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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20241210BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20241210BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241210BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/4045 20060101ALI20241210BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K47/18
A61K47/10
A61K31/165
A61K31/55
A61K31/4045
A61K31/445
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020206360
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022093199
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 豊
(72)【発明者】
【氏名】薦田 俊一
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-316590(JP,A)
【文献】特開2012-144581(JP,A)
【文献】特開2009-073856(JP,A)
【文献】特開平08-319213(JP,A)
【文献】特開2000-281565(JP,A)
【文献】特表2016-520638(JP,A)
【文献】特開平11-124332(JP,A)
【文献】特表2017-516868(JP,A)
【文献】特開平06-247847(JP,A)
【文献】特開平05-178763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/70
A61K 47/32
A61K 47/18
A61K 47/10
A61K 31/165
A61K 31/55
A61K 31/4045
A61K 31/445
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、上記支持体の一面に積層一体化された粘着層とを含み、
上記粘着層が、親水性薬物と、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)と、水溶性液状添加剤と、尿素とを含有し、
上記水溶性液状添加剤が、多価アルコールを含み、
上記粘着層中における上記アクリル系重合体(A)の含有比率が、上記親水性薬物、上記N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、上記水溶性液状添加剤、及び上記尿素の総量100質量部に対して、45質量部以上、90質量部以下であることを特徴とする貼付剤。
【請求項2】
粘着層中における、親水性薬物に対する水溶性液状添加剤の質量比(水溶性液状添加剤の質量/親水性薬物の質量)が、0.1以上であり且つ20以下であることを特徴とする請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
粘着層中における、水溶性液状添加剤に対する尿素の質量比(尿素の質量/水溶性液状添加剤の質量)が、0.15以上であり且つ6以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付性の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上された貼付剤を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬物は、錠剤、カプセル剤、シロップ剤などの経口剤の形態として、口を介して人体へ投与されている。しかしながら、経口剤は、肝臓での初回通過効果による分解、消化管障害の発生、及び血中濃度の急激な変動による副作用の発生などの問題を生じる場合がある。
【0003】
そこで、薬物を含有する貼付剤を皮膚に貼付することにより、薬物を皮膚を介して人体へ投与する方法が提案されている。貼付剤は、一般的に、支持体と、粘着性ポリマー及び薬物を含む粘着層とを含む。貼付剤によれば薬物を皮膚から徐々に吸収させることができるので、過度な薬物血中濃度の上昇によって引き起こされる副作用を軽減することができる。また、耐え難い副作用の発現時に、貼付剤を皮膚から取り除くことで薬物の経皮投与を直ちに停止することもできる。さらに、薬物の嚥下が困難な患者に対して、貼付剤を貼るだけで容易に投薬することもできる。
【0004】
貼付剤は皮膚を介して薬物を体内へ投与するものである。そのため、貼付剤には、使用時には皮膚から剥がれずに皮膚に確実に貼付できる一方で、使用後には糊残りなく貼付剤が剥離できるように、優れた貼付性を有していることが求められている。なお、糊残りとは、貼付剤を皮膚から剥離した際に、皮膚表面に粘着層の少なくとも一部が残る現象をいう。糊残りが発生すると、皮膚表面にべたつきが発生し、患者に不快感を与えることがある。
【0005】
また、皮膚はバリア機能を有しており、これにより化学物質や細菌が皮膚を通じて体内へ侵入するのを防止している。このバリア機能は、皮膚表面を覆う皮脂膜が一因となって発揮される。皮脂膜は汗と親油性である皮脂とが混じり合うことで形成される。そのため、薬物の中でも親水性薬物は、皮膚を特に透過し難く、経皮吸収性が低いという問題を有している。そこで、特許文献1では、親水性薬物とエマルジョン粘着剤とを含むエマルジョンパッチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-210759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の貼付剤では、親水性薬物の経皮吸収性が依然として低く、更なる改善が望まれている。
