(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】炭化珪素基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20241210BHJP
C30B 33/10 20060101ALI20241210BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B33/10
H01L21/304 621D
H01L21/304 647A
H01L21/304 647Z
(21)【出願番号】P 2020209204
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 恭子
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-116553(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235225(WO,A1)
【文献】特開2009-194216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00 -16/56
C30B 29/00 -29/68 ;33/10
H01L 21/205;21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウムの付着密度の合計が1
.0×10
12atoms/cm
2未満である表面を有する炭化珪素基板を準備する工程と、
化学機械研磨法によって前記炭化珪素基板の前記表面を研磨する工程と、を備える、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記炭化珪素基板を準備する工程では、前記カルシウムの付着密度が1×10
11atoms/cm
2未満となっている、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素基板を準備する工程は、前記炭化珪素基板の前記表面におけるナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウムの付着密度の合計が1
.0×10
12atoms/cm
2未満となるように前記炭化珪素基板を洗浄する工程を含む、請求項1または請求項2に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄する工程では、前記炭化珪素基板の前記表面を酸溶液によって洗浄する、請求項3に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記酸溶液はカルボン酸を含む、請求項4に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
前記酸溶液には過酸化水素水が添加されている、請求項5に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項7】
前記研磨する工程において、前記炭化珪素基板の研磨量は0.5μm以上2μm以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項8】
前記研磨する工程において用いられる砥粒は、コロイダルシリカ、酸化マンガン、酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項9】
カルボン酸を含む酸溶液を用いて炭化珪素基板の表面を洗浄する工程と、
前記表面が洗浄された前記炭化珪素基板の前記表面を、化学機械研磨法によって研磨する工程と、を備える、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項10】
前記酸溶液には過酸化水素水が添加されている、請求項9に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開2019/111507号(特許文献1)には、炭化珪素単結晶基板に対して化学機械研磨を行う工程が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、欠陥の発生を抑制可能な炭化珪素基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る炭化珪素基板の製造方法は以下の工程を備えている。ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満である表面を有する炭化珪素基板が準備される。化学機械研磨法によって炭化珪素基板の表面が研磨される。
【0006】
