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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】搬送システム
(51)【国際特許分類】
   B65G 1/00 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
B65G1/00 501C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020201284
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022089062
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】川元 祐二
【審査官】福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-93308(JP,A)
【文献】特開2009-80804(JP,A)
【文献】特開2011-150443(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0094876(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/00
G05D 1/00- 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走式の複数の搬送ロボットと、
複数の前記搬送ロボットとの間で通信を行う制御装置とを備え、
前記搬送ロボットは、周囲の物体への距離を検知し、距離情報として出力するセンサと、前記距離情報を用いて自己の位置に関する自己位置情報を算出する自己位置算出部と、を有し、
前記制御装置は、
複数の前記搬送ロボットから、それぞれの前記自己位置情報と、前記距離情報とを取得する固有状態取得部と、
前記搬送ロボットから取得した前記自己位置情報と、当該搬送ロボット以外の前記搬送ロボットから取得した前記距離情報に含まれる当該搬送ロボットの位置に関する情報とを用いて、当該搬送ロボットの位置に関する推定位置情報を算出する推定位置算出部と、
当該搬送ロボットの推定位置を、当該搬送ロボットに報知する推定位置送信部と、を有する、搬送システム。
【請求項2】
前記推定位置算出部は、
当該搬送ロボット以外の前記搬送ロボットから取得した前記自己位置情報を併せて用いて、前記推定位置情報を算出する、請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記自己位置情報及び前記推定位置情報は、それぞれ前記搬送ロボットが走行する床面上の位置についての情報と、前記搬送ロボットの向きについての情報とを含む、請求項1または2に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記搬送ロボットは更に、
走行を行うための走行機構部と、
前記走行機構部を制御するとともに、前記搬送ロボットのオドメトリデータを算出する走行制御部と、を有し、
前記自己位置算出部は、
前記オドメトリデータと、前記距離情報とに基づいて、前記自己位置情報を算出する、請求項1から3のいずれか1項に記載の搬送システム。
【請求項5】
前記搬送ロボットは更に、
当該搬送ロボットの識別情報を保持したスレーブ記憶部と、
前記距離情報と、前記自己位置情報とを含む固有情報を、前記識別情報に付して送信する固有状態報知部と、を有し、
前記固有状態取得部は、複数の前記搬送ロボットから、更に前記識別情報を取得する、請求項1から3のいずれか1項に記載の搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ロボットを備えた搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫等において利用される、無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)や、無人フォークリフト(AGF:Automated Guided Forklift)等の、自走式の搬送ロボットが提案されている。複数台のこのような搬送ロボットが、無線通信を通じて制御装置により制御されて、工場等における搬送の自動化を実現する搬送システムが構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-48689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LiDAR(Light Detection And Ranging)やステレオカメラ等の距離センサから得られる、距離情報に基づいて自身の位置を把握する搬送ロボットも検討されている。このような搬送ロボットは、工場や倉庫等の床面にあらかじめ決められた走行ルートを示すガイドを設置することを要せずに、自律的に走行ルートを判断する。