【0008】
したがって、本発明は、貼付性の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上された貼付剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の貼付剤は、支持体と、上記支持体の一面に積層一体化された粘着層とを含み、上記粘着層が、親水性薬物と、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)と、水溶性液状添加剤と、尿素とを含有することを特徴とする。
【0010】
[粘着層]
貼付剤は、支持体の一面に積層一体化された粘着層を含んでいる。粘着層は、親水性薬物、アクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素を含有している。
【0011】
(親水性薬物)
粘着層は、親水性薬物を含有している。本発明において、親水性薬物とは、溶媒として水、酢酸エチル、又はトルエンを用い、それぞれの溶媒に対する薬物の溶解度を比較した時に、水に対する溶解度が最も高い薬物を意味する。なお、薬物の溶解度とは、25℃の溶媒に薬物を溶解させて得られた飽和溶液において、溶媒100gに対して溶解している薬物の質量(g)を意味する。また、水に対する薬物の溶解度とは、必要に応じてpH調整剤や緩衝剤を用いて水のpHを調整し、pHが2~9である水に対して最大となる薬物の溶解度とする。なお、「pHが2~9である水」において、水のpHとは、薬物を溶解させる前の水のpHとする。また、水に対する薬物の溶解度を測定する際、水に薬物を溶解させた溶液のpHは、薬物の添加に伴って変動することがあるが、飽和溶液のpHは2~9である必要はなく、2未満又は9を超えた値となってもよい。即ち、水に対する薬物の溶解度を測定するにあたって、薬物を溶解させる前の水のpHが2~9であればよく、薬物を溶解させた飽和溶液のpHは、2~9を外れた範囲となってもよい。pH調整剤としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸、コハク酸などの有機酸及びそれらの塩;リン酸、塩酸などの無機酸、水酸化ナトリウムなどの無機塩基が用いられる。緩衝剤としては、リン酸三ナトリウムやリン酸二水素ナトリウムなどのリン酸塩が用いられる。
【0012】
親水性薬物としては、例えば、グアンファシン塩酸塩、アゼラスチン塩酸塩、ロピニロール塩酸塩、及びドネペジル塩酸塩、ミドドリン塩酸塩が挙げられる。なかでも、グアンファシン塩酸塩、アゼラスチン塩酸塩、ロピニロール塩酸塩、及びドネペジル塩酸塩が好ましい。これらの親水性薬物の経皮吸収性を本発明によれば特に向上させることができる。親水性薬物は、一種単独で用いられても二種以上を併用してもよい。
【0013】
粘着層中における親水性薬物の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が特に好ましい。粘着層中における親水性薬物の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が特に好ましい。親水性薬物の含有比率が0.5質量部以上であると、治療に必要とされる皮膚透過量で親水性薬物を投与することが可能な貼付剤を提供することができる。親水性薬物の含有比率が25質量部以下であると、貼付剤の使用後に、粘着層に残存する親水性薬物の量を少なくすることができる。
【0014】
(アクリル系重合体(A))
粘着層は、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)を含む。このアクリル系重合体(A)はアクリル系粘着剤として好ましく用いられる。アクリル系重合体(A)は、一種単独で用いられても二種以上を併用してもよい。なお、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)を単に「アクリル系重合体(A)」ということがある。
【0015】
本発明の貼付剤では、粘着層において、アクリル系重合体(A)と、尿素と、水溶性液状添加剤とを組み合わせて用いることにより、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることが可能となる。このような効果が得られるメカニズムは明確ではないが、下記のようなメカニズムが考えられる。なお、下記メカニズムは、本発明者らの推測によるものである。したがって、本発明は下記メカニズムにより限定して解釈されるものではない。
【0016】
水溶性液状添加剤によれば、粘着層中に含まれる尿素の少なくとも一部を溶解状態とすることができる。溶解状態である尿素は、粘着層中から皮膚表面へと容易に移行することができる。皮膚表面へと移行した尿素は、体内に含まれている水分を皮膚表面に引き寄せて、皮膚表面の水分量を適度に向上させることができる。これにより、親水性薬物が皮膚を透過し易くなり、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることができる。一方、水溶性液状添加剤は、従来の粘着剤との馴染み性が低く、水溶性液状添加剤を粘着層に含ませると、水溶性液状添加剤が粘着層表面に滲み出て(ブリードアウト)、粘着層の粘着力の低下や糊残り等が発生することがあり、結果として、貼付剤の貼付性を低下させることがある。しかしながら、本発明では、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)を用いることにより、水溶性液状添加剤が粘着層表面に滲み出ることを低減して、粘着層中に水溶性液状添加剤を保持することができ、貼付剤の優れた貼付性を維持することができる。このように、本発明の貼付剤では、アクリル系重合体(A)と、尿素と、水溶性液状添加剤とを組み合わせて用いることにより、貼付性の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上された貼付剤を提供することが可能となる。