本開示に係る炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を備えている。カルボン酸を含む酸溶液を用いて炭化珪素基板の表面が洗浄される。表面が洗浄された炭化珪素基板の表面が、化学機械研磨法によって研磨される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、欠陥の発生を抑制可能な炭化珪素基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図2は、
図1に示した準備工程の内容を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
(1) 本開示の実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法は以下の工程を備えている。ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満である表面を有する炭化珪素基板が準備される。化学機械研磨法によって炭化珪素基板の表面が研磨される。
【0011】
(2) 上記(1)に係る炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素基板を準備する工程では、カルシウムの付着密度が1×1011atoms/cm2未満となっていてもよい。
【0012】
(3) 上記(1)または(2)に係る炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素基板を準備する工程は、炭化珪素基板の表面におけるナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウムの付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満となるように炭化珪素基板を洗浄する工程を含んでいてもよい。
【0013】
(4) 上記(3)に係る炭化珪素基板の製造方法において、洗浄する工程では、炭化珪素基板の表面を酸溶液によって洗浄してもよい。
【0014】
(5) 上記(4)に係る炭化珪素基板の製造方法において、酸溶液はカルボン酸を含んでいてもよい。
【0015】
(6) 上記(5)に係る炭化珪素基板の製造方法において、酸溶液には過酸化水素水が添加されていてもよい。
【0016】
(7) 上記(1)から(6)のいずれかに係る炭化珪素基板の製造方法では、研磨する工程において、炭化珪素基板の研磨量が0.5μm以上2μm以下であってもよい。
【0017】
(8) 上記(1)から(7)のいずれかに係る炭化珪素基板の製造方法では、研磨する工程において用いられる砥粒が、コロイダルシリカ、酸化マンガン、酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0018】
(9) 本開示の実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を備えている。カルボン酸を含む酸溶液を用いて炭化珪素基板の表面が洗浄される。表面が洗浄された炭化珪素基板の表面が、化学機械研磨法によって研磨される。
【0019】
(10) 上記(9)に係る炭化珪素基板の製造方法において、酸溶液には過酸化水素水が添加されていてもよい。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本開示の実施形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また、負の指数については、結晶学上、”-”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0021】
(炭化珪素基板の製造方法)
本実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法を説明する。
図1は、本実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図2は、
図1に示した準備工程の内容を説明するためのフローチャートである。
【0022】
図1および
図2に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法は、準備工程(S10)と、研磨工程(S20)と、後処理工程(S30)とを主に有している。
【0023】
まず、準備工程(S10)が実施される。具体的には、
図2に示されるように、準備工程(S10)は基板を準備する工程(S11)と、洗浄工程(S12)と、研磨前処理工程(S13)とを主に有している。
【0024】
仕上げ研磨の対象となる基板としての炭化珪素基板を準備する工程(S11)では、たとえば昇華法によりポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶から構成されたインゴットが形成される。インゴットが整形された後、インゴットがワイヤーソー装置によりスライスされる。これにより、炭化珪素単結晶基板(炭化珪素基板とも呼ぶ)がインゴットから切り出される。
