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特許7600653プレコート剤、および当該プレコート剤を用いる画像形成方法
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  • 特許-プレコート剤、および当該プレコート剤を用いる画像形成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】プレコート剤、および当該プレコート剤を用いる画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241210BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 129
B41J2/01 123
B41J2/01 501
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020201917
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089492
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 秀和
(72)【発明者】
【氏名】本谷 昭博
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-218571(JP,A)
【文献】特開2020-011381(JP,A)
【文献】特開2020-007401(JP,A)
【文献】特開2012-192607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性線硬化型インクを用いる画像形成方法において、前記活性線硬化型インクが付与される前の記録媒体の表面に付与されるプレコート剤であって、
前記プレコート剤は、活性線重合性化合物、およびグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含
前記グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体は、D-グルコース、D-マンノース、D-ガラクトース、2-デオキシ-D-グルコース、n-オクチル-β-D-グルコシド、ペンタ-O-エチル-β-D-グルコピラノース、ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノース、ペンタ-O-ベンジル-β-D-グルコピラノース、マルトース、スクロース、マルトトリオース、デキストラン、セロビオース、α-D-セロビオースオクタアセテート、トリメチル-β-シクロデキストリン、トリアセチル-β-シクロデキストリン、セルロース、水酸基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アセチル基またはカルボキシメチルで置換されているセルロース、ヒドロキシアルキル基の炭素数が1~9であるヒドロキシアルキルセルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、アミロース、およびアミロペクチンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、プレコート剤。
【請求項2】
前記グルカンまたはその誘導体は、グリコシド結合を介して結合した高分子である、請求項1に記載のプレコート剤。
【請求項3】
前記グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体は、前記グルコースもしくはグルカンまたはその誘導体が有する水酸基の水素原子の一部または全部がアセチル基で置換された構造を有する、請求項1または請求項2に記載のプレコート剤。
【請求項4】
前記高分子は、セルロース誘導体である、請求項2に記載のプレコート剤。
【請求項5】
前記セルロース誘導体は、前記ヒドロキシアルキルセルロースである、請求項4に記載のプレコート剤。
【請求項6】
前記ヒドロキシアルキルセルロースのヒドロキシアルキル基の炭素数は、1~4である、請求項5に記載のプレコート剤。
【請求項7】
前記グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の含有量は、前記プレコート剤の全質量に対して、3質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプレコート剤。
【請求項8】
水を含み、
前記水の含有量は、前記プレコート剤の全質量に対して、10質量%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のプレコート剤。
【請求項9】
記録媒体の表面に請求項1~8のいずれか一項に記載のプレコート剤を付与する工程と、
前記記録媒体の前記プレコート剤が付与された面に活性線硬化型インクを付与する工程と、
前記プレコート剤および前記活性線硬化型インクが付与された面に活性線を照射して、前記プレコート剤および前記活性線硬化型インクを同時に硬化させる工程と、
を有する、画像形成方法。
【請求項10】
前記活性線硬化型インクは、ゲル化剤を含有する、請求項9に記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記記録媒体は、吸収性記録媒体である、請求項9または請求項10に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレコート剤、および当該プレコート剤を用いる画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、簡便かつ安価に画像を作製できるため、各種印刷、マーキング、細線形成、カラーフィルター等の特殊印刷を含む様々な印刷分野に応用されている。インクジェット法は、版を用いずデジタル印刷が可能であるため、多様な画像を少量ずつ形成するような用途に特に好適である。
【0003】
インクジェット方式による画像形成方法は、簡易かつ安価に画像を形成できることから、各種印刷分野で用いられている。インクジェット用のインクの一種として、活性線が照射されることで硬化する活性線重合性化合物および重合開始剤を含有するインク(以下、単に「活性線硬化型インク」ともいう)が知られている。活性線硬化型インクの液滴を記録媒体の表面に付着させ、付着した液滴に活性線を照射すると、インクが硬化してなる硬化膜が記録媒体の表面に形成される。この硬化膜を形成していくことで、所望の画像を形成することができる。
【0004】
一方で、上記画像形成方法において、活性線硬化型インクを紙などのインクを吸収する記録媒体の表面に付与すると、インクジェットヘッドから吐出されて記録媒体に着弾したインクの一部は、記録媒体の内部へ浸透するので、インクのドット径を所定の大きさに制御することが難しく、良好な画像品質を有する画像が得られにくい。
【0005】
上記課題を解決するための方法として、記録媒体の表面にプレコート層を形成し、上記プレコート層上に活性線硬化型インクを付与して、画像を形成する画像形成方法が検討されている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、中間転写体の表面に付与されたプレコート剤を記録媒体の表面に転写し、転写されたプレコート剤の表面にインクを付与して、活性線を照射することにより、プレコート剤とインクとを同時に硬化させる画像形成方法が記載されている。特許文献1によると、インクを付与する前にプレコート剤を記録媒体の表面に付与することにより、簡単かつ迅速に高画質化できる画像形成方法を提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-192607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者の検討によると、特許文献1に記載の、活性線硬化型の組成物である前処理液およびインクを用いることにより、記録媒体の表面に付与された前処理液と、上記前処理液の表面に付与されたインクとを活性線の照射により同時に硬化させることができた。しかしながら、特許文献1の前処理液では、インクを付与している間に、記録媒体の内部に浸透して染み出すことがあった。また、前処理液の表面に付与されたインクのドット径を所定の大きさに制御できないことがあった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、インクのドット径を制御できるとともに、プレコート剤が染み出しにくい画像を形成できるプレコート剤を提供することを第1の目的とする。また、当該プレコート剤を用いた画像形成方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明のプレコート剤は、活性線硬化型インクを用いる画像形成方法において、前記活性線硬化型インクが付与される前の記録媒体の表面に付与されるプレコート剤であって、前記プレコート剤は、活性線重合性化合物、およびグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含む。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の画像形成方法は、記録媒体の表面に上記プレコート剤を付与する工程と、前記記録媒体の前記プレコート剤が付与された面に活性線硬化型インクを付与する工程と、前記プレコート剤および前記活性線硬化型インクが付与された面に活性線を照射して、前記プレコート剤および前記活性線硬化型インクを同時に硬化させる工程と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インクのドット径を制御できるとともに、プレコート剤が染み出しにくい画像を形成できるプレコート剤を提供することができる。また、当該プレコート剤を用いた画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成方法を実施するための画像形成装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