【0017】
アクリル系重合体(A)中におけるN-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量は、5質量%以上であるが、7質量%以上が好ましく、9質量%以上がより好ましい。アクリル系重合体(A)中におけるN-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が特に好ましい。N-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量を5質量%以上とすることにより、粘着層中に水溶性液状添加剤を保持して、粘着層表面への水溶性液状添加剤のブリードアウトを低減することができる。これにより、粘着層が優れた粘着力を維持して、貼付剤の貼付性の低下を低減することができる。一方、N-ビニル-2-ピロリドン成分の含有量を40質量%以下とすることにより、粘着層の凝集力を適度に維持し、粘着層の優れた粘着力を維持することができる。
【0018】
アクリル系重合体(A)は、N-ビニル-2-ピロリドン成分以外のビニル系モノマー成分を含んでいることが好ましい。すなわち、アクリル系重合体(A)は、N-ビニル-2-ピロリドン成分と、N-ビニル-2-ピロリドン成分以外のビニル系モノマー成分とを含んでいることが好ましい。ビニル系モノマーとは、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを意味する。ビニル系モノマーは、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
ビニル系モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、塩化ビニル、α-オレフィン、及びスチレンなどが挙げられる。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。なかでも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0020】
アクリル系重合体(A)は、アルキル(メタ)アクリレート成分を含んでいることが好ましい。すなわち、アクリル系重合体(A)は、N-ビニル-2-ピロリドン成分と、アルキル(メタ)アクリレート成分とを含んでいることが好ましい。アクリル系重合体(A)としては、N-ビニル-2-ピロリドンと、アルキル(メタ)アクリレートとの共重合体がより好ましく挙げられる。アルキル(メタ)アクリレート成分によれば、粘着層に適度な凝集力を付与し、粘着層の粘着性を向上させることができる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0021】
アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、-Cn2n+1(式中、nは、正の整数である。)で示される基である。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、1~16が好ましく、1~14がより好ましく、2~12がより好ましく、2~10が特に好ましい。
【0022】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なかでも、エチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、エチル(メタ)アクリレート、及びn-オクチル(メタ)アクリレートがより好ましく、エチルアクリレート、及びn-オクチルアクリレートがより好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、単独で用いられても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
アクリル系重合体(A)中におけるアルキル(メタ)アクリレート成分の含有量は、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上が好ましく、85質量%以上が特に好ましい。アクリル系重合体(A)中におけるアルキル(メタ)アクリレート成分の含有量は、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、91質量%以下が特に好ましい。アルキル(メタ)アクリレート成分の含有量を60質量%以上とすることにより、粘着層の凝集力を適度な範囲として、粘着層の粘着力を向上させることができる。アルキル(メタ)アクリレート成分の含有量を95質量%以下とすることにより、アクリル系重合体(A)中にN-ビニル-2-ピロリドン成分を十分な量で含ませることができる。
【0024】
アクリル系重合体(A)の重合方法としては、従来公知の方法にて行なえばよい。例えば、重合開始剤の存在下で、上述したモノマーを重合する方法が挙げられる。具体的には、所定量のモノマー、重合開始剤、及び重合溶媒を反応器に供給し、60~80℃の温度で4~48時間に亘って加熱して、モノマーをラジカル重合させる方法が挙げられる。
【0025】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-(2,4’-ジメチルバレロニトリル)などのアゾビス系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド(LPO)、ジ-tert-ブチルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤などが挙げられる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、シクロヘキサンやトルエンなどが挙げられる。更に、重合反応は、窒素ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0026】