【0025】
炭化珪素基板は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素から構成されている。炭化珪素基板は、第1主面と、当該第1主面の反対側にある第2主面とを有する。第1主面は、たとえば{0001}面に対して<11-20>方向に4°以下オフした面である。具体的には、第1主面は、たとえば(0001)面に対して4°以下程度の角度だけオフした面であってもよい。第2主面は、たとえば(000-1)面に対して4°以下程度の角度だけオフした面であってもよい。
【0026】
炭化珪素基板に対しては、後述する洗浄工程(S12)が実施される前に、面取り加工工程、機械研磨工程などが実施されてもよい。あるいは、基板を準備する工程(S11)として、基板サイズ、厚み、表面粗さなどが調整されている炭化珪素基板を購入してもよい。
【0027】
次に、準備工程(S10)の第2工程としての洗浄工程(S12)が実施される。この工程(S12)では、炭化珪素基板の表面を酸溶液によって洗浄する。酸溶液は、たとえばカルボン酸を含む。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、などを用いることができる。さらに、酸溶液は過酸化水素水を含んでいてもよい。酸溶液として、たとえばギ酸と過酸化水素水と純水とを混合した溶液を用いてもよいし、酢酸と過酸化水素水と純水とを混合した溶液を用いてもよい。
【0028】
酸溶液として、ギ酸と過酸化水素水と純水とを、ギ酸:過酸化水素水:純水=1:1:10という体積比で混合したものを用いてもよい。または、酸溶液として、ギ酸と純水とをギ酸:純水=1:5という体積比で混合したものを用いてもよい。この場合、混合するギ酸の濃度はたとえば40wt%としてもよく、混合する過酸化水素水の濃度を30wt%としてもよい。
【0029】
また、酸溶液として、酢酸と過酸化水素水と純水とを、酢酸:過酸化水素水:純水=1:1:10という体積比で混合したものを用いてもよい。または、酸溶液として、酢酸と純水とを酢酸:純水=1:5という体積比で混合したものを用いてもよい。この場合、混合する酢酸の濃度はたとえば30wt%としてもよく、混合する過酸化水素水の濃度を30wt%としてもよい。酸溶液において、純水に対するカルボン酸の体積比は0.05以上0.3以下としてもよく、0.1以上0.2以下としてもよい。酸溶液において、純水に対する過酸化水素水の体積比は0.05以上0.3以下としてもよく、0.1以上0.2以下としてもよい。
【0030】
酸溶液は、たとえば無機酸を含んでいてもよい。無機酸としては、たとえば硫酸、フッ酸、塩酸、硝酸などを用いることができる。硫酸を含む酸溶液としては、硫酸過水(硫酸と過酸化水素水とを含む溶液)を用いてもよい。たとえば、硫酸過水として、硫酸と過酸化水素水と純水とを、硫酸:過酸化水素水:純水=10:1:1という体積比で混合した物を用いてもよい。このとき、過酸化水素水に対する硫酸の体積比は5以上10以下としてもよい。混合する硫酸の濃度は70wt%以上98wt%以下としてもよい。また、酸溶液としてフッ酸を用いる場合、フッ酸の濃度は20wt%以上50wt%以下としてもよい。塩酸および硝酸を含む酸溶液として、たとえば王水を用いてもよい。
【0031】
洗浄工程(S12)においては、上述した酸溶液によって炭化珪素基板の表面が洗浄されるが、具体的な洗浄方法としては任意の方法を採用できる。たとえば、酸溶液を石英もしくはテフロン(登録商標)製容器に入れておき、当該酸溶液に炭化珪素基板を浸漬してもよい。あるいは、酸溶液を炭化珪素基板の表面にノズルなどから吐出または滴下してもよい。
【0032】
洗浄工程(S12)における洗浄時間は、たとえば5分以上60分以下としてもよい。酸溶液の温度はたとえば20℃以上40℃以下としてもよい。
【0033】
このような酸溶液を用いた洗浄工程(S12)により、炭化珪素基板の表面からナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などの元素が除去される。この結果、炭化珪素基板の表面におけるナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満とされる。なお、上述した元素の付着密度の測定方法については後述する。
【0034】
次に、準備工程(S10)の第3工程としての研磨前処理工程(S13)が実施される。この工程(S13)では、たとえば上記洗浄工程(S12)において用いられた酸溶液を炭化珪素基板の表面から純水により除去する水洗工程が実施される。水洗工程では、たとえば、石英もしくはテフロン製容器内の純水に炭化珪素基板を浸漬してもよい。あるいは、炭化珪素基板の表面にノズルなどから純水を吐出または滴下してもよい。
