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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-09
(45)【発行日】2024-12-17
(54)【発明の名称】固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/486 20210101AFI20241210BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20241210BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20241210BHJP
   H01M 50/474 20210101ALI20241210BHJP
【FI】
H01M50/486
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/131
H01M50/474
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021001436
(22)【出願日】2021-01-07
(65)【公開番号】P2022106441
(43)【公開日】2022-07-20
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 邦光
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031424(WO,A1)
【文献】特開2018-116812(JP,A)
【文献】特開2020-027742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、固体電解質層と、負極とをこの順に積層した積層体と、当該積層体の少なくとも一部を被覆する熱膨張樹脂層と、当該積層体及び当該熱膨張樹脂層を収容する金属筐体と、を備える固体電池の製造方法であって、
前記固体電池をSOC0%まで放電する工程と、
放電した前記固体電池に規定温度を付与する工程と、を含み、
前記熱膨張樹脂層と前記金属筐体が接していることを特徴とする固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。
また、固体電池は、正極と負極の間に介在する電解質として、有機溶媒を含む電解液に替えて固体電解質を用いるという点で注目されている。
【0003】
特許文献1には、全固体電池側面の樹脂層が、全固体電池積層体の側面に近い側から、第1の樹脂層、及び第2の樹脂層をこの順で有する複層構造であり、かつ第1の樹脂層の弾性率が、第2の樹脂層の弾性率よりも小さい旨が開示されている。
【0004】
特許文献2には、自己放電による電圧降下量により全固体電池を検査する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、全固体電池の積層体の端面には、不動態層が設けられており、不動態層は、LiI水和物を含有する旨が開示されている。
【0006】
特許文献4には、等方圧加圧法によって第1全固体電池に圧力を加えることにより、第2全固体電池を製造することを含み、第1全固体電池は少なくとも1回充放電されていることを特徴とする全固体電池の容量回復方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-153535号公報
【文献】特開2015-122169号公報
【文献】特開2020-155301号公報
【文献】特開2020-068170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固体電池は、電極割れにより容量が低下する恐れがある。
【0009】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電極割れによる容量低下を抑制することができる固体電池の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の固体電池の製造方法は、正極と、固体電解質層と、負極とをこの順に積層した積層体と、当該積層体の少なくとも一部を被覆する熱膨張樹脂層と、当該積層体及び当該熱膨張樹脂層を収容する金属筐体と、を備える固体電池の製造方法であって、
前記固体電池をSOC0%まで放電する工程と、
放電した前記固体電池に規定温度を付与する工程と、を含み、
前記熱膨張樹脂層と前記金属筐体が接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、電極割れによる容量低下を抑制することができる固体電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の固体電池の一例を示す面方向の断面模式図である。
図2図2は、本開示の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、本開示の製造方法により得られる固体電池の容量回復のメカニズムを説明する模式図である。
図4図4は、実施例1の固体電池(積層体-PVDC樹脂層-SUS筐体)の模式図である。
図5図5は、比較例1の固体電池(積層体-テープ-SUS筐体)の模式図である。