粘着層中におけるアクリル系重合体(A)の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、45質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、55質量部以上が特に好ましい。粘着層中におけるアクリル系重合体(A)の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、80質量部以下が特に好ましい。アクリル系重合体(A)の含有比率が45質量部以上であると、粘着層の皮膚への粘着力を向上させることができる。アクリル系重合体(A)の含有比率を90質量部以下とすることにより、必要な量で薬物や他の添加剤を粘着層に添加することができる。
【0027】
(水溶性液状添加剤)
粘着層は、水溶性液状添加剤を含む。水溶性液状添加剤によれば、粘着層中に含まれる尿素の少なくとも一部を溶解させて、溶解させた尿素が粘着層表面へ移行するのを促進させることができる。また、水溶性液状添加剤は、アクリル系重合体(A)によって粘着層中に保持され易い。これにより、粘着層が優れた粘着力を維持して、貼付剤の貼付性の低下を低減することができる。
【0028】
水溶性液状添加剤における「水溶性」とは、温度が25℃であり且つpHが7である水に対して、水溶性液状添加剤が10質量%以上溶解することを意味する。なお、「pHが7である水」において、水のpHとは、水溶性液状添加剤を溶解させる前の水のpHとする。
【0029】
水溶性液状添加剤における「液状」とは、25℃で且つ1.01×105Pa(1atm)にて液状を呈することを意味する。
【0030】
水溶性液状添加剤として、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、D-ソルビトール、1,2,6-ヘキサントリオールなどの多価アルコールが挙げられる。これらの水溶性液状添加剤は、温度が25℃であり且つpHが7である水に対して10質量%以上溶解することができる。なかでも、グリセリン、プロピレングリコール、及びポリエチレングリコールが好ましく、グリセリン、及びプロピレングリコールがより好ましく、グリセリンがより好ましい。水溶性液状添加剤は、一種単独で用いられても二種以上を併用してもよい。
【0031】
粘着層中における水溶性液状添加剤の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上が特に好ましい。粘着層中における水溶性液状添加剤の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が特に好ましい。水溶性液状添加剤の含有比率が3質量部以上であると、粘着層中に含まれる尿素の少なくとも一部を溶解させて、粘着層表面へ溶解させた尿素が移行するのを促進させることができる。水溶性液状添加剤の含有比率を30質量部以下とすることにより、過剰量の水溶性液状添加剤が粘着層表面にブリードアウトするのを低減することができる。これにより、粘着層が優れた粘着力を維持して、貼付剤の貼付性の低下を低減することができる。
【0032】
粘着層中において、親水性薬物に対する水溶性液状添加剤の質量比(水溶性液状添加剤の質量/親水性薬物の質量)は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.5以上がより好ましく、1.0以上が特に好ましい。粘着層中において、親水性薬物に対する水溶性液状添加剤の質量比(水溶性液状添加剤の質量/親水性薬物の質量)は、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、7以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。質量比(水溶性液状添加剤の質量/親水性薬物の質量)が0.1以上であると、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることができる。質量比(水溶性液状添加剤の質量/親水性薬物の質量)が20以下であると、貼付性の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上された貼付剤を提供することができる。
【0033】
(尿素)
粘着層は、尿素を含む。親水性薬物は皮膚を透過し難くいが、このような親水性薬物を用いた場合であっても、尿素を水溶性液状添加剤と組合せて用いることにより、親水性薬物が皮膚を透過することを促進させることができる。これにより、親水性薬物の経皮吸収性に優れている貼付剤を提供することができる。
【0034】
粘着層中では、尿素の少なくとも一部が溶解させた状態として含まれていることが好ましい。また、粘着層中では、尿素の一部が結晶状態として析出していることが好ましい。すなわち、粘着層は、結晶状態の尿素を含んでいることがより好ましい。
【0035】
粘着層中では、水溶性液状添加剤によって、尿素の少なくとも一部を溶解させた状態で含ませることができる。粘着層中に結晶状態の尿素が含まれている場合、粘着層中では、溶解状態の尿素から皮膚表面へと移行し、粘着層中の尿素の濃度が低下すると、結晶状態の尿素が溶解した上で皮膚表面へと移行することができる。特に、粘着層中に結晶状態の尿素が含まれていることによって、粘着層表面に尿素を徐々に移行させることができ、これにより親水性薬物を持続的に皮膚に透過させることが可能となる。
【0036】
粘着層中において、親水性薬物に対する尿素の質量比(尿素の質量/親水性薬物の質量)は、0.15以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.3以上が特に好ましい。粘着層中において、親水性薬物に対する尿素の質量比(尿素の質量/親水性薬物の質量)は、30以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がより好ましく、5以下が特に好ましい。尿素の質量比(尿素の質量/親水性薬物の質量)が0.15以上であると、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることができる。尿素の質量比(尿素の質量/親水性薬物の質量)が30以下であると、貼付性の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上された貼付剤を提供することができる。