1.プレコート剤
本発明の一実施の形態に係るプレコート剤は、インクが付与される前の紙などのインクを吸収する記録媒体(以下、単に、「吸収性記録媒体」ともいう)の表面に付与されるものであり、吸収性記録媒体の内部にインクが浸透することを抑制し、インクの濡れ広がりを制御するためのものである。
【0016】
プレコート剤は、活性線重合性化合物、およびグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含む。また、上記プレコート剤は、重合開始剤、水(例えばイオン交換水)を含んでいてもよく、表面張力および粘度を調整するための調整剤、重合禁止剤を含んでいてもよい。
【0017】
1-1.活性線重合性化合物
活性線重合性化合物は、活性線の照射により重合および架橋して硬化する化合物である。活性線の例には、電子線、紫外線、α線、γ線およびエックス線などが含まれる。上記活性線の中では、紫外線または電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。上記活性線重合性化合物の例には、ラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物、またはそれらの混合物が含まれる。なお、上記活性線重合性化合物は、モノマー、重合性オリゴマー、プレポリマーおよびこれらの混合物のいずれであってもよい。
【0018】
なお、グルカン誘導体として、エチレンオキサイド基を有するグルカン誘導体(後述)を使用したときには、当該グルカン誘導体との親和性を高めて記録媒体の内部への活性線重合性化合物の染み込みをより効果的に抑制する観点から、活性線重合性化合物は、エチレンオキサイド基またはプロピレンオキサイド基を有する化合物であることが好ましい。
【0019】
ラジカル重合性化合物とは、分子中にエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物である。ラジカル重合性化合物は、単官能または多官能の化合物でありうる。ラジカル重合性化合物の例には、不飽和カルボン酸エステル化合物である、(メタ)アクリレート、スチレン、アリルエーテル等のビニル系モノマーが含まれる。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタアクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0020】
単官能の(メタ)アクリレートの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸およびt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0021】
多官能の(メタ)アクリレートの例には、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、およびトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの2官能の(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの3官能の(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートなどの3官能以上の(メタ)アクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマーを含む(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー、ならびにこれらの変性物などが含まれる。上記変性物の例には、エチレンオキサイド基を挿入したエチレンオキサイド変性(EO変性)(メタ)アクリレート、およびプロピレンオキサイドを挿入したプロピレンオキサイド変性(PO変性)(メタ)アクリレートが含まれる。上記多官能の(メタ)アクリレートは、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
上述した理由により、(メタ)アクリレートは、エチレンオキサイド基またはプロピレンオキサイド基を有する化合物であることが好ましい。
【0023】
また、カチオン重合性化合物とは、分子中にカチオン重合性基を有する化合物である。カチオン重合性化合物の例には、単官能および多官能のエポキシ化合物、単官能および多官能のビニルエーテル化合物、単官能および多官能のオキセタン化合物などが含まれる。
【0024】
単官能のエポキシ化合物の例には、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイドなどが含まれる。
【0025】
多官能のエポキシ化合物の例には、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサノン-メタ-ジオキサンおよびビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルなどの脂環式エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種類または2種類以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドなど)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどを含む脂肪族エポキシ化合物、ならびに、ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、およびノボラック型エポキシ樹脂などを含む芳香族エポキシ化合物などが含まれる。
【0026】
単官能のビニルエーテル化合物の例には、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル-o-プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、およびオクタデシルビニルエーテルなどが含まれる。
【0027】
多官能のビニルエーテル化合物の例には、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、およびトリメチロールプロパントリビニルエーテルなどを含むジまたはトリビニルエーテル化合物などが含まれる。
【0028】
単官能のオキセタン化合物の例には、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ノルマルブチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ベンジルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシブチル-3-メチルオキセタンおよび3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタンなどが含まれる。
【0029】
多官能のオキセタン化合物の例には、1,4ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、およびジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテルなどが含まれる。
【0030】
上記活性線重合性化合物の中では、特に、ハンセン溶解度パラメーター(HSP値)が17超のラジカル重合性化合物であることが好ましく、HSP値が17.5以上20.5以下のラジカル重合性化合物であることより好ましく、19以上20.5以下のラジカル重合性化合物であることがさらに好ましい。上記ラジカル重合性化合物のHSP値が17超であることにより、プレコート剤に水(例えばイオン交換水)が含まれていても、水と活性線重合性化合物とのSP値の差が大きくなりすぎないので、水と上記活性線重合性化合物とが相溶しやすくなる。これにより、水がプレコート剤中に留まりやすくなるので、プレコート剤を記録媒体の表面に付与しても水が記録媒体の内部に浸透して染み出すのを抑制できる。また、HSP値が17超であることにより、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体のような高極性の化合物とも相溶しやすくなる。これにより、プレコート剤の親水性が高まり、活性線硬化型インクと相溶しにくくなるので、プレコート剤の表面に付与されるインクのドット径を制御しやすくなる。また、HSP値が20.5以下であることにより、プレコート剤の親水性が過度に高くならないので、吸湿による記録媒体の表面に付与されたプレコート膜の膨張や軟化を抑制できる。