図6図6は、比較例2の固体電池(積層体-エポキシ樹脂-アクリル樹脂-空間-SUS筐体)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の固体電池の製造方法は、正極と、固体電解質層と、負極とをこの順に積層した積層体と、当該積層体の少なくとも一部を被覆する熱膨張樹脂層と、当該積層体及び当該熱膨張樹脂層を収容する金属筐体と、を備える固体電池の製造方法であって、
前記固体電池をSOC0%まで放電する工程と、
放電した前記固体電池に規定温度を付与する工程と、を含み、
前記熱膨張樹脂層と前記金属筐体が接していることを特徴とする。
【0014】
本開示において、SOC(充電状態値:State of Charge)は、電池の満充電容量に対する充電容量の割合を示すものであり、満充電容量がSOC100%である。
SOCは、例えば、固体電池の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)から推定してもよい。
【0015】
固体電池特有の劣化モードとして、繰り返し充電に伴う電極の膨張収縮に起因する電極割れがある。この現象により発生した容量劣化は割れ部が再度導通しない限り回復しない。
従来技術では弾性率の異なる樹脂で周囲を被覆することで割れを抑制しているが、割れを発生させないわけではない。一旦発生した割れを再度導通させることが困難な構成となっている。
本開示では、電極体の被覆材を線膨張係数の高い樹脂(熱膨張樹脂)に限定し、樹脂被覆電極体を金属筐体に格納した構成とし、容量回復プロセスとして、放電状態の固体電池に規定の温度負荷を与える。これにより、電極体内に発生した割れ空隙を、電極体周囲を覆っている熱膨張樹脂の膨張圧力により埋めて導通経路の復旧を行う。その際、電池の構成として圧力を電極体に効率よく与えるために、樹脂の外側を強固な金属筐体とし、さらに割れが顕著に発生している放電状態での温度負荷プロセスにより高効果な容量回復が実現され、電極割れによる容量低下を抑制することができる。
【0016】
図1は、本開示の固体電池の一例を示す面方向の断面模式図である。
図1に示すように、固体電池は、正極端子と負極端子を備える積層体と、当該積層体の少なくとも一部を被覆する熱膨張樹脂層を有し、積層体及び熱膨張樹脂層は金属筐体内に収容され、熱膨張樹脂層と金属筐体は当接されている。なお、面方向とは、積層方向に対して垂直の方向を意味する。
【0017】
図2は、本開示の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、まず、固体電池をSOC0%まで放電し、その後固体電池に規定温度を付与する。これにより電極割れによる容量低下を抑制することができ、充放電効率の高い固体電池が得られる。
【0018】
図3は、本開示の製造方法により得られる固体電池の容量回復のメカニズムを説明する模式図である。
図3に示すように、固体電池をSOC0%まで放電することにより導電パスが切れて固体電池の容量が低下する。その後、固体電池に規定温度を付与することにより、電極体外からの熱膨張樹脂の膨張圧力により導電パスが復活し固体電池の容量が回復し、電極割れによる容量低下を抑制することができる。
【0019】
本開示の固体電池の製造方法は、(1)放電工程と、(2)規定温度付与工程と、を含む。
【0020】
(1)放電工程
放電工程は、前記固体電池をSOC0%まで放電する工程である。
放電工程により、固体電池の電極割れによる電極の空隙量を最大にする。
なお、放電工程の前に、正極と、固体電解質層と、負極とをこの順に積層した積層体と、当該積層体の少なくとも一部を被覆する熱膨張樹脂層と、当該積層体及び当該熱膨張樹脂層を収容する金属筐体と、を備え、前記熱膨張樹脂層と前記金属筐体が接している固体電池(第1固体電池)を準備する。
【0021】
(2)規定温度付与工程
規定温度付与工程は、放電した前記固体電池に規定温度を付与する工程である。
規定温度付与工程により、熱膨張樹脂の膨張圧力により電極割れにより生じた電極の空隙を潰す。規定温度を付与することにより容量が回復した固体電池(第2固体電池)が得られる。
規定温度の要件は、電池構成部材の耐熱温度以下且つ電池劣化が著しく低下しない温度の内の最大温度としてもよい。
電池劣化が著しく低下しない温度の求め方は、例として温度を変えて耐久試験を実施して、アレニウスプロットの傾きが変化する境界温度(アレニウスプロットの変曲点温度)とすることが挙げられる。
【0022】
本開示の固体電池は、正極と、固体電解質層と、負極とをこの順に積層した積層体と、当該積層体の少なくとも一部を被覆する熱膨張樹脂層と、当該積層体及び当該熱膨張樹脂層を収容する金属筐体と、を備え、前記熱膨張樹脂層と前記金属筐体が接している。
なお、本開示においては、放電工程前の固体電池を第1固体電池と称する場合があり、規定温度付与工程後の固体電池を第2固体電池と称する場合があるが、第1固体電池と第2固体電池の構成は同じであるため、第1固体電池と第2固体電池をまとめて固体電池と称する。
【0023】
[熱膨張樹脂層]
熱膨張樹脂層は、積層体の少なくとも一部を被覆し、且つ金属筐体と接していればよい。
熱膨張樹脂層は、積層体の少なくとも一部を被覆していればよく、積層体の側面を被覆していてもよい。
熱膨張樹脂層は、熱膨張樹脂を含む。