【0037】
粘着層中において、水溶性液状添加剤に対する尿素の質量比(尿素の質量/水溶性液状添加剤の質量)は、0.15以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上が特に好ましい。粘着層中において、水溶性液状添加剤に対する尿素の質量比(尿素の質量/水溶性液状添加剤の質量)は、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下が特に好ましい。質量比(尿素の質量/水溶性液状添加剤の質量)が0.15以上であると、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることができる。質量比(尿素の質量/水溶性液状添加剤の質量)が6以下であると、水溶性液状添加剤によって尿素の少なくとも一部を溶解させて、粘着層表面へ溶解させた尿素が移行するのを促進させることができる。
【0038】
粘着層中における尿素の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上が特に好ましい。粘着層中における尿素の含有比率は、親水性薬物、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対して、35質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下が特に好ましい。尿素の含有比率が1質量部以上であると、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることができる。尿素の含有比率が35質量部以下であると、優れた貼付性を有する貼付剤を提供することができる。
【0039】
(経皮吸収促進剤)
粘着層は、経皮吸収促進剤を含んでいることが好ましい。経皮吸収促進剤を用いることにより、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることができる。
【0040】
経皮吸収促進剤は非水溶性であることが好ましい。経皮吸収促進剤における「非水溶性」とは、温度が25℃であり且つpHが7である水に対して溶解可能な経皮吸収促進剤の濃度が1質量%以下であることが好ましい。なお、「pHが7である水」において、水のpHとは、経皮吸収促進剤を溶解させる前の水のpHとする。
【0041】
経皮吸収促進剤としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、アジピン酸イソプロピルなどの脂肪酸エステルが挙げられる。なかでも、ミリスチン酸イソプロピルが好ましい。経皮吸収促進剤は、単独で用いられても二種以上を併用してもよい。
【0042】
粘着層中における経皮吸収促進剤の含有比率は、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。粘着層中における経皮吸収促進剤の含有比率は、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)100質量部に対して、30質量部以下がより好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がより好ましい。経皮吸収促進剤の含有比率が5質量部以上であると、親水性薬物の経皮吸収性を向上させることができる。経皮吸収促進剤の含有比率が30質量部以下であると、粘着層の凝集力を適度に維持し、貼付剤を使用後に皮膚から剥離する際に、糊残りの発生を低減することができる。
【0043】
粘着層は、貼付剤の皮膚刺激性に影響を与えない範囲であれば、粘着付与剤、及び充填剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
(粘着付与剤)
粘着層は、粘着付与剤を含んでいてもよい。粘着付与剤としては、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン、水素添加ロジン、ロジンエステル、石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂などが挙げられる。粘着付与剤は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。粘着層が粘着付与剤を含んでいる場合、粘着層中における粘着付与剤の含有比率は、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)100質量部に対して、20~80質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましい。
【0045】
(充填剤)
粘着層は、充填剤を含んでいてもよい。充填剤は、粘着層の形状保持性を調整するために用いられる。充填剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、酸化亜鉛などの無機充填剤;炭酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなどの有機金属塩類;乳糖、結晶セルロース、エチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;架橋ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。充填剤は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。粘着層が充填剤を含んでいる場合、粘着層中における充填剤の含有比率は、N-ビニル-2-ピロリドン成分を5質量%以上含有するアクリル系重合体(A)100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、0.1~2質量部がより好ましい。