【0035】
さらに、上記工程(S13)では、炭化珪素基板の表面に付着している研磨剤粒子などの異物を除去するためのアルカリ洗浄工程が実施されてもよい。このアルカリ洗浄工程では、アルカリ性溶液により炭化珪素基板の表面を洗浄する。アルカリ性溶液としては、たとえば過酸化水素水と水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)と純水とを、過酸化水素水:TMAH:純水=0.5:1:20と言う体積比で混合した液体を用いてもよい。アルカリ洗浄工程では、たとえば、石英もしくはテフロン製容器内のアルカリ性溶液に炭化珪素基板を浸漬してもよい。あるいは、炭化珪素基板の表面にノズルなどからアルカリ性溶液を吐出または滴下してもよい。
【0036】
また、上記工程(S13)では、上記アルカリ洗浄工程において用いられたアルカリ性溶液を炭化珪素基板の表面から純水により除去する水洗工程が実施されてもよい。さらに、水洗工程で用いられた純水を炭化珪素基板の表面から除去するための乾燥工程が実施されてもよい。乾燥工程では、たとえば炭化珪素基板を回転させて乾燥するスピン乾燥を実施してもよい。
【0037】
このように準備工程(S10)で準備される炭化珪素基板は、表面におけるナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満とされている。また、炭化珪素基板は、表面におけるカルシウム(Ca)の付着密度が1×1011atoms/cm2未満でることが好ましい。
【0038】
次に、
図1に示すように研磨工程(S20)が実施される。この工程は、いわゆる仕上げ研磨工程であって、炭化珪素基板に対して化学機械研磨が行われる。この工程(S20)で用いられる研磨液は、砥粒と液体とを含む。砥粒は、たとえばコロイダルシリカである。砥粒としては、たとえば酸化マンガンまたは酸化ジルコニウムを用いてもよい。砥粒の平均粒径は、たとえば40nmである。研磨液は、たとえば潤滑剤と、酸化剤と、分散剤とを有している。潤滑剤は、たとえばスクロースまたはグルコースなどの糖類である。潤滑剤は、たとえば多価アルコールであってもよい。酸化剤は、たとえば過酸化水素水である。分散剤は、たとえばマグネシウム(Mg)を含んでいる。
【0039】
研磨工程(S20)において用いられる化学機械研磨装置は、任意の構成の装置を採用できる。たとえば、化学機械研磨装置は、定盤上に設けられた研磨布と、研磨プレートと、回転支持部材と、研磨液供給部とを主に有していてもよい。炭化珪素基板は、研磨プレートに取り付けられる。研磨プレートは研磨布上に配置される。炭化珪素基板の第2主面は、研磨プレートに対向している。炭化珪素基板の第1主面は、研磨布に対向している。研磨布は、たとえばスエード研磨布である。研磨液供給部は、研磨液を供給する。研磨液供給部から供給された研磨液は、炭化珪素基板の第1主面と研磨布との間に供給される。
【0040】
炭化珪素基板が取り付けられた研磨プレートは、回転支持部材に接続されている。回転支持部材は、研磨布の表面に対して垂直な方向に延びる回転軸の周りを回転方向に回転可能となっている。回転支持部材が回転軸の周りを回転することで、炭化珪素基板は研磨布に接触した状態で回転する。回転支持部材の回転数は、たとえば60rpmである。研磨布が設けられた定盤も回転可能となっている。定盤の回転数は、たとえば60rpmである。研磨布に炭化珪素基板を押圧する加工面圧は、たとえば300g/cm2である。研磨時間は、たとえば5時間である。研磨工程(S20)における炭化珪素基板の研磨量は、0.5μm以上2μm以下であってもよい。
【0041】
次に、
図1に示すように後処理工程(S30)が実施される。この工程では、研磨工程(S20)において用いられた研磨液を炭化珪素基板の表面から除去するための洗浄工程が実施される。洗浄工程では、たとえばアルカリ性溶液を用いて炭化珪素基板の表面を洗浄する。その後、水洗工程および乾燥工程が実施される。このようにして、半導体装置を形成するために用いられる炭化珪素基板が得られる。
【0042】
(不純物の付着密度の測定方法)
上述した炭化珪素基板の表面における元素の付着密度は、以下のような方法で測定できる。まず、水平型基板検査装置を用いて、炭化珪素基板の表面(第1主面)の全面に酸を滴下する。これにより、第1主面の付着していたナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などの元素が酸に取り込まれる。次に、第1主面の全面から上記元素を含む酸が全量回収される。なお試料調製は、たとえばクラス100のクリーンルーム内に設置したクラス10のクリーンドラフト内で実施される。
【0043】