【0005】
よってこのような搬送ロボットを適用すれば、工場や倉庫での多種多様な搬送作業への対応や、ラインの変更に対しての柔軟な対応が可能な、フレキシブルな搬送システムを構築できるメリットがある。しかし、自律的に走行ルートを判断する搬送ロボットが適用された搬送システムでは、ガイドに沿って決められたルートのみを走行する搬送ロボットが適用された搬送システムと比較すると、搬送ロボットの位置の把握の精度を高めることが難しい課題がある。
【0006】
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、自律的に走行ルートを判断する搬送ロボットが適用された搬送システムにおいて、搬送ロボットの位置の把握の精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するために、以下の構成を採用する。本発明の一側面に係る搬送システムは、自走式の複数の搬送ロボットと、複数の前記搬送ロボットとの間で通信を行う制御装置とを備え、前記搬送ロボットは、周囲の物体への距離を検知し、距離情報として出力するセンサと、前記距離情報を用いて自己の位置に関する自己位置情報を算出する自己位置算出部と、を有し、前記制御装置は、複数の前記搬送ロボットから、それぞれの前記自己位置情報と、前記距離情報とを取得する固有状態取得部と、前記搬送ロボットから取得した前記自己位置情報と、当該搬送ロボット以外の前記搬送ロボットから取得した前記距離情報に含まれる当該搬送ロボットの位置に関する情報とを用いて、当該搬送ロボットの位置に関する推定位置情報を算出する推定位置算出部と、当該搬送ロボットの推定位置を、当該搬送ロボットに報知する推定位置送信部と、を有する。
【0008】
上記構成によれば、自律的に走行ルートを判断する搬送ロボットが適用された搬送システムにおいて、搬送ロボットの位置の把握の精度を高めることができるようになる。
【0009】
上記一側面に係る搬送システムにおいて、前記推定位置算出部は、当該搬送ロボット以外の前記搬送ロボットから取得した前記自己位置情報を併せて用いて、前記推定位置情報を算出してもよい。上記構成によれば、推定位置算出部による推定位置情報の算出方法が、より具体化される。
【0010】
上記一側面に係る搬送システムにおいて、前記自己位置情報及び前記推定位置情報は、それぞれ前記搬送ロボットが走行する床面上の位置についての情報と、前記搬送ロボットの向きについての情報とを含んでいてもよい。上記構成によれば、自己位置情報及び前記推定位置情報の内容がより具体化される。
【0011】
上記一側面に係る搬送システムにおいて、前記搬送ロボットは更に、走行を行うための走行機構部と、前記走行機構部を制御するとともに、前記搬送ロボットのオドメトリデータを算出する走行制御部と、を有し、前記自己位置算出部は、前記オドメトリデータと、前記距離情報とに基づいて、前記自己位置情報を算出する構成を備えていてもよい。上記構成によれば、自己位置算出部による自己位置情報の算出方法が、より具体化される。
【0012】
上記一側面に係る搬送システムにおいて、前記搬送ロボットは更に、当該搬送ロボットの識別情報を保持したスレーブ記憶部と、前記距離情報と、前記自己位置情報とを含む固有情報を、前記識別情報に付して送信する固有状態報知部と、を有し、前記固有状態取得部は、複数の前記搬送ロボットから、更に前記識別情報を取得する構成を備えていてもよい。上記構成によれば、制御装置の各部が搬送ロボットに関する情報を取り扱うに当たり、搬送ロボットの識別が容易にできるようになる。
【0013】
本発明の各態様に係る制御装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記制御装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記制御装置をコンピュータにて実現させる制御装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一側面によれば、自律的に走行ルートを判断する搬送ロボットが適用された搬送システムにおいて、搬送ロボットの位置の把握の精度が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る搬送システムの要部の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る搬送システムの搬送ロボットの外形例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る搬送システムが適用される工場の例を模式的に示す、フロアマップである