【0046】
粘着層は、水を含んでいてもよいが、実質的に水を含んでいないことが好ましい。したがって、貼付剤の製造工程において粘着層中に意図的に水を配合しないことが好ましい。しかしながら、貼付剤の製造工程や保存中に空気中などに含まれる水を粘着層が吸収してしまい、粘着層から完全に水を除去することは困難である。したがって、粘着層中の水の含有量は、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。水の含有量を1質量%以下とすることにより、貼付剤の保存中に親水性薬物が水と反応するのを低減することができる。親水性薬物が水と反応した場合、治療のために予定していた薬効が得られないことがある。また、水の含有量を1質量%以下とすることにより、粘着層が十分な粘着力を発揮して、貼付剤の優れた貼付性を維持することができる。
【0047】
粘着層は、界面活性剤を含んでいてもよいが、界面活性剤を含んでいないことが好ましい。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを挙げることができる。
【0048】
アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸石けん、ナフテン酸石けん、長鎖アルコール硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル、脂肪酸モノアルカノールアミド硫酸エステル、アルカリスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0049】
カチオン性界面活性剤としては、長鎖第1級アミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0050】
両性界面活性剤としては、N-アルキル β-アミノプロピオン酸塩、N-アルキルβ-イミノジプロピオン酸塩などが挙げられる。
【0051】
非イオン性界面活性剤としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、デカグリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖混合脂肪酸エステル)などが挙げられる。
【0052】
粘着層中における界面活性剤の含有量は、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。界面活性剤の含有量を1質量%以下とすることにより、粘着層が十分な粘着力を発揮して、貼付剤の優れた貼付性を維持することができる。
【0053】
粘着層の厚みは、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。粘着層の厚みは、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下が特に好ましい。粘着層の厚みが20μm以上であると、所望する薬効を得るために必要な量の薬物を粘着層中に含有させることができる。粘着層の厚みが200μm以下であると、粘着層中の残存溶剤を低減するために製造時に強い乾燥条件を必要としないため、粘着層中の薬物の揮散又は分解を抑制することができる。
【0054】
[支持体]
本発明の貼付剤では、支持体の一面に粘着層が積層一体化される。支持体は、粘着層中の薬物の損失を防ぎ、貼付剤に自己保持性を付与するための強度を有することが求められる。このような支持体としては、樹脂フィルム、不織布、織布、編布、アルミニウムシートなどが挙げられる。
【0055】
樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、酢酸セルロース、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート、可塑化酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ナイロン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、可塑化ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。なかでも、粘着層からの薬物の損失を防げることから、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0056】
不織布を構成する素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、ナイロン、ポリエステル、ビニロン、SIS共重合体、SEBS共重合体、レーヨン、綿などが挙げられ、ポリエステルが好ましい。なお、これらの素材は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0057】
支持体は、単層であっても、複数層が積層一体化された積層シートであってもよい。積層シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、不織布又は柔軟な樹脂フィルムとが積層一体化された積層シートが挙げられる。
【0058】
支持体の厚みは、特に制限されないが、2μm以上が好ましい。支持体の厚みは、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
【0059】
[剥離ライナー]
本発明の貼付剤では、粘着層の一面に、剥離ライナーが剥離可能に積層一体化されていてもよい。剥離ライナーは、粘着層中の薬物の損失防止や粘着層を保護するために用いられる。
【0060】
剥離ライナーとしては、例えば、紙及び樹脂フィルムが挙げられる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。剥離ライナーの粘着層と対向させる面には離型処理が施されていることが好ましい。
【0061】
[貼付剤の製造方法]