上述した元素の付着密度は、ICP-MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により測定することができる。測定装置として、たとえばAgillent社製のICP-MS8800を用いることができる。測定で得られた元素の質量(ng)を各元素の原子量で除してモル数に換算後、アボガドロ数を乗じて原子数に変換する。次に、当該原子数を第1主面の面積で除することにより、単位面積当たりの原子数が換算される。このようにして、炭化珪素基板の表面における上記元素の付着密度が測定できる。
【0044】
(作用効果)
本開示の実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法は以下の工程を備えている。ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満である表面を有する炭化珪素基板が準備される(工程(S10))。化学機械研磨法によって炭化珪素基板の表面が研磨される(工程(S20))。
【0045】
このようにすれば、化学機械研磨法によって研磨された炭化珪素基板の表面からスクラッチなどの傷を十分に除去できる。この結果、炭化珪素基板の表面上にエピタキシャル膜を形成した場合においても、当該傷に起因する欠陥の発生を抑制できる。
【0046】
ここで、炭化珪素基板においては、化学機械研磨工程(仕上げ研磨工程)後においても表面に傷(スクラッチ)が存在している場合があった。このような傷が存在する場合、炭化珪素基板の表面上に炭化珪素のエピタキシャル層を形成すると、当該エピタキシャル層においても上記傷に起因する欠陥が発生する。
【0047】
発明者は、上述のように仕上げ研磨工程の後に傷が存在する原因について検討した結果、仕上げ研磨工程での研磨量のばらつきが当該傷の原因であることを見出した。すなわち、仕上げ研磨前の炭化珪素基板表面には、機械研磨工程などの前工程において発生した傷(スクラッチ)が存在している。仕上げ研磨工程における研磨量が設計値通りであれば、当該傷はほとんど除去される。しかし、実際には仕上げ研磨工程における研磨量にばらつきがあるため、研磨量が不足して傷を完全に除去できない場合があった。
【0048】
このような研磨量のばらつきを吸収する程度に、研磨量の設計値を大きくすることも考えられる。しかし、このように研磨量を大きくすると、仕上げ研磨工程での研磨レートは一般的に小さいため、工程に要する時間が長くなる。この結果、炭化珪素基板の製造コストが増大するため、研磨量の設計値を大きくすることは現実的ではない。
【0049】
そこで、発明者は、仕上げ研磨工程での研磨量がばらつく原因について研究した結果、仕上げ研磨される炭化珪素基板の表面に付着している元素が、仕上げ研磨工程の研磨量に大きな影響を与えていることを見出した。すなわち、化学機械研磨を実施する仕上げ研磨工程前の炭化珪素基板の表面(被研磨面)に、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)といった元素(とくに一価または二価の陽イオンとなる軽金属類などの元素)が付着していると、これらの元素が炭化珪素基板の表面と強固に結合する。そして、仕上げ研磨工程の初期段階では、炭化珪素基板の表面に結合している上記元素がマスクのように作用し、炭化珪素基板の表面が効率的に研磨されない状態となる。さらに、これらの元素は反応性が高いため、炭化珪素基板よりも先に化学機械研磨の研磨剤における化学的成分と反応する。この結果、炭化珪素基板に対する研磨剤の化学反応をこれらの元素は阻害していた。この結果、仕上げ研磨工程の初期段階における炭化珪素基板の研磨が十分に行われないため、最終的な炭化珪素基板の研磨量が確保できないという問題が発生していた。
【0050】
そこで、発明者は上記の知見に基づき、仕上げ研磨工程の前に炭化珪素基板の表面における上述したナトリウムなどの元素の付着密度を低減することで、仕上げ研磨工程の初期から炭化珪素基板の研磨を進行させるようにした。この結果、研磨量を十分大きくでき(研磨量のばらつきを抑制でき)、仕上げ研磨工程によって炭化珪素基板の表面からスクラッチなどの傷を十分に除去できるという炭化珪素基板の製造方法に想到した。
【0051】
上記炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素基板を準備する工程(S10)では、炭化珪素基板の表面におけるカルシウム(Ca)の付着密度が1×1011atoms/cm2未満となっていてもよい。ここで、特にカルシウムは炭化珪素基板の表面に対して強固に付着するため、カルシウムの付着密度を上記のように制限することで、化学機械研磨法による炭化珪素基板の研磨が当該カルシウムによって阻害されることを抑制できる。
【0052】
上記炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素基板を準備する工程(S10)は、