【0031】
また、上述のラジカル重合性化合物の中では、HSP値が17.6であるポリプロピレングリコールジアクリレート、HSP値が17.7であるネオペンチル-エチレングリコールジアクリレート、HSP値が19.0であるポリエチレングリコールトリアクリレート、HSP値が19.5であるポリエチレングリコールジアクリレートであることが好ましく、HSP値が19.0であるポリエチレングリコールトリアクリレート、HSP値が19.5であるポリエチレングリコールジアクリレートであることがより好ましい。
【0032】
また、プレコート剤に含まれる、活性線重合性化合物の含有量は、プレコート剤の全質量に対して65.8質量%以上99.3質量%以下であることが好ましく、80.6質量%以上98.4質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
1-2.グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体
本発明の一実施の形態に係るプレコート剤は、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含む。グルコースは、炭素数が6個の単糖類であり、多糖の構成単位でもある。また、グルカンは、グルコースがグリコシド結合を介して結合した高分子である。上記高分子は、鎖状構造または環状構造を有する。
【0034】
グルコースまたはその誘導体の例には、D-グルコース、D-マンノース、D-ガラクトース、2-デオキシ-D-グルコース、n-オクチル-β-D-グルコシド、ペンタ-O-エチル-β-D-グルコピラノース、ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノース、ペンタ-O-ベンジル-β-D-グルコピラノースなどが含まれる。上記グルコースまたはその誘導体の中では、D-グルコース、ペンタ-O-エチル-β-D-グルコピラノース、ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノース、ペンタ-O-ベンジル-β-D-グルコピラノースであることが好ましく、D-グルコース、ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノースであることがより好ましい。
【0035】
グルカンまたはその誘導体の例には、マルトース、スクロース、マルトトリオース、デキストラン、セロビオース、α-D-セロビオースオクタアセテート、トリメチル-β-シクロデキストリン、トリアセチル-β-シクロデキストリン、セルロース誘導体、澱粉、アミロース、アミロペクチンなどが含まれる。上記グルカンの中では、直鎖状グルカンまたはその誘導体であるマルトース、マルトトリオース、α-D-セロビオースオクタアセテート、直鎖状のセルロース誘導体であることが好ましく、直鎖状のセルロース誘導体であることがより好ましい。
【0036】
上記セルロース誘導体の例には、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロース(酢酸セルロース)、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体が有する水酸基の水素原子の一部または全部がアルキル基、アセチル基またはカルボキシメチルで置換されているセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体が有する水酸基の水素原子の一部または全部がヒドロキシアルキル基で置換されているセルロース(以下、ヒドロキシアルキルセルロースともいう)などが含まれる。
【0037】
上記セルロース誘導体は、ヒドロキシアルキルセルロースであることが好ましい。上記ヒドロキシアルキルセルロースのヒドロキシアルキル基の炭素数は1~9であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。なお、ヒドロキシアルキル基のOH部分は、当該アルキル基の末端にあってもよいし、末端以外にあってもよい。
【0038】
上記ヒドロキシアルキルセルロースの中では、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましく、ヒドロキシメチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースであることがより好ましく、ヒドロキシエチルセルロースであることがさらに好ましい。
【0039】
プレコート剤に、上述の活性線重合性化合物、および上述のグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含むことにより、吸収性記録媒体(例えば普通紙)の表面にプレコート剤を付与しても、プレコート剤の染み出しがない画像を得ることができる。これは、(1)グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体に含まれる極性官能基(例えば水酸基)と、記録媒体(例えば普通紙)に含まれるセルロースの水酸基との間で分子間力が働くことにより、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体が記録媒体の内部に浸透するのが抑制されるためであると考えられる。(2)グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の極性官能基(例えば水酸基)と、活性線重合性化合物の極性官能基(例えばカルボニル基)との親和性が高いため、活性線重合性化合物は、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体とともに、プレコート剤の内部に留まりやすくなるので、記録媒体への浸透が抑制されるためであると考えられる。(3)記録媒体への浸透が抑制されている状態で、活性線が照射されてプレコート剤が硬化するので、画像形成後に記録媒体から染み出しにくくなるためであると考えられる。
【0040】
吸収性記録媒体(例えば普通紙)の表面に、上述の活性線重合性化合物、および上述のグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含むプレコート剤を付与することにより、プレコート剤の表面に活性線硬化型インクの液滴をほぼ均一の大きさに濡れ広がらせて、ムラのない鮮明なライン画像を形成し、画像品質を向上させることができる。これは、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の極性官能基(例えば水酸基)と、活性線硬化型インクに含まれる活性線重合性化合物の極性官能基(例えばカルボニル基)との親和性が高いため、活性線硬化型インクは、記録媒体の内部に浸透するよりも、プレコート剤の表面に残存しやすいことから、プレコート剤の表面で十分に濡れ広がるための活性線硬化型インクの量を確保できるためであると考えられる。
【0041】
上述のグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の中では、セルロース誘導体であるヒドロキシエチルセルロースを用いることにより、良好な画像品質を有する画像が得られ、かつ、画像形成後の記録媒体からの染み出しをより抑制できる。これは、ヒドロキシエチルセルロースは、セルロースにエチレンオキサイドを付加したものであるから、エチレンオキサイド基、またはプロピレンオキサイド基を有する活性線重合性化合物との親和性が高くなるため、活性線重合性化合物は、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体とともに、プレコート剤の内部に留まりやすくなるので、記録媒体への浸透が抑制されるためであると考えられる。
【0042】
また、プレコート剤に含まれる、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の含有量は、プレコート剤の全質量に対して、3質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下であることがさらに好ましい。含有量が、0.5質量%以上であると、上述のようにプレコート剤が記録媒体の内部に浸透して染み出すのを抑制することができる。また、含有量が、3質量%以下であると、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体は、上述の活性線重合性化合物に、十分に溶解するので、記録媒体の表面に付与されたプレコート剤中に均一に存在する。これにより、プレコート剤と親和性の高い活性線硬化型インクを均一に濡れ広がらせることができる。
【0043】
1-3.重合開始剤