図4】搬送ロボットが距離センサを用いて周囲の物体を検知する方法を説明するための図である。
図5図4に表された事例において、搬送ロボットの距離センサが出力する距離情報をグラフとして表した図である。
図6】搬送ロボットが距離センサを用いて周囲の物体を検知する方法を説明するための図である。障害物が監視エリア内に存在する状況を示す。
図7図4に表された事例について、更に他の搬送ロボットが搬送ロボットの監視レンジ内に存在する場合の状況を示す図である。
図8図7に表された事例において、搬送ロボットの距離センサが出力する距離情報をグラフとして表した図である。
図9】複数の他の搬送ロボットの監視レンジ内に、特定の搬送ロボットが存在している状況を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る搬送システムが実行する特徴的な動作を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態〕
以下、本発明の一側面に係る実施の形態が、図面に基づいて説明される。
【0017】
§1 適用例
図1を参照しつつ、本発明が適用される場面の一例が説明される。図1は、実施形態1に係る搬送システム1の構成を示すブロック図である。搬送システム1は、制御装置10と複数の自走式の搬送ロボット30とを備える。制御装置10は、複数の搬送ロボット30との間で通信を行い、それぞれの搬送ロボット30に指示を行う。
【0018】
図1において、搬送ロボット30は1台分について、内部構成が詳細に示されているが、他の搬送ロボット30についても同様の内部構成を備える。搬送ロボット30は、周囲の物体への距離を検知し、距離情報として出力する距離センサ36(センサ)と、前記距離情報を用いて自己の位置に関する自己位置情報を算出する自己位置算出部33を有している。
【0019】
制御装置10は、それぞれの搬送ロボット30から、前記自己位置情報と、前記距離情報とを取得する、固有状態取得部13を有している。制御装置10は、それぞれの搬送ロボット30から取得したそれぞれの前記距離情報に含まれる他の搬送ロボットの位置に関する情報と、当該他の搬送ロボットの自己位置情報とを用いて、当該他の搬送ロボットの位置に関する推定位置情報を算出する推定位置算出部を有する。更に制御装置10は当該他の搬送ロボットの推定位置を、当該他の搬送ロボットに報知する推定位置送信部を有する。
【0020】
実施形態1に係る搬送システム1では、自走式の搬送ロボット30の位置に関する情報である推定位置情報が、制御装置10において、当該搬送ロボット30(以下、自機)により算出された自己位置情報のみならず、当該搬送ロボット30以外の搬送ロボット(以下、他機)からの前記距離情報にも基づいて算出される。
【0021】
そうして、前記推定位置情報が、制御装置10から自機である当該搬送ロボット30に報知される。従って、搬送システム1では、搬送ロボット30についての自機の位置に関する推定が、自己位置情報よりも精度が高められた推定位置情報に基づいて行うことができるようになる。そのため、自走式の搬送ロボットの位置推定の精度が高められた搬送システムを実現することができる。
【0022】
§2 構成例
<搬送システムの適用場面>
図2は本適用例に係る搬送システム1の搬送ロボット30の外観例を示した図である。図3は、本適用例に係る搬送システム1が適用され得る工場や倉庫等のエリアの一例である、工場100のフロアマップを模式的に示した図である。
【0023】
工場100内には、製品、半製品、部品、原材料、工具、治具、梱包材やそれらを収納するカセット等の、搬送対象物を搬送する自走式の搬送ロボット30が配備されている。更には、台車としての搬送ロボット上に、搬送対象物を把持する、ロボットアーム(マニピュレータ)が設けられた自走式の搬送ロボット30Mが、搬送システム1の一部として配備されていてもよい。
【0024】
搬送ロボット30Mは搬送ロボット30の一例であり、以降の記述では、搬送ロボット30に包含されるものとする。搬送ロボット30の形態としては、無人搬送台車や、AGF、その他の形態の自走式搬送装置であってもよい。
【0025】
工場100内には搬送対象物を載置し得る棚110が設置されている。また、工場100内には、搬送対象物に対して、あるいは搬送対象物を利用して、加工、組み立て、処理、検査等を実行するための生産設備も設置されている。搬送システム1の搬送ロボット30は、これらの設備間で、搬送対象物を搬送し得る。