図2に示すように、炭化珪素基板の表面におけるナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウムの付着密度の合計が1×10
12atoms/cm
2未満となるように炭化珪素基板を洗浄する工程(S12)を含んでいてもよい。洗浄する工程(S12)では、炭化珪素基板の表面を酸溶液によって洗浄してもよい。
【0053】
この場合、上述したカルシウムなどの元素は酸溶液に溶解するため、これらの元素を炭化珪素基板の表面から効果的に除去することができる。
【0054】
上記炭化珪素基板の製造方法において、酸溶液はカルボン酸を含んでいてもよい。カルボン酸を含む酸溶液を用いることで、上述したカルシウムなどの元素を炭化珪素基板の表面から効果的に除去できる。
【0055】
上記炭化珪素基板の製造方法において、酸溶液には過酸化水素水が添加されていてもよい。この場合、酸溶液によって炭化珪素基板の表面からカルシウムなどの元素を除去する効果をより高めることができる。
【0056】
上記炭化珪素基板の製造方法では、研磨する工程(S20)において、炭化珪素基板の研磨量が0.5μm以上2μm以下であってもよい。この場合、研磨する工程(S20)前の炭化珪素基板の表面に形成されていたスクラッチなどの傷を十分に除去できる。
【0057】
上記炭化珪素基板の製造方法では、研磨する工程(S20)において用いられる砥粒が、コロイダルシリカ、酸化マンガン、酸化ジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。この場合、研磨する工程(S20)において炭化珪素基板の研磨を促進できる。
【0058】
本開示の実施形態に係る炭化珪素基板の製造方法は、以下の工程を備えている。カルボン酸を含む酸溶液を用いて炭化珪素基板の表面が洗浄される(工程(S12))。表面が洗浄された炭化珪素基板の表面が、化学機械研磨法によって研磨される(工程(S20))。
【0059】
このようにすれば、化学機械研磨法により研磨される前の炭化珪素基板の表面から、カルシウムなど化学機械研磨法による研磨を阻害する元素を酸溶液によって除去できる。したがって、炭化珪素基板の研磨工程における研磨量を十分に確保し、当該研磨量のばらつきを抑制できる。このため、炭化珪素基板の表面からスクラッチなどの傷を十分に除去できる。この結果、炭化珪素基板の表面上にエピタキシャル膜を形成した場合においても、当該傷に起因する欠陥の発生を抑制できる。
【0060】
上記炭化珪素基板の製造方法において、酸溶液には過酸化水素水が添加されていてもよい。この場合、酸溶液によって炭化珪素基板の表面からカルシウムなどの元素を除去する効果をより高めることができる。
【実施例】
【0061】
(サンプルの準備)
まず、サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板を準備した。サンプル1からサンプル4に係る炭化珪素基板を実施例とした。サンプル5に係る炭化珪素基板を比較例とした。なお、サンプル1からサンプル5のそれぞれについて、50枚ずつ炭化珪素基板を準備した。
【0062】
サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板は、直径が150mm、厚さが340μm~370μm、ポリタイプが4Hである。被研磨面となる第1主面は{0001}面に対して<11-20>方向に4°オフした面である。
【0063】
(各サンプルに対する処理)
サンプル1からサンプル4について、酸溶液による洗浄工程を実施した。一方、サンプル5については酸溶液による洗浄工程を実施しなかった。各サンプルに対する洗浄工程において用いた条件(酸溶液の条件)を表1に示す。
【0064】
【0065】
表1における条件1から条件4は、それぞれサンプル1からサンプル4の洗浄工程における酸溶液の条件である。表1では、各条件での酸の種類(A)、添加剤の種類(B)、酸溶液における酸(A)と添加剤(B)と純水との体積比(配合比)を示している。サンプル1からサンプル4に係る炭化珪素基板を、表1に示した各条件の酸溶液に浸漬することで洗浄工程を実施した。洗浄工程における酸溶液の温度は30℃、浸漬時間は30分とした。なお、サンプル5の条件である条件5では、洗浄工程を実施していないため「洗浄無し」と表示している。
【0066】
サンプル1からサンプル4に係る炭化珪素基板ついては、上述した洗浄工程後に水洗工程を実施した。
【0067】
その後、サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板に対して、研磨剤粒子などの異物を表面から除去するためのアルカリ洗浄工程が実施された。このアルカリ洗浄工程では、アルカリ性溶液により炭化珪素基板の表面を洗浄した。アルカリ性溶液としては、過酸化水素水と水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)と純水とを、過酸化水素水:TMAH:純水=0.5:1:20と言う体積比で混合した液体を用いた。アルカリ洗浄工程では、容器に保持されたアルカリ性溶液に炭化珪素基板を浸漬した。アルカリ洗浄工程におけるアルカリ性溶液の温度は28℃、浸漬時間は30分とした。
