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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】ポリエステル繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/92 20060101AFI20241210BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20241210BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
D01F6/92 301M
D01F6/92 301Q
C08L67/00
C08K3/36
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020545387
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032203
(87)【国際公開番号】W WO2021039848
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019157115
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 雅明
(72)【発明者】
【氏名】白石 安宏
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-311051(JP,A)
【文献】特開平08-036738(JP,A)
【文献】特開昭63-238135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒径が0.15~0.30μmであり、粒径の相対標準偏差が0.40以下であるシリカ粒子を0.5~3.0重量%含有し、かつポリエステルのメトキシ基が10ppm以下であるポリエステル組成物からなるポリエステル繊維であって、
平均一次粒径が0.15~0.30μmであり、粒径の相対標準偏差が0.40以下であるシリカ粒子を0.5~3.0重量%含有し、繊維表面の、隣接するシリカ粒子との中心間距離が前記平均一次粒径の2倍未満の範囲にあるシリカ粒子が、10μm当たり4個以下であるポリエステル繊維。
ここで、シリカ粒子の平均一次粒径と粒径の相対標準偏差の測定方法は、以下のとおりである。
プラズマリアクターを用い、油剤を除去したポリエステル繊維の表面を0.3μmの深さまでプラズマ低温灰化処理して粒子を露出させ、走査型電子顕微鏡で粒子数5000個以上の画像をイメージアナライザーで処理し、数体積平均粒子径(平均一次粒径)、標準偏差、及び以下の式で定義される相対標準偏差を求める。
相対標準偏差=粒径の標準偏差/平均一次粒子径(μm)
【請求項2】
走行糸摩擦係数が、糸-梨地で0.35以下、かつ糸-鏡面で0.7以下である請求項記載のポリエステル繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物、およびポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートは、広く繊維用途に使用されている。
特にフォーマル用途などの繊維においては、光の表面反射量を少なくして黒発色性を良好にするために、繊維表面を粗面化することにより、発色性を向上させることは公知である。
【0003】
また、繊維表面の粗面化の方法として、ポリエステル組成物に粒子を添加することが提案されている。例えば、特許文献1には、粒子間距離が0.2~0.7μmであり、表面内に50ないし200mμmの粒子が存在するポリエステル組成物が提案されている。特許文献2には、平均一次粒子径が0.02~0.1μmであるシリカ粒子を0.4~5重量%含有したポリエステル繊維が提案されている。特許文献3には、リン化合物を10ppm~75ppm、チタン化合物を1~20ppm、かつ二次粒子径の平均値が20~100nmのシリカ粒子を0.5~3.0%含有したポリエステル組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開昭55-107512号公報
【文献】日本国特開2011-207928号公報
【文献】日本国特開2013-189521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの文献にかかる繊維または組成物は、粒子が凝集した不定形体であるため、紡糸時のろ圧上昇等の製糸性が、近年の繊維高度化(細繊度化)に対応できない、また発色性、特に黒発色性が低い、という問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、製糸性に優れ、かつ黒発色性に優れたポリエステル組成物、および黒発色性に優れたポリエステル繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、以下の(1)~(3)のいずれかにより解決される。
(1)平均一次粒径が0.15~0.30μmであり、粒径の相対標準偏差が0.40以下であるシリカ粒子を0.5~3.0重量%含有し、かつポリエステルのメトキシ基が10ppm以下であるポリエステル組成物。
