(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】接合装置および接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20241210BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241210BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20241210BHJP
B23K 26/20 20140101ALI20241210BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B23K20/00 310L
B23K26/00 N
B23K26/03
B23K26/20
H01L21/60 321E
(21)【出願番号】P 2020209501
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松久 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】大原 寛司
(72)【発明者】
【氏名】井本 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 康夫
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-093302(JP,A)
【文献】特開2019-084535(JP,A)
【文献】特開2019-155428(JP,A)
【文献】特開2019-197820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
B23K 26/00
B23K 26/03
B23K 26/20
H01L 21/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた2つの金属部材の重ね合わせ方向における動きが規制された状態で前記2つの金属部材のいずれか一方の表面に設定されるレーザ照射領域にレーザ光を照射することにより前記2つの金属部材の接合界面に固相拡散を発生させるための熱を与えるレーザ装置と、
前記レーザ光が照射される前記レーザ照射領域の表面温度を検出するセンサと、
前記センサを通じて検出される前記レーザ照射領域の表面温度に基づき前記レーザ装置の出力を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記レーザ照射領域に対する連続した
前記レーザ光の照射を開始した後、前記レーザ照射領域の表面温度が前記レーザ光の照射対象である金属部材の融点
の近傍値に達することを契機として前記レーザ装置の出力を減少させたうえで間欠的な
前記レーザ光の照射に切り替える接合装置。
【請求項2】
前記レーザ装置は、前記レーザ光の照射対象である金属部材における
前記レーザ光の吸収率が赤外レーザよりも高い
前記レーザ光を照射する請求項
1に記載の接合装置。
【請求項3】
重ね合わせた2つの金属部材の重ね合わせ方向における動きが規制された状態で前記2つの金属部材のいずれか一方の表面に設定されるレーザ照射領域に対するレーザ光の照射を通じて前記2つの金属部材の接合界面に固相拡散を発生させるための熱を与えることにより前記2つの金属部材を接合する接合体の製造方法であって、
前記レーザ照射領域に対する連続した
前記レーザ光の照射を開始した後、前記レーザ照射領域の表面温度が前記レーザ光の照射対象である金属部材の融点
の近傍値に達することを契機として前記レーザ光の出力を減少させたうえで間欠的な
前記レーザ光の照射に切り替える接合体の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ光として、前記レーザ光の照射対象である金属部材における
前記レーザ光の吸収率が赤外レーザよりも高い
前記レーザ光を照射する請求項
3に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合装置および接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光を照射することによって2つの金属部材を接合する装置が存在する。たとえば特許文献1には、2つの金属部材を固相拡散接合により接合する接合装置が記載されている。固相拡散接合とは、接合する2つの金属部材を密着させて、これら金属部材の融点以下の温度条件で塑性変形をできるだけ生じない程度に加圧して、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合する方法をいう。
【0003】
特許文献1の接合装置は、規制部材および加熱装置を有している。規制装置は、重ね合わされた2つの金属部材の重ね合わせ方向における動き(反接合界面方向の動き)を規制する。加熱装置は、規制装置により2つの金属部材の動きが規制された状態で2つの金属部材のいずれか一方の表面にレーザ光を照射する。これにより、2つの金属部材の接合界面に固相拡散を発生させるための熱が与えられる。
【0004】