【0068】
次に、サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板に対して、上記アルカリ性溶液を表面から除去するための水洗工程が実施された。その後、水洗工程で用いられた純水を炭化珪素基板の表面から除去するための乾燥工程が実施された。乾燥工程では、炭化珪素基板を回転させて乾燥するスピン乾燥を実施した。
【0069】
次に、サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の第1主面に対して化学機械研磨(仕上げ研磨)を行った。化学機械研磨で用いられる研磨液は、砥粒と液体とを含む。砥粒はコロイダルシリカである。砥粒の平均粒径は40nmである。研磨液は、潤滑剤と、酸化剤と、分散剤とを有している。潤滑剤はスクロースである。酸化剤は過酸化水素水である。分散剤はマグネシウム(Mg)を含む。
【0070】
化学機械研磨において、研磨布に押圧される炭化珪素基板の回転数は60rpmとした。研磨布が設けられた定盤も回転可能であり、当該定盤の回転数は60rpmとした。研磨布に炭化珪素基板を押圧する加工面圧は300g/cm2とした。研磨時間は5時間とした。
【0071】
その後、上述した化学機械研磨において用いられた研磨液を炭化珪素基板の表面から除去するための洗浄工程が実施された。洗浄工程では、アルカリ性溶液を用いて炭化珪素基板の表面を洗浄した。その後、水洗工程および乾燥工程が実施された。
【0072】
次に、サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の表面(第1主面)に前処理としての水素処理を実施した後、炭化珪素エピタキシャル層を形成した。
【0073】
水素処理では、まず炭化珪素基板が加熱された状態で、第1主面に対して水素処理が実施された。具体的には、炭化珪素基板が、処理チャンバ内に配置された。次に、炭化珪素基板が1630℃程度に昇温された。次に、処理チャンバに対して水素ガスが導入された。水素ガスの流量は100slmとなるように調整された。これにより、炭化珪素基板の第1主面がエッチングされた。エッチング量は50nm~300nm程度であった。
【0074】
次に、炭化珪素エピタキシャル層を形成するためのエピタキシャル成長工程が実施された。エピタキシャル成長工程においては、まず処理チャンバが1630℃程度に昇温された。次に、シランとプロパンとアンモニアと水素とを含む混合ガスが処理チャンバに導入された。具体的には、シランガスの流量は115sccmとなるように調整された。プロパンガスの流量は57.6sccmとなるように調整された。アンモニアガスの流量は2.5×10-2sccmとなるように調整された。水素ガスの流量は100slmとなるように調整された。処理チャンバに混合ガスを導入することにより、炭化珪素基板の第1主面上に炭化珪素エピタキシャル層がエピタキシャル成長により形成された。炭化珪素エピタキシャル層の厚みは10μmとした。
【0075】
(測定)
元素の付着密度:
上述したサンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板について、化学機械研磨の直前において第1主面におけるナトリウムなどの元素の付着量(付着密度)を測定した。測定方法としてはICP-MSを用いた。
【0076】
化学機械研磨(仕上げ研磨)での研磨量:
化学機械研磨を実施する前後において、サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の厚みを測定することにより、化学機械研磨による研磨量を測定した。炭化珪素基板の厚みは、キーエンス社製分光干渉レーザ変位計SF-80を用いて測定した。
【0077】
化学機械研磨(仕上げ研磨)後の欠陥(スクラッチ)発生率:
サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板について、上述した化学機械研磨(仕上げ研磨)後での欠陥(スクラッチ)の発生率を測定した。欠陥の発生率の測定方法としては、レーザーテック社製SICA6Xを用い、炭化珪素基板の表面の全面をスキャンした。その結果検出された欠陥のうち、長さが5μm以上、幅が1μm以上10μm以下の溝状の欠陥を、上述した欠陥(スクラッチ)としてカウントした。欠陥の発生率(スクラッチ発生率)とは、サンプル毎に50枚の炭化珪素基板において、上述した欠陥(スクラッチ)が検出された炭化珪素基板の枚数の割合である。スクラッチ発生率(%)は、(欠陥(スクラッチ)が検出された炭化珪素基板の枚数)÷50×100(%)という式で算出される。