(2)前記(1)記載のポリエステル組成物からなるポリエステル繊維であって、平均一次粒径が0.15~0.30μmであり、粒径の相対標準偏差が0.40以下であるシリカ粒子を0.5~3.0重量%含有し、繊維表面の、隣接するシリカ粒子との中心間距離が前記平均一次粒径の2倍未満の範囲にあるシリカ粒子が、10μm当たり4個以下であるポリエステル繊維。
(3)走行糸摩擦係数が、糸-梨地で0.35以下、かつ糸-鏡面で0.7以下である前記(2)記載のポリエステル繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル組成物は良好な製糸性と黒発色性を兼ね備えるので、特にブラックフォーマル用途などに最適な繊維を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル組成物は、平均一次粒径が0.15~0.30μmであり、粒径の相対標準偏差が0.40以下であるシリカ粒子を0.5~3.0重量%含有し、かつポリエステルのメトキシ基が10ppm以下である。
【0010】
本発明のポリエステル組成物は、主たる成分が芳香族ジカルボン酸とジオールからなるポリエステルである。
【0011】
本発明で用いられる芳香族ジカルボン酸としては、95mol%以上が芳香族ジカルボン酸であることが好ましく、より好ましくはテレフタル酸が用いられる。
【0012】
また本発明の効果を損ねない範囲内で共重合成分として、他のジカルボン酸を含んでいてもよい。具体的にはイソフタル酸、イソフタル酸-5-スルホン酸塩、ナフタレン2,6-ジカルボン酸、ビスフェノールジカルボン酸、アジピン酸、琥珀酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸などの公知のジカルボン酸が挙げられる。
【0013】
本発明で用いられるジオールとしては、80mol%以上が直鎖アルキレングリコールであることが好ましい。直鎖アルキレングリコールの具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
また本発明の効果を損ねない範囲内で共重合成分として、他のジオール類を併用して用いることもできる。具体的には、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0015】
また、本発明のポリエステル組成物は、二酸化チタン等の艶消剤、凝集アルミナ等の微粒子、ヒンダードフェノール誘導系等の抗酸化剤、その他着色顔料などを含有してもよい。
【0016】
本発明のポリエステル組成物は、上記したようにシリカ粒子を含む。本発明におけるシリカ粒子とは、ケイ素酸化物を主体とする粒子である。
本発明のポリエステル組成物が含有するシリカ粒子は、平均一次粒子径が0.15~0.30μmである。平均一次粒径が0.30μmより大きくなると、ポリエステル組成物より得られた繊維の表面の粗面化が不十分となり発色性が不良になることがある。また、平均一次粒子径が0.15μm未満であると、シリカ粒子が凝集しやすくなるため製糸性が不良になることがある。平均一次粒子径が前記範囲であると、発色性と製糸性が両立でき、平均一次粒子径が0.15~0.20μmであると、発色性と製糸性がより良好になるため好ましい。
【0017】
本発明のポリエステル組成物に含有するシリカ粒子は、前記した平均一次粒径を有するとともに粒径の相対標準偏差が0.40以下である。ここで、相対標準偏差とは次の式で定義される。
相対標準偏差=粒径の標準偏差σ/平均一次粒子径D(μm)
【0018】
相対標準偏差が0.40を超える場合は、繊維表面で発色性に寄与できるシリカ粒子が少なくなるため発色性が不良になる他、繊維表面が粗面化しすぎるため良好な製糸性を得ることができないことがある。相対標準偏差は好ましくは0.35以下であり、より好ましくは0.30以下である。
【0019】
なお、シリカ粒子の平均一次粒子径および相対標準偏差は、プラズマリアクターによりポリエステル組成物の表面を0.3μmの深さまでプラズマ低温灰化処理して粒子を露出させ、走査型電子顕微鏡で粒子数5000個以上の画像をイメージアナライザーで処理することにより求めることができる。
【0020】
また、本発明のポリエステル組成物は、シリカ粒子を0.5~3.0重量%含有する。シリカ粒子の含有量が0.5重量%未満であると、ポリエステル組成物より得られた繊維の表面の粗面化が不十分となり発色性が不良になることがある。シリカ粒子の含有量が3.0重量%を超えると、シリカ粒子が凝集しやすくなるため製糸性が不良になることがある。シリカ粒子の含有量は、前記範囲であると発色性と製糸性が両立でき、含有量が1.0~2.0重量%であると、発色性と製糸性がより良好になるため好ましい。
【0021】
本発明で用いるシリカ粒子の製法は特に制限がないが、湿式法が好ましく適用される。シリカ粒子は、例えばケイ酸ナトリウムやアルコキシシランなどを出発原料として加水分解法により得ることができる。シリカ粒子の分散性、粗大粒子の生成抑制の観点から、ケイ酸ナトリウムを出発原料として得られたシリカ粒子が好ましい。
【0022】