本発明の一実施の形態に係るプレコート剤は、重合開始剤を含むことができる。重合開始剤は、活性線の照射により、上述の活性線重合性化合物の重合を開始できるものであればよい。たとえば、プレコート剤がラジカル重合性化合物を有するときは、ラジカル重合性化合物を有するときは、重合開始剤は光ラジカル開始剤とすることができ、上記活性線硬化型インクがカチオン重合性化合物を有するときは、重合開始剤は光カチオン開始剤(光酸発生剤)とすることができる。
【0044】
ラジカル重合開始剤には、分子内結合開裂型のラジカル重合開始剤と分子内水素引き抜き型のラジカル重合開始剤とが含まれる。
【0045】
分子内結合開裂型のラジカル重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、および2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンなどを含むアセトフェノン系の開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、およびベンゾインイソプロピルエーテルなどを含むベンゾイン類、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドなどを含むアシルホスフィンオキシド系の開始剤、ならびに、ベンジルおよびメチルフェニルグリオキシエステルなどが含まれる。
【0046】
分子内水素引き抜き型のラジカル重合開始剤の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、および3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンなどを含むベンゾフェノン系の開始剤、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントンなどを含むチオキサントン系の開始剤、ミヒラーケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノンなどを含むアミノベンゾフェノン系の開始剤、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、ならびにカンファーキノンなどが含まれる。
【0047】
カチオン系の重合開始剤の例には、光酸発生剤が含まれる。光酸発生剤の例には、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、およびホスホニウムなどを含む芳香族オニウム化合物のB(C 、PF 、AsF 、SbF 、CFSO 塩など、スルホン酸を発生するスルホン化物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、ならびに鉄アレン錯体などが含まれる。
【0048】
重合開始剤の含有量は、活性線(例えば紫外線)の照射によってプレコート剤が十分に硬化し、記録媒体の表面への塗布性を低下させない範囲において、任意に設定することができる。たとえば、重合開始剤の含有量は、プレコート剤の全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。
【0049】
1-4.水
本発明の一実施の形態に係るプレコート剤は、水を含んでもよい。上記プレコート剤に含まれる水は、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、または純水であってもよい。また、水の含有量は、プレコート剤の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。水の含有量をプレコート剤の全質量に対して、10質量%以下とすることにより、プレコート剤は十分な硬化性を有するので、硬化後に残存するプレコート剤が記録媒体の内部に吸収されて染み出すのを抑制することができる。
【0050】
1-5.調整剤
本発明の一実施の形態に係るプレコート剤は、表面張力および粘度を調整するための調整剤を含んでもよい。上記調整剤の例には界面活性剤などが含まれる。
【0051】
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類および脂肪酸塩類を含むアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類を含むノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類および第四級アンモニウム塩類を含むカチオン性界面活性剤、シリコーン系の界面活性剤、ならびにフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0052】
調整剤の含有量は、プレコート剤の全質量に対して0.005質量%以上1質量%以下であることが好ましく、プレコート剤の全質量に対して0.01質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
1-6.重合禁止剤
本発明の一実施の形態に係るプレコート剤は、重合禁止剤を含んでもよい。
【0054】
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチルアルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシムが含まれる。
【0055】
上記重合禁止剤の含有量は、プレコート剤の全質量に対して0.05質量%以上0.2質量%以下とすることができる。
【0056】
1-7.プレコート剤の物性
本発明の一実施の形態に係るプレコート剤の粘度は、20℃において、1mPa・s以上100mPa・s以下であることが好ましく、5mPa・s以上30mPa・s以下であることが好ましい。プレコート剤の粘度が、1000cPs以上であると、活性線硬化型インク(後述)がプレコート剤の表面に付与された際に、プレコート剤が活性線硬化型インクの濡れ広がりに追随することを抑制できる。これにより、インクの液滴を適正な大きさにできることから、隠蔽率が向上し、画像ムラの発生を抑制できるので、高精細な画像を得ることができる。なお、20℃における、上記プレコート剤の粘度は、ストレス制御型レオメータ(Anton Paar社製、Physica MCR301(コーンプレートの直径:75mm、コーン角:1.0°))で測定することができる。
【0057】
プレコート剤の付与量は、記録媒体に対して、1g/m以上50g/m以下であることが好ましく、2g/m以上30g/m以下であることがより好ましい。上記プレコート剤の付与量を1g/m以上とすることにより、活性線硬化型インクをより十分に濡れ広がらせることができるのでムラのない鮮明なライン画像を形成することができる。また、上記プレコート剤の付与量を50g/m以下とすることにより、活性線の照射時に速やかに硬化させることができるので、記録媒体の内部にプレコート剤が浸透することを抑制できる。
【0058】
なお、プレコート剤に含まれるグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の構造は、水系溶媒にてグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を抽出し、抽出したグルコース等を重水(DO)に溶解させ、FT-NMR装置でH-NMR、13C-NMR測定を行うことにより確認することができる。また、抽出したグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体が有する水酸基をアルキル化(例えばエチル化)し、アルキル化された水酸基の数、グルコースの1位もしくはグルコースの6位の水素の数、およびマススペクトルの測定を併用することにより確認することもできる。
【0059】
2.活性線硬化型インク
本発明の一実施の形態に係る活性線硬化型インクは、活性線重合性化合物を含み、活性線の照射により活性線重合性化合物が重合および架橋して硬化するインクである。また、活性線硬化型インクは、必要に応じて、重合開始剤、ゲル化剤、重合禁止剤、染料および顔料などの色材、顔料を分散させるための分散剤、顔料を基材に定着させるための定着樹脂、界面活性剤、pH調整剤、保湿剤、紫外線吸収剤などを含有してもよい。その他の成分は、上記組成物中に、1種類のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0060】
2-1.活性線重合性化合物
活性線重合性化合物は、上述のプレコート剤に含むことができる活性線重合性化合物を含むことができる。なお、本発明では、活性線硬化型インクに含まれる活性線重合性化合物は、プレコート剤に含まれる活性線重合性化合物と同種の化合物であることが好ましい。
【0061】
また、上記活性線重合性化合物の含有量は、活性線硬化型インクの全質量に対して1質量%以上97質量%以下であることが好ましく、30質量%以上90質量%以下とすることがより好ましい。
【0062】
2-2.重合開始剤
本発明の一実施の形態に係る活性線硬化型インクは、重合開始剤を含むことが好ましい。重合開始剤は、上述のプレコート剤に含むことができる重合開始剤と同様のものを用いることができ、活性線重合性化合物の種類によって選択できる。
【0063】
