1コート層の塗工量は、約0.60mg/cm2であった。
【0091】
(正極の作製)
正極活物質として、α-NaFeO2型結晶構造を有し、Li1+αMe1-αO2(Meは遷移金属)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。ここで、LiとMeのモル比Li/Meは1.33であり、Meは、Ni及びMnからなり、Ni:Mn=0.33:0.67のモル比で含んでいるものであった。
【0092】
次に、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とし、上記正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びホスホン酸を92.25:4.5:3.0:0.25の質量比で含有する正極ペーストを作製した。正極基材である平均厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、上記正極ペーストを塗工し、乾燥し、プレスし、正極活物質層が配置された正極を作製した。正極活物質層の塗工量は、26.5mg/cm2であり、多孔度は40%であった。また、作製した正極は、幅30mm、長さ40mmの矩形状である。
【0093】
(非水電解質の調製)
非水溶媒として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)を用いた。そして、FEC:TFEMC=30:70の体積比で混合された混合溶媒にLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させ、非水電解質とした。
【0094】
(リチウム二次電池の作製)
セパレータとして、ポリプロピレン製微孔膜を用いた。セパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体を容器に収納し、内部に上記非水電解質を注入した後、熱溶着により封口し、パウチセルである実施例1、実施例2、実施例4及び比較例1のリチウム二次電池を得た。
【0095】
[比較例2]
上記リチウム金属板の表面に第1コート層を積層しないことと、非水電解質として、上記非水電解質にLiDFPを約0.5質量%添加して飽和溶液としたものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のリチウム二次電池を得た。
【0096】
[比較例3及び比較例5]
上記リチウム金属板の表面に第1コート層を積層しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例3及び比較例5のリチウム二次電池を得た。
【0097】
[実施例3]
上記リチウム金属板の表面に、金を主成分とする第2コート層を形成した後、第2コート層の表面に実施例1と同様にして第1コート層を積層したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のリチウム二次電池を得た。第2コート層は、下記の手順に基づいて形成した。
【0098】
(第2コート層の形成)
スパッタリング法を用いて次の手順でリチウム金属板の表面に第2コート層を形成した。スパッタリング装置として、JEOL製MAGNETRON SPUTTERING DEVICE(JUC-5000)を用い、ターゲットには純度99.99%の金を用いた。リチウム金属板の表面からターゲットまでの高さは25mmとし、コート電流は10mAとして、リチウム金属板の表面に金をスパッタリングした。なお、スパッタリングは、1回5分とし、それを合計3回実施した。上記の作業は全てドライルーム内で行った。第2コート層の塗工量は、約0.25mg/cm2であった。
【0099】
[比較例4]
リチウム金属板の表面に第1コート層を積層しないこと以外は、実施例3と同様にして比較例4のリチウム二次電池を得た。
【0100】
(初期充放電)
得られた各リチウム二次電池について、25℃にて、以下の条件にて2サイクルの初期充放電を行った。充電は、充電電流0.1C、充電電圧4.7Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vの定電流(CC)放電とした。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。なお、ここでの1Cは、正極の単位面積あたりの電流値で6.0mA/cm2とした。
【0101】
(XPS測定)
上記実施例1、実施例2及び比較例1から比較例3に係るそれぞれの初回充放電後の負極について、以下の手順にてXPS測定を行った。初回充放電後の完全放電状態の各リチウム二次電池を露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中にて解体して負極を取り出し、ジメチルカーボネートで洗浄したのち、室温で減圧乾燥した。得られた負極をアルゴン雰囲気中にてトランスファーベッセルに封入し、上記した条件にて上記実施例1、実施例2、比較例1における負極の第1コート層表面のXPS測定を行った。また、比較例2、比較例3はリチウム金属板表面のXPS測定を行った。得られたスペクトルから、上記した方法により、P2pのピーク位置を求めた。
【0102】
(充放電サイクル試験)
初期充放電後の実施例3及び実施例4、比較例4及び比較例5のリチウム二次電池について、25℃にて、以下の条件にて80サイクルの充放電サイクル試験を行った。充電は、充電電流0.2C、充電電圧4.7Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は、充電電流が0.05Cとなるまでとした。放電は、放電電流0.1C、放電終止電圧2.0Vの定電流(CC)放電とした。充電後及び放電後にはそれぞれ10分間の休止期間を設けた。
【0103】
(充放電サイクル試験後の容量維持率)
上記充放電サイクル試験の1サイクル目の放電容量に対する80サイクル目の放電容量の百分率を「充放電サイクル後の容量維持率(%)」とした。
【0104】
(短絡発生までのサイクル数)
実施例1から実施例4及び比較例1から比較例5における短絡発生までのサイクル数は、以下の手順で評価した。上記初期充放電の後、上記充放電サイクル試験と同様の方法にて、サイクル数に上限を設けずに充放電サイクル試験を行った。短絡の発生の有無は、充放電サイクル中の充電電気量の上昇によるクーロン効率の低下の有無により確認した。具体的には、充電電気量が、直前のサイクルと比較して上昇し、かつクーロン効率が99%を下回ったときを短絡発生と判断した。上記の「クーロン効率」は、そのサイクルでの充電電気量に対する放電容量の百分率である。
【0105】
実施例1、実施例2及び比較例1から比較例3におけるXPS測定により得られたP2pのピーク位置及び短絡発生までのサイクル数を表1に示す。実施例3、実施例4、比較例4及び比較例5における短絡発生までのサイクル数及び充放電サイクル後の容量維持率を表2に示す。
【0106】
【0107】
【0108】
表1に示されるように、第1コート層の表面のX線光電子分光法によるスペクトルにおいて、P2Pのピーク位置が135eV以上である実施例1及び実施例2は、上記P2Pのピーク位置が135eV未満である比較例1から比較例3と比べると、短絡発生までのサイクル数が多く、短絡発生が抑制された。また、比較例2の結果から、実施例1及び実施例2は、LiDFPを電解液添加剤として添加する場合と比較しても、短絡発生がさらに抑制されたことがわかる。なお、実施例1及び実施例2と、第1コート層におけるLiDFPの塗工量が約0.06mg/cm2である比較例1とでP2Pのピーク位置が異なっているが、これは、比較例1においては初回充放電でLiDFPが分解されて第1コート層が消失したことによると推測される。
【0109】
表2に示されるように、第1コート層のみを備える実施例4は、第2コート層のみを備える比較例4及びコート層を備えていない比較例5よりも短絡発生が抑制された。また、第1コート層及び第2コート層を備える実施例3は、第1コート層のみを備える実施例4及び第2コート層のみを備える比較例4と比べると短絡発生が大きく抑制されており、第1コート層と第2コート層とを備えることで、短絡抑制に対して相乗効果を得られることが示された。
【0110】
以上の結果、当該リチウム二次電池用の負極は、リチウム二次電池における短絡発生を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、パーソナルコンピュータ、飛行機等の飛行体、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用されるリチウム二次電池などに適用できる。
【符号の説明】
【0112】
1 リチウム二次電池
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置