熱膨張樹脂としては、例えば、アクリル樹脂(線膨張係数:7×10-5/℃)、エポキシ樹脂(線膨張係数:3×10-5/℃)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)(線膨張係数:19×10-5/℃)等が挙げられる。
熱膨張樹脂層は、金属筐体の変形がないことを前提とすると、厚さ5mmの場合、20℃から120℃に昇温すると、アクリル樹脂は厚さ35μm、エポキシ樹脂は厚さ15μm、PVDCは厚さ95μmに膨張する。
【0024】
[金属筐体]
金属筐体は、積層体及び熱膨張樹脂層を収容し、且つ、熱膨張樹脂層と接していればよい。
金属筐体は、例えば、SUS筐体であってもよい。
【0025】
[積層体]
積層体は、正極と、固体電解質層と、負極とをこの順に積層してなる。
【0026】
[正極]
正極は、正極層、正極集電体を含む。正極には正極端子が接続されていてもよく、正極集電体が正極端子であってもよい。
【0027】
[正極層]
正極層は、正極活物質を含み、任意成分として、固体電解質、導電材、及びバインダー等が含まれていてもよい。
【0028】
正極活物質の種類について特に制限はなく、電池の活物質として使用可能な材料をいずれも採用可能である。電池がリチウム二次電池の場合は、正極活物質は、例えば、金属リチウム(Li)、リチウム合金、LiCoO、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO、異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、LiCoN、LiSiO、及びLiSiO、遷移金属酸化物、TiS、Si、SiO、Si合金及びリチウム貯蔵性金属間化合物等を挙げることができる。異種元素置換Li-Mnスピネルは、例えばLiMn1.5Ni0.5、LiMn1.5Al0.5、LiMn1.5Mg0.5、LiMn1.5Co0.5、LiMn1.5Fe0.5、及びLiMn1.5Zn0.5等である。チタン酸リチウムは、例えばLiTi12等である。リン酸金属リチウムは、例えばLiFePO、LiMnPO、LiCoPO、及びLiNiPO等である。遷移金属酸化物は、例えばV、及びMoO等である。リチウム貯蔵性金属間化合物は、例えばMgSn、MgGe、MgSb、及びCuSb等である。
リチウム合金としては、Li-Au、Li-Mg、Li-Sn、Li-Si、Li-Al、Li-B、Li-C、Li-Ca、Li-Ga、Li-Ge、Li-As、Li-Se、Li-Ru、Li-Rh、Li-Pd、Li-Ag、Li-Cd、Li-In、Li-Sb、Li-Ir、Li-Pt、Li-Hg、Li-Pb、Li-Bi、Li-Zn、Li-Tl、Li-Te、及びLi-At等が挙げられる。Si合金としては、Li等の金属との合金等が挙げられ、その他、Sn、Ge、及びAlからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属との合金であってもよい。
正極活物質の形状は特に限定されるものではないが、粒子状であってもよい。正極活物質が粒子状である場合、正極活物質は一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。正極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、1nm以上100μm以下であってもよく、10nm以上30μm以下であってもよい。
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていても良い。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO、LiTi12、及び、LiPO等が挙げられる。コート層の厚さは、例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であっても良い。一方、コート層の厚さは、例えば、100nm以下であり、20nm以下であっても良い。正極活物質の表面におけるコート層の被覆率は、例えば、70%以上であり、90%以上であっても良い。
【0029】
固体電解質としては、固体電解質層において例示するものと同様のものを例示することができる。
正極層における固体電解質の含有量は、特に限定されないが、正極層の総質量を100質量%としたとき、例えば1質量%~80質量%の範囲内であってもよい。
【0030】
導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等の粒子が挙げられる。
正極層における導電材の含有量は特に限定されるものではない。
【0031】
結着剤(バインダー)としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。正極層における結着剤の含有量は特に限定されるものではない。
【0032】
正極層の厚みについては特に限定されるものではない。
【0033】
正極層は、従来公知の方法で形成することができる。
例えば、正極活物質、及び、必要に応じ他の成分を溶媒中に投入し、撹拌することにより、正極層用スラリーを作製し、当該正極層用スラリーを正極集電体等の支持体の一面上に塗布して乾燥させることにより、正極層が得られる。