重合開始剤の含有量は、活性線(例えば紫外線)の照射によって活性線硬化型インクが十分に硬化し、かつ活性線硬化型インクの射出性を低下させない範囲において、任意に設定することができる。たとえば、上記重合開始剤の含有量は、活性線硬化型インクの全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
2-3.ゲル化剤
本発明の一実施の形態に係る活性線硬化型インクは、ゲル化剤を含むことが好ましい。ゲル化剤は、常温では固体であるが、加熱すると液体となることにより、上記活性線硬化型インクを温度変化に応じてゾルゲル相転移させることができる有機物である。
【0065】
また、上記ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化することが好ましい。ここで、ゲル化温度とは、加熱によりゾル化または液体化したインクを冷却していったときに、インクがゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度をいう。具体的には、ゾル化または液体化したインクを、例えば、レオメータ MCR300(Anton Paar社製)で粘度を測定しながら冷却していき、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
【0066】
上記ゲル化剤がインク中で結晶化すると、板状に結晶化した上記ゲル化剤およびワックスによって形成された三次元空間に活性線重合性化合物が内包される構造が形成されることがある(このような構造を、以下「カードハウス構造」という)。カードハウス構造が形成されると、液体の活性線重合性化合物が上記空間内に保持されるため、インクが付着して形成されたドットがより濡れ広がりにくくなり、インクのピニング性がより高まる。インクのピニング性が高まると、インクが記録媒体またはプレコート剤の表面に付着して形成されたドットが過度に濡れ広がることを抑制することができる。
【0067】
ゲル化剤の例には、ジペンタデシルケトン、ジヘプタデシルケトン、ジリグノセリルケトン、ジベヘニルケトン、ジステアリルケトン、ジエイコシルケトン、ジパルミチルケトン、ジミリスチルケトン、ラウリルミリスチルケトン、ラウリルパルミチルケトン、ミリスチルパルミチルケトン、ミリスチルステアリルケトン、ミリスチルベヘニルケトン、パルミチルステアリルケトン、パルミチルベヘニルケトンおよびステアリルベヘニルケトン等の脂肪族ケトンワックス;パルミチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、イコサン酸イコシル、ステアリン酸ベヘニル、ステアリン酸パルミチル、ステアリン酸ラウリル、パルミチン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸ステアリル、エルカ酸ステアリル、リノール酸ステアリル、オレイン酸ベヘニルおよびリノール酸アラキジル等の脂肪族エステルワックス;N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド、N-(2-エチルヘキサノイル)-L-グルタミン酸ジブチルアミド等のアミド化合物;1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトール等のジベンジリデンソルビトール類;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ホホバ固体ロウ、およびホホバエステル等の植物系ワックス;ミツロウ、ラノリンおよび鯨ロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、および水素化ワックス等の鉱物系ワックス;硬化ヒマシ油または硬化ヒマシ油誘導体;モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体またはポリエチレンワックス誘導体等の変性ワックス;ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸,ラウリン酸、オレイン酸、およびエルカ酸等の高級脂肪酸;ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール;12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシステアリン酸;12-ヒドロキシステアリン酸誘導体;ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、12-ヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド;N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド等のN-置換脂肪酸アミド;N,N’-エチレンビスステアリルアミド、N,N’-エチレンビス-12-ヒドロキシステアリルアミド、およびN,N’-キシリレンビスステアリルアミド等の特殊脂肪酸アミド;ドデシルアミン、テトラデシルアミンまたはオクタデシルアミンなどの高級アミン;ステアリルステアリン酸、オレイルパルミチン酸、グリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル化合物;ショ糖ステアリン酸、ショ糖パルミチン酸等のショ糖脂肪酸エステル;ポリエチレンワックス、α-オレフィン無水マレイン酸共重合体ワックス等の合成ワックス;重合性ワックス;ダイマー酸;ダイマージオール等が含まれる。これらのワックスは、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
これらのうち、インクのピニング性をより高める観点からは、脂肪族ケトンワックス、脂肪族エステルワックス、高級脂肪酸、高級アルコールおよび脂肪酸アミドが好ましく、ケト基またはエステル基を挟んで両側に配置された炭素鎖の炭素数がいずれも9以上25以下である脂肪族ケトンワックスまたは脂肪族エステルワックスがより好ましい。
【0069】
上記ゲル化剤の含有量は、活性線硬化型インクの全質量に対して0.5質量%以上10質量%未満であることが好ましく、活性線硬化型インクの全質量に対して1質量%以上10質量%未満であることがより好ましく、活性線硬化型インクの全質量に対して2質量%以上7質量%以下であることがさらに好ましい。
【0070】
2-4.重合禁止剤
上記活性線硬化型インクは、重合禁止剤を含んでもよい。重合禁止剤は、上述のプレコート剤に含むことができる重合禁止剤と同様の化合物を用いることができる。
【0071】
上記重合禁止剤の含有量は、活性線硬化型インクの全質量に対して0.05質量%以上0.2質量%以下とすることができる。
【0072】
2-5.色材
活性線硬化型インクは、色材を含むことができる。色材には、顔料および染料が含まれる。活性線硬化型インクの分散安定性をより高め、かつ耐候性が高い画像を形成する観点からは、色材は顔料であることが好ましい。顔料の例には、有機顔料および無機顔料が含まれる。染料の例には、各種の油溶性染料が含まれる。
【0073】
上記顔料は、形成すべき画像の色などに応じて、例えば、カラーインデックスに記載される赤またはマゼンタ顔料、黄顔料、緑顔料、青またはシアン顔料および黒顔料から選択することができる。
【0074】
顔料または染料の含有量は、活性線硬化型インクの全質量に対して0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。顔料または染料の含有量が、活性線硬化型インクの全質量に対して0.1質量%以上であると、得られる画像の発色が十分となる。顔料または染料の含有量がインクの全質量に対して20質量%以下であると、インクの粘度が高まりすぎない。
【0075】
2-6.分散剤
顔料は、分散剤で分散されていてもよい。上記分散剤は、上記顔料を十分に分散させることができればよい。分散剤の例には、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびステアリルアミンアセテートが含まれる。
【0076】
分散剤の含有量は、顔料の全質量に対して10質量%以上200質量%以下であることが好ましく、20質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が顔料の全質量に対して10質量%以上であると、顔料の分散安定性が高まり、分散剤の含有量が顔料の全質量に対して200質量%以下であると、インクジェットヘッドからのインクの吐出性が安定しやすくなる。
【0077】
2-7.定着樹脂
活性線硬化型インクは、塗膜の耐擦性およびブロッキング耐性をより高めるため、定着樹脂を含有してもよい。
【0078】
定着樹脂の例には、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリシロキサン樹脂、マレイン酸樹脂、ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、およびアルキド樹脂が含まれる。
【0079】
定着樹脂の含有量は、たとえば、活性線重合性化合物の全質量に対して1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0080】
2-8.界面活性剤