本発明のポリエステル組成物は、従来公知の方法により製造することができ、例えば、直接重合法により製造できる。本発明のポリエステル組成物は、ポリマーを含む。
【0023】
なお、本発明のポリエステル組成物のメトキシ基量は10ppm以下である。ポリエステル組成物のメトキシ基量を10ppm以下にするには、芳香族ジカルボン酸とジオール、およびその他の共重合成分を、直接反応させる直接重合法で製造することが好ましい。ポリエステル組成物のメトキシ基量が10ppm以下であると発色性が良好になる。ポリエステル組成物のメトキシ基が10ppm以下であると発色性が良好になる理由は不明であるが、メトキシ基が少ないとジエチレングリコール(DEG)、カルボキシル末端基(COOH末端基)が多くなる傾向があるので、染料の着座位ができることによると推定する。
【0024】
本発明のポリエステル組成物からポリエステル繊維を製造する方法としては、必要に応じて、ポリエステル組成物の事前乾燥を熱風中あるいは減圧下で行い、紡糸機に供して口金より紡出を行う。このとき、ポリエステル組成物の熱による劣化を防ぐために、紡糸機内におけるポリエステル組成物の滞留時間は短いほど好ましく、通常20分以内とすればよい。また、紡糸温度は250~300℃であればよい。
【0025】
紡出された糸条は、冷風で冷却固化され、次いで油剤が付与された後、紡糸速度を制御する引取りロールで引取られる。引取りロールに引取られた未延伸糸条は、通常連続して延伸されるが、一旦巻取った後に別工程で延伸してもよい。紡糸速度は300~3000m/分程度、好ましくは500~2500m/分であればよい。得られた糸条は必要に応じて熱を加えながら仮撚り加工を行い、ポリエステル加工糸を得た後、該加工糸を丸編機を用いて編み地を作製することができる。
【0026】
本発明のポリエステル繊維は、繊維表面のシリカ粒子について、隣接するシリカ粒子との中心間距離が平均一次粒径の2倍未満の範囲にあるシリカ粒子の個数が、10μm当たり4個以下である。繊維表面の、隣接するシリカ粒子との中心間距離が平均一次粒径の2倍未満の範囲にあるシリカ粒子が、10μm当たり4個以下であると、紡糸操業性、黒発色性が良好になる。
【0027】
繊維表面のシリカ粒子を、粒子同士の中心間距離が平均一次粒径の2倍未満の範囲にある粒子の個数が10μm当たり4個以下となるようにするためには、例えば、次の手法がある。まず、シリカ粒子をポリエステルの構成成分であるジオールで5重量%以下に希釈してスラリー化しておく。そして、エステル化反応終了から重縮合反応開始までの間で、シリカ粒子添加後のポリエステル組成物の芳香族ジカルボン酸とジオールのmol比が2.2以上となるようにジオール成分を添加した後に、スラリー化したシリカ粒子を添加する。
【0028】
また、本発明のポリエステル繊維は、平均一次粒径が0.15~0.30μmであり、粒径の相対標準偏差が0.40以下であるシリカ粒子を0.5~3.0重量%の範囲で含有する。平均一次粒径が前記範囲であると、繊維表面の粗面化が十分になされるので、発色性が向上するとともに、製糸性にも優れる。平均一次粒子径は0.15~0.20μmであることが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル繊維は、走行糸の摩擦係数が糸-梨地で0.35以下、かつ糸-鏡面で0.7以下であると、糸道を構成する際のガイド摩耗が少ないので好ましい。
【0030】
また本発明のポリエステル組成物からなる繊維においては、公知の方法で減量処理を施すことができる。減量処理の方法として例えば、プラズマ処理、レーザー処理、アルカリ減量処理などを挙げることができるが、得られる繊維の風合い、染色性などの観点から、アルカリ減量処理が好ましい。
【実施例
【0031】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0032】
(1)平均一次粒径、標準偏差、相対標準偏差
ヤマト科学株式会社製プラズマリアクターPR300を用い、ポリエステル組成物の表面を0.3μmの深さまでプラズマ低温灰化処理して粒子を露出させた。走査型電子顕微鏡(SEM,Regulus8100型走査電子顕微鏡:株式会社日立製作所製)で粒子数5000個以上の画像をイメージアナライザー(Image-Pro:株式会社日本ローパー製)で処理し、数体積平均粒子径(平均一次粒径)、標準偏差、相対標準偏差を求めた。
ポリエステル繊維の場合は油剤を除去したのち、繊維表面をポリエステル組成物と同様にプラズマ低温灰化処理して粒子を露出させ、ポリエステル組成物と同様に走査型顕微鏡とイメージアナライザーで処理した。
【0033】
(2)ポリエステル組成物中のシリカ粒子含有量(重量%)
ポリエステル組成物6gを溶融し板状に成形し、蛍光X線分析装置(PRIMUS II:株式会社リガク製)を用いた蛍光X線分析により強度を測定して、既知含有量のサンプルで予め作成した検量線を用いて、金属含有率をシリカ粒子含有量とした。
ポリエステル繊維の場合は油剤を除去したのち、ポリエステル組成物と同様に、蛍光X線分析により測定した。
【0034】
(3)ポリエステル組成物のメトキシ基量
ポリエステル20gにヒドラジン10mlを加え100℃で40分間アルカリ分解させ、ガスクロマトグラフによりメタノールを定量し、その測定値から当量/ポリエステル10gの値で示した。