溶媒は、例えば酢酸ブチル、酪酸ブチル、ヘプタン、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
正極集電体等の支持体の一面上に正極層用スラリーを塗布する方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、メタルマスク印刷法、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、及びスクリーン印刷法等が挙げられる。
支持体としては、自己支持性を有するものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされず、例えばCu及びAlなどの金属箔等を用いることができる。
【0034】
また、正極層の形成方法の別の方法として、正極活物質及び必要に応じ他の成分を含む正極合剤の粉末を加圧成形することにより正極層を形成してもよい。正極合剤の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上600MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
加圧方法としては、特に制限されないが、例えば、平板プレス、及びロールプレス等を用いて圧力を付加する方法等が挙げられる。
【0035】
[正極集電体]
正極集電体としては、電池の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、及びInからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。正極集電体としては、例えばSUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等が挙げられる。
正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、箔状、及びメッシュ状等、種々の形態とすることができる。正極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μmの範囲内であってもよく、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
正極集電体は正極端子と接続されていてもよく、正極集電体が正極端子であってもよい。
【0036】
[負極]
負極は、負極集電体及び負極層を含む。負極には負極端子が接続されていてもよく、負極集電体が負極端子であってもよい。
【0037】
[負極層]
負極層は、少なくとも負極活物質を含有し、必要に応じ、導電材、結着剤、及び、固体電解質等を含有する。
負極活物質としては、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン、リチウム単体、リチウム合金、Si単体、Si合金、及びLiTi12等が挙げられる。リチウム合金及びSi合金としては、正極活物質において例示するものと同様のものを用いることができる。
負極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、及び板状等が挙げられる。負極活物質が粒子状である場合、負極活物質は一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。また、負極活物質の平均粒子径(D50)は、例えば、1nm以上100μm以下であってもよく、10nm以上30μm以下であってもよい。
負極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、及び板状等が挙げられる。
負極層に用いられる導電材、及び、結着剤は、正極層において例示するものと同様のものを用いることができる。負極層に用いられる固体電解質は、固体電解質層において例示するものと同様のものを用いることができる。
負極層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~100μmであってもよい。
負極層における負極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、20質量%~90質量%であってもよい。
【0038】
[負極集電体]
負極集電体の材料は、Liと合金化しない材料であってもよく、例えばSUS及び、Cu及び、Ni等を挙げることができる。負極集電体の形態としては、例えば、箔状及び、板状等を挙げることができる。負極集電体の平面視形状は、特に限定されるものではないが、例えば、円状及び、楕円状及び、矩形状及び、任意の多角形状等を挙げることができる。また、負極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μmの範囲内であってもよく、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
負極集電体は負極端子と接続されていてもよく、負極集電体が負極端子であってもよい。
【0039】
[固体電解質層]
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含む。
固体電解質層に含有させる固体電解質としては、固体電池に使用可能な公知の固体電解質を適宜用いることができ、酸化物系固体電解質、及び硫化物系固体電解質等が挙げられる。