【0078】
(結果)
上述した測定結果を表2に示す。
【0079】
【0080】
表2には、各サンプルに係る炭化珪素基板について、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の付着密度(付着量)の測定結果、化学機械研磨(仕上げ研磨)での研磨量、仕上げ研磨後の欠陥の発生率(スクラッチ発生率)が示されている。なお、研磨量については、サンプル1に係る炭化珪素基板の研磨量を1とした相対値で示されている。また、上述した付着量の測定結果、研磨量については、各サンプルにおける50枚の炭化珪素基板に関する平均値を示している。
【0081】
表2に示すように、サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の表面におけるナトリウムの付着密度(付着量)は、38×109atoms/cm2、14×109atoms/cm2、検出限界以下、10×109atoms/cm2、42×109atoms/cm2であった。サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の表面におけるマグネシウムの付着密度(付着量)は、検出限界以下、2×109atoms/cm2、検出限界以下、82×109atoms/cm2、35×109atoms/cm2であった。
【0082】
サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の表面におけるアルミニウムの付着密度(付着量)は、11×109atoms/cm2、11×109atoms/cm2、検出限界以下、400×109atoms/cm2、510×109atoms/cm2であった。サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の表面におけるカリウムの付着密度(付着量)は、1×109atoms/cm2、検出限界以下、73×109atoms/cm2、検出限界以下、検出限界以下であった。
【0083】
サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の表面におけるカルシウムの付着密度(付着量)は、5×109atoms/cm2、8×109atoms/cm2、84×109atoms/cm2、260×109atoms/cm2、640×109atoms/cm2であった。サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の表面における、上述した元素の合計付着密度(合計付着量)は、55×109atoms/cm2、35×109atoms/cm2、157×109atoms/cm2、752×109atoms/cm2、1227×109atoms/cm2であった。
【0084】
サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の仕上げ研磨での研磨量(相対値)は、1.0、1.2、0.8、0.7、0.4であった。サンプル1からサンプル5に係る炭化珪素基板の仕上げ研磨後の欠陥の発生率は、0%、0%、2.5%、2.8%、18.6%であった。なお、炭化珪素エピタキシャル層における欠陥の発生率は、上述した研磨後の欠陥の発生率とほぼ同じ傾向を示した。
【0085】
表2から分かるように、ナトリウムなどの元素の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満とされているサンプル1からサンプル4については、研磨量が十分大きくなっているため欠陥の発生率が相対的に小さくなっている。また、サンプル1からサンプル4については、研磨量のばらつきも小さくなっている。一方、サンプル5については、上述した元素の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2を超えていることから、研磨量も相対的に小さく、かつ欠陥の発生率も相対的に大きくなっている。
【0086】
以上の結果から、炭化珪素基板について、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の付着密度の合計が1×1012atoms/cm2未満としたうえで化学機械研磨を行うことにより、炭化珪素基板の表面からスクラッチなどの傷や欠陥を十分に除去できることが示された。さらに、当該炭化珪素基板の表面上にエピタキシャル膜を形成した場合においても、当該傷に起因する欠陥の発生を抑制できることが示された。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の基本的な範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。