【0026】
図3中に示されるように、それぞれの搬送ロボット30の位置は、工場100のフロア上に定義されたX-Y座標で表される。またそれぞれの搬送ロボット30の向きは、X-Y座標に対して定義された、角度θで表される。このようにそれぞれの搬送ロボット30の位置と向きが(X、Y、θ)のようにして表され得る。以下、本明細書において、搬送ロボットの位置に関する情報とは、このような搬送ロボットの位置と向き(X、Y、θ)に関する情報をいう。
【0027】
<搬送システムの構成概要>
以下に、搬送システム1のより具体的な構成例と動作が説明される。図1に示されるように、搬送システム1は、制御装置10と複数の自走式の搬送ロボット30とを備える。制御装置10は、搬送システムサーバ(AMHSサーバ:Automated Material Handling System Server)等の名称で呼ばれることもある、搬送についての管理を担う情報処理システムである。
【0028】
制御装置10は、上位情報処理システム等からの指令に基づいて、搬送システム1中の搬送ロボット30に、より具体的に搬送の指示を送信する。制御装置10は、このような処理を実行し得る情報処理システムであればよく、物理的に一筐体に納められた装置である必要は無い。
【0029】
搬送システム1が適用される場面が生産工場である場合、生産工場における製品の生産を管理する上位情報処理システムは、製造実行システムサーバ(MESサーバ:Manufacturing Execution System Server)と呼称されることがある。搬送システム1が適用される場面が物流倉庫である場合には、物流倉庫における保管品の入庫・出庫を管理する上位情報処理システムは、倉庫管理システムサーバ(WMSサーバ:Warehouse Management System Server)と呼称されることがある。
【0030】
<搬送ロボットの構成>
図1に示されるように、搬送ロボット30は、指示受付部31、走行制御部32、自己位置算出部33、固有状態報知部34、推定位置取得部35の各機能ブロックを有する。また搬送ロボット30は、距離センサ36、スレーブ記憶部37、走行機構部38、スレーブ通信部39を有する。
【0031】
距離センサ36は、搬送ロボット30の前方側に配置されており、搬送ロボット30の走行方向前方を監視する。図2に示されるように、実施形態1の具体例において距離センサ36は、2台のLiDARからなり、その監視エリア内に存在する物体への距離を示す距離情報を取得できる。
【0032】
監視する領域は、例示として、搬送ロボット30の走行方向前方の正面から左右それぞれに120°程度までの範囲を含むものとすることができる。このような距離情報の事例は後述される。なお、距離情報は一般に距離画像と呼称されることもある。
【0033】
搬送ロボット30に配置されるLiDARの個数は、単数でも複数であってもよく、複数である場合に後方をも監視できるように配置されていてもよい。また、距離センサの種類は、LiDARに限られず、ステレオカメラあるいはToF(Time-of-Flight)カメラ等の距離画像を取得するセンサや、その他の手法によるものであってもよい。
【0034】
スレーブ記憶部37は、搬送ロボット30に設けられた記録装置である。スレーブ記憶部37は、搬送ロボット30の識別情報、工場100のフロア内のマップ情報を保持する他、搬送ロボット30が走行を実行するために必要な各種情報や走行履歴、搬送ロボット30の制御プログラム等を適宜保持する。
【0035】
走行機構部38は、走行制御部32の制御により動作する、搬送ロボット30が床面上を走行するための機構部である。図2の搬送ロボット30の外観図において、走行機構部38の一部である車輪38Aが示されている。
【0036】
スレーブ通信部39は、搬送ロボット30が制御装置10との間で通信を行うための通信インターフェースである。スレーブ通信部39を通じて行う搬送ロボット30との通信には、リアルタイムの距離情報が含まれるため、高速低遅延かつ多接続であることが好ましい。そのため、スレーブ通信部39は、制御装置10のマスタ通信部19との間で、5G(5th Generation)通信、あるいはWi-Fi6通信を行うものであることが好ましい(Wi Fi:登録商標)。図2の搬送ロボット30の外観図において、スレーブ通信部39の一部であるアンテナ39Aが示されている。
【0037】
指示受付部31は、スレーブ通信部39を介して制御装置10からの指示を受け付ける機能ブロックである。走行制御部32は、走行機構部38を制御し、搬送ロボット30を走行させる機能ブロックである。走行制御部32はまた、走行機構部38からの各機構の動作情報、具体的にはモータのロータリエンコーダ出力等に基づいて、オドメトリデータを算出する。オドメトリデータとは、ある時点の搬送ロボット30の位置に対する、走行時あるいは走行後の位置を相対的に示す情報である。