ポリエステル繊維の場合は油剤を除去したのち、ポリエステル組成物と同様に、アルカリ分解し、ガスクロマトグラフにより測定した。
【0035】
(4)摩擦係数
走行糸の摩擦係数は、INTEC社製μMETERにて測定し、張力から算出した。糸-梨地0.35以下、糸-鏡面0.70以下を目標に、A:梨地、鏡面ともに目標値以下であり合格、B:梨地、鏡面のどちらか一方が目標値以下であり合格、C:梨地、鏡面のどちらも目標値を超えており不合格の3段階で評価した。
【0036】
(5)紡糸操業性
紡糸中の糸切れ回数から判断し、A:特優(1回/t未満)、B:優(1回/t以上~2回/t未満)、C:良(2回/t以上~3回/t未満)、D:不良(3回/t以上)の4段階で評価した。
【0037】
(6)黒色発色性
実施例・比較例のポリエステル繊維を筒編みにし、アルカリ減量率が20%となるように処理した編地を、染料としてDianix Black BG-FS(三菱ケミカル株式会社製、分散染料)15%owf水分散液を使用し、浴比1:30、130℃で60分染色したものを測色計(ミノルタ株式会社製CM-3700D)によりL値を3回測定し平均値を求め、A:12.0以下、B:12.0超13.0以下、C:13.0超14.0以下、D:14.0超の4段階で評価した。
【0038】
(実施例1)
精留塔を備えたエステル化反応槽に、反応槽温度を240~245℃に保ちながら、テレフタル酸300重量部、エチレングリコール129重量部からなるスラリー(計算モル比1.15)を3時間かけて連続供給し、精溜塔上段から水を溜去しながら、反応させた。水の溜去量は64重量部、テレフタル酸の計算エステル化反応率は98%であった。
得られた反応物のうち、43%(体積)を10ミクロンのフィルターで濾過しながら重合反応槽へ移液した。
【0039】
その後、重合反応槽へ移液された組成物にエチレングリコールを22重量部添加し、直後に三酸化アンチモン0.044重量部と酢酸マグネシウム0.16重量部を添加した。組成物の温度を約10分かけて250℃にした。その後に、エチレングリコールを22重量部添加し、直後にトリメチルホスフェート0.060重量部を添加した。再び組成物の温度を約10分かけて250℃にした後、エチレングリコール22重量部を添加し、再度組成物の温度を約10分かけて250℃にした後に、平均一次粒径0.17μm、粒径の相対標準偏差が0.30のシリカ粒子を7.5重量部、エチレングリコール142重量部からなるシリカスラリー(シリカ粒子の濃度5重量%)を3等分し(体積)、3回に分けて添加した。各々の添加においては系内の温度が225℃以下になる場合は添加を中断、系内温度が225℃超になるまでそのまま待機した。また各回の添加後、系内の温度が245℃以上になるまで待機した(芳香族ジカルボン酸とジオールのmol比は3.0)。
【0040】
シリカスラリーの添加が完了した後に、重合反応槽を90分かけて290℃まで昇温、同時に60分かけて60Paまで減圧し、あらかじめ攪拌負荷電力から求めたポリエステル組成物の固有粘度が0.66になるまで重縮合反応を行った。
このポリエステル組成物を160℃で7時間乾燥後、紡糸温度290℃、紡糸速度1500m/分で紡糸後、延伸倍率2.81で延伸した。
【0041】
得られたポリエステル繊維のメトキシ基量は5ppm、シリカ粒子は含有量1.5重量%、平均一次粒径が0.17μm、粒径の相対標準偏差が0.30であり、シリカ粒子の中心間距離が平均一次粒径の2倍未満の範囲にある粒子の個数は、10μm当たり0個であった。該繊維の紡糸操業性、糸摩擦係数、黒色発色性は極めて良好であった。
【0042】
(実施例2)
シリカ粒子の平均一次粒径が0.15μmであること以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、糸摩擦係数、黒色発色性は極めて良好であった。
【0043】
(実施例3)
シリカ粒子の平均一次粒径が0.20μmであること以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、糸摩擦係数、黒色発色性は極めて良好であった。
【0044】
(実施例4)
シリカ粒子の平均一次粒径が0.30μmであること以外は実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、糸摩擦係数は極めて良好であった。黒色発色性は使用可能レベルであった。
【0045】
(実施例5)
シリカ粒子の粒径の相対標準偏差が0.40である以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、糸摩擦係数、黒色発色性は極めて良好であった。
【0046】
(実施例6)
ポリエステル繊維中のシリカ粒子の含有量を1.0重量%にした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、糸摩擦係数、黒色発色性は極めて良好であった。
【0047】
(実施例7)
ポリエステル繊維中のシリカ粒子の含有量を2.0重量%にした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、糸摩擦係数、黒色発色性は極めて良好であった。