本発明の貼付剤の製造方法としては、例えば、(1)親水性薬物、アクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、尿素、及び溶剤、並びに、必要に応じて他の添加剤を含む粘着層溶液を、支持体の一面に塗工した後に乾燥させることにより、支持体の一面に粘着層を積層一体化し、必要に応じて、粘着層に剥離ライナーを、剥離ライナーの離型処理が施された面が粘着層に対向した状態となるように積層する方法、(2)上記粘着層溶液を剥離ライナーの離型処理が施された面上に塗工し、乾燥させることにより、剥離ライナー上に粘着層を形成し、この粘着層に支持体を積層一体化させる方法などが挙げられる。
【0062】
粘着層溶液は、親水性薬物、アクリル系重合体(A)、水溶性液状添加剤、尿素、及び溶剤、並びに、必要に応じて他の添加剤を均一に撹拌することにより得られる。溶剤としては、例えば、トルエン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、及び酢酸エチルなどが挙げられる。溶剤は、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
本発明の貼付剤では、上述した通り、粘着層の粘着力の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上されている。したがって、粘着層が皮膚に貼付するために十分な粘着力を発揮することができる。そのため、この粘着層を皮膚に直接貼着することにより、貼付剤を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0064】
本発明では、上述した構成を採用することによって、貼付性の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上された貼付剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例
【0066】
下記する実施例及び比較例では、親水性薬物として、グアンファシン塩酸塩、アゼラスチン塩酸塩、ロピニロール塩酸塩、及びドネペジル塩酸塩を用いた。
【0067】
グアンファシン塩酸塩は、温度が25℃であり且つpHが2~9である水のうち、温度が25℃であり且つpHが2である水に対する溶解度が最も高く、この温度が25℃であり且つpHが2である水に対するグアンファシン塩酸塩の溶解度は0.16g以上であった。また、それぞれ温度が25℃である酢酸エチル又はトルエンに対するグアンファシン塩酸塩の溶解度は、それぞれ0.040g以下、0.039g以下であった。
【0068】
アゼラスチン塩酸塩は、温度が25℃であり且つpHが2~9である水のうち、温度が25℃であり且つpHが2である水に対する溶解度が最も高く、この温度が25℃であり且つpHが2である水に対するアゼラスチン塩酸塩の溶解度は0.16g以上であった。また、それぞれ温度が25℃である酢酸エチル又はトルエンに対するアゼラスチン塩酸塩の溶解度は、それぞれ0.040g以下、0.042g以下であった。
【0069】
ロピニロール塩酸塩は、温度が25℃であり且つpHが2~9である水のうち、温度が25℃であり且つpHが2である水に対する溶解度が最も高く、この温度が25℃であり且つpHが2である水に対するロピニロール塩酸塩の溶解度は0.15g以上であった。また、それぞれ温度が25℃である酢酸エチル又はトルエンに対するロピニロール塩酸塩の溶解度は、それぞれ0.037g以下、0.038g以下であった。
【0070】
ドネペジル塩酸塩は、温度が25℃であり且つpHが2~9である水のうち、温度が25℃であり且つpHが2である水に対する溶解度が最も高く、この温度が25℃であり且つpHが2である水に対するドネペジル塩酸塩の溶解度は0.16g以上であった。また、それぞれ温度が25℃である酢酸エチル又はトルエンに対するドネペジル塩酸塩の溶解度は、それぞれ0.042g以下、0.041g以下であった。
【0071】
また、下記する実施例及び比較例では、水溶性液状添加剤として、グリセリン、及びプロピレングリコールを用いた。グリセリン、及びプロピレングリコールは、それぞれ、温度が25℃であり且つpHが7である水に対して、10質量%以上溶解することができた。また、グリセリン、及びプロピレングリコールは、それぞれ、25℃で且つ1.01×105Pa(1atm)にて液状であった。
【0072】
また、下記する実施例及び比較例では、経皮吸収促進剤としてミリスチン酸イソプロピルを用いた。温度が25℃であり且つpHが7である水に対して溶解可能なミリスチン酸イソプロピルの濃度は1質量%以下であった。
【0073】
(アクリル系重合体(A1)の調製)
n-オクチルアクリレート40質量部、エチルアクリレート50質量部、及びN-ビニル-2-ピロリドン10質量部を含むモノマー、並びに酢酸エチル50質量部からなる反応液を重合機に供給して重合機内を80℃の窒素雰囲気とした。そして、上記反応液に、ラウロイルパーオキサイド1質量部を酢酸エチル30質量部とシクロヘキサン20質量部に溶解させてなる重合開始剤溶液を24時間かけて加えながら上記モノマーを重合させ、重合完了後に上記反応液に更に酢酸エチルを加えて、アクリル系重合体(A1)の含有量が30質量%のアクリル系重合体(A1)溶液を得た。
【0074】
(実施例1~11、及び比較例1~9)
粘着層において、グアンファシン塩酸塩、アゼラスチン塩酸塩、ロピニロール塩酸塩、及びドネペジル塩酸塩、グリセリン、プロピレングリコール、尿素、ミリスチン酸イソプロピル、脂環族飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業社製 商品名「アルコン」)、流動パラフィン、アクリル系重合体(A1)、及びスチレン-イソプレン-スチレン(SIS)ブロック共重合体(Kraton社製 商品名「Kraton D」)が、それぞれ表1及び2に括弧で囲まれていない数値で示した配合量となるように、グアンファシン塩酸塩、アゼラスチン塩酸塩、ロピニロール塩酸塩、及びドネペジル塩酸塩、グリセリン、プロピレングリコール、尿素、ミリスチン酸イソプロピル、脂環族飽和炭化水素樹脂、流動パラフィン、アクリル系重合体(A1)溶液、及びスチレン-イソプレン-スチレン(SIS)ブロック共重合体を配合し、固形分の濃度が30質量%になるように酢酸エチル又はシクロヘキサンを加えた後、均一になるまで混合して、粘着層溶液を調製した。