活性線硬化型インクは、界面活性剤を含有してもよい。
【0081】
界面活性剤は、インクの表面張力を調整して、付与後のインクの基材に対する濡れ性を調整したり、隣接する液滴間の合一を抑制したりすることができる。
【0082】
界面活性剤の例には、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、およびパーフルオロアルケニル基を有するフッ素系界面活性剤などが含まれる。
【0083】
界面活性剤の含有量は、活性線硬化型インクの全質量に対して0.001質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【0084】
2-9.その他の成分
上記活性線硬化型インクは、上記成分以外に、必要に応じて、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤などを含んでもよい。
【0085】
2-10.活性線硬化型インクの物性
活性線硬化型インクの粘度は、インクジェットヘッドからの射出性をより高める観点からは、上記活性線硬化型インクがゲル化剤を含まないインクであるとき、上記活性線硬化型インクの40℃における粘度は、3mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましい。また、上記活性線硬化型インクがゲル化剤を含むインクであるとき、上記活性線硬化型インクの80℃における粘度は3mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましい。80℃における粘度が3mPa・s以上20mPa・s以下であると、インクジェットヘッドからの上記活性線硬化型インクの射出時に活性線硬化型インクがゲル化しにくいため、より安定して上記活性線硬化型インクを射出することができる。また、活性線硬化型インクがゲル化剤を含有している場合には、着弾して常温に降温した際にインクを十分にゲル化させる観点から、上記活性線硬化型インクの25℃における粘度は1000mPa・s以上であることが好ましい。25℃における粘度は1000mPa・s以上であると、プレコート剤が付与された記録媒体の表面に付与されたインク液滴が広がり難く、液滴同士が合一し難い。
【0086】
活性線硬化型インクの40℃および80℃における粘度は、レオメータにより、活性線硬化型インクを100℃に加熱し、ストレス制御型レオメータ「Physica MCR301」(Anton Paar社製)によって粘度を測定しながら、剪断速度11.7(1/s)、降温速度0.1℃/sの条件で40℃までインクを冷却して得られた粘度の温度変化曲線において40℃および80℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求める。
【0087】
2-11.活性線硬化型インクの調製方法
活性線硬化型インクは、前述の活性線重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、色材と、任意のその他の成分とを、加熱下において混合することにより調製することができる。この際、得られた混合液を所定のフィルターで濾過することが好ましい。なお、顔料を含有するインクを調製する際は、顔料、活性線重合性化合物を含む顔料分散液を調製し、その後、顔料分散液と他の成分とを混合することが好ましい。顔料分散液は、分散剤をさらに含んでもよい。
【0088】
上記顔料分散液は、活性線重合性化合物に顔料を分散して調製することができる。顔料の分散は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカーなどを用いて行えばよい。このとき、分散剤を添加してもよい。
【0089】
2-12.記録媒体
本発明の一実施の形態に係る記録媒体は、その表面にプレコート剤を付与することができれば特に制限されず、吸収性記録媒体、非吸収性および低吸収性記録媒体を用いることができる。本発明では、吸収性記録媒体を用いたときに顕著な効果を奏する。
【0090】
上記記録媒体の例には、上記吸収性記録媒体の例には、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙またはコート紙などの塗工された印刷用紙などが含まれる。
【0091】
また、上記非吸収性および低吸収性記録媒体の例には、フィルムが含まれる。上記フィルムには、公知のプラスチックフィルムが含まれる。上記プラスチックフィルムの例には、ポリエステル(PET)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ナイロン(NY)フィルム、ポリスチレン(PS)フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリル酸(PAA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、およびポリ乳酸フィルムなどの生分解性フィルムなどが含まれる。
【0092】
上記吸収性、非吸収性および低吸収性記録媒体の形状および色は特に限定されず、形成すべき最終画像に応じて適宜選択することができる。
【0093】
3.画像形成方法
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、(1)記録媒体の表面に上述のプレコート剤を付与する工程と、(2)記録媒体のプレコート剤が付与された面に活性線硬化型インクを付与する工程と、(3)プレコート剤および活性線硬化型インクが付与された面に活性線を照射して、プレコート剤および活性線硬化型インクを同時に硬化させる工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0094】
3-1.プレコート剤を付与する工程
プレコート剤を付与する工程は、記録媒体の表面にプレコート剤を付与して、液体状のプレコート層を形成する工程である。
【0095】
プレコート剤は、スプレー塗布、ノズルやスリットを用いたスパイラル塗布、ディッピング塗布、ロールコーター塗布、グラビア塗布、フレキソ塗布、インクジェット方式での塗布など公知の液体塗布方法を用いて、記録媒体の表面に付与することができる。上記プレコート剤は粘度が高いため、上記液体塗布方法の中では、ロールコーター塗布方法を用いて記録媒体の表面全体に付与することが好ましい。
【0096】
活性線硬化型インクを記録媒体(例えば普通紙)の表面に付与する前に、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含むプレコート剤を記録媒体の表面に付与することにより、ムラのない鮮明なライン画像を形成することができる。これは、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の極性官能基(例えば水酸基)と、活性線硬化型インクに含まれる活性線重合性化合物の極性官能基(例えばカルボニル基)との親和性が高いため、活性線硬化型インクは、記録媒体の内部に浸透するよりも、プレコート剤の表面に残存しやすいことから、プレコート剤の表面で十分に濡れ広がるための活性線硬化型インクの量を確保できるためであると考えられる。
【0097】
また、記録媒体の表面にプレコート剤が付与されていることから、プレコート剤の表面に活性線硬化型インクを付与しても、当該インクが記録媒体の内部に浸透するのを抑制することができる。また、プレコート剤とともに活性線の照射により硬化されるので、画像形成後に記録媒体から染み出すことも抑制される。
【0098】
また、記録媒体上に、インクジェット法を用いて、プレコート剤を付与した場合には、プレコート剤が付与された部分についてムラのない鮮明なライン画像を形成することができる。さらに、プレコート剤が未付与部分の記録媒体の質感も維持することができる。また、必要箇所にのみプレコート剤を使用するのでコスト削減も図ることができる。
【0099】
3-2.活性線硬化型インクを付与する工程
活性線硬化型インクを付与する工程は、記録媒体の表面に付与されたプレコート剤の表面に活性線硬化型インクを付与して、画像を形成する工程である。
【0100】
活性線硬化型インクをプレコート剤の表面に付与する方法は、特に限定されず、スプレー塗布、浸漬法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット法などの公知の方法を使用することができる。本実施の形態では、上記プレコート剤の表面に活性線硬化型インクを付与して、画像を形成する工程では、活性線硬化型インクを、インクジェットヘッドから吐出して、上記プレコート剤の表面に付与する、インクジェット法を用いることが好ましい。
【0101】
インクジェット法で使用するインクジェットヘッドは、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型を含む電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン株式会社の登録商標)型を含む電気-熱変換方式等が含まれる。
【0102】
また、インクジェットヘッドは、スキャン式およびライン式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。
【0103】