【0038】
自己位置算出部33は、搬送ロボット30の概略位置をオドメトリデータにより算出し、更に距離情報と、概略位置付近のマップ情報との比較から搬送ロボット30の自己位置に関する自己位置情報を算出する機能ブロックである。固有状態報知部34は搬送ロボット30の固有情報を、スレーブ通信部39を介して制御装置10に報知する機能ブロックである。推定位置取得部35は、制御装置10からスレーブ通信部39を介して推定位置情報を取得する機能ブロックである。推定位置情報については後述される。
【0039】
ここで、固有情報とは、個別の搬送ロボット30自身に関わる固有状態についての情報をいい、距離情報と、自己位置情報とを含む。更には、例えば、搬送ロボット30の動作の状態、搬送対象物の積載の状態、バッテリー残量等、搬送ロボット30の動作や、その他の内部状態に関する情報を含んでいてもよい。
【0040】
搬送ロボット30は、基本的な動作として、制御装置10からの指示に従い、以下のようにして所要の搬送を実行する。指示受付部31が、スレーブ通信部39を介して制御装置10からの搬送の指示を受け付ける。走行制御部32が、自己位置に関する情報と、搬送の指示に含まれる搬送先の位置情報に基づいて、走行機構部38を制御し、搬送ロボット30を搬送先へと走行させる。その際、走行制御部32からのオドメトリデータ及び距離センサ36からの距離情報に基づいて、自己位置算出部33は、自己位置情報を更新し続ける。
【0041】
<制御装置の構成>
図1に示されるように、制御装置10は、上位指令受付部11、指示発行部12、固有状態取得部13、位置関係算出部14、推定位置算出部15、推定位置送信部16の各機能ブロックを有する。また制御装置10は、マスタ記憶部17、上位通信部18、マスタ通信部19を有する。
【0042】
マスタ記憶部17は、制御装置10に設けられた記録装置である。マスタ記憶部17は、工場100のフロア内のマップ情報、制御装置10の制御プログラムを保持する他、それぞれの搬送ロボット30の固有情報、動作ログ等を適宜保持する。上位通信部18は、制御装置10が上位情報処理システムとの間で通信を行うための通信インターフェースである。マスタ通信部19は、制御装置10が搬送ロボット30との間で通信を行うための通信インターフェースである。
【0043】
上位指令受付部11は、上位通信部18を介して上位情報処理システムからの指令を受け付ける機能ブロックである。指示発行部12は、上位情報処理システムからの指令に基づいて、個々の搬送ロボット30への指示を発行し、マスタ通信部19を通じて個々の搬送ロボット30への指示を送信する。
【0044】
その際、指示発行部12は、固有状態取得部13が取得したそれぞれの搬送ロボット30の固有状態を参照して、上位情報処理システムからの指令を実行するために適切な個々の搬送ロボット30への指示を発行する。位置関係算出部14、推定位置算出部15、推定位置送信部16の各機能は後述される。
【0045】
<推定位置算出の原理>
以下に、図4図9を参照して、構成例に係る搬送システム1において、搬送ロボット30の推定位置が算出される原理が説明される。図4は工場100のフロア上において、搬送ロボット30が距離センサ36を用いて、周囲の物体との距離を測定する状況を示す図である。図5は、その際に距離センサ36が出力する距離情報をグラフにして表した図である。
【0046】
マップ情報には、工場100のフロア上に載置されている棚や、生産設備の位置に関する情報が含まれている。図4に示される生産設備120aについて、筐体の四隅の角部の位置に関する情報が、点ランドマークMC1~MC4として、マップ情報に登録されている。
【0047】
また、生産設備120aの角部と角部とを結ぶ線(辺)の位置に関する情報が、線ランドマークML1~ML4としてマップ情報に登録されている。生産設備120bについても同様に、点ランドマークMC5~MC8、線ランドマークML5~ML8がマップ情報に登録されている。
【0048】
図4において、搬送ロボット30の距離センサ36の監視レンジRが点線で示されている。図5は、横軸を搬送ロボット30正面からの角度、すなわち搬送ロボット30に対する方位を、縦軸を搬送ロボット30の基準点からの距離として、距離情報をグラフ化して表した図である。図5においても監視レンジRが示されている。図5に示されるように、距離センサ36が出力する距離情報には、監視レンジR内に位置する物体までの距離についての情報が含まれる。
【0049】