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiX-LiS-SiS、LiX-LiS-P、LiX-LiO-LiS-P、LiX-LiS-P、LiX-LiPO-P、及びLiPS等が挙げられる。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる材料を意味し、他の記載についても同様である。また、上記LiXの「X」は、ハロゲン元素を示す。上記LiXを含む原料組成物中にLiXは1種又は2種以上含まれていてもよい。LiXが2種以上含まれる場合、2種以上の混合比率は特に限定されるものではない。
硫化物系固体電解質における各元素のモル比は、原料における各元素の含有量を調整することにより制御できる。また、硫化物系固体電解質における各元素のモル比や組成は、例えば、ICP発光分析法で測定することができる。
【0040】
硫化物系固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラス(ガラスセラミックス)であってもよく、原料組成物に対する固相反応処理により得られる結晶質材料であってもよい。
硫化物系固体電解質の結晶状態は、例えば、硫化物系固体電解質に対してCuKα線を使用した粉末X線回折測定を行うことにより確認することができる。
【0041】
硫化物ガラスは、原料組成物(例えばLiSおよびPの混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。
【0042】
ガラスセラミックスは、例えば、硫化物ガラスを熱処理することにより得ることができる。
熱処理温度は、硫化物ガラスの熱分析測定により観測される結晶化温度(Tc)よりも高い温度であればよく、通常、195℃以上である。一方、熱処理温度の上限は特に限定されない。
硫化物ガラスの結晶化温度(Tc)は、示差熱分析(DTA)により測定することができる。
熱処理時間は、ガラスセラミックスの所望の結晶化度が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば1分間~24時間の範囲内であり、中でも、1分間~10時間の範囲内が挙げられる。
熱処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
【0043】
酸化物系固体電解質としては、例えばLi元素と、La元素と、A元素(Aは、Zr、Nb、Ta、及びAlの少なくとも1種である)と、O元素とを有するガーネット型の結晶構造を有する物質等が挙げられる。酸化物系固体電解質としては、例えばLi3+xPO4-x(1≦x≦3)等であってもよい。
【0044】
固体電解質の形状は、取扱い性が良いという観点から粒子状であってもよい。
また、固体電解質の粒子の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、下限が0.5μm以上であってもよく、上限が2μm以下であってもよい。
【0045】
本開示において、粒子の平均粒径は、特記しない限り、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定により測定される体積基準のメディアン径(D50)の値である。また、本開示においてメディアン径(D50)とは、粒径の小さい粒子から順に並べた場合に、粒子の累積体積が全体の体積の半分(50%)となる径(体積平均径)である。
【0046】
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよく、又は2層以上の固体電解質それぞれの層を形成して多層構造としてもよい。
固体電解質層中の固体電解質の割合は、特に限定されるものではないが、例えば50質量%以上であり、60質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、70質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、100質量%であってもよい。
【0047】
固体電解質層には、可塑性を発現させる等の観点から、バインダーを含有させることもできる。そのようなバインダーとしては、正極層に用いられるバインダーとして例示した材料等を例示することができる。ただし、高出力化を図り易くするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層に含有させるバインダーは5質量%以下としてもよい。
【0048】
固体電解質層を形成する方法としては、固体電解質を含む固体電解質材料の粉末を加圧成形する方法等が挙げられる。固体電解質材料の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上600MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
加圧方法としては、特に制限されないが、正極層の形成において例示する加圧方法が挙げられる。
【0049】
固体電解質層の厚みは特に限定されるものではなく、通常0.1μm以上1mm以下である。
【0050】