このとき、活性線硬化型インクの液滴の吐出性を高めるために、インクジェットヘッド内の活性線硬化型インクを40~120℃に加熱して、上記加熱された活性線硬化型インクを吐出することが好ましい。
【0104】
また、上記活性線硬化型インクがゲル化剤を含むときは、インクジェットヘッド内の活性線硬化型インクの温度を、活性線硬化型のゲル化温度より10℃以上40℃未満高い温度に設定することが好ましい。インクジェットヘッド内の活性線硬化型インクの温度をゲル化温度+10℃以上にすることで、インクジェットヘッド内もしくはノズル表面で活性線硬化型インクがゲル化することがなく、活性線硬化型インクを良好に射出することができる。また、インクジェットヘッド内の活性線硬化型インクの温度を活性線硬化型インクのゲル化温度+40℃未満とすることで、インクジェットヘッドの熱的負荷を小さくすることができる。特に、ピエゾ素子を用いたインクジェットヘッドでは、熱的負荷による性能低下が生じやすいため、活性線硬化型インクの温度を上記範囲内とすることが特に好ましい。
【0105】
上記活性線硬化型インクがゲル化剤を含むときは、記録媒体の表面に付与された活性線硬化型インクは、ゲル化剤が結晶化してピニングされる。これにより、活性線硬化型インクが付与されて形成されたドットが過度に濡れ広がることを抑制することができる。
【0106】
このとき、活性線硬化型インクのピニング性を高めるために、記録媒体の表面温度をゲル化剤のゲル化温度の付近またはそれ以下としてもよい。
【0107】
3-3.プレコート剤および活性線硬化型インクを硬化させる工程
プレコート剤および活性線硬化型インクを硬化させる工程は、プレコート剤および活性線硬化型インクが付与された面に活性線を照射して、上記プレコート剤および活性線硬化型インクを同時に硬化させる工程である。
【0108】
プレコート剤および活性線硬化型インクを本硬化する工程では、吸収性記録媒体の表面に付与されたプレコート剤、および上記プレコート剤の表面に付与された活性線硬化型インクに活性線(たとえば紫外線)を照射して、同時に、上記プレコート剤および活性線硬化型インクの両方を完全に硬化させる工程である。吸収性記録媒体の表面へのプレコート剤の付与から、プレコート剤および活性線硬化型インクを硬化させる工程までを連続して行うことから、短時間で画像形成をすることができる。また、活性線が照射されることにより、プレコート剤が硬化するので、画像形成後に記録媒体からの染み出しを抑制できる。なお、当該工程で照射される活性線の波長は350nm以上450nm以下であること好ましく、380nm以上430nm未満であることがより好ましい。
【0109】
4.画像形成装置
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット用の画像形成装置100の例示的な構成を示す模式図である。
【0110】
本発明の一実施の形態に係る画像形成装置100は、記録媒体110と、記録媒体110の表面にプレコート剤を付与するプレコート剤付与部120と、プレコート剤が付与された面に活性線硬化型インクを付与するインク付与部130と、プレコート剤および活性線硬化型インクが付与された面に活性線を照射するための活性線照射部140と、を有する。
【0111】
図1では、基材の搬送方向(図中矢印方向)に沿って上流側から、プレコート剤付与部120、インク付与部130および活性線照射部140がこの順に配置されている。
【0112】
プレコート剤付与部120は、活性線硬化型インクの液滴が着弾される記録媒体110上の領域よりも広い領域に、プレコート剤を付与できる構成であればよい。たとえば、プレコート剤付与部120は、塗布ローラー121にプレコート剤を供給するディスペンサー122と、供給されたプレコート剤をフィルム状に塗布する塗布ローラー121と、を含む構成とすることができる。なお、プレコート剤付与部120では、バーコーターを用いる方法やインクジェット法などを用いてもよい。
【0113】
インク付与部130は、本実施の形態ではインクジェット法により画像を形成するインク付与部であり、それぞれY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色の活性線硬化型組成物(インクジェットインク)をノズル131から吐出して、記録媒体110の表面に形成されたプレコート層上に付与させるためのインクジェットヘッド132Y、132M、132Cおよび132Kを有する。インクジェットヘッド132Y、132M、132Cおよび132Kは、上記各色の活性線硬化型インクを、記録媒体110の表面に形成されたプレコート層上のうち形成されるべき画像に応じた位置に付与して、画像を形成する。
【0114】
活性線照射部140は、記録媒体110の搬送方向における、インク付与部130より下流側に配置され、記録媒体110のプレコート剤および活性線硬化型インクが付与されている面に向けて活性線(紫外線)を照射する。これにより、活性線照射部140は、記録媒体110の表面に付与されたプレコート剤および活性線硬化型インクに活性線を照射して、プレコート剤および活性線硬化型インクを硬化させる。これにより、記録媒体110から、プレコート剤が染み出すのを抑制できる。
【0115】
また、以上の説明では、インクジェット法により記録媒体の表面に付与されたプレコート剤の表面に画像を形成しているが、画像の形成方法は特に限定されず、スプレー塗布、浸漬法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などの公知の方法を使用することができる。
【実施例
【0116】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0117】
1.活性線硬化型インクの調製
活性線硬化型インクを以下の手順で調製した。
【0118】
(顔料分散液の調製)
20質量部のシアン顔料(Lionol Blue FG-7400-G、トーヨーカラー株式会社製)と、6.5質量部の分散剤「BYKJET-9151」(BYK社製、「BYKJET」は同社の登録商標)と、73.2質量部の活性線重合性化合物「ポリエチレングリコール#400ジアクリレート」と、0.3質量部の重合禁止剤「Irgastab UV10」(BASF社製、「Irgastab」は同社の登録商標)と、ジルコニアビーズ「YTZボール」(0.3mm、株式会社ニッカトー製)と、を100mLのポリ容器に入れ、ペイントシェーカーにて3時間分散した後、ジルコニアビーズを取り除き、顔料分散液を得た。
【0119】
(活性線硬化型インク1の調製)
5質量部のゲル化剤「ルナックBA」(ベヘニン酸、花王株式会社製、「ルナック」は同社の登録商標)と、10質量部の上述の顔料分散液と、38.9質量部のポリエチレングリコール#400ジアクリレートと、25質量部の4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートと、15質量部の3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレートと、6質量部の重合開始剤と、0.1質量部の重合禁止剤とをステンレスビーカーに入れ、これを105℃で45分間撹拌した後、ADVANTEC社製テフロン(登録商標)3μmメンブランフィルターで濾過することにより活性線硬化型インク1を得た。なお、使用した重合開始剤および重合禁止剤の種類は、顔料分散液の調製に用いたものと同様である。
【0120】
(活性線硬化型インク2の調製)
10質量部の上述の顔料分散液と、43.9質量部のポリエチレングリコール#400ジアクリレートと、25質量部の4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートと、15質量部の3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレートと、6質量部の重合開始剤と、0.1質量部の重合禁止剤とをステンレスビーカーに入れ、これを105℃で45分間撹拌した後、ADVANTEC社製テフロン(登録商標)3μmメンブランフィルターで濾過することにより活性線硬化型インク2を得た。なお、使用した重合開始剤および重合禁止剤の種類は、顔料分散液の調製に用いたものと同様である。
【0121】
2.プレコート剤の調製
プレコート剤を以下の手順で調製した。
【0122】
(プレコート剤1の調製)
96.4質量部の活性線重合性化合物「ポリエチレングリコール#600ジアクリレート」と、0.5質量部のグルコース(東京化成工業株式会社製)と、3質量部の重合開始剤と、0.1質量部の重合禁止剤と、を混合し、90℃で20分間撹拌して、プレコート剤1を得た。なお、使用した重合開始剤および重合禁止剤の種類は、顔料分散液の調製に用いたものと同様である。
【0123】
(プレコート剤2~13、29、31の調製)
表1に示されるグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体に変更した以外は、プレコート剤1と同様にして、プレコート剤2~13、29、31を得た。
【0124】
(プレコート剤17~22、26、27の調製)