自己位置算出部33は、搬送ロボット30の向きも含めた概略位置を、過去の自己位置に関する情報と、オドメトリデータにより算出し、そこから想定される監視レンジRが配置される領域付近のマップ情報と、距離情報とをマッチングする。オドメトリデータにより算出した概略位置には誤差が含まれるため、当該マップ情報と距離情報とにはずれが生じる。自己位置算出部33は、概略位置からそのずれを補正することで、搬送ロボット30の自己の位置に関する情報である自己位置情報を算出する。
【0050】
図6は、搬送ロボット30の距離センサ36の監視レンジR内に、作業者Wが立ち入っており、また、一時置きの物品Obが置かれている状況を示す。作業者W及び一時置きの物品Obによるオクルージョンの発生により、距離センサ36がマップ情報に登録された物体までの距離を把握できない、遮蔽エリアDaが生じている。
【0051】
このような場合に、自己位置算出部33が算出する自己位置情報の精度が低下することは、容易に理解される。従って、自己位置算出部33は、マップ情報と、距離情報とのマッチングの状況、例えば、いくつの点ランドマーク、線ランドマークにマッチングできたか等に応じ、自己位置情報の確からしさについての確度情報を合わせて算出する。
【0052】
図7は、図4の状況において、搬送ロボット30aの距離センサ36の監視レンジR内に、更に他の搬送ロボット30bが存在するようになった状況を示す。図8は、その際の図5に相応するグラフである。図示されるように、搬送ロボット30aが取得した距離情報には、他の搬送ロボット30bの位置に関する情報が含まれる。
【0053】
すなわち搬送ロボット30aが取得した距離情報を分析することで、他の搬送ロボット30bの搬送ロボット30aからの距離と方位、また、搬送ロボット30bの向きに関する情報を得ることができる。よって、搬送ロボット30aの自己位置情報と搬送ロボット30aが取得した距離情報とから、搬送ロボット30bの向きを含む位置について、算出し得ることが理解される。
【0054】
図9は、搬送ロボット30aが、搬送ロボット30bの監視レンジRb内及び搬送ロボット30cの監視レンジRc内に存在している状況を示す。搬送ロボット30aの位置に関する情報は、以下の3通り存在する。(i)搬送ロボット30aが算出する自身の自己位置情報。(ii)搬送ロボット30bが算出する自身の自己位置情報と、搬送ロボット30bの距離情報とから導かれる搬送ロボット30aの位置に関する情報。(iii)搬送ロボット30cが算出する自身の自己位置情報と、搬送ロボット30cの距離情報とから導かれる搬送ロボット30aの位置に関する情報。
【0055】
これらの情報を統合して、搬送ロボット30aの位置に関する情報を算出することにより、(i)搬送ロボット30aが算出する自身の自己位置情報のみに依拠するよりも更に精度を高めることができるようになる。より具体的には、以下のようにして、これらの情報を統合し位置の推定値を得ることができる。
【0056】
例えば座標Xについて、上記(i)~(iii)によって、それぞれ推定値X1~X3が得られたとする。推定値X1~X3の単純平均を、統合された位置の推定値とすることができる。あるいは、推定値X1~X3についてのそれぞれの確度情報に応じて定められる重み付け係数を用いた加重平均を、統合された位置の推定値とすることができる。
【0057】
またあるいは、推定値X1~X3毎に、それぞれの確度情報に応じて定められる分散を有し各推定値をピークとする正規分布等の確率分布関数を算出し、これらの確率分布関数を足し合わせた分布関数のピークを統合された位置の推定値とすることができる。座標Y、向きθについても同様である。
【0058】
図9に表された事例においては、搬送ロボット30bが、搬送ロボット30aの監視レンジRa内及び搬送ロボット30cの監視レンジRc内に存在している。そのため、搬送ロボット30bの位置に関する情報についても、同様にして他の搬送ロボット30a、搬送ロボット30cからの情報に基づいて、精度を高めた情報を算出することができる。このようにして、搬送ロボットの相互の情報に基づいて、精度をより高めた搬送ロボットの位置に関する情報を得ることができるようになる。
【0059】
<制御装置の動作>
以下に、上記推定位置算出の原理に基づいた、搬送システム1の特徴的な動作が図10のフローチャットに沿って説明される。搬送システム1では、搬送ロボット30に搬送の動作を実行させている際に、図10に示されるフローがリアルタイムで繰り返し実行される。
【0060】
ステップS1:搬送システム1のそれぞれの搬送ロボット30において、距離センサ36により距離情報が取得される。また、走行制御部32において、オドメトリデータが算出される。
【0061】