固体電池としては、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも二次電池であってもよい。二次電池は繰り返し充放電が可能である。二次電池は、例えば車載用電池として有用である。また、固体電池は、固体リチウム二次電池であってもよい。
【実施例
【0051】
(実施例1)
正極集電箔、正極層、固体電解質層、負極層、負極集電箔をこの順に積層してなる積層体を準備した。
積層体の構成は以下の通りである。
・正極集電箔:Al 厚さt=15μm
・正極層: NCM(LiNi1/3Co1/3Mn1/3:正極活物質)/固体電解質/PVdF(結着剤)=80:15:5wt%
・負極層: Si(負極活物質)/固体電解質/SBR(結着剤)=50:48:2wt%
・負極集電箔:Cu 厚さt=15μm
・固体電解質層:硫化物系固体電解質
固体電池は以下の方法により得た。
積層体の周囲にポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂(厚み5mm)を被覆して固化させ積層体の側面に熱膨張樹脂層を形成した。積層体及び熱膨張樹脂層を熱膨張樹脂層が金属筐体としてのSUS筐体に接触するようにSUS筐体内に挿入して固体電池とした。
図4は、実施例1の固体電池(積層体-PVDC樹脂層-SUS筐体)の模式図である。
【0052】
[評価方法]
実施例1の固体電池に対して次に示す耐久試験を行い、容量維持率を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
[耐久試験前の放電容量測定]
実施例1で得られた固体電池を、無拘束状態で、25℃、0.1CでSOC0%から100%までの充電と、0.1CでSOC100%から0%までの放電を行い、固体電池の耐久試験前の放電容量を測定した。
[耐久試験]
実施例1で得られた固体電池を、25℃の条件で、1CでSOC0%から100%までの充電と、1CでSOC100%から0%までの放電を1サイクルとして合計100サイクル充放電を行った。
[耐久試験後の放電容量測定]
耐久試験後の実施例1で得られた固体電池を、25℃、0.1CでSOC0%から100%までの充電と、0.1CでSOC100%から0%までの放電を行い、固体電池の耐久試験後の放電容量を測定した。
固体電池の耐久試験後の放電容量を耐久試験前の放電容量で割り、100を掛けることにより、固体電池の容量維持率を算出した。後述する比較例1のサイクル試験直後の容量維持率を100%としたときの実施例1のサイクル試験直後の容量維持率を示す結果を表1に示す。
[放電工程]
容量維持率を算出した後、放電工程として固体電池のSOCを0%に調整した。
[規定温度付与工程]
その後、規定温度付与工程として固体電池を過剰温度として設定した130℃で30minの環境に曝した後、再度容量維持率を測定した。また、規定温度付与工程として固体電池を適正温度として設定した120℃で30minの環境に曝した後、再度容量維持率を測定した。後述する比較例1のサイクル試験直後の容量維持率を100%としたときの実施例1の過剰温度付与後の容量維持率及び後述する比較例1のサイクル試験直後の容量維持率を100%としたときの実施例1の適正温度付与後の容量維持率を示す結果を表1に示す。
なお、過剰温度は、固体電池の劣化限界温度を考慮して設定した。
【0054】
(比較例1)
積層体の側面に熱膨張樹脂層を形成せずに、積層体がSUS筐体に接触しないように、積層体を、内部をテープで絶縁処理したSUS筐体内へ挿入したこと以外は実施例1と同様の方法で固体電池を得た。
図5は、比較例1の固体電池(積層体-テープ-SUS筐体)の模式図である。
比較例1の固体電池に対して実施例1と同様の方法で耐久試験を行い、容量維持率を測定した。比較例1のサイクル試験直後の容量維持率を100%としたときの比較例1の過剰温度付与後の容量維持率及び比較例1のサイクル試験直後の容量維持率を100%としたときの比較例1の適正温度付与後の容量維持率を示す結果を表1に示す。
【0055】
(比較例2)
2層樹脂被覆として、積層体の周囲にエポキシ樹脂を被覆して固化させ積層体の側面に第1熱膨張樹脂層を形成し、さらにその周囲にアクリル樹脂を被覆して固化させ第1熱膨張樹脂層の側面に第2熱膨張樹脂層を形成し、これらをSUS筐体へ挿入したこと以外は実施例1と同様の方法で固体電池を得た。第1熱膨張樹脂層と第2熱膨張樹脂層の合計の厚みは4mmであり、第2熱膨張樹脂層とSUS筐体とは接触しないように第2熱膨張樹脂層とSUS筐体との間に空間を設けた。
図6は、比較例2の固体電池(積層体-エポキシ樹脂-アクリル樹脂-空間-SUS筐体)の模式図である。
比較例2の固体電池に対して実施例1と同様の方法で耐久試験を行い、容量維持率を測定した。比較例1のサイクル試験直後の容量維持率を100%としたときの比較例2の過剰温度付与後の容量維持率及び比較例1のサイクル試験直後の容量維持率を100%としたときの比較例2の適正温度付与後の容量維持率を示す結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
[評価結果]
実施例1の固体電池は、比較例1~2の固体電池と比較して過剰温度付与後の容量維持率及び適正温度付与後の容量維持率が高いことが確認された。したがって、本開示の製造方法によれば固体電池の容量低下を抑制することができることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6