表1に示されるグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体に変更し、含有量を0.5質量部から表1に示される含有量に変更した以外は、プレコート剤1と同様にして、プレコート剤17~22、26、27を得た。
【0125】
(プレコート剤14の調製)
94.4質量部のポリエチレングリコール#600ジアクリレートと、0.5質量部のグルコースと、2質量部のイオン交換水と、3質量部の重合開始剤と、0.1質量部の重合禁止剤と、を混合し、90℃で20分間撹拌して、プレコート剤14を得た。
【0126】
(プレコート剤15、16の調製)
表1に示されるグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体に変更した以外は、プレコート剤14と同様にして、プレコート剤15、16を得た。
【0127】
(プレコート剤23~25、28、30の調製)
表1に示されるグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体に変更し、水の含有量を2質量部から表1に示される含有量に変更した以外は、プレコート剤14と同様にして、プレコート剤23~25、28、30を得た。
【0128】
(プレコート剤32の調製)
97.1質量部のポリエチレングリコール#600ジアクリレートと、3質量部の重合開始剤と、0.1質量部の重合禁止剤と、を混合し、90℃で20分間撹拌して、プレコート剤32を得た。なお、使用した重合開始剤および重合禁止剤の種類は、顔料分散液の調製に用いたものと同様である。
【0129】
(プレコート剤33の調製)
96.4質量部のポリエチレングリコール#600ジアクリレートと、0.5質量部のポリビニルアルコール(東京化成工業株式会社製)と、3質量部の重合開始剤と、0.1質量部の重合禁止剤と、を混合し、90℃で20分間撹拌して、プレコート剤33を得た。なお、使用した重合開始剤および重合禁止剤の種類は、顔料分散液の調製に用いたものと同様である。
【0130】
表1に、プレコート剤1~33の各成分の含有量(単位は質量部)を示す。
【0131】
表1で示される、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の略号は次のとおりである。
【0132】
A-1:グルコース
A-2:マルトース
A-3:マルトトリオース
A-4:ペンタ-O-エチル-β-D-グルコピラノース
A-5:ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノース
A-6:ペンタ-O-ベンジル-β-D-グルコピラノース
A-7:α-D-セロビオースオクタアセテート
A-8:トリメチル-β-シクロデキストリン
A-9:トリアセチル-β-シクロデキストリン
A-10:セルロース
A-11:ヒドロキシメチルセルロース
A-12:ヒドロキシエチルセルロース
A-13:アセチルセルロース(酢酸セルロース)
A-14:カチオン化ヒドロキシエチルセルロース
A-15:ヒドロキシプロピルセルロース
【0133】
表1で示される、水溶性の合成樹脂の略号は次のとおりである。
PVA :ポリビニルアルコール
【0134】
A-1~3、5、7~9、PVAは東京化成工業株式会社製であり、A-10、12、13は富士フイルム和光純薬株式会社製であり、A-14は花王株式会社製であり、A-15はSigma-Aldrich社製である。A-4、6、11は公知の方法で合成した。
【0135】
【表1】
【0136】
3.評価
プレコート剤1~33が付与された記録媒体を用いて画像形成を行い、画質評価、染み出し評価を行った。
【0137】
3-1.画質評価
(評価方法)
プレコート剤1~33をワイヤーバー#2を用いて記録媒体(OKトップコート紙、米坪157g/m、王子製紙株式会社製)に付与した後、インクジェットヘッドHA1024型(コニカミノルタ株式会社製)から上述の活性線硬化型インクを射出し、1ドット幅の細線を印字した。次に、活性線照射光源としてLEDランプを使用し、250mJのエネルギーを有する活性線(紫外線)を照射して、細線を硬化した。
【0138】
(評価基準)
◎:5cm離れた位置から観測して、細線にムラやズレが認められない
○:10cm離れた位置から観測して、細線にムラやズレが認められない
△:15cm離れた位置から観測すると、細線の一部においてムラやズレが認められない
×:15cm離れた位置から観測して、細線にムラやズレが認められる
【0139】
3-2.染み出し評価
(評価方法)
5cm×5cmの上述の記録媒体の初期重量(M0)を計量した後に、プレコート剤1~33をワイヤーバー#2を用いて上記記録媒体に付与した。次に、インクジェットヘッドHA1024型から上述の活性線硬化型インクを射出してベタ画像を形成し、LEDランプを使用し、250mJのエネルギーを有する活性線(紫外線)を照射して、ベタ画像を硬化した。硬化後のベタ画像を有する記録媒体の重量(M1)を計測して、プレコート剤および活性線硬化型インクの付き量を算出した。
【0140】
次に、硬化後のベタ画像を有する記録媒体を10mlの蒸留水に、25℃で24時間浸漬させ、上記蒸留水に含まれるモノマーの比率を液体クロマトグラフィ(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により計測し、溶出したプレコート剤および活性線硬化型インクの量(M2)を算出した。同様にして、記録媒体に活性線硬化型インクのみを付与したベタ画像を硬化した。硬化後のベタ画像を有する記録媒体を25℃で24時間、10mlの蒸留水に浸漬させ、溶出した活性線硬化型インクの溶出量(M3)を液体クロマトグラフィ(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により計測し、算出した。
【0141】
モノマーの溶出量は、式(1)モノマー溶出量=(M2-M3)/(M1-M0)×100(%)より算出した。
【0142】
(評価基準)
◎:モノマーの溶出量が0%以上1%未満である
○:モノマーの溶出量が1%以上3%未満である
△:モノマーの溶出量が3%以上5%未満である
×:モノマーの溶出量が5%以上である
【0143】
上記評価結果を表2に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
表2に示されるように、プレコート剤に、上述の活性線重合性化合物、および上述のグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含むことにより、吸収性記録媒体(例えば普通紙)の表面にプレコート剤を付与しても、プレコート剤の染み出しがない画像を得ることができることがわかった。これは、1つに、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体に含まれる極性官能基(例えば水酸基)と、記録媒体(例えば普通紙)に含まれるセルロースの水酸基との間で分子間力が働くことにより、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体が記録媒体の内部に浸透するのが抑制されるからであると考えられる。2つめに、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の極性官能基(例えば水酸基)と、活性線重合性化合物の極性官能基(例えばカルボニル基)との親和性が高いため、活性線重合性化合物は、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体とともに、プレコート剤の内部に留まりやすくなるので、記録媒体への浸透が抑制されると考えられる。3つめに、記録媒体への浸透が抑制されている状態で、活性線が照射されてプレコート剤が硬化するので、画像形成後に記録媒体から染み出しにくくなるためであると考えられる。
【0146】
また、表2に示されるように、プレコート剤に、上述の活性線重合性化合物、および上述のグルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体を含むことにより、ムラのない鮮明なライン画像を形成でき、画像品質を向上させることができることがわかった。これは、グルコースもしくはグルカンまたはそれらの誘導体の極性官能基(例えば水酸基)と、活性線硬化型インクに含まれる活性線重合性化合物の極性官能基(例えばカルボニル基)との親和性が高いため、活性線硬化型インクは、記録媒体の内部に浸透するよりも、プレコート剤の表面に残存しやすいことから、プレコート剤の表面で十分に濡れ広がるための活性線硬化型インクの量を確保できるためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明のプレコート剤を用いることにより、均一にインクを濡れ広がらせることができ、画像形成時においてプレコート剤が染み出すのを抑制できる。そのため、本発明は、活性線硬化型インクを用いた画像形成方法の適用の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0148】
100 画像形成装置
110 記録媒体
120 プレコート剤付与部
121 塗布ローラー
122 ディスペンサー
130 インク付与部
131 ノズル
132 インクジェットヘッド
140 活性線照射部
図1