2つの金属部材の接合界面に固相拡散を発生させるための熱が与えられることによって金属部材が熱膨張する。2つの金属部材の重ね合わせ方向への動きが規制されるため、金属部材の熱膨張により接合界面が加圧される。これにより、2つの金属部材の接合界面が密着するとともに、2つの金属部材の接合界面に固相拡散が発生して2つの金属部材が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たとえばレーザ光の吸収率がより低い金属部材を接合する場合、2つの金属部材の接合界面に固相拡散を発生させるための熱を与えるためにレーザの出力をより増大させることが考えられる。しかし、高出力のレーザ光が金属部材に照射されることにより、金属部材におけるレーザ光が照射される部分は瞬時に溶融し、その溶融した金属の蒸発がはじまる。この蒸発に伴う金属蒸気の圧力によって、溶融した金属がスパッタとして飛散するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、スパッタの飛散を抑えることができる接合装置および接合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成し得る接合装置は、重ね合わせた2つの金属部材の重ね合わせ方向における動きが規制された状態で前記2つの金属部材のいずれか一方の表面に設定されるレーザ照射領域にレーザ光を照射することにより前記2つの金属部材の接合界面に固相拡散を発生させるための熱を与えるレーザ装置と、前記レーザ光が照射される前記レーザ照射領域の表面温度を検出するセンサと、前記センサを通じて検出される前記レーザ照射領域の表面温度に基づき前記レーザ装置の出力を制御する制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記レーザ照射領域に対する連続したレーザ光の照射を開始した後、前記レーザ照射領域の表面温度が前記レーザ光の照射対象である金属部材の融点に達する前に間欠的なレーザ光の照射に切り替える。
【0009】
この構成によれば、レーザ照射領域の表面温度、ひいては2つの金属部材の接合界面の温度が上昇と下降とを繰り返す。レーザ照射領域の表面温度が上昇と下降とを繰り返すことにより、レーザ照射領域の表面温度がレーザ光の照射対象である金属部材の融点に達することが抑制される。このため、溶融した金属がスパッタとして飛散することが抑制される。
【0010】
また、接合界面の温度が上昇と下降とを繰り返すことに伴い接合界面の圧力も上昇と下降とを繰り返す。すなわち、接合界面が間欠的に加圧されることにより、2つの金属部材の接合に必要とされる圧力が補われる。これにより、2つの金属部材の接合が促進される。したがって、スパッタの発生を抑えつつ、2つの金属部材を接合するために必要とされる加工時間をより短縮することができる。
【0011】
上記の接合装置において、前記制御装置は、前記レーザ照射領域に対する連続したレーザ光の照射を開始した後、前記レーザ照射領域の表面温度が前記レーザ光の照射対象である金属部材の融点の近傍値に達することを契機として前記レーザ装置の出力を減少させたうえで間欠的なレーザ光の照射に切り替えるようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、レーザ照射領域の表面温度がレーザ光の照射対象である金属部材の融点に達することが好適に抑制される。
上記の接合装置において、前記レーザ装置は、前記レーザ光の照射対象である金属部材におけるレーザ光の吸収率が赤外レーザよりも高いレーザ光を照射するようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、金属部材をより安定的に加熱することが可能となる。また、金属部材の温度をより制御しやすくなる。
上記目的を達成し得る接合体の製造方法は、重ね合わせた2つの金属部材の重ね合わせ方向における動きが規制された状態で前記2つの金属部材のいずれか一方の表面に設定されるレーザ照射領域に対するレーザ光の照射を通じて前記2つの金属部材の接合界面に固相拡散を発生させるための熱を与えることにより前記2つの金属部材を接合するものである。この製造方法では、前記レーザ照射領域に対する連続したレーザ光の照射を開始した後、前記レーザ照射領域の表面温度が前記レーザ光の照射対象である金属部材の融点に達する前に間欠的なレーザ光の照射に切り替える。
【0014】
この製造方法によれば、レーザ照射領域の表面温度、ひいては2つの金属部材の接合界面の温度が上昇と下降とを繰り返す。レーザ照射領域の表面温度が上昇と下降とを繰り返すことにより、レーザ照射領域の表面温度がレーザ光の照射対象である金属部材の融点に達することが抑制される。このため、溶融した金属がスパッタとして飛散することが抑制される。
【0015】
また、接合界面の温度が上昇と下降とを繰り返すことに伴い接合界面の圧力も上昇と下降とを繰り返す。すなわち、接合界面が間欠的に加圧されることにより、2つの金属部材の接合に必要とされる圧力が補われる。これにより、2つの金属部材の接合が促進される。したがって、スパッタの発生を抑えつつ、2つの金属部材を接合するために必要とされる加工時間をより短縮することができる。
【0016】
上記の接合体の製造方法において、前記レーザ照射領域に対する連続したレーザ光の照射を開始した後、前記レーザ照射領域の表面温度が前記レーザ光の照射対象である金属部材の融点の近傍値に達することを契機として前記レーザ光の出力を減少させたうえで間欠的なレーザ光の照射に切り替えるようにしてもよい。
【0017】
この製造方法によれば、レーザ照射領域の表面温度がレーザ光の照射対象である金属部材の融点に達することが好適に抑制される。
上記の接合体の製造方法において、前記レーザ光として、前記レーザ光の照射対象である金属部材におけるレーザ光の吸収率が赤外レーザよりも高いレーザ光を照射するようにしてもよい。
【0018】
この製造方法によれば、金属部材をより安定的に加熱することが可能となる。また、金属部材の温度をより制御しやすくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の接合装置および接合体の製造方法によれば、スパッタの飛散を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】接合装置の一実施の形態により2つの部品が接合されてなる接合体の正面図。
【
図2】接合装置の一実施の形態の概略構成を示す構成図。
【
図3】一実施の形態の配線部材が加熱される状態を示す接合装置の要部断面図。
【
図4】一実施の形態における2つの金属部材の接合界面における原子流動を示す接合界面の二次元モデル。
【
図5】一実施の形態におけるレーザの第1の照射パターンの一例を示すグラフ。
【
図6】一実施の形態におけるレーザ照射部の温度変化の一例を示すグラフ。
【
図7】一実施の形態におけるレーザの第1の照射パターンの一例を示すグラフ。
【
図8】一実施の形態のレーザを金属部材に第1の照射パターンで照射したときのレーザ照射部の温度変化および接合界面の圧力変化の一例を示すグラフ。
【
図9】一実施の形態におけるレーザの第2の照射パターンの一例を示すグラフ。
【
図10】一実施の形態のレーザを金属部材に第2の照射パターンで照射したときのレーザ照射部の温度変化および接合界面の圧力変化の一例を示すグラフ。
【
図11】一実施の形態における2つの金属部材の接合界面の二次元モデル。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、接合装置の一実施の形態を説明する。接合装置は、電磁波ビームとしてのレーザ光を使用して金属あるいは金属部分を含む2つの部品を接合する装置である。
まず、2つの部品が接合されてなる接合体の一例を説明する。
【0022】
図1に示すように、接合体11は、たとえば基板12に設けられた電極部材14と、配線部材15とが接合されてなる。電極部材14は、たとえば銅(Cu)により平板状あるいは薄膜状に設けられた金属部材である。ただし、電極部材14には、たとえばニッケル(Ni)などによるめっきが施されることがある。配線部材15は、銅により平板状に設けられたバスバーあるいはリードフレームなどの金属部材である。
【0023】
なお、電極部材14と配線部材15とは、固相拡散接合により接合される。固相拡散接合とは、接合する2つの母材(ここでは、電極部材14および配線部材15)を密着させて、これら母材の融点以下の温度条件で塑性変形をできるだけ生じない程度に加圧して、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合する方法をいう。
【0024】
つぎに、接合装置について説明する。
図2に示すように、接合装置21は、支持台22、規制部材23、駆動装置24、加熱装置としてのレーザ装置25、温度センサ26、および制御装置27を有している。
【0025】
支持台22は、基板12および配線部材15が載置される載置面22aを有している。載置面22aには、基板12が電極部材14を上(載置面22aと反対側)へ向けて載せられる。電極部材14には配線部材15が重ねられる。
【0026】
規制部材23は、平板状に設けられている。規制部材23は、支持台22の載置面22aに対して平行をなしている。規制部材23は、第1の部分31および第2の部分32を有している。
【0027】
第1の部分31は、炭素鋼あるいはステンレス鋼などの金属材料により平板状に設けられている。第1の部分31には、その厚み方向(
図2中の上下方向)へ貫通する孔23aが設けられている。第1の部分31において、孔23aにおける載置面22aと反対側(
図2中の上側)の開口部の内周縁には、載置面22aと反対側へ向かうにつれて拡径するテーパ面が設けられている。
【0028】
第2の部分32は、第1の部分31の孔23aの内部に設けられている。第2の部分32は、孔23aにおける載置面22a側(
図2中の下側)の開口部を塞いでいる。第2の部分32は、サファイヤ、ダイヤモンド、フッ化カルシウム、炭化ケイ素(SiC)、およびシリコン(Si)などのレーザ光を透過する材料により平板状に設けられている。第2の部分32の厚みは、第1の部分31の厚みよりも薄く設定されている。第2の部分32の底面と第1の部分31の底面とは面一(すなわち、段差のない状態)である。
【0029】
規制部材23は、載置面22aに対して直交する方向に沿って移動可能に設けられている。規制部材23は、初期位置P1と規制位置P2との間を移動する。初期位置P1は、載置面22aに基板12および配線部材15を重ねて置いたときの載置面22aを基準とする配線部材15の上面の高さHよりも高い位置である。規制位置P2は、載置面22aに基板12および配線部材15を重ねて置いたときの載置面22aを基準とする高さHと同程度の高さとなる位置である。ちなみに、
図2において、初期位置P1および規制位置P2は、規制部材23の下面(載置面22a側の側面)の位置を示す。
【0030】
なお、規制部材23および支持台22の載置面22aは、互いに共働して2つの金属部材(ここでは、電極部材14および配線部材15)を互いに押し付けない状態でこれら金属部材の互いに重ね合わせた方向における動きを規制する規制装置を構成する。2つの金属部材を互いに重ね合わせた方向は、載置面22aに対して直交する方向でもある。
【0031】
駆動装置24は、規制部材23を載置面22aに対して直交する方向に沿って移動させる。駆動装置24は、モータあるいはシリンダなどの駆動源、および駆動源が発生する動力を規制部材23に伝達する伝達機構を有している。
図2では、駆動装置24から規制部材23への動力伝達を破線で示す。また、駆動装置24は、規制部材23を初期位置P1から規制位置P2へ移動させたときに規制部材23を規制位置P2に固定するための固定機構を有している。固定機構としては、たとえば先の駆動源あるいは伝達機構の運動を規制するブレーキ機構あるいはロック機構が採用される。
【0032】
レーザ装置25は、規制部材23における第1の部分31の孔23a、および第2の部分32を介して配線部材15の表面にレーザ光Lを照射する。
温度センサ26は、配線部材15の表面においてレーザ光Lが照射される領域であるレーザ照射領域15aの表面温度を非接触で検出する。レーザ照射領域15aは、規制部材23の第2の部分32を介して孔23aから露出する領域である。
【0033】
制御装置27は、駆動装置24およびレーザ装置25の動作を制御する。制御装置27は、駆動装置24を通じて規制部材23を初期位置P1と規制位置P2との間で移動させる。また、制御装置27は、温度センサ26により検出されるレーザ照射領域15aの表面温度に基づき、電極部材14と配線部材15との接合界面Sbの温度を推定する。接合界面Sbとは、電極部材14および配線部材15において互いに接合される部分である2つの接合面14a,15bの境界をいう。接合面14aは、電極部材14の表面(配線部材15側の界面)である。接合面15bは、配線部材15の裏面(電極部材14側の界面)である。制御装置27は、接合界面Sbの温度に基づきレーザ装置25の出力を調節する。
【0034】
制御装置27は、記憶装置27aを有している。記憶装置27aには目標温度T*が記憶されている。目標温度T*は、電極部材14と配線部材15とを適切に接合するために必要とされる接合界面Sbの温度の目標値である。目標温度T*は、接合対象の金属部材(14,15)を固相拡散接合することが可能とされる下限温度(たとえば銅の場合、200℃程度)以上、かつ接合対象の金属部材(14,15)の融点以下の範囲内の温度に設定される。
【0035】
目標温度T*は、電極部材14と配線部材15との接合率と、接合界面Sbの温度との関係に基づき設定される。接合率とは、接合界面Sbにおける実際に接合された部分の面積である真実接合面積と、接合界面Sbにおける真実接合面積と実際には接合されていない部分の面積である見かけの接合面積とを合算した面積との比をいう。接合率と接合界面Sbの温度との関係は、実験あるいはシミュレーションにより求められる。たとえば、接合界面Sbの温度の上昇に対して接合率は徐々に増加し、やがて接合率は温度にかかわらず一定の値となる。電極部材14と配線部材15とを接合する際には、まず目標とする接合率が決定されて、その決定された接合率に基づき目標温度T*が決定される。
【0036】
制御装置27は、接合界面Sbの温度が目標温度T*に一致するように、レーザ光Lの照射条件を制御する。レーザ光Lの照射条件としては、たとえば照射パワーおよび照射時間が挙げられる。レーザ光Lの照射パワーおよび照射時間が増加するほど、接合界面Sbの温度は上昇する。
【0037】
つぎに、接合体11の製造方法を説明する。
ただし、電極部材14が設けられた基板12は、あらかじめ用意される。また、接合装置21において、規制部材23は初期位置P1に保持されている。載置面22aには、基板12が電極部材14を上に向けた姿勢で載せられている。電極部材14には、配線部材15が重ねられている。この状態で、接合装置21の動作が開始される。
【0038】
図3に示すように、制御装置27は、駆動装置24を通じて規制部材23を初期位置P1から規制位置P2へ移動させる。これにより、規制部材23の下面(載置面22a側の側面)が配線部材15の上面(電極部材14と反対側の側面)に接触した状態に維持される。このとき、配線部材15が電極部材14に重ね合わせ方向における動き対して積極的に押し付けられることはない。電極部材14が設けられた基板12および配線部材15が載置面22aと規制部材23との間に挟まれることにより、電極部材14および配線部材15の互いに離間する方向D1,D2(載置面22aに対して直交する方向)への移動が規制される。方向D1,D2は、載置面22aに対して直交する方向であって、電極部材14および配線部材15の重ね合わせ方向(反接合界面方向)でもある。
【0039】
つぎに、制御装置27は、レーザ装置25を通じてレーザ光Lを配線部材15のレーザ照射領域15aに照射する。レーザ光Lが配線部材15に吸収されることにより、配線部材15が加熱される。
図3に網掛けで示すように、レーザ光Lの照射により発生した熱は、配線部材15の表面から裏面へ向けて伝達する。制御装置27は、レーザ装置25を通じて、最終的には配線部材15の裏面である接合面15bと電極部材14の表面である接合面14aとの境界、すなわち接合界面Sbの温度が目標温度T
*に達するまでレーザ光Lをレーザ照射領域15aに照射する。ちなみに、
図3における網掛けは、網目(ドット)が密であるほど温度が高い領域であることを示し、網目が粗であるほど温度が低い領域であることを示す。
【0040】
配線部材15は加熱による温度上昇に伴い熱膨張する。ここで配線部材15は、規制部材23によって載置面22aと反対側(
図3中の上側)へ向けた変形が規制されることから、配線部材15は最も変形しやすい電極部材14側(
図3中の下側)へ向けて膨張する。このため、配線部材15の厚み方向における熱膨張に伴って発生する下向きの圧力Pが電極部材14の表面である接合面14aに作用する。この加圧に伴い、配線部材15の接合面15bおよび電極部材14の接合面14aの微細な凹凸の峰同士が接触して潰れることにより、接合面15bと接合面14aとの密着が進行する。
【0041】
図4の接合界面の二次元モデルに示すように、接合開始の直後において、接合面15bと接合面14aとの境界である接合界面Sbには、ボイド(空隙)Vsが生じる。接合面15bと接合面14aとの密着が進行することにより、やがて電極部材14と配線部材15との接合界面Sbにおいて原子の拡散(表面拡散As、界面拡散Ab、体積拡散Av)が生じる。表面拡散Asとは、ボイドVsの表面を経路とする拡散をいう。界面拡散Abとは、接合界面Sbを経路とする拡散をいう。体積拡散Avとは、結晶内(結晶格子)を経路とする拡散をいう。この原子の拡散(固相拡散)および接合界面Sb近傍のクリープ変形を通じて接合界面SbのボイドVsが収縮あるいは消滅し、電極部材14の接合面14aと配線部材15の接合面15bとの接合が進行する。すなわち、ボイドVsが収縮して消滅するにつれて、接合界面Sbにおける実際には接合されていない部分の面積である見かけの接合面積が減少する一方、接合界面Sbにおける実際に接合された部分の面積である真実接合面積が増加する。
【0042】
制御装置27は、接合界面Sbの温度が目標温度T*に達したとき、この状態を所定の加熱時間だけ継続する。これにより、接合界面Sb近傍のクリープ変形および原子の拡散によりボイドVsの収縮および消滅が進行する。すなわち、ボイドVsの収縮および消滅の進行に伴い接合率が増加して、やがて目標とする接合率(接合強度)に達する。目標とする接合率がたとえば「1(最大値)」である場合、電極部材14の接合面14aと配線部材15の接合面15bとが、それら接合面14a,15bにおける狙いの接合範囲の全面にわたって完全に接合される。接合面14a,15bにおいて相互に接合された接合範囲に対応する部分においては、接合開始の直後に存在していた接合界面Sbは消滅している。
【0043】
ここで、レーザ光Lとしては、たとえば赤外レーザ光が使用される。赤外レーザ光の波長は、たとえば1070nmである。ところが、配線部材15の形成材料である銅は、鉄あるいは金などに比べて赤外レーザ光の吸収率が低い。このため、電極部材14と配線部材15との接合界面Sbに固相拡散を発生させるための熱を与えるためにレーザ出力をより高めることが考えられる。レーザ出力とは、レーザ光Lのエネルギ密度をいう。
【0044】
しかし、銅などの金属は、固体の状態である場合よりも溶融した状態である場合の方が、レーザ光Lをよく吸収する性質がある。このため、高出力のレーザ光が配線部材15の表面に照射される場合、配線部材15の表面におけるレーザ光Lが照射される部分は瞬時に溶融し、その溶融した金属の蒸発がはじまる。この蒸発に伴う金属蒸気の圧力によって、溶融した金属がスパッタとして飛散するおそれがある。この飛散するスパッタが基板12の表面に付着することも考えられるところ、基板12の表面に設けられる電子部品あるいは電気回路にスパッタが付着することによって、たとえば電子部品あるいは電気回路の動作不良が発生することが懸念される。
【0045】
このため、スパッタの飛散を抑えつつ電極部材14と配線部材15とを接合することが要求される。そこで、本実施の形態では、接合装置21として、つぎの構成を採用している。
【0046】
レーザ装置25は、レーザ光Lとして青色レーザ光を照射する。青色レーザ光の波長は、たとえば450nmである。銅は、赤外レーザ光に比べて青色レーザ光の吸収率が高い。このため、配線部材15をより安定的に加熱することが可能となる。また、配線部材15の温度をより制御しやすくなる。したがって、配線部材15を溶融させることなく、すなわち配線部材15のレーザ光Lの吸収率を変化させることなく、電極部材14と配線部材15とを接合することも可能となる。
【0047】
制御装置27は、温度センサ26を通じて検出されるレーザ照射領域15aの表面温度に基づきレーザ装置25の出力を制御する。より具体的には、制御装置27は、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点を超えないようにレーザ装置25の出力を制御する。制御装置27は、あらかじめ設定される照射パターンに基づきレーザ装置25の出力を制御する。レーザ光Lの照射パターンは、複数の照射パターンを含んでいる。
【0048】
つぎに、レーザ光Lの照射パターンの一例として第1の照射パターンを説明する。
図5のグラフに実線で示すように、レーザ光Lの照射開始時(時刻t0)を基準とする第1の期間T1において、レーザ出力は基本的には初期加熱用の第1のレーザ出力P11に維持される。ただし、レーザ照射領域15aの表面温度が設定温度の近傍値に達したとき、レーザ出力は第1のレーザ出力P11から温度保持用の第2のレーザ出力P12へ向けて変化を開始する(時刻t1)。第2のレーザ出力P12は、第1のレーザ出力P11よりも小さい値に設定される。設定温度は、配線部材15をその表面が溶融しない程度に加熱する観点に基づき配線部材15の融点よりも低い温度に設定される。第1の期間T1において、レーザ出力が第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力P12に至るまでの過渡期間T2は、時間的に固定されている。過渡期間T2において、レーザ出力は第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力P12へ向けて徐々に減少する。
【0049】
第1の期間T1の経過時(時刻t2)を基準とする第2の期間T3において、レーザ出力は温度保持用の第2のレーザ出力P12に維持される。第2の期間T3は、第1の期間T1が経過してから電極部材14と配線部材15との接合が完了するまでの期間である。電極部材14と配線部材15との接合が完了すると、レーザ光Lの照射が停止される(時刻t3)。
【0050】
この第1の照射パターンでレーザ光Lを照射した場合、レーザ照射領域15aの表面温度は、たとえばつぎのように変化する。
図6のグラフに実線で示すように、配線部材15の表面にレーザ光Lの照射が開始されると(時刻t0)、レーザ照射領域15aの表面温度は徐々に上昇する。このとき、先の
図5のグラフに示すように、レーザ出力は第1のレーザ出力P11に維持される。この後、レーザ照射領域15aの表面温度が設定温度T
thに達すると(時刻t4)、それ以降、レーザ照射領域15aの表面温度は設定温度T
thに維持される。これは、先の
図5のグラフに示すように、レーザ照射領域15aの表面温度が設定温度T
thの近傍値に達した以降、レーザ出力を第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力へ徐々に変化させること、およびレーザ出力が第2のレーザ出力P12に至った以降、レーザ出力を第2のレーザ出力P12に維持することにより実現される。ちなみに、設定温度T
thは配線部材15の融点T
mよりも少しだけ低い温度に設定される。やがて電極部材14と配線部材15との接合が完了してレーザ光Lの照射が停止されると(時刻t3)、この後、レーザ照射領域15aの表面温度は徐々に低下する。このように、レーザ照射領域15aの表面温度を配線部材15の融点未満の設定温度T
thに維持することにより、先の
図4に示される接合メカニズムにおける接合界面Sb近傍のクリープ変形による接合が促進される。このクリープ変形は、時間の経過に伴い接合が進行する。
【0051】
ちなみに、照射パターンの比較例として、先の
図5のグラフに破線で示すようにレーザ光Lの照射開始時から接合が完了してレーザ光Lの照射が停止されるまでの期間(時刻t0~時刻T3)、レーザ出力が第1のレーザ出力P11に維持される場合、レーザ照射領域15aの表面温度は、つぎのように変化する。すなわち、先の
図6のグラフに破線で示すように、配線部材15の表面にレーザ光Lの照射が開始されると(時刻t0)、レーザ照射領域15aの表面温度は徐々に上昇する。レーザ照射領域15aの表面温度が設定温度T
thに達した以降もレーザ照射領域15aの表面温度は上昇し続け、やがて配線部材15の融点T
mを超える。この後、レーザ照射領域15aの表面温度は、接合が完了してレーザ光Lの照射が停止されるまで上昇し続ける。配線部材15の表面におけるレーザ光Lが照射される部分が瞬時に溶融して蒸発することによりスパッタが飛散するおそれがある。
【0052】
この点、レーザ光Lの第1の照射パターンによれば、レーザ光Lの照射初期から電極部材14と配線部材15との接合が完了するまでの期間において、配線部材15が溶融しないレベルにレーザ出力が維持される。すなわち、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点Tmを超えないように制御される。基本的には配線部材15が溶融することがないことから、溶融金属であるスパッタも発生しない。
【0053】
このため、スパッタを発生させることなく電極部材14と配線部材15とを接合することが可能である。このため、スパッタの検査工程およびスパッタの除去工程を削減することが可能である。スパッタの検査工程とは、基板12あるいはその電子部品にスパッタが付着していないかどうか、あるいはスパッタが付着した痕であるスパッタ痕の有無を検査する工程をいう。スパッタの除去工程とは、基板12あるいはその電子部品に付着したスパッタを除去する工程をいう。
【0054】
また、スパッタの飛散がないため、規制部材23における第2の部分32にスパッタが付着することもない。このため、スパッタに起因して規制部材23の第2の部分32が損傷することを抑制することができる。したがって、規制部材23における第2の部分32の交換作業などの接合装置21を維持していくためのランニングコストを低減することができる。
【0055】
ところが、このように構成した接合装置21においては、つぎのようなことが懸念される。
すなわち、配線部材15の形成材料である銅は、金、銀およびアルミニウムとともに、熱吸収率が鉄などと比べて非常に小さい金属材料の一つである。また、配線部材15の厚みは製品仕様などに応じて設定されるところ、配線部材15の厚みが厚くなるほど、レーザ光Lが照射される配線部材15の表面から裏面への熱伝導に時間を要するため、配線部材15と電極部材14との接合界面Sbが適切な温度に加熱されるまでに時間を要する。
【0056】
このため、厚板部材としての配線部材15と電極部材14との接合界面Sbを適切に加熱するため、また配線部材15と電極部材14とをより安定して接合するためには、より長い加工時間を確保することが考えられる。たとえば、レーザ出力が温度保持用の第2のレーザ出力P12に維持される第2の期間T3をより長い時間だけ確保する。ただし、加工時間が長くなるほど1回の接合サイクルの時間であるサイクルタイムがより長い時間になる。これは、製品コストの増大にもつながる。
【0057】
図7のグラフに示されるように、レーザ光Lを先の第1の照射パターンと同様の照射パターンで配線部材15の表面に照射した場合の接合界面Sbの圧力Pと温度とをシミュレーションによって求めたところ、つぎのような結果が得られた。
【0058】
図8のグラフに破線で示すように、接合界面Sbの温度Tは、レーザ光Lの照射に伴い徐々に上昇する。ただし、単位時間あたりの温度の変化量である傾きは、レーザ出力の変化に伴い変化する。たとえばレーザ光Lが第1のレーザ出力P11で照射されるときの傾きは、レーザ光Lが第2のレーザ出力P12で照射されるときの傾きよりも大きくなる。このため、接合界面Sbの温度Tは、レーザ光Lの出力が第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力P12へ変化することに伴い、傾きが徐々に小さくなるように変化する。この後、接合界面Sbの温度Tは、飽和温度へ向けて緩やかに上昇する。
【0059】
これに対して、接合界面Sbの圧力Pは、
図8のグラフに実線で示すようにレーザ光Lの照射を開始した直後から急激に減少する。その後、圧力Pはわずかに変動しつつも、ほぼ一定水準のまま推移する。これは、接合界面Sbの温度Tの変化が少ないため配線部材15に熱膨張が発生しにくいことが一因として考えられる。
【0060】
このように、電極部材14と配線部材15とを接合する場合、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点を超えないようにレーザ出力を制御するとき、スパッタの発生は抑えられるものの、接合界面Sbに適切な圧力Pが付与されないおそれがある。固相拡散接合は、接合界面Sbの温度Tおよび圧力Pに応じて進行する。このため、接合界面Sbに適切な圧力Pが作用しない場合、電極部材14と配線部材15との適切な接合状態が得られないおそれがある。
【0061】
そこで本実施の形態では、レーザ光Lの照射パターンとして、第2の照射パターンを設けている。
図9のグラフに示すように、レーザ光Lの照射開始時(時刻t0)を基準とする第1の期間T1において、レーザ出力は基本的には初期加熱用の第1のレーザ出力P11に維持される。ただし、レーザ照射領域15aの表面温度が設定温度の近傍値に達したとき、レーザ出力は第1のレーザ出力P11から温度保持用の第2のレーザ出力P12へ向けて変化を開始する(時刻t1)。設定温度は、配線部材15の融点よりも低い温度に設定される。第1の期間T1において、レーザ出力が第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力P12に達するまでの過渡期間T2は、時間的に固定されている。過渡期間T2において、レーザ出力は第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力P12へ向けて段階的に減少する。第1の期間T1の経過時(時刻t2)を基準とする第2の期間T3において、レーザ出力はオンとオフとが繰り返される。すなわち、第2の期間T3において、レーザ光Lはパルス状に繰り返し照射される。第2の期間T3は、第1の期間T1が経過してから電極部材14と配線部材15との接合が完了するまでの期間である。電極部材14と配線部材15との接合が完了すると、レーザ光Lの照射が停止される(時刻t3)。
【0062】
ちなみに、パルスのパラメータは、スパッタを発生させずに加工時間をより短縮する観点に基づき、たとえば実機を使用した実験により求められる。
パルスのパラメータとしては、たとえばオン時間Ta、オフ時間Tb、出力値P13、パルス数が挙げられる。オン時間Taはレーザ出力がオンされる時間、すなわちレーザ光Lが照射される時間をいう。オフ時間Tbはレーザ出力がオフされる時間、すなわちレーザ光Lの照射が停止される時間をいう。出力値P13は、パルスの振幅としてのレーザ出力の値である。他のパラメータとの兼ね合いもあるものの、たとえば出力値P13が大きすぎると、配線部材15が溶融するおそれがある。このため、出力値P13は、たとえば第1のレーザ出力P11と第2のレーザ出力P12との間の値に設定される。また、パルス数が増加するほど、加工時間がより長くなる。
【0063】
第2の照射パターンでレーザ光Lを照射した場合、接合界面Sbの圧力Pおよび温度Tは、たとえばつぎのように変化する。
図10のグラフに破線で示すように、連続したレーザ照射が行われる第1の期間T1において、接合界面Sbの温度Tは、レーザ光Lの照射に伴い徐々に上昇する。ただし、接合界面Sbの温度Tは、レーザ光Lの照射に伴い傾きが徐々に小さくなるように変化する。この後、接合界面Sbの温度Tは、飽和温度へ向けて緩やかに上昇する。ここで、パルス状のレーザ照射が行われる第2の期間T3においては、レーザ光Lが照射されるタイミングで接合界面Sbの温度Tが一時的に上昇する。また、レーザ光Lの照射が停止されるタイミングで接合界面Sbの温度Tが一時的に下降する。この接合界面Sbの温度Tの変化に伴い、接合界面Sbの圧力Pも変化する。すなわち、接合界面Sbの温度Tが上昇するタイミングで接合界面Sbの圧力Pも上昇する。また、接合界面Sbの温度Tが下降するタイミングで接合界面Sbの圧力Pも下降する。すなわち、パルス状のレーザ照射に伴った接合界面Sbの温度変化による配線部材15の熱膨張によって接合界面Sbの圧力Pは上昇と下降とを繰り返す。このように、接合界面Sbがパルス状に加圧されることにより、電極部材14と配線部材15との接合に必要とされる圧力Pが補われる。このことによって、つぎの作用を奏する。
【0064】
図11に示すように、接合界面Sbがパルス状に加圧される度に接合界面SbにおけるボイドVsのエッジVeに応力が集中する。これにより、電極部材14と配線部材15との接合が促進される。
【0065】
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)初期加熱としてレーザ光Lの照射を通じて配線部材15におけるレーザ照射領域15aの表面温度を配線部材15の融点を超えない温度まで初期加熱した後、配線部材15の融点を超えないようにレーザ出力が調節される。このため、配線部材15が溶融すること、ひいては蒸発が急激に進むことが抑制される。したがって、溶融金属がスパッタとして飛散することを抑制できる。
【0066】
(2)接合装置21はレーザ光Lの第1の照射パターンを有している。すなわち、電極部材14と配線部材15とを接合する際、まず初期加熱として第1のレーザ出力P11でレーザ光Lを配線部材15に照射する。この後、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点の近傍温度に達するタイミングで、レーザ出力を第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力P12へ切り替える。第2のレーザ出力P12は、第1のレーザ出力P11よりも小さい固定値であって、レーザ照射領域15aの表面温度を配線部材15の融点未満の所定温度に維持する観点に基づき設定される。このような照射パターンでレーザ光Lを照射することにより、配線部材15の溶融、ひいてはスパッタの飛散を抑えることができる。
【0067】
(3)接合装置21はレーザ光Lの第2の照射パターンを有している。すなわち、電極部材14と配線部材15とを接合する際、まず初期加熱として第1のレーザ出力P11でレーザ光Lを連続して配線部材15に照射する。この後、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点の近傍温度に達するタイミングで、レーザ出力のオンとオフとを繰り返すことにより配線部材15に対して間欠的なパルス状のレーザ照射を行う。これに伴いレーザ照射領域15aの表面温度、ひいては電極部材14と配線部材15との接合界面Sbの温度Tが上昇と下降とを繰り返す。これにより、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点を超えることが抑制される。また、接合界面Sbの温度Tが上昇と下降とを繰り返すことに伴い接合界面Sbの圧力Pも上昇と下降とを繰り返す。すなわち、接合界面Sbがパルス状に加圧されることにより、電極部材14と配線部材15との接合に必要とされる圧力Pが補われる。これにより、電極部材14と配線部材15との接合が促進される。したがって、スパッタの発生を抑えつつ、電極部材14と配線部材15とを接合するために必要とされる加工時間をより短縮することができる。レーザ光Lの第2の照射パターンは、特に、より厚い配線部材15を接合する際に好適である。
【0068】
(4)制御装置27は、レーザ照射領域15aに対する連続したレーザ光Lの照射を開始した後、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点の近傍値に達することを契機としてレーザ装置25の出力を第1のレーザ出力P11から第2のレーザ出力P12へ減少させたうえで間欠的なレーザ光Lの照射に切り替える。このため、レーザ照射領域15aの表面温度が配線部材15の融点に達することが好適に抑制される。
【0069】
(5)レーザ装置25は、レーザ光Lとして青色レーザ光を照射する。配線部材15の形成材料である銅は、赤外レーザ光に比べて青色レーザ光の吸収率が高い。このため、配線部材15をより安定的に加熱することが可能である。また、配線部材15の温度をより制御しやすくなる。したがって、配線部材15を溶融させることなく、すなわち配線部材15におけるレーザ光Lの吸収率を変化させることなく、電極部材14と配線部材15とを接合することも可能となる。
【0070】
(6)スパッタの飛散が抑制されることにより、基板12あるいは電子部品に対するスパッタの検査工程およびスパッタの除去工程を削減することが可能である。また、規制部材23における第2の部分32にスパッタが付着することもない。このため、スパッタに起因して規制部材23の第2の部分32が損傷することを抑制することができる。したがって、規制部材23における第2の部分32の交換作業などの接合装置21を維持していくためのランニングコストを低減することができる。
【0071】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・
図1に二点鎖線で示すように、接合装置21に圧力センサ28を設けてもよい。圧力センサ28は、たとえば支持台22に設けられる。圧力センサ28は、配線部材15の熱膨張による圧力を検出する。この場合、制御装置27は、温度センサ26を通じて検出される温度、および圧力センサ28を通じて検出される圧力に基づき、配線部材15が溶融しないようにレーザ装置25のレーザ出力を調節してもよい。また、制御装置27は、配線部材15の熱膨張による圧力と接合率との関係をあらかじめ記憶していて、圧力センサ28により検出される圧力が目標とする接合率に対応する値に達したとき、接合界面Sbが目標とする接合率に対応する温度に達したと判定するようにしてもよい。
【0072】
・レーザ装置25は、レーザ光Lとして緑色レーザ光を照射するようにしてもよい。緑色レーザ光の波長は、たとえば532nmである。接合する金属材料のレーザ吸収率が赤外レーザよりも高いレーザ光であればよい。
【0073】
・レーザ出力がオフされるオフ時間Tbにあっては、レーザ出力の値が0以上、かつ
図9に示される出力値P13未満であればよい。
・パルス数は、1以上であればよい。
【0074】
・接合装置21は、電極部材14と配線部材15との接合だけでなく、基板12上のパッドとしての電極部材14と金属線材(ワイヤ)との接合、あるいは基板12の表面にめっきなどにより成膜された金属と配線部材15との接合など、種々の形状を有する金属部材同士を接合することが可能である。また、接合装置21は、基板12に設けられた金属部材としての半導体素子の表面電極と、金属部材としての放熱部材(ヒートシンク)とを接合することもできる。固相拡散を利用した接合方法を実行することにより、半導体素子あるいは基板12に対する熱的な影響を抑えつつ半導体素子と放熱部材とを接合することができる。
【0075】
・接合対象の金属材料としては、銅のみならず、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、アルミシリコン合金(Al-Si系)などの種々の金属材料を採用することができる。接合装置21により、同種金属同士および異種金属同士を接合することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
14…電極部材(金属部材)
15…配線部材(金属部材)
15a…レーザ照射領域
21…接合装置
25…レーザ装置
26…温度センサ
27…制御装置
L…レーザ光
Sb…接合界面