【0048】
(実施例8)
ポリエステル繊維中のシリカ粒子の含有量を0.5重量%にした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、黒色発色性は極めて良好であった。糸-鏡面摩擦係数は使用可能レベルであった。
【0049】
(実施例9)
ポリエステル繊維中のシリカ粒子の含有量を3.0重量%にした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。黒色発色性は極めて良好であった。紡糸操業性、糸-鏡面摩擦係数は使用可能レベルであった。
【0050】
(実施例10)
ジメチルテレフタレートとエチレングリコールのエステル交換反応後、実施例1と同様のシリカ粒子を添加し、実施例1と同様に重縮合反応して、ポリエステル組成物(B)(メトキシ基量が20ppm)を製造した。
実施例1で製造したポリエステル組成物(60重量部)に、ポリエステル組成物(B)を30重量部添加し、実施例1と同様に紡糸、延伸することにより、メトキシ基量が10ppmのポリエステル繊維を得た。紡糸操業性、糸摩擦係数、黒色発色性は極めて良好であった。
【0051】
(実施例11)
シリカ粒子添加時のエチレングリコールとテレフタル酸のmol比が2.2であること以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維中のシリカ粒子の中心間距離が平均一次粒径の2倍未満の範囲にある粒子の個数は、10μm当たり4個であった。また紡糸操業性は優れていた。糸-梨地摩擦係数、黒色発色性は使用可能レベルであった。
【0052】
実施例1~11の結果を表1にまとめて示す。
【0053】
【表1】
【0054】
(比較例1)
シリカ粒子の平均一次粒径が0.12μmであること以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維中のシリカ粒子は凝集が多数確認され、分散性が悪く紡糸操業性が不良であった。
【0055】
(比較例2)
シリカ粒子の平均一次粒径が0.33μmであること以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維は黒発色性が劣っていた。
【0056】
(比較例3)
シリカ粒子の粒径の相対標準偏差が0.44のシリカ粒子であること以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維の紡糸操業性、黒発色性は不良であった。
【0057】
(比較例4)
ポリエステル繊維中のシリカ粒子の含有量を0.3重量%にした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維は黒発色性が不良であった。
【0058】
(比較例5)
ポリエステル繊維中のシリカ粒子の含有量を3.3重量%にした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維は紡糸操業性が不良であった。
【0059】
(比較例6)
精留塔を備えたエステル交換反応槽に、ジメチルテレフタレート350重量部とエチレングリコール223重量部を投入し、140℃で溶解したのち、三酸化アンチモン0.044重量部と酢酸マグネシウム0.16重量部を添加、反応槽温度を140℃から230℃に3時間をかけて昇温し、発生するメタノールを溜去しながらエステル交換反応を行った後、トリメチルホスフェート0.060重量部を添加した。
重合反応槽へ移液された組成物にエチレングリコール23重量部を添加(モル比2.2)、平均一次粒径0.17μm、粒径の相対標準偏差が0.30のシリカ粒子を5.3重量部、エチレングリコール142重量部からなるシリカスラリー(シリカ粒子の濃度5重量%)を3等分し(体積)、3回に分けて添加した。
シリカスラリーの添加が完了した後に、重合反応槽を90分かけて290℃まで昇温、同時に60分かけて60Paまで減圧し、あらかじめ攪拌負荷電力から求めたポリエステル組成物の固有粘度が0.66になるまで重縮合反応を行った。
得られたポリエステル組成物を実施例1と同様の方法で紡糸、延伸した。
得られたポリエステル繊維のメトキシ基量は12ppmであり、黒発色性が不良であった。
【0060】
(比較例7)
添加するシリカ粒子の濃度を7重量%にし、シリカ粒子添加前に66重量部のジオールを溜去した以外は(シリカ粒子添加後の芳香族ジカルボン酸とジオールのmol比は2.0)、実施例1と同様に、ポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維表面のシリカ粒子の中心間距離が平均一次粒径の2倍未満の範囲にある粒子の個数は、10μm当たり10個であり、紡糸操業性、黒色発色性とも不良であった。
【0061】
比較例1~7の結果を表2にまとめて示す。
【0062】
【表2】
【0063】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は2019年8月29日付で出願された日本特許出願(特願2019-157115)に基づいており、その全体が引用により援用される。