【0075】
次に、シリコーン離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離ライナーとして用意し、このポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン離型処理面に、上記粘着層溶液を塗布し、60℃で30分間乾燥させることにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン離型処理面に厚さ70μmの粘着層が形成された積層体を作製した。
【0076】
そして、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを支持体として用意し、この支持体の一面と、上記積層体の粘着層とが対向するように重ね合わせて、積層体の粘着層を支持体に積層一体化させることによって貼付剤を製造した。
【0077】
なお、表1及び2の親水性薬物、アクリル系重合体(A1)、水溶性液状添加剤、及び尿素の各欄において、粘着層中における、親水性薬物、アクリル系重合体(A1)、水溶性液状添加剤、及び尿素の総量100質量部に対する、親水性薬物、アクリル系重合体(A1)、水溶性液状添加剤、及び尿素の含有比率をそれぞれ括弧で囲まれた数値により示した。
【0078】
さらに、表1及び2の経皮吸収促進剤の欄において、粘着層中における、アクリル系重合体(A1)100質量部に対する、経皮吸収促進剤の含有比率を括弧で囲まれた数値により示した。
【0079】
実施例及び比較例の貼付剤において、粘着層中の水の含有量は0.5質量%以下であった。また、実施例及び比較例の貼付剤において、粘着層中の界面活性剤の含有量は0質量%とした。
【0080】
(評価)
実施例及び比較例の貼付剤について、下記手順に従って、皮膚透過量、及び貼付性を評価した。
【0081】
(皮膚透過量)
製造直後の貼付剤から面積3cm2の試験片を切り出す一方、37℃に保持されたFranzの拡散セルに、ヘアレスマウス(雄、8~10週齢)の背部摘出皮膚を固定し、この皮膚の上端部に試験片をその粘着層によって貼付した。なお、pH7.2に調整した生理食塩水をリセプター液とし、このリセプター液中に皮膚の下端部を浸漬した。
【0082】
試験片を皮膚に貼付してから24時間後に、皮膚下側のリセプター液を採取し、薬物の濃度をHPLC(high performance liquid chromatography)を用いて測定した。そして、薬物の濃度とリセプター液量から薬物の透過量を算出した。算出した薬物の透過量を試験片の面積(3cm2)で除することにより、薬物の皮膚透過量W2(mg/cm2)を算出した。算出した薬物の皮膚透過量W2(mg/cm2)を、表1の「24時間後皮膚透過量」の欄に示した。
【0083】
また、粘着層の密度を1×103mg/cm2とし、この粘着層の密度と粘着層の厚み(7×10-3cm)とから、粘着層の単位面積当たりの質量を7mg/cm2と算出した。粘着層中に含まれる各成分の配合量から、粘着層中における薬物の濃度(質量%)を算出した。算出した粘着層の単位面積当たりの質量及び粘着層中における薬物の濃度から、製造直後の粘着層中の単位面積当たりの薬物量W1(mg/cm2)を算出した。そして、下記式に基づいて、試験片を皮膚に貼付してから24時間後の薬物の利用率を算出し、結果を表1の「利用率」の欄に示した。
薬物の利用率(%)=100×W2/W1
【0084】
(貼付性)
製造直後の貼付剤から面積が5cm2の試験片を切り出した。試験片から剥離ライナーを剥離し、試験片の粘着層表面を目視観察し、粘着層表面に液体成分がブリードアウトしているか否かを確認した。その後、試験片をウサギ(雄、16~18週齢)の剃毛した背部の皮膚に粘着層によって貼付した。貼付から24時間後に皮膚から試験片を剥離し、下記基準に従って評価した。
<評価基準>
「優」:粘着層表面に液体成分がブリードアウトしておらず、粘着層が優れた粘着力を有しており、貼付剤を皮膚に貼付することが可能であったと共に、貼付剤を皮膚から剥離する際には糊残りなく剥離することが可能であった。
「良」:粘着層表面に液体成分が極僅かにブリードアウトしていたが、粘着層が高い粘着力を有しており、貼付剤を皮膚に貼付することが可能であったと共に、貼付剤を皮膚から剥離する際には糊残りなく剥離することが可能であった。
「可」:粘着層表面に液体成分が僅かにブリードアウトしていたが、粘着層が十分な粘着力を有しており、貼付剤を皮膚に貼付することが可能であったと共に、貼付剤を皮膚から剥離する際には糊残りなく剥離することが可能であった。
「不可」:粘着層表面に液体成分が多くブリードアウトして、粘着層の粘着力が不足しており、貼付剤を皮膚に貼付することができなかったか、若しくは貼付剤を皮膚から剥離する際に糊残りが発生した。
【0085】
なお、比較例2の貼付剤では、上述した貼付性の評価において、貼付剤を皮膚に貼付した後に剥離する際に、糊残りが発生して、貼付剤を皮膚から剥離することができなかった。このような貼付剤は実使用することができない。そのため、比較例2の貼付剤については、皮膚透過量の評価は行わなかった。
【0086】
また、比較例6の貼付剤では、製造直後に、粘着層中で液体成分としてグリセリンのブリードアウトが多く生じて、粘着層の粘着力が不足していたため、上述した貼付性の評価において、貼付剤を皮膚に貼付することができなかった。そのため、比較例6の貼付剤についても、皮膚透過量の評価は行わなかった。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、上述した通り、貼付性の低下を低減しつつ、親水性薬物の経皮吸収性が向上された貼付剤を提供することができる。