ステップS2:搬送システム1のそれぞれの搬送ロボット30において、自己位置算出部33が、距離情報とオドメトリデータとに基づいて、自己位置情報を算出する。
【0062】
ステップS3:搬送システム1のそれぞれの搬送ロボット30において、固有状態報知部が、距離情報と自己位置情報とを含む固有情報を、スレーブ記憶部37に記憶された搬送ロボット30自身の識別情報とともに、スレーブ通信部39を介して、制御装置10に送信する。
【0063】
ステップS4:制御装置10の固有状態取得部13は、マスタ通信部19を通じて、それぞれの搬送ロボット30から、識別情報が付された固有情報を取得する。
【0064】
ステップS5:制御装置10の位置関係算出部14は、固有情報に含まれたそれぞれの搬送ロボット30の自己位置情報から、それぞれの搬送ロボット30の監視レンジRを算出する。その際、固有情報に付された搬送ロボット30の識別情報に基づいて、それぞれの搬送ロボット30を識別する。更に位置関係算出部14は、各自己位置情報と算出した各監視レンジRに基づいて、それぞれの搬送ロボット30が、どの他の搬送ロボット30の監視レンジR内にあるかを算出する。
【0065】
ステップS6:制御装置10の推定位置算出部15は、それぞれの搬送ロボット30について、当該搬送ロボットの位置に関する推定位置情報を算出する。その際、推定位置算出部15は、搬送ロボット30から取得した自己位置情報と、当該搬送ロボット30以外の搬送ロボット30から取得した距離情報に含まれる当該搬送ロボットの位置に関する情報に併せ、当該搬送ロボット30以外の搬送ロボット30から取得した自己位置情報と、を用いる。推定位置情報の算出は、上記の推定位置算出の原理で説明された「統合された位置の推定値」を算出する方法に基づいて実行される。
【0066】
ステップS7:制御装置10の推定位置送信部16は、推定位置算出部15が算出したそれぞれの搬送ロボット30の推定位置情報を、マスタ通信部19を介して、それぞれの搬送ロボット30に対して送信する。その際、推定位置送信部16は、取得した搬送ロボット30の識別情報に基づいて、それぞれの搬送ロボット30を識別する。
【0067】
ステップS8:搬送システム1のそれぞれの搬送ロボット30において、推定位置取得部35が、スレーブ通信部39を通じて、制御装置10から、自機の推定位置情報を取得する。推定位置取得部35は、自機の位置に関する情報を、取得した推定位置情報に基づいて更新する。
【0068】
構成例に係る搬送システム1によれば、搬送ロボット30の位置推定が、自機の距離センサ36からの距離情報からのみならず、他機の距離センサ36からの距離情報にも依拠して実行される。そのため、自機の距離センサ36からの距離情報のみによって位置推定が実行される場合と比較して、搬送ロボット30の位置推定の精度をより高めることができる。
【0069】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御装置10の各機能ブロック(特に、上位指令受付部11、指示発行部12、固有状態取得部13、位置関係算出部14、推定位置算出部15、推定位置送信部16)あるいは、搬送ロボット30の機能ブロック(特に、指示受付部31、走行制御部32、自己位置算出部33、固有状態報知部34、推定位置取得部35)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよいし、ソフトウェアによって実現されてもよい。
【0070】
後者の場合、制御装置10あるいは搬送ロボット30は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。
【0071】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを更に備えていてもよい。
【0072】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0073】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 搬送システム
10 制御装置
11 上位指令受付部
12 指示発行部
13 固有状態取得部
14 位置関係算出部
15 推定位置算出部
16 推定位置送信部
17 マスタ記憶部
18 上位通信部
19 マスタ通信部
30、30a~30c、30M 搬送ロボット
31 指示受付部
32 走行制御部
33 自己位置算出部
34 固有状態報知部
35 推定位置取得部
36 距離センサ
37 スレーブ記憶部
38 走行機構部
39 スレーブ通信部
R、Ra~Rc 監